説明

親水剤、基材の親水化方法及び親水性製品

【課題】高い親水性を有し、かつ優れた耐久性を発揮可能な親水性製品を提供する。
【解決手段】本発明の親水剤は、基材の無機層1と共有結合可能な反応基と、反応基と結合され、スルホ基又はスルホン酸塩からなる親水基とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水剤、基材の親水化方法及び親水性製品に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の製品の表面の機能化のために、親水化方法、特に親水性コーティングが活用されている。表面を親水化することにより、空気中の水分を吸着し、分子レベルの水膜を形成することで、汚れ物質が付着しにくく、付着しても水をかけることで容易に汚れ物質を除去できる。親水性が特に高いコーティングは、透明材料、鏡面材料の表面に処理した場合、防曇性を発揮する。
【0003】
防曇性コーティングは、大別すると吸水タイプと水膜タイプになる。この技術を応用した鏡が製品化されている。
【0004】
吸水タイプの防曇コーティングは特許文献1〜5等に開示がある。このタイプの防曇コーティングは、コーティング膜が界面活性剤や親水剤を含有しており、コーティング膜が湿気を吸収(吸水)することで写像性が確保される。この防曇コーティングによれば、表面に水を掛けなくても防曇性能がでるという長所を発揮する。この技術が応用された例としては、洗面化粧台の防曇鏡として、(株)INAXの「くもり止めコート」やパナソニック電工(株)の「くもりシャット」(登録商標)等がある。
【0005】
一方、水膜タイプの防曇コーティングは、コーティング膜がSiO2やTiO2等の親水性かつナノサイズの無機粒子を含んでおり、コーティング膜の表面に水を保持して水膜を形成することで写像性を確保している。この防曇コーティングが採用された防曇鏡は、表面が無機ナノ粒子からなることから、傷付き難い点が長所である。また、無機ナノ粒子を表面に高温処理した防曇鏡では、大量の水と接触し得る水周りの環境下でも繰り返して使用できる点が長所である。この技術が応用された例としては、浴室用鏡としてTOTO(株)の「ハイドロテクト(登録商標)」、セントラル硝子(株)の「ミエミラー・シャインビュー(登録商標)」等がある。
【0006】
また、水周りで鏡や陶磁器製品等の無機材料を使う場合、溶存ミネラルに起因する汚れが発生する。このような汚れを防ぐ技術は、特許文献6に記載しているように、無機材料表面に、フッ素、シリコーン等の非極性・低エネルギー分子を分子レベルで共有結合させたコーティングである。この分子コーティングを無機材料に採用することで、表面の非極性・低エネルギー分子が汚れの原因となる水道水中の溶存ミネラルをブロックし、表面と溶存ミネラルとの化学反応を防ぐ。このような分子コーティングを鏡に応用した場合、非極性・低エネルギー分子が表面でナノレベルの層を形成しているため、写像性を妨げず、かつ傷が付かないという長所を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3852955号公報
【特許文献2】特許第4535707号公報
【特許文献3】特許第4535708号公報
【特許文献4】特許第4381742号公報
【特許文献5】特許第4401731号公報
【特許文献6】特許第4226136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、薄膜が吸水タイプの防曇鏡は、薄膜の架橋密度が低いことから、薄膜に毛染め剤等の染料が浸透し易く、汚染後の回復が困難である。また、この防曇鏡は、多量の水と接触し得る水回りの環境下では、薄膜から界面活性剤や親水剤が溶出し易い。また、この防曇鏡は、薄膜が軟質であり、薄膜を形成していない通常の鏡に比べ、擦傷が付き易い。このため、この防曇鏡は耐久性の向上が望まれる。
【0009】
一方、薄膜が水膜タイプの防曇鏡は、ナノレベルの凹凸が表面にあるので、汚れが浸み込みやすく、汚れを除去し難いという難点がある。また、この防曇鏡は、浴室の鏡として使用された場合、溶存ミネラルで表面が汚れ、この汚れも除去し難いという難点がある。また、この防曇鏡は、薄膜が吸水タイプの防曇鏡よりも表面の親水性が低いことから、水をかけないと水膜が形成されず、洗面所や自動車の内面等に使用し難い。このため、この防曇鏡はさらなる親水性の向上が望まれる。
【0010】
なお、分子コートタイプの防汚鏡は、撥水性を呈してしまうため、蒸気によって曇るという欠点がある。
【0011】
上記不具合は防曇コーティングについてだけ生じるものではなく、広く親水性製品について生じる。
【0012】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、高い親水性を有し、かつ優れた耐久性を発揮可能な親水性製品を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、上記課題解決のために鋭意研究し、特定の親水剤を採用すれば、課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明の親水剤は、基材の無機層と共有結合可能な反応基と、該反応基と結合され、スルホ基又はスルホン酸塩からなる親水基とを有していることを特徴とする(請求項1)。
【0015】
本発明の親水剤は基材の無機層と共有結合可能な反応基を有する。このため、基材の無機層に親水剤を接触させれば、基材には、その無機層と反応基との共有結合を介し、ナノレベルの親水層が強固に形成されることとなる。このため、得られる親水性製品は、親水層の親水基が親水性を発揮する。特に、スルホ基又はスルホン酸塩からなる親水基は、極性が大きく、表1(出典「新化粧品ハンドブック(日光ケミカルズ(株)、日本サーファクタント工業(株)、東色ピグメント(株)、(株)コスモテクニカルセンター、(株)ニコダームリサーチ編(2006))」)にHLB(Hydrophile-Lipophile Balance)の基数を示すように、高い親水性を発揮する。
【0016】
【表1】

【0017】
また、この親水性製品は、親水層がナノレベルであることから、傷が付き難い。また、この親水性製品は、反応基が汚れの原因となる水道水中の溶存ミネラルをブロックし、表面と溶存ミネラルとの化学反応を防ぐことから、汚染に強い。このため、この親水性製品は高い耐久性を発揮する。
【0018】
したがって、この親水剤によれば、高い親水性を有し、かつ優れた耐久性を発揮可能な親水性製品を製造することが可能である。
【0019】
基材としては、表面に無機層が存在する鏡、ガラス、セラミックス、金属等を採用することが可能である。無機層は、ケイ素等の酸化物で構成されていてもよく、水酸化物で構成されていてもよい。
【0020】
発明者らの考察によれば、反応基と親水基とはアルキル鎖によって結合されていることが好ましい(請求項2)。これにより親水層が嵩高くなり、耐久性が向上すると考えている。
【0021】
具体例としては、化1に示すように、反応基がアルコキシシリル基であり、親水基がスルホ基である親水剤を採用することが可能である(請求項3)。ここで、R1はH又はCnH2n(nは自然数)であり、R2はCmH2m(mは0又は自然数)である。
【0022】
【化1】

【0023】
発明者らの考察によれば、アルコキシシリル基はアルキル基がCnH2n(nは2以下の自然数)であることが好ましい(請求項4)。
【0024】
また、発明者らの考察によれば、アルキル鎖はCmH2m(mは10以下の自然数)であることが好ましい(請求項5)。発明者らは、化2に示すスルホシラン(スルホ基を含むシラン化合物)によって本発明の効果を確認した。
【0025】
【化2】

【0026】
本発明の基材の親水化方法は、表面に無機層を有する基材を用意する第1工程と、
該無機層と共有結合可能な反応基と、該反応基と結合され、スルホ基又はスルホン酸塩からなる親水基とを有している親水剤を用意する第2工程と、
該無機層に該親水剤を接触させることにより、該無機層と該反応基とを共有結合して処理済基材とする第3工程とを備えていることを特徴とする(請求項6)。
【0027】
本発明の親水化方法によれば、高い親水性を有し、かつ優れた耐久性を発揮可能な親水性製品を製造することが可能である。
【0028】
第2工程後、処理済基材を100°C未満の温度で加熱する第4工程を備えていることが好ましい(請求項7)。第4工程により、親水剤の反応基と無機層との間で脱水反応を生じ、反応基が無機層と強固に結合する。なお、加熱温度が100°C以上になると、親水層が熱によって劣化し、親水性製品の親水性が低下する。
【0029】
第2工程では、親水剤を極性溶媒によって希釈してなるコート液を用意し、第3工程では、無機層にコート液を接触させることが好ましい(請求項8)。この場合、無機層上における親水剤の斑を防止して親水層を均一に形成できることから、親水性製品が安定した効果を生じる。また、親水剤の使用量を減らして製造コストの低廉化を実現できるとともに、施工性を向上させることができる。
【0030】
極性溶媒としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等を採用することができる。極性溶媒のSP値は、9.0以上であることが好ましく、10.0以上であることがより好ましい。
【0031】
コート液には酸性触媒を添加することも可能である。この場合、親水剤と無機層との反応性を高めることができる。なお、コート液に塩基性触媒を添加することは、親水剤の分散性を損ねることになるので、好ましくない。
【0032】
コート液にケイ素、チタン等の金属のアルコキシドを添加することも可能である。この場合、金属アルコキシドでネットワーク構造を形成し、親水層の強度を高めることが可能である。但し、メチル基等の疎水性官能基を含む金属アルコキシドは親水剤の親水性を損ねるので適さない。
【0033】
本発明の親水性製品は、無機層を有する基材と、無機層上に形成された親水層とを備えている。親水層は、無機層と共有結合した反応基と、反応基と結合され、スルホ基又はスルホン酸塩からなる(請求項9)。
【0034】
本発明の親水性製品は、高い親水性を有し、かつ優れた耐久性を発揮可能である。この親水性製品は、防曇鏡の他、洗面所や自動車の内面等に使用される防曇ウィンドウ、防曇レンズ、防汚鏡、防汚ウィンドウ、防汚レンズ等として具体化され得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1〜12のサンプルの一部を示す模式構造図である。
【図2】比較例1のサンプルの一部を示す模式構造図である。
【図3】比較例2のサンプルの一部を示す模式構造図である。
【図4】比較例8のサンプルの一部を示す模式構造図である。
【図5】超親水から撥水撥油までの特性等を示す説明図である。
【図6】参考例のサンプルの一部を示す模式構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を具体化した実施例等を図面を参照しつつ説明する。
【0037】
(実施例1)
スルホシラン1.0gをイソプロピルアルコール100gに希釈し、2時間攪拌することによりコート液を用意した。図1(A)に示すように、基材としての鏡上にこのコート液を塗布し、処理済基材とした。処理済基材を60°Cで30分間加熱し、防曇鏡のサンプルを得た。
【0038】
得られたサンプルは、図1(B)に示すように、鏡のガラス1上のOH基に対し、コート液中のスルホシランのアルコキシシリル基が共有結合し、ナノレベルの親水層2が強固に形成されていると考えられる。
【0039】
(実施例2)
実施例1と同様の工程の後、処理済基材を90°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。サンプルの構成は実施例1と同様であると考えられる。
【0040】
(実施例3)
実施例1と同様の工程の後、処理済基材を120°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。サンプルの構成は実施例1と同様であると考えられる。
【0041】
(実施例4)
スルホシラン1.0gをイソプロピルアルコール100gに希釈し、1N硝酸1mLを加え、2時間攪拌することによりコート液を用意した。鏡上にこのコート液を塗布し、処理済基材とした。処理済基材を60°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。サンプルの構成は実施例1と同様であると考えられる。
【0042】
(実施例5)
実施例4と同様の工程の後、処理済基材を90°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。サンプルの構成は実施例1と同様であると考えられる。
【0043】
(実施例6)
実施例4と同様の工程の後、処理済基材を120°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。サンプルの構成は実施例1と同様であると考えられる。
【0044】
(実施例7)
スルホシラン1.0gをイソプロピルアルコール100gに希釈し、1N硝酸1mLと、テトラエトキシシラン0.5gとを加え、2時間攪拌することによりコート液を用意した。鏡上にこのコート液を塗布し、処理済基材とした。処理済基材を60°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。サンプルの構成は実施例1と同様であると考えられる。
【0045】
(実施例8)
テトラエトキシシランの量を1.0gとし、他の条件を実施例7と同様とし、サンプルを得た。サンプルの構成は実施例1と同様であると考えられる。
【0046】
(実施例9)
テトラエトキシシランの量を2.0gとし、他の条件を実施例7と同様とし、サンプルを得た。サンプルの構成は実施例1と同様であると考えられる。
【0047】
(実施例10)
スルホシラン1.0gをイソプロピルアルコール100gに希釈し、1N硝酸1mLと、ジメチルジエトキシシラン0.5gとを加え、2時間攪拌することによりコート液を用意した。鏡上にこのコート液を塗布し、処理済基材とした。処理済基材を60°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。サンプルの構成は実施例1と同様であると考えられる。
【0048】
(実施例11)
ジメチルジエトキシシランの量を1.0gとし、他の条件を実施例10と同様とし、サンプルを得た。サンプルの構成は実施例1と同様であると考えられる。
【0049】
(実施例12)
ジメチルジエトキシシランの量を2.0gとし、他の条件を実施例10と同様とし、サンプルを得た。サンプルの構成は実施例1と同様であると考えられる。
【0050】
(比較例1(無機粒子系親水))
シリカナノ粒子(平均粒径12nm)0.5gと、ソーダ水ガラス5gと、リン酸ナトリウム0.5gとを水100mLに溶解し、コート液を用意した。基材としてのガラス上にこのコート液を塗布し、80°Cで15分間、150°Cで30分間及び300°Cで30分の加熱を行った。得られた防曇ガラスの裏にめっき板を貼り付け、サンプルとした。サンプルは、図2に示すように、ガラス1上にシリカナノ粒子3が付着した構成をしていると考えられる。
【0051】
(比較例2(親水化剤添加塗料))
吸水タイプの薄膜が形成された市販の防曇鏡をサンプルとした。サンプルは、図3に示すように、ガラス1上に薄膜4が形成された構成をしていると考えられる。薄膜4内には親水性のある界面活性剤4aが存在している。
【0052】
(比較例3(シロキサン系))
テトラエトキシラン1g及びシリカナノ粒子(平均粒径12nm)0.1gをエタノール50mL中に分散させ、さらに0.5N硝酸を0.1g添加し、2時間攪拌することでコート液を用意した。鏡上にこのコート液を塗布し、処理済基材とした。処理済基材を80°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。
【0053】
(比較例4(親水性塗料))
ウレタン塗料内にエチレンオキサイド骨格を有する市販の親水性塗料を用意した。イソシアネート基を持つシランカップリング剤(信越化学工業(株)製KBE−9007)を鏡上に塗布した後、親水性塗料を塗布し、処理済基材とした。処理済基材を60°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。
【0054】
(比較例5(親水性シランカップリング剤処理))
親水基である3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM−903)1gをエタノール50mLに添加した後、0.5N硝酸0.1gを添加し、2時間攪拌することでコート液を用意した。鏡上にこのコート液を塗布し、処理済基材とした。処理済基材を80°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。
【0055】
(比較例6(撥水性塗料))
シリコーンを含有する市販の撥水性塗料をコート液として用意した。鏡上に、イソシアネート基を持つシランカップリング剤(信越化学工業(株)製KBE−9007)を塗布した後、このコート液を塗布し、処理済基材とした。処理済基材を60°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。
【0056】
(比較例7(反応性シリコーン))
市販の反応性シリコーン(信越化学工業(株)製KS−9001)をコート液として用意した。鏡上にこのコート液を塗布し、処理済基材とした。処理済基材を80°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。
【0057】
(比較例8(フッ素シラン))
化3に示すフッ素シラン(C81724Si(OCH33)1gをエタノール50mlに添加した後、0.5N硝酸0.1gを添加し、2時間攪拌することでコート液を用意した。鏡上にこのコート液を塗布し、処理済基材とした。処理済基材を80°Cで30分間加熱し、サンプルを得た。
【0058】
【化3】

【0059】
サンプルは、図4(A)及び(B)に示すように、鏡のガラス1上のOH基に対し、コート液中のフッ素シランのアルコキシシリル基が共有結合し、ナノレベルの撥水層5が強固に形成されていると考えられる。しかし、フルオロアルキル基は極性が低く、撥水撥油性が強い。
【0060】
(比較例9(無処理の鏡))
市販の無処理の鏡をサンプルとした。
【0061】
実施例1〜12及び比較例1〜9のサンプルを以下の評価方法で評価した。
1.防曇性評価
80°Cに熱した温水の上に各サンプル配置して蒸気を各サンプルに当て、各サンプルの曇りの有無を目視にて評価した。
【0062】
2.防ミネラル(防汚性)評価
1回の操作にて、水道水を各サンプルに噴霧し、40°Cで2時間乾燥させる。この操作を30回繰り返し、水道水中の溶存ミネラルを各サンプルに析出させた。ミネラル析出物の除去性を目視にて評価した。
【0063】
3.防油性評価
オレイン酸5gとステアリン酸カルシウム5gとを混合した擬似汚れをサンプル上に塗布し、40°Cの温水をシャワーで3分間当てた後の除去性を目視にて評価した。
【0064】
4.接触角測定
各サンプルの表面で水接触角(°)を測定した。
【0065】
5.傷付き性
各サンプルの表面をボールペンで強く引っかき、傷付き性を目視にて測定した。
【0066】
6.汚染性
各サンプルの表面に毛染め剤を滴下し、24時間保持した後の清掃性を目視にて評価した。
【0067】
7.耐温水性
60°Cの温水中に15時間各サンプルを浸漬させた後、上記評価1〜6を実施した。
【0068】
結果を表2及び表3に示す。また、超親水から撥水撥油までの特性等を図5に示す。表2、表3及び図5より、比較例1〜9のサンプルは、いずれも何らかの弱点を示すが、本発明に含まれる実施例1〜12のサンプルは、既存技術を解決していることがわかる。
【0069】
なお、スルホシランではなく、アミノシラン(アミノ基を含むシラン化合物)を用いることも考えられる。アミノシランの一つである3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM−903)を化4に示す
【0070】
【化4】

【0071】
この場合においても、図6(A)及び(B)に示すように、鏡のガラス1上のOH基に対し、コート液中のアミノシランのアルコキシシリル基が共有結合し、ナノレベルの親水層6が強固に形成されていると考えられる。しかし、アミノ基はスルホ基よりも親水性が低く、セルフクリーニング性能や防曇性能が劣る。
【0072】
以上において、本発明を実施例1〜12に即して説明したが、本発明は上記実施例1〜12に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、浴室、洗面所又は自動車の防曇鏡や防曇ガラスの他、眼鏡等のレンズ等に利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
1…基材の無機層(ガラス)
2…親水層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の無機層と共有結合可能な反応基と、該反応基と結合され、スルホ基又はスルホン酸塩からなる親水基とを有していることを特徴とする親水剤。
【請求項2】
前記反応基と前記親水基とはアルキル鎖によって結合されている請求項1記載の親水剤。
【請求項3】
前記反応基がアルコキシシリル基であり、前記親水基がスルホ基である請求項1又は2記載の親水剤。
【請求項4】
前記アルコキシシリル基はアルキル基がCnH2n(nは2以下の自然数)である請求項3記載の親水剤。
【請求項5】
前記アルキル鎖はCmH2m(mは10以下の自然数)である請求項2記載の親水剤。
【請求項6】
表面に無機層を有する基材を用意する第1工程と、
該無機層と共有結合可能な反応基と、該反応基と結合され、スルホ基又はスルホン酸塩からなる親水基とを有している親水剤を用意する第2工程と、
該無機層に該親水剤を接触させることにより、該無機層と該反応基とを共有結合して処理済基材とする第3工程とを備えていることを特徴とする基材の親水化方法。
【請求項7】
前記第2工程後、前記処理済基材を100°C未満の温度で加熱する第4工程を備えている請求項6記載の基材の親水化方法。
【請求項8】
前記第2工程では、前記親水剤を極性溶媒によって希釈してなるコート液を用意し、
前記第3工程では、前記無機層に該コート液を接触させる請求項6又は7記載の基材の親水化方法。
【請求項9】
無機層を有する基材と、該無機層上に形成された親水層とを備え、
該親水層は、該無機層と共有結合した反応基と、該反応基と結合され、スルホ基又はスルホン酸塩からなることを特徴とする親水性製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−97171(P2012−97171A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245110(P2010−245110)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】