説明

親水性高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜、その表面改質方法及び表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜をセパレータとして備えるリチウムイオンポリマー電池

【課題】親水性高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜、その表面改質方法及び表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜をセパレータとして備えるリチウムイオンポリマー電池を提供する。
【解決手段】本発明の親水性高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜は、プラズマコーティング法を用いて膜の変形を最少化しながらも、機械的強度と耐熱性を向上させ、膜の表面を親水性に改質することにより、ポリエチレン微細多孔性膜の表面に極性及び表面エネルギーを増加させて電解液含浸能力を向上させ、セパレータと電極、セパレータと電解液及びゲル状高分子電解質間の接着性を向上させる。さらに、親水性アクリル系高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜をセパレータとして備えるリチウムイオンポリマー電池は、寿命及び率別特性が向上される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜、その表面改質方法及び表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜をセパレータとして備えるリチウムイオンポリマー電池に係り、さらに詳しくは、親水性アクリル系高分子をプラズマコーティング法によりポリオレフィン微細多孔性膜の片面または両面に均一にコーティングして表面改質させたポリオレフィン微細多孔性膜、その表面改質方法及びそれを備えるリチウムイオンポリマー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、電気、電子、通信及びコンピュータ産業が急速に発展するに伴い、携帯用電子製品及び情報通信機器に使用される二次電池に対する需要が急激に増加しつつあり、これに関する研究が盛んになされている。
【0003】
中でも、リチウム二次電池は、エネルギー密度が高く、サイクル寿命が長い他、自己放電率が低く、しかも、作動電圧が高いという特性から、多くの関心が集中している分野である。特に、リチウムイオンポリマー電池は、様々な形態に比較的に容易に製造可能であるというメリットがあるので、様々なデザインの携帯用電子製品及び通信機器に適用可能になり、無限な産業的応用性を有していることが知られている。
【0004】
また、最近の電子製品及び携帯用機器の小型化及び複合機能化により高容量のリチウム二次電池に対する需要が急増しつつある。この理由から、安全性と高性能を併せ持つリチウムイオンポリマー電池に関する研究開発及び商用化が至急望まれているのが現状である。
【0005】
リチウム二次電池を構成する主な要素の一つであるセパレータは、正極と負極との間に位置し、リチウム二次電池の安全性の確保に最も大きな影響を与える安全装置であることが知られている。
【0006】
セパレータは、所定のサイズの微細気孔構造を有する多孔性フィルムであり、微細気孔を通じて電極間リチウムイオンの移動を円滑化させると共に、正極と負極との直接的な接触による短絡を物理的に防止する役割を果たす。このため、セパレータは、化学的または電気化学的に安定性を有することが求められ、しかも、所定の外部衝撃及び圧力に耐えうる機械的強度を有することも求められる。例えば、高温においてセパレータが収縮し過ぎたり、所定以上の外部衝撃によりセパレータが破損されると、正極と負極との間の直接的な接触により短絡が発生してしまい、これは、リチウム二次電池の爆発の直接的な原因となる。そこで、リチウム二次電池の安全性を確保するために、セパレータは、優れた熱的特性と寸法安定性及び所定の外部衝撃に十分に耐えうる機械的強度を有していることが求められる。
【0007】
一般的に使用されているポリオレフィン微細多孔性膜は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニリデンフルオリド及びそのブレンド材質であり、現在、ほとんどのリチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池のセパレータとして使用されている。
【0008】
しかしながら、最近の急速な電気電子通信機器産業の発達に伴い、既存のポリオレフィンセパレータだけでは、実際に産業分野において求められる各種の機器のスリム化に伴う向上された電池特性及び安全性を満足させることができない。
【0009】
このため、高安全性−高性能リチウムイオンポリマー電池のセパレータとして活用するためには、既存のポリオレフィンセパレータの物性改善が前提となる必要がある。特に、最近、薄膜化傾向に伴うリチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池用セパレータの薄膜化は、機械的強度や寸法安定性の低下を招いて、短絡を発生し易いため、リチウム二次電池の安全性に大きな問題を引き起こすこともある。
【0010】
このような問題点を解消し、且つ、最近の電気電子通信機器のスリム化に伴う実際の産業分野において求められる物性を達成するために、従来のポリオレフィンセパレータに種々の添加剤及び強化剤を混入して、機械的強度及び電池特性を向上させようとする試みがある。しかしながら、多量の添加剤または強化剤を使用する場合、ポリオレフィンセパレータ内における不均一な混合及び分散、加工性の低下、さらに、多量混入による製造コストの上昇など多くの問題を招く。なお、多数の工程から構成されるため、電池性能/製造コスト対比の商業性を考慮するとき、実際に商業化させる上では、解決すべき問題点が顕在している。
【0011】
一方、既存のポリオレフィンセパレータは、疎水性表面の低い表面エネルギーによりリチウム二次電池に主として使用される高誘電率の有機溶媒、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどを容易に含浸することができず、リチウム二次電池の充放電時における電解液の保存能力も良好ではないことが知られている。また、電極間または電極とセパレータとの間における有機溶媒の漏れ現象が発生してリチウム二次電池の寿命を低下させるという欠点を有している。
【0012】
このような問題点を解決するために、セパレータにゲル状高分子電解質をコーティングして有機溶媒系電解液との親和性、熱安定性及び機械的特性を向上させるための研究が進んでいる。しかしながら、その製造工程が複雑であり、しかも、相対的に高い製造コストにより実際に商業化させるには依然として解決すべき問題点が顕在している。
【0013】
これらの問題点を解決するための努力の一環として、有機溶媒系電解液を容易に含浸できるように表面エネルギーを増加可能な親水性高分子を用いて従来の疎水性ポリオレフィンセパレータの表面を改質する方法が試みられている。
【0014】
そこで、本発明者らは、従来のポリオレフィン微細多孔性膜からなるセパレータの物性を維持しながらも、疎水性表面による問題点を解消するために鋭意努力した結果、疎水性ポリオレフィン微細多孔性膜表面の表面エネルギーを増加可能な親水性高分子で表面改質するに際して、プラズマ工程技術に基づく、プラズマ反応器内におけるプラズマコーティング法を用いて膜表面に高分子をナノ寸法にて均一に分散させることにより、フィルムの変形を最少化しながらも、機械的強度と耐熱性を増加させ、しかも、親水性高分子で表面改質して電池特性を向上させることが可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、疎水性ポリオレフィン微細多孔性膜表面を親水性高分子で表面改質させたポリオレフィン微細多孔性膜を提供するところにある。
【0016】
本発明の他の目的は、ポリオレフィン微細多孔性膜の表面に親水性高分子をプラズマ処理によりコーティングするポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法を提供するところにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、前記表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜をセパレータとして備えるリチウムイオンポリマー電池を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するために、本発明は、ポリオレフィン微細多孔性膜の片面または両面に、親水性高分子がプラズマ処理によりコーティングされて表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜を提供する。
【0019】
上記において、親水性高分子は、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸及びポリアクリレートよりなる群から選択されるいずれか一種の高分子、または前記高分子にC〜C10のアルキル基またはC〜C10のアルコキシ基が置換されたそれらの誘導体、共重合体及びブレンドよりなる群から選択されるいずれか一種を使用することができる。
【0020】
本発明において使用されるポリオレフィン微細多孔性膜は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニリデンフルオリド及びポリビニリデンフルオリド−ヘキサフルオリドよりなる群から選択される単独、またはそれらの共重合体、またはそれらのブレンドから選択される混合形態であり、上記において、ブレンド形態は、ポリエチレン/ポリプロピレンまたはポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの多層構造の微細多孔性膜の形態である。
【0021】
また、本発明は、プラズマ反応器内に反応ガスを供給してプラズマ反応器を活性化させる工程、及び前記活性化されたプラズマ反応器内においてポリオレフィン微細多孔性膜の片面または両面に親水性高分子がコーティングされるようにプラズマ処理を行う工程を含むポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法を提供する。
【0022】
さらに具体的に、本発明の表面改質方法は、前記ポリオレフィン微細多孔性膜の片面または両面に、親水性高分子の単量体をプラズマ処理により高分子化して表面上にコーティングするような方式により行われる。
【0023】
本発明の表面改質方法において使用される親水性高分子は、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸及びポリアクリレートよりなる群から選択されるいずれか一種の親水性アクリル系高分子であり、または、前記高分子にC〜C10のアルキル基またはC〜C10のアルコキシ基が置換されたそれらの誘導体、共重合体及びブレンドよりなる群から選択されるいずれか一種を使用する。
【0024】
本発明のプラズマコーティング法によるポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法において、活性化されたプラズマ反応器内圧力は0.01〜1、000mTorrであり、活性化されたプラズマ反応器内の反応ガスの流量は10〜1、000sccm(1atm、25℃)であることが好ましい。
【0025】
この後、プラズマ処理工程は、プラズマ電力1〜500W、及びプラズマコーティング時間30秒〜30分の条件下で行われる。
【0026】
本発明において使用されるポリオレフィン微細多孔性膜は、ドライ法、ウェット法、抽出法及びそれらの混合法よりなる群から選択された少なくとも一つの方法により製造可能である。
【0027】
さらに、本発明は、親水性高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜であるセパレータ、正極、負極、及び有機溶媒系電解液またはゲル状高分子電解質を含むリチウムイオンポリマー電池を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、親水性高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜を比較的に簡単で且つ経済的なプラズマコーティング法を用いて提供することにより、空隙特性が維持され、膜の変形を最少化しながらも、機械的強度と耐熱性が向上され、親水性表面に改質されることにより、ポリエチレン微細多孔性の表面の極性及び表面エネルギーが増加するなどの表面特性の向上により、電解液含浸能力が顕著に向上されることから、高出力付与が可能になる。
【0029】
また、本発明は、親水性高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜をリチウムイオンポリマー電池用セパレータとして使用することにより、電池内に含浸された電解液及びゲル状高分子電解質の均一性が向上され、セパレータと電極、セパレータと電解液及びゲル状高分子電解質間の接着性が向上されることから、率別寿命またはサイクル特性が向上されたリチウムイオンポリマー電池を提供することができる。特に、親水性アクリル系高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜をセパレータとして使用することにより、リチウムイオンポリマー電池の安全性の向上効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1a】従来のポリエチレン微細多孔性膜の表面分析結果である。
【図1b】本発明の表面改質方法により表面改質されたポリエチレン微細多孔性膜の表面分析結果である。
【図1c】図1bのポリエチレン微細多孔性膜の表面上に観察された官能基の分布図である。
【図2】本発明のポリエチレン微細多孔性膜の接触角を示すグラフである。
【図3】本発明のポリエチレン微細多孔性膜の走査電子顕微鏡による表面写真である。
【図4】本発明のリチウムイオンポリマー電池と従来のリチウムイオンポリマー電池の常温寿命特性を比較して示すグラフである。
【図5】本発明のリチウムイオンポリマー電池と従来のリチウムイオンポリマー電池の率別特性を比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳述する。
【0032】
本発明は、ポリオレフィン微細多孔性膜の片面または両面に、親水性高分子がプラズマ処理によりコーティングされて表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜を提供する。
【0033】
本発明の親水性アクリル系高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜の表面をX線光電子分析方法により分析した結果、従来のポリエチレン微細多孔性膜[図1a]と比べて、膜表面においてC−O、C−N、C=O、C−O−O及びC−C/C−Hの官能基が観察されることにより、ポリオレフィン微細多孔性膜の表面に親水性アクリル系高分子が安定的にコーティング処理されていることを確認することができる[図1b及び図1c]。前記表面改質されたポリエチレン微細多孔性膜の接触角の測定の結果、表面未改質の従来のポリエチレン微細多孔性膜よりも接触角が大幅に減少した結果が得られた[図2]。従って、本発明のポリエチレン微細多孔性の表面は、極性及び表面エネルギーが増加するなどの表面特性の向上により電解液含浸能が顕著に向上されるので、高出力付与が可能である。
【0034】
また、本発明の親水性アクリル系高分子で表面改質されたポリエチレン微細多孔性膜の表面を走査電子顕微鏡で観察した結果、従来の表面未改質のポリエチレン微細多孔性膜よりも表面にナノ寸法の高分子が均一に分散コーティングされて稠密なネットワークを観察することができる[図3]。
【0035】
さらに、本発明のプラズマコーティング法を用いて表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜は、常温イオン伝導度が向上され、機械的特性が向上された結果を確認することができる。
【0036】
以上述べたように、本発明の表面改質方法は、前記ポリオレフィン微細多孔性膜の片面または両面に、親水性高分子の単量体をプラズマ処理により高分子化して表面上にコーティングする方式であり、さらに好ましくは、ポリオレフィン微細多孔性膜の表面上においてアクリロニトリル、アクリル酸及びアクリレートよりなる群から選択されるいずれか一種のアクリル系単量体をコーティング、塗布または浸漬などの方法により処理した後、プラズマにより高分子化する。
【0037】
このとき、本発明のポリオレフィン微細多孔性膜表面上に形成された親水性高分子として、好ましくは、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸及びポリアクリレートよりなる群から選択されるいずれか一種の親水性アクリル系高分子、または前記アクリル系高分子にC〜C10のアルキル基またはC〜C10のアルコキシ基が置換されたそれらの誘導体、共重合体及びブレンドよりなる群から選択されるいずれか一種が用いられる。
【0038】
本発明のポリオレフィン微細多孔性膜は、所定のサイズの微細気孔構造を有する多孔性フィルムである。主としてリチウムイオンポリマー電池用セパレータとして使用される多孔性フィルムは、イオン透過度が高く、所定の機械的強度を有し、絶縁性薄膜である。その材質としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリビニリデンフルオリド(PVDF)、ポリビニリデンフルオリド−ヘキサフルオリドよりなる群から選択される単独、またはそれらの共重合体、またはそれらのブレンドから選択される混合形態が使用可能である。なお、ポリエチレン/ポリプロピレン(PE/PP)及びポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン(PP/PE/PP)の2層または3層の多層構造の形態も使用可能である。
【0039】
また、ポリオレフィン微細多孔性膜は、ドライ法、ウェット法、抽出法及びそれらの混合法よりなる群から選択された少なくとも一つの方法により多孔化することができるが、さらに好ましくは、ドライ法または抽出法によるポリオレフィン微細多孔性膜を使用する。
【0040】
本発明は、プラズマ反応器内に反応ガスを供給してプラズマ反応器を活性化させる工程、及び前記活性化されたプラズマ反応器内においてポリオレフィン微細多孔性膜の片面または両面に親水性高分子がコーティングされるようにプラズマ処理を行う工程を含むポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法を提供する。
【0041】
本発明のポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法は、プラズマ工程技術に基づく、プラズマ反応器内におけるプラズマコーティング法を用いて膜表面に親水性高分子をナノ寸法にて均一に分散コーティングして表面改質する。
【0042】
本発明の表面改質方法として、工程1は、プラズマ反応器内に反応ガスを供給してプラズマ反応器を活性化させるものであり、活性化されたプラズマ反応器内の圧力が0.01〜1、000mTorrであり、活性化されたプラズマ反応器内の反応ガスの流量は10〜1、000sccmに維持する。
【0043】
このとき、反応ガスは、汎用される種類であれば特に限定されるものではなく、活性化されたプラズマ反応器内の反応ガスの流量が10sccm未満であれば、コーティングが不均一であり、1、000sccmを超えると、過量の反応ガスの注入によりプラズマが発生しないという問題点がある。
【0044】
この後、工程2において、前記活性化されたプラズマ反応器内においてポリオレフィン微細多孔性膜の片面または両面に親水性高分子がコーティングされるようにプラズマ処理を行う。
【0045】
さらに好適な実施形態としては、ポリオレフィン微細多孔性膜を親水性高分子の製造のための親水性単量体含有溶液に担持処理し、活性化されたプラズマ反応器内に供給することにより、プラズマ処理によりポリオレフィン微細多孔性膜の両面に親水性高分子がコーティングされることが挙げられる。
【0046】
このとき、プラズマ処理後、ポリオレフィン微細多孔性膜に形成された親水性高分子はポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸及びポリアクリレートよりなる群から選択されるいずれか一種の親水性アクリル系高分子であり、または、前記高分子にC〜C10のアルキル基またはC〜C10のアルコキシ基が置換されたそれらの誘導体、共重合体及びブレンドよりなる群から選択されるいずれか一種であり、前記親水性アクリル系高分子により本発明の疎水性表面は表面改質される。
【0047】
プラズマ反応器内は、プラズマ電力1〜500W、及びプラズマコーティング時間30秒〜30分の条件下でポリオレフィン微細多孔性膜をプラズマ処理する。このとき、プラズマ電力は1〜500W、さらに好ましくは、100〜400Wである。プラズマ電力が500Wを超えると、装置内において熱が過度に発生し、その結果、セパレータの変形または表面亀裂が発生してセパレータの性能に深刻な問題を発生する。
【0048】
また、本発明の表面改質方法は、プラズマコーティング法により行われることから、膜の変形を最少化しながらも、膜の機械的強度と耐熱性を増加させることができ、特に、膜表面に親水性高分子をナノ寸法にて均一に形成させ、加工時間を大幅に短縮することができる。そこで、本発明のプラズマコーティング時間は、セパレータの構造及び物理的特性変化が起こらないような条件に決定され、好ましくは、30秒〜30分以内にコーティング処理される。このため、本発明の製造方法は、プラズマ反応器内において短時間内に比較的に簡単で且つ経済的な方法により表面改質することができる。このとき、プラズマコーティング時間が30秒未満であれば、均一なコーティングが行われず、30分を超えると、変形または表面亀裂が発生するため好ましくない。
【0049】
以上の本発明の表面改質方法により製造されたポリオレフィン微細多孔性膜は、従来の表面未改質の膜よりも膜表面の極性が増加され、表面エネルギーが増加される結果、膜の表面特性が向上される。また、セパレータと電極、セパレータと電解液及びゲル状高分子電解質間の接着性も向上される。
【0050】
このため、本発明の表面改質方法により製造されたポリオレフィン微細多孔性膜をセパレータとして使用すれば、電解液含浸能が顕著に向上されることにより、高出力付与が可能である。また、経済的及び産業的な観点から、プラズマを用いたコーティング工程は、実際の商業化のための量産及び大容量化が可能であることから、最も簡単で且つ効率的な方法である。
【0051】
本発明の表面改質方法において使用されるポリオレフィン微細多孔性膜の材質は、前記ポリオレフィン微細多孔性膜における説明の通りである。表面改質の対象となるポリオレフィン微細多孔性膜は、ドライ法、ウェット法、抽出法及びそれらの混合法よりなる群から選択された少なくとも一つの方法により膜の多孔化を経てポリオレフィン微細多孔性膜を製造することができる。
【0052】
さらに、本発明は、親水性高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜であるセパレータ、正極、負極、及び有機溶媒系電解液またはゲル状高分子電解質を備えるリチウムイオンポリマー電池を提供する。
【0053】
前記有機溶媒系電解液は、鎖状カーボネート及び環状カーボネートから選択される少なくとも1種以上の化合物を含有し、ゲル状高分子電解質は、ウレタン及びアクリレートから選択される少なくとも1種以上の重合体または共重合体を含有する。
【0054】
さらに好ましくは、本発明のリチウムイオンポリマー電池は、親水性アクリル系高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜をセパレータとして使用することにより、常温寿命特性が従来のリチウムイオンポリマー電池と比べて、対等以上の向上効果を示し[図4]、リチウムイオンポリマー電池の率別特性については、従来のリチウムイオンポリマー電池と比べて、充放電サイクル後にも率別寿命またはサイクル特性が向上された結果を確認することができる[図5]。
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述する。
【0056】
この実施例は本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されることはない。
【0057】
<実施例1>ポリエチレン微細多孔性膜の表面改質
ポリエチレン製の微細多孔性膜をアクリロニトリル含有溶液に5分間浸漬した後、プラズマ反応器内において400W、10分間プラズマ処理して、微細多孔性膜の両表面にポリアクリロニトリル高分子がコーティングされたポリエチレン微細多孔性膜を製造した。
【0058】
<実施例2>リチウムイオンポリマー電池の製作
工程1:有機溶媒系電解液及びゲル状高分子電解質の製造
エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC):ジエチルカーボネート(DEC)=3:2:5体積%の有機溶媒を製造し、ここに電解質塩として1.3MのLiPFを溶解させて有機溶媒系電解液を製造した。
【0059】
ウレタンアクリレート(UA):ヘキシルアクリレート(HA)=3:1重量%の高分子前駆体と開始剤として使用された2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を前記製造された有機溶媒系電解液に溶解させて常温下で十分に攪拌した後、真空オーブン内75℃において4時間重合反応してゲル状高分子電解質を製造した。
【0060】
工程2:リチウムイオンポリマー電池の製作
正極活物質としてのLiCoO96重量%、導電剤としてのアセチレンブラック(acetylene black)2重量%、バインダーとしてのポリビニリデンフルオリド(PVDF)2重量%の割合にて混合したスラリーをアルミニウム箔上に塗布し、乾燥、加圧成形、加熱処理して正極を製造した。
【0061】
負極活物質としての人造黒鉛94重量%、バインダーとしてのPVDF6重量%の割合にて混合したスラリーを銅箔上に塗布し、乾燥、加圧成形、加熱処理して負極を製造した。
【0062】
前記製造されたゲル状高分子電解質と、正極及び負極間に実施例1においてプラズマコーティング法を用いて表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜をセパレータとして導入して、リチウムイオンポリマー電池を製作した。
【0063】
<比較例1>
プラズマコーティング法による表面改質処理無しに製造された従来のポリエチレン微細多孔性膜を準備した。
【0064】
<比較例2>リチウムイオンポリマー電池の製作
前記比較例1のポリエチレン微細多孔性膜をそのままセパレータとして使用した以外は、実施例2の方法と同様にしてリチウムイオンポリマー電池を製造した。
【0065】
<実験例1>X線光電子分析器を用いた表面分析
前記実施例1及び比較例1のポリエチレン微細多孔性膜に対して、X線光電子分析(XPS、VG ESCALAB220−Iシステム)を用いて表面分析を行い、その結果を下記表1及び図1a〜図1cに示す。
【0066】
【表1】

【0067】
図1a〜図1cの結果から、表面改質無しに使用された従来のポリエチレン微細多孔性膜(図1a)と比べて、本発明の製造方法により表面改質されたポリエチレン微細多孔性膜(図1b)は、膜表面にC−O、C−N、C=O、C−O−O及びC−C/C−Hの官能基が観察された。また、前記表1及び図1cは、実施例1のポリエチレン微細多孔性膜(図1b)の表面において観察された官能基別分布図を示すものである。前記の結果から、本発明の表面改質方法によれば、表面に安定的に高分子がコーティングされることを確認した。
【0068】
<実験例2>接触角の測定実験
前記実施例1及び比較例1のポリエチレン微細多孔性膜の表面エネルギーは、下記の数式1及び数式2により算出した[S. Wu, Polymer Interface and Adhesion, Marcel Dekker, New York, 1982]。
【0069】
【数1】

【0070】
【数2】

【0071】
(式中、θは接触角、γLとγSはそれぞれ試験溶液と試料の表面自由エネルギー(surface free energy)、dとpはそれぞれ表面エネルギーの分散成分と極性成分を示す。このときに使用された2種類の試験溶液の表面自由エネルギーは、水の場合、γL=72.8、γL=21.8、γL=51.0mJ/mであり、ジイオメタンの場合、γL=50.8、γL=50.4、γL=0.4mJ/mである。)
【0072】
前記数式1及び数式2により、接触角測定を通じて表面改質されたポリエチレン微細多孔性膜の表面特性を下記数式3により算出し、その結果を表2及び図2に示す。
【0073】
【数3】

【0074】
(式中、
【数4】

は、前記数学式1及び数学式2における定義の通りである。)
【0075】
【表2】

【0076】
前記図2の接触角測定結果から、プラズマコーティング法を用いて改質された実施例1のポリエチレン微細多孔性膜は比較例1よりも接触角が大幅に減少した結果を示した。このため、前記プラズマコーティング法を用いて改質された実施例1のポリエチレン微細多孔性膜の接触角減少結果から、表面自由エネルギーと極性が増加していることを確認することができた[表2]。
【0077】
<実験例3>表面測定
前記実施例1及び比較例1のポリエチレン微細多孔性膜の表面を走査電子顕微鏡(SEM、JE OL6340F SEM)を用いて分析し、図3に示す。
【0078】
図3中、(a)及び(b)は、比較例1のポリエチレン微細多孔性膜の表面をそれぞれ×5、000倍率及び×30、000倍率にて観察したものであり、(c)及び(d)は、実施例1のポリエチレン微細多孔性膜の表面をそれぞれ×5、000倍率及び×30、000倍率にて観察した結果である。
【0079】
その結果から、プラズマコーティング法を用いて表面改質されたポリエチレン膜は、微細多孔性ポリエチレン層とその表面に形成された高分子コーティング層が稠密に形成されていることを観察することができた。
【0080】
<実験例4>イオン伝導度測定
前記実施例1及び比較例1のポリエチレン微細多孔性膜に対して、常温におけるイオン伝導度をステンレス電極を用いた交流インピーダンス測定法(AC complex impedance
analysis, Solartron 1255 frequency response analyzer)により測定し、その結果を下記表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
前記結果から、本発明のプラズマコーティング法を用いて表面改質された実施例1のポリオレフィン微細多孔性膜の常温イオン伝導度が向上されたことを確認することができた。
【0083】
<実験例5>機械的物性の測定
前記実施例1及び比較例1のポリエチレン微細多孔性膜に対して、万能引っ張り試験機(Instron, UTM)を用いてASTM D638に基づき1分当たりの10mmの引っ張り速度にて常温において剥離テスト(peel test)を行った。その結果を下記表4に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
前記表4の結果から、本発明のプラズマコーティング法を用いて表面改質された実施例1のポリオレフィン微細多孔性膜の機械的特性が向上されたことを確認することができた。
【0086】
<実験例6>電池特性の測定1
前記実施例2及び比較例2において製造されたリチウムイオンポリマー電池に対して、常温(25℃)において、実験機器[TOSCAT−300U instrument, Toyo System Co.]を用いて、1C充電速度にて4.2Vまで充電後、1C放電速度にて3.0Vまで放電し、前記充電−放電サイクルを繰り返してリチウムイオンポリマー電池の常温寿命特性を測定した。その結果を図4に示す。
【0087】
前記図4の結果から、本発明のプラズマコーティング法を用いて表面改質された実施例2のリチウムイオンポリマー電池の常温寿命特性が従来のリチウムイオンポリマー電池と比べて、対等以上の向上効果を示すことを確認することができた。
【0088】
<実験例7>電池特性の測定2
前記実施例2及び比較例2において製造されたリチウムイオンポリマー電池の電池特性を測定するために、充放電速度を異ならせて前記実験例6と同じ条件下でリチウムイオンポリマー電池の容量を測定した。1回充放電サイクル時の容量対比の各充放電サイクルにおける残存容量%にてリチウムイオンポリマー電池の率別特性を測定して、その結果を図5に示す。
【0089】
前記図5の結果から、本発明のプラズマコーティング法を用いて表面改質された実施例2のリチウムイオンポリマー電池の率別特性は、従来のリチウムイオンポリマー電池と比べて、充放電サイクル後にも率別寿命またはサイクル特性が向上された結果を確認した。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上説明したように、本発明は、第一に、親水性高分子で表面改質されたリチウムイオンポリマー電池用ポリオレフィン微細多孔性膜を提供する。
【0091】
第二に、本発明は、親水性高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜を比較的に簡単で且つ経済的なプラズマコーティング法を用いた表面改質方法を提供することにより、膜の変形を最少化しながらも、機械的強度と耐熱性が向上され、親水性表面に改質することにより、ポリエチレン微細多孔性の表面の極性及び表面エネルギーが増加するなどの表面特性向上により、電解液含浸能力を顕著に向上させることができる。
【0092】
第三に、本発明の親水性アクリル系高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜をセパレータとして備えるリチウムイオンポリマー電池は、電池内に含浸された電解液及びゲル状高分子電解質の均一性が向上され、製造されたリチウムイオンポリマー電池の寿命及び率別特性が向上される。また、セパレータと電極との間の接着強度が増大されてリチウムイオンポリマー電池の安全性向上に効果的である。
【0093】
以上、本発明は、記載された具体例について詳細に説明されたが、本発明の技術思想範囲内において種々の変形及び修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変形及び修正は特許請求の範囲に属することは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微細多孔性膜の片面または両面が、
プラズマ処理により親水性高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜。
【請求項2】
前記親水性高分子が、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸及びポリアクリレートよりなる群から選択されるいずれか一種の親水性アクリル系高分子であることを特徴とする請求項1に記載の前記ポリオレフィン微細多孔性膜。
【請求項3】
前記親水性高分子が、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸及びポリアクリレートよりなる群から選択されるいずれか一種の親水性アクリル系高分子にC〜C10のアルキル基またはC〜C10のアルコキシ基が置換されたそれらの誘導体、共重合体及びブレンドよりなる群から選択されるいずれか一種であることを特徴とする請求項1に記載の前記ポリオレフィン微細多孔性膜。
【請求項4】
前記ポリオレフィン微細多孔性膜が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニリデンフルオリド及びビニリデンフルオリド−ヘキサフルオリドよりなる群から選択される単独、またはそれらの共重合体、またはそれらのブレンドから選択される混合形態であることを特徴とする請求項1に記載の前記ポリオレフィン微細多孔性膜。
【請求項5】
前記ブレンドが、ポリエチレン/ポリプロピレンまたはポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの多層微細多孔性膜の形態であることを特徴とする請求項4に記載の前記ポリオレフィン微細多孔性膜。
【請求項6】
プラズマ反応器内に反応ガスを供給してプラズマ反応器を活性化させる工程と、
前記活性化されたプラズマ反応器内において、ポリオレフィン微細多孔性膜の片面または両面に親水性高分子がコーティングされるようにプラズマ処理を行う工程と、
を含むポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法。
【請求項7】
前記ポリオレフィン微細多孔性膜の片面または両面を、親水性高分子の単量体がプラズマ処理により高分子化されて表面改質することを特徴とする請求項6に記載の前記ポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法。
【請求項8】
前記親水性高分子が、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸及びポリアクリレートよりなる群から選択されるいずれか一種の親水性アクリル系高分子であることを特徴とする請求項6に記載の前記ポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法。
【請求項9】
前記親水性高分子が、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸及びポリアクリレートよりなる群から選択されるいずれか一種の親水性アクリル系高分子にC〜C10のアルキル基またはC〜C10のアルコキシ基が置換されたそれらの誘導体、共重合体及びブレンドよりなる群から選択されるいずれか一種であることを特徴とする請求項6に記載の前記ポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法。
【請求項10】
活性化されたプラズマ反応器内の圧力が0.01〜1、000mTorrであることを特徴とする請求項6に記載の前記ポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法。
【請求項11】
活性化されたプラズマ反応器内の反応ガスの流量が10〜1、000sccmであることを特徴とする請求項6に記載の前記ポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法。
【請求項12】
前記プラズマ処理が、プラズマ電力1〜500W、及びプラズマコーティング時間30秒〜30分の条件下で行われることを特徴とする請求項6に記載の前記ポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法。
【請求項13】
前記ポリオレフィン微細多孔性膜が、ドライ法、ウェット法、抽出法及びそれらの混合法よりなる群から選択された少なくとも一つの方法により製造されることを特徴とする請求項6に記載の前記ポリオレフィン微細多孔性膜の表面改質方法。
【請求項14】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の親水性高分子で表面改質されたポリオレフィン微細多孔性膜であるセパレータと、正極と、負極と、有機溶媒系電解液またはゲル状高分子電解質と、を備えるリチウムイオンポリマー電池。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−12238(P2011−12238A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177161(P2009−177161)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「エレクトヒミカ アクタ 54」3714−3719頁(Electrochimica Acta) 電子ジャーナル発行日 :2009年1月30日(www.elsevier.com/locatr/electacta) 発行所:エルゼヴィアー リミテッド
【出願人】(508138025)コリア インスティテュート オブ インダストリアル テクノロジー (3)
【Fターム(参考)】