説明

解析支援システム、解析支援方法及び解析支援プログラム

【課題】電気的コンポーネントや機械的コンポーネントからなる構造体についての等価回路を生成し、この等価回路を用いて構造体の動作解析を行なうための解析支援システム、解析支援方法及び解析支援プログラムを提供する。
【解決手段】クライアント端末10において、3Dモデルデータ記憶部12に格納されたコンポーネントを用いて構造体を設計する。そして、使用要素のコンポーネント識別子、構造パラメータ、幾何的接続情報に関するデータをシミュレーションサーバ20に送信する。シミュレーションサーバ20において、幾何的接続情報を用いて機械接続グラフを作成し、双対グラフを作成する。また、シミュレーションサーバ20において個別等価回路を作成し、この双対グラフを用いて、個別等価回路の機械端子の接続を行なう。更に、幾何的接続情報を用いて電気接続グラフを作成し、個別等価回路の電気端子の接続を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的コンポーネントや機械的コンポーネントからなる構造体についてのシミュレーションを実行する場合に用いる等価回路を生成するための解析支援システム、解析支援方法及び解析支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
設計した製品等を製造する前に、設計品の性能や機能を評価するためにシミュレーションを行なう場合がある。例えば、SPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis )等のように、電気・電子回路の動作をシミュレーションするソフトウェアが提供されている。また、機械的な動作を解析するためのシミュレータも検討されている。
【0003】
そして、電気的特性部と機械的特性部を有するモデルのシミュレーションを行なう場合もあり、このようなシミュレーションの処理負荷を軽減するための技術が検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。この文献記載のシミュレータ装置では、電気的特性部と機械的特性部を有するモデルを用いてシミュレーションを行なう。このシミュレータ装置の統合電気シミュレーション部は、複数のモデルの電気的特性部を統合し、統合した電気的特性部についてのシミュレーションを行なう。また、機械シミュレーション部は、統合電気シミュレーション部によってシミュレーションされた電気的特性部に対応する複数のモデルの機械的特性部についてのシミュレーションを行なう。
【特許文献1】特開2006−14393号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、今日、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)が注目されている。このMEMSは、機械要素部品、センサー、アクチュエータ、電子回路等を一つのシリコン基板、ガラス基板、有機材料などの上に集積化したデバイスである。このようなMEMSにおいては、機械的なコンポーネントと電子的なコンポーネントとが混載されることが多い。
【0005】
このように複数のコンポーネントが結合された構造体についてシミュレーションを行なうニーズが高くなっている。このような構造体についてシミュレーションを行なう場合には等価回路を生成して、この等価回路を回路シミュレータに導入する。この場合、構造体を構成するコンポーネント全体を単体のデバイスとして扱うことにより、等価回路を導出していた。このためには、構造体の設計毎に新たに等価回路を導出する必要があり、この導出に手間がかかることになる。特に、複雑な動作機構を有するMEMSデバイスにおいては、全体の等価回路の導出が困難であり、動作予測が難しかった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電気的コンポーネントや機械的コンポーネントからなる構造体についての等価回路を生成し、この等価回路を用いて構造体の動作解析を行なうための解析支援システム、解析支援方法及び解析支援プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、構造体を構成するコンポーネントに対して、電気的変数及び機械的変数の入出力端子を有する個別モデル回路を記憶したモデル情報記憶手段と、回路シミュレータに接続された制御手段とを備え、構造体の動
作解析を支援するシステムであって、前記制御手段が、シミュレーション対象のコンポーネントについて、要素形状及び幾何的接続に関する情報を取得する設計情報取得手段と、前記モデル情報記憶手段から、前記コンポーネントの個別モデル回路を取得する個別回路生成手段と、前記幾何的接続情報から機械接続グラフを作成し、前記機械接続グラフの双対グラフを作成して、個別モデル回路の機械端子を前記双対グラフに従って接続する機械端子接続手段と、前記幾何的接続情報から電気接続グラフを作成し、前記個別モデル回路の電気端子を前記電気接続グラフに従って接続する電気端子接続手段と、生成したモデル回路を前記回路シミュレータに出力する等価回路出力手段とを備えたことを要旨とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の解析支援システムにおいて、前記機械端子接続手段は、前記幾何的接続情報に基づいて、構造体を構成する各コンポーネントと、各コンポーネントを接続するジョイントについての節点を結合したグラフを生成し、固定されたアンカーを示すアンカー節点が複数ある場合にはこれらのアンカー節点を統合し、同一のコンポーネント節点に接続されたジョイント節点を統合し、アンカー節点とジョイント節点とを結ぶコンポーネントを辺とする機械接続グラフを生成することを要旨とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の解析支援システムにおいて、前記機械端子接続手段は、前記ジョイント節点の周囲に、コンポーネントの辺を横切る閉路を生成することにより、双対グラフを生成し、横切った辺のコンポーネントのモデル回路を直列に接続することを要旨とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一つに記載の解析支援システムにおいて、シミュレーション対象のコンポーネントの要素形状に基づいて、個別モデル回路を構成する素子パラメータを決定することを要旨とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の解析支援システムにおいて、個別モデル回路はコンポーネントの各運動方向に対応した複数の入出力端子を備えており、前記機械端子接続手段は、同じ運動方向同士の入出力端子を接続することを要旨とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、構造体を構成するコンポーネントに対して、電気的変数及び機械的変数の入出力端子を有する個別モデル回路を記憶したモデル情報記憶手段と、回路シミュレータに接続された制御手段とを備えた解析支援システムを用いて、構造体の動作解析を支援する方法であって、前記制御手段が、シミュレーション対象のコンポーネントについて、要素形状及び幾何的接続に関する情報を取得する設計情報取得段階と、前記モデル情報記憶手段から、前記コンポーネントの個別モデル回路を取得する個別回路生成段階と、前記幾何的接続情報から機械接続グラフを作成し、前記機械接続グラフの双対グラフを作成して、個別モデル回路の機械端子を前記双対グラフに従って接続する機械端子接続段階と、前記幾何的接続情報から電気接続グラフを作成し、前記個別モデル回路の電気端子を前記電気接続グラフに従って接続する電気端子接続段階と、生成したモデル回路を前記回路シミュレータに出力する等価回路出力段階とを実行することを要旨とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、構造体を構成するコンポーネントに対して、電気的変数及び機械的変数の入出力端子を有する個別モデル回路を記憶したモデル情報記憶手段と、回路シミュレータに接続された制御手段とを備えた解析支援システムを用いて、構造体の動作解析を支援するためのプログラムであって、前記制御手段を、シミュレーション対象のコンポーネントについて、要素形状及び幾何的接続に関する情報を取得する設計情報取得手段、前記モデル情報記憶手段から、前記コンポーネントの個別モデル回路を取得する個別回路生成手段、前記幾何的接続情報から機械接続グラフを作成し、前記機械接続グラフの双対グラフを作成して、個別モデル回路の機械端子を前記双対グラフに従って接続する機
械端子接続手段、前記幾何的接続情報から電気接続グラフを作成し、前記個別モデル回路の電気端子を前記電気接続グラフに従って接続する電気端子接続手段、生成したモデル回路を前記回路シミュレータに出力する等価回路出力手段として機能させることを要旨とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、回路シミュレータ上でコンポーネントを接続してシミュレーションを行なうために、コンポーネントに対して電気的変数及び機械的変数の入出力端子を設けた個別モデル回路を記憶したモデル情報記憶手段を備えた解析支援システムであって、前記個別モデル回路は、端子間に機械的変数としての力を電圧によって表わした変数値を入出力させ、一方の端子に速度を電流によって表わした変数値を入出力させる入出力端子であって、力と速度の向きを回路シミュレータ上の電源の向きおよび電流の向きで表わす入出力端子を備えており、端子間に電気的変数として電圧を入出力させ、一方の端子に電流を入出力する入出力端子を備えたことを要旨とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の解析支援システムにおいて、3軸の櫛歯の個別モデル回路として、電圧の入出力する入出力端子間に運動方向毎に第1、第2、第3の電流源を設け、前記第1、第2、第3の電流源に対応する第1、第2、第3の電圧源を、各第1、第2、第3の運動方向の機械的変数の入出力端子の一方に直列に接続させ、前記第1の電圧源は、容量を介して前記第2の運動方向の機械的変数の入出力端子の他方に接続させ、前記第2の電圧源は、容量を介して前記第3の運動方向の機械的変数の入出力端子の他方に接続させ、前記第3の電圧源は、容量を介して前記第1の運動方向の機械的変数の入出力端子の他方に接続させるとともに、前記第1、第2、第3の電圧源は容量を介して結合されているモデル回路と等価な回路を記憶したことを要旨とする。
【0016】
(作用)
請求項1、6又は7に記載の発明によれば、制御手段が、シミュレーション対象のコンポーネントについて、要素形状及び幾何的接続に関する情報を取得する。そして、モデル情報記憶手段から、コンポーネントの個別モデル回路を取得する。次に、幾何的接続情報から機械接続グラフを作成し、機械接続グラフの双対グラフを作成して、個別モデル回路の機械端子を双対グラフに従って接続する。更に、幾何的接続情報から電気接続グラフを作成し、個別モデル回路の電気端子を電気接続グラフに従って接続する。そして、生成したモデル回路を回路シミュレータに出力する。これにより、各コンポーネントを用いて構造体を設計するだけで、シミュレーションに用いる等価回路を生成して、構造体の動作解析を行なうことができる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、幾何的接続情報に基づいて、構造体を構成する各コンポーネントと、各コンポーネントを接続するジョイントについての節点を結合したグラフを生成する。次に、固定されたアンカーを示すアンカー節点が複数ある場合にはこれらのアンカー節点を統合する。そして、同一のコンポーネント節点に接続されたジョイント節点を統合する。これにより、アンカー節点とジョイント節点とを結ぶコンポーネントを辺とする機械接続グラフを生成することができる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、ジョイント節点の周囲に、コンポーネントの辺を横切る閉路を生成する。この閉路を用いることにより、双対グラフを生成することができる。
請求項4に記載の発明によれば、シミュレーション対象のコンポーネントの要素形状に基づいて、個別モデル回路を構成する素子パラメータを決定する。これにより、要素形状に応じた等価回路を生成することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、個別モデル回路はコンポーネントの各運動方向に対応した複数の入出力端子を備えており、同じ運動方向同士の入出力端子を接続する。これに
より、複数の運動方向を一元的に解析することができる。そして、運動方向間の相互の影響を解析でき、多軸制御や多軸感度を解析することができる。
【0020】
請求項8に記載の発明によれば、個別モデル回路は、端子間に機械的変数としての力を電圧によって表わした変数値を入出力させ、一方の端子に速度を電流によって表わした変数値を入出力させる入出力端子であって、力と速度の向きを回路シミュレータ上の電源の向きおよび電流の向きで表わす入出力端子を備えている。更に、端子間に電気的変数として電圧を入出力させ、一方の端子に電流を入出力する入出力端子を備えている。これにより、機械的な動作と電気的動作とを統合して解析することができる。
【0021】
請求項9に記載の発明によれば、個別モデル回路は、電圧の入出力する入出力端子間に運動方向毎に第1、第2、第3の電流源を備えている。そして、第1、第2、第3の電流源に対応する第1、第2、第3の電圧源を、各第1、第2、第3の運動方向の機械的変数の入出力端子の一方に直列に接続させる。また、第1の電圧源は、容量を介して第2の運動方向の機械的変数の入出力端子の他方に接続させ、第2の電圧源は、容量を介して第3の運動方向の機械的変数の入出力端子の他方に接続させ、第3の電圧源は、容量を介して第1の運動方向の機械的変数の入出力端子の他方に接続させる。そして、第1、第2、第3の電圧源は容量を介して結合させる。このモデル回路と等価な回路を用いることにより、3軸の櫛歯の動作の解析を行なうことができる。従って、運動方向間の相互の影響を解析でき、多軸制御や多軸感度を解析することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、電気的コンポーネントや機械的コンポーネントからなる構造体についての等価回路を生成し、この等価回路を用いて構造体の動作解析を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した一実施形態を、図1〜図21を用いて説明する。本実施形態では、MEMSの動作を解析するための等価回路を生成するための解析支援システム、解析支援方法及び解析支援プログラムとして説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態においては、解析支援システムとしてクライアント端末10及びシミュレーションサーバ20を用いる。
クライアント端末10は、シミュレーション対象の構造体のコンポーネントを入力したり、ローカルにシミュレーションしたりする場合に用いるコンピュータ端末である。このクライアント端末10は、CPU、RAM、ROM等から構成された制御手段としてのクライアント制御部11、3Dモデルデータ記憶部12を備える。更に、クライアント端末10は、キーボードやポインティングデバイス等から構成された入力部や、ディスプレイ等から構成された出力部を備える。
【0025】
3Dモデルデータ記憶部12には、シミュレーション対象である構造体を設計するための形態要素(コンポーネント)に関するデータが格納されている。具体的には、各コンポーネントについて、それぞれ3D−CADによって作成された形状の3Dモデルが格納されている。各3Dモデルには、各コンポーネントを特定するためのコンポーネント種別識別子が付与されている。
【0026】
本実施形態では、MEMS要素として、櫛歯、静電平行平板、圧電駆動はり、音響平行平板、磁気駆動はりに関する3Dモデルが記録されている。又、バネ要素としては、はりバネ、O型バネ、ダブルホールデッドバネに関する3Dモデルが記録されている。質量要素としては、剛体平板、剛体フレームに関する3Dモデルが記録されている。このような3Dモデルを利用して、各コンポーネントの大きさを調整して要素形状を決定し、これら
の要素形状を組み合わせることにより構造体を設計することができる。
【0027】
クライアント制御部11は、後述する処理(設計支援段階、パラメータ抽出段階、回路シミュレーション段階、シミュレーション結果出力段階の各処理)を行なう。そして、設計支援プログラムを実行することにより、クライアント制御部11は、設計支援手段111、パラメータ抽出手段112として機能する。又、クライアント制御部11は、シミュレータプログラムを実行することにより、回路シミュレータ113、シミュレーション結果出力手段114として機能する。
【0028】
設計支援手段111は、利用者が入力部を用いてシミュレーション対象の構造体を設計する場合に、この設計の支援処理を実行する。
パラメータ抽出手段112は、設計された構造体において用いられた要素形状から構造パラメータを抽出し、パラメータ表セットファイルを生成する処理を実行する。
【0029】
回路シミュレータ113は、シミュレーションサーバ20において生成された等価回路のネットリストを取得し、ローカルにおいて回路の動作シミュレーションを実行する。
シミュレーション結果出力手段114は、回路シミュレータ113によって算出された計算結果を出力する処理を実行する。
【0030】
又、シミュレーションサーバ20は、シミュレーション解析に用いる等価回路を生成する処理を実行するコンピュータシステムである。このシミュレーションサーバ20は、CPU、RAM、ROM等から構成された制御手段としてのサーバ制御部21、モデル情報記憶手段としての等価回路データ記憶部22を備える。
【0031】
等価回路データ記憶部22には、コンポーネント毎に等価回路の雛型(個別モデル回路)が記録されている。本実施形態では、電機系回路において用いられるパラメータ(電圧や電流)の変数値に対して、機械系回路において用いられるパラメータ(力や速度)の変数値を入出力するための端子が設けられた等価回路を用いる。ここで、速度(v)、力(f)、質量(m)、コンプライアンス(1/k)、機械抵抗(rf)は、それぞれ電流(i)、電圧(e)、誘導(L)、容量(C)、抵抗(R)に対応する。そして、電気系パラメータと機械系パラメータとが、図2に示す関係T22によって、入出力パラメータとして利用できるように等価回路の雛型(テンプレート)が設定されている。
【0032】
具体的には、等価回路データ記憶部22には、各コンポーネント種別識別子に対して、図3に示すように、機械的な動作や電気的な動作をシミュレーションするための等価回路(モデル回路)について、回路シミュレータ(113,212)において利用するためのサブサーキットネットリストのテンプレート220が記録される。図3に示すテンプレート220では、図4に示す3軸の櫛歯の個別モデル回路100が構成される。この個別モデル回路100においては、電圧の入出力する入出力端子間に運動方向毎に第1の電流源D01、第2の電流源D02、第3の電流源D03を設けられている。そして、第1、第2、第3の電流源(D01,D02,D03)に対応する第1、第2、第3の電圧源(D11,D12,D13)が、各第1、第2、第3の運動方向の機械的変数の入出力端子の一方に直列に接続されている。そして、第1の電圧源D11は、容量D14を介して第2の各運動方向の他方の入出力端子に接続させ、第2の電圧源D12は、容量D15を介して第3の各運動方向の他方の入出力端子に接続させ、第3の電圧源D13は、容量D16を介して第1の各運動方向の他方の入出力端子に接続されている。そして、第1の電圧源D11、第2の電圧源D12、第3の電圧源D13は容量(D17,D18,D19)を介して結合されている。ここで、各運動方向の入出力端子において、力と速度の向きは、回路シミュレータ上の電源の向き及び電流の向きで表わす。なお、図4は論理的、理想的な回路図を示しており、回路シミュレータの解法的な制限により、必要に応じて抵抗(例
えば、容量(D17,D18,D19)に並列な抵抗)等を付加する。
【0033】
サーバ制御部21は、後述する処理(設計情報取得段階、個別回路生成段階、機械端子接続段階、電気端子接続段階、等価回路出力段階等の各処理)を行なう。そして、解析支援プログラムを実行することにより、サーバ制御部21は、ネットリスト生成手段211、回路シミュレータ212、シミュレーション結果出力手段213として機能する。
【0034】
ネットリスト生成手段211は、設計情報取得手段、個別回路生成手段、機械端子接続手段、電気端子接続手段、等価回路出力手段として機能する。具体的には、ネットリスト生成手段211は、クライアント端末10から取得したパラメータ表セットファイルに基づいて、回路シミュレータに用いるネットリストを生成する処理を実行する。このため、ネットリスト生成手段211は、コンポーネントの要素形状や物性値に対応させて、テンプレート(個別モデル回路)の素子パラメータを決定するためのテーブルや関数を保持している。更に、ネットリスト生成手段211は、各コンポーネントにおける接続位置について、後述する同一節点の判定処理を行なうための接続位置対応テーブルを保持している。そして、生成したネットリストを回路シミュレータ212やクライアント端末10に提供する。
【0035】
回路シミュレータ212は、ネットリスト生成手段211において生成された等価回路のネットリストを取得し、サーバにおいて回路の動作シミュレーションを実行する。
シミュレーション結果出力手段213は、回路シミュレータ212によって算出された計算結果を出力する処理を実行する。
【0036】
次に、上述したシステムを用いて、等価回路を生成する手順を、図5から図21に従って説明する。
(等価回路の生成の概要)
次に、図5を用いて、解析支援システムにおいて行なわれる等価回路の生成についての概要を説明する。
【0037】
本発明においては、まず、要素形状及び幾何的接続の決定処理を実行する(ステップS11)。具体的には、クライアント端末10において、シミュレーション対象の構造体を、3Dモデルを用いて設計する。そして、構造体の設計を完了した場合、クライアント端末10は、設計された構造体についてのパラメータ表セットファイルを、シミュレーションサーバ20に送信する。
【0038】
次に、機械接続グラフの作成処理を実行する(ステップS12)。具体的には、シミュレーションサーバ20は、受信したパラメータ表セットファイルに含まれる幾何的接続情報を用いて、機械接続グラフを生成する。この場合、複数の運動方向が設定されている場合には、運動方向毎に機械接続グラフを生成する。
【0039】
次に、双対グラフの作成処理を実行する(ステップS13)。具体的には、シミュレーションサーバ20が、生成した機械接続グラフに対応する双対グラフを生成する。
又、電気接続グラフの作成処理を実行する(ステップS14)。具体的には、シミュレーションサーバ20は、受信したパラメータ表セットファイルに含まれる幾何的接続情報を用いて、電気接続グラフを生成する。
【0040】
更に、使用要素の個別等価回路の作成処理を実行する(ステップS15)。具体的には、シミュレーションサーバ20が、受信したパラメータ表セットファイルに含まれる構造体を構成する各コンポーネントのコンポーネント識別子、コンポーネント種別識別子及び構造パラメータに基づいて、個別に等価回路についてサブサーキットネットリストを生成
する。
【0041】
そして、個別等価回路の機械端子の接続処理を実行する(ステップS16)。具体的には、シミュレーションサーバ20が、個別等価回路を、双対グラフによって特定される接続関係に基づいて、機械端子の接続を行なう。この場合、複数の運動方向が設定されている場合は、同じ運動方向の端子毎に接続を行なう。
【0042】
そして、個別等価回路の電気端子の接続処理を実行する(ステップS17)。具体的には、シミュレーションサーバ20が、電気接続グラフに従って、個別等価回路の電気端子の接続を行なう。
【0043】
(等価回路の生成手順)
次に、図6〜図21を用いて、具体的な等価回路の生成手順について説明する。
<要素形状及び幾何的接続の決定処理>
まず、要素形状及び幾何的接続の決定処理(ステップS11)を、図6〜図8を用いて説明する。
【0044】
ここでは、まず、クライアント端末10に格納された解析プログラムを起動する。この場合、図6に示すように、クライアント端末10のクライアント制御部11は、コンポーネント接続の設定処理を実行する(ステップS21)。具体的には、クライアント制御部11の設計支援手段111が、設計支援画面を出力部に表示する。この設計支援画面においては、3Dモデルデータ記憶部12に格納されたコンポーネントの一覧が出力される。そして、この一覧の中から所望のコンポーネントを選択し、各コンポーネントを組み合わせて構造体の形状を作成する。この場合、各コンポーネントの要素形状を変更するとともに、他のコンポーネントとの位置関係を設定して接続することができる。そして、各コンポーネントには、他のコンポーネントとの接続位置が予め決められている。
【0045】
本実施形態においては、構造体は3次元で設計することができる。ここでは、図7に示す構造体500を設計する場合を想定する。この構造体500においては、櫛歯501が設けられている。この櫛歯501は、対峙する第1部材501aと第2部材501bとから構成されている。第1部材501aはアンカー502に固定されており、第2部材501bはビーム(503,504)を介して、それぞれアンカー(505,506)に接続される。そして、櫛歯501の第1部材501aと第2部材501bとの間には、直流及び交流の電源507が接続されており、櫛歯501に対して電圧を供給する。
【0046】
そして、設計支援画面を用いて、構造体の設計を完了した場合、クライアント端末10において完了入力を行なう。
この場合、クライアント端末10のクライアント制御部11は、要素形状、幾何的接続の変換処理を実行する(ステップS22)。具体的には、クライアント制御部11のパラメータ抽出手段112が、設計された構造体を構成する各要素形状のコンポーネント種別識別子を取得する。更に、パラメータ抽出手段112は、各要素形状の大きさを特定し、この大きさに対応する構造パラメータを算出する。そして、パラメータ抽出手段112は、設計支援画面において設定された各要素形の位置関係に基づいて、コンポーネント間の幾何的接続情報を生成する。
【0047】
本実施形態の構造体500については、図8に示すように、接続関係図510が生成される。この接続関係図510においては、コンポーネント識別子(e1〜e6)が割り振られており、機械的な接続関係が設定されている。各コンポーネントには、コンポーネントの属性に応じて接続ノードが設定されている。櫛歯やビームには二つのノード(「1」,「2」)が設けられている。一方、アンカーには一つのノード(「1」)が設けられて
いる。そして、ノードは、ジョイント(j1〜j5)によって接続される。このように、各コンポーネントの接続関係を特定するための幾何的接続情報を生成する。
【0048】
そして、パラメータ抽出手段112は、パラメータ表セットファイルを、シミュレーションサーバ20に送信する。このパラメータ表セットファイルには、抽出したコンポーネント識別子、構造パラメータ、幾何的接続情報に関するデータを含める。
【0049】
この場合、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、幾何接続の解釈処理を実行する(ステップS23)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211が、幾何接続行列の作成を行なう。図8に示す接続関係図510においては、グラフG01によって表される。このグラフG01においては、各コンポーネント(e1〜e6)が、ジョイント(j1〜j5)によって接続されていることを示している。
【0050】
この場合、ネットリスト生成手段211は、このグラフG01に含まれる各コンポーネントを行要素として表現し、各接続関係を列要素として表現することにより、図8に示す幾何接続行列M01を生成する。
【0051】
<機械接続グラフの作成処理>
次に、機械接続グラフの作成処理(ステップS12)を、図9〜図11を用いて説明する。本実施形態では、機械接続グラフはすべての運動方向に共通しているものとする。
【0052】
最初に、アンカーに対する操作を行なう。ここでは、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、アンカー列の統合処理を実行する(ステップS31)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、図10に示す幾何接続行列M01において、電源は機械接続と関係がないため、電源を表す列(「v」)を削除した行列M02を生成する。そして、この行列M02においてアンカーを表すコンポーネントを特定する。本実施形態においては、コンポーネント(e2,e5,e6)がアンカーであるため、ネットリスト生成手段211は、各列(「e2」,「e5」,「e6」)の値の論理和を算出して一つの列にまとめた行列M03を生成する。この行列M03においては、列「Anchor」を生成する。
【0053】
次に、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、値が「1」のコンポーネント列の統合処理を実行する(ステップS32)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、行列M03において、値が「1」の接続を特定する。本実施形態においては、行(「j1」,「j4」,「j5」)が特定される。そして、ネットリスト生成手段211は、各行の値の論理和を算出して一つの行にまとめた行列M04を生成する。この行列M04においては、行「j0」を生成する。
この行列M04は、図11に示すグラフG02として表される。これにより、アンカー節点を統合してアンカーに対する操作を終了する。
【0054】
次に、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、同一節点の判定処理を実行する(ステップS33)。ここでは、複数のコンポーネントが他の同一のコンポーネントにおける異なる位置に接続していても、運動(運動特性または運動方程式等の表現)上で同一の位置に接続しているとみなせるかどうかを判定するための処理を行なう。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、各コンポーネント毎に設けられた接続位置について、このコンポーネント上の他の接続位置との関係を考慮して、同一節点への接続の有無を判定する。例えば、図7において、各ビーム(503,504)は櫛歯501の異なる位置で接続されているが、各接続位置は、図8に示すように同じノード(「1」)で接続されている。このような対応関係にあり、同じ節点とみなせる場合には、ネットリスト生成手段211は論理和を算出してまとめる。本実施形態においては、ジ
ョイント(j2,j3)は同じコンポーネント節点に接続されたジョイント節点と判定されるので、グラフG02はグラフG03のようにまとめることができる。この場合、ネットリスト生成手段211は、行列M04においてジョイント(j2,j3)の列の論理和を算出して一つの行にまとめた行列M05を生成する。この行列M05においては、行「j2」にまとめている。
【0055】
このような同一節点の判定を繰り返すことにより、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、機械接続行列の作成処理を実行する(ステップS34)。具体的には、すべての節点についての判定を終了した場合、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、生成した行列を機械接続行列Mmとして記憶する。この機械接続行列Mmは、アンカーを除いた場合、グラフG04により表現することができる。このグラフG04においては、ジョイント(j0.j2)が、各コンポーネント(e1,e3,e4)からなる辺によってリンクされている。
【0056】
<双対グラフの作成処理>
次に、双対グラフの作成処理(ステップS13)を、図12、図13を用いて説明する。図13のグラフG11において破線で示したグラフに対して、双対グラフG12は実線で示されている。そして、双対グラフG12の閉路は、辺(e1*,e3*,e4*)によって構成される。このような双対グラフG12を表す行列を算出するために、図12に示すように、以下の処理を実行する。
【0057】
まず、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、静止点の行の削除処理を実行する(ステップS41)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、機械接続行列Mmにおいて静止点を表わす行(本実施形態においては行「j0」)を特定する。そして、ネットリスト生成手段211は、この行を削除することにより、行「j2」のみから構成された行列M21を生成する。
【0058】
次に、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、双対グラフの閉路行列作成処理を実行する(ステップS42)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、コンポーネントを表わす「e1,e3、e4」を、閉路を構成する辺として「e1*,e3*、e4*」とする双対グラフの機械閉路行列Mm*を算出する。
【0059】
<電気接続グラフの作成処理>
次に、電気接続グラフの作成処理(ステップS14)を、図14〜図17を用いて説明する。
【0060】
まず、図14に示すように、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、アンカー列の削除処理を実行する(ステップS51)。ここでは、ジョイント(j2,j3)が同じ節点であることが分かっている状態から開始するものとする。ここで、電気的接続節点が同一とは、ジョイントの電位が等しいと見なせることを意味する。そこで、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、図8に示す幾何接続行列M01から、図15に示すように、ジョイント(j2,j3)の論理和を算出して、行「j23」を生成することにより、行列M31を生成する。更に、ネットリスト生成手段211は、アンカー(e2,e5,e6)の列を削除することにより、行列M32を生成する。
【0061】
次に、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、すべての辺について、以下の処理を繰り返す。ここでは、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、木集合に属するかどうかについての判定処理を実行する(ステップS52)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、先頭から、順次、調査対象の辺を特定して調べていく。調査対象の辺が接続する2つの節点がともに木集合に属する場合は、こ
の辺を木集合に含めない。それ以外の場合には、この辺を木集合に追加することにより木を特定する。
【0062】
ここで、図15に示す行列M32を用いて説明する。まず、ネットリスト生成手段211は、この行列M32の先頭の列「e1」を調べる。列「e1」から構成される辺は木集合に属さないため(ステップS52において「NO」)、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、木の決定処理を実行する(ステップS53)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、辺「e1」を木として決定し、木集合に登録する。この場合、図16に示すように、「e1」を辺とするグラフG21が生成される。
【0063】
次に、ネットリスト生成手段211は、列「e3」を調べる。この列「e3」に含まれる「j4」は新しい節点であるため(ステップS52において「NO」)、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、木の決定処理を実行する(ステップS53)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、辺「e3」を木として決定し、木集合に登録する。この場合、図16に示すように、「e3」を辺とするグラフG22が生成される。
【0064】
次に、ネットリスト生成手段211は、列「e4」を調べる。この列「e4」に含まれる「j5」は新しい節点であるため(ステップS52において「NO」)、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、木の決定処理を実行する(ステップS53)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、辺「e4」を木として決定し、木集合に登録する。この場合、図16に示すように、節点「j23」に接続されて「e4」を辺とするグラフG23が生成される。
【0065】
次に、ネットリスト生成手段211は、列「v」を調べる。この列「v」に含まれる「j1」、「j23」はいずれも木に属するため(ステップS52において「YES」)、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、補木の決定処理を実行する(ステップS54)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、辺「v」を補木として決定して登録する。これにより、図16に示すように、実線で表わされた木に対して、破線で表わされた補木からなるグラフG24が生成される。
【0066】
そして、すべての辺について木集合の調査を完了したシミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、閉ループの探索処理を実行する(ステップS55)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、木に一つの補木を追加したときにできる閉路を検索する。この検索をネットリスト生成手段211は補木の数だけ繰り返す。ここでは、図16に示すグラフG25のように、木と一つの補木からなる閉路fが特定される。
【0067】
この検索処理を行列において行なう場合、ネットリスト生成手段211は、木と1つの補木からなるグラフを表す接続行列を生成するため、値が「1」の要素が1つのみで他の要素が「0」の行を検索する。そして、このような行を検出した場合には、この行を削除する。次に、ネットリスト生成手段211は、行列において、値が「1」の要素が1つのみで他の要素が「0」の列を検索する。そして、このような列を検出した場合には、この列を削除する。ネットリスト生成手段211は、行列において、このような検索及び削除ができなくなるまで繰り返す。
【0068】
図17に示す行列M32において、この処理を繰り返した場合、行列M41に示すように、行(j4,j5)及び列(e3,e4)が削除される。そして、残った要素(ここでは、「e1」,「v」)が閉路を構成する要素である。ネットリスト生成手段211は、
閉路fを構成する要素に対して「1」を設定し、それ以外の要素は「0」とする電気閉路行列Meを生成する。この電気閉路行列Meの行数は補木の数である。
【0069】
<使用要素の個別等価回路の作成処理>
次に、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21における使用要素の個別等価回路の作成処理(ステップS15)を説明する。
【0070】
ここでは、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、構造体の設計において使用されたコンポーネントについてのコンポーネント種別識別子を用いて、等価回路データ記憶部22から等価回路のテンプレートを取得する。次に、ネットリスト生成手段211は、構造パラメータに基づいて等価回路に含まれる素子パラメータを算出する。ここでは、コンポーネントの要素形状や物性値に基づいて、テンプレート(個別モデル回路)を構成する素子パラメータを決定する。そして、ネットリスト生成手段211は、テンプレートにおけるパラメータ設定領域(図3において「XXXXX」の部分)に素子パラメータを導入することにより、個別等価回路を作製する。なお、図3において、素子パラメータの値が「XXXXX」が短絡を表す場合には、ネットリスト上でも当該素子が接続するノード間を短絡することを表すように記述する。具体的には、回路シミュレータ上で「電流計」として使用される値「0」の電圧源を配置する。
【0071】
<個別等価回路の機械端子の接続処理>
次に、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21における個別等価回路の機械端子の接続処理(ステップS16)を、図18、図19を用いて説明する。この処理においては、機械閉路行列を用いて、等価回路において、同じ運動方向同士の機械端子を接続する。ここで、機械閉路行列の1行が閉路を表している。図13に示す機械閉路行列Mm*において、閉路は一つとなる。
【0072】
まず、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、先頭の要素の配置処理を実行する(ステップS61)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、機械閉路行列の一つ目の要素に注目し、この要素に関するコンポーネントを配置する。図19に示すように、機械閉路行列Mm*において「1」が設定された先頭の要素は「e1;櫛歯」であり、この等価回路(櫛歯回路C01)を配置する。ここで、この櫛歯回路C01においては、上側の一対(第1、第2端子)が機械端子、下側の一対(第1、第2端子)が電気端子を表している。そして、ネットリスト生成手段211は、櫛歯回路C01の機械端子(第1、第2端子)に対して、回路シミュレーションで用いるノード識別子を付与する。なお、運動方向が3軸の場合には、各方向を表わす端子を同じように配置する。
【0073】
次に、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、次の要素を直列に配置する処理を実行する(ステップS62)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、次の要素を、先の要素に対して直列に接続して配置する。すなわち、ネットリスト生成手段211は、先の要素の機械端子と、今回の要素の機械端子とを直列に接続する。本実施形態においては、要素「e3(ビーム)」の等価回路(ビーム回路C02)を配置する。そして、このビーム回路C02の機械端子のうちの片側(第1端子)に対して、櫛歯回路C01の機械端子(第2端子)と同じノード識別子を付与する。すなわち、同じノード識別子が付与されることによって、ネットリスト上では接続されることになる。そして、ビーム回路C02の他方の機械端子(第2端子)には新しいノード識別子を付与する。
【0074】
次に、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、最後の要素かどうかについての判定処理を実行する(ステップS63)。具体的には、サーバ制御部21のネットリ
スト生成手段211は、機械閉路行列において、最後のアンカー要素に達した場合には、最後の要素と判定する。
【0075】
最後の要素でない場合(ステップS63において「NO」の場合)、次の要素について、上述の処理を繰り返す。図19に示す機械閉路行列Mm*においては、要素「e4(ビーム)」が残っているため、この要素についての等価回路(ビーム回路C03)を配置する。そして、ビーム回路C03の第1端子をビーム回路C02の第2端子に直列に接続する。
【0076】
一方、アンカー要素に達することにより最後の要素を配置した場合(ステップS63において「YES」の場合)、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、先頭の要素のノードへの接続処理を実行する(ステップS64)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、最後の要素の等価回路における機械端子に対して、先頭の等価回路の機械端子のノード識別子と同じノード識別子を付与する。ここでは、ビーム回路C03の残りの機械端子(第2端子)に対して、櫛歯回路C01において未接続の機械端子(第1端子)と同じノード識別子を付与する。
【0077】
<個別等価回路の電気端子の接続処理>
次に、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21における個別等価回路の電気端子の接続処理(ステップS17)を、図20、図21を用いて説明する。この処理においては、電気閉路行列を用いて、電気端子を接続する。ここで、図21に示す電気閉路行列Meにおいて、閉路は一つとなる。
【0078】
まず、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、先頭の要素の電気端子にノード識別子の割当処理を実行する(ステップS71)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、電気閉路行列において「1」が設定された一つ目の要素に注目し、この要素の電気端子にノード識別子を付与する。本実施形態においては、図21に示すように、電気閉路行列Meの先頭の要素「e1:櫛歯」であり、この櫛歯回路C01の電気端子(第1、第2端子)に回路シミュレーションで用いるノード識別子を付与する。
【0079】
次に、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、次の要素を直列に配置する処理を実行する(ステップS72)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、次の要素を、先の要素に対して直列に接続する。すなわち、ネットリスト生成手段211は、先の要素の電気端子と、今回の要素の電気端子とを直列に接続する。本実施形態においては、次の要素「v:電源」であるため、電源の等価回路(電源C12)を配置するとともに、この電源C12の電気端子のうちの片側(第1端子)に対して、櫛歯回路C01の電気端子(第2端子)と同じノード識別子を付与する。
【0080】
次に、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、最後の要素かどうかについての判定処理を実行する(ステップS73)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、機械閉路行列において、最後の電源要素に達した場合には、最後の要素と判定する。
【0081】
最後の要素でない場合(ステップS73において「NO」の場合)、次の要素について、上述の処理を繰り返す。一方、電源要素に達することにより最後の要素となった場合(ステップS73において「YES」の場合)、シミュレーションサーバ20のサーバ制御部21は、先頭の要素のノードへの接続処理を実行する(ステップS74)。具体的には、サーバ制御部21のネットリスト生成手段211は、図21に示すように、電源C12における電気端子(第2端子)に対して、先頭の櫛歯回路C1における未接続の電気端子
(第1端子)のノード識別子と同じノード識別子を付与する。
【0082】
以上、本実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
・ 上記実施形態では、クライアント端末10において、要素形状及び幾何的接続の決定処理を実行する(ステップS11)。次に、シミュレーションサーバ20において、機械接続グラフの作成処理(ステップS12)、双対グラフの作成処理(ステップS13)を実行する。更に、シミュレーションサーバ20において、使用要素の個別等価回路の作成処理を実行する(ステップS15)。そして、シミュレーションサーバ20において、この双対グラフを用いて、個別等価回路の機械端子の接続処理を実行する(ステップS16)。双対グラフを利用することにより、機械的な接続を統一的に表現したネットリストを生成することができる。このネットリストを利用することにより、公知の回路シミュレータを用いて、シミュレーションを行なうことができる。従って、コンポーネントを組み合わせてシミュレーション対象の構造体を設計するだけで、全体の運動方程式を作成することなく、個別のモデル回路を接続した等価回路を生成することができる。
【0083】
・ 上記実施形態では、シミュレーションサーバ20において、機械接続グラフの作成処理(ステップS12)、双対グラフの作成処理(ステップS13)、電気接続グラフの作成処理(ステップS14)を実行する。そして、双対グラフを用いて個別等価回路の機械端子の接続処理(ステップS16)を実行するとともに、電気接続グラフを用いて個別等価回路の電気端子の接続処理を実行する(ステップS17)。これにより、MEMSデバイスのように、電気的特性と機械的特性を併せ持つ構造体の動作を効率的に解析することができる。
【0084】
・ 上記実施形態では、等価回路データ記憶部22には、各コンポーネント種別識別子に対して、機械的や電気的な動作をシミュレーションするための等価回路(モデル回路)について、回路シミュレータにおいて利用するためのサブサーキットネットリストのテンプレート220が記録されている。この等価回路を用いることにより、機械的や電気的な動作を一元的に解析することができる。例えば、等価回路データ記憶部22には、櫛歯の個別モデル回路100が記録されている。これにより、櫛歯の3次元的な動作を解析することができる。
【0085】
なお、上記実施形態は、以下の態様に変更してもよい。
○ 上記実施形態では、MEMSにおける構造体について本発明を適用したが、本発明の適用分野はこれに限定されるものではない。広く電気系コンポーネントや機械系コンポーネントが混載される構造体に適用することができる。
【0086】
○ 上記実施形態では、アンカーにビームを介して保持された櫛歯についての等価回路を生成したが、等価回路の生成対象は、これに限定されるものではない。例えば、バネを直列に接続した構造体や、バネを介して複数の櫛歯を連動させた構造体などに適用することも可能である。
【0087】
また、機械的変数としてトルクを端子間に入出力させ、一方の端子に角速度を入出力させることにより、機械端子においては、直進運動だけでなく、回転運動を取り扱うことができる。従って、機械端子として、力および速度を入出力する端子とトルクと角速度を入出力する端子を併せ持つ等価回路により直進運動と回転運動の相互作用の解析を行なうことができる。
【0088】
○ 上記実施形態では、シミュレーションサーバ20においてネットリストを生成したが、クライアント端末10で行なうようにしてもよい。この場合には、ネットリスト生成手段211をクライアント制御部11に設ける。これにより、クライアント端末10にお
いて、構造体の設計、ネットリストの生成、シミュレーションを、スタンドアローンで実行することができる。
【0089】
○ 上記実施形態では、シミュレーション対象の構造体は、電気系コンポーネントと機械系コンポーネントからなる構造体に限定されるものではなく、更に音響特性と機械特性とを併せ持つ構造体に適用することも可能である。この場合にも、音響系コンポーネントについての等価回路を予め準備しておく。この場合、圧力変動(δP)を電圧に対応させ、体積速度(U)を電流に対応させる。
また、光学特性を有する構造体に適用することも可能である。この場合には、等価回路において、電場(E)を電圧に対応させ、磁場(H)を電流に対応させておく。
【0090】
○ 上記実施形態では、図4に示すように、等価回路のモデル回路の一例を示したが、モデル回路の構成は、これに限定されるものではない。運動方程式に基づいて特定される等価回路であれば、このモデル回路に等価な等価回路を利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の一実施形態のシステムの概略図。
【図2】本発明の一実施形態の電気系パラメータと機械系パラメータとの関係の説明図。
【図3】本発明の一実施形態の等価回路データ記憶部に記録されたデータの説明図。
【図4】本発明の一実施形態の櫛歯の等価回路の説明図。
【図5】本発明の一実施形態の等価回路の生成の概要の説明図。
【図6】本発明の一実施形態の要素形状及び幾何的接続の決定処理の説明図。
【図7】本発明の一実施形態の構造体の説明図。
【図8】本発明の一実施形態の要素形状及び幾何的接続の決定処理におけるグラフ操作及び行列操作の説明図。
【図9】本発明の一実施形態の機械接続グラフの作成処理の説明図。
【図10】本発明の一実施形態の機械接続グラフの作成処理における行列操作の説明図。
【図11】本発明の一実施形態の機械接続グラフの作成処理における行列操作及びグラフ操作の説明図。
【図12】本発明の一実施形態の双対グラフの作成処理の説明図。
【図13】本発明の一実施形態の双対グラフの作成処理におけるグラフ操作及び行列操作の説明図。
【図14】本発明の一実施形態の電気接続グラフの作成処理の説明図。
【図15】本発明の一実施形態の電気接続グラフの作成処理における行列操作の説明図。
【図16】本発明の一実施形態の電気接続グラフの作成処理におけるグラフ操作の説明図。
【図17】本発明の一実施形態の電気接続グラフの作成処理における行列操作の説明図。
【図18】本発明の一実施形態の個別等価回路の機械端子の接続処理の説明図。
【図19】本発明の一実施形態の等価回路の結合手順の説明図。
【図20】本発明の一実施形態の電気端子の接続処理の説明図。
【図21】本発明の一実施形態の等価回路の結合手順の説明図。
【符号の説明】
【0092】
10…クライアント端末、11…クライアント制御部、111…設計支援手段、112…パラメータ抽出手段、113,212…回路シミュレータ、114,213…シミュレーション結果出力手段、12…3Dモデルデータ記憶部、20…シミュレーションサーバ
、21…サーバ制御部、22…等価回路データ記憶部、211…ネットリスト生成手段、D01…第1の電流源、D02…第2の電流源、D03…第3の電流源、D11…第1の電圧源、D12…第2の電圧源、D13…第3の電圧源、D14,D15,D16…容量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体を構成するコンポーネントに対して、電気的変数及び機械的変数の入出力端子を有する個別モデル回路を記憶したモデル情報記憶手段と、
回路シミュレータに接続された制御手段とを備え、構造体の動作解析を支援するシステムであって、
前記制御手段が、
シミュレーション対象のコンポーネントについて、要素形状及び幾何的接続に関する情報を取得する設計情報取得手段と、
前記モデル情報記憶手段から、前記コンポーネントの個別モデル回路を取得する個別回路生成手段と、
前記幾何的接続情報から機械接続グラフを作成し、前記機械接続グラフの双対グラフを作成して、個別モデル回路の機械端子を前記双対グラフに従って接続する機械端子接続手段と、
前記幾何的接続情報から電気接続グラフを作成し、前記個別モデル回路の電気端子を前記電気接続グラフに従って接続する電気端子接続手段と、
生成したモデル回路を前記回路シミュレータに出力する等価回路出力手段と
を備えたことを特徴とする解析支援システム。
【請求項2】
前記機械端子接続手段は、
前記幾何的接続情報に基づいて、構造体を構成する各コンポーネントと、各コンポーネントを接続するジョイントについての節点を結合したグラフを生成し、
固定されたアンカーを示すアンカー節点が複数ある場合にはこれらのアンカー節点を統合し、
同一のコンポーネント節点に接続されたジョイント節点を統合し、
アンカー節点とジョイント節点とを結ぶコンポーネントを辺とする機械接続グラフを生成することを特徴とする請求項1に記載の解析支援システム。
【請求項3】
前記機械端子接続手段は、
前記ジョイント節点の周囲に、コンポーネントの辺を横切る閉路を生成することにより、双対グラフを生成し、横切った辺のコンポーネントのモデル回路を直列に接続することを特徴とする請求項2に記載の解析支援システム。
【請求項4】
シミュレーション対象のコンポーネントの要素形状に基づいて、個別モデル回路を構成する素子パラメータを決定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の解析支援システム。
【請求項5】
個別モデル回路はコンポーネントの各運動方向に対応した複数の入出力端子を備えており、
前記機械端子接続手段は、同じ運動方向同士の入出力端子を接続することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の解析支援システム。
【請求項6】
構造体を構成するコンポーネントに対して、電気的変数及び機械的変数の入出力端子を有する個別モデル回路を記憶したモデル情報記憶手段と、
回路シミュレータに接続された制御手段とを備えた解析支援システムを用いて、構造体の動作解析を支援する方法であって、
前記制御手段が、
シミュレーション対象のコンポーネントについて、要素形状及び幾何的接続に関する情報を取得する設計情報取得段階と、
前記モデル情報記憶手段から、前記コンポーネントの個別モデル回路を取得する個別回
路生成段階と、
前記幾何的接続情報から機械接続グラフを作成し、前記機械接続グラフの双対グラフを作成して、個別モデル回路の機械端子を前記双対グラフに従って接続する機械端子接続段階と、
前記幾何的接続情報から電気接続グラフを作成し、前記個別モデル回路の電気端子を前記電気接続グラフに従って接続する電気端子接続段階と、
生成したモデル回路を前記回路シミュレータに出力する等価回路出力段階と
を実行することを特徴とする解析支援方法。
【請求項7】
構造体を構成するコンポーネントに対して、電気的変数及び機械的変数の入出力端子を有する個別モデル回路を記憶したモデル情報記憶手段と、
回路シミュレータに接続された制御手段とを備えた解析支援システムを用いて、構造体の動作解析を支援するためのプログラムであって、
前記制御手段を、
シミュレーション対象のコンポーネントについて、要素形状及び幾何的接続に関する情報を取得する設計情報取得手段、
前記モデル情報記憶手段から、前記コンポーネントの個別モデル回路を取得する個別回路生成手段、
前記幾何的接続情報から機械接続グラフを作成し、前記機械接続グラフの双対グラフを作成して、個別モデル回路の機械端子を前記双対グラフに従って接続する機械端子接続手段、
前記幾何的接続情報から電気接続グラフを作成し、前記個別モデル回路の電気端子を前記電気接続グラフに従って接続する電気端子接続手段、
生成したモデル回路を前記回路シミュレータに出力する等価回路出力手段
として機能させることを特徴とする解析支援プログラム。
【請求項8】
回路シミュレータ上でコンポーネントを接続してシミュレーションを行なうために、コンポーネントに対して電気的変数及び機械的変数の入出力端子を設けた個別モデル回路を記憶したモデル情報記憶手段を備えた解析支援システムであって、
前記個別モデル回路は、
端子間に機械的変数としての力を電圧によって表わした変数値を入出力させ、一方の端子に速度を電流によって表わした変数値を入出力させる入出力端子であって、力と速度の向きを回路シミュレータ上の電源の向きおよび電流の向きで表わす入出力端子を備えており、
端子間に電気的変数として電圧を入出力させ、一方の端子に電流を入出力する入出力端子を備えたことを特徴とする解析支援システム。
【請求項9】
3軸の櫛歯の個別モデル回路として、
電圧の入出力する入出力端子間に運動方向毎に第1、第2、第3の電流源を設け、
前記第1、第2、第3の電流源に対応する第1、第2、第3の電圧源を、各第1、第2、第3の運動方向の機械的変数の入出力端子の一方に直列に接続させ、
前記第1の電圧源は、容量を介して前記第2の運動方向の機械的変数の入出力端子の他方に接続させ、前記第2の電圧源は、容量を介して前記第3の運動方向の機械的変数の入出力端子の他方に接続させ、前記第3の電圧源は、容量を介して前記第1の運動方向の機械的変数の入出力端子の他方に接続させるとともに、
前記第1、第2、第3の電圧源は容量を介して結合されているモデル回路と等価な回路を記憶したことを特徴とする請求項8に記載の解析支援システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2010−97475(P2010−97475A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268616(P2008−268616)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(592131906)みずほ情報総研株式会社 (187)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】