説明

褥瘡治療剤

【課題】本発明は、褥瘡の予防・治療のための医薬組成物、予防方法および治療方法の提供を課題とする。
【解決手段】本発明により、イコサペンタエン酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有する、褥瘡の予防用または治療用の医薬組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褥瘡治療および予防のための医薬組成物、褥瘡の治療および予防方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
日本褥瘡学会の2006年に行われた調査によれば、褥瘡の有病率は、一般病院で2.24%、療養病床を有する一般病院で3.32%、介護老人福祉施設で2.47%、介護老人保健施設で2.67%、訪問介護ステーションで8.32%である(非特許文献1)。また、入所入院患者を対象とした大浦らの全国調査によれば、有病率は5.8%であり(非特許文献2)、石川らの訪問看護ステーションにおけるそれは7.0%であった(非特許文献3)。
【0003】
一方、保存的治療で治癒するまでに、褥瘡IAET分類ステージIで約2週間、IIで約3週間半、IIIで約4カ月半、IVで約7カ月半を要することから(褥瘡学会渉外・保健委員会. 日褥瘡会誌、2001;3:229)、褥瘡の発生は、患者のみならず、患者家族にも苦痛を強いることとなり、また院内感染の母床にもなる。さらに医療スタッフの負担が大きくなるのみならず、在院日数の長期化や病床回転率低下などの病院経営にも大きな影響を与えることが問題となる。これらのことから、褥瘡の予防・治療への関心は、高齢化社会の進展による寝たきり老人の増加とも相まって、最近つとに大きくなっている。
【0004】
褥瘡は、生体への持続性圧迫による圧力がそれに対する生体組織の抵抗力を凌駕した場合に発症進展する。持続性圧迫は、従来から言われてきたように、褥瘡の直接原因であり、皮膚の阻血性障害だけにはとどまらず、再灌流障害、リンパ系機能障害、細胞・組織の機械的変形などを介して多様な生理的・生化学的変化を複合的に引き起こす。一方、持続性圧迫に対する抵抗力は湿度、摩擦、ずれなどの外部要因と、栄養状態、酸素運搬能、皮膚温度、慢性疾患の存在などの内部要因によって決定される (非特許文献4)。
【0005】
持続性圧迫によって阻血に陥った組織では、供給される酸素低下、嫌気性代謝亢進、グルコース枯渇、エネルギー代謝破綻、活性酸素種(ROS)およびTNF−α、IL−6などの炎症性サイトカイン産生が惹起される。また、毛細血管の圧迫は血小板を沈着させ、強力な血管収縮作用を有するスロンボキサンA遊離を引き起こす。これらの結果、細胞死・組織障害が引き起こされる。
【0006】
事実、ヒト骨突起部の血流量は圧力負荷により低下し(非特許文献5)、褥瘡患者において、下肢血流量の減少(非特許文献6)、血小板凝集能亢進(非特許文献7)が認められた。機械的荷重により、組織損傷前にIL−1αやTNF−αなどが増加し(非特許文献8)、圧力による創傷の中心部のTXB濃度は、正常部位のそれより明らかに上昇していた(非特許文献9)。
【0007】
また、再灌流は、血流shear stressによる血小板凝集を引き起こすとともに、阻血によって組織に蓄積された炎症性サイトカインやROSなどの組織障害性物質が血流再開により阻血部位より広がり、さらに、血流増加による酸素供給の増加はROSを増加させる。ROSの増加は血小板、好中球の集積・接着を引き起こす。一方、リンパ系機能障害は老廃物などを蓄積し、機械的変形は細胞のアポトーシスや細胞外マトリックスの配向性を変化させ、細胞死・組織障害を助長する(非特許文献10および11)。
【0008】
事実、虚血/再灌流障害は、虚血となった細胞で産生されたフリーラジカルが生体膜障害を引き起こす(非特許文献12および13)。ラット皮膚を周期的に圧迫し、皮膚の虚血/再灌流をおこすことにより、組織の壊死や白血球の浸潤などを有する慢性褥瘡が作成された(非特許文献14)。虚血/再灌流により、ハムスター背部皮下脂肪チャンバーにおける、後毛細血管細静脈内皮への白血球の接着、毛細血管閉塞、内皮の完全性の破綻が観察された(非特許文献15)。再灌流時における血流shear stressは、血小板凝集を惹起する。
【0009】
さらに、再灌流は、血流shear stressによる血小板凝集を引き起こすとともに、阻血によって組織に蓄積された炎症性サイトカインやROSなどの組織障害性物質が血流再開により阻血部位より広がり、さらに、血流増加による酸素供給の増加はROSを増加させる。ROSの増加は血小板、好中球の集積・接着を引き起こす。一方、リンパ系機能障害は老廃物などを蓄積し、機械的変形は細胞のアポトーシスや細胞外マトリックスの配向性を変化させ、細胞死・組織障害を助長する(非特許文献10および11)。
【0010】
血管内皮細胞を無酸素/再酸素の状態下で培養することにより、スーパーオキシドと過酸化水素の生成(非特許文献16および17)、転写因子NF−kB活性化および内皮細胞接着分子の発現(非特許文献18)、好中球の内皮細胞への接着(非特許文献19)、内皮によるバリア機能の破綻(非特許文献20)などが観察される。さらに、ROSは、apoptosissignal regulation kinase-1(ASK1)、c−JNK、p38MAPKひいては細胞増殖やアポトーシスを制御する。このように、内皮細胞の遊離基生成は、虚血後の組織の細胞損傷の中心的機序であると考えられている(非特許文献21)。
【0011】
通常、NOは種々の生体システムにおいて重要なメディエータとして作用しているが、過剰に産生されたNOが虚血再灌流によるアポトーシスと組織損傷において病因的役割を演じていると考えられ(非特許文献22)、高NO濃度はアポトーシスを誘導する(非特許文献23)。皮膚虚血再灌流モデルにおいて、好中球やマクロファージの浸潤、炎症性サイトカイン(IL-6、IL-1β、TNFα)および誘導型NO合成酵素発現の増加、MCP-1の増加が観察された(非特許文献24)。褥瘡患者においても、CRP、フィブリノーゲン、IL−6の高値(非特許文献25)が認められた。また、筋肉の圧迫初期においても、Bax、カスパーゼ3、カスパーゼ8、カスパーゼ9のmRNAの増加によって示されるアポトーシスの活性化が観察された(非特許文献26)。
【0012】
このように褥瘡は多様な要因から成り立っており、現在のところ外科的治療、外用剤、栄養管理が主な対処法となっている。栄養管理としては高エネルギー、高蛋白質のサプリメントが褥瘡の予防・治癒に有用であるというのがガイドライン上の見解である。一方、食事摂取ができない患者について長期に栄養剤の投与をしていると、微量元素や必須脂肪酸の欠乏をきたすためそれらを補充することも褥瘡患者の栄養管理の一環として必要であるとの報告もある。例えば、褥瘡を有する急性肺損傷患者に、EPA、γリノレン酸、ビタミンA、C、Eを高含有する栄養食を投与したところ、当該栄養食は、グレード3の褥瘡の進展に影響するかもしれないが、既存褥瘡の治癒には影響せず、新規褥瘡の発症頻度は低下させたが、この栄養サポートが褥瘡の発生に影響するという示唆を支持するには十分ではないとの報告がある(非特許文献27)。また、亜鉛、銅、ω3系脂肪酸を高含有する経腸栄養剤を褥瘡患者2例に投与したところ、適切な栄養管理による蛋白合成能および脂質代謝の改善に伴って褥瘡が治癒したとの報告がある(非特許文献28)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】褥瘡予防・管理ガイドライン、日本褥瘡学会編集.2009:p12;
【非特許文献2】大浦武彦ら、日本医事新報、2000;3990:23;
【非特許文献3】石川治ら、日本医事新報、1998;3864:25;
【非特許文献4】Braden Bら、Rehab Nur.、1987;12:8;
【非特許文献5】作田譲ら、生体医工学、2006;44:101;
【非特許文献6】宮島良夫ら、日老医誌、2000;37:633;
【非特許文献7】Matsuyama Nら、Gerontology、2000;46:311;
【非特許文献8】Cornolissen LHら、Ann Biomed Eng.、2009;37:1007;
【非特許文献9】Vaughn DMら、Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acid、1989;37:45;
【非特許文献10】褥瘡予防・管理ガイドライン、日本褥瘡学会編集.2009:p18;
【非特許文献11】Berlowitz DR.、Ostomy Wound Manag.、2007;53:35;
【非特許文献12】Parks DAら、Surgery.1983;94:428;
【非特許文献13】Silver EHら、MIol Patho1. 1983;38:69;
【非特許文献14】Peirce SMら、Wound Repair Regen.、2000;8:68;
【非特許文献15】Lehr HAら、Proc Natl Acad Sci U S A.、1991;88:6726;
【非特許文献16】Terada LSら、J Cell Physiol.、1991; 148:191;
【非特許文献17】Zweier JLら、Am J Physiol.1994; 266:C700;
【非特許文献18】Ichikawa Hら、Circ Res.、1997; 81: 922;
【非特許文献19】Yoshida Nら、Am J Physiol.、1992; 262:H1891;
【非特許文献20】Inauen Wら、Free Rad Biol Med.、1990;9:219;
【非特許文献21】Zweier JLら、Proc Natl Acad Sci USA.、1988;85:4046;
【非特許文献22】Reid RRら、J Surg Res.、2004;116:172;
【非特許文献23】Schulz Rら、Cardiovasc Res.、2004;61:402;
【非特許文献24】Saito Yら、J Invest Dermatology.、2008;128:1838;
【非特許文献25】Christian Wら、Diabetes Care、2009;32:1491;
【非特許文献26】Parco M Siuら、J Appl Physiol.、2008;107:1266;
【非特許文献27】Theilla Mら、Clin Nutr.、2007;26:752;
【非特許文献28】田中芳明ら、日臨外会誌、2002; 63:1633;
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
通常の創傷や皮膚潰瘍とは異なり褥瘡は多様な原因から成り立っている。褥瘡の治療も、直接原因である生体への圧力の軽減・除去のための体位の適切な変換と除圧剤の適用に加え、その状況に応じた外用薬塗布による炎症軽減・組織修復、被覆材による湿潤環境保持、壊死組織の外科的切除、栄養介入などの方法によって行われている。しかし、褥瘡を予防または治療できる経口医薬品は報告されていない。
【0015】
また、既存の治療によって褥瘡を早期に治癒させることは簡単ではない。事実、褥瘡の有病率は、約2%〜約8%に達し、保存的治療による治癒期間は、褥瘡IAET分類4度で約7カ月半を要している。したがって、褥瘡を予防し、早期に治癒させ、かつ、長期の臥床を強いられている状況において要求される副作用の少ない新たな予防・治療薬の提供、特に褥瘡を予防または治療できる経口医薬品を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、持続性圧迫によって生じる多様な生理的生化学的変化、すなわち、血流障害、血小板凝集、炎症性サイトカインおよびROSによる弊害、再灌流障害、アポトーシスなどを、EPAやDHAなどのω3多価不飽和脂肪酸が軽減・除去し、褥瘡の予防・治療に有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
すなわち、本発明の1つの側面によれば、以下の(1)〜(9)に記載の医薬組成物が提供される。
(1)ω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有する、褥瘡予防または治療用医薬組成物。
【0018】
(2)ω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩またはエステルが、重量比でω6多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩またはエステルの3倍以上含まれる、上記(1)に記載の医薬組成物。
【0019】
(3)褥瘡を有している患者に適用される、上記(1)または(2)に記載の医薬組成物。
(4)褥瘡を既に有しており、新規の褥瘡の予防を考慮しなければならない患者に適用される、上記(1)または(2)に記載の医薬組成物。
【0020】
(5)褥瘡の予防を考慮しなければならない褥瘡非発症患者に適用される、上記(1)または(2)に記載の医薬組成物。
(6)褥瘡の局所治療を行っている患者に適用される、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0021】
(7)局所治療に対し抵抗性の褥瘡を有している患者に適用される、上記(6)に記載の医薬組成物。
(8)生活習慣病(例えば、高脂血症、糖尿病、メタボリックシンドロームなど)に罹患している患者に適用される、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0022】
(9)血中EPA/AA(イコサペンタエン酸/アラキドン酸比)比が0.5以下である褥瘡患者に適用される、上記(1)〜(8)に記載の医薬組成物。
(10)ω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルが、EPA、DHA、α−リノレン酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物である、上記(1)〜(9)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0023】
本発明の別の側面によれば、以下の(11)〜(20)に記載の医薬組成物が提供される。
(11)イコサペンタエン酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有する、褥瘡の予防用または治療用の医薬組成物。
【0024】
(12)イコサペンタエン酸、その製薬学上許容しうる塩またはエステルが、重量比でω6多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩またはエステルの3倍以上含まれる、上記(11)に記載の医薬組成物。
【0025】
(13)褥瘡を有している患者に適用される、上記(11)または(12)に記載の医薬組成物。
(14)褥瘡を既に有しており、新規の褥瘡の予防を考慮しなければならない患者に適用される、上記(11)または(12)に記載の医薬組成物。
【0026】
(15)褥瘡の予防を考慮しなければならない褥瘡非発症患者に適用される、上記(11)または(12)に記載の医薬組成物。
(16)褥瘡の局所治療を行っている患者に適用される、上記(11)〜(14)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0027】
(17)局所治療に対し抵抗性の褥瘡を有している患者に適用される、上記(16)に記載の医薬組成物。
(18)高脂血症、糖尿病、およびメタボリックシンドロームから選択される生活習慣病に罹患している患者に適用される、上記(11)〜(17)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0028】
(19)血中EPA/AA比(イコサペンタエン酸/アラキドン酸比)が0.5以下である患者に適用される、上記(11)〜(18)のいずれかに記載の医薬組成物。
(20)イコサペンタエン酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルが、イコサペンタエン酸エチルエステルである、上記(11)〜(19)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0029】
本発明のさらに別の側面によれば、以下の(21)〜(31)に記載の方法が提供される。
(21)ω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを患者に投与することを含む、褥瘡の予防方法または治療方法。
【0030】
(22)投与するω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩またはエステルが、重量比でω6多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩またはエステルの3倍以上である、上記(21)に記載の方法。
【0031】
(23)患者が褥瘡を有している、上記(21)または(22)に記載の方法。
(24)患者が褥瘡を既に有しており、新規の褥瘡の予防を考慮しなければならない患者である、上記(21)または(22)に記載の方法。
【0032】
(25)患者が、褥瘡の予防を考慮しなければならない褥瘡非発症患者である、上記(21)または(22)に記載の方法。
(26)患者が、褥瘡の局所治療を受けている、上記(21)〜(24)のいずれかに記載の方法。
【0033】
(27)患者が、局所治療に対し抵抗性の褥瘡を有している、上記(26)に記載の方法。
(28)患者が、生活習慣病(例えば、高脂血症、糖尿病、メタボリックシンドロームなど)に罹患している、上記(21)〜(27)のいずれかに記載の方法。
【0034】
(29)患者の血中EPA/AA比(イコサペンタエン酸/アラキドン酸比)が0.5以下である、上記(21)〜(28)に記載の方法。
(30)ω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルが、EPA、DHA、α−リノレン酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物である、上記(21)〜(29)のいずれかに記載の方法。
【0035】
(31)ω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルが、イコサペンタエン酸エチルエステルである、上記(30)に記載の方法。
【発明の効果】
【0036】
本発明の医薬組成物は、褥瘡治療において治療効果を示すとともに、新規の褥瘡発症を予防する新たな治療手段を提供する。本発明の医薬組成物は、褥瘡の予防・治療に必須の適切な体位変換や除圧剤の使用をより効果的にならしめるだけではなく、長期の伏臥が要求される患者においても、安全性が高く、副作用の少ない褥瘡予防・治療剤である。特に、褥瘡の治療に有用である。本発明の医薬組成物は、局所治療に抵抗性の褥瘡に対しても治療効果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
多価不飽和脂肪酸は、分子内に複数の炭素−炭素二重結合を有する脂肪酸と定義され、二重結合の位置により、ω3、ω6などに分類される。ω3多価不飽和脂肪酸としては、α−リノレン酸、イコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが例示される。本発明で用いられる多価不飽和脂肪酸の語は、特に断らない限りは、多価不飽和脂肪酸だけでなく、その製薬上許容される塩、あるいはエステル、アミド、リン脂質、グリセリドなどの多価不飽和脂肪酸誘導体も含む意味で用いられる。
【0038】
本発明で用いられるω3多価不飽和脂肪酸は、合成品、半合成品または天然品のいずれでもよく、これらを含有する天然油の形態でもよい。ここで、天然品とは、ω3多価不飽和脂肪酸を含有する天然油から公知の方法によって抽出されたもの、粗精製されたもの、あるいはそれらを更に高度に精製したものを意味する。半合成品は、微生物などにより産生された多価不飽和脂肪酸を含み、また該多価不飽和脂肪酸あるいは天然の多価不飽和脂肪酸にエステル化、エステル交換等の化学処理を施したものも含まれる。本発明では、ω3多価不飽和脂肪酸として、これらのうちの1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
本発明では、ω3多価不飽和脂肪酸として、具体的には、EPA、DHA、α−リノレン酸およびこれらの製薬学上許容しうる塩およびエステルが例示される。製薬学上許容しうる塩およびエステルは、ナトリウム塩、カリウム塩などの無機塩基、ベンジルアミン塩、ジエチルアミン塩などの有機塩基、アルギニン塩、リジン塩などの塩基性アミノ酸との塩およびエチルエステル等のアルキルエステルやモノ−、ジ−およびトリ−グリセリド等のエステルが例示される。好ましくはエチルエステルであり、特にイコサペンタエン酸エチルエステル(EPA−E)および/またはドコサヘキサエン酸エチルエステル(DHA−E)が好ましい。
【0040】
ω3多価不飽和脂肪酸の純度は特に限定されないが、通常、本剤組成物の全脂肪酸中のω3多価不飽和脂肪酸の含量として、好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上であり、とりわけ好ましくは本組成物がω3多価不飽和脂肪酸以外の他の脂肪酸成分を実質的に含まない態様である。
【0041】
本発明の1つの側面において、ω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有する、褥瘡予防または治療用医薬組成物であって、ω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩またはエステルが、重量比でω6多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩またはエステルの3倍以上含まれる医薬組成物が提供される。ω6多価不飽和脂肪酸として、具体的には、リノール酸、γ−リノレン酸、アラキドン酸(AA)およびこれらの製薬学上許容しうる塩およびエステルが例示される。ω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩またはエステルのω6多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩またはエステルに対する重量比は、好ましくは4倍以上、より好ましくは5倍以上である。
【0042】
ω3多価不飽和脂肪酸の薬理効果に関連して、100μMアラキドン酸によるウサギ血小板凝集が、ほぼ250μMのEPAによって抑制されることが報告されている(Sato Mら. Biol Pharm Bull. 1993;16:362)。したがって、摂取されたω6多価不飽和脂肪酸がアラキドン酸(AA)へ、ω3多価不飽和脂肪酸がEPAへ代謝されたと仮定した場合、ω3多価不飽和脂肪酸の量が、ω6多価不飽和脂肪酸の約3倍量を上回る場合に抗血小板凝集効果、およびそれによる血流改善効果が特に期待できる。褥瘡の予防または治療効果の観点から、本発明の医薬組成物には有効成分であるω3多価不飽和脂肪酸がω6多価不飽和脂肪酸より多く含まれているのが好ましい。
【0043】
本発明の1つの態様において、EPA−EおよびDHA−Eを用いる場合、EPA−E/DHA−Eの組成比および全脂肪酸中のEPA−E+DHA−Eの含量比は特に問わないが、好ましい組成比として、EPA−E/DHA−Eは、0.8以上であることが好ましく、更に好ましくは、1.0以上、より好ましくは、1.2以上である。EPA−E+DHA−Eは高純度のもの、例えば、全脂肪酸およびその誘導体中のEPA−E+DHA−E含量比が40質量%以上のものが好ましく、55質量%以上のものがさらに好ましく、84質量%以上のものがさらに好ましく、96.5質量%以上のものが更に好ましい。他の多価不飽和脂肪酸含量は少ないことが好ましく、多価不飽和脂肪酸でもω6系、特にAA含量は少ないことが望まれ、2質量%未満が好ましく、1質量%未満がさらに好ましい。
【0044】
本発明の医薬組成物に用いられるEPA−Eおよび/またはDHA−Eは、魚油あるいは魚油の濃縮物に比べ、飽和脂肪酸やAA等の心血管イベントに対して好ましくない不純物が少なく、栄養過多やビタミンA過剰摂取の問題もなく作用効果を発揮することが可能である。また、エチルエステル体のため主にトリグリセリド体である魚油等に比べて酸化安定性が高く、通常の酸化防止剤添加により十分安定な組成物を得ることが可能である。
【0045】
このEPA−Eは、日本において、入手可能な高純度EPA−E(96.5質量%以上)含有軟カプセル剤(商品名エパデール:持田製薬社製)を用いることができる。また、EPA−EとDHA−Eの混合物は、例えば、米国で高TG血症治療薬として市販されているロバザ(Lovaza:グラクソ・スミス・クライン:EPA−E約46.5質量%、DHA−E約37.5質量%含有する軟カプセル剤)を使用することもできる。
【0046】
本発明の1つの態様において、ω3多価不飽和脂肪酸として、精製魚油も使用できる。また、ω3多価不飽和脂肪酸のモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドまたはこれらの組合せなども好ましい態様の一つである。例えばインクロメガ(lncromega)F2250、F2628、E2251、F2573、TG2162、TG2779、TG2928、TG3525およびE5015(クローダ インターナショナル ピーエルシー (Croda International PLC, Yorkshire, England))、および EPAX6000FA、EPAX5000TG、EPAX4510TG、EPAX2050TG、EPAX7010EE、K85TG、K85EEおよびK80EE (プロノバ バイオファーマ(Pronova Biopharma, Lysaker, Norway) )などの種々のω3多価不飽和脂肪酸、その塩およびエステルを含有する製品が市販されており、これらを入手して使用することもできる。
【0047】
褥瘡の分類法は少なくとも数種存在する。日本褥瘡学会は、褥瘡を、その深さから、d1:持続する発赤、d2:真皮までの損傷、d3:皮下組織までの損傷、d4:皮下組織を越える損傷、d5:関節腔・体腔に至る損傷、U:深さ判定が不能な場合に分類している。また、日本褥瘡学会は褥瘡評価用のスコアとしてDESIGN−Rを公表している。DESIGN−Rは、滲出液、大きさ、炎症/感染、肉芽組織、壊死組織、ポケットの各項目をスコア化し、合計スコア66〜0で評価する。
【0048】
IAET(International Association for Enterostomal Therapy)の分類では、ステージ I:圧迫除去後30分以内に消退しない発赤があるが、表皮は損なわれていない可逆的な段階。ステージ II:表皮あるいは真皮に至るが、皮下組織に至らない皮膚の部分欠損である。ステージIII:皮下組織に至る全層欠損である。ステージ IV:筋膜、骨などに達する深い組織欠損である。
【0049】
このような分類に従って、日本褥瘡学会渉外・保健委員会の調査では、褥瘡IAET分類のステージI、ステージII、ステージIIIおよびステージIVの褥瘡が保存的治療で治癒するまでに要する平均日数は、各々約2週間、約3週間半、約4カ月半および約7カ月半を要すると報告している(前出)。
【0050】
本発明の医薬組成物または方法は褥瘡に対する予防・治療効果を有するので、褥瘡を有している患者に治療目的で適用してもよく、または褥瘡の予防を考慮しなければならない褥瘡非発症者に予防の目的で適用することもできる。
【0051】
1つの態様において、本発明は褥瘡の局所治療を行っている患者に適用される。局所治療には、主に保存的治療または外科的治療がある。保存的治療としては、圧迫やズレの排除、洗浄、消毒、外用剤や創傷被覆材の適用などが例示される。ここで外用剤としては、消毒剤のほか、肉芽の形成や創の縮小を目的とするトラフェルミン、プロスタグランジンE1軟膏などが例示される。外科的治療としては、デブリードマンやポケットの切開などが例示される。また外科的治療との併用においては、手術前であっても手術後であっても本発明を適用することができる。本発明の医薬組成物は、局所治療に対して抵抗性の褥瘡に対して、治療効果を発揮する。局所治療に対して抵抗性の褥瘡とは、局所治療を行っても改善しない、もしくは重症化する難治性の褥瘡をいう。
【0052】
本発明による治療効果とは、本発明医薬組成物の投与により、保存的治療で治癒するまでに要する平均日数に対して、少なくとも10%以上の短縮、好ましくは20%以上の短縮、さらに好ましくは50%以上の短縮が認められれば良い。あるいは、一定期間の本発明医薬組成物の投与により、少なくとも褥瘡のステージの1段階の低下が認められれば良い。一方、本発明によるおける予防効果とは、褥瘡未発症患者に本発明医薬組成物を一定期間投与した場合の褥瘡の発症率が、本発明医薬組成物を投与しない褥瘡未発症患者のそれに比して、小さいことが確認されれば良い。なお、本発明の医薬組成物は、褥瘡の治療に用いることが好ましい。
【0053】
1つの態様において、本発明は生活習慣病に罹患している患者に適用される。生活習慣病としては、高脂血症、糖尿病、メタボリックシンドローム、高血圧、および肥満症などが例示される。本発明の適用に適した生活習慣病として、例えば、高脂血症、糖尿病、メタボリックシンドロームが挙げられる。本発明は生活習慣病に罹患し、褥瘡を有している患者に好ましく適用される。
【0054】
さらに1つの態様において、本発明は血中EPA/AA比が0.5以下である患者に適用される。本発明は血中EPA/AA比が0.5以下であり、褥瘡を有している患者に適用される。また、本発明は好ましくは血中EPA/AA比が0.5以下であり、かつ血漿中EPA濃度が100μg/mL未満である患者に適用される。
【0055】
本発明は、有効成分であるω3多価不飽和脂肪酸が生体内組織および細胞に取り込まれることで、持続性圧迫による組織への影響を軽減・除去させるので、予防・治療のためには、少なくとも2週間以上投与を行うことが必要である。好ましくは1ヶ月以上、更に好ましくは3ヶ月以上である。
【0056】
本発明に用いられるω3多価不飽和脂肪酸の投与量および投与期間は対象となる作用を現すのに十分な量および期間とされるが、その剤形、投与方法、1日当たりの投与回数、症状の程度、体重、年齢等によって適宜増減することができる。
【0057】
経口投与する場合は、例えばEPA−Eおよび/またはDHA−Eとして0.1〜10g/日、好ましくは0.3〜6g/日、より好ましくは0.6〜4g/日、さらに好ましくは0.9〜2.7g/日を1〜3回に分けて投与するが、必要に応じて全量を1回あるいは数回に分けて投与してもよい。また、投与時間は食中ないし食後が好ましく、食直後(30分以内)投与が更に好ましい。また、例えば1日おきに投与する、1週間に2〜3日投与することもできる。
【0058】
健常成人男子にEPA−Eを連続経口投与した場合、EPA血漿中濃度は1週間で定常状態に達する。本発明の医薬組成物が褥瘡に対する予防または治療効果を発揮するためには、血漿中EPA濃度が100μg/mL以上となることが望ましい。健常人の血漿中EPA濃度は約50μg/mL前後であるが、栄養管理が不十分な褥瘡患者においてはこれを下回ることがある。非特許文献27や28に記載されるように栄養管理の一環として必須脂肪酸を高含有する栄養剤を使用したとしても、血漿中EPA濃度は健常人と同レベルに留まる。血漿中EPA濃度が健常人と同レベルであることは栄養管理の点では好ましいが、治療効果を発揮する血中濃度には至っていないといえる。また、薬理学的、臨床的観点からみた場合の一つの指標としてEPA/AA比がよく用いられる。血漿中EPA/AAは投与1週間で1.0を超え、投与前の2倍程度となる。継続投与の指標としては、投与後1週間目のω3多価不飽和脂肪酸の血中濃度を維持できるように、および/または、血漿中EPA/AA比が1.0以上となるように、投与量、投与間隔を調整すればよい。
【0059】
本発明の医薬組成物は、有効成分をそのまま投与するか、或いは一般的に用いられる適当な担体または媒体、賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、香味剤、必要に応じて滅菌水や植物油、更には無害性有機溶媒あるいは無害性溶解補助剤(例えばグリセリン、プロピレングリコール)、乳化剤、懸濁化剤(例えばツイーン80、アラビアゴム溶液)、等張化剤、pH調整剤、安定化剤、無痛化剤、嬌味剤、着香剤、保存剤、抗酸化剤、緩衝剤、着色剤などの添加剤と適宜選択組み合わせて適当な医薬用製剤に調製することができる。添加剤として、例えば乳糖、部分α化デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、マクロゴール、トコフェロール、硬化油、ショ糖脂肪酸エステル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、酸化チタン、タルク、ジメチルポリシロキサン、二酸化ケイ素、カルナウバロウなどを含有しうる。
【0060】
特に、ω3多価不飽和脂肪酸は高度に不飽和であるため、抗酸化剤例えばブチレート化ヒドロキシトルエン、ブチレート化ヒドロキシアニソール、プロピルガレート、没食子酸、医薬として許容されうるキノンおよびα−トコフェロールから選ばれる少なくとも1種を抗酸化剤として有効量含有させることが望ましい。
【0061】
製剤の剤形は、本発明の有効成分の併用形態によっても異なり、特に限定されないが、経口製剤が好ましく、例えば、錠剤、フィルムコーティング錠、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、経口用液体製剤、シロップ剤、ゼリー剤、吸入剤の形で用い得る。とりわけカプセル例えば、軟質カプセルやマイクロカプセルに封入して、あるいは錠剤、フィルムコーティング錠での経口投与が好ましい。また、腸溶製剤や徐放化製剤として経口投与してもよく、透析患者や嚥下困難な患者などにはゼリー剤として経口投与することも好ましい。
【0062】
本発明の医薬組成物は、ω3多価不飽和脂肪酸以外の第二の薬剤と併用することができる。第二の薬剤は本発明の医薬組成物に含有することも可能であり、また別途投与することも可能である。第二の薬剤は特に限定されないが、本発明の効果を減弱しないことが好ましく、例えば、肝庇護剤、血糖降下剤、高脂血症治療薬、降圧剤、抗酸化剤、抗炎症剤などが例示される。
【0063】
本発明の医薬組成物は、有効成分に加え、薬学的に許容され得る賦形剤を含むことができる。適宜、公知の抗酸化剤、コーティング剤、ゲル化剤、嬌味剤、着香剤、保存剤、抗酸化剤、乳化剤、pH調整剤、緩衝剤、着色剤などを含有させてもよい。
【0064】
本発明の医薬組成物は、常法に従って製剤化することが可能である。ω3多価不飽和脂肪酸の粉末は、例えば、(A)EPA−E、(B)食物繊維、(C)デンプン加水分解物及び/又は低糖化還元デンプン分解物、及び(D)水溶性抗酸化剤を含有する水中油型乳化液を、高真空下で乾燥させ、粉砕処理する(特開平10−99046)など公知の方法により得られる。得られたEPA−Eの粉体を用いて、常法に従い、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、フィルムコーティング錠、チュアブル錠、徐放錠、口腔内崩壊錠(OD錠)などを得ることができる。チュアブル錠であれば、例えば、EPA−Eをヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性高分子溶液中に乳化し、得られた乳化液を乳糖などの添加剤に噴霧して粉粒体を得(特開平8−157362)、打錠することなど公知の方法により得ることができる。口腔内崩壊錠であれば、例えば特開平8−333243など、口腔用フィルム製剤であれば、例えば特開2005−21124など、公知の方法に準じて製造することができる。
【0065】
本発明の医薬組成物は、有効成分の薬理作用を発現できるように、放出、吸収されることが望ましい。本発明の配合剤は、有効成分の放出性に優れる、有効成分の吸収性に優れる、有効成分の分散性に優れる、配合剤の保存安定性に優れる、患者の服用利便性、あるいはコンプライアンスに優れる製剤の少なくともいずれか1以上の効果を持つことが望ましい。
【実施例】
【0066】
次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)褥瘡に対する予防または治療効果
(1)IAET分類ステージII前後の褥瘡を有する患者に、保存治療に加え、高純度EPA−E製剤(エパデール、持田製薬)を1日1800mg、3週間投与した後、褥瘡の重症度を測定し、EPA−E非投与群のそれと比較すると、平均IAET分類ステージは10%以上低下する。
【0067】
(2)過去、1カ月〜2カ月間程度、保存治療を行ったにも関わらず、褥瘡の重症度に変化がなかった患者に対し、保存治療を継続しつつ、高純度EPA−E製剤(エパデール、持田製薬)を1日1800mg、3週間投与した後、褥瘡の重症度を測定し、投与前の重症度と比較すると、平均IAET分類ステージは10%以上低下する。
【0068】
(3)長期間の伏臥が予測される患者に高純度EPA−E製剤(エパデール、持田製薬)を1日1800mg、3週間投与した後、褥瘡の有無あるいは重症度を測定し、EPA−E非投与群のそれと比較すると、平均IAET分類ステージは10%以上低下する。
(実施例2)褥瘡に対する治療効果(EPA投与、非投与の比較)
褥瘡の局所治療を行っているにも関わらず、褥瘡が改善しない、もしくは重症化している患者を対象として、EPA投与群とEPA非投与群を設定し、EPAの褥瘡に対する治療効果を確認した。EPA投与群には、高純度EPA−E製剤(エパデール、持田製薬)を1日1800mg、4週間経口投与した。両群において、局所治療(洗浄・消毒、外用剤、ドレッシング剤等の使用)は従前通り継続した。褥瘡の評価はDESIGN−R(「褥瘡予防・管理ガイドライン」日本褥瘡学会編、2009年)を用い、スコア化した。
【0069】
結果を表1に示す。EPA投与群では、試験開始前に比べ褥瘡が改善する傾向が認められた。EPA非投与群では、褥瘡が改善せず、もしくは重症化した。EPAは、局所治療に対して抵抗性の褥瘡に対し、治療効果を示した。
【0070】
【表1】

【0071】
褥瘡は、持続性圧迫によって生じる多様な生理的生化学的変化、すなわち、血流障害、血小板凝集、炎症性サイトカインおよびROSによる弊害、再灌流障害、アポトーシスなどが、生体の治癒力を上回っている場合に進行・悪化すると考えられる。EPAはこれらの複合的な生理的生化学的変化を軽減・除去することで、生体のバランスが治癒のほうに傾くきっかけをつくるように寄与していると考えられる。すなわち、EPAを投与することにより、従来より早期に褥瘡を治癒することが可能となると考えられる。
(実施例3)褥瘡に対する治療効果
過去2ヵ月間、褥瘡の局所治療を行っているにも関わらず褥瘡が進行していた患者に対し、局所治療を継続したままでEPA投与を行った。高純度EPA−E製剤(エパデール、持田製薬)を1日2700mg、6週間経口投与した。EPA投与開始前は、褥瘡の大きさは7×7cmであったが、6週間後には5×5cmに縮小し、肉芽形成が進んでいた。EPAは、局所治療に対して抵抗性の褥瘡に対し、治療効果を示した。
【0072】
(実施例4)褥瘡に対する予防効果
身体状態が同等の入院患者について、血中EPA/AA比と褥瘡発症の関係を調べた。
結果を表2に示す。褥瘡がある患者では血中EPA/AA比が0.355と低く、褥瘡がない患者では血中EPA/AA比が0.5以上であった。血中EPA/AA比を0.5以上、好ましくは1.0以上となるようにω3多価不飽和脂肪酸を投与することで、褥瘡を発症しにくくし、予防できる可能性が示唆された。
【0073】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イコサペンタエン酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有する、褥瘡の予防用または治療用の医薬組成物。
【請求項2】
イコサペンタエン酸、その製薬学上許容しうる塩またはエステルが、重量比でω6多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩またはエステルの3倍以上含まれる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
褥瘡を有している患者に適用される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
褥瘡を既に有しており、新規の褥瘡の予防を考慮しなければならない患者に適用される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
褥瘡の予防を考慮しなければならない褥瘡非発症患者に適用される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
褥瘡の局所治療を行っている患者に適用される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
局所治療に対し抵抗性の褥瘡を有している患者に適用される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
高脂血症、糖尿病、およびメタボリックシンドロームから選択される生活習慣病に罹患している患者に適用される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
血中イコサペンタエン酸/アラキドン酸比が0.5以下である患者に適用される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
ω3多価不飽和脂肪酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルが、イコサペンタエン酸エチルエステルである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2012−149053(P2012−149053A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−283835(P2011−283835)
【出願日】平成23年12月26日(2011.12.26)
【出願人】(000181147)持田製薬株式会社 (62)
【Fターム(参考)】