説明

複合材料

【課題】樹脂中に分散対象物を均質に分散させることができるとともに、分散対象物や樹脂が限定されることのない複合材料を提供することを目的とする。
【解決手段】複合材料1は、代表径が1μm以上の多孔質構造体2を樹脂3との混合の投入力で1μm未満に破砕し、樹脂3中に非凝集状態で分散させて形成したものである。これによって、一次粒子が数珠状となった細い骨格で構成された多孔質構造体は、比較的弱い力で破砕することができるため、例えば混練機を用いた樹脂との混練中にその投入力により多孔質構造体が破砕されていき、サブミクロンからナノオーダーで均質に分散させることができるとともに、多孔質構造体や樹脂が限定されることのない複合材料を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の強度、弾性率、耐熱性などの向上を目的として、微粒子を凝集することなく樹脂に均質に分散させた複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複合材料を得る方法としては、破砕機で分散対象物を砕きナノ粒子を作製し、ニーダや押し出し機などを用いた溶融混練により樹脂中へ分散させる機械的な方法が一般的である。また、他の方法としては、層状の粘土鉱物を分散対象物としてインターカレーションを施し分散させた有機分散液と、樹脂を溶解させた有機溶液とを混合した後、脱溶媒することにより二次凝集(凝集により二次粒子を作る)を起こさずに均質に分散する方法も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−41346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の機械的な方法では、分散対象物を破砕機で1μm以下まで破砕することが難しく、また破砕後も二次凝集を起こしやすいため、樹脂中へ均質にサブミクロンからナノオーダーで分散させることが極めて困難であり、得られる複合材料は光沢低下などの外観不良が生じる、成形性が悪くなる、高比重になる、などの課題があった。また、インターカレーションの方法では、分散対象物がインターカレーション可能な層状物質に限定されることや、樹脂が有機溶液に溶解する樹脂に限定されるなどの課題があった。
【0004】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、樹脂中に分散対象物をサブミクロンからナノオーダーで均質に分散させることができるとともに、分散対象物や樹脂が限定されることのない複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記従来の課題を解決するために、本発明の複合材料は、代表径が1μm以上の多孔質構造体を樹脂との混合の投入力で1μm未満に破砕し、樹脂中に非凝集状態で分散させたものである。
【0006】
これによって、一次粒子が数珠状となった細い骨格で構成された多孔質構造体は、比較的弱い力で破砕することができるため、例えば混練機を用いた樹脂との混練中にその投入力により多孔質構造体が破砕されていき、サブミクロンからナノオーダーで均質に分散させることができるとともに、多孔質構造体や樹脂が限定されることのない複合材料を提供することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合材料は、樹脂中に多孔質構造体をサブミクロンからナノオーダーで均質に分散させることができるとともに、分散対象物や樹脂が限定されることがないものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
第1の発明は、代表径が1μm以上の多孔質構造体を樹脂との混合の投入力で1μm未満に破砕し、樹脂中に非凝集状態で分散させた複合材料とすることにより、一次粒子が数珠状となった細い骨格で構成された多孔質構造体は、比較的弱い力で破砕することができるため、例えば混練機を用いた樹脂との混練中にその投入力により多孔質構造体が破砕されていき、サブミクロンからナノオーダーで均質に分散させることができるとともに、多孔質構造体や樹脂が限定されることのない複合材料を提供することができる。また、樹脂中に多孔質構造体をサブミクロンからナノオーダーで均質に分散させることができるので、少量の分散物で樹脂の強度、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性などを向上させることができる。
【0009】
第2の発明は、特に、第1の発明において、破砕前の多孔質構造体は、代表径が100nm未満の一次粒子が化学的、物理的または機械的に数珠状につながっていることにより、混練時の投入力により多孔質構造体が一次粒子まで破砕されるため、ナノオーダーでの分散が可能となり、さらに少量の分散物で樹脂の強度、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性などを向上させることができる。
【0010】
第3の発明は、特に、第1または第2の発明において、破砕前の多孔質構造体は、少なくとも水を含む溶媒とゲル原料とを混合することで湿潤ゲルを形成するゲル化工程と、前記湿潤ゲル内の水を除く除水工程と、前記除水工程で除水された湿潤ゲル内に残存した溶媒を除いて多孔質構造体を得る乾燥工程とから作製されることにより、樹脂との混練時に投入力でサブミクロンからナノオーダーまで容易に破砕することができる多孔質構造体を作製できるため、サブミクロンからナノオーダーで均質に分散させることにより、少量の分散物で樹脂の強度、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性などを向上させた複合材料を実現することができる。
【0011】
第4の発明は、特に、第3の発明において、ゲル化工程において、ゲル原料がアルキルアルコキシシランのモノマーであり、少なくとも溶媒には水とアルコールとゲル化を促進させるアルカリ触媒とを含むことにより、アルコキシシランのモノマーと適量の水、溶媒とアンモニア水や水酸化ナトリウムなどのアルカリ触媒を用いることで一次粒子が小さな湿潤ゲルができるため、破砕されやすく、また細かく破砕できる多孔質構造体が作製でき、ナノオーダーでの分散が可能となり、さらに少量の分散物で樹脂の強度、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性などを向上させた複合材料を実現することができる。
【0012】
第5の発明は、特に、第3の発明において、ゲル化行程において、一次粒子の核となる物質を添加し湿潤ゲルを形成することにより、湿潤ゲル作製時にコロイダルシリカのように数nm程度の粒子を水などに分散させておくことで、一次粒子が多量に発生するため、一つ一つの成長が抑制され、一次粒子が小さな湿潤ゲルができる。このため、破砕されやすく、また細かく破砕できる多孔質構造体が作製でき、ナノオーダーでの分散が可能となり、さらに少量の分散物で樹脂の強度、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性などを向上させた複合材料を実現することができる。
【0013】
第6の発明は、特に、第3の発明において、ゲル化行程において、超音波を照射し湿潤ゲルを形成することにより、超音波の照射で一次粒子として小さな湿潤ゲルができるため、破砕されやすく、また細かく破砕できる多孔質構造体が作製でき、ナノオーダーでの分散が可能となり、さらに少量の分散物で樹脂の強度、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性などを向上させた複合材料を実現することができる。
【0014】
第7の発明は、特に、第3の発明において、ゲル化行程において、溶媒とゲル原料とを混合した後に混合物を冷却し湿潤ゲルを形成することにより、急冷により一次粒子が多量に発生するため一つ一つの成長が抑制され、一次粒子として小さな湿潤ゲルができるため、破砕されやすく、また細かく破砕できる多孔質構造体が作製でき、ナノオーダーでの分散が可能となり、さらに少量の分散物で樹脂の強度、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性などを向上させた複合材料を実現することができる。
【0015】
第8の発明は、特に、第3の発明において、除水工程の前に疎水化工程を有し、前記疎水化工程においては、RとR’はアルキル基を表し、xは1〜3のいずれかの整数を表し、R(R’O)4−xSiで表されるアルキルアルコキシシランを用いて湿潤ゲル表面の少なくとも一部を疎水化し、かつ乾燥工程が前記少なくとも表面の一部が疎水化された湿潤ゲル内に含まれる溶媒の臨界点未満の温度かつ圧力条件で乾燥する乾燥工程であることにより、疎水化工程を行うことおよび乾燥工程時に適当な溶媒を選択することで超臨界乾燥を用いずに、樹脂との混練時の投入力でサブミクロンからナノオーダーまで容易に破砕することができる多孔質構造体を低コストで作製できるため、サブミクロンからナノオーダーで均質に分散させることにより、少量の分散物で樹脂の強度、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性などを向上させた複合材料を実現することができる。
【0016】
第9の発明は、特に、第8の発明において、RとR’はいずれもメチル基で、かつx=2であることにより、この原料はジメチルジメトキシシランと称され、安価で疎水化速度が速く、確実に疎水化することができる。これは、x=1の単官能では3つのアルキル基の立体障害により反応性が低下し、またx=3の3官能では加水分解の結果生じる3つのシラノール基が全て、ゲル表面のシラノール基と反応することが難しくシラノール基がゲル表面に残存することで反応性が低下するからであり、ジメチルジメトキシシランはこのようなことがない。したがって、超臨界乾燥を用いずに、樹脂との混練時の投入力でサブミクロンからナノオーダーまで容易に破砕することができる多孔質構造体を低コストで作製できるため、サブミクロンからナノオーダーで均質に分散させることにより、少量の分散物で樹脂の強度、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性などを向上させた複合材料を実現することができる。
【0017】
第10の発明は、特に、第1の発明において、樹脂はポリオレフィン系樹脂であることにより、多孔質構造体の表面はアルキル基がついているため、アルキル基が多く汎用性の高いポリオレフィン系樹脂となじみ易く、破砕された多孔質構造体は均質に分散されやすい。したがって、少量の分散物で樹脂の強度、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性などを向上させることができる。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
図1、図2は、本発明の実施の形態1における複合材料を示すものである。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態における複合材料1は、樹脂3中に代表径が1μm以上の多孔質構造体2を混合分散させて形成している。多孔質構造体2は樹脂3との混練時の投入力により1μm未満に破砕され、樹脂3中に非凝集状態で均質に分散されている。
【0021】
分散物の粒子径が小さくなると形状効果が減少し表面効果が増してくることが知られている。特に、ミクロンサイズの粒子を樹脂に分散させると、多くの場合、衝撃強度が低下するが、サブミクロンサイズの粒子を分散させると、逆に増大することが知られている。また、粒子径が100nmより小さな粒子を分散させることで、ミクロンサイズの粒子を分散させたものよりはるかに少量で同程度の補強効果(強度、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性など)が得られ、著しく軽量化が図れる。
【0022】
また、図2に示すように、破砕前の多孔質構造体11は、1〜100nm程度の一次粒子13が数珠状につながった骨格が固体部分12を形成し、粒子間距離14の径の孔を多数形成した空間部分15のため、多孔質構造になっている。一次粒子13同士を繋ぐ部分がほぼ点接触であるため、破砕前の多孔質構造体11のバルク体は非常に脆く、一次粒子13同士を繋ぐ部分が切れて、50μm程度までは容易に破砕することができる。
【0023】
しかしながら、破砕前の多孔質構造体11は空隙率が大きく非常に軽い(自重が小さい)ため、ミキサーなどを用いた破砕法では1μm以下に破砕することは難しく、20〜40μm程度のところにピークを持ち、1〜50μm程度の粒度分布を有している。なお、破砕前の多孔質構造体11の形状は球状に限定されるものではない。また、一次粒子13同士を繋ぐ部分が弱く、破砕はこの部分が切れることであることを考えると、一次粒子径は極力小さい方がよい。特に、100nm以下で分散させようとすると、一次粒子径は100nm以下である必要がある。一次粒子径の大きさはゲル化工程での反応で決定されるが、この部分に関しては後述する。
【0024】
次に、破砕前の多孔質構造体11と樹脂3との混錬方法について説明する。
【0025】
破砕前の多孔質構造体11は樹脂3と混練する前に50μm以下まで破砕することが望ましく、数mm〜数cmの多孔質構造体11を樹脂3と混練すると、1μm以下まで破砕されるまでに時間がかかりすぎるため、樹脂3の劣化原因となる。なお、混練は、通常の混練機を用いて混練し、特別な混練機は必要としない。ただし、ナノオーダーで均質に分散させることを考えると、二軸の押し出し機など混練時の力が強いものが望ましい。
【0026】
樹脂3は特に限定するものではないが、多孔質構造体表面を疎水化していることからポリオレフィン系樹脂と相性がよく、ポリエチレン、ポリプロピレンなどにも問題なく練りこむことができる。その他、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリエステル(PET、PBTなど)、ナイロン樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの様々な樹脂と混練可能である。
【0027】
樹脂3への破砕前の多孔質構造体11の添加量は特に制限するものではないが、多いと樹脂本来の性質が失われたり、密度が上昇し重くなったりする欠点がある。また、サブミクロンからナノオーダーで分散させる場合、添加量が少なくても補強効果(強度、弾性率、耐熱性、ガスバリアー性など)が得られるため、10wt%以下程度が望ましい。
【0028】
このような複合材料1は非常に軽く、かつ耐熱性、強度ともに高いため、掃除機などの家電製品や、自動車の内装部品、バンパーなど軽くて強度が必要とされる様々な製品、部品に用いることができる。また、分散対象物をカーボンなどの有機物の多孔質構造体を用いることで、導電性を付与した複合材料としても利用できる。
【0029】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2における複合材料について説明する。
【0030】
本実施の形態における乾燥工程に超臨界乾燥を利用した破砕前の多孔質構造体11の作製工程は主に以下の3つの工程からなる。
(1)ゲル化工程(湿潤ゲルの形成)
(2)除水工程(湿潤ゲル中の水の除去)
(3)乾燥工程(湿潤ゲル中の溶媒除去)
以下、各工程について説明する。
【0031】
(1)ゲル化工程(湿潤ゲルの形成)
本実施の形態では、ゾル−ゲル法により湿潤ゲルを作製する。具体的には、金属アルコキシドをゲル原料とし、水やアルコールなどの溶媒と、必要に応じてゲル化促進用の触媒とを混合することで、溶媒中でゲル原料の加水分解と縮重合を進めて湿潤ゲルを形成する。また、ゲル原料として水ガラスを用い、必要に応じてゲル化促進用の触媒とを混合することにより、湿潤ゲルを作製することもできる。本実施の形態で用いられるゲル原料としては、ゾル−ゲル法で一般的に用いられる、例えば、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタンなどのアルコキシドなどがある。この中でも金属としてケイ素を含有する化合物、すなわちアルコキシシランが、入手の容易性、安価なコストなどから好ましい。
【0032】
湿潤ゲルの形成には、アルコキシシランと、溶媒としてのアルコールと、ゲル化促進用の触媒としての酸あるいは塩基および水を加えることで、アルコキシシランの加水分解、縮重合を経て、湿潤ゲルを形成する。湿潤ゲルは、珪素原子と酸素原子が交互に結合した3次元網目構造のシリカ粒子を作り、それらシリカ粒子が重合して一次粒子13を形成し、それが数珠状となって固体部分12を形成し、一次粒子13の粒子間距離14が隙間、すなわち空間部分15となり、水などの溶媒が入り込む構造となっている。
【0033】
次に、原料のアルコキシシランについて説明する。アルコキシシランは、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシランなどのアルコキシシラン、およびそのオリゴマーなど、ならびにこれらの混合物が用いられる。特に、テトラメトキシシランはシリカ含有分が多く、また安価で容易に入手できるため、本実施の形態で用いるのに適する。また、テトラメトキシシランは反応速度、すなわち加水分解速度と縮重合速度が速く、一次粒子13の成長を抑制できるため、本実施の形態には適している。さらには、アルコキシシランを予め反応させた4量体や10量体のオリゴマーを用いることもできるが、オリゴマーを用いると一次粒子が成長しやすく、一次粒子が大きくなってしまうため、モノマーを用いることが望ましい。
【0034】
ゲル化触媒としては、一般的な有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基が用いられる。有機酸として、酢酸、クエン酸、無機酸として、硫酸、塩酸、硝酸、有機塩基として、ピペリジン、無機塩基として、アンモニア、ホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどがある。
【0035】
アルカリ触媒を用いると加水分解が速くすべてのアルコキシル基がヒドロキシル基に置換されるため、多くの箇所で縮重合反応が起こり、一次粒子13の成長はあまり進まない。そのため、本実施の形態には非常に優位である。一方、酸触媒を用いると加水分解が遅く、同時に重合反応も起こってしまうため、一次粒子が大きく成長してしまう。したがって、本実施の形態ではアルカリ触媒が望ましい。
【0036】
湿潤ゲル作製時に超音波照射を行うと、多くの箇所で一次粒子の生成が始まるため、一つ一つの一次粒子の成長を抑制できる。また、湿潤ゲル作製時に用いる水にコロイダルシリカなどの微粒子を分散させた溶液を添加しておくことで、それを核として一次粒子の生成が始まるため、一次粒子の発生箇所を多くすることができ、一つ一つの一次粒子の成長を抑制できる。また、アルコキシシランと水などの溶媒とアルカリ触媒を混合した直後に液体窒素などで急冷することで、一次粒子発生の核を作り出すことができるため、コロイダルシリカなどを添加したのと同じ効果を得ることができる。
【0037】
ゲル化後、形成された湿潤ゲルを必要に応じて、加温雰囲気に置き、ゲル中の未反応のシラノール基を縮合させてゲルを熟成させることが強度を増して、乾燥時の収縮を抑制することに有効ではあるが、強度を増しすぎると混練時に破砕されにくくなるので、適度に行うことが必要である。
【0038】
(2)除水工程(湿潤ゲル中の水の除去)
除水工程は、湿潤ゲル内にある水を除去し、より臨界温度および臨界圧力の小さな溶媒に置換する工程である。湿潤ゲルを普通に熱風乾燥させたものは、溶媒が乾燥するときの表面張力により、収縮し孔を潰してしまい、一次粒子13同士も近接して強度が上がり、混練時に破砕されにくくなる。この孔に掛かる力ΔPは一般に(数1)により表される。
【0039】
【数1】

【0040】
ここでΔPは毛管力、γは溶媒の表面張力、θは溶媒と骨格との接触角、dは孔の径を表す。
【0041】
したがって、毛管力を小さくするためには、接触角θを大きくする、あるいは表面張力γを小さくする必要がある。湿潤ゲル内の溶媒が超臨界状態では、表面張力γがゼロとなり毛管力は発生しない。したがって、孔すなわち空間部分15が収縮することがないので多孔質構造体11を得ることができる。しかしながら、通常、臨界温度および臨界圧力は大きいため、安全性に問題があったり、非常にコストがかかったりする。ゆえに、乾燥時には臨界温度および臨界圧力が極力小さい溶媒、特に臨界圧力が小さな溶媒を使用することが望まれる。
【0042】
除水方法として、溶媒置換もしくは加熱留去のいずれかの方法が望ましい。まず、溶媒置換について説明する。一般的な溶媒置換は、形成された湿潤ゲルを、水溶性溶媒の中に浸漬させて、前記溶媒をゲル内の溶媒と入れ替えることで行う。この時に用いる溶媒としては、水溶性の溶媒で臨界温度および臨界圧力が水(臨界温度:374.2℃、臨界圧力:218.3atm)よりも小さければ特に制限されない。例えば、水溶性のアルコール類としてメタノール(臨界温度:240℃、臨界圧力:78.5atm)、エタノール(臨界温度:243.1℃、臨界圧力:63atm)、プロパノールおよびターシャリ−ブタノール、エチレングリコール、グリセロールなどの低級アルコール、その他に、アセトン(臨界温度:235.5℃、臨界圧力:46.6atm)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランなどのケトン類やエーテル類(臨界温度:193.8℃、臨界圧力:36.2atm)、ジメチルホルムアミドなどのホルムアミド類、さらに蟻酸、酢酸(臨界温度:321.6℃、臨界圧力:57.1atm)およびプロピオン酸などの低級カルボン酸や、これらの混合物を用いることができる。この中でも、低価格で、入手が容易なメタノールやエタノールなどのアルコール類の使用が望ましい。
【0043】
また、溶媒置換は、上記水溶性溶媒だけではなく、上記水溶性溶媒と他の非水溶性溶媒との混合溶媒によっても可能である。具体的には、n−ヘキサン、デカン、ノナン、オクタン、ヘプタン、トルエン、キシレンなどと水溶性溶媒の混合溶媒である。安全面や入手の容易性など工業用として特に好ましいものは、オクタン、トルエン、キシレンなどである。
【0044】
次に、加熱留去に関して説明する。加熱留去により水を除く場合、一般的に水の沸点付近より高い沸点を有する非水溶性の溶媒を加えて加熱することで、水を優先的に留去することが可能である。非水溶性の溶媒を用いることで、加熱留去後に有機溶媒と水が自然に分離するため、溶媒の再利用が容易になる効果がある。また、非水溶性溶媒の沸点は、水の沸点より低くても、過剰に加えれば、水を除去することが可能であるが、さらに溶媒の沸点を高くすることで、水留去の選択性を高めることができる。このため、溶媒置換により水を除去する場合に比較して、使用する溶媒量も大幅に低減できる効果が得られる。但し、沸点が高すぎると使用エネルギーが多くなってしまうので注意が必要である。
【0045】
また、水と加えた溶媒とが、共沸混合物を形成する場合は、水と溶媒とが一定の割合で留去されていくため、水の除去の制御が容易になる効果がある。さらに、通常の有機溶媒の乾燥で行われるように、減圧条件下で加熱留去を行うことで、効率的な水除去が可能になる。特に、ゲル化触媒などが存在する場合、水を含む状態で温度を上げて加熱乾燥すると、ゲル骨格中の結合の切断などが生じる可能性がある。このような場合は、減圧で水を加熱留去することで、温度上昇を防ぐことが効果的である。
【0046】
(3)乾燥工程(湿潤ゲル中の溶媒除去)
乾燥方法に関して説明する。乾燥は、除水工程において除去した水に代わり湿潤ゲル内に入り込む溶媒を除去する工程である。溶媒がエタノールの場合を例に説明する。内部の水を除去し、エタノールに置換した湿潤ゲルを耐圧容器に入れ、圧力を臨界圧力以上に上げ、その後温度を臨界温度以上に上げて、エタノールを超臨界状態とする。その後、例えば、二酸化炭素のような超臨界状態でエタノールと相溶性のある物質を流通させることにより、エタノールを抽出し二酸化炭素に置換し、圧力を大気圧まで下げた後、温度を下げる。これにより多孔質構造体を得ることができる。
【0047】
また、湿潤ゲル中のエタノールの一部を二酸化炭素に置換した後、圧力を二酸化炭素の臨界圧力以上に上げ、その後温度を臨界温度以上に上げて、二酸化炭素を超臨界状態で流通を行う。その後、流通を止め、圧力を大気圧まで下げた後、温度を下げる。これにより、エタノールの超臨界乾燥よりも安全かつ低コストで比較的弱い力で破砕可能な多孔質構造体11を得ることができる。
【0048】
このように作製した多孔質構造体11を樹脂3にサブミクロンからナノオーダーで均質に分散させた複合材料1は非常に軽く、かつ耐熱性、強度ともに高いため、掃除機などの家電製品や、自動車の内装部品、バンパーなど軽くて強度が必要とされる様々な製品、部品に用いることができる。
【0049】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3における複合材料について説明する。
【0050】
本実施の形態における乾燥工程に超臨界乾燥を利用しない多孔質構造体11の作製工程は主に以下の4つの工程からなる。
(1)ゲル化工程(湿潤ゲルの形成)
(2)疎水化工程(湿潤ゲル表面の疎水化)
(3)除水工程(湿潤ゲル中の水の除去)
(4)乾燥工程(湿潤ゲル中の溶媒除去)
以下、各工程について説明する。
【0051】
(1)ゲル化工程(湿潤ゲルの形成)
実施の形態2と同様の方法で湿潤ゲルを作製する。
【0052】
(2)疎水化工程(湿潤ゲル表面の疎水化)
この工程は、湿潤ゲル表面のシラノール基を、例えば、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ジメチルジメトキシシランなどで疎水性のメチル基に代える工程である。これは、乾燥工程前の予備工程という意味合いがある。乾燥時に孔にかかる力ΔPは(数1)で示されることを前述したが、この工程では疎水基を導入することで接触角θを大きくし、乾燥時に発生する毛管力ΔPを小さくすることを目的とする。なお、表面張力γを小さくすることについては次の除水工程で説明する。また、疎水化はメチル基に限定されるものではなく、エチル基、プロピル基、フッ素系官能基やフェニル基などでもほぼ同様の効果が得られるが、反応性やコストを考慮するとメチル基が望ましい。
【0053】
さらには、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザンなどを用いると、塩化水素やアンモニアなどのガスを発生させ、これらが触媒となり湿潤ゲル骨格中の結合の切断などが生じる可能性がある。また、これらの疎水化剤を用いる場合、予め水を取り除いておく必要があり、工程が一つ増えてしまう。そこで、本実施の形態ではアルキルアルコキシシランを用いて疎水化を行った。用いるアルキルアルコキシシランとして、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシランなどの単官能アルキルアルコキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシランなどの2官能アルキルアルコキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシランなどの3官能アルキルアルコキシシラン化合物がある。これらのうち一つ、もしくは混合物を疎水化処理液となる溶媒に溶解させておき、湿潤ゲルとその溶媒に接触させることで反応させる。疎水化剤とシラノール基との反応は加水分解を伴うため、必ず水が必要となる。そこで、疎水化処理液となる溶媒は水溶性溶媒が望ましく、水溶性溶媒としては、水溶性のアルコール類としてメタノール、エタノール、プロパノールおよびターシャリ−ブタノール、エチレングリコール、グリセロールなどの低級アルコール類、その他、アセトン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランなどのケトンやエーテルや、これらの混合物も用いることができる。
【0054】
アルキルアルコキシシランを疎水化剤として用いるためには、加水分解のために水を必要とするが、ゲル化工程で作製した湿潤ゲルは水を含んでいるため、新たに水を添加する必要がなく、また脱水しておく必要もないので、非常に望ましい。また、ゲル化時の触媒にアンモニア水を用い、溶媒に水とメタノールを用いることにより、湿潤ゲルに直接アルキルアルコキシシランを添加し、疎水化することができる。
【0055】
さらに、アルキルアルコキシシランの中でも、2官能のアルキルアルコキシシランが疎水化効率に優れることも見出した。これは、単官能では3つのアルキル基の立体障害により反応性が低下し、3官能では加水分解の結果生じる3つのシラノール基が全て、ゲル表面のシラノール基と反応することが難しく、シラノール基がゲル表面に残存するためではないかと考えられる。したがって、疎水化効率に優れる2官能アルキルアルコキシシラン、特にジメチルジメトキシシランが反応性に優れ、非常に望ましい。
【0056】
また、疎水化工程はゲル化工程の後に記載されているが、ゲル化と同時に行うこともできる。しかし、ゲル化と同時であれば、疎水化剤が重合前のゲル原料と反応して重合を抑制したり、重合前のゲル原料との反応により必要な疎水化剤の量が多くなったりする場合がある。したがって、ゲル化が終了してから、疎水化剤を作用させることが好ましい。
【0057】
(3)除水工程(湿潤ゲル中の水の除去)
この工程では、湿潤ゲル内にある水および未反応の疎水化剤を除去し、その分を表面張力γの小さな溶媒に置換する工程である。この工程も乾燥工程の予備工程の意味合いがある。(数1)によると表面張力γを小さくすることも毛管力の低減には効果がある。水の表面張力は、0.072N/m(25℃)であり、他の液体、例えば、汎用的な有機溶媒であるトルエン0.027N/m(30℃)、エタノール0.021N/m(25℃)などに比較して格段に大きい。したがって、乾燥前に湿潤ゲル中の水の割合を低減させ、代わりに表面張力が小さい溶媒に置換することが非常に重要である。
【0058】
除水方法は、実施の形態2と同様、溶媒置換もしくは加熱留去であるが、置換する溶媒は臨界温度および臨界圧力に拘らず、表面張力が小さな溶媒が望ましい。
【0059】
溶媒置換は、実施の形態2と同様の方法で同様の溶媒を用いることができるが、やはり、低価格で、入手が容易なメタノールやエタノールなどのアルコール類の使用が望ましい。また、水溶性溶媒だけではなく、水溶性溶媒と他の非水溶性溶媒との混合溶媒によっても可能である。加熱留去に関しても、実施の形態2と同様の方法である。
【0060】
(4)乾燥工程(湿潤ゲル中の溶媒除去)
乾燥方法に関して説明する。乾燥は、除水工程において除去した水に代わり湿潤ゲル内に導入した溶媒を除去する工程である。疎水化工程と除水工程により、毛管力は著しく低下しているため、この状態で熱風乾燥を行ってもある程度の収縮は抑えられ、比較的弱い力で破砕可能な多孔質構造体を得ることができるが、さらに乾燥時の圧力を大気圧以上の加圧下、少なくとも2気圧以上で行うことで、より弱い力で破砕可能な多孔質構造体を得られやすい。これは加圧下で乾燥を行えば、孔の中に保持される溶媒の沸点が上昇するからである。このとき、昇温により表面張力γが下がるため、毛管力が低減されて収縮が効果的に抑制され、望ましい。例えば、アセトンを加圧下で乾燥させる場合、沸点を45℃程度上昇させて100℃程度まで上げれば、表面張力が0.005N/m程度下がり、0.015N/m程度まで減少することから、加圧下での乾燥は十分収縮抑制に効果的であるといえる。なお、実施の形態2で記述した超臨界乾燥で乾燥を行ってもよいが、上述した方法の方が圧倒的に安いコストで多孔質構造体を作製することができる。
【0061】
このように作製した多孔質構造体11を樹脂3にサブミクロンからナノオーダーで均質に分散させた複合材料1は非常に軽く、かつ耐熱性、強度ともに高いため、掃除機などの家電製品や、自動車の内装部品、バンパーなど軽くて強度が必要とされる様々な製品、部品に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明にかかる複合材料は、樹脂中に多孔質構造体をサブミクロンからナノオーダーで均質に分散させることができるとともに、分散対象物や樹脂が限定されることがないので、掃除機などの家電製品や、自動車の内装部品、バンパーなど軽くて強度が必要とされる様々な製品、部品に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態1における複合材料の模式図
【図2】(a)同複合材料における破砕前の多孔質構造体の模式図(b)同破砕前の多孔質構造体の拡大模式図
【符号の説明】
【0064】
1 複合材料
2 多孔質構造体
3 樹脂
11 破砕前の多孔質構造体
12 固体部分
13 一次粒子
14 粒子間距離
15 空間部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
代表径が1μm以上の多孔質構造体を樹脂との混合の投入力で1μm未満に破砕し、樹脂中に非凝集状態で分散させた複合材料。
【請求項2】
破砕前の多孔質構造体は、代表径が100nm未満の一次粒子が化学的、物理的または機械的に数珠状につながっている請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
破砕前の多孔質構造体は、少なくとも水を含む溶媒とゲル原料とを混合することで湿潤ゲルを形成するゲル化工程と、前記湿潤ゲル内の水を除く除水工程と、前記除水工程で除水された湿潤ゲル内に残存した溶媒を除いて多孔質構造体を得る乾燥工程とから作製される請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
ゲル化工程において、ゲル原料がアルキルアルコキシシランのモノマーであり、少なくとも溶媒には水とアルコールとゲル化を促進させるアルカリ触媒とを含む請求項3に記載の複合材料。
【請求項5】
ゲル化行程において、一次粒子の核となる物質を添加し湿潤ゲルを形成する請求項3に記載の複合材料。
【請求項6】
ゲル化行程において、超音波を照射し湿潤ゲルを形成する請求項3に記載の複合材料。
【請求項7】
ゲル化行程において、溶媒とゲル原料とを混合した後に混合物を冷却し湿潤ゲルを形成する請求項3に記載の複合材料。
【請求項8】
除水工程の前に疎水化工程を有し、前記疎水化工程においては、RとR’はアルキル基を表し、xは1〜3のいずれかの整数を表し、R(R’O)4−xSiで表されるアルキルアルコキシシランを用いて湿潤ゲル表面の少なくとも一部を疎水化し、かつ乾燥工程が前記少なくとも表面の一部が疎水化された湿潤ゲル内に含まれる溶媒の臨界点未満の温度かつ圧力条件で乾燥する乾燥工程である請求項3に記載の複合材料。
【請求項9】
RとR’はいずれもメチル基で、かつx=2である請求項8に記載の複合材料。
【請求項10】
樹脂はポリオレフィン系樹脂である請求項1に記載の複合材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−24858(P2008−24858A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200312(P2006−200312)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】