説明

複合触媒

【課題】 触媒内での電荷移動により酸化・還元反応を促進する電荷移動型触媒の抗菌、防汚、防臭機能等をより向上させ、即効性、耐久性を付与した複合触媒を提供する。
【解決手段】 複合触媒は、電荷移動型触媒と多孔質からなる触媒とを含む。多孔質は、炭素材または金属酸化物からなることが好ましく、活性炭,ゼオライト,シリカゲルからなる群より選ばれる少なくとも一種であること、電荷移動型触媒の配合比が、1〜50重量%であることがさらに好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚、抗菌、防臭機能等を有する触媒として特に好適に用いられる複合触媒に関する。より詳しくは、いわゆる電荷移動型触媒の実用性をより向上させた複合触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、酸化チタンなどの光触媒を利用した脱臭処理方法が知られている。この脱臭処理方法では、紫外線などの光線を照射することによって、光触媒表面に吸着した臭気物質が酸化・還元反応により分解される。したがって、光触媒が十分な反応表面を有し、光線照射を継続する限り、高い処理能力を有している(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、光触媒を利用した脱臭処理方法では、常に光が光触媒に照射されていないと、十分な脱臭効果を期待することができない。すなわち、上記従来の光触媒が、防汚、抗菌、防臭機能を発揮するためには、所定量の紫外線の照射が必要となる。ところが、通常、これらの機能を要するタイル、家電製品等の設置場所は紫外線量がある程度限られた屋内であり、また、天候、季節、使用時間帯、採光の程度等により得られる機能が一様でないことが多い。このため、十分な、かつ、一様な防汚、抗菌、防臭機能を得ることが困難であった。
【0004】
そこで、このような問題点を改善する脱臭素子として、近年、触媒内での電荷移動により酸化反応及び/又は還元反応を行う、複合酸化物からなる電荷移動型触媒が開発されている(特許文献2,非特許文献1参照)。
【0005】
電荷移動型触媒は、光や水の存在といった環境条件の変化に関りなく、防汚性を付与可能とし、また、抗菌性や防臭性等の付与することができる触媒である。したがって、例えば、タイル地や各種建築材料、各種繊維製品等に電荷移動型触媒を配合した場合、内部にまで紫外線が到達しない場合でも触媒活性が発揮されるので、抗菌性、防臭性等を得ることができる。
【特許文献1】特許第2138415号公報
【特許文献2】特許第3514702号公報
【非特許文献1】Transactions of the Materials Research Society of Japan 26 [3]1045-1048(2001),”Charge Transfer Auto Oxidation-Reduction Type Semiconductor”
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の電荷移動型触媒をタイル地や各種建築材料、各種繊維製品等に使用した場合であっても、抗菌性、防臭性等の機能を即座に発揮させる即効性を得ること、または長期的に持続させる耐久性を得ることは尚困難である。
【0007】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、触媒内での電荷移動により酸化・還元反応を促進する電荷移動型触媒の抗菌、防汚、防臭機能等をより向上させ、即効性、耐久性を付与した複合触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、電荷移動型触媒と多孔質からなる触媒とを含む複合触媒を用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1記載の複合触媒は、上記の課題を解決するために、電荷移動型触媒と多孔質からなる触媒とを含むことを特徴としている。
【0010】
上記の構成によれば、多孔質からなる触媒により表面積を増加させることができるので、電荷移動型触媒による酸化・還元反応をより促進することができ、即効性・耐久性を付与した複合触媒を得ることができる。
【0011】
請求項2の複合触媒は、上記の課題を解決するために、多孔質が、炭素系多孔質体またはセラミックス系多孔質体からなることを特徴としている。
【0012】
上記の構成によれば、多孔質が炭素系多孔質体またはセラミックス系多孔質体からなることで、各種陶器、各種建築基材等との相性のよい複合触媒を得ることができ、目的基材の外観、品質等を保持することができる。
請求項3の複合触媒は、上記の課題を解決するために、多孔質が、活性炭,活性炭素繊維、 ゼオライト,シリカ,アルミナ,ジルコニア、ニッケル,シリコン、ポリエチレン,ポリプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴としている。
【0013】
請求項4の複合触媒は、上記の課題を解決するために、電荷移動型触媒の配合比が、1〜50重量%であることを特徴としている。
【0014】
上記の構成によれば、複合触媒中における電荷移動型触媒の量が上記範囲内であることで、電荷移動型触媒の触媒活性を短時間で発現させることができるとともに長期に持続させることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の複合触媒によれば、触媒内での電荷移動により酸化・還元反応を促進する電荷移動型触媒の抗菌、防汚、防臭機能等をより向上させ、即効性、耐久性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の複合触媒は、電荷移動型触媒と多孔質からなる触媒とを含んでなる。
本発明の電荷移動型触媒は、電子供与元素と電子受容元素、電子キャリアー元素、還元中心元素、酸化中心元素との複合酸化物結晶からなり、さらに、微量の酸化活性剤及び還元活性化剤とを含んでなる。
【0017】
電荷移動型触媒の具体的な構成としては、電子供与元素と電子受容元素とを配位した結晶格子間に、酸化物が半導体特性を持つ元素を配位させたペロブスカイト構造酸化物結晶またはスピネル構造酸化物結晶、またはその両者を用いることができる。
【0018】
上記電荷移動型触媒において、上記電子供与元素としては、例えば、モリブデン、タングステン、ニッケル、及びコバルトからなる群より選ばれる一種以上の元素が好ましく用いられる。また、電子受容元素としては、例えば、アルミニウム、ケイ素、錫、チタン、及び鉄からなる群より選ばれる一種以上の元素が挙げられる。
【0019】
電子キャリアー元素としては、例えば、ジルコニウム、マンガン、バナジウム等が挙げられる。酸化中心元素としては、ホール移動度の高い元素が好ましいことが知られており、例えば、銀、白金等が挙げられる。還元中心元素は、電子移動度の高い元素であることが好ましく、例えば、パラジウム、亜鉛等が挙げられる。
【0020】
酸化活性剤としては、IA属、IIA属元素が好ましく、例えば、リチウム、ベリリウム、バリウム等が挙げられる。還元活性化剤としては、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金等が挙げられる。
【0021】
本発明の複合触媒に用いられる多孔質からなる触媒としては、例えば、活性炭,活性炭素繊維等の炭素系多孔質体;ゼオライト,シリカ,アルミナ,ジルコニア等のセラミックス系多孔質体;
炭化ケイ素系多孔質体;ニッケル,シリコン等の金属系多孔質体;ポリエチレン,ポリプロピレン等のポリマー系多孔質体;等が挙げられる。上記例示の多孔質からなる触媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記例示の多孔質のうち、炭素系多孔質体、セラミックス系多孔質体、炭化ケイ素系多孔質体が好ましく、炭素系多孔質体、セラミックス系多孔質体が最も好ましい。
【0022】
本発明の複合触媒には、必要に応じて、メラミン,ウレタンエマルジョン,アクリルエマルジョン等のバインダーが含まれていてもよい。
【0023】
また、本発明に用いられる多孔質が無機質の場合は焼結してもよい。
【0024】
本発明の複合触媒の成形法としては、例えば、電荷移動型触媒と多孔質を混合する方法、電荷移動型触媒と多孔質とを混合した後成形する方法、多孔質成形体に電荷移動型触媒溶液を含浸・スプレー添着する方法等が挙げられる。
また、本発明の複合触媒は、電荷移動型触媒が、多孔質からなる触媒表面に上記バインダーを介して固着されている構成としてもよい。
【0025】
本発明の複合触媒における、電荷移動型触媒の配合比は、特に限定されないが、複合触媒に占める割合が、1〜50重量%であることがより好ましく、20〜40重量%であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明の複合触媒を用いて消臭、抗菌、防汚等の機能を発揮させるべき基材としては、具体的には、例えば、便器、貯水タンク、洗面台等の衛生陶器;タイル、瓦、外壁材料、内装材等の建築材料;カーテン生地等の繊維製品;外壁塗料、内装塗料等の各種塗料;空気清浄器、エアコン、内装材、シート、シートベルト等の自動車関連製品、空気清浄器、冷蔵庫、洗濯機等の家電製品;等が挙げられる。
【実施例】
【0027】
〔実施例1〕
比表面積1000m2/gの活性炭120mgをめのう乳鉢で粉砕し、電荷移動型触媒60mgと乳鉢で混合し、水中に分散させ、縦10cm、横12cmの布地表面に添着し、乾燥させた。
【0028】
これを5リットルの容器中に設置して、40ppmになるようにアンモニアを充満させ、完全暗室内に設置する。1時間後、2時間後、24時間後のアンモニア濃度を分析した結果、それぞれ1.0ppm、0.5ppm、0.1ppm未満であった。
同様の試験をホルムアルデヒドで行った結果、初期濃度15ppmに対して、1時間後、2時間後、24時間後の濃度がそれぞれ3.2ppm、2.7ppm、0.8ppmであった。
【0029】
〔比較例1〕
電荷移動型触媒60mgを、水中に分散させ、縦10cm、横12cmの布地表面に添着し、乾燥させた。
【0030】
これを5リットルの容器中に設置して、40ppmになるようにアンモニアを充満させ、完全暗室内に設置する。1時間後、2時間後、24時間後のアンモニア濃度を分析した結果、それぞれ10ppm、1.05ppm、0.1ppm未満であった。
同様の試験をホルムアルデヒドで行った結果、初期濃度15ppmに対して、1時間後、2時間後、24時間後の濃度がそれぞれ7.4ppm、3.6ppm、1.7ppmであった。
【0031】
〔比較例2〕
光触媒60mgを、水中に分散させ、縦10cm、横12cmの布地表面に添着し、乾燥させた。
【0032】
これを5リットルの容器中に設置して、40ppmになるようにアンモニアを充満させ、完全暗室内に設置する。1時間後、2時間後、24時間後のアンモニア濃度を分析した結果、それぞれ40ppm、40ppm、40ppm未満であった。
同様の試験をホルムアルデヒドで行った結果、初期濃度15ppmに対して、1時間後、2時間後、24時間後の濃度がそれぞれ15ppm、15ppm、15ppmであった。

〔実施例2〕
比表面積1000m2/gの活性炭2gをめのう乳鉢で粉砕し、電荷移動型触媒1gと乳鉢で混合し、バインダーとして微量のメラミン樹脂(スミテックスレジンM3)を混合し、造粒機を用いて用いて、ペレット状に成形し、150℃で熱処理した。
【0033】
これを250リットルの容器中に設置して、40ppmになるようにアンモニアを充満させ、完全暗室内に設置する。1時間後、2時間後、24時間後のアンモニア濃度を分析した結果、それぞれ7.0ppm、3.5ppm、1.0ppmであった。
同様の試験をホルムアルデヒドで行った結果、初期濃度15ppmに対して、1時間後、2時間後、24時間後の濃度がそれぞれ5.1ppm、3.9ppm、2.0ppmであった。

〔実施例3〕
比表面積1000m2/gの活性炭2gをめのう乳鉢で粉砕し、バインダーとしての微量のメラミン樹脂(スミテックスレジンM3)と混合し、造粒機を用いて、ペレット状に成形し、150℃で熱処理した。これに電荷移動型触媒1gを水に分散させたものに含浸させて、活性炭成形物に電荷移動型触媒を添着した。
【0034】
これを250リットルの容器中に設置して、40ppmになるようにアンモニアを充満させ、完全暗室内に設置する。1時間後、2時間後、24時間後のアンモニア濃度を分析した結果、それぞれ9.0ppm、5.0ppm、2.0ppmであった。
同様の試験をホルムアルデヒドで行った結果、初期濃度15ppmに対して、1時間後、2時間後、24時間後の濃度がそれぞれ6.3ppm、4.5ppm、2.9ppmであった。

〔比較例3〕
電荷移動型触媒1gを、バインダーとして微量のメラミン樹脂(スミテックスレジンM3)と混合し、造粒機を用いて、ペレット状に成形し、150℃で熱処理した。
【0035】
これを250リットルの容器中に設置して、40ppmになるようにアンモニアを充満させ、完全暗室内に設置する。1時間後、2時間後、24時間後のアンモニア濃度を分析した結果、それぞれ22.0ppm、10.3ppm、2.3ppmであった。
同様の試験をホルムアルデヒドで行った結果、初期濃度15ppmに対して、1時間後、2時間後、24時間後の濃度がそれぞれ7.6ppm、5.8ppm、3.0ppmであった。

〔比較例4〕
光触媒1gを、バインダーとして微量のメラミン樹脂(スミテックスレジンM3)と混合し、造粒機を用いて用いて、ペレット状に成形し、150℃で熱処理した。
【0036】
これを250リットルの容器中に設置して、40ppmになるようにアンモニアを充満させ、完全暗室内に設置する。1時間後、2時間後、24時間後のアンモニア濃度を分析した結果、それぞれ40ppm、40ppm、40ppm未満であった。
同様の試験をホルムアルデヒドで行った結果、初期濃度15ppmに対して、1時間後、2時間後、24時間後の濃度がそれぞれ15ppm、15ppm、15ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の複合触媒の用途としては、消臭、抗菌、防汚、揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド、トルエン等)分解等の機能を付与するために、各種電気機器、塗料、繊維製品、自動車関連製品、各種建築材料等の構成成分として添加される添加剤等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷移動型触媒と多孔質からなる触媒とを含むことを特徴とする複合触媒。
【請求項2】
多孔質が、炭素系多孔質体またはセラミックス系多孔質体からなることを特徴とする請求項1記載の複合触媒。
【請求項3】
多孔質が、活性炭,活性炭素繊維、 ゼオライト,シリカ,アルミナ,ジルコニア、ニッケル,シリコン、ポリエチレン,ポリプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1または2記載の複合触媒。
【請求項4】
電荷移動型触媒の配合比が、1〜50重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の複合触媒。


【公開番号】特開2006−68633(P2006−68633A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254790(P2004−254790)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】