説明

複数の溶融加工可能なフルオロポリマーを含有するブレンドフルオロポリマー組成物

複数のフルオロポリマー成分を含み、例示的な用途では、コーティング剤として硬質基材または軟質基材のいずれかに適用し得るフルオロポリマー組成物。フルオロポリマー組成物は、それ自体をベースコートまたはオーバーコートとして適用し得、または他の成分と組み合わせてベースコートまたはオーバーコートを調合し得る。一実施形態では、フルオロポリマー組成物は、少なくとも1種の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)および少なくとも2種の化学的に異なる溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)を含む。別の実施形態では、フルオロポリマー組成物は、少なくとも1種の高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HPTFE)、少なくとも1種の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)および少なくとも2種の化学的に異なる溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)を含む。基材に対し、所望によりベースコートおよび/またはミッドコートの上に塗布し、次いで硬化させると、本組成物は、例えば、改善された剥離性、耐摩耗性、半透明性/透明性および透過性などの改善された特性を示すコーティングを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)項の下で、2009年12月18日に出願された「複数成分ブレンドフルオロポリマー組成物(MULTIPLE-COMPONENT BLENDED FLUOROPOLYMER COMPOSITIONS)」と題する米国仮特許出願第61/287,929号、および2010年1月20日に出願された「複数の溶融加工可能なフルオロポリマーを含有するブレンドフルオロポリマー組成物(BLENDED FLUOROPOLYMER COMPOSITIONS WITH MULTIPLE MELT PROCESSIBLE FLUOROPOLYMERS)」と題する米国仮特許出願第61/296,553号に基づく優先権を主張し、これらの全開示内容は参照により明示的に本明細書に組み入れる。
【0002】
発明の背景
1.発明の属する技術分野
本発明は、フルオロポリマーに関し、特に、改善された特性を有するフルオロポリマー組成物、例えば、非粘着性表面および/または耐摩耗性表面が望まれる硬質基材または軟質基材のいずれかに適用し得る種類のコーティングなどに関する。特に、本発明は、複数のフルオロポリマー成分を含み、改善された非粘着性または剥離性および/または改善された耐摩耗性を有するコーティング、ならびにフィルムおよび/またはブレンド粉末組成物を形成するために使用し得るフルオロポリマー組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
フルオロポリマーは、水素原子の一部または全てがフッ素で置換されているエチレン直鎖繰り返し単位を主として含む長鎖ポリマーである。例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、メチルフルオロアルコキシ(MFA)、フルオロエチレンプロピレン(FEP)、ペルフルオロアルコキシ(PFA)、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)およびポリ(ビニルフルオリド)が挙げられる。
【0004】
フルオロポリマーを含む非粘着性コーティング系は、基材の表面に単一の層または複数の層として適用され、異質な材料が付着しない非粘着性コーティングを有するコーティングされた基材を提供する。多層コーティング系では、非粘着性コーティングは、一般的に、プライマーおよびトップコートを含み、所望により1以上のミッドコート(midcoats)を含む。
【0005】
基材に多層で適用される非粘着性コーティング系の使用は長年知られている。そのような系に用いるプライマーには、典型的には、耐熱性有機バインダー樹脂および1種以上のフルオロポリマー樹脂、ならびに様々な不透明顔料および増量剤が含有されている。ミッドコートには、主としてフルオロポリマーが含有され、不透明顔料、増量剤および融合助剤も含有されている。一方、トップコートは、ほぼ全てがフルオロポリマーからなり、例えば、全てが高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HPTFE)からなるか、またはHPTFEと少量の溶融加工可能なフルオロポリマーからなる。
【0006】
グラスクロスは、フルオロポリマーコーティングを用いてコーティングし得る軟質基材の一例である。フルオロポリマーコーティングは、典型的には、高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HPTFE)を、それだけで含むかまたは少量の付加的ポリマーおよび/または増量剤を含めて含む。1つのコーティング技術では、グラスクロス織布を、フルオロポリマーの分散系が入った浸漬タンクに通し、次いでそのコーティングされた織布を上向きに乾燥および焼結用の炉塔に通してそのコーティング剤を硬化または固着させることを含む。このプロセスは、通常複数回繰り返され、それによって最大10以上のコーティング層を施すことができる。
【0007】
硬質基材および/または軟質基材用のコーティング剤などの用途に用いられる、改善された剥離性および/または耐摩耗性などの改善された特性を示す改善されたフルオロポリマー組成物が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、複数のフルオロポリマー成分を含み、例示的な用途では、コーティング剤として硬質基材または軟質基材のいずれかに適用し得るフルオロポリマー組成物を提供する。フルオロポリマー組成物はそれ自体、ベースコートまたはオーバーコートとして適用することができ、または他の成分と組み合わせてベースコートまたはオーバーコートを調合することができる。一実施形態では、フルオロポリマー組成物は、少なくとも1種の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)および少なくとも2種の化学的に異なる溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)を含む。別の実施形態では、フルオロポリマー組成物は、少なくとも1種の高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HPTFE)、少なくとも1種の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)および少なくとも2種の化学的に異なる溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)を含む。基材に対し、所望によりベースコートおよび/またはミッドコートの上に塗布し、次いで硬化させると、本組成物は、例えば、改善された剥離性、耐摩耗性、半透明性/透明性および透過性などの改善された特性を示すコーティングを形成する。
【0009】
その一形態において、本開示は、335℃以下の第1の溶融温度(T)を有する少なくとも1種の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)と少なくとも2種の溶融加工可能なフルオロポリマーとを含み、該少なくとも2種の溶融加工可能なフルオロポリマーが、第1の溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)と該第1の溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)とは化学的に異なる第2の溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)とを含む、フルオロポリマー組成物を提供する。
【0010】
一実施形態では、フルオロポリマー組成物は、少なくとも500,000の数平均分子量(M)を有する高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HLPTFE)を欠いている。少なくとも1種のLPTFEは、該少なくとも1種のLPTFEと少なくとも2種のMPFとの全固形物重量に対して10重量%〜70重量%の間の量で存在してよく、かつ、該少なくとも2種のMPFはともに30重量%〜90重量%の間の量で存在してよく、または少なくとも1種のLPTFEは、該少なくとも1種のLPTFEと少なくとも2種のMPFとの全固形物重量に対して40重量%〜60重量%の間の量で存在してよく、かつ、少なくとも2種のMPFはともに40重量%〜60重量%の間の量で存在してよい。
【0011】
別の実施形態では、フルオロポリマー組成物は、少なくとも500,000の数平均分子量(M)を有する少なくとも1種の高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HPTFE)をさらに含み得る。該少なくとも1種のHPTFEは、該少なくとも1種のHPTFEと少なくとも1種のLPTFEと少なくとも2種のMPFとの全固形物重量に対して1重量%〜89重量%の間の量で存在してよく、または少なくとも1種のLPTFEは、少なくとも1種のHPTFEと少なくとも1種のLPTFEと少なくとも2種のMPFとの全固形物重量に対して16重量%〜60重量%の間の量で存在してよく、HPTFEは1重量%〜60重量%の間の量で存在してよく、かつ、該少なくとも2種のMPFはともに1重量%〜60重量%の間の量で存在してよい。また、少なくとも2種のMPFは、少なくとも1種のHPTFEと少なくとも1種のLPTFEと少なくとも2種のMPFとの全固形物重量に対して各々1重量%〜30重量%の間の量で存在してよい。
【0012】
少なくとも1種のLPTFEは、332℃以下、330℃以下、329℃以下、328℃以下、327℃以下、326℃以下および325℃以下からなる群から選択される第1の溶融温度(T)を有してよく、かつ/または乳化重合によって得られる、凝集、熱分解または放射線照射を受けないものであってよい。
【0013】
フルオロポリマー組成物は、水性分散系の形であってよく、コーティング剤として基材に適用し得る。
【0014】
その別の形態では、本開示は、基材をコーティングする方法を提供し、その方法は、基材を準備する工程;その基材にコーティング組成物を塗布する工程(このコーティング組成物は、335℃以下の第1の溶融温度(T)を有する少なくとも1種の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)と少なくとも2種の溶融加工可能なフルオロポリマーとを含み、該少なくとも2種の溶融加工可能なフルオロポリマーが、第1の溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)と該第1の溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)とは化学的に異なる第2の溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)とを含む);およびその組成物を硬化させてコーティングを形成する工程を含む。
【0015】
その方法は、コーティング組成物塗布工程の前に、少なくとも1種のフルオロポリマーを含むプライマーをその基材に塗布する工程;および所望により、そのプライマーを少なくとも部分的に硬化させる工程の付加的工程をさらに含み得る。その方法は、プライマー塗布工程の後、コーティング組成物塗布工程の前に、少なくとも1種のフルオロポリマーを含むミッドコートをその基材に施す工程;および所望により、そのミッドコートを少なくとも部分的に硬化させる工程の付加的工程をさらに含み得る。その基材は、硬質基材および軟質基材からなる群から選択し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の上記事項およびその他の特徴および利点、ならびにそれらを取得する方法は、以下の本開示の実施形態の説明を添付の図面とあわせて参照することによってより明らかになり、本発明自体がよりよく理解されるであろう。
【図1】図1は、実施例2に対応し、実施例2の試験31の第1回目の溶融ピークおよび融合ピークのDSCプロットである。
【図2】図2は、実施例2に対応し、実施例2の試験31の再溶融ピークのDSCプロットである。
【図3】図3は、実施例2に対応し、実施例2の試験23の第1回目の溶融ピークおよび融合ピークのDSCプロットである。
【図4】図4は、実施例2に対応し、実施例2の試験23の第1回目の再溶融ピークのDSCプロットである。
【図5】図5は、実施例2に対応し、実施例2の試験30の第1回目の溶融ピークおよび融合ピークのDSCプロットである。
【図6】図6は、実施例2に対応し、実施例2の試験30の再溶融ピークのDSCプロットである。
【図7】図7は、実施例2に対応し、実施例2の試験22の第1回目の溶融ピークおよび融合ピークのDSCプロットである。
【図8】図8は、実施例2に対応し、実施例2の試験22の再溶融ピークのDSCプロットである。
【図9】図9は、実施例2に対応し、実施例2の試験3の第1回目の溶融ピークおよび融合ピークのDSCプロットである。
【図10】図10は、実施例2に対応し、実施例2の試験3の再溶融ピークのDSCプロットである。
【図11】図11は、実施例2に対応し、実施例2の試験41の第1回目の溶融ピークおよび融合ピークのDSCプロットである。
【図12】図12は、実施例2に対応し、実施例2の試験41の再溶融ピークのDSCプロットである。
【図13】図13は、実施例2に対応し、実施例2の試験29の第1回目の溶融ピークおよび融合ピークのDSCプロットである。
【図14】図14は、実施例2に対応し、実施例2の試験29の再溶融ピークのDSCプロットである。
【図15】図15は、実施例2に対応し、実施例2の試験38の第1回目の溶融ピークおよび融合ピークのDSCプロットである。
【図16】図16は、実施例2に対応し、実施例2の試験38の再溶融ピークのDSCプロットである。
【図17】図17は、実施例2に対応し、実施例2の試験39の第1回目の溶融ピークおよび融合ピークのDSCプロットである。
【図18】図18は、実施例2に対応し、実施例2の試験39の再溶融ピークのDSCプロットである。
【図19】図19は、実施例1に対応し、図20〜図30のコンタープロットでのPFA(MPF)、SFN−D(LPTFE)、TE3887N(LPTFE)およびFEP(MPF)の数値の位置を示す例示的なプロットである。
【図20】図20は、実施例1に対応し、コーティングの光沢度を組成の関数として示すコンタープロットである。
【図21】図21は、実施例1に対応し、接触角を組成の関数として示すコンタープロットである。
【図22】図22は、実施例1に対応し、コーティングの鉛筆硬度を組成の関数として示すコンタープロットである。
【図23】図23は、実施例1に対応し、接触角、光沢度および鉛筆硬度試験の平均を示す正規化コンタープロットである。
【図24】図24は、実施例1に対応し、最低再溶融温度、接触角、光沢度および鉛筆硬度試験の平均を示す正規化コンタープロットである。
【図25a】図25aは、実施例1に対応し、第1回目の溶融中に観察されたDSCピーク数を示すコンタープロットである。
【図25b】図25bは、実施例1に対応し、融合中に観察されたDSCピーク数を示すコンタープロットである。
【図25c】図25cは、実施例1に対応し、第2回目の溶融中に観察されたDSCピーク数を示すコンタープロットである。
【図26】図26は、実施例1に対応し、全融合エンタルピーと全第1溶融エンタルピーとの間の差を示すコンタープロットである。
【図27】図27は、実施例1に対応し、全再溶融エンタルピーと全第1溶融エンタルピーとの間の差を示すコンタープロットである。
【図28】図28は、実施例1に対応し、最低第1溶融温度を示すコンタープロットである。
【図29】図29は、実施例1に対応し、最低融合温度を示すコンタープロットである。
【図30】図30は、実施例1に対応し、最低再溶融温度を示すコンタープロットである。
【0017】
対応する参照記号はいくつかの図を通して対応する部分を示している。本明細書に詳述する例示は本開示の実施形態を説明するものであり、そのような例示は本開示の範囲を制限するものとして決して解釈してはならない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
本発明は、複数のフルオロポリマー成分を含み、例示的な用途では、コーティング剤として硬質基材または軟質基材のいずれかに適用し得るフルオロポリマー組成物を提供する。フルオロポリマー組成物は、それ自体をベースコートまたはオーバーコートとして適用することができ、または他の成分と組み合わせてベースコートまたはオーバーコートを調合することができる。一実施形態では、フルオロポリマー組成物は、少なくとも1種の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)および少なくとも2種の化学的に異なる溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)を含む。別の実施形態では、フルオロポリマー組成物は、少なくとも1種の高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HPTFE)、少なくとも1種の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)および少なくとも2種の化学的に異なる溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)を含む。基材に対し、所望により、ベースコートおよび/またはミッドコートの上に塗布し、次いで硬化させると、本組成物は、例えば、改善された剥離性、耐摩耗性、半透明性/透明性および透過性などの改善された特性を示すコーティングを形成する。
【0019】
本フルオロポリマー組成物を適用し得る好適な基材ならびにコーティングの種類は下記第I節で論じ、好適な高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HPTFE)成分は下記第II節で論じ、好適な低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)成分は下記第III節で論じ、好適な溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)成分は下記第IV節で論じ、好適なエンジニアリングポリマーは下記第V節で論じ、好適な適用手順および処方物は下記第VI節で論じ、物理的特性および特性評価手順は下記第VII節で論じ、その後に実施例を示す。
【0020】
LPTFEおよび単一種類のMPFを含むフルオロポリマーブレンドは、2009年5月19日に出願された「ブレンドフルオロポリマー組成物(BLENDED FLUOROPOLYMER COMPOSITIONS)」と題する米国特許出願第12/468,580号に詳細に開示されており、高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HPTFE)、LPTFEおよび単一種類のMPFを含むフルオロポリマーブレンドは、2009年9月25日に出願された「硬質基材用のブレンドフルオロポリマーコーティング(BLENDED FLUOROPOLYMER COATINGS FOR RIGID SUBSTRATES)」と題する米国特許出願第12/567,330号および2009年9月25日に出願された「ブレンドフルオロポリマー組成物および軟質基材用のコーティング(BLENDED FLUOROPOLYMER COMPOSITIONS AND COATINGS FOR FLEXIBLE SUBSTRATES)」と題する米国特許出願第12/567,446号に詳細に開示されており、これらはそれぞれ本発明の譲受人に譲渡され、各開示内容は参照により明示的に本明細書に組み入れる。
【0021】
第1の実施形態では、本ブレンドフルオロポリマー組成物は、少なくとも1種のLPTFEおよび少なくとも2種の化学的に異なるMPFを含むが、高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HPTFE)を含まない。この点において、第1の実施形態のブレンドフルオロポリマー組成物は、少なくとも1種のLPTFEの形での添加剤とブレンドされたMPFであると考えることができる。
【0022】
第2の実施形態では、本ブレンドフルオロポリマー組成物は、少なくとも1種のHPTFE、少なくとも1種のLPTFEおよび少なくとも2種の化学的に異なるMPFを含む。この点において、第2の実施形態のブレンドフルオロポリマー組成物は、HPTFEを含むコーティング系への添加剤として使用される第1の実施形態のフルオロポリマー組成物を含むと考えることができる。
【0023】
第1の実施形態および第2の実施形態の各々において、ブレンドフルオロポリマー組成物は、本明細書に定義したとおり、少なくとも2種の化学的に異なるMPFを含む。
【0024】
ブレンドフルオロポリマー組成物は、例えば、水性分散系または粉末の形であってよく、本明細書に論じている特定種類の用途でだけでなくMPFを使用することが知られている従来の用途でも使用することができる。また、本ブレンドフルオロポリマー組成物は、単独でも使用することができ、または他の種類のフルオロポリマーまたは非フルオロポリマーと、所望により好適な添加剤(例えば、増量剤、顔料、界面活性剤など)とともに調合してもよい。
【0025】
I.基材およびコーティング種類
a.硬質基材
本組成物を適用し得る好適な硬質基材には、金属、金属合金、セラミックおよび/または硬質プラスチック材料が含まれる。例としては、調理器具、耐熱皿、工業部品(ローラーなど)または本組成物から形成されるコーティングが望まれる任意の他の硬質基材が挙げられる。
【0026】
硬質基材は、所望により、本コーティング組成物の塗布前にプライマー(またはベースコート)および/またはミッドコートでコーティングしてよい。プライマーおよびミッドコートは、あらゆる種類のフルオロポリマー系コーティング剤であってよく、高分子量PTFEおよび/または他のフルオロポリマーに基づく市販のコーティング剤も広く利用可能である。プライマーおよび/またはミッドコートの各組成は、広く異なっていてよく、本明細書に開示するコーティングによって示される改善された特性に関して重要であるとは考えられない。
【0027】
b.軟質基材
本組成物を適用し得る好適な軟質基材には、例えば、連続式オーブン用フードコンベヤーベルト、スタジアムの屋根およびレーダードームに使用される種類の建築用織物、ならびにヒートシール用ベルト、回路基板、料理用シートおよびテント用織物などの用途に一般的に使用される種類のグラスクロスが挙げられる。「グラスクロス(Glasscloth)」または「グラスクロス(glass cloth)」は、例えば、リネン、ガラスまたは綿のような織り繊維から作製された織物材料である。
【0028】
本組成物でコーティングし得る他の軟質基材には、天然または合成の繊維またはフィラメントを含む任意の材料が含まれ、そのような材料には、例えば、ステープルファイバー、ファイバーフィル、ヤーン、加工糸、織物、不織布、ワイヤークロス、ロープ、ベルト、コードおよびウェッビングが挙げられる。本コーティング組成物でコーティングし得る例示的な繊維性材料には、植物繊維、動物繊維および鉱物繊維などの天然繊維(綿、綿デニム、ウール、シルク、セラミック繊維および金属繊維を含む)、ならびにカーボン編織物、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)繊維、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)繊維、ポリ−パラフェニレンテレフタルアミドまたはKevlar(登録商標)を含むパラ−アラミド繊維、およびNomex(登録商標)などのメタ−アラミド繊維(各々はE.I. du Pont de Nemours and Companyから入手可能)、Ryton(登録商標)(Chevron Phillips Chemical Co.から入手可能)などのポリフェニレンスルフィド繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリル繊維、Zoltek(登録商標)(Zoltek Corporationから入手可能)などのポリアクリロニトリル(PAN)繊維、ポリアミド繊維(ナイロン)、およびDacron(登録商標)(Invista North Americaから入手可能)などのナイロン−ポリエステル繊維などの合成繊維が挙げられる。
【0029】
軟質基材は、所望により、本コーティング組成物の塗布前にプライマー(またはベースコート)および/またはミッドコートでコーティングしてよい。プライマーおよびミッドコートは、あらゆる種類のフルオロポリマー系コーティング剤であってよく、高分子量PTFEおよび/または他のフルオロポリマー(fluorpolymers)に基づく市販のコーティング剤も広く利用可能である。プライマーおよび/またはミッドコートの各組成は、広く異なっていてよく、本明細書に開示するコーティングによって示される改善された特性に関して重要であるとは考えられない。
【0030】
c.コーティングの種類
一実施形態では、本組成物は、基礎をなすコーティング、すなわち、アンダーコートの上に塗布され、そのアンダーコートは、本組成物の塗布前に硬化させてよく、部分的に硬化させてよく、または硬化させなくてもよい。アンダーコートはベースコートであってよく、それは基礎をなす基材に直接施されるコーティング(プライマーと呼ばれることもある)であり、所望により1層以上のミッドコートと同時に適用される。これらの実施形態では、本コーティングは、本明細書では「オーバーコート」または「トップコート」のいずれかで呼び、これらの用語は一般的に置き換え可能である。他の実施形態では、本組成物は、基材と直接接触したコーティングを形成するために基材に直接塗布してよく、そのためそのコーティングはアンダーコートの上には施されない。さらなる実施形態では、本コーティング系は、それ自体がアンダーコートであってもよい。
【0031】
II.高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HPTFE)
いくつかの実施形態では、本組成物は、少なくとも1種類の従来型の高分子量ポリテトラフルオロエチレンPTFE(HPTFE)を含む。
【0032】
HPTFEの数平均分子量(M)は、典型的には少なくとも500,000であり、少なくとも1,000,000であってよい。液体分散系および/または粉末の形の好適なHPTFEは多くの商業的供給源から入手可能である。液体HPTFE分散系は、典型的には、安定させるために界面活性剤を含むが、典型的に1.0重量%未満の界面活性剤を含む、「不安定」HPTFE分散系もまた入手可能であり、同様に使用し得る。粉末を使用する場合には、粉末を典型的には液体中に分散させてコーティング組成物を調製する。
【0033】
いくつかの実施形態では、HPTFEは少量の変性コモノマーを含んでよく、その場合、HPTFEは、「変性PTFE」または「微量変性PTFE」として当技術分野で公知のコポリマーである。変性コモノマーの例としては、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、他の変性剤、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、または他のペルフルオロアルキルビニルエーテル、例えば、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)もしくはペルフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)が挙げられる。変性コモノマーは、典型的には、例えば、HPTFEの重量に対して1重量%未満の量で存在するであろう。
【0034】
HPTFEは、典型的には、分散重合または乳化重合として当技術分野で周知の重合プロセスによって製造される種類のものである。しかしながら、いくつかの実施形態では、HPTFEは、粒状重合または懸濁重合として当技術分野で周知の重合プロセスによって製造される種類のものであってよく、粒状重合または懸濁重合では粒状PTFE樹脂または粒状PTFE成形粉として当技術分野で公知のPTFEが生じる。
【0035】
III.低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)
本組成物は少なくとも1種類の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)を含む。
【0036】
LPTFEは、典型的には、液体分散系の形で提供され、ほとんどの実施形態では水性分散系であろうが、LPTFEは他の溶媒に分散させてもよく、および/またはもともと水相に存在するLPTFEを、有機溶媒(ヘキサン、アセトンまたはアルコールを含む)などの別の溶媒へ転相させてもよい。
【0037】
LPTFEは、粒径ISO 13320に準拠したレーザー光回折によるなどの好適な方法により測定した際に、平均粒径は1.0ミクロン(μm)以下、0.9ミクロン(μm)以下、0.75ミクロン(μm)以下、0.5ミクロン(μm)以下、0.4ミクロン(μm)以下、0.3ミクロン(μm)以下または0.2ミクロン(μm)以下であろう。いくつかの実施形態では、LPTFEは、例えば、30nm、50nm、100nmまたは150nmといった小さな平均粒径でも、または200nm、250nmまたは350nmといった大きな平均粒径でもよい。
【0038】
LPTFEの数平均分子量(M)は、典型的に500,000未満であるが、ほとんどの実施形態では、例えば、10,000以上、20,000以上または25,000以上といった小さなものでも、または200,000以下、100,000以下、または70,000以下、60,000以下または50,000以下といった大きなものでもよい。
【0039】
LPTFEの分子量を特徴付ける別の方法は、示差走査熱量測定法(DSC)などの好適な方法により測定した際の第1の溶融温度(T)による方法であり、それによるLPTFEの第1の溶融温度(T)は335℃以下であり得る。他の実施形態では、LPTFEの第1の溶融温度は、332℃以下、330℃以下、329℃以下、328℃以下、327℃以下、326℃以下または325℃以下であることもある。
【0040】
LPTFEは、安定な、不安定なまたは最小限に安定な水性分散系の形で提供し得る。本明細書において、「不安定な」または「最小限に安定な」とは、含まれている、非イオン界面活性剤または陰イオン界面活性剤などの従来型の界面活性剤が、LPTFE水性分散系の重量に対して1.0重量%未満である水性分散系を意味する。いくつかの実施形態では、LPTFE分散系は、1.0重量%未満の界面活性剤、0.8重量%未満の界面活性剤、0.6重量%未満の界面活性剤あるいは0.5重量%未満の界面活性剤を含む水性分散系の形で提供し得る。他の実施形態では、LPTFE分散系は、典型的に1〜12重量%の界面活性剤を含む、「安定な」水性分散系の形で提供し得る。しかしながら、採用する安定化パッケージの性質は本発明の重要な特徴ではない。
【0041】
また、以下に論じるように、LPTFEは固体微粉末の形でも提供し得る。
【0042】
LPTFEは、低分子量PTFEホモポリマーの形であろう。しかしながら、他の実施形態では、LPTFEは少量の変性コモノマーを含んでよく、その場合、PTFEは、「変性PTFE」または「微量変性PTFE」として当技術分野で公知のコポリマーである。変性コモノマーの例としては、ペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、他の変性剤、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ペルフルオロブチルエチレン(PFBE)、または他のペルフルオロアルキルビニルエーテル、例えば、ペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)もしくはペルフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)が挙げられる。変性コモノマーは、典型的には、例えば、PTFEに対して1重量%未満の量で存在するであろう。
【0043】
好適なLPTFE分散系には、SFN−D(Chenguang R.I.C.I, Chengdu, 610036 中国から入手可能)、ならびにTE3887N(DuPontから入手可能)が挙げられる。他の例示的なLPTFE微粉末には、Dyneon TF−9207(Dyneon LLCから入手可能)、LDW−410(Daikin Industries, Inc.から入手可能)ならびにMP−25、MP−55、MP−8TおよびUF 8TA(各々Laurel Productsから入手可能)が挙げられる。
【0044】
これらのフルオロポリマーは下表に示す特性を有する。
例示的な低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)の特性
【0045】
【表1】

【0046】
LPTFEの例示的な種類を以下に論じる。
【0047】
a.分散重合または乳化重合によって製造されるLPTFEであって、その後は凝集、放射線照射または熱分解を受けないLPTFE
いくつかの実施形態では、LPTFEは、分散重合または乳化重合として当技術分野で周知の重合プロセスによって製造される。これらの重合プロセスは、製造されるフルオロポリマーの平均分子量を低減させる連鎖移動剤を用いて、かつ/または重合プロセスを制御して直接重合した低分子量PTFE(LPTFE)粒子の液体分散系を形成させる他の方法によって行われ得る。
【0048】
これらの実施形態では、LPTFEは、分散重合または乳化重合によって製造されると、その後は凝集、放射線照射または熱分解を受けない。特に、LPTFEは製造中に凝集工程を一切受けることがなく、そのため、小さい平均粒径を維持する。さらに、LPTFEは熱分解を受けて分子量が低減することもない。さらに、LPTFEは、高エネルギー電子線などの放射線照射を受けて分子量が低減することもない。これらの実施形態では、LPTFE分散系は、電子常磁性共鳴(EPR)分光または電子スピン共鳴(ESR)分光を行った際に、スペクトルを示さず、かつ/または検出限界を下回るであろう。このことは、そのようなスペクトルを示し、かつ/またはそうでなければ検出可能なフリーラジカルを有する放射線照射を受けたPTFEとは対照的である。
【0049】
これらの種類のLPTFE分散系は水性分散系として提供される。そのような水性分散系は、直接重合したLPTFEを製造する制御された分散重合または乳化重合プロセスによって得られ、直接重合したLPTFEは、その後は凝集、熱分解または放射線照射を受けない。当業者ならば、これらの種類のLPTFE分散系は市販されている他のPTFE材料とは異なっていることが分かるであろう。
【0050】
第一に、これらの種類のLPTFE分散系は、粒状重合または懸濁重合として当技術分野で周知の重合プロセスによって製造されるPTFEとは異なっており、粒状重合または懸濁重合では粒状PTFE樹脂または粒状PTFE成形粉として当技術分野で公知のPTFEが生じる。粒状PTFE樹脂は、典型的には、数平均分子量(M)が少なくとも1,000,000以上であるような高分子量を有し、第1の溶融温度(T)は335℃より高い、典型的には335℃よりはるかに高いであろう。粒状PTFE樹脂は、典型的には、平均粒径が数ミクロン、典型的には10〜700ミクロン(μm)の粒子を含む固体の粉末の形で提供される。また、これらの樹脂は、例えば、平均粒径が20〜40ミクロン(μm)の微細カット樹脂としても提供され得る。
【0051】
加えて、これらの種類のLPTFE分散系は、高分子量粒状PTFE樹脂から調製される低分子量材料とは区別でき、その高分子量粒状PTFE樹脂は、放射線照射または熱分解による分解を受けて、粒状PTFE微粉末として知られている低分子量材料を形成する。この粒状PTFE微粉末は、典型的には0.2〜20ミクロン(μm)の間の粒径を有する。粒状PTFE微粉末の例としては、Zonyl(登録商標)MP1200樹脂、MP1300樹脂およびMP1400樹脂(DuPontから入手可能)(Zonyl(登録商標)は、E.I. du Pont de Nemours & Co.の登録商標である)が挙げられる。
【0052】
第二に、これらの種類のLPTFE分散系はまた、連鎖移動剤を用いずに行ってそれにより高分子量PTFEを重合する分散重合または乳化重合から作製される高分子量PTFE分散系とも異なっている。その高分子量PTFEは、数平均分子量(M)が少なくとも1,000,000以上であり、第1の溶融温度(T)は335℃より高い、典型的には335℃よりはるかに高い。これらの高分子量PTFE分散系は、典型的には、1.0重量%より多い、典型的には1.0重量%よりはるかに多い量で存在する従来型の界面活性剤を用いて安定化されている。
【0053】
加えて、これらの種類のLPTFE分散系はまた、分散重合または乳化重合によって製造され、その後は凝固または凝集する高分子量PTFE分散系とも異なっている。
【0054】
さらに、これらの種類のLPTFE分散系は、分散重合または乳化重合によって製造され、その後は凝固または凝集し、次いで熱分解または放射線照射を受けて、PTFE微粉末として当技術分野で公知の低分子量PTFE粉末を形成する高分子量PTFE分散系とも異なっている。そのPTFE微粉末は、押出成形および他の用途などに向けて0.2〜20ミクロン(μm)の間の粒径を有する固体粉末として提供される。PTFE微粉末の例としては、Zonyl(登録商標)MP1000樹脂、MP1100樹脂、MP1500樹脂およびMP1600樹脂(DuPontから入手可能)(Zonyl(登録商標)は、E.I. du Pont de Nemours & Co.の登録商標である)が挙げられる。しかしながら、以下に論じるように、これらの種類のLPTFE微粉末もまた、本発明において使用することができる。
【0055】
第三に、これらの種類のLPTFE分散系は、LPTFE微粉末とは異なっている。そのLPTFE微粉末は、連鎖移動剤の存在下での分散重合または乳化重合によって重合され、その後凝集して、例えば、平均粒径が0.2〜20ミクロン(μm)の間のPTFE微粉末を形成する。
【0056】
b.LPTFE微粉末
第2の実施形態では、LPTFEはLPTFE微粉末の形であり得る。
【0057】
第1の種類のLPTFE微粉末は、分散重合または乳化重合によって製造される高分子量PTFE分散系から得られ、その分散系はその後凝固または凝集し、次いで熱分解または放射線照射を受けて、PTFE微粉末として当技術分野で公知の低分子量PTFE粉末を形成する。これを本明細書ではLPTFE微粉末と呼ぶ。このLPTFE微粉末は、典型的には0.2〜20ミクロン(μm)の間の粒径を有する固体粉末として典型的に提供される。
【0058】
これらの種類のLPTFE微粉末の例としては、Zonyl(登録商標)MP1000樹脂、MP1100樹脂、MP1500樹脂およびMP1600樹脂(DuPontから入手可能)(Zonyl(登録商標)は、E.I. du Pont de Nemours & Co.の登録商標である);ならびにMP−25、MP−55およびUF 8TA(各々はLaurel Productsから入手可能)が挙げられる。
【0059】
第2の種類のLPTFE微粉末は、高分子量粒状PTFE樹脂から得られ、その樹脂は放射線照射または熱分解による分解を受けて、粒状PTFE微粉末として知られている低分子量材料を形成する。この粒状PTFE微粉末は、典型的には0.2〜20ミクロン(μm)の間の粒径を典型的に有する。
【0060】
これらの種類のLPTFE微粉末の例としては、Zonyl(登録商標)MP1200樹脂、MP1300樹脂およびMP1400樹脂(DuPontから入手可能)(Zonyl(登録商標)は、E.I. du Pont de Nemours & Co.の登録商標である)ならびにMP−8TおよびMP−10(Laurel Productsから入手可能)が挙げられる。
【0061】
第3の種類のこれらのLPTFE微粉末は、連鎖移動剤の存在下での分散重合または乳化重合または懸濁重合によって重合され、その後凝集して、例えば、典型的には0.2〜20ミクロン(μm)の間の平均粒径を有するLPTFE微粉末を形成し得る。
【0062】
IV.溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)
いくつかの実施形態では、本組成物はまた、少なくとも2種の化学的に異なる溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)としての成分、例えば、ペルフルオロアルコキシ(PFA)(テトラフルオロエチレン(TFE)とペルフルオロアルキルビニルエーテルとのコポリマー)(一般的には、メチルフルオロアルコキシ(MFA)(テトラフルオロエチレン(TFE)とペルフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)とのコポリマー)、エチルフルオロアルコキシ(EFA)(テトラフルオロエチレン(TFE)とペルフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)とのコポリマー)およびペルフルオロアルコキシ(PFA)(テトラフルオロエチレン(TFE)とペルフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)とのコポリマー)を含む);ならびに例えば、フッ化エチレンプロピレン(FEP)として知られているテトラフルオロエチレン(TFE)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマーなども含む。
【0063】
本明細書に開示する上述のMPFの各々、ならびにHPTFEおよびLPTFEは、「過フッ素化」フルオロポリマーとして当技術分野で公知である。「過フッ素化」フルオロポリマーとは、それらのアルカンおよび/またはアルコキシ類似体の水素原子がフッ素原子によって完全に置換されていることを意味しており、過フッ素化フルオロポリマーは不活性または非反応性であると考えられると理解される。
【0064】
本明細書において、「化学的に異なる」とは、本明細書に開示するMPFに関連して用いられる場合には、品質等級ではなく種類の異なるMPFを意味する。例えば、ある種類のPFAとある種類のFEPは化学的に異なると思われるが、異なる品質等級の2種のPFAは化学的に異なるとは思えない。しかしながら、異なる変性コモノマーを含有する2種のMPFもまた、名目上同じポリマー種類と見なされたとしても「化学的に異なる」と思われる。また、本開示の目的では、MFA、EFA、PFAおよびFEPは各々互いに化学的に異なる。
【0065】
MPFは、分散重合または乳化重合として当技術分野で周知の重合プロセスによって製造され得る。これらの重合プロセスは、製造されるフルオロポリマーの平均分子量を低減させる連鎖移動剤を用いて、かつ/または重合プロセスを制御して直接重合したMPF粒子の液体分散系を形成させる他の方法によって行われ得る。
【0066】
ほとんどの実施形態では、MPFは、分散重合または乳化重合によって製造されると、その後は凝集、放射線照射または熱分解を受けない。特に、MPFは製造中に凝集工程を一切受けることがなく、そのため、下に記載するような小さい平均粒径を維持する。
【0067】
MPFの液体分散系は、ほとんどの実施形態では水性分散系であろうが、MPFは他の溶媒に分散させてもよく、および/またはもともと水相に存在するMPFを、有機溶媒(ヘキサン、アセトンまたはアルコールを含む)などの別の溶媒へ転相させてもよい。
【0068】
MPFは、上記のように製造した際には、典型的には、平均粒径は1.0ミクロン(μm)以下、0.9ミクロン(μm)以下、0.75ミクロン(μm)以下、0.5ミクロン(μm)以下、0.4ミクロン(μm)以下、0.3ミクロン(μm)以下または0.2ミクロン(μm)以下であろう。特に、MPFは、平均粒径が、例えば、30nm、50nm、100nmまたは150nmといった小さいものでも、または200nm、250nmまたは350nmといった大きいものでもよい。
【0069】
他の実施形態では、MPF粉末も使用し得る。
【0070】
MPFは、安定な、不安定なまたは最小限に安定な水性分散系の形で提供し得る。本明細書において、「不安定な」または「最小限に安定な」とは、含まれている、非イオン界面活性剤または陰イオン界面活性剤などの従来型の界面活性剤が、MPF水性分散系の重量に対して1.0重量%未満である水性分散系を意味する。いくつかの実施形態では、MPF分散系は、1.0重量%未満の界面活性剤、0.8重量%未満の界面活性剤、0.6重量%未満の界面活性剤あるいは0.5重量%未満の界面活性剤を含む水性分散系の形で提供し得る。他の実施形態では、MPF分散系は、典型的に1〜12重量%の界面活性剤を含む、「安定な」水性分散系の形で提供し得る。
【0071】
典型的には、MPFの溶融流量(MFR)は、ASTM D1238に準拠して測定した際に0.5g/10分より多いであろうが、一実施形態では、約2g/10分以上であることもある。
【0072】
また、MPFは、典型的には、コモノマー含量、すなわち、テトラフルオロエチレン(TFE)とは別の1種以上のモノマーの含量が、約3.0重量%以上、例えば、4.0重量%以上、4.5重量%以上、5.0重量%以上、5.5重量%以上または6.0重量%以上などであろう。
【0073】
好適なMPF分散系には、TE7224(PFA)(DuPontから入手可能)、6900Z(PFA)(Dyneon LLCから入手可能)、TE9568(FEP)(DuPontから入手可能)、Neoflon ND−110(FEP)(Daikinから入手可能)およびHyflon XPH 6202−1(MFA)(Solvayから入手可能)が挙げられる。これらのMPF分散系は下記に示す特性を有する:
例示的な溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)の特性
【0074】
【表2】

【0075】
V.エンジニアリングポリマー
いくつかの実施形態では、本明細書に開示する第1の実施形態および第2の実施形態のフルオロポリマー組成ブレンドを、フルオロポリマーではない少なくとも1種のエンジニアリングポリマーに添加して、変性エンジニアリングポリマーコーティング組成物を形成することができる。本明細書において用いる「エンジニアリングポリマー」とは、フルオロポリマーではなく、幅広い条件に対して優れた機械的特性および熱的特性を示すポリマーである。
【0076】
好適なエンジニアリングポリマーには、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、エポキシポリマー(BPA含有型、BPF型、フェノール型、ノボラック型、BIS Aフリー型)、ポリエステル、ポリウレタン(PU)、アクリル、ポリカーボネート(PC)が挙げられる。
【0077】
これらのエンジニアリングポリマーの典型的な性質の説明を以下に示す。
【0078】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK) PEEKは、逐次重合によって製造することができる。PEEKは、優れた機械的特性および耐薬品性を示す半結晶性熱可塑性材料であり、PEEKは熱分解に強い耐性があるためそれらの特性はより高い温度でも維持される。PEEKのガラス転移温度はほぼ約143℃であり、融点はほぼ約343℃である。
【0079】
ポリエーテルスルホン(PES) PESは、芳香族求核置換によって製造することができる。PESは、連続作業温度(ほぼ約200℃)に優れた高温耐熱性非結晶性材料である。PESは、有機環境および水性環境に良好な耐性を示す。品質等級によって、PESのガラス転移温度はほぼ約193℃であり、融点は約255℃である。
【0080】
ポリフェニレンスルフィド(PPS) PPSは、加熱条件、酸性条件およびアルカリ性条件に耐性があり、良好な耐摩耗性を有する。PPSのガラス転移温度は約85℃であり、融点はほぼ約285℃である。PPSは、半結晶性であり、優れた溶解性および熱性能を有する。
【0081】
ポリアミドイミド(PAI) PAIは、特に優れた熱的特性および耐薬品性を有する熱可塑性非晶質ポリマーである。PAIの例は、「Torlon」という商標・商品名でSolvayによって製造されているものである。PAIは、ほぼ約260℃の連続温度での作業が可能であり、ガラス転移温度は約280℃である。
【0082】
エポキシポリマー エポキシポリマーは、複数の方法で製造され、最も一般的に知られている方法は、エピクロロヒドリンとビスフェノールAの反応によってビスフェノールAエポキシ樹脂を生成する方法である。最も一般的なエポキシ樹脂は、フェノール系原料から製造されるビスフェノールA型およびビスフェノールF型またはノボラック型である。エポキシポリマーは、特に優れた耐薬品性を有し、種類によって、良好な連続耐熱性を有する。ガラス転移温度および融点はポリマー主鎖によって変化する。
【0083】
ポリエステルポリマー ポリエステルは、最も一般的には熱可塑性型で見られるが、熱硬化性ポリマーも入手可能である。ポリエステルのガラス転移はおよそ(限定されるものではないが)70℃であり、融点は約265℃である。
【0084】
ポリウレタン(PU) PUは、典型的には、ポリイソシアネートと多価アルコールとの付加反応によって製造される。ガラス転移および融点はポリマーマトリックスおよび用途によって異なる。
【0085】
本開示による少なくとも1種のエンジニアリングポリマーに添加し得るフルオロポリマーブレンド(Fluorpolymer blends)には、(1)少なくとも1種のLPTFEおよび少なくとも1種のMPFのブレンド、(2)少なくとも1種のHPTFE、少なくとも1種のLPTFEおよび少なくとも1種のMPFのブレンド、ならびに(3)本明細書に開示する複数成分フルオロポリマーブレンドのいずれかが含まれる。
【0086】
VI.適用手順およびコーティング処方物
本ブレンドフルオロポリマー組成物を形成するために、様々な成分の液体分散系を一緒にブレンドする。1種以上の成分を最初に固体、すなわち、粉末形で準備する場合には、他の成分とブレンドする前に、粉末を液体媒体中に分散させて液体分散系を形成することが典型的である。ブレンドする順序は重要であると考えられず、当業者ならば、本明細書に論じる成分の液体分散系の湿潤重量はそれらの分散系の固形物含量および望まれる成分の所望の相対重量パーセント比に基づいて選択し得ることは分かるであろう。
【0087】
下に記載する成分の相対比率、分率または重量パーセントは、水または他の溶媒、界面活性剤、顔料、増量剤および他の組成物などの存在する可能性のある非フルオロポリマー成分を除いた、成分の全固形物重量に基づいている。
【0088】
本明細書に記載する組成物はまた、必要に応じて界面活性剤、増量剤、強化用添加剤、および顔料などの好適な添加剤を含んでもよく、または、本明細書における実施例でこれらの成分のうちのいくつかに関連して具体的に示すように、これらの成分の一部または全てを具体的に欠いているように調合することもできる。また、いくつかの実施形態では、その組成物は、フルオロポリマーだけを含むものであってよく、または過フッ素化フルオロポリマーだけを含むものであってよく、および他の種類のポリマーを欠いているものであってよい。
【0089】
組成物は、任意の標準的な調合技術(単純添加および低剪断混合など)によって調製することができる。組成物は、任意の公知の技術によってプライマーおよび/またはミッドコートの上に塗布し得る。プライマーおよびミッドコートは、存在する場合には、各々は典型的に少なくとも1種のフルオロポリマーを含むであろうが、プライマーおよび/またはミッドコートの各組成は、広く異なっていてよく、本明細書に開示するコーティングによって示される改善された特性に関して重要であるとは考えられない。
【0090】
用途に応じて、乾燥膜厚(DFT)4〜100ミクロンの間でコーティングを施すことができ、施された厚さに応じて約140℃を超える温度で1〜30分の間で硬化させることができる。望まれる用途および厚さの程度に応じて、コーティングを数層で施すことができる。
【0091】
分散系のブレンドは、LPTFEおよびMPFの相互作用、ならびにHPTFE、LPTFEおよびMPFの相互作用をサブミクロンレベルで促進して、均質ブレンドを促進し、その結果、ブレンドしたフルオロポリマー組成物を乾燥させると、フルオロポリマーの真のアロイを示す結晶構造が形成され、個別のフルオロポリマーとは異なる溶融特性を示すということが見出された。ブレンドフルオロポリマー組成物を使用して、耐摩耗性、光沢度、粘着性が改善され、より大きい接触角を有するコーティングを提供し得る。
【0092】
加えて、本明細書に開示するブレンドフルオロポリマー分散系は、本明細書において第V節で論じるエンジニアリングポリマーとともに使用すると、イコフォビシティ(icophobicity)を与えることが可能なコーティングを提供する。
【0093】
VII.物理的性質および特性評価の手順
a.エンジニアリングポリマーを含まない組成物
ブレンド組成物が、少なくとも1種のLPTFEおよび少なくとも2種の化学的に異なるMPFを含む(しかし、HPTFEは含まない)第1の実施形態では、成分の割合(propotions)は、ブレンドフルオロポリマー組成物中の少なくとも1種のLPTFEと少なくとも2種のMFPとの全固形物重量に対して次のとおりであり得る。
【0094】
(i)LPTFEは、ブレンドフルオロポリマー組成物の2重量%、5重量%、10重量%または15重量%といった低い割合、あるいは85重量%、90重量%、95重量%または98重量%といった高い割合を占めてよく、これらの値によっておよび/または本明細書における実施例の値によって定められた任意の範囲内で存在し得る。一実施形態では、LPTFEは、ブレンドフルオロポリマー組成物の10重量%〜70重量%の間、例えば、ブレンドフルオロポリマー組成物の30重量%〜90重量%の間といった割合を占め得る。別の実施形態では、LPTFEは、ブレンドフルオロポリマー組成物の20重量%〜60重量%の間の割合を占め得る。別の実施形態では、LPTFEは、ブレンドフルオロポリマー組成物の40重量%〜60重量%の間の割合を占め得る。
【0095】
(ii)合わせたMPFは、ブレンドフルオロポリマー組成物の2重量%、10重量%または15重量%といった低い割合、あるいは85重量%、90重量%、95重量%または98重量%といった高い割合を占めてよく、これらの値によっておよび/または本明細書における実施例の値によって定められた任意の範囲内で存在し得る。一実施形態では、合わせたMPFは、ブレンドフルオロポリマー組成物の40重量%〜80重量%の間の割合を占め得る。別の実施形態では、合わせたMPFは、ブレンドフルオロポリマー組成物の40重量%〜60重量%の間の割合を占め得る。別の実施形態では、合わせたMPFは、ブレンドフルオロポリマー組成物の36重量%〜64重量%の間の割合を占め得る。
【0096】
下記実施例1から、特定の実施形態は、(1)10〜64重量%のFEP、16〜64重量%のPFAおよび20〜60重量%のLPTFE;(2)12〜24重量%のFEP、24〜64重量%のPFAおよび20〜60重量%のLPTFE、ならびに(3)12〜16重量%のFEP、24〜48重量%のPFAおよび40〜60重量%のLPTFEを含む。
【0097】
ブレンド組成物が、少なくとも1種のHPTFE、少なくとも1種のLPTFEおよび 少なくとも2種の化学的に異なるMPFを含む第2の実施形態では、成分の割合は、ブレンドフルオロポリマー組成物中の少なくとも1種のHPTFEと少なくとも1種のLPTFEと少なくとも2種のMFPとの全固形物重量に対して次のとおりであり得る。
【0098】
(i)LPTFEは、ブレンドフルオロポリマー組成物の2重量%、5重量%、10重量%または15重量%といった低い割合、あるいは85重量%、90重量%、95重量%または98重量%といった高い割合を占めてよく、これらの値によっておよび/または本明細書における実施例の値によって定められた任意の範囲内で存在し得る。一実施形態では、LPTFEは、ブレンドフルオロポリマー組成物の10重量%〜90重量%の間、例えば、ブレンド組成物の24重量%などの割合を占め得る。別の実施形態では、LPTFEは、ブレンドフルオロポリマー組成物の16重量%〜60重量%の間の割合を占め得る。
【0099】
(ii)合わせたMPFは、ブレンドフルオロポリマー組成物の2重量%、10重量%または15重量%といった低い割合、あるいは85重量%、90重量%、95重量%または98重量%といった高い割合を占めてよく、これらの値によっておよび/または本明細書における実施例の値によって定められた任意の範囲内で存在し得る。一実施形態では、合わせたMPFは、ブレンドフルオロポリマー組成物の10重量%〜90重量%の間、例えば、ブレンド組成物の24重量%などの割合を占め得る。別の実施形態では、合わせたMPFは、ブレンドフルオロポリマー組成物の1重量%〜60重量%の間の割合を占め得る。
【0100】
(iii)HPTFEは、ブレンドフルオロポリマー組成物の1重量%〜89重量%または90重量%の間、例えば、ブレンドフルオロポリマー組成物の60重量%などの割合を占め得る。別の実施形態では、HPTFEは、ブレンドフルオロポリマー組成物の1重量%〜60重量%の間の割合を占め得る。
【0101】
下記実施例2から、特定の実施形態は、(1)16〜60重量%のLPTFE、1〜30重量%のFEP、1〜30重量%のPFAおよび1〜60重量%のHPTFEまたは、さらに特には、16〜60%のLPTFE、8〜18%のFEP、8〜18%のPFAおよび40〜60%のHPTFEを含む。
【0102】
下記実施例3から、特定の実施形態は、(1)60〜84重量%のHPTFE、4〜12重量%のPFA、2〜18重量%のFEPおよび4〜30重量%のLPTFEを含む。
【0103】
b.エンジニアリングポリマーを含む組成物
全エンジニアリングポリマー重量含量は、組成物中の全てのポリマーの固形物重量に対して、スプレー適用およびコイル適用の双方の場合で15重量%といった低い値ないし85重量%といった高い値であり得る。エンジニアリングポリマーを含む組成物では、LPTFEは、組成物の5重量%、10重量%、11重量%または16重量%といった低い割合、あるいは24重量%、36重量%または95重量%といった高い割合を占めてよく、これらの値によってまたは本明細書における実施例の値によって定められた任意の範囲内で存在し得る。合わせたMPFは、組成物の5重量%、10重量%、12重量%または16重量%といった低い割合、あるいは24重量%、36重量%または95重量%といった高い割合を占めてよく、これらの値によってまたは本明細書における実施例の値によって定められた任意の範囲内で存在し得る。
【0104】
一実施形態では、合わせたMPFは、組成物の5重量%〜36重量%の間、例えば、組成物の23重量%などの割合を占めてよく、LPTFEは、ブレンドフルオロポリマー組成物の10重量%〜36重量%の間、例えば、ブレンドフルオロポリマー組成物の16重量%などの割合を占めてよい。
【0105】
HPTFEは、組成物の40重量%〜90重量%の間、例えば、組成物の60重量%など、または本明細書における実施例の値によって定められた任意の範囲の割合を占め得る。
【0106】
a.第1の溶融温度、融合温度および第2の溶融(再溶融)温度
本組成物は、基材に対して、その基材に直接施されるかまたは基礎をなすコーティングの上に施されるか、あるいはフィルムに形成されると、示差走査熱量測定法(differential scanning caloimetry)(DSC)により測定した際に、下記実施例に記載する第1の溶融温度、融合温度および第2の溶融(再溶融)温度を示す。
【0107】
DSC分析では、ブレンドフルオロポリマー組成物を次のとおり調製した。空気下、ミキサー中で所定量のフルオロポリマー水性分散系を30分間混合して、均質な分散混合物を確保した。その混合物を低〜中剪断下で混合して、ブレンドした分散系の凝固が起こらないようにした。プラスチック製点眼器を使用して、既知重量の混合およびブレンドした分散系を、予め秤量した乾燥用皿に入れた。その分散系を炉内で100℃にて30分間急速に蒸発させ、次いで、残留粉末を200℃でさらに30分間乾燥させた。乾燥させた粉末を室温に冷却した後、その粉末を秤量し、混合分散系中の固形物率を計算した。このようにブレンドフルオロポリマー粉末のDSC分析への準備を完了した。
【0108】
DSC分析では、10mg(+/−1mg)の乾燥粉末をアルミニウム製DSC試料皿に入れ、その試料皿を標準蓋で密閉した。DSCの加熱および冷却サイクルは次のとおりであった:(1)15.0℃/分で400℃に昇温;(2)1.00分間等温:(3)15.0℃/分で135℃に降温;(4)1.00分間等温;(5)15.0℃/分で400℃に昇温;および(6)空気冷却。
【0109】
(1)昇温加熱プロセス間に溶融ピークを得た。(3)冷却プロセス中に結晶化ピークを得た。(5)加熱プロセスで第2回目の溶融ピークを得た。
【0110】
b.接触角
本組成物は、基材に対して、その基材に直接施されるかまたは基礎をなすコーティングの上に施されるか、あるいはフィルムに形成されると、ヤングの式に従って水滴に対して測定した際に、水中で少なくとも100°の接触角を示し、少なくとも110°、120°、125°、130°または135°の接触角を有し得、これらの値によっておよび/または本明細書における実施例の値によって定められた任意の範囲内で接触角を有し得る。接触角は、ASTM D7334−08に準拠して、「Drop Shape Analysis」システム(DSA10)(ドイツ、ハンブル所在Kruss GmbHから入手可能)などの任意の好適な市販の機器を用いて測定し得る。
【0111】
c.光沢度
本組成物は、基材に対して、その基材に直接施されるかまたは基礎をなすコーティングの上に施されるか、あるいはフィルムに形成されると、次の規格:BS3900/D5、DIN EN ISO 2813、DIN 67530、EN ISO 7668、ASTM D523、ASTM D1455、ASTM C346、ASTM C584、ASTM D2457、JIS Z 8741、MFT 30064、TAPPIT 480に準拠して、マイクログロス60°光沢計(Byk-Gardnerから入手可能)などの任意の好適な市販の機器を用いて60°で測定した際に、%反射率で少なくとも10の実測光沢度を示し、少なくとも15、25、30、35、40または45の実測光沢度を有し得、これらの値によっておよび/または本明細書における実施例の値によって定められた任意の範囲内で実測光沢度を有し得る。測定値の単位は%反射率として表す。
【0112】
d.鉛筆試験
鉛筆試験プロトコールを下に示す。
【0113】
1.装置および材料
1.1 硬度が4B(最も軟らかい)から8H(最も硬い)までの様々な一連の硬度の鉛筆。鉛筆の芯を芯ホルダーに入れて使用してもよい。
1.2 極細目研磨紙(400番)
1.3 鉛筆削り器、好ましくは、木部だけを除き、芯は削られずとがったものとならない製図用のもの。
【0114】
2.手順
2.1 鉛筆を最も軟らかいものから最も硬いものへの順に並べる。鉛筆の順序を下記表に示す。それぞれは数値に対応しており、それらの数値は実施例1の場合のような結果の統計分析に用いることができる。ここで、4Bは最も軟らかいものであり、8Hは最も硬いものである。
【0115】
【表3】

【0116】
2.2 鉛筆を削る。可能ならば、木部だけを除き芯は削らない。鉛筆の芯を芯ホルダーに入れて使用する場合にはこれは不必要である。
【0117】
2.3 平滑面上に研磨紙を置く。鉛筆を研磨紙上にできる限り垂直に保って鉛筆の芯の末端をこすり、完全な円形で平らな先端とする。先端の縁は鋭く芯の側面と90°の角度をなすようにする必要がある。指先または柔らかいティッシュペーパーで鉛筆の芯の先端に軽く触れ、余分な芯の粉末を除く。
【0118】
2.4 コーティングした試験対象物を平坦な表面上にしっかりと固定する。コーティングについて予想される硬さより硬い鉛筆を選ぶ。通常書くようにして鉛筆を持ち、コーティングした対象物に先端を当てて、コーティングの面と45°の角度をなすようにする。
【0119】
2.5 鉛筆をコーティングに45°の角度で、しっかりと、滑らかに引いて(5cm)押し付ける。コーティングに侵入し、それを基材から押しはずすことを目的とする。鉛筆の芯が砕けたら、試験を終える。
【0120】
2.6 コーティングを調べる。鉛筆によってコーティングにキズ跡が生じたかまたはコーティングが削り取られた場合には、次に軟らかい鉛筆を選び、鉛筆がコーティングに侵入しなくなるまで2.4および2.5を繰り返す。
【0121】
3.評価
3.1 コーティングの硬度等級は、コーティングに侵入せずコーティングを削り取らない最初の鉛筆と同じである。
【0122】
4.事前注意事項
4.1 試験ごとに鉛筆の芯の先端を整える。実際には、芯を180°回転させ反対側の縁を使用することにより1回の仕上げで芯を2回使用することができるであろう。再現性を得るために、コーティングの硬度を評価する際には、各鉛筆につき2回の試験を行うほうがよい。
【0123】
4.2 試験を実施する基材を指定する。コーティングはアルミニウムなどの軟質基材上では硬質鋼基材上よりも少し低い鉛筆硬度を有するであろう。
【0124】
4.3 コーティングが適切な膜厚で施されたことを確認する。コーティングが低膜厚で施される場合、とりわけ基材が鋼である場合には、コーティングは少し高めの見かけの硬度を有するであろう。
【0125】
4.4 試験を実施する温度を指定する。コーティングは高温では軟らかくなる。
【0126】
5.参照
5.1 ASTM D−3363
5.2 BS Au 148パート6
【実施例】
【0127】
以下の非限定的実施例は本発明の様々な特徴および特性を説明するものであり、本発明はそれらに限定されものとして解釈してはならない。実施例および本明細書の他の箇所を通じて、特に断りのない限り、パーセントは重量%である。
【0128】
実施例1
第1の実施形態
複数種のMPF(LPTFE/MPF1/MPF2)を含むフルオロポリマーブレンド
基本特性および熱的特性
この実施例では、上記のように、次の成分を含むブレンドを調製した:少なくとも1種のLPTFEおよび少なくとも2種の化学的に異なるMPF。このブレンドはHPTFEを含まないものとした。この実施例では、使用した2種のMPFはFEPおよびPFAであった。この実施例でのブレンドは前記成分の水性分散系を混合することにより作製し、次いで、得られたブレンドを、上記第VII節で論じるように、光沢度、接触角および鉛筆試験による特性評価のためにフィルムとして引き下ろし、熱分析については、DSC測定のために凝固させ、乾燥させた。
【0129】
光沢度、接触角および鉛筆硬度試験のために次のとおりパネルを調製した。ミックスAおよびミックスBでは、脱イオン水(DIW)の値が何度も示されるが、それは混合物中の成分の2種以上に含まれているためである。
1.所望の比率でMPFおよびLPTFEの液体ブレンドを作製する。
2.工程1で作製したブレンドに処方物を添加する。下記表に示す以下の処方および割合%を用い、以下の手順を用いて引き下ろし用のブレンドを作製する。
a.分散系のブレンドを作製する。そのブレンドの固形物率%を計算する。
b.その固形物率%を35で除算する。
c.1.15を減算する。その結果は分散系ブレンドに添加する水の容量%である。
d.15容量%の、下記表に示す分散系溶液を添加する。
e.工程3で計算した量の水を添加する。
f.全容量で0.4%トリエタノールアミンを添加する。
3.気泡が発生しないように混合物を穏やかにブレンドする。
4.ピペットを用いて少量をアルミニウム脱脂パネルに塗布する。
5.3ミルのウエットパスバードアプリケーター(a 3 mil wet path bird applicator)を使用して円滑運動でコーティング剤をパネルに引き下ろす。
6.そのパネルを200°Fでおよそ5〜10分間急速に蒸発させる。
7.そのパネルを400°Fにし、さらに3〜5分急速蒸発を行う。
8.そのパネルを750°Fで10分間硬化させる。
分散溶液
【0130】
【表4】

【0131】
下記表1は、この実施例において調べたブレンドの概要である。表1では、「全MPF」はMPFの全量を示し、そのMPFはFEP、PFAまたは前述のものの組合せであり、ここで、使用したFEPは、TE 9568 FEP(固形物55.6%)(DuPontから入手可能)であり、使用したPFAは、TE 7224 PFA(固形物58.6%)であり、各々は上に第IV節で記載している。「LPTFE」はLPTFEの全量を示し、ここで、使用したLPTFEはSFN−D(Chenguang R.I.C.I, Chengdu, 610036 中国から入手可能)およびTE 3887Ν(DuPontから入手可能)であり、各々は上に第II節で記載している。「LPTFE座標」および「MPF座標」は、図19〜図30の組成プロットXX−YYにおける組成物の座標を表す。
表1
フルオロポリマーブレンド
【0132】
【表5】







【0133】
観察データを下記表2に示し、ここで:
光沢度=実測光沢度(上記第VII節のとおりである);
正規化光沢度=正規化された光沢度([光沢度−最小(光沢度)]/[最大(光沢度)−−最小(光沢度)]:として計算);
接触角=接触角(上記第V節のとおりである);
正規化接触角=正規化された接触角([接触角−最小(接触角)]/[最大(接触角)−最小(接触角):]として計算);
鉛筆=鉛筆試験測定値(上記第VII節のとおりである)、ここで、下記表2の値は、上記表1で「データ数」によって示された測定結果の数値の平均である;
正規化鉛筆=正規化された鉛筆試験測定値([鉛筆−最小(鉛筆)]/[最大(鉛筆)−最小(鉛筆)]:として計算);
正規化最低再溶融=正規化された「最低再溶融」([最低再溶融−最小(最低再溶融)]/[最大(最低再溶融)−最小(最低再溶融)]:として計算、ここで、「最低再溶融」は所定のサンプルについての最低再溶融ピークの温度である);
正規化(接触角、光沢度、硬度)=(正規化接触角、正規化鉛筆および正規化光沢度)の平均;および
正規化(再溶融、接触角、光沢度、硬度)=(正規化接触角、正規化鉛筆、正規化光沢度および正規化最低再溶融)の平均。
表2
観察データ
【0134】
【表6】







【0135】
表2に示したデータから、3成分ブレンドのいくつかは他のブレンドよりも全般的に優れた特性(光沢度がより高く、接触角がより大きく、鉛筆硬度がより高いなど)を有することが分かる。
【0136】
第1回目の溶融、融合および第2回目の溶融(再溶融)それぞれについて、温度データを下記表3、表4および表5に要約する。
表3
第1溶融 DSCデータ
【0137】
【表7】







【0138】
表3に、表1の様々なブレンドについての第1の溶融温度(℃)および融解熱(ΔΗ J/g)を示している。種々の成分がブレンドにおいてそれらの成分の化学的性質に典型的な温度でそれぞれの融点を示す、すなわち、FEPは約255〜260℃で、PFAは約312〜314℃で、LPTFEは約324〜328℃で融点を示すことが分かるであろう。表3内での数値識別子(すなわち、「融合_1」および「DH 融合 1」中の「1」)はDSC記録における最低溶融温度から最高溶融温度までのピーク数を示す。
表4
融合ピーク DSCデータ
【0139】
【表8】









表5
第2溶融 DSCデータ
【0140】
【表9】







【0141】
表4および表5内での数値識別子(すなわち、「第2溶融_1」および「DH 第2溶融 1」中の「1」)はDSC記録における最低溶融温度から最高溶融温度までのピーク数を示す。表4および表5のデータでは、3成分ブレンドの多くの場合において、第1溶融後にそれらの成分の多くが熱的特性を実質的に失い、特に、示したブレンドの多くでFEPに関連した低い融点が実質的に失われることが分かる。この挙動は表5に示した再溶融ピークを表しており、表5ではいくつかのブレンドがFEPの特性を失っている、例えば、試験49〜試験50。
【0142】
ブレンドが示した温度データは、ある種類のフルオロポリマーアロイの形成をもたらす、種々の成分の大規模かつ均質な混合を示すと考えられる。これらの処方物はまた、光沢度、水接触角および硬度の無比の組合せももたらし、その組合せは表2の正規化データによって示される。
【0143】
これに関連して、上記表2のデータは、ブレンドの多くは一般的に複合変数(正規化(接触角、光沢度、硬度)および正規化(再溶融、接触角、光沢度、硬度)を含む)がより高い値となることを示している。特に、試験21は優れた特性組合せを有し、硬度が高くさらにはっきり分かるほどのFEPの特性がなくそれゆえ再溶融温度が高い。本明細書における他の実施例により示されるように、これらの処方物はこれらの特徴に基づいて処方物を採用するコーティング系に望ましい特性を付与するであろう。
【0144】
それらのデータはまた図19〜図30にも要約している。図19は図20〜図30の構成を示し、それらの図はPFA:FEP軸(Y軸)に沿って結合された本質的に2つの三成分混合物プロットである。原点は100%PFA(TE7224)を表し、X軸の負の値はTE3887N(LPTFE)の重量分率の増加を表すのに対し、X軸の正の値はSFN−D(LPTFE)の重量分率の増加を表す。座標(0,1)で表される100%FEPは、100%TE9568である。予想できるように、図20〜図30はY軸について対称を示す場合が多いが、これは絶対的なことではなく、望ましい特性に関する正確な組成に及ぼす異なるLPTFEの影響が反映される。図20〜図30の調査結果についてはここでより詳細に論じる。
【0145】
図20はコーティングの光沢度を組成の関数として示し、光沢度を高めるための3つの主要な組成領域が存在する:A)50〜85%FEP、1〜40%LPTFEおよび15〜50%PFA;B)5〜40%FEP、30〜55%LPTFEおよび40〜95%PFA;およびC)5〜40%FEP、1〜40%LPTFEおよび1〜40%PFA。
【0146】
図21はコーティングの水接触角を組成の関数として示す。接触角を大きくするための主要な組成領域は1〜40%FEP、30〜100%LPTFEおよび0〜60%PFAである。
【0147】
図22はコーティングの鉛筆硬度を組成の関数として示す。鉛筆硬度を高めるための主要な組成領域は10〜90%FEP、1〜80%LPTFEおよび1〜50%PFAである。
【0148】
図23および図24は、接触角、光沢度、鉛筆硬度および最低再溶融温度の平均についての正規化プロットであり、それらは次のとおり計算する:
光沢度=実測光沢度;
正規化光沢度=正規化された光沢度([光沢度−最小(光沢度)]/[最大(光沢度)−最小(光沢度)]:として計算);
接触角=水中での接触角;
正規化接触角=正規化された接触角([接触角−最小(接触角)]/[最大(接触角)−最小(接触角)]:として計算);
鉛筆=鉛筆試験測定値(第VII節のとおりである);
正規化鉛筆=正規化された鉛筆試験測定値([鉛筆−最小(鉛筆)]/[最大(鉛筆)−最小(鉛筆)]:として計算);
正規化最低再溶融=正規化された「最低再溶融」([最低再溶融−最小(最低再溶融)]/[最大(最低再溶融)−最小(最低再溶融)]:として計算、ここで、「最低再溶融」は所定のサンプルについての最低再溶融ピークの温度である);
正規化(接触角、光沢度、硬度)=(正規化接触角、正規化鉛筆および正規化光沢度)の平均;および
正規化(再溶融、接触角、光沢度、硬度)=(正規化接触角、正規化鉛筆、正規化光沢度および正規化最低再溶融)の平均。
【0149】
図23は3つの組成領域:A)10〜40%LPTFE、50〜70%FEPおよび30〜50%PFA;B)5〜40%LPTFE、20〜40%FEPおよび60〜85%PFA;C)20〜80%LPTFE、5〜35%FEPおよび60〜95%PFAの正規化(接触角、光沢度、硬度)値がより高い望ましい領域を示す。図24は0〜80%LPTFE、5〜30%FEPおよび70〜95%PFAの正規化(接触角、光沢度、硬度、最低再溶融温度)値がより高い望ましい領域を示す。
【0150】
図25a、図25bおよび図25cは、第1回目の溶融、融合および第2回目の溶融のそれぞれの間に観察されたDSCピークの数を示す。ポリマーブレンドの溶融のたびに、観察されるDSCピークの数が減少することが分かる。これは、存在する相の数が減少し混合相が存在するということ、すなわち、アロイ形成を示す。
【0151】
図26は全融合エンタルピーと全第1溶融エンタルピーとの間の差を示し、図27は全再溶融エンタルピーと第1溶融エンタルピーとの間の差をJ/gで示す。これらのプロットはどちらも、溶融後にサンプルの全体結晶性が増加した領域を示す(この場合、値は正の値である)。最も増加している領域はほとんどの場合溶融ピーク数の減少を伴う;この減少は成分フルオロポリマーの均質混合と関連する新たなより結晶性の優れた相発生のさらなる兆候である。これらのより結晶性の高い相は、図23〜図24に示した、正規化特性の強化をもたらす領域に広く該当する領域、すなわち、10〜85%LPTFE、5〜30%FEPおよび70〜95%PFAに存在する。図28は最低第1溶融温度であり、図29は最低融合温度であり、図30は最低再溶融温度である。図28〜図30の単純比較により、最低溶融温度は再溶融時には一般的に高まることが分かる。特に一般的に低いFEP溶融ピークは不明瞭になり、実際、多くの場合では存在しなくなる。これらの試験に関連する領域はまた、上に論じた、特性が強化される領域にも一般的に一致する。
表6
望ましい特性を有する選択3成分(2 MPFおよびLPTFE)処方物の概要
【0152】
【表10】

【0153】
表6から、選択される3成分(2種のMPF、1種のLPTFE)系は、10〜64%FEP、16〜64%PFAおよび20〜60%LPTFEの間で含むものであると結論付けることができる。特には12〜24%FEP、24〜64%PFAおよび20〜60%LPTFEの間で、最も特には12〜16%FEP、24〜48%PFAおよび40〜60%LPTFEの間で含むものである。
【0154】
処方物21は、12%FEPを含有するが最低再溶融温度が299.3℃であることから特に注目すべきものである。そのFEP溶融ピークは消滅しており、これはFEPがこの時点において混合相またはアロイ中に含有されていることを示している。処方物21の第1溶融温度が260.16℃であったことに留意すること。処方物21はまた硬質でもあり、水中での接触角は極めて大きく、さらに非常に光沢がある。
【0155】
実施例2
第2の実施形態
複数種のMPF(HPTFE/LPTFE/MPF1/MPF2)を含むフルオロポリマーブレンド
基本特性および熱的特性
この実施例において定義するとおり、「4成分」ブレンドは、上記のように、次の成分の全てを含有する:少なくとも1種のHPTFE、少なくとも1種のLPTFEおよび少なくとも2種の化学的に異なるMPF。この実施例では、使用した2種のMPFはFEPおよびPFAである。この実施例でのブレンドは前記成分の水性分散系を混合することにより作製し、次いで、得られたブレンドを、上記第VII節で論じるように、光沢度、接触角および鉛筆試験による特性評価のためにフィルムとして引き下ろし、熱分析については、DSC測定のために凝固させ、乾燥させた。
【0156】
光沢度、接触角および鉛筆硬度試験のために次のとおりパネルを調製した。ミックスAおよびミックスBでは、脱イオン水(DIW)の値が何度も示されるが、それは混合物中の成分の2種以上に含まれているためである。
1.所望の比率でMPF、LPTFEおよびHPTFEの液体ブレンドを作製する。
2.工程1で作製したブレンドに適当な処方物を添加する。以下の処方および割合%を用い、引き下ろし用のブレンドを作製する。
3.PFAに対しては、PFAを含まないミックスB(下記)を使用する。工程1で作製した量に2/3を乗算する。
4.FEPに対しては、FEPを含まないミックスA(下記)を使用する。工程1で作製した量に0.70を乗算する。
5.気泡が発生しないように混合物を穏やかにブレンドする。
6.ピペットを用いて少量をアルミニウム脱脂パネルに塗布する。
7.3ミルのウエットパスバードアプリケーターを使用して円滑運動でコーティング剤をパネルに引き下ろす。
8.そのパネルを200°Fでおよそ5〜10分間急速に蒸発させる。
9.そのパネルを400°Fにし、さらに3〜5分急速蒸発を行う。
10.そのパネルを750°Fで10分間硬化させる。
ミックスA
【0157】
【表11】

ミックスB
【0158】
【表12】

【0159】
下の表7は、この実施例において調べたブレンドの概要である、ここで、「データ数」欄は試験の反復数であり、従って全てのデータはこれらの反復試験の平均である。4成分ブレンドについては4試験、すなわち試験22、試験23、試験30および試験31をそれぞれ行った。表7では、「全MPF」はMPFの全量を示し、そのMPFはFEP、PFAまたは前述のものの組合せであり、ここで、使用したFEPは、TE 9568 FEP(固形物55.6%)(DuPontから入手可能)であり、使用したPFAは、TE 7724 PFA(固形物58.6%)であり、各々は上に第IV節で記載している。「全LPTFE」はLPTFEの全量を示し、ここで、使用したLPTFEはSFN−D(Chenguang R.I.C.I, Chengdu, 610036 中国から入手可能)およびTE 3887Ν(DuPontから入手可能)であり、各々は上に第II節で記載している。「HPTFE」は使用したHPTFEを示し、それはD310(Daikinから入手可能)であった。
表7
フルオロポリマーブレンド
【0160】
【表13】

【0161】
観察データを下記表8に示し、ここで:
光沢度=実測光沢度(上記第VII節のとおりである);
正規化光沢度=正規化された光沢度([光沢度−最小(光沢度)]/[最大(光沢度)−−最小(光沢度)]:として計算);
接触角=接触角(上記第VII節のとおりである);
正規化接触角=正規化された接触角([接触角−最小(接触角)]/[最大(接触角)−最小(接触角]:として計算);
鉛筆=鉛筆試験測定値(上記第VII節のとおりである)、ここで、下記表7の値は、上記表6で「データ数」によって示された測定結果の数値の平均である;
正規化鉛筆=正規化された鉛筆試験測定値([鉛筆−最小(鉛筆)]/[最大(鉛筆)−最小(鉛筆)]:として計算);
正規化最低再溶融=正規化された「最低再溶融」([最低再溶融−最小(最低再溶融)]/[最大(最低再溶融)−最小(最低再溶融)]:として計算、ここで、「最低再溶融」は所定のサンプルについての最低再溶融ピークの温度である);
正規化(接触角、光沢度、硬度)=(正規化接触角、正規化鉛筆および正規化光沢度)の平均;および
正規化(再溶融、接触角、光沢度、硬度)=(正規化接触角、正規化鉛筆、正規化光沢度および正規化最低再溶融)の平均。
表8
観察データ
【0162】
【表14】

【0163】
表8に示したデータから、4成分ブレンドは他のブレンドよりも全般的に優れた特性(光沢度がより高く、接触角がより大きく、鉛筆硬度がより高いなど)を有することが分かる。
【0164】
第1回目の溶融、融合および第2回目の溶融(再溶融)それぞれについて、温度データを下記表9、表10および表11に要約する。
表9
第1溶融 DSCデータ
【0165】
【表15】

【0166】
【表16】

【0167】
表9に、表7の様々なブレンドについての第1の溶融温度(℃)および融解熱(ΔΗ J/g)を示している。表9内での数値識別子(すなわち、「DH 第1溶融 1」中の「1」)はDSC記録における最低溶融温度から最高溶融温度までのピーク数を示す。種々の成分がブレンドにおいてそれらの成分の化学的性質に典型的な温度でそれぞれの融点を示す、すなわち、FEPは約255〜260℃で、PFAは約312〜314℃で、LPTFEは約324〜328℃で、HPTFEは約330〜340℃で融点を示すことが分かるであろう。
表10
融合ピーク DSCデータ
【0168】
【表17】

表11
第2溶融 DSCデータ
【0169】
【表18】

【0170】
【表19】

【0171】
表10および表11内での数値識別子(すなわち、「融合 1」および「第2溶融 1」および「DH 第2溶融」中の「1」)はDSC記録における最低溶融温度から最高溶融温度までのピーク数を示す。
【0172】
しかしながら、表10および表11のデータでは、4成分ブレンドの場合において、第1溶融後にそれらの成分の多くが熱的特性を実質的に失い、特に、示した4種の4成分ブレンドのうちの3種(すなわち、試験22、試験23および試験31)でFEPに関連した低い融点が実質的に失われることが分かる。これらのブレンドのうちの2種(すなわち、試験22および試験31)では、PFA融合ピークも実質的に存在せず、これらの材料では融合データは1つの融合ピークしか示さない。この挙動は表11に示した再溶融ピークを表している。本質的には、第1溶融後、PTFEに通常関連する温度での1つのピークが融合および再溶融時に残る実質的に全てである。これは、例えば、試験22の場合では、処方物の36重量%が、はるかに低い融点をもたらすFEFまたはPFAのいずれかであることから極めて注目すべきである。
【0173】
4成分ブレンドが示した温度データは、ある種類のフルオロポリマーアロイの形成をもたらす、種々の成分の大規模かつ均質な混合を示すと考えられる。これらの処方物はまた、光沢度、水接触角および硬度の無比の組合せももたらし、その組合せは表8の正規化データによって示される。
【0174】
これに関連して、上記表8のデータは、4成分ブレンド、すなわち、試験22、試験23、試験30および試験31は、複合変数(正規化(接触角、光沢度、硬度)および正規化(再溶融、接触角、光沢度、硬度)を含む)の最高値となることを示している。本明細書における他の実施例により示されるように、これらの処方物はこれらの特徴に基づいて処方物を採用するコーティング系に望ましい特性を付与するであろう。
【0175】
表8〜表10の特定の試験についての例示的な実際のDSCプロットを図1〜図18に示し、下記表12に要約する。
表12
図(1-18)に示したDSCプロットを示す様々なフルオロポリマーブレンド
【0176】
【表20】

【0177】
これらのプロットをよく見ると、試験31を除き、ほとんどの場合で、4成分ブレンドでも融合および再溶融中にPFAおよびFEPに関連する微小ピークの記録を見つけることができる(図6〜図7)。しかしながら、4成分ブレンドでは全般的に、これらの微小ピークは非常に小さく(試験31では存在しない)、これらの成分が何らかの形でブレンド中に存在するPTFEと主として関わりをもつことになったということである。上に述べたように、そのようなブレンドは上記表12に示した特に優れた特性を示すことが見出されている。
【0178】
表12Bでは、正規化(再溶融、接触角、光沢度、硬度)の最大実測値によって得られる望ましい特性をもたらした4成分ブレンドを要約する
表12B
選択4成分フルオロポリマー ブレンド
【0179】
【表21】

【0180】
表12Bから、選択される4成分ブレンドは、16〜60%LPTFE、1〜30%FEP、1〜30%PFAおよび1〜60%HPTFE、または、さらに特には、16〜60%LPTFE、8〜18%FEP、8〜18%PFAおよび40〜60%HPTFEを含有するものであることが分かる。
【0181】
試験31は、光沢度、接触角および硬度の高い注目すべき組合せである。
【0182】
実施例3
軟質基材、例えば、グラスクロスに対するコーティング組成物および塗布
この実施例では、コーティング組成物を、HPTFE、LPTFEおよび2種の化学的に異なるMPFを含むブレンドフルオロポリマーから作製した。これらのコーティング組成物をグラスクロスのベースコートおよび/またはミッドコートの上にコーティングし、得られたコーティング系を、耐摩耗性、剥離特性について試験し、他の特性については残りの実施例で試験した。
【0183】
ベースコートおよびミッドコートの処方を、それぞれ表13Aおよび表13Bに示し、湿潤重量分率として表している。一方、表13Cに示したトップコート成分は乾燥重量分率として表している。各コーティングにおいて1層のトップコートを適用する。
表13A
ベースコート処方物
【0184】
【表22】

表13B
ミッドコート処方物
【0185】
【表23】

表13C
トップコート処方物
【0186】
【表24】



【0187】
トップコートのフルオロポリマー成分は次のとおりであった。
【0188】
PTFE(HPTFE)−D310(Daikin)、固形物=60%。
【0189】
PFA−PFA TE7224(du Pont)、ロット番号0804330005、固形物=58.6%)。
【0190】
FEP−FEP TE9568(du Pont)、固形物=54.0%)。
【0191】
LPTFE−SFN−D(Chenguang)、ただし、トップコート F(45)は
Dyneon 9207 TF PTFE微粉末を使用して作製した。
【0192】
コーティング組成物は全て、標準的なミキサーを使用して中剪断下で5〜7分間混合した。全ての混合コーティングは、実験室中でドローダウンバー(draw down bars)を用いてグラスクロスに塗布した。グラスクロス基材の品質等級を上記表12Aに示す。それらの基材はPD InterglasまたはPorcher Industriesの製品である。コーティングした基材は、260℃(500°F)に設定した実験用ボックスオーブンで2分間急速に蒸発させ、続いて400℃(752°F)に設定した実験用ボックスオーブンで2分間硬化させる。
【0193】
F(対照)Aは、従来のPTFE分散系を用いてAFC(Advanced Flexible Composites)によって生産された標準的な製品であり、このサンプルには改良またはさらなるコーティングを適用しなかった。対照サンプルのベースコート、ミッドコートおよびトップコートのPTFEは、全て標準的なPTFE分散系であった。F(対照B、対照Cおよび対照D)は、従来のPTFE分散系を用いてAFC(Advanced Flexible Composites)によって生産された標準的な製品であり、表13Cに詳述するように1層のトップコートを追加したものであった。
【0194】
実施例3A
粗度、光沢度および接触角の決定
この実施例では、コーティングの粗度、光沢度および接触角を決定した。試験プロトコールは次のとおりである。
【0195】
粗度 表面をトレースするアナライザーを装備した触針タイプの表面粗度検出器を、EN ISO 13565に準拠して使用した。これらの機器は、例えば、次のものである:Mitutoyo Surftest 402表面粗度測定分析装置(Mitutoyo Canada, 2121 Meadowvale Blvd, Mississauga, トロント、オンタリオ、 ON L5N 5N1から入手可能)およびPerthometer M2P/M3P/M4P表面粗度測定分析装置(Mahr GmbH-Carl-Mahr-Str.1, D-37073 Gottingen,ドイツ)。これらの機器では、Ra(粗度プロフィールの算術平均偏差、ミクロンで測定)およびPc(ピークカウント)を測定する。手順は次のとおりである。まず、測定するサンプルを準備する。大抵の検出器の構成では、検出器が接近できる平坦な表面を得るためにサンプルをカットする必要がある。検出器の粗度範囲を測定で予想される粗度より少し高いレベルに設定する。トレース長、スケール倍率および測定単位(英国単位またはメートル法)を設定する。製造業者の使用説明書に従って、既知の参照基準を用いて検出器を較正する。同じように、サンプル表面の粗度を測定する。少なくとも6回測定を行う。
【0196】
光沢度 光沢度測定値は、ミニグロスメーター110V 20°−60°(Sheen Instrumentsから入手可能)を使用して60°の角度で得た。光沢度計は次の規格に適合させた:BS3900/D5、DIN EN ISO 2813、DIN 67530、EN ISO 7668、ASTM D523、ASTM D1455、ASTM C346、ASTM C584、ASTM D2457、JIS Z 8741、MFT 30064、TAPPI T 480。測定値の単位は%反射率として表す。
【0197】
接触角 接触角は、水滴に対して測定し、ヤングの式に従って、「Drop Shape Analysis」システム(DSA10)(Kruss GmbH ドイツ、ハンブルクから入手可能)を用いてASTM D7334−08に準拠して測定した際には度(°)で表される。
【0198】
それらの結果を下記表14に示す。
表14
粗度、光沢度および接触角
【0199】
【表25】



【0200】
上記表14の結果は、軟質ガラス基板に塗布する場合に、本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に従って作製したコーティング組成物では、対照トップコートと比べて平滑性が著しく向上し、光沢度が増加し、水接触角が増大することを示している。
【0201】
実施例3B
往復摩耗試験
往復摩耗試験(RAT)は、この実施例の最後に示す試験プロトコールに従って各コーティングについて行った。それらの結果を下記表15に示す:
表15
往復摩耗試験(RAT)
【0202】
【表26】



【0203】
上記表の結果は、軟質ガラス基板に塗布する場合に、本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に従って作製したトップコートを用いて、対照トップコートAと比べて耐線形摩耗性が300%まで向上することを示している。
【0204】
往復摩耗試験(RAT)
往復摩耗試験は、下に示す完全なプロトコールに基づき、次の改良を加えて行った:(i)コーティングしたサンプルは、基材が10%露出するまで試験した;(2)試験は周囲温度で3kgの分銅を用いて行った;および(3)スコッチブライト(Scotchbrite)3M(7447)パッドは1000サイクルごとに交換した。
【0205】
完全な試験プロトコールは次のとおりである。
【0206】
目的 この試験は、スコッチブライトパッドを往復運動させることによって摩耗に対するコーティングの耐性を測定する。試験ではコーティングを前後運動により摩耗させる。本試験は、洗浄によって生じる研磨および他の類似した損傷を受けたコーティングの耐用寿命を測定するものである。TM 135CはWhitford Corporation(West Chester, PA)が構築した試験装置である。しかしながら、それは英国工業規格7069−1988に記載されているものなどの同様の試験方法にも適用可能である。
【0207】
装置および材料
(1)一定の力で試験する表面に対して特定サイズのスコッチブライト摩耗パッドを保持することが可能であり、そのパッドを前後(往復)運動により10〜15cm(4〜6インチ)の距離にわたって移動させることが可能な試験機。力および運動は、自由落下する重り付きスタイラスにより加えられる。試験機は、カウンターを装備している必要があり、好ましくは、所定のサイクル数の後停止するように設定し得るものである。
【0208】
(2)必要な摩耗性を有するスコッチブライトパッド(必要なサイズにカットしたもの)。スコッチブライトパッドは、3M Company, Abrasive Systems Division, St Paul, MN 55144-1000で作製されたものである。パッドは以下のような様々な摩耗性レベルの等級に分けられる。
最低等級−7445、7448、6448、7447、6444、7446、7440、5440−最高等級。
【0209】
スコッチブライトパッドは、150℃(300°F)までの温度で使用し得る。等価なパッドを使用してもよい。
【0210】
(3)試験片を加熱するためのホットプレート(任意選択)
【0211】
(4)液体を用いる試験用の洗浄液または洗浄油。(任意選択)
【0212】
手順
【0213】
試験を開始する前に、終了点を定めておく必要がある。終了点は通常、基材の一部が露出される時と定められる。しかしながら、基材が露出されなくても終了点を所定のストローク数として定めてもよい。本発明者らは、標準的な終了点の定義として擦過領域にわたる基材の10%露出を使用する。他の終了点を使用してもよい。
【0214】
試験する成形品が往復運動するパッドの下に確実にあるようにする。成形品はボルト、クランプまたはテープでしっかりと固定する必要がある。成形品はできるだけ平坦にし、パッドがはみ出さないように十分な長さである必要がある。表面における隆起は最初に摩滅するが、はみ出しによってパッドが裂ける可能性があり、摩損が早まり誤った結果をもたらし得る。
【0215】
必要な摩耗性のスコッチブライト片を、スタイラスの「末端部」の正確なサイズにカットする。本発明者らは標準として等級7447を使用し、試験機上のスタイラスの「末端部」は直径5cm(2インチ)である。パッドを「末端部」の底に取り付ける。スコッチブライトパッドは、末端部の底に接着された「ベルクロ(Velcro)」片によって「末端部」に固定する。
【0216】
試験機が調節可能なストローク長を有する場合、必要な長さに設定する。本発明者らは標準として10cm(4インチ)のストローク長を用いる。パッドを試験片の表面に下げる。分銅が完全に外れていることを確認する。本発明者らは標準として3.0Kgの分銅を使用したが、これは変更することができる。
【0217】
試験機がカウンターを装備している場合、カウンターを必要なストローク回数に設定する。1ストロークは一方向における一運動である。試験機が自動カウンターを備えていない場合、カウンターを監視し、適切な回数で試験機を停止させるようにしなければならない。種々の間隔で試験機を停止させ、摩耗パッドを交換する。パッドの摩耗性は、パッドにクズが満たされるにつれて変化する(通常は効果がより少なくなる)。本発明者らは1,000ストローク間隔でパッド交換した。1000ストロークはパッド交換するのに好ましい間隔である。
【0218】
試験機を始動する。終了点に到達するまでまたはパッド交換までのストローク必要回数が達成されるまで動作させる。
【0219】
各始動の開始および終了時には、試験片を注意深く検査する。終了点に近づくにつれて、基材がコーティングを通して見え始めるであろう。終了点付近では、試験片を常に観察する。終了点に到達したら試験機を停止させる。
【0220】
評価
試験機に関して以下の事項を記録する。
1.スコッチブライトパッドの等級およびサイズ
2.スタイラスへの荷重
3.パッド交換までのストローク数
4.ストローク長
5.終了点の定義
6.終了点までのストローク数
【0221】
2反復の試験によりより高い信頼性が得られる。終了点が1回の結果であるかまたは数回の結果の平均であるかを指示する。
【0222】
コーティングの種類、膜厚、ならびに基材および表面調製について記録する。
【0223】
試験を特定のストローク数まで実行する場合には、ストローク数を記録する。摩耗量の内容、例えば、基材の露出率、または最初の基材露出までのストローク数などを記録する。所望により、試験前後に膜厚および/または重量を記録する。
【0224】
試験を高温で実施する場合には、試験の温度を記録する。液体を用いて実施する場合には、液体の詳細を記録する。
【0225】
説明/事前注意事項
スコッチブライトパッドの両面を使用してよい。パッドは「末端部」に寸法が合うように正確にカットしなければならない。パッド上にギザギザの縁またはでこぼこがあると誤った結果を与える。試験片は平坦であり、夾雑物または他の粒子がないようにする必要がある。この試験方法は、BS 7069:1988、付録Alに記載されている摩耗試験と類似している。BS 7069に準拠して試験する場合には、試験片を家庭用食器洗い洗剤の5g/l水溶液50cm中に浸漬する。試験は、50サイクルごとにパッドを交換しながら250サイクル実行する。
【0226】
実施例3C
テーバー往復摩耗試験
テーバー往復摩耗試験は、ASTM D3389に準拠して以下の条件下で実施した:(1)試験は、重量減量法を用いてテーバー5135摩耗試験機で行った:(2)弾力性のあるCalibrase車輪H−18を、摩耗試験機の各アームに対して250g荷重で使用し、車輪は1000サイクルごとに再表面仕上げした:および(3)テーバー摩耗指数は、
テーバー摩耗指数=重量(減量)mg/サイクル回数
として計算した。
【0227】
テーバー試験は、一般的に、一定速度で回転する回転台に試験片(典型的には12.5mm厚未満)を載せて行う。特定の圧力が加えられた2つの研磨輪を試験片表面に下ろす。回転台が回転すると、車輪はサンプルによってサンプルの軸から接線方向に移動する水平軸と反対方向に動かされる。試験中は真空系により出たクズを取り除きながら、一方の研磨輪は試験片を周縁部に向かって外側に擦り、もう一方の研磨輪は中心に向かって内側に擦る。
【0228】
それらの結果を下記表16に示す。
表16
テーバー往復摩耗試験
【0229】
【表27】



【0230】
上記表16の結果は、軟質ガラス基板に塗布する場合に、本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に従って作製したトップコートを用いてテーバー摩耗指数が低下することを示しており、これは対照トップコートと比べて横方向の耐摩耗性が向上することを示している。
【0231】
実施例3D
調理剥離性試験
調理剥離性試験は、クッキー生地、ピザ生地、鶏もも肉および卵について、下記プロトコールに従って行った。それらの結果を1〜5(1−外すことができない、5−残渣がなくおよび汚れがない優れた剥離性)に等級付けした。
【0232】
クッキー生地 小さい円形片(およそ5cm直径)の生地を、コーティングした基材上に中央に置き、160℃で12分間調理し、5分間冷却させた。剥離性を、剥離の容易性、残渣および汚れを含めて評価した。
【0233】
ピザ生地 小さい円形片(およそ5cm直径)の生地を、コーティングした基材上に中央に置き、160℃で12分間調理し、5分間冷却させた。剥離性を、剥離の容易性、残渣および汚れを含めて評価した。
【0234】
鶏もも肉 鶏もも肉1枚を、コーティングした基材上に中央に置き、225℃で30分間調理し、5分間冷却させた。剥離性を、剥離の容易性、残渣および汚れを含めて評価した。
【0235】
それらの結果を下記表17に示す。
表17
調理剥離性試験
【0236】
【表28】



【0237】
上記表の結果は、軟質ガラス基板に塗布する場合に、本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に従って作製したトップコートを用いて、対照トップコートと比べて、試験した全ての種類について食物の剥離性が向上し、汚れが減少し、洗浄しやすい特性を有することを示している。
【0238】
実施例3E
光透過性試験
光透過性試験は、TES 1334光度計(TES Electronic Corp. , Taipei, Taiwanから入手可能)を用いて行った。測定値の単位はルクス(lx)である。
【0239】
サンプルをライトボックスの2インチ手前にフレームに固定し、ピークの記録を測定した。光透過性は、コーティングしたサンプルについて測定したlx価をコーティングしていないサンプルについて測定したlx価で除算して得られた割合(%)として表される。
【0240】
それらの結果を下記表18に示す。
表18
光透過性試験
【0241】
【表29】



【0242】
表18は、軟質ガラス基板に塗布する場合に、本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に従って作製したトップコートを用いて、対照トップコートと比べて光透過性が高まることを示している。
【0243】
実施例3F
接着性試験
接着性試験は以下の条件下で行った:(1)試験はLloyd LRX張力計で行った;(2)幅25mm、長さ200mmのサンプルを、2本の細長い織物片をPFAフィルムで固着させる(温度375℃、25秒)ことにより準備する。
【0244】
試験は、25mmの距離で100mm/分の速度で行う。3回の測定の平均読み値を引用し、測定値の単位はIbs/fである。
【0245】
それらの結果を下記表19に示す。
表19
接着性試験
【0246】
【表30】




【0247】
表19の結果は、軟質ガラス基板に塗布する場合に、対照トップコートの接着性は維持されるかまたは本コーティング組成物においてわずかな向上を示すことを示しており、これは本コーティング組成物が加わることによるその基材へのコーティングの接着性への干渉がないことを示している。
【0248】
最後に、表20に、グラスクロストップコートとしての望ましい全体的特性をもたらした10種の組成物を要約する。それらの組成物は最も良好なものから最も不良なものへと順に並べ、4種の対照も挙げている;対照の全体的特性は著しく不良である。
表20
望ましい特性を有する選択4成分グラスクロスコーティング用トップコート処方物
【0249】
【表31】

【0250】
表20から、グラスクロスコーティングについてのこれらの選択される4成分フルオロポリマーブレンドは、60〜84%HPTFE、4〜12%PFA、2〜18%FEPおよび4〜30%LPFFEを含有し最も望ましい特性をもたらすことは明らかである。
【0251】
実施例4
エンジニアリング樹脂を含む複数成分ブレンド
この実施例では、コイルトップコート剤を作製し、ECCS(Hi-Top Steel)パネル形態の硬質基材に対して従来のコイルベースコートコーティング(「ベースコート」)の上に塗布した。本発明に従って調合したトップコート剤を対照トップコート剤と比べて評価した。
【0252】
A.ベースコートの詳細
ポリエーテルスルホンの溶剤型系は、RADEL A−704P(Advanced Polymers LLCから入手可能)などの粒状PESポリマーをNMP/溶媒ブレンドに溶解させることにより調製することができることは当技術分野で周知である。さらに、そのPES溶液は、様々な組成物を添加することによってベースコート剤に調合することができる。
【0253】
トップコート処方物を4種のベースコート(ベースコートA、ベースコートB、ベースコートCまたはベースコートD)のうちの1つにコーティングした。これらのベースコート剤は、上記のように調製し、下記表21にさらに示すように調合する。
表21
ベースコート処方物
【0254】
【表32】

【0255】
試験サンプルは、予備洗浄したECCS(Hi-Top Steel)パネル上にベースコートA、ベースコートBおよびベースコートCを引き下ろすことにより準備し、続いて炉内で400℃で30秒間加熱を行った。ベースコートDを吹付塗布によって洗浄したゴム基材に塗布し、1分間風乾させた。
【0256】
トップコートE(対照)l〜E(対照)11、E1〜E17、E19、E21〜E51、E62、E64、E66〜E75、E101およびE133をベースコートAの上に塗布し、トップコートE18、E20、E76〜E100、E102〜E116、E131〜E132をベースコートBの上に塗布し、トップコートE52〜E61、E63、E65、E117〜E130、E134およびE135をベースコートCの上に塗布し、トップコートE136およびE137をベースコートDの上に塗布した。
【0257】
B.トップコートの塗布
下に記載するように調合したトップコート剤を、関連Kバー(ドローダウンバー)で引き下ろすことにより試験サンプルに塗布した。典型的には、コーティングしたパネルを次いで、炉内で420℃で90秒間硬化させた。塗布した場合、ベースコートの乾燥膜厚(DFT)はおよそ6ミクロンであり、トップコートの乾燥膜厚はおよそ6ミクロンであった。
【0258】
実施例トップコート剤は、フルオロポリマー分散系およびトップコート基剤の組合せを用いて作製した。トップコート剤のフルオロポリマー成分は、以下の1種以上を含むものであった:1種以上の高分子量PTFE(HPTFE)分散系、1種以上の溶融加工可能なフルオロポリマー分散系(MPF)および1種以上の低分子量PTFE(LPTFE)分散系。
【0259】
この実施例において定義するとおり、「4成分」ブレンドは、上記のように、次の成分の全てを含有する:少なくとも1種のHPTFE、少なくとも1種のLPTFEおよび少なくとも2種の化学的に異なるMPF。この実施例において、使用した2種のMPFはFEPおよびPFAである。この実施例でのブレンドは、前記成分の水性分散系を混合し、エンジニアリング樹脂を含有する調合した「トップコート基剤」に添加することにより作製した。次いで、得られた「処方物」を、下記表24に示すように、ベースコートの上にフィルムとして引き下ろしまたは吹付け、光沢度、表面粗度、ステーキ剥離性、鶏もも肉剥離性および耐汚れ性について試験した。
【0260】
本実施例の各トップコート処方物に用いるトップコート基剤の処方を下に表22で示す。
表22
トップコート基剤
【0261】
【表33】

【0262】
下記表23のとおり、第1のトップコート剤セット(トップコート「E対照1」〜「E対照11」を示す)は、トップコート基剤と分散系形の各フルオロポリマーとを用いて対照として調合した。その分散系形は、分散重合または乳化重合によって製造されるとその後は凝集、放射線照射または熱崩壊を受けないものであった。加えて、LPTFE分散系およびLPTFE微粉末の両方を評価した。第2のトップコート剤セット(下記トップコートE1〜E137を示す)は、上に記載したトップコート基剤と下記表23に示すように調合したフルオロポリマー分散系ブレンドとを用いて上記のように調合した。
表23
トップコートブレンド
【0263】
【表34】







【0264】
トップコートのフルオロポリマー成分は次のとおりであった。
【0265】
PTFE(HPTFE)−D310(Daikin)(固形物=60%)。
【0266】
PFA−PFA TE7224(du Pont)(ロット番号0804330005、固形物=58,6%)。
【0267】
FEP−FEP TE9568(du Pont)(固形物−54.0%)。
【0268】
LPTFE−TE3887N(Du Pont)(固形物=55%、ただし、トップコートE(対照)6およびE(対照)7はSFN−D(Chenguang)(固形物=25%)を使用して作製し、トップコートE(対照)5、E(対照)9およびF73はDyneon 9205 PTFE微粉末を使用して作製した)。
【0269】
上記表23には示していないが、トップコートE75は3.57重量%TF−1750、粒状HPTFE(Dyneon LLCから入手可能)をさらに含んだ。
【0270】
試験サンプルは、上に表23で示すエンジニアリングポリマー比率およびフルオロポリマー分散系ブレンドを用いて調製し、下記表24に示す所定の硬化スケジュールを用いてそれぞれのベースコート上にコーティングした。次いで、流れる冷えた水道水の下にパネルを通すことによってトップコートE(対照)1〜E(対照)11およびE1〜E135を「クエンチし」、パネルが室温に完全に冷却するまでとした。E136およびE137を用いたトップコートに吹付塗布し、下記表24に示すコーティングスケジュールのとおり硬化させ、水によるクエンチを行わずに室温に冷却させた。
表24
試験サンプルの調製
【0271】
【表35】









【0272】
実施例4A
粗度および光沢度
この実施例では、コーティングの粗度および光沢度を決定した。試験プロトコールは次のとおりである。
【0273】
粗度 表面をトレースするアナライザーを装備した触針タイプの表面粗度検出器を、EN ISO 13565に準拠して使用した。これらの機器は、例えば、次のものである:Mitutoyo Surftest 402表面粗度測定分析装置(Mitutoyo Canada, 2121 Meadowvale Blvd, Mississauga, トロント、オンタリオ、 ON L5N 5N1から入手可能)およびPerthometer M2P/M3P/M4P表面粗度測定分析装置(Mahr GmbH-Carl-Mahr-Str.1, D-37073 ドイツ、ゲッティンゲン)。これらの機器では、Ra(粗度プロフィールの算術平均偏差、ミクロンで測定)およびPc(ピークカウント)を測定する。手順は次のとおりである。まず、測定するサンプルを準備する。大抵の検出器の構成では、検出器が接近できる平坦な表面を得るためにサンプルをカットする必要がある。検出器の粗度範囲を測定で予想される粗度より少し高いレベルに設定する。トレース長、スケール倍率および測定単位(英国単位またはメートル法)を設定する。製造業者の使用説明書に従って、既知の参照基準を用いて検出器を較正する。同じように、サンプル表面の粗度を測定する。少なくとも6回測定を行う。
【0274】
光沢度 光沢度測定値は、ミニグロスメーター110V 20°−60°(Sheen Instrumentsから入手可能)を使用して60°の角度で得た。光沢度計は次の規格に適合させた:BS3900/D5、DIN EN ISO 2813、DIN 67530、EN ISO 7668、ASTM D523、ASTM D1455、ASTM C346、ASTM C584、ASTM D2457、JIS Z 8741、MFT 30064、TAPPI T 480。測定値の単位は%反射率として表す。
【0275】
それらの結果を下記表25に示す。
表25
粗度および光沢度
【0276】
【表36】







【0277】
実施例4B
往復摩耗試験
往復摩耗試験(RAT)は、実施例3Bに示した試験プロトコールに従って特定のコーティングについて行った。それらの結果を下記表26に示す。
表26
往復摩耗試験(RAT)
【0278】
【表37】







【0279】
上記表の結果は、本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に従って作製したトップコートを用いて、対照トップコートと比べて耐線形摩耗性が向上することを示している。
【0280】
実施例4C
調理剥離性試験
調理剥離性試験は、鶏もも肉およびステーキについて、下記プロトコールに従って行った。鶏もも肉およびステーキの試験では、それらの結果は、コーティングの表面が、表面にまだくっついている肉はなく洗浄後に汚れていないように見えるかどうかによって判断した。これにより試験の終了点を決定し、次いで、終了点に到達するまでに行ったサイクル回数を記録した。
【0281】
鶏もも肉 鶏もも肉1枚を、コーティングした基材上に中央に置き、230℃で40分間調理した。コーティング基材を温水溶液で洗浄し、液体をぬぐい取る。乾燥させ、コーティング表面を肉残渣の様子について評価する。肉残渣の様子は試験の終了点を示す。次いで、終了点に到達するまでに鶏もも肉を調理したサイクル回数を記録する。しかしながら、試験「合格」には5サイクルの試験が必要である。
【0282】
ステーキ 一見して肉の外側周囲に脂身がない一枚の生のランプステーキを試験するサンプルに置く(霜降りは除く必要はない)。表面面積が重要であり、使用するステーキのサイズはおよそ22.5cm×12.5cmであり、表面面積200cm±25cmとする。ステーキ片の重量は約0.6kgである必要がある。180℃で1時間調理する。コーティング基材を60℃の水溶液に浸漬し、15分間液体をぬぐい取る。乾燥させ、コーティング表面を肉残渣の様子について評価する。肉残渣の様子およびいかなる汚れも試験の終了点を示した。次いで、終了点に到達するまでにステーキを調理したサイクル回数を記録する。しかしながら、試験「合格」には5サイクルの試験が必要である。
【0283】
それらの結果を下記表27に示す。
表27
調理剥離性試験
【0284】
【表38】









【0285】
上記表の結果は、本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に従って作製したトップコートを用いて、対照トップコートと比べて、試験した全ての種類について剥離性が向上し、洗浄しやすい特性を有することを示している。
【0286】
実施例4D
二次成形コーティングについての接着性および0T曲げ試験
この実施例では、接着性試験を下に記載する手順に従って行い、粘着テープを用いてコーティングの剥離を試みることにより基材に対するコーティングの接着強度を決定する。0T曲げ試験も行った。
【0287】
接着性試験についての手順(下記では「試験2」と呼ぶ)は次のとおりであり、下記では「試験1」について最初に触れる。ECCS基材の場合には試験2と0Tの両方に合格する必要がある。
【0288】
試験1
1.目的
【0289】
この手順は、粘着テープを用いてコーティングの剥離を試みることにより基材に対するコーティングの接着性を決定するために使用するものである。
【0290】
2.装置および材料
2.1.金属定規(目盛:ミリメートル)または適当な間隔で切れ目の入った特別なテンプレート。
2.2.片刃かみそり、外科用メス、ナイフまたは繊細で鋭い刃を備えた他の切断器具。
2.3.2.1および2.2の代わりになるものとして、適切な刃間隔の複数刃の切断用工具を使用してもよい。
2.4.粘着テープ、例えば、スコッチ(Scotch)ブランド(3M)のNo.897荷造テープまたはNo.898フィラメントテープまたはその等価物など。
2.5.低倍率(3−5X)拡大鏡。
【0291】
3.手順
3.1.平坦な堅い表面に試験片を置く。
【0292】
3.2.金属定規を用いて、必要な距離で離れた11の間隔に印を付ける。これは1mm、1.5mmまたは2mmであってよい。切断用工具を用いてコーティングに刻み目をつけることにより印を付けてもよい。
【0293】
3.3.最初の印付けでは試験片上にしっかりと定規または他の金属直線エッジを置く。切断用工具を用いて2〜4cm長さのラインを引く。残りの印付けのために続けて切れ目を入れる。切れ目は等間隔で互いに平行である必要がある。切れ目はコーティングを通過してその基材に貫通する必要があるが基材を削り取ってはならない。
【0294】
3.4.試験片を90°回転させ、工程3.2および3.3を繰り返し、次の一連の切れ目を、最初の一連の切れ目に垂直にかつその上に重ね合わせて入れる。入れた切れ目が、必要な寸法の辺を有する100目のグリッドとなる。グリッドからコーティングの薄片または切れ端を払い落とす。
【0295】
3.5.複数刃の切断用工具を使用する場合には、工程3.2、3.3および3.4をなくすことができる。必要な場合にはグリッドを作成するために複数刃の切断用工具を使用する。切れ目が汚れておらず基材に貫通していることを確認する。
【0296】
3.6.長さ15cmの粘着テープを切る。そのテープをグリッド上に貼付する。しっかりと押す。エアポケットを除き確実に良好な接着を行うために、消しゴムを使用してテープを擦ってもよい。
【0297】
3.7.塗布から90±30秒内に、一方の端をつかんでテープを剥がし、180°の剥離角度で迅速に引っ張る。迅速に引っ張るがグイッとは引かない。
【0298】
3.8.同じグリッド上で必要な回数、工程3.6および3.7を繰り返す。通常、引っ張る操作を5回用いる。
【0299】
4.評価
4.1.拡大鏡を用いて基材からのコーティングの剥離についてグリッドを検査する。マルチコート系の場合または上塗り試験(recoatability test)の場合には、一方のコーティングからのもう一方のコーティングの剥離についてグリッドを検査する。
【0300】
4.2.グリッドに残るコーティングの量を報告する、例えば、100%はコーティングが全く剥離していないことを意味する。典型的には、これは、作成した目の数に対する残っている目の数として報告される。100目に対する完全な接着性では、その評価は100/100となるであろう。基材に対する接着またはコーティング層間での接着に欠陥が発生することもあることに注意する。
【0301】
5.事前注意事項
5.1.各試験の前に切断用工具を検査する。必要に応じて、細目研磨紙または砥石を用いて工具の表面をなめらかにする。複数刃の工具または片刃の工具があまりにも著しく損傷しており使用することができない場合には取り替える。
【0302】
6.参照
6.1.ASTM D−3359方法B、テープ試験による接着性の測定
6.2.DIN 53 151
6.3.JIS K 5400−第6.15節 クロスカット接着性
6.4.BS EN 24624:1992
【0303】
試験2
1.目的
1.1.この手順は、沸騰水に曝した後にクロスハッチおよびインデント接着方法により基材へのコーティングの接着性を測定するものである。この方法は上記試験1の拡張である。それは二次成形コーティングにも適用可能である。
【0304】
2.装置および材料
2.1.試験アイテムを保持するのに十分な大きさの容器、通常金属薄板でコーティングされており、試験アイテムを入れた後に容器に被せる蓋を備えている。
2.2.電気ホットプレートまたはガスレンジ
2.3.タイマー
2.4.水(脱イオン水が好ましいが必ずしもそうでなくてもよい)。
2.5.クロスまたはペーパータオル
2.6.落錘/衝撃試験装置またはエリクソン試験装置(Erikson tester)(パネルにおいて半球状の突出部を作るプレス)、
2.7.必要な他の装置および材料は試験1のとおりである。
【0305】
3.手順
3.1.容器を十分な水で満たして試験する物品の大部分を覆う。容器をレンジまたはホットプレートに置き沸騰させる。加熱を弱めて沸騰寸前の状態で一定に維持する。蓋はしておく。
3.2.物品を沸騰水に浸漬する。必要な時間にタイマーを設定する。特に断りのない限り、通常の時間は15分である。
3.3.必要な時間の後、物品を取り出す。ペーパータオルですぐに乾かす。
3.4.試験1に概説した手順に従って、試験する物品にクロスハッチバターンを刻みつける。
3.5.裏面衝撃またはエリクソンを物品の後部にクロスハッチの真後ろに適用する。
3.6.クロスハッチ領域にテープを貼付し、試験1に記載のとおり接着性を調べた。
【0306】
4.評価
4.1.試験1に記載の通り評価し報告する。
【0307】
5.事前注意事項/説明
5.1.水からの取り出しから5分以内に試験1により最初のテープ試験を行う。
5.2.一連の試験を行う場合には、水量を一定に維持する。また、特に水道水を使用する場合には、塩または他の残屑が蓄積しないように定期的に水を入れ替える。
【0308】
6.参照
6.1.BS 7069:1988
6.2.BS 3900パートE3
【0309】
0T 曲げ試験
0T曲げ試験の手順は次のとおりである。
【0310】
1.目的
1.1 この手順は、180°曲げを受けたときのコーティングの接着性および可撓性を決定するために使用するものである。
【0311】
2.装置および材料
2.1 作業台または金属製ブレーキ型機械に永久的に取り付けられた5インチのベンチバイス。
2.2 スコッチ#160透明テープ3/4インチ幅または等価物。
【0312】
3.手順
3.1 決められた基材を用いて、コーティングについての適用推奨に従って試験パネルを準備する。あるいは、金属コーティングされた製品からパネルをカットする。パネルは試験するのに必要な幅2インチ、長さ3インチでなければならない。
3.2 パネルの一端をバイスに1/2インチ挿入する。コーティングをベンドの外側にしてパネルを90°に曲げる。バイスから外し、手で90°より大きい角度に曲げる。バイスに再び挿入し、平らになるまで圧縮する。これは0「T」ベンドである。一連の「T」ベンド各々についても同じ手順を用いる。1板厚を1「T」とし、2板厚を2「T」とするなどである。ベンド全長にわたってテープをしっかりと貼付する。
3.3 1回迅速に引っ張ることによりテープを剥離する。新たなテープで明記した引張回数で繰り返す。
【0313】
4.評価
4.1 テープを貼付する前に各「T」ベンドを肉眼で調べる。コーティングのひび割れが見られない最低「T」ベンドを報告する。
4.2 テープ貼付後に各「T」ベンドを肉眼で調べる。コーティングの剥離のない最低「T」ベンドを報告する。
【0314】
5.説明/事前注意事項
5.1 パネルをバイスにクランプする際にコーティングを引掻かないようにする。必要に応じて、曲げている間コーティングを紙で保護する。
5.2 結果は、金属の結晶粒に対するベンドの方向によって変動し得る(結晶粒全域または結晶粒と一緒)。
5.3 コーティングは温度の上昇とともにより可撓性が高くなる。曲げを行う温度を明記する。
5.4 硬い高硬度金属は180°曲げたときに破砕する。「T」曲げ試験はこれらの金属では実施することができない。
【0315】
6.参照
6.1 ASTM D3794−79 第9.5.5節
【0316】
それらの結果を下記表28に示す。
表28
接着性および0T曲げ試験
【0317】
【表39】







【0318】
表28の結果は、本発明の第1の実施形態および第2の実施形態に従ってトップコートを作製した場合に、対照トップコートの接着性は維持されるかまたは本コーティング組成物においてわずかな向上を示すことを示しており、これはフルオロポリマーの試験した固形物割合では本コーティング組成物が加わることによるその基材へのコーティングの接着性への干渉がないことを示している。
【0319】
正規化した特性を用いて、いくつかの試験の結果を組み合わせ、選択される処方物を決定し、それらの処方物を表29に示している。正規化データは次のとおり計算する:
【0320】
正規化表面=平均((欄最大(:Ra)−:Ra)/(欄最大(:Ra)−欄最小(:Ra))、((「光沢度(60°))−欄最小((「光沢度(60°)」)))/(欄最大((「光沢度(60°)」))−欄最小((「光沢度(60°)」)))
【0321】
正規化(RAT、鶏もも肉、ステーキ)−平均(((「ステーキサイクル数(5サイクルで一般的に合格である)」)−欄最小((「ステーキサイクル数(5サイクルで一般的に合格である)」)))/(欄最大((「ステーキサイクル数(5サイクルで一般的に合格である)」))−欄最小((「ステーキサイクル数(5サイクルで一般的に合格である)」)))、(:鶏もも肉−欄最小(:鶏もも肉))/(欄最大(:鶏もも肉)−欄最小(:鶏もも肉))、(:RAT−欄最小(:RAT))/(欄最大(:RAT)−欄最小(:RAT)))
【0322】
正規化エンジニアリング樹脂全=平均(((「ステーキサイクル数(5サイクルで一般的に合格であるである)」)−欄最小((「ステーキサイクル数(5サイクルで一般的に合格であるである)」)))/(欄最大((「ステーキサイクル数(5サイクルで一般的に合格であるである)」))−欄最小((「ステーキサイクル数(5サイクルで一般的に合格である)」)))、(:鶏もも肉−欄最小(:鶏もも肉))/(欄最大(:鶏もも肉)−欄最小(:鶏もも肉))、(:RAT−欄最小(:RAT))/(欄最大(:RAT)−欄最小(:RAT))、((欄最大(:Ra)−:Ra)/(欄最大(:Ra)−欄最小(:Ra))、((「光沢度(60°)」)−−欄最小((「光沢度(60°)」)))/(欄最大((「光沢度(60°)」))−欄最小((「光沢度(60°)」)))
表29
硬質基材へのトップコート用の選択コーティング処方物
【0323】
【表40】

【0324】
表29から分かるように、3成分処方物80%HPTFE、10%PFAおよび10%LPTFEにより望ましい特性をもたらされる。加えて、40〜61%HPTFE、12%PFA 11%FEPおよび16〜36%LPTFEを含む4成分処方物もまた望ましい特性を与える。
【0325】
RAT性能を無視しても、最良の性能を示す処方物は上に示したとおりである。
【0326】
好ましい設計を有するものとして本発明を記載してきたが、本発明は本開示の精神および範囲内でさらに変更することができる。従って、本出願は、一般的な原理を用いる任意の変形、使用または適合を網羅することを意図する。さらに、本出願は、本開示内容から逸脱するが本発明が関わる技術分野で公知または慣用の実施の範囲内に入るようなものを網羅し、そのようなものは添付の特許請求の範囲に従うことを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
335℃以下の第1の溶融温度(T)を有する少なくとも1種の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)と、
少なくとも2種の溶融加工可能なフルオロポリマーと
を含み、該少なくとも2種の溶融加工可能なフルオロポリマーが、
第1の溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)と、
該第1の溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)とは化学的に異なる第2の溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)と
を含む、フルオロポリマー組成物。
【請求項2】
少なくとも500,000の数平均分子量(M)を有する高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HLPTFE)を欠いている、請求項1に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種のLPTFEが、前記少なくとも1種のLPTFEと前記少なくとも2種のMPFとの全固形物重量に対して10重量%〜70重量%の間の量で存在し、かつ、前記少なくとも2種のMPFがともに30重量%〜90重量%の間の量で存在する、請求項2に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種のLPTFEが、前記少なくとも1種のLPTFEと前記少なくとも2種のMPFとの全固形物重量に対して40重量%〜60重量%の間の量で存在し、かつ、前記少なくとも2種のMPFがともに40重量%〜60重量%の間の量で存在する、請求項2に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項5】
少なくとも500,000の数平均分子量(M)を有する少なくとも1種の高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HPTFE)をさらに含む、請求項1に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種のHPTFEが、前記少なくとも1種のHPTFEと前記少なくとも1種のLPTFEと前記少なくとも2種のMPFとの全固形物重量に対して1重量%〜89重量%の間の量で存在する、請求項5に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種のLPTFEが、前記少なくとも1種のHPTFEと前記少なくとも1種のLPTFEと前記少なくとも2種のMPFとの全固形物重量に対して16重量%〜60重量%の間の量で存在し、前記HPTFEが1重量%〜60重量%の間の量で存在し、かつ、前記少なくとも2種のMPFがともに1重量%〜60重量%の間の量で存在する、請求項5に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項8】
前記少なくとも2種のMPFが、前記少なくとも1種のHPTFEと前記少なくとも1種のLPTFEと前記少なくとも2種のMPFとの全固形物重量に対して各々1重量%〜30重量%の間の量で存在する、請求項7に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項9】
前記少なくとも1種のLPTFEが、332℃以下、330℃以下、329℃以下、328℃以下、327℃以下、326℃以下および325℃以下からなる群から選択される第1の溶融温度(T)を有する、請求項1に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1種のLPTFEが乳化重合によって得られる、凝集、熱分解または放射線照射を受けないものである、請求項1に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項11】
水性分散系の形である、請求項1に記載のフルオロポリマー組成物。
【請求項12】
請求項1に記載のフルオロポリマー組成物を含む、基材に施されたコーティング。
【請求項13】
基材をコーティングする方法であって、
基材を準備する工程;
その基材にコーティング組成物を塗布する工程(ここで、該コーティング組成物は、
335℃以下の第1の溶融温度(T)を有する少なくとも1種の低分子量ポリテトラフルオロエチレン(LPTFE)と、
少なくとも2種の溶融加工可能なフルオロポリマーと
を含み、該少なくとも2種の溶融加工可能なフルオロポリマーは、
第1の溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)と、
該第1の溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)とは化学的に異なる第2の溶融加工可能なフルオロポリマー(MPF)と
を含む);および
その組成物を硬化させてコーティングを形成する工程
を含む、方法。
【請求項14】
前記コーティング組成物塗布工程の前に、
少なくとも1種のフルオロポリマーを含むプライマーをその基材に塗布すること、および
所望により、そのプライマーを少なくとも部分的に硬化させること
からなる付加的工程をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記プライマー塗布工程の後、前記コーティング組成物塗布工程の前に、
少なくとも1種のフルオロポリマーを含むミッドコートをその基材に施すこと、および
所望により、そのミッドコートを少なくとも部分的に硬化させること
からなる付加的工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
コーティング組成物が、少なくとも500,000の数平均分子量(M)を有する高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HLPTFE)を欠いている、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1種のLPTFEが、コーティング組成物中の少なくとも1種のLPTFEと少なくとも2種のMPFとの全固形物重量に対して10重量%〜70重量%の間の量で存在し、かつ、前記少なくとも2種のMPFがともに30重量%〜90重量%の間の量で存在する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
コーティング組成物が、少なくとも500,000の数平均分子量(M)を有する少なくとも1種の高分子量ポリテトラフルオロエチレン(HPTFE)をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1種のHPTFEが、コーティング組成物中の少なくとも1種のHPTFEと少なくとも1種のLPTFEと少なくとも2種のMPFとの全固形物重量に対して1重量%〜89重量%の間の量で存在する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
基材が、
硬質基材、および
軟質基材
からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。

【図19】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25a】
image rotate

【図25b】
image rotate

【図25c】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate


【公表番号】特表2013−514435(P2013−514435A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544614(P2012−544614)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/059368
【国際公開番号】WO2011/075351
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VELCRO
2.Scotchbrite
【出願人】(511064199)ウィットフォード コーポレーション (4)
【Fターム(参考)】