説明

親水性樹脂およびその製造方法

【課題】要求品質を満足し、また、吸水性樹脂にあっては吸水性能に優れた親水性樹脂を提供する。
【解決手段】炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量が50質量ppm以下の原料モノマーを重合して親水性樹脂を製造する。この炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類は、炭素数9〜10の、アルキル基で置換された六員環の芳香族炭化水素の1種又は2種以上である。原料モノマー中の特定の環状不飽和炭化水素類の含有量を特定の値以下に抑制することにより、要求品質を満足し、また、吸水性樹脂にあっては吸水性能に優れた親水性樹脂を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残存モノマーおよび水可溶分含有量の少ない親水性樹脂およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
親水性樹脂は、吸水性樹脂および水溶性樹脂の2種に大別され、その親水性により幅広い用途に用いられている。この親水性樹脂の原料として最も広く用いられているのは部分中和(メタ)アクリル酸である。ここで「(メタ)アクリル酸」とは「アクリル酸およびメタクリル酸」を指す。
【0003】
親水性樹脂のうち、吸水性樹脂(或いは「高吸水性樹脂」と呼ばれることもある。)は、一般に、紙オムツ、生理用ナプキンなどの衛生材料分野をはじめとして、農林業分野、土木分野などに幅広く利用されている。吸水性樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸部分中和物の架橋体(特開昭62−54751号公報、特開平3−31306号公報、特開平6−211934号公報、米国特許4654039号、米国特許5338810号、米国特許5574121号、米国特許5562646号、欧州特許第574260号明細書、欧州特許第942014号明細書)などが知られている。
【0004】
一方、水溶性樹脂は、水処理用凝集剤、石油掘削添加剤、食品添加物、増粘剤などに利用され、例えば、ポリアクリル酸ソーダ(特公昭48−42466号公報、特公昭42−9656号公報)、ポリアクリル酸(特開昭54−145782号公報)、アクリル酸−アクリルアミド共重合体(特開昭59−15417号公報)、(メタ)アクリル酸−イタコン酸共重合体(特開昭58−91709号公報)などが知られている。
【0005】
これらの用途において、親水性樹脂(すなわち吸水性樹脂および水溶性樹脂)では共通して残存モノマー濃度が低いことが、また、親水性樹脂のうち吸水性樹脂においては水可溶分含有量が少ないことが要求品質とされている(以下「親水性樹脂(すなわち吸水性樹脂および水溶性樹脂)では共通して残存モノマーが少ないこと、親水性樹脂のうち吸水性樹脂においては水可溶分が少ないこと」を単に「要求品質」と呼ぶことがある。なお、水溶性樹脂に対して「水可溶分が少ない」ことが要求されることはなく、本発明において、「水可溶分」とは断らない限り「吸水性樹脂における水可溶分」を指す。)。
【0006】
ところで、原料モノマーに含まれる特定の不純物は、得られる親水性樹脂中の残存モノマー量を増加させたり、水可溶分量を増加させることが知られている。また、原料モノマーに含まれる特定の不純物は吸水性樹脂の保水能等の吸水性能を低下させることも知られている。そのため、要求品質および吸水性樹脂の吸水性能確保のため、従来より、親水性樹脂の原料モノマーとしては、不純物を除去した精製(メタ)アクリル酸が用いられてきた。
【0007】
従来、この精製(メタ)アクリル酸を得る方法としては、共沸剤を用いて(メタ)アクリル酸の製造に用いた水を相アクリル酸から脱水蒸留し、更に副生した酢酸を蒸留分離する方法が数多く提案されており、例えば、一塔の蒸留塔で水および酢酸を同時に分離する方法(特公昭46−18967号公報、特公昭46−20372号公報、特公昭46−22456号公報、特公昭46−34692号公報、特公昭49−21124号公報、特開平5−246941号公報)と、二塔の蒸留塔を用いて各々脱水と酢酸の分離とを行う方法(特公昭41−15569号公報、特公昭46−18966号公報、特公昭50−25451号公報、特公昭63−10691号公報、特開平3−181440号公報、特公平6−15495号公報、特公平6−15496号公報)等がある。
【特許文献1】特開昭62−54751号公報
【特許文献2】特開平3−31306号公報
【特許文献3】特開平6−211934号公報
【特許文献4】米国特許4654039号
【特許文献5】米国特許5338810号
【特許文献6】米国特許5574121号
【特許文献7】米国特許5562646号
【特許文献8】欧州特許第574260号明細書
【特許文献9】欧州特許第942014号明細書
【特許文献10】特公昭48−42466号公報
【特許文献11】特公昭42−9656号公報
【特許文献12】特開昭54−145782号公報
【特許文献13】特開昭59−15417号公報
【特許文献14】特開昭58−91709号公報
【特許文献15】特公昭46−18967号公報
【特許文献16】特公昭46−20372号公報
【特許文献17】特公昭46−22456号公報
【特許文献18】特公昭46−34692号公報
【特許文献19】特公昭49−21124号公報
【特許文献20】特開平5−246941号公報
【特許文献21】特公昭41−15569号公報
【特許文献22】特公昭46−18966号公報
【特許文献23】特公昭50−25451号公報
【特許文献24】特公昭63−10691号公報
【特許文献25】特開平3−181440号公報
【特許文献26】特公平6−15495号公報
【特許文献27】特公平6−15496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の精製技術によって得られた精製(メタ)アクリル酸を用いたにもかかわらず、依然として要求品質を確保できない場合があった。そして、その原因は必ずしも明らかではなかった。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、要求品質を満足し、また、吸水性樹脂にあっては吸水性能に優れた親水性樹脂およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、親水性樹脂の原料モノマーの不純物について詳細に分析した結果、原料モノマー中に含まれるごく微量の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類が原料モノマーの重合を阻害すること、さらに原料モノマー中のこの特定の環状不飽和炭化水素類の含有量を特定の値以下に抑制することにより、要求品質を満足し、また、吸水性樹脂にあっては吸水性能に優れた親水性樹脂を製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明(請求項1)の親水性樹脂の製造方法は、原料モノマーを重合して親水性樹脂を製造する方法において、該原料モノマー中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量が50質量ppm以下であることを特徴とする。
【0012】
請求項2の親水性樹脂の製造方法は、請求項1において、原料モノマー中の主成分モノマーが部分中和(メタ)アクリル酸であることを特徴とする。
【0013】
請求項3の親水性樹脂の製造方法は、請求項1または2において、重合が、ラジカル重合であることを特徴とする。
【0014】
請求項4の親水性樹脂の製造方法は、請求項3において、重合が、レドックス重合であることを特徴とする。
【0015】
請求項5の親水性樹脂の製造方法は、炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類が、炭素数9〜10の、アルキル基で置換された六員環の芳香族炭化水素の1種又は2種以上である請求項1ないし4のいずれかに記載の親水性樹脂の製造方法であることを特徴とする。
【0016】
請求項6の親水性樹脂の製造方法は、請求項1ないし5のいずれかにおいて、製造された親水性樹脂中の残存モノマー濃度が2000質量ppm以下であることを特徴とする。
【0017】
請求項7の親水性樹脂の製造方法は、請求項1ないし6のいずれかにおいて、製造された親水性樹脂中の水可溶分量が25重量%以下であることを特徴とする。
【0018】
本発明(請求項8)の親水性樹脂は、原料モノマーを重合して得られる親水性樹脂において、該原料モノマー中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量が50質量ppm以下であることを特徴とする。
【0019】
請求項9の親水性樹脂は、請求項8において、原料モノマー中の主成分モノマーが部分中和(メタ)アクリル酸であることを特徴とする。
【0020】
請求項10の親水性樹脂は、炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類が、炭素数9〜10の、アルキル基で置換された六員環の芳香族炭化水素の1種又は2種以上である請求項8または9に記載の親水性樹脂であることを特徴とする。
【0021】
請求項11の親水性樹脂は、請求項8ないし10のいずれかにおいて、残存モノマー濃度が2000質量ppm以下であることを特徴とする。
【0022】
請求項12の親水性樹脂は、請求項8ないし11のいずれかにおいて、水可溶分量が25重量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、残存モノマー及び水可溶分の含有量が少なく、保水能等の吸水性能に優れた吸水性樹脂、残存モノマーの含有量の少ない水溶性樹脂といった、各々の分野で優れた特性を発揮する親水性樹脂が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の親水性樹脂およびその製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
本発明において、親水性樹脂とは、水ないし水溶液により膨潤或いは溶解する性質を有する、水との親和性の強い高分子ないし高分子架橋体を示す。
【0026】
[原料モノマー]
まず、本発明に係る原料モノマーについて説明する。
【0027】
本発明で用いる原料モノマーは、好ましくは部分中和(メタ)アクリル酸を主成分モノマーとし、炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類、特に炭素数9〜10の、アルキル基で置換された六員環の芳香族炭化水素の1種以上の総含有量が50質量ppm以下のものである。
【0028】
(1)主成分モノマー
本発明において使用するモノマーは、重合することによって親水性樹脂を与えるものであって、好ましくはラジカル重合によってその重合が開始される重合性モノマーである。この重合性モノマーは、それ自体、水溶性であることが好ましい。
【0029】
このようなモノマーの代表例であって、しかも本発明で使用するのに好ましいものは、(部分中和)脂肪族不飽和カルボン酸である。具体的には、(部分中和)アクリル酸、(部分中和)メタクリル酸等の(部分中和)不飽和モノカルボン酸またはその塩;或いは(部分中和)マレイン酸、(部分中和)イタコン酸等の(部分中和)不飽和ジカルボン酸を例示することができ、これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。この中で好ましいのは、(部分中和)アクリル酸および(部分中和)メタクリル酸であり、特に好ましいのは(部分中和)アクリル酸である。ここで「(部分中和)アクリル酸」等の表現は「部分中和アクリル酸およびアクリル酸」を示す。他の酸についても同様である。
【0030】
なお、通常、(メタ)アクリル酸は、精製度合や使用目的に応じて様々な名称が付けられている。例えば、親水性樹脂の原料として用いられる(メタ)アクリル酸は広く市販されており、一般的に、精製(メタ)アクリル酸、高純度(メタ)アクリル酸、グレーシャル(メタ)アクリル酸(G(M)AA)、製品(メタ)アクリル酸等と呼ばれている。本明細書においては、後述の高精製(メタ)アクリル酸と区別するために、特に断らない限り、これらの(メタ)アクリル酸を「粗(メタ)アクリル酸」と称する。また、この「粗(メタ)アクリル酸」を更に精製して特定不純物を除去したものを、前者と区別するために「高精製(メタ)アクリル酸」と称する。
【0031】
(2)原料モノマー中の芳香族炭化水素類
このような重合性モノマーを主成分モノマーとする原料モノマー中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総量が50質量ppmより多いと、要求品質を満足する親水性樹脂を得ることができないため、本発明においては、原料モノマー中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量は50質量ppm以下とする。原料モノマー中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量は少ない程好ましく、好ましくは30質量ppm以下、より好ましくは20質量ppm以下である。ただし、原料モノマー中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量を過度に少なくするには、後述の精製工程での負荷が大きく、精製コストが高騰する。通常、原料モノマー中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の含有量の下限は、親水性樹脂に望まれる要求品質と原料コスト等を考慮して適宜設定される。
【0032】
原料モノマー中の炭素数が8〜10の環状不飽和炭化水素類としては、例えば炭素数が8〜10の芳香族炭化水素類が挙げられ、これらは環に結合する水素原子が置換されていてもよい。これらの中で好ましくは、炭素数9〜10の芳香族炭化水素類、特に環に結合する水素原子がアルキル基で置換された六員環の芳香族単環式炭化水素(即ち、アルキルベンゼン系化合物)が挙げられる。なお、本発明において、芳香族単環式炭化水素とは、一つの芳香族環とこれに結合する1以上の炭化水素基とからなる化合物である。
【0033】
ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。アルキル基による置換数は、1〜4であることが好ましい。
【0034】
炭素数が9〜10の芳香族単環式炭化水素としては、具体的には、下記構造式で示される、2−エチルトルエン、3−エチルトルエン、4−エチルトルエン、1,2,3−トリメチルベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,3,5−トリメチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン、1,2,3,5−テトラメチルベンゼン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,2,4,5−テトラメチルベンゼン、4−エチル−m−キシレン、5−エチル−m−キシレン、2−エチル−p−キシレン、2−n−プロピルトルエン、3−n−プロピルトルエン、4−n−プロピルトルエン、1,2−ジエチルベンゼン、1,3−ジエチルベンゼン、1,4−ジエチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン、o−シメン、m−シメン、p−シメン等が挙げられる。
【0035】
【化1】

【0036】
これら芳香族単環式炭化水素は、例えば、(メタ)アクリル酸の製造工程において、酸化あるいは精製工程に由来して、生成した粗(メタ)アクリル酸中に、通常、約60〜100質量ppm程度含まれ、炭素数が近い異性体であるため分離が難しく、一般的には原料モノマー中に複数種が混合状態で存在していると考えられる。
【0037】
(3)原料モノマーの精製方法
炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量が50質量ppm以下の原料モノマーを得るためには、原料モノマーの精製に工夫が必要である。好ましい原料モノマーの精製方法としては晶析法、吸着分離法、および蒸留法が挙げられるが、中でもより穏和な条件で精製可能な晶析法がより好ましい。以下に、主成分モノマーとして好適な部分中和(メタ)アクリル酸等の前駆体である(メタ)アクリル酸の精製による「高精製(メタアクリル酸)」の製造を例示して、本発明に好適な精製方法を示すが、本発明に係る原料モノマーの主成分モノマーは、何ら部分中和(メタ)アクリル酸に限定されるものではない。
【0038】
精製方法のうち、蒸留法としては、蒸留塔の理論段数および還流比を上げたいわゆる精密蒸留が好ましい。その際、(メタ)アクリル酸自体、重合しやすいため、ヒドロキノン(HQ)、メトキシキノン(MQ)、フェノチアジン、銅塩等の遷移金属化合物等の重合禁止剤の適量を配合する;重合禁止作用を奏する気相部の酸素濃度を制御する;蒸留温度範囲を制御する;などの特段の注意が必要である。
【0039】
また、吸着分離法では、吸着剤として、疎水性の環状不飽和炭化水素類を吸着分離し得る疎水性のモレキュラーシービングカーボンや活性炭のような吸着剤を用いることが好ましく、親水性のゼオライト、シリカゲル、活性白土等を用いることは好ましくない。なお、吸着剤には、(メタ)アクリル酸に対して重合活性を有しているものがあり、注意が必要である。(メタ)アクリル酸に対して重合活性を有さない点からモレキュラーシービングカーボンや活性炭は吸着剤として好ましい。
【0040】
晶析法に関しては、代表的な手法として、結晶可能な成分を含有する液体原料に種結晶を入れ、液体中に結晶を懸濁状態に成長させる方法と、冷却壁面等に結晶を析出させそれを成長させる方法とがあるが、後者の方法が好ましい。即ち、前者の方法を実施する攪拌槽型晶析装置では、大量生産をする場合に伝熱面積が不足しやすく、また(メタ)アクリル酸のように付着性の結晶の場合は、冷却面からの結晶のかきとりが必要であるため冷却コイルを設置することが不可能で、このためにより一層伝熱面積が不足する問題がある。また、固液分離が必要であり、多段の晶析の場合に、装置も操作も煩雑である。後者の方法に関しては、例えば、A.S.Myerson編「Handbook of Industrial Crystallization,Butterworth-Heinemann、1993」)や松岡正邦著「やさしい実用晶析操作入門、ケミカルエンジニアリング、1992.9月号、P76〜83」に記載があり、冷却面に結晶層を析出成長させる方法は晶析速度が大きく操作性に優れている利点を有し、取り込んだ不純物を除去して結晶の純度を上げるためには、結晶を部分融解するいわゆる「発汗操作」が有効であることが示されている。
【0041】
具体的には、晶析法では、炭素数が8〜10の環状不飽和炭化水素類を含有する粗(メタ)アクリル酸組成物から(メタ)アクリル酸を晶出させ、晶出した(メタ)アクリル酸を発汗させ、発汗後に結晶として残った(メタ)アクリル酸を分離する。
【0042】
晶析に供する粗(メタ)アクリル酸組成物には、(メタ)アクリル酸の合成工程から得られる(メタ)アクリル酸と水とを含有する(メタ)アクリル酸含水物を、共沸溶剤の存在下で蒸留して、(メタ)アクリル酸含水物から水を除いた組成物を用いることができる。粗(メタ)アクリル酸組成物には、(メタ)アクリル酸含水物を用いても良い。(メタ)アクリル酸含水物には、有機溶剤を含んでいても良い(メタ)アクリル酸の水溶液や、水を含んでいても良い(メタ)アクリル酸の有機溶剤の溶液等が挙げられる。具体的には、粗(メタ)アクリル酸組成物には、前述した共沸溶剤や抽出溶剤を繰り返し用いる共沸蒸留法や溶剤抽出法によって得られる組成物が用いられる。
【0043】
本発明において、(メタ)アクリル酸の晶出は、晶出前の(メタ)アクリル酸組成物の温度を下げることによって行うことができる。晶析の操作温度は、結晶が析出する温度以下であればよいが、操作の面から、操作温度は−10〜13℃が好ましい。晶出した(メタ)アクリル酸の発汗は、晶出した(メタ)アクリル酸の一部を融解させることによって行うことができる。なお、発汗とは、結晶内に取り込まれた母液に起因する不純物を、結晶の温度を上げること等によって結晶外に取り除く現象および操作である。
【0044】
このような操作は、晶出した(メタ)アクリル酸のうちの好ましくは10〜80容量%程度を徐々に融解させることによって行うことができる。このようなゆっくりとした融解は、晶出した(メタ)アクリル酸の温度の緩やかな上昇や、晶出した(メタ)アクリル酸に母液を接触させることや、晶出した(メタ)アクリル酸に(メタ)アクリル酸の結晶の融解物を接触させることによって行うことができる。
【0045】
また、発汗後に分離した(メタ)アクリル酸の結晶を融解し、(メタ)アクリル酸の晶出、晶出した(メタ)アクリル酸の発汗および分離を繰り返し行っても良い。このような操作によれば、前記芳香族単環式炭化水素をはじめ、種々の不純物をさらに高度に除去し、より一層高純度の(メタ)アクリル酸を得る観点から好ましい。
【0046】
晶析や発汗を行う装置としては、(メタ)アクリル酸の融解の際に急激な熱を加えることが避けられる装置であれば特に限定されない。小スケールであればガラス製容器と冷却恒温槽のような簡単な設備でも構わないし、工業スケールであれば、例えば、「化学工学便覧、改訂6版(1999)」に掲載されている公知の装置を用いることができる。晶析や発汗の操作の形式は回分式および連続式のいずれでもよい。
【0047】
結晶と母液を分離する方法としては、固体と液体とを分離することができる方法であれば特に制限はなく、例えば、濾過法、遠心分離法等の公知の方法を利用することができる。分離の操作の形式は、回分式および連続式のいずれでも良い。
【0048】
前述した(メタ)アクリル酸の晶出、発汗、および結晶と母液との分離には、これらの操作の全てを行うことができる装置を用いることが好ましい。このような装置としては、例えば回分操作の流下液膜型装置(FFC)、複数の結晶析出槽と塔型の精製部とを有する連続式の4C晶析装置、および清水忠造「“クレハ連続結晶精製装置による有機合成の精製”、ケミカルエンジニアリング,第27巻,第3号(1982)、第49頁」に掲載されているKCP装置等が挙げられる。
【0049】
なお、前述した装置において、分離した結晶は、結晶の状態のまま装置から取り出しても良いし、これを融解させて液体の状態で装置から取り出しても良い。
【0050】
(メタ)アクリル酸組成物中の前記環状不飽和炭化水素類の総濃度は、公知の定量方法を利用して測定することができる。このような測定方法としては、高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーを用いる絶対検量線法や内部標準法等が挙げられる。この測定では、前記環状不飽和炭化水素類の検出強度によっては、測定試料を濃縮する等の、測定試料中の前記環状不飽和炭化水素類の濃度を適切に測定するための処理を行った測定試料を用いても良い。
【0051】
[親水性樹脂の製造方法]
次に、上述のような方法で、炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量が、50質量ppm以下となるように精製を行った原料モノマーを用いて、本発明の方法に従って、親水性樹脂を製造する方法について説明する。
【0052】
なお、本発明においては、原料モノマー中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量を50質量ppm以下とするものであり、従って、例えば、後述のように、部分中和(メタ)アクリル酸以外の他の共重合性モノマーを用いる場合は、その併用モノマーを含めた、最終的に親水性樹脂の合成に用いる原料モノマー中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量が50質量ppm以下となるように、必要に応じて、各々のモノマーについて精製により当該環状不飽和炭化水素類の分離除去を行うこととなる。
【0053】
(1)原料モノマー
〈1〉主成分モノマー
原料モノマーは、一般に水溶液として重合工程に供される。
【0054】
本発明で主成分モノマーとして用いる重合性モノマーとしては、前述の如く(部分中和)脂肪族不飽和カルボン酸が好ましく、従って、この重合性モノマーの水溶液としては(部分中和)脂肪族不飽和カルボン酸を主成分とする水溶液が好ましい。ここで、「(部分中和)脂肪族不飽和カルボン酸を主成分とする」とは、(部分中和)脂肪族不飽和カルボン酸が重合性モノマーの全量に対して50モル%以上、好ましくは80モル%以上含まれることを意味する。
【0055】
部分中和脂肪族不飽和カルボン酸としては、水溶性の塩、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等が通常用いられる。また、その中和度は、目的に応じて適宜定められるが、吸水性樹脂を与える(メタ)アクリル酸の場合には、カルボキシル基の20〜90モル%がアルカリ金属塩またはアンモニウム塩、特にナトリウム塩またはカリウム塩に中和されたものが好ましい。(メタ)アクリル酸モノマーの部分中和度が20モル%未満であると、生成する吸水性樹脂の吸水能が著しく低下する傾向がある。
【0056】
(メタ)アクリル酸モノマーの中和には、アルカリ金属の水酸化物や重炭酸塩等または水酸化アンモニウム等が使用可能であるが、好ましいのはアルカリ金属水酸化物であり、その具体例としては水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが挙げられる。
【0057】
〈2〉共重合可能なモノマー
本発明においては、上記の好ましい主成分モノマーである(部分中和)脂肪族不飽和カルボン酸以外に、これらと共重合可能な重合性モノマー、例えば、(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、または低水溶性モノマーではあるが、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類等も、得られる親水性樹脂の性能を低下させない範囲の量で共重合させても差し支えない。なお、これらの重合性モノマーのうち親水性樹脂を与えるものは、脂肪族不飽和カルボン酸またはその塩に対する補助成分としてではなく、「親水性樹脂を与える重合性モノマーの水溶液」の主成分モノマーとして使用することもできる。
【0058】
〈3〉重合性モノマー水溶液の濃度
上述の(部分中和)脂肪族不飽和カルボン酸を主成分として含む重合性モノマー水溶液の重合性モノマーの濃度は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上である。この濃度が20重量%より少ないと重合後の親水性樹脂の吸水能ないし水溶性が十分に得られないことがある。重合性モノマー水溶液の濃度の上限は重合反応液の取り扱い上から80重量%程度とするのが良い。なお、モノマー濃度或いは後述の添加薬剤のモノマーに対する濃度を見積もる際のモノマー重量は、重合性モノマーおよびその塩の合計重量である。
【0059】
(2)添加薬剤
〈1〉架橋剤
重合により得られる親水性樹脂の用途に応じて、高分子に架橋構造を導入する事がある。特に吸水性樹脂を製造する場合においては、架橋構造を導入することが重要な場合がある。(部分中和)脂肪族不飽和カルボン酸、特に(部分中和)(メタ)アクリル酸塩は、それ自身で自己架橋高分子を形成することがあるが、架橋剤を併用して架橋構造を積極的に形成させることもできる。架橋剤を併用すると、一般に生成吸水性樹脂の吸水性能が向上する。架橋剤としては、前記重合性モノマーと共重合可能なジビニル化合物のような2個以上のビニル基を有するポリビニル化合物、例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールポリ(メタ)アクリレート類等、ならびにカルボン酸と反応し得る2個以上の官能基を有する水溶性の化合物、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、或いはグリセロールポリグリシジルエーテルのようなポリエチレングリコールポリグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル等が好適に使用される。この中で特に好ましいのは、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドおよびグリセロールポリグリシジルエーテルである。架橋剤の使用量は、重合性モノマーに対して、好ましくは0.001〜1重量%、より好ましくは0.01〜0.5重量%である。
【0060】
〈2〉重合開始剤
本発明で用いられる重合開始剤は、ラジカル重合開始剤である。例えば過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、アセチルパーオキシド等の過酸化物、過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウム等の過硫酸塩、第二セリウム塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩等、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド等のアゾ化合物が挙げられる。これらの重合開始剤の使用量は、重合性モノマーに対して、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜2重量%である。
【0061】
酸化剤と還元剤の組み合わせであるレドックス系をなす開始剤も好ましく用いることができる。
【0062】
この場合、酸化剤としては、例えば過酸化水素、過硫酸アンモニウムや過硫酸カリウム等の過硫酸塩、t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、アセチルパーオキシド、その他、第二セリウム塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩等が挙げられる。この中でも過酸化水素が特に好ましい。これら酸化剤の使用量は、重合性モノマーに対して、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜2重量%である。
【0063】
還元剤は、上記酸化剤とレドックス系を形成し得るものであり、具体的には亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、L−アスコルビン酸またはL−アスコルビン酸塩、エリソルビン酸またはエリソルビン酸塩等を挙げることができる。中でも、L−アスコルビン酸またはL−アスコルビン酸アルカリ金属塩、エリソルビン酸またはエリソルビン酸アルカリ金属塩が特に好ましく、L−アスコルビン酸またはL−アスコルビン酸アルカリ金属塩が最も好ましい。これらの還元剤の使用量は、重合性モノマーに対して、好ましくは0.001〜10重量%、より好ましくは0.01〜2重量%である。
【0064】
さらにレドックス系をなす、酸化剤と還元剤の組み合わせに作用機構の異なる前記の開始剤、例えば2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロリド等のアゾ化合物の併用も可能である。
【0065】
(3)製造工程
本発明により、実用的な親水性樹脂を製造するためには、以下に述べる重合工程、乾燥工程を行い、必要に応じて残存モノマー量低減化工程等のその他の付加的工程を行う。残存モノマー量低減化工程は必ずしも行う必要はないが、親水性樹脂の有用性を高めるために行うことが好ましい。以下に、各工程について具体的に説明する。
【0066】
〈1〉重合工程
重合工程は、レドックス重合の原料調製、混合、反応、回収の各過程より成り立っている。
【0067】
好ましい重合法、特にレドックス重合法においては、親水性樹脂を与える重合性モノマーの水溶液、例えば、(部分中和)脂肪族不飽和カルボン酸を主成分とする重合性モノマーの水溶液に、レドックス系重合開始剤を配して混合し、当該モノマーの重合を開始させ、反応開始後のモノマーおよび生成ポリマーを含む重合進行中の反応混合物を気相中で液滴となし、重合を完結させ親水性樹脂として回収したり、重合進行中の反応混合物を他の素材、たとえば繊維、不織布、無機粉末、有機粉末、高分子粉末と接触および/または接着させて親水性樹脂複合体として回収したりするものである。ここにおいて重合工程の完了とは、重合率が50%以上に達している状態を指す。
【0068】
気相中での液滴を重合させる好ましい一つの方法は、レドックス系重合開始剤を構成する酸化剤と還元剤の一方を含む重合性モノマー水溶液からなる第1液と、レドックス系重合開始剤の他方および所望により重合性モノマーを含む水溶液からなる第2液を気相中で混合することにより重合を開始させることからなる。
【0069】
具体的な手段としては、例えば、後述の実施例に示すように、第1液および第2液を、ノズルから流出する液同士の交差角度が15°以上の角度で、しかも液柱状態で衝突するようにそれぞれ別個のノズルより噴出させる方法がある。このように両液に交差角度を持たせて互いに衝突させることにより、ノズルからの流出エネルギーの一部を混合に利用することができる。それぞれのノズルから流出する第1液と第2液の交差角度は、使用する重合性モノマーの性状、流量比等に応じ適宜選定する。例えば、液の線速度が大きければ交差角度は小さくすることができる。
【0070】
なお、この場合、第1液の温度は通常常温〜約60℃、好ましくは常温〜約40℃であり、また、第2液の温度も通常常温〜約60℃、好ましくは、常温〜約40℃である。
【0071】
このように、ノズルから噴出されたそれぞれの水溶液を、液柱状態で衝突させて両液を合体させる。合体後は液柱を形成していて、その状態がある時間保持されるが、その後この液柱は解体して液滴となる。生成した液滴は気相中で重合が進行する。好ましい液滴の大きさは直径で約5〜3000μmである。
【0072】
重合用ノズルとしては、さらにこの他にも特開平11−49805号公報、特開2003−40903号公報、特開2003−40904号公報、特開2003−40905号公報および特開2003−113203号公報で提案されている種々のノズルも用いることができる。
【0073】
このような重合の開始および重合進行中の液滴の形成を行う反応場を与える気相の気体としては、窒素、ヘリウム、炭酸ガス等の重合に不活性なものが好ましいが、空気でもよい。また、水蒸気のみの場合を含め、気体中の湿度には特に制限はないが、あまり湿度が低いと重合が進行する前にモノマー水溶液中の水分が蒸発してモノマーが析出し、その結果、重合速度が著しく低下、或いは重合が途中で停止する可能性がある。気体の温度条件は、室温以上150℃以下、望ましくは100℃以下である。気体の流れ方向は液柱および液滴の進行方向に関して向流、並流のどちらでも良いが、液滴の気相中滞留時間を長くする必要がある場合、すなわち重合性モノマーの重合率を上げ、ひいては液滴の粘度を高める必要がある場合には向流(反重力方向)の方がよい。
【0074】
〈2〉乾燥工程
一般にレドックス重合で得られる親水性樹脂は、乾燥状態で各用途に供する。従って、一般には重合工程の後のいずれかの時点で乾燥工程を行う必要がある。乾燥条件は、生成した親水性樹脂が著しく分解しない条件で行うことが好ましい。
【0075】
乾燥には100〜250℃、特に120〜200℃、とりわけ130〜180℃の温風を用いることが好ましい。100℃未満の温風では乾燥が完了せず好ましくない。一方、250℃超過の温風を用いると親水性樹脂の分解反応が無視できなくなり、親水性樹脂の着色等の品質劣化、性能低下が起こり好ましくない。乾燥時間は乾燥温度によるが、通常、0.1〜30分である。
【0076】
これらの条件を満足する乾燥方法としては、従来公知の乾燥機を用いることができる。例えば「化学工学III第2版」(藤田重文、東畑平一郎、東京化学同人(1972),352頁)に例示されているものが使用できる。具体的には、トンネル乾燥機、バンド乾燥機、ターボ縦型乾燥機、縦型乾燥機、ドラム乾燥機、円筒乾燥機、赤外線乾燥機、高周波乾燥機等が挙げられる。
【0077】
〈3〉その他の付加的工程
本発明の方法を用いて親水性樹脂を製造する際に、上記重合工程前、重合工程中、或いは重合工程と乾燥工程との間、或いは乾燥工程後に、その他の付加的工程として、残存モノマー低減化工程、表面架橋工程や添加剤添加工程、副資材添加工程などの工程を行っても良い。
【0078】
(残存モノマー低減化工程)
残存モノマーを低減化する方法としては、(1)モノマーの重合を進行させる方法、(2)モノマーを他の誘導体へ導く方法、(3)モノマーを除去する方法、が挙げられる。
【0079】
(1) モノマーの重合を進行させる方法としては、例えばポリマーをさらに加熱する方法、ポリマーにモノマーの重合を促進する触媒ないしは触媒成分を添加した後に加熱する方法、紫外線を照射する方法、電磁放射線または微粒子性イオン化放射線を照射する方法などが挙げられる。
【0080】
ポリマーをさらに加熱する方法は、重合により得られたポリマーを100〜250℃で加熱処理し、ポリマー中に残存するモノマーを重合させるものである。
【0081】
ポリマーにモノマーの重合を促進する触媒ないしは触媒成分を添加する方法は、例えばレドックス系重合開始剤を用いて重合を行った場合には、ラジカル発生剤が残存していることが多いので、重合により得られたポリマーに還元剤溶液を付与すればよい。還元剤としては、レドックス系重合開始剤として用いる亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、L−アスコルビン酸等を用いればよく、通常はこれらを0.5〜5重量%水溶液として該ポリマーに付与する。還元剤の付与量は乾燥ポリマー基準で0.1〜2重量%がよい。還元剤溶液の付与は、噴霧器を用いてポリマーにスプレーしたり、還元剤溶液中にポリマーを浸漬するなど、任意の方法で行うことができる。還元剤を付与したポリマーは次いで加熱して残存モノマーを重合させる。加熱は例えば100〜150℃で10〜30分間程度行えばよい。この加熱によりポリマーの含水率は低下するが、もし含水率が高い場合にはさらに乾燥機で乾燥して製品とする。
【0082】
ポリマーに紫外線を照射する方法では、通常の紫外線ランプを用いればよく、照射強度、照射時間等は残存モノマーの種類、残存モノマー含有量等によって変化するが、一般的には紫外線ランプ10〜200W/cm、好ましくは30〜120W/cm、照射時間0.1秒〜30分でランプとポリマーとの間隔は2〜30cmであることが好ましい。また、この時のポリマーの水分量としては、一般的には乾燥ポリマー1重量部に対して0.01〜40重量部、好ましくは0.1〜1.0重量部が採用される。0.01重量部未満または40重量部超過の水分量は、残存モノマーの低減化に著しい影響を及ぼすので好ましくない。紫外線を照射する時の雰囲気としては、真空下または窒素、アルゴン、ヘリウム等の無機ガス存在下、または空気中のいずれも使用できる。また照射温度は特に制限はなく、室温で充分その目的を達成することができる。用いる紫外線照射装置にも特に制限はなく、静置状態にて一定時間照射する方法、或いはベルトコンベヤーにて連続的に照射する方法等、任意の方法を用いることができる。
【0083】
ポリマーに放射線を照射する場合には、加速電子やガンマー線の様な高エネルギー放射線が用いられる。照射されるべき線量は、ポリマー中の残存モノマー量や、水分量等により変化するが、一般的には0.01〜100メガラド、好ましくは0.1〜50メガラドである。100メガラド超過の線量では吸水量が極めて小さくなり、また0.01メガラド未満では本発明で目的とする要求品質を満たし、残存モノマーが特段に小さい親水性樹脂が得られ難い。また、この時のポリマー水分量としては、一般的にはポリマー1重量部に対して40重量部以下、好ましくは10重量部以下が採用される。40重量部超過の水分量では残存モノマーの低減化に著しい影響を及ぼすので好ましくない。ポリマーに高エネルギー放射線を照射する時の雰囲気としては、真空下または窒素、アルゴン、ヘリウム等の無機ガス存在下、または空気中のいずれも使用できる。好ましい雰囲気は空気であって、空気中で照射を行なうと要求品質を十分に満たしかつ残存モノマーが特段に小さくなる。また、照射温度には特に制限は無く室温で十分にその目的を達成することができる。
【0084】
(2) モノマーを他の誘導体へ導く方法としては、例えば重合により得られたポリマーにアミン、アンモニア等を加える方法、亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、ピロ亜硫酸塩等の還元剤を加える方法が挙げられる。
【0085】
(3) モノマーを除去する方法としては、例えば有機溶媒による抽出、留去する方法が挙げられる。有機溶媒により抽出する方法では、重合により得られたポリマーを、含水有機溶媒中に浸漬して、残存モノマーを抽出除去する。含水有機溶媒としてはエタノール、メタノール、アセトン等を用いることができ、その含水率は10〜99重量%、特に30〜60重量%であるのが好ましい。一般に含水率が高いほど残存モノマーの除去能が高いが、含水率の高い含水有機溶媒を用いると後続する乾燥工程でのエネルギー消費が多くなる。ポリマーを含水有機溶媒に浸漬する時間は通常5〜30分間程度で十分であり、ポリマーを揺動させるなど残存モノマーの抽出を促進する手段を採用するのも好ましい。浸漬処理後は通常乾燥機で処理して乾燥する。
【0086】
また、モノマーを留去する方法としては、重合により得られたポリマーを過熱水蒸気または水蒸気含有ガスで処理する方法がある。例えば110℃の飽和水蒸気を120〜150℃に加熱して過熱水蒸気としてポリマーに接触させることにより、ポリマー中の残存モノマーを低減させることができる。この方法では、ポリマー中の水が水蒸気となって蒸発する際に、残存モノマーも同時に気化してポリマーから抜け出るものと考えられる。この方法によれば、残存モノマーの除去と製品の乾燥とを兼ねることができる。
【0087】
(表面架橋工程)
表面架橋工程は、樹脂の表面を架橋することによって樹脂の機能を増強したり、新たな機能を付与したりする工程である。例えば、吸水性能を向上させる目的で、吸水性樹脂の表面を架橋剤により架橋させることができる。一般に、粉末状の吸水性樹脂の表面に架橋剤とともに適量の水分を付与した後、加熱して表面を架橋することにより樹脂粒子の特性を改良することは公知であり、表面に選択的に架橋構造が形成される結果、吸水して膨潤するに際し、膨潤を阻害せずにその形状を維持することができるものと考えられている。
【0088】
この工程ではまず重合により得られたポリマーに表面架橋剤の溶液を付与する。
【0089】
表面架橋剤としてはN,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールビス(メタ)アクリレート等の重合性モノマーと共重合し得る多官能化合物や、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル等のカルボン酸基と反応し得る官能基を複数個有する化合物が用いられる。これらの表面架橋剤は、通常、ポリマーに対して0.1〜1重量%、好ましくは0.2〜0.5重量%となるように用いられる。
【0090】
なお、これらの表面架橋剤は、ポリマー全体に均一に付与されるように、水、エタノール、メタノールなどで希釈して0.1〜1重量%、特に0.2〜0.5重量%の溶液として用いるのが好ましい。架橋剤溶液の付与は通常は噴霧器を用いて架橋剤溶液をポリマーに噴霧したり、ロールブラシで架橋剤溶液をポリマーに塗布したりする方法により行うのが好ましい。なお、架橋剤溶液を過剰に付与した後、圧搾ロールでポリマー粒子がつぶれない程度に軽く圧搾したり、風を吹き付けたりして、余剰の架橋剤溶液を除去するようにしてもよい。この架橋剤溶液の付与は室温で行えばよい。架橋剤溶液を付与されたポリマーは、次いで加熱して架橋反応を進行させ、ポリマー表面に選択的に架橋構造を形成させる。架橋反応の条件は用いる架橋剤により適宜選択すればよいが、通常は100℃以上の温度で10分間以上反応させる。
【0091】
(副資材添加工程)
必要に応じて重合工程の途中或いは重合工程後に、副資材を供給して複合体としたり、組成物としたりすることもできる。副資材の配合により、生成した親水性樹脂の物理的或いは機械的物性の向上を図ることができる。中でも、副資材と親水性樹脂との接着ないし包埋を行った複合化が性能面での向上が大きく好ましい。この観点から副資材の供給はモノマーの重合率が比較的低い重合工程の途中で行うことが好ましい。
【0092】
副資材として素材面から特に制限がないが、天然素材、樹脂、セラミック、ガラス、金属等が挙げられる。それらの形状としても特に制限がないが粉末、ウィスカー状、フィラメント状、繊維状、粒状、フレーク状等が挙げられる。好ましい副資材としてはフィラメント状或いは繊維状のパルプ、ポリオレフィン、PET等が挙げられる。或いは粉末状或いは粒状のシリカ、アルミナ、タルク等も好ましく用いることができる。
【0093】
(添加剤添加工程)
目的とする用途に応じて親水性樹脂に所望の化学的機能を付与するために、各種の添加剤を添加することができる。これら添加剤としては、樹脂が吸収した液体による親水性樹脂の分解や変質を防止するための安定剤、抗菌剤、消臭剤、脱臭剤、芳香剤、発泡剤、pH緩衝剤等を挙げることができる。
【0094】
<安定剤>
例えば、吸水性樹脂が吸収した液体による親水性樹脂の分解や変質を防止する安定剤としては、排泄物(即ち人尿、糞便)、体液(人血、経血、分泌液等の体液)による親水性樹脂の分解、変質を防止する安定剤が挙げられる。特開昭63−118375号公報にはポリマー中に含酸素還元性無機塩および/または有機酸化防止剤を含有させる方法、特開昭63−153060号公報には酸化剤を含有させる方法、特開昭63−127754号公報には酸化防止剤を含有させる方法、特開昭63−272349号公報には硫黄含有還元剤を含有させる方法、特開昭63−146964号公報には金属キレート剤を含有させる方法、特開昭63−15266号公報にはラジカル連鎖禁止剤を含有させる方法、特開平1−275661号公報にはホスフィン酸基またはホスホン酸基含有アミン化合物またはその塩を含有させる方法、特開昭64−29257号公報には多価金属酸化物を含有させる方法、特開平2−255804号公報、特開平3−179008号公報には重合時水溶性連鎖移動剤を共存させる方法等が提案されている。これらはすべて本発明にて使用することができる。また、特開平6−306202号公報、特開平7−53884号公報、特開平7−62252号公報、特開平7−113048号公報、特開平7−145326号公報、特開平7−145263号公報、特開平7−228788号公報、特開平7−228790号公報に記載される材料および方法を使用することもできる。具体的にはシュウ酸チタン酸カリウム、タンニン酸、酸化チタン、ホスフィン酸アミン(またはその塩)、ホスホン酸アミン(またはその塩)、金属キレート等挙げられる。このうち特に人尿、人血、経血に対する安定剤をそれぞれ人尿安定剤、人血安定剤、経血安定剤と呼ぶことがある。
【0095】
<抗菌剤>
例えば、吸水性樹脂が吸収した液による腐敗を防止するために抗菌剤が用いられる。抗菌剤として例えば、「殺菌・抗菌技術の新展開」17〜80頁(東レリサーチセンター(1994))、「抗菌・抗カビ剤の検査・評価法と製品設計」128〜344頁(エヌ・ティー・エス(1997))、特許第2760814号公報、特開昭39−179114号公報、特開昭56−31425号公報、特開昭57−25813号公報、特開昭59−189854号公報、特開昭59−105448号公報、特開昭60−158861号公報、特開昭61−181532号公報、特開昭63−135501号公報、特開昭63−139556号公報、特開昭63−156540号公報、特開昭64−5546号公報、特開昭64−5547号公報、特開平1−153748号公報、特開平1−221242号公報、特開平2−253847号公報、特開平3−59075号公報、特開平3−103254号公報、特開平3−221141号公報、特開平4−11948号公報、特開平4−92664号公報、特開平4−138165号公報、特開平4−266947号公報、特開平5−9344号公報、特開平5−68694号公報、特開平5−161671号公報、特開平5−179053号公報、特開平5−269164号公報、特開平7−165981号公報に紹介されているものを適宜選択できる。
【0096】
例えばアルキルピリジニウム塩、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、ピリジオン亜鉛、銀系無機粉体等が挙げられる。四級窒素系の抗菌剤の代表的な例としては、メチルベンズエトニウムクロライド、ベンズアルコニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイドおよびヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドを挙げることができる。ヘテロ環四級窒素系の抗菌剤としては、ドデシルピリジニウムクロライド、テトラデシルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド(CPC)、テトラデシル−4−エチルピリジニウムクロライドおよびテトラデシル−4−メチルピリジニウムクロライドを挙げることができる。
【0097】
他の好ましい抗菌剤として、ビス−ビグアニド類を挙げることができる。これらは、例えば、米国特許第2,684,924号明細書、同2,990,425号明細書、同第2,830,006号明細書および同第2,863,019号明細書に詳細に記載されている。最も好ましいビス−ビグアニドとしては、1,6−ビス(4−クロロフェニル)ジグアニドヘキサンであり、クロロヘキシジンおよびその水溶性塩として知られているものである。特に好ましいのは、クロロヘキシジンの塩酸塩、酢酸塩およびグルコン酸塩である。
【0098】
他のいくつかのタイプの抗菌剤も有用である。例えば、カルバニリド類、置換フェノール、金属化合物および界面活性剤の希土類塩を例示することができる。カルバニリドとしては、3,4,4’−トリクロロカルバニリド(TCC,トリクロカルバン)および3−(トリフルオロメチル−4,4’−ジクロロカルバニリド(IRGASAN)が含まれる。置換フェノールとしては、5−クロロ−2−(2,4−ジクロロフェノキシ)フェノール(IRGASAN DP−300)を挙げることができる。金属化合物としては、黒鉛およびすずの塩、例えば塩化亜鉛、硫化亜鉛および塩化すずが含まれる。界面活性剤の希土類塩は、欧州特許公開第10819号公報に開示されている。このタイプの希土類塩としては、炭素数10〜18の直鎖のアルキルベンゼンスルホン酸塩のランタン塩などを例示することができる。
【0099】
<消臭剤、脱臭剤、芳香剤>
例えば、吸水性樹脂が吸収した液の不快な臭気を防止或いは緩和するものとして消臭剤、脱臭剤、芳香剤が用いられる。消臭剤、脱臭剤、芳香剤としては、例えば「新しい消臭・脱臭剤と技術と展望」(東レリサーチセンター(1994))、特開昭59−105448号公報、特開昭60−158861号公報、特開昭61−181532号公報、特開平1−153748号公報、特開平1−221242号公報、特開平1−265956号公報、特開平2−41155号公報、特開平2−253847号公報、特開平3−103254号公報、特開平5−269164号公報、特開平5−277143号公報に紹介されているものを適宜選択できる。具体的には消臭剤、脱臭剤としては鉄錯体、茶抽出成分、活性炭が挙げられる。芳香剤としては例えば香料系(シトラール、シンナミックアルデヒド、ヘリオトピン、カンファ、ボルニルアセテート)木酢液、パラジクロルベンゼン、界面活性剤、高級アルコール、テルペン系化合物(リモネン、ピネン、カンファ、ボルネオール、ユカリプトール、オイゲノール)が挙げられる。
【0100】
<発泡剤、発泡助剤>
親水性樹脂の吸水性能、溶解性能向上のために多孔化、広表面積化を図るべく、発泡剤、発泡助剤を併用することができる。発泡剤、発泡助剤としては例えば「ゴム・プラスチック配合薬品」(ラバーダイジェスト社、1989、259〜267頁)に紹介されているものを適宜選択できる。例えば重炭酸ナトリウム、ニトロソ化合物、アゾ化合物、スルフォニル・ヒドラジド等が挙げられる。
【0101】
<pH緩衝剤>
脱臭や抗菌のため、親水性樹脂のpHを調整するpH緩衝剤を付与することもできる。
【0102】
これらの添加剤は、親水性樹脂を製造する過程で、目的、作用機構に応じ適宜加えられる。例えば発泡剤は、親水性樹脂を製造する際の重合工程前ないし重合工程途中で添加するのが適当である。人尿安定剤、人血安定剤、抗菌剤、消臭剤、芳香剤、pH緩衝剤は、親水性樹脂の製造工程やその後に行う親水性樹脂の加工工程において添加可能である。
【0103】
[親水性樹脂]
以下に、このようにして製造される本発明の親水性樹脂の好適な特性について説明する。
(1)残存モノマー
本発明の親水性樹脂の許容される残存モノマー濃度は、その利用分野、用途、使用法によって異なる。例えば、衛生材料は非衛生材料に比較して許容される残存モノマー濃度は少ないことが要求される傾向にある。具体的な範囲としては、残存モノマーは親水性樹脂の乾燥重量に対して2000質量ppm以下が好ましく、1000質量ppm以下がより好ましく、500質量ppm以下がさらに好ましく、300質量ppm以下が最も好ましい。
【0104】
なお、親水性樹脂中の残存モノマー量は例えば次のようにして測定することができる。
【0105】
(残存モノマー量の測定方法)
まず、試料(乾燥した親水性樹脂)の重量の250倍の蒸留水に試料を24時間浸漬し、残存モノマーを水相に抽出し、抽出水を得る。この抽出水を孔径0.45μmのセルロースアセテート製のメンブランフィルターで濾過し、濾液を回収する。回収した濾液の中に含まれるモノマー量を、水系のカラムを備えた液体クロマトグラフィーを用いて求める。
【0106】
(2)水可溶分
本発明の親水性樹脂(吸水性樹脂)は、水可溶分量が25重量%以下、特に15重量%以下、とりわけ10重量%以下の、実質的に水不溶性を示すものが好ましい。水可溶分量がこの範囲を超えると吸水後、水可溶分の漏洩、水可溶分によるべたつき等の感触不良等があり好ましくない。
【0107】
なお、親水性樹脂中の水可溶分量は例えば次のようにして測定することができる。
【0108】
(水可溶分量の測定方法)
(1) 試料(吸水性樹脂)を0.5000g秤量する。蓋付き2Lのビーカーに脱イオン水1000mlを投入する。攪拌子による攪拌下、試料を脱イオン水中にゆっくり投入し、分散液を16時間攪拌する。
(2) その分散液を濾紙(東洋濾紙(株)製5A,直径110mm)を用いて濾過する。
(3) 濾液50.00gを100mlのビーカーに取る。
(4) 濾液に0.1N水酸化ナトリウム水溶液1mlをメスピペットにて投入する。
(5) 0.005Nメチルグリコールキトサン水溶液10mlをメスピペットで投入する。
(6) 0.1重量%トルイジンブルー水溶液4滴を添加する。
(7) 濾液を攪拌させながら、0.0025Nポリビニル硫酸カリウム水溶液を用いてコロイド滴定する。
(8) 溶液の色が青から赤紫色に変化した時点の色を滴定の終点とする(滴定量Aml)。
(9) ブランク補正のために、濾液50.00gに変えて脱イオン水50.00gを用いて上記と同様の操作を行う(滴定量Bml)。
(10) これら滴定量A,Bと、ポリマー合成に供されたモノマーの中和度n(モル%)とから次式で水可溶分量を算出する。
水可溶成分量(wt%)
=(B−A)/1000×(1/400)×(Mw)×(1000/50)/0.5×100
=0.01×(B−A)×(Mw)
ここでMwはみかけのモノマー分子量であり、例えばモノマーが部分中和アクリル
酸(アクリル酸分子量72,アクリル酸ナトリウム分子量94)の場合、部分中和ア
クリル酸のみかけの分子量は以下の式で求められる。
Mw=(72×(100−n)+94×n)/100
【0109】
(3)保水能
本発明の吸水性樹脂の保水能は25g−水/g−樹脂以上、好ましくは30g/g以上、より好ましくは35g/g以上である。保水能がこの範囲未満では、所定の吸水性能を得るための吸水性樹脂の必要量が多くなる結果、コストが高くなり、またこれを用いた吸水性製品が薄型化できない等の点から好ましくない。
【0110】
なお、吸水性樹脂の保水能は例えば次のようにして測定することができる。
【0111】
(保水能の測定方法)
約1gの試料(乾燥した吸水性樹脂)の重量W1を測定する。これを予め秤量した重量W2の250メッシュのナイロン袋(20cm×10cm)に入れ、室温の生理食塩水(濃度0.9重量%)500ml中に30分間浸漬する。次いで、ナイロン袋を引き上げ、15分間懸垂して水切りした後、遠心分離機を用いて90Gで90秒間脱水し、その重量W3を測定する。保水能Sは以下の式に従って算出する。ここでW1〜W3の単位はすべてgである。
S=(W−W)/W1
【実施例】
【0112】
以下に精製例、実施例および比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0113】
<精製例1>
表1に示す不純物を含有する粗アクリル酸を、以下の手順で精製して高精製アクリル酸を得た。
【0114】
まず、粗アクリル酸1Lを5℃の冷蔵庫にて15時間ゆっくりと冷却後、結晶化したアクリル酸が500mLになるまで、室温下で徐々に融解(発汗)させた。残りの結晶化アクリル酸を濾別後、全量融解し、同様に再度冷却して結晶化させ、結晶化したアクリル酸が250mLになるまで、室温下で徐々に融解させた。
【0115】
このように、ゆっくりと冷却して結晶化させたアクリル酸の半分の量のアクリル酸を融解させ、半分の量の結晶化されたアクリル酸を取り出す操作を2回繰り返した。得られた高精製アクリル酸の不純物含量は表1に示す通りであり、粗アクリル酸中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類は、検出限界以下に除去された。
【0116】
なお、アクリル酸中の不純物は、ガスクロマトグラフィーを用いた内部標準法により定量した。
【0117】
【表1】

【0118】
<実施例1>
精製例1で得られた高精製アクリル酸を原料モノマーとして用い、この高精製アクリル酸100重量部に、25重量%の水酸化ナトリウム水溶液133.3重量部、蒸留水3.3重量部を加えモノマー濃度50重量%、中和度60モル%の部分中和アクリル酸水溶液を調製した。
【0119】
該部分中和アクリル酸水溶液100重量部に対して架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミド0.14重量部と更に酸化剤として31重量%の過酸化水素水溶液4.55重量部を加えて溶液Aとした。
【0120】
これとは別に該部分中和アクリル酸水溶液100重量部に対して架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミド0.14重量部と更に還元剤としてL−アスコルビン酸0.57重量部を加えて溶液Bとした。
【0121】
調製した溶液Aと溶液Bを、図1に示した混合装置を用いて混合した。この混合装置は、モノマー溶液の供給配管1,2に各々5本の噴出ノズル1a,2aが1cm間隔で設けられたものであり、このノズル1a,2aの内径は0.13mmである。ノズル1a,2aから流出する溶液Aと溶液Bとの交差角度θは30°、ノズル先端の距離dは4mmに調節した。溶液Aおよび溶液Bはそれぞれ液温を40℃に加温して、それぞれ流速5m/秒となるようにポンプで供給した(各20ml/分)。
【0122】
溶液Aおよび溶液Bは、それぞれのノズル対のノズルを出たところで合流し、それぞれ約10mmほど液柱3を形成した後、液滴4となって重合を進行させながら気相中(空気中、温度50℃)を落下した。溶液Aおよび溶液Bの合流点から鉛直下方2.6mの位置にテフロン(登録商標)製の200メッシュの網を設置して約10gのポリマーを得た。
【0123】
回収したポリマーを直ちに、内温を150℃に設定した温風乾燥機にて30分乾燥させ、前述の測定方法に従って、残存モノマー濃度、水可溶分量および保水能を測定した。結果を表2に示す。
【0124】
<実施例2〜15、比較例1〜7>
原料モノマーとして、高精製アクリル酸の代わりに、高精製アクリル酸に、表2に示す環状不飽和炭化水素類を表2に示す原料モノマー中濃度となるように添加したものを用いたこと以外は実施例1と同様にして重合および乾燥を行い、同様に残存モノマー濃度、水可溶分量および保水能の測定を行って、結果を表2に示した。
【0125】
【表2】

【0126】
表2より、原料モノマー中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量を低減することにより、残存モノマー及び水可溶分含有量が少なく、保水能に優れた吸水性樹脂を得ることができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】実施例および比較例で吸水性樹脂の製造に用いた混合装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0128】
1,2 配管
1a,2a ノズル
3 液柱
4 液滴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料モノマーを重合して親水性樹脂を製造する方法において、該原料モノマー中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量が50質量ppm以下であることを特徴とする親水性樹脂の製造方法。
【請求項2】
原料モノマー中の主成分モノマーが部分中和(メタ)アクリル酸である請求項1に記載の親水性樹脂の製造方法。
【請求項3】
重合が、ラジカル重合である請求項1または2に記載の親水性樹脂の製造方法。
【請求項4】
重合が、レドックス重合である請求項3に記載の親水性樹脂の製造方法。
【請求項5】
炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類が、炭素数9〜10の、アルキル基で置換された六員環の芳香族炭化水素の1種又は2種以上である請求項1ないし4のいずれかに記載の親水性樹脂の製造方法。
【請求項6】
製造された親水性樹脂中の残存モノマー濃度が2000質量ppm以下である請求項1ないし5のいずれかに記載の親水性樹脂の製造方法。
【請求項7】
製造された親水性樹脂中の水可溶分量が25重量%以下である請求項1ないし6のいずれかに記載の親水性樹脂の製造方法。
【請求項8】
原料モノマーを重合して得られる親水性樹脂において、該原料モノマー中の炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類の総含有量が50質量ppm以下であることを特徴とする親水性樹脂。
【請求項9】
原料モノマー中の主成分モノマーが部分中和(メタ)アクリル酸である請求項8に記載の親水性樹脂。
【請求項10】
炭素数8〜10の環状不飽和炭化水素類が、炭素数9〜10の、アルキル基で置換された六員環の芳香族炭化水素の1種又は2種以上である請求項8または9に記載の親水性樹脂。
【請求項11】
残存モノマー濃度が2000質量ppm以下である請求項8ないし10のいずれかに記載の親水性樹脂。
【請求項12】
水可溶分量が25重量%以下である請求項8ないし11のいずれかに記載の親水性樹脂。

【図1】
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【公開番号】特開2006−36970(P2006−36970A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220439(P2004−220439)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】