説明

角層のAGEsの鑑別方法

【課題】
角層中における免疫組織染色法を用いた終末糖化産物(AGEs:advanced glycation endproducts)の非侵襲的且つ定量的方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
角層中のAGEsの鑑別法であって、免疫組織染色された角層の拡大イメージ画像を画像処理してAGEsを評価し、そのAGEsの存在割合が多いほど角層のダメージ度合いが大であると判断する。さらに、経時的な角層の変化を時系列的に捉えていくことによって角層の変化をモニタリングする。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、終末糖化産物(AGEs:advanced glycation endproducts)の鑑別方法に関する。さらに詳しくは、角層中における免疫組織染色法を用いたAGEsの鑑別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質糖化反応(メイラード反応)は、アミノ酸、ペプチド、タンパク質のアミノ基と、ケトンやアルデヒド(特に還元糖)との非酵素的反応であり、前期段階と後期段階の2つの反応に分けられる。後期段階の反応は不可逆反応であり、前期段階で生成されたアマドリ化合物が、さらに転移や縮合などの複雑な反応過程を経て、後期糖化反応生成物(AGEs)と呼ばれる安定な物質を形成する反応である。前記AGEsとしては、例えば、カルボキシメチルリジン、ペントシジン、ピラリン、クロスリン等が知られているが、生体内には構造が明らかにされていない未知のAGEsが多種存在していると考えられている。
【0003】
近年、前記メイラード反応の生成物は、医学領域で注目されており、様々な病気、疾患、老化との関連性が発表されている。中でも、公知のAGEsは、タンパク質の機能を低下させるのみならず、細胞障害性や炎症反応を誘発する事が知られており、さらに、AGEsの形成によって、タンパク質が凝集、不溶化して組織中に異常蓄積し、これにより組織を変性させているとも考えられている。また、糖尿病患者におけるヘモグロビンA1C(前期反応のアマドリ化合物)の上昇、糖尿病性腎症や慢性腎不全の腎臓や、動脈硬化病変部におけるAGEsの蓄積は、生体内におけるタンパク糖化反応の代表的な例として知られ、AGEsへの関心がさらに高まっていた。
【0004】
かようなAGEsの測定には、その褐色変化や蛍光特性を利用した吸光光度計や蛍光分光光度計による比色定量法、生体組織を加水分解してHPLCやGC/MSによる分析等が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。また、簡便且つ特殊な分析機器を必要としない等の理由により、免疫学的検出方法、具体的には、免疫組織学的方法、酵素免疫学的測定方法等が、医学分野における研究や臨床診断で広く使われており、このため、糖化タンパク質やAGEsに特異的に反応する抗体が各種作製され利用されている(例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6、非特許文献1)。
【0005】
このような状況下において、肌の美しさにとって重要である表皮、特に角層中におけるAGEsの存在やその意味については全く明らかでなかった。これは比色定量法、HPLCやGC/MS等においてはAGEsの組織中の局在性を測定するのに適さず、また、特異的抗体による生体組織中のAGEs測定においては、表皮より下層を対象としており、表皮や角層中におけるAGEsの存在の有無やその局在性について全く知られていなかった。即ち、角層中におけるAGEsの存在やその意味を明らかにできる非侵襲的且つ客観的に測定する手段が切望されていた。
【0006】
【特許文献1】特開2001−099838号公報
【特許文献2】特開2001−059843号公報
【特許文献3】特開平07−098317号公報
【特許文献4】特開2004−323515号公報
【特許文献5】特開2006−312621号公報
【特許文献6】特開2001−021559号公報
【非特許文献1】Takeuchi, M., et al, 2000, Mol Med, 6:114-125
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況下で為されたものであり、終末糖化産物(AGEs:advanced glycation endproducts)の鑑別方法に関する。さらに詳細には、角層中における免疫組織染色法を用いたAGEsの非侵襲的且つ定量的方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような状況を鑑みて、本発明者らは、鋭意研究努力を重ねた結果、角層中におけるAGEsの鑑別方法であって、免疫組織染色された角層の拡大イメージ画像を画像処理してAGEsを鑑別できることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示す技術に関するものである。
【0009】
(1)角層中におけるAGEsの鑑別方法であって、免疫組織染色法を用いて検出することを特徴とするAGEsの鑑別方法。
(2)免疫組織染色された角層の拡大イメージ画像を画像処理して評価することを特徴とする、(1)に記載のAGEsの鑑別方法。
(3)AGEsの存在割合が多いほど角層のダメージ度合いが大であると判断することを特徴とする、(1)又は(2)に記載のAGEsの鑑別方法。
(4)(1)〜(3)の何れかに記載の鑑別方法を用い、経時的な角層の変化を時系列的に捉えていくことを特徴とする、角層の変化のモニタリング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、角層中におけるAGEsを非侵襲的且つ定量的に測定する方法を提供することができ、角層のダメージ度合の判定や経時的な角層の変化をモニタリングに貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、免疫組織染色された角層の拡大イメージ画像を画像処理してAGEsを鑑別することを特徴とする。
【0012】
皮膚は、身体の表面を覆い、外界との境界機能を果たす器官であり、表皮、真皮及び皮下組織より構成されている。表皮はさらに、角層、顆粒層、有棘層及び基底層より構成されている。最外層の角層は、様々な外部からの刺激を直接受けながら皮膚の防御機能を担い、また人の目に触れるところでありため、角層は皮膚生理学的にも美容上でも極めて重要な役割を果たしている。かような角層においてAGEsが存するならば、公知のAGEs知見よりから、タンパク質の機能を低下や、さらに、タンパク質の凝集や不溶化による組織中での異常蓄積や組織変性の可能性が考えられ、AGEsの存在の有無やそれによる角層機能の変化を知ることが重要である。
【0013】
角層中のAGEsは次のようにして検出できる。皮膚より市販の粘着テープ等を利用してテープストリッピングにより角層採取を行い、溶剤で半日処理して粘着テープ部分を除去する。得られた角層に対して免疫組織染色を行い、染色された角層標本を顕微鏡下で観察する。前記溶剤としては、有機溶媒、特にキシレンが好ましく例示できる。免疫組織染色の条件として、一次抗体(anti AGE monocronal antibody(mouse) TransGenic KH001)、ヒ゛オチン化2 次抗体(Biotin-Rabbit Anti Mouse IGg conjugate ZYMED 81-6740)、ABC 試薬(R.T.U VECTASTAIN Elite ABC REAGENT BECTOR PK-7100)、AEC基質(ENVISION kit/HRP(AEC) Dako K3464)が例示できる。
【0014】
前記染色された角層標本において、赤〜赤橙色に染色された部分がAGEsである。顕微鏡で20〜50倍に観察されたこの染色されたAGEsである拡大イメージ画像をデジタル式のマイクロスコープ等を利用して、コンピュータに取り込み、汎用的画像解析のソフトウェアを用いて、手動又は自動処理を行い、AGEsを定量化できる。デジタル式のマイクロスコープとしては、例えば、(株)モリテックスのコスメティック用マイクロスコープ、汎用的画像解析のソフトウェアとしては、例えば、三谷商事(株)のWinROOF(登録商標)が例示できる。画像処理は、一般的な手法によって行えばよく、例えば、AGEsの拡大イメージ画像であるカラー画像をモノクロ濃淡画像に変換後、該モノクロ画像に必要に応じてフィルター処理後二値化処理を行い、統計処理によってAGEsの存在割合に相関する染色部総面積を算出すればよい。
【0015】
前述のようにして画像処理によって得られた染色部総面積はAGEsの存在割合を示す。また、後述する実施例の如く、染色部総面積が紫外線暴露部位(量)や年齢との間に正の相関関係を有することが分かる。これよりAGEsの存在割合が紫外線暴露や加齢によって高くなることが分かる。紫外線暴露や加齢によって、バリアー機能やドライスキンの増加等、角層のダメージ度合いが高いことはよく知られており、これより、AGEsの存在割合が多いほど、角層のダメージ度合いが大であると判断することができる。
【0016】
かような非侵襲的なAGEsの鑑別方法を用いて、経時的な角層の変化を時系列的に捉えていくことモニタリング方法は汎用性が非常に高い。例えば、抗老化化粧料や紫外線防御化粧料等を使用することによる1週〜数ヶ月の時系列モニタリングを行い、AGEsの存在割合の変化によりその効果を判断することが例示できる。
【0017】
以下に実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がこれら実施例にのみ限定されないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0018】
角層中におけるAGEsの存在を検討した。健常人男性(30才)の上腕内側部及び前腕外側部の角層を市販の粘着テープを利用してテープストリッピングにより角層採取を行い、キシレンで半日処理して粘着テープ部分を除去する。得られた角層に対して免疫組織染色(条件は段落番号0013参照)を行い、染色された角層標本を顕微鏡下で観察した。ポジコンとして、同角層を250mMグルコース溶液に浸漬させ、37℃条件下で1週間放置したものを用いた。結果を図1に示す。
【0019】
図1の染色されたAGEsのイメージ画像(×40)は、左側が男性の角層、右側にポジコン、上段に上腕内側部、下段に前腕外側部を示している。角層にポジコンと同様に赤〜赤橙色のAGEsが観察されることから、角層にAGEsが存することが分かる。
【実施例2】
【0020】
実施例1と同様の手法を用い、健常人男性20人(20代〜50代、各年代5名ずつ)を対象に、上腕内側部及び前腕外側部の角層中におけるAGEsの存在割合を検討した。即ち、(株)モリテックスのコスメティック用マイクロスコープを用いて、AGEsの拡大イメージ画像をコンピュータに取り込んだ後、三谷商事(株)のWinROOF(登録商標)を用いてモノクロ濃淡画像に変換し、フィルター処理及び二値化処理を行って、AGEsの存在割合である染色部総面積を算出した。結果を図2及び図3に示す。
【0021】
図2は上腕内側部における加齢に伴う角層中のAGEsの存在割合を示す1例で、加齢と共にAGEsが微増の傾向を示す。図3は、30代の5名の男性の中の2名(A及びB)の上腕内側部及び前腕外側部のAGEsの存在割合を示し、屋外活動の多いAは前腕外側部のAGEsの存在割合が非常に高いことを示す。上腕内側部及び前腕外側部において、年齢との相関分析を行った結果、上腕内側部において正の相関関係を確認したが(r=0.501、P<0.05)、前腕外側部では有意な相関関係を示さなかった。
【0022】
これより、非露出部位である上腕内側部では年齢と共にゆるやかに角層中のAGEsの存在割合が増加することが分かる。一方、紫外線露出部位である前腕外側部においては、個人差が非常に大きく、生活スタイル(屋外活動)等により紫外線暴露されている人ではAGEsの存在割合が非常に高いレベルにあることが分かる。紫外線暴露や加齢によって、バリアー機能やドライスキンの増加等、角層のダメージ度合いが高いことはよく知られており、これより、AGEsの存在割合が多いほど、角層のダメージ度合いが大であると判断することができる。
【実施例3】
【0023】
健常女性2名(30代)の顔面左右頬部を対象に、下記の紫外線防御化粧料A(朝夕2回塗布)の1ヶ月間使用の有無によるAGEsの存在割合への影響を検討した。方法は実施例2と同様にして、使用前と1ヶ月後の染色部総面積の比(%)を算出した。紫外線防御化粧料Aを使用した部位の場合2名の平均で92%に対し、使用しない部位では102%であった。これより、紫外線防御化粧料Aの使用によってAGEs存在割合を抑制する効果があることが分かる。
【0024】
紫外線防御化粧料A(W/O型乳液)は、以下に示す処方に従って作成した。即ち、イ、ロの成分を80℃に加熱攪拌し、イにハの成分を加え、ディスパーで分散させて一様な状態とし、これに徐々にロを加えて乳化し、攪拌冷却して紫外線防御化粧料Aを得た。
【0025】

ショ糖モノステアリン酸エステル 0.3 質量%
ソルビタンモノラウリン酸エステル 0.4 質量%
ジメチコン(5mPascal・秒) 30 質量%
シクロメチコン 5 質量%
セチルイソオクタネート 5 質量%
ポリエーテル変性シリコーン 2 質量%

1,3−ブタンジオール 10 質量%
水酸化カリウム 0.4 質量%
クエン酸ナトリウム 1 質量%
硫酸マグネシウム 0.4 質量%
エスクレチン 0.1 質量%
フェノキシエタノール 0.5 質量%
グリチルリチン酸ジカリウム1%水溶液 5 質量%
水 33.4 質量%

「ベントン−38V」 1.5 質量%
黄色酸化鉄焼結二酸化チタン 0.6 質量%
ステアリン酸アルミニウム被覆微粒子二酸化チタン 1.6 質量%
(平均粒径0.8μm)
ハイドロジェンメチルポリシロキサン被覆酸化亜鉛 2 質量%
(平均粒径0.7μm)
タルク 0.8 質量%
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によって、角層中におけるAGEsを非侵襲的且つ定量的に測定する方法を提供することができる。その結果、肌状態に適した化粧料の選択、角層のダメージ度合のアドバイスや経時的な角層のモニタリング等、多くの顧客に満足を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】角層中におけるAGEsの存在を示す図である。
【図2】加齢に伴う角層中のAGEsの存在を示す図である。
【図3】露出と非露出部位による角層中のAGEsの存在を差異を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
角層中におけるAGEsの鑑別方法であって、免疫組織染色法を用いて検出することを特徴とするAGEsの鑑別方法。
【請求項2】
免疫組織染色された角層の拡大イメージ画像を画像処理して評価することを特徴とする、請求項1に記載のAGEsの鑑別方法。
【請求項3】
AGEsの存在割合が多いほど角層のダメージ度合いが大であると判断することを特徴とする、請求項1又は2に記載のAGEsの鑑別方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の鑑別方法を用い、経時的な角層の変化を時系列的に捉えていくことを特徴とする、角層の変化のモニタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−8460(P2009−8460A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168356(P2007−168356)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】