説明

複合荷電粒子ビーム装置及び加工観察方法

【課題】試料を汚染することなく加工しつつ観察することができる複合荷電粒子ビーム装置を提供する。
【解決手段】本発明の複合荷電粒子ビーム装置は、ガスフィールドイオン源を備えたイオンビーム照射系20と、その照射軸がイオンビーム照射系20の照射軸に対し90度又は90度よりも狭い角度に配置された電子ビーム照射系50と、前記イオンビーム照射系20から射出されるイオンビーム20Aと前記電子ビーム照射系50から射出される電子ビーム50Aとの交差位置で試料を支持する試料台14と、前記試料上のビーム照射位置にデポジション用又はエッチング用の機能ガスを供給するガス銃11と、を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合荷電粒子ビーム装置及び加工観察方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体プロセスの評価に用いられる加工観察装置として、加工用のイオンビーム照射系と、観察用の電子ビーム照射系とを備えた装置が知られている(特許文献1〜4参照)。また、集束イオンビームとガス銃を用いたデポジションにより微細立体構造物を形成する方法が知られている(特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平2−123749号公報
【特許文献2】特開平6−231720号公報
【特許文献3】特開平7−169429号公報
【特許文献4】特開2005−310757号公報
【特許文献5】国際公開第02/044079号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上に挙げた特許文献に記載の技術では、試料の加工にガリウムイオンビームを用いているため、加工による試料へのイオン注入が避けられない。特に、半導体製造工程から抜き取った試料(ウェハ)の加工観察を行う場合には、ガリウムイオンで汚染されると工程に戻せなくなる。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みて成されたものであって、試料を汚染することなく加工しつつ観察することができる複合荷電粒子ビーム装置を提供することを目的としている。特に、ガスフィールドイオン源から得られる極微細ビームによる超微細加工・観察を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の複合荷電粒子ビーム装置は、上記課題を解決するために、ガスフィールドイオン源を備えたイオンビーム照射系と、その照射軸が前記イオンビーム照射系の照射軸に対し90度又は90度よりも狭い角度に配置された電子ビーム照射系と、前記イオンビーム照射系から射出されるイオンビームと前記電子ビーム照射系から射出される電子ビームとの交差位置で試料を支持する試料台と、前記試料上のビーム照射位置にデポジション用又はエッチング用の機能ガスを供給するガス銃と、を備えていることを特徴とする。
この構成によれば、イオンビーム照射系とガス銃とを備えているので、ガスアシストデポジションによる構造物の形成、及びガスアシストエッチングによる試料の加工等を迅速かつ容易に行うことができる。特にガスフィールドイオン源を備えたイオンビーム照射系は、ビーム径を1nm以下にまで小さく絞ることができるため高精度の加工が可能である。
さらに電子ビーム照射系を備えているので、イオンビーム照射系による試料加工を行いつつ、電子ビーム照射系を用いた試料観察を行うことができる。したがって、例えば加工用途であれば、加工の仕上がり具合を確認しながらイオンビームによる加工を実施することができる。
またイオンビーム照射系がガスイオン源を用いているため、イオンビームの照射によって試料が汚染されることが無い。したがって、半導体装置の製造工程から抜き取った試料を本発明の複合荷電粒子ビーム装置で加工観察した後にも、試料を工程に戻すことができ、製品を無駄にすることが無くなる。
【0006】
前記イオンビーム照射系が前記試料台の鉛直方向の上方に配置される一方、前記電子ビーム照射系が鉛直方向に対して傾斜して配置されていることが好ましい。
このようにイオンビーム照射系を試料台の鉛直上方に配置することで、ビーム径が小さく高精度の位置制御を要するイオンビーム照射系を用いた加工観察をより容易に行えるようになる。
【0007】
前記ガスフィールドイオン源が、エミッタと、前記エミッタの先端部に対向する開口部を有する引出電極と、前記イオンとなるガスを供給するガス供給部とを備えていることが好ましい。
かかる構成のガスフィールドイオン源により、小さいビーム径のイオンビームを安定的に形成できる。
【0008】
前記イオンが、ヘリウムイオンであることが好ましい。
この構成により、試料のスパッタをほとんど生じさせることなく試料像を得ることができるイオンビーム照射系を備えた複合荷電粒子ビーム装置となる。
【0009】
前記イオンビーム又は前記電子ビームの照射によって試料から発生する二次荷電粒子と前記試料を透過した荷電粒子の少なくとも一方を検出する検出装置と、前記検出装置の出力に基づいて前記試料の画像を表示する画像表示装置とを備えていることが好ましい。
この構成により、イオンビーム照射又は電子ビームによる試料像の観察が可能な構成となる。
【0010】
前記検出装置が、電子検出器、イオン検出器、及び透過荷電粒子検出器の少なくとも1つを備えていることが好ましい。すなわち、イオンビーム照射又は電子ビーム照射により試料から発生する二次電子、二次イオン、及び透過荷電粒子のいずれかを検出できるものを備えていることが好ましい。
【0011】
本発明の加工観察方法は、ガスフィールドイオン源を備えたイオンビーム照射系から試料に対してイオンビームを照射するとともに前記試料のイオンビーム照射位置にガスを供給することで前記試料を加工するステップと、前記試料に電子ビームを照射して前記試料を観察するステップとを有することを特徴とする。
この加工観察方法によれば、ガスを供給しながらのイオンビーム照射によるガスアシストデポジションやガスアシストエッチングによって試料の加工を迅速に効率よく行うことができる。また電子ビーム照射により試料の破損を回避しつつ観察することできる。また金属イオンを照射しないので、試料の汚染を回避しつつを行うことができる。
特に本発明では、ビーム径を小さく絞ることができるを備えたイオンビーム照射系を用いているので、微細かつ高精度の加工を容易に行うことができ、より高度の加工観察を実施することができる。
なお、上記では、イオンビーム照射によるガスアシスト加工について述べたが、電子ビーム照射によるガスアシスト加工も行うことができる。
さらに、絶縁物加工観察時に帯電防止のために逆電荷の電子又はイオンビームを照射することもできる。
【0012】
前記電子ビームを、前記イオンビームと鋭角又は概略90度で交差する方向から前記試料に照射することが好ましい。
この加工観察方法によれば、イオンビームによる加工の後、試料の位置をほとんど調整することなく連続して電子ビームを用いた観察を行うことができ、迅速な観察が可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合荷電粒子ビーム装置によれば、ガスアシストデポジションによる構造物の形成、及びガスアシストエッチングによる試料の加工等を迅速かつ容易に行うことができる。特にガスフィールドイオン源を備えたイオンビーム照射系は、ビーム径を1nm以下にまで小さく絞ることができるため高精度の加工が可能である。
また本発明の加工観察方法によれば、ガスを供給しながらのイオンビーム照射によるガスアシストデポジションやガスアシストエッチングによって試料の加工を迅速に効率よく行うことができる。また電子ビーム照射により試料の破損を回避しつつ観察することできる。また金属イオンを照射しないので、試料の汚染を回避しつつを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の複合荷電粒子ビーム装置の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置の概略斜視図である。図2は、複合荷電粒子ビーム装置100の概略断面図である。
【0015】
図1及び図2に示すように、本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置100は、真空室13と、イオンビーム照射系20と、電子ビーム照射系50と、試料ステージ16と、マニピュレータ17と、二次荷電粒子検出器18と、透過荷電粒子検出器19と、ガス銃11とを備えている。真空室13は、内部を所定の真空度まで減圧可能になっており、上記の各構成品はそれらの一部又は全部が真空室13内に配置されている。
【0016】
本実施形態において、集束イオンビーム鏡筒を備えたイオンビーム照射系20から真空室13内に配置された試料ステージ16上の試料(加工対象物あるいは観察対象物)に対してイオンビーム(集束イオンビーム)20Aを照射する。電子ビーム照射系50は、電子ビーム鏡筒から射出される電子ビーム50Aを、イオンビーム20Aと同一位置の試料上に照射する。
【0017】
電子ビーム照射系50は、図2に示すように、電子を放出する電子源54と、電子源54から放出された電子をビーム状に成形するとともに走査する電子光学系55とを備えている。電子ビーム照射系50としては公知の構成を採用することができる。
電子ビーム照射系50から射出される電子ビームを試料Waに照射することによって発生した二次電子を、二次荷電粒子検出器18で検出して試料WaのSEM(走査型電子顕微鏡)像を取得する。また、試料を透過した電子を透過荷電粒子検出器19で検出してTEM(透過型電子顕微鏡)像ないしSTEM(走査透過型電子顕微鏡)像を取得することができる。
【0018】
イオンビーム照射系20は、イオンを発生させるとともに流出させるガスフィールドイオン源21と、ガスフィールドイオン源21から流出したイオンを集束イオンビーム(イオンビーム20A)に成形し、試料Wa又は試料Wbに照射するイオン光学系25とを備えている。
【0019】
イオン光学系25は、例えば、イオンビームを集束するコンデンサーレンズと、イオンビームを絞り込む絞りと、イオンビームの光軸を調整するアライナと、イオンビームを試料に対して集束する対物レンズと、試料上でイオンビームを走査する偏向器とを備えて構成される。
【0020】
ここで図3は、ガスフィールドイオン源21を示す概略断面図である。
図3に示すように、ガスフィールドイオン源21は、イオン発生室21aと、エミッタ22と、引出電極23と、冷却装置24とを備えて構成されている。イオン発生室21aの壁部に冷却装置24が配設されており、冷却装置24のイオン発生室21aに臨む面に針状のエミッタ22が装着されている。冷却装置24は、内部に収容された液体窒素等の冷媒によってエミッタ22を冷却する。そして、イオン発生室21aの開口端近傍に、エミッタ22の先端22aと対向する位置に開口部23aを有する引出電極23が配設されている。
【0021】
イオン発生室21aは、図示略の排気装置を用いて内部が所望の高真空状態に保持されるようになっている。イオン発生室21aには、ガス導入管26aを介してガス供給源26が接続されており、イオン発生室21a内に微量のガス(例えばヘリウムガス)を供給するようになっている。
なお、ガスフィールドイオン源21においてガス供給源26から供給されるガスは、ヘリウムに限られるものではなく、ネオン、アルゴン、キセノン等のガスであってもよい。また、ガス供給源26から複数種のガスを供給可能に構成し、イオンビーム照射系20の用途に応じてガス種を切り替えられるようにしてもよい。
【0022】
エミッタ22は、タングステンやモリブデンからなる針状の基材に、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、金等の貴金属を被覆したものからなる部材であり、その先端22aは原子レベルで尖鋭化されたピラミッド状になっている。またエミッタ22は、イオン源の動作時には冷却装置24によって78K程度以下の低温に保持される。エミッタ22と引出電極23との間には、電源27によって電圧が印加されるようになっている。
【0023】
エミッタ22と引出電極23との間に電圧が印加されると、鋭く尖った先端22aにおいて非常に大きな電界が形成されるとともに、分極してエミッタ22に引き寄せられたヘリウム原子26mが、先端22aのうちでも電界の高い位置で電子をトンネリングにより失ってヘリウムイオンとなる(電界イオン化)。そして、このヘリウムイオンが正電位に保持されているエミッタ22と反発して引出電極23側へ飛び出し、引出電極23の開口部23aからイオン光学系25へ射出されたヘリウムイオンがイオンビームを構成する。
【0024】
エミッタ22の先端22aは極めて尖鋭な形状であり、ヘリウムイオンはこの先端22aから飛び出すため、ガスフィールドイオン源21から放出されるイオンビームのエネルギー分布幅は極めて狭く、プラズマ型ガスイオン源34や液体金属イオン源と比較して、ビーム径が小さくかつ高輝度のイオンビームを得ることができる。
【0025】
なお、エミッタ22への印加電圧が大きすぎると、ヘリウムイオンとともにエミッタ22の構成元素(タングステンや白金)が引出電極23側へ飛散するため、動作時(イオンビーム放射時)にエミッタ22に印加する電圧は、エミッタ22自身の構成元素が飛び出さない程度の電圧に維持される。
一方、このようにエミッタ22の構成元素を操作できることを利用して、先端22aの形状を調整することができる。例えば、先端22aの最先端に位置する元素を故意に取り除いてガスをイオン化する領域を広げ、イオンビーム径を大きくすることができる。
またエミッタ22は、加熱することで表面の貴金属元素を飛び出させることなく再配置させることができるため、使用により鈍った先端22aの尖鋭形状を回復することもできる。
【0026】
図1及び図2に戻り、試料ステージ16は、試料台14と試料ホルダ15とを移動可能に支持している。試料台14上には試料Wa(例えば半導体ウエハ等)が載置され、試料ホルダ15上には、試料Waから作製される微小な試料Wbが載置される。そして、試料ステージ16は、試料台14及び試料ホルダ15を5軸で変位させることができる。すなわち、試料台14を水平面に平行で且つ互いに直交するX軸及びY軸と、これらX軸及びY軸に対して直交するZ軸とに沿ってそれぞれ移動させるXYZ移動機構16bと、試料台14をZ軸回りに回転させるローテーション機構16cと、試料台14をX軸(又はY軸)回りに回転させるチルト機構16aとを備えて構成されている。試料ステージ16は、試料台14を5軸に変位させることで、試料Wa(試料Wb)の特定位置をイオンビームが照射される位置に移動するようになっている。
【0027】
真空室13は、内部を所定の真空度まで減圧可能になっており、真空室13内にはマニピュレータ17と、二次荷電粒子検出器18と、透過荷電粒子検出器19と、ガス銃11とが設けられている。
マニピュレータ17は、試料Waから作製される試料Wbを支持するものであり、試料Wbを指示した状態でマニピュレータ17と試料ホルダ15とを相対的に移動させることで、試料台14から試料ホルダ15に試料Wbを運搬する。運搬に際しては、マニピュレータ17を固定した状態で試料ステージ16を駆動して試料ホルダ15を試料Wbが支持されている位置まで移動させてもよく、マニピュレータ17を移動させて試料Wbを運搬してもよい。
【0028】
二次荷電粒子検出器18は、イオンビーム照射系20又は電子ビーム照射系50から試料Wa又は試料Wbへ集束イオンビーム又は電子ビームが照射された際に、試料Wa又は試料Wbから発せられる二次電子や二次イオンを検出する。また透過荷電粒子検出器19は、イオンビーム照射系20又は電子ビーム照射系から試料Wa又は試料Wbへ集束イオンビーム又は電子ビームが照射された際に試料Wa又は試料Wbを透過したイオンないし電子を検出する。
【0029】
ガス銃11は、試料Wa、Wbへエッチングガスやデポジションガス等の所定のガスを放出する。そして、ガス銃11からエッチングガスを供給しながら試料Wa、Wbにイオンビーム20Aを照射することで、イオンビームによる試料のエッチング速度を高めることができる。一方、ガス銃11からデポジションガスを供給しながら試料Wa、Wbにイオンビームを照射すれば、試料Wa、Wb上に金属や絶縁体の堆積物を形成することができる。
【0030】
また、複合荷電粒子ビーム装置100は、当該装置を構成する各部を制御する制御装置30を備えている。制御装置30は、イオンビーム照射系20、電子ビーム照射系50、二次荷電粒子検出器18、透過荷電粒子検出器19、及び試料ステージ16と接続されている。また、二次荷電粒子検出器18あるいは透過荷電粒子検出器19からの出力に基づき試料Wa及び試料Wbを映像として表示する表示装置38を備えている。
【0031】
制御装置30は、複合荷電粒子ビーム装置100を総合的に制御するとともに、二次荷電粒子検出器18又は透過荷電粒子検出器19で検出された二次荷電粒子又は透過荷電粒子を輝度信号に変換して画像データを生成し、この画像データを表示装置38に出力している。これにより表示装置38は、上述したように試料像を表示できるようになっている。
【0032】
また制御装置30は、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ16を駆動し、試料Wa又は試料Wbの位置や姿勢を調整する。これにより、試料表面におけるイオンビームの照射位置や照射角度を調整できるようになっている。例えば、イオンビーム照射系20と電子ビーム照射系50との切替操作に連動して試料ステージ16を駆動し、試料Waや試料Wbを移動させたり、傾けることができるようになっている。
【0033】
以上の構成を備えた本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置100では、電界放出型イオン源21を備えたイオンビーム照射系20について、ソースサイズ1nm以下、イオンビームのエネルギー広がりも1eV以下にできるため、ビーム径を1nm以下に絞ることができる。このようにビーム径を小さく絞ることができるイオンビーム照射系20を備えていることで、試料に対して微細な加工(エッチング、デポジション)を施すことが可能である。
【0034】
なお、イオンビーム20Aをヘリウムイオンにより構成すると、単にイオンビームを試料に照射したのでは試料はほとんどエッチングされないが、ガス銃11からエッチングアシスト用のガスを供給しながらイオンビーム20Aを試料に照射することで、実用的な速度で試料を加工することができる。またイオンビーム20Aを、ヘリウムイオンよりも質量の大きいネオンイオンやアルゴンイオンによって構成すれば、加工効率を向上させることができる。
【0035】
そして、本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置100では、イオンビーム照射系20とともに電子ビーム照射系50が備えられているので、イオンビーム照射系20を用いて試料Wa又は試料Wbを加工するとともに、電子ビーム照射系50を用いた試料Wa又は試料Wbの観察が可能である。すなわち、イオンビーム照射系20用いた加工途中に、電子ビーム照射系50を用いたSEM、STEM観察が可能である。したがって本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置100によれば、仕上がり具合を確認しながらイオンビーム照射系20による加工を行うことができ、正確な位置、寸法に仕上げることができる。
【0036】
さらに本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置100では、イオンビーム照射系20を用いた試料観察を行うこともできる。イオンビーム20Aでは、試料における相互作用体積が表面からの深さ方向に長く延び、試料表面での面方向の広がりは小さくなることから、イオンビームを照射した位置の情報を正確に反映した試料像を得ることができ、試料のチャージアップも抑えることができる。さらに、ヘリウムイオンの運動量は電子の運動量に対して非常に大きいため、試料表面からより多くの二次電子が放出される。
これらにより、イオンビーム20Aを試料に照射して二次荷電粒子像観察を行うことで、高分解能かつ高コントラストの試料像を得ることができる。
【0037】
また複合荷電粒子ビーム装置100は、イオンビーム照射系20と電子ビーム照射系50とを備えているので、例えば絶縁物の加工観察において、一方のビーム照射による帯電を他方のビーム照射による逆電荷の供給によって中和することができる。
【0038】
また本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置100は、イオンビーム照射系20に液体金属イオン源を用いていない。したがって、複合荷電粒子ビーム装置100での処理に供した試料が金属イオン(ガリウムイオン等)に汚染されることがなく、例えば半導体装置の製造工程から抜き取った試料を検査した後、この試料を再び工程に戻すことが可能になる。これにより、抜き取り検査で使用した試料を無駄にすることがなくなる。
【0039】
本実施形態では、図2に示したように、イオンビーム照射系20を試料ステージ16の鉛直上方に配置し、試料Wa又は試料Wbに対してイオンビーム20Aを鉛直方向に照射する。一方、電子ビーム照射系50は鉛直方向に対して傾いて配置され、試料Wa又は試料Wbに対して斜め方向に電子ビーム50Aを照射するようになっている。このように、ヘリウムイオンからなるイオンビーム20Aを鉛直方向に沿って射出させる構成とすれば、イオンビーム20Aによる加工に際して高精度のステージ制御が容易になり、所望の精度を得やすくなる。
【0040】
本実施形態において、イオンビーム20Aと電子ビーム50Aとの交差角度は、20°以上70°以下とすることが好ましい。このような範囲とすることで、イオンビーム20Aにより加工された部位に対して、好適な角度で電子ビーム50Aを照射することができる。したがって、試料台14を移動させることなく、イオンビーム20Aとは異なる角度から、試料Wa又は試料Wbの加工位置を正確に観察することができる。
【0041】
なお、イオンビーム照射系20と電子ビーム照射系50の配置は、図2に示したものに限定されず、種々の配置形態を採用することが可能である。例えば、図2において、イオンビーム照射系20を試料Waの鉛直方向に対して斜めに配置し、水平配置された試料Wa又はWbに対して斜め方向からイオンビーム20Aを照射するように配置してもよい。
【0042】
[加工観察方法及び加工方法]
次に、先の実施形態の複合荷電粒子ビーム装置100を用いた加工観察方法について、図面を参照しつつ説明する。複合荷電粒子ビーム装置100は、試料の断面加工観察、TEM(透過型電子顕微鏡)試料の作製及び観察等の試料加工観察用途に好適に用いることができる。
【0043】
<断面加工観察>
図4は、複合荷電粒子ビーム装置100による試料の断面加工観察方法を示す図である。なお、図4では図面を見やすくするために試料の一部のみを図示している。
本例の加工観察方法では、試料Waの加工にイオンビーム照射系20を用い、加工された試料Waの観察に電子ビーム照射系50を用いる。
【0044】
まず、図4(a)に示すように、試料Waの表面にイオンビーム20Aを走査しつつ照射することにより試料Waの表面部を部分的に除去し、断面矩形状の凹部Wrを形成する。このとき、ガス銃11からアシスト用のエッチングガスを供給しながらイオンビーム20Aの照射を行うことで、迅速に凹部Wrを形成することができる。
そして、図4(b)に示すように、形成した凹部Wrの内壁として露出した面Wsに対して、電子ビーム50Aを照射することで、発生した二次電子を二次荷電粒子検出器18で検出し、かかる検出結果に基づいて表示装置38に試料像を表示することができる。
【0045】
本例の加工観察方法によれば、イオンビーム照射系20に対して電子ビーム照射系50が斜め向きに配置されていることから、イオンビーム20Aによる加工後に試料Waを改めて傾斜させることなく面Wsを観察することができ、迅速な加工観察が可能である。
また、試料Waに対して金属イオンを照射しないので、金属イオン注入による試料Waの汚染を生じさせることがなく、試料Waの状態を変化させることなく加工観察することができる。
【0046】
さらに本例の加工観察方法において、イオンビーム照射系20による断面加工と、電子ビーム照射系50による断面観察とを交互に連続的に行う断面加工観察も可能である。すなわち、図4(b)に示した電子ビーム照射系50による断面観察の後、面Wsの近傍にイオンビーム20Aを照射することで面Wsを含む部分を選択的に除去する。この加工により新たに露出した断面に電子ビーム50Aを照射して観察を行う。そして、図4(c)に示すように、加工により順次露出する断面を観察することで、試料Waについて三次元的に加工観察することができる。
【0047】
なお、本例の加工観察方法において、イオンビーム照射系20を用いた試料観察(SIM観察)も可能である。すなわち、イオンビーム照射系20から射出されるヘリウムイオンビームを試料に照射することで発生する二次電子や二次イオンを二次荷電粒子検出器18で検出することで、電子ビーム照射系50を用いた場合とコントラストの異なる試料像を得ることができる。
【0048】
<微細構造の形成>
図5は、複合荷電粒子ビーム装置100による試料への微細構造形成方法(加工方法)を示す図である。本例の加工方法では、試料基板Wc上への微細構造形成にイオンビーム照射系20及びガス銃11を用いる。
【0049】
まず、図5(a)に示すように、試料基板Wc上にガス銃11からデポジション用ガスを吹き付けながら、イオンビーム20Aを照射することで、例えばカーボンや金属からなる第1の構造物110を形成する。次いで、図5(b)に示すように、第1の構造物110上にガス銃11からデポジション用ガスを吹き付けつつ、イオンビーム20Aを照射して、第1の構造物110上に第2の構造物111を形成する。
【0050】
以後同様にして、第2の構造物111上に構造物を形成することで、試料基板Wc上に任意の立体形状を有する微細構造を形成することができる。例えば、図5(c)に示すような直径数nm〜数百nm程度の微小なコイル113や、図5(d)に示すような直径数nm〜数百nm程度の微小なドリル114等を形成することができる。
【0051】
本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置100を用いた加工方法によれば、ビーム径を小さく絞ることができるイオンビーム20Aを用いたデポジションにより微細構造の形成を行うことができ、微小寸法の構造物を容易かつ正確に形成することができる。
また、形成した構造物に対して電子ビーム照射系50から電子ビーム50Aを照射して構造物を観察することができる。このような加工方法とすれば、構造物の仕上がり具合を確認しながら微細加工を施すことができるため、歩留まりよく微細構造を形成することができる。この加工方法は、例えば、極めて尖鋭な先端形状が要求されるアトムプローブの製造(エッチング加工)にも好適に用いることができる。
なお、コイル113やドリル114のような軸対称の構造物を形成する場合には、試料台14又は試料ホルダ15を水平面内で回転させる試料ステージ16を用いることが好ましい。これにより、微細構造を容易かつ高精度に形成することができる。
【0052】
(第2の実施形態)
図6は、イオンビーム照射系20と電子ビーム照射系50の配置を変更した複合荷電粒子ビーム装置200を示す図である。図6に示す複合荷電粒子ビーム装置200では、試料Waの鉛直上方にイオンビーム照射系20が配置される一方、試料Waの側方に電子ビーム照射系50が配置されている。イオンビーム20Aと電子ビーム50Aとは、互いに略直交するように射出される。また、透過荷電粒子検出器19は、電子ビーム50Aの延長上に配置されている。また本実施形態では、試料ステージ16として、試料台14及び試料ホルダ15の少なくとも一方を0°〜90°の範囲で傾斜可能なものを用いることが好ましい。
【0053】
図6に示すように、イオンビーム20Aと電子ビーム50Aが互いに略直交するように配置されていることで、イオンビーム照射系20によって加工した試料の加工面に対して電子ビーム50Aを垂直に入射させることができる。したがって図6に示す複合荷電粒子ビーム装置200によれば、TEM(透過型電子顕微鏡)試料の作製やアトムプローブなどのナノオーダーサイズの加工を、電子ビーム照射系50を用いた観察により仕上がり具合を確認しながら効率よく実施することができる。
【0054】
また、図6に示す配置とすることで、イオンビーム照射系20の鏡筒と電子ビーム照射系50の鏡筒とが干渉しにくくなるので、電子ビーム照射系50を試料Wa又は試料Wbに接近させ、WD(Working Distance)を小さくすることができる。これにより、電子ビーム50Aのビーム径を小さく絞ることができるので、高分解能の観察が可能になる。
【0055】
なお、複合荷電粒子ビーム装置200において、イオンビーム照射系20と電子ビーム照射系50とを入れ替えて配置してもよいのはもちろんであり、この場合にも同様の作用効果を得ることができる。
【0056】
<TEM試料作製及び観察>
図7は、複合荷電粒子ビーム装置200によるTEM試料の加工方法を示す図である。
本例の加工方法では、試料Waの加工をイオンビーム照射系20を用いて行い、TEM試料である試料Wbを得て、これを電子ビーム照射系50を用いて観察する。
【0057】
まず、図7(a)に示すように、試料Waの表面にイオンビーム20Aを走査しつつ照射することにより部分的に除去し、TEM試料である試料Wbとなる部分の両側に、底面がスロープ状の凹部Wr、Wrを形成する。さらに、図7(b)に示すように、試料Wbの観察領域となる部分が所望の厚さの薄膜となるまでイオンビーム20Aにより加工する。
このとき、ガス銃11を併用したガスアシストエッチング又はガスアシストデポジションを行うことが好ましい。ガス銃11を併用することでエッチング及びデポジションの加工速度を向上させることができ、効率よく試料Wbを作製することができる。
その後、試料Wbをマニピュレータ17を用いて試料Waから取り出すことで、TEM試料としての試料Wbが得られる。
【0058】
さらに本発明の複合荷電粒子ビーム装置100では、作製した試料Wbの観察を行うことができる。すなわち、図7(c)に示すように、取り出された試料Wbをマニピュレータ17によって試料ホルダ15に移動させる。そして、かかる試料Wbに対して電子ビーム50Aを照射し、透過電子を透過荷電粒子検出器19で検出する。さらに試料Wbの追加加工が必要な場合は、試料ホルダ15上でイオンビーム20Aにより追加加工を行うことができる。このようにして、透過荷電粒子検出器19の検出結果に基づいて表示装置38に試料像を表示することができる。
【0059】
この加工方法によれば、TEM試料の作製に際して、ビーム径を小さく絞れるイオンビーム照射系20を用いて加工を行うので、観察対象となる薄膜部分が高精度に仕上げられた試料Wbを得ることができる。また試料Wa、Wbに対して金属イオンを照射しないので、金属イオンの注入によって試料に悪影響が及ぶのを回避できる。
【0060】
特に、試料ステージ16として、試料台14又は試料ホルダ15を水平方向に対して0°〜90°の範囲で自在に傾斜させることができるものを備えていれば、加工時及び観察時におけるビーム入射角に大きな自由度が得られる。したがって、多様な形態での観察を容易に行えるようになる。また本実施形態の複合荷電粒子ビーム装置200を用いて微細構造を形成する場合にも同様の作用が得られ、微細構造を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第1実施形態に係る複合荷電粒子ビーム装置の概略構成図。
【図2】第1実施形態に係る複合荷電粒子ビーム装置の概略断面図。
【図3】電界放出型イオン源の断面図。
【図4】加工観察方法の一形態である断面加工観察方法を示す図。
【図5】加工方法の一形態である微細構造形成方法を示す図。
【図6】第2実施形態に係る複合荷電粒子ビーム装置の概略構成図。
【図7】加工観察方法の一形態であるTEM試料作製及び観察方法を示す図。
【符号の説明】
【0062】
11 ガス銃、13 真空室、14 試料台、15 試料ホルダ、16 試料ステージ、17 マニピュレータ、18 二次荷電粒子検出器、19 透過荷電粒子検出器、20 イオンビーム照射系、20A イオンビーム、21 ガスフィールドイオン源、21a イオン発生室、22 エミッタ、22a 先端、23 引出電極、23a 開口部、24 冷却装置、25 イオン光学系、26 ガス供給源、26a ガス導入管、26m ヘリウム原子、27 電源、30 制御装置、38 表示装置、50 電子ビーム照射系、50A 電子ビーム、Wa 試料、Wb 試料、100,200 複合荷電粒子ビーム装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスフィールドイオン源を備えたイオンビーム照射系と、その照射軸が前記イオンビーム照射系の照射軸に対し90度又は90度よりも狭い角度に配置された電子ビーム照射系と、
前記イオンビーム照射系から射出されるイオンビームと前記電子ビーム照射系から射出される電子ビームとの交差位置で試料を支持する試料台と、
前記試料上のビーム照射位置にデポジション用又はエッチング用の機能ガスを供給するガス銃と、
を備えていることを特徴とする複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
前記イオンビーム照射系が前記試料台の鉛直方向の上方に配置される一方、前記電子ビーム照射系が鉛直方向に対して傾斜して配置されていることを特徴とする請求項1に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
前記ガスフィールドイオン源が、エミッタと、前記エミッタの先端部に対向する開口部を有する引出電極と、前記イオンとなるガスを供給するガス供給部とを備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
前記イオンが、ヘリウムイオンであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
前記イオンビーム又は前記電子ビームの照射によって試料から発生する二次荷電粒子と前記試料を透過した荷電粒子の少なくとも一方を検出する検出装置と、前記検出装置の出力に基づいて前記試料の画像を表示する画像表示装置とを備えていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
前記検出装置が、電子検出器、イオン検出器、及び透過荷電粒子検出器の少なくとも1つを備えていることを特徴とする請求項5に記載の複合荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
ガスフィールドイオン源を備えたイオンビーム照射系から試料に対してイオンビームを照射するとともに前記試料のイオンビーム照射位置にガスを供給することで前記試料を加工するステップと、
前記試料に電子ビームを照射して前記試料を観察するステップと
を有することを特徴とする加工観察方法。
【請求項8】
前記電子ビームを、前記イオンビームと鋭角又は概略90度で交差する方向から前記試料に照射することを特徴とする請求項7に記載の加工観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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