説明

覆工板の支持構造、覆工板の支持方法

【課題】その目的は、道路や公共スペースとしての機能が制限される時間を少なくするとともに、開削空間内における施工性を向上する。
【解決手段】開削空間2を覆うように設けられた覆工板40の支持構造100は、開削空間2の上方に設けられた上部架構20と、上部架構20に反力をとりながら、覆工板40を吊持する吊持部材30と、を備える

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を掘削して形成した開削空間上を覆うように複数の覆工板を支持する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地下鉄や地下タンク等の地中構造物を構築する際には、地盤を掘削し、開削空間を形成し、この開削空間内において地中構造物を構築している。ここで、開削空間を形成する敷地が道路や公共のスペースなどとして利用されている場合には、地中構造物の構築が終了するまで道路などとしての機能が失われてしまう。このため、開削空間内に所定のスパンで複数の支持杭を設け、これら中間杭の間に桁材を設け、この桁材上に覆工板を敷設し、これらの覆工板により形成される覆工面を道路などとして利用することが行われている。
【0003】
ここで、上記のように開削空間内に支持杭を設けると、この地中杭を避けて施工しなければならず、開削空間内における作業の障害となってしまう。そこで、例えば、特許文献1には、土留壁間に複数段に亘って設けられた切梁の間に鉛直継ぎ材を設置し、切梁及び鉛直継ぎ材により囲まれる部分に斜材を設置することにより、これらの部材によりトラス梁を構成し、このトラス梁により覆工板を支持し、支持杭を省略する方法が記載されている。また、例えば、特許文献2には、掘削対象となる地盤上に人工地盤を構築するとともに、この人工地盤をジャッキにより支持しておき、人工地盤の下方の地盤を所定深さまで掘削した後、ジャッキにより人口地盤を地盤高さまで降下させて、この人工地盤を覆工面として利用する方法が記載されている。
【特許文献1】特開平11―140892号公報
【特許文献2】特開平7―48845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、依然として開削空間内に、切梁及び鉛直継ぎ材が存在するため、これらの部材が開削空間内における作業の障害となる。また、特許文献2記載の方法では、人工地盤を地盤高さに降下させるまで、人工地盤上を道路などとして利用することができず、時間的制約が大きい。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、道路などとしての機能が制約される時間を少なくするとともに、開削空間内における施工性を向上することが可能な覆工板の支持構造及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の覆工板の支持構造は、開削空間を覆うように設けられた覆工板の支持構造であって、前記開削空間の上方を跨ぐように設けられた上部架構と、前記上部架構に反力をとりながら、前記覆工板を吊持する吊架構と、を備えることを特徴とする。
【0007】
上記の支持構造において、前記吊架構は、前記覆工板を下方より支持する下部架構と、前記上部架構に反力をとりながら、前記下部架構を吊持する吊部材と、からなるものであってもよい。
【0008】
また、前記上部架構は、その上部に工事用重機を積載可能な作業構台として機能するものであってもよい。また、前記開削空間の周囲には地中壁が構築されており、前記上部架構は、前記地中壁の上部に設置された鉛直方向に延びる鉛直部材と、前記鉛直部材により前記開削空間の上方に支持された水平部とからなるものであってもよい。また、 前記地中壁には、一端が地盤内に固着されたグランドアンカーの他端が接続されていてもよい。
【0009】
また、前記上部架構は、下端に移動手段が設けられた、鉛直方向に延びる鉛直部材により支持されていてもよい。
【0010】
また、本発明の覆工板の支持方法は、開削空間を覆うように覆工板を支持する方法であって、前記開削空間の上方を跨ぐように上部架構を設け、前記上部架構に反力をとりながら、前記覆工板を吊持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、開削空間上方に設けた上部架構により覆工板を吊持するため、開削空間内に支持杭を設ける必要がなく、施工性を向上できる。また、支持架構を構築が完了して、すぐに、覆工板により形成された面を道路等として利用できるため、地上の機能が制限される時間を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の覆工板の支持構造を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の覆工板の支持構造を示す図であって、(A)は、鉛直断面図であり、(B)は(A)におけるI―I´断面図である。本実施形態の覆工板の支持構造100は、図1(A)の紙面垂直方向に延びる道路の下方に地中構造物1を構築するために、道路に沿って開削空間2を形成する際に用いられるものであり、開削空間2の上部を施工期間中に道路として利用できるように、開削空間2の上方を覆うように複数の覆工板40を地表高さに支持するものである。
【0013】
同図に示すように、開削空間2の幅方向両側には周囲の地盤3を支持するように、地中構造物1を構築する方向の両側に土留壁構造10が構築されている。土留壁構造10は、土留壁本体11と、グランドアンカー12とにより構成される。
【0014】
土留壁本体11としては、鉄筋コンクリート造の地中連続壁などを採用することができる。後述するように、土留壁本体11は、上部に上部架構20の鉛直部材24が接続されており、覆工板40を支持する上部架構20の荷重が作用するため、この荷重を支持できるように十分な強度を有する地盤まで根入れされている。
【0015】
グランドアンカー12は、一端が土留壁本体11に接続され、他端が周囲の地盤3に固着されている。土留壁本体11には、周囲の地盤3より土水圧による荷重が作用するが、グランドアンカー12の端部が周囲の地盤3に固着されているため、この土水圧に対して抵抗することができる。このため、土留壁本体11の間に周囲の地盤から作用する土水圧に抵抗するために設けていた切梁を省略することができる。
【0016】
支持構造100は、開削空間2を覆うように設けられた上部架構20と、覆工板40を下方より支持する下部架構50と、上部架構20に反力をとりながら下部架構50を吊持する吊持部材30と、から構成される。
【0017】
上部架構20は、開削空間2の上方に、その両側に亘って構築されたトラス架構(特許請求の範囲の水平部に相当)21と、土留壁本体11の上端面に鉛直方向に延びるように設置され、トラス架構21を支持する鉛直部材24と、トラス架構21上に鋼材を井桁状に組むことにより構成された井桁架構23と、この井桁架構23上に敷設された覆工板22とを備える。上部架構20は、その上部に昇り降りができるように昇降設備(不図示)が設けられており、上部に工事用重機を配置し、作業構台として利用することが可能である。また、トラス架構21より吊持部材30が鉛直方向に延びており、後述するように、この吊持部材30により、覆工板40を下方より支持する下部架構50が吊持されている。
【0018】
トラス架構21は鋼材をトラス状に組むことにより構成された架構であり、高い剛性を有する。このため、上部に積載された工事用重機の荷重及び吊持部材30を介して伝達される覆工板40上を通る車両の荷重を支持することができる。
【0019】
鉛直部材24は、開削空間2の長手方向に適宜間隔をあけて設けられ、下端が地盤3に十分に根入れされた土留壁本体11の上部に接続されている。鉛直部材24には、トラス架構21を介して上部架構20の上部に配置された工事用重機や、吊持部材30を介して伝達される覆工板40上を通る車両の荷重が作用する。これらの荷重は、鉛直部材24を介して土留壁本体11に作用するが、土留壁本体11が十分に根入れされており、基礎構造と同様に機能するため、これを支持することが可能となる。
【0020】
図2は、吊持部材30により覆工板40が吊持されている様子を示す図であり、(A)は、図1(A)の吊持部材30近傍の拡大図であり、(B)は(A)におけるII―II´断面図である。同図に示すように、吊持部材30は、トラス架構21を構成する鋼材に、地中構造物1の開削空間2の長手方向に所定の間隔をあけて取り付けられている。吊持部材30は、トラス架構21を構成する鋼材に上方より当接するように配置された上方の鋼材32と、この上方の鋼材32の両端に上端が接続され、上下方向に延びる吊材33と、この吊材33の下端に接続され、下部架構50を支持する下方の鋼材31と、から構成される。
【0021】
吊材33は、下部架構50を吊持するのに十分な引張耐力を有する棒状の鋼材からなり、覆工板40の上面が周囲の地盤3の地表高さと略一致するように長さが調整されている。
【0022】
下部架構50は、地中構造物1の構築方向(道路の延長方向;図2(B)における左右方向)に隣接する吊持部材30の下方の鋼材31間に複数の下段鋼材51を架け渡し、複数の上段鋼材52を、この架け渡された下段鋼材51の上部に直交するように、覆工板40の幅と略等しい間隔で架け渡すことにより構成される。隣接する上段鋼材52間に亘って覆工板40を敷き詰めていくことにより、地表面高さに覆工面を形成することができる。なお、図2(A)では、下方の鋼材31は下段鋼材51の下面に当接するように設けられている。
【0023】
上記のように、覆工板40が吊持部材30を介して支持されているため、従来、覆工板40を支持するために開削空間2内に設けられていた支持杭を省略することが可能となる。また、土留壁本体11に作用する土水圧をグランドアンカー12で支持することとしたため、切梁を省略することができる。このように開削空間2内の支持杭や切梁が省略されているため、これらを避けて施工する必要がなくなり、開削空間2内における開削作業や地中構造物1の構築作業の施工性が向上する。
【0024】
図3は、上記の支持構造100により地表面高さに支持された覆工板40上を車両通行用の道路として利用している様子を示す図である。同図に示すように、トラス架構21と覆工板40との間に空間には、鉛直方向に延びる吊部材33しか存在せず、容易に車両60の通行が可能となる。通行する車両60及び覆工板40の荷重は、下部架構50及び吊持部材30を介して上部架構20に伝達されることとなる。これに対して、上部架構20を構成するトラス架構21は上記のように十分な剛性を有し、また、上部架構20は十分に根入れされた地中壁本体11に支持されているため、この荷重を支持することが可能となる。
【0025】
以下、上記の支持構造100を用いて地中構造物を構築する方法を説明する。
まず、図4に示すように、開削空間2の両側部にあたる位置に地中壁本体11を構築する。そして、地中壁本体11の上部に支持構造100を構築する。
次に、開削空間2にあたる部分の地盤を掘削する。図5は、開削空間2にあたる部分の地盤の掘削を行う様子を示す図である。同図に示すように、開削空間2の掘削を行う際は、開削空間2内にパワーショベルなどの掘削用重機71を揚重し、これらの掘削用重機71により施工を行う。この際、開削空間2内に切梁や支持杭がないため、これら掘削用重機71の作業が制限されず、施工性が向上する。そして、所定の深さまで掘削が進行した段階で、掘削作業を中断し、グランドアンカー12を打設する。
【0026】
また、地盤を掘削することにより生じた掘削残土は、支持構造100の上部を作業構台として用いて、支持構造100上より外部に搬出すればよい。支持構造100の上部より掘削残土を搬出する場合には、施工を行う部分の上方にあたる支持構造20の上方の覆工板22及び支持構造20により吊持された覆工板40を取り外す。そして、これら覆工板22、40を取り外した部分を通して、クラムシェル70により開削空間2内で発生した掘削残土を外部に排出することができる。
【0027】
次に、開削空間2内において、地中構造物1を構築するため、鉄筋の組立て及び型枠の設置を行う。図6は、開削空間2内において鉄筋の組立て及び型枠の設置を行う様子を示す図である。同図に示すように、本実施形態の覆工板40の支持構造100によれば、開削空間2内に切梁や覆工板を支持する支持杭が存在しないため、開削空間2内での施工効率が向上する。また、支持構造100を作業構台として利用することにより、支持構造100上にクレーン73やトラック74を配置し、資材を支持構造100の上方より開削空間2に揚重することができ、敷地が狭くても効率よく施工を行うことができる。
【0028】
そして、図7に示すように、地中構造物1を構成するコンクリートを打設する。なお、コンクリートの打設は、同図に示すように、支持構造100の上部にポンプ車75及びミキサー車76を配置して、覆工板22、40を取り外した部分を通して行えばよい。
【0029】
次に、図8に示すように、開削空間2内に土砂70を搬入して、埋め戻しを行った後、支持構造100を撤去し、道路を復旧することにより、地中構造物1の構築が完了する。
【0030】
なお、上記の各工程は、地中構造物1の長手方向に複数の区間に分割して、各区間を例えば、地盤3の掘削を行う掘削区間と、地中構造物1の構築を行う構築区間と、コンクリートの打設を行うコンクリート打設区間と、埋め戻しを行う埋め戻し区間とに分けて、並行して行うと効率が良い。このように複数の区間に分割して施工を行う場合には、複数の区間の上方に夫々支持構造100を構築し、埋め戻しが完了した区間の支持構造100を次に掘削を行う区間に移動して用いることができる。
【0031】
また、一区間ごとに掘削から埋め戻しまでを行っていくような場合には、鉛直部材24の下端に車輪を設けるとともに、土留壁本体11の上部にレールを敷設しておき、支持構造100をレール上の移動可能とすることにより効率良く施工を行うことができる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の覆工板40の支持構造100によれば、開削空間2内に切梁や支持杭を省略することができるため、開削空間2内における掘削作業や地中構造物1の構築作業の効率を向上することができる。特に、既設の地下構造物(地下鉄の駅部)の拡幅工事には本工法のメリットが大きい。
【0033】
また、上部架構20の上部を作業構台として利用し、上部架構20上に配置した作業用重機70により施工を行うことができるため、施工効率を向上することができる。このことは、特に、周囲に施工ヤードを確保することができないような場所における施工に有効である。
【0034】
また、従来は、地中構造物1の構築作業完了後に、覆工板40を支持する支持杭を次の施工区域に移動する盛替え作業をおこなっていたが、支持杭を省略することにより、この杭の盛替え作業が発生しないため、工期を短縮することができる。
【0035】
また、支持構造100を構築し、覆工板40を敷設すれば、すぐに、覆工板40上を車両の通行などに使用することができるため、道路としての機能を制限する期間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態の覆工板の支持構造を示す図であり、(A)は、鉛直断面図であり、(B)は(A)におけるI―I´断面図である。
【図2】吊持部材によりトラス架構に反力をとりながら覆工板が吊持されている様子を示す図であり、(A)は、鉛直断面図であり、(B)は(A)におけるII―II´断面図である。
【図3】支持構造により地表面高さに支持された覆工板上を車両通行用の道路として利用している様子を示す図である。
【図4】開削空間の両側部にあたる位置に地中壁本体が構築された様子を示す図である。
【図5】開削空間にあたる部分の地盤の掘削を行う様子を示す図である。
【図6】開削空間内において鉄筋の組立て及び型枠の設置を行う様子を示す図である。
【図7】地中構造物を構成するコンクリートを打設する様子を示す図である。
【図8】開削空間内に土砂を搬入し、埋め戻しを行う様子を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 地中構造物 2 開削空間
10 土留壁構造 11 土留壁本体
12 グランドアンカー 20 支持構造
21 トラス架構 22 覆工板
23 井桁架構 24 鉛直部材
30 吊持部材 31 下方の鋼材
32 上方の鋼材 33 吊部材
40 覆工板 50 下部架構
51 下段鋼材 52 上段鋼材
60 車両 70 クラムシェル
71 掘削用重機 73 クレーン
74 トラック 75 ポンプ車
76 ミキサー車 100 支持構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開削空間を覆うように設けられた覆工板の支持構造であって、
前記開削空間の上方を跨ぐように設けられた上部架構と、
前記上部架構に反力をとりながら、前記覆工板を吊持する吊架構と、を備えることを特徴とする支持構造。
【請求項2】
前記吊架構は、
前記覆工板を下方より支持する下部架構と、
前記上部架構に反力をとりながら、前記下部架構を吊持する吊部材と、からなることを特徴とする請求項1記載の覆工板の支持構造。
【請求項3】
前記上部架構は、その上部に工事用重機を積載可能な作業構台として機能することを特徴とする請求項1又は2記載の覆工板の支持構造。
【請求項4】
前記開削空間の周囲には地中壁が構築されており、前記上部架構は、前記地中壁の上部に設置された鉛直方向に延びる鉛直部材と、前記鉛直部材により前記開削空間の上方に支持された水平部とからなることを特徴とする請求項1から3のうち何れかに記載の覆工板の支持構造。
【請求項5】
前記地中壁には、一端が地盤内に固着されたグランドアンカーの他端が接続されていることを特徴とする請求項4記載の覆工板の支持構造。
【請求項6】
前記上部架構は、下端に移動手段が設けられた、鉛直方向に延びる鉛直部材により支持されていることを特徴とする請求項1から3のうち何れかに記載の覆工板の支持構造。
【請求項7】
開削空間を覆うように覆工板を支持する方法であって、
前記開削空間の上方を跨ぐように上部架構を設け、
前記上部架構に反力をとりながら、前記覆工板を吊持することを特徴とする覆工板の支持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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