説明

視覚再生補助装置及び該装置の製造方法

【課題】 体内(眼内)に設置する装置の大きさを小さくさせることのできる視覚再生補助装置を提供する。
【解決手段】 網膜を構成する細胞を電気刺激することにより視覚を再生する視覚再生補助装置において、多数の電極が形成されるとともに,多数の電極に電気的に接続され網膜を構成する細胞を刺激するための電気刺激信号を電極から出力するためのマルチプレクサ部がフリップ実装される基板と、患者に認知させる被写体を撮影する撮影手段と、撮影手段により得られた被写体情報を電気刺激パルス信号としてマルチプレクサを介して電極から出力するための信号変換手段と、信号変換手段とマルチプレクサ部とを電気的に接続するワイヤーと、を有し、ワイヤーの一端はマルチプレクサ部に形成されたバンプと直接接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は視覚再生のため、眼内に設置される視覚再生補助装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、失明治療技術の一つとして、電極等を有する体内装置を眼内に設置し、網膜を構成する細胞を電気刺激して視覚の再生を試みる視覚再生補助装置の研究がされている。このような視覚再生補助装置は、例えば体外にて撮像された映像を光信号や電波信号に変換した後、眼内に設置された体内装置に送信して電極から刺激パルス信号を出力して網膜を構成する細胞を電気刺激することにより、視覚の再生を試みるものである(特許文献1 参照)。
【特許文献1】特開2004−298298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述したような体内装置を患者の体内(眼内)に設置可能するためのスペースは限られており、体内装置をできる限り小型化させる必要がある。
本発明は上記の事情を鑑みてなされたものであり、体内(眼内)に設置する装置の大きさを小さくさせることのできる視覚再生補助装置及びその製造方法を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
(1) 網膜を構成する細胞を電気刺激することにより視覚を再生する視覚再生補助装置において、多数の電極が形成されるとともに,該多数の電極に電気的に接続され網膜を構成する細胞を刺激するための電気刺激信号を前記電極から出力するためのマルチプレクサ部がフリップ実装される基板と、患者に認知させる被写体を撮影する撮影手段と、該撮影手段により得られた被写体情報を電気刺激パルス信号として前記マルチプレクサを介して前記電極から出力するための信号変換手段と、該信号変換手段と前記マルチプレクサ部とを電気的に接続するワイヤーと、を有し、該ワイヤーの一端は前記マルチプレクサ部に形成されたバンプと直接接続されていることを特徴とする。
(2) (1)の視覚再生補助装置において、前記マルチプレクサ部に設けられたワイヤー接続用の前記バンプは他の接続のために設けられるバンプの高さよりもよりも低くされていることを特徴とする。
(3) (1)の視覚再生補助装置において、前記ワイヤーは生体適合性のよい材料にて被覆された状態で複数本用意されるとともに、該複数のワイヤを束ねて一本のケーブル状とするケーブル形成部材を有することを特徴とする。
(4) (3)の視覚再生補助装置において、前記ワイヤーの線材はプラチナ、プラチナ−イリジウム合金、ステンレス鋼のいずれかであることを特徴とする。
(5) 網膜を構成する細胞を電気刺激することにより視覚を再生する視覚再生補助装置の製造方法において、基板上に電極及び該電極とマルチプレクサ部とを接続するためのリード線を形成する第1ステップと、前記マルチプレクサ部を前記基板上にフリップ実装するためにマルチプレクサ部の入力部及び出力部にバンプを形成する第2ステップと、前記マルチプレクサ部の前記出力部にバンプを介してリード線を直接接続するとともに前記入力部にバンプを介して通信用のワイヤーを直接接続する第3ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、効率の良い配線が行えるとともに装置を小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は視覚再生補助装置の外観を示した概略図、図2は実施の形態で使用する視覚再生補助装置における体内装置を示す図、図3は制御系のブロック図である。
1は視覚再生補助装置であり、図1及び図2に示すように、外界を撮影するための体外装置10と網膜を構成する細胞に電気刺激を与え、視覚の再生を促す体内装置20とからなる。体外装置10は、患者が掛けるバイザー11と、バイザー11に取り付けられるCCDカメラ等からなる撮影装置12と、外部デバイス13、一次コイルからなる送信手段14等にて構成されている。
【0007】
外部デバイス13には、CPU等の演算処理回路を有するデータ変調手段13a、視覚再生補助装置1(体外装置10及び体内装置20)の電力供給を行うためのバッテリー13bが設けられている。データ変調手段13aは、撮影装置12にて撮影した被写体像を画像処理し、さらに得られた画像処理後のデータを、視覚を再生するための電気刺激パルス用データに変換する処理を行う。送信手段14は、データ変調手段13aにて変換された電気刺激パルス用データ、及び後述する体内装置20を駆動させるための電力を電磁波として体内装置20側に伝送(無線送信)することができる。また、送信手段14の中心には図示なき磁石が取り付けられている。磁石は後述する受信手段31との位置固定に使用される。
バイザー11は眼鏡形状を有しており、図1に示すように、患者の眼前に装着して使用することができるようになっている。また、撮影装置12はバイザー11の前面に取り付けてあり、患者に視認させる被写体を撮影することができる。
【0008】
図2に示す体内装置20は、大別して体外装置10から送信される電気刺激パルス用データや電力を電磁波により受け取るための受信部30と、網膜を構成する細胞を電気刺激するための刺激部40により構成される。受信部30には、体外装置10からの電磁波を受信する2次コイルからなる受信手段31や、制御部32が設けられている。制御部32は、受信手段31にて受信された電気刺激パルス用データと電力信号とを分ける回路、電気刺激パルス用データを基に視覚を得るための電気刺激パルス信号に変換するための変換回路や、変換した電気刺激パルス信号を刺激部40へ送信するための電気回路等を有している。これら受信手段31や制御部32は基板33上に形成されている。なお、受信部30には送信手段14を位置固定させるための図示なき磁石が設けられている。34は不関電極(参照電極)であり、制御部32に接続されている。
【0009】
また、刺激部40は、電気刺激パルス信号を出力する電極41、マルチプレクサ部42、が設けられている。電極41は基板43上に形成され、マルチプレクサ部42は基板43にフリップ実装されている。基板43は、ポリプロピレンやポリイミド等、生体適合性が高く、所定の厚さにおいて折り曲げ可能な材料を長板状に加工したものをベース部とし、この上に電極41とマルチプレクサ部42とを電気的に接続するためのリード線43aが配線されている。
【0010】
受信部30と刺激部40とは複数のワイヤー50によって電気的に接続されている。ワイヤー50は生体適合性の良い貴金属(プラチナ、プラチナ-イリジウム合金)やステンレス鋼を用いている、また、複数のワイヤー50は、取り扱いが容易となるように、チューブ51によって一つに束ねられている。なお、各ワイヤー50は接続部分を除いて絶縁被膜が施されている。
【0011】
図4は刺激部40の詳細な構成を示した概略図である。
電極41は、図4(a)に示すように、2次元的に等間隔になるように複数個形成され、電極アレイを形成している。なお、基板43上に形成される電極41は、金、白金等の生体適合性、耐食性に優れた導電性を有する材料にて基板43に形成したリード線43a末端に形成される。なお、電極41もまた、金、白金等の生体適合性、耐食性に優れた導電性を有する材料にて形成される。また、本実施形態における基板43上の電極41は、図4(a)に示すように、10行×10列にて等間隔に形成されている。リード線43aは、電極数分だけ基板43上に形成されており、図4(b)に示すように多層配線等にて形成されている。リード線を多層に配線する方法としては、例えば、所定の配線パターンを形成するための開口が設けられたマスク(フォトレジスト)を基板に重ねておき、真空蒸着法やスパッタ法を用いて、耐腐食性の金属材料からなる導電層(リード線)をマスクの開口部を介して基板上に形成させる。その後、マスクを基板上から取り除き、導電層を被覆するように所定の厚さを有した絶縁層を形成する。これを複数行うことにより、リード線を多層に配線することが可能となる。
【0012】
また、マルチプレクサ部42の図示なき信号出力部には、金等の導電性を有する材料にてバンプ42aが形成されており、マルチプレクサ部42のフリップ実装時にリード線43aの末端とバンプ42aとが接合されることにより、マルチプレクサ部42から出力される電気刺激パルス信号がリード線43aを介して電極41に送られることとなる。なお、ワイヤー50は図4(b)に示すように、マルチプレクサ部42にバンプ42bを介して直接接続される。
【0013】
次に、ワイヤー50をマルチプレクサ部42に接続させる方法を以下に説明する。なお、図5及び図6は、ワイヤー50をマルチプレクサ部42に接続する方法を示した概略図である。
図5(a)に示すように、フリップ実装させる際の基板43上におけるマルチプレクサ部の信号入力部の位置200を基板43上に設定しておき、この各位置200にワイヤー50の先端が位置するように合わせた後、治具100を用いてワイヤー50が前後左右に動かないようにしておく。なお、治具100はワイヤー50を上下から挟み込むことにより、ワイヤー50の位置固定を行う役目を有している。
【0014】
ワイヤー50の位置固定が完了したら、基板43上にマルチプレクサ部42をフリップ実装させる。図6に示すように、フリップ実装時では、マルチプレクサ部の図示なき出力部にバンプ42aを、入力部にバンプ42bを予め形成しておく。そして、リード線43aの末端にバンプ42aを、位置200に置かれるワイヤー50の先端にバンプ42bを各々合わせて、基板43にマルチプレクサ部42を圧着させる。このとき基板43とマルチプレクサ部42との間には、絶縁性を有する接着剤60を介在させ、基板43上にマルチプレクサ部42を固着させる。なお、リード線43a部に比べてワイヤー50の接続部が高い場合(基板上における高さが異なる場合)には、マルチプレクサ部42のフリップ実装時にリード線43aとワイヤー50の両方がバンプに好適に当接するように、予めバンプ42a,42bの高さを調節しておくことが好ましい。本実施形態では、図6に示すようにリード線43aに比べワイヤー50の位置が高いため、他の接続に用いられるバンプ(バンプ42a)の高さよりもバンプ42bの方を低くするように調節している。
【0015】
図5(b)に示すように、ワイヤー50とマルチプレクサ部42とを直接接続させることにより、ワイヤー50とマルチプレクサ部42とを接続するための配線スペースや配線を基板43上に設ける必要がない。その結果、配線作業を少なくすことができるとともに、基板43を小さくすることが可能となる。
【0016】
マルチプレクサ部42が基板43に完全に固定されたら、治具100を取り外すとともに、ワイヤー50を図4に示すチューブ51にて一つに束ねておく。なお、受信部30側における制御部32とワイヤー50との接続は、このように直接接続してもよいし、既存の方法によって接続してもよい。また、図4に示す電極41以外の体内装置20はポリイミド等の生体適合性の良い材料にて被覆しておく。
【0017】
このような構成を備える体内装置20は、患者の体内(眼内)の所定位置に設置される。図7は患者眼Eに刺激部40を設置した一例を示す図である。図示するように、基板43上に形成される電極41を脈絡膜E2に接触させた状態で、基板43の一部は、強膜E3と脈絡膜E2との間に設置される。また、基板43のマルチプレクサ部42部分は、強膜E3の外側に置かれる。この基板43の設置は、強膜E3の一部を切開して強膜ポケットを形成させておき、この強膜ポケット内(脈絡膜E2の外側)に基板43の電極部分を挿入し設置後、縫合等により基板43を固定することにより行われる。なお、不関電極34は図7に示すように眼内に置かれる。
【0018】
一方、受信手段31は、体外装置10に設けられた送信手段14からの信号(電気刺激パルス用データ信号及び電力)を受信可能な生体内の所定位置に設置される。例えば、図1に示すように、患者の側頭部の皮膚の下に受信部30(図では受信手段31のみ示している)を埋め込むとともに、皮膚を介して受信部30と対向する位置に送信手段14とを設置しておく。受信部30には、送信手段14と同様に磁石が取り付けられているため、埋植された受信部30上に送信手段14を位置させることにより、磁力によって送信手段14と受信部30とがくっつき合い、送信手段14が側頭部に保持されることとなる。
なお、ワイヤー50を束ねるチューブ51は、側頭部に埋め込まれた受信部30から側頭部に沿って皮膚下を患者眼に向かって延び、患者の上まぶたの内側を通して眼窩に入れられる。眼窩に入れられたチューブ51は、図7に示すように強膜E3の外側を通り、基板43に設置されたマルチプレクサ部に接続される。
【0019】
以上のような構成を備える視覚再生補助装置において、その動作を図3に示す制御系のブロック図を基に説明する。
図1に示す撮影装置12により撮影された被写体の撮影データ(画像データ)は、データ変調手段13aに送られる。データ変調手段13aは、撮影した被写体を患者が認識するために必要となる所定のデータパラメータ(電気刺激パルス用データ)に変換し、さらに電磁波として伝送するのに適した変調信号に変調し、送信手段14より電磁波として体内装置20側に送信する。
また同時に、データ変調手段13aは、バッテリー13bから供給されている電力を前述した変調信号の帯域と異なる帯域の電磁波として前記変調信号と合わせて体内装置20側に送信する。
【0020】
体内装置20側では、体外装置10より送られてくる変調信号と電力とを受信手段31にて受け取り、制御部32に送る。制御部32では受けとった信号から、変調信号を抽出する。制御部32は、抽出した変調信号に基づいて、各電極41から出力させる電気刺激パルス信号と電極指定信号とを形成し、ワイヤー50を介して電極指定信号マルチプレクサ部42に送信する。マルチプレクサ部42では、受け取った電極指定信号に基づいて各電極41から電気刺激パルス信号を出力させる。各電極41から出力する電気刺激パルス信号によって網膜を構成する細胞が電気刺激され、患者は視覚(光覚)を得る。なお、制御部32は、受信手段31により体内装置20を駆動させるための電力を得る。
【0021】
以上の実施形態では、体内装置20(刺激部40)の設置位置を強膜E3側に位置させて、強膜側(脈絡側)から網膜E1を構成する細胞を電気刺激する構成としたが、これに限るものではない。患者眼の網膜を構成する細胞を好適に刺激することが可能な位置に電極を設置することができればよい。例えば、体内装置を患者眼の眼内(網膜上や網膜下)に置き、電極が形成されている基板先端部分を網膜下(網膜と脈絡膜との間)や網膜上に設置させるような構成とすることもできる。なお、基板の固定は、縫合だけでなく、例えばタックや生体適合性の高い接着剤等にて固定保持させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態における視覚再生補助装置の外観を示した概略図である。
【図2】本実施形態の視覚再生補助装置における体内装置を示した概略図である。
【図3】本実施形態における視覚再生補助装置の制御系を示したブロック図である。
【図4】体内装置の刺激部の構成を示した概略図である。
【図5】マルチプレクサ部にワイヤーを直接接続する方法を示した図である。
【図6】マルチプレクサ部に直接接続された状態を示した図である。
【図7】眼内に体内装置を設置した状態を示した図である。
【符号の説明】
【0023】
1 視覚再生補助装置
10 体外装置
20 体内装置
40 刺激部
41 電極
42 マルチプレクサ部
42a,42b バンプ
43 基板
50 ワイヤー




【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜を構成する細胞を電気刺激することにより視覚を再生する視覚再生補助装置において、多数の電極が形成されるとともに,該多数の電極に電気的に接続され網膜を構成する細胞を刺激するための電気刺激信号を前記電極から出力するためのマルチプレクサ部がフリップ実装される基板と、患者に認知させる被写体を撮影する撮影手段と、該撮影手段により得られた被写体情報を電気刺激パルス信号として前記マルチプレクサを介して前記電極から出力するための信号変換手段と、該信号変換手段と前記マルチプレクサ部とを電気的に接続するワイヤーと、を有し、該ワイヤーの一端は前記マルチプレクサ部に形成されたバンプと直接接続されていることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項2】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記マルチプレクサ部に設けられたワイヤー接続用の前記バンプは他の接続のために設けられるバンプの高さよりもよりも低くされていることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項3】
請求項1の視覚再生補助装置において、前記ワイヤーは生体適合性のよい材料にて被覆された状態で複数本用意されるとともに、該複数のワイヤを束ねて一本のケーブル状とするケーブル形成部材を有することを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項4】
請求項3の視覚再生補助装置において、前記ワイヤーの線材はプラチナ、プラチナ−イリジウム合金、ステンレス鋼のいずれかであることを特徴とする視覚再生補助装置。
【請求項5】
網膜を構成する細胞を電気刺激することにより視覚を再生する視覚再生補助装置の製造方法において、基板上に電極及び該電極とマルチプレクサ部とを接続するためのリード線を形成する第1ステップと、前記マルチプレクサ部を前記基板上にフリップ実装するためにマルチプレクサ部の入力部及び出力部にバンプを形成する第2ステップと、前記マルチプレクサ部の前記出力部にバンプを介してリード線を直接接続するとともに前記入力部にバンプを介して通信用のワイヤーを直接接続する第3ステップと、を有することを特徴とする視覚再生補助装置の製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−280412(P2006−280412A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100562(P2005−100562)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「身体機能代替・修復システムの開発 人工視覚システム」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】