説明

触媒およびその製造方法ならびに過酸化水素の製造方法

【課題】水素と酸素から過酸化水素を効率良く製造する方法およびその方法に用いる高活性触媒を提供する。
【解決手段】Pd塩およびAu塩を溶解した溶液中に、チタン含有珪酸塩多孔体を懸濁させて、懸濁液を調製し、得られた懸濁液に、紫外線を照射して、チタン含有珪酸塩多孔体の表面に、金属微粒子を析出させる、触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン含有珪酸塩多孔体を担体とする触媒およびその製造方法、ならびにその触媒を用いる過酸化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、繊維工業、パルプ工業、化学工業などにおいて、漂白、酸化反応等に利用されており、工業的に重要な化合物である。過酸化水素は、現在、アルキルアントラキノンを用いた自動酸化により工業的に製造されている。しかし、製造工程が複雑であり、製造コストが高いという問題がある。そこで、触媒を用いて、水素および酸素から過酸化水素を直接製造する研究が行われている。触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)などが検討されている(特許文献1)。
【0003】
高活性な触媒を得るためには、活性金属を微粒子化するとともに、比表面積を大きくすることが必要である。そこで、従来から、工業的に比表面積の大きな担体に活性金属を担持した触媒が多く用いられている。活性金属を担体に担持する方法としては、含浸法とイオン交換法が知られている。含浸法としては、蒸発乾固法、平衡吸着法、ポアフィリング法などが知られている。
【0004】
蒸発乾固法は、担体を活性金属の塩を含む溶液(金属塩含有溶液)に浸漬した後、溶媒を蒸発させて、活性金属を担体に担持させる方法である。しかし、蒸発乾固法は、活性金属の凝集が起こり易く、活性金属の分散性が比較的低くなり、触媒活性の向上に限界がある。
【0005】
平衡吸着法は、金属塩含有溶液に担体を浸漬した後、過剰の溶液をろ過等により除去し、担体に吸着した活性金属のみを担持させる方法である。平衡吸着法は、蒸発乾固法と比較すると活性金属の分散性を高くすることが可能である。しかし、部分的に見れば、活性金属が凝集した部分と、比較的均一に分散した部分とが存在する。よって、担体全体に亘って活性金属を均一に分散させることは困難であり、やはり触媒活性の向上に限界がある。
【0006】
ポアフィリング法は、金属塩含有溶液を僅かずつ担体に加え、担体表面が均一に濡れ始めた状態で含浸を終了する方法である。ポアフィリング法は、活性金属を比較的分散性の良い状態で担体に担持させることができる。しかし、担持される活性金属の量が比較的少ないため、やはり触媒活性の向上に限界がある。
【0007】
イオン交換法は、担体に含まれる金属カチオンと、担持しようとする金属カチオンとのイオン交換を利用して、担体に活性金属を担持させる方法である。イオン交換法は、含浸法と比較して高分散状態で活性金属を担体に担持させることができる。しかし、イオン交換が平衡反応である場合、イオン交換率を上げて活性金属の担持量を増やすためには、イオン交換操作を繰り返し行う必要がある。よって、含浸法に比べて、触媒の調製工程が煩雑であるという問題がある。
【0008】
担体としては、従来から種々のものが開発されているが、例えばチタン含有珪酸塩多孔体を用いることが提案されており、チタン含有珪酸塩多孔体に金微粒子を担持させた炭化水素部分酸化用触媒が開示されている(特許文献2)。ただし、この触媒は、いわゆる含浸法により製造されたものであり、やはり触媒活性の向上に限界がある。
【特許文献1】特開平2006−321673号公報
【特許文献2】特開平11−76820号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、PdとAuとの合金を含む金属微粒子を担体に担持させた高活性な触媒を提供することを目的とする。更に詳しくは、本発明は、水素と酸素とを原料として用いる過酸化水素の合成に対して高活性を有する触媒を比較的簡易な操作で提供することを目的とする。また、本発明は、水素と酸素から過酸化水素を効率良く製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(i)Pd塩およびAu塩を溶解した溶液(金属塩含有溶液)中に、チタン含有珪酸塩多孔体を懸濁させて、懸濁液を調製し、(ii)得られた懸濁液に、紫外線を照射して、チタン含有珪酸塩多孔体の表面に、PdとAuとの合金を含む金属微粒子を析出させる、触媒の製造方法に関する。ここで、紫外線は、200nm〜450nmの波長成分を含むことが好ましい。
【0011】
以下、金属塩含有溶液中に懸濁させたチタン含有珪酸塩多孔体に紫外線を照射して、チタン含有珪酸塩多孔体の表面にPdとAuとの合金を含む金属微粒子を析出させる方法を、光析出法とも称する。
【0012】
本発明は、また、上記方法(光析出法)により得られた触媒に関する。すなわち、本発明は、チタン含有珪酸塩多孔体と、チタン含有珪酸塩多孔体の表面に析出した金属微粒子とを含み、金属微粒子が、PdとAuとの合金を含み、金属微粒子の平均粒子径が、5〜100オングストローム(Å)である、触媒に関する。
【0013】
ここで、チタン含有珪酸塩多孔体に含まれるチタン原子と珪素原子とのモル比:Ti/Siは、0.0005≦Ti/Si≦0.05の範囲が好適である。
【0014】
チタン含有珪酸塩多孔体に含まれるチタン原子は、4個の隣接酸素原子を有する4配位構造を有することが好ましい。
【0015】
チタン含有珪酸塩多孔体は、直径0.5〜50nmの細孔を有し、且つ比表面積が200m2/g以上であることが好ましい。
【0016】
チタン含有珪酸塩多孔体は、シリカ骨格を有することが好ましく、シリカ骨格中の珪素原子の一部が、チタン原子で置換されていることが好ましい。シリカ骨格の中でも、ゼオライト骨格およびメソポーラスシリカ骨格が特に好ましい。すなわち、チタン含有珪酸塩多孔体は、ゼオライト骨格中の珪素原子またはアルミニウム原子の一部がチタン原子で置換されている材料や、メソポーラスシリカ骨格中の珪素原子の一部がチタン原子で置換されている材料が好ましい。なお、ゼオライト骨格には、例えばアルミノシリケート骨格、シリカライト骨格、チタノシリカライト骨格などが含まれる。
【0017】
チタン含有珪酸塩多孔体は、国際ゼオライト学会(IZA)により制定された結晶構造であるMFI構造を有することが好ましい。
【0018】
本発明の触媒は、水素と酸素とを原料として用いる過酸化水素の合成反応に対して、極めて高い活性を有する。そこで、本発明は、水素と酸素とを、上記触媒と接触させる、過酸化水素の製造方法に関する。原料には、それぞれ分子状の水素および酸素を用いる。
【0019】
本発明は、更に、水素と酸素とフェノールとを、上記触媒と接触させる、ジヒドロキシベンゼンまたはベンゾキノンの製造方法に関する。ジヒドロキシベンゼンには、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシノールが含まれる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によれば、チタン含有珪酸塩多孔体の表面に、高分散状態で、PdとAuとの合金を含む金属微粒子が担持される。高分散状態で、PdとAuとの合金を含む金属微粒子が担持される理由は必ずしも定かではないが、以下のように推察される。すなわち、チタン含有珪酸塩多孔体をPd塩およびAu塩を溶解した溶液(金属塩含有溶液)に懸濁させた状態で紫外線を照射すると、溶液中の金属カチオンが、紫外線照射下で励起活性化されたチタン原子と結合を形成すると考えられる。そのため、チタン含有珪酸塩多孔体の表面のチタン種が存在する部分に、金属が選択的に析出する。そして、析出した金属は、チタン原子をアンカーとして固定化され、同時に凝集が防止される。そのため、チタン含有珪酸塩多孔体の表面に金属微粒子が高分散状態で担持された状態となる。
【0021】
チタン含有珪酸塩多孔体の表面に存在するチタン種は、過酸化水素の分解反応に対する触媒活性を有する。よって、チタン含有珪酸塩多孔体の表面にチタン種が露出している場合、PdとAuとの合金の触媒作用により水素と酸素から過酸化水素が生成しても、過酸化水素の分解反応が競争的に進行する。その結果、過酸化水素の収率の向上が妨げられる。一方、光析出法によれば、チタン含有珪酸塩多孔体の表面のチタン種が存在する部分にPdとAuとの合金が選択的に析出する。そのため、Ti種の触媒活性による過酸化水素の分解反応が抑制され、過酸化水素の収率が高くなると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
本発明の触媒の製造方法は、(i)Pd塩およびAu塩を溶解した溶液(金属塩含有溶液)中に、チタン含有珪酸塩多孔体を懸濁させて、懸濁液を調製する工程と、(ii)得られた懸濁液に、紫外線を照射して、チタン含有珪酸塩多孔体の表面に、PdとAuとの合金(Pd−Au合金)を含む金属微粒子を析出させる工程(光析出工程)とを含む。
【0023】
まず、工程(i)について説明する。
Pd−Au合金の原料であるPd塩およびAu塩としては、硝酸塩等の鉱酸塩、酢酸塩等の有機酸塩、塩素化物等のハロゲン化物等を用いることができる。すなわち、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、硫酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナトなどのPd塩と、硝酸金、酢酸金、塩化金酸、塩化金、臭化金などのAu塩とを用いることができる。
【0024】
Pd塩およびAu塩を溶解させる溶媒としては、水、水とアルコール(メタノール、エタノール等)との混合溶媒等が挙げられる。
溶媒に溶解させるPd塩とAu塩とのモル比は、Pd原子とAu原子とのモル比:Pd/Auが、0.5≦Pd/Au≦20となる範囲が好ましく、1≦Pd/Au≦10となる範囲が更に好ましい。Pd/Au比が大きすぎると、Pd粒子のみが析出する場合があり、小さすぎると、Auのみが析出する場合がある。
【0025】
Pd塩およびAu塩を溶解した金属塩含有溶液において、Pdイオン濃度は、特に制限されないが、0.00001〜1mol/L程度が好ましい。Auイオン濃度も、特に制限されないが、0.00001〜1mol/L程度が好ましい。
【0026】
チタン含有珪酸塩多孔体の種類は、特に限定されるものではないが、チタン原子は4個の隣接酸素原子を有する4配位構造を有することが好ましい。チタン含有珪酸塩多孔体は、例えば珪素原子の一部がチタン原子で置換されているシリカ骨格を有するものが好ましく、チタン原子が孤立してシリカ骨格中に高分散しているものがより好ましい。
【0027】
シリカ骨格としては、ゼオライト骨格やメソポーラスシリカ骨格が好ましい。すなわち、チタン含有珪酸塩多孔体は、ゼオライト骨格中の珪素原子またはアルミニウム原子の一部がチタン原子で置換されている材料や、メソポーラスシリカ骨格中の珪素原子の一部がチタン原子で置換されている材料が好ましい。
【0028】
ゼオライト骨格は、特に限定されないが、例えばアルミノシリケート骨格、シリカライト骨格、チタノシリカライト骨格などを含む。ゼオライトの構造は、特に限定されないが、X型、Y型、ZSM−5、ZSM−48などが好ましい。
【0029】
ゼオライト骨格を有するチタン含有珪酸塩多孔体の中では、チタンと珪素との複合酸化物でミクロ細孔を有するチタノシリカライト−1(TS−1)、チタノシリカライト−2(TS−2)などが特に好ましい。中でも熱的安定性が高く、各種の選択反応を可能とするミクロ細孔を有する点で、国際ゼオライト学会(IZA)により制定された結晶構造であるMFI構造を有するTS−1が特に好ましい。
【0030】
いわゆるメソ細孔を有するメソポーラスシリカ骨格を有するチタン含有珪酸塩多孔体の中では、MCM−41、MCM−48、MCM−50などの珪素原子の一部をチタン原子で置換した材料が好ましい。
【0031】
チタン含有珪酸塩多孔体に含まれるチタン原子と珪素原子とのモル比:Ti/Siは、0.0005≦Ti/Si≦0.05の範囲内が好ましく、0.007≦Ti/Si≦0.02の範囲内がより好ましい。チタンの含有量が上記の下限よりも少ないと、多孔体の単位表面積当りのチタン原子数が少なくなり、担持できるPd−Au合金の量が減少し、触媒活性が低下する傾向にある。一方、チタンの含有量が上記の上限より多いと、全てのチタン原子がシリカやゼオライトの骨格中に入らなくなる。そのため、多孔体の細孔内に酸化チタンが存在するようになり、チタン原子の分散性が低下する。結果として多孔体に担持されるPd−Au合金の微粒子の分散性が低下し、触媒活性が低下する傾向にある。
【0032】
チタン含有珪酸塩多孔体は、直径0.5〜50nmの細孔を有することが好ましく、0.5〜2nmの細孔を有することが更に好ましい。細孔の直径が上記の下限未満では、フェノールのような大きな分子の酸化反応などに対する触媒性能の低下を招く傾向がある。一方、細孔の直径が上記の上限を超えると、多孔体の表面積の低下や、細孔空間を利用した選択反応の選択性の低下を招く傾向がある。
【0033】
チタン含有珪酸塩多孔体の比表面積は、200m2/g以上であることが好ましく、250〜400m2/gであることが更に好ましい。比表面積が上記の下限未満では、触媒活性サイト数の減少を招く傾向がある。
【0034】
チタン含有珪酸塩多孔体の形状は、特に限定されるものではなく、粉体状であっても、各種形状に成形したものであってもよい。また、チタン含有珪酸塩多孔体は、予め成形された支持体に固定化された状態で用いることもできる。このような支持体としては、チタンを含まない金属酸化物や各種金属からなる材料を用いることができる。具体例としては、各種セラミックス(アルミナ、シリカ、マグネシア、コージエライト、酸化ジルコニウム、等)や各種金属(ステンレス鋼等)からなるハニカム状担体、ペレット状担体等が挙げられる。
【0035】
懸濁液中に分散させるチタン含有珪酸塩多孔体の量は、特に制限されないが、0.1〜100g/L程度が好ましく、1.0〜30g/L程度が更に好ましい。
【0036】
次に、工程(ii)について説明する。
上記で得られた懸濁液に紫外線を照射することにより、チタン含有珪酸塩多孔体の表面に、Pd−Au合金を含む金属微粒子が析出する。チタン含有珪酸塩多孔体では、チタン原子がシリカ骨格やゼオライト骨格中に均一に分散している。よって、Pd−Au合金を含む金属微粒子を、多孔体の表面全体に亘って、均一に分散させることができる。Pd−Au合金を含む金属微粒子は、理由は明らかではないが、水素と酸素との反応による過酸化水素の合成反応、フェノールの酸化反応などに対して高活性を有する。
【0037】
懸濁液に紫外線を照射する際の雰囲気は、特に制限されないが、空気雰囲気下、酸素雰囲気下、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下などで行うことができる。懸濁液に不活性ガスをバブリングしながら紫外線照射を行ってもよい。
【0038】
紫外線を照射する際の懸濁液の温度は、5℃〜100℃の範囲が好ましく、10℃〜60℃の範囲がより好ましく、15℃〜35℃の範囲が特に好ましい。かかる温度が5℃より低い場合には、懸濁液中の金属イオンとチタンとの結合の形成速度が遅くなり、触媒調製に要する時間が長くなる傾向がある。一方、懸濁液の温度を高くすることにより、金属イオンとチタンとの結合の形成速度は速くなるが、100℃を超える温度では、結合形成速度の向上に対する温度の効果は認められなくなる傾向がある。
【0039】
懸濁液に紫外線を照射する時間は、特に制限されないが、0.5〜48時間程度であることが好ましく、12〜24時間が更に好ましい。紫外線の強度は、特に制限されないが、0.1〜2mW/cm2程度であることが好ましい。
【0040】
ここで用いる紫外線は、200nm〜450nmの範囲にある波長成分を含んでいることが好ましく、220nm〜280nmの範囲にある波長成分を含んでいることが特に好ましい。この波長成分により、Ti含有珪酸塩多孔体中のTi−O結合が励起され、Ti−Pd結合もしくはTi−Au結合が形成されると考えられる。よって、多孔体のTiサイトに選択的にPd−Au合金の微粒子が析出すると考えられる。紫外線の波長が200nmより短い場合もしくは450nmより長い場合には、懸濁液中の金属イオンとチタンとの結合が形成されにくくなる。
【0041】
上記の光析出法により、チタン含有珪酸塩多孔体の表面にPd−Au合金の微粒子を析出させた後、例えば遠心分離により、固形分を回収する。回収した固形分には、必要に応じて、乾燥処理、焼成処理、水素還元処理が施され、以下に説明する本発明の触媒が得られる。
【0042】
焼成処理は、必ずしも必要ではなく、その条件も特に限定されないが、空気雰囲気下、100〜800℃で0.5〜48時間程度であることが好ましい。水素還元処理も、必ずしも必要ではなく、その条件も特に限定されないが、水素雰囲気下、100〜500℃で0.5〜24時間程度であることが好ましい。
【0043】
上記の方法により製造された本発明の触媒は、チタン含有珪酸塩多孔体と、その多孔体の表面に析出した金属微粒子とを含み、金属微粒子が、PdとAuとの合金を含む。ただし、上記の光析出法では、チタン含有珪酸塩多孔体の表面に、Pd−Au合金が微粒子状態かつ高分散状態で析出する。よって、本発明の触媒は、従来の含浸法により調製した触媒より高い触媒活性を示す。
【0044】
本発明の触媒においてチタン含有珪酸塩多孔体に担持されるPd−Au合金の微粒子の量は、特に制限されないが、チタン含有珪酸塩多孔体の重量に対し、0.01〜5重量%程度であることが好ましく、1〜2重量%が更に好ましい。Pd−Au合金の微粒子の担持量が、上記の下限未満では、活性サイトの数が少なくなり、触媒活性が低下する傾向がある。一方、担持量が上記の上限を超えると、合金が凝集して触媒金属の粒子が大きくなり過ぎ、触媒活性が低下する傾向がある。
【0045】
チタン含有珪酸塩多孔体に担持されるPd−Au合金の微粒子の平均粒子径は、特に制限されないが、5〜100Å程度であることが好ましく、10〜50Å程度であることが更に好ましい。平均粒子径が上記の下限未満では、担体の細孔内に金属種が埋もれたりして、触媒活性サイトの数が少なくなり、触媒活性が低下する傾向がある。一方、平均粒子径が上記の上限を超えると、合金が凝集して触媒金属の粒子が大きくなり過ぎ、触媒活性が低下する傾向がある。
【0046】
本発明の触媒は、それぞれ分子状の水素と酸素から過酸化水素を合成する反応に対して高活性を有する。過酸化水素の合成反応は、以下の式(1)で表される。過酸化水素の合成反応は、水素と酸素とがPd−Au合金の微粒子と接触することで進行すると考えられる。また、詳細は不明であるが、Pd−Au合金の微粒子は、担体に含まれるチタンとも相互作用して自身の触媒活性を高めている可能性がある。
2 + O2 → H22 ・・・(1)
【0047】
過酸化水素の合成反応は、気相でも液相でも行うことができる。気相の場合、本発明の触媒を表面積の大きな多孔質の支持体に担持させて、多孔質触媒体を形成することが好ましい。得られた多孔質触媒体に水素と酸素とを同時に流通させることにより、水素と酸素とが触媒と接触し、過酸化水素が生成する。流通させる水素と酸素との体積比:H2/O2は、0.1〜10が好適であり、0.5〜2が更に好適である。
【0048】
過酸化水素の合成反応を液相で行う場合、触媒を水などの液中に懸濁させ、得られた懸濁液に水素と酸素とをバブリングさせることにより、水素と酸素とが触媒と接触し、過酸化水素が生成する。バブリングさせる水素と酸素との体積比:H2/O2は、0.1〜10が好適であり、0.5〜2が更に好適である。反応の場となる液相の温度は、10〜70℃が好適であり、20〜40℃が更に好適である。液相は酸触媒を含むことが好ましい。酸触媒には、塩酸、硝酸などを用いることができる。
【0049】
本発明の触媒は、それぞれ分子状の水素と酸素による有機化合物の部分酸化反応に対して高活性を有する。この反応では、水素と酸素との反応で生成した過酸化水素が、有機化合物の部分酸化反応に寄与する。例えばフェノールの部分酸化反応は、以下の式(2)で表される。式(2)で生成するジヒドロキシベンゼン、なかでもハイドロキノンは、医薬品、化粧品、酸化防止剤などとして有用である。
2 + O2 → H22
65OH + H22 → C64(OH)2 + H2O ・・・(2)
【0050】
フェノールの部分酸化反応は、例えば、触媒をアセトニトリル、メタノールなどの液中に懸濁させ、得られた懸濁液に水素と酸素とをバブリングさせることにより進行する。バブリングさせる水素と酸素との体積比:H2/O2は、0.1〜10が好適であり、0.5〜2が更に好適である。反応の場となる液相の温度は、10〜90℃が好適であり、50〜70℃が更に好適である。液相は酸触媒を含むことが好ましい。酸触媒には、塩酸、硝酸などを用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(骨格中にチタン原子を含有するゼオライトの合成)
水熱合成法により、MFI構造を有し、チタンと珪素との複合酸化物であり、ミクロ細孔を有するチタノシリカライト(TS−1)を合成した。
【0052】
シリカ源としてのテトラエトキシシラン(TEOS)20g、チタン源としてのチタンテトライソプロポキシド(TPOT:tetrapropylorthotitanate)0.5g、構造規制剤(テンプレート)としてのテトラ−n−プロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)12g、イソプロピルアルコール5gおよび蒸留水20gを、空気雰囲気下、20℃の条件下で2時間撹拌混合した後、得られた混合物を175℃のオートクレーブ内で48時間加熱した。その後、得られた固形分を濾別した。得られた固形分を100℃のオーブンで12時間乾燥後、空気中で5時間、550℃で焼成し、TS−1を得た。
【0053】
TS−1の物性を以下に示す。
TS−1を粉末X線回折で分析したところ、MFI構造を有することが判明した。
TS−1を可視−紫外吸収スペクトルで分析したところ、ゼオライト骨格中の珪素原子の一部がチタン原子で置換されていることが判明した。
TS−1をX線吸収微細構造で分析したところ、Tiは4配位構造を有することが判明した。
TS−1を蛍光X線で分析したところ、チタン原子と珪素原子とのモル比:Ti/Siは0.017であった。
TS−1を細孔径分布測定装置で分析したところ、平均細孔径は5nmであった。
TS−1をBET比表面積測定で分析したところ、比表面積は260m2/gであった。
【0054】
(実施例1)
光析出法により、Pd−Au合金の微粒子をTS−1に担持させた。
まず、試験管に蒸留水4ml、濃度2×10-3mol/Lの塩化パラジウム(PdCl2)水溶液10ml、濃度2×10-3mol/Lの塩化金酸(HAuCl4)10mlを入れ、金属塩含有溶液を調製した。得られた金属塩含有溶液に、上記で合成したTS−1を0.6g入れ、攪拌して懸濁させた。水銀灯を用いて強度1.5mW/cm2の紫外線(波長:200〜450nm)を懸濁液に照射しながら、空気雰囲気下、室温で24時間攪拌を続けた。その後、遠心分離により固形分を回収し、105℃で乾燥した。その後、固形分を空気雰囲気下、450℃で5時間焼成し、更に200℃で2時間水素還元処理を行い、実施例の触媒Aを得た。
【0055】
触媒AのX線回折測定を行った結果、TS−1に特有のピークのみが認められ、TS−1の結晶構造が保持されていることが確認された。
触媒Aの蛍光X線分析を行った結果、PdおよびAuの担持量は、それぞれTS−1の重量に対して、1.0重量%および1.0重量%であった。
触媒AのTEM観察および放射光XAFS測定を行った結果、PdとAuとが合金を形成していること、Pd−Au合金が平均粒子径約10nm(100Å)の微粒子としてTS−1の表面に高分散していることが確認された。
【0056】
(比較例1)
いわゆる含浸法により、TS−1にPd−Au合金を担持させた。すなわち、試験管に蒸留水4ml、濃度2×10-3mol/Lの塩化パラジウム(PdCl2)水溶液10ml、濃度2×10-3mol/Lの塩化金酸(HAuCl4)10mlを入れ、金属塩含有溶液を調製した。得られた金属塩含有溶液に上記で合成したTS−1を0.6g入れ、空気雰囲気下、室温で24時間攪拌した。次いで、エバポレーターにより蒸留水を留去した。得られた固形分を105℃で乾燥した後、空気雰囲気下、450℃で5時間焼成を行い、さらに200℃で2時間水素還元処理を行い、比較例の触媒Bを得た。
【0057】
触媒BのX線回折測定を行った結果、TS−1に特有のピークのみが認められ、TS−1の結晶構造が保持されていることが確認された。
触媒Bの蛍光X線分析を行った結果、PdおよびAuの担持量は、それぞれTS−1の重量に対して、1.0重量%および1.0重量%であった。
触媒BのTEM観察および放射光XAFS測定を行った結果、触媒金属が平均粒子径約30nm(300Å)の比較的大きな粒子としてTS−1の表面に析出していることが確認された。
【0058】
(比較例2)
TS−1にPdだけを担持させたこと以外、実施例1と同様にして、比較例の触媒Cを調製した。すなわち、試験管に蒸留水4ml、濃度2×10-3mol/Lの塩化パラジウム(PdCl2)水溶液10mlを入れ、金属塩含有溶液を調製した。得られた金属塩含有溶液に上記で合成したTS−1を0.6g入れ、攪拌して懸濁させた。水銀灯を用いて強度1.5mW/cm2の紫外線(波長:200〜450nm)を懸濁液に照射しながら、空気雰囲気下、室温で24時間攪拌を続けた。その後、遠心分離により固形分を回収し、105℃で乾燥した。その後、固形分を空気雰囲気下、450℃で5時間焼成し、更に200℃で2時間水素還元処理を行い、比較例の触媒Cを得た。
【0059】
触媒CのX線回折測定を行った結果、TS−1に特有のピークのみが認められ、TS−1の結晶構造が保持されていることが確認された。
触媒Cの蛍光X線分析を行った結果、Pdの担持量は、TS−1の重量に対して、1.0重量%であった。
触媒CのTEM観察や放射光XAFS測定を行った結果、金属Pdが平均粒子径約2nm(20Å)の微粒子としてTS−1の表面に析出していることが確認された。
【0060】
(比較例3)
TS−1にPdだけを含浸法で担持させたこと以外、比較例1と同様にして、比較例の触媒Dを調製した。すなわち、試験管に蒸留水4ml、濃度2×10-3mol/Lの塩化パラジウム(PdCl2)水溶液10mlを入れ、金属塩含有溶液を調製した。得られた金属塩含有溶液に上記で合成したTS−1を0.6g入れ、空気雰囲気下、室温で24時間攪拌した。次いで、エバポレーターにより蒸留水を留去した。得られた固形分を105℃で乾燥した後、空気雰囲気下、450℃で5時間焼成を行い、さらに200℃で2時間水素還元処理を行い、比較例の触媒Dを得た。
【0061】
触媒DのX線回折測定を行った結果、TS−1に特有のピークのみが認められ、TS−1の結晶構造が保持されていることが確認された。
触媒Dの蛍光X線分析を行った結果、Pdの担持量は、TS−1の重量に対して、1.0重量%であった。
触媒DのTEM観察および放射光XAFS測定を行った結果、金属Pdが平均粒子径約20nm(200Å)の比較的大きな粒子としてTS−1の表面に析出していることが確認された。
【0062】
(比較例4)
担体として平均粒子径50μm、比表面積100m2/gのチタニア(TiO2)を用いたこと以外、実施例1と同様にして、触媒Eを調製した。すなわち、試験管に蒸留水4ml、濃度2×10-3mol/Lの塩化パラジウム(PdCl2)水溶液10ml、濃度2×10-3mol/Lの塩化金酸(HAuCl4)12mlを入れ、金属塩含有溶液を調製した。得られた金属塩含有溶液にチタニアを0.6g入れ、攪拌して懸濁させた。水銀灯を用いて強度1.5mW/cm2の紫外線(波長:200〜450nm)を懸濁液に照射しながら、空気雰囲気下、室温で24時間攪拌を続けた。その後、遠心分離により固形分を回収し、105℃で乾燥した。その後、固形分を空気雰囲気下、450℃で5時間焼成し、更に200℃で2時間水素還元処理を行い、実施例の触媒Eを得た。
【0063】
触媒Eの蛍光X線分析を行った結果、PdおよびAuの担持量は、それぞれチタニアの重量に対して、1.0重量%および1.0重量%であった。
触媒EのTEM観察や放射光XAFS測定を行った結果、触媒金属が平均粒子径約20nm(200Å)の比較的大きな粒子としてチタニアの表面に析出していることが確認された。
【0064】
(比較例5)
担体として平均粒子径50μm、比表面積100m2/gのチタニア(TiO2)を用いたこと以外、比較例1と同様にして、触媒Fを調製した。すなわち、試験管に蒸留水4ml、濃度2×10-3mol/Lの塩化パラジウム(PdCl2)水溶液10ml、濃度2×10-3mol/Lの塩化金酸(HAuCl4)12mlを入れ、金属塩含有溶液を調製した。得られた金属塩含有溶液にチタニアを0.6g入れ、空気雰囲気下、室温で24時間攪拌した。次いで、エバポレーターにより蒸留水を留去した。得られた固形分を105℃で乾燥した後、空気雰囲気下、450℃で5時間焼成を行い、さらに200℃で2時間水素還元処理を行い、比較例の触媒Fを得た。
【0065】
触媒Fの蛍光X線分析を行った結果、PdおよびAuの担持量は、それぞれTS−1の重量に対して、1.0重量%および1.0重量%であった。
触媒FのTEM観察および放射光XAFS測定を行った結果、触媒金属が平均粒子径約20nm(200Å)の比較的大きな粒子としてチタニアの表面に析出していることが確認された。
【0066】
(比較例6)
担体として平均粒子径50μm、比表面積100m2/gのチタニア(TiO2)を用いたこと以外、比較例2と同様にして、触媒Gを調製した。すなわち、試験管に蒸留水4ml、濃度2×10-3mol/Lの塩化パラジウム(PdCl2)水溶液10mlを入れ、金属塩含有溶液を調製した。得られた金属塩含有溶液にチタニアを0.6g入れ、攪拌して懸濁させた。水銀灯を用いて強度1.5mW/cm2の紫外線(波長:200〜450nm)を懸濁液に照射しながら、空気雰囲気下、室温で24時間攪拌を続けた。その後、遠心分離により固形分を回収し、105℃で乾燥した。その後、固形分を空気雰囲気下、450℃で5時間焼成し、更に200℃で2時間水素還元処理を行い、比較例の触媒Gを得た。
【0067】
触媒Gの蛍光X線分析を行った結果、Pdの担持量は、チタニアの重量に対して、1.0重量%であった。
触媒GのTEM観察や放射光XAFS測定を行った結果、金属Pdが平均粒子径約20nm(200Å)の比較的大きな粒子としてチタニアの表面に析出していることが確認された。
【0068】
<過酸化水素生成反応>
実施例1および比較例1〜6で得られた触媒を用いて、水素と酸素を原料とする過酸化水素の合成反応を行った。すなわち、各触媒0.1gおよび0.01規定の塩酸50mlをガラス製の反応器に入れ、大気中室温で攪拌下、水素を40ml/minおよび酸素を40ml/minの流量で反応器に供給(バブリング)した。
【0069】
2時間反応を行った後に反応液の上澄みをとり、過マンガン酸カリウム水溶液を用いて過酸化水素の滴定を行い、過酸化水素濃度(単位:mmol/L)を求めた。結果を表1および図1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
図1に示した結果から明らかな通り、実施例1で得られた触媒Aにおいては、含浸法により比較例1〜3で得られた触媒B〜Dおよび比較例4〜6で得られたチタニアを担体とする触媒E〜Gに比べて、過酸化水素の生成効率が向上していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明によれば、比較的簡易な操作でチタン含有珪酸塩多孔体の表面に高分散状態でPd−Au合金の微粒子を担持させることができ、触媒活性を十分に向上させることができる。本発明の触媒は、水素と酸素を原料とする過酸化水素の合成反応に対して、極めて高い活性を有するため、工業的利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】実施例1および比較例1〜6で得られた触媒を用いた過酸化水素生成反応における収率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pd塩およびAu塩を溶解した溶液中に、チタン含有珪酸塩多孔体を懸濁させて、懸濁液を調製し、
前記懸濁液に、紫外線を照射して、前記多孔体の表面に、PdとAuとの合金を含む金属微粒子を析出させる、触媒の製造方法。
【請求項2】
前記紫外線が、200nm〜450nmの波長成分を含む、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】
前記チタン含有珪酸塩多孔体に含まれるチタン原子が、4個の隣接酸素原子を有する4配位構造を有する、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項4】
前記チタン含有珪酸塩多孔体が、直径0.5〜50nmの細孔を有し、且つ比表面積が200m2/g以上である、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項5】
前記チタン含有珪酸塩多孔体が、シリカ骨格を有し、前記シリカ骨格中の珪素原子の一部が、チタン原子で置換されている、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
前記チタン含有珪酸塩多孔体が、ゼオライト骨格またはメソポーラスシリカ骨格を有し、前記ゼオライト骨格またはメソポーラスシリカ骨格中の珪素原子またはアルミニウム原子の一部が、チタン原子で置換されている、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
前記チタン含有珪酸塩多孔体が、国際ゼオライト学会(IZA)により制定された結晶構造であるMFI構造を有する、請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法により得られた触媒。
【請求項9】
チタン含有珪酸塩多孔体と、前記多孔体の表面に析出した金属微粒子とを含み、
前記金属微粒子が、PdとAuとの合金を含み、
前記金属微粒子の平均粒子径が、5〜100オングストローム(Å)である、請求項8記載の触媒。
【請求項10】
前記チタン含有珪酸塩多孔体に含まれるチタン原子と珪素原子とのモル比:Ti/Siが、0.0005≦Ti/Si≦0.05である、請求項9に記載の触媒。
【請求項11】
水素と酸素とを、請求項8〜10のいずれかに記載の触媒と接触させる、過酸化水素の製造方法。
【請求項12】
水素と酸素とフェノールとを、請求項8〜10のいずれかに記載の触媒と接触させる、ジヒドロキシベンゼンまたはベンゾキノンの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−212872(P2008−212872A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56089(P2007−56089)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】