説明

角度測定装置及び方法

【解決課題】物体、動物、人間において形成される角度、具体的には人間における各関節部の角度や、各種装置、構造物などの構成要素同士が形成する角度など、複数の部位のなす角度を形成する複数の部位それ自体が静止状態であっても、積分処理を行わずにそのなす角を測定可能な角度測定装置及び方法を提供する。
【解決手段】複数の部位1,2のなす角度を求める角度測定装置を、部位1,2にそれぞれ取り付ける地磁気センサ11,12と、地磁気センサ11,12から出力したデータに基づいて複数の部位1,2がなす角度を求める処理部15と、部位1,2への地磁気センサ11,12の取付態様の違いを補正するための補正情報を格納する補正情報格納部17とを備える。処理部15が、補正情報格納部17に格納した補正情報を参照して、各地磁気センサ11,12から出力されたデータを補正し、複数の部位1,2のなす角度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の部位のなす角度を測定する角度測定装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
角度は長さと同様、基本的な計測項目であって、例えば、人間の姿勢を表示するための腕や膝などの角度、建物や橋梁の支柱等の傾斜角がある。よって、土木建築の分野、人間工学の分野、スポーツ分野など様々な分野において、正確に角度を計測することが求められている。角度を計測する場合、センサとして加速度センサやジャイロセンサが用いられている(例えば特許文献1及び2)。例えば、加速度センサを用いた角度計測では、回転自在なアームに加速度センサを取り付け、その加速度センサから出力されたデータを二回積分することにより回転した角を求めている。加速度センサでは加速度の変化量が出力されるからである。加速度センサを用いた角度計測の別の方法として、静止状態にある2つのアームに加速度センサを取り付け、加速度センサの出力値から3軸方向にかかった重力加速度から2つのアームのなす角を推定している。一方、ジャイロセンサを用いた角度計測にあっては、アームにジャイロセンサを取り付け、ジャイロセンサから出力される角速度のデータを積分することにより、角度を求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−203264号公報
【特許文献2】特開2008−281508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ジャイロセンサを用いて角度を計測する場合、角度の変化を求めることは容易であるが、静止状態にある2つのアームがなす角度を求めることは困難である。
加速度センサを用いて角度を計測する場合、センサから出力された値を積分することが必要である。しかし、積分処理により誤差が累積され、累積した誤差により正確な角度の計測は困難となる。また二重積分処理がなされることにより誤差がさらに増大する。このため、角度の正確な計測のためには、非常に精度の高い加速度センサが要求される。一方、静止状態にあるアームがなす角を計測する場合、重力以外の力が作用しないようにしなければならず、現実の測定環境下ではそのような状況をつくることは難しい。
【0005】
そこで、本発明では、複数の部位で形成される角度、即ち、なす角度を測定する装置であって、複数の部位それ自体が静止状態であっても積分処理を行わずにそのなす角度が測定可能な角度測定装置を提供することを第1の目的とする。
さらに本発明では、複数の部位で形成される角度、即ち、なす角度を測定する方法であって、複数の部位それ自体が静止状態であっても積分処理を行わずにそのなす角度が測定可能な角度測定方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記第1の目的を達成するために、本発明は、例えば物体、動物、人間において形成される角度、具体的には人間における各関節部の角度や各種装置、構造物などの構成要素同士が形成する角度など、複数の部位のなす角度を求める角度測定装置において、部位にそれぞれ取り付けられる地磁気センサと、地磁気センサから出力されたデータに基づいて複数の部位のなす角度を求める処理部と、を備えることを特徴とする。
上記構成において、さらに、部位への地磁気センサの取付態様の違い、例えば、部位同士のなす角がゼロとなるように部位を仮想的に移動したとき、各部位に対し地磁気センサに設定されているXYZの各軸が部位毎に異なるように取り付けられている場合にあっては、その取付けかたの違いを同一視できるように補正するための補正情報を格納する補正情報格納部を備えており、処理部が、補正情報格納部に格納されている補正情報を参照して、複数配置された地磁気センサの各々から出力されたデータを補正し、複数の部位のなす角度を求める。
上記構成において、処理部は、複数の地磁気センサから出力されたデータから、それぞれの部位の回転角であって複数の部位にそれぞれ仮想的に設定されているX軸、Y軸及びZ軸の回りの上記回転角を算出する回転角算出部と、回転角算出部により求めたそれぞれの部位の回転角の値から複数の部位のなす角度を算出する角度算出部と、を備える。
【0007】
上記第2の目的を達成するために、本発明は、複数の部位のなす角度を測定する角度測定方法において、一方の部位、他方の部位にそれぞれ地磁気センサを取り付けるステップと、地磁気センサからそれぞれ出力されたデータに基づいて、一方の部位と他方の部位とのなす角度を求めるステップと、を含むことを特徴とする。
上記構成において、一方の部位、他方の部位にそれぞれ地磁気センサを取り付ける際、各部位に対する地磁気センサの取付態様が同一になるように配置する。
上記構成において、一方の部位、他方の部位に対する地磁気センサの取付態様に関する情報に基づいて、地磁気センサからそれぞれ出力されたデータを補正し、その補正した後のデータに基づいて、一方の部位と他方の部位とのなす角度を求める。
上記第2の目的を達成するために、本発明では、一方の部位と他方の部位とのなす角度を測定する角度測定方法において、一方の部位と他方の部位にそれぞれ取り付けられた地磁気センサから出力されたデータに基づいて、それぞれの部位の回転角であって複数の部位にそれぞれ仮想的に設定されているX軸、Y軸及びZ軸の回りの回転角を算出し、この算出した各部位の回転角の値から一方の部位と他方の部位とのなす角度を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、測定しようとする角度を形成する複数の部位にそれぞれ地磁気センサが取り付けられ、処理部が地磁気センサから出力されたデータに基づいて複数の部位のなす角度を求める。地磁気センサは複数の部位が静止状態であっても地磁気の影響を受けてそれぞれデータを出力し、しかも地磁気センサが各部位の地磁気の影響を受けてデータを出力する。出力されるデータは地磁気センサの各部位への取付態様に応じた方向を示すため、誤差を最小限にして角度を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態に係る角度測定装置において、(A)は概念図、(B)はブロック構成図である。
【図2】図1に示す地磁気センサのセンサ部で求まるデータについて説明するための図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る角度測定装置において、(A)は概念図、(B)はブロック構成図である。
【図4】地磁気センサの各部位への取付態様が異なっている場合に、補正情報により取付態様を一致させるようにどのように補正するかを説明するための図で、(A)は地磁気センサの各部位への取付態様を模式的に示し、(B)は地磁気センサの座標系を一致させるための手法を説明するための図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る角度測定装置のうちデータ処理端末装置のブロック図である。
【図6】地磁気ベクトルがベクトルFからベクトルF’へ変化したときX軸回りにどの程度回転したかを求める手法を説明するための概念図である。
【図7】本発明の実施形態に係る角度測定装置の適用例を示し、(A)はスキージャンプ競技者のモニタリングシステムの配置構成図、(B)は競技者への地磁気センサの取付状況を模式的に示す図である。
【図8】図7(A)に示すコンピュータ中の入出力部で表示される画面を模式的に示す図である。
【図9】実施例に関し、人の足首の関節をモデリングした模型を模式的に示し、(A)は側面図、(B)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の幾つかの実施形態を詳細に説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る角度測定装置において、(A)は概念図、(B)はブロック構成図である。図1では、測定対象の角度、つまり、一方の部位1と他方の部位2とのなす角度が二つのアームのなす角度である場合を想定している。一方の部位1及び他方の部位2が直線状の軸を備えてその軸方向に延びており、一方の部位1及び他方の部位2が回転軸3で連結しているようなものを想定している。例えば、測定対象を、図7を用いて後述するような、スキージャンプ競技者のモニタリングシステムに適用した場合を想定することができる。
【0012】
本発明の第1実施形態に係る角度測定装置10は、複数の地磁気センサ11,12と、地磁気センサ11,12から出力された値に基づいて処理する処理部15と、を備えている。図示された形態では、各地磁気センサ11,12がセンサ部11A、12Aとデータ送信部11B,12Bを備えており、データ処理端末装置13が、前述の処理部15のほかに、データ送信部11B,12Bからのデータを受けるデータ受信部14と、処理部15に対する指令を入力し処理部15による結果を出力する入出力部16とを備えている。図示ではデータ送信部11B,12Bとデータ受信部14との間は無線でデータを送受信するが、有線でデータを送受信するようにしてもよい。また、地磁気センサ11,12が相互にデータを送受信するようにし、かつ少なくとも一方に地磁気センサ11,12に処理部を内蔵していてもよい。
【0013】
図2は地磁気センサ11,12のセンサ部11A,12Aで求まるデータについて説明するための図である。図の一点破線で示す部分がセンサ部11A,12Aを想定しており、センサ部11A,12Aに設定されているXYZの座標軸に対し地磁気による磁束の向きがどのような角度にあるかに関するデータが出力される。図示のように、XYZ座標がセンサ部11A,12Aに設定されているとすると、記号Hで示す方向が磁北となり、記号Fで示す方向が地磁気の磁束の向きとなる。XY平面で磁北の方向と北のX軸方向とのなす角D及び磁北Hと地磁気Fとのなす角Iに関するデータが出力される。実際の出力されるデータとしては、地磁気FのX成分Fx、Y成分Fy,Z成分Fzである。
【0014】
処理部15は、データ受信部14を経由して地磁気センサ11,12からのデータをそれぞれ取得し、それらのデータを処理するものである。地磁気センサ11,12には前述のように座標軸が設定されているので、地磁気センサ11,12から処理部15が取得するデータはその座標軸に対する地磁気による磁束の向きを磁界の成分表示されたもの、即ち、地磁気FのX、Y、Zの各成分Fx,Fy,Fzである。よって、地磁気センサ11,12に設定されている座標軸が同じであるものを用いることで、つまり同種の地磁気センサ11,12を各部位に対して同様の態様で取り付ければ、地磁気による磁束の向きのなす角度は、各部位のなす角に等しくなる。
【0015】
以下詳細に説明すると、地磁気センサ11から出力されるデータを成分(X1,Y1,Z1)で表し、地磁気センサ12から出力されるデータを成分(X2,Y2,Z2)で表すと、処理部15は、一方の部位1と他方の部位2とのなす角度θを、入力されたデータに基づいて下記の式1により求める。下記の式1では、地磁気センサ11が受ける地磁気Fと地磁気センサ12が受ける地磁気Fとが同等であることを前提としている。
【数1】


よって、一方の部位1と他方の部位2とのなす角度θを測定することができる。処理部15で求まった値はデータ処理端末装置13に蓄積され、必要に応じて入出力部16により表示される。
【0016】
第1実施形態では同種の地磁気センサ11,12を各部位1,2に対して同様の態様で取り付けることを想定しており、例えば図1(A)に示すように、各部位1,2の軸の延びる方向をY軸とし、平板状の地磁気センサ11,12でその平面の法線方向をZ軸とし、Y軸及びZ軸と直交する方向をX軸として、XYZの各軸を左手座標系で設定している。しかもZ軸の向きは各部位1,2において同じ向きとする。よって、地磁気による磁束の向きのなす角度が各部位1,2のなす角度と等しくなる。しかしながら、各部位1,2に対して同様の態様で地磁気センサ11,12を取り付けることができるとは限らない。それに対応したのが第2実施形態である。
【0017】
(第2実施形態)
図3は本発明の第2実施形態に係る角度測定装置において、(A)は概念図、(B)はブロック構成図である。図3に示す第2実施形態は係る角度測定装置10Aは、データ処理端末装置13に補正情報格納部17を備え、処理部15が補正情報格納部17に格納されている補正情報を用いて、地磁気センサ11,12が部位1,2に同じ基準で取り付けられているものと扱えるように地磁気センサ11,12から出力されたデータについて補正をし、その後、第1実施形態と同様に、部位1,2のなす角度を計算する。
【0018】
例えば、補正情報格納部17は、地磁気センサ11の部位1への取付態様と地磁気センサ12の部位2への取付態様との違いを補正するための補正情報を、入出力部16から入力して格納する。そして、処理部15が、補正情報格納部17に格納されている補正情報を参照して、各地磁気センサ11,12から出力されたデータを補正し、一方の部位1と他方の部位2とのなす角度を求める。
【0019】
具体的な例を挙げると、地磁気センサ11,12の各部位1,2への取付態様が異なっており、図3(A)に示す例では、地磁気センサ11,12は各部位1,2に対して部位1,2の軸の延びる方向をY軸としているが、互いに逆向きとなっている。この場合、取付態様を同じするには地磁気センサ11の座標軸をX軸回りに180度回転する必要がある。よって、補正情報格納部17には、各部位1,2に対する地磁気センサ11,12の座標軸が一致するように、X軸、Y軸、Z軸にそれぞれ何度回転すればよいかという情報が格納される。
【0020】
一般的には、各部位1,2に平行移動で一致させることが可能な基準座標系を設定し、地磁気センサ11,12のXYZ座標系が基準座標系とのずれを示す情報として各軸回りの回転角度が補正情報格納部17に格納されてもよい。図4は、地磁気センサの各部位への取付態様が異なっている場合に、補正情報により取付態様を一致させるようにどのように補正するかを説明するための図で、(A)は地磁気センサの各部位への取付態様を模式的に示し、(B)は地磁気センサの座標系を一致させるための手法を説明するための図である。例えば図4(A)に示すように、他方の部位2又は地磁気センサ12に設定されているXYZ座標系を、一方の部位1又は地磁気センサ11に設定されているX’Y’Z’座標系に合わせるため、図4(B)に示すように、X’軸、Y’軸、Z’軸回りにそれぞれ回転させる。
【0021】
つまり、各地磁気センサ11,12のXYZ座標系を基準座標系に一致させるため各軸回りに回せばよいかという情報として、例えば回転行列が格納されてもよい。補正情報格納部17は、入出力部16から補正情報そのものが入力されてその入力された情報を格納するようにしてもよいし、入出力部16から入力された情報を演算等処理して格納するようにしてもよい。
【0022】
処理部15は地磁気センサ11,12からデータを取得すると、補正情報格納部17に格納されている補正情報に基づいて一方の地磁気センサ11,12からのデータを補正情報により他方の地磁気センサ12,11の基準に合わせる補正を行い、その補正後を式1のように、一方の方向ベクトルと他方の方向ベクトルのなす角度として部位1と部位2のなす角度を算出することができる。
【0023】
第2実施形態では、各地磁気センサ11,12が受ける地磁気による磁束が等しいと評価し、各地磁気センサ11,12の各部位1,2への取付態様の違いを同一視できるように、各地磁気センサ11,12から出力されるデータを補正情報により補正し、その補正後のデータ、即ち方向ベクトルの成分表示のデータから、ベクトルの内積の関係式を用いて方向ベクトルのなす角度を求める。このなす角度は二つの部位1,2のなす角度に等しいので、結果として二つの部位1,2のなす角度を求めることができる。
【0024】
(第3実施形態)
図5は本発明の第3実施形態に係る角度測定装置のうちデータ処理端末装置13Aのブロック図である。第3実施形態に係る処理部15は、回転角算出部15Aと角度算出部15Bとを含んで構成されている。
【0025】
回転角算出部15Aは、各地磁気センサ11,12から出力されたデータから、部位1,2毎に仮想的に設定されているXYZ軸の各軸回りにそれぞれの部位の回転角を算出する。角度算出部15Bは、回転角算出部15Aにより求めたそれぞれの部位1,2の回転角の値から部位1,2のなす角度を算出する。
【0026】
よって、一方の部位1と他方の部位2にそれぞれ取り付けられた地磁気センサ11,12から出力されたデータに基づいて、回転角算出部15Aは、それぞれの部位の回転角であって部位毎に仮想的に設定されているXYZ軸の各軸回りにどの程度回転したかを回転角として算出する。つまり、各地磁気センサ11,12の出力の変化からXYZの各軸回りの回転量の変化を算出する。各部位1,2に対応して地磁気センサ11,12のXYZ座標系が設定されているので、部位1,2を回転したり捻ったりすることで、そのXYZ座標系の各軸回りの回転がどの程度なされたかを、XYZ軸の各軸回りにそれぞれの部位の回転角として求める。具体的には、地磁気ベクトルがXYZの各軸に一致していない場合には、地磁気ベクトルの回転変換を平面内の回転変換に分解する。
【0027】
各部位の回転変換は次の3つの変換に分解して考えることができる。第1の変換は、センサからの出力のX軸の値を無視してX軸を回転軸としたYZ平面内の回転と長さを換えるもの、第2の変換は、センサからの出力のY軸の値を無視してY軸を回転軸としたZX平面内の回転と長さを換えるもの、第3の変換は、センサからの出力のZ軸の値を無視してZ軸を回転軸としたXY平面内の回転と長さを換えるものというように3つに分解する。
【0028】
いま、各部位の回転の有無、回転量を求めればよいので、長さの変換については考慮する必要がない。よって、各部位に作用する地磁気の磁束の向きがどのように変化したかについて、つまり、地磁気ベクトルFからF’へ変化したことを各部位の座標軸の回転として評価し、X軸回りの回転角(ロール)についてセンサ出力のX成分を無視して地磁気ベクトルFとF’のYZ平面への写像のなす角度と、Y軸回りの回転角(ピッチ)についてセンサ出力のY成分を無視して地磁気ベクトルFとF’のZX平面への写像のなす角度と、Z軸回りの回転角(ヨー)についてセンサ出力のZ成分を無視して地磁気ベクトルFとF’のXY平面への写像のなす角度として求める。これより、時間の経過とともに部位1,2又は地磁気センサ11,12が軸回りに回転したかを計算することができる。
【0029】
具体的に説明すると、地磁気ベクトルがベクトルFからベクトルF’へ変化したときX軸回りにどの程度回転したかは、図6に示すように、ベクトルFをYZ平面へ写像、即ち正射影したときの角、即ちベクトルFとYZ平面とのなす角度αと、ベクトルF’をYZ平面へ写像したときの角、即ちベクトルF’とYZ平面とのなす角度βとの差分|α−β|として図示のθxにより求めることができる。
【0030】
地磁気ベクトルがベクトルFからベクトルF’へ変化したときY軸回りにどの程度回転したかは、ベクトルFをZX平面へ写像したときの角、即ちベクトルFとZX平面とのなす角度と、ベクトルF’をZX平面へ写像したときの角、即ちベクトルF’とZX平面とのなす角度との差分により求めることができる。
【0031】
地磁気ベクトルがベクトルFからベクトルF’へ変化したときZ軸回りにどの程度回転したかは、ベクトルFをXY平面へ写像したときの角、即ちベクトルFとXY平面とのなす角度と、ベクトルF’をXY平面へ写像したときの角、即ちベクトルF’とXY平面とのなす角度との差分により求めることができる。
【0032】
このようにして、地磁気ベクトルがベクトルFからベクトルF’へ変化することは、各地磁気センサ11,12に設定されている各座標軸回りにどの程度回転したかで表すことができ、しかも地磁気ベクトルの時間的な変化は、各座標軸回りの回転角として時々刻々計算することができる。
【0033】
よって、回転角算出部15Aで求めた各部位1,2の回転角に基づいて、測定開始時、即ち初期の部位1,2のなす角度がどのように変化したかを角度算出部15Bにより求める。
そのとき、測定開始時、即ち初期の部位1,2のなす角度がゼロ度となるように地磁気センサ11,12を配置した場合には、時間の経過とともにどのようにそれぞれの部位が軸回りに回転したかが求まっているので、各部位1,2のなす角を求めることができる。
また、測定開始時、即ち初期の部位1,2のなす角がゼロ度ではない場合、補正情報格納部17に補正情報として測定開始時、即ち初期の部位1,2のなす角度の値を格納しておくことにより、この格納されている値に、計算時間毎に求めたなす角度の差分を加えることで、経過時間毎の部位同士のなす角度を求めることができる。
【0034】
ここで、本発明の実施形態における利点について説明する。本発明の実施形態では、センサとして地磁気センサを用いているので、部位が回転などしなくてもセンサから値が出力される。そして、地磁気センサから出力される値には前述したように地磁気ベクトルの方向に関する情報が内包されており、かつ時間的な変化値ではないので、出力の各成分を積分処理する必要がない。よって、積分処理による誤差の拡大を防ぎ正確な角度測定を行うことができる。
【0035】
上述の説明では基本的な角度測定に関する技術を説明したが、本発明により測定される角度を形成する部位は、地磁気による磁束の影響のみを受けると評価されるものであれば何でもよい。
【0036】
本発明者らは、上述した角度測定装置及び方法を用いて、スキージャンプ競技者の膝や腰の角度の時間的な変化を計測し、異なる方向から撮影したカメラによる解析結果以上に下半身の関節角の測定ができることを確認した。以下、詳細に説明する。
【0037】
図7は、スキージャンプ競技場において競技者の膝や腰の角度の時間的な変化をモニタリングする場合を想定した概念図で、(A)はスキージャンプ競技者のモニタリングシステム(以下、単に「モニタリングシステム」と呼ぶ。)の配置構成図であり、(B)は競技者への地磁気センサの取付状況を模式的に示す図である。
【0038】
図7(A)に示すように、モニタリングシステム50は、アプローチ、踏み切り位置、ランディングバーンに区分けされる滑走面100を望むように配置されるカメラ51と、図7(B)に示す地磁気センサ52から送信される情報を受信する受信機53と、カメラ51及び受信機53から出力されるデータを処理する処理部を含むコンピュータ54と、を含んで構成される。地磁気センサ52は、競技者の背中、大腿部、脹脛などにそれぞれ取り付ける。例えば大腿部などに取り付ける際には、ポケットなどの収容部を設けたサポータを用い、その収容部に地磁気センサ52を収容しサポータを装着する。また、スキーブーツと脚との間に地磁気センサ52を挿入して固定することにより装着することもできる。
【0039】
地磁気センサ52は、図1及び図3を参照して説明したように、データ送信部を内蔵しているので、地磁気センサ52は受信機53に対してデータを無線で送信する。受信機53が地磁気センサ52から送信されたデータを受信すると、このデータを逐次コンピュータ54に出力する。カメラ51はCCDカメラを用い、逐次コンピュータ54に取り込まれる。
【0040】
コンピュータ54には、図1及び図3を参照して説明したように、処理部と、入出力部として入力部及び表示モニターを備えている。図8は図7(A)に示すコンピュータ54中の入出力部で表示される画面を模式的に示す図である。スキージャンプ競技者の姿勢を表す情報として、例えば、処理部で求めた角度の時間経過依存性を示すグラフと、カメラ51で撮影した映像データとがある。スキージャンプ毎に、カメラ51により映像データが生成され、処理部で膝や足首などの関節角度の時間的変化が求まる。よって、例えば図8に示すように、領域55A,55Bには、カメラ51で撮影された映像を表示し、領域56A,56Bには、関節角度の時間的変化をグラフとして表示する。これにより、スキージャンプ競技による姿勢、滑走姿勢、踏切姿勢、滑空姿勢などをモニタリングすることができる。よって、競技者のフォームの確認し、フォームと飛行距離との関係を調査することが容易になる。
【実施例】
【0041】
本発明の実施形態の有効性について検討した。図9は、人の足首の関節をモデリングした模型を模式的に示し、(A)は側面図、(B)は平面図である。図9に示す模型60は、水平な台61の軸部61Aに対して可動板62を回動可能に取り付けたものである。水平な台61はフット、即ち足部に相当し、可動板62は脚部に相当する。水平な台61の上と可動板62とにそれぞれ地磁気センサ63,64を取り付け、地磁気センサ63,64から出力されるデータを図1及び図3を参照して説明した処理部の機能を有するコンピュータで処理した。一方、水平な台61に対する可動板62の角度を一定状態にし、可動板62の水平な台61に対する角を分度器により測定した。コンピュータ処理で得た値を分度器により測定した値と比較した。その結果、水平な台61に対する可動板62の角度を変化させても、両値は何れもほぼ同じであった。よって、本発明の実施形態によれば、一方の部位と他方の部位とのなす角度を求めることができ、さらに時間的にそのなす角度が変化する場合でも求めることができることが分かった。
【0042】
本発明は、スキーのジャンプのみならず、トラック競技、野球のピッチャーやバッターのフォーム解析、ゴルフのフォーム強制といったフォーム解析全般に適用することができる。また、建物、橋脚等の鉄筋コンクリート構造物の場合、磁性体の影響を取り除くよう例えば、地磁気センサの取付部位に対し非磁性材からなるスペーサを挟んで設置すれば、建物、橋脚などのあらゆる構造物における部位同士の角度を測定することができる。磁性体の影響を取り除くことが難しい場合であっても、地磁気センサ同士の相対的な角度をモニタリングすることで、地磁気センサが地磁気以外の影響を受けてもその影響を排除することができることを確認している。よって、例えば建物、橋脚などの建造物や構造物の傾きなども計測することが可能である。
【0043】
また、高層ビルや橋梁などの構造物の揺れ幅については従来加速度センサによる測定がなされている。しかしこの揺れ幅の測定は短周期振動による揺れ幅であり、加速度センサでは長周期振動による揺れ幅を測定することは難しい。本発明の実施形態のようにして角度を測定することにより長周期振動による揺れ幅を測定することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
1,2:部位
3:軸部
10,10A:角度測定装置
11,12:地磁気センサ
11A,12A:センサ部
11B,12B:データ送信部
13,13A:データ処理端末装置
14:データ受信部
15:処理部
15A:回転角算出部
15B:角度算出部
16:入出力部
17:補正情報格納部
50:モニタリングシステム
51:カメラ
52:地磁気センサ
53:受信機
54:コンピュータ
55A,55B,56A,56B:領域
60:模型
61:水平な台
61A:軸部
62:可動板
63,64:地磁気センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部位のなす角度を求める角度測定装置において、
上記部位にそれぞれ取り付けられる地磁気センサと、該地磁気センサから出力されたデータに基づいて上記複数の部位のなす角度を求める処理部と、を備えることを特徴とする、角度測定装置。
【請求項2】
さらに、前記部位への前記地磁気センサの取付態様の違いを補正するための補正情報を格納する補正情報格納部を備えており、
前記処理部が、前記補正情報格納部に格納されている補正情報を参照して、複数配置された前記地磁気センサの各々から出力されたデータを補正し、前記複数の部位のなす角度を求めることを特徴とする、請求項1に記載の角度測定装置。
【請求項3】
前記処理部は、
複数の前記地磁気センサから出力されたデータから、それぞれの部位の回転角であって前記複数の部位にそれぞれ仮想的に設定されているX軸、Y軸及びZ軸の回りの上記回転角を算出する回転角算出部と、
前記回転角算出部により求めたそれぞれの部位の回転角の値から前記複数の部位のなす角度を算出する角度算出部と、
を備えることを特徴とする、請求項1に記載の角度測定装置。
【請求項4】
複数の部位のなす角度を測定する角度測定方法において、
一方の部位、他方の部位にそれぞれ地磁気センサを取り付けるステップと、
上記地磁気センサからそれぞれ出力されたデータに基づいて、上記一方の部位と上記他方の部位とのなす角度を求めるステップと、
を含むことを特徴とする、角度測定方法。
【請求項5】
前記一方の部位、前記他方の部位にそれぞれ前記地磁気センサを取り付ける際、各部位に対する地磁気センサの取付態様が同一になるように配置することを特徴とする、請求項4に記載の角度測定方法。
【請求項6】
前記一方の部位、前記他方の部位に対する前記地磁気センサの取付態様に関する情報に基づいて、前記地磁気センサからそれぞれ出力されたデータを補正し、
その補正した後のデータに基づいて、上記一方の部位と上記他方の部位とのなす角度を求めることを特徴とする、請求項4に記載の角度測定方法。
【請求項7】
一方の部位と他方の部位とのなす角度を測定する角度測定方法において、
一方の部位と他方の部位にそれぞれ取り付けられた地磁気センサから出力されたデータに基づいて、それぞれの部位の回転角であって前記複数の部位にそれぞれ仮想的に設定されているX軸、Y軸及びZ軸の回りの上記回転角を算出し、この算出した各部位の回転角の値から一方の部位と他方の部位とのなす角度を算出することを特徴とする、角度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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