説明

複製欠損性組換えウイルスワクチン中の抗原に対する細胞傷害性T細胞応答に有利である反復ワクチン接種と組み合わされた最適化初期−後期プロモーター

本発明は、少なくとも1つの抗原及び/又は抗原エピトープをコードする複製欠損性組換えウイルスであって、該抗原及び/又は抗原エピトープの発現が、該抗原及び/又は抗原エピトープの初期発現を駆動する少なくとも2つの要素を含む転写制御要素によって調節されるもの、並びに医薬又はワクチンとしての該複製欠損性組換えウイルスの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの抗原及び/又は抗原エピトープをコードする複製欠損性組換えウイルスであって、該抗原及び/又は抗原エピトープの発現が、該抗原及び/又は抗原エピトープの初期発現を駆動する少なくとも2つの要素を含む転写制御要素によって調節される前記複製欠損性組換えウイルス、並びに医薬又はワクチンとしての前記複製欠損性組換えウイルスの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルス感染及びウイルス疾患に対する最も効果的な防御を提供してきたのは、不活化調製物ではなく、生弱毒化複製ワクチンである。これらのワクチンは、基本的に生涯持続する防御免疫を誘発する。対照的に、不活化ワクチン又はサブユニットワクチンによって誘導される免疫は、一般に持続期間が、より限られている。後者のアプローチが追求される主な要因は安全性である。ワクチン開発用の複製ウイルスベクターと非複製ウイルスベクターの全体像は、Marjorie Robert-Guroffの論文(非特許文献1)に記載されている。
【0003】
組換えウイルスは、感染細胞中で外来抗原を発現させるために広く使用されている。具体的には、組換えポックスウイルスが、そのポックスウイルスベクターから発現される外来抗原に対する免疫応答を誘導するための、将来有望なワクチンとして、現在試験されている。最も普及しているのは、一つはアビポックスウイルス、もう一つはワクシニアウイルス(VACV)である。特許文献1及び特許文献2には、HIVの抗原及びタンパク質を発現させる組換えワクシニアウイルスWyeth株が開示されている。特許文献3には、レンチウイルス遺伝子を発現させる組換えVACV NYCBH株が開示されている。特許文献4には、ヒトレトロウイルス遺伝子を発現させる組換えVACV Western Reserve株が開示されている。ポックスウイルス中の異種遺伝子を発現させるために、30K及び40Kプロモーター(例えば特許文献2参照)、強力な合成初期/後期プロモーター(例えば非特許文献2参照)、p7.5プロモーター(例えば非特許文献3参照)、及び牛痘ウイルスA型封入体(ATI)遺伝子由来のプロモーター(非特許文献4)など、いくつかのプロモーターが当業者には知られている。これらのプロモーターは全て、異種遺伝子を発現させるために組換えVACVにおいて使用されており、該遺伝子を極めて効率よく発現させて、異種遺伝子によってコードされるタンパク質を比較的多量にもたらすことが示された。一般に、多くのワクチン接種アプローチにとって、誘導しようとする免疫応答の対象である抗原は、多量に発現されることが、大いに望まれる。
【0004】
例えばVACVベクターによって発現された外来遺伝子産物に対する強い体液性及び細胞性免疫応答の誘導は、その外来遺伝子産物が、特異的抗体及びT細胞の認識及び誘導に関して、VACVベクターの150を超える抗原の全てと競合する必要があるという事実によって妨害される。ベクターのCD8 T細胞エピトープの免疫優性が、外来遺伝子産物に対する強いCD8 T細胞応答の誘導を妨げる(非特許文献5)。これは、Dryvaxなどの複製VACVベクターにも、NYVAC及び改変ワクシニアウイルスAnkara(MVA)のような複製欠損性ベクターにも、当てはまる。
【0005】
VACVによる組換え抗原の発現には、ポックスウイルス特異的プロモーターを使用し得るが、一般的な真核生物プロモーターは使用することができない。その理由は、細胞質中で複製し、典型的な真核生物プロモーターを認識しない自分自身の細胞自律的転写機構を持つという、ポックスウイルスの特殊な生物学にある。
【0006】
ウイルス複製サイクルは大きく二つの相に分割され、初期相は感染後、DNA複製までの最初の2時間を含み、後期相は、感染2〜4時間後のウイルスDNA複製の開始時に始まる。後期相は、子孫ウイルスが感染細胞から放出されるまで、感染後約2〜20時間の、ウイルス複製サイクルの残りの部分にまたがる。ポックスウイルスプロモーターには、例えば初期プロモーター及び後期プロモーターなど、ウイルス複製サイクル内でそれが活性である期間によって識別され名付けられる、いくつかのタイプがある(例えば非特許文献6;非特許文献7;及び非特許文献8参照;これらはいずれも参照により本明細書に組み込まれる)。
【0007】
初期プロモーターが感染の後期においても活性であることができるのに対し、後期プロモーターの活性は後期相に限定される。中期プロモーターと呼ばれる第3のプロモータークラスは初期相から後期相への移行時に活性であり、ウイルスDNA複製に依存する。後者は、後期プロモーターにも当てはまることであるが、中期プロモーターからの転写は、典型的な後期プロモーターからの転写よりも早く始まり、異なる転写因子セットを必要とする。
【0008】
抗原発現用のポックスウイルスプロモーターの時期的クラスの選択が、抗原特異的免疫応答の強さと質に大きな影響を持つことは、近年、ますます明確になってきた。後期プロモーターの制御下で発現された抗原に対するT細胞応答は、初期プロモーターの制御下にある同じ抗原で得られるものよりも弱いことが示された(非特許文献9;非特許文献10)。
【0009】
より一層印象的なことに、VACVによる反復自家免疫処置でも、複製欠損性VACVベクターMVAによる反復自家免疫処置でも、もっぱら後期プロモーターの制御下にある抗原に対するリコールCD8T細胞応答は、完全に失敗し得ることが示された。この失敗ゆえに、2回目の免疫処置後の抗原特異的CD8 T細胞応答は、ほとんど検出できなかった(非特許文献11)。
【0010】
このように、VACVベクターによる抗原の初期発現は、効率のよい抗原特異的CD8 T細胞応答にとって非常に重要であると思われる。また、初期発現VACVベクター抗原は、CD8 T細胞応答における免疫優性に関して、後期発現抗原と競合するだけでなく、他の初期抗原とも競合することが示されている(非特許文献11)。したがって、抗原特異的T細胞応答の誘導にとっては、ポックスウイルスプロモーターの初期部分の具体的性質が重要である可能性がある。さらにまた、強い抗原特異的免疫応答の誘導には、抗原の量が多いほど有利であるというのは、一般に持たれている見解であり、通則である(ポックスウイルス分野については、例えば非特許文献12を参照のこと)。
【0011】
ATI遺伝子由来の4つの初期プロモーター要素と後期プロモーター要素を併せ持つプロモーターが、以前に記述され、増加した初期抗原発現を指示することが示されている(非特許文献13;非特許文献12)。組換え複製コンピテントワクシニアウイルスベクター中のそのようなプロモーターが駆動する抗原によって誘導されたT細胞応答が、単回免疫処置後に解析されたが、この設定においては、古典的p7.5プロモーターで得られるものとわずかにしか相違しないことがわかった(非特許文献13)。
【0012】
非特許文献14には、CAT遺伝子に作動可能に連結された突然変異型p7.5プロモーターのタンデムリピート(2〜38コピー)と組み合わされたVACV ATIプロモーターからなるプロモーターを保持する組換えVACVの構築が報告されている。突然変異型p7.5プロモーターの10〜15回までの反復は、初期遺伝子発現を増加させるのに有効であるようだった。しかし、どのコンストラクトでも、シトシンアラビノシド(AraC)の存在下で(すなわちウイルス複製サイクルを初期相で阻止した場合に)産生されるCATタンパク質の量は、AraCの非存在下で産生される量の10分の1未満に過ぎなかったことから、初期遺伝子発現は増加するものの、発現する抗原の大部分は明らかに感染の後期相で産生されることが示された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,736,368号明細書
【特許文献2】米国特許第6,051,410号明細書
【特許文献3】米国特許第5,747,324号明細書
【特許文献4】欧州特許第0 243 029号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Marjorie Robert-Guroff著,「Replicating and Non-replicating Viral Vectors for Vaccine Development(ワクチン開発のための複製及び非複製ウイルスベクター)」Curr. Opin. Biotechnol. 18:546-556, 2007
【非特許文献2】Sutter et al.著,「A recombinant vector derived from the host range-restricted and highly attenuated MVA strain of vaccinia virus stimulates protective immunity in mice to influenza virus(宿主域が制限され高度に弱毒化されたワクシニアウイルスのMVA株から誘導される組換えベクターは、マウスにおいて、インフルエンザウイルスに対する防御免疫を刺激する)」Vaccine 12, 1032-40, 1994
【非特許文献3】Endo et al.著,「Homotypic and heterotypic protection against influenza virus infection in mice by recombinant vaccinia virus expressing the haemagglutinin or nucleoprotein of influenza virus(インフルエンザウイルスのヘマグルチニン又は核タンパク質を発現する組換えワクシニアウイルスによるマウスにおけるインフルエンザウイルス感染に対するホモタイプ及びヘテロタイプ防御)」J. Gen. Virol. 72, 699-703, 1991
【非特許文献4】Li et al.著,「High-level expression of Amsacta moorei entomopoxvirus spheroidin depends on sequences within the gene(アムサクタ・モーレイ・エントモポックスウイルスの高レベル発現は遺伝子内の配列に依存する)」J. Gen. Virol. 79, 613, 1998
【非特許文献5】Smith et al.著,「Immunodominance of poxviral-specific CTL in a human trial of recombinant-modified vaccinia Ankara(組換え修飾ワクシニアAnkaraのヒト治験におけるポックスウイルス特異的CTLの免疫優性)」J. Immunol. 175:8431-8437, 2005
【非特許文献6】Davison及びMoss著, 「Structure of Vaccinia Virus Late Promoters(ワクシニアウイルス後期プロモーターの構造)」J. Mol. Biol. 210:771-784, 1989
【非特許文献7】Davison及びMoss著, 「Structure of Vaccinia Virus Early Promoters(ワクシニアウイルス初期プロモーターの構造)」J. Mol. Biol. 210:749-769, 1989
【非特許文献8】Hirschmann et al.著,「Mutational Analysis of a Vaccinia Virus Intermediate Promoter in vitro and in vivo(インビトロ及びインビボでのワクシニアウイルス中期プロモーターの突然変異解析)」Journal of Virology 64:6063-6069, 1990
【非特許文献9】Bronte et al.著,「Antigen expression by dendritic cells correlates with the therapeutic effectiveness of a model recombinant poxvirus tumor vaccine(樹状細胞による抗原発現はモデル組換えポックスウイルス腫瘍ワクチンの治療有効性と相関する)」Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 94:3183-3188, 1997
【非特許文献10】Coupar et al.著,「Temporal regulation of influenza hemagglutinin expression in vaccinia virus recombinants and effects on the immune response(ワクシニアウイルス組換え体におけるインフルエンザヘマグルチニン発現の時期的調節及び免疫応答に対する影響)」Eur. J. Immunol. 16:1479-1487, 1986
【非特許文献11】Kastenmuller et al.著,「Cross-competition of CD8+ T cells shapes the immunodominance hierarchy during boost vaccination(CD8+ T細胞の交差競合がブーストワクチン接種時の免疫優性ヒエラルキーを形作る)」J. Exp. Med. 204:2187-2198, 2007
【非特許文献12】Wyatt et al.著,「Correlation of immunogenicities and in vitro expression levels of recombinant modified vaccinia virus Ankara HIV vaccines(組換え修飾ワクシニアウイルスAnkara HIVワクチンの免疫原性とインビトロ発現レベルとの相関関係)」Vaccine 26:486-493, 2008
【非特許文献13】Funahashi et al.著,「Increased expression in vivo and in vitro of foreign genes directed by A-type inclusion body hybrid promoters in recombinant vaccinia viruses(組換えワクシニアウイルス中のA型封入体ハイブリッドプロモーターによって指示される外来遺伝子のインビボ及びインビトロでの増加した発現)」J. Virol. 65:5584-5588, 1991
【非特許文献14】Jin et al.著,「Constructions of vaccinia virus A-type inclusion body protein, tandemly repeated mutant 7.5 kDa protein, and hemagglutinin gene promoters support high levels of expression(ワクシニアウイルスA型封入体タンパク質、縦列反復突然変異型7.5kDaタンパク質、及びヘマグルチニン遺伝子プロモーターの構築物は高レベルな発現を支援する)」Arch. Virol. 138:315-330, 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、外来抗原の初期発現と強い抗原特異的免疫応答の誘導とを可能にする、改良されたウイルスベクターが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、少なくとも1つの抗原及び/又は抗原エピトープをコードする複製欠損性組換えウイルスであって、該抗原及び/又は抗原エピトープの発現が、該抗原及び/又は抗原エピトープの初期発現を駆動する少なくとも2つの要素を含む転写制御要素によって調節される複製欠損性組換えウイルスに関する。
【0017】
本発明はさらに、医薬又はワクチンとして使用するための前記複製欠損性組換えウイルス、及び医薬又はワクチンを調製するためのその使用に関する。
【0018】
もう一つの態様において、本発明は、複製欠損性組換えウイルスと、場合によっては、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、アジュバント及び/又は添加剤とを含む、医薬組成物又はワクチンに関する。
【0019】
また本発明は、前記少なくとも1つの抗原及び/又は抗原エピトープに対して宿主におけるT細胞応答を誘導するための、前記複製欠損性組換えウイルス又は前記医薬組成物若しくはワクチンに関する。
【0020】
さらなる一態様において、本発明は、前記少なくとも1つの抗原及び/又は抗原エピトープに対して宿主におけるT細胞応答を誘導するための医薬を調製するための、前記複製欠損性組換えウイルス又は前記医薬組成物若しくはワクチンの使用に関する。
【0021】
また本発明は、第1バイアル/容器に第1接種(「プライミング接種)用の前記複製欠損性組換えウイルスを含み、第2及び/又はさらなるバイアル/容器に少なくとも第2及び/又は第3及び/又はさらなる接種(「ブースティング接種」)用の前記複製欠損性組換えウイルスを含む、少なくとも2つのプライム/ブースト免疫処置用バイアルを含むキットも包含する。
【0022】
本発明はさらに、ヒトを含む宿主において、T細胞応答(好ましくはCD8 T細胞応答)を誘導する方法であって、宿主に上記複製欠損性組換えウイルスを少なくとも3回又は少なくとも4回投与することを含む方法に関する。
【0023】
本発明には、配列番号1のnt48〜81に記載するヌクレオチド配列要素を少なくとも2つは含み、且つ/又は配列番号1のnt48〜81に対して少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列要素を少なくとも2つは含むプロモーターも包含される。
【0024】
<発明の詳細な説明>
本発明は、少なくとも1つの抗原及び/又は抗原エピトープをコードする複製欠損性組換えウイルスであって、該抗原及び/又は抗原エピトープの発現が、該抗原及び/又は抗原エピトープの初期発現を駆動する少なくとも2つの要素を含む転写制御要素によって調節される複製欠損性組換えウイルスに関する。
【0025】
驚いたことに、複製欠損性組換えウイルスでは、初期発現を駆動する少なくとも2つの要素を含む転写制御要素によって調節される抗原の発現が、従来の転写制御要素によって駆動される発現よりも、ウイルス複製サイクルにおいて有意に早く起こり、しかも任意の所与の時点において有意に高いことが見いだされた。さらにまた、強い初期抗原発現における優位性は、感染の少なくとも6時間後まで、一様に持続する。
【0026】
したがって、本発明の好ましい一実施形態では、前記少なくとも2つの要素が、抗原及び/又は抗原エピトープの前初期発現(すなわち感染後最初の1時間以内、好ましくは感染後最初の30分以内に起こるもの)を駆動する。
【0027】
本発明の転写制御要素の制御下で極めて初期に発現される抗原が、リコール応答時にベクター由来の初期抗原と競合してそれらを排除(outcompete)する能力を、複製欠損性組換えウイルスを投与した後にT細胞応答を決定することによって調べた。意外なことに、免疫処置は、高効率の抗原特異的T細胞応答、特にCD8 T細胞応答をもたらした。より一層驚いたことに、一部の実験では、このアプローチで、免疫優性ヒエラルキーを逆転させ、亜優性(subdominant)CD8 T細胞エピトープを免疫優性エピトープに変換することさえできた。この結果は、従来の転写制御要素では、4回連続して免疫処置を行った後でさえ、達成することができなかった。さらにまた、本発明のウイルスを使って3ラウンド以上免疫処置した後の抗原特異的CD8 T細胞応答は、従来から使用されている転写制御要素を使った場合よりも強かった。
【0028】
本発明の複製欠損性組換えウイルスの使用に伴うこれらの驚くべき結果に加えて、宿主における疾患の誘導などといった、考え得る望ましくない副作用が最小限に抑えられるので、複製コンピテント組換えウイルスの使用と比較して、本明細書に記載する複製欠損性組換えウイルスの使用は著しく有利になる。
【0029】
本明細書において使用する用語「抗原」又は「抗原エピトープ」は、免疫系の構成要素によって特異的に認識され又は特異的に結合される配列を指すために使用される。一般に、タンパク質抗原はそのサイズが著しく多様であり、抗原提示細胞上で該タンパク質抗原のフラグメントが結合しているMHC/HLA分子との関連において認識される。したがって通常、「抗原」という用語が、(より長い)配列、特に(より長い)アミノ酸配列又はタンパク質配列を指すのに対して、「抗原エピトープ」という熟語は、依然として免疫応答を誘発する(より短い)配列、特にアミノ酸ストレッチ又はペプチドをそれぞれ包含する。
【0030】
好ましくは、前記抗原及び/又は抗原エピトープは、がん抗原であるか、感染性因子(好ましくはウイルス、真菌、病原性単細胞真核生物及び原核生物、並びに寄生生物から選択される感染性因子)の抗原及び/又は抗原エピトープである。
【0031】
本発明における使用に適したウイルス抗原の特に好ましい例には、レトロウイルス(HIV-1及びHTLVを含む)、ヘルペスウイルス(サイトメガロウイルスを含む)、フラビウイルス(デングウイルスを含む)、オルトミクソウイルス、パラミクソウイルス(麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、RSウイルス(respiratory syncytial virus)を含む)、トガウイルス(風疹ウイルスを含む)、肝炎ウイルス、ヘパドナウイルス、インフルエンザウイルス、ピコルナウイルス(ポリオウイルスなどを含む)、コロナウイルス、ブニヤウイルス、アレナウイルス、フィロウイルス由来の抗原、又は出血熱を引き起こす他のウイルス由来の抗原が含まれる。
【0032】
好ましいがん抗原の例には、前立腺特異抗原(PSA)、前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)抗原及びHer-2/neu抗原が含まれる。
【0033】
好ましい細菌性抗原には炭疽抗原が含まれる。
【0034】
本明細書において使用する用語「組換えウイルス」は、例えば本発明のプロモーターのように、本来はそのウイルスゲノムの一部ではない追加の異種核酸を含む、任意のウイルスを指す。前記プロモーターは、ウイルス自身の抗原又は抗原エピトープの発現を調節することができ、且つ/又は異種若しくは組換え遺伝子の発現を調節することができる。異種又は組換え遺伝子は、例えばウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原又はがん抗原をコードする遺伝子、治療遺伝子、免疫応答を誘導するためのエピトープを少なくとも1つは含むペプチドをコードする遺伝子などであることができる。異種遺伝子のさらなる例には、アンチセンス発現カセット又はリボザイム遺伝子が含まれる。
【0035】
本明細書において使用する用語「複製欠損性ウイルス」は、宿主細胞内で増殖的に複製する能力が低下しているか、さらには宿主細胞内で増殖的に複製する能力を失っているウイルスを表す。好ましくは、本発明の複製欠損性ウイルスは、宿主の細胞内で(特にヒト細胞内で)全く複製せず、したがって複製能力がないウイルスを含む。しかし、宿主の免疫系によって制御されるわずかな残存複製活性を示すウイルスも、本発明の範囲に包含される。
【0036】
さらにまた、本発明に従って使用されるウイルスは、好ましくは、宿主細胞に感染する能力を持つが、感染細胞中で感染性子孫ウイルスを産生する能力は実質的に持たないか、又は全く持たない。
【0037】
「細胞に感染する能力」を持つウイルスは、宿主細胞と相互作用する能力を持つ構造を、そのウイルス又は少なくともそのウイルスゲノムが宿主細胞中に取り込まれる程度に、ウイルス表面上に保有するウイルスである。
【0038】
本発明に関して「該細胞中で感染性子孫ウイルスを産生する能力を持たないウイルス」という用語は、そのゲノムが少なくとも部分的には転写され、ウイルスタンパク質に翻訳され、又は複製さえされるが、感染性ウイルス粒子にはパッケージングされないウイルスを指す。したがって、本発明に従って使用されるウイルスは、宿主における不稔感染につながるウイルスである。不稔感染は2つの理由で起こり得る。1つ目の理由によれば、細胞は感染を許し得るが、ウイルスの増殖については、例えばウイルス遺伝子の全てが該細胞におけるウイルスの増殖に必要な形で発現されるわけではないという事実などにより、非許容性であり得る。ヒト細胞におけるこのタイプの本発明ウイルスの一例が、以下に詳述する改変ワクシニアウイルスAnkara(Modified Vaccinia virus Ankara: MVA)である。2つ目の理由によれば、不稔感染は、ウイルス遺伝子の全てが揃っているわけではない欠損性ウイルスによる細胞の感染でも起こり得る。 ヒト細胞に関してそのような本発明ウイルスの一例は、DISC-HSV1(disabled single-cycle Herpes simplex virus)、すなわち感染サイクルが1サイクルに制限された単純ヘルペスウイルスである(Dilloo et al.「A novel herpes vector for the high-efficiency transduction of normal and malignant human hematopoietic cells(正常及び悪性ヒト造血細胞の高効率形質導入のための新規ヘルペスベクター)」Blood 89:119-127, 1997)。このウイルスは、不可欠な糖タンパク質H(gH)の遺伝子を欠いているが、gHを発現する補完細胞株中では増殖して高い力価に達することができる。ヘルペスウイルスの増殖を許容する非補完細胞株では、複製サイクルが1回に制限されて、非感染性ウイルスの放出につながる。
【0039】
本発明のウイルスは、好ましくは、少なくとも1つの動物種の少なくとも1タイプの細胞中で複製される能力を有する。したがって、ワクチン接種及び/又は処置しようとする宿主への投与に先だって、ウイルスを増幅することが可能である。例えば、CEF細胞では増幅され得るが、ヒト細胞では感染性子孫ウイルスを産生する能力を持たないMVAが挙げられる。
【0040】
本発明に従って使用するのに適した複製欠損性ウイルスの好ましい実施形態には、アデノウイルス、ヘルペスウイルス及びポックスウイルス起源のウイルスが含まれる。本発明における使用に適した複製欠損性アデノウイルスの例には、Sharpe et al.「Single oral immuinization with replication deficient recombinant adenovirus elicits long-lived transgene-specific cellular and humoral immune reponse(複製欠損性組換えアデノウイルスによる単回経口免疫処置は、長命の導入遺伝子特異的な細胞性及び体液性免疫応答を誘発する)」, Virology 293, 210-216, 2002に記載されているE1欠損複製欠損性ヒトアデノウイルスが含まれる。本発明との関連で使用するのに適した複製欠損性ヘルペスウイルスの一例には、上でも既に言及したDISC-HSV1が含まれる。
【0041】
好ましい実施形態では、複製欠損性組換えウイルスが、ポックスウイルス、例えばアビポックスウイルス、又はワクシニアウイルスなどのオルトポックスウイルスである。
【0042】
本発明における使用に適したアビポックスウイルスの例には、鶏痘ウイルス、カナリア痘ウイルス、アンコポックスウイルス(Uncopoxvirus)、マイナ痘ウイルス(Mynahpoxvirus)、鳩痘ウイルス、オウム痘ウイルス(Psittacinepoxvirus)、ウズラ痘ウイルス、クジャク痘ウイルス、ペンギン痘ウイルス、スズメ痘ウイルス、ムクドリ痘ウイルス及びシチメンチョウ痘ウイルスなど、任意のアビポックスウイルスが含まれる。好ましいアビポックスウイルスはカナリア痘ウイルス及び鶏痘ウイルスである。アビポックスウイルスは、生来、宿主制限的であり、鳥種及び鳥類細胞においてのみ増殖的に複製する(Taylor et al.「Biological and Immunogenic properties of a canarypox-rabies recombinant, ALVAC-RG (vCP65) in non-avian species(非鳥種におけるカナリア痘-狂犬病組換え体ALVAC-RG(vCP65)の生物学的性質及び免疫原性)」Vaccine 13:539-549, 1995)。ヒト細胞をアビポックスウイルスに感染させると、そのウイルスゲノムから異種遺伝子が発現する。しかし、アビポックスウイルスはヒト細胞では複製しないので、ヒトが増殖的ウイルス複製によって害される危険はない。例えばレンチウイルス遺伝子産物(米国特許第5,766,598号)、サイトカイン及び/又は腫瘍関連抗原(米国特許第5,833,975号)又は狂犬病G糖タンパク質(Taylor et al.「Biological and Immunogenic properties of a canarypox-rabies recombinant, ALVAC-RG (vCP65) in non-avian species」Vaccine 13:539-549, 1995)などを発現するさまざまな組換えアビポックスウイルスが構築されている。4つのHIV遺伝子gag、pol、env及びnefを発現する組換えカナリア痘ウイルスは、既に臨床治験で使用されている(Peters, B.S.「The basis for HIV immunotherapeutic vaccines(HIV免疫療法ワクチンの基礎)」Vaccine 20: 688-705, 2001)。アビポックスウイルスは鳥類細胞でしか増殖的に複製しないので、ウイルスの増幅と組換えウイルスの作製にはこれらの細胞を使用する必要がある。
【0043】
カナリア痘ウイルスの一例は、Rentschler株である。ALVACと名付けられたプラーク精製カナリア痘株(米国特許第5,766,598号)は、ブダペスト条約に基づいて、American Type Culture Collection(ATCC)に、受託番号VR-2547として寄託されている。もう一つのカナリア痘株は、LF2 CEP 524 24 10 75と呼ばれる市販のカナリア痘ワクチン株であり、これはInstitute Merieux, Inc.から入手することができる。
【0044】
鶏痘ウイルスの例は、FP-1株、FP-5株及びTROVAC株(米国特許第5,766,598号)である。FP-1は、1日齢のニワトリにワクチンとして使用するために改変されたDuvette株である。この株は、0 DCEP 25/CEP67/2309 October 1980と呼ばれる市販の鶏痘ウイルスワクチン株であり、Institute Merieux, Inc.から入手することができる。FP-5は、ニワトリ胚に起源を持つ市販の鶏痘ウイルスワクチン株であり、ウィスコンシン州マディソンのAmerican Scientific Laboratories(Schering Corp.の一部門), United States Veterinary License No. 165, serial No. 30321から入手することができる。
【0045】
本発明の特に好ましい実施形態では、複製欠損性組換えウイルスがオルトポックスウイルス、例えばワクシニアウイルスである。本発明における使用に適したワクシニアウイルスの例には、CEF細胞ではよく増殖するが、大半の哺乳動物細胞では増殖することができない、ワクシニアウイルスDIs株が含まれる(Tagaya et al.「A new mutant of dermovaccinia virus(皮膚ワクシニアウイルスの新しい突然変異体)」Nature Vol. 192, No. 4800, 381-383, 1961;Ishii et al.「Structural analysis of vaccinia virus DIs strain: Application as a new replication deficient viral vector(ワクシニアウイルスDIs株の構造解析:新しい複製欠損性ウイルスベクターとしての応用)」Virology 302, 433-444, 2002)。適切なワクシニアウイルスのもう一つの好ましい例は、Copenhagenワクチン株のプラーククローニングされた分離株から、ウイルスゲノムから18のORFを欠失させることによって誘導された、高度に弱毒化されたワクシニアウイルスNYVAC株である(Tartaglia et al.「NYVAC: A highly attenuated strain of vaccinia virus(NYVAC:ワクシニアウイルスの高弱毒化株)」Virology 188, 217-232, 1992)。NYVACは、さまざまなヒト組織培養細胞中で複製する能力が劇的に低下していることを特徴とするが、外因性抗原に対する強い免疫応答を誘導する能力は保っている。
【0046】
本発明を、組換えMVAなどの組換えワクシニアウイルスに関して、さらに詳しく説明するが、上述のウイルスもまた、全て、本発明における使用に同等に適している。
【0047】
本発明の好ましい実施形態では、複製欠損性組換えウイルスが組換え改変ワクシニアウイルスAnkara(MVA)である。
【0048】
MVAは、ポックスウイルス科オルトポックスウイルス属のメンバーであるワクシニアウイルスと近縁関係にある。MVAは、皮膚ワクシニアAnkara株(漿尿膜ワクシニアウイルスAnkaraウイルス、CVA;概要については、Mayr, A. et al.「Passage History: Abstammung, Eigenschaften und Verwendung des attenuierten Vaccinia-Stammes MVA(継代歴:弱毒化ワクシニアMVA株の祖先、性質及び応用)」Infection 3:6-14 (1975)を参照されたい)を、ニワトリ胚線維芽細胞で570代以上連続継代することによって作出された。CVAは、トルコ・アンカラのVaccination Instituteにおいて長年にわたって維持され、ヒトのワクチン接種の基礎として使用されていた。しかし、ワクシニアウイルスに付随し重症になることも少なくないワクチン後合併症ゆえに、より弱毒化された、より安全な痘瘡ワクチンを作製することが、数回試みられた。1960年〜1974年の間に、Anton Mayr教授は、CEF細胞で570代以上にわたって連続継代することにより、CVAを弱毒化することに成功した(Mayr et al.「Passage Histroy: Abstammung, Eigenschaften und Verwendung des attenuierten Vaccinia-Stammes MVA」Infection 3:6-14, 1975)。その結果得られたMVAが非病原性であることは、さまざまな動物モデルで示された(Mayr, A.及びDanner, K.「Vaccination against pox diseases under immunosuppressive conditions(免疫抑制条件下での痘症に対するワクチン接種)」Dev. Biol. Stand. 41:225-34, 1978)。さらに、このMVA株は、ヒト痘瘡疾患に対して免疫処置するためのワクチンとして、臨床治験で試験されている(Mayr et al., Zbl. Bakt. Hyg. I, Abt. Org. B 167, 375-390 [1987]、Stickl et al.「痘瘡に対するMVAワクチン接種:弱毒化生ワクシニアウイルス株(MVA)を使った臨床試験(訳題)」Dtsch. med. Wschr. 99, 2386-2392, 1974)。
【0049】
プレ痘瘡ワクチンとしてのMVAの初期開発の一部として、MA-517(継代517代目に相当する)をLister Elstreeと組み合わせて使用する臨床治験(Stickl「Smallpox vaccination and its consequences: first experiences with the highly attenuated smallpox vaccine "MVA"(痘瘡ワクチン接種及びその帰結:高弱毒化ワクチン「MVA」を使った初めての経験)」Prev.Med. 3(1):97-101, 1974;Stickl及びHochstein-Mintzel「Intracutaneous smallpox vaccination with a weak pathogenic vaccinia virus ("MVA virus")(弱病原性ワクシニアウイルス(「MVAウイルス」)による皮内痘瘡ワクチン接種)」Munch Med Wochenschr. 113:1149-1153, 1971)が、ワクシニアで有害反応を起こす危険がある被験者を対象として行なわれた。1976年に、MVA-571シードストック(継代571代目に相当)から得られたMVAが、ドイツにおいて、2段階非経口痘瘡ワクチン接種プログラムのプライマーワクチンとして登録された。その後、MVA-572が約120,000人の白色人種(大半が1〜3歳の小児)において使用されたが、被験者の多くが従来のワクシニアウイルスに付随する合併症のリスクが高い集団に属していたにもかかわらず、重度の副作用は報告されなかった(Mayr et al., 1978「痘瘡ワクチン接種株MVA:マーカー、遺伝子構造、非経口ワクチン接種によって得られた経験及び衰弱した防御機構を持つ生物における挙動(訳題)」Zentralbl. Bacteriol. (B) 167:375-390)。MVA-572は、European Collection of Animal Cell Culturesに、ECACC V94012707として寄託された。MVAは、ビルレンスが減少していたが、その一方で、良好な免疫原性は維持していた。
【0050】
MVAを弱毒化するために数多くの継代が用いられたので、CEF細胞における継代数に依存して、いくつかの異なる株又は分離株が存在する。全てのMVA株はMayr博士に起源を有し、大半は、痘瘡根絶プログラム中にドイツで使用されたMVA-572か、動物用ワクチンとして広く使用されたMVA-575に由来する。MVA-575は、2000年12月7日、European Collection of Animal Cell Cultures(ECACC)に、受託番号V00120707として寄託された。本発明の組換えMVAを作製するために一例として使用されるMVA-BN(登録商標)製品は、MVA-584(CEF細胞における継代584代目のMVAに相当)に由来する。MVA-BN(登録商標)のサンプルは、2000年8月30日、European Collection of Cell Cultures(ECACC)に、番号V00083008として寄託された。
【0051】
親漿尿膜ワクシニアウイルスAnkara(CVA)の長期間にわたる継代の結果として、得られたMVAウイルスのゲノムは、そのゲノム配列のうちの約27キロベースの欠失を示し、それゆえに、宿主細胞は鳥類細胞に強く制限されると記述された(Meyer, H. et al.「Mapping of deletions in the genome of the highly attenuated vaccinia virus MVA and their influence on virulence(高弱毒化ワクシニアウイルスMVAのゲノムにおける欠失のマッピングとそれらがビルレンスに及ぼす影響)」J. Gen. Virol. 72, 1031-1038, 1991)。弱毒化株は、祖先CVAウイルスと比較してゲノムのコード領域の約13%(6つの大きな欠失部位と複数の小さな欠失部位からの約26.5kb)を欠く(Meisinger-Henschel et al.「Genomic sequence of chorioallantois vaccinia virus Ankara, the ancestor of modified vaccinia virus Ankara(修飾ワクシニアウイルスAnkaraの祖先である漿尿膜ワクシニアウイルスAnkaraのゲノム配列)」J. Gen. Virol. 88, 3249-3259, 2007)。欠失は、ビルレンス及び宿主域遺伝子のいくつか、並びにA型封入体タンパク質(ATI)をコードする遺伝子の大きな断片及び成熟ウイルス粒子をA型封入体へと向かわせる構造タンパク質をコードする遺伝子に影響を及ぼす。
【0052】
したがって本発明は、ありとあらゆるMVAウイルスを使って作製される複製欠損性組換えMVAウイルスを包含する。したがって、上述のMVA、すなわちソールズベリー(英国)のEuropean Collection of Animal Cell Cultures(ECACC)にそれぞれ受託番号ECACC V94012707及びECACC V00120707として寄託されたMVA572株及びMVA575株だけでなく、米国20108バージニア州マナッサスのAmerican Type Culture Collection(ATCC)に寄託されたMVA寄託株VR-1508も、本発明によれば好ましい。特に好ましいMVAウイルスは、例えばECACCに番号V00083008として寄託されたMVA株MVA-BN(登録商標)及びMVA-BNと同じ性質を有する誘導体又は変異体である。
【0053】
MVA-BN(登録商標)はヒト細胞に付着して侵入することができ、その中で、ウイルスにコードされる遺伝子を極めて効率よく発現する。しかし、子孫ウイルスのアセンブリと放出は起こらない。MVA-BN(登録商標)及び誘導体の調製物は、多くのタイプの動物と、2000人を超えるヒト対象(免疫不全個体を含む)に投与されている。全てのワクチン接種が一般に安全であり、認容性は高いことが判明している。
【0054】
多くの異なる刊行物から得られる見解は、全てのMVA株は同じであり、高度に弱毒化された安全な生ウイルスベクターを表すというものである。しかし、前臨床試験により、MVA-BN(登録商標)は他のMVA株と比較して優れた弱毒化及び効力を示すことが明らかになっている(国際公開第02/42480号)。例えばECACCに番号V00083008として寄託されたMVA変異体株MVA-BN(登録商標)は、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)においてインビトロで増殖的複製能を持つが、MVA575又はMVA572が増殖的に複製することのできるヒト細胞においては、増殖的複製能を持たない。例えばMVA-BN(登録商標)は、ヒトケラチノサイト細胞株HaCaT、ヒト胎児腎臓細胞株293、ヒト骨骨肉腫細胞株143B、及びヒト子宮頚部腺癌細胞株HeLaでは、増殖的複製能を持たない。さらに、成熟B及びT細胞を産生する能力を持たず、したがって免疫機能が著しく低下していて、複製ウイルスに対する感受性が高いマウスモデルにおいて、MVA-BN(登録商標)株は複製することができない。MVA-BN(登録商標)株の付加的な又は代替的な性質は、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームにおいて、DNAプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームと比較して少なくとも実質的に同じレベルの免疫を誘導できるということである。
【0055】
したがって、ある好ましい実施形態では、本発明のMVAは、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)においてインビトロで増殖的複製能を持つが、MVA575又はMVA572が増殖的に複製することのできるヒト細胞においては増殖的複製能を持たない。最も好ましくは、MVAは、ヒトケラチノサイト細胞株HaCaT、ヒト胎児腎臓細胞株293、ヒト骨骨肉腫細胞株143B、及びヒト子宮頚部腺癌細胞株HeLaでは増殖的複製能を持たない。したがって、最も好ましい一実施形態では、本発明において使用されるMVA株が、番号V00083008としてECACCに寄託されているMVA-BN(登録商標)並びにそれぞれMVA-BNについて記載するものと同じ性質を示すその誘導体及び変異体である。
【0056】
MVA-BNの特徴、あるMVA株がMVA-BN又はその誘導体であるかどうかの評価を可能にする生物学的アッセイの説明、及びMVA-BN又はMVA-BNの性質を有するMVAの取得を可能にする方法は、国際公開第02/42480号に開示されている。前記参考文献には、どうすればMVA及び他のワクシニアウイルスを増殖させることができるかも開示されている。簡単に述べると、真核細胞をウイルスに感染させる。真核細胞は、各ポックスウイルスによる感染を受けやすく、感染性ウイルスの複製と産生を許す。MVAの場合、このタイプの細胞の例は、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)及びBHK細胞である(Drexler et al.「Highly attenuated modified vaccinia Ankara replicates in baby hamster kidney cells, a potential host for virus propagation, but not in various human transformed and primary cells(高度に弱毒化された修飾ワクシニアAnkaraはウイルス増殖の潜在的宿主であるベビーハムスター腎臓細胞中で複製するが、さまざまなヒト形質転換細胞及び初代細胞では増殖しない)」J. Gen. Virol. 79, 347-352, 1998)。CEF細胞は、当業者に知られる条件下で培養することができる。好ましくは、CEF細胞を、静置フラスコ又はローラーボトル中、無血清培地で培養する。インキュベーションは、好ましくは37℃で48〜96時間行われる。感染には、MVAを好ましくは0.05〜1TCID50の感染多重度(MOI)で使用し、インキュベーションを好ましくは37℃で48〜72時間行う。
【0057】
「増殖的複製能を持たない(not capable of reproductive replication)」という用語は、本願では、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第02/42480号及び米国特許第6,761,893号で定義されているとおりに使用される。したがって、この用語は、米国特許第6,761,893号に記載のアッセイを使って、感染の4日後に1未満のウイルス増幅比を有するウイルスに適用され、そのアッセイは、参照により本明細書に組み込まれる。ウイルスの「増幅比」は、最初に細胞を感染させるために元々使用されたウイルスの量(インプット)に対する感染細胞から産生されるウイルス(アウトプット)の比である。アウトプットとインプットの間の「1」という比は、感染細胞から産生されるウイルスの量が、細胞を感染させるために最初に使用した量と同じであるという増幅状態を規定する。
【0058】
MVA-BN(登録商標)又はその誘導体は、ある実施形態によれば、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームにおいて、DNAプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームと比較して少なくとも実質的に同じレベルの免疫を誘導することを特徴とする。ワクシニアウイルスは、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームにおいて、国際公開第02/42480号に開示されている「アッセイ1」及び「アッセイ2」の一方で(好ましくは両方のアッセイで)測定されるCTL応答が、DNAプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームと比較して少なくとも実質的に同じであるならば、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームにおいて、DNAプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームと比較して少なくとも実質的に同じレベルの免疫を誘導すると見なされる。より好ましくは、DNAプライム/ワクシニアウイルスブーストレジームと比較した場合に、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブースト投与後のCTL応答の方が、少なくとも一方のアッセイにおいて高い。最も好ましくは、両方のアッセイにおいてCTL応答が高い。
【0059】
国際公開第02/42480号には、MVA-BN(登録商標)の性質を有するワクシニアウイルスを取得する方法が開示されている。高度に弱毒化されたMVA-BNウイルスは、例えば、MVA-572又はMVA-575などの改変ワクシニアウイルスAnkara(MVA)のさらなる継代と、場合によっては追加のプラーク精製ステップとによって誘導することができる。
【0060】
要約すると、MVA-BN(登録商標)は、他のMVA株と比較して最も高度な弱毒化プロファイルを持つことが示されており、免疫機能が重度に損なわれている動物においてさえ、安全である。
【0061】
MVAは哺乳動物細胞における複製が強く制限されているが、その遺伝子は効率よく転写され、ウイルス複製の遮断はウイルスのアセンブリと放出のレベルで起こる(Sutter及びMoss「Nonreplicating vaccinia vector efficiently expresses recombinant genes(非複製ワクシニアベクターは組換え遺伝子を効率よく発現する)」Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 89:10847-10851, 1992;Carroll及びMoss「Host range and cytopathogenicity of the highly attenuated MVA strain of vaccinia virus: propagation and generation of recombinant viruses in a nonhuman mammalian cell line(ワクシニアウイルスの高弱毒化MVA株の宿主域及び細胞変性:非ヒト哺乳動物細胞株における組換えウイルスの増殖と生成)」Virology 238:198-211, 1997)。その高度な弱毒化及び低下したビルレンスにもかかわらず、前臨床試験において、MVA-BN(登録商標)は、VACV及びMVAゲノム中にクローニングされた異種遺伝子の産物に対して、体液性免疫応答と細胞性免疫応答の両方を誘発することが示されている(Harrer et al.「Therapeutic Vaccination of HIV-1-infected patients on HAART with recombinant HIV-1 nef-expressing MVA: safety, immunogenicity and influence on viral load during treatment interruption(組換えHIV-1 nef発現MVAによるHAART施行HIV-1感染患者の治療的ワクチン接種:安全性、免疫原性及び処置中断中のウイルス量に対する影響)」Antiviral Therapy 10:285-300, 2005;Cosma et al.「Therapeutic vaccination with MVA-HIV-1 nef elicits Nef-specific T-helper cell responses in chronically HIV-1 infected individuals(MVA-HIV-1 nefによる治療的ワクチン接種は慢性HIV-1感染個体におけるNef特異的Tヘルパー細胞応答を誘発する)」Vaccine22(1): 21-29, 2003;Di Nicola et al.「Clinical protocol. Immunization of patients with malignant melanoma with autologous CD34(+) cell-derived dendritic cells transduced ex vivo with a recombinant replication-deficient vaccinia vector encoding the human tyrosinase gene: a phase I trial(臨床プロトコール.ヒトチロシナーゼ遺伝子をコードする組換え複製欠損性ワクシニアベクターを使ってエクスビボで形質導入された自家CD34(+)細胞由来樹状細胞による悪性黒色腫を持つ患者の免疫処置:第I相治験)」Hum Gene Ther. 14(14):1347-1360, 2003;Di Nicola et al.「Boosting T cell-mediated immunity to tyrosinase by vaccinia virus-transduced, CD34(+)-derived dendritic cell vaccination: a phase I trial in metastatic melanoma(ワクシニアウイルス形質導入CD34(+)由来樹状細胞ワクチン接種によるチロシナーゼに対するT細胞媒介性免疫応答の増強:転移性黒色腫における第I相治験)」Clin Cancer Res. 10(16):5381-5390, 2004)。
【0062】
MVA-BN(登録商標)及び組換えMVA-BN(登録商標)ベースのワクチンは、無血清培地で培養されたCEF細胞中で作製し、継代し、生産し、製造することができる。多くの組換えMVA-BN(登録商標)変異体が前臨床開発及び臨床開発のために特徴づけられている。弱毒化(ヒト細胞株における複製の欠如)又は安全性(前臨床毒性又は臨床試験)に関する相違は、ウイルスベクターバックボーンであるMVA-BN(登録商標)とさまざまな組換えMVAベースのワクチンとの間に観察されていない。
【0063】
本発明によれば、複製欠損性組換えウイルスは抗原及び/又は抗原エピトープを含み、該抗原及び/又は抗原エピトープの発現は、それぞれ、転写制御要素によって調節される。
【0064】
本明細書にいう転写制御要素又は転写制御配列は、例えばRNAポリメラーゼを結合するためのプロモーター配列、エンハンサー、リボソーム結合のための翻訳開始配列及び/又はターミネーターなど、宿主細胞における関心対象の抗原の発現に備えたDNA調節配列である。
【0065】
ある好ましい実施形態において、複製欠損性組換えウイルスは、関心対象の抗原及び/又は抗原エピトープの初期発現を駆動する少なくとも2つの要素を含む転写制御要素を含む。前記少なくとも2つの要素は、プロモーター要素、好ましくは初期プロモーター要素、より好ましくは少なくとも2コピー、最も好ましくは少なくとも5コピーの、初期プロモーター要素であることができる。
【0066】
本明細書において使用する用語「初期プロモーター」又は「初期プロモーター要素」は、ウイルスDNA複製が起こる前のウイルス感染細胞において活性なプロモーターを指す。
【0067】
あるプロモーターが初期プロモーターであるかどうかを決定する方法は、当業者に知られている。特に、関心対象のプロモーターをリポーター遺伝子の上流に挿入し、そのコンストラクトをウイルスベクター、例えばワクシニアウイルスベクター中に導入し、次にそれを使って細胞を感染させることができる。初期プロモーターとしての活性を評価するために、ウイルスDNA複製を阻害するAraCなどの物質と共に細胞をインキュベートする。DNA複製は後期プロモーター活性にとって前提条件である。したがって、このアッセイ系で測定されるプロモーター活性はいずれも、初期プロモーターとして活性な要素によるものである。したがって用語「後期プロモーター」は、DNA複製が起こった後に活性である任意のプロモーターを指す。後期活性も、当業者に知られる方法によって測定することができる。簡単のために、本願で使用する用語「後期プロモーター」は、DNA複製を遮断する物質を添加しない場合にのみ活性であるプロモーターを指す。
【0068】
ある好ましい実施形態では、複製欠損性組換えウイルスが、初期/後期プロモーター、好ましくはポックスウイルス初期/後期プロモーターを含む。初期/後期プロモーターは、連結された核酸配列の発現を、ウイルス生活環の初期と後期の両方において駆動する。
【0069】
好ましくは、初期/後期プロモーターは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15コピー又はそれ以上の初期プロモーター要素に連結された少なくとも1つの後期プロモーター要素を含む。
【0070】
より一層好ましくは、前記初期/後期プロモーターは、後期プロモーター要素と、少なくとも2コピー、好ましくは少なくとも5コピーの初期プロモーター要素、好ましくは配列番号1のヌクレオチド(nt)48〜81に記載のヌクレオチド配列要素のコピーとを含む。
【0071】
もう一つの好ましい実施形態では、転写制御要素の少なくとも2つの要素、特に前記少なくとも2コピー、好ましくは少なくとも5コピーの初期プロモーター要素が、配列最適化される。
【0072】
さらにもう一つの好ましい実施形態において、前記初期/後期プロモーターは、初期要素が由来するものとは異なるプロモーターに由来する後期要素を含む、初期/後期ハイブリッドプロモーターである。
【0073】
本発明の発明者らは、驚いたことに、可能な限り早期に且つ可能な限り強い抗原の発現を駆動する転写制御要素が、大半の自己のベクター抗原に対するよりも時期的及び量的優位性をその抗原に与え、したがって強い抗原特異的T細胞応答、特にCD8 T細胞応答の誘導にとって有益であることを見いだした。
【0074】
本発明の複製欠損性組換えウイルスの一例及び好ましい実施形態として使用したMVA用に、強力な初期プロモーターを設計した。強力な初期プロモーターを設計するために、タンデムな複数の初期プロモーター要素の組合せを使って、ウイルス複製サイクルの初期相で特異的に起こる発現を強化した。このプロモーター要素を、後期相における遺伝子発現を指示して発現される抗原の量のさらなる増加をもたらすと考えられる牛痘ATIプロモーター由来の短い後期プロモーター要素にカップリングした。
【0075】
最近定義づけられた前初期プロモーターのクラスに属するプロモーターを使って、発現の動態(kinetics)を、さらに早い時点へとシフトさせた。前初期遺伝子は、感染の0.5〜1時間後に開始する期間に発現するものと定義される(Assarsson et al.「Kinetic analysis of a complete poxvirus transcriptome reveals an immediate-early class of genes(全ポックスウイルストランスクリプトームの動態解析によって前初期遺伝子クラスが明らかになった)」Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 105:2140-2145, 2008;Davison, A.J.及びB. Moss「Structure of vaccinia virus early promoters」J. Mol. Biol. 210:749-769, 1989)。本発明の転写制御要素は、最も好ましくは、少なくとも2つ(好ましくは5つ)の初期転写制御要素、又は初期転写制御要素のマルチマーであって、好ましくは配列最適化されたものを、タンデムに組み合わせることによって設計される前初期転写制御要素である。前記初期転写制御要素は、好ましくは、初期プロモーター要素によって、最も好ましくはポックスウイルス初期プロモーター要素によって設計される。好ましくは、前記初期プロモーター要素はp7.5初期プロモーター要素、最も好ましくは配列最適化されたp7.5初期プロモーター要素である。
【0076】
好ましくは、本ポックスウイルス初期/後期プロモーターは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15コピー又はそれ以上の初期プロモーター要素に連結された少なくとも1つの後期プロモーター要素を含む。
【0077】
より一層好ましくは、前記ポックスウイルス初期/後期プロモーターは、後期プロモーター要素と、少なくとも2コピー、好ましくは少なくとも5コピーの初期プロモーター要素、好ましくは配列番号1のnt48〜81に記載のヌクレオチド配列要素のコピーとを含む。
【0078】
特に好ましいのは、少なくとも2コピー、好ましくは少なくとも5コピーのp7.5初期プロモーター要素、より好ましくは配列最適化したp7.5初期プロモーター要素のコピーを含むポックスウイルス初期/後期プロモーターである。
【0079】
好ましくは、本ポックスウイルス初期/後期プロモーターは、初期要素が由来するものとは異なるプロモーターに由来する後期要素を含むポックスウイルス初期/後期ハイブリッドプロモーターである。
【0080】
さらにもう一つの好ましい実施形態によれば、本ポックスウイルス初期/後期ハイブリッドプロモーターの後期要素は牛痘ATI後期プロモーターであるか、牛痘ATI後期プロモーターを含む。
【0081】
好ましくは、本ポックスウイルス初期/後期ハイブリッドプロモーターは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15コピー又はそれ以上の初期プロモーター要素(好ましくはp7.5初期プロモーター要素、最も好ましくは配列最適化したp7.5初期プロモーター要素)に連結された少なくとも1つの後期プロモーター要素(好ましくはATIプロモーター要素)を含む。
【0082】
特に好ましいのは、前記ポックスウイルス初期/後期ハイブリッドプロモーターが配列番号1のヌクレオチド配列を含む、上に定義した複製欠損性組換えウイルスである。
【0083】
牛痘ウイルスA型封入体タンパク質遺伝子のプロモーター(ATIプロモーター)の配列は当業者に知られている。これに関連してGenebankエントリーアクセッション番号D00319を参照されたい。好ましいATIプロモーター配列は次のとおりである:
5'GTTTT GAATA AAATT TTTTT ATAAT AAAT3'(配列番号6)。
【0084】
本発明によれば、上に特定したATIプロモーターを使用するか、上に示した配列の部分配列(subsequence)であってもよいATIプロモーターの誘導体を使用することが可能である。「部分配列(subsequence)」という用語は、上に示した配列の、より短いフラグメントであって、依然としてプロモーターとして(特にワクシニアウイルス後期プロモーターとして)活性なものを指す。ATIプロモーターの配列の典型的フラグメントは、ATIプロモーターの配列のうち、少なくとも10ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも15ヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも20ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも25ヌクレオチドの長さを持つ。部分配列は、好ましくは、ATI配列のヌクレオチド25〜29、すなわちATIプロモーター配列の3'端に位置する配列5'-TAAAT-3'を含み得る。部分配列は、ATIプロモーター配列のヌクレオチド22〜29、すなわちATIプロモーター配列の3'端に位置する配列5-TAATAAAT-3'も含み得る。
【0085】
p7.5プロモーターの初期要素を、以下に詳述する一ヌクレオチド置換によって最適化した。最適化により、HeLa細胞中で、AraCの非存在下よりもAraCの存在下において、より高い発現を伴うプロモーターが得られた。さらにまた、1コピーのATI後期プロモーターに連結された5コピーの最適化p7.5初期プロモーター要素を含むプロモーター(以下「pHybプロモーター」と表記する)によって駆動される強化GFP(eGFP)の発現は、感染後30分〜120分の時点において、詳細に明らかにされている合成プロモーターpS及びp7.5プロモーターによって駆動される発現よりも、有意に早く起こっただけでなく、有意に高かった。有意な量のeGFPが、感染後30分で既に検出された。これは、確立された初期/後期pS又はp7.5プロモーターの場合よりも、2〜3倍速かった。少なくとも3ラウンドの免疫処置を、そのような前初期プロモーターと組み合わせて、抗原を発現させることにより、従来のポックスウイルスp7.5及びpSプロモーターと比較して増加した抗原特異的CD8 T細胞応答がもたらされた。強い初期抗原発現における優位性は、感染の少なくとも6時間後まで持続した。したがって、このプロモーターからの初期遺伝子発現は、極めて高かった。
【0086】
好ましい実施形態では、本組換えMVAが、高レベルのコード抗原及び/又は抗原エピトープを、ウイルス複製の前初期相中に発現する。いくつかの実施形態では、組換えMVAが、HeLa細胞中で、40μg/ml AraCの存在下に、コード抗原を、AraCの非存在下におけるコード抗原のレベルの10%、20%、又は50%以内、又は少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%であるレベルで発現する。好ましい実施形態では、組換えMVAが、HeLa細胞中で、40μg/ml AraCの存在下に、AraCの非存在下におけるコード抗原のレベルよりも高いレベルのコード抗原を発現する。さまざまな実施形態において、本組換えMVAは、40μg/ml AraCの存在下で、HeLa及び/又はCEF細胞における発現を駆動するpSプロモーターを持つMVAベクターよりも、2倍、3倍、又は4倍高いレベルのコード抗原を発現する。
【0087】
ある好ましい実施形態では、初期/後期ハイブリッドプロモーターが、次の配列を含む:
5'acgcgtgtttaaacgttttgaaaatttttttataataaatatccggtaaaaattgaaaaactattctaatttattgcacggtccggtaaaaattgaaaaactattctaatttattgcacggtccggtaaaaattgaaaaactattctaatttattgcacggtccggtaaaaattgaaaaactattctaatttattgcacggtccggtaaaaattgaaaaactattctaatttattgcacggtccgga 3'(配列番号1)
ATI後期プロモーターの配列をイタリックで表し、5コピーの最適化p7.5初期プロモーターに下線を付す。p7.5初期プロモーターの最適化は、Davison及びMoss「Structure of Vaccinia Virus Early Promoters」J. Mol. Biol. 210, 749-769, 1989に従って行った。
【0088】
最適化pHybプロモーター(配列番号1)の要素は次のとおりである。
【0089】
【表1】

【0090】
さらなる実施形態では、初期/後期ハイブリッドプロモーターが、配列番号1のヌクレオチド配列に対して又は配列番号1のnt15〜41若しくはnt48〜81、nt48〜87、若しくはnt48〜247に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%又は99%相同又は同一な配列を含む。初期及び後期プロモーターのコンセンサス配列の知識、並びにさまざまなヌクレオチド置換が初期及び後期プロモーター活性に及ぼす効果に関する知識に基づいて(Davison及びMoss「Structure of Vaccinia Virus Early Promoters」J. Mol. Biol. 210, 749-769, 1989)、配列番号1のプロモーター配列には、プロモーターの活性に負の影響を及ぼさないであろう多くの変化を、考えることができる。配列番号1とは1ヶ所またはそれ以上で異なるが、プロモーター配列番号1の活性と実質的に同じ(すなわち約±20%の範囲内の)初期及び後期プロモーター活性を有するヌクレオチド配列は、本発明に包含される。
【0091】
さらにもう一つの好ましい実施形態において、本発明は、配列番号1のnt48〜81に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、又は100%の相同性又は同一性を持つヌクレオチド配列要素を少なくとも2つ含むプロモーターに関する。特に好ましい実施形態では、プロモーターが、配列番号1のnt48〜81に記載のヌクレオチド配列要素を少なくとも2つ、好ましくは少なくとも5つは含む。好ましくは、プロモーターが、少なくとも1つの後期プロモーター要素、好ましくは牛痘ATI後期プロモーター要素を含む。
【0092】
配列同一性パーセントは、目視検査及び数学的計算によって決定することができる。或いは、2つの核酸配列の同一性パーセントは、Devereux et al.(Nucl. Acids Res. 12:387, 1984)に記載されていてUniversity of Wisconsin Genetics Computer Group(UWGCG)から入手することができるGAPコンピュータプログラム・バージョン6.0を使って配列情報を比較することによって、決定することができる。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメータには、次のパラメータが含まれる:(1)Schwartz及びDayhoff編「Atlas of Protein Sequence and Structure」National Biomedical Research Foundation, pp.353-358, 1979に記載されているように、ヌクレオチドのための単項比較行列(unary comparison matrix)(同一性に対して1及び非同一性に対して0の値を含むもの)、並びにGribskov及びBurgess, Nucl. Acids Res. 14:6745, 1986の重み付き比較行列(weighted comparison matrix);(2)各ギャップにつき3.0のペナルティ及び各ギャップ中の各記号につき0.10の追加ペナルティ;並びに(3)末端ギャップに対するペナルティなし。当業者が使用している他の配列比較のプログラムも使用することができる。
【0093】
本発明は、医薬又はワクチンとして使用するための上に定義した複製欠損性組換えウイルス、及び医薬又はワクチンを調製するための上に定義した複製欠損性組換えウイルスの使用にも関係する。
【0094】
本発明の複製欠損性組換えウイルスは、102〜109又は104〜109TCID(組織培養感染量)50/mlの濃度範囲、好ましくは例えば105〜5×108TCID50/mlの濃度範囲、より好ましくは例えば106〜108TCID50/mlの濃度範囲、最も好ましくは例えば107〜108TCID50/mlの濃度範囲、又は少なくとも2〜5×107〜108若しくは2〜5×108〜109、特に108TCID50/mlで投与される。実際の濃度は、使用するウイルスのタイプ及びワクチン接種される動物種に依存する。好ましいワクチン接種用量は、ヒトの場合、106〜109TCID50、より好ましくは、107又は108TCID50の用量、最も好ましくは108TCID50又はそれ以上の用量、特に2又は2.5〜5×108又は109を含む。MVA-BNに関して、典型的なワクチン接種用量は、ヒトの場合、皮下投与される5×107TCID50〜5×108TCID50、例えば約1、2、又は2.5×108TCID50を含む。
【0095】
上に定義した複製欠損性組換えウイルスの単回投与により、例えばMVA、特にMVA-BN株及びその誘導体を使って、免疫応答を誘導することが可能である。通常は、本発明の複製欠損性組換えウイルス、例えばMVA、特にVMA-BN及びその誘導体を、相同プライムブーストレジームにおいて使用することができる。すなわち、初回ワクチン接種に組換えウイルスを使用すると共に、初回ワクチン接種で使用したものと同じであるかまたは関連する組換えウイルスの投与によって、初回ワクチン接種において生じた免疫応答を増強することが可能である。相同プライム/ブースト投与は、本発明の好ましい実施形態でもある。
【0096】
本発明の複製欠損性組換えウイルス、例えばMVA、特にMVA-BN及びその誘導体は、異種プライム-ブーストレジーム(このレジームでは、1回又はそれ以上のワクチン接種が上に定義したウイルスで行われ、1回又はそれ以上のワクチン接種が別のタイプのワクチン、例えば別のウイルスワクチン、タンパク質又は核酸ワクチンで行われる)においても使用することができる。
【0097】
投与様式は、静脈内、筋肉内、皮内、鼻腔内、又は皮下であることができる。好ましいのは、静脈内、筋肉内、又は特に皮下投与である。しかし、乱切など、他の任意の投与様式を使用することができる。
【0098】
本発明は、上に定義した複製欠損性組換えウイルスと、場合によっては薬学的に許容可能な担体、希釈剤、アジュバント及び/又は添加剤とを含む医薬組成物又はワクチンにも関係する。
【0099】
ウイルス製剤を調製するための方法は、貯蔵様式と共に、当業者には数多く知られている。これに関連して、そして特に、ポックスウイルス製剤の調製については、国際公開第03053463号を参照されたい。
【0100】
補助物質の限定でない例は水、食塩水、グリセロール、エタノール、湿潤又は乳化剤、pH緩衝物質、保存剤、安定剤などである。適切な担体は、通例、大きくてゆっくり代謝される分子、例えばタンパク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸ポリマー、アミノ酸コポリマー、脂質凝集物などを含む群より選択される。
【0101】
ワクチンを調製するために、本発明の組換えMVAウイルスを、生理学的に許容可能な形態に変換する。適切な調製物はウイルスのタイプに依存し、当業者には知られている。ポックスウイルスワクチンの場合、これは、痘瘡ワクチンの調製における経験に基づいて行うことができる(Stickl, H. et al. Dtsch. med. Wschr. 99, 2386-2392 [1974] に記載されているとおり)。例えば精製ウイルスは、5×108TCID50/mlの力価で10mM Tris、140mM NaCl pH7.4中に調剤されて、−80℃で保存される。
【0102】
ある実施形態では、本発明の複製欠損性組換えウイルスが、ワクチンショットの調製に使用される。例えば、アンプル(好ましくはガラス製アンプル)において、約102〜約108個のウイルス粒子を、2%ペプトン及び1%ヒトアルブミンの存在下に、100mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)中で凍結乾燥する。もう一つの限定でない例では、製剤中のウイルスを段階的に凍結乾燥することによって、ワクチンショットが製造される。一定の実施形態において、この製剤は、さらなる添加剤、例えばマンニトール、デキストラン、糖、グリシン、ラクトース若しくはポリビニルピロリドン、又は他の助剤、例えばインビボ投与に適した酸化防止剤若しくは不活性ガス、安定剤若しくは組換えタンパク質(例えばヒト血清アルブミン)などを含有することができる。次にガラスアンプルを封止すれば、例えば4℃〜室温で数ヶ月間保存することができる。ただし、差し迫った必要がない限り、アンプルは−20℃未満の温度で貯蔵することが好ましい。
【0103】
ワクチン接種又は治療のために、凍結乾燥物を0.1〜0.5mlの水性溶液、好ましくは生理食塩水又はTrisバッファーに溶解して、全身的又は局所的に投与、すなわち非経口投与、皮下投与、筋肉内投与、又は乱切若しくは熟練した実務家に知られている他の投与経路によって投与することができる。当業者は、投与様式、投与量及び投与回数を、既知の方法で最適化することができる。しかし、最も一般的には、最初のワクチン接種ショットの約1ヶ月後〜6週間後に、2回目のショットで患者にワクチン接種する。3回目、4回目及びそれ以降のショットは、通常は、先の投与の4〜12週間後、好ましくは4〜6週間後に行うことができる。
【0104】
ある実施形態では、ラット、ウサギ、マウス、及びヒトを含む対象哺乳動物に、ある投薬量の組換え複製欠損性ウイルス(特にMVA)をその対象(好ましくはヒト)に投与することを含む免疫処置を行う。ある実施形態では、最初の投薬量並びに2回目及びさらなる投薬量(すなわち3回目、4回目、5回目など)が、特に組換えMVAの場合、好ましくは108TCID50の組換えウイルスを含む。
【0105】
もう一つの態様において、本発明は、前記少なくとも1つの抗原及び/又は抗原エピトープに対して宿主におけるT細胞応答を誘導するための、上に定義した複製欠損性組換えウイルス又は医薬組成物若しくはワクチンに関する。
【0106】
さらに本発明は、前記少なくとも1つの抗原及び/又は抗原エピトープに対して宿主におけるT細胞応答を誘導するための医薬を製造するための、上に定義した複製欠損性組換えウイルス又は医薬組成物若しくはワクチンの使用に関する。
【0107】
ある好ましい実施形態では、前記T細胞応答がCD8 T細胞応答である。
【0108】
本発明の複製欠損性組換えウイルス(特に組換えMVA)による免疫処置は、ロバストなCD8 T細胞応答を生じることができる。好ましい実施形態では、少なくとも1週間の間隔をおいて行われる最初のプライム投与及び少なくとも2回のブースト投与後に、組換えMVAが、コード抗原に対する宿主におけるCD8 T細胞応答であって、そのMVAベクターバックボーンによってコードされる免疫優性CD8 T細胞エピトープに対するCD8 T細胞応答よりも強い応答を生じる。好ましくは、本発明の最適化ハイブリッド初期/後期プロモーターによって駆動される抗原に対するCD8 T細胞応答は、強力な合成pSプロモーター又は類似の初期/後期プロモーターによって駆動される同じ抗原に対する応答と比較して増加する。好ましくは、3回目、4回目、5回目などの投与後は、コード抗原に対して宿主内で免疫優性T細胞応答が発揮される。すなわち、組換え抗原に由来するCD8 T細胞エピトープが免疫優性エピトープへと変換される。最も好ましくは、3回目、4回目、5回目などの投与後は、組換えMVAが、コード抗原に対し、宿主において、全CD8 T細胞の少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、又は35%であるCD8 T細胞応答を誘導する。
【0109】
ある好ましい実施形態では、本発明の最適化ハイブリッド初期/後期プロモーターを含む組換えMVAの3回目、4回目、5回目などの投与後に誘導される組換え抗原に対するCD8 T細胞応答が、pSプロモーターを含む組換えMVAの投与後に生じるCD8 T細胞応答よりも、少なくとも20%高い。さらなる好ましい実施形態では、3回目、4回目、5回目などの投与後に生じるCD8 T細胞応答が、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%高い。最も好ましい実施形態では、生じるCD8 T細胞応答が100%高い。
【0110】
本明細書において使用する用語「T細胞応答を生じる」は、T細胞応答が誘導され、生起し、且つ/又は強化されることと理解されるべきである。
【0111】
本発明の複製欠損性組換えウイルスは、ヒト及び免疫機能が損なわれたヒトを含む広範囲にわたる哺乳動物の処置に使用することができる。
【0112】
好ましい実施形態において、処置は、宿主への複製欠損性組換えウイルス(好ましくは組換えMVA)の少なくとも3回、4回、5回又はそれ以上の投与(最初のプライム投与と、それに続く少なくとも2回、3回、4回、5回又はそれ以上のブースト投与とに対応する)を含む。組換えウイルスの投与は、プライムーブースト投与として行われる。すなわち、前記少なくとも3回の投与は、1回目の接種(プライム接種/免疫処置)とそれに続く2回目及び3回目の接種(ブースティング接種/免疫処置)を含む。
【0113】
本発明に関して「宿主」という用語は、任意の適切な動物種、特に脊椎動物を包含する。好ましいのはヒトを含む哺乳動物である。動物のさらなる具体例は、イヌ、ネコなどのペット、子ウシ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタなどの経済的に重要な動物、及びマウス、ラットなどの他の動物である。これらの動物種及びヒトにとって、MVA及びDISC-HSVはとりわけ好ましいウイルスである。また本発明は、鳥類細胞に感染する能力は持つが、該細胞中で感染性子孫ウイルスを産生する能力を持たないウイルスを使用するのであれば、経済的に重要な鳥類、例えばシチメンチョウ、アヒル、ガチョウ、及び雌鶏などにも使用することができる。
【0114】
前記少なくとも1つの抗原及び/又は抗原エピトープに対するT細胞応答は、1回又はそれ以上のワクチン接種を上に定義したウイルスで行い、1回又はそれ以上のワクチン接種を別のタイプのワクチン、例えば別のウイルスワクチン、タンパク質又は核酸ワクチンで行うという、異種プライム-ブーストレジームによって誘導することができる。しかし、好ましくは前記T細胞応答は、プライムワクチン接種にもブーストワクチン接種にも同じ又は関連する複製欠損性組換えウイルスを使用する相同プライム/ブーストレジームによって誘導される。
【0115】
したがって、もう一つの好ましい実施形態では、前記T細胞応答が、相同プライム/ブースト投与を含む免疫処置レジメンによって誘導される。
【0116】
さらなる実施形態では、前記T細胞応答が、上に定義した複製欠損性組換えウイルス又は医薬組成物若しくはワクチンの少なくとも3回又は少なくとも4回の投与を含む免疫処置レジメンによって誘導される。
【0117】
本発明は、第1バイアル/容器に入った第1接種(「プライミング接種」)用、並びに第2及び/又はさらなるバイアル/容器に入った少なくとも第2及び/又は第3及び/又はさらなる接種(「ブースティング接種」)用の、前記複製欠損性組換えウイルスを含む、プライム/ブースト免疫処置のための少なくとも2つのバイアルを含むキットも包含する。
【0118】
キットは、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれ以上の組換えウイルスの容器又はバイアルを、対象へのウイルスの投与に関する説明書と一緒に含むことができる。好ましい実施形態において、対象はヒトである。説明書は、その組換えウイルスが対象に、複数回(すなわち2回、3回、4回、5回、6回など)、特定の時点(例えば、先の投与の少なくとも4週間後、少なくとも6週間後、少なくとも8週間後)に投与されることを示し得る。好ましくは、説明書は、その組換えウイルスが少なくとも3回又は少なくとも4回投与されるべきであることを示す。
【0119】
ワクチンが本発明のDNAを含むMVA-BNベクター又はその誘導体である場合、本発明のある特定実施形態は、第1バイアル/容器に入った第1ワクチン接種(「プライミング」)用、並びに第2/第3バイアル/容器に入った少なくとも第2ワクチン接種及び第3ワクチン接種(「ブースティング」)用の、本発明のMVA-BNウイルスベクターを含むワクチン接種用キットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】pHyb、p7.5及びpSにおける初期及び後期プロモーター要素の配列及びその配置の概略図。A)p7.5、pS及びpHybプロモーターの概略図。初期及び後期プロモーター要素は、実際のサイズに比例して描かれているわけではない。B)p7.5(配列番号5)、pS(配列番号2)及びpHyb(配列番号1)プロモーターのヌクレオチド配列。p7.5初期プロモーター要素が最適化されている領域をp7.5配列において枠で囲み、最適化された配列を下に示す。一重実線:後期プロモーター要素。二重線:初期プロモーター要素。
【図2】組換えMVAによって指示されるeGFPの発現。表示したプロモーターの制御下にあるeGFPオープンリーディングフレームを含有する組換えMVAを使って、HeLa細胞(A、C)及びCEF細胞(B)を、感染多重度(MOI又はm.o.i.)5で感染させた。感染中は、細胞をシトシンアラビノシドで処理するか(+AraC)、又は処置しないでおいた(−AraC)(A、B)。細胞を感染16時間後に収集し、eGFP発現についてフローサイトメトリーで分析した。C)HeLa細胞をMVA-p7.5-eGFP(「p7.5」)、MVA-pS-eGFP(「pS」)、及びMVA-pHyb-eGFP(「pHyb」)に感染させるか、培地と共にインキュベートした(「モック」)。感染から表示した時間後に、細胞を収集し、eGFP発現についてフローサイトメトリーで分析した。実験を少なくとも2回は独立して繰り返した。
【図3】組換えMVAによって誘導されるニワトリオボアルブミン(OVA)特異的及びMVA特異的CD8 T細胞応答の分析。MVA-p7.5-OVA、MVA-pS-OVA(「pS」)、及びMVA-pHyb-OVA(「pHyb」)を使用し、腹腔内(i.p.)投与により、マウス1匹あたり108TCID50の用量で、BALB/cマウス5〜6匹の群を免疫処置した(A)。1回目の免疫処置のそれぞれ4週間後及び8週間後に、マウスを2回目(B)及び3回目(C)のi.p.注射によって追加免疫した。1回目の免疫処置の6〜8日後並びに2回目及び3回目の免疫処置の6日後に、OVA特異的(「OVA」)及びベクター特異的(「B8R」)CD8 T細胞応答の誘導に関して、血液の白血球を分析した。抗原特異的CD8 T細胞の定量は、6時間の再刺激期間後のIFN-γに関する細胞内サイトカイン染色と、CD4-CD8+又はCD19-CD8+リンパ球へのゲーティングによって行った。ペプチドなしでインキュベートした免疫処置動物の白血球を対照とした(「ペプチドなし」)。全CD8 T細胞におけるOVA特異的細胞及びB8R特異的細胞のパーセンテージを示す(A〜C)。OVA特異的(CD8OVA)及びB8R特異的(CD8B8R)CD8 T細胞のパーセンテージを使って、CD8OVA細胞対CD8B8R細胞の比を算出した(D)。その比のlog10を使って標準誤差を算出し、スチューデントのt検定を行った。2回の独立した実験の結果を合わせて示す(A〜D)。
【図4】組換えMVAで3回免疫処置した後のOVA特異的及びMVA特異的CD8 T細胞応答の動態。MVA-p7.5-OVA、MVA-pS-OVA(「pS」)、MVA-pHyb-OVA(「pHyb」)を使用し、腹腔内(i.p.)投与により、マウス1匹あたり108TCID50の用量で、BALB/cマウス5〜6匹の群を免疫処置した(A)。1回目の免疫処置のそれぞれ4週間後及び8週間後に、マウスを2回目(B)及び3回目(C)のi.p.注射によって追加免疫した。3回目の免疫処置の4、6及び8日後に、OVA特異的(「OVA」)及びベクター特異的(「B8R」)CD8 T細胞応答の誘導に関して、血液の白血球を分析した。抗原特異的CD8 T細胞の定量は、6時間の再刺激期間後のIFN-γに関する細胞内サイトカイン染色と、CD19-CD8+リンパ球へのゲーティングによって行うか(上側のパネル)、MHCクラスIデキストラマー染色によって行った(下側のパネル)。ペプチドなしでインキュベートした免疫処置動物の白血球を対照とした(「ペプチドなし」)。全CD8 T細胞におけるOVA特異的細胞及びB8R特異的細胞のパーセンテージを示す。
【図5】OVA特異的及びMVA特異的メモリーCD8 T細胞。3回目の免疫処置の28日後(A)及び92日後(B)に、MVA-p7.5-OVA、MVA-pS-OVA、及びMVA-pHyb-OVAで免疫処置したBALB/cマウスから白血球を調製し、IFN-γに関するICCSで分析することにより、OVA特異的及びB8R特異的CD8 T細胞を定量した。動物は、図3に示す2回の実験の一方から得た。3回目の免疫処置の14週間後に、MVA-pHyb-OVAで3回免疫処置した5匹のマウスのうちの3匹、並びにMVA-p7.5-OVA及びMVA-pS-OVAで3回免疫処置した5匹のマウスに、それぞれのOVA発現MVA組換え体で、4回目のワクチン接種を行った。ブースター免疫処置の6日後に、マウスを、IFN-γ-ICCSにより、血液(C)及び脾臓(D)中のOVA特異的及びB8R特異的CD8 T細胞について分析した。ペプチドなしでインキュベートした免疫処置動物の白血球を対照とした(「ペプチドなし」)。
【実施例】
【0121】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに例示する。本発明が提供する技術の利用可能性をこれらの実施例に限定するような形で以下の実施例が解釈され得ることが決してないことは、当業者には理解されるだろう。
【0122】
データの統計解析は、別段の表示がない場合、反復測定二元配置ANOVA検定を使って行った。
【0123】
実施例1:MVA-BN組換え体の作製
牛痘ウイルスATIプロモーター由来の後期要素と5つのタンデムに配置された初期プロモーター要素とを含有する、pHybと名付けたハイブリッド後期/初期プロモーターを構築した(図1)。初期プロモーター要素はp7.5プロモーターに基づき、公表されたデータを使ってさらに最適化した(Broyles, S.S. 2003「Vaccinia virus transcription(ワクシニアウイルス転写)」J. Gen. Virol. 84:2293-2303;Chakrabarti, S., J.R. Sisler及びB. Moss. 1997「Compact, synthetic, vaccinia virus early/late promoter for protein expression(タンパク質発現のためのコンパクトな合成ワクシニアウイルス初期/後期プロモーター)」Biotechniques 23:1094-1097;Davison, A.J.及びB. Moss. 1989「Structure of vaccinia virus early promoters」J. Mol. Biol. 210:749-769)。pHybプロモーターを、高レベルな遺伝子発現を指示する広く使用されている合成pSプロモーター及び天然のp7.5プロモーターと比較した(Cochran, M.A., C. Puckett及びB. Moss. 1985「In vitro mutagenesis of the promoter region for a vaccinia virus gene: evidence for tandem early and late regulatory signals(ワクシニアウイルス遺伝子のプロモーター領域のインビトロ突然変異誘発:タンデム初期及び後期調節シグナルの証拠)」J. Virol. 54:30-37)(図1)。これらのプロモーターコンストラクトを、ニワトリオボアルブミン(OVA)又はeGFPのオープンリーディングフレームの上流にクローニングし、相同組換えによってMVAウイルスのゲノム中に導入した。
【0124】
牛痘ウイルスにおいてA型封入体(ATI)タンパク質の発現を指示するプロモーターから得られる後期要素を使って、pHybプロモーターを組み立てた(Funahashi, S., T. Sato及びH. Shida. 1988「Cloning and characterization of the gene encoding the major protein of the A-type inclusion body of cowpox virus(牛痘ウイルスのA型封入体の主要タンパク質をコードする遺伝子のクローニングと特徴付け)」J. Gen. Virol. 69(Pt 1):35-47;Patel, D.D., C.A. Ray, R.P. Drucker及びD.J. Pickup. 1988「A poxvirus-derived vector that directs high levels of expression of cloned genes in mammalian cells(哺乳動物細胞においてクローン化遺伝子の高レベルな発現を指示するポックスウイルス由来ベクター)」Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 85:9431-9435)。5つのタンデムに配置された初期要素はp7.5プロモーターに由来し、記述されているように(Davison, A. J.及びB. Moss. 1989「Structure of vaccinia virus early promoters」J. Mol. Biol. 210:749-769)、16ヌクレオチドのAリッチクリティカルコア領域内の4つのヌクレオチド位置を改変した。ここで使用した天然p7.5プロモーターは、後期及び初期プロモーター要素を含有する104塩基対長のDNAフラグメントからなった。強力な合成初期/後期pSプロモーターの配列は、先に記載された配列と厳密に一致する40ヌクレオチドを含んだ(Chakrabarti, S., J.R. Sisler及びB. Moss. 1997「Compact, synthetic, vaccinia virus early/late promoter for protein expression」Biotechniques 23:1094-1097)。細菌人工染色体(BAC)中のクローン化型MVA-BNゲノムを使って、組換えMVAを作製した。簡単に述べると、pHyb及びpSプロモーターコンストラクトを、ニワトリオボアルブミン(OVA)又は強化緑色蛍光タンパク質(eGFP)のオープンリーディングフレームの上流にクローニングした。これらの発現カセットの両側に約45ヌクレオチドのホモロジーアームをPCRによって配置し、遺伝子MVA136とMVA137の間の遺伝子間領域中に相同組換えで導入することにより、組換えMVA-BACを得た。BAC DNAをBHK-21細胞中にトランスフェクトし、ヘルパーウイルスとしてショープ線維腫ウイルスを重感染させることにより、BACから感染性ウイルスを再構成させた。CEF細胞で3回継代した後、pHybプロモーターの制御下にeGFP又はOVAを発現するヘルパーフリーウイルス(PCRで確認した)MVA-pHyb-eGFP及びMVA-pHyb-OVA、並びにpSプロモーターの制御下にeGFP又はOVAを発現するMVA-pS-eGFP及びMVA-pS-OVAを得た。
【0125】
実施例2:細胞培養及びAraCによる細胞周期停止
初代ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)細胞を11日齢の胚から調製し、VP-SFM(無血清培地;Invitrogen、ドイツ・カールスルーエ)中で培養した。HeLa細胞をDMEM/10%FCS(Invitrogen)中で培養した。細胞を、1細胞あたり10TCID50の、表示したプロモーターの制御下にあるeGFPを発現するMVA組換え体に感染させた。表示した時点の後、感染細胞をトリプシン処理によって収集し、LSR IIフローサイトメトリーアナライザー(BD Biosciences、ドイツ・ハイデルベルク)を使って、eGFP発現レベルについてフローサイトメトリーで分析した。表示がある場合は、MVA複製を初期相で停止させるために、シトシンアラビノシド(AraC)を感染の最初から最後まで40μg/mlの最終濃度で培地に加えた。
【0126】
実施例3:マウスの免疫処置
6〜8週齢の雌C57BL/6マウスをHarlan Winkelmann(ドイツ)から購入した。マウス5匹の群を、T細胞分析については0週目、4週目、8週目及び12週目又は22週目のどちらか一方に、また抗OVA及び抗MVA抗体の分析については0週目、2週目、及び4週目に、108TCID50の各MVA組換え体を含有する200μlの接種物を使って腹腔内経路で免疫処置した。血液を表示の時点で尾静脈から採取し、CD8 T細胞応答を分析するために、後述のように処理した。表示がある場合は、CD8 T細胞応答を分析するために、最後の免疫処置の7日後に脾臓を収集した。
【0127】
実施例4:細胞内サイトカイン染色(ICCS)
免疫処置動物の血液を尾静脈から採取し、マウス1匹あたり100〜120μlの血液を、4%ウシ胎仔血清(FCS)、2mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)及び2.5U/mlヘパリンを含有するPBS(pH7.4)2mlに再懸濁した。血液試料を3つのアリコートに分割し、Red Blood Cell Lysingバッファー(Sigma-Aldrich、ドイツ・シュタインハイム)を使って赤血球を溶解した。末梢血単核球(PBMC)を、最終的に、0.05mMβ-メルカプトエタノール、エキソサイトーシス経路によるサイトカインの分泌を遮断する1μl/ml GolgiPlug(商標)(BD Biosciences)を含有し、1μg/mlのペプチドOVA257-268 SIINFEKL(配列番号3;「OVA」)、又はB8R20-27 TSYKFESV(配列番号4;「B8R」)を含有するか、又はペプチドを含有しない(「ペプチドなし」)、RPMI/10%FCS 2mlに再懸濁した。ペプチドはProImmune(英国オックスフォード)から購入した。ウイルスB8R初期タンパク質のアミノ酸20〜27に由来する免疫優性H-2Kb拘束性TSYKFESVエピトープ(Tscharke, D.C., G. Karupiah, J. Zhou, T. Palmore, K.R. Irvine, S.M. Haeryfar, S. Williams, J. Sidney, A. Sette, J.R. Bennink及びJ.W. Yewdell. 2005「Identification of poxvirus CD8+ T cell determinants to enable rational design and characterization of smallpox vaccines(痘瘡ワクチンの合理的設計及び特徴付けを可能にするためのポックスウイルスCD8+ T細胞決定基の同定)」J. Exp. Med. 201:95-104)に対するCD8 T細胞頻度を、ベクター特異的CD8 T細胞応答の代表的尺度として決定した。PBMCを5%CO2中、37℃で5時間インキュベートし、遠心分離によって収集し、3mlの冷PBS/10%FCS/2mM EDTA pH7.4に再懸濁し、4℃で終夜保存した。翌日、PBMCを抗体、抗CD8α-Pac-Blue、抗CD4-PerCP-Cy5.5、抗CD62L-PE-Cy7で染色し、いくつかの実験においては抗CD127-APCで染色した(抗体は全てBD Biosciences製)。PBMCを表示した抗体の適当な希釈液と共に暗所、4℃で、30分間インキュベートした。洗浄の後、Cytofix/Cytoperm(商標)Plusキット(BD Biosciences)を製造者の説明書に従って使用することにより、細胞を固定し、透過処理した。洗浄の後、PBMCを、細胞内インターフェロン-γ(IFN-γ)及び腫瘍壊死因子-α(TNF-α)について、FITCコンジュゲート抗IFN-γ抗体及びPEコンジュゲート抗TNF-α抗体(BD Biosciences)を使って染色した。抗体はPerm/Washバッファー(BD Biosciences)に希釈し、PBMCを暗所、4℃で20分間染色した。洗浄の後、染色した細胞を、BD Biosciences LSR IIシステムでのフローサイトメトリーによって分析した。
【0128】
実施例5:MHCクラスIペンタマー及びデキストラマー染色
免疫処置動物の血液を尾静脈から採取し、マウス1匹あたり100〜120μlの血液を、4%ウシ胎仔血清(FCS)、2mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)及び2.5U/mlヘパリンを含有するPBS(pH7.4)2mlに再懸濁した。試料全体又はICCSに使用しなかったアリコートを直ちに、抗CD8a-Pac-Blue及びそれぞれのH-2Db結合ペプチドSIINFEKL及びTSYKFESVと複合体を形成したMHCクラスIペンタマー(ProImmune)又はMHCクラスIデキストラマー(Immudex、デンマーク・コペンハーゲン)によるOVA特異的及びB8R特異的CD8 T細胞の染色に供した。OVA特異的及びB8R特異的MHCクラスIペンタマーはどちらもAPCで標識し、それぞれのCD8 T細胞集団を2つの別個の反応で染色した。MHCクラスIデキストラマーはPE(SIINFEKL-デキストラマー)又はAPC(TSYKFESV-デキストラマー)で標識し、一つの染色反応で、抗CD8a-Pac-Blueと一緒に組み合わせた。洗浄の後、染色された細胞を、BD Biosciences LSR IIシステムでのフローサイトメトリーによって分析した。
【0129】
実施例6:マウス血清中のMVA特異的抗体を検出するためのELISA
96ウェルプレートをMVA-BN(登録商標)感染CEF細胞の粗抽出物でコーティングした。血清の2倍段階希釈液を室温で1時間インキュベートした。必要な場合は、マウス血清のプレ希釈液(pre-dilutions)を調製した。検出のためにプレートをヒツジ抗マウスIgG-HRP検出抗体(Serotec)と共に室温で1時間インキュベートした。TMB(Sigma-Aldrich)を基質として使用し、1M H2SO4(Merck)の添加によって反応を停止した。Tecan F039300 Sunrise Absorbance Reader(Maennedorf、スイス)を使ってODを450nmで測定した。
【0130】
実施例7:マウス血清中のOVA特異的抗体を検出するためのELISA
96ウェルプレートを0.25μg/ウェルのニワトリオボアルブミン(Sigma-Aldrich)でコーティングした。血清の2倍段階希釈液を4℃で終夜インキュベートした。必要な場合は、マウス血清のプレ希釈液を調製した。ビオチン化ロバ抗マウスIgG H+L抗体(Dianova)を室温で2時間、プレートに加えた。ビオチン化二次抗体を検出するために、ストレプトアビジン-HRP(Amersham Biosciences)をプレートに加え、室温で2時間インキュベートした。ABTS(Sigma-Aldrich)/0.03%H2O2/0.1Mクエン酸を使ってアッセイを呈色させた。Tecan F039300 Sunrise Absorbance Readerを使って、ODを405nm、参照波長492nmで測定した。
【0131】
実施例8:組換えMVAによるeGFPの発現
MVAに対して非許容性である無処理HeLa細胞におけるeGFPの発現は、3つのプロモーターの全てで類似していた(図2A)。MVAに対して許容性である無処理CEF細胞では、pS及びp7.5プロモーターの方が、pHybプロモーターより高い総eGFP発現を指示した(図2B)。初期遺伝子発現を別個に分析するために、AraCで16時間処理することにより、MVA感染サイクルをその初期相で停止させた。これらの条件下で、pHybプロモーターは、pS及びp7.5プロモーターよりはるかに高いeGFP発現を指示した(図2A、B)。実際、MVA-pHyb-eGFP感染細胞におけるeGFPのレベルは、AraCによる影響を受けなかった。これは、pHybにおける5つの初期要素のタンデム配置(図1)が、観察された初期抗原発現量の増加の原因であることを示した。
【0132】
HeLa細胞におけるeGFP発現の動態分析は、pHybプロモーターが感染後最初の30分以内にタンパク質発現を指示するのに対し、pSプロモーターからの有意なeGFP発現は90分まで検出可能にならないことを示した(図2C)。そのうえ、pHybプロモーターは、 感染後最初の6時間にわたって常に、より高レベルのeGFP発現を指示した(図2C)。p7.5及びpSプロモーターからの発現レベルは、6時間以上後の感染後期になって初めて、pHybプロモーターが誘導する発現レベルに達した。したがって、感染の0.5時間後から6時間後までの間はどの時点においても、pHybプロモーターによるeGFPの発現が、p7.5及びpSプロモーターで達成されるものよりも、有意に高かった。同じぐらい重要なことに、pHybプロモーター活性が感染後30分以内の極めて初期に検出可能であったのに対し、p7.5及びpSは検出可能なeGFP発現を誘導するのに3倍長い時間を要した。
【0133】
実施例9:CD8 T細胞応答の分析
プロモーターp7.5、pS及びpHybの制御を受けて組換え発現されたOVAに対するCD8 T細胞応答を、マウス1匹あたり108TCID50の組換えMVAによる1、2、3、及び4回の免疫処置後に、C57BL/6マウスにおいて決定した。Kb拘束性OVA由来ペプチドSIINFEKLによる刺激後に、IFN-γに関するICCSによって、OVA特異的CD8 T細胞応答を決定した。MVAベクターに対するCD8 T細胞応答をモニターするために、ポックスウイルスB8R初期タンパク質由来の免疫優性CD8 T細胞エピトープを認識するCD8 T細胞を、ICCSによって定量した。1回目の免疫処置の1週間後は、使用したプロモーターのタイプとは無関係に、同じような比率のOVA特異的CD8 T細胞が観察された(図3A)。MVA-pHyb-OVAによる2回目の免疫処置後に観察された、MVA-pS-OVA及びMVA p7.5-OVAと比較してわずかに多いOVA特異的CD8 T細胞数は(図3B)、統計的に有意でなかった(それぞれp=0.27及び0.62)。B8R特異的CD8 T細胞応答にも、1回目及び2回目の免疫処置後は、有意差がなかった(p>0.5、図3A、B)。
【0134】
MVA-pHyb-OVAによる3回目の免疫処置後に、MVA-pS-OVA(p<0.01)及びMVA-p7.5-OVA(p<0.001)による三重の免疫処置と比較して有意に強いOVA特異的CD8 T細胞応答が観察された(図3C)。これに対し、MVA-pHyb-OVAで免疫処置したマウスのB8R特異的CD8 T細胞の比率は、他の2つのMVAコンストラクトで処置したマウスと比較して、有意差がなかった(p>0.19)。
【0135】
注目すべきことに、これらの結果は、相同MVAウイルスコンストラクトによる先の2回の免疫処置後でさえ、OVA特異的CD8 T細胞の数を有意に増加させることが可能であったことを実証している。抗原特異的CD8 T細胞応答を増強するMVAベクターの能力は、プロモーターには依存しなかった(上記3つの組換えMVAコンストラクトのそれぞれによる3回対2回の相同免疫処置後のOVA特異的CD8 T細胞に関してp<0.001)。OVA特異的CD8 T細胞の比率は、MVA-pHyb-OVAによる3回の免疫処置後には並外れて高い数値に達した。このコンストラクトによる3回目の免疫処置の6日後には、全CD8 T細胞の最大20%がOVA特異的だった(図3C)。MVA-pHyb-OVAによる3回目の免疫処置後6日目には、B8R特異的CD8 T細胞と比較してほとんど等しい比率のOVA特異的CD8 T細胞が、ICCSを使って検出された(図3C)。これは、一つには、B8R特異的CD8 T細胞の相対数の減少によるものであったことから、感作OVA特異的CD8 T細胞の拡大が、より高い効率で刺激されることが示唆された(図3C)。MVA-pHyb-OVAによる3回の免疫処置後は、他の2つのプロモーターと比較して、B8R特異的CD8 T細胞に対するOVA特異的CD8 T細胞の比が有意に異なっていた(図3D)。これに対し、1回目の免疫処置後は、3つのコンストラクトの全てで、この比は極めて類似していた。pHybの強化効果は、2回の免疫処置後に明白になりつつあったが、この時点では統計的に有意でなかった(図3D)。総合すると、このCD8OVA:CD8B8R比は、pHybプロモーターが、その利点を、ブースター免疫処置において発揮すること、そして特に2回目のブースト後に発揮することを示している。注目すべきことに、pSプロモーターは実際、pHybプロモーターより効率が低かったが、p7.5プロモーターよりは有利であったことも、CD8OVA:CD8B8R比が示唆している(図3D)。
【0136】
OVA特異的CD8 T細胞応答を3回目の免疫処置後のさまざまな時点で分析したところ、OVA特異的CD8 T細胞はブースト後の特定の時点において免疫優性であることがICCSによる決定でわかった(図4)。免疫優性の逆転は、実験に依存して、3回目の免疫処置の4日後又は6日後に観察された(図4及び未掲載データ)。いくつかの実験では、OVA特異的CD8 T細胞対B8R特異的CD8 T細胞の比を>1にするのに、MVA-pHyb-OVAによる4回の免疫処置が必要だった(未掲載データ)。これに対して、MVA-pS-OVAによる3回又は4回の免疫処置後は、B8R特異的CD8 T細胞が常に免疫優性のままだった(図4及び未掲載データ)。これらの結果は、詳述されたMHCクラスIテトラマー染色技法の変法であるMHCクラスIデキストラマー(商標)染色法を使用することによって確認された。このアプローチを使ったところ、MVA-pHyb-OVAによる3回目の免疫処置後はどの時点においても、B8R特異的CD8 T細胞よりも高いOVA特異的CD8 T細胞が観察されたが、p7.5又はpSプロモーターではそのようなことが決して起こらなかった(図4)。このように、pHybプロモーターだけが、pHyb駆動抗原が有利になるようにCD8 T細胞免疫優性を逆転させることができた。
【0137】
実施例10:CD8 T細胞メモリー
初期メモリー相において、MVA-pHybによる3回目の免疫処置の28日後に、OVA特異的CD8 T細胞はまだ、B8R特異的CD8 T細胞に数で勝っており、MVA-pS-OVAで3回免疫処置されたマウスと比較して有意に高かった(図5A、p=0.0035)。3回目の免疫処置の13週間後のマウスの血液における長期CD8 T細胞メモリーの分析により、OVA特異的CD8 T細胞は、MVA-pS-OVA(図5B、スチューデントのt検定を使ってp<0.001)及びMVA-p7.5-OVA(p=0.03)と比較してMVA-pHyb-OVAの方が、依然として有意に高いことが実証された。この結果は、B8R特異的及びOVA特異的CD8 T細胞を検出するMHCクラスIペンタマーによる染色で確認された(未掲載データ)。プロモーターのタイプとは無関係に、3回目の免疫処置の12週間後の時点において、MHCクラスIペンタマー染色によって検出された全OVA特異的CD8 T細胞の約70〜80%がエフェクターメモリー表現型(CD62L-/CD127+)だった(未掲載データ)。結論として、pHybは、抗原に対して強く且つ長期間持続するCD8 T細胞応答を誘導することができ、3つのMVAコンストラクトによる3回目の免疫処置後の初期相において見いだされるOVA特異的細胞とB8R特異的細胞の比率は、メモリー相においても本質的に保存されていた。
【0138】
実施例11:4回の免疫処置の効果
MVA-pS-OVA又はMVA-p7.5-OVA免疫処置マウスの血液におけるOVA特異的CD8 T細胞の比率が巻き返してMVA-pHyb-OVA免疫処置動物のそれのように類似するレベルにまで達するかどうかを決定するために、3回目の免疫処置の14週間後に、マウスを同じMVAコンストラクトで再び追加免疫した。しかし、ここでもMVA-pHyb-OVAが最も効率がよく、最も多数のOVA特異的CD8 T細胞を血中に誘導した(図5C)。pHybとは対照的に、pS及びp7.5は、4回の免疫処置後でも、OVA特異的CD8 T細胞に有利になるように免疫優性パターンをシフトさせることはできなかった。同じマウスから得た脾細胞の分析は、血中のこれら2つのCD8 T細胞特異性の比と比較して、極めて類似するOVA特異的CD8 T細胞対B8R特異的CD8 T細胞の比を示したことから(図5C、D)、末梢血の分析によって得られるOVA特異的及びB8R特異的CD8 T細胞の相対数は、全CD8 T細胞コンパートメントを代表していることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの抗原及び/又は抗原エピトープをコードする複製欠損性組換えウイルスであって、該抗原及び/又は抗原エピトープの発現が、該抗原及び/又は抗原エピトープの初期発現を駆動する少なくとも2つの要素を含む転写制御要素によって調節される、複製欠損性組換えウイルス。
【請求項2】
アデノウイルス、ヘルペスウイルス及びポックスウイルスからなる群より選択される、請求項1に記載の複製欠損性組換えウイルス。
【請求項3】
ポックスウイルスがワクシニアウイルスであり、好ましくはNYVAC、DIs及び改変ワクシニアウイルスAnkara(modified vaccinia virus Ankara:MVA)からなる群より選択されるワクシニアウイルスである、請求項2に記載の複製欠損性組換えウイルス。
【請求項4】
MVAが、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)においてはインビトロで増殖的複製能を持つが、ヒトケラチノサイト細胞株HaCaT、ヒト胎児腎臓細胞株293、ヒト骨骨肉腫細胞株143B及びヒト子宮頚部腺癌細胞株HeLaにおいては増殖的複製能を持たない、請求項3に記載の複製欠損性組換えウイルス。
【請求項5】
MVAがECACCに番号V00083008として寄託されているMVA−BNである、請求項4に記載の複製欠損性組換えウイルス。
【請求項6】
初期発現を駆動する少なくとも2つの要素が配列最適化されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルス。
【請求項7】
初期発現を駆動する少なくとも2つの要素が少なくとも2コピーの、好ましくは少なくとも5コピーの初期プロモーター要素である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルス。
【請求項8】
転写制御要素が初期/後期プロモーター、好ましくは初期要素が由来するものとは異なるプロモーターに由来する後期要素を含む初期/後期ハイブリッドプロモーターであるか、あるいは初期/後期プロモーター、好ましくは初期要素が由来するものとは異なるプロモーターに由来する後期要素を含む初期/後期ハイブリッドプロモーターを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルス。
【請求項9】
ウイルスがポックスウイルスであり、そして後期要素が牛痘ATI後期プロモーター要素であるか、または牛痘ATI後期プロモーター要素を含む、請求項8に記載の複製欠損性組換えウイルス。
【請求項10】
ウイルスがポックスウイルスであり、そして初期プロモーター要素がp7.5初期プロモーター要素であるか、またはp7.5初期プロモーター要素を含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルス。
【請求項11】
初期/後期プロモーターが配列番号1のヌクレオチド配列を含む、請求項9又は10に記載の複製欠損性組換えウイルス。
【請求項12】
医薬又はワクチンとして使用するための請求項1〜11のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルス。
【請求項13】
医薬又はワクチンを調製するための請求項1〜11のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルスの使用。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルスと、場合によっては、薬学的に許容可能な担体、希釈剤、アジュバント及び/又は添加剤とを含む、医薬組成物又はワクチン。
【請求項15】
前記少なくとも1つの抗原及び/又は抗原エピトープに対して宿主におけるT細胞応答を誘導するための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルス又は請求項14に記載の医薬組成物若しくはワクチン。
【請求項16】
前記少なくとも1つの抗原及び/又は抗原エピトープに対して宿主におけるT細胞応答を誘導するための医薬を調製するための、請求項1〜11のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルス又は請求項14に記載の医薬組成物若しくはワクチンの使用。
【請求項17】
T細胞応答がCD8 T細胞応答である、請求項15に記載の複製欠損性組換えウイルス、医薬組成物若しくはワクチン、又は請求項16に記載の使用。
【請求項18】
T細胞応答が相同プライム/ブースト投与を含む免疫処置レジメンによって誘導される、請求項15〜17のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルス、医薬組成物若しくはワクチン又は使用。
【請求項19】
T細胞応答が少なくとも3回又は少なくとも4回の投与を含む免疫処置レジメンによって誘導される、請求項15〜18のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルス、医薬組成物若しくはワクチン又は使用。
【請求項20】
ヒトを含む宿主において、T細胞応答、好ましくはCD8 T細胞応答を誘導する方法であって、該宿主に請求項1〜11のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルスを少なくとも3回又は少なくとも4回投与することを含む方法。
【請求項21】
第1バイアル/容器に入った第1接種(「プライミング接種」)用の、並びに第2及び/又はさらなるバイアル/容器に入った少なくとも第2及び/又は第3及び/又はさらなる接種(「ブースティング接種」)用の、請求項1〜12、15及び17〜19のいずれか一項に記載の複製欠損性組換えウイルスを含む、少なくとも2つのプライム/ブースト免疫処置用バイアルを含むキット。
【請求項22】
配列番号1のnt48〜81に記載のヌクレオチド配列要素を少なくとも2つ含み、且つ/又は配列番号1のnt48〜81に対して少なくとも80%の同一性を有するヌクレオチド配列要素を少なくとも2つ含む、プロモーター。
【請求項23】
少なくとも1つの後期プロモーター要素、好ましくは牛痘ATI後期プロモーター要素をさらに含む、請求項22に記載のプロモーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−520061(P2012−520061A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553357(P2011−553357)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001545
【国際公開番号】WO2010/102822
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(509296443)バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ (9)
【Fターム(参考)】