説明

複合逆浸透膜の製造方法

【課題】 本発明の目的は、工業的に安定に且つ連続的に複合逆浸透膜を製造する方法を提供することにある。
【解決手段】 ポリアミド系スキン層と、これを支持する多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜の製造方法において、
多孔性支持体を移動させながら、該多孔性支持体上に2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物を含む水溶液aを塗布して水溶液被覆層を形成する工程A、
前記水溶液被覆層を0.2〜15秒間多孔性支持体上に保持して、多孔性支持体の微孔内に前記水溶液aを浸透させる工程B、
多孔性支持体の微孔内に前記水溶液aを保持させながら、前記水溶液被覆層を除去する工程C、及び
工程C後、多孔性支持体表面に多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶液bを塗布し、該有機溶液bと前記水溶液aとを接触させて界面重合させることによりポリアミド系スキン層を形成する工程Dを含み、かつ
連続的に複合逆浸透膜を作製することを特徴とする複合逆浸透膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性支持体表面にポリアミド系スキン層が形成された複合逆浸透の製造方法に関する。詳しくは、海水やかん水の脱塩、超純水の製造、医薬品や食品工業における有価物の濃縮、染色排水や雷着塗料排水等の工業排水の処理などに用いられる水透過性能及び塩阻止性能に優れた複合逆浸透膜を効率よく連続して製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合逆浸透膜は、超純水の製造、かん水または海水の脱塩などに広く用いられている。また、染色排水や電着塗料排水などの公害発生原因である汚れなどから、その中に含まれる汚染源あるいは有効物質を除去・回収し、排水のクローズ化にも貢献している。さらに、食品用途などで有効成分の濃縮などにも用いられている。
【0003】
従来、工業的に利用されている逆浸透膜としては、非対称型酢酸セルロース膜(特許文献1、2)や非対称型ポリアミド膜(特許文献3)がある。これらの膜は当時においては優れた性能を有していたが、より低圧力で高透水量及び高阻止性能を得るには十分な性能を有していなかった。また、酢酸セルロース膜は、微生物や加水分解による膜劣化を生じやすいという欠点を有していた。これらの欠点を解消すべく、非対称膜とは構造の異なる逆浸透膜として、多孔性支持体上に実質的に選択分離機能を有する薄膜を形成してなる複合逆浸透膜が開発された。現在、かかる複合逆浸透膜としては、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との界面重合によって得られるポリアミドからなる薄膜を多孔性支持体上に形成したものが提案されている(特許文献4〜6)。この複合逆浸透膜の一般的な製造方法としては、浸漬被覆法が挙げられる(特許文献7)。即ち、まず不織布または織布で補強された多孔性支持体を連続的に走行させ、多官能芳香族アミンを含む水溶液槽に搬送・浸漬し、多孔性支持体の両面に該水溶液を被覆させる。次いで過剰に被覆された水溶液をゴムローラー等で除去する。その後、多孔性支持体を多官能芳香族酸ハロゲン化物を含む前記水溶液とは混和しない有機溶液槽に搬送・浸漬し、多孔性支持体表面で界面重合させることによりポリアミド薄膜を形成する。そして、形成した積層体を乾燥し、さらに未反応のアミンや酸を洗浄除去して再乾燥して複合逆浸透膜を製造する方法である。浸漬被覆法によれば、比較的簡便な装置と操作により高性能の複合逆浸透膜が製造できる。しかしその反面、以下のような欠点がある。
【0004】
1)水溶液被覆層の厚み、即ち水溶液の塗布厚の制御が困難である。塗布厚は、塗布速度、及び水溶液の粘度や密度や表面張力などの物性に依存する。そのため、浸漬被覆法では過剰塗布を防ぐ必要があり、通常3〜6m/分程度の比較的低速度でしか複合逆浸透膜を製造することができない。
【0005】
2)有機溶液中の酸ハロゲン化物の濃度を一定に保つことが困難であり、連続して長時間複合逆浸透膜を製造することが極めて困難である。即ち、アミン水溶液で被覆された多孔性支持体が、有機溶液槽に搬送・浸漬されることによりアミン水溶液が有機溶剤槽に混入し、酸ハロゲン化物の失活や有効濃度の低下を引き起こす。そのため、有機溶剤槽の溶液を定期的に新しい溶液に交換する必要があり、大量の廃棄溶剤を排出することになる。
【0006】
3)多孔性支持体の両面が被覆されるため、裏面にもポリアミド薄膜が形成され易い。多孔性支持体の裏面にポリアミド薄膜が形成された場合には、複合逆浸透膜をスパイラル型エレメントに組み立てた際に、膜リーフ接着部の接着不良が発生する可能性が高く、大量に不良製品が生じる危険性がある。
【0007】
4)多孔性支持体がアミン水溶液槽内に浸漬されている間に表面層だけでなく多孔質層全体にアミン水溶液が浸透するため、ポリアミド薄膜が形成された後も多孔性支持体中に過剰のアミンが残存する。そのため、クエン酸、炭酸ソーダ、又は次亜塩素酸ナトリウムなどの薬品による洗浄、あるいは熱水やアルコール抽出などの洗浄が必須となり、製造コストのアップにつながる。さらに、洗浄工程で排出される廃液は環境への影響負荷を増大させることになる。
【0008】
以上のような浸漬被覆法の問題点を解消するための製造方法が提案されている。アミン水溶液の塗布方法及び過剰に塗布された水溶液の除去方法に関しては、例えば、被覆した後にゴムローラーで過剰の溶液を除去する方法(特許文献8)、ニップローラーで除去する方法(特許文献9)、裏面の過剰水溶液を拭き取った後、支持体表面を2本のエアーナイフで乾燥させる方法(特許文献10)などが開示されているが、いずれの方法も本質的には浸漬被覆法であるため支持体全体にアミン水溶液が浸透し、浸漬被覆法の欠点の解消には至っていない。また、浸漬被覆法に代わる塗布手段として、フィルムフロー法と呼ばれる塗布方法が提案されている。つまり、ポリエステルフィルムのような可とう性シートにより支持体表面のみにアミン水溶液を100g/m塗布した後、支持体を垂直にして過剰水溶液を自然流下により除去する方法である(特許文献11、12)。この方法では支持体の走行速度に依存することなく均一にアミン水溶液を塗布できるが、塗布後、酸クロライド溶液槽に浸潰させるまでの時間が2分程度であることから、アミン水溶液が支持体表面から裏面に浸透し、浸漬被覆法と同様に支持体の裏面にもポリアミド薄膜が形成されやすくなる。一方、酸ハロゲン化物有機溶液の塗布方法に関しても、アミン水溶液同様、浸漬被覆法に変わりうる有効な塗布手段が見出されていなかった。
【0009】
その後、浸漬被覆法の課題を解決しうる複合逆浸透膜の製造方法が提案された(特許文献13)。その製造方法はタンデム被覆法と呼ばれ、支持体上に数μm〜10μmの薄層塗布が可能なアプリケータを縦列(=タンデム)に配置し、アミン溶液をオフセットグラビアまたはスロットダイアプリケータにより塗布してアミン溶液薄膜層を形成し、次いでその層を保持したまま又は乾燥させることなく該アミン溶液薄膜層上に酸ハロゲン化物有機溶液薄膜をスロットダイアプリケータにより形成する方法(所謂、ウェット・オン・ウェットコーティング)である。特許文献13には、タンデム被覆法は界面重合反応によるポリアミド薄膜形成に必要な化学量論に近い量の多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物を支持体の表面にのみ塗布することができるので、浸漬被覆法の問題を解消できるだけでなく、ポリアミド薄膜の厚みを厳密に制御して高性能の複合逆浸透膜が効率的に製造できることが記載されている。しかし、この方法は薄層ウェット・オン・ウェットコーティングであるため、高精度な装置、即ち、基材走行速度、塗布液の供給流量、及び基材張力などを厳密に制御できる装置が必要となり、製造装置の導入コストが極めて高くなる欠点を有している。さらに、基材である多孔性支持体の厚み精度も要求される。多孔性支持体としては、不織布や織布などの基布上に湿式製膜法により製膜された幅約1mのポリスルホン多孔性膜が好適に用いられているが、その幅方向の厚み精度は、基布とポリスルホン層の厚み精度にもよるが、概ね150±5μmである。そのため装置の精度が十分であったとしても数μm〜10μmの薄層を均一塗布することは極めて困難であり、逆浸透膜性能に致命的な影響を及ぼす塗布ムラや塗布切れが発生する恐れがある。従って、工業的規模での複合逆浸透膜の製造にタンデム被覆法を適用することは実質的に困難である。
【0010】
以上のように、浸漬被覆法の問題点を解決でき、しかも複合逆浸透膜を効率よく連続して製造する方法は未だ見出されていない。
【0011】
【特許文献1】米国特許第3133132号明細書
【特許文献2】米国特許第3133137号明細書
【特許文献3】米国特許第3567632号明細書
【特許文献4】米国特許第4277344号明細書
【特許文献5】米国特許第5254261号明細書
【特許文献6】米国特許第3023300号明細書
【特許文献7】特許第2727087号明細書
【特許文献8】特表平8−509162号公報
【特許文献9】特許第2947291号明細書
【特許文献10】特許第2510530号明細書
【特許文献11】特開2002−136849号公報
【特許文献12】米国特許第6132804号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、工業的に安定に且つ連続的に複合逆浸透膜を製造する方法を提供することにある。詳細には以下の通りである。
【0013】
1)アミン水溶液及び酸ハロゲン化物有機溶液の定量塗布手段により製造速度に依存することなく必要量を塗布でき、それにより低コスト、高歩留まりでしかも健康や環境にも配慮した高性能複合逆浸透膜の製造方法を提供する。
2)浸漬被覆法のようなアミン汚染や失活による酸ハロゲン化物の濃度変化がなく、さ らに多孔性支持体裏面に薄膜が形成されることがなく、安定した品質の複合逆浸透膜の製造方法を提供する。
3)未反応残存アミンが少なく、高性能の複合逆浸透の製造方法を提供する。
4)従来の浸漬被覆法よりも製造速度が大きく且つ高性能の複合逆浸透膜の製造方法を 提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ポリアミド系スキン層と、これを支持する多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜の製造方法において、
多孔性支持体を移動させながら、該多孔性支持体上に2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物を含む水溶液aを塗布して水溶液被覆層を形成する工程A、
前記水溶液被覆層を0.2〜15秒間多孔性支持体上に保持して、多孔性支持体の微孔内に前記水溶液aを浸透させる工程B、
多孔性支持体の微孔内に前記水溶液aを保持させながら、前記水溶液被覆層を除去する工程C、及び
工程C後、多孔性支持体表面に多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶液bを塗布し、該有機溶液bと前記水溶液aとを接触させて界面重合させることによりポリアミド系スキン層を形成する工程Dを含み、かつ
連続的に複合逆浸透膜を作製することを特徴とする複合逆浸透膜の製造方法、に関する。
【0015】
即ち、本発明の製造方法は、水溶液aを多孔性支持体上に塗布して水溶液被覆層を形成した後で、有機溶液bを塗布する前に該水溶液被覆層を実質的に完全に除去する工程が含まれている点において、前記特許文献12に開示されているタンデム被覆法(ウェット・オン・ウェットコーティング)と明らかに異なる。塗布技術に関する専門書(コーティング、加工技術研究会、P.405(2002))によれば、ウェット・オン・ウェットコーティングとは、基材(支持体)全体を被覆する第1の塗布液膜層の上にその層を崩すことなく、さらに別の液膜層を塗布する塗布方法と記載されている。具体的には、図1に示すように、多孔性支持体1上に水溶液被覆層2を形成し、さらに水溶液被覆層2を残したままその上に有機溶液被覆層3を形成して界面重合させる方法である。
【0016】
一方、本発明の製造方法は、図2に示す通り、多孔性支持体1上に水溶液aを塗布してなる水溶液被覆層2を除去装置4でワイピング等することによって実質的に完全に除去する。しかし、多孔性支持体1の表面微孔内に水溶液aが含浸状態で保持されており、多孔性支持体1の表面全体を被覆する水溶液被覆層2はほとんど存在しないので、ウェット・オン・ウェットコーティングではなく実質的には有機溶液被覆層3の一層のみである。また、本発明の製造方法では、水溶液a及び有機溶液bの塗布厚は、多孔性支持体の厚み精度や表面粗さを考慮して均一な塗布厚にすることができ、特許文献12において開示している数μm〜10μmの薄層形成とは異なり、一般的な機械的精度の装置でも安定して高性能の複合逆浸透膜を製造することができる。
【0017】
本発明の製造方法においては、塗布直後における有機溶液bの塗膜表面温度が10〜50℃であることが好ましい。
【0018】
前記工程Aにおいては、マイクログラビアコーター又はスロットダイコーターを用いて水溶液aを塗布することが好ましい。そして、該スロットダイコーターは温度調節機構を備えていることが好ましい。
【0019】
前記工程Cにおいては、ゴムブレードワイパー又はエアーナイフを用いて水溶液被覆層をワイピング除去することが好ましい。
【0020】
前記工程Dにおいては、スロットダイコーターを用いて有機溶液bを塗布することが好ましい。そして、該スロットダイコーターは温度調節機構を備えていることが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法においては、水溶液被覆層の厚さが10〜50μmであることが好ましい。また、有機溶液bの塗布厚さ(塗膜厚さ)が10〜70μmであることが好ましい。
【0022】
また本発明は、前記製造方法によって得られる複合逆浸透膜、に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の複合逆浸透膜の製造方法によれば、従来の浸漬被覆法に比べてアミン水溶液及び多官能酸クロライド有機溶液の使用量を大幅に低減できる。また、複合逆浸透膜中の未反応物を低減することができるので、後の洗浄操作が簡略化できる。また、浸漬被覆法のように有機溶液中の多官能酸クロライド濃度の経時的変動や塗布厚の速度依存性がないので、高性能の複合逆浸透膜を安定的且つ高速で製造することが可能である。さらに、本発明の製造方法により得られた複合逆浸透膜をスパイラル型エレメントに組み込めば、接着部の信頼性が高いため、極めて高性能のスパイラル型エレメントを製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の製造方法を図面を参照しながら詳細に説明する。図3は、本発明の複合逆浸透膜の製造方法の具体例を示す概略工程図である。多孔性支持体がガイドロール7を経てバッキングロール8に支持されて走行する間に、塗布装置5(スロットダイコーターなど)により水溶液aが該多孔性支持体表面全体に塗布されて水溶液被覆層が形成される。そして、多孔性支持体とともに水溶液被覆層がバッキングロール8上を走行する間に多孔性支持体の微孔内に水溶液aを浸透させる。その後、除去装置4(エアーナイフやブレードワイパーなど)により水溶液被覆層が実質的に完全に除去(ワイピング除去)され、その直後に塗布装置6(スロットダイコーターなど)により有機溶液bが多孔性支持体表面全体に塗布されて有機溶液被覆層(塗膜)が形成される。そして、有機溶液被覆層中の多官能酸ハロゲン化物と、多孔性支持体の微孔内に含浸状態で存在する多官能アミン及び多孔性支持体表面に吸着している多官能アミンとを界面重合させるなどして多孔性支持体上にポリアミド系スキン層を形成する。該製造方法によると、高性能の複合逆浸透膜を工業的に安定に且つ連続的に製造することができる。なお必要により、多孔性支持体とポリアミド系スキン層とからなる積層体を乾燥炉に搬送し、乾燥させることにより複合逆浸透膜を製造してもよい。加熱乾燥することにより、より緻密なスキン層が形成される。その結果、複合逆浸透膜の塩阻止性が向上したり、保存時の性能が安定する。
【0025】
図4は、塗布装置5及び6に個別にバッキングロール8を設置し、水溶液aの塗布から水溶液被覆層の除去、及び有機溶液bの塗布までの時間を一定に保つために多孔性支持体の走行速度に応じてバッキングロール8間の距離を可変とした例である。
【0026】
図5は、塗布装置5としてマイクログラビアコーターを用いた例である。
【0027】
本発明に用いられる多孔性支持体は、ポリアミド系スキン層を支持しうるものであれば特に制限されないが、不織布あるいは織布により補強された非対称構造あるいは均一構造で、分画分子量が2万〜10万ダルトンの限外ろ過膜が好適に用いられる。多孔性支持体の形成材料としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアクリロニトリル、エチレン・ビニルアルコール共重合体、セルロースアセテートなどが挙げられるが、機械的強度、耐薬品性及び耐熱性に優れるポリスルホン又はポリエーテルスルホンが好適に用いられる。
【0028】
上記多孔性支持体は、通常湿式製膜と言われる非溶媒相分離法により製造される場合が多く、例えば、特開2000−4238に開示されているような方法で工業的に製造することができる。
【0029】
本発明に用いられる水溶液aに含まれる2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物は、
多官能アミンであれば特に限定されず、芳香族、脂肪族、または脂環式の多官能アミンが挙げられる。前記多官能アミンは単独で用いてもよく、混合物としてもよい。
【0030】
芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノアニソール、アミドール、及びキシリレンジアミンなどが挙げられる。
【0031】
脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びトリス(2−アミノエチル)アミンなどが挙げられる。
【0032】
脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3−ジアミノシクロへキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、4−アミノメチルピペラジン等が挙げられる。
【0033】
上記多官能アミンのうち、特に芳香族多官能アミンであるm−フェニレンジアミンが好適に用いられる。
【0034】
水溶液a中の多官能アミンの濃度は、通常0.1〜10重量%程度であり、好ましくは0.5〜5重量%、さらに好ましくは2〜4重量%である。
【0035】
前記多官能アミンを含有する水溶液aには、多孔性支持体への塗布を容易にし、あるいは得られる複合逆浸透膜の性能を向上させるために、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの重合体や、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコールを少量含有させても良い。
【0036】
また、特開平2−187135号に記載のテトラアルキルアンモニウムハライドやトリアルキルアンモニウムと有機酸とによる塩なども、製膜を容易にするため、水溶液aの多孔性支持体への吸収性をよくするため、縮合反応を促進するため等の点で好適に用いられる。
【0037】
また、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム)などの界面活性剤を水溶液aに含有させることもできる。これらの界面活性剤は、水溶液aの多孔性支持体への濡れ性を改善するのに効果がある。適正濃度は、臨界ミセル濃度以上であればよく、通常0.1〜0.3重量%程度であり、好ましくは0.15〜0.2重量%である。
【0038】
さらに、界面での縮重合反応を促進させるために、界面反応にて生成するハロゲン化水素を除去し得る水酸化ナトリウムやリン酸三ナトリウムを用い、あるいは触媒として、アシル化触媒などを水溶液aに含有させることも有益である。
【0039】
また、透過流束を高めるために、特開平8−224452号記載の溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm1/2の化合物を水溶液aに添加することもできる。特に、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなどが好適に用いられる。
【0040】
水溶液aの粘度は前述のように塗布し易いように調整しうるが、1〜20mPa・sが好ましく、さらに好ましくは1〜5mPa・sである。
【0041】
水溶液aの塗布手段は、多孔性支持体の表面側のみに定量塗布できる手段であれば特に限定されず、例えば、リバースロールコーター、リバースオフセットグラビアコーター、マイクログラビアコーター、キスコーター、ロッドコーター、カーテンスプレーコーター、ファウンテンダイコーター、スロットダイコーター、特公昭61−48995号公報及び特公昭61−48996号公報に開示されている可とう性吸液性シートによる塗布方式などが挙げられるが、定量性及び操作性よりスロットダイコーター又はマイクログラビアコーターが好適に用いられる。また、これらは温度調節機構を備えていることが好ましい。
【0042】
一般的にダイコーターは、定量塗布性が高く、塗布厚の調整が容易であることは言うまでもないが、スロットダイコーターは前計量型のダイコーターであるため、ギャップハイトと呼ばれる支持体表面とダイリップとのクリアランスを広く設定しても塗布ムラや液切れを生じにくいという特徴を有している。通常、ギャップハイトは塗布厚の3〜5倍まで拡げることができる。これに対し、ファウンテンダイコーターのような後計量型のダイコーターは、均一塗布するにはギャップハイトを塗布厚の1〜2倍の範囲に設定する必要がある。従って、スロットダイコーターは異物や支持体の噛み込みなどのトラブルが少なく、特に好適に用いられる。
【0043】
また、マイクログラビアコーターは、直径20〜50mmのグラビアロールを組み込んだリバースキスコーターの一種であり、従来のグラビアロールに比べてロール径が小さいため、塗布液の蒸発による溶液組成変動が小さく、またロール交換作業も容易であることから好適に用いられる。
【0044】
水溶液aの塗布厚は、塗布後に所定時間保持して形成された水溶液被覆層を実質的に完全に除去するため特に限定されないが、多孔性支持体表面に塗布ムラなく均一に安定して塗布するために、10〜50μmであることが好ましく、さらに好ましくは20〜40μmである。塗布厚が10μm未満の場合、先に述べたように多孔性支持体の厚み精度や表面凹凸により塗布ムラや液切れが発生する恐れがあるため好ましくない。また、均一塗布されていても、10μm未満の水溶液被覆層では液膜の浸透ムラや多孔性支持体表面の凹凸により塗布後短時間で「はじき現象」が起こる場合があるため好ましくない。一方、塗布厚が50μmを超える場合には、多官能アミンの濃度にもよるが、ポリアミド系スキン層の形成に必要なアミン量に対して大過剰となり、その後の除去工程で大量の廃液が出るため好ましくない。
【0045】
本発明の製造方法では、多孔性支持体表面に水溶液aを塗布して水溶液被覆層を形成した後、所定時間水溶液被覆層を保持して多孔性支持体表面に水溶液aを浸透・拡散及び吸着させる。その後、余剰の水溶液被覆層を除去するが、水溶液被覆層の保持時間、即ち、水溶液aを塗布してから水溶液被覆層を除去するまでの時間は、0.2〜15秒間であり極めて短時間でよい。水溶液aの組成、粘度及び多孔性支持体の表面層の孔径にもよるが、好ましくは0.2〜5秒間、さらに好ましくは0.2〜3秒間である。保持時間が0.2秒間未満の場合には、水溶液aが多孔性支持体表面の微孔内に均一に浸透・拡散しない恐れがあるので好ましくない。一方、保持時間が15秒間を超える場合には、水溶液aが多孔性支持体内部まで浸透・拡散し、未反応のアミンが大量に残存する恐れがあるので好ましくない。
【0046】
従来の浸漬被覆法では、支持体とアミン水溶液との接触時間は、通常10秒〜数分間必要であり、しかも、界面重合反応によりポリアミド薄膜を形成するためには多孔性支持体表面全体を被覆する水溶液被覆層が必要であると考えられていたが、本発明の製造方法によれば,極めて短時間の接触で、且つ水溶液被覆層を実質的に完全に除去しても高性能の複合逆浸透膜が得られる。その理由としては、水溶液aが多孔性支持体の表面に存在する微孔内に毛細管現象により瞬時に浸透すると同時に多孔性支持体表面に多官能アミンが吸着されるためと考えられる。また、多孔性支持体表面に水溶液被覆層が実質的に存在しなくてもポリアミド系スキン層が形成されるのは、多孔性支持体表面に含浸状態で存在する水溶液a中の多官能アミンが微孔を介して有機溶液b中の多官能酸ハロゲン化物と反応していると考えられる。また、特許第2727087号明細書や特開平7−313852号公報に開示されているように、多孔性支持体表面に吸着した多官能アミンも反応していると考えられる。
【0047】
本発明の製造方法では、多孔性支持体と水溶液被覆層とを0.2〜15秒間接触させた後、水溶液被覆層の除去を行うが、除去工程はできる限り有機溶液bを塗布する直前に行うことが好ましい。
【0048】
水溶液被覆層の除去手段は、水溶液被覆層を多孔性支持体上から実質的に完全に除去できる手段であれば特に制限されないが、例えば、ゴムブレードワイパー、エアーナイフ、吸着スポンジロール、ポリエチレン製やポリエステル製などのプラスチックプレートワイパー、真空吸液ロール、及びウレタンゴム製などのスキージが挙げられる。特に、ゴムブレードワイパー又はエアーナイフにより除去することが好ましい。
【0049】
ゴムブレードワイパーの材質としては、例えば、ニトリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、及びウレタンゴムなどが挙げられるが、耐摩耗性と耐薬品性の面でニトリルゴム又はフッ素ゴムが好適に用いられる。
【0050】
エアーナイフを使用する場合、水溶液被覆層を多孔性支持体表面から実質的に完全に除去するためには、多孔性支持体がロールで支持された部分にエアーナイフを近接させて、30〜150m/秒の速度で空気を吹き付ける必要がある。エアーナイフと多孔性支持体表面との距離は、1〜5mmが好ましく、さらに好ましくは1〜2mmである。空気の代わりに窒素ガスのような不活性ガスを吹き付けてもよい。
【0051】
本発明において、「水溶液被覆層を実質的に完全に除去する」とは、水溶液被覆層を除去した多孔性支持体表面を指で触って湿り気を感じる程度であり、ティッシュペーパーのような吸液紙で多孔性支持体表面を軽く拭いても吸液紙が濡れない状態まで水溶液被覆層を除去することを意味する。
【0052】
上記除去工程Cの直後に、多孔性支持体表面に多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶液bを塗布する。そして、該有機溶液bと、多孔性支持体表面の微孔内に含浸状態で存在する水溶液a及び多孔性支持体表面に吸着している水溶液aとを接触させて界面重合させることによりポリアミド系スキン層を形成する。
【0053】
本発明に用いられる有機溶液bに含まれる多官能酸ハロゲン化物は、特に限定されず、芳香族、脂肪族、または脂環式の多官能酸ハロゲン化物が挙げられる。前記多官能酸ハロゲン化物は単独で用いてもよく、混合物としてもよい。
【0054】
芳香族多官能酸ハロゲン化物としては、例えばトリメシン酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、ビフェニルジカルボン酸クロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸クロライド、ベンゼンジスルホン酸クロライド、及びクロロスルホニルベンゼンジカルボン酸クロライドなどがあげられる。
【0055】
脂肪族多官能酸ハロゲン化物としては、例えば、プロパントリカルボン酸クロライド、ブタントリカルボン酸クロライド、ペンタントリカルボン酸クロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライドなどがあげられる。
【0056】
脂環式多官能酸ハロゲン化物としては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸クロライド、シクロブタンテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタントリカルボン酸クロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸クロライド、シクロヘキサントリカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタンジカルボン酸クロライド、シクロブタンジカルボン酸クロライド、シクロヘキサンジカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸クロライドなどがあげられる。
【0057】
上記のうち、特にトリメシン酸クロライドが好適に用いられる。
【0058】
有機溶液b中の多官能酸ハロゲン化物の含有量は特に制限されないが、0.01〜5重量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.5重量%である。
【0059】
さらに、界面での縮重合反応を促進させるために、界面反応にて生成するハロゲン化水素を除去し得る水酸化ナトリウムやリン酸三ナトリウムを用い、あるいは触媒として、アシル化触媒などを有機溶液bに含有させることも有益である。
【0060】
有機溶液bの有機溶媒としては、水と非混和性のへキサンやヘプタンなどの炭化水素系溶媒が好ましい。しかし、必ずしも単成分である必要はなく、市販の混合有機溶媒としては、例えば、イソパラフィン系のIPソルベント(出光石油(株)社製)が挙げられ、これは安価に入手できるため好ましい。
【0061】
有機溶液bの塗布手段は特に制限されないが、スロットダイコーターが最も好ましい塗布手段である。なぜなら、有機溶液bを塗布した瞬間から界面重合反応が始まるため、わずかな液膜の乱れもポリアミド系スキン層の欠陥につながり、できる限り液膜にせん断力をかけないような塗布手段が必要だからである。
【0062】
ファウンテンダイコーターのような後計量型のダイコーターでは、先述の通りギャップハイトを塗布厚に近い位置にしなければならないため不向きである。また、せん断力のかかりにくい塗布手段としては、スライドコーターやカーテンコーターなどが挙げられるが、有機溶液bの粘度は通常0.7〜2mPa・s程度で極めて低いため、塗膜切れを起こし適用できない。また、他の塗布手段としてはカーテンスプレーコーターがあるが、有機溶媒に対しては安全上の問題が有り適用し難い。
【0063】
有機溶液bの塗布厚(塗膜厚)は、多官能性酸ハロゲン化物の濃度、有機溶液bの粘度や表面張力などの物性、及び多孔性支持体の走行速度にもよるが、10〜70μmであることが好ましく、さらに好ましくは30〜50μmである。塗布厚が10μm未満の場合には、先に述べた通り多孔性支持体の表面粗さや厚み精度に起因した塗布ムラや塗膜切れが発生する恐れがある。一方、塗布厚が70μmを超える場合には、液だれが生じる恐れがある。
【0064】
なお、前記水溶液a及び有機溶液bの温度、特に有機溶液bの塗布直後の温度は、界面重合の反応速度や、形成されるポリアミド系スキン層の形状及び架橋密度に影響を与えるため、安定した性能の複合逆浸透膜を製造する上で重要な制御因子である。特に本発明の製造方法は、スキン層の形成に必要な量だけ定量塗布して界面重合させるため、従来の浸漬被覆法に比べて水溶液a及び有機溶液bの温度の影響を受けやすい。塗布時における前記水溶液a及び有機溶液bの液温は、多孔性支持体の温度や室温の程度によって適宜調整する必要があるが、10〜50℃であることが好ましく、より好ましくは20〜50℃である。
【0065】
本発明において、多孔性支持体上に有機溶液bを塗布した直後の塗膜表面温度は、水溶液a及び有機溶液bに使用する原料の種類や組成によって変わるが、10〜50℃であることが好ましく、より好ましくは20〜45℃、特に好ましくは20〜40℃である。
【0066】
上記温度範囲に保持しながら水溶液a及び有機溶液bを塗布する方法としては、予めジャケット付供給タンクで温度調節して塗布装置に供給する方法、及び供給配管の途中に熱交換器を配置する方法などが挙げられるが、特に温度調節機構を備えたスロットダイコーターを用いることが好ましい。ダイの材質は通常ステンレスなどの金属であり、熱伝導がよくかつ熱容量が大きいため比較的短時間で熱交換を行うことができ、また精度よく温度調節することができる。さらに、加温する場合には、塗布直前で加熱するため多官能酸ハロゲン化物の失活を最小限に抑制することができる。
【0067】
このような温度調節機構付きスロットダイコーターとしては、例えば、図6に示すようなダイの上下に水などの熱交換溶媒を流す流路を設けたスロットダイコーターが好適に用いられる。
【0068】
多孔性支持体の走行速度は、塗布方式、塗布条件及び溶液の物性によるため厳密に限定することはできないが、10〜50m/分であることが好ましく、さらに好ましくは10〜30m/分である。10m/分未満の場合には、スロットダイコーターで有機溶液bを塗布する際に液ダレが生じる恐れがある。一方、50m/分を越える場合には、気泡の同伴により塗布欠陥が発生する恐れがある。
【0069】
スロットダイコーターによる有機溶液bの塗布は、市販の流体解析ソフト(例えば、米国フローサイエンス社製、FLOW−3D)によるダイ先端部のメニスカス形状のシミュレーションや、塗布技術の専門書(Franz Durst and Hans−Gunter Wagner,Slot Coating 11a,Liquid Film Coating,P401−426(1997))に開示されている解析式から比較的容易に安定塗布速度を予測できる。
【0070】
以上のように、スロットダイコーターにより有機溶液bを多孔性支持体上に塗布し、該有機溶液bと、多孔性支持体表面の微孔内に含浸状態で存在する水溶液a及び多孔性支持体表面に吸着している水溶液aとを接触させて界面重合させることによりポリアミド系スキン層を形成する。その後、必要により、ポリアミド系スキン層を有する多孔性支持体を
乾燥炉に搬送し、乾燥させることにより、さらに繊密なポリアミド系スキン層を有する複合逆浸透膜が得られる。乾燥温度としては、通常20〜150℃、好ましくは70〜130℃である。また、乾燥時間としては、通常20秒〜120秒、好ましくは30秒〜60秒である。さらに必要により、未反応の多官能アミンや酸の洗浄、及び再乾燥を実施してもよい。
【0071】
形成されたポリアミド系スキン層の厚さは、通常0.05〜2μm程度であり、耐久性、高い水透過性及び優れた塩阻止性の観点から0.1〜1μmであることが好ましい。
【実施例】
【0072】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0073】
(多孔性支持体の製造)
ポリスルホン17.5重量部(ソルベイ社製、P3500)をジメチルホルムアミド82.5重量部に加え、80℃で加熱溶解した後、ろ過・脱泡することにより膜形成溶液を得た。多孔性基材として、坪量74g/m、厚み90μmのポリエステル製不織布を用いた。上記膜形成溶液を特開2000−42384号公報に記載の方法によりポリエステル製不織布上に塗布して湿式成膜することにより、厚さ135μmのポリスルホン多孔性支持体を得た。この多孔性支持体の純水透過流速を圧力2kgf/cmの条件で測定したところ、15m/m・日であった。この多孔性支持体のポリエチレングリコール基準の分画分子量は50000ダルトンであった。この多孔性支持体を実施例及び比較例の多孔性支持体として用いた。
【0074】
実施例1
m−フェニレンジアミン3重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン3重量%、力ンファースルホン酸6重量%、イソプロピルアルコール6重量%を含有する水溶液a−1、及びトリメシン酸クロライド0.25重量%を含む有機溶液b−1(有機溶媒:IPソルベント)を調製した。図4に示す装置を用い、多孔性支持体を20m/分の速度で搬送し、該多孔性支持体上に水溶液a−1をスロットダイコーターにより厚さ30μmで塗布して水溶液被覆層を形成した。その後、0.9m搬送した時点、即ち水溶液a−1を塗布して2.7秒後にゴムブレードワイパーにより水溶液被覆層を実質的に完全に除去した。次いでワイパーの直後に設置されたスロットダイコーターに搬送して有機溶液b−1を厚さ50μmで塗布し、界面重合反応をさせながら室温雰囲気下で約2m搬送した。その後、120℃の乾燥炉に搬送して約30秒間乾燥することによって多孔性支持体上にポリアミド系スキン層を形成して複合逆浸透膜を作製した。
【0075】
pH6.5、500ppmの塩化ナトリウム溶液を用い、操作圧力1.5MPaの条件で得られた複合逆浸透膜の性能試験を行ったところ、透過液電導度による塩阻止率は99.82%、透過流束は1.76m/m・日であった。
【0076】
比較例1(浸漬被覆法)
実施例1と同じ水溶液a−1及び有機溶液b−1を用いた。
【0077】
多孔性支持体を水溶液a−1槽に2分間浸漬した後、多孔性支持体表面に付着した水溶液a−1をゴムブレードワイパーにより除去した。次に、有機溶液b−1槽に20秒間浸漬した。その後、室温下に取り出して1分間静置して界面重合反応をさせてポリアミド系スキン層を形成し、さらに120℃の乾燥器中で3分間乾燥させたることにより複合逆浸透膜を作製した。
【0078】
実施例1と同様の方法で得られた複合逆浸透膜の性能試験を行ったところ、透過液電導度による塩阻止率は99.14%、透過流束は1.46m/m・日であった。
【0079】
(評価)
比較例1において、水溶液a−1及び有機溶液b−1の浸漬前後の多孔性支持体の重量と液密度より各溶液の塗布厚を求め、実施例1の各溶液の塗布厚と比較した。
【0080】
また、50vol%エタノール水溶液を用いて実施例1及び比較例1の複合逆浸透膜中に残存する未反応m−フェニレンジアミンを抽出し、測定波長210nmにおける抽出液の吸光度により残存するm−フェニレンジアミンの量を測定した。
【0081】
さらに、実施例1及び比較例1の複合逆浸透膜の不織布面同士をスパイラル型エレメントの製造工程で用いられる接着剤で接着し、接着部が幅10mm×長さ20mmのサンプルを作成し、引張試験機により剥離接着強度を測定した。
【表1】

【0082】
表1から明らかなように、本発明の製造方法によれば、従来の浸漬被覆法に比べてアミン溶液及び有機溶液の塗布厚を共に大幅に低減することができ、また得られた複合逆浸透膜中に残存する未反応のm−フェニレンジアミン(MPD)の量も大幅に低減することができた。さらに本発明の製造方法により得られた複合逆浸透膜は十分な接着強度を示した。これに対し、浸漬被覆法(比較例1)の複合逆浸透膜の接着強度は、膜裏面側のアミン汚染やポリアミド系スキン層形成時の悪影響により、著しく低い値であった。
【0083】
実施例2
図5に示す装置を用い、水溶液a−1の塗布手段をマイクログラビアコーターとした以外は実施例1と同様の方法で複合逆浸透膜を作製した。
【0084】
実施例1と同様の方法で得られた複合逆浸透膜の性能試験を行ったところ、透過液電導度による塩阻止率は99.84%、透過流束は1.64m/m・日であった。
【0085】
実施例3
m−フェニレンジアミン3重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン3重量%、力ンファースルホン酸6重量%、イソプロピルアルコール12重量%を含有する水溶液a−2、及びトリメシン酸クロライド0.25重量%を含む有機溶液b−1(有機溶媒:IPソルベント)を調製した。図3に示す装置を用い、多孔性支持体を20m/分の速度で搬送し、該多孔性支持体上に水溶液a−2をスロットダイコーターにより厚さ40μmで塗布して水溶液被覆層を形成した。その後、0.2m搬送した時点、即ち水溶液a−2を塗布して0.6秒後にエアーナイフ(速度:100m/分)により水溶液被覆層を実質的に完全に除去した。なお、水溶液a−2を塗布する前の支持体重量及びエアーナイフにより水溶液被覆層を除去した後の支持体重量を測定した結果、単位面積あたりの重量は153.9g/m及び154.8g/mであり、実質的に完全に水溶液被覆層が除去されていることを確認した。次いでエアーナイフの直後に設置されたスロットダイコーターに搬送して有機溶液b−1を厚さ50μmで塗布し、界面重合反応をさせながら室温雰囲気下で約2m搬送した。その後、120℃の乾燥炉に搬送して約30秒間乾燥することによって多孔性支持体上にポリアミド系スキン層を形成して複合逆浸透膜を作製した。
【0086】
実施例1と同様の方法で得られた複合逆浸透膜の性能試験を行ったところ、透過液電導度による塩阻止率は99.77%、透過流束は1.72m/m・日であった。
【0087】
実施例4〜7及び比較例2、3
実施例1において、水溶液a−1の塗布厚を40μmとし、また支持体の走行速度、又は水溶液a−1の塗布からワイピングまでの距離を変えることによって水溶液被覆層の保持時間を種々変えた以外は実施例1と同様の方法で複合逆浸透膜を作製した。ただし、比較例2では、ゴムブレードワイパーの代わりにエアーナイフを用いて水溶液被覆層を除去した。
【表2】

【0088】
表2から明らかなように、水溶液被覆層の接触時間が短すぎても長すぎても高性能の複合逆浸透膜は得られなかった。接触時間が短すぎる場合には、多孔性支持体へのアミンの含浸量が不足し、ヒダ状のポリアミド系スキン層の成長が不十分なために透水性能が低くなると考えられる。一方、接触時間が長すぎる場合には、アミン水溶液の浸透及び拡散により酸クロライドと界面重合反応するアミン量が不足し、それによりポリアミド系スキン層の成長が不十分となって塩阻止性能及び透水性能が低くなると考えられる。
【0089】
参考例1
実施例1において、水溶液a−1の塗布厚を5μmとした以外は実施例1と同様の方法で複合逆浸透膜を作製した。しかし、水溶液a−1を塗布して約0.4m走行した時点で塗膜の浸透ムラや濡れムラによると考えられるはじき現象が発生した。
【0090】
実施例1と同様の方法で得られた複合逆浸透膜の性能試験を行ったところ、透過液電導度による塩阻止率は67.3%、透過流束は3.67m/m・日であった。
【0091】
参考例2
実施例1において、トリメシン酸クロライド1重量%を含む有機溶液b−2(有機溶媒:IPソルベント)を塗布厚5μmで塗布した以外は実施例1と同様の方法で複合逆浸透膜を作製した。しかし、支持体の厚みムラや支持体表面の凹凸による有機溶液b−2の塗膜切れが発生し、有機溶液b−2を均一に塗布することができなかった。
【0092】
実施例1と同様の方法で得られた複合逆浸透膜の性能試験を行ったところ、透過液電導度による塩阻止率は8.1%、透過流束は16.6m/m・日であった。
【0093】
実施例8〜10
図6に示す温度調節機構付きスロットダイコーターを用いて水溶液a−1及び有機溶液b−1をそれぞれ温度調節して塗布した以外は実施例1と同様の方法で複合逆浸透膜を作製した。なお、水溶液a−1の塗膜厚は40μm、有機溶液b−1の塗膜厚は50μmとした。また、塗布時の各溶液の液温は、各スロットダイコーターより吐出させた時のスロット先端部の液温を非接触IR表面温度計により測定した。また、有機溶液b−1の塗布直後(塗布後0.5秒)の塗膜表面温度を非接触IR表面温度計により測定した。また、水溶液用及び有機溶液用スロットダイコーターのいずれも同じ温度の熱交換水を通水した。
【0094】
実施例11、12及び比較例4
m−フェニレンジアミン3重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン3重量%、及び力ンファースルホン酸6重量%を含有する水溶液a−3を調製した。水溶液a−1の代わりに水溶液a−3を用い、水溶液及び有機溶液の温度を34℃、45℃、及び60℃に変更したした以外は実施例8と同様の方法で複合逆浸透膜を作製した。
【0095】
実施例8〜12及び比較例4で得られた複合逆浸透膜の性能試験を行った。試験結果を表3に示す。
【表3】

【0096】
表3から、塗布する水溶液や有機溶液の温度の違いにより得られる複合逆浸透膜の性能が大きく変わることがわかる。特に、有機溶液の塗布直後の塗膜表面温度が複合逆浸透膜の性能に大きく関係していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】ウェット・オン・ウェットコーティング法の例を示す概略工程図である。
【図2】本発明の製造方法の例を示す概略工程図である。
【図3】本発明の製造方法の他の例を示す概略工程図である。
【図4】本発明の製造方法の他の例を示す概略工程図である。
【図5】本発明の製造方法の他の例を示す概略工程図である。
【図6】温度調節機構付きスロットダイコーターの概略図である。
【符号の説明】
【0098】
1:多孔性支持体
2:水溶液被覆層
3:有機溶液被覆層
4:除去装置
5、6:塗布装置
7:ガイドロール
8:バッキングロール
9:スロットダイコーター
10:溶液タンク
11:ギアポンプ
12:温度調節機
13:熱交換水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系スキン層と、これを支持する多孔性支持体とからなる複合逆浸透膜の製造方法において、
多孔性支持体を移動させながら、該多孔性支持体上に2つ以上の反応性アミノ基を有する化合物を含む水溶液aを塗布して水溶液被覆層を形成する工程A、
前記水溶液被覆層を0.2〜15秒間多孔性支持体上に保持して、多孔性支持体の微孔内に前記水溶液aを浸透させる工程B、
多孔性支持体の微孔内に前記水溶液aを保持させながら、前記水溶液被覆層を除去する工程C、及び
工程C後、多孔性支持体表面に多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶液bを塗布し、該有機溶液bと前記水溶液aとを接触させて界面重合させることによりポリアミド系スキン層を形成する工程Dを含み、かつ
連続的に複合逆浸透膜を作製することを特徴とする複合逆浸透膜の製造方法。
【請求項2】
塗布直後における有機溶液bの塗膜表面温度が10〜50℃である請求項1記載の複合逆浸透膜の製造方法。
【請求項3】
工程Aにおいて、マイクログラビアコーター又はスロットダイコーターを用いて水溶液aを塗布する請求項1又は2記載の複合逆浸透膜の製造方法。
【請求項4】
工程Cにおいて、ゴムブレードワイパー又はエアーナイフを用いて水溶液被覆層を除去する請求項1〜3のいずれかに記載の複合逆浸透膜の製造方法。
【請求項5】
工程Dにおいて、スロットダイコーターを用いて有機溶液bを塗布する請求項1〜4のいずれかに記載の複合逆浸透膜の製造方法。
【請求項6】
前記スロットダイコーターは、温度調節機構を備えている請求項3〜5のいずれかに記載の複合逆浸透膜の製造方法。
【請求項7】
水溶液被覆層の厚さが10〜50μmである請求項1〜6のいずれかに記載の複合逆浸透膜の製造方法。
【請求項8】
有機溶液bの塗布厚さが10〜70μmである請求項1〜7のいずれかに記載の複合逆浸透膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法によって得られる複合逆浸透膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−130497(P2006−130497A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231065(P2005−231065)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】