説明

親水性高分子修飾カーボンナノチューブ膜

【課題】半導体材料として使用可能な膜厚を有するカーボンナノチューブ膜を形成する方法及び当該カーボンナノチューブ膜を提供する。
【解決手段】カルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブの水分散液に電極を浸漬して電圧を印加することを特徴とする、カルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブ膜の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性高分子で表面修飾されたカーボンナノチューブの膜を基板上に形成させる方法及び当該方法により得られるカーボンナノチューブ膜に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、その機械的性質及び導電性の点から、自動車、航空機等の材料としてだけでなく、半導体材料として注目されている(非特許文献1)。
【0003】
半導体材料として使用するためには、基材上に薄膜を形成することが必要であり、カーボンナノチューブの懸濁液に電極を浸漬して印加することにより電極上にカーボンナノチューブを積層させる方法(特許文献1)が知られている。
【特許文献1】特表2005−519201号公報
【非特許文献1】P. M. Ajayan, Chem. Rev., 1787(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カーボンナノチューブの水への分散性は極めて悪く、カーボンナノチューブの水分散液を用いて形成された薄膜は十分な厚さがなく、半導体材料としては実用化されていない。
従って、本発明の目的は、半導体材料として使用可能な膜厚を有するカーボンナノチューブ膜を形成する方法及び当該カーボンナノチューブ膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、表面をカルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで修飾したカーボンナノチューブを作製し、その水分散液を用いれば簡便な手段により半導体材料とするのに十分な膜厚を有するカーボンナノチューブ膜が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、カルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブの水分散液に電極を浸漬して電圧を印加することを特徴とする、カルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブ膜の製造法及び当該方法により得られるカルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブ膜を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、十分な膜厚を有し、半導体材料として有用なカーボンナノチューブ膜が効率良く得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明におけるカーボンナノチューブ膜の原料となるカルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブは、例えば、カーボンナノチューブを酸素プラズマ処理し、次いでカルボキシル基又はアミノ基含有モノマーをプラズマ重合させることにより製造される。
【0009】
用いるカーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれも使用できるが、経済性、入手のしやすさからは多層カーボンナノチューブが好ましい。一方、特性の点からは、単層カーボンナノチューブが好ましい。ここでカーボンナノチューブは、市販品を用いることができる。
【0010】
まず、カーボンナノチューブを酸素プラズマ処理する。カーボンナノチューブ表面は化学的に安定で、反応性が低いが、当該酸素プラズマ処理により、後述の高分子鎖導入の活性点である酸素含有基が導入される。酸素プラズマ処理は、例えばカーボンナノチューブを酸素雰囲気下に静置し、放電周波数13.56MHz、放電出力50〜300W、酸素ガス圧力50〜100Paの条件でプラズマを照射することにより行なわれる。プラズマ照射装置としては、グロー放電形式等が用いられる。
【0011】
酸素プラズマ処理後のカーボンナノチューブに、カルボキシル基又はアミノ基含有モノマーをプラズマ重合させることにより、カルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブが得られる。具体的には、酸素プラズマ処理後のカーボンナノチューブを、カルボキシル基又はアミノ基含有モノマー雰囲気下に静置し、放電周波数13.56MHz、放電出力50〜300W、モノマーガス圧力50〜100Paの条件で、プラズマを照射することにより行なわれる。
【0012】
用いられるカルボキシル基又はアミノ基含有モノマーとしては、カルボキシル基含有のアクリル酸、メタクリル酸、アミノ基含有の(ジアルキルアミノアルキル)アクリレート、(ジアルキルアミノアルキル)メタクリレート(例えばメタクリル酸ジメチルアミノエチル)が挙げられ、このうちアクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。カーボンナノチューブ表面へのカルボキシル基含有ポリマーの導入比率は、得られる修飾カーボンナノチューブの水への分散性、膜の生成効率、得られる膜の特性の点から、0.19〜3.14mmol/g、特に1mmol/g以上が好ましい。
【0013】
カルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブは、水への分散性が飛躍的に向上しており、高濃度の均一な水分散液が得られる。水分散液中のカーボンナノチューブ濃度は、良好なカーボンナノチューブ膜を形成させる点から、1重量%以上、さらに1〜10重量%、特に5〜7.5重量%が好ましい。従来のカーボンナノチューブでは、分散性が悪く、このような高濃度の水分散液は得られない。なお、カーボンナノチューブを水に分散させるにあたっては、超音波処理、例えば30〜60分間の超音波処理をするのが好ましい。
【0014】
本発明のカーボンナノチューブ膜は、上記のカルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブの水分散液に電極を浸漬して電圧を印加することにより得られる。ここで電極としては、Pt電極、Fe電極、Cu電極等が挙げられる。電極間に印加される電圧は、250〜350V、特に300〜350Vが好ましい。また印加時間は5〜70分間、特に10〜30分間が好ましい。
【0015】
電圧の印加により、前記カーボンナノチューブ水分散液が透明になり陽極側に前記カーボンナノチューブが堆積し、カーボンナノチューブ膜が形成される。
【0016】
得られるカーボンナノチューブ膜の厚さは、水分散液中に分散しているカーボンナノチューブ濃度に依存するため、本発明方法により得られるカーボンナノチューブ膜は0.7〜1.0mg/cm2の厚みで形成される。また、このカーボンナノチューブ膜は、極めて均一であり、焼付け(100℃,3時間)で強固に結合し、導電性材料への応用上極めて有用である。
【実施例】
【0017】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0018】
実施例1
(1)酸素プラズマ処理
カーボンナノチューブとして、アルドリッチ社製多層カーボンナノチューブ(OD=20〜50nm、壁厚1〜2nm、長さ0.5〜2μm)を用いた。プラズマ照射装置として、BASIC PLASMA KIT Model,((株)サムコインターナショナル研究所を用いた。カーボンナノチューブ30〜50mgを酸素雰囲気下に静置し、放電周波数13.56MHz、放電出力100W、酸素ガス圧力100Paの条件で3分プラズマ照射した。
【0019】
(2)プラズマ重合
酸素プラズマ処理後のカーボンナノチューブ30〜50mgをアクリル酸雰囲気下に静置し、放電周波数13.56MHz、放電出力50W、モノマーガス圧力100Paの条件下プラズマ重合反応を行なった。
ポリアクリル酸表面修飾カーボンナノチューブが乾式方式によって得られた。
【0020】
(3)電着法
ポリアクリル酸表面修飾カーボンナノチューブ(PAA−g−MWNT)を秤量し、蒸留水を100mL加え30分間超音波処理(4.7kHz)を行なった。その後、処理が不完全なPAA−g−MWNTが沈殿するまで30分間静置し、PAA−g−MWNT分散溶液とした。調整したPAA−g−MWNT分散溶液に60mm×30mmのPt電極を10mm間隔で設置し陽極と陰極とした。このとき電極は溶液中に35mm浸漬させた。電圧を300V一定とし、所定時間印加した。
【0021】
電着に伴うMWNT分散溶液の吸光度の変化を測定し、電着の評価を行なった。超音波処理を行ない、30分間静置後のPAA−g−MWNT分散溶液を電着時間0分とし、電着中5分毎に陽極側と陰極側の2ヶ所より溶液を4mLずつ採取し、測定波長650nmで吸光度を測定した。
【0022】
(4)図1(a)に超音波処理後30分間静置した電着開始前のPAA−g−MWNT分散溶液とPt電極、(b)に30分間電着後の溶液とPt電極の写真を示した。(a)においてプラズマ重合によりMWNT表面が改質され親水性の向上したPAA−g−MWNTが超音波処理後、水中に分散し黒色の溶液となった。電圧を印加すると、電極付近から気泡が発生し、溶液中に対流が生じた。時間経過と共にPAA−g−MWNT分散溶液は透明になり、陽極側のPt電極上にPAA−g−MWNTが堆積し(図3)、30分後(b)に示した状態となった。
【0023】
(5)図2に電圧を印加することによるPAA−g−MWNT分散溶液の吸光度変化を示した。比較として示したPAA−g−MWNT分散溶液の吸光度はほとんど変化が見られなかった。しかし電圧を印加したPAA−g−MWNT分散溶液において陰極側、陽極側の溶液の吸光度は電着開始直後、急激に減少した。また、吸光度は陽極側より陰極側のほうが早く減少し、20分後にはほぼ同様の値となった。これは、PAA−g−MWNT表面のカルボキシル基が解離し陽極側に引き寄せられるため、電着開始直後は陽極側の溶液の吸光度が陰極側の吸光度より高くなるが、陽極上にPAA−g−MWNTが堆積するに従い溶液全体の吸光度が低下したためと考えられる。
【0024】
(6)PAA−g−MWNT分散量ごとに電着中の電流値の変化を測定した。分散量が少ない溶液では電流値は一定となり、分散量が7.5mg以上の溶液において電圧印加開始20分後までは電流値の上昇が観測され、その後一定となった。このことから形成されたPAA−g−MWNT膜の電流性が示唆された。
以上の結果から、電圧印加後20分で電着はほぼ終了し、プラズマ重合によりポリアクリル酸を導入したMWNT膜の導電性が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】電着処理の前(a)と後のPAA−g−MWNT水分散液の状態を示す写真である。
【図2】電着処理中の650nmの吸光度変化を示す図である。
【図3】電着後の電極の様子を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブの水分散液に電極を浸漬して電圧を印加することを特徴とする、カルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブ膜の製造法。
【請求項2】
カルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブが、カーボンナノチューブを酸素プラズマ処理し、次いでカルボキシル基又はアミノ基含有モノマーをプラズマ重合させることにより得られるものである請求項1記載の製造法。
【請求項3】
カルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーが、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(ジアルキルアミノアルキル)アクリレート及びポリ(ジアルキルアミノアルキル)メタクリレートから選ばれるポリマーである請求項1又は2記載の製造法。
【請求項4】
カーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブである請求項1〜3のいずれか1項記載の製造法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の製造法によって得られる、カルボキシル基又はアミノ基含有ポリマーで表面修飾されたカーボンナノチューブ膜。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−127675(P2008−127675A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317225(P2006−317225)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】