説明

覆蓋の製造方法

【課題】 複数の板部材を湾曲させて製作することにより、板部材に発生する応力を小さくすることができるものであって、製作を容易にすることができる覆蓋を提供する。
【解決手段】 本発明の覆蓋の製造方法は、複数の板部材12を重ねて積層状態し、板部材12同士を固定せずに板部材12の積層状態を保持するように仮止めし、板部材12の積層面でずらすようにしながら積層状態の板部材12を湾曲させ、板部材12を湾曲させた状態で固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路や水槽などの上に配置される覆蓋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水路や水槽などの上に配置される覆蓋は、外部から水路や水槽などへ物などが落下することを防止したり、内側からのにおいが外部に漏れないようにするものである。また、覆蓋は、人が上に乗った場合など、覆蓋に荷重がかかった場合に破損しないように強度を有するものが用いられている。
【0003】
このような覆蓋は、水路や水槽の上側に載せるので、水路や水槽の幅が長い場合などには、長い覆蓋が用いられる。このような覆蓋は、自重や上からかかる荷重を支える必要があるので、高強度で軽量の素材を用い、上方に突出するような形状であるアーチ状のものが用いられている。このような覆蓋は特許文献1などに記載されている。
【特許文献1】特開2002−88739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなアーチ状の覆蓋は、成形された板部材を所定の形状に切断し、この切断された板部材を湾曲させた状態で固定することにより製造される。
そのため、覆蓋に用いられる板部材には、内部に応力が発生した状態となっており、具体的には、上側(アーチの外側)には引張応力が、下側(アーチの内側)には圧縮応力が発生している。
【0005】
そして、このような応力を有する状態で覆蓋を使用した場合、応力が大きいほど、素材の経時的劣化による破損が発生しやすい。
また、板部材の表面付近で歪みが最大となるが、曲率が同じ場合、厚みが大きいほど歪みが大きくなり、内部の応力が大きくなる。そのため、板部材を薄くすることにより内部応力を小さくすることが可能であるが、覆蓋の強度を維持する必要があるため、板部材が薄くすることには限界がある。
【0006】
このため、薄い板部材を重ねて、覆蓋を製作することが考えられる。かかる場合、内部に発生する歪みが小さくなって、内部に残留する曲げ応力が小さくなるだけでなく、湾曲する際に必要な荷重も小さく(板部材の厚みの3乗に比例)なり、作業性が向上する。
【0007】
しかし、複数の板部材を湾曲させた状態で、板部材を重ね、一定の湾曲状態で板部材同士を固定することは難しいものであった。例えば、板部材同士を接着剤などで固定する場合、接着剤が固化して強度が発現するまで湾曲状態を保持する必要があり、作業性が良いものでない。また、一旦固定すると、調整が困難である。
【0008】
そこで、本発明は、複数の板部材を湾曲させて製作することにより、湾曲した状態で板部材に発生する内部応力を小さくすることができ、また、容易に製作することができる覆蓋を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するための請求項1に記載の発明は、複数の板部材を重ねて積層状態とする積層工程と、板部材同士を固定せずに板部材の積層状態を保持するように仮止めを行う仮止め工程と、板部材の積層面でずらすようにしながら積層状態の板部材を湾曲さ
せる湾曲工程と、板部材を湾曲させた状態で固定する湾曲固定工程とを有することを特徴とする覆蓋の製造方法である。
【0010】
請求項1に記載の覆蓋の製造方法によれば、積層状態とした複数の板部材を仮止めして湾曲させて固定するので、湾曲に要する力を小さくすることができ、覆蓋を容易に製作することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、複数の板部材には貫通孔が設けられており、仮止め工程では、棒状部と前記棒状部の両側に配置される積層保持部とを有する挿通部材を用い、前記棒状部を板部材の貫通孔に挿通し、両側の積層保持部を積層状態の板部材を挟むことにより仮止めするものであることを特徴とする請求項1に記載の覆蓋の製造方法である。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、板部材に設けられた貫通孔に、挿通部材の棒状部を挿通して、挿通部材の積層保持部によって積層状態の板部材を挟んで仮止めするものであるので、仮止め作業を簡単に行うことができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、複数の板部材は、1枚の基準板と、1枚又は2枚以上の移動板とからなり、前記移動板の貫通孔は長孔であって、湾曲工程において、前記長孔の延びる方向に対して、湾曲によって形成される板部材の尾根の方向が直交するように板部材を湾曲させることを特徴とする請求項2に記載の覆蓋の製造方法である。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、1枚の基準板と、1枚又は2枚以上の長孔を有する移動板とからなる板部材を積層し、長孔の延びる方向に対して、湾曲によって形成される板部材の尾根の方向が直交するように板部材を湾曲させるので、長孔と、長孔に挿通された挿通部材との間の相対移動が可能となる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、挿通部材は、棒状部と一方の積層保持部とを有するボルトと、前記ボルトと螺合可能であって他方の積層保持部を有するナットであり、湾曲固定工程は、ボルトとナットの締結により行われることを特徴とする請求項2又は3に記載の覆蓋の製造方法である。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、挿通部材はボルトとナットであり、ボルトとナットの締結により板部材を湾曲状態で固定することができるので、仮止めするための部材と、固定のための部材とを兼用することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、板部材は繊維強化樹脂であり、湾曲工程において、繊維の配向方向に対して、湾曲によって形成される板部材の尾根の方向が直交するように板部材を湾曲させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の覆蓋の製造方法である。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、板部材は繊維強化樹脂であり、湾曲工程において、繊維の配向方向に対して、湾曲によって形成される板部材の尾根の方向が直交するように板部材を湾曲させるので、覆蓋の使用時に板部材の変形を低減させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の覆蓋は、内部に発生する応力を小さくすることができ、製作も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下さらに本発明の具体的実施例について説明する。
図1は、本発明の覆蓋の正面図である。図2は、本発明の覆蓋の分解斜視図である。図3は、仮止め状態の覆蓋を示した斜視図である。図4は、仮止め状態の覆蓋を示した正面
図である。図5は、仮止め状態の覆蓋を示した断面図である。図6は、湾曲状態の覆蓋を示した断面図である。図7は、変形例の覆蓋を示す断面図である。図8は変形例の覆蓋を示す斜視図である。
【0021】
本発明の覆蓋の製造方法によって製造される覆蓋10は、図1に示されるように、水路90の上側を覆うように設けられるものであり、覆蓋10の両側の端部10aが水路90の両側の縁91付近に載せるように設置される。そして、外側から水路90へ物が落下することを防止したり、水路90から発生する腐敗性のガスなどの拡散を阻止することができる。
【0022】
また、水路90の両側の縁91には、覆蓋10の端部10aが入る受け枠92が設けられている。受け枠92は、側部92aと上部92bを有し、上部がアーチ状の覆蓋10の上側に沿うように傾斜している。そして、覆蓋10が水路90で使用される場合には、覆蓋10の両側の端部10aが、両側の側部92aの内側であって、上部92bの下側に位置している。そのため、覆蓋10に、板部材12の湾曲が戻るような大きな力が加わった場合にも、受け枠92によって覆蓋10の形状を保持することができる。
そして、後述するように、ボルト22及びナット23やワイヤー30などにより、覆蓋10の形状を保持している。
【0023】
覆蓋10は、図2に示されるように、板部材12と、ボルト22及びナット23からなる挿通部材13と、ワイヤー30により製作されるものであり、製作された覆蓋10は、図1に示されるように、湾曲してアーチ状となっている。
【0024】
板部材12には、基準板20と移動板21の2種類がある。基準板20及び移動板21は、いずれも、長尺状であって、長辺12a及び短辺12bを有する長方形の板である。そして、後述するように、板部材12を湾曲させる際には、長辺12aを曲げる方向に行われる。また、基準板20及び移動板21の厚み、幅、長さは同じものが用いられている。
【0025】
基準板20には、厚み方向に貫通する貫通孔20aが設けられている。そして、貫通孔20aは丸孔であり、複数有して縦横に配列している。この配列は、短辺12bに沿う方向に3個の貫通孔20aが1列に並んでおり、この3個の貫通孔20aが長辺12aに沿う方向に5列有して、合計15個設けられている。したがって、図5に示されるように、長尺方向に5ヵ所の貫通孔20aが配置されている。
【0026】
貫通孔20aの内径は、ボルト22の棒状部25の外径よりも大きいので、棒状部25を貫通孔20aに挿入することができる。また、貫通孔20aの内径は、ボルト22の頭部26やナット23よりも小さいので、ボルト22の頭部26やナット23を貫通孔20aに挿入することができない。
【0027】
また、移動板21には、厚み方向に貫通する貫通孔21a、21bが設けられている。貫通孔21aは、基準板20の貫通孔20aとほぼ同じ大きさの丸孔であり、貫通孔21bは長辺12aに沿う方向、すなわち、長尺方向に延びる長孔である。
長孔である貫通孔21bの幅は、ボルト22の棒状部25の外径よりも大きく、棒状部25を貫通孔21bに挿入することができる。
【0028】
そして、貫通孔21a、21bの位置は、基準板20の貫通孔20aの位置に対応して設けられている。貫通孔21aは長辺12aの中央付近に、短辺12bに沿う方向に3個並んで1列有しており、貫通孔21bは他の位置に12個設けられ、4列有している。
【0029】
板部材12の材質は、基準板20、移動板21共に同じ材質であり、具体的にはガラス繊維補強されたウレタン樹脂発泡体が用いられている。そして、ガラスの配向方向は、長辺12aに沿う方向、すなわち、長尺方向に配向している。したがって、長尺方向の曲げ強度や、長尺方向の引張強度が特に補強されている。
なお、湾曲させることができるものであれば、他の材質を用いることができ、FRP板やアルミ板、ステンレス鋼板などを用いることができる。
【0030】
ボルト22は、図2に示されるように、棒状部25と頭部26を有しており、棒状部25は雄ねじ状であり、ナット23と螺合することができる。また、ボルト22の頭部26やナット23は、本発明においては積層保持部として機能する。
そして、ボルト22及びナット23は、貫通孔20aや貫通孔21a、21bの個数と同じ数の15組用いられる。
【0031】
15個のボルト22は、貫通孔20aや貫通孔21a、21bに挿通されて使用される。また、図2に示されるように、縦横に配列した位置の内、4つの角の位置で使用されるボルト22には、リング26aが設けられている。リング26aは、ボルト22の頭部26に連結されており、2本のワイヤー30が接続される。
【0032】
次に、覆蓋10の製造方法について説明する。
まず、基準板20及び移動板21を重ね合わせて積層状態とする(積層工程)。この積層の際、基準板20及び移動板21を合わせるようにし、基準板20の貫通孔20aの位置と、移動板21の貫通孔21a、21bの位置とを合わせる。
また、積層状態では、基準板20の積層面40(図2において下側の面)と、移動板21の積層面41(図2において上側の面)が接触している状態となっており、積層面40、41に沿う方向には移動可能である。
【0033】
そして、貫通孔20aと、貫通孔21a又は貫通孔21bに、ボルト22を挿通してナット23と螺合して軽く締めて、仮止めを行い、仮止め状態とする(仮止め工程)。そうすると、図3〜図5に示されるように、ボルト22の頭部26と、ナット23との間に積層状態の板部材12が挟まれて、板部材12の積層状態を保持することができる。
【0034】
ボルト22の挿入は基準板20側から行われ、移動板21側に突出したボルト22の棒状部25にナット23を螺合する。
また、仮止め状態では、ボルト22とナット23を軽く締めた状態であって締結状態でないので、基準板20及び移動板21の間では固定状態ではなく、後述するように、板部材12を湾曲させる場合に積層面40、41に沿って移動する。
【0035】
ただし、図5に示されるように、基準板20の貫通孔20a及び移動板21の貫通孔21aの内径は、ボルト22の棒状部25の外径にほぼ等しく、基準板20及び移動板21は、ボルト22に対してほとんど相対移動できない。そのため、基準板20及び移動板21との間の移動が制限され、板部材12を湾曲させない限り積層面40、41に沿う方向に移動できず、また、基準板20と移動板21とは外れない。
【0036】
そして、長孔である移動板21の貫通孔21bにボルト22が挿通されるが、このボルト22の棒状部25の位置は、図5に示されるように、移動板21の長手方向の中央側に寄った位置である。そのため、ボルト22棒状部25が、長手方向の外側に向かって相対移動可能である。
【0037】
さらに、仮止め状態から、板部材12の積層状態を維持しながら、積層面40、41でずらすようにして板部材12を湾曲させる(湾曲工程)。この湾曲は、図6に示されるよ
うに、板部材12の長手方向の端部付近を支持部50によって支え、長手方向の中央付近を押さえたり、おもりを載せるなどして荷重をかけて行われる。
【0038】
板部材12を長手方向を曲げるようにして湾曲させると、長手方向に対して垂直な方向は、湾曲せず尾根状となる。そして、湾曲によって積層面40、41の間がずれ、基準板20と移動板21との間で起こる相対移動の方向は、この尾根の方向に対して垂直な方向である。
長孔状の貫通孔21bの延びる方向や、板部材12の繊維の配向方向は、この尾根の方向に対して垂直となる方向であり、基準板20と移動板21との間で起こる相対移動の方向と同じ方向となっている。
【0039】
板部材12を湾曲させると、基準板20が内側に、移動板21が外側となり、基準板20の積層面40が湾曲の外側となり、移動板21の積層面41が湾曲の内側となり、積層面40、41がほぼ同じ曲率となるように湾曲していく。
このとき、基準板20と移動板21とが内外となるので、基準板20と移動板21との間で相対位置がずれる。そして、図6に示されるように、長孔である貫通孔21bに挿通されたボルト22の棒状部25の位置がずれ、長手方向の中央側から外側に向かって相対移動する。
【0040】
また、長手方向の中央付近に設けられている貫通孔21aでは、ボルト22の位置がずれないので、基準板20及び移動板21の中央付近は、相対移動しない。そのため、湾曲させた場合に、基準板20と移動板21との間のずれが対称となり、ずれる位置が偏らない。
【0041】
本実施形態の覆蓋10の製造方法では、基準板20と移動板21の2枚の板部材12を積層したものを用いているので、湾曲させる力が小さくなって湾曲させやすく、湾曲工程の作業が行いやすい。
【0042】
そして、板部材12を湾曲させた状態で固定する(湾曲固定工程)。具体的には、図6に示されるように、リング26a同士をワイヤー30で接続し、リング26a同士の距離が広がらないようにし、さらに、軽く締めた状態のボルト22とナット23を十分に締め付けて、積層面40、41同士を押しつけ、この積層面40、41間でずれないようにして行われる。
なお、このワイヤー30にターンバックルなどの長さ調整機構を設け、この長さ調整機構を用いて湾曲状態を微調整することもできる。
【0043】
この湾曲固定工程の作業は、長手方向の中央付近に荷重をかけた状態で行われ、湾曲固定工程の作業が終わった後に、荷重を解く。
本実施形態の湾曲固定工程では、ボルト22とナット23との締め付けと、リング26a同士をワイヤー30で接続により行われるものであったが、湾曲状態が維持できれば、いずれか一方でも良く、さらに、他の手段を用いることもできる。また、接着剤を用いて湾曲状態で強固に固定することもできる。
【0044】
そして、湾曲固定工程の作業が完了すると覆蓋10が完成する。覆蓋10を製作する際は、板部材12の長手方向の端部付近を支持部50によって支えて中央付近に荷重を加えて行うので、上側が凹状となるが、使用する場合には、図1に示すように、上下反転させて上側が凸状の状態として用いられる。
【0045】
また、本実施形態の覆蓋10の製造方法では、板部材12は基準板20と移動板21との2枚であったが、図7に示す覆蓋11aのように、1枚の基準板20と2枚以上の移動
板21の合計3枚以上の板部材12として、これらを積層状態として覆蓋10を製造することもできる。この場合、移動板21に設けられる貫通孔21bを長孔状として、この貫通孔21bに挿通されるボルト22の棒状部25が長手方向に移動できるようにしておく。
【0046】
また、移動板21の貫通孔21a、21bの全てを長孔状としても良い。さらに、板部材12について、基準板20、移動板21を区別せずに、板部材12の全てに長孔状の貫通孔を設けてもよい。
【0047】
上記した実施形態では、基準板20と移動板21との厚みは同じであり、板部材12同士の厚みは同じであったが、異なる厚みのものを用いてもよい。この場合、最大の厚みの板部材12を、積層状態の板部材12全体の厚みに対して半分以下の厚みにすることが望ましい。
【0048】
さらに、本実施形態では基準板20が内側となるように湾曲させたが、基準板20が外側となるように湾曲させることもできる。さらに、移動板21を複数使用した場合には基準板20を移動板21の間に配置することもできる。
【0049】
また、上記実施形態では挿通部材13として、ボルト22とナット23を用いたが、ねじシャフトを棒状部25として用い、この両側に2個のナット23を積層保持部として用いる構成を採用することができる。さらに、棒状部25と積層保持部となる部材をねじ以外の方法で連結することもできる。
【0050】
そして、図8に示す覆蓋11bのように、枠部材51を用いて板部材12を積層状態で仮止めするようにしても良い。枠部材51は長方形の枠状であり、積層状態の板部材12をこの枠の中に挿入し積層状態を保持して仮止めする。
【0051】
また、上記の覆蓋の製造方法では、板部材12、ボルト22、ナット23及びワイヤー30を用いるものであり、小さい力で湾曲させることができるので、覆蓋10、11を使用する現場で板部材12を湾曲させて製造することが可能である。
この場合、板部材12が湾曲していない状態で、使用現場に搬送することができるので、板部材12の搬送の際に積み重ねやすい。
【実施例】
【0052】
以下のようにして、実施例1、2及び比較例1の覆蓋10を製造して性能を確認した。
【0053】
(実施例1)
基準板20及び移動板21は、ウレタン発泡体をガラス長繊維で補強した成形品である積水化学工業株式会社エスロンネオランバーFFU(比重0.5)を用い、厚み15mm、幅600mm、長さ5500mmに切断した長方形状の板を用いた。
【0054】
そして、図2に示されるように、基準板20には丸孔である貫通孔20aを15ヵ所、移動板21には丸孔である貫通孔21aを3ヵ所、長孔である貫通孔21bを12ヵ所形成した。
【0055】
1枚の基準板20と、1枚の移動板21とを重ねて積層状態とし、ボルト25を貫通孔20a及び貫通孔21a、21bに挿通してナット23を装着して仮止めした。
さらに、図5に示すように、2ヵ所の支持部50の上に載せた状態で、中央付近に荷重をかけて湾曲させる。2ヵ所の支持部50の間隔は5000mmであり、荷重のかけ方は、1個5kgのおもりを徐々に載せて行う。このとき、湾曲の量(板部材12の中央付近
の変形量)が750mmとなったときのおもりの合計量を湾曲必要荷重Pとして測定した。この状態では、覆蓋10の高さは基準板20及び移動板21の厚みを含むので780mmとなる。
【0056】
そして、ナット23を締め付け、ワイヤー30をリング26aに接続して湾曲状態で固定し、実施例1の覆蓋10を製作した。
さらに、上下を反転させて、図1に示す状態とし、水路90上に設置して強度を確認した。具体的には、覆蓋10の長手方向の1/4の位置(端部から1375mmの位置)に60kgのおもりを載せ、おもりを載せる前後での変形量をたわみ量として測定した。
【0057】
また、湾曲状態の板部材12の最大曲げ応力を確認した。具体的には、上記した湾曲させる際に必要な湾曲必要荷重Pを用いて、式1により算出した。
最大曲げ応力σ=3PL/(2nbt2 )(式1)
ここで、Lはスパンの長さ(mm)で本実施例では500mm、nは重ねる枚数で本実施例では2、bは基準板20や移動板21の幅で本実施例では600mm、tは基準板20や移動板21の厚みで本実施例では15mmである。なお、湾曲必要荷重Pの単位はN(ニュートン)に換算して用いる。
【0058】
(実施例2)
基準板20及び移動板21の厚みを10mmとし、基準板20を1枚、移動板21を2枚用いた点を除いては、実施例1と同様な方法で覆蓋10を製造し、また、湾曲必要荷重、60kgのおもりを載せたときのたわみ量、最大曲げ応力を確認した。
なお、最大曲げ応力を算出する際に用いるnは3、tは10mmであり、L、bは同じ値である。
【0059】
(比較例1)
厚み30mmのウレタン発泡体をガラス長繊維で補強した成形品を用い、これを単独で湾曲させ、他の内容については、実施例1と同様な方法で覆蓋10を製造し、また、湾曲必要荷重、60kgのおもりを載せたときのたわみ量、最大曲げ応力を確認した。
なお、最大曲げ応力を算出する際に用いるnは1、tは30mmであり、L、bは同じ値である。
【0060】
実施例1、2及び比較例1の、湾曲必要荷重、60kgのおもりを載せたときのたわみ量、最大曲げ応力を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、実施例1及び実施例2では、比較例1と比べて、湾曲必要荷重が非常に小さく、湾曲を容易に行うことができる。
また、実施例1及び実施例2の湾曲状態で発生している最大曲げ応力は、比較例1よりも小さく、実施例2では特に小さい。そして、実施例1、2の材質の許容応力が50MPaであり、比較例1では、許容応力の50%以上となっているが、実施例1で30%、実施例2で20%と小さく、覆蓋10を破損し難くすることができる。
さらに、実施例1及び実施例2のたわみ量は、比較例1に比べてやや大きいが、その差は、それぞれ2mm、4mmであり、大きな差が見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の覆蓋の正面図である。
【図2】本発明の覆蓋の分解斜視図である。
【図3】仮止め状態の覆蓋を示した斜視図である。
【図4】仮止め状態の覆蓋を示した正面図である。
【図5】仮止め状態の覆蓋を示した断面図である。
【図6】湾曲状態の覆蓋を示した断面図である。
【図7】変形例の覆蓋を示す断面図である。
【図8】変形例の覆蓋を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0064】
10、11a、11b 覆蓋
12 板部材
13 挿通部材
20 基準板
21 移動板
20a、21a、21b 貫通孔
22 ボルト
23 ナット
25 棒状部
40、41 積層面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板部材を重ねて積層状態とする積層工程と、板部材同士を固定せずに板部材の積層状態を保持するように仮止めを行う仮止め工程と、板部材の積層面でずらすようにしながら積層状態の板部材を湾曲させる湾曲工程と、板部材を湾曲させた状態で固定する湾曲固定工程とを有することを特徴とする覆蓋の製造方法。
【請求項2】
複数の板部材には貫通孔が設けられており、仮止め工程では、棒状部と前記棒状部の両側に配置される積層保持部とを有する挿通部材を用い、前記棒状部を板部材の貫通孔に挿通し、両側の積層保持部を積層状態の板部材を挟むことにより仮止めするものであることを特徴とする請求項1に記載の覆蓋の製造方法。
【請求項3】
複数の板部材は、1枚の基準板と、1枚又は2枚以上の移動板とからなり、前記移動板の貫通孔は長孔であって、湾曲工程において、前記長孔の延びる方向に対して、湾曲によって形成される板部材の尾根の方向が直交するように板部材を湾曲させることを特徴とする請求項2に記載の覆蓋の製造方法。
【請求項4】
挿通部材は、棒状部と一方の積層保持部とを有するボルトと、前記ボルトと螺合可能であって他方の積層保持部を有するナットであり、湾曲固定工程は、ボルトとナットの締結により行われることを特徴とする請求項2又は3に記載の覆蓋の製造方法。
【請求項5】
板部材は繊維強化樹脂であり、湾曲工程において、繊維の配向方向に対して、湾曲によって形成される板部材の尾根の方向が直交するように板部材を湾曲させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の覆蓋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−207233(P2006−207233A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19985(P2005−19985)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】