説明

西洋カボチャ種子油の製造方法

【課題】調理食品などの製造工程から排出される西洋カボチャ(Cucurbita maxima)種子やワタの混合物から効率的に西洋カボチャ種子油を採取する。
【解決手段】西洋カボチャ種子とワタの混合物を加熱および乾燥し、あるいは還元状態で加熱および乾燥し、灰化、炭化あるいは非炭化のワタを除いて、種皮表面を加熱により変性させた西洋カボチャ種子を搾油することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、西洋カボチャ種子とワタの混合物を加熱および乾燥し、ワタを除いて、種皮表面が加熱により変性した西洋カボチャ種子を搾油することを特徴とする西洋カボチャ種子油の製造方法に関する。
さらに、本発明は、西洋カボチャ種子とワタの混合物を直火で燃焼し、灰化したワタを除いて、乾燥した西洋カボチャ種子を搾油することを特徴とする西洋カボチャ種子油の製造方法に関する。
さらに、本発明は、西洋カボチャ種子とワタの混合物を還元状態(低酸素状態)で加熱し、炭化または非炭化のワタを除いて、種皮表面が加熱により変性した西洋カボチャ種子を搾油することを特徴とする西洋カボチャ種子油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カボチャはウリ科の一年草または多年草で、大きく分けて東洋カボチャ(Cucurbita moschata)、西洋カボチャ(Cucurbita maxima)、ペポカボチャ(Cucurbita pepo)の3種類に分けられており、日本で一般に、食用に、又は冷凍食品や調理食品に加工されるのは、主に西洋カボチャである。東洋カボチャは日本カボチャとも言われ、粘質でねっとりした食感を有するが、現在ではほとんど西洋カボチャが栽培され消費されている。ペポカボチャは殻(種皮)のある種子を持つ東洋カボチャや西洋カボチャと大きく異なり、殻のない種子を持つのが大きな特徴であり、日本ではほとんど栽培されていない。小さなものや細長いものや特異な形を有するものもあり、西洋料理で用いられるズッキーニもペポカボチャの一品種であるが、ズッキーニ以外のペポカボチャは食用としてより、装飾用として用いられることが多い。また、海外で食用油(パンプキンシードオイル)として製造されるのはペポカボチャ種子から抽出した油である。本発明では、従来知られているペポカボチャ種子から抽出した油脂をパンプキンシードオイルと呼び、本発明で試みた西洋カボチャ種子から抽出した油脂をカボチャ種子油と呼ぶこととする
【0003】
このように、「パンプキンシードオイル」という名称の下に、カボチャの種子油製品が販売されているが、これらはペポカボチャの種子を由来とするものであり、本発明者らが製造方法を見出した現在我国で一般に、食用に、又は冷凍食品や調理食品に加工されている西洋カボチャ(Cucurbita maxima)から採油したものではない。
我国で多く栽培されている西洋カボチャは中央アメリカや南アメリカの高原地帯が原産地で、我国でも原産地の気候を反映して東北地方や北海道が主な産地である。我国の西洋カボチャの栽培面積は、平成18年度で、16,900ha、収穫量220,400tである。その内、カボチャとして家庭に流通する生食用に67%、調理食品などの加工用に33%が利用されている。加工用に用いられた場合、カボチャのおよそ3分の1が種子とワタとして排出される。
【0004】
西洋カボチャの加工時に排出される種子やワタは従来、一部が飼料や堆肥として利用されてきたが、生の状態で飼料へ利用しようとするにもワタは腐敗が早く、また、種子の発芽率が高いこと、堆肥としての熟成に時間がかかること、種子を擂り潰してから堆肥にするなどの手間がかかることから農家から敬遠されてきた。それゆえ、現在、西洋カボチャの加工時に排出される種子とワタはその大部分が農産廃棄物として処理されている。本発明で用いられる西洋カボチャ(Cucurbita maxima)種子は、冷凍食品や調理食品などに加工される際の農産廃棄物であり、ワタを含めて全国で年に約24,000t排出される。加工時に排出された、カボチャ種子やワタはこれまで家畜の飼料または農地に堆肥として還元されてきたが、加工工場の距離的問題や集中的に排出されるために飼料としての消費が限界に達している。堆肥として利用するにも高い発芽率や完熟に長期間を要するなど堆肥に適しているとは言えなかった。このため、工業的に肥料・飼料化することも試みられたが、破砕・乾燥工程での高コストが課題となり実用化が困難であった。したがって、西洋カボチャ(Cucurbita maxima)種子は、未利用バイオマスであり、農産廃棄物でもある。この未利用バイオマスから食品または医薬品の原料として利用できるカボチャ種子油を生産することにより、資源の有効利用と、廃棄物の軽減という面からも本発明は有用である。
【0005】
一方、西洋カボチャの乾燥種子には約20%の油が含まれており、この油は立派な食用油原料である。
我国の西洋カボチャの収穫量220,400tの内、加工用に利用された残りの排出される種子とワタの量は約24,200tであり、それから約8,000tの乾燥種子が得られる。この乾燥種子中には約1、600tの油が含まれており、食用に供することのできる油脂資源が毎年大量に廃棄されている。
【0006】
一方、西洋カボチャ種子油には食用としてその香ばしい風味が好まれることに加えてある種の生理効果を有することが知られている。このように生理活性物質含有の面からも今まで余り知られていなかった西洋カボチャ種子油に対する需要がますます高まっていくことが予想される。このような観点から、現在未利用の西洋カボチャの種子から油を効率的に搾油することが求められる。しかし、西洋カボチャの種子から油を搾ることには、種々の問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、菜種などの農産種子から食用油を得るのには、種子をクッカー(摂氏115℃の蒸気で加熱されるジャケット式のタンク)で加熱してから、搾油機で油を採取する。
しかしながら、従来、我国で西洋カボチャの種子から油を搾って利用するということが行われてこなかったのは、カボチャの種子と一緒に排出される大量のワタを分離できなかったためである。西洋カボチャのワタは導管でしっかりと種子の表面を覆う種皮に結合しており、種子からワタを除く事が難しい。種子を搾油機にかけて油を得る際、この夾雑するワタが障害となって油を得ることが出来ないのである。即ち、種子から搾られた油は夾雑するワタに吸収されてしまい、分離した油として採取することが出来ない。
【0008】
一方、欧州では昔から「パンプキンシードオイル」が存在するが、この原料はペポカボチャである。欧州で昔から「パンプキンシードオイル」を得るために栽培されているペポカボチャ(Cucurbita pepo)は種子の表面を覆う種皮が非常に薄く、子葉が露出している。そのため種子とワタが導管によってとても緩くしか結合しておらず、種子とワタを容易に分離することが出来る。そこで、ワタを除いた種子から搾油機で油を搾って食用に供することが行われている。
したがって、調理食品の製造工程から排出される西洋カボチャの大量の種子やワタの夾雑物から効率的に種子油を搾油することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、西洋カボチャ種子油を効率的に搾油する方法について鋭意研究を行ってきた。
まず、西洋カボチャの加工工場から排出された生の西洋カボチャの種子とワタの混合物を搾油機で搾油したときの搾油量を調べた。
【0010】
表1は西洋カボチャの種子とワタを乾燥せずに直接搾油した場合の搾油量を示したものである。表から見られるようにせっかく搾油した油分がワタに吸収されてしまい搾油量はほとんどなかった。これはワタをかなり除去してもほとんど同じ結果であり、ワタの油分吸収量が多量にわたることを物語っている・
西洋カボチャのワタは導管でしっかりと種子の表面を覆う種皮に結合しており、種子からワタを除く事が難しい。種子を搾油機にかけて油を得る際、このワタが障害となって油を得ることが出来ないのである。すなわち、種子から搾られた油は混在するワタに吸収されてしまい、カボチャ種子油として採取することが出来ない。
【0011】
【表1】

【0012】
そして、ワタをかなり除去してもほとんど同じ結果であることから、ワタの吸収量が多量に亘るだけではなく種子の種皮にも油分が吸収されてしまうことが判明した。
そこで西洋カボチャの加工時に排出される種子とワタの混在物からワタを除き、搾られた油がワタに吸収されずに得られるような方法、及び種子の種皮にも油分が吸収されずに得られるような方法の2方法について、種々検討した。
【0013】
まず、ワタを除く方法として、最も一般的に考えられる方法は水洗である。強力なミキサーで種子とワタの混合物を攪拌した後、金網の篩で種子とワタを分離した。この方法の欠点は大量の水を使用するために、排水処理の負荷が大きく、通常のカボチャ加工工場の排水処理施設では処理しきれない。また、得られた水洗後の種子は大量の水分を含んでおり、このままでは搾油できない。種子を乾燥させ、さらにクッカーなどの加熱機を通した後、搾油機にかける必要がある。
【0014】
そこで、西洋カボチャの種子とワタの混在物から、ワタを除き、かつ同時に種皮のコルク様の組織を破壊して、容易に搾油が出来るようにするために、直火で燃焼させる方法を見出した。
即ち、回転する円筒の中を西洋カボチャの種子とワタの混合物を移動させながら、バーナーの直火で焼く事により、ワタは燃焼して灰状となって除かれ、種皮のコルク様の組織は加熱により破壊されて、種子も乾燥して油分の分離が促進され、搾油機で容易に油を搾ることが可能になった。
【0015】
表2は西洋カボチャの種子とワタを乾燥させ、クッカーで加熱した後、搾油した場合の油収量を示したものである。
【0016】
【表2】

【発明の効果】
【0017】
本発明の西洋カボチャ種子油の製造方法は西洋カボチャ種子とワタの混合物から種子を容易に分離することができ、しかも同時に種子を乾燥させるとともに、種皮の多孔質組織を加熱により変性破壊して、搾られた油が種皮に吸収されずに得ることができるので、西洋カボチャ種子油の搾油に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係る西洋カボチャ種子油の製造方法は西洋カボチャの種子とワタの混在物から、加熱によりワタを除き、かつ同時に西洋カボチャ種皮のコルク様の組織を破壊して、西洋カボチャ種子油が容易に搾油出来るようにしたものである。
そこで、我々は西洋カボチャの種子とワタの混在物から、ワタを除き、かつ同時に種皮のコルク様の組織を破壊して、容易に搾油が出来るようにするために、直火で燃焼させる方法を見出した。
すなわち、回転する円筒の中を西洋カボチャの種子とワタの混合物を入れて移動させながら、バーナーの直火で焼く事により、ワタは燃焼し灰化して除かれ、種子は乾燥して油分の分離が促進され、種皮のコルク様の組織は加熱により破壊されて、搾油機で搾油した油分が種皮のコルク様の組織に吸収されずに容易に西洋カボチャ種子油を搾ることが可能になった。
【0019】
バーナーの直火で焼くという一見単純な方法で、搾油した油分を吸着して油分の採取の障害となっていたワタを灰化して除きやすくし、ワタとともに油分の採取の障害となっていた種皮のコルク様の組織も加熱により破壊されて油分の浸透を防ぐことができ、さらにまた種子の乾燥度の上昇により油分が分離しやすくなるという効果を生み出す画期的な方法である。
【0020】
しかしながら、上記の方法はワタを燃焼する際に、ダイオキシンの発生が懸念され、またワタの量が非常に多い場合にワタを完全に灰化することが難しい。
そこで、我々は西洋カボチャの種子とワタの混合物の処理方法を鋭意研究した結果、還元状態、即ち、低酸素の状態で種子とワタの混合物を高温で加熱する事により、ワタは炭化して微細な粒子となって種子から分離させる事が出来た。
これは炭焼き釜の原理と類似するものであり、入り口と出口に開口部があるだけの密閉容器の中を種子とワタの混合物を移動させながら、400度から600度の高温にさらすとワタは炭化して種皮からはがれ、かつ微粒子化し、その混合物を水洗もしくは高圧空気処理すると非常に容易に、かつ完全な状態で、種子とワタを分離する事が出来た。
また、種子は高温にさらされた事により種皮のコルク様組織が破壊され、油分の浸透を防ぐことができ搾油が容易となった。
さらにこの方法を用いると、ワタの量が非常に多い場合でもなんら問題なく、容易にワタを炭化、微粒子化して除く事が出来る。
酸素がある状態で、このような高温に種子とワタをさらすと燃焼してしまい、ダイオキシンの発生が起こる。よって、還元状態即ち低酸素状態で高温加熱処理する事により、燃焼を抑えて、かつワタの炭化による種皮からの分離をなさしめることができた。
また、加熱温度と加熱時間を低く短く調整する事により、炭化させずにワタの組織をばらばらにし、ワタと種子を分離する事もできる。この非炭化加熱の場合も、還元状態(低酸素状態)で加熱することが必須である。有酸素状態での高温加熱は燃焼を起こし、ダイオキシンの発生をもたらす。
【0021】
この方法が見出されたことにより、種子とワタの混合物を連続的に安全に24時間処理する事が出来、さらにバーナーによる燃焼に比べ熱効率が大幅に向上し、生産性とコストダウンに大きく貢献する。
また還元状態(低酸素状態)で加熱するのでダイオキシンの発生もほとんどなく廃棄物焼却による環境汚染がない。
なお、加熱の方法としては、工業用の電子レンジや、過熱蒸気を用いることもできるが、これらの装置は設備投資額が大きく、カボチャの加工工場に設置するのはコスト上不利である。
以上の方法を用いて精製した西洋カボチャ種子油は、緑黄色の透明な液状を呈し、西洋カボチャ種子油特有の香ばしい風味を有していた。そのままで、あるいは他の原料と配合して飲食品として利用できる。
以下に、実施例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
(西洋カボチャ種子油の製造−1)
西洋カボチャの生の種子とワタ1:1の混合物1tを三恵製作所(株)製の焼土殺菌乾燥機 やく兵衛1型YA103HPを用いて、回転しながら連続して直火で加熱し、ワタを燃焼した。
次に、三恵製作所(株)製のロータリーキルン式ふるい機MF−600を用いて、燃焼したワタの灰と乾燥・焙煎された種子を分離した。得られた乾燥種子160kgをドイツEgon Keller社製搾油機P0101型を用いて搾油を行い、25kgの油を得た。油分は濾別後、水を加えて生じた沈殿物を遠心分離で除いて精製し、西洋カボチャ種子油を得た。精製した西洋カボチャ種子油は、緑黄色の透明な液状を呈し、西洋カボチャ種子油特有の香ばしい風味を有していた。
【実施例2】
【0023】
(西洋カボチャ種子油の製造―2)
西洋カボチャの生の種子とワタ1:2の混合物1tを焼土殺菌乾燥機へクサペット100S型(株式会社三研製)を用いて、回転しながら直火で連続してワタを燃焼させた。それを金網の篩でワタの燃焼灰を除き、得られた乾燥種子110kgを(株)スエヒロEPM社製圧搾機V-05を用いて搾油し、16kgの油を得た。油分は濾別後、水を加えて生じた沈殿物を遠心分離で除いて精製し、西洋カボチャ種子油を得た。精製した西洋カボチャ種子油は、緑黄色の透明な液状を呈し、西洋カボチャ種子油特有の香ばしい風味を有していた。
【実施例3】
【0024】
(西洋カボチャ種子油の還元状態での製造―1)
西洋カボチャの生の種子とワタ1:3の混合物2tを還元乾燥炭化機(やく兵衛D型;三恵製作所(株)製)を用いて、連続的に炉内をスクリューコンベアーで移動させながら加熱した。炉内温度は600℃として約90分間加熱した。加熱処理を終わった種子とワタの混合物に水を加えて攪拌し、金網の篩で種子と炭化微粒子化したワタを分離した。種子は乾燥機(やく兵衛1型YA103HP;三恵製作所(株)製)を用いて、200‐250℃で乾燥し、(株)スエヒロEPM社製圧搾機V-05を用いて搾油し、25kgの油を得た。油はフィルターでろ過し、緑黄色の透明な西洋カボチャ種子油を得た。
【実施例4】
【0025】
(西洋カボチャ種子油の還元状態での製造―2)
西洋カボチャの生の種子とワタ1:4の混合物2tを還元乾燥炭化機(やく兵衛D型;三恵製作所(株)製)を用いて、連続的に炉内をスクリューコンベアーで移動させながら加熱した。炉内温度は400度として約70分間加熱した。加熱処理を終わった種子とワタの混合物を高圧空気により非炭化微粒子化したワタを除いた。種子は通風乾燥機で乾燥後、(株)スエヒロEPM社製圧搾機V-05を用いて搾油し、19kgの油を得た。油は静置後上澄みをろ過し、緑黄色の透明な西洋カボチャ種子油を得た。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の製造方法により、西洋カボチャの加工時に排出される種子とワタの混在物からワタを除き、かつ種皮の多孔質を破壊して、搾られた油分がワタや種皮に吸収されずに得られるようになり、今まで農産廃棄物として処理されていた西洋カボチャの種子から容易に西洋カボチャ種子油を得ることが出来るようになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
西洋カボチャ種子とワタの混合物を加熱および乾燥し、ワタを除いて、種皮表面が加熱により変性した西洋カボチャ種子を搾油することを特徴とする西洋カボチャ種子油の製造方法。
【請求項2】
西洋カボチャ種子とワタの混合物を直火で燃焼し、灰化したワタを除いて、乾燥した西洋カボチャ種子を搾油することを特徴とする西洋カボチャ種子油の製造方法
【請求項3】
西洋カボチャ種子とワタの混合物を還元状態(低酸素状態)で加熱し、炭化または非炭化のワタを除いて、種皮表面が加熱により変性した西洋カボチャ種子を搾油することを特徴とする西洋カボチャ種子油の製造方法

【公開番号】特開2012−95637(P2012−95637A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6882(P2011−6882)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(510268510)
【出願人】(510268521)
【出願人】(511138559)
【出願人】(508373497)株式会社日本健康食品研究所 (2)
【Fターム(参考)】