説明

複酸化物の製造方法

【課題】高純度の複酸化物を効率良く製造することができ、複酸化物の製造コストの大幅な低減を図ることができる複酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】一般式ABO3 (A=アルカリ金属以外の金属、B=塩化物を形成する金属であってAと異なるもの)または一般式AB2 4 (A=アルカリ金属以外の金属、B=塩化物を形成する金属であってAと異なるもの)で表される複酸化物を、Bの塩化物を含む非水溶媒中にAを滴下または投入し、加熱還流を行うことによりAを腐食溶解させる工程と、Aを腐食溶解させた非水溶媒を加水分解する工程と、Aを腐食溶解させた非水溶媒を加水分解することにより得られる溶液のpHを調整することによりAおよびBを含む沈殿物を生成させる工程と、沈殿物を乾燥させた後、焼成を行う工程とを順次実行することにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は複酸化物の製造方法に関し、特に、一般式ABO3 で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する複酸化物、一般式AB2 4 で表されるスピネル型結晶構造を有する複酸化物またはムライトの製造に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
一般式ABO3 で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する複酸化物、一般式AB2 4 で表されるスピネル型結晶構造を有する複酸化物または同じく複酸化物であるムライトの合成方法は気相法、液相法および固相法に大別できるが、低温で焼成可能な液相法の研究が盛んに行われている。
【0003】
液相法としては沈澱法、ゾル−ゲル法、水熱法および溶融法などがある(例えば、非特許文献1、2参照)。このうち沈澱法は、液相中で解離した金属陽イオンを水酸化物、炭酸塩、しゅう酸塩などの沈殿物として分離した後、加熱することにより酸化物を得る方法である。ゾル−ゲル法は、沈澱法の前駆体として金属アルコラートを用いるものであり、ゾル状態を経由してゲル状態から酸化物を得る方法である。水熱法は、高温高圧状態下のオートクレーブ中で酸化物を得る方法であり、高温高圧での溶解度の変化を利用するものである。溶融法は、物質を加熱溶融させ、溶融物を冷却固化して目的の組成物を合成する方法であり、主に酸化物結晶体を作製する場合に用いられている。
【0004】
上述の沈澱法およびゾル−ゲル法は、2種類以上の金属塩や金属アルコラートを水溶液やアルコール溶媒中で混合する方法であり極めて簡単であるが、十分な混合状態を得るために長時間の撹拌を行ったり高価な試薬を用いたりしなければならない(例えば、非特許文献3、4参照)。また、水熱法および溶融法は、ほぼ全ての組み合せが可能であるが、高価な製造機器や安全対策の設備が必要である。しかも、水熱法および溶融法で得られる合成物は通常塊状であり、粉末にするにはあらためて粉砕し、微細化する必要があり、均一混合する手間がかかる(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0005】
AB2 4 で表されるスピネル型結晶構造を有する複酸化物およびムライトを従来の液相法により製造する方法としては、いくつかの方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0006】
特許文献1には、水溶性Mg化合物と水溶性Al化合物(塩化Alなど)の水溶液をアルコール(エタノールなど)の存在下で、アルカリ(アンモニウムなど)でpH調整し、得られた共沈物を焼成する微粉状マグネシウム・アルミニウムスピネル用原料粉体の合成方法が記載されている。
【0007】
特許文献2には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、鉱化剤(塩化アルミニウム、フッ化アルミニウムなど)および添加剤(エタノール、エチレングリコールなど)を混合し、焼成して粉砕するマグネシアスピネル粉末の製造方法が記載されている。
【0008】
特許文献3には、酸性アルミニウム化合物(塩化アルミニウムなど)とケイ酸ナトリウムとを原料とし、水溶液に混合して中和することにより沈澱物を生成させ、この沈澱物を清浄後、焼成し、エタノール中でボールミル破砕する合成ムライト粉の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−232915号公報
【特許文献2】特開2001−2413号公報
【特許文献3】特開昭63−103816号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本化学会編:第5版実験科学講座23、丸善(2005)
【非特許文献2】日本化学会編:第4版実験科学講座16、丸善(1993)
【非特許文献3】作花済夫:ゾル−ゲル法の科学, アグネ承風社(2006)
【非特許文献4】J.D.Mackenzie:Ultrastructure processing of Ceramics, Glassesand composites,John Wily & Sons(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1、2に記載された方法では、高純度のスピネルを低コストで効率良く製造することは困難である。また、特許文献3に記載された方法では、高純度のムライトを低コストで効率よく製造することは困難である。
【0012】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、高純度の複酸化物を効率良く製造することができ、複酸化物の製造コストの大幅な低減を図ることができる複酸化物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、この発明は、
一般式ABO3 (A=アルカリ金属以外の金属、B=塩化物を形成する金属であってAと異なるもの)または一般式AB2 4 (A=アルカリ金属以外の金属、B=塩化物を形成する金属であってAと異なるもの)で表される複酸化物の製造方法において、
Bの塩化物を含む非水溶媒中にAを投入し、加熱還流を行うことによりAを腐食溶解させる工程と、
上記Aを腐食溶解させた上記非水溶媒を加水分解する工程と、
上記Aを腐食溶解させた上記非水溶媒を加水分解することにより得られる溶液のpHを調整することによりAおよびBを含む沈殿物を生成させる工程と、
上記沈殿物を乾燥させた後、焼成を行う工程とを有する複酸化物の製造方法である。
【0014】
ABO3 またはAB2 4 のAは、アルカリ金属以外の金属であれば、基本的にはどのような金属であってもよいが、具体的には、例えば、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)などのアルカリ土類金属、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)などである。また、ABO3 またはAB2 4 のBは、塩化物を形成する金属であってAと異なるものであれば、基本的にはどのような金属であってもよいが、具体的には、例えば、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、ルテニウム(Ru)、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)などである。ABO3 の具体例を挙げると、MgTiO3 、CaTiO3 、SrTiO3 、YAlO3 、LaAlO3 、NdAlO3 、LaGaO3 、NdGaO3 、PrGaO3 、SrRuO3 、CaRuO3 、LaNiO3 などである。また、AB2 4 の具体例を挙げると、MgAl2 4 、MgFe2 4 、FeAl2 4 、ZnAl2 4 、MnAl2 4 、FeCr2 4 、MgCr2 4 などである。好適には、ABO3 またはAB2 4 のA、Bの標準電極電位はおよそ−1V vs SHE(標準水素電極)より卑な電極電位を示すものが用いられ、具体的には、例えば、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)などが用いられる。金属Aの形態は特に問わず、板、線、粒などのいずれの形態であってもよいが、好適には、比表面積の大きい粉末状とする。
【0015】
この発明において、Bの塩化物は、好適には、無水の金属塩化物である。非水溶媒は、Bの塩化物、すなわち金属塩を溶かすことができるプロトン性溶媒、脱水非水溶媒、極微量の水を含む非水溶媒または酸化剤を含む酸無水物溶媒である。非水溶媒としては、好適には、脱水アルコールが用いられる。アルコールは、一価アルコールであっても二価アルコールなどの多価アルコールであってもよく、第一級アルコール、第二級アルコール、第三級アルコールのいずれであってもよく、飽和アルコールであっても不飽和アルコールであってもよく、低級アルコールであっても高級アルコールであってもよく、これらのうちから適宜選択される。これらのアルコールの中でも、好適には、メチルアルコール(メタノール)、エチルアルコール(エタノール)、プロピルアルコール(プロパノール)、ブチルアルコール(ブタノール)、ペンチルアルコール(ペンタノール)、エチレングリコールなどが用いられる。
【0016】
腐食反応を速くする観点からは、好適には、加熱還流の際に非水溶媒を加熱する。この加熱温度は高い方が好ましく、非水溶媒の沸点近傍で加熱するのが最も好ましい。すなわち、最も好適には、加熱還流を、使用する圧力下で、非水溶媒の沸点近傍で行う。具体的には、非水溶媒の加熱温度は、例えば、沸点より1〜10K低い温度、典型的には沸点より2〜6K低い温度とする。
【0017】
好適には、溶液のpHをAの水酸化物が安定な範囲に調整する。非水溶媒としては、最も一般的には、アルコールが用いられる。酸無水物溶媒としては、好適にはカルボン酸無水物が用いられる。カルボン酸無水物の種類は特に問わないが、例えば無水酢酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水安息香酸などが挙げられる。
【0018】
酸無水物溶媒の場合、それ自身だけで腐食は進むが、酸化剤添加により金属を激しい腐食状態に保持することができる。
アルコラート反応を速くする観点からは、反応物質の拡散を促進するため、好適には、非水溶媒に超音波を当てたり、非水溶媒を攪拌したりする。
【0019】
また、この発明は、
Siの塩化物を含む非水溶媒中にAlを投入し、加熱還流を行うことによりAlを腐食溶解させる工程と、
上記Alを腐食溶解させた上記非水溶媒を加水分解する工程と、
上記Alを腐食溶解させた上記非水溶媒を加水分解することにより得られる溶液のpHを調整することによりSiおよびAlを含む沈殿物を生成させる工程と、
上記沈殿物を乾燥させた後、焼成を行う工程とを有する複酸化物の製造方法である。
【0020】
この複酸化物の製造方法により、ムライトを製造することができる。
この発明においては、その性質に反しない限り、上記のABO3 またはAB2 4 で表される複酸化物の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【0021】
また、この発明は、
一般式ABO3 (A=アルカリ金属以外の金属、B=塩化物を形成する金属であってAと異なるもの)または一般式AB2 4 (A=アルカリ金属以外の金属、B=塩化物を形成する金属であってAと異なるもの)で表される複酸化物の製造方法において、
Aの腐食生成物から形成される酸化物とBの塩の解離反応によって生成される解離生成物から形成される酸化物とにより製造するようにしたことを特徴とする複酸化物の製造方法である。
【0022】
この発明においては、典型的には、非水溶媒中で腐食生成物と解離生成物とを撹拌混合後、非水溶媒の沸点付近で加熱還流し、腐食生成物と解離生成物とを均一混合する。好適には、非水溶媒として脱水非水溶媒、極微量の水を含む非水溶液または酸化剤を含む酸無水物溶媒を用いる。Bの塩は、好適には、無水の金属塩化物である。好適には、複合生成物を加水分解する時、加水分解に用いる水溶液は腐食生成物の水酸化物が安定な領域にpH調整した水溶液である。
この発明においては、その性質に反しない限り、上記のABO3 またはAB2 4 で表される複酸化物の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、高純度の複酸化物を効率良く製造することができ、複酸化物の製造コストの大幅な低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1においてR(0.5g/10ml)を用いて得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図2】実施例1においてR(1.0g/10ml)を用いて得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図3】実施例1においてR(1.5g/10ml)を用いて得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図4】実施例1においてR(2.0g/10ml)を用いて得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図5】実施例1においてR(2.5g/10ml)を用いて得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図6】MgO粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図7】TiO2 粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図8】実施例1においてR(0.5g/10ml)を用いて得られた粉末のSEM像を示す図面代用写真である。
【図9】実施例1においてR(1.0g/10ml)を用いて得られた粉末のSEM像を示す図面代用写真である。
【図10】実施例1においてR(1.5g/10ml)を用いて得られた粉末のSEM像を示す図面代用写真である。
【図11】実施例1においてR(2.0g/10ml)を用いて得られた粉末のSEM像を示す図面代用写真である。
【図12】実施例1においてR(2.5g/10ml)を用いて得られた粉末のSEM像を示す図面代用写真である。
【図13】実施例1においてR(0.5g/10ml)を用いて得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図14】実施例1においてR(1.0g/10ml)を用いて得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図15】実施例1においてR(1.5g/10ml)を用いて得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図16】実施例1においてR(2.0g/10ml)を用いて得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図17】実施例1においてR(2.5g/10ml)を用いて得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図18】実施例1においてR(2.0g/10ml)を用いて粉末を作製する場合に種々の焼成温度で焼成を行った粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図19】MgO−TiO2 2次元平衡状態図を示す略線図である。
【図20】実施例2により得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図21】実施例2により得られた粉末のSEM像を示す図面代用写真である。
【図22】実施例2により得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図23】実施例2において粉末を作製する場合に種々の焼成温度で焼成を行った粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図24】CaO−TiO2 2次元平衡状態図を示す略線図である。
【図25】実施例3により得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図26】実施例3により得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図27】実施例3により得られた粉末のSEM像を示す図面代用写真である。
【図28】実施例4により得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図29】実施例4により得られた粉末のSEM像を示す図面代用写真である。
【図30】実施例4により得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図31】実施例5においてM(3g/15ml)を用いて得られた粉末の乾燥後の外観を撮影した光学顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図32】実施例5においてM(3g/5ml)を用いて得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図33】実施例5においてM(3g/10ml)を用いて得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図34】実施例5においてM(3g/15ml)を用いて得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図35】実施例5においてM(3g/20ml)を用いて得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図36】実施例5においてM(3g/15ml)を用いて得られた粉末の焼成前のX線解析の結果を示す略線図である。
【図37】実施例5においてM(3g/20ml)を用いて得られた粉末の焼成前のX線解析の結果を示す略線図である。
【図38】SiO2 のX線解析の結果を示す略線図である。
【図39】α−アルミナのX線解析の結果を示す略線図である。
【図40】実施例5においてM(3g/5ml)、M(3g/10ml)、M(3g/15ml)およびM(3g/20ml)を用いて得られた粉末のSEM像を示す図面代用写真である。
【図41】実施例5においてM(3g/5ml)を用いて得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図42】実施例5においてM(3g/10ml)を用いて得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図43】実施例5においてM(3g/15ml)を用いて得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図44】実施例5においてM(3g/20ml)を用いて得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図45】SiO2 −Al2 3 2次元平衡状態図を示す略線図である。
【図46】実施例6により得られた粉末のX線解析の結果を示す略線図である。
【図47】実施例6により得られた粉末の粒度分布を示す略線図である。
【図48】実施例6により得られた粉末のSEM像を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」という。)について図面を参照しながら説明する。
【0026】
〈1.第1の実施の形態〉
第1の実施の形態による複酸化物の製造方法は、一般式ABO3 (A=アルカリ金属以外の金属、B=塩化物を形成する金属であってAと異なるもの)で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する複酸化物の製造方法である。
【0027】
この複酸化物は以下の(a)〜(d)の工程により製造される。
(a)Bの塩化物を含む非水溶媒中にAを投入し、加熱還流を行うことによりAを腐食溶解させる工程
(b)Aを腐食溶解させた非水溶媒を加水分解する工程
(c)Aを腐食溶解させた非水溶媒を加水分解することにより得られる溶液のpHを調整することによりAおよびBを含む沈殿物を生成させる工程
(d)沈殿物を乾燥させた後、焼成を行う工程
ここで、A、B、非水溶媒、加熱還流の温度などは既に述べた通りである。
【0028】
この第1の実施の形態によれば、複酸化物の製造に際して、原料(金属Aおよび金属Bの塩化物)以外からの不純物の混入はないので、高純度の、一般式ABO3 で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する複酸化物を製造することができる。この複酸化物の製造方法は簡単であり、しかも効率良く製造することができるので、複酸化物の製造コストの大幅な低減を図ることができる。
【0029】
以下に実施例を示すが、この実施例によってこの発明が限定されることはない。
〈実施例1〉
以下の手順でMgTiO3 を作製した。
1.供試材
試薬や金属はすべて市販のものを用いた。すなわち、金属Mg粉末(98.0%Mg、関東化学株式会社)、四塩化チタン(TiCl4 )(関東化学株式会社)、脱水メチルアルコール(CH3 OH)(99.8%、和光純薬工業株式会社、以下MeOHと略記する)、アンモニア水(28.0% 特級NH3 、関東化学株式会社、以下NH3 と略記する)およびイオン交換水を用いた。
【0030】
2.MgTiO3 の作製方法
MeOH(200ml)溶媒中にTiCl4 (10ml)を滴下し、MeOHとTiCl4 との混合溶液(以下MeOH(TiCl4 )と略記する)を作製した。このMeOH(TiCl4 )溶液中に5種類の重さ(0.5、1.0、1.5、2.0、2.5g)のMgを投入した。その後、約333K(MeOHの沸点付近)で加熱還流を約3.6ks(1時間)行った。この時点でMgが完全に溶解していることを確認しておいた。このようにして5種類の組み合わせ、すなわちMg/TiCl4 比(0.5g/10ml、1.0g/10ml、1.5g/10ml、2.0g/10ml、2.5g/10ml)を作製した。以下、これらの組み合わせを、それぞれR(0.5g/10ml)、R(1.0g/10ml)、R(1.5g/10ml)、R(2.0g/10ml)、R(2.5g/10ml)と略記する。これらの5種類の溶液にイオン交換水(約300ml)を注入し、加水分解後、液量を500mlとした。その後アンモニア水を小量ずつ滴下した。この溶液のpHが10付近になった瞬間、液全体が一瞬にしてゲル化した。得られたゲルを固体粉末化するために172.8ks(48時間)風乾した。得られた粉末を乾燥機中に86.4ks(24時間)保持し完全に乾燥させた。その後、得られた固体を乳鉢で粉砕し各焼成温度で36ks(10時間)焼成した。
【0031】
3.測定方法
上記の方法で得られた粉末のXRD解析、粒度分布測定、粒子観察を行った。XRD解析には卓上粉末X線回折装置(リガク製,MiniflexII)、粒度分布測定にはマイクロトラック粒度分布測定装置(日機装製、MT3000)、粒子観察にはSEM装置(日本電子、JSM−6060)を用いた。
【0032】
4.実験結果
4.1 XRD解析
2.で得られた5種類の焼成物、すなわちR(0.5g/10ml)、R(1.0g/10ml)、R(1.5g/10ml)、R(2.0g/10ml)、R(2.5g/10ml)を1523Kで36ks(10時間)焼成し、得られた各粉末のX線プロファイルを調べた。それらの結果を図1〜図5に示す。
【0033】
図1および図2より、R(0.5g/10ml)およびR(1.0g/10ml)にはTiO2 およびMgTi2 5 が現れた。仔細には図1のTiO2 の結晶構造はrutile,synであり、格子定数はa=b=0.45933nm、c=0.29592nm、α=β=γ=90°を示した。MgTi2 5 はmagnesium dititanateであり、格子定数はa=0.97461nm、b=0.99875nm、c=0.37464nm、α=β=γ=90°を示した。図2中のTiO2 は図1中のTiO2 と同一であったが、MgTi2 5 はmagnesium titanium oxideであり、格子定数はa=0.97274nm、b=1.00040nm、c=0.37428nm、α=β=γ=90°を示した。
【0034】
図3および図4はそれぞれR(1.5g/10ml)およびR(2.0g/10ml)の場合であり、TiO2 のピークは消失し、MgTi2 5 およびMgTiO3 のピークが現れた。このMgTi2 5 は上記のmagnesium dititanateと同じであった。MgTiO3 はmagnesium titanium oxideであり、a=b=0.50548nm、c=1.38992nm、α=β=90°、γ=120°を示した。
【0035】
図5、すなわちR(2.5g/10ml)ではMgTiO3 およびMg2 TiO4 が出現した。このMgTiO3 はmagnesium titanium oxideであり、図3および図4のmagnesium titanium oxideと同じであった。Mg2 TiO4 はdimagnesium titanate,grandilite high,synであり、格子定数はa=b=c=0.84469nm、α=β=γ=90°を示した。
【0036】
R(0.5g/10ml)からR(2.5g/10ml)になるにつれて、Mg/TiCl4 比が高くなるが、その影響は複酸化物の組成に現れた。すなわち、Mg/TiCl4 比の低いR(0.5g/10ml)にはTiO2 が出現し、Mg/TiCl4 比の高いR(2.5g/10ml)ではMg含有率の高いMg2 TiO4 が出現した。本実験結果からは、MgO〜TiO2 系複酸化物の成分調整にはMg添加量を調整すればよいことがわかった。本方法では、MgTiO3 を得るにはR(2.0g/10ml)の組み合わせがベストであることがわかった。
【0037】
なお、本方法で得られるMgTiO3 はMgOとTiO2 との単なる混合物ではなく、化合物としてのMgTiO3 であることを確認しておいた。すなわち、ブランクとしてMgOおよびTiO2 単味のX線プロファイルを測定した。それらの結果をそれぞれ図6および図7にそれぞれ示す。図4中でMgTiO3 のピークを示す2θの位置は、図7のTiO2 や図6のMgOとは全く違っていることを確認した。すなわち、本方法で得られたMgTiO3 はMgOとTiO2 とがただ単に物理的に混合された混合物ではないことを確認した。
【0038】
4.2 表面SEM観察
4.1で得られた粉末のSEM観察を行った。結果を図8〜図12に示す。
図8〜図12からわかるように、全体的に粒子は単純な球形ではなく、複雑な形状を示した。MgTiO3 が一番多く得られたR(2.0g/10ml)の組み合わせに着目すると、比較的大きな粒子(およそ10数μm)は1μm位の粒子(1次粒子)が合体していることがわかった。
【0039】
4.3 粒度分布
4.1で用いた粉末の粒度分布を測定した。それらの結果を図13〜図17に示す。
分布の傾向としては、1次粒子と2次粒子を中心に裾野が広がる正規分布の形状を示した。MgTiO3 が一番多く得られたR(2.0g/10ml)の分布(図16)を見ると、1次粒子の平均粒径は約0.6μmであり、2次粒子は2μm程度を示した。
【0040】
4.4 MgTiO3 複酸化物と焼成温度との関係
4.1より、MgTiO3 を得るにはR(2.0g/10ml)の組み合わせが良いことがわかった。そこで、この組み合わせにおけるMgTiO3 の結晶化と焼成温度との関係を調べた。すなわち、焼成時間7.2ks(2時間)のもとで5種類の焼成温度(723、923、1123、1323、1523K)のX線プロファイルを測定した。それらの結果をまとめて図18に示す。MgTiO3 が得られる最低焼成温度は723K以上923K以下であることがわかる。923Kから1523KまでのX線プロファイルを比較すると、焼成温度が低くなるにつれてX線強度は低くなっているが、MgTiO3 結晶の存在を示す2θは1523K(図4)と全く同じであった。例えば、焼成温度の最も低い923Kで焼成したMgTiO3 は1523Kで10時間焼成して得られるMgTiO3 と、強度のカウント数は減少しているが、同じ位置にピークが出現することがわかった。
【0041】
5.考察
5.1 複酸化物としてのMgTiO3
MgTiO3 はマグネシア(MgO)とチタニア(TiO2 )との複酸化物であり、無機化合物の結晶構造ではイルミナイト型に分類されている。MgO−TiO2 2次元平衡状態図を図19に示す。
【0042】
図19からは、MgO・TiO2 (MgTiO3 )単相は1953±20K以下で得られる。しかしながら、MgO・2TiO2 相との共晶反応を利用すれば、MgO・TiO2 は80K下がった1873±20Kで得られる。ただし、この場合、MgO・TiO2 相とMgO・2TiO2 相との2相混合組織となる。従って、MgO・TiO2 の合成温度を低くするには、MgO・TiO2 相とMgO・2TiO2 相との共晶組成範囲(50〜67mol%TiO2 )内で、しかも混合組成中のMgO・TiO2 相の比率を高めた組成比にする必要がある。すなわち、50mol%TiO2 をわずかに越した組成成分にしなければならないことがわかる。上記のR(2.0g/10ml)はおよそ51mol%TiO2 に相当し、混合組成でもMgO・TiO2 相の比率の高い組織であったことが予想される。この予想はXRDの実験結果(図1〜図5)において、R(2.0g/10ml)にはMgTiO3 とMgTi2 5 の2相が確認され、さらにその内でもMgTiO3 相の強度が強くカウントされたことからも首肯できる。
【0043】
5.2 メタノール中のMgの腐食反応と加水分解
MeOH(TiCl4 )溶液中へMgを投入するとMgは水素を発生しながら溶ける。この時の反応は下式で示される。
【0044】
【化1】

【0045】
この反応は酸化数が変化する反応、すなわち電気化学反応であり、式(1)はアノード半反応とカソード半反応との和として下式のように表すことができる。
【0046】
【化2】

【0047】
溶媒中に塩化物イオンが存在している場合、例えば下記のアノード反応も起こっている。
【0048】
【化3】

【0049】
この反応の生成物としてのMgCl2 は、
【0050】
【化4】

【0051】
の平衡関係が成立している。式(4)と式(5)とは同時に起こるので、式(4)と式(5)式とは連立し、結局式(2)と同じになる。すなわち、塩化物イオンは式(2)の反応に対し正の触媒の働きをしていたことになる。
【0052】
式(1)で得られたマグネシウムメトキシドMg(OMe)2 とTiCl4 〜MeOHの置換反応により生成されるテトラメトキシチタンTi(OMe)4 とは液中ですでに互いに混じり合っているものと思われる。注水し加水分解すると、各々の反応式は
【0053】
【化5】

【0054】
となる。この加水分解時に生成されるMg(OH)2 とTi(OH)4 (あるいはTiO2 ・2H2 O)は液相中でミクロのレベルで混合できるため相互に複雑に絡み合った構造をとっているものと思われる。この時Ti(OH)4 はほとんどのpH域で安定であるが、Mg(OH)2 にはpH依存性がある。すなわち、
【0055】
【化6】

【0056】
の規制が成立しているため、水酸化マグネシウムは低pH域ではイオンとなる。従って、加水分解時の環境をMg(OH)2 の安定域に保持するには、例えば[Mg2+]<1ppmにしたい場合はpH>11.5にしなければない。2.において加水分解時の溶液を約pH10に調整したのはこの理由による。pH調整を行うことによりMg(OH)2 不足に陥らず、目的組成のMgTiO3 が得られたものと考えられる。
【0057】
5.3 本方法によるMgTiO3 作製の特徴
本方法では、MgTiO3 作製の手段としてTiCl4 を含んだメタノール中で金属Mgを腐食溶解させる方法(腐食法)を採用した。一種の液相合成法と分類される。得られた腐食生成物としての複酸化物MgTiO3 は平均粒径2μm以下の微粒子を示しており、結果としてミクロのレベルで混合していたものと考えられる。
【0058】
〈実施例2〉
以下の手順でCaTiO3 を作製した。
1.供試材
試薬や金属はすべて市販のものを用いた.すなわち、金属Ca粉末(99.0%、関東化学株式会社)、四塩化チタン(TiCl4 )(関東化学株式会社)、脱水メチルアルコール(CH3 OH)(99.8%、和光純薬工業株式会社)、アンモニア水(28.0% 特級NH3 、関東化学株式会社、以下NH3 と略記する)を用いた。
【0059】
2.CaTiO3 の作製方法
MeOH(200ml)溶媒中にTiCl4 (10ml)を滴下し、MeOHとTiCl4 との混合溶液(以下MeOH(TiCl4 )と略記する)を作製した。このMeOH(TiCl4 )溶液中にCa3.6gを投入した。その後、約333K(MeOHの沸点付近)で加熱還流を約1時間行った。この時点でCaが完全に溶解していることを確認しておいた。この溶液をアンモニア水(約250ml)に投入すると、液全体が一瞬にしてゲル化した。得られたゲルを固体粉末化のため48時間風乾した。得られた粉末を乾燥機中に24時間保持し完全に乾燥させた。その後固体は乳鉢で粉砕し、1473Kで2時間焼成した。
【0060】
2.測定方法
本法で得られた粉末のXRD解析、粒度分布測定、粒子観察を行った。XRD解析には卓上粉末X線回折装置(リガク製、MiniflexII)、粒度解析にはマイクロトラック粒度分布測定装置(日機装製、MT3000)、粒子観察にはSEM装置(日本電子、JSM−6060)を用いた。
【0061】
3.実験結果
3.1 XRD解析
2.で得られた焼成物を1473Kで2時間焼成し, 得られた粉末のX線プロファイルを調べた。それらの結果を図20に示す。
図20より、CaTiO3 が出現したことがわかった。
【0062】
3.2 表面SEM観察
3.1で得られた粉末のSEM観察を行った。結果を図21に示す。
図21からわかるように、全体的に粒子は単純な球形ではなく直方体あるいは立方体の形状を示した。10数μmの比較的大きな粒子は1μm位の粒子(1次粒子)が合体してできていることがわかった。
【0063】
3.3 粒度分布
3.1で用いた粉末の粒度分布を測定した.それらの結果を図22に示す。
図22からわかるように、0.4μm付近と4μm付近との2つの正則分布が重なった粒度分布を示した。
【0064】
3.4 CaTiO3 複酸化物と焼成温度との関係
3.1よりCaTiO3 が作製できることがわかった。そこで、焼成温度とCaTiO3 の結晶化との関係を調べた。すなわち、新たに4種類の焼成温度(973K、1073K、1173K、1473K)のもとで焼成時間2時間とした場合のX線プロファイルを測定した。それらの結果をまとめて図23に示す。図23からわかるように、1073Kから1473KまでのX線プロファイルを比較すると、焼成温度が低くなるにつれてX線強度は低くなっている。しかしながら、CaTiO3 結晶の存在を示す2θは1473K(図20)と全く同じであることがわかる。例えば、焼成温度の最も低い1073Kで焼成したCaTiO3 は1473Kで2時間焼成して得られるCaTiO3 と同じ結晶を示すことがわかった。
【0065】
4.考察
4.1 複酸化物としてのCaTiO3
CaTiO3 は酸化カルシウム(CaO)とチタニア(TiO2 )との複酸化物であり、無機化合物の結晶構造ではイルミナイト型に分類されている。CaO−TiO2 2次元平衡状態図を図24に示す。
【0066】
図24からは、CaO・TiO2 (MgTiO3 )単相は2023±10K以下で得られる。しかしながら、TiO2 相との共晶反応を利用すれば、CaO・TiO2 は290K下がった1733±4Kで得られる。ただし、この場合、MgO・TiO2 (MgTiO3 )相とTiO2 相との2相混合組織となる。従って、MgO・TiO2 の合成温度を低くするには、MgO・TiO2 相とTiO2 相との共晶組成範囲(58〜100mol%TiO2 )内で、しかも混合組成中のCaO・TiO2 相の比率を高めた組成比にする必要がある。すなわち、約58mol%TiO2 の組成成分にしなければならないことがわかる。上記のCa3.6g/210mlの組成はおよそ58mol%TiO2 に相当し、混合組成でもCaO・TiO2 相の比率の高い組織であったことが予想される。この予想はXRDの実験結果(図20)において、主たるピークとしてCaTiO3 相由来のものが確認され、さらにCaTiO3 相の強度が強くカウントされたことからも首肯できる。
【0067】
4.2 メタノール中のCaの腐食反応と加水分解
MeOH(TiCl4 )溶液中へCaを投入するとCaは水素を発生しながら溶ける。この時の反応は下式となる。
【0068】
【化7】

【0069】
この反応は電気化学反応であり、上式はアノード半反応とカソード半反応との和として表すことができる。
【0070】
【化8】

【0071】
塩化物イオンの存在下では,例えば下記のアノード反応が起こっている。
【0072】
【化9】

【0073】
生成物としてのCaCl2 は再び溶解し、
【0074】
【化10】

【0075】
の平衡よりイオンになる。式(13)と式(14)とは同時に起こっているので、式(13)と式(14)とは同時に成立している。従って、式(13)と式(14)との和は結局、式(11)と同じになる。すなわち、塩化物イオンは式(11)の正の触媒の働きをしていたことになる。
【0076】
(10)式で得られたカルシウムメトキシドCa(OMe)2 とTiCl4 のMeOHにより生成されたテトラメトキシチタンTi(OMe)4 とは溶液中で互いに混じり合い、注水するとともに加水分解される。反応式は、例えば
【0077】
【化11】

【0078】
となる。生成されるCa(OH)2 およびTi(OH)4 (あるいはTiO2 ・2H2 O)は水溶液中でも分子などのミクロのレベルで混合し、Ca(OH)2 およびTi(OH)4 は相互に複雑に絡み合った構造をとっているものと思われる。
【0079】
〈2.第2の実施の形態〉
第2の実施の形態による複酸化物の製造方法は、一般式AB2 4 (A=アルカリ金属以外の金属、B=塩化物を形成する金属であってAと異なるもの)で表されるスピネル型結晶構造を有する複酸化物の製造方法である。
【0080】
この複酸化物は以下の(a)〜(d)の工程により製造される。
(a)Bの塩化物を含む非水溶媒中にAを投入し、加熱還流を行うことによりAを腐食溶解させる工程
(b)Aを腐食溶解させた非水溶媒を加水分解する工程
(c)Aを腐食溶解させた非水溶媒を加水分解することにより得られる溶液のpHを調整することによりAおよびBを含む沈殿物を生成させる工程
(d)沈殿物を乾燥させた後、焼成を行う工程
ここで、A、B、非水溶媒、加熱還流の温度などは既に述べた通りである。
【0081】
この第2の実施の形態によれば、複酸化物の製造に際して、原料(金属Aおよび金属Bの塩化物)以外からの不純物の混入はないので、高純度の、一般式AB2 4 で表されるスピネル型結晶構造を有する複酸化物を製造することができる。この複酸化物の製造方法は簡単であり、しかも効率良く製造することができるので、複酸化物の製造コストの大幅な低減を図ることができる。
【0082】
〈実施例3〉
以下の手順でスピネル(MgAl2 4 )を作製した。
1.供試材
試薬や金属はすべて市販のものを用いた。すなわち、金属Mg粉末(98.0%Mg、関東化学株式会社)、無水塩化アルミニウム(AlCl3 )(98.0%、和光純薬工業株式会社)、脱水エチルアルコール(C2 5 OH)(99.5%、和光純薬工業株式会社、以下EtOHと略記する)、アンモニア水(28.0% 特級NH3 、関東化学株式会社、以下NH3 と略記する)およびイオン交換水を用いた。
【0083】
2.MgAl2 4 の作製方法
EtOH(200ml)溶媒中にAlCl3 (11g)を投入し、EtOHとAlCl3 との混合溶液(以下EtOH(AlCl3 )と略記する)を作製した。このEtOH(AlCl3 )溶液中に1gのMgを投入した。その後、マントルヒーターを用いて約348K(EtOHの沸点付近)で加熱還流を約3.6ks(1時間)行った。この時点でMgが完全に溶解していることを確認しておいた。この溶液にイオン交換水(約300ml)を注入し、加水分解後、液量を500mlとした。その後アンモニア水を小量ずつ滴下した。この溶液のpHが10付近になった瞬間、液全体が一瞬にしてゲル化した。得られたゲルを固体粉末化するために100℃で172.8ks(48時間)加熱した。得られた粉末を乾燥機中に86.4ks(24時間)保持し完全に乾燥させた。その後、得られた固体を乳鉢で粉砕し各焼成温度で36ks(10時間)焼成した。
【0084】
3.測定方法
上記の方法で得られた粉末のXRD解析、粒度分布測定、粒子観察を行った。XRD解析は卓上X線回折装置(リガク製、MiniflexII)、粒子解析にはマイクロトラック粒度分布測定装置(日機装製、MT3000)、粒子観察にはSEM装置(日本電子、JSM−6060)を用いた。
【0085】
4.実験結果
4.1 XRD解析
上記で得られた焼成物を1473Kで3.6ks(1時間)焼成し、得られた各粉末のX線プロファイルを調べた。それらの結果を図25に示す。図25(a)は加水分解時にpH調整を行った場合であり、図25(b)は加水分解時にpH調整を行わなかった場合である。
【0086】
図25(a)におけるX線プロファイルには、MgAl2 4 の出現を表す主なピークが2θ=19°、31°、37°、45°、59°、65°に検出された。一方、図25(b)では、MgAl2 4 以外にアルミナ(α−Al2 3 )およびマグネシア(MgO)に対応するピークが現れた。このことから、加水分解時にpH調整を行わなければ高純度なMgAl2 4 は得られないことがわかった。
【0087】
4.3 粒度分布
XRDにおいてMgAl2 4 のみが検出された粉末の粒度分布を測定した。それらの結果を図26に示す。
図26に示すように、粒径範囲は0.3〜10μmを示した。分布の形は、0.7μmと2μmとを中心とした2つの正規分布が重なって形成されていることがわかった。
【0088】
4.2 表面SEM観察
4.1で得られた粉末のSEM観察を行った。結果を図27に示す。
図27からわかるように、1〜2μmの粒子(2次粒子)とサブミクロンの粒子(1次粒子)が観察でき、それらが集合して数μmの粒子を成していた。
【0089】
〈実施例4〉
以下の手順で磁苦土鉄鉱(MgFe2 4 )を作製した。
1.供試材
試薬や金属はすべて市販のものを用いた。すなわち、Mg粉末(98.0%Mg、関東化学株式会社)、無水塩化鉄(FeCl3 )(98.0%、和光純薬工業株式会社)、脱水メチルアルコール(CH3 OH)(99.5%、和光純薬工業株式会社、以下MeOHと略記する)、アンモニア水(28.0% 特級NH3 、関東化学株式会社、以下NH3 と略記する)およびイオン交換水を用いた。
【0090】
2.MgFe2 4 の作製方法
MeOH(200ml)溶媒中にFeCl3 (13.5g)を投入し、MeOHとFeCl3 との混合溶液(以下MeOH(FeCl3 )と略記する)を作製した。このMeOH(FeCl3 )溶液中に1gのMgを投入した。その後、マントルヒーターを用いて約333Kで加熱還流を約3.6ks(1時間)行った。この時点でMgが完全に溶解していることを確認しておいた。この溶液にイオン交換水(約200ml)を注入し、その後アンモニア水を小量ずつ滴下した。この溶液のpHが14付近になった瞬間、暗褐色の物質が析出した。得られたゲルを固体粉末化するために100℃で172.8ks(48時間)加熱した。得られた粉末を乾燥機中に86.4ks(24時間)保持し完全に乾燥させた。その後、得られた固体を乳鉢で粉砕し各焼成温度で36ks(10時間)焼成した。
【0091】
3.測定方法
上記の方法で得られた粉末のXRD解析、粒度分布測定、粒子観察を行った。XRD解析は卓上X線回折装置(リガク製、MiniflexII)、粒子解析にはマイクロトラック粒度分布測定装置(日機装製、MT3000)、粒子観察にはSEM装置(日本電子、JSM−6060)を用いた。
【0092】
4.実験結果
4.1 XRD解析
上記で得られた焼成物を1473Kで7.2ks(2時間)焼成し、得られた各粉末のX線プロファイルを調べた。それらの結果を図28に示す。
図28におけるX線プロファイルには、MgFe2 4 の出現を表す主なピークが2θ=30°、35°、43°、53°、56°、63°、90°に検出された。
【0093】
4.2 表面SEM観察
4.1で得られた粉末のSEM観察を行った。結果を図29に示す。
10〜30μmの粒子(2次粒子)と1〜2μmの粒子(1次粒子)が観察できる。
【0094】
4.3 粒度分布
XRDにおいてMgFe2 4 のみが検出された粉末の粒度分布を測定した。それらの結果を図30に示す。
粒径範囲は2〜200μmを示した。分布の形は、7μmと70μmを中心とした2つの正規分布が重なって形成されていることがわかった。
【0095】
〈3.第3の実施の形態〉
第3の実施の形態による複酸化物の製造方法は、ムライトの製造方法である。
【0096】
このムライトは以下の(a)〜(d)の工程により製造される。
(a)Siの塩化物を含む非水溶媒中にAlを投入し、加熱還流を行うことによりAlを腐食溶解させる工程
(b)Alを腐食溶解させた非水溶媒を加水分解する工程
(c)Alを腐食溶解させた非水溶媒を加水分解することにより得られる溶液のpHを調整することによりSiおよびAlを含む沈殿物を生成させる工程
(d)沈殿物を乾燥させた後、焼成を行う工程
ここで、非水溶媒、加熱還流の温度などは既に述べた通りである。
【0097】
この第3の実施の形態によれば、複酸化物の製造に際して、原料(金属Aおよび金属Bの塩化物)以外からの不純物の混入はないので、高純度のムライトを製造することができる。この複酸化物の製造方法は簡単であり、しかも効率良く製造することができるので、ムライトの製造コストの大幅な低減を図ることができる。
【0098】
〈実施例5〉
以下の手順でムライトを作製した。
1.供試材
試薬や金属はすべて市販のものを用いた。すなわち、Al箔(99.9%Al、昭和アルミニウム株式会社)、四塩化ケイ素(SiCl4 )(関東化学株式会社)、脱水メチルアルコール(CH3 OH)(99.8%、和光純薬工業株式会社、以下MeOHと略記する)、アンモニア水(28.0% 特級NH3 、関東化学株式会社、以下NH3 と略記する)およびイオン交換水を用いた。
不純物の除去のために透析法を採用した。透析には透析用セルローズチューブ(商品名:ヴィスキングチューブ、日本メディカルサイエンス社)を用いた。
【0099】
2.ムライトの作製方法
MeOH(200ml)溶媒中にSiCl4 (5ml、10ml、15ml、20ml)を滴下し、4種類の混合溶液(以下MeOH(SiCl4 )と略記する)を作製した。各MeOH(SiCl4 )溶液中にAl(3g)を投入した。その後、約333K(MeOHの沸点付近)で加熱還流を約3.6ks(1時間)行った。この時、水素を発生しながらAlが溶解していることを確認しておいた。このようにして4種類の組み合わせの溶液、すなわちAl/SiCl4 比(3g/5ml、3g/10ml、3g/15ml、3g/20ml)の溶液を作製した。以下、これらの組み合わせを、それぞれM(3g/5ml)、M(3g/10ml)、M(3g/15ml)、M(3g/20ml)と略記する。Alが溶解し終わった4種類の溶液にイオン交換水(約300ml)を注入し、全量を約500mlとした。この時の溶液のpHはM(3g/5ml)では約4を示し、M(3g/10ml)は約3となり、M(3g/15ml)とM(3g/20ml)はおよそ1を示した。NH3 を少量ずつ滴下し、各水溶液のpHを約7に調整した。pH7になった瞬間、透明な水溶液(ゾル)は一瞬にしてゲル化した。この反応は液全体でしかも瞬時に起こった。得られたゲル中には塩化物イオンとNH3 とを含むため、それらを除去するために緩慢な流動水中で透析を86.4ks(24時間)行った。その後、ポットミル(商品名:卓上型ポットミル架台、アズワン株式会社)を用いて粉砕・混合(回転数280rpmで3.6ks間)を行った。その後、乾燥機中に373Kで86.4ks(24時間)保持し、固体粉末とした。得られた粉末を乳鉢で粉砕した後、1473Kで32.4ks(9時間)電気炉で焼成した。
【0100】
3.測定方法
上記の方法で得られた粉末のXRD解析、粒度分布測定、粒子観察を行った。XRD解析は卓上粉末X線回折装置(リガク製、MiniflexII)、粒子解析にはマイクロトラック粒度分布測定装置(日機装製、MT3000)、粒子観察にはSEM装置(日本電子、JSM−6060)を用いた。
【0101】
4.実験結果
4.1 XRD解析
2.で得られた4種類の粉末のうち乾燥後の表面の色彩に差異が認められる組み合わせがあった。それは、M(3g/15ml)およびM(3g/20ml)であった。M(3g/15ml)を例に取り、その概観を図31に示す。図31からわかるように、白色粉末の中に単黄色の塊が混在しており、塊を粉砕すると白色粉末が容易に得られた。すべての粉体、すなわちM(3g/5ml)、M(3g/10ml)、M(3g/15ml)、M(3g/20ml)の粉末を1473Kで32.4ks(9時間)焼成し、XRD解析を行った。それらの結果を図32〜図35に示す。
【0102】
図32はM(3g/5ml)の組み合わせであり、図33はM(3g/10ml)の場合である。図32と図33とは完全に一致しており、ムライト結晶が生成したことがわかる。図34はSi成分の比率をやや上げたM(3g/15ml)の場合である。バックグラウンドの強度が図32および図33と比べてやや強くなっており、その中からムライトの存在を示すピークが観察された。図35はSi成分の比率をさらに上げたM(3g/20ml)の場合である。図34と同様の傾向を示したがピーク高さは低くなった。
【0103】
なお、図31に示すように、白色粉末と淡黄色塊が得られたM(3g/15ml)とM(3g/20ml)との差をXRDで調べた。焼成前のXRD解析結果をそれぞれ図36および図37に示した。図36は白色粉末の場合であり、図37は淡黄色の場合を示す。共に結晶体の存在を示す鋭いピークは観察されなかった。しかし、1473Kで焼成すればどちらも図32や図33と同じX線回折パターンを示した。焼成すれば、ともにムライトが出現したことを確認した。
【0104】
本粉末はすべてムライト近傍の組成を狙った構成比である。しかし、ムライトの構成成分であるアルミナとシリカとが独立に生成し、混在する可能性も考えられる。そのため、ブランクテストとして、SiCl4 (20ml)だけの場合とアルミナだけの場合を調べた。その結果をそれぞれ図38および図39に示す。図38はシリカ粉末の場合である。結晶を示すピーク群が出現し、2θ=22°に最大のピークが現れた。これらの一連のピークはクリストバライトあるいは水晶に対応していた。図39はアルミナの場合である。α−アルミナであることを確認した。
【0105】
以上、図32〜図35と図38〜図39とを比較すると、本実験のすべての組み合わせ、すなわちM(3g/5ml)〜M(3g/20ml)から得られた生成物中には必ずムライト結晶のピークが観察されており、シリカやアルミナ単体のピークは観察されないことを確認した。
【0106】
4.2 表面SEM観察
焼成後得られた粉末の形状を調べるために4.1の測定後の各粉末のSEM観察を行った。結果を図40にまとめて示す。
得られた粉末の形状はすべて矩形あるいは板状を示した。仔細に観察すると、M(3g/5ml)からM(3g/20ml)になるにつれて、表面粗度が粗くなっていることがわかった。すなわち、M(3g/5ml)からM(3g/20ml)になるにつれて、Siの比率が高くなるが、その影響は表面に現れることがわかった。
【0107】
4.3 粒度分布
すべての組み合わせのムライト粉末の粒度分布を測定した。それらの結果を図41〜図44に示す。
図41〜図44からわかるように、いずれもほぼ似たような粒度分布を示した。概観すると、粒径は約1μmから100μmの範囲に収まっており、分布の概形は、左側にやや裾を引く釣鐘状を示しており、ほぼ2つの粒度分布の重ね成り立っていることがわかった。すなわち、数μmの1次粒子群と20〜30μmの2次粒子群とが合体した分布状態を示していることがわかった。
【0108】
5.考察
5.1 ムライトとその構成成分
ムライト(mullite)はスコットランドのmull島に由来する鉱物名であり、シリカとアルミナとを主成分とする硬質磁器の一種として広く知られている。
SiO2 −Al2 3 2元系平衡状態図を図45に示す。
SiO2 −Al2 3 系の化合物の組成はAl4+2xSi2-2x10-xの一般式で表され、−2≦x≦1まで変化する酸化物固溶体(鉱物)である。x=−2ではシリカ(SiO2 )となり、x=1はアルミナ(Al2 3 )となる。x=0では固溶体としてのシリマナイト(Al2 SiO5 )鉱物となる。天然に産出するムライトは組成にある幅を持った鉱物であり、通常0.25≦x≦0.4の間に収まっている。代表的なムライト成分は3Al2 3 ・2SiO2 で表され、x=0.25に相当し、x=0.4では2Al2 3 ・SiO2 に相当する。
【0109】
本実験で採用した組み合わせは、M(3g/5ml)、M(3g/10ml)、M(3g/15ml)、M(3g/20ml)であり、それぞれAl2 3 /SiO2 質量比(=m)に換算すると、それぞれおよそ2.2、1.1、0.7、0.5となり、ムライト生成範囲(2.55≦m≦3.4)より小さい。従って、図45に示す状態図から予想される組織はムライトとシリカとの混合相となるものと考えられる。
【0110】
M(3g/5ml)からM(3g/20ml)になるにつれてSiO2 含有量が多くなり、ムライト組成範囲から離れ、すべてムライト域には入っていない。しかし、実験結果からはムライトが得られた。この原因は注入されたSiCl4 量の変動と考えられる。すなわち本実験の場合、Siの供給源は揮発性の液体SiCl4 であるため、MeOH溶液中への注入時には激しく飛散し、その正確な投入量は不安定であった。すなわち、実際に注入されたSiCl4 量は少なくなっていたものと考えられる。この状況下では、実際のM比は理論計算で求めたM比よりも大きくなる。SiO2 の比率が一番低いM(3g/5ml)がムライト生成範囲に一番近く、ムライト相になりやすかったものと考えられる。この指摘はM(3g/5ml)のXRD解析結果の図32は、図34や図37のような大きなバックグラウンドのうねりは観察されず、ムライト結晶体だけのX線プロファイルが得られたことも首肯できる。上記のように実際に注入されるSiCl4 量が少なくなることを考慮して予めM比を最適化することによりムライトを得ることが可能である。
【0111】
6.1 Alの腐食反応とムライト生成
ムライトはアルミナとシリカとが化合物した複酸化物である。電気化学反応、特に腐食反応から見るとアルミナは金属アルミニウムの腐食生成物であり、シリカは金属シリコンの酸化物である。シリコンを酸化してシリカにするには強アルカリ水溶液などの特殊な環境が必要となるが、アルミニウムを腐食させてアルミナにするにはその酸化皮膜を弱体化できる環境を作りさえすれば良い。例えば、塩化物イオンの存在は健全なアルミニウム酸化皮膜の形成を妨害し、アルミニウムは速く腐食し、溶解することは広く知られている。従って、アルミニウムを速く反応(酸化)させるには塩化物イオンの存在が必要となるが、この時塩化物イオンをSiCl4 の形で導入すると、SiCl4 の分解によりシリカと塩化物イオンとが同時に得られ好都合であることがわかる。SiCl4 は液体であり、多くの溶媒に混合あるいは溶けやすい利点もある。
MeOH中のSiCl4 は共に液体であるため完全に混じり合い、下記の反応が一部起こる。
【0112】
【化12】

【0113】
その結果、塩酸HClが生成され、後から投入されるAlは直ちに腐食する。
【0114】
【化13】

【0115】
2.で観察記述しているように、実験中水素発生が起こっていたことから上記反応が起こっていることは明らかである。生成するAlCl3 は解離平衡し、
【0116】
【化14】

【0117】
となる。従って、式(18)の反応式はさらに簡単になり、下式となる。
【0118】
【化15】

【0119】
式(20)は酸化数が変化する電気化学反応であり、アノード半反応とカソード半反応式として分別表記することができる。
【0120】
【化16】

【0121】
本質的にはAlとH+ (プロトン)との反応であり、酸性水環境の場合と同じ表現になっている。Cl- は式(20)の反応を加速している正触媒と解釈される。
一方、AlCl3 もまたMeOH溶媒と反応し、一部Al(OMe)3 を生成する。その反応式は下記となる。
【0122】
【化17】

【0123】
従って、本実験の溶液中にはSi(OMe)4 やAl(OMe)3 の反応生成物とOMe- 、Cl- 、Al3+などのイオンが混在しており、それらはミクロなレベル(原子レベルあるいは分子レベル)で混合し、結局全体反応としては混合し合う状態や環境が整ったことになる。これらを加水分解しpH調整(pH7)すると、多段の逐次反応が起こり、結局それぞれ
【0124】
【化18】

【0125】
となる。通常、式(24)の反応は遅く、式(25)の反応は速い。しかし、本実験の場合にはSi(OH)4 (=SiO2 ・2H2 O)の架橋網目構造の中にAl(OH)3 (=1/2Al2 3 ・3H2 O)が液相レベルで混合されているため簡単には分離しないものと考えられる。これらの混合物(複合ゲル)中にはCl- イオン、NH4 + イオンが含まれている。これらのイオンは透析でほとんど除去可能である。もし残留しても1473Kの焼成過程で気体として系外へ逸散するためほとんど残留しない。一方、反応に関与しない余剰のアルミニウムイオンあるいはSiCl4 が残留している場合では、加水分解時に下式の反応が起き、それぞれ水酸化アルミニウムと湿潤シリカSi(OH)4 (:SiO2 :2H2 O)となる。
【0126】
【化19】

【0127】
水素イオンや塩酸は透析時にはイオンとして系外に排出される。いずれにせよ、最終的にはAl(OH)3 やSi(OH)4 の高純度複合ゲルが得られる。この複合ゲルを乾燥し、焼成すると複酸化物としてのムライトが得られたものと考えられる。
【0128】
〈実施例6〉
以下の手順でムライトを作製した。
1.供試材
試薬や金属はすべて市販のものを用いた。すなわち、Al粉末(99.9%Al、関東化学株式会社)、無水酢酸(和光純薬工業株式会社)、オルトケイ酸テトラエチル(99.8%、和光純薬工業株式会社)、過酸化水素(和光純薬工業株式会社)およびイオン交換水を用いた。
【0129】
2.ムライトの作製方法
無水酢酸(100ml)溶媒中に過酸化水素(50ml)を混合し、無水酢酸と過酸化水素との混合溶液を作製した。この溶液中にAl粉末(3g)を投入した。その後、約403Kで加熱還流を57.6ks(16時間)行った。この時、水素を発生しながらAl粉末が溶解していることを確認しておいた。この溶液中にオルトケイ酸テトラエチル(6ml)を滴下し、約403Kで約20分撹拌を行った。十分な撹拌後、加水分解のためにイオン交換水(約100ml)を注入し、全量を約250mlとし、約373Kで撹拌を約1.8ks(30分)行った。その後、乾燥機中に373Kで86.4ks(24時間)保持し、固体粉末とした。得られた粉末を乳鉢で粉砕した後、1473Kで86.4ks(24時間)電気炉で焼成した。
【0130】
3.測定方法
上記の方法で得られた白色粉末のXRD解析、粒度分布測定、粒子観察を行った。XRD解析は卓上粉末X線回折装置(リガク製、MiniflexII)、粒子解析にはマイクロトラック粒度分布測定装置(日機装製、MT3000)、粒子観察にはSEM装置(日本電子、JSM−6060)を用いた。
【0131】
4.実験結果
4.1 XRD解析
上記で得られた焼成物を1473Kで7.2ks(2時間)焼成し、得られた各粉末のX線プロファイルを調べた。それらの結果を図46に示す。
図46におけるX線プロファイルには、ムライトの出現を表す主なピーク(×で示す)が検出された。
【0132】
4.2 粒度分布
4.1で得られた粉末の粒度分布を測定した。それらの結果を図47に示す。
粒径範囲は0.3〜8μmを示した。分布の形は、0.5μmと3μmを中心とした2つの正規分布が重なって形成されていることがわかった。
【0133】
4.3 表面SEM観察
4.1で得られた粉末のSEM観察を行った。結果を図48に示す。
図48より、10〜30μmの粒子(2次粒子)と1〜2μmの粒子(1次粒子)が観察できる。
【0134】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、材料、原料、プロセスなどはあくまでも例に過ぎず、必要に応じて、これらと異なる数値、材料、原料、プロセスなどを用いてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO3 (A=アルカリ金属以外の金属、B=塩化物を形成する金属であってAと異なるもの)または一般式AB2 4 (A=アルカリ金属以外の金属、B=塩化物を形成する金属であってAと異なるもの)で表される複酸化物の製造方法において、
Bの塩化物を含む非水溶媒中にAを投入し、加熱還流を行うことによりAを腐食溶解させる工程と、
上記Aを腐食溶解させた上記非水溶媒を加水分解する工程と、
上記Aを腐食溶解させた上記非水溶媒を加水分解することにより得られる溶液のpHを調整することによりAおよびBを含む沈殿物を生成させる工程と、
上記沈殿物を乾燥させた後、焼成を行う工程とを有する複酸化物の製造方法。
【請求項2】
上記Bの塩化物は無水の金属塩化物であることを特徴とする請求項1記載の複酸化物の製造方法。
【請求項3】
上記非水溶媒は脱水非水溶媒、極微量の水を含む非水溶媒または酸化剤を含む酸無水物溶媒であることを特徴とする請求項1記載の複酸化物の製造方法。
【請求項4】
上記非水溶媒は脱水アルコールであることを特徴とする請求項1記載の複酸化物の製造方法。
【請求項5】
上記加熱還流を上記非水溶媒の沸点近傍で行うことを特徴とする請求項1記載の複酸化物の製造方法。
【請求項6】
上記溶液のpHをAの水酸化物が安定な範囲に調整することを特徴とする請求項1記載の複酸化物の製造方法。
【請求項7】
ABO3 はMgTiO3 またはCaTiO3 であり、AB2 4 はMgAl2 4 またはMgFe2 4 であることを特徴とする請求項1記載の複酸化物の製造方法。
【請求項8】
Siの塩化物を含む非水溶媒中にAlを投入し、加熱還流を行うことによりAlを腐食溶解させる工程と、
上記Alを腐食溶解させた上記非水溶媒を加水分解する工程と、
上記Alを腐食溶解させた上記非水溶媒を加水分解することにより得られる溶液のpHを調整することによりSiおよびAlを含む沈殿物を生成させる工程と、
上記沈殿物を乾燥させた後、焼成を行う工程とを有する複酸化物の製造方法。
【請求項9】
上記Siの塩化物は無水のSi塩化物であることを特徴とする請求項8記載の複酸化物の製造方法。
【請求項10】
上記非水溶媒は脱水非水溶媒、極微量の水を含む非水溶媒または酸化剤を含む酸無水物溶媒であることを特徴とする請求項8記載の複酸化物の製造方法。
【請求項11】
上記非水溶媒は脱水アルコールであることを特徴とする請求項8記載の複酸化物の製造方法。
【請求項12】
上記加熱還流を上記非水溶媒の沸点近傍で行うことを特徴とする請求項8記載の複酸化物の製造方法。
【請求項13】
上記溶液のpHをAlの水酸化物が安定な範囲に調整することを特徴とする請求項8記載の複酸化物の製造方法。
【請求項14】
一般式ABO3 (A=アルカリ金属以外の金属、B=塩化物を形成する金属であってAと異なるもの)または一般式AB2 4 (A=アルカリ金属以外の金属、B=塩化物を形成する金属であってAと異なるもの)で表される複酸化物の製造方法において、
Aの腐食生成物から形成される酸化物とBの塩の解離反応によって生成される解離生成物から形成される酸化物とにより製造するようにしたことを特徴とする複酸化物の製造方法。
【請求項15】
非水溶媒中で上記腐食生成物と上記解離生成物とを撹拌混合後、上記非水溶媒の沸点付近で加熱還流し、上記腐食生成物と上記解離生成物とを均一混合することを特徴とする請求項14記載の複酸化物の製造方法。
【請求項16】
上記非水溶媒として脱水非水溶媒、極微量の水を含む非水溶液または酸化剤を含む酸無水物溶媒を用いることを特徴とする請求項14記載の複酸化物の製造方法。
【請求項17】
上記Bの塩は無水の金属塩化物であることを特徴とする請求項14記載の複酸化物の製造方法。
【請求項18】
上記複合生成物を加水分解する時、加水分解に用いる水溶液は上記腐食生成物の水酸化物が安定な領域にpH調整した水溶液であることを特徴とする請求項14記載の複酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【公開番号】特開2012−101989(P2012−101989A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253493(P2010−253493)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月1日 社団法人日本金属学会発行の「日本金属学会誌 第74巻 第8号」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月30日 社団法人軽金属学会発行の「軽金属 第60巻 第9号」に発表
【出願人】(510300577)
【Fターム(参考)】