説明

親水化処理基材、親水化処理粉体、親水化処理粉体分散液及びそれらの製造方法

【課題】十分な親水性を有する親水化処理基材、皮膚刺激等を生ずることのない親水化処理粉体及びそれらを含有する分散液を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)


[式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、R2は炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基から選択される同一又は異種の有機基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜6のアルキレン基であり、aは1〜3の整数、bは0〜2の整数であり、a+b=3である。]で示される加水分解性シリル基含有酸無水物シラン化合物で表面処理した後、酸無水物部位を加水分解して開環し、さらにアルカリで部分的または完全に中和処理して得られた親水化処理基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解性シリル基含有酸無水物化合物で表面処理した後、加水分解して酸無水物部位を開環し、さらに塩基で部分的又は完全に中和処理して得られた親水化処理基材、親水化処理粉体、該粉体が分散した親水化処理粉体分散液、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面の処理には、求める目的により、様々な処理剤が使用されているが、この表面処理に用いる処理剤や処理方法は、被処理基材の表面性質等を考慮して選択され、例えば油剤や金属石鹸などによる親油化処理、界面活性剤や水溶性高分子等による親水化処理、シリコーン油等による撥水撥油処理等が知られている。
【0003】
しかし、親水化処理についてみると、例えば粉体を水系の媒質中に分散させる場合、粉体表面の持つ電荷や極性、微量の不純物等による凝集が起こる場合が多々ある。これまで、粉体表面の親水化処理により、水系媒質中での凝集を抑える試みがなされてきている。しかし、従来の界面活性剤や水溶性高分子等による親水化処理では効果が十分ではなく、これらで処理した粉体を配合した組成物は、系中で粉体と処理剤が解離してしまい、色むらが生じたり、外観色と塗布色との差を生じたり、また経時的に分散性が悪化して使用性を著しく損ねてしまう場合があった。また、使用する界面活性剤の種類によっては皮膚刺激性を生じる場合があり、特に化粧料に用いる場合には問題となることがあった。
【0004】
また、加水分解性シリル基を含有するポリエーテル変性シラン化合物を用いてスメクタイト型粘土鉱物の表面を親水化する方法が報告されている(特許文献1:特開平9−2815号公報)。この方法によれば、加水分解性シリル基の部分が粉体表面と化学結合を形成するため、系中で粉体と処理剤が解離してしまうという問題は解消される。しかし、この方法では、まだ親水化が十分ではなく、例えば酸化チタン粉体への表面処理に適用した場合、水系媒質中への十分な分散性が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−2815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、十分な親水性を有する親水化処理基材、特に、水系媒質中への分散性に優れ、皮膚刺激等を生ずることのない、粉体等の形態の親水化処理基材、該粉体が分散した親水化処理粉体分散液及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、基材、特に基材として粉体を、加水分解性シリル基含有酸無水物化合物で表面処理した後、酸無水物部位を加水分解して開環させ、生成したカルボン酸を塩基で部分的又は完全に中和処理して得られた親水化処理基材が、極めて優れた親水性を示すことを見出した。特に、該親水化処理を施した粉体は、優れた水分散性、分散安定性を有し、化粧品や塗料等への添加剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記親水化処理基材、親水化処理粉体、親水化処理粉体分散液及びそれらの製造方法を提供する。
請求項1:
基材表面に下記一般式(1)で示される加水分解性シリル基含有酸無水物化合物の酸無水物部位の開環カルボン酸が部分的又は完全に塩基で中和されてなる表面処理層を有することを特徴とする親水化処理基材。
【化1】

[式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、R2は炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基から選択される同一又は異種の有機基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜6のアルキレン基であり、aは1〜3の整数、bは0〜2の整数であり、a+b=3である。]
請求項2:
上記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)
【化2】

[R3は、メチル基又はエチル基である。]
で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載の親水化処理基材。
請求項3:
中和処理に使用する塩基が、NaOH、KOH、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミンの中から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2記載の親水化処理基材。
請求項4:
塩基による中和処理量が、開環によって生成するカルボン酸の全量に対して、0.1〜2倍当量であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の親水化処理基材。
請求項5:
基材が粉体であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の親水化処理基材。
請求項6:
粉体が無機粉体であることを特徴とする請求項5記載の親水化処理粉体。
請求項7:
粉体が酸化亜鉛であることを特徴とする請求項6記載の親水化処理粉体。
請求項8:
粉体が酸化チタンであることを特徴とする請求項6記載の親水化処理粉体。
請求項9:
粉体100質量部に対して、上記一般式(1)で表される加水分解性シリル基含有酸無水物化合物0.01〜30質量部を用いて粉体の表面を処理してなることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか1項記載の親水化処理粉体。
請求項10:
請求項5乃至9のいずれか1項に記載の親水化処理粉体が、水、水溶性溶剤、又は水と水溶性溶剤の混合物に分散していることを特徴とする分散液。
請求項11:
(A)基材を下記一般式(1)で表される加水分解性シリル基含有酸無水物化合物で表面処理する工程:
【化3】

[式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、R2は炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基から選択される同一又は異種の有機基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜6のアルキレン基であり、aは1〜3の整数、bは0〜2の整数であり、a+b=3である。]、
(B)上記の表面処理基材を水又は水と溶剤との混合物中に浸漬し、次いで塩基を添加し、加熱を行って、酸無水物部位を加水分解して開環し、併せて、生成するカルボン酸を中和する工程、
(C)溶媒を除去し、乾燥する工程
を含むことを特徴とする親水化処理基材の製造方法。
請求項12
基材が粉体であることを特徴とする請求項11記載の親水化処理基材の製造方法。
請求項13:
(A)基材である粉体を下記一般式(1)で表される加水分解性シリル基含有酸無水物化合物で表面処理する工程:
【化4】

[式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、R2は炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基から選択される同一又は異種の有機基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜6のアルキレン基であり、aは1〜3の整数、bは0〜2の整数であり、a+b=3である。]、
(B)上記の表面処理粉体を水又は水と溶剤との混合物中に浸漬し、次いで塩基を添加し、加熱を行って、酸無水物部位を加水分解して開環し、併せて、生成するカルボン酸を中和する工程、
(D)上記加水分解、中和後の液を分散機にかけて、粉体を微分散させる工程
を含むことを特徴とする親水化処理粉体が分散された分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の親水化処理基材は、基材表面に、特定の加水分解性シリル基含有酸無水物化合物の酸無水物部位の開環カルボン酸が部分的又は完全に塩基で中和されてなる表面処理層を有することで、十分な親水性を有する。このため、本発明によれば、水系媒質中への分散性に優れ、皮膚刺激等を生ずることのない親水化処理基材、特には親水化処理粉体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明において使用される加水分解性シリル基含有酸無水物化合物は下記一般式(1)で表されるものである。
【化5】

[式中、R1は水素原子又はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基であり、メチル基、エチル基が好ましい。R2は炭素数1〜30、特に1〜10のメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、アラルキル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のフッ素置換アルキル基から選択される同一又は異種の有機基であり、メチル基が特に好ましい。Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜6、好ましくは炭素数2〜4、特に好ましくは炭素数3のアルキレン基であり、aは1〜3の整数、好ましくは2、3、特に好ましくは3であり、bは0〜2の整数、好ましくは0、1、特に好ましくは0であり、a+b=3である。]
【0011】
好ましくは、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物等が挙げられる。
【化6】

[R3は、メチル基又はエチル基である。]
【0012】
上記の加水分解性シリル基含有酸無水物化合物を用いて、基材の表面を親水化処理する方法について説明する。
本発明で用いられる基材は、表面を親水化する必要のある基材であれば特に制限はなく、有機物であっても無機物であってもよく、形状は、板状、塊状、粉体状等特に制限はないが、粉体が好ましい。以下、具体例を示す。
【0013】
無機粉体としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、マイカ、カオリナイト、セリサイト、白雲母、合成雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、リチア雲母、ケイ酸、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸ストロンチウム、タングステン酸金属塩、ヒドロキシアパタイト、バーミキュライト、ハイジライト、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、ゼオライト、セラミックパウダー、第二リン酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ボロン、シリカ等が挙げられる。これらの中で、酸化亜鉛、酸化チタン、マイカ、セリサイトが好ましく、特に酸化亜鉛、酸化チタンが好ましい。
【0014】
また、無機粉体としてパール顔料、金属粉末顔料を用いることもでき、パール顔料としては、酸化チタン被覆雲母、オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆タルク、魚鱗箔、酸化チタン被覆着色雲母等が挙げられる。金属粉末顔料としては、アルミニウムパウダー、カッパーパウダー、ステンレスパウダー等が挙げられる。
【0015】
さらに、有色顔料を用いることもでき、有色顔料としては、酸化鉄、水酸化鉄、チタン酸鉄等の無機赤色顔料、γ−酸化鉄等の無機褐色系顔料、黄酸化鉄、黄土等の無機黄色系顔料、黒酸化鉄、カーボンブラック等の無機黒色顔料、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等の無機紫色顔料、水酸化クロム、酸化クロム、酸化コバルト、チタン酸コバルト等の無機緑色顔料、紺青、群青等の無機青色系顔料、タール系色素をレーキ化したもの、天然色素をレーキ化したもの、及びこれらの粉体を複合化した複合粉体等が挙げられる。
【0016】
有機粉体としては、ポリアミドパウダー、ポリエステルパウダー、ポリエチレンパウダー、ポリプロピレンパウダー、ポリスチレンパウダー、ポリウレタン、ベンゾグアナミンパウダー、ポリメチルベンゾグアナミンパウダー、テトラフルオロエチレンパウダー、ポリメチルメタクリレートパウダー、セルロース、シルクパウダー、ナイロンパウダー、12ナイロン、6ナイロン、シリコーンパウダー、シリコーン複合パウダー、スチレン・アクリル酸共重合体、ジビニルベンゼン・スチレン共重合体、ビニル樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネイト樹脂、微結晶繊維粉体、デンプン、ラウロイルリジン等が挙げられる。
【0017】
また、有機粉体として界面活性剤金属塩粉体(金属石鹸)を用いることもでき、該粉体としては、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸マグネシウム、セチルリン酸亜鉛、セチルリン酸カルシウム、セチルリン酸亜鉛ナトリウム等が挙げられる。
【0018】
さらに、基材として、タール色素、天然色素も使用でき、タール色素としては、赤色3号、赤色104号、赤色106号、赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色220号、赤色226号、赤色227号、赤色228号、赤色230号、赤色401号、赤色505号、黄色4号、黄色5号、黄色202号、黄色203号、黄色204号、黄色401号、青色1号、青色2号、青色201号、青色404号、緑色3号、緑色201号、緑色204号、緑色205号、橙色201号、橙色203号、橙色204号、橙色206号、橙色207号等が挙げられる。
天然色素としては、カルミン酸、ラッカイン酸、カルサミン、ブラジリン、クロシン等から選ばれる粉体等が挙げられる。
【0019】
これらの基材は通常に使用されるものであれば、その形状(球状、針状、板状等)や粒子径(煙霧状、微粒子、顔料級等)、粒子構造(多孔質、無孔質等)を問わず、いずれも使用できる。また、これらの粉体どうしの複合化及び/又は界面活性剤や水溶性高分子で表面処理を行ってもよい。
【0020】
まず、上記加水分解性シリル基含有酸無水物化合物で目的の基材表面を処理する。処理方法は、公知の方法を用いて実施することができ、基本的には処理剤で基材表面を被覆し、溶剤除去、乾燥をすればよい。粉体の表面処理方法について具体的に例示すると、まず粉体を溶剤に分散し、この分散液に上記加水分解性シリル基含有酸無水物化合物を添加して、攪拌処理を行った後、加熱により、溶剤除去、乾燥、焼付け処理を行う。そして、室温まで冷却後、得られた塊状のサンプルを乳鉢で粉砕して、表面処理粉体を得ることができる。上記加水分解性シリル基含有酸無水物化合物の添加量は、粉体100質量部に対して0.01〜30質量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜10質量部である。添加量が、0.01質量部より少ないと、最終的に十分に親水化された粉体が得られない場合がある。また、30質量部を超えて添加した場合は、親水化効果は飽和に達し、それ以上親水化効果が増加しないことがある。
【0021】
次に、酸無水物部位の加水分解による開環及び中和処理を行う。例えば、次のような方法で処理することができる。上記のようにして作製した表面処理粉体を水又は水と溶剤との混合物中に分散し、この分散液に、塩基を触媒兼中和剤として添加して、攪拌しながら加熱処理を行う。塩基の添加量は、極少量でも酸無水物の加水分解が進行し開環が起こるが、開環により生成するカルボン酸の全量に対して、0.1〜2倍当量、より好ましくは0.5〜1.5倍当量の中和処理量として添加することが好ましい。塩基で部分的又は完全に中和処理することにより、粉体表面の親水性が高まり、水系溶媒中への分散性が向上する。塩基の添加量が0.1倍当量未満の場合は、十分な親水性が得られない場合がある。また、2倍当量を超えて添加した場合は、液の塩基性が増すため、化粧品へ適用した場合、肌への刺激性を生じる等の不都合を生じるおそれがある。
【0022】
使用する塩基としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、有機アミン類等、特に限定はされないが、具体的には、NaOH、KOH、Ca(OH)2、Mg(OH)2、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
なお、上記水と混合される溶剤としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類が好適に用いられる。また、表面処理粉体の水又は水と溶剤の混合物中への分散量は特に制限されないが、5〜50質量%とすることが好ましい。
【0023】
最後に、加水分解、中和処理後の分散液を加熱し、溶媒除去、乾燥、粉砕を行うことで、目的の親水化処理粉体を得ることができる。
【0024】
上記のごとく得られた親水化処理粉体は水系溶媒中での分散性、分散安定性に優れている。このため、該親水化処理粉体が、水、水溶性溶剤、水と水溶性溶剤の混合物等の水系溶媒に分散された分散液は、例えば化粧料、皮膚外用剤、塗料、インク等に適用することができる。
この場合、水溶性溶剤としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類等が挙げられる。水と水溶性溶剤との割合は、90:10〜10:90(質量比)が好ましい。
【0025】
本発明の分散液は、例えば下記の方法により製造することが出来る。
即ち、上記の方法により、親水化処理粉体を作製した後、粉体を水やアルコールなどの水系溶媒に添加して、ボールミル、ビーズミル、サンドミル等の分散機器で分散させる。
【0026】
分散液を簡易的に製造する方法として、以下の方法が有効である。
即ち、上記に示した親水化処理粉体を製造する過程において、粉体を、水又は水と溶剤(水系溶媒)中へ分散し、加水分解、中和処理を行って表面処理した後、溶媒除去・乾燥を行わず、直接、分散機器で微分散させる。
【0027】
本発明の親水化処理粉体又はこれを含む分散液は化粧料や塗料、水性インク等に好適に使用することができる。化粧料に使用する場合、通常の化粧料に使用される固体、半固体、液状の油剤、水、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、界面活性剤、油溶性ゲル化剤、水溶性ゲル化剤、有機変性粘土鉱物、樹脂、粉体、紫外線吸収剤、保湿剤、防腐剤、抗菌剤、香料、塩類、酸化防止剤、pH調整剤、キレート剤、清涼剤、抗炎症剤、美肌用成分(美白剤、細胞賦活剤、肌荒れ改善剤、血行促進剤等)、ビタミン類、アミノ酸類、核酸、ホルモン、包接化合物等を添加することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0029】
[実施例1]
[1]粉体の表面処理
撹拌機、温度計、エステルアダプター及びジムロート冷却管を備えた1Lの3つ口フラスコに、酸化チタン粉体(TAYCA CORPORATION製MT−100SA:平均1次粒径15nm、アルミナ・シリカ表面処理)50.0g、水3.80g、下記構造式(3)
【化7】

で表される加水分解性シリル基含有酸無水物化合物3.00g(1.15×10-2mol)、及びアセトン100gを加えた後、室温で30分間、混合撹拌を行った。次に、約60℃まで昇温し、アセトン留去を行った後、攪拌を止め、さらに105℃で3時間の加熱処理を行った。室温まで冷却した後、得られた塊状のサンプルを乳鉢で粉砕し、粉体状とした。
【0030】
[2]酸無水物部位の加水分解による開環及び中和
撹拌機、温度計、及びジムロート冷却管を備えた1Lの3つ口フラスコに、上記の表面処理粉体全量、水75.0g、トリエタノールアミン3.43g[2.30×10-2mol(酸無水物部位の開環によって生成する二価カルボン酸に対して当量分)]を加えた後、攪拌しながら、60℃で1時間、加熱を行った。次に、室温まで冷却し、液状のサンプルを得た。
【0031】
[3]分散処理
100mLガラス瓶中に、上記液状サンプル100g、ジルコニアビーズ(粒径1mm〜2mm)200gを加え、蓋をした後、ペイントシェーカーにて15時間、分散処理を行った。
【0032】
[4]評価(分散性)
粒度分布測定機(NIKKISO社製)にて、上記分散液中における表面処理粉体の粒径測定を行った。また、分散液の粘度(25℃)を回転粘度計によって測定した。
【0033】
[実施例2]
実施例1の[2]において、トリエタノールアミンの添加量を6.86g(4.60×10-2mol)としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0034】
[実施例3]
実施例1の[1]において、粉体の種類を酸化亜鉛粉体(TAYCA CORPORATION製MZ−500:平均1次粒径20〜30nm、表面処理なし)へ変更し、上記構造式(3)で表される加水分解性シリル基含有酸無水物化合物の添加量を1.50g(5.73×10-3mol)とし、また[2]において、塩基としてトリエチルアミンを5.80×10-1g(5.73×10-3mol)添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0035】
[比較例1]
実施例1の[1]において、表面処理剤として下記式(4)
CH3O(C24O)1036Si(OCH33 (4)
で表される加水分解性シリル基含有ポリエーテル変性シラン化合物を3.00g添加したこと以外は[1]と同様の操作を行った。次に、[2]の操作を行わず、100mLガラス瓶中に、上記で得られた粉体サンプル40g、水60g、ジルコニアビーズ(粒径1mm〜2mm)200gを加え、蓋をした後、ペイントシェーカーにて15時間、分散処理を行った。また、実施例1の[4]と同様の評価を行った。
【0036】
[比較例2]
実施例1の[1]において、粉体の種類を酸化亜鉛粉体(TAYCA CORPORATION製MZ−500:平均1次粒径20〜30nm、表面処理なし)へ変更し、表面処理剤として構造式(3)で表される加水分解性シリル基含有酸無水物化合物の添加量を1.50g(5.73×10-3mol)としたこと以外は[1]と同様の操作を行った。次に、[2]の操作を行わず、100mLガラス瓶中に、[1]で得られた粉体サンプル40g、水60g、ジルコニアビーズ(粒径1mm〜2mm)200gを加え、蓋をした後、ペイントシェーカーにて15時間、分散処理を行った。また、実施例1の[4]と同様の評価を行った。
【0037】
表1に、粉体、表面処理剤、塩基の配合、及び酸無水物の開環によって生成するカルボン酸と添加した塩基とのモル比を示す。また、表2に評価結果を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
本発明による親水化処理基材粉体は、比較例1〜2に比べて、水中で極めて良好な分散性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に下記一般式(1)で示される加水分解性シリル基含有酸無水物化合物の酸無水物部位の開環カルボン酸が部分的又は完全に塩基で中和されてなる表面処理層を有することを特徴とする親水化処理基材。
【化1】

[式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、R2は炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基から選択される同一又は異種の有機基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜6のアルキレン基であり、aは1〜3の整数、bは0〜2の整数であり、a+b=3である。]
【請求項2】
上記一般式(1)で表される化合物が、下記一般式(2)
【化2】

[R3は、メチル基又はエチル基である。]
で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載の親水化処理基材。
【請求項3】
中和処理に使用する塩基が、NaOH、KOH、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミンの中から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2記載の親水化処理基材。
【請求項4】
塩基による中和処理量が、開環によって生成するカルボン酸の全量に対して、0.1〜2倍当量であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の親水化処理基材。
【請求項5】
基材が粉体であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の親水化処理基材。
【請求項6】
粉体が無機粉体であることを特徴とする請求項5記載の親水化処理粉体。
【請求項7】
粉体が酸化亜鉛であることを特徴とする請求項6記載の親水化処理粉体。
【請求項8】
粉体が酸化チタンであることを特徴とする請求項6記載の親水化処理粉体。
【請求項9】
粉体100質量部に対して、上記一般式(1)で表される加水分解性シリル基含有酸無水物化合物0.01〜30質量部を用いて粉体の表面を処理してなることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか1項記載の親水化処理粉体。
【請求項10】
請求項5乃至9のいずれか1項に記載の親水化処理粉体が、水、水溶性溶剤、又は水と水溶性溶剤の混合物に分散していることを特徴とする分散液。
【請求項11】
(A)基材を下記一般式(1)で表される加水分解性シリル基含有酸無水物化合物で表面処理する工程:
【化3】

[式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、R2は炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基から選択される同一又は異種の有機基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜6のアルキレン基であり、aは1〜3の整数、bは0〜2の整数であり、a+b=3である。]、
(B)上記の表面処理基材を水又は水と溶剤との混合物中に浸漬し、次いで塩基を添加し、加熱を行って、酸無水物部位を加水分解して開環し、併せて、生成するカルボン酸を中和する工程、
(C)溶媒を除去し、乾燥する工程
を含むことを特徴とする親水化処理基材の製造方法。
【請求項12】
基材が粉体であることを特徴とする請求項11記載の親水化処理基材の製造方法。
【請求項13】
(A)基材である粉体を下記一般式(1)で表される加水分解性シリル基含有酸無水物化合物で表面処理する工程:
【化4】

[式中、R1は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基、R2は炭素数1〜30のアルキル基、アリール基、アラルキル基、フッ素置換アルキル基から選択される同一又は異種の有機基であり、Aは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数2〜6のアルキレン基であり、aは1〜3の整数、bは0〜2の整数であり、a+b=3である。]、
(B)上記の表面処理粉体を水又は水と溶剤との混合物中に浸漬し、次いで塩基を添加し、加熱を行って、酸無水物部位を加水分解して開環し、併せて、生成するカルボン酸を中和する工程、
(D)上記加水分解、中和後の液を分散機にかけて、粉体を微分散させる工程
を含むことを特徴とする親水化処理粉体が分散された分散液の製造方法。

【公開番号】特開2010−159188(P2010−159188A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3440(P2009−3440)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】