説明

複層塗膜の形成方法

【課題】ホワイトパール色において、視認角度によって色相が変化して複数の色相を認識することができる複層塗膜の形成方法を提供すること。
【解決手段】被塗物上に、ホワイトカラーベース塗膜を形成し、鱗片状光輝性顔料を含む光輝性ベース塗膜を形成し、更にクリヤー塗膜を形成する、複層塗膜の形成方法であって;上記鱗片状光輝性顔料は、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)、を少なくとも含有するものであり;上記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)が、入射角15°および受光角−5°のハイライト部で奏でる干渉色の色相をマンセル色相環100の基準(0位置)として、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合、上記金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)は、−10〜−30の色相範囲、または+10〜+30の色相範囲の干渉色を奏でる顔料である;複層塗膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体などの塗装に適用することのできる、独特の優れた意匠を有する複層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体などの被塗物の表面には、種々の役割を持つ複数の塗膜を順次形成して、被塗物を保護すると同時に美しい外観および優れた意匠を付与している。複層塗膜の形成方法としては、導電性に優れた被塗物上に電着塗膜などの下塗り塗膜を形成し、その上に、中塗り塗膜、上塗り塗膜を順次形成する方法が一般的である。これらの塗膜において、特に塗膜の外観および意匠を大きく左右するのは、ベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜である。特に、自動車において、ベース塗膜とクリヤー塗膜とからなる上塗り塗膜の外観および意匠は、極めて重要である。
【0003】
また最近では、消費者は、いわゆるソリッドカラーよりも、光輝感のある塗色を好む傾向がある。この光輝感は、自動車などの複雑な形状の意匠そのものを強調する効果がある。特に、光がよく当たり、そして外観の印象を大きく左右するフェンダー部やドア部のプレスラインを強く強調する効果がある。このような効果は、光輝性塗膜に含まれる光輝性顔料によるものである。自動車のこのような複雑な形状の部分では、光の反射角度が複雑に変化するので、塗膜における光輝感の役割は非常に重要となる。また最近では、塗膜に対する消費者の嗜好も高まり、単なる光輝感だけではなく、視認角度によって色が変化する光輝感、または様々な色相が認識できる光輝感などといった、より独特な意匠が求められつつある。
【0004】
特開2001−327916号公報(特許文献1)には、基材上にカラーベース塗膜を形成する工程;カラーベース塗膜上にマイカベース塗膜を形成し、これを硬化させないでその上にクリヤー塗膜を形成する工程;および加熱することによりマイカベース塗膜およびクリヤー塗膜を硬化させる工程;を包含する積層パール塗膜の形成方法において、カラーベース塗膜の明度がL値で20〜60であり、マイカベース塗膜を形成するマイカベース塗料が二酸化チタンコートシリカフレークを含有することを特徴とする積層パール塗膜の形成方法が記載されている。この方法によって、明度がL値で20〜60であるカラーベース塗膜上に塗装されたマイカ顔料含有塗膜に起こる、シェード位置から見た場合の黄味を二酸化チタンコートシリカフレークを用いることで抑制し、透明感に優れた積層パール塗膜が得られると記載されている。
【0005】
特開2000−86943号公報(特許文献2)には、(1)ビヒクル、(2)金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、を含有することを特徴とする2色性塗料組成物が記載されている。この塗料組成物によって、落ち付きのある優れた2色性を発現する2色性塗膜が得られると記載されている。
【0006】
特許第3685211号明細書(特許文献3)には、干渉色顔料を2種以上含有させてなる塗料であって、該干渉色顔料が、色相環を100分割し、右回り+50、左回り−50で表示したとき、その1つの干渉色顔料の色相を0にした場合、残りの干渉色顔料の少なくとも1種の色相が+40〜+50および−40〜−50の範囲内に含まれるものであることを特徴とする塗料組成物が記載されている。この塗料組成物によって、光輝性粒子が複数色を発色し、多色性が示されると記載されている。しかしながら上記特許文献に開示される方法により達成される多色性は2色までである。そして上記方法において発現する色相をさらに増やそうとしても、単に顔料を追加するのみでは意図する色相を呈する塗膜が得られないことが判明した。
【0007】
従来における、多色感が視認できる塗膜においては、顔料の反射色のみを用いて多色感を視認させることは困難であった。例えば特許第3685211号明細書(特許文献3)記載の発明においては、全ての実施例において、光輝性顔料の総量と同量またはそれ以上の量のカーボンブラックが用いられている。これは、多量のカーボンブラックを用いることによって、顔料の反射色および透過色の両方が視認されることとなるためである。顔料における反射色および透過色は、一般に色相が大きく異なることが多い。そのため、カーボンブラックを用いて塗膜の色を暗く設定することによって、これらの反射色および透過色の両方が視認できるようになり、これにより色相が大きく変化すると認識されることとなる。しかしながらカーボンブラックを多量用いることによって複層塗膜自体の色設計が制限されることとなってしまう。一方で、光輝感において奏でられる色相は光の反射に基づく色相であり、加法混色の挙動を示す。そのため、様々な色相が認識できる光輝感を発現させることを目的として、それぞれ異なる色相を呈する光輝性顔料を単に組み合わせて用いるのみでは、加法混色の原理に基づき反射光が打ち消しあい白色化してしまうという不具合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−327916号公報
【特許文献2】特開2000−86943号公報
【特許文献3】特許第3685211号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、いわゆるホワイトパール色において、視認角度によって色相が変化して複数の色相を認識することができる複層塗膜の形成方法の提供を目的とする。特に、視認角度に依存して、ホワイトパール色が呈する反射色の色相が大きく変化し、3色の反射色を認識することができる、従来にない独特な意匠を有する複層塗膜の形成方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
被塗物上に、ホワイトカラーベース塗膜を形成し、鱗片状光輝性顔料を含む光輝性ベース塗膜を形成し、更にクリヤー塗膜を形成する、複層塗膜の形成方法であって、
上記鱗片状光輝性顔料は、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)、を少なくとも含有するものであり、
上記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)が、入射角15°および受光角−5°のハイライト部で奏でる干渉色の色相をマンセル色相環100の基準(0位置)として、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合、上記金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)は、−10〜−30の色相範囲、または+10〜+30の色相範囲の干渉色を奏でる顔料である、
複層塗膜の形成方法、
を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0011】
上記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)は、入射角15°および受光角−5°のハイライト部で奏でる干渉色の色相をマンセル色相環100の基準(0位置)として、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合、入射角60°および受光角−50°のシェード部で奏でる干渉色の色相が−30〜−50の色相範囲または+30〜+50の色相範囲を奏でる顔料であるのが好ましい。
【0012】
また、上記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)および上記金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)の合計顔料濃度(PWC)は1〜30質量%であり、上記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)と上記金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)との質量比は、(a1)/(a2)=7/3〜3/7であるのが好ましい。
【0013】
本発明はまた、上記複層塗膜の形成方法により得られた複層塗膜も提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複層塗膜の形成方法によって得られる複層塗膜は、いわゆるホワイトパール色において、視認角度に依存してホワイトパール色が呈する反射色の色相が大きく変化し、3色の反射色を認識することができる、独特な意匠を有する複層塗膜である。本発明の方法を、自動車車体および部品などに適用することにより、外観の高級感を高めることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】マンセル表色系のマンセル色相環を示す図である。(DICカラーデザイン株式会社ウェブサイトより引用。)
【図2】複層塗膜の色相の測定における入射角および受光角を模式的に示す説明図である。
【図3】実施例1、2および比較例1〜3における、入射角および受光角に依存する色相変化の測定結果のグラフ図および目視による色相評価の範囲を示す図である。
【図4】実施例3および比較例4における、入射角および受光角に依存する色相変化の測定結果のグラフ図および目視による色相評価の範囲を示す図である。
【図5】実施例4および比較例5における、入射角および受光角に依存する色相変化の測定結果のグラフ図および目視による色相評価の範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の複層塗膜の形成方法によって得られる複層塗膜は、被塗物上に形成された、ホワイトカラーベース塗膜、光輝性ベース塗膜およびクリヤー塗膜の3層から構成される。そしてこの複層塗膜は、いわゆるホワイトパール色において、視認角度に依存してホワイトパール色が呈する反射色の色相が大きく変化し、3色の反射色を認識することができる、独特な意匠を有する複層塗膜である。このような複層塗膜は、光輝性ベース塗膜に、特定の色相を有する金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)が含まれることによって達成される。
【0017】
本発明の方法において用いられる、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)それぞれが奏でる干渉色の色相は、マンセル表色系で示される。マンセル表色系は、「三属性による色の表示方法」(JIS Z 8721)として当業者によく知られているものであり、色の三属性である、色相(H)、明度(V)および彩度(C)によって色を分類する。
【0018】
マンセル表色系において、色相(H)は、マンセル色相環の記号(R、Y、G、BおよびP)と番号(5および10など)との組み合わせで示される。マンセル色相環において、「R」はレッドを示し、「Y」はイエローを示し、「G」はグリーンを示し、「B」はブルーを示し、「P」はパープルを示す。また、これらの中間の色相である、「YR」はイエローレッドを示し、「GY」はグリーンイエローを示し、「BG」はブルーグリーンを示し、「PB」はパープルブルーを示し、「RP」はレッドパープルを示す。上記の10色がマンセル色相環の10色相となる。そしてこれらの10色相を、それぞれ10等分することにより、マンセル色相環の100色相環(マンセル色相環100)となる。図1は、このマンセル色相環100について説明する概略説明図である。
【0019】
マンセル表色系において、明度(V)は、色の明るさを示す指標である。値が小さいほど色が暗い(黒い)ことを示し、値が大きいほど明るい(白い)ことを示す。明度(V)において白はN9.5、黒はN1.0と設定される。
【0020】
マンセル表色系において、彩度(C)は、0〜14の値で示され、色の鮮やかさを示す指標であり、値が小さいほど色が地味であることを示し、値が大きいほど色が鮮やかであることを示す。
【0021】
本発明において、マンセル表色系の色相(H)、明度(V)および彩度(C)は、例えば、スガ試験機株式会社製の「SM カラーコンピューター SM−T」によって測定することができる。またマンセル表色系の色相(H)は、1943年に米国光学会(Optical Society of America)の測色委員会で尺度が示され色票集された色見本に基づいた、目視による対比評価によって判別することもできる。
【0022】
本発明の複層塗膜の形成方法は、下塗り塗膜および中塗り塗膜を形成した被塗物上に、ホワイトカラーベース塗膜、光輝性ベース塗膜およびクリヤー塗膜を、順次形成する方法である。以下、ホワイトカラーベース塗膜の形成に用いられるホワイトカラーベース塗料組成物、光輝性ベース塗膜の形成に用いられる光輝性ベース塗料組成物、およびクリヤー塗膜の形成に用いられるクリヤー塗料組成物について順次記載する。
【0023】
ホワイトカラーベース塗料組成物
本発明の方法において、上記ホワイトカラーベース塗膜は、被塗物上に形成される塗膜であり、被塗物に白色を付す塗膜である。上記ホワイトカラーベース塗膜を形成するためにホワイトカラーベース塗料組成物が用いられる。上記ホワイトカラーベース塗料組成物として、着色顔料、塗膜形成性樹脂、必要に応じた硬化剤そして他の成分を含有するものを挙げることができる。
【0024】
着色顔料
上記着色顔料は、白色系顔料を含む。白色系顔料として、例えば二酸化チタンなどを挙げることができる。上記白色系顔料の含有量は、顔料濃度(PWC)で下限20質量%、上限75質量%であることが好ましい。20質量%未満であると、下地隠蔽性が低下するおそれがある。75質量%を超えると、外観が低下するおそれがある。上記白色系顔料を上記範囲で含有することによって、マンセル値でN7〜N9.5の、いわゆるホワイトカラーベース塗膜を形成することができる。上記下限は30質量%であることがより好ましく、上記上限は65質量%であることがより好ましい。
【0025】
また、上記ホワイトカラーベース塗料組成物は、塗膜のホワイト感を害さない範囲内で、その他の顔料を含有してもよい。その他の顔料としては、例えば、アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などの有機系着色顔料;黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラックなどの無機系着色顔料;炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクなどの体質顔料などを挙げることができる。
【0026】
塗膜形成性樹脂
上記塗膜形成性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂などが挙げられ、特に、アクリル樹脂およびポリエステル樹脂が好ましく用いられる。これらは、2種以上を組み合わせて使用することができる。また、上記塗膜形成性樹脂には、硬化性を有するタイプとラッカータイプとがあるが、通常は硬化性を有するタイプのものが使用される。硬化性を有するタイプの場合には、アミノ樹脂および/またはブロックイソシアネート化合物、アミン系、ポリアミド系、多価カルボン酸などの硬化剤(または架橋剤)と混合して使用に供され、加熱または常温で硬化反応を進行させることができる。また、硬化性を有しないタイプの塗膜形成性樹脂を、硬化性を有するタイプと併用することも可能である。
【0027】
アクリル樹脂
アクリル樹脂としては、アクリル系モノマーの共重合体、あるいは、アクリル系モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体を挙げることができる。上記共重合に使用し得るアクリル系モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピルなどのエステル化物、アクリル酸またはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物、アクリルアミド、メタクリルアミドおよびN−メチロールアクリルアミドなどが挙げられる。これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン(またはダイマー)、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニルなどが挙げられる。また、当業者に公知の方法である、例えば特開2007−39615号公報に開示の方法に従って、アクリル樹脂を水性エマルション化して水性塗料とすることが好ましい。
【0028】
ポリエステル樹脂
ポリエステル樹脂としては、飽和ポリエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられ、例えば、多塩基酸と多価アルコールを加熱縮合して得られた縮合物が挙げられる。多塩基酸としては、例えば、飽和多塩基酸、不飽和多塩基酸などが挙げられ、飽和多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸などが挙げられ、不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、二価アルコール、三価アルコールなどが挙げられ、二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが挙げられ、三価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。
【0029】
アルキド樹脂
アルキド樹脂としては、上記多塩基酸と多価アルコールにさらに油脂・油脂脂肪酸(大豆油、アマニ油、ヤシ油、ステアリン酸など)、天然樹脂(ロジン、コハクなど)などの変性剤を反応させて得られたアルキド樹脂を用いることができる。
【0030】
エポキシ樹脂
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールとエピクロルヒドリンの反応によって得られる樹脂などを挙げることができる。ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどが挙げられる。上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、エピコート828、エピコート1001、エピコート1004、エピコート1007、エピコート1009(いずれも、シェルケミカル社製)などが挙げられ、またこれらを適当な鎖延長剤を用いて鎖延長したものも用いることができる。
【0031】
ポリウレタン樹脂
ポリウレタン樹脂としては、アクリル、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネートなどの各種ポリオール成分とポリイソシアネート化合物とによって得られるウレタン結合を有する樹脂を挙げることができる。上記ポリイソシアネート化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、およびその混合物(TDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(4,4’−MDI)、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート(2,4’−MDI)、およびその混合物(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート(NDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジシクロへキシルメタン・ジイソシアネート(水素化HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、へキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水素化キシリレンジイソシアネート(HXDI)などを挙げることができる。
【0032】
ポリエーテル樹脂
ポリエーテル樹脂としては、エーテル結合を有する重合体または共重合体であり、ポリオキシエチレン系ポリエーテル、ポリオキシプロピレン系ポリエーテル、ポリオキシブチレン系ポリエーテルもしくはビスフェノールAあるいはビスフェノールFなどの芳香族ポリヒドロキシ化合物から誘導されるポリエーテルなどの1分子当たりに少なくとも2個の水酸基を有するポリエーテル樹脂を、または上記ポリエーテル樹脂とコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸などの多価カルボン酸類、あるいは、これらの酸無水物などの反応性誘導体とを反応させて得られるカルボキシル基含有ポリエーテル樹脂を挙げることができる。
【0033】
上記塗膜形成性樹脂と硬化剤の割合としては、固形分換算で塗膜形成性樹脂が90〜50質量%、硬化剤が10〜50質量%であるのが好ましく、塗膜形成性樹脂が85〜60質量%であり、硬化剤が15〜40質量%であるのがより好ましい。硬化剤が10質量%未満では(塗膜形成性樹脂が90質量%を超えると)、塗膜中の架橋が十分でない場合がある。一方、硬化剤が50質量%を超えると(塗膜形成性樹脂が50質量%未満では)、塗料組成物の貯蔵安定性が低下するとともに硬化速度が大きくなるため、塗膜外観が悪くなる場合がある。
【0034】
その他の成分
本発明で使用することのできるホワイトカラーベース塗料組成物には、上記成分の他に、脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスや酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックスなどの沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコンや有機高分子などの表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、有機アマイド、架橋樹脂粒子などを適宜添加することができる。これらの添加剤は、通常、塗膜形成性樹脂および硬化剤の総量100質量部(固形分基準)に対して、一般に15質量部以下の割合で配合することにより、塗料や塗膜の性能を改善することができる。
【0035】
本発明で使用することのできるホワイトカラーベース塗料組成物は、上記構成成分を、通常、溶媒に溶解または分散した態様で提供される。溶媒としては、塗膜形成性樹脂および硬化剤を溶解または分散するものであればよく、有機溶媒および/または水を使用することができる。有機溶媒としては、塗料分野において通常用いられるものを挙げることができる。例えば、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、アセトン、メチルエテルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブなどのエステル類、アルコール類などを例示できる。環境面の観点から、有機溶媒の使用が規制されている場合には、水を用いることが好ましい。この場合、適量の親水性有機溶媒を配合してもよい。
【0036】
本発明において使用することのできるホワイトカラーベース塗料組成物は、特に好ましい態様では、アクリル樹脂エマルションを含む塗膜形成性樹脂、アクリル樹脂と疎水性メラミン樹脂とを反応させた反応生成物を水分散することによって得られる粒径20〜140nmの疎水性メラミン樹脂水分散体を含む硬化剤を含有するものであってもよく、これによって、優れた発色性を有する塗膜を得ることができる。また、自動車塗装における複層塗膜形成方法において、上記のホワイトカラーベース塗料組成物を水性塗料として用いた場合、優れたリコート密着性、チッピング性、耐水付着性を有する塗膜を得ることができる。従って、上記のホワイトカラーベース塗料組成物は、水性ホワイトカラーベース塗料組成物として好適に用いることができる。
【0037】
上記ホワイトカラーベース塗料組成物の製造方法は、特に限定されず、顔料などの配合物をニーダーまたはロールなどを用いて混練、分散するなどの当業者に周知の方法を適用することができる。また、上記ホワイトカラーベース塗料組成物の市販品としては、例えば、アクアレックスAR−2000ホワイトカラーベース塗料、オルガP−30ホワイトカラーベース塗料、スーパーラックM−155HS(以上いずれも、日本ペイント社製)などを挙げることができる。
【0038】
光輝性ベース塗料組成物
本発明の方法において、上記光輝性ベース塗膜は、光輝性ベース塗料組成物を用いて形成される。この光輝性ベース塗料組成物は、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)を少なくとも含有する鱗片状光輝性顔料が含まれる。
【0039】
金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)
本発明は、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)を鱗片状光輝性顔料として用いることを特徴とする。この金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)は、天然または合成のシリカフレーク(二酸化ケイ素:SiO)に、二酸化チタン(TiO)を主成分とする金属酸化物を、望ましくは均一に被覆することによって製造することができる。
【0040】
金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)を構成するシリカフレークの厚みは、100〜800nmであり、好ましくは200〜400nmである。シリカフレークの厚みが、上記範囲を逸脱すると、本発明で規定する発色性が低下する恐れがある。このシリカフレークは、合成シリカフレークであることが好ましい。合成シリカフレークは純度が高く、かつ平均粒径の粒度分布が狭いため、より安定した発色が得られるという利点がある。
【0041】
上記シリカフレークを被覆する金属酸化物層は、二酸化チタン(TiO)が含まれる。シリカフレークの屈折率は1.46であり、二酸化チタンの屈折率は2.30であるため、基材であるシリカフレークと被覆層である金属酸化物層との間に0.5以上の屈折率差が生じ、これにより二色性を有する干渉色が発現することとなる。この金属酸化物層は、二酸化チタン以外の金属酸化物を含んでもよい。このような金属酸化物として、例えば酸化ジルコニウム(屈折率2.40)、酸化鉄(屈折率2.36)、二酸化スズ(屈折率1.98)、酸化亜鉛(2.0)などが挙げられる。
【0042】
好ましい金属酸化物被覆シリカフレーク顔料として、顔料の総質量に対して、シリカフレーク基材が54〜83.5質量%、そして金属酸化物層中の二酸化チタンの質量が11〜42質量%、二酸化スズの質量が2〜3.5質量%、酸化ジルコニウムの質量が1〜3質量%のものが挙げられる。
【0043】
本発明において用いられる金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)は、大きく異なる2つの色相が視認される顔料である。より具体的には、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)が、入射角15°および受光角−5°のハイライト部で奏でる干渉色の色相をマンセル色相環100の基準(0位置)とし、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合、入射角60°および受光角−50°のシェード部で奏でる干渉色の色相が−30〜−50の色相範囲または+30〜+50の色相範囲を奏でる顔料である。このように、本発明で用いられる金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)は、視認角度、具体的には顔料への入射角および顔料に対する受光角、が変化することによって、その顔料によって呈される反射色の色相が大きく変化するものである。反射色の色相が大きく変化する顔料の具体例として、例えば、ハイライト部(図2において入射角を15°とし、受光角−5°で受光)における反射色の色相が10G(緑)であり、シェード部(図2において入射角を60°とし、受光角−50°で受光)における反射色の色相が10RP(赤紫)である顔料、ハイライト部における反射色の色相が5GY(黄緑)でありシェード部における反射色の色相が7.5B(青)である顔料などが挙げられる。
【0044】
上記のように視認角度に依存して反射色の色相が大きく変化する金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)は、例えば、シリカフレークの厚みを200〜800nmとし、金属酸化物の被覆層の厚みを70〜160nmに設定することによって調製することができる。このような金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)は、合成シリカフレークを基材とし、二酸化チタンを含む金属酸化物を湿式化学的法または気相被覆法によって被覆することによって調製することができる。
【0045】
視認角度に依存して反射色の色相が大きく変化する金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)の他の調製例として、合成シリカフレークを基材とし、二酸化チタンを含む金属酸化物を被覆し、次いで二酸化ケイ素および/または酸化アルミニウムで被覆し、さらに二酸化チタンを含む金属酸化物を被覆する方法が挙げられる。この方法における被覆操作は、湿式化学的法、ゾル−ゲルプロセス、化学蒸着法、物理蒸着法などを用いることができる。
【0046】
金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)の平均粒径(D50)は、5〜50μmであるのが好ましい。平均粒径が、上記範囲を逸脱すると、本発明で規定する発色性を発現できない恐れがある。
【0047】
金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)は市販品を用いてもよい。市販品の具体例としては、メルク株式会社製 商品名「Colorstream T20−02WNT」、「Colorstream T20−04WNT」、「Colorstream T20−01WNT」、「Colorstream T20−03WNT」などが挙げられる。
【0048】
金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)の濃度(PWC)は、光輝性ベース塗料組成物において、0.3〜21質量%であるのが好ましく、0.9〜14質量%であるのがより好ましい。金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)の濃度が0.3質量%未満である場合は発色性が低下する恐れがあり、21質量%を超える場合は仕上がり外観が低下する恐れがある。この濃度(PWC)は、光輝性ベース塗料組成物の全固形分の質量に対して、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)の質量を百分率(質量%)で表したものである。なお、光輝性ベース塗料組成物の全固形分には、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)を含む鱗片状光輝性顔料、光輝性ベース塗料組成物の樹脂固形分、必要に応じたその他の顔料およびその他の成分(固形分)が全て含まれる。
【0049】
金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)
本発明は、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)を鱗片状光輝性顔料の1種として用いることを特徴とする。この金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料は、天然または合成のアルミナフレーク(酸化アルミニウム:Al)に、二酸化チタン(TiO)を主成分とする金属酸化物を、望ましくは均一に被覆することによって製造することができる。また金属酸化物被覆マイカフレーク顔料は、天然または合成のマイカフレークに、二酸化チタン(TiO)を主成分とする金属酸化物を、望ましくは均一に被覆することによって製造することができる。
【0050】
金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)を構成する、アルミナフレークまたはマイカフレークの厚みは、100〜800nmであり、好ましくは200〜400nmである。アルミナフレークまたはマイカフレークの厚みが上記範囲を逸脱すると、本発明で規定する発色性が低下する恐れがある。このアルミナフレークまたはマイカフレークは、合成アルミナフレークまたは合成マイカフレークであることが好ましい。合成アルミナフレーク、合成マイカフレークは、純度が高く、かつ平均粒径の粒度分布が狭いため、より安定した発色が得られるという利点がある。
【0051】
上記アルミナフレークまたはマイカフレークを被覆する金属酸化物層は、二酸化チタン(TiO)が含まれる。アルミナフレークの屈折率は1.63であり、二酸化チタンの屈折率は2.30であるため、基材であるアルミナフレークと被覆層である金属酸化物層との間に0.5以上の屈折率差が生じ、これにより視認性に優れた干渉色が発現することとなる。この金属酸化物層は、二酸化チタン以外の金属酸化物を含んでもよい。このような金属酸化物として、例えば酸化ジルコニウム(屈折率2.40)、酸化鉄(屈折率2.36)、二酸化スズ(屈折率1.98)、酸化亜鉛(2.0)などが挙げられる。
またマイカフレークの屈折率は1.58であり、二酸化チタンの屈折率は2.30であるため、基材であるマイカフレークと被覆層である金属酸化物層との間に0.5以上の屈折率差が生じ、これにより視認性に優れた干渉色が発現することとなる。この金属酸化物層は、二酸化チタン以外の金属酸化物を含んでもよい。このような金属酸化物として、例えば酸化ジルコニウム(屈折率2.40)、酸化鉄(屈折率2.36)、二酸化スズ(屈折率1.98)、酸化亜鉛(2.0)などが挙げられる。
【0052】
上記金属酸化物の被覆層の割合は、上記アルミナフレークまたはマイカフレーク(フレーク基材)と被覆層との合計量に対して、好ましくは10〜50質量%であり、さらに好ましくは20〜45質量%である。被覆層の割合は、所望の意匠性に応じて変更することができる。例えば被覆層の割合を低く(代表的には、フレーク基材と被覆層の合計量に対して10〜30質量%)設定することによって、高い光輝感が得られる。また例えば、被覆層の割合を高く(代表的には、フレーク基材と被覆層の合計量に対して30〜50質量%)設定することによって、干渉色が視認角度によって変化するように設定することができる。上記被覆層の厚みは、特に限定されないが50〜500nmが好ましい。
【0053】
なお、本発明において金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)を構成するアルミナフレーク、マイカフレーク、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)を構成するシリカフレーク、およびこれらの被覆層である金属酸化物層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)観察の写真より観察される、断面における厚みを測定し、得られた測定値の平均値を算出して求めたものである。
【0054】
金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)の平均粒径(D50)は、5〜30μmであり、好ましくは10〜25μmであり、より好ましくは15〜20μmである。平均粒径が上記範囲を逸脱すると、本発明で規定する発色性を発現できない恐れがある。なお、本明細書における顔料の平均粒径は、レーザー回折法によって粒度分布を測定し、メジアン値(D50)で示したものである。
【0055】
金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)は市販品を用いてもよい。金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料の市販品の具体例としては、メルク株式会社製 商品名「Xirallic T60−10WNT」、「Xirallic T60−20WNT」、「Xirallic T60−21WNT」、「Xirallic T60−22WNT」、「Xirallic T60−23WNT」、「Xirallic T60−24WNT」、「Xirallic T60−25WNT」、「Xirallic T61−10WNT」などが挙げられる。また金属酸化物被覆マイカフレーク顔料の市販品の具体例としては、メルク株式会社製 商品名「Iriodin Ultra 7205WNT」、「Iriodin Ultra 7235WNT」、「Iriodin Ultra 7225WNT」、「Iriodin Ultra 7219WNT」、「Iriodin Ultra 7215WNT」などが挙げられる。
【0056】
金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)の濃度(PWC)は、光輝性ベース塗料組成物においていずれか、または両方含有する場合であっても、0.3〜21質量%であるのが好ましく、0.9〜14質量%であるのがより好ましい。金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)の濃度が0.3質量%未満である場合は発色性が低下する恐れがあり、21質量%を超える場合は仕上がり外観が低下する恐れがある。この濃度(PWC)は、光輝性ベース塗料組成物の全固形分の質量に対して、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)の質量を百分率(質量%)で表したものである。なお、光輝性ベース塗料組成物の全固形分には、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)を含む鱗片状光輝性顔料、光輝性ベース塗料組成物の樹脂固形分、必要に応じたその他の顔料およびその他の成分(固形分)が全て含まれる。
【0057】
本発明においては、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)を併せて用いる。そしてこれらの顔料において、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)が、入射角15°および受光角−5°のハイライト部で奏でる干渉色の色相をマンセル色相環100の基準(0位置)として、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)は、−10〜−30の色相範囲、または+10〜+30の色相範囲の干渉色を奏でる顔料を用いる必要がある。光輝感において奏でられる色相は光の反射に基づく色相であり、加法混色の挙動を示す。そのため、様々な色相が認識できる光輝感を発現させることを目的として、それぞれ異なる色相を呈する光輝性顔料を単に組み合わせて用いるのみでは、加法混色の原理に基づき反射光が打ち消しあい白色化してしまうという不具合があった。本発明においては、このような加法混色を示す光輝性顔料の組み合わせにおいて、上記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)を組み合わせて用いることによって、各顔料が呈する干渉色が打ち消しあわず、顔料それぞれが奏でる干渉色を視認することができることとなる。これにより、視認角度に依存して、ホワイトパール色が呈する反射色の色相が大きく変化し、3色の反射色を認識することができる、従来にない独特な意匠が達成されることとなった。
【0058】
上記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)と、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)との質量比は、(a1)/(a2)=7/3〜3/7の範囲で用いられるのが好ましい。各顔料の質量比が上記範囲を逸脱する場合は、本発明における発色性を発現できない恐れがある。
【0059】
また上記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)および上記金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)の合計顔料濃度(PWC)は1〜30質量%であるのが好ましく、3〜20質量%であるのがより好ましく、5〜15質量%であるのがさらに好ましい。金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)の合計顔料濃度(PWC)が1質量%未満である場合は発色性が低下する恐れがあり、30質量%を超える場合は仕上がり外観が低下する恐れがある。
【0060】
本発明においては、必要に応じて、上記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)に加えて、その他の光輝性顔料、有機系の着色顔料、無機系の着色顔料、体質顔料などの顔料を、光輝性ベース塗料組成物に適宜配合してもよい。
【0061】
その他の光輝性顔料としては、例えば、天然または合成のアルミナ(Al)フレーク、シリカ(SiO)フレークまたはマイカフレークに、二酸化チタン以外の金属(例えば、鉄、クロム、コバルト、スズ、ジルコニウムなど)の酸化物を被覆したもの、ガラスフレークに、例えば、チタン、鉄、クロム、コバルト、スズ、ジルコニウムなどの金属の酸化物を被覆したもの、金属アルミニウムフレーク、金属チタンフレーク、ステンレスフレーク、ガラスフレーク、マイカフレークなどが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。但しこれらのその他の光輝性顔料を用いる場合は、本発明における金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)によって呈される色相に悪影響を及ぼさない量であることを条件とする。
【0062】
有機系の着色顔料としては、例えば、アゾ系顔料(例えば、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料)、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、イソインドリノン系顔料、スレン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、インジゴ系顔料、ジオキサン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、金属錯体有機顔料などが挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
無機系の着色顔料としては、例えば、酸化チタン、黄鉛、亜鉛華、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー、黄色酸化鉄、ベンガラなどが挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0064】
体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルクなどが挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
光輝性ベース塗料組成物において、全顔料の濃度(PWC)は、5〜50質量%、好ましくは5〜30質量%である。5質量%未満では塗膜にした場合の下地隠蔽性が低下する恐れがあり、50質量%を超えると、仕上り外観が低下する恐れがある。
【0066】
光輝性ベース塗料組成物は、上記鱗片状光輝性顔料に加えて、塗膜形成性樹脂、および必要に応じた硬化剤および他の成分が含まれる。これらの塗膜形成性樹脂、硬化剤および他の成分として、上記ホワイトカラーベース塗料組成物において挙げたものを用いることができる。
【0067】
クリヤー塗料組成物
本発明の方法において、上記クリヤー塗膜は、クリヤー塗料組成物を用いて形成される。本発明の方法で使用することのできるクリヤー塗料組成物としては、特に限定はなく、上塗り塗装用として一般に使用されているクリヤー塗料組成物を用いることができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂およびこれらの変性樹脂などから選ばれた少なくとも1種の熱硬化性樹脂そして必要に応じた上記硬化剤を含むものなどを用いることができる。
【0068】
クリヤー塗料組成物は、必要に応じて、その透明性を損なわない範囲で、あるいは下地の意匠性を妨げない程度であれば、着色顔料、体質顔料、改質剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤などの添加剤を配合することができる。また、特公平8−19315号公報に記載されたカルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーとを含有するクリヤー塗料組成物が、酸性雨対策という観点およびW/W法で上記光輝性ベース塗膜層を形成した際に、光輝性顔料および着色顔料の配向を乱さないという観点から、好ましく用いられる。また、クリヤー塗料組成物は、溶剤型、水性型、粉体型などの種々の形態をとることができる。溶剤型塗料または水性塗料としては、一液型塗料を用いてもよいし、二液型ウレタン樹脂塗料などのような二液型塗料を用いてもよい。
【0069】
溶剤型クリヤー塗料組成物の好ましい例としては、透明性あるいは耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂と、アミノ樹脂および/またはイソシアネートとの組み合わせ、あるいはカルボン酸/エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂などを挙げることができる。
【0070】
また、水性型クリヤー塗料組成物の例としては、上記溶剤型クリヤー塗料組成物の例として挙げたものに含有される塗膜形成性樹脂を、塩基で中和して水性化した樹脂を含有するものを挙げることができる。この中和は重合の前または後に、ジメチルエタノールアミンおよびトリエチルアミンのような3級アミンを添加することにより行うことができる。
【0071】
さらに、上記クリヤー塗料組成物には、塗装作業性を確保するために、粘性制御剤が添加されていることが好ましい。粘性制御剤は、一般にチクソトロピー性を示すものを使用できる。このようなものとして、例えば、従来から公知のものを使用することができる。また、必要により、硬化触媒、表面調整剤などを含むことができる。
【0072】
なお、上記複層塗膜形成方法において用いられるクリヤー塗料組成物としては、有機溶媒の含有量による環境に与える影響の観点から、20℃におけるフォードカップNo.4で20〜50秒の粘度となるように希釈した時のクリヤー塗料組成物の固形分が50質量%以上である溶剤型クリヤー塗料組成物または水性型クリヤー塗料組成物、あるいは、粉体型クリヤー塗料組成物であることが好ましい。
【0073】
複層塗膜形成方法
本発明の方法は、被塗物上に、ホワイトカラーベース塗膜、鱗片状光輝性顔料を含む光輝性ベース塗膜、クリヤー塗膜を順次形成する方法である。
【0074】
被塗物
本発明の複層塗膜の形成方法において用いられる被塗物としては、特に限定されるものでなく、鉄、アルミニウム、マグネシウム、銅、スズ、亜鉛またはこれらの合金などの金属類およびその成形品;ガラス、セメント、コンクリートなどの無機材料;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂などの樹脂類や各種のFRPなどのプラスチック材料およびその成形品または発泡体;木材、繊維材料(紙、布など)などの天然または合成材料などが挙げられる。被塗物は、本発明によって得られる少なくとも3色性の意匠を効果的に発現するため、例えば、乗用車、トラック、オートバイ、バスなどの自動車車体および部品(自動車のボディ、ドアなど)のように、曲面を有しているものであることが好ましい。また、プラスチック成形品としては、具体的には、スポイラー、バンパー、ミラーカバー、グリル、ドアノブなどの自動車部品などを挙げることができる。さらに、これらのプラスチック成形品は、トリクロロエタンで蒸気洗浄または中性洗剤で洗浄されたものが好ましい。また、さらに、静電塗装を可能にするためのプライマー塗装が施されていてもよい。
【0075】
本発明の複層塗膜の形成方法においては、被塗物が自動車車体およびその部品などの場合には、導電性の被塗物を予め脱脂処理や化成処理(リン酸塩、ジルコニウム塩などによる化成処理)を施した後、被塗物に電着塗装、中塗り塗装などの下地塗装を施しておくことが好ましい。
【0076】
電着塗装は、鋼板などの導電性の被塗物に電着塗膜を形成して防錆性を付与することを目的として行われるものである。このような電着塗膜を形成することのできる電着塗料組成物としては、特に限定はなく、当業者によく知られているカチオン型電着塗料組成物およびアニオン型電着塗料組成物をいずれも使用することができる。防錆性の観点からカチオン型電着塗料組成物が好ましく、なかでも、エポキシ系のカチオン型電着塗料組成物が特に好ましい。
【0077】
本発明において、被塗物が自動車車体または鋼板である場合、電着塗膜形成前に、脱脂、水洗、化成皮膜形成、水洗、純水洗、乾燥までの前処理を従来公知の方法で行うことが好ましい。電着塗膜形成方法は、従来公知の方法の中から、適当な方法を任意に選択すればよい。また、電着塗膜形成条件、焼き付け硬化条件、電着塗膜の厚さなどに関しても、被塗物の種類および使用する電着塗料組成物の種類などに応じて、適宜決定することができる。
【0078】
中塗り塗装は、必要に応じて形成された電着塗膜の上に中塗り塗膜層を形成して、下地隠蔽性、耐チッピング性、上塗り塗膜層との密着性などの性能の向上を目的として行われる。また中塗り塗膜層は、最終の光輝性複層塗膜を平滑にし、外観の良好な塗膜とするための下地としても機能する。中塗り塗膜層はさらに、電着塗膜層と上塗り塗膜層との間のバインダーとなり、かつ、塗膜表面を通じて到達する紫外線や水による塗膜の劣化に対する耐候性が要求される。
【0079】
中塗り塗膜層を形成することができる中塗り塗料組成物としては、特に制限はなく、当業者によく知られている溶剤型塗料のほか、水性塗料、粉体塗料またはハイソリッド型塗料なども用いることができる。具体的には、エポキシエステル/メラミン系樹脂、アルキッド/メラミン系樹脂またはオイルフリーポリエステル/メラミン系樹脂塗料、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とアミノ樹脂および/またはイソシアネート硬化剤とを組み合わせた中塗り塗料組成物など、従来公知の中塗り塗料組成物の中から適宜選択して用いることができる。
【0080】
中塗り塗膜層の形成方法は、従来公知の方法の中から適当な方法を任意に選択することができる。また、本発明では、カーボンブラックと二酸化チタンとを主要顔料としたグレー系中塗り塗料組成物や、上塗り塗膜層との明度および色相を合わせたセットグレーや各種の着色顔料を組み合わせた、いわゆるカラー中塗り塗料組成物を用いることができる。これらのカラー中塗り塗料組成物は、中塗り塗膜層と上塗り塗膜層との複合色を発現させ、意匠性をさらに高めることができる。また、これらの中塗り塗料組成物に、アルミニウム粉、マイカ粉などの扁平顔料を添加してもよい。さらに、中塗り塗料組成物には、塗料に通常添加することのできる添加剤、例えば、表面調整剤、酸化防止剤、消泡剤などを配合してもよい。中塗り塗膜層の乾燥膜厚は、20〜100μmが好ましく、より好ましくは30〜50μmである。
【0081】
中塗り塗膜層は、被塗物または電着塗膜の上に塗装された後、未硬化の状態でも用いることができ、また硬化させた状態で用いることもできる。上記中塗り塗膜を硬化させる場合には、硬化温度は100〜180℃、好ましくは120〜160℃に設定することで高い架橋度の硬化塗膜が得られる。上限を超えると、塗膜が固く脆くなり、下限以下では硬化が充分でない。硬化時間は硬化温度により変化するが、120℃〜160℃で10〜30分が適当である。
【0082】
ホワイトカラーベース塗料組成物、光輝性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物の塗装
本発明の方法においては、上記被塗物上に、上記ホワイトカラーベース塗料組成物を塗装して硬化させた後に、光輝性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物をこの順でウェットオンウェットで塗装し、次いでこれらの塗膜を同時に硬化させる、3コート2ベークの方法で塗膜形成を行うことが好ましい。また、次のような3コート1ベーク塗装方法にも適用できる。すなわち、上記被塗物上に、上記ホワイトカラーベース塗料組成物を塗装し、次に光輝性ベース塗料組成物をウェットオンウェットで塗装し、さらにクリヤー塗料組成物をウェットオンウェットで塗装して、3層同時に硬化させる塗膜形成方法である。
【0083】
上記ホワイトカラーベース塗料組成物の塗装方法は、例えば、自動車車体などに塗装する場合には、意匠性を高めるためにエアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装する方法、あるいは、エアー静電スプレー塗装と、通称「μμ(マイクロマイクロ)ベル」、「μ(マイクロ)ベル」または「メタベル」などと言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法であることが好ましい。
【0084】
上記ホワイトカラーベース塗料組成物の塗布により形成されるホワイトカラーベース塗膜の乾燥膜厚は所望の用途により変化するが、多くの場合、下限20μm、上限60μmであることが好ましい。20μm未満であると、下地が隠蔽できず膜切れが発生するおそれがある。60μmを超えると、塗装時に流れなどの不具合が生じるおそれがある。上記下限は、25μmであることがより好ましく、上記上限は、45μmであることがより好ましい。
【0085】
上記3コート2ベークにより複層塗膜を形成する場合においては、上記ホワイトカラーベース塗料組成物を塗装した後、得られた塗膜を加熱硬化させる。硬化温度は、100〜180℃であることが好ましい。100℃未満では、硬化が不充分であるおそれがある。180℃を超えると、塗膜が固く脆くなるおそれがある。上記硬化温度は120〜160℃であることがより好ましい。硬化時間は、硬化温度により変化するが、120〜160℃である場合、10〜30分であることが好ましい。3コート2ベークにより複層塗膜を形成する場合においては、こうして硬化したホワイトカラーベース塗膜上に、光輝性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物をウェットオンウェットでこの順に塗装し、次いで、形成された未硬化の光輝性ベース塗膜およびクリヤー塗膜を硬化させることによって硬化した光輝性ベース塗膜およびクリヤー塗膜を形成する。
【0086】
上記3コート1ベークにより複層塗膜を形成する場合においては、上記ホワイトカラーベース塗料組成物を塗装した後、加熱硬化させることなく、光輝性ベース塗料組成物を塗装する工程に移る。この場合において、必要に応じて、光輝性ベース塗料組成物を塗装する前に、加熱硬化(焼付け)処理で用いられる温度より低い温度、例えば40〜100℃で1〜10分間加熱して、水分などの溶媒を揮散させる、プレヒート工程を行ってもよい。
【0087】
上記光輝性ベース塗料組成物の塗装方法としては、上記ホワイトカラーベース塗料組成物と同様に、上述の回転霧化式の静電塗装機により塗装する方法を挙げることができる。形成される光輝性ベース塗膜の乾燥膜厚は、下限8μm、上限30μmであることが好ましい。8μm未満であると、鱗片状光輝性顔料による意匠性が充分得られないおそれがある。30μmを超えると、鮮映性が低下したり、流れなどの不具合を生じるおそれがある。上記下限は10μmであることがより好ましく、上記上限は20μmであることがより好ましい。
【0088】
上記光輝性ベース塗料組成物を塗装した後、加熱硬化させることなく、クリヤー塗料組成物を塗装する工程に移る。この場合において、必要に応じて、クリヤー塗料組成物を塗装する前に、加熱硬化(焼付け)処理で用いられる温度より低い温度、例えば40〜100℃で1〜10分間加熱して水分などの溶媒を揮散させる、プレヒート工程を行ってもよい。
【0089】
上記クリヤー塗料組成物の塗装方法としては、上記ホワイトカラーベース塗料組成物と同様に、上述の回転霧化式の静電塗装機により塗装する方法が好ましい。上記クリヤー塗料組成物により形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、一般に、下限20μm、上限70μmが好ましい。20μm未満であると、下地の凹凸の隠蔽が不充分であるおそれがある。70μmを超えると、塗装時にワキあるいはタレなどの不具合が生じるおそれがある。上記下限は25μmであることがより好ましく、上記上限は60μmであることがより好ましい。
【0090】
3コート2ベーク法においては上記光輝性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を塗装した後、また3コート1ベーク法においては上記ホワイトカラーベース塗料組成物、光輝性ベース塗料組成物およびクリヤー塗料組成物を塗装した後、これらの未硬化の塗膜を硬化させる。硬化温度は、下限100℃、上限180℃であることが好ましい。100℃未満であると、硬化が不十分となるおそれがある。180℃を超えると、塗膜が固く脆くなるおそれがある。高い架橋度の硬化塗膜を得られる点で、下限は120℃であることがより好ましく、上限は160℃であることがより好ましい。硬化時間は硬化温度により変化するが、120〜160℃の場合、10〜30分が好ましい。
【0091】
本発明の複層塗膜形成方法により形成される積層塗膜の膜厚は、下限30μm、上限300μmであることが好ましい。30μm未満であると、膜自体の強度が低下するおそれがあり、300μmを超えると、冷熱サイクルなどの膜物性が低下するおそれがある。上記下限は50μmであることがより好ましく、上記上限は250μmであることがより好ましい。
【0092】
本発明の複層塗膜の形成方法によって得られる複層塗膜は、被塗物上に形成された、ホワイトカラーベース塗膜、光輝性ベース塗膜およびクリヤー塗膜の3層から構成される。そしてこの複層塗膜は、いわゆるホワイトパール色において、視認角度に依存してホワイトパール色が呈する反射色の色相が大きく変化し、3色の反射色を認識することができる、独特な意匠を有する複層塗膜である。このように本発明においては、ホワイトパール色において色相が大きく変化し、3色の色相を認識できる点に特徴がある。
【0093】
本発明においては、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)を併せて用いる。そしてこれらの顔料において、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)が、入射角15°および受光角−5°のハイライト部で奏でる干渉色の色相をマンセル色相環100の基準(0位置)として、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)は、−10〜−30の色相範囲、または+10〜+30の色相範囲の干渉色を奏でる顔料を用いる。このように本発明においては、加法混色を示す反射色の色相において、上記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)を組み合わせて用いることによって、各顔料が呈する干渉色が打ち消しあわず、顔料それぞれが奏でる干渉色を視認することができることとなる。これにより、視認角度に依存して、ホワイトパール色が呈する反射色の色相が大きく変化し、3色の反射色を認識することができる、従来にない独特な意匠が達成されることとなった。そしてこのような本発明の方法を、自動車車体および部品などに適用することにより、外観の高級感を高めることができるという利点がある。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。尚、以下の実施例において、「部」および「%」はそれぞれ「質量部」および「質量%」を意味する。
【0095】
製造例1 ホワイトカラーベース塗料組成物の製造
オルガP−30ホワイトカラーベース塗料(商品名、日本ペイント社製)を用いて、塗装前に25秒/20℃になるようにNo.4フォードカップで粘度調整した。このホワイトカラーベース塗料組成物の白色系顔料含有量(PWC)は45質量%であった。
【0096】
製造例2 塗膜形成性樹脂の製造
窒素導入管、撹拌機、温度調節機、滴下ロートおよび冷却管を備えた2Lの反応容器にプロピレングリコールエチルエーテル450部を仕込んで、温度を107℃とした。次に、アクリルアミド100部をプロピレングリコールメチルエーテル200部に溶かし、これにスチレン50部、2−エチルヘキシルメタクリレート200部、n−ブチルアクリレート313部、メタクリル酸77部、プラクセルFM−1(商品名、水酸基含有重合性単量体、ダイセル社製)260部およびt−ブチルパーオキシ−2−ヘキサノエート8部を混合することによりモノマー溶液を別途調製した。このモノマー溶液を反応容器に、撹拌下、3時間かけて滴下した後、30分間撹拌を継続し、更にt−ブチルパーオキシ−2−ヘキサノエート5部とプロピレングリコールメチルエーテル50部との混合液を15分間で滴下した後、1時間攪拌を継続し、樹脂固形分が59%、数平均分子量13000、水酸基価60および酸価50mgKOH/gのアクリル樹脂を得た。
このアクリル樹脂500部を、樹脂固形分が75%になるまで脱溶剤し、ジメチルエタノールアミン23.4部およびイオン交換水925部を加えて、樹脂固形分が22%の水溶性アクリル樹脂を得た。
【0097】
実施例1
光輝性ベース塗料組成物の製造
上述の製造例2で得られた水溶性アクリル樹脂273部に、鱗片状光輝性顔料である「Colorstream T20−02WNT Arctic Fire」(金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、メルクジャパン社製)5部、および「Xirallic T60−23WNT Galaxy Blue」(金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料(a2)、メルクジャパン社製)5部を加えて均一分散し、更に、メラミン樹脂「サイメル202」(三井サイテック社製)50部およびアクリル系表面調整剤0.20部を加えて均一分散することにより、光輝性ベース塗料組成物を得た。
【0098】
複層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理した厚さ0.8cm、20cm×30cmのダル鋼板に、カチオン電着塗料「パワートップU−50」(日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた。次に、得られた電着塗膜上に、グレー色の中塗り塗料「オルガP−2グレー」(ポリエステル・メラミン樹脂系塗料、日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装し、140℃で20分間焼き付け下地塗膜を作成した。
得られた中塗り塗膜上に、上述の製造例1で得られたホワイトカラーベース塗料組成物を、乾燥膜厚が15μmとなるように、2分間隔の2ステージで「オートREA」(ランズバーグ社製エアー静電塗装機)により塗装し、8分間のインターバルの後、140℃で20分間焼き付け硬化させた。得られたホワイトカラーベース塗膜の色相はマンセル表示でN9であった。
次いで、上記により得られた光輝性ベース塗料組成物を、乾燥膜厚が15μmとなるように、2ステージ塗装した。2回の塗布の間に、1.5分間のインターバルを行った。2回目の塗布後、3分間セッティングを行った後、80℃で3分間プレヒートを行った。次いで、クリヤー塗料組成物である「MAC O−1820クリヤー」(酸・エポキシ硬化型アクリル樹脂系塗料、日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が30μmとなるように、μμベルにより回転霧化型静電塗装した。その後、140℃で20分間焼き付け、評価用塗膜を作成した。
【0099】
実施例2〜4、比較例1〜5
上記光輝性ベース塗料組成物中の鱗片状光輝性顔料である「Xirallic T60−23WNT Galaxy Blue」および「Colorstream T20−02WNT Arctic Fire」を、表1に示す種類の顔料および含有量に変更した以外は、実施例1と同様にして評価用塗膜を作成した。
【0100】
上記実施例および比較例により得られた評価用塗膜を用いて、下記評価を行った。
【0101】
入射角および受光角に依存する色相変化の測定
(株)村上色彩技術研究所製「三次元変角分光測色システムGCMS−4」を用いて、入射角および受光角を図2に示す通り変更させた。得られた評価用塗膜を用いて、入射角15°:受光角−5°(ハイライト)、入射角35°:受光角−25°(中間)、入射角60°:受光角−50°(シェード)における色相について、a*値およびb*値を測定した。
上記a*およびb*は、L*a*b*表色系(CIE 1976)による、被測定物の色を表すのに用いられる指標である。このa*およびb*は、JIS Z8729に準拠して求められる。a*およびb*は、クロマティクネス指数と呼ばれ、色の方向を表す。a*は0を基準とし、数値がマイナスになる場合は被測定物質の色相において緑色度が、数値がプラスになる場合は赤色度が増すことを意味する。またb*は0を基準とし、数値がマイナスになる場合は被測定物質の色相が青色度を、プラスになる場合は黄色度を増すことを意味する。なおa*およびb*ともに0の場合は、色味がない無彩色となる。
【0102】
目視による色相評価
村上色彩研究所社製の三次元変角分光測色システムGCMS−4を用いて図2に示す通り、入射角15°:受光角−5°(ハイライト)、入射角35°:受光角−25°(中間)、および入射角60°:受光角−50°(シェード)の位置で評価塗膜を観察した。
こうして観察された色相について、1943年に米国光学会(Optical Society of America)の測色委員会で尺度が示された色票集の色見本に基づき、目視による対比評価を行うことによって決定した。
【0103】
多色性評価
上記評価を総合的に勘案し、以下の基準で評価した。
○:視認角度に従い反射色の色相が変化し、3色の色相を認識できる。
×:視認角度を変えても3色の色相を認識することができない。
【0104】
【表1】

【0105】
実施例1、2および比較例1、2は、ブルー/レッド/グリーンの3色の色相の発現を試みた実験例である。実施例1、2では何れも、ハイライト部でグリーンの、中間部でブルーの、シェード部でレッドの色相を認識することができた。
比較例1、2は、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料のみで3色の発現を試みた実験例である。これらの比較例1、2においては、ハイライド部でターコイズの色相が認識できたものの、中間部およびシェード部では特定の色相を認識することができなかった。これは、ハイライト部においては、ブルー/レッド/グリーンの3色の並置加法混色が生じてターコイズの色相が認識され、そして中間部およびシェード部では加法混色が生じて特定の色相を認識することができなかったものと考えられる。
比較例3は、2色の干渉色を奏でる金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)のみを用いた実験例である。この場合、ハイライト部とシェード部とを比較すると大きな色相の変化は確認できるものの、ハイライト部と中間部ではほぼ同じ色相が確認された。このため、視認角度を変えても3色の色相を認識することはできなかった。
【0106】
これらの実施例1、2および比較例1〜3における、入射角および受光角に依存する色相変化の測定結果のグラフ図および目視による色相評価の範囲を図3に示す。
【0107】
実施例3および比較例4は、レッド/グリーン/イエローの3色の色相の発現を試みた実験例である。実施例3においては、ハイライト部でグリーンの、中間部でイエローの、シェード部でレッドの色相を認識することができた。
比較例4は、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)のみで3色の発現を試みた実験例である。比較例4においては、ハイライト部でイエローの色相が認識できたものの、中間部およびシェード部では特定の色相を認識することができなかった。これは、ハイライト部においては最も発色が強いイエローのみが認識され、そして中間部およびシェード部では加法混色が生じて特定の色相を認識することができなかったものと考えられる。
【0108】
これらの実施例3および比較例4における、入射角および受光角に依存する色相変化の測定結果のグラフ図および目視による色相評価の範囲を図4に示す。
【0109】
実施例4および比較例5は、イエロー/グリーン/ゴールドの3色の色相の発現を試みた実験例である。実施例4においては、ハイライト部でイエローグリーンの、中間部でグリーンの、シェード部でブルーの色相を認識することができた。
比較例5は、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料のみで3色の発現を試みた実験例である。比較例5においては、ハイライト部でブルーの色相が認識できたものの、中間部およびシェード部では特定の色相を認識することができなかった。これは、ハイライト部においては最も発色が強いブルーのみが認識され、そして中間部およびシェード部では加法混色が生じて特定の色相を認識することができなかったものと考えられる。
【0110】
これらの実施例4および比較例5における、入射角および受光角に依存する色相変化の測定結果のグラフ図および目視による色相評価の範囲を図5に示す。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の複層塗膜の形成方法によって得られる複層塗膜は、視認角度に依存してホワイトパール色が呈する反射色の色相が大きく変化し、3色の反射色を認識することができる、独特な意匠を有する複層塗膜である。本発明の方法を、自動車車体および部品などに適用することにより、外観の高級感を高めることができるという利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物上に、ホワイトカラーベース塗膜を形成し、鱗片状光輝性顔料を含む光輝性ベース塗膜を形成し、更にクリヤー塗膜を形成する、複層塗膜の形成方法であって、
前記鱗片状光輝性顔料は、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)、および金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)、を少なくとも含有するものであり、
前記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)が、入射角15°および受光角−5°のハイライト部で奏でる干渉色の色相をマンセル色相環100の基準(0位置)として、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合、前記金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)は、−10〜−30の色相範囲、または+10〜+30の色相範囲の干渉色を奏でる顔料である、
複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)は、入射角15°および受光角−5°のハイライト部で奏でる干渉色の色相をマンセル色相環100の基準(0位置)として、色相環を左回り−50および右回り+50で表示した場合、入射角60°および受光角−50°のシェード部で奏でる干渉色の色相が−30〜−50の色相範囲または+30〜+50の色相範囲を奏でる顔料である、請求項1記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)および前記金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)の合計顔料濃度(PWC)は1〜30質量%であり、前記金属酸化物被覆シリカフレーク顔料(a1)と前記金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料および/または金属酸化物被覆マイカフレーク顔料(a2)との質量比は、(a1)/(a2)=7/3〜3/7である、請求項1または2記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の複層塗膜の形成方法により得られた複層塗膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−11302(P2012−11302A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149644(P2010−149644)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】