説明

触媒コーティングを備えた粒子フィルター

本発明は、粒子を流体から分離するための開口気孔構造を有する粒子フィルターに関し、該フィルターはその特性の変性のためにまたは濾過されるべき流体の処理のために、付加的な金属酸化物または混合金属酸化物および場合によりさらに触媒活性成分を備えている。とりわけ、本発明は触媒活性材料で処理された粒子フィルターに関し、前記触媒活性材料は燃焼過程からの廃ガスの処理のために、とりわけ内燃機関の排気ガスの処理のために使用される。濾過体を金属酸化物ゾルまたは混合金属酸化物ゾルの溶液に含浸することにより、前もって形成されたゾル粒子は細孔表面に担持される。結果的に、排気ガス背圧の穏やかな増大との組み合わせにおいて良好な温度安定性を有するフィルターの触媒活性化が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子を流体から分離するための開口気孔構造を有する粒子フィルターに関し、該フィルターはその特性の変性のためにまたは濾過されるべき流体の処理のために、付加的な金属酸化物または混合金属酸化物および場合によりさらに触媒活性成分を備えている。とりわけ、本発明は触媒活性材料で処理された粒子フィルターに関し、前記触媒活性材料は燃焼過程からの廃ガスの処理のために、とりわけ内燃機関の排気ガスの処理のために使用される。
【0002】
該粒子フィルターの場合、深層フィルター(deep-bed filters)と表面フィルターとに区別することが可能である。典型的な深層フィルターは、例えば開口気孔構造を有するセラミックフォームのブロックから、または編まれた金網(knitted wire fabrics)または不織布からなる。気体または液体中に含有された粒子を分離するために、気体または液体をフィルターに通す。粒子の堆積は濾過体の体積中で生じる。表面フィルターの場合、気体または液体から除去されるべき粒子の堆積は実質的に、開口気孔構造を同様に有する材料からなる薄壁体の表面で生じる。濾過のために気体または液体を、実質的に垂直にこれらの物体の壁に通す。それゆえそれらはウォールフローフィルター(wall flow filters)とも呼ばれる。粒子は主に壁部の入口表面に積もる。
【0003】
有利にはウォールフローフィルターは、例えばコーディエライトおよび炭化ケイ素のようなセラミック材料からなる。該フィルターは目下ますます、内燃機関の排気ガスから、とりわけディーゼル機関の排気ガスからすすを除去するために比較的多量に使用されている。有利にはこれらのウォールフローフィルターは、排気ガスのための並行流路が入口端面から出口端面へと通り抜けているハネカムの形状を有し、その流路は相互に端面で閉じられているので、入口端面から出口端面へのその道筋において排気ガスは流路間の多孔質の隔壁を通過することを余儀なくされる。この設計により、流路は入口路および出口路として区別される。
【0004】
ディーゼルすすによるフィルターの負荷の増大に伴い、それにより引き起こされる排気ガス背圧が増大するので、堆積したディーゼルすすの燃焼によるフィルターの再生が時おり必要となる。ディーゼルすすの自然燃焼は、約600℃の排気温度で始まる。
【0005】
フィルターの相応する触媒処理により早期段階ですす活性化温度(soot ignition temperature)を低める試みを行った。例えば、バナジン酸銀(US4,455,393)、アルカリ金属の過レニウム酸塩または過レニウム酸銀、またはこれらの物質と酸化リチウム、塩化銅(I)、アルカリ金属酸化物1〜30質量%を有する五酸化バナジウムまたはリチウム、ナトリウム、カリウムまたはセリウムのバナジン酸塩との混合物(US4,515,758)が、すす活性化温度を約50℃低めるのに適している。すす活性化温度はまた、白金族金属とアルカリ土類金属酸化物との混合物(US5,100,632)により低めることも可能である。100℃を上回るすす活性化温度の低減を達成することができる白金と酸化セリウム、酸化マグネシウムおよび酸化カルシウムとの混合物(WO02/26379A1)がとりわけ適している。
【0006】
その上、フィルターは一酸化炭素および炭化水素の酸化のためにおよび窒素の酸化物を貯蔵するために、さらに他の触媒活性成分を備えていてもよい。
【0007】
本発明による文脈において、一方では粉状の金属酸化物の懸濁液によるコーティングと、他方では含浸溶液によるコーティングとの区別がなされる。フィルターを金属酸化物粉末の懸濁液でコーティングする場合、例えば懸濁液を入口端面全体に注ぎ込む。次いで過剰材料は、例えばそれを流し出すことにより除去する。その後、フィルターを乾燥しかつコーティングを固化するためにか焼する。数マイクロメートルの厚みを有するコーティングが入口路の壁表面に残留する。しばしば2〜6μmの粉末粒子の大きさにより、コーティングはほんの僅かな程度しか濾過体の細孔に浸透しない。当然のことながら出口路も類似の方法においてそのようなコーティングを備えていてもよい。
【0008】
フィルターを含浸によりコーティングする場合、所望された金属酸化物の可溶性前駆体の溶液を製造する。濾過体はこの溶液中に浸漬させる。溶液は濾過体の細孔に浸透する。乾燥およびか焼することにより、金属酸化物の前駆体を所望された酸化物に変換する。その後、該酸化物は主に濾過体の内側表面に存在することになり、これが細孔を形成する。
【0009】
金属酸化物の懸濁液を用いて、濾過体の体積1リットルにつき金属酸化物100gに至るまでの負荷濃度を実現することができる。しかしながら、フィルターの排気ガス背圧が実質的にコーティングにより増大するので、100g/lを上回る濃度が適切ではないことがこの場合に不利である。
【0010】
含浸法により、原則として懸濁液を用いた場合と同様の負荷濃度を実現することが可能である。この場合の利点は、同じ負荷濃度でも含浸法における排気ガス背圧の増大が懸濁液を用いたコーティングの場合より実質的に小さいことである。
【0011】
US特許4,455,393は、バナジン酸銀によるウォールフローフィルターのコーティングを記載している。約21g/lの濃度を有するコーティングの場合、約50℃のすす活性化温度の低減が達成され、排気ガス背圧はコーティングにより約50%増大する。US特許5,100,632は、白金族金属塩およびアルカリ土類金属塩の水溶液によるウォールフローフィルターの含浸を記載している。例えば、濾過体1リットルにつき酸化マグネシウム7gの負荷濃度がその方法により達成される。
【0012】
すすの燃焼によるディーゼルすすフィルターの再生に際して、触媒成分を損傷させうる高い温度がまた、フィルターの活性化温度を低下させる触媒成分の使用により生じる。損傷は主に成分の比表面積の減少にある。
【0013】
金属酸化物の比表面積の温度安定性(temperature stability)を、例えばアルカリ土類金属および/または希土類金属でドープすることによるかまたは混合酸化物を形成することにより増大させることができるのは公知である。従って、酸化セリウムおよび酸化ジルコニウムからなる混合酸化物は純粋な酸化セリウムより熱負荷に対して実質的に安定している。そのような混合酸化物および安定化された材料は商業的に入手可能である。しかしながら、上で記載したように、それらは懸濁液の使用によりフィルターの路壁の幾何学的表面に施与しなければならなく、これによりその分だけ高い排気ガス背圧を伴う。
【0014】
発明者の経験では、そのような金属酸化物を、セリウムのかつジルコニウムの可溶性化合物を含有する含浸溶液を使用する含浸技術を用いて粒子フィルターに導入しようと試みても温度安定性は低下する。明らかに、所望された温度安定性のセリウム/ジルコニウム混合酸化物は、含浸に続くか焼の間もずっと十分な程度にまで形成されない。
【0015】
それゆえ粒子フィルターのコーティングを、前もって形成された粉末材料の懸濁液の使用により施与する場合、このコーティングはこれらの粉末材料の良好な温度安定性を有する。この場合の不利な点は付随する高い排気ガス背圧である。所望されたコーティング材料の前駆体の溶液を用いて粒子フィルターを含浸することでコーティングを施与することにより排気ガス背圧を低減することができるが、しかしながらこれは達成可能な温度安定性を犠牲にして達成される。なぜなら実際のコーティング材料は、か焼により粒子フィルター上に形成されるに過ぎないからである。粉末材料を別々に製造する場合に有効な自由度は、もちろんここでは有効ではない。
【0016】
本発明は、このジレンマを改善することおよび、一方で通常の粉末材料でコーティングされたフィルターより低い排気ガス背圧を有しかつ他方でそのコーティングが含浸技術により達成可能なものより高い温度安定性を有するコーティングされた粒子フィルターを提供することに向けられている。
【0017】
この目的は、内燃機関の排気ガス流からの粒子を濾過するための開口気孔構造を有する粒子フィルターにより達成され、そこには1μm未満の粒径を有するフィルターコロイド状金属酸化物または混合金属酸化物が、排気ガス流に接触可能な全ての表面に担持されている。
【0018】
この発明の文脈において"排気ガス流に接触可能な全ての表面"という表現が示すのは開口気孔構造により排気ガスと接触するこれらの細孔の表面と、濾過体の外側の幾何学的表面とである。
【0019】
本発明により、所望された金属酸化物または混合金属酸化物は粒子の外側の幾何学的表面に粉末材料のコーティングとして存在することはなく、該酸化物はまた、酸化物の可溶性の前駆体の含浸とその後の乾燥およびか焼によりフィルターの細孔に導入されることもない。むしろ金属酸化物の前もって形成されたゾルまたは混合酸化物のゾルが、排気ガスに接触可能な全ての表面(内側および外側表面)上に金属酸化物を担持するために使用される。これらのゾルは1μm未満の粒径を有する。有利には、これらの材料の粒径は1〜500nmである。それらの粒径により、これらの材料は実質的に均質な、澄んだ溶液を例えば水中で分散後に形成する。それゆえコロイド状溶液、またはゾルという用語が使用される。光線がこの溶液を照射する場合、溶液を通過する光の道筋は横方向に見た場合に観察することができる。なぜなら光は溶液中に存在する粒子により全方向に散乱するからである(チンダル効果)。
【0020】
ゾル粒子は前もって形成される。すなわち該粒子はすでにその最終形状および化学組成を有している。これらの特性は、フィルターの負荷後の熱処理の結果として僅かに変化するに過ぎない。対照的に、引き続き金属酸化物の前駆体の溶液を使用する通常の含浸法の場合、金属酸化物粒子は事実上ランダムな挙動で乾燥およびか焼の結果としてのみ形成される。これにより形成する粒子は不均一な表面および構造をしており、これはゾルとは対照的に大部分が個々の製造条件に依存している。
【0021】
本発明による粒子フィルターのために、有利には金属酸化物はアルミニウム、ケイ素、チタン、セリウム、ジルコニウム、ハフニウム、マグネシウム、鉄およびそれらの混合酸化物からなる金属の酸化物の群から選択される。すすのための低減された活性化温度を有するフィルターが所望される場合、有利にはセリウム/ジルコニウム酸化物ゾルが選択される。
【0022】
これらの材料のゾルは、固体粉末としてかまたは溶液として異なった粒径と合わせて商業的に入手可能である。典型的な酸化アルミニウムゾルは、粉末材料として10〜約50μmの平均粒径を有する。水中での分散後、分散したゾル粒子は10〜500nmの直径を有する。
【0023】
ゾルの実質的な利点は、例えば白金族金属の白金、パラジウムまたはロジウムのような触媒活性物質をそれらの塩の形で酸化物ゾル上に担持するかまたはそれと一緒に施与することができることである。この方法で処理された酸化物ゾルのフィルターへの施与後、貴金属粒子はゾル粒子の表面上に存在することになりかつ容易にその作用、すなわちガス状の汚染物質成分の化学転換をその場で発揮することができる。さらに、貴金属はもっぱら所望されたキャリアー材料上に存在し濾過体には存在しないことが確認される。一方で、通常の含浸法において貴金属塩が金属酸化物または混合酸化物の前駆体の溶液と混合される場合、貴金属化合物は金属酸化物と一緒に晶出しかつ部分的にその後のか焼において包囲されるかまたは覆い隠される。
【0024】
本発明の粒子の利点は、例えば混合されたセリウム/ジルコニウム酸化物のようなドープされた金属酸化物または混合酸化物がフィルターに施与されるべきである場合にはっきりわかる。従来技術に従って、濾過体はこの目的のために硝酸セリウムおよび酢酸ジルコニルの一般的な溶液で含浸されかつその後に乾燥およびか焼される。ところが、大きい表面積を有しかつ酸化セリウムおよび酸化ジルコニウムを含有する混合物はその方法によって所望された混合酸化物に結果としてならない。それゆえ材料は熱負荷に対して安定ではない。一方で、所望された混合酸化物のゾルは前もって形成されかつ極めて温度安定性である。それらはその比表面積を高い熱負荷下でさえも維持し、そのため極めて温度安定性な、触媒活性化された濾過体となる。その上、この方法で処理された濾過体は排気ガス背圧の小さい増加量しか示さない。
【0025】
粒子フィルターは、深層フィルターまたはウォールフローフィルターとして存在してもよい。深層フィルターは、編まれた金網、セラミック繊維フェルトまたは焼結金属またはセラミックフォームからなってもよく、一方でコーディエライトまたは炭化ケイ素から製造される。有利には、従来技術においてすでに記載されたウォールフローフィルターが使用される。該フィルターは、コーディエライト、炭化ケイ素または他のセラミックの材料または成分からなりかつ10〜50μmの平均細孔直径で30〜90%の多孔率を有する。有利には、それらの多孔率は45〜90%である。
【0026】
排気ガスに接触可能なフィルターの表面にゾル粒子を担持するために、ゾルの水溶液または有機溶液を製造する。次いでフィルターをこの溶液で、例えば浸漬により含浸し、かつ過剰溶液の除去後に乾燥しかつ300〜600℃でか焼する。この方法は場合により、濾過体1リットルにつき5〜100、有利には10〜80gの負荷濃度を獲得するために数回繰り返す。
【0027】
例えば白金族の貴金属を有するフィルターの触媒活性化は上記のように、すでに触媒活性化されたゾルを使用することにより行う。代替的に、活性化をゾル粒子の施与後に、相応する貴金属の前駆体を用いて引き続き含浸、乾燥およびか焼することにより行ってもよい。使用される方法とは無関係に、有利にはフィルターを触媒体1リットルにつき貴金属0.1〜5gの濃度の白金で活性化する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気ガス流からの粒子の濾過のための開口気孔構造を有する粒子フィルターにおいて、1μm未満の粒径を有するコロイド状金属酸化物または混合金属酸化物が排気ガス流に接触可能な全ての表面に担持されていることを特徴とする、開口気孔構造を有する粒子フィルター。
【請求項2】
金属酸化物が、アルミニウム、ケイ素、チタン、セリウム、ジルコニウム、ハフニウム、マグネシウム、鉄およびそれらの混合酸化物からなる金属の酸化物の群から選択されていることを特徴とする、請求項1記載の粒子フィルター。
【請求項3】
フィルターが深層フィルターまたはウォールフローフィルターの形で存在することを特徴とする、請求項2記載の粒子フィルター。
【請求項4】
フィルターが、編まれた金網、セラミック繊維フェルト、または焼結金属またはセラミックフォームからなることを特徴とする、請求項3記載の粒子フィルター。
【請求項5】
フィルターがウォールフローフィルターの形で存在しかつコーディエライトまたは炭化ケイ素からなることを特徴とする、請求項3記載の粒子フィルター。
【請求項6】
セリウム/ジルコニウム混合酸化物ゾルが排気ガス流に接触可能な全ての表面に担持されていることを特徴とする、請求項4または5記載の粒子フィルター。
【請求項7】
コロイド状金属酸化物または混合金属酸化物が白金族の貴金属により触媒活性化されていることを特徴とする、請求項1記載の粒子フィルター。
【請求項8】
コロイド状金属酸化物または混合金属酸化物が1〜500nmの平均粒径を有することを特徴とする、請求項7記載の粒子フィルター。
【請求項9】
フィルターが10〜50μmの平均細孔直径で30〜90%の多孔率を有することを特徴とする、請求項1記載の粒子フィルター。
【請求項10】
フィルターが45〜90%の多孔率を有することを特徴とする、請求項9記載の粒子フィルター。
【請求項11】
濾過体1リットルにつきフィルター上のコロイド状金属酸化物または混合金属酸化物の濃度が5〜100gであることを特徴とする、請求項1記載の粒子フィルター。
【請求項12】
濾過体1リットルにつき0.1〜5gの濃度の白金が白金族の貴金属として存在することを特徴とする、請求項11記載の粒子フィルター。
【請求項13】
完全にまたは主として希薄混合気により運転された内燃機関の排気ガスからのすすを除去するための、請求項1から12までのいずれか1項記載の粒子フィルターの使用。
【請求項14】
フィルターを、コロイド状金属酸化物または混合金属酸化物の水溶液または懸濁液に含浸し、引き続き乾燥しかつ場合により300〜600℃の温度でか焼することによる、請求項1から12までのいずれか1項記載の粒子フィルターの製造法。

【公表番号】特表2008−501496(P2008−501496A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513877(P2007−513877)
【出願日】平成17年6月4日(2005.6.4)
【国際出願番号】PCT/EP2005/006013
【国際公開番号】WO2005/120687
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】