説明

親水性合成繊維、繊維集合物、皮膚接触用製品および繊維処理剤

【課題】良好な親水性および加工性を有する、皮膚への刺激が少ない親水性合成繊維を提供する。
【解決手段】(a)サーファクチンに代表されるリポペプチド構造を有する界面活性剤、ソホロリピッド、ラムノリピッドおよびマンノシルエリスリトールリピッドに代表される糖脂質の界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤、(b)(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、および(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに(c)乳酸塩を含む繊維処理剤であり、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)を2.5質量%以上50質量%以下で含む繊維処理剤を、合成繊維表面に付着させ、親水性合成繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
皮膚への刺激がより抑えられた親水性合成繊維、およびこれを用いた繊維集合物、ならびに合成繊維に親水性を付与する肌への刺激の少ない繊維処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイパー、ウェットティッシュ、フェイスマスクなどの化粧料含浸シート、化粧用・医療用貼付剤、ならびに紙おむつおよび生理用ナプキン等に使用する表面材などの各種衛生材料用シートとして、合成繊維からなる不織布が使用されており、特にポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン系樹脂を含む合成繊維(以下、ポリオレフィン系繊維とも記す)からなる不織布が使用されている。これは、ポリオレフィン系繊維が、機械的特性および耐薬品性等に優れていることによる。汎用されているポリオレフィン系繊維の一つとして、低融点のポリオレフィン樹脂(特にポリエチレン)と当該ポリオレフィン系樹脂よりも融点の高い樹脂(例えば、ポリプロピレン、ポリエステル)とからなり、前記低融点のポリオレフィン系樹脂が繊維表面の少なくとも一部を占める複合繊維がある。この複合繊維は、低融点のポリオレフィン系樹脂を熱接着成分として利用するために用いられる。よって、この複合繊維を利用すれば、繊維同士を熱接着させた不織布が得られ、そのような不織布は、前記用途において広く使用されている。
【0003】
合成繊維、特にポリオレフィン系繊維は、天然繊維であるコットンおよびセルロース系繊維であるレーヨンと比較して、親水性に劣り、本質的に疎水性である。そのため、その親水性を向上させるために、種々の方法が提案されている。親水性を向上させる方法としては、1)繊維表面を構成する熱可塑性樹脂に親水化剤を練り込む方法、2)繊維または不織布に界面活性剤または他の処理剤を付着させる方法、3)コロナ放電、常圧プラズマ処理、オゾンもしくはオゾン添加過酸化水素による処理、フッ素処理、または濃硫酸・無水硫酸ガスを用いたスルホン化処理によって、繊維表面に官能基を導入する方法が挙げられる。
【0004】
前記1)に相当する方法は、例えば、特開2000−80522号公報、特開2002−146630号公報、特開2000−133237号公報で提案されている。前記2)に相当する方法は、例えば、特開2001−271272号公報、特開2003−201677号公報、特開2000−34672号公報、特開2004−250828号公報、および特開2003−239172号公報で提案されている。
【0005】
合成繊維に親水性を付与する繊維処理剤それ自体についても、提案がなされている。例えば、特開2001−89976号公報は、ポリエーテル化合物とポリグリセリン脂肪酸エステルを含む、乾式法による不織布製造用ポリオレフィン系繊維の処理剤を提案している。特開2007−107131号公報は、不織布製造用合成繊維の処理剤として、特定の非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤及びポリグリセリン脂肪酸エステルの3成分を合計で90質量%以上含有し、且つ該非イオン界面活性剤を20〜70質量%、該アニオン界面活性剤を15〜50質量%及び該ポリグリセリン脂肪酸エステルを10〜40質量%含有して成るものを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−80522号公報
【特許文献2】特開2002−146630号公報
【特許文献3】特開2001−271272号公報
【特許文献4】特開2003−201677号公報
【特許文献5】特開2000−34672号公報
【特許文献6】特開2004−250828号公報
【特許文献7】特開2003−239172号公報
【特許文献8】特開2000−133237号公報
【特許文献9】特開2001−89976号公報
【特許文献10】特開2007−107131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記ワイパー、ウェットティッシュ、紙おむつおよび生理用ナプキン等の衛生物品(または吸収性物品)の表面材、フェイスマスクをはじめとする化粧料含浸シート、ならびに化粧用・医療用貼付剤は、人(場合により動物)の皮膚に直接接する繊維製品であるため、それらを構成する材料はできるだけ皮膚への刺激が少ないものであることが求められる。現在、市販されている製品も、当然のことながら、皮膚への刺激が少ない材料が選択されて生産されている。しかし、市場は、皮膚への刺激がさらに少ない、又は消費者に対して皮膚に対する低刺激性をよりアピールすることができる製品を常に求めている。
【0008】
本発明は、これらの実情に鑑みてなされたものであり、皮膚への刺激が少ない優れた親水性合成繊維を提供することを第1の目的としてなされたものである。
【0009】
本発明はまた、優れた親水性に加えて、優れた加工性をも有する親水性合成繊維を提供することを第2の目的としてなされたものである。即ち、繊維製品の製造に際しては、繊維それ自体の加工性が良好であることが求められる。例えば、数cmの繊維長を有する繊維を不織布に加工して製品を製造する場合、繊維は良好なカード性を有することが求められる。カード性は、カードを通過する際に発生する静電気量の大小、ネップの発生の有無、およびカード後のウェブにおける斑の有無によって決定される。本発明においては、特にカードを通過する際の静電気量の発生の少ない、親水性合成繊維を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、皮膚への刺激が少ないと考えられる成分を用いた繊維処理剤、及びこの繊維処理剤が付着した、衛生物品の表面材、化粧料含浸シート、化粧用・医療用貼付剤及び各種ワイピングシート等の親水性が求められる用途に使用可能な親水性合成繊維を提供することを検討した。まず、皮膚への刺激が少ない成分として、動植物などの天然物を由来とする成分、自然界に排出された際に、時間経過と共に速やかに分解する、いわゆる生分解性の成分、及び、化粧品に対し使用可能とされている成分を用いた繊維処理剤を用いることを検討した。これらの成分の中でも、特に化粧品に対し使用可能とされている成分は、皮膚に直接塗布し、かつ洗い流さない化粧品において使用可能とするために、皮膚への刺激等を十分に試験したうえで、化粧品の成分として採用されていることから、特に皮膚への刺激が少ない成分と考えられる。
【0011】
また、化粧品に使用可能な成分には、皮膚へのなじみ及び浸透性を確保するために、親水性を有するとされている成分も数多く存在する。よって、これらの成分を適宜選択して繊維処理剤として使用することにより、親水性を有する合成繊維が得られると考えた。ここで、皮膚への刺激が特に少ないと考えられる化粧品に使用可能な成分には、保湿クリーム、乳液、化粧水、および/または美容液を含浸させたフェイスマスクなど、化粧品として使用する際、洗い流さない、すなわち化粧料が肌に比較的長い時間付着し続ける用途に主として使用される成分と、頭皮および頭髪を洗浄するシャンプーおよびコンディショナーといった毛髪洗浄料、人肌、例えば顔を洗浄する洗顔用洗浄料等の皮膚洗浄料、ならびに口紅、ファンデーション、マスカラ、およびアイシャドウ等のメイクアップ化粧料を洗浄することを目的としたメイク洗浄料(クレンジング剤)など、化粧品として使用する際、使用後に取り除く、すなわち化粧料が肌に付着し続けない用途に主として使用される成分に分けられる。このうち、化粧料が肌に付着し続けない用途に主として使用される成分には、親水性を有する成分が数多く含まれるものの、化粧料が肌に付着し続ける用途に主として使用される成分のうち、親水性を有する成分は少ないことが判明した。
【0012】
合成繊維を用いた不織布が使用される用途の中でも、フェイスマスクなどの化粧料含浸シート、化粧用・医療用貼付剤、ならびに紙おむつおよび生理用ナプキン等の表面材などの各種衛生物品用シートといった用途は、肌に接触している時間が長時間に及ぶこともある。そのため、化粧品に使用可能な成分の中でも、化粧料が肌に付着し続ける用途に主として使用される成分を使用することが好ましく、かつ、上記用途の要求を満たす親水性を発揮させることが求められる。本発明の発明者は、これらの要求を満たすため、皮膚への刺激が少ないと考えられる成分、特に化粧品に使用可能な成分の中でも、化粧料が肌に付着し続ける用途に主として使用される成分を中心に合成繊維に対して充分な親水性を付与できないか検討した。しかし、親水性を有するとされている成分であっても、繊維処理剤として繊維表面に付着させた場合、繊維が用いられる用途、特に、高い親水性が求められる衛生物品用シートの繊維に求められる十分な親水性を合成繊維に付与することができないものが多いことが判明した。すなわち、紙おむつや生理用ナプキンなどの衛生物品の表面材は、血液または排泄物をすばやく吸収することが要求されるため、その表面材は短い時間で水となじみ、水を表面材の下の吸収体へ移行させるような親水性を有することが要求される。しかし、発明者が検討した限りにおいて、そのような親水性を、単独で合成繊維に付与する成分を皮膚への刺激が少ないと考えられる成分から見出すことはできなかった。
【0013】
本発明者がさらに検討を重ねた結果、皮膚への刺激が少ないと考えられる成分の中から、特定の3つの成分を特定の割合で含有させた繊維処理剤は、前記のような、高い親水性を求められる用途にも適用可能な親水性を疎水性の合成繊維に与えうるものであること、およびこの繊維処理剤を付着させることにより、良好な親水性を示す親水性繊維が得られることがわかった。即ち、本発明は、熱可塑性樹脂から成る繊維であって、
(a)リポペプチド構造を有する界面活性剤、
ヘキソース(ヒドロキシル基の一つが還元されて水素原子に置き換わったデオキシ糖を含む。以下同様)1分子とヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤、
ヘキソース2分子がグリコキシド結合した二糖類(ヒドロキシル基が一部アセチル化したものを含む。以下同様)と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤、および
ヘキソース1分子にC2n+2(ただしn=4〜6)の糖アルコール1分子がグリコキシド結合した分子と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤
からなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤
(b)(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、および(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに
(c)乳酸塩
を含む繊維処理剤であって、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)を2.5質量%以上50質量%以下で含む繊維処理剤が繊維表面に付着している親水性合成繊維を提供する。
【0014】
本発明の親水性合成繊維は、前記特定の3つの成分(a)〜(c)の混合物を含み、かつ成分(a)が特定の含有量で含まれている繊維処理剤が繊維表面に付着されていることを特徴とする。この特徴により、良好な親水性を有する合成繊維を得ることができる。さらに、前記特定の3つの成分はいずれも皮膚への刺激が少ないと考えられる成分であるから、本発明の親水性合成繊維は、皮膚への刺激が少なく、肌に優しい繊維として提供され得る。
【0015】
本発明において、成分(a)の好ましい一例として、サーファクチン、その同族体およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の陰イオン界面活性剤であるものを挙げることができる。サーファクチン、その同族体およびそれらの塩は、主に天然物に由来し、皮膚刺激性が低いことから、好ましく用いられる。
【0016】
本発明において、成分(a)の別の好ましい一例として、ソホロリピッド、ラムノリピッド、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)、それらの同族体、およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種である、糖脂質の界面活性剤を挙げることができる。ソホロリピッド、ラムノリピッド、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)、それらの同族体およびそれらの塩は、主に天然物に由来し、皮膚刺激性が低いことから、好ましく用いられる。前記糖脂質の界面活性剤の中でもソホロリピッド、その同族体およびそれらの塩がより好ましい。
【0017】
本発明において、成分(b)および(c)は、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、それぞれ30質量%以上含まれることが好ましい。それにより、優れた親水性を有するとともに、良好な加工性を示す合成繊維を得ることができる。
【0018】
本発明はまた、前記本発明の親水性合成繊維を5質量%以上含有している繊維集合物を提供する。そのような繊維集合物は、良好な親水性を示し、かつ皮膚刺激性の少ないものであるから、皮膚に直接接する製品または部材として好ましく用いられる。
【0019】
本発明はまた、繊維表面に付着させる繊維処理剤として、
(a)リポペプチド構造を有する界面活性剤、
ヘキソース(ヒドロキシル基の一つが還元されて水素原子に置き換わったデオキシ糖を含む。以下同様)1分子とヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤、
ヘキソース2分子がグリコキシド結合した二糖類(ヒドロキシル基が一部アセチル化したものを含む。以下同様)と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤、および
ヘキソース1分子にC2n+2(ただしn=4〜6)の糖アルコール1分子がグリコキシド結合した分子と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤
からなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤
(b)(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、および(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに
(c)乳酸塩
を含む繊維処理剤であって、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)を2.5質量%以上50質量%以下で含む、繊維処理剤を提供する。この繊維処理剤は、繊維表面に良好な親水性を付与することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の親水性合成繊維は、その繊維表面に、皮膚への刺激がより少ないと考えられる特定の3つの成分を含む繊維処理剤が付着されていることによって、良好な親水性を示し、かつ低い皮膚刺激性を示す。したがって、本発明の繊維は、皮膚に直接接する製品または部材を構成する場合に、製品または部材に必要な親水性を示しつつ、使用者の皮膚に刺激を与えにくく、また、皮膚への刺激がより少ないと考えられる成分が皮膚に接していることによる安心感を消費者に与え得る。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の親水性合成繊維は、特定の繊維処理剤が繊維表面に付着している合成繊維である。繊維処理剤は、界面活性剤(成分(a))、グリセリン系化合物(成分(b))および乳酸塩(成分(c))に大別される3種類の成分を含む。
【0022】
成分(a)は、(i)リポペプチド構造を有する界面活性剤、(ii)ヘキソース1分子とヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤、(iii)ヘキソース2分子がグリコキシド結合した二糖類と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤、および(iv)ヘキソース1分子にC2n+2(ただしn=4〜6)の糖アルコール1分子がグリコキシド結合した分子と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤である。まずリポペプチド構造を有する界面活性剤について説明する。リポペプチド構造を有する界面活性剤としては、アルスロファクチン(Arthrofactin)およびその同族体、サーファクチン(Surfactin)およびその同族体、イチュリン(Itulin)、セラウェッチン(Serrawettin)等があるが、この中でもサーファクチンおよびその同族体が好ましい。この界面活性剤は、具体的には、特開2005−247838号公報に記載されているように、下記の式で示されるサーファクチン、もしくはその誘導体、またはそれらの塩である。
【化1】


(式中、Xはロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、セリン、アラニン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン、4−ヒドロキシプロリン及びホモセリンからなる群から選ばれるアミノ酸残基を表し、Rは炭素数8〜14のノルマルアルキル基、炭素数8〜14のイソアルキル基または炭素数8〜14のアンテイソアルキル基を表わす。)
【0023】
前記式において、好ましいXはロイシン、イソロイシンまたはバリンである。また、Rで示される基は、直鎖アルキル基、通常(CH32CH−(CH2)n−からなる構造を有するイソアルキル基、または通常CH3−CH2−CH(CH3)−(CH2)n−からなる構造を有するアンテイソアルキル基である。
【0024】
サーファクチンの同族体とは、前記式のアミノ酸が他のアミノ酸に置き換わったものをいう。具体的には二番目のL−ロイシン、四番目のL−バリン、六番目のD−ロイシン等が他のアミノ酸に置き換わったものが挙げられるが、これらに限定されない。以下、本明細書においては「サーファクチンまたはその同族体」を総称して「サーファクチン」ということがある。
【0025】
サーファクチンは、通常は原核生物により生産される。原核生物としては、一般にバチルスズブチリス(Bacillus subtilis)IAM1213株、IAM1069株、IAM1259株、IAM1260株、IFO3035株、ATCC21332株等のバチルス属微生物が用いられる。
【0026】
この微生物を培養し、精製することにより容易にサーファクチンを得ることができる。精製は、例えば培養液を塩酸等の添加により酸性にし、沈殿したサーファクチンをろ別し、メタノール等の有機溶媒に溶解し、その後適宜限外ろ過、活性炭処理、結晶化等を行なうことによって行われる。酸添加による沈殿はカルシウム塩の添加による沈殿におきかえてもよい(Biochem. Bioph. Res. Commun., 31: 488-494 (1968) )。
【0027】
サーファクチンは、前記バチルス属微生物等の原核生物によって産生されるもののほか、他の製法、例えば化学合成法によって得られるものも同様に使用することができる。
【0028】
サーファクチンは、前記化学式から分かるように無機塩や有機塩として利用することができる。対イオンとなる金属はナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属等をはじめとしてサーファクチンと塩を形成するものであれば特に限定されない。
【0029】
有機塩類としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、リジン、アルギニン、コリン等を挙げることができる。
【0030】
本発明においては、サーファクチンのナトリウム塩、カリウム塩、モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、リジン塩、およびアルギニン塩が好ましく用いられ、ナトリウム塩が特に好ましく用いられる。サーファクチンのナトリウム塩は、サーファクチンナトリウムとして株式会社カネカからアミノフェクト(登録商標)の商品名で販売されているものを使用することができる。
【0031】
次に、成分(a)の一例である糖脂質の界面活性剤、すなわち、ヘキソース(ヒドロキシル基の一つが還元されて水素原子に置き換わったデオキシ糖を含む。以下同様)1分子とヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤、ヘキソース2分子がグリコキシド結合した二糖類(ヒドロキシル基が一部アセチル化したものを含む。)と、ヒドロキシル脂肪酸からなる糖脂質(即ち、ヘキソース2分子がグリコキシド結合した二糖類に、ヒドロキシル脂肪酸が結合した糖脂質)の界面活性剤、およびヘキソース1分子にC2n+2(ただしn=4〜6)の糖アルコール1分子がグリコキシド結合した分子と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質(即ち、ヘキソース1分子にC2n+2(ただしn=4〜6)の糖アルコール1分子がグリコキシド結合した分子に、ヒドロキシル脂肪酸が結合した糖脂質)の界面活性剤について説明する。
【0032】
前記糖脂質の界面活性剤のうちヘキソース2分子がグリコキシド結合した二糖類と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤としてソホロリピッド(Sophorolipid)があり、ヘキソース1分子とヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質、もしくはヘキソース2分子がグリコキシド結合した二糖類と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤としてラムノリピッド(Rhamnolipid)が知られている。ソホロリピッドはグルコース2分子がβ1−2結合で結合した二糖であるソホロース、またはヒドロキシル基の一部がアセチル化したソホロースと、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質である。ここでいうヒドロキシル脂肪酸とはヒドロキシル基を有する脂肪酸である。ソホロリピッドは、分子内のソホロースが結合したラクトン型(下記 式(2))と、ヒドロキシル脂肪酸のカルボキシル基が遊離した酸型(下記 式(3))とに大別され、ラクトン型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド、酸型ソホロリピッド塩(下記 式(4))が存在する。
【0033】
【化2】

【0034】
【化3】

【0035】
【化4】

【0036】
前記式(2)、(3)、(4)において、RおよびRは、それぞれ独立して水素(−H)又はアセチル基(−COCH)である。すなわち前記式(2)〜(4)に示されるソホロリピッドにおいて、R、R共にアセチル基のもの、Rがアセチル基、Rが水素のもの、Rが水素、Rがアセチル基のもの、R、R共に水素のもの、の4種が存在する。nは11〜20の整数であり、kは0以上2n未満の偶数であり、飽和脂肪族炭化水素鎖または二重結合を少なくとも1個有する不飽和脂肪族炭化水素鎖を構成している。Xはアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルカノールアミンイオンなどである。以下、本明細書においては、ラクトン型ソホロリピッドとその同族体、および酸型ソホロリピッドとその同族体を総称して、「ソホロリピッド」ということがあり、酸型ソホロリピッドとその同族体の塩を総称して「ソホロリピッド塩」ということがある。
【0037】
ソホロリピッドおよびソホロリピッド塩は、通常微生物より生産される。微生物としては特開2009−62288などに開示されるようにキャンディダ属に属する微生物、例えばCandida bombicola、C.apicola、C.petrophilum、C.bogoriensisなどの酵母を培養することにより、その培地中に生産物として得られることが知られているほか、特開2009−207493に開示されるようにスターメレラ(キャンディダ)・ボンビコーラ(Starmerella (Candida) bombicola)、キャンディダ・ボゴリエンシス(Candida bogoriensis)、キャンディダ・マグノリエ(Candida magnoliae)、キャンディダ・グロペンギッセリ(Candida gropengisseri)、キャンディダ・アピコーラ(Candida apicola)等の酵母を培養することにより、その培地中に生産物として得られることが知られている。
【0038】
前記微生物(酵母)を培養し、精製することにより容易にソホロリピッドを得ることができる。精製は、例えば次の方法で実施することができる。まず、培養液に酢酸エチルを加えた後、ソホロリピッド及び疎水性成分を抽出し、酢酸エチル相を分取する。そして、酢酸エチルをエバポレーター等で取り除くことで、ソホロリピッドおよび疎水性成分を含む画分を得る。さらに、得られた画分をヘキサンで洗浄することにより、ソホロリピッド以外の疎水性成分を除去し、残渣を乾燥させることでソホロリピッドを得る(Biotechnol. Lett. Vol 28 : 253-260 (2006))。あるいは、精製は、特開2009−62288に開示されるように培養液からソホロリピッドを含む成分を遠心分離、デカンテーション、酢酸エチル抽出などの方法でソホロリピッドを含む成分を分離後、さらにヘキサンで洗浄することで、ソホロリピッドの濃度が50%程度濃縮された水溶液として得る方法で実施してよい。
【0039】
ソホロリピッドおよびソホロリピッド塩は、前記キャンディダ(Candida)属酵母などの微生物によって産生されるもののほか、他の製法、例えば化学合成法によって得られるものも同様に使用することができる。本発明の親水性繊維および繊維処理剤に使用できるソホロリピッドとしては、サラヤ株式会社にて製造され、食品用洗浄剤、食器用洗浄剤、衣料用洗浄剤等に使用されているソホロリピッドが挙げられる。
【0040】
次に、成分(a)として本発明の親水性繊維および繊維処理剤に使用できる、ヘキソース1分子とヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質、もしくはヘキソース2分子がグリコキシド結合した二糖類と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤の一種であるラムノリピッドについて説明する。ラムノリピッドは炭素数6のデオキシ等の一種であるラムノースまたはそのオリゴ糖とヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質である。ラムノリピッドとしては、ラムノース2分子が結合し、ヒドロキシル脂肪酸と結合したラムノリピッド(下記 式(5))と、ラムノース1分子にヒドロキシル脂肪酸が結合したラムノリピッドが存在する。
【0041】
【化5】

【0042】
前記式(5)において、Rは、水素原子、−CH−〔CH(OH)〕−CH(OH)、−(XO)H、又は炭素数1〜36のアルキル基、アルケニル基若しくは脂肪族アシル基を示す。ここで、アルキル基、アルケニル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、脂肪族アシル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。また、mは0〜8の整数であり、Xはエチレン、プロピレン及びブチレンの少なくとも一種を示し、nは1〜1000の整数である。Rは、水素原子又は2−デセノイル基である。RとRは独立している。
【0043】
【化6】

【0044】
前記式(6)において、Rは、水素原子、−CH−〔CH(OH)〕−CH(OH)、−(XO)H、又は炭素数1〜36のアルキル基、アルケニル基若しくは脂肪族アシル基を示す。ここで、アルキル基、アルケニル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、脂肪族アシル基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和であっても不飽和であってもよい。また、mは0〜8の整数であり、Xはエチレン、プロピレン及びブチレンの少なくとも一種を示し、nは1〜1000の整数である。Rは、水素原子又は2−デセノイル基である。RとRは独立している。
【0045】
前記式(5)、(6)に示すように、ラムノリピッドとしては、ラムノース2分子が結合したものと、ラムノースが1分子であるのものが存在する。これらのうち、ヒドロキシル脂肪酸に2分子のラムノースが結合した、前記式(5)で表されるラムノリピッドの方が、界面活性力が高いため、本発明の親水性繊維および繊維処理剤には、前記式(5)で表されるラムノリピッドを使用するほうが好ましい。あるいは、ラムノース分子が1分子のものと2分子のものの混合物を使用してよい。以下、本明細書においては、前記式(5)および(6)で表されるラムノリピッド、その同族体、およびその塩を総称して「ラムノリピッド」ということがある。
【0046】
ラムノリピッドは、通常微生物より生産される。微生物としては、特開2009−5676などに開示されるようにシュードモナス(Pseudomonas)属、又はバークホルデリア(Burkholderia)属に属する細菌等を用いることができる。この中でも、シュードモナス属に属する細菌を用いることが好ましい。シュードモナス属に属する細菌としては、Pseudomonas aeruginosa、Pseudomonas chlororaphis等が挙げられるが、Pseudomonas sp. を用いることもできる。バークホルデリア属に属する細菌としては、Burkholderia pseudomalle等が挙げられる。この中でも、特にPseudomonas aeruginosaを用いて生成することが好ましい。
【0047】
前記微生物を公知の培養方法、静置培養、往復動式振とう培養、回転動式振とう培養、ジャーファーメンター培養などによる液体培養法や固体培養法によって培養し、精製することにより容易にラムノリピッドを得ることができる。精製は、遠心分離などの方法でラムノリピッドを含む成分を分離する方法、または特開平10−75796に記載されているように培養液を吸着クロマトグラフィー、特に陰イオン交換クロマトグラフィーで分離・精製する方法で実施することができる。
【0048】
ラムノリピッドは、前記シュードモナス(Pseudomonas)属に属する細菌などの微生物によって産生されるもののほか、他の製法、例えば化学合成法によって得られるものも同様に使用することができる。本発明の親水性繊維および繊維処理剤に使用できるソホロリピッドとしては、Bio Future Ltd.社が製造・市販している、BFL Biosurfactantが挙げられる。BFL Biosurfactantは、名東化製株式会社からも販売されている。
【0049】
次に、成分(a)として本発明の親水性繊維および繊維処理剤に使用される、糖脂質の界面活性剤の一種である、ヘキソース1分子にC2n+2(ただしn=4〜6の整数)の糖アルコール1分子がグリコキシド結合した分子と、ドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤について説明する。前記条件を満たす、ヘキソース1分子に特定の糖アルコール1分子がグリコキシド結合した分子と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質としては、マンノシルエリスリトールリピッド(Mannosylerythritol Lipid 以下、MELとも記す)、マンノシルマンニトールリピッド(MML)、マンノシルソルビトールリピッド(MSL)、マンノシルアラビトールリピッド(MAraL)、マンノシルリビトールリピッド(MRL)が挙げられる。この中でもマンノシルエリスリトールリピッドを用いることが、本発明においては好ましい。
【0050】
マンノシルエリスリトールリピッドはヘキソースの一種であるマンノース1分子と糖アルコールの一種であるエリスリトール(化学式C10 エリトリトールとも称す)1分子がグリコキシド結合を形成して結合した分子で、マンノース部分のヒドロキシル基にヒドロキシル脂肪酸およびアセチル基が導入された糖脂質型の界面活性効果を示す物質である。マンノシルエリスリトールリピッドは、以下の化学式(下記 式(7))で表される。
【0051】
【化7】

【0052】
前記式(7)において、R〜Rは、それぞれ独立して水素(−H)、アセチル基(−COCH)、又は炭素原子数1〜36、好ましくは3〜12の飽和脂肪酸残基もしくは、不飽和脂肪酸基を表しており、R〜Rのうち、少なくとも1つはアセチル基であり、別の少なくとも1つは、炭素原子数1〜36の飽和脂肪酸残基もしくは、炭素原子数1〜36不飽和脂肪酸基である。特に、R、Rが、それぞれが独立して炭素数1〜25、好ましくは炭素数3〜25、より好ましくは炭素数5〜14、特に好ましくは炭素数8〜12の飽和脂肪酸残基もしくは、不飽和脂肪酸基であると好ましい。RおよびRはともにアセチル基であってよく、あるいは一方がアセチル基であり、他方が水素原子であってよい。以下、本明細書においては、マンノシルエリスリトールリピッドとその同族体、およびその塩を総称して「マンノシルエリスリトールリピッド」ということがある。
【0053】
マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)は、通常微生物より生産される。微生物としては、特開2004−254595、特開2007−185142などに開示されるようにシュードザイマ(Pseudozyma)属、ウスティラゴ(Ustilago)属、クルツマノマイセス(Kurtzmanomyces)属、カンディダ(Candida)属、シゾネラ(Shizonella)属に属する細菌等を用いることができる。この中でも、シュードザイマ・ルギュローサ(Pseudozyma rugulosa)、シュードザイマ・アンタクチカ(Pseudozyma antarctica)、シュードザイマ・パラアンタクティカ(Pseudozyma parantarctica)、シュードザイマ・ヒュベイエンシス(Pseudozyma hubeiensis)、シュードザイマ・グラミニコーラ(Pseudozyma graminicola)などシュードザイマ属に属する細菌を用いることが好ましい。
【0054】
前記微生物を公知の培養方法、静置培養、往復動式振とう培養、回転動式振とう培養、ジャーファーメンター培養などによる液体培養法や固体培養法によって培養し、精製することにより容易にマンノシルエリスリトールリピッドを得ることができる。マンノシルエリスリトールリピッドの分離・精製は、公知の遠心分離などの方法でマンノシルエリスリトールリピッドを分離する方法、または特開2007−252280で開示されているように、マンノシルエリスリトールリピッドを含む水溶液に対し、微生物が生成した脂肪酸或いは脂肪酸を添加することで、マンノシルエリスリトールリピッドの含有率が高い非水溶性の凝集物として分離・生成する方法で実施することができる。マンノシルエリスリトールリピッドは、前記シュードザイマ(Pseudozyma)属に属する細菌などの微生物によって産生されるもののほか、他の製法、例えば化学合成法によって得られるものも同様に使用することができる。
【0055】
成分(b)は、(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、および(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物である。ここで、(ポリ)グリセリンとは、モノグリセリンもしくはポリグリセリン、または両者の混合物を意味する。ポリグリセリンとして、平均重合度が2〜30のものが好ましく用いられ、平均重合度が2〜15のものがより好ましく用いられる。ポリグリセリンの具体例としては、ジグリセリン、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン、オクタグリセリン、およびデカグリセリン等が挙げられる。
【0056】
(ポリ)グリセリンの脂肪酸エステルは、(ポリ)グリセリンと脂肪酸のエステルであり、モノエステル、ジエステルおよびトリエステルが含まれる。(ポリ)グリセリンの脂肪酸エステルにおいて、脂肪酸成分には、炭素数10〜22、好ましくは12〜18の脂肪酸由来のものが包含される。脂肪酸は、飽和又は不飽和のものであってよい。その具体例としては、カプリン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸およびベヘン酸等の飽和脂肪酸やオレイン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。本発明においては、成分(b)として、重合度2〜15のポリグリセリンに炭素数10〜22の脂肪酸がエステル結合した、ポリグリセリンモノ脂肪酸エステルが好ましく使用され、重合度6〜12のポリグリセリンに炭素数12の脂肪酸(ラウリン酸)がエステル結合した、ポリグリセリンモノラウレートが特に好ましく使用される。
【0057】
前記(ポリ)グリセリンの脂肪酸エステルに使用される(ポリ)グリセリンは、一般的に、(モノ)グリセリン、グリシドール、またはエピクロルヒドリン等のグリセリン関連物質を原料とし、(モノ)グリセリンを脱水縮合させて(ポリ)グリセリンの重合度を高めるグリセリン重合法の他、グリシドール法、エピクロルヒドリン法、またはジグリセリン架橋法等の製造方法で製造される。これらの製造方法で(ポリ)グリセリンを製造する際には、目的とする重合度の直鎖状(ポリ)グリセリンだけではなく、6員環および8員環を有する環状(ポリ)グリセリンが副生成物として生成され、重合された(ポリ)グリセリンに含まれる可能性がある。また、目的とする重合度とは異なる、重合度の低い、低重合度の(ポリ)グリセリンも副生成物として生成され、(ポリ)グリセリンに含まれる可能性がある。この中で、環状(ポリ)グリセリンは親水性が低いと考えられる他、人体に対し刺激が強いとされているため、その含有量はより少ない方が好ましい。
【0058】
また低重合度の(ポリ)グリセリンの割合が多くなると、(ポリ)グリセリンの重合度分布が広くなり、平均重合度は低下する。一般的に(ポリ)グリセリンの重合度分布と(ポリ)グリセリンの示す親水性について、(ポリ)グリセリンの重合度分布が狭い、すなわち目的とする重合度以外の重合度である(ポリ)グリセリンの割合が少ない(ポリ)グリセリンの方が、高い親水性を示すとされている。
【0059】
従って本発明に用いられる(ポリ)グリセリンは、環状体(分岐鎖状体も含む)の含有量が少なく、ならびに/または低重合度の(ポリ)グリセリンの含有量が少ない、平均重合度の高い(ポリ)グリセリンであることが好ましい。本発明に使用される(ポリ)グリセリンの脂肪酸エステル(例えば、重合度10のデカグリセリンモノラウレート)を構成する(ポリ)グリセリンは、(ポリ)グリセリン中の環状体の含有量が少ないことが好ましく、具体的には環状体の含有量が50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが特に好ましく、15質量%以下であることが最も好ましい。また、重合度分布と親水性の関係から(ポリ)グリセリンの脂肪酸エステルを構成する(ポリ)グリセリンの平均重合度は2〜30のものが好ましく用いられ、平均重合度が2〜15のものがより好ましく用いられ、平均重合度5〜12のものが特に好ましい。
【0060】
本発明でいう、(ポリ)グリセリンの平均重合度とは、一般に流通している(ポリ)グリセリンに用いられている、水酸基価から求めた平均重合度を指す。また(ポリ)グリセリンに含有されている環状体の含有量は液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)等を用いて分析できる。前記のように環状体となった(ポリ)グリセリンの含有量が少なく、かつ低重合度の(ポリ)グリセリンの含有量が少ない(ポリ)グリセリンを使用して製造される(ポリ)グリセリンの脂肪酸エステルとして、例えば、太陽化学株式会社から、サンソフト(登録商標)の商品名で販売されているものを使用することができる。
【0061】
(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物において、そのアルキレンオキサイドの平均付加モル数は、2〜30、好ましくは4〜24、より好ましくは8〜20である。前記(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物において、アルキレンオキサイドとして、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドが用いられる。その具体例としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドが挙げられる。本発明において、成分(b)として、(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物を用いる場合、ジグリセリンにアルキレンオキサイドを付加させることにより得られるジグリセリンのアルキレンオキサイド付加物が好ましく用いられ、プロピレンオキサイド付加物が特に好ましく用いられる。プロピレンオキサイド付加物の平均付加モル数は、9〜14であることが好ましい。
【0062】
成分(c)は、乳酸と金属の塩である。具体的には、乳酸塩としては、乳酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸マグネシウム、乳酸カルシウム、および乳酸アルミニウムから選択される、1または複数の塩が使用される。本発明においては、高い吸湿性および保湿性を有する、乳酸ナトリウムが好ましく使用される。
【0063】
成分(a)、(b)および(c)を含む繊維処理剤は、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)が2.5質量%以上50質量%以下の量で含まれるように調製される。成分(a)の含有量が2.5質量%未満であると、合成繊維に良好な親水性を付与することができない。成分(a)の含有量が50質量%よりも多くなると、成分(a)〜(c)の合計量に対して、成分(b)および(c)の占める割合が少なくなり、却って親水性が低下し、また、合成繊維の加工性が低下することがあり、特に、カード工程において静電気が発生しやすくなることがある。成分(a)のより好ましい含有量は、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、3質量%以上45質量%以下であり、さらにより好ましい含有量は、5質量%以上40質量%以下である。
【0064】
繊維処理剤において、成分(a)、(b)および(c)の混合物は、処理剤全体の50質量%以上を占めることが好ましい。これらの3つの成分から成る混合物の割合が、処理剤全体の50質量%未満であると、肌への刺激性の少ない親水性合成繊維を得られないことがある。尤も、肌への低刺激性は、親水性合成繊維の用途によっては、それほど求められないことがあり、その場合には、これらの3つの成分から成る混合物の割合を50質量%よりも少なくしてよい。成分(a)、(b)および(c)の混合物と他の成分とを混合して、繊維処理剤を調製する場合、他の成分は、得ようとする親水性合成繊維において達成すべき親水性およびその他の性能に応じて選択される。成分(a)、(b)および(c)の混合物の割合が50質量%程度であると、この混合物だけでは衛生物品用のシート等に必要とされる親水性を示さないことがある。その場合には、他の成分として、他の親水性の繊維処理剤を混合して、所望の親水性が得られるようにしてよい。
【0065】
しかし、繊維処理剤全体に占める、前記3成分以外の成分の割合が80質量%を超えると、肌への刺激の少ない成分、すなわち前記3成分の混合物が処理剤全体に占める割合が20質量%未満となり、肌への刺激が強くなるおそれがあり、好ましくない。処理剤全体に占める、前記3成分以外の成分の割合は75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらにより好ましく、60質量%以下が特に好ましく、50質量%以下が最も好ましい。
【0066】
成分(a)、(b)および(c)の混合物のみによって(即ち、他の親水性の繊維処理剤を混合せずに)、合成繊維に良好な親水性を付与しようとする場合には、この混合物は、繊維処理剤の85質量%以上を占めることが好ましい。それにより、肌への刺激性が特に少なく、かつ良好な親水性および加工性を示す合成繊維を得ることができる。これら3つの成分から成る混合物の割合が、処理剤全体の85質量%未満であると、良好な親水性を有する合成繊維を得ることができなくなる可能性があるだけでなく、添加する成分によっては肌への刺激が強くなる可能性がある。かかる繊維処理剤において、成分(a)、(b)および(c)の混合物が処理剤全体に占める割合は好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%であり、特に好ましくは98質量%以上である。
【0067】
繊維処理剤において、成分(b)は、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、繊維処理剤の20質量%以上70質量%以下含まれることが好ましく、30質量%以上60質量%以下含まれることがより好ましい。また成分(c)は、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、繊維処理剤の20質量%以上60質量%以下含まれることが好ましく、30質量%以上50質量%以下含まれることがより好ましい。成分(b)および(c)が30質量%以上含まれる繊維処理剤は、親水性により優れ、かつ加工性において優れた合成繊維を与える。したがって、繊維処理剤は、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)を5質量%以上40質量%以下、成分(b)を30質量%以上60質量%以下、成分(c)を30質量%以上50質量%以下の割合で含むものであることが、特に好ましい。あるいは、繊維処理剤は、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)を前記範囲の割合で含み、かつ成分(b)を20質量%よりも多く、80質量%以下の割合で含むもの、もしくは、成分(a)を前記範囲の割合で含み、かつ成分(c)を20質量%よりも多く、60質量%以下の割合で含むものであるものもまた好ましい。
【0068】
繊維処理剤が繊維の加工性に与える影響は、場合により重視される。例えば、親水性の付与の他、所望の機能を合成繊維に付与させる各種繊維処理剤を合成繊維に付与し、親水性を始めとする所望の機能性が確保される場合であっても、その処理剤がカード性に悪影響を及ぼす場合には、その合成繊維の使用条件および生産条件が限られてしまう場合があり、あるいはそのことを理由にその処理剤を利用できない場合もある。したがって、成分(b)および(c)がこれらの範囲で含まれることにより、繊維処理剤の有用性がより高くなるといえる。
【0069】
前記3つの成分以外の成分として、繊維処理剤に通常用いられている成分を、繊維処理剤に添加してよい。例えば、具体的には、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロールおよびδ−トコフェロール等の各種トコフェロール、β−カロテン、リコペン、ルテインおよびアスタキサンチン等の各種カロテノイド、ユビキノン(ユビキノール、ユビデカレノン、CoQ10)、α−リポ酸(リポ酸、チオクト酸)、BHT(ジブチルヒドロキシルトルエン)、及びBHA(ブチルヒドロキシアニソール)といった脂溶性抗酸化物質;アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、カテキン、カテキンガレート、エピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピカテキン、ガロカテキンガレート及びガロカテキン等の各種カテキン類、アントシアニン、タンニン、クエルセチン(ルチン、クエルシトリン等の各種配糖体、酵素処理イソクエルシトリン等の酵素処理、化学処理を加えたものを含む)、ミリシトリン、ミリセチン、イソフラボン等の各種フラボノイド、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン等の各種フェノール酸、リンゴポリフェノール、カカオマスポリフェノール等のポリフェノールといった水溶性抗酸化物質;フィトンチッド、ヒバオイル、ヒノキチオール等の植物由来の精油、又は植物由来のハーブオイルといった芳香性機能剤、その他消臭剤、抗菌剤、アレルゲン不活性剤、吸発熱剤、および遠赤外線保温剤を挙げることができる。
【0070】
あるいは、成分(a)以外の他の界面活性剤を添加してよい。成分(a)以外の他の界面活性剤を添加する場合、公知の界面活性剤である、糖エステル型(「多価アルコールエステル型」とも呼ばれる)、脂肪酸エステル型、アルコール型、アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー型、アルキルアミン型、ビスフェノール型、多芳香環型、シリコーン系、フッ素系、および植物油型などの非イオン性界面活性剤、サルフェート型、スルホネート型、カルボン酸型、およびホスフェート型などのアニオン性界面活性剤、アンモニウム型およびベンザルコニウム型などのカチオン性界面活性剤、およびベタイン型、およびグリシン型などの両性界面活性剤などの界面活性剤から選択される1または複数の界面活性剤を添加してよい。好ましくは、微生物などの生体由来の界面活性剤であるバイオサーファクタント(但し、成分(a)以外のもの)を添加することが好ましい。そのような生体由来の界面活性剤は、成分(a)と同様に、皮膚への刺激が少ないと考えられるからである。バイオサーファクタントとしては、前記のような、リポペプチド構造を有する界面活性剤(アミノ酸型、アシルペプタイド型とも称す)、トレハロースリピッド、およびセロビオースリピッドなどの糖脂質型(糖型とも称す)のバイオサーファクタントの他、リン脂質系、脂肪酸系及び高分子化合物系のバイオサーファクタントがあり、これらを使用することができる。
【0071】
また、前記の繊維処理剤に通常用いられている成分以外にも、化粧品として使用可能な各種機能剤、例えばヒアルロン酸の合成を高めたり、細胞賦活性を発揮したりすることでアンチエイジング効果(老化防止効果)を発揮する機能剤;チロシナーゼの活性を阻害・抑制することでメラニンの生成を抑え、美白効果を発揮する機能剤;肌の水分を維持することで肌への保湿・エモリエント効果を発揮する機能剤;その他の紫外線防御・紫外線ケア効果のある機能剤、抗炎症効果のある機能剤、刺激緩和効果のある機能剤など、化粧品に使用可能な各種機能剤を本発明の効果を阻害しない範囲内において、前記3つの成分以外の成分として、繊維処理剤に添加してもよい。例えば、キチン、キトサン及びこれらから誘導されるキチンおよびキトサンの誘導体(例えばカルボキシメチルキチン、カルボキシメチルキトサン)は化粧品に使用可能な機能剤であり、添加することで、本発明の前記3つの成分が発揮する肌への低刺激性を損なうことなく、抗菌作用および保湿作用を発揮すると考えられる。本発明の効果を阻害しない範囲内で前記化粧品に使用可能な各種機能剤を添加することで、本発明の親水性合成繊維および繊維集合物は、紙おむつおよび生理用ナプキン等の衛生物品の表面材および化粧料含浸シート等の直接肌に触れ、接触している時間が長時間になる製品の付加価値を高めることができる。
【0072】
前述したように、肌への刺激が特に低いことが求められる用途であれば、前記成分(a)、(b)および(c)を含む繊維処理剤において、これらの3つの成分の成分(a)、(b)および(c)の混合物の処理剤全体に占める割合は、好ましくは85質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、さらにより好ましくは95質量%であり、特に好ましくは98質量%以上である。また、添加する他の成分も肌への刺激が少ないとされる成分、特に化粧品として使用可能な成分であることが好ましい。しかし、添加する他の成分が、前記3成分の併用により奏される親水性、および良好な加工性、また、得られる繊維やそれを使用した不織布ならびに各種衛生物品用シートなどの最終製品に求められる肌への低刺激性を損なわないのであれば(又は最終製品に求められる、肌への低刺激性に対する要求が高くない用途であれば)、前述したように、成分(a)〜(c)とともに、前記において例示した成分以外の成分を繊維処理剤に添加して使用することが可能であり、他の成分を添加する割合も特に限定されない。
【0073】
さらに、可能であれば、成分(a)〜(c)の混合物において、成分(a)の一部を他の界面活性剤で置き換えてもよい。成分(a)として使用される界面活性剤は、一般に高コストであることから、親水性合成繊維の用途によっては、多量に使用することが難しいことがある。成分(a)と同程度の界面活性効果を示すものを併用することによって、成分(a)の使用量を減らして、親水性合成繊維の製造コストを下げることを、場合により行ってよい。その場合でも、肌への刺激性が少ない成分である成分(a)〜(c)が繊維処理剤に含まれることには変わりないから、肌への低刺激性がある程度確保された親水性合成繊維を得ることができる。
【0074】
繊維処理剤は、繊維質量に対し、0.05質量%以上2質量%以下付着していることが好ましく、0.1質量%以上1質量%以下付着していることがより好ましく、0.2質量%以上0.5質量%以下付着していることが特に好ましい。ここで、付着量とは、最終的に得られる乾燥させた状態の合成繊維の質量に対する、繊維処理剤の付着量を指す。付着量が0.05質量%未満であると、繊維が、親水性および/または加工性に劣ることがあり、2質量%を超えると、繊維処理剤の付着量に比例して、親水性および加工性が向上することはなく、経済的でなく、繊維表面に多量に付着した繊維処理剤により、カード通過性の低下や、カード、生産ラインの汚れが問題となる恐れがある。
【0075】
さらに、繊維処理剤は、成分(a)が繊維質量に対し、好ましくは0.01質量%以上1質量%以下の量で、より好ましくは0.013質量%以上0.5質量%、特に好ましくは0.015質量%以上0.3質量%以下の量で合成繊維に付着していることが好ましい。成分(a)、(b)、(c)のみからなる繊維処理剤、あるいは成分(a)、(b)、(c)に加えて、他の成分を含む繊維処理剤を合成繊維に付着させ、親水性を付与しようとする場合、最終的に得られる乾燥させた状態の合成繊維の質量に対し、成分(a)の付着量が前記範囲となるように、成分(a)〜(c)を混合する、あるいは成分(a)〜(c)の混合物と他の成分と混合する、あるいはこの混合物を他の繊維処理剤で希釈するなどして繊維処理剤を調製する、あるいは繊維処理剤の濃度および合成繊維への付着量を調整することが好ましい。
【0076】
次に、前記繊維処理剤が適用される合成繊維について説明する。合成繊維は、熱可塑性樹脂から成る繊維であれば特に限定されない。熱可塑性樹脂として、具体的には、ポリエチレン(高密度、低密度、直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン樹脂、ポリブタジエン、エチレン系共重合体(例えば、エチレン−αオレフィン共重合体)、プロピレン系共重合体(例えば、プロピレン−エチレン共重合体)、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、またはエチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体等などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体などのポリエステル樹脂、ナイロン66、ナイロン12、およびナイロン6などのポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレンおよび環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチック、それらの混合物、ならびにそれらのエラストマー系樹脂などを挙げることができる。
【0077】
合成繊維は、いずれの形態のものであってよく、例えば、1つの樹脂または複数の樹脂の混合物から成る、単一繊維であってよく、あるいは2以上の成分から成る複合繊維であってよい。複合繊維は、例えば、芯鞘型複合繊維、偏心芯鞘型複合繊維、並列型複合繊維、海島型複合繊維、および柑橘類の房状の樹脂成分が交互に配置されている分割型複合繊維であってよい。また、合成繊維の断面形状もいずれの形状のものであってよい。したがって、合成繊維は、通常得られる円形(真円)断面の合成繊維であってよく、あるいは繊維の断面形状が非円形の合成繊維、いわゆる異形断面の繊維であってもよい。異形断面の繊維の断面は、例えば、多角型形状、楕円型形状、扁平型形状、繊維表面に多数の枝状部を有する、いわゆる多葉型形状(具体的には3葉から32葉の多葉型形状)、星型形状、C字型形状、Y字型形状、W字型形状、十字型形状、および井型形状等である。さらに、合成繊維は前記のように、単一繊維および複合繊維であるか否かにかかわらず、および/または繊維断面形状が円形であるか異形であるにかかわらず、繊維断面に長さ方向に連続する空洞部分を有さない、いわゆる中実繊維であってよく、あるいは長さ方向に連続する1箇所以上の空洞部分を有する、いわゆる中空繊維であってもよい。
【0078】
繊維を芯成分と鞘成分とを有する複合繊維(偏芯構造のものを含む)とする場合、鞘成分の融点≦(芯成分の融点−10℃)を満たすように、鞘成分と芯成分を構成する樹脂を選択することが好ましい。そのような組み合わせにより、鞘成分を熱接着成分として利用できる、熱接着性複合繊維を得ることができる。
【0079】
芯鞘型複合繊維の鞘成分として、ポリエチレン(ナフサを始めとする、原油由来のエチレンを原料とするものの他、天然物由来、いわゆるバイオマス由来の原料から重合されたものを含み、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等があり、チーグラ・ナッタ触媒やメタロセン触媒など公知の触媒で重合されるポリエチレン)、エチレン系共重合体、プロピレン系共重合体、共重合ポリエステル、ポリブチレンサクシネートおよびポリブチレンサクシネートアジペート(ポリブチレンサクシネートアジテートとも称す)などの低融点樹脂を使用することができる。芯鞘型複合繊維の好ましい組み合わせ(芯/鞘)として、ポリプロピレン/高密度ポリエチレン、ポリプロピレン/低密度ポリエチレン、ポリプロピレン/直鎖状低密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/高密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/低密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン/エチレン−プロピレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート/エチレン−プロピレン共重合体、ポリ乳酸/ポリエチレン、ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート、およびポリ乳酸/ポリブチレンサクシネートアジペートなどが挙げられる。
【0080】
本発明の繊維を熱接着性の芯鞘型合繊維として得る場合、芯成分/鞘成分の複合比(容積比)は、繊維の紡糸性、接着性および加工性などを考慮すると、2/8〜8/2であることが好ましく、3/7〜7/3であることがより好ましい。複合比が2/8よりも小さいと、繊維自体にコシがなくなり、カード通過性に劣る。複合比が8/2を越えると、鞘成分が少なくなるため、繊維の熱接着性が低下する傾向にある。
【0081】
本発明は、特定の繊維処理剤を用いることによって、合成繊維に良好な親水性を付与することを可能にする。したがって、本発明の効果は、繊維表面が疎水性の熱可塑性樹脂で構成されている繊維、特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン系共重合体および/またはプロピレン系共重合体が繊維表面を構成している繊維において顕著に得ることができる。
【0082】
本発明の繊維の繊度は、好ましくは0.3〜20dtex、より好ましくは0.3〜10dtexである。本発明の親水性繊維の繊度は、その繊維が使用される用途によって適宜選択され、例えば、衛生物品の表面材に本発明の繊維を使用する場合、繊度は0.5〜8dtexであることが好ましく、0.7〜5dtexであることがより好ましく、1〜3dtexであることが特に好ましい。ワイパーやウェットティッシュに本発明の繊維を使用する場合、繊度は0.5〜10dtexであることが好ましい。また、フェイスマスクをはじめとする化粧料含浸シート、および化粧用・医療用貼付剤の基布に本発明の繊維を使用する場合、繊度は0.3〜5dtexであることが好ましい。繊度が0.3dtex未満であると、繊維強度が弱くなり、繊維の製造中または不織布の製造中に問題が発生することがある。繊度が20dtexを越えると、この繊維を用いて不織布を作製したときに、不織布の柔軟性が損なわれることがある。
【0083】
本発明の繊維が短繊維またはステープル繊維として提供される場合、その繊維長は特に限定されず、2〜100mmであってよい。短繊維またはステープル繊維の繊維長は、本発明の繊維を含む繊維集合物の形態に応じて選択してよく、例えば、カード機で作製される繊維ウェブを用いて水流交絡不織布(スパンレース不織布とも称す)、ニードルパンチ不織布、またはサーマルボンド不織布を製造する場合には、繊維長は好ましくは20〜100mmであり、より好ましくは35〜75mmである。エアレイ法により作製した繊維ウェブを用いるエアレイ不織布を製造する場合には、繊維長は好ましくは2〜20mmである。あるいは本発明の繊維は、連続した長繊維として提供されてよい。
【0084】
次に、本発明の親水性合成繊維の製造方法を説明する。まず、熱可塑性樹脂を公知の溶融紡糸機を用いて、得ようとする繊維形態に応じて、適切な紡糸ノズルおよび紡糸温度を用いて溶融紡糸する。次いで、紡糸フィラメント(未延伸糸)は、必要に応じて延伸される。延伸の際に用いる、延伸方法及び延伸条件は特に限定されず、熱可塑性樹脂の種類、複合繊維の場合には熱可塑性樹脂の組合せ、および得ようとする繊維性能等に応じて適宜設定される。例えば、温水、熱風、あるいは熱媒中にて、延伸温度60〜110℃、延伸倍率2.0〜8.0倍の条件で延伸される。延伸方法は特に限定されず、温水または熱水などの高温の液体中で加熱しながら延伸を行う湿式延伸、高温の気体中又は高温の金属ロールなどで加熱しながら延伸を行う乾式延伸、100℃以上の水蒸気を常圧若しくは加圧状態にして繊維を加熱しながら延伸を行う水蒸気延伸などの公知の延伸処理を行うことができる。
【0085】
フィラメントを延伸した後、フィラメントに前記繊維処理剤を付着させる。具体的には、得られた延伸フィラメントの表面に、繊維処理剤を水または他の溶媒で希釈した溶液(以下、「処理液」とも呼ぶ)を付着させ、それから、フィラメントを乾燥させて、付着した処理液から水(または他の溶媒)を蒸発させる。この作業により、乾燥後のフィラメントには、繊維処理剤が付着することとなる。繊維表面に処理液を付着させる方法は特に限定されず、例えば、公知のスプレー法、含浸法、またはロールタッチ法により付着させることができる。乾燥させたフィラメントは、必要に応じて、所定の長さに切断されて、繊維長2〜100mm程度の短繊維またはステープル繊維として、または長繊維(連続繊維)として提供される。
【0086】
延伸フィラメントには、必要に応じて、捲縮付与装置によって、捲縮数12〜16山/25mm、捲縮率8〜15%程度の範囲で捲縮を与える。捲縮を付与する場合、捲縮付与の前または捲縮付与と同時に、処理液をフィラメントに付着させることが好ましい。
【0087】
処理液における繊維処理剤の濃度は、繊維表面に付着させるべき繊維処理剤の量、および処理液を付着させた後、フィラメントを絞る等の工程において脱落する(絞り落とされる)処理液の量等を考慮して、決定される。一般に、繊維処理剤の濃度が1〜10質量%となるように調整される。また、処理液は、次のようにして測定される水分率が3〜20%となるように、フィラメントに付着させることが好ましい。この水分率は、乾燥させる前のフィラメントについて測定されるものであり、捲縮付与装置で捲縮を付与する場合には、捲縮付与後、乾燥前に測定されるものである。
【0088】
いずれの場合も、処理液を付着させたフィラメントの水分量は、当該処理液の付着量を製造過程において積極的に増減させる操作(例えば、捲縮付与装置による捲縮付与、ロール間で処理液を絞る操作、脱水機による脱水等)がもはや行われない状態にて測定される。処理液を付着させた乾燥前のフィラメントの水分率が前記範囲内にあると、処理液中の処理剤の濃度を調整することによって、容易に本発明の効果を発揮する繊維が得られる。処理液を付着させた乾燥前のフィラメントの水分率が3%未満であると、処理剤の付着が少なく、処理剤がフィラメント全体に均一に付着していないことがあり、得られる繊維の耐久親水性が不十分なものになることがある。処理液を付着させた乾燥前のフィラメントの水分率が20%を超えると、フィラメント全体に大量の水分が含まれた状態となる。そのため、乾燥に要する時間がより長くなって、生産効率の低下を招く、あるいは、得られる繊維が乾燥工程を経ても充分に乾燥されていない、乾燥ムラのある繊維となるという不都合が生じることがある。
【0089】
繊維の水分率は次のようにして測定する。まず、乾燥前の処理液が付着しているフィラメントを2m採取し、その質量(フィラメントの乾燥前質量:以下、単に乾燥前質量とも記す)を測定する。質量を測定したフィラメントを110℃で15分乾燥させ、フィラメントに付着している水分を完全に蒸発、乾燥させる。乾燥終了後、再度質量(フィラメントの乾燥後質量:以下、単に乾燥後質量とも記す)を測定する。得られた乾燥前質量、乾燥後質量から、乾燥前のフィラメントにおける水分率(%)を以下の式で求める。
【数1】

【0090】
上記においては、繊維の製造段階において、前記特定の成分を含む繊維処理剤を付着させる方法を説明した。本発明の親水性合成繊維は、前記繊維処理剤を繊維製造段階で付着させて得たものに限定されず、後述する繊維集合物の製造段階で前記繊維処理剤が合成繊維に付着されたものをも含む。具体的には、未処理のまたは他の繊維処理剤を付着させた合成繊維から、後述する方法で不織布などの繊維集合物を得た後、当該繊維集合物に、前記成分(a)、(b)、(c)の含有量を調整して得た処理剤をスプレーする方法、または当該処理剤を含浸させる方法などよって、処理剤を繊維集合物を構成する合成繊維の少なくとも一部の繊維表面に付着させる方法で、本発明の親水性合成繊維を得ることも可能である。あるいは、繊維集合物の形態をとる前の段階で(例えば、不織布を作製するための繊維ウェブ、および繊維から紡績して得た織物または編物用の紡績糸に)、当該繊維処理剤を付着させてもよい。
【0091】
前記の方法で得た親水性合成繊維(繊維集合物の製造段階で前記繊維処理剤を付着させる場合は、未処理の又は他の繊維処理剤を付着させた合成繊維)は、公知の繊維集合物、例えば、織編物、ネット状物、不織布などに加工されて使用される。繊維集合物は、本発明の親水性合成繊維を5質量%以上含む。本発明の繊維の含有量が5質量%未満であると、繊維集合物において親水性が十分に得られない。本発明の親水性合成繊維は、より好ましくは繊維集合物中に20質量%以上含まれる。本発明の親水性合成繊維は、特に、不織布を作製するのに好ましく用いられる。不織布は、繊維ウェブを作製した後、繊維を接着させる及び/または交絡させて一体化させることにより製造する。繊維ウェブの形態は特に限定されず、ステープル繊維からなるパラレルウェブ、セミランダムウェブ、およびクロスウェブ、短繊維からなる湿式抄紙ウェブ、およびエアレイウェブ、および長繊維からなるスパンボンドウェブ、およびメルトブローンウェブ、ならびにエレクトロスピニング法(静電紡糸法とも称す)で得られた繊維ウェブ等、いずれの繊維ウェブであってよい。柔軟性および風合いが重視される用途に使用する場合、不織布は、ステープル繊維からなるウェブを用いて作製されることが好ましい。
【0092】
不織布の製造において、繊維ウェブの繊維を一体化させる方法は特に限定されない。例えば、本発明の繊維が熱接着性芯鞘型複合繊維である場合、あるいは本発明の繊維が熱接着性繊維(単一繊維または芯鞘型複合繊維)とともに不織布を構成する場合には、熱風吹き付け法または熱エンボス法等のサーマルボンド法によって、繊維を一体化させてよい。あるいは、繊維の一体化は、ニードルパンチ法および水流交絡処理法等の機械的交絡法によって行ってよい。
【0093】
本発明の繊維が熱接着性芯鞘型複合繊維である場合、本発明の繊維を5質量%、好ましくは20質量%以上含む繊維ウェブを用いて不織布を作製し、サーマルボンドした後の不織布において、当該複合繊維の鞘成分により繊維同士が熱接着されていることが好ましい。具体的には、複合繊維の鞘成分が軟化または溶融して、繊維同士が固着されていることが好ましい。鞘成分の軟化または溶融による熱接着は、複合繊維の鞘成分の軟化点以上で、かつ芯成分の融点未満の温度の熱エンボスロールまたは熱風を用いて、熱処理することによって達成される。
【0094】
また、本発明においては、水流交絡処理法を採用して、繊維の一体化を行ってよい。水流交絡処理法は、前記サーマルボンド法と組み合わせてよい。水流交絡処理の条件は、最終的に得ようとする不織布の目付、柔軟性、および機能性に応じて設定される。不織布に開孔部を形成する場合には、そのことも考慮して、条件を設定する。水流交絡処理は、例えば、孔径0.05〜0.5mmのオリフィスが0.5〜1.5mmの間隔で設けられたノズルから、水圧1〜20MPaの柱状水流を、繊維ウェブの片面または両面にそれぞれ1〜8回ずつ噴射することによって実施してよい。
【0095】
本発明の繊維を含む繊維集合物は、これ以外の他の繊維を含んでよい。他の繊維は特に限定されず、例えば、コットン、シルクおよびウールなどの天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維であってよい。あるいは、他の繊維は、前記特定の繊維処理剤以外の繊維処理剤が繊維表面に付着した合成繊維であってよい。合成繊維を構成するのに適した樹脂、および合成繊維の形態は、先に説明したとおりであるから、ここではそれらに関する説明を省略する。これらの繊維は一種類のみ使用してよく、あるいは二種以上使用してよい。
【0096】
本発明の繊維集合物を不織布の形態で得て、これを衛生物品の表面材として使用する場合、不織布は熱接着不織布であることが好ましい。換言すれば、本発明の親水性繊維のみ、またはこれと他の繊維とを混合して、カード法またはエアレイ法等により、所望の目付の繊維ウェブを作製した後、必要に応じて交絡処理を施し、繊維同士を熱接着させて得た熱接着不織布が、衛生物品の表面材として好ましく用いられる。不織布は、本発明の繊維を含む(またはこれのみから成る)繊維ウェブと、他の繊維からなる繊維ウェブとの積層構造であってよい。いずれの構造を有する場合でも、衛生物品の表面材において、本発明の繊維は、5質量%以上、好ましくは20質量%以上、特に好ましくは50質量%以上含まれており、それにより、人または動物の体液を、身体から、吸収体に速やかに移動させることができる。
【0097】
本発明の繊維を含む繊維集合物の目付は特に限定されず、用途に応じて、適宜選択される。例えば、本発明の繊維集合物を不織布として、衛生物品の表面材に用いる場合には、目付は15〜80g/mとすることが好ましい。本発明の繊維集合物を不織布として、ウェットティッシュ、ワイパー、および使い捨ておしぼりといった対人、対動物及び対物用の各種ワイピングシートに用いる場合には、目付は20〜100g/mとすることが好ましい。また、本発明の繊維集合物を不織布として、フェイスマスクをはじめとする化粧料含浸シートや化粧用・医療用貼付剤に用いる場合には、目付は20〜200g/mとすることが好ましい。
【0098】
本発明の繊維を含む繊維集合物が不織布として提供される場合、当該不織布は、皮膚接触用製品に組み込まれて提供されることが好ましい。即ち、本発明はまた、当該不織布を少なくとも一部に使用した皮膚接触用製品を提供する。ここで、「皮膚接触用製品」とは、人または人以外の動物の皮膚に接触させて使用する製品を指す。具体的には、
・体液吸収性物品(具体的には乳児用紙おむつ、大人用紙おむつ、生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッド、陰唇間パッド、母乳パッド、汗取りシート、また動物用の排泄物処理材、動物用紙おむつ等)
・皮膚被覆シート(具体的にはフェイスマスク、冷感・温感パップ剤などの化粧用・医療用貼付剤の基布、創傷面保護シート、不織布製の包帯、痔疾用パッド、肌に直接あてる温熱器具(例えば使い捨てカイロ)、各種動物用貼付剤の基布等)
・対人ワイパー(メイク落としシート、制汗シート、おしり拭き等)、各種動物用ワイピングシート等
・その他(例えば使い捨ての肌着、医療用ガウンなど使い捨ての衣料品、マスク、動物用創傷保護衣料等)
が皮膚接触製品として挙げられる。本発明の繊維を含む不織布は、これらの製品の一部または全部を構成してよい。例えば、体液吸収性物品においては、表面材のみを本発明の繊維を含む不織布で構成してよい。また、皮膚被覆シートにおいては、特に、敏感な部分を覆う部分のみを本発明の繊維を含む不織布で構成してよく、あるいは皮膚被覆シート全体を本発明の繊維を含む不織布で構成してよい。
【実施例】
【0099】
(繊維処理剤の調製)
成分(a)、(b)および(c)として、下記に示すものを用意した。
【0100】
[成分(a)]
a−1:サーファクチンナトリウム(商品名 アミノフェクト(登録商標)、(株)カネカ製)
a−2:ソホロリピッド(商品名 ソホロリピッド(登録商標)、サラヤ(株)製)
【0101】
[成分(b)]
b−1:デカグリセリンモノラウレート(商品名 ML750、阪本薬品工業(株)製)
b−2:ヘキサグリセリンモノラウレート(商品名 ML500、阪本薬品工業(株)製)
b−3:ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル(プロピレンオキサイドの平均付加モル数9)(商品名 SC−P750、阪本薬品工業(株)製)
b−4:ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル(プロピレンオキサイドの平均付加モル数14)(商品名 SC−P1000、阪本薬品工業(株)製)
b−5:デカグリセリンモノラウレート(商品名 サンソフト(登録商標)Q12Y、太陽化学(株)製)
b−6:デカグリセリンモノラウレート(商品名 サンソフト(登録商標)M12J、太陽化学(株)
製)
b−7:(モノ)グリセリン(片山化学工業(株)製)
【0102】
[成分(c)]
c−1:乳酸ナトリウム(ピューラック社製)
c−2:乳酸カリウム(ピューラック社製)
【0103】
[その他の成分]
カテキン(太陽化学(株)製)
α−リポ酸(丸善製薬(株)製)
乳酸(ピューラック社製)
グリチルリチン酸ジカリウム(丸善製薬(株)製)
前記各成分を、表1、2に示す割合(質量%)で混合して、繊維処理剤を調製した。
【0104】
(実施例1)
紡糸前の融点が130℃、メルトインデックス(JIS−K−7210に準じて、190℃、21.18N(2.16kgf)で測定した値)が12、密度0.936g/cm)である高密度ポリエチレン樹脂(商品名:HE480、日本ポリエチレン(株)製)および紡糸前の融点が256℃、極限粘度値(IV値)が0.64のポリエチレンテレフタレート(商品名T200E、東レ(株)製)を用意した。孔径0.6mmの吐出口が600個設けられた紡糸ノズルを使用し、ポリエチレンテレフタレート樹脂/ポリエチレン樹脂の複合比(芯成分/鞘成分)を50/50とし、引取速度600m/分で溶融紡糸し、繊度5dtexの芯鞘型複合未延伸フィラメントを得た。
【0105】
次いで、この未延伸フィラメントを延伸温度80℃、延伸倍率2.7倍で、湿式延伸処理に付し、延伸されたフィラメントに対し、表1の実施例1の欄に示す混合割合で3種類以上の成分を混合して得た処理剤を、処理剤の濃度が3.5質量%となるように水で希釈した処理液を、クリンパーロール通過前に含浸法にて付着させた。処理液が付着したフィラメントをクリンパーロールに導入し、クリンパーロールにて捲縮を付与すると同時に、フィラメント全体の水分率が10%になるように余分な処理液を絞り落とした。その後、110℃、15分の乾燥工程を経て繊維表面の水分を蒸発、乾燥させてからカッターにて繊維長51mmに切断した。これにより、繊度が2.2dtex、捲縮数15山/25mm、捲縮率が12%の芯鞘型複合繊維を得た。
【0106】
繊維表面への処理剤の付着量は、東海計器(株)製 R−II型迅速残脂抽出装置を用い、迅速抽出法により測定した。まず所定長に切断された繊維4gをカード機にかけてウェブとし、得られたウェブの質量(W)を測定する。質量を測定したウェブを金属製の筒(内径16mm、長さ130mm、底部はすり鉢状で最底部には1mmの孔があるもの)に充填した後、上部よりメタノール10mlを投入する。底部の孔より滴下する、繊維試料に付着していた処理剤が溶解したメタノールを、アルミニウム皿(質量:Wtray)を加熱しながら受け、メタノールを蒸発させる。アルミニウム皿の質量(Wtray)は、乾燥機でアルミニウム皿を充分に乾燥させてから、メタノールを受ける前に測定する。メタノールが完全に蒸発した後、繊維処理剤が残留しているアルミニウム皿の質量(Wfat)を測定する。前記の測定の後、繊維質量に対する繊維表面への処理剤の付着量を、次の式から算出する。実施例1の繊維表面への処理剤の付着量を前記方法で求めた結果、処理剤の付着量は繊維質量に対し、0.35質量%であった。この付着量に、成分(a)の含有量(質量%)を乗じて、繊維質量に対する成分(a)の付着量(質量%)を求めた。
【数2】

【0107】
得られた繊維から、パラレルカードを用いて目付30g/mの繊維ウェブを作製し、熱風吹き付け装置を用いて、熱処理温度140℃で繊維の鞘成分を溶融して、繊維ウェブの繊維同士を熱接着させて熱接着不織布を得た。
【0108】
(実施例2〜25、比較例1〜23)
繊維処理剤として、それぞれ表1に示す実施例2〜25および比較例1〜23の欄に記載した割合で各成分を混合して調製したものを用いたこと以外は、実施例1を作製するときに採用した手順と同じ手順で繊維を得、さらに熱接着不織布を作製した。実施例2〜25および比較例1〜23の繊維表面への処理剤の付着量を前記方法で求めた結果、いずれの実施例および比較例も、処理剤の付着量が繊維質量に対し、0.35質量%であった。
【0109】
得られた各実施例および各比較例の不織布の親水性を評価した。親水性の評価はランオフ(run-off)テストと称される方法で行い、具体的には次の手順で行った。まず、不織布を、縦方向(機械方向)×横方向が18cm×7cmとなるように切断して、サンプルを用意した。このサンプルを、その縦方向と水平面とが45度の角度をなすように支持台の上に載せ、固定する。このとき、支持台の斜面の上には、日本製紙クレシア(株)製「キムタオル(登録商標)」を4枚重ねたものを最初に敷き、その上に不織布サンプルを載せて固定する。支持台は、水平面と45度の角度をなす斜面を有する、略垂直二等辺三角形の断面を有するものである。不織布表面の上端1cmの位置から、生理食塩水をマイクロチューブポンプまたはビュレットにて1g/10秒の速度で計6g滴下し、注いだ生理食塩水がすべて不織布に吸収され、生理食塩水の水滴が不織布表面から消えた位置を測定し、当該位置と生理食塩水を不織布表面に滴下した位置との間の、生理食塩水の水滴が不織布表面を流れた距離を求める。
【0110】
この距離が短いほど、不織布は親水性が高く、より具体的には、水分を瞬間的に吸収する能力が高いといえる。一方、親水性の低い不織布においては、滴下した生理食塩水が吸収されず、生理食塩水の水滴がサンプルの終端まで不織布表面を流れて残った。そのようなサンプルについて、生理食塩水の水滴が消えた位置を測定できなかったため、「測定不可」としている。
【0111】
また、各実施例および各比較例で得た繊維の加工性を、各実施例および比較例で熱接着不織布を製造する際のカード通過性により評価した。より具体的には、カード通過性は、繊維がカードを通過する際に発生する静電気の有無で評価した。評価基準は下記のとおりである。
○:室温25℃、湿度30%の雰囲気中でのカード通過時に静電気が発生しない。
△:室温25℃、湿度30%の雰囲気中でのカード通過時に静電気が発生するが、室温25℃、湿度70%の雰囲気中では静電気が発生しない。
×:室温25℃、湿度70%の雰囲気中のカード通過時でも静電気が発生し、繊維ウェブが採取できない。
加工性が、△と○との間にあったものについては、「△〜○」と評価した。
各実施例および各比較例で得た繊維の加工性および不織布の親水性を表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
表1に示すように、成分(a)、(b)および(c)を含み、かつ成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)の割合が2.5質量%以上50質量%未満である、混合物を含む繊維処理剤が繊維表面に付着した繊維は、加工性に優れ、かつ優れた親水性を示した(実施例1〜25)。特に、これらの3つの成分の割合がいずれも30質量%以上である混合物を含む繊維処理剤を用いた実施例1〜10は、ランオフ値が40mm未満であり、優れた親水性を示した。成分(b)の割合が30質量%未満である繊維処理剤を用いた実施例のうち、成分(b)の割合を20質量%にした繊維処理剤を用いた繊維(実施例11および12)は、成分(b)が30質量%以下となったことで、性能上問題がない範囲ではあるが、前記実施例1〜10と比較してランオフの距離が伸びていることから、親水性が少し低下していることがわかる。これは、少量添加したカテキンの影響によるものであるとも考えられる。
【0115】
成分(b)の割合が30質量%未満である繊維処理剤であり、かつ、成分(a)を50質量%含んでいる繊維処理剤を用いた例(実施例15、16)では、ランオフの距離がさらに少し伸び、また静電気の発生も確認された。このことから、成分(a)は成分(a)、(b)、(c)を含む繊維処理剤において必須成分であるものの、その含有量が多くなるにつれて、繊維に付与される親水性が徐々に低下する傾向があると推測される。また、成分(b)としてb−5、b−6のデカグリセリンモノラウレートを使用した繊維処理剤を付着させた繊維(実施例17〜22)は、優れた親水性を疎水性の合成繊維に付与できた。
【0116】
表2に記載の比較例1〜23においては、ランオフ値が60mmを超える、もしくは測定不可であり、良好な親水性を有する合成繊維を得られなかった。比較例1〜6は成分(a)、(b)、(c)をそれぞれ単独で使用した例である。いずれの試料においても、有効な親水性が付与された疎水性繊維を得られなかったことが分かる。また、前記3つの成分を併用しないと効果が得られないことは、2つの成分を併用した場合(比較例7〜16)においても、疎水性繊維に対し、有効な親水性を付与できていないことからわかる。さらに、前記特定の3成分を含む繊維処理剤であっても、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)の割合が2.5質量%未満であると疎水性繊維に対し有効な親水性を付与できないことが比較例22及び23の結果から確認できる。さらに、成分(b)が、重合されておらず、エステル化もされていない(モノ)グリセリンであると、これを成分(a)および成分(c)と併用した繊維処理剤が、疎水性繊維に対し、親水性を付与できないことを、比較例17〜21の結果から確認した。
【0117】
本発明において、成分(a)〜(c)が、各成分を単独で使用した場合では疎水性の繊維に対し十分な親水性を付与できないが、前記三成分を特定の割合で併用した場合にのみ疎水性の繊維に対し十分な親水性を付与できた原因として、次のことが考えられる。すなわち、界面活性剤である成分(a)は繊維に親水性を与える効果は高いものの、単独で繊維処理剤として使用する、或いは繊維処理剤中に高い割合で含有させると、繊維を乾燥状態にしたときに、粉末状となって繊維に付着すると考えられる。そのため、成分(a)は、繊維表面を膜となって均一に覆うことができず、結果として繊維表面には成分(a)が付着している部分と付着していない部分が生じ、繊維表面の親水性にムラが生じる、あるいは繊維に親水性を付与できない、および/またはカード工程において静電気が発生し、工程性および生産性が大きく低下するという事態が生じ得る。一方、ポリグリセリンおよび乳酸ナトリウムは、疎水性繊維に親水性を付与する効果は弱いものの、繊維とのなじみがよく、繊維表面を膜状になって均一に覆っていると考えられる。このため、親水性付与の効果が高い成分(a)と繊維表面とのなじみがよい成分(b)および(c)を特定の割合で混合し繊維表面に付着させることで、成分(a)が繊維表面に均一に付着し、その結果、疎水性繊維に対し、十分な親水性が付与されていると同時に、成分(b)のポリグリセリンがカード工程における静電気の発生を抑制し、加工性も向上させていると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の親水性合成繊維は、化粧料原料としても使用可能な特定の3種類の成分を含む繊維処理剤が繊維表面に付着していることにより、皮膚への刺激性が低く、かつ良好な親水性を示す。よって、本発明の繊維は、皮膚に直接接する製品(例えば、ウェットティッシュ、ワイパー、化粧料含浸シート、化粧用および医療用貼付剤)、または対人用もしくは対動物用の皮膚接触製品において皮膚に直接接する部材(紙おむつおよび生理用ナプキン等の表面材)を構成するのに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂から成る繊維であって、
(a)リポペプチド構造を有する界面活性剤、
ヘキソース(ヒドロキシル基の一つが還元されて水素原子に置き換わったデオキシ糖を含む。以下同様)1分子とヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤、
ヘキソース2分子がグリコキシド結合した二糖類(ヒドロキシル基が一部アセチル化したものを含む。以下同様)と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤、および
ヘキソース1分子にC2n+2(ただしn=4〜6)の糖アルコール1分子がグリコキシド結合した分子と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤
(b)(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、および(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに
(c)乳酸塩
を含む繊維処理剤であって、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)を2.5質量%以上50質量%以下で含む繊維処理剤が繊維表面に付着している親水性合成繊維。
【請求項2】
繊維処理剤が、成分(a)〜(c)を合わせて100質量%としたときに、成分(b)および成分(c)をそれぞれ30質量%以上含む、請求項1に記載の親水性合成繊維。
【請求項3】
繊維処理剤が、成分(a)〜(c)の質量を合わせて50質量%以上含む、請求項1または2に記載の親水性合成繊維。
【請求項4】
成分(a)が、サーファクチン、その同族体およびそれらの塩、ソホロリピッド、ラムノリピッド、およびマンノースエリスリトールリピッド(MEL)から選ばれる少なくとも一種である、1〜3のいずれか1項に記載の親水性合成繊維。
【請求項5】
成分(b)が、ラウリン酸が重合度6〜10のポリグリセリンにエステル結合してなるポリグリセリンモノラウレート、またはジグリセリンのプロピレンオキサイド付加物であって、平均付加モル数が9〜14である付加物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水性合成繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の親水性合成繊維を5質量%以上含有している、繊維集合物。
【請求項7】
請求項6に記載の繊維集合物が不織布であり、前記不織布を少なくとも一部に使用した皮膚接触用製品。
【請求項8】
(a)リポペプチド構造を有する界面活性剤、
ヘキソース(ヒドロキシル基の一つが還元されて水素原子に置き換わったデオキシ糖を含む。以下同様)1分子とヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤、
ヘキソース(ヒドロキシル基の一つが還元されて水素原子に置き換わったデオキシ糖を含む。以下同様)2分子がグリコキシド結合した二糖類(ヒドロキシル基が一部アセチル化したものを含む。以下同様)と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤、および
ヘキソース1分子にC2n+2(ただしn=4〜6)の糖アルコール1分子がグリコキシド結合した分子と、ヒドロキシル脂肪酸とからなる糖脂質の界面活性剤
からなる群から選ばれる少なくとも1種の界面活性剤
(b)(ポリ)グリセリン、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、および(ポリ)グリセリンのアルキレンオキサイド付加物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、ならびに
(c)乳酸塩
を含む繊維処理剤であって、成分(a)〜(c)の質量を合わせて100質量%としたときに、成分(a)を2.5質量%以上50質量%以下で含む、繊維処理剤。
【請求項9】
繊維処理剤が、成分(a)〜(c)を合わせて50質量%以上含む、請求項8に記載の繊維処理剤。

【公開番号】特開2012−57275(P2012−57275A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202709(P2010−202709)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000002923)ダイワボウホールディングス株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】