説明

複数のリザーバを備える薬剤送達デバイス

本発明は、第1及び第2のポンプチャンバを有するポンプ手段を備えた、設定投与量の薬剤を送達するための薬剤送達デバイスに関する。第1のポンプチャンバは、第1の収縮可能リザーバから出口構成部に薬剤を移送し、前記出口構成部は、接続される皮下注射針と流体連通状態にある。第2のポンプチャンバは、第2のリザーバから出口構成部に物質を移送し、第1のポンプチャンバは、一又は複数のポンプストロークの間に設定投与量の薬剤を送達し、前記一又は複数のポンプストロークのストローク量は可変である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のリザーバから人体に液体薬剤を送達するための薬剤送達デバイスに関する。この薬剤送達デバイスは、2つのポンプチャンバを備える変位ポンプを使用し、これらのチャンバの少なくとも一方は、押し出しストローク量が可変である。
【背景技術】
【0002】
1つの先行技術の薬剤送達デバイスが、米国特許出願公開第2002/007154号において開示されている。米国特許出願公開第2002/007154号による薬剤送達デバイスにおいては、液体薬剤が、ピストンにより一方の端部を閉じられたガラス製カートリッジ中に保管される。典型的には3mlの液体薬剤が、このガラス製カートリッジ中に保管される。さらに、米国特許出願公開第2002/007154号の薬剤送達デバイスは、ピストンに対して作用するピストンロッドを備え、このピストンロッドは、薬剤送達デバイスの遠位端部の上に設置された管路を介してガラス製カートリッジの全内容物を押し出すのに十分な長さを有する。米国特許出願公開第2002/007154号に開示されるように、ピストンロッドは、薬剤送達デバイスの全長を短くするために折曲可能であるが、この折曲により、送達デバイスの幅が増大する。
【0003】
当技術において知られている最も洗練された薬剤送達デバイスの1つは、米国特許出願公開第2002/007154号に開示される送達デバイスであるが、これは、複数の重大な欠点を有する。
【0004】
米国特許出願公開第2002/007154号に開示されるものと同様のタイプの従来の薬剤送達デバイスの主な欠点は、正確な薬剤量を投与するために実施可能な唯一の方法が、ピストンの機械的変位を制御することによるものである点である。理想的なピストン位置からのごくわずかな偏移でさえもが、薬剤の過剰投与又は過少投与につながり得るため、この変位は、投与ピストンの部分が大きいことにより、極めて首尾よく制御されなければならない。従来の薬剤投与デバイスの別の欠点は、カートリッジから薬剤を押し出すためのピストンロッドの長さが、薬剤を収容しているカートリッジの長さと少なくとも一致する必要があることである。したがって、ピストンロッドの長さは、薬剤送達デバイスの全長を本質的に必要とする。
【0005】
上述のタイプの薬剤送達デバイスの別の複雑な問題は、ピストンを変位させるために比較的大きな力が必要となることである。したがって、機械的作動システムに対して、高い機械的要求が課される。
【0006】
長いピストンロッドが必要であること、及び機械的作動システムに対して高い機械的要求が課されることにより、米国特許出願公開第2002/007154号に開示されるものと同様の送達デバイスは、非常に大きくて扱いにくい傾向がある。
【0007】
より小さく、より扱いやすい投与システムが、同文献において開示されている。コンパクトで可搬式のシステムについての1つの良好な例が、WO03/099358に記載されている。WO03/099358に開示されるデバイスは、小さいが、事前充填式の使い捨ての自動注入器である。WO03/099358に開示されるシステムの1つの重大な制約は、このシステムが、最新の治療においてしばしば求められる投与量設定の自由度を欠くことである。例えば、糖尿病の治療のために薬剤が必要である場合などには、様々な投与量が要求される。患者に送達すべき正確な投与量は、とりわけ最近の炭水化物摂取量により、及び最近の運動量により、決定される。したがって、糖尿病などの疾病の効果的な治療には、このデバイスが様々な投与量を送達することが可能であることが必要となる。
【0008】
非常に多数の様々な投与システムが、同文献において開示されている。とりわけ、記載されているシステムの多くが、小さく、使用に好都合であるのに対して、他のシステムは、正確であり、糖尿病などの難しい疾病の治療にとって必要な自由度を与える。しかし、本明細書の執筆時点においては、小さく、正確であると同時に、簡易で、使用に好都合な、投与システムが必要である。
【0009】
さらに、いくつかの最新の治療は、複数の混和不可能な物質の投与を要する。同文献においては、一度の注入において2つ以上の薬物を送達するのに適したデバイスについては、わずかな情報のみしか開示されていない。
【0010】
本発明の1つの目的は、米国特許出願公開第2002/007154号に記載されるような最先端のデバイスの長所を有しつつ、WO03/099358により例示されるような簡易なデバイスのサイズ及び便利さを有する投与システムに対する新規の方策を提供することであると見なすことができる。
【0011】
本発明の他の目的は、複数の薬剤収容リザーバから設定投与量の薬剤を投与することを可能にする薬剤送達デバイスであって、現時点の最新技術と比較して、より小さく、より軽量なデバイスを提供することであると見なすことができる。
【発明の概要】
【0012】
上述の目的及び他の目的は、通常は可撓性投与システムにおいて使用されるガラス製カートリッジの代わりに、リザーバの内部と周囲環境との間の差圧が非常に低い点が特殊な収縮可能リザーバを代用することによって、満たされる。このリザーバは、複数のポンプチャンバを備える変位ポンプと組み合わされてよく、各ポンプチャンバの押し出しストローク量は、特定の要求に応じて調節することが可能である。
【0013】
収縮可能リザーバ及び、変位量が調節可能な変位ポンプにもとづき、非常に正確な及び軽量の投与システムを得ることが可能である。このコンテクストにおいて、収縮可能リザーバの最も重要な長所は、その圧力中立性であり、すなわち、リザーバ内部の圧力が、リザーバ外部の圧力とほぼ同一であることである。通常の収縮不能なガラス製カートリッジにもとづくリザーバに勝る他の重要な長所は、低重量、コンパクト性、及び低製造コストである。圧力中立性を活用することにより、変位量が調節可能な変位ポンプを使用して、非常に正確な量の薬剤を送達することが可能となる。
【0014】
変位ポンプが、確実な態様で、標準的なガラス製カートリッジにおいて適用されることとなる場合には、ピストンとガラス容器との間の不規則な摩擦を克服するために、力がピストンに加えられなければならない。このことは、ピストンとガラス容器との間の摩擦が非常に可変的であるため、永続的に加圧されるカートリッジを示唆する。しかし、ポンプの故障により薬剤の過剰投与が生じる場合があるため、加圧されるカートリッジは許容し得るものではない。
【0015】
従来のピストンロッド及び駆動機構を回避することにより、薬剤投与デバイスの設計において多大な簡素化を達成することが可能となる。
【0016】
薬剤送達デバイスが、電気機械手段によって作動されることとなる場合には、所与の投与量を送達するために必要なストローク数は、システムの複雑性における犠牲を一切払うことなく、任意に選択することが可能である。
【0017】
薬剤送達デバイスが、手動により、又は単純なばね作動機構により作動されることとなる場合には、このデバイスの作動は、完全な投与量の薬剤が単一のストロークサイクルにおいて測定され送達される場合には、非常に単純化される。このデバイスの機械設計が、単一のストロークの薬剤のみを送達することが可能なものである場合には、さらにこれは、デバイスの安全性を著しく向上させる。この理由は、複数投与量は、機械的機能不全又は電気的機能不全により送達されない可能性があるためである。
【0018】
例えばシート様材料などから収縮可能リザーバの一部を作製することにより、リザーバの外部の圧力がリザーバの内部圧力を超過した場合に容易に収縮可能となるリザーバを作製することが可能となる。後に詳細に説明されるように、「収縮可能な」という語は、外側面が収縮可能であるリザーバに限定されない。この定義は、剛性外側シェルを備えるが、シート様材料から作製された内側収縮可能膜を有するリザーバにも当てはまる。
【0019】
非常に簡易、安価、かつ頑丈な薬剤送達デバイスが求められる場合には、ポンプ手段の直接作動が最善の選択であり得る。直接作動は、典型的には、第三世界向きデバイス又は危篤救命薬を収容するデバイスに対する好ましい選択肢となる。さらに、ポンプユニットの直接作動は、ポンプユニットの機械作動が作動しない場合には、1つの選択肢となり得る。
【0020】
したがって、第1の態様においては、本発明は、
設定投与量の薬剤を送達するための薬剤送達デバイスであって、
第1及び第2のポンプチャンバを備えるポンプ手段と、
薬剤を収容する第1の収縮可能リザーバであって、第1のポンプチャンバは、この第1の収縮可能リザーバから出口構成部に薬剤を移送し、前記出口構成部は、接続される皮下注射針と流体連通状態にある、第1の収縮可能リザーバと、
液体物質を収容する第2のリザーバであって、第2のポンプチャンバは、この第2のリザーバから出口構成部に物質を移送する、第2のリザーバと
を備え、第1のポンプチャンバは、一又は複数のポンプストロークの間に設定投与量の薬剤を送達し、前記一又は複数のポンプストロークのストローク量が可変である、薬剤送達デバイスに関する。
【0021】
同様に、第2のポンプチャンバは、一又は複数のポンプストロークの間に物質を送達するようになされてよい。
【0022】
本内容においては、「収縮可能な」という語は、広く解釈されるべきである。したがって、収縮可能な、とは、リザーバの容積の変化とともにその形態を変化させる可撓性シート様材料を含むリザーバを対象に含む。さらに、収縮可能なという語は、リザーバの容積の変化を可能にする任意の構成を対象に含むことにもなる。容積のこのような変化は、リザーバの内部の圧力が、リザーバの外部の圧力とほぼ同一のレベルに保たれる限りにおいて、リザーバの可動壁部分により実現されることが可能である。
【0023】
本発明のコンテクストにおいては、「皮下注射針」は、広く解釈されるべきであり、すなわち、注入針、輸液セット、顕微針アレイ、又は、機械的に真皮を穿通することにより物質の輸液を可能にする他の適切な手段を含む。
【0024】
第1の収縮可能リザーバの内部と周囲環境との間の約0.1バールの差圧は、許容可能であってよい。しかし、本発明の1つの利点は、第1の収縮可能リザーバ内の内部圧力が、第1の収縮可能リザーバ内の薬剤の量にかかわらず、本質的に同一レベルに保たれるという点である。
【0025】
第1の収縮可能リザーバ内に収容される薬剤は、一又は複数のペプチド、一又は複数のタンパク質、又はそれらの組合せなど、原則的には任意の種類の薬剤であってよい。したがって、ペプチド又はタンパク質には、インスリン、インスリンアナログ、GLPもしくはGLPアナログ、又はそれらの中の1つもしくは複数を含む混合物が含まれてよい。
【0026】
ポンプ手段及び第1の収縮可能リザーバは、互いに対して剛性的に構成されてよい。リザーバとポンプ手段との間のこのような剛性的な構成は、ポンプ手段の一部にリザーバの少なくとも一部を直接装着することによって、確立され得る。ポンプ手段及び収縮可能リザーバは、少なくとも部分的に閉じられたシェル又はハウジングの中に配置されてよい。押し出されるべき投与量の設定を可能にする開口が設けられてよい。
【0027】
第1の収縮可能リザーバは、実質的に剛性の部分及び収縮可能部分を備えてよく、収縮可能部分は、第1の収縮可能リザーバの容量が変化すると、実質的に剛性の部分の少なくとも一部内に収縮するようになされる。第1の収縮可能リザーバの収縮可能部分の内側面の一部が、シート材料を含んでよい。第2のリザーバは、実質的に剛性の部分及び収縮可能部分をやはり備える第2の収縮可能リザーバを含んでよく、収縮可能部分は、第2の収縮可能リザーバの容量が変化すると、実質的に剛性の部分の少なくとも一部内に収縮するようになされる。第1の収縮可能リザーバと同様に、第2の収縮可能リザーバの収縮可能部分の内側面の一部は、シート材料を含んでよい。
【0028】
シート様材料は、多層シート構造体の一部を形成し得る熱可塑性プラスチック材料を含むシートを含んでよい。シート材料は、一又は複数のバリア層をさらに含んでよい。シート材料の厚さは、0.8mm未満、0.5mm未満、0.3mm未満など、1mm未満でよい。
【0029】
第1の収縮可能リザーバ内に収容された薬剤は、第1のポンプチャンバ内の変位ポンプ手段を利用して、第1のリザーバから吸い出されてよい。同様に、第2の収縮可能リザーバ内に収容された薬剤は、第2のポンプチャンバ内の変位ポンプ手段を利用して、第2のリザーバから吸い出されてよい。
【0030】
ポンプサイクルの押し出しストローク及び/又は戻りストロークは、薬剤送達デバイスのユーザによって少なくとも部分的に作動されてよい。したがって、薬剤送達デバイスのユーザによる力の印加を少なくとも部分的に利用して、第1及び/又は第2のポンプチャンバから薬剤を押し出すことができる。代替的には、又は追加的には、ポンプサイクルの押し出しストローク及び/又は戻りストロークは、付勢機構によって少なくとも部分的に作動されてよい。この付勢機構には、トーションばねもしくは線形特性ばねなどのばね、エラストマー要素、ある量の圧縮空気、又はそれらの組合せが含まれてよい。最後に、ポンプサイクルの押し出しストローク及び/又は戻りストロークは、電気機械アクチュエータがマイクロプロセッサを備える電子制御回路により制御されることによって、少なくとも部分的に作動されてよい。
【0031】
第1及び第2のポンプチャンバは、実質的に同時に、出口構成部に薬剤及び物質を送達するようになされてよい。この構成においては、薬剤及び物質は、出口構成部内において及び/又は接続される皮下注射針内において、混合されてよい。薬剤及び物質は、それらがそれぞれ第1及び第2のポンプチャンバ内にある限りにおいて、隔離された状態に保たれることが好ましいことに留意されたい。代替的には、第1及び第2のポンプチャンバは、連続して、出口構成部に薬剤及び物質を送達するようになされる。送達の順番は、任意に選択されてよい。連続して薬剤及び物質を送達することへの要求を満たすために、薬剤送達は、第2のポンプチャンバからの物質の送達を遅延させる送達遅延手段をさらに備えてよい。送達遅延手段は、第2のポンプチャンバ内の物質に作用する変位可能ピストンに作動的に連結される、ばねなどの弾性部材を備えてよい。代替的には、送達遅延縁手段は、第2のポンプチャンバ及び出口構成部と流体連通状態にある、流れの容積が縮小された管部分を備えてよい。
【0032】
本発明による薬剤送達デバイスは、薬剤送達デバイスのユーザが押し出されるべき薬剤の投与量を設定することを可能にする、投与量算出手段をさらに備えてよい。薬剤送達手段は、収縮可能リザーバが空であること、又は空に近づいたことを、したがって交換される必要があることを、薬剤送達デバイスのユーザに通知する、内容物終了示唆手段をさらに備えてよい。
【0033】
薬剤送達デバイスは、薬剤送達デバイスのユーザが薬剤の適切な投与量を決定するのを補助するための手段をさらに備えてよい。この補助手段は、薬剤送達デバイスに固定されるモジュールの一部を少なくとも形成してよい。制御ユニットがさらに設けられてよい。この制御ユニットは、薬剤送達デバイスと、及び/又は薬剤送達デバイスに固定されるモジュールと通信するようになされてよい。
【0034】
薬剤送達デバイスは、薬剤送達デバイスの上に、又は薬剤送達デバイスに固定されるモジュールの上に、又は例えば薬剤送達デバイスなどと通信する制御ユニットの一部として設置された、少なくとも1つの表示部材をさらに備えてよい。
【0035】
薬剤送達デバイス、薬剤送達デバイスに固定されるモジュール、又は制御ユニットは、薬剤送達デバイス、装着されたモジュール内に、又は制御ユニット内に設置された、少なくとも1つのマイクロコントローラをさらに備えてよい。このマイクロコントローラは、投与量情報が、送達される投与量を制御するための電気機械手段に送られるのを、補助してよい。
【0036】
本発明による薬剤送達デバイスに電力を供給するために、このデバイスは、電池などの電源手段を備えてよい。
【0037】
最後に、薬剤送達デバイスは、皮下注射針を備えてよい。
【0038】
第2の態様においては、本発明は、
第1及び第2のポンプチャンバを備えるポンプ手段を提供するステップと、
薬剤を収容する第1の収縮可能リザーバを提供し、第1の収縮可能リザーバから出口構成部に薬剤を移送するステップであって、前記出口構成部は、接続される皮下注射針と流体連通状態にある、ステップと、
液体物質を収容する第2のリザーバを提供し、この第2のリザーバから出口構成部に物質を移送するステップと
を含み、一又は複数のポンプストロークの間に、移送される薬剤及び液体物質を送達し、前記一又は複数のポンプストロークのストローク量が可変である、薬剤送達デバイスから設定投与量の薬剤を送達するための方法に関する。
【0039】
したがって、本発明によれば、ストローク量は、押し出されるべき薬剤の投与量に応じて設定される。このことは、ストローク量が、単一のポンプストロークにおいて、又は、場合によっては異なるストローク量である一連のポンプストロークにおいて、設定投与量を押し出すように設定され得ることを示唆する。したがって、最大で10、8、6、4、又は2つのポンプストロークを行って、設定投与量の薬剤を押し出してよい。既述のように、単一のポンプストロークを行って、完全な投与量を押し出してもよい。
【0040】
同様に、設定投与量の薬剤は、第1のストローク量を有する第1のポンプストロークにより押し出されてよく、前記第1のポンプストロークの後には、第2のストローク量を有する第2のポンプストロークが続くが、ここで、第1のストローク量は、第2のストローク量とは異なる。また、第1及び第2のストローク量は、同等であってもよく、行われるポンプストローク数は、2つでなくともよい。
【0041】
以下、添付の図面を参照として、本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明による薬剤送達デバイスの機構の主要作動部分の可能な一設計の一例を示す図である。
【図2】薬剤及び物質が第1及び第2のポンプチャンバ内にくみ上げられる仕組みを示す図である。
【図3】薬剤及び物質が第1及び第2のポンプチャンバから押し出される仕組みを示す図である。
【図4】連続して薬剤及び物質を送達することが可能な薬剤送達デバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、様々な修正及び代替の形態が可能であるが、特定の実施形態が、図面において例として示されており、本明細書において詳細に説明される。しかし、本発明は、開示される特定の形態に限定されることを意図されないことを理解されたい。逆に、本発明は、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の趣旨及び範囲内に含まれるあらゆる修正形態、均等物、及び代替形態を包含する。
【0044】
本発明は、その最も一般的な態様においては、ポンプストローク量が調節可能なある種の変位ポンプ、及びそれぞれのポンプチャンバと流体連通状態にある複数の薬剤収容リザーバを備える、薬剤送達デバイスに関する。この構成により助長されて、この薬剤送達デバイスは、一又は複数の調節されたポンプストロークを行うことによって任意に事前設定された投与量の薬剤を押し出すことが可能となる。送達される投与量は、ポンプストローク数によってだけではなく、選択されたストローク量によっても決定されるため、1つ又はいくつかのポンプストロークによって、非常に高い投与量精度を得ることが可能となる。
【0045】
したがって、本発明による薬剤送達デバイスの1つの利点は、このポンプ構成のストローク量を、押し出されるべき薬剤の設定投与量と一致させるように調節することが可能であるため、送達される投与量が、ポンプストローク数に対応しない点である。
【0046】
次に、図1、図2及び図3を参照として、本発明による例示の薬剤送達デバイスの機能を説明する。この薬剤送達デバイスの中心をなすものは、少なくとも1つの収縮可能リザーバ1である。任意には、追加的な第2のリザーバ2が、収縮可能リザーバであってよい。収縮可能リザーバ1は、このリザーバの内側の少なくとも一部が収縮可能であり、リザーバの内部と周囲環境との間に低い差圧のみが存在する、という共通点をそれぞれが有する複数の異なる様式において、作製することが可能である。したがって、収縮可能であることにより、リザーバは、収縮可能又は可撓性の内壁構造を有することによりリザーバの容量が可変となることによって、その容量を変更することが可能となるとともに、リザーバの内部と周囲環境との間の低い差圧を保つことが可能となる。
【0047】
図1においては、薬剤送達デバイスの一実施形態が、断面図において示される。図1において分かるように、2つのリザーバ1、2は、ハウジング構造部3に装着され、このハウジング構造部3には、変位ポンプ4及び注入針5もまた装着される。リザーバ1、2は、ハウジング構造部3の各中空部分10、11の中に配置される。明瞭化のために、ポンプ機構の詳細な機能が、図2及び図3において示される。
【0048】
次に図2を参照すると、薬剤送達デバイスの全体的な機能は、矢印によって示されるピストン8、9の引き戻しにより、薬剤が、管路12、13を経由してリザーバ1、2から各ポンプチャンバ6、7に引かれるものである。ピストンの引き戻しは調節可能であるため、ポンプチャンバ6、7に合わせて薬剤の量を調節することができる。2つのリザーバの薬剤は、ポンプチャンバ6、7内においては、完全に隔離された状態に保たれる。このようにして、ポンプチャンバ内における意図的でない化学反応が、回避される。各管路12、13は、逆止弁を備え、それにより、ポンプチャンバ6、7内にある薬剤がピストン8、9によって加圧される場合に、薬剤がリザーバに戻ることが防止される。
【0049】
ポンプチャンバ6、7に適合される薬剤を送達するために、ピストン8、9は、それらの元の位置に戻される。図3を参照されたい。ピストン8、9を元の位置に戻すと、各ポンプチャンバは空にされ、ポンプチャンバ8の薬剤とポンプ7の薬剤とが注入針5を経由して薬剤送達デバイスから押し出される際に、この両薬剤は混合される。
【0050】
図4は、連続して2つのリザーバから薬剤を送達することが可能な薬剤送達デバイスを示す。これを実現するために、機械式遅延構成部14、15が、図4に示される。機械式遅延構成部は、以下の様式で機能する。ポンプチャンバ6、7が、図2に図示されるように薬剤で充填される。ピストン8及び16が、デバイスから薬剤を押し出すために元の位置に戻されると、線形特性ばね14が、圧縮されて、ピストン15を実質的に変更されない位置に残す。ピストン15の位置が、実質的に変わらない一方で、ピストン8は、その元の位置に戻ることが可能とされ、これにより、ポンプチャンバ6の薬剤が、注入針5を経由して押し出される。ポンプチャンバ6が空にされると、線形特性ばねの長さは、その元の長さに伸長し、これにより、ピストン15は、前方に移動されて、ポンプチャンバ7を空にさせる。このようにして、ポンプチャンバ6、7の薬剤が、連続して送達される。
【0051】
本発明による薬剤送達デバイスにおいて使用されることとなる収縮可能リザーバは、その最も簡易な形態においては、折り返され、溶接されて、密閉されたバッグを形成する、シート材料から作製される。このタイプの収縮可能リザーバが使用される場合には、ある種の結合ユニットをリザーバに装着することが通常は必要となる。簡易的なリザーバ用のシート材料は、様々な材料から選択することが可能であるが、好ましい材料は、熱可塑性プラスチック、又は少なくとも1つの層の熱可塑性プラスチック材料を含む積層体である。シート材料は、リザーバの製造のために使用される場合には、複数の異なる要求を満たすべきである。最も重要なことは、リザーバが、優れたバリア特性を有し、リザーバ内に保管されることとなる薬剤に対する適合性を有するべきであることである。さらに、この材料は、加工可能であるべきであり、すなわち、シート材料を接合する好ましいプロセスとして溶接が選択される場合に、この材料は溶接可能であるべきである。さらに、この材料は、加工、輸送、及び使用の際に受けることとなる機械的負荷に耐え得るものであるべきである。しばしばシート材料に課される、最後の要求は、致命的な劣化を伴わずにこの材料を滅菌することが可能であるべきであることである。
【0052】
シート材料に対する多数の相反する要求により、シート材料は、異なる特性を有する2つ以上の層から作製される多層構造体であってよい。しばしば、シート材料は、所要の機械的特性を有する複数の熱可塑性プラスチックの層からなる積層体から主に作製される。一又は複数のバリア層が、熱可塑性プラスチック層の間に挟まれることとなる。無機バリア層の中では、Al、AlO、Al、SiO、SiO、SiNなどの無機材料が、好ましい。x、y、zの数字は、いかなる特定の化学量論的組成物をも指示せず、バリア層が多くの場合には非化学量論的物質となるような様々な数字を表す。有機バリア層の中では、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリパリレン(polyparylene)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリプロピレン(PP)、及びポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)が、好ましい材料である。これらの中で、PP、PVC、COC、及びPCTFEは、高い機械的強度を有する。したがって、これらは、積層体中で、又は単層シートとして、使用され得る。
【0053】
シートの厚さは、シート材料の剛性及びバリア特性に大きく左右される。本発明の好ましい実施形態においては、シート材料の平均的な厚さは、1mm未満である。本発明のより好ましい実施形態においては、シート材料の平均的な厚さは、0.3mm未満である。
【0054】
シート材料の特性に応じて、接着接合、溶接、及び機械的接合を含む、接合のための複数の異なる方策が使用され得る。これらの中では、好ましくはレーザ溶接、高周波溶接、又は熱溶接である溶接が、好ましい。
【0055】
結合ユニットが、リザーバに装着されることとなる場合には、この結合ユニットは、リザーバの材料に対する適合性を有する材料から作製されなければならない。この結合ユニットは、可撓性ゴム隔膜又は剛性結合ユニットのいずれかが可能である。
【0056】
本発明による薬剤送達デバイスにより、治療用タンパク及び/又はペプチドの任意の組合せを含む、原則的には任意の流体、溶液、あるいは懸濁液の注入が容易になることは、明らかである。好ましい実施形態においては、注入される薬剤には、とりわけ糖尿病の治療に適するインスリン、インスリンアナログ、GLP、又はGLPアナログが含まれる。同様に好ましい実施形態においては、注入される薬剤には、ヒト成長ホルモン又はヒト成長ホルモンアナログが含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定投与量の薬剤を送達するための薬剤送達デバイスであって、
第1及び第2のポンプチャンバを備えるポンプ手段と、
薬剤を収容する第1の収縮可能リザーバであって、第1のポンプチャンバが、この第1の収縮可能リザーバから出口構成部に薬剤を移送し、出口構成部が、接続される皮下注射針と流体連通状態にある、第1の収縮可能リザーバと、
液体物質を収容する第2のリザーバであって、第2のポンプチャンバが、この第2のリザーバから出口構成部に物質を移送する、第2のリザーバと
を備え、第1のポンプチャンバが、一又は複数のポンプストロークの間に設定投与量の薬剤を送達し、前記一又は複数のポンプストロークのストローク量が可変である、薬剤送達デバイス。
【請求項2】
第2のポンプチャンバが、一又は複数のポンプストロークの間に物質を送達し、前記一又は複数のポンプストロークのストローク量が可変である、請求項1に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項3】
第1及び第2のポンプチャンバが、実質的に同時に、出口構成部に薬剤及び物質を送達する、請求項1又は2に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項4】
第1及び第2のポンプチャンバが、連続して、出口構成部に薬剤及び物質を送達する、請求項1又は2に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項5】
第2のポンプチャンバからの物質の送達を遅延させる送達遅延手段をさらに備える、請求項4に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項6】
送達遅延手段が、第2のポンプチャンバ内の物質に作用する変位可能ピストンに作動的に連結される、ばねなどの弾性部材を備える、請求項5に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項7】
送達遅延手段が、流れの容積が縮小された管部分を備え、この管部分が、第2のポンプチャンバ及び出口構成部と流体連通状態にある、請求項5に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項8】
第1の収縮可能リザーバが、実質的に剛性の部分及び収縮可能部分を備え、収縮可能部分が、収縮可能リザーバの容量が変化すると、実質的に剛性の部分の少なくとも一部内に収縮する、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項9】
リザーバの収縮可能部分がシート材料を含む、請求項8に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項10】
シート材料が熱可塑性プラスチック材料を含む、請求項9に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項11】
熱可塑性プラスチック材料が多層シート構造体の一部を形成する、請求項10に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項12】
シート材料が一又は複数のバリア層をさらに含む、請求項9ないし11のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項13】
シート材料の厚さが0.8mm未満、0.5mm未満、0.3mm未満など、1mm未満である、請求項9ないし12のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項14】
第2のリザーバが、実質的に剛性の部分と収縮可能部分とを備える第2の収縮可能リザーバを含み、収縮可能部分が、収縮可能リザーバの容量が変化すると、実質的に剛性の部分の少なくとも一部内に収縮する、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項15】
リザーバの収縮可能部分が、熱可塑性プラスチック材料を含むシート材料などの、シート材料を含む、請求項14に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項16】
熱可塑性プラスチック材料が、多層シート構造体の一部を形成する、請求項15に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項17】
シート材料が、一又は複数のバリア層をさらに含む、請求項15又は16に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項18】
シート材料の厚さが、0.8mm未満、0.5mm未満、0.3mm未満など、1mm未満である、請求項15ないし17のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項19】
ポンプサイクルの押し出しストローク及び/又は戻りストロークが、薬剤送達デバイスのユーザによって少なくとも部分的に作動される、請求項1ないし18のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項20】
ポンプサイクルの押し出しストローク及び/又は戻りストロークが、ばね機構によって少なくとも部分的に作動される、請求項1ないし19のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項21】
皮下注射針をさらに備える、請求項1ないし20のいずれか一項に記載の薬剤送達デバイス。
【請求項22】
−第1及び第2のポンプチャンバを備えるポンプ手段を提供するステップと、
−薬剤を収容する第1の収縮可能リザーバを提供し、第1の収縮可能リザーバから出口構成部に薬剤を移送するステップであって、前記出口構成部が、接続される皮下注射針と流体連通状態にあるステップと、
−液体物質を収容する第2のリザーバを提供し、第2のリザーバから出口構成部に物質を移送するステップと
を含む、薬剤送達デバイスから設定投与量の薬剤を送達する方法であって、一又は複数のポンプストロークの間に、移送される薬剤及び液体物質を送達し、一又は複数のポンプストロークのストローク量が可変である、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−519993(P2010−519993A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552180(P2009−552180)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052477
【国際公開番号】WO2008/107378
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(596113096)ノボ・ノルデイスク・エー/エス (241)
【Fターム(参考)】