説明

複合電解質膜

【課題】電解質膜から脱落する可能性のある界面活性剤等の助剤を使用することなく、寸法安定性の高い疎水性の多孔質基材内に、プロトン解離性モノマーの重合体を充填することにより、膜内の含水状態を調節し、メタノール透過性を抑え高いプロトン伝導性を得ることができる複合電解質膜を提供する。
【解決手段】 含窒素モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材に、プロトン解離性モノマーの重合体を充填して得られる、複合電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池、特に固体高分子型燃料電池及び、直接メタノール供給型燃料電池に代表される、直接液体燃料供給型燃料電池用の複合電解質膜およびそれを用いた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用電解質膜として、スルホン酸基をはじめとする、プロトン解離性基を含む重合体からなる電解質膜が知られている。なかでも、メタノール透過性が抑制され、かつ高いプロトン伝導性を有する電解質膜へのニーズが高い。
プロトン解離性重合体の具体例には、パーフルオロスルホン酸の重合体、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンやポリベンズイミダゾールなどの剛直な骨格にスルホン化により解離性プロトンを有する官能基が導入された重合体、あるいは該剛直な骨格にスルホン酸基を有する側鎖を結合させた重合体、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸等の、C=C二重結合と解離性プロトンを有する官能基を有するモノマーを含む重合体、等が挙げられる。
【0003】
このようなプロトン解離性重合体は、単独で電解質膜として用いられる場合がある。該重合体中のプロトン解離性基量が多いと、高いプロトン伝導性が得られるが、メタノール透過性が増大するとともに、メタノール水溶液中での寸法安定性が低下する、該重合体中のプロトン解離性基量が少ないと、メタノール水溶液中での寸法安定性が向上し、メタノール透過性が抑制されるが、プロトン伝導性が低下する、という問題がある。
【0004】
上記メタノール透過性とプロトン伝導性のトレードオフを解決する目的で、プロトン解離性重合体と、含窒素モノマーに代表される、塩基性基を有する重合体とのブレンド物や、プロトン解離性モノマーと塩基性基を有するモノマーを共重合させた共重合組成物が提案されている。
【0005】
(1)特許文献1には、プロトン解離性重合体、非架橋ポリマーと、アミド結合を有する重合体の混合物からなる高分子電解質が記載されている。本文献においては、プロトン解離性重合体、非架橋ポリマーと、塩基性基の一例であるアミド結合を有するポリマーの3要素の混合物が相溶した電解質が、メタノール透過性抑制と高プロトン伝導性の両立に効果がある旨記載されているに過ぎない。
【0006】
(2)特許文献2には、プロトン解離性重合体溶液と塩基性基を有する重合体溶液とを混合して得られる電解質組成物、該電解質組成物からなる電解質膜、該電解質組成物からなるゲルを多孔質膜で挟んでなる電解質膜が記載されている。本文献においては、プロトン解離性重合体と塩基性基を有する重合体を混合して得られる組成物が、メタノール透過性抑制と高プロトン伝導性の両立に効果がある旨記載されているに過ぎない。
【0007】
(3)特許文献3には、塩基性ポリマーを吸収したプロトン解離性フッ素重合体からなる電解質膜、および塩基性ポリマーを吸収したプロトン解離性フッ素重合体と多孔質支持体を含む電解質膜が記載されている。本文献においては、塩基性ポリマーをプロトン解離性フッ素重合体に吸収させることにより、プロトン伝導性をわずかに犠牲にして、メタノール透過性を抑制できる効果がある旨記載されているに過ぎない。また、特許文献1〜3に開示の電解質膜は、いずれもポリマー同士の混合により得られる、親水性ポリマー組成物からなる電解質膜で、親水性ポリマー組成物溶液、あるいは分散液の疎水性多孔質膜への含浸性が良好でない場合があり、液体燃料により膨潤しにくい疎水性多孔質膜と組み合わせた電解質膜とすることが、難しい場合がある。
【0008】
(4)特許文献4には、プロトン解離性モノマーと塩基性基を有するモノマーとを共重合した重合組成物を含有する電解質膜が記載されている。本文献においては、プロトン解離性モノマーと塩基性官能基を有するモノマーを共重合して得られるポリマーを含有する電解質膜が、メタノール透過性抑制と高プロトン伝導性の両立に効果がある旨記載されているに過ぎない。また、プロトン解離性モノマーと塩基性基を有するモノマーはともに親水性であるため、プロトン解離性モノマーと塩基性基を有するモノマーを疎水性多孔質膜に含浸させ、重合するには界面活性剤等の助剤を使用する必要がある。この助剤は疎水性多孔質膜とも重合組成物とも結合しないので、燃料電池内で使用している際に脱落する可能性が有り、結果として電解質膜本来のメタノール透過性を抑える効果が減少する可能性がある。
【0009】
(5)特許文献5には、疎水性ポリマー、ノニオン親水性ポリマーとプロトン解離性モノマーの重合体のブレンドや、疎水性モノマー、プロトン解離性モノマーとノニオン親水性モノマーとを任意に組み合わせて共重合した組成物、組成物とブレンドの組み合わせ、および多孔質膜基材との組み合わせについて記載されており、ノニオン親水性ポリマーやモノマーの中に塩基性基を有するポリマーやモノマーが含まれている。本文献においては、疎水性、ノニオン親水性、プロトン解離性の各セグメントが実質的にミクロ相分離構造を形成することで電解質膜内部において水が隅々まで自動的に循環し得、特に高温・低加湿下においても優れたプロトン伝導性を示す旨記載しているが、メタノール透過性抑制効果についての記載はない。
【0010】
また、特許文献1〜5のいずれも、塩基性ポリマーがグラフトされた多孔質基材とプロトン解離性モノマーの重合体を組み合わせることを開示・教示するものではない。
【0011】
疎水性多孔質基材とプロトン解離性モノマーの重合体の組み合わせは、例えば、特許文献6に、電解質ポリマーが充填された、メタノールを含む有機溶媒および水に対して実質的に膨潤しない、疎水性の多孔質基材からなる電解質膜として、記載されている。本文献においては、塩基性基を有するモノマーがプロトン解離性モノマーと併用できる旨記載はあるが、塩基性基を有するモノマーをグラフトした多孔質基材を使用することについては記載されておらず、親水性の塩基性基を有するモノマーやプロトン解離性モノマーを疎水性多孔質膜に含浸させ、重合するには、先述の(4)同様、界面活性剤等の助剤を使用する必要があり、結果として電解質膜本来のメタノール透過性を抑える効果が減少する可能性がある。
【0012】
塩基性ポリマーがグラフトされた多孔質基材は、特許文献7に、塩基性ポリマーがグラフトされたポリエチレン多孔質膜として、記載されている。本文献においては、親水化されたポリエチレン多孔質膜、およびグラフトによる親水化の方法について記載されているに過ぎず、得られる親水化多孔質膜に、更にプロトン解離性モノマーの重合体を充填することについては記載されていない。
【特許文献1】特開2004−363013号公報
【特許文献2】特開2005−327703号公報
【特許文献3】特表2005−507012号公報
【特許文献4】特開2006−24552号公報
【特許文献5】特開2004−235071号公報
【特許文献6】国際公開WO2005/076396号パンフレット
【特許文献7】特開昭61−106640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、界面活性剤等、電解質膜から脱落する可能性のある助剤を使用するこ
となく、寸法安定性の高い疎水性の多孔質基材内に、プロトン解離性モノマーの重合体と含窒素環状モノマーの重合体を充填することにより、膜内の含水状態を調節し、メタノール透過性を抑え高いプロトン伝導性を得ることができる複合電解質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく検討を行った結果、含窒素モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材内で、プロトン解離性モノマーを重合させることにより界面活性剤等の助剤を使用することなく、疎水性多孔質基材内に、プロトン解離性モノマーの重合体と含窒素モノマーの重合体を充填することが可能で、得られる電解質膜はメタノール透過性が小さく、プロトン伝導性が高く、燃料電池に好適に使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、
(1)疎水性多孔質基材の孔表面の少なくとも一部にグラフトした含窒素モノマーの重合体が存在し、かつ、前記孔にプロトン解離性モノマーの重合体が充填されてなる複合電解質膜、
(2)プロトン解離性モノマーを、含窒素モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材内で重合させることを特徴とする、複合電解質膜の製造方法、
(3)プロトン解離性モノマー前駆体を、含窒素モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材内で重合させ該基材内に充填し、更にこの充填された重合体を反応処理させることを特徴とする、複合電解質膜の製造方法、
(4)(1)記載の複合電解質膜を使用した燃料電池、
に関する
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、含窒素環状モノマーをグラフトした疎水性熱可塑性樹脂からなる多孔質基材内に、プロトン解離性モノマーの重合体が充填されてなることを特徴とする、液体燃料に対する良好な寸法安定性と、低いメタノール透過性や、高いプロトン伝導性が向上した、具体的には、40℃、30wt%メタノールを用いて測定した、メタノール透過性が1〜10kg/m・日で、40℃、水中でのプロトン伝導度が0.06〜0.3S/cmである複合電解質膜が得られ、燃料電池、特に固体高分子型燃料電池や直接液体燃料型燃料電池に好適に使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】

以下本発明を具体的に説明する。本発明の複合電解質膜は、含窒素モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材内に、プロトン解離性モノマーの重合体を充填して得られる、複合電解質膜である。
【0018】
本発明において、疎水性多孔質基材は、例えば、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の、水や液体燃料に実質的に膨潤、溶解することのない、疎水性の熱可塑性ポリマーからなり、三次元網目構造を有する流体透過性の多孔質基材である。好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィン系ポリマー及びコポリマーや、ポリフッ化ビニリデンポリマー及びコポリマー等の、吸水率0.1%以下の疎水性ポリマーを主成分とし、厚みが10〜100μm、気孔率が25〜70%、厚み25μm換算透気度が200〜900秒/100cc、好ましくは300〜800秒/100ccの、通気性多孔質膜である。該多孔質基材の吸水率が極めて小さく、疎水性であることにより、固体高分子型燃料電池や直接液体燃料燃料電池内で、電解質膜が含水−乾燥を繰り返すことにより微小な空隙を形成し、水素や液体燃料が透過しやすくなるのを抑制する効果がある。含浸重合したプロトン解離性モノマーの重合体の含水膨張を抑えるために、該多孔質膜はそれを構成するポリマーの重量平均分子量が10万以上6
00万以下、好ましくは15万以上200万以下であり、二軸方向に3×3〜10×10倍、好ましくは5×5〜10×10倍延伸処理がなされた強度の高いものであることが好ましい。
【0019】
本発明において、含窒素モノマーは、少なくとも一つのC=C二重結合と少なくとも一つの含窒素官能基を含む、水とノルマルヘキサンの両方に20%以上の溶解度を有するモノマーである。特に、水と疎水性溶媒であるノルマルヘキサンの両方に溶解する含窒素モノマーを疎水性多孔質基材にグラフトすることにより、界面活性剤等の助剤を使用することなく疎水性多孔質基材にプロトン解離性モノマーの重合体を充填することができ、好ましい。
【0020】
具体的な含窒素モノマーの例として、ビニルピロリドン、ビニルカプロラクタム、2−ビニルピリジン、アクリルアミドおよびそのN−アルキル、N,N−ジアルキル誘導体、メタクリルアミドおよびそのN−アルキル、N,N−ジアルキル誘導体、アリルアミン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、4−ビニルピリミジン、2−ビニルピラジン、ビニルピペリドン、ビニルカルバゾール、ビニルピラゾール、等が挙げられる。
本発明において、含窒素モノマーは疎水性多孔質基材にグラフトされている。含窒素モノマーのグラフトによる疎水性多孔質基材の重量増加は、5〜90wt%、より好ましくは5〜50wt%で、更に疎水性多孔質基材の気孔率より少ないことが好ましい。重量増加が多すぎると、疎水性多孔質基材の孔を含窒素モノマーの重合体が埋めてしまうことになり、プロトン解離性モノマーの重合体を充填することが困難、あるいは不可能になり、好ましくない。
【0021】
含窒素モノマーは、水やアルコール等の溶媒で希釈し、疎水性多孔質基材に含浸させた後、公知のラジカル重合法によりグラフトされる。グラフトされた該含窒素モノマーを重合させるために、光重合開始剤や熱重合開始剤等の公知の各種ラジカル発生型重合開始剤をその種類に応じて少量、好ましくは5wt%以下添加してもよい。また、重合開始剤を使用せずに、あらかじめ疎水性多孔質基材にプラズマ、紫外線、電子線、γ線からなる群から選ばれる高エネルギー線を照射し、疎水性多孔質基材にラジカルを形成して、その後含窒素モノマーの希釈溶液を含浸して重合してもよい。
【0022】
プロトン解離性モノマーの重合体は、プロトン解離性官能基を含んだモノマーの重合体で構成される。プロトン解離性官能基には、例えば、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基などが好適に使用可能であるが、複合電解質膜として、良好なプロトン伝導性が発現されるとの観点から、スルホン酸基であることが好ましい。本発明において、プロトン解離性モノマーの重合体の好ましい例として、スルホン酸基を含んだ重合体を列挙すると、パーフルオロスルホン酸基を含んだ重合体、スルホン酸基を含むエーテルスルホン構造を含んだ重合体、スルホン酸基を含む芳香族イミド構造を含んだ重合体、スルホン酸基を含む芳香族エーテルエーテルケトン構造を含んだ重合体、スルホン酸基とC=C二重結合を有するプロトン解離性モノマーを含んだ重合体、スルホン酸基を含むフェノール構造を含んだ重合体、等が好適に使用可能である。中でも特に、含窒素環状モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材内で、プロトン解離性モノマーを重合することにより充填可能な、プロトン解離性官能基とC=C二重結合を有するプロトン解離性モノマーの重合体、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の(共)重合体、ポリスチレンスルホン酸の(共)重合体、ビニルスルホン酸の(共)重合体、アリルスルホン酸の(共)重合体、メタクリルスルホン酸の(共)重合体、ビニルトルエンスルホン酸の(共)重合体、ビニルキシレンスルホン酸の(共)重合体、α−メチルスチレンスルホン酸の(共)重合体、ビニルナフタレンスルホン酸の(共)重合体が特に好ましい。含窒素モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材内に該プロトン解離性モノマーの重合体が充填されたことは、膜が透明であるか否か目視により確認できる。
【0023】
さらに、プロトン解離性モノマーの重合体は、含窒素環状モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材に充填され、本発明の複合電解質膜となる。水との親和性が強い含窒素環状モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材の効果により、
(1)2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の親水性のプロトン解離性モノマーを、界面活性剤等脱落の可能性がある助剤を使用することなく直接疎水性多孔質基材内へ含浸させ、重合させることが可能になる、
(2)プロトン解離性モノマー前駆体を充填・重合し、これを反応させてプロトン解離性モノマーの重合体とする際に、反応のためのスルホン化剤、スルホアルキル化剤、ケン化剤の含浸性がよく、プロトン伝導性の高い電解質膜とすることが可能になる、
(3)含窒素環状モノマー構造とプロトン解離性モノマーの重合体とが相互作用することにより、メタノールの透過性を抑えることが可能になる、と考えられる。
【0024】
本発明の複合電解質膜は、プロトン解離性モノマーを、先述の含窒素モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材内で、重合させる方法、あるいは、プロトン解離性モノマー前駆体を、先述の含窒素モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材内で、重合させ、更にこの重合体を反応処理させる方法により得られる。
【0025】
本発明の第一の製造方法であるプロトン解離性モノマーを、先述の含窒素モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材内で、重合させる方法において、プロトン解離性モノマーは、モノマーだけで、または溶媒に溶解させてモノマー溶液として、例えば浸漬法やコート法などの公知の方法で、含窒素環状モノマーをグラフトした疎水性熱可塑性樹脂からなる多孔質基材に含浸される。含浸の際、溶媒を使用する場合は該多孔質基材に含浸しやすい、例えば、水、アルコール類、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒が好適に使用可能であるが、得られた電解質膜の洗浄等の操作が不要、もしくは容易であるとの理由により溶媒を使用しないか、あるいは水を溶媒として使用するのが特に好ましい。
【0026】
該多孔質基材に含浸させた該解離性モノマーは、公知のラジカル重合法により重合される。該解離性モノマーを重合させるために該解離性モノマーとともに、光重合開始剤や熱重合開始剤等の公知の各種ラジカル発生型重合開始剤をその種類に応じて少量、好ましくは5wt%以下添加してもよい。また、重合開始剤を使用せずに、あらかじめ該多孔質基材にプラズマ、紫外線、電子線、γ線からなる群から選ばれる高エネルギー線を照射し、該多孔質基材にラジカルを形成して、その後該解離性モノマーを含浸して重合してもよい。また、プロトン解離性モノマーの1価カチオン塩の溶剤を充填・重合後、塩酸、硫酸、硝酸等の酸でイオン交換し、解離性モノマーの重合体としてもよい。
【0027】
本発明の第二の製造方法である、プロトン解離性モノマー前駆体を、先述の含窒素モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材内で、重合させ、更にこの重合体を反応処理させる方法において、好ましい解離性モノマー前駆体の構造と反応処理の組み合わせには、
(i)スチレン、αメチルスチレンに例示される、C=C二重結合と芳香環を有するモノマーを重合させ、これを硫酸、無水硫酸やクロロスルホン酸に例示されるスルホン化剤でスルホン化する、
(ii)C=C二重結合と1級、2級アミノ基、カルボン酸基、カルボン酸塩基、フェノール性水酸基、フェノール性水酸基の水素をアルカリ金属やアルカリ土類金属で置換した基を有するモノマーを重合させ、これを1,3−プロパンサルトン、1,4−ブタンサルトンを用い、それぞれスルホプロピル化、スルホブチル化する、
(iii)C=C二重結合とハロゲン化スルホニル基を有するモノマーを重合させ、これをアルカリをケン化剤として用いて加水分解処理した後、酸処理にてプロトン化する、等の方法がある。
【0028】
また本発明のプロトン解離性モノマーの重合において、高いプロトン伝導性を保持しつ
つメタノール透過性を抑制する、過剰な膨潤を抑制する、リジッドな構造を形成させる、電解質ポリマーの耐久性を増加させる等の目的で、プロトン解離性モノマーとともに、プロトン解離性官能基を含まないモノマーやC=C二重結合を複数有する架橋モノマーを併用してもよい。
【0029】
具体的な好ましいプロトン解離性官能基を含まないモノマーの例には、アクリルアミド、アリルアミン、ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、2−ビニルピリジン、アクリルアミドおよびそのN−アルキル、N,N−ジアルキル誘導体、メタクリルアミドおよびそのN−アルキル、N,N−ジアルキル誘導体等がある。
【0030】
また、好ましい架橋モノマーの例には、メチレンビスアクリルアミド、そのN−アルキル、N,N−ジアルキル誘導体、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ビスフェノールジアクリレート、イソシアヌル酸ジアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルアミン、ジアリルオキシ酢酸塩、等がある。
【0031】
本発明の燃料電池は、公知の方法に従って、複合電解質膜の両面にそれぞれ、陽極、陰極となるガス拡散電極を密着させ、ついで膜全体を集電体で挟んで燃料電池を組み立てる。また、特に直接液体燃料型燃料電池の場合、必要に応じて、スタック化を容易にしたいなどの目的で、片面に陽極、陰極を配置することにより、燃料電池を組み立ててもよい。
【0032】
ガス拡散電極は、公知の方法に従って、白金、もしくは白金と例えばルテニウム等の異種金属との合金からなる微粒子を担持した、カーボンブラック粉末を、公知の解離性プロトンを有する官能基を含む重合体やPTFEなどの疎水性樹脂バインダーで保持した、多孔質体のシートよりなる。該ガス拡散電極は、公知の方法、例えばあらかじめ支持体上にガス拡散電極を作成した後、ホットプレスにより複合電解質膜と密着させる、複合電解質膜上にスクリーン印刷で直接形成する、等の方法により、複合電解質膜に密着させる。
【0033】
集電体には、導電性カーボン板などの導電性材料からなり、陰極側には燃料ガスもしくは液体、陽極側には酸化剤ガスの流路となる溝が形成される。
【0034】
固体高分子型燃料電池では、例えば、陰極側には水素ガスが、陽極側には空気が供給され、次の反応により電気エネルギーが生成する。
【0035】
陰極:H→2H+2e
陽極:1/2O+2H+2e→H
直接液体供給型燃料電池の一例であるメタノール供給型燃料電池では、陰極側にはメタノール水溶液が、陽極側には空気が供給され、次の反応により電気エネルギーが生成する。
【0036】
陰極:CHOH+HO→CO+6H+6e
陽極:3/2O+6H+6e→3H
【実施例】
【0037】
下記実施例、比較例にて本発明を説明する。尚本実施例は発明の範囲を限定するものではない。
[重合体のプロトン解離性官能基容量の測定]
滴定法によりプロトン解離性官能基容量を求めた。まず、膜を2N食塩水に1時間浸漬し、膜から浸漬した食塩水中に追い出されたプロトン量を、1/100N水酸化ナトリウム溶液で滴定、定量し(xmol)、食塩水中でナトリウム体になった膜の乾燥重量(yg)を定量し、両者の値から式(1000/((y/x)−22))を用いて膜のプロトン解離性官能基容量(mmol/g)を求めた。
[プロトン伝導度の測定]
LCRメーターを用いて、40℃、水中における膜面方向のプロトン伝導度(S/cm)を、2端子法により測定した、周波数10kHzにおける交流インピーダンスから求めた。
[メタノール透過性の測定]
フロー式ガス・蒸気・液体透過率測定装置GTR−20XFAFC(GTRテック株式会社)を用い、膜を40℃に制御されたチャンバー内の透過面積1.54cmのセルにセットし、膜の上面に30wt%メタノール水溶液を循環させ、膜の下面に乾燥ヘリウムを流量200ccmで流し、メタノールを浸透気化させた。膜下面に流したヘリウムを、ガスサンプラーを設けた六方バルブにより一定間隔でサンプリングし、ガスクロマトグラフでヘリウム中のメタノール量を定量した。メタノール量の経時変化を追跡し、一定になった時点のメタノール量から、メタノール透過性を求めた。
[参考例1](含窒素環状モノマーをグラフトした多孔質基材の作成)
疎水性多孔質基材としてポリエチレン微多孔膜(厚み38μm、気孔率43%、透気度610秒/100cc)を用いた。当該基材を室温、窒素雰囲気下で100kGyのγ線を照射し、水:t−ブタノール:ビニルピロリドン=2:1:1(体積比)からなるモノマー水溶液を脱酸素し、その溶液にγ線照射後の基材を浸漬し、脱酸素雰囲気下で30分グラフト重合を行った。その後基材を溶液から引き上げ、水とエタノールで洗浄した後乾燥させて、ビニルピロリドンをグラフトした多孔質基材を得た。本参考例において、ポリエチレン膜に対するビニルピロリドングラフトによる重量増加は25%であった。
[実施例1]
参考例1の含窒素環状モノマーをグラフトした多孔質基材をビニルスルホン酸(以下VSAと略記する。)70mol%とトリアリルイソシアヌレート30mol%(以下TAICと略記する。)からなるモノマー100質量部、紫外線重合開始剤(チオキサントン
和光純薬工業社製)0.1質量部からなるモノマー液に浸漬し、細孔内に充填させた。続いて、多孔質基材を溶液から引き上げたのち、高圧水銀ランプにて15分間照射し、その後50℃のオーブンで24時間加熱した。その後、1M塩酸とイオン交換水で洗浄した後、乾燥させて複合電解質膜を得た。得られた膜は透明で、電解質が充填されていることが確認できた。得られた膜の評価結果を表1に示す。
[実施例2]
参考例1の含窒素環状モノマーをグラフトした多孔質基材を、2−アクリアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(以下AMPSと略記する。)87mol%とN,N’−メチレンビスアクリルアミド(以下MBAAと略記する。)13mol%からなるモノマー50質量部、紫外線重合開始剤(チオキサントン 和光純薬工業社製)0.1質量部、水25質量部、エタノール25質量部からなるモノマー液を脱酸素してそれに浸漬し、細孔内に充填させた。続いて、多孔質基材を溶液から引き上げたのち、高圧水銀ランプにて15分間照射して細孔内部のモノマーを重合させた。その後、基材を溶液から引き上げ、1M塩酸とイオン交換水で洗浄した後乾燥させて複合電解質膜を得た。得られた膜は透明で、電解質が充填されていることが確認できた。得られた膜の評価結果を表1に示す。
[比較例1]
ポリエチレン微多孔膜(厚み38μm、気孔率43%、透気度610秒/100cc)を、AMPS87mol%、MBAA13mol%からなるモノマー50質量部、フタージェント251(ノニオン性界面活性剤 株式会社ネオス社製)0.1質量部、ダロキュア1173(光重合開始剤 チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)0.01質量部、水50質量部からなるモノマー液に浸漬し細孔内に充填させた。引き上げた後、高圧水銀ランプを2分間照射し、AMPSとMBAAを重合させた。その後、基材を溶液から引き上げ、1M塩酸とイオン交換水で洗浄した後乾燥させて複合電解質膜を得た。得ら
れた膜は透明で、電解質が充填されていることが確認できた。得られた膜の評価結果を表1に示す。
[比較例2]
ポリエチレン微多孔膜(厚み38μm、気孔率43%、透気度610秒/100cc)を、VSA70mol%とTAIC30mol%(以下)からなるモノマー100質量部、紫外線重合開始剤(チオキサントン 和光純薬工業社製)0.1質量部からなるモノマー液を脱酸素して、その溶液に浸漬し、細孔内に充填させた。引き上げた後、高圧水銀ランプにて15分間照射して細孔内部のモノマーを重合させ、その後50℃のオーブンで24時間加熱した。その後、基材を溶液から引き上げ、1M塩酸とイオン交換水で洗浄した後乾燥させて複合電解質膜を得た。得られた膜は透明で、電解質が充填されていることが確認できた。得られた膜の評価結果を表1に示す。
[比較例3]
市販のNafion117電解質膜(デュポン社製)のEW、含水率、プロトン伝導度、メタノール透過性を実施例1〜3、比較例1〜2と同様に測定した。得られた膜の評価結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の複合電解質膜は燃料電池、特に固体高分子型燃料電池や、直接メタノール供給型燃料電池をはじめとする直接液体燃料供給型燃料電池に好適に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性多孔質基材の孔表面の少なくとも一部にグラフトした含窒素モノマーの重合体が存在し、かつ、前記孔にプロトン解離性モノマーの重合体が充填されてなる複合電解質膜。
【請求項2】
プロトン解離性モノマーを、含窒素モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材内で重合させることを特徴とする、複合電解質膜の製造方法。
【請求項3】
プロトン解離性モノマー前駆体を、含窒素モノマーをグラフトした疎水性多孔質基材内で重合させ該基材内に充填し、更にこの充填された重合体を反応処理させることを特徴とする、複合電解質膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の複合電解質膜を使用した燃料電池。

【公開番号】特開2007−280653(P2007−280653A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102607(P2006−102607)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】