説明

複合生体材料およびその製造方法

【課題】人工臓器などに要求される特性を兼ね備えた複合生体材料を提供する。
【解決手段】複合生体材料は、Ti(チタン)とSPU(セグメント化ポリウレタン)とをγ−MPS(メルカプトプロピルトリメトキシラン)を介して接合され、柔軟性のある金属ベースの材料となり、人工臓器などに要求される生体機能性、柔軟性、加工性、強度(靱性)、耐久性その他を兼ね備える。γ−MPSの膜厚を1nm〜30nmの範囲内に収めると、γ−MPSの分子ユニットがTiとSPUとの間で直立した状態で存在し、分子ユニットの総数が増えて密に存在するため、γ−MPSとSPUとの結合ポイントが増加し、Ti、γ−MPS、SPUの三者の界面の接合応力が増大する。これにより、TiとSPUとの接合強度を界面の化学構造レベルで制御可能となる。SPUの接合後に紫外線を照射し、Tiの表面を過酸化水素水に浸漬することで接合応力はさらに増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工臓器などに用いるに好適な複合生体材料と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、人工臓器に用いる材料としては、単一の材料が採用されていた。例えば、人工股関節には金属材料が用いられ(例えば、特許文献1参照)、人工血管には高分子材料が使われていた(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−37792号公報
【特許文献2】特開平9−327509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、金属材料にせよ高分子材料にせよ、人工臓器などに要求される特性をすべて兼ね備えているわけではない。すなわち、金属材料には、生体機能性、柔軟性、加工性に難点があり、一方、高分子材料には強度(靱性)、耐久性に欠けるという欠点があった。
【0004】
本発明は、このような問題点を考慮してなされたもので、γ−MPSなどのシランカップリング剤が1つの分子中に反応性の異なる2種類の官能基(金属材料と反応する官能基および高分子材料と反応する官能基)を持っている点に着目し、このシランカップリング剤を用いて金属材料と高分子材料とを接合することにより、人工臓器などに要求される特性を兼ね備えた複合生体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述の目的を達成するため、本発明に係る複合生体材料は、次のような手段を採用する。
【0006】
すなわち、請求項1に記載の発明は、複合生体材料であって、金属材料と反応する官能基および高分子材料と反応する官能基を1つの分子中に併有する接合剤を介して、金属材料と高分子材料とが接合されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の複合生体材料において、接合剤は、シランカップリング剤であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の複合生体材料において、シランカップリング剤は、γ−MPS(メルカプトプロピルトリメトキシシラン)であることを特徴とする。
【0009】
そして、請求項1〜3に記載の発明では、柔軟性のある金属ベースの複合生体材料を創出することができる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の複合生体材料において、γ−MPSの膜厚は、1nm〜30nmの範囲内であることを特徴とする。
【0011】
そして、請求項4に記載の発明では、金属材料と高分子材料との間でγ−MPSの分子ユニットが直立した状態で存在し、この分子ユニットの総数が増えて密となる。そのため、γ−MPSと高分子材料との結合ポイントが増加し、金属材料、γ−MPS、高分子材料の三者の界面の接合応力が増大する。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の複合生体材料において、高分子材料は、SPU(セグメント化ポリウレタン)であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る複合生体材料の製造方法は、次のような手段を採用する。
【0014】
すなわち、請求項6に記載の発明は、人工臓器に用いられる複合生体材料の製造方法であって、金属材料と反応する官能基および高分子材料と反応する官能基を1つの分子中に併有する接合剤を介して、金属材料と高分子材料とを接合することを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項7に記載の複合生体材料の製造方法において、接合剤として、シランカップリング剤を用いることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項8に記載の複合生体材料の製造方法において、シランカップリング剤として、γ−MPSを用いることを特徴とする。
【0017】
そして、請求項6〜8に記載の発明では、柔軟性のある金属ベースの複合生体材料を創出することができる。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項7乃至9のいずれかに記載の複合生体材料の製造方法において、接合剤の膜厚を増減することにより、複合生体材料の接合力を制御することを特徴とする。
【0019】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の複合生体材料の製造方法において、金属材料を接合剤溶液に浸漬するときの浸漬時間および浸漬濃度を調整することにより、接合剤の膜厚を増減することを特徴とする。
【0020】
そして、請求項9、10に記載の発明では、金属材料と高分子材料との接合強度を界面の化学構造レベルで制御することが可能となる。
【0021】
請求項11に記載の発明は、請求項6乃至10のいずれかに記載の複合生体材料の製造方法において、紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする。
【0022】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の複合生体材料の製造方法において、高分子材料を接合した後に、紫外線を30秒以上70秒未満照射することを特徴とする。
【0023】
そして、請求項11、12に記載の発明では、紫外線の照射によって接合剤が硬化し、さらに高分子材料の重合度が増して、接合強度が増加する。
【0024】
請求項13に記載の発明は、請求項6乃至12のいずれかに記載の複合生体材料の製造方法において、金属材料の表面を過酸化水素水に浸漬することを特徴とする。
【0025】
請求項14に記載の発明は、請求項13に記載の複合生体材料の製造方法において、過酸化水素水による浸漬を20時間以上72時間未満行うことを特徴とする。
【0026】
そして、請求項13、14に記載の発明では、金属材料表面の水酸基の量が増加し、接合剤との結合が増して、結合強度が増加する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、柔軟性のある金属ベースの複合生体材料を創出することができることから、人工臓器などに要求される特性を兼ね備えた複合生体材料を提供することができる。
また、γ−MPSの膜厚を1nm〜30nmの範囲内に収めると、γ−MPSの製作可能な範囲において、γ−MPSと高分子材料との結合ポイントを増やし、金属材料、γ−MPS、高分子材料の三者の界面の接合応力を増大させることができる。
さらに、金属材料を接合剤溶液に浸漬するときの浸漬時間および浸漬濃度を調整することにより、接合剤の膜厚を増減すれば、金属材料と高分子材料との接合強度を界面の化学構造レベルで制御することが可能となる。
さらに、接合剤および高分子材料に紫外線を照射し、金属表面を過酸化水素水に浸漬することによって、三者の接合応力をさらに増大させ、各素材が強く親和、複合した強靭な複合素材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
図1は本発明に係る複合生体材料の実施の形態(1)を示す模式図、図2はγ−MPSの化学構造を示す模式図、図3はγ−MPSの膜厚が薄い場合における複合生体材料の構造を示す模式図、図4は浸漬時間および浸漬濃度とγ−MPSの膜厚との関係を示すグラフ、図5はγ−MPSの膜厚とせん断応力との関係を示すグラフであって、(a)は膜厚0〜30nmの範囲を示すグラフ、(b)は膜厚0〜5nmの範囲を拡大して示すグラフ、図6は浸漬時間および浸漬濃度とせん断応力との関係を示すグラフである。
【0030】
この複合生体材料1は、図1に示すように、Ti(チタン)とSPU(セグメント化ポリウレタン)とがγ−MPS(メルカプトプロピルトリメトキシシラン)を介して接合された構造を有している。ここで、γ−MPSは、図2に示すように、1つの分子中に反応性の異なる2種類の官能基、すなわち、金属材料と反応する官能基(エトキシ基、メトキシ基など)および高分子材料と反応する官能基(メルカプト基、ビニル基など)を持っている。その結果、複合生体材料1は、柔軟性のある金属ベースの材料となり、人工臓器に要求される特性、すなわち、生体機能性、柔軟性、加工性、強度(靱性)、耐久性その他を兼ね備えている。
【0031】
また、γ−MPSの膜厚は1nm〜30nmの範囲内が望ましい。
【0032】
ここで、γ−MPSの膜厚の下限を1nmとしたのは、Ti、γ−MPS、SPUの三者の界面の接合応力を増大させるためである。すなわち、γ−MPSの分子ユニットの距離は1nm程度と算出される。したがって、γ−MPSの膜厚が1nm以上の場合、図1に示すように、分子ユニットがTiとSPUとの間で直立した状態で存在し、分子ユニットの総数が増えて密に存在する。そのため、γ−MPSとSPUとの結合ポイントが増加し、Ti、γ−MPS、SPUの三者の界面の接合応力が増大する。これに対して、γ−MPSの膜厚が1nm未満では、図3に示すように、分子ユニットがTiとSPUとの間で傾いて存在せざるを得ず、分子ユニットの総数が減って疎に存在するため、1nm以上とした場合に比べて接合応力が減少する。充分な接合応力を得るためには、γ−MPSの膜厚は少なくとも3nmとすることがより好ましい。
【0033】
また、γ−MPSの膜厚の上限を30nmとしたのは、γ−MPSの膜厚は、後述するように、Tiをγ−MPS溶液に浸漬するときの浸漬時間および浸漬濃度に依存して増減するが、実際に製作可能なγ−MPSの膜厚の最大値が約30nmであることによる。
【0034】
また、この複合生体材料1を製造する際には、TiとSPUとをγ−MPSを介して接合する。具体的には、Tiをγ−MPS溶液に浸漬してγ−MPS層を形成し、次いで、このγ−MPS層をSPU溶液に浸漬する。
【0035】
そして、Tiをγ−MPS溶液に浸漬するとき、浸漬時間および浸漬濃度を調整することにより、γ−MPS層の膜厚を増減させ、ひいてはTiとSPUとの接合応力を増減させることができるため、TiとSPUとの接合強度を界面の化学構造レベルで制御することが可能となる。すなわち、図4に示すように、浸漬時間および浸漬濃度に依存してγ−MPSの膜厚が増加する。浸漬濃度が0.1〜1.0%の範囲では、浸漬濃度が0.1%で1分のときに0.3nm、3分で0.8nmである場合を除き、浸漬時間に関わらず1〜2nmである。これに対し、浸漬濃度が2.0%のときには、浸漬膜厚が4nm以上となり、浸漬時間が50分のとき膜厚が最大の26nmとなった。また、図5に示すように、このγ−MPSの膜厚に依存してせん断応力が増加する。上記膜厚が0nmのときのせん断応力は約2.2MPaであるが、上記膜厚の増加によりせん断強度は増加し、膜厚が2nmでのせん断強度は7MPa、膜厚が26nmではせん断応力が最大の11.8MPaとなった。結局、図6に示すように、浸漬時間および浸漬濃度に依存してせん断応力が増加することが判明した。浸漬濃度が0.1%では浸漬時間が1分から50分と増加することにより、せん断強度は4.5MPaから7.9MPaに増加する。浸漬濃度が2.0%でも浸漬濃度に依存してせん断応力が増加し、浸漬時間が50分のとき、せん断強度が最大の11.9MPaとなった。したがって、浸漬時間および浸漬濃度を適宜調整することにより、所望のせん断応力、つまりTiとSPUとの接合応力を得ることが可能となる。
【0036】
上述の実施形態においては、金属材料としてTi、高分子材料としてSPUを用いる場合について説明した。しかし、Ti以外の金属材料(例えば、Ti合金、Co−Cr合金、ステンレス鋼など)およびSPU以外の高分子材料(例えば、ナイロン、ポリアクリロニトリルなど)によって代用することも可能である。
【0037】
上述の実施形態においては、金属材料と高分子材料とを接合するシランカップリング剤としてγ−MPSを用いる場合について説明した。しかし、γ−MPS以外のシランカップリング剤を代用することもできる。例えばγ−アミンプロピリトリエトキシシラン。さらに、金属材料と反応する官能基および高分子材料と反応する官能基を1つの分子中に併有する限り、シランカップリング剤以外の接合剤を代用することも可能である。例えばチタネート系カップリング剤。
【0038】
次に、実施の形態(2)として、複合生体材料を製造する際に、紫外線を照射する例を示す。ここで図7と図8は紫外線を照射する工程による結合強度の比較実験図、図9は紫外線照射時間によるせん断接合強度の比較図、図10は紫外線照射によるSPUのガラス転移点の変化の測定結果図、図11はSPUのガラス転移点の変化による結合状態の変化の概略図、図12は紫外線照射による耐久性の比較図である。
【0039】
この製造方法では、複合生体材料は実施の形態(1)と同様の製法にγ−MPS層をSPU溶液に浸漬した工程の後に、紫外線を30−70秒間照射する工程を加えている。
【0040】
紫外線を照射する工程は、γ−MPS層の形成後でも効果を奏するが、SPU層の形成後に行うことが望ましい。
【0041】
図7は、紫外線を照射する工程とそれらの順序による結合強度の比較実験において、用いた各試料の概略図である。各試料は半径8mmの円柱状の研磨チタン材に対して、実施の形態(1)と同様にγ−MPS層(1.0%γ−MPS溶液に1min浸漬したときのγ−MPSの膜厚は1.33nm)、SPU層を形成しているが、γ−MPS層を省いているもの(試料S)、同様でSPU層形成後に紫外線を照射しているもの(試料SU)、γ−MPS層とSPU層を持つが紫外線を照射していないもの(試料MS)、γ−MPS層の形成直後(試料MUS)およびSPU層の形成直後(試料MSU)に紫外線を照射したものを作成している。
【0042】
これらの試料に、それぞれSPU層の上に歯科用アクリル重合レジンで高さ5mmの円柱によるつかみ部を設け、AG-200B精密万能試験機(SHIMADZU)を用いて1 mm min-1、室温大気下でせん断接合応力(σ)を測定した。結果を図8に示している。γ−MPSが紫外線の照射により強度が上昇することは従来から知られているが、図の結果は、試料Sよりも試料SUのせん断接合応力が高いことから、γ−MPSのみならずSPU層のみに対しても紫外線の強化が接合応力を高めること、また試料MSUのせん断接合応力が最も高いことから、SPU層を形成した後に紫外線を照射した場合、最もせん断接合応力が高くなり、結合強度が強くなることを示す。
【0043】
また紫外線の好適な照射時間は、γ−MPS層の厚さによっても変わってくるが、本願発明のおよそ1〜30nmの範囲であれば、30〜70秒の範囲で選択することが望ましい。図9に、図7の試料MSUと同様に作成した、γ−MPS層の厚さが0.25、1.33、25.75nmの各試料に対して、紫外線の照射時間ごとのせん断接合応力を測定した比較図を示す。図9の測定条件のうち、γ−MPS層の厚さが0.25〜25.75nmの範囲のいずれにおいても、照射時間がおよそ30〜70秒においてせん断接合応力が大きく上昇する範囲が含まれ、特に40〜60秒の範囲内に図の条件において最も大きくなる範囲が含まれる。なお、γ−MPS層の厚さにもよるが、照射時間が30秒未満では照射の効果が充分でないと思われ、また照射時間が70秒以上では、せん断接合応力はさらに大きく減少してゆく傾向にあると思われ、好ましくない。
【0044】
紫外線によるせん断接合応力の上昇は、SPUのガラス転移点の変化によるものである。図10に、紫外線照射によるSPUのガラス転移点の変化の測定結果を示す。直径8mm、厚さ0.075mmのSPU膜を作成し、それぞれ0分、1分、15分の紫外線を照射し、SHIMADZU DSC-60Aによって示差熱走査熱量測定(DSC)を行い示差熱曲線からガラス転移点を算出している。図の結果は、この三点のうち紫外線照射が1分の際に最もガラス転移点が高くなり、15分の際は逆に低くなることを示している。従って、図11の概略図に示すように、SPUは適切な紫外線照射時間によってガラス転移点が上昇し、架橋数が上昇して、複合生体材料におけるせん断接合応力が増大していることを示す。
【0045】
図12には、紫外線の照射による複合材料の耐久性の比較を示す。試料は図7での実験と同様に、また紫外線を照射する(紫外線照射時間は60 秒)工程を加えたA試料と加えないB試料を作成し、それぞれを超純水に浸漬した後、図7の実験と同様にせん断接合応力を調べている。紫外線を照射する工程がA試料、B試料のいずれでも、超純水の浸漬時間の増加と共にせん断接合応力が減少するが、紫外線を照射する工程がA試料はB試料より長時間高く保持されており、特にγ―MPS層の厚いものほど効果が高い。これらの結果は、紫外線の照射により複合生体材料の耐久性が増加していることを示す。
【0046】
次に、実施の形態(3)として、複合生体材料を製造する際に、金属材料を過酸化水素水に浸漬する例を示す。ここで図13は過酸化水素水処理時間と金属表面水酸基量の関係図、図14は過酸化水素水処理の時間ごとのせん断試験結果である。
【0047】
この製造方法では、実施の形態(1)と同様の製法に、金属材料に対して過酸化水素水で20〜72時間処理する工程を加えている。
【0048】
過酸化水素水の処理は、金属材料の表面に対して水酸基を増加させ、接合剤との結合を強くするために行う。この実施の形態における金属材料チタンに対して、過酸化水素水が表面水酸基を増加させる式は化1の反応式の通りである。
【0049】
【化1】

【0050】
図13は、鏡面研磨したCP-Ti板(JIS2種)を3%過酸化水素水に浸漬後、チタン表面の水酸基量を亜鉛錯体置換法により測定した結果を示す図である。
【0051】
亜鉛錯体置換法の手法は以下の通りである。金属サンプルを塩化亜鉛試薬(4.0M塩化アンモニウム水溶液、0.4M塩化亜鉛水溶液)に5分浸漬し、金属表面の水酸基のHをZn2+と置換し亜鉛錯体を形成する。次にこのサンプルを硝酸溶液に10分浸漬すると、Zn2+が溶液中に放出される。このZn濃度をICP発光分光光度計により測定する。Zn2+が2価であるため、測定したZn濃度の2倍が金属サンプルの単位面積あたりの水酸基量となる。
【0052】
図13の測定の結果は、過酸化水素水の処理時間(t)に応じて、チタンの表面の水酸基の量(COH)が増加していることを示す。
【0053】
図14は、金属材料を過酸化水素水で処理した複合材料のせん断接合応力を計測したもので、試料は半径8mmの円柱状の研磨チタン材を過酸化水素水で処理した後は、実施の形態(1)と同様に製造された後、SPU層の上に歯科用アクリル重合レジンで円柱高さ5mmのつかみ部を設けられ、SHIMADZU AG-200B精密万能試験機を用いて1 mm min-1、室温大気下でせん断接合応力を測定している。せん断接合応力(σ)は、過酸化水素水の処理時間(t)が24時間においてはいずれも有意に上昇しているのが見られた。また、処理時間が72時間を超えるとせん断接合応力は低下し、また外観の観察でもチタン表面が酸化しているのが見られたため、これ以上の処理時間は好ましくないと思われた。最も好適な処理時間は1nmでは約48時間であるが、γ−MPS層の厚さによって異なっており、およそ30〜50時間の範囲から選択するのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係る複合生体材料の一実施形態を示す模式図である。
【図2】γ−MPSの化学構造を示す模式図である。
【図3】γ−MPSの膜厚が薄い場合における複合生体材料の構造を示す模式図である。
【図4】浸漬時間および浸漬濃度とγ−MPSの膜厚との関係を示すグラフである。
【図5】γ−MPSの膜厚とせん断応力との関係を示すグラフであって、(a)は膜厚0〜30nmの範囲を示すグラフ、(b)は膜厚0〜5nmの範囲を拡大して示すグラフである。
【図6】浸漬時間および浸漬濃度とせん断応力との関係を示すグラフである。
【図7】紫外線を照射する工程による結合強度の比較実験の各試料の概略図である。
【図8】紫外線を照射する工程による結合強度の比較実験の結果である。
【図9】紫外線照射時間によるせん断接合強度の比較図である。
【図10】紫外線照射によるSPUのガラス転移点の変化の測定結果図である。
【図11】SPUのガラス転移の概略図である。
【図12】紫外線照射による耐久性の比較図である。
【図13】過酸化水素水処理時間と金属表面水酸基量の関係図である。
【図14】過酸化水素水処理の時間ごとのせん断試験図である。
【符号の説明】
【0055】
1……複合生体材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合生体材料であって、
金属材料と反応する官能基および高分子材料と反応する官能基を1つの分子中に併有する接合剤を介して、金属材料と高分子材料とが接合されていることを特徴とする複合生体材料。
【請求項2】
請求項1に記載の複合生体材料において、
接合剤は、シランカップリング剤であることを特徴とする複合生体材料。
【請求項3】
請求項2に記載の複合生体材料において、
シランカップリング剤は、γ−MPSであることを特徴とする複合生体材料。
【請求項4】
請求項3に記載の複合生体材料において、
γ−MPSの膜厚は、1nm〜30nmの範囲内であることを特徴とする複合生体材料。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の複合生体材料において、
高分子材料は、SPUであることを特徴とする複合生体材料。
【請求項6】
複合生体材料の製造方法であって、
金属材料と反応する官能基および高分子材料と反応する官能基を1つの分子中に併有する接合剤を介して、金属材料と高分子材料とを接合することを特徴とする複合生体材料の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の複合生体材料の製造方法において、
接合剤として、シランカップリング剤を用いることを特徴とする複合生体材料の製造方法。
【請求項8】
請求項9に記載の複合生体材料の製造方法において、
シランカップリング剤として、γ−MPSを用いることを特徴とする複合生体材料の製造方法。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれかに記載の複合生体材料の製造方法において、
接合剤の膜厚を増減することにより、複合生体材料の接合力を制御することを特徴とする複合生体材料の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の複合生体材料の製造方法において、
金属材料を接合剤溶液に浸漬するときの浸漬時間および浸漬濃度を調整することにより、接合剤の膜厚を増減することを特徴とする複合生体材料の製造方法。
【請求項11】
請求項6乃至10のいずれかに記載の複合生体材料の製造方法において、
紫外線を照射する工程を含むことを特徴とする複合生体材料の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の複合生体材料の製造方法において、
高分子材料を接合した後、紫外線を30秒以上70秒未満照射することを特徴とする複合生体材料の製造方法。
【請求項13】
請求項6乃至12のいずれかに記載の複合生体材料の製造方法において、
金属材料の表面を過酸化水素水に浸漬することを特徴とする複合生体材料の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の複合生体材料の製造方法において、
過酸化水素水による浸漬を20時間以上72時間未満行うことを特徴とする複合生体材料の製造方法。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−73518(P2008−73518A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218160(P2007−218160)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年3月27日 社団法人 日本金属学会発行の「日本金属学会講演概要 2007年春期(第140回)大会」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年4月25日 日本歯科理工学会発行の「歯科材料・器械 Vol.26 No.2 APR.2007」に発表
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】