触媒ペーストの製造方法及びその装置
【課題】PFF構造を有する燃料電池の反応層用に好適な触媒ペーストの製造方法を提案する。
【解決手段】水と触媒とを混合してなるプレペーストと、水分量が10重量%以下の状態で電解質を溶媒へ溶解してなる電解質溶液とを混合撹拌して触媒ペーストを製造する方法において、プレペーストを次のようにして得る。触媒と水とをハイブリッドミキサーで混合撹拌してプレペーストを得、このプレペーストを多量の水に分散してこれを湿式粉砕し、湿式粉砕した分散液から水分を除去する。
【解決手段】水と触媒とを混合してなるプレペーストと、水分量が10重量%以下の状態で電解質を溶媒へ溶解してなる電解質溶液とを混合撹拌して触媒ペーストを製造する方法において、プレペーストを次のようにして得る。触媒と水とをハイブリッドミキサーで混合撹拌してプレペーストを得、このプレペーストを多量の水に分散してこれを湿式粉砕し、湿式粉砕した分散液から水分を除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒ペーストの製造方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に用いられる膜電極接合体は固体高分子電解質膜を水素極と空気極とで挟んだ構成であり、水素極及び空気極はそれぞれ固体高分子電解質膜側から反応層と拡散層とを順次積層してなる。
反応層は触媒と電解質との混合物からなり、電子及びプロトンの導電性と通気性が求められる。ここにプロトンは水を伴ってH3O+のかたちで移動するので、反応層を湿潤状態に維持する必要がある。勿論、反応層に水分が過剰に存在すると通気性を阻害するので(いわゆるフラッディング現象)、反応層の水分は常に適当量に維持されなければならない。
かかる要求を満足すべく、本出願人は、特許文献1及び特許文献2においてPFF構造(登録商標:以下同じ)の反応膜を提案してきている。ここにPFF構造とは高分子電解質の側鎖の親水性官能基が、触媒上に親水領域を形成すべく、触媒側に配向している構造を指す。かかるPFF構造は、触媒と水とを予め混合したプレペーストを準備し、このプレペーストと電解質溶液とを混合し、適切な撹拌方法を採用することにより得られる。PFF構造を採用することにより、
反応層における水の偏在が防止される。また、燃料電池を低加湿環境下で運転するときにおいても、この親水性の領域に水がまとまって存在するので、過乾燥を防止できる。また、高加湿環境下での運転では、過剰な水がこの親水性の領域を介して外部(拡散層側)へ排出されるので、フラッティングを防止できる。
なお、本件発明に関連する技術を開示する文献として特許文献3及び非特許文献1〜3を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−140061号公報
【特許文献1】特開2006−140062号公報
【特許文献3】特開2009−104905号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Electrochemical Society 2005, vol.152,No.5,PP.A970-A977 MAKHARIA Rohit ; MATHIAS Mark F. ; BAKER Daniel R. “Measurement of catalyst layer electrolyte resistance in PEFCs using electrochemicalimpedance spectroscopy”
【非特許文献2】Journal of Electroanalytical Chemistry 475, 107-123(1999) M.Eikerling and A.A.kornyshev “electrochemical impedance of Cathode Catalyst Layer of Polymer Electrolyte Fuel Cells”
【非特許文献3】「電気化学インピーダンス法」(丸善 板垣 昌幸) 8 分布定数型等価回路を用いた電気化学インピーダンス解析(pp133〜146)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PFF構造を確保するため、本発明者は種々の検討を行なっている。
A (触媒と水とを混合してなるプレペーストの調製の改良)
触媒の表面へ電解質の親水基を対向させて電解質と触媒との間に親水性領域を得るため、触媒と水とを混合し触媒の表面へ水の層を予め形成しておく(触媒の親水化工程)。
本発明者の検討によれば、触媒と水との混合比は触媒の種類(特に触媒の担体の種類、粒度)に応じて適宜選択されるべきものであるが、触媒と水との混合物(プレペースト)がキャピラリ状態(触媒粒子の全周囲に水が存在するも流動性なし)からスラリー状態(触媒粒子の全周囲に水が存在して流動性あり)に変化する水分状態(流動性限界)及びその近傍の水分状態とすることが好ましい。かかる水分量は、触媒の表面を親水化しつつ、触媒と電解質との間に連続する親水性領域を形成できる最適な量となる。
上記最適量より多い水分量においても触媒の周囲には水が存在するので、触媒表面を親水化できる。しかしながら、かかる過剰な水分は、プレペーストを電解質溶液(プレ溶液)と混合する際に、PFF構造構築の妨げとなるおそれがある。過剰な水は触媒を離れ、触媒から離れた領域において電解質の親水基を引き寄せる。従って、触媒に対向する電解質の親水基が減少し、その結果、触媒と電解質との間に形成すべき親水性の領域が狭くなったり、分断されたり、また、当該領域における親水機能の低下(水分の保持力の低下)が生じたりする。
詳細は特願2009−256459号を参照されたい。
【0006】
B(電解質溶液の調製)
電解質には高分子材料、例えばナフィオン(デュポン社商標名、以下同じ)等のフッ素系ポリマーが一般的に用いられる。この電解質は水と有機溶媒との混合溶媒に溶解され、既述のプレペーストと混合される。
既述のフッ素系ポリマーも、溶媒に溶解された電解質溶液の状態で流通されている。この溶媒は水と有機溶剤の混合体である。
本発明者は、既述のPFF構造に用いる電解質溶液の最適化を検討した結果、電解質溶液に含まれるべき最適な水分量が、電解質溶液の10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下であることに気がついた。
電解質と水分量との間には次の関係がある。
電解質溶液中の水分の濃度を低減させると、電解質溶液における電解質の濃度が同じ場合においても電解質溶液の粘度が高くなり、逆に水分の濃度を高くすると電解質溶液の粘度が低くなることを見出した。その理由は次のように推定される。
即ち、電解質溶液の水分の濃度が高い場合、図1(A)に示す通り、電解質の側鎖E2に水が吸着し電解質溶液中で電解質の主鎖E1が凝集した状態となり、電解質溶液の粘度が低下すると推察した。また、電解質溶液の水分濃度がやや低くなれば、電解質溶液に含有されている有機溶媒の作用によって、図1の(B)に示すように、電解質溶液中で電解質の主鎖E1が開き、相互に絡むため電解質溶液の粘度が上昇する。
【0007】
凝集が進行した電解質(図1A)の主鎖E1を含む電解質溶液を混合して反応層を形成した場合、この反応層では、図2に示すような状態となっていると考えられる。すなわち、電解質の主鎖E1が凝集していることから、側鎖E2が多方向に向かって延びることとなる。そして、この側鎖E2と反応層中の水とが吸着することにより、反応層中で親水性の領域Wが分散して形成されることとなる。このため、この反応層において電解質の主鎖E1が凝集している箇所では、反応層中のイオン抵抗により、プロトン及び水が反応層内を移動し難い。このため、低加湿状態では、電解質膜及び各触媒層中の電解質の乾燥による性能低下を引き起こし、過加湿状態では、フラッディングによる性能低下が生じる要因となる。
換言すれば、電解質の親水基(側鎖E2)を触媒Cへ対向させて両者の間に親水性の領域Wを確実に形成するためには、電解質溶液中において電解質は図1(B)の状態にすることが好ましい。そのためには、既述のとおり、電解質溶液に含まれる水分量を電解質溶液の10重量%以下とする。
【0008】
図1(B)の状態の電解質を用いたときのカソード触媒層は図3の状態になると考えられる。
電解質の側鎖E2は、一方向に延びた状態にあり、このため、触媒ペースト、すなわち燃料電池用反応層では、親水性のイオン交換基(スルホン基)がプレペースト中の水を吸着することとなる。このため、図3に示すように、この反応層では、触媒Cの表面に電解質の親水基E2が対向した状態となり、電解質層Eと触媒Cとの間に親水性の領域Wが形成される。そして、上記のようにスルホン基がプレペースト中の水と吸着することで、触媒C周りに親水領域Wが連続して形成され、かつ互いに連通した状態で形成されると考えられる。このため、この触媒ペーストを用いた反応層では、図3に示すように、プロトン及び水が移動し易く、電気化学的反応が円滑に進行される。かかる反応層を有する燃料電池は低加湿状態及び過加湿状態のいずれであっても、発電能力を高くすること可能となる。
詳細は特願2010−002362号を参照されたい。
【0009】
本発明者による上記のプレペースト(触媒と水との混合物)の調製に関する知見Aと電解質溶液の調製に関する知見Bの少なくとも一方を実行することにより得られた触媒ペーストは燃料電池の出力特性を向上させる。
燃料電池には更なる出力特性の向上が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記要求にこたえるべく鋭意検討を重ねてきた結果、PFF構造を有する反応層では、触媒の粒子が電解質中においてより均等に分散されていることが好ましいことに気がついた。換言すれば、触媒の粒子が塊(二次粒子、三次粒子等)を形成していると、触媒と触媒との接触面には親水性領域が形成されないからである。他方、一般的に、PFF構造をとらない反応層では触媒の粒子は異なる径の凝集体と考えられる。異なる径の触媒粒子凝集体間に大きな細孔が形成され、水の排出パスとして機能すると考えられるからである。
本発明者は触媒粒子の凝集を解いて均一に触媒を分散する方策として、触媒と水との混合物であるプレペーストを湿式粉砕することに気がついた。 しかしながら、湿式粉砕を実行するためには、プレペーストに充分な流動性が必要となり、そのためには触媒を多量の水へ分散させなければならない。
ところが、既述のとおり、プレペーストに含まれるべき水量は制限されている。即ち、その水量はプレペーストが流動性限界となる量若しくはその近傍の量とすべきである。従って、触媒の凝集体を解体するには、触媒を多量の水に分散してこれを湿式粉砕し、その後、水分を除去して、得られたプレペーストが流動性限界若しくはその近傍となるようにその水分量を調節する。
【0011】
本発明者は、以上の知見に基づき、この発明に想到した。即ち、この発明の第1の局面は次のように規定される。
触媒と水とを混合してプレペーストを得る第1のステップと、
親水性の側鎖に有する電解質を、水分量が10重量%以下の状態で溶媒へ溶解して電解質溶液を得る第2のステップと、
前記プレペーストと前記電解質溶液を混合して撹拌する第3のステップと、を有し、
前記第1のステップは、前記触媒を多量の水に分散してこれを湿式粉砕する湿式粉砕ステップと、
湿式粉砕された分散液から水分を除去して得られるプレペーストの水分量を流動限界からスラリー状態までの範囲内とする、水分除去ステップと、
を備える、ことを特徴とする触媒ペーストの製造方法。
【0012】
このように規定される第1の局面の触媒ペーストの製造方法によれば、触媒を湿式粉砕するので、触媒粒子の凝集が解かれる。その結果、電解質と触媒との接触面積が広がる。電解質と触媒との接触面に親水性の領域が形成されるので、このように電解質と触媒との接触面積を広くすることにより、反応層中におけるPFF構造が拡大し、もって反応層の特性が向上する。
プレペーストと電解質とを混合して触媒ペーストを形成する際に、過剰な水が存在すると、PFF構造に悪影響が生じることは既述の通りである。従って、水分除去ステップにおいて過剰な水分を除去することにより、安定したPFF構造を構築することができる。
なお、本発明者らの検討によれば、プレペーストに含まれるべき水分量は流動性限界の2倍以内にすることが好ましい。他方、湿式粉砕には、通常最低流動性限界の5倍以上の水が必要である。
また、触媒の触媒金属粒子を硝酸基、アミノ基、スルホン基等の親水基(水酸基は除く)で修飾することが好ましい。この修飾はプレペースト形成前に触媒に対して行なうことが好ましい。
【0013】
上記の触媒ペーストの製造方法を実行するため、下記の装置を提案する。即ち、 触媒と水とを混合してプレペーストを得る第1の混合部と、
前記プレペーストと電解質溶液を混合かつ撹拌する第2の混合撹拌部と、を有し、
前記第1の混合部は、前記触媒を水に分散してこれを湿式粉砕する湿式粉砕部と、
湿式粉砕された分散液から水分を除去して得られるプレペーストの水分量を流動限界からスラリー状態までの範囲内とする水分量調整部と、
を備える、ことを特徴とする触媒ペーストの製造装置。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は電解質溶液中の電解質の形態を示す模式図である。
【図2】図2は図1(A)に対応したPFF構造を説明する模式図である。
【図3】図3は図1(B)に対応したPFF構造を説明する模式図である。
【図4】図4は粒子と水との分散状態を示す摸式図である。
【図5】図5は実験例1に係り、プレペーストのせん断速度と粘度との関係を示すグラフである。
【図6】図6は実験例1に係り、水倍率とせん断速度−粘度勾配との関係を示すグラフである。
【図7】図7は実験例2に係り、プレペーストのせん断速度と粘度との関係を示すグラフである。
【図8】図8は実験例2に係り、水倍率とせん断速度−粘度勾配との関係を示すグラフである。
【図9】図9実験例3に係り、プレペーストのせん断速度と粘度との関係を示すグラフである。
【図10】図10は実験例3に係り、水倍率とせん断速度−粘度勾配との関係を示すグラフである。
【図11】図11(A)はプレペーストと電解質溶液との撹拌時間と粘度との関係を示し、図11(B)は同じく撹拌時間と反応層抵抗の関係を示す。
【図12】図12はこの発明の実施形態の触媒ペースト製造装置の構成を示すブロック図である。
【図13】図13は水量との燃料電池の出力特性を示す。
【図14】図14は同じく水量と反応層抵抗との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記において、触媒とは導電性を備えた担体に触媒金属粒子を担持させたものをいう。担体には一般的なカーボンブラック粒子を採用することができるが、酸化スズ、チタン酸化物等を使用することも可能である。触媒金属粒子には白金、白金−コバルト合金等の汎用的なものを採用することができる。
【0016】
(プレペーストの作製)
プレペーストは下記(1)〜(3)のステップにより作成される。
(1)触媒と水とをハイブリッドミキサーで混合撹拌するステップ
従来はこのステップにより得られたものをプレペーストとして利用していた。
(2)湿式粉砕するステップ
ステップ(1)で得られたプレペーストを湿式粉砕する。このときプレペーストへ多量の水分を加え、プレペーストの流動性を高くして湿式ジェットミルやホモジナイザ−による湿式粉砕機能を充分に発揮させる。
(3)水分除去ステップ
湿式粉砕された触媒−水の混合物から必要な水分を除去する。
(1)のステップの水分量は任意に設定可能なものとし、このステップ(1)で得られるプレペーストは、多めに水分を含んでいてもよい。(3)のステップで水分量が最終的に調製されるからである。
湿式粉砕により触媒表面を親水化処理できれば、ハイブリッドミキサーによる混合撹拌ステップ(1)を省略できる。
【0017】
(湿式粉砕)
湿式粉砕を行なうときには、触媒を多量の水に対して分散させる。このときの水の量(重量)は触媒に対して5倍以上とすることが好ましい。水分量が5倍未満であると、湿式粉砕が不完全となるおそれがある。水分量の上限は特に制限されるものではないが、触媒に対して100倍以下とすることが好ましい。水除去ステップの負荷を低減するためである。
湿式粉砕は対象となる触媒の凝集体を粉砕可能であればいかなるタイプの湿式粉砕方式を用いてもよく、例えば、超音波ホモジナイザ−、湿式ジェットミル、湿式ボールミル、湿式ディスクミル又は湿式ビーズミル等を採用することができる。特に、メディアレス方式である、超音波ホモジナイザ−、湿式ジェットミル、湿式ディスクミルを用いることが作業効率向上の観点から好ましい。なお、本発明の実施例では超音波ホモジナイザ−又は湿式ジェットミルを用いている。
【0018】
湿式処理の実行時において触媒は多量(流動性限界に対応する水分量の5倍以上)の水に分散されている。この過剰な水が存在すると、プレペーストを電解質溶液(プレ溶液)と混合する際に、PFF構造構築の妨げとなるおそれがある。過剰な水は触媒を離れ、触媒から離れた領域において電解質の親水基を引き寄せる。従って、触媒に対向する電解質の親水基が減少し、その結果、触媒と電解質との間に形成すべき親水性の領域が狭くなったり、分断されたり、当該領域における親水機能の低下(水分の保持力の低下)が生じたりする。
また、プレペースト中の過剰な水は電解質溶液にも影響を与え、疎水基を伸ばした状態の電解質(図1(B)参照)が、プレペーストの過剰水により、図1(A)の状態になりかねない。
本発明者の検討によれば、プレペーストに含まれる水分量は、流動性限界に対応する水分量乃至その2倍の量以内とすることが好ましい。
【0019】
以下、プレペースト中の水分量と流動性限界について説明する。
粒子と水との混合物において、粒子と水との分散状態は、「スラリーの安定化技術と調製事例」(情報機構刊)に示されるように、4種類に分けられる。以下、上記の出典を基に説明する。図4に示すように、符号2が粒子を示し、符号3が水を示し、符号4が空気を示している。
粒子2を上記の触媒に相当させる。粒子2に対して水3の量が少ない場合、図4の(A)に示すように、各粒子2の固相は連続した状態となり、水3の液相は不連続の状態となる。このため、粒子2同士の間に大きな空気4からなる気相が生じている。この状態はペンデュラ状態と呼ばれる。
このペンデュラ状態に水3をさらに加え、粒子2に対する水3の量を多くすれば、図4の(B)に示すように、気相の割合が減少する。この状態はファニキュラ状態と呼ばれる。ファニキュラ状態では、水3の液相が連続した状態となるが、未だ空気4の気相が残存している
【0020】
ファニキュラ状態から、さらに水3の量を多くすれば、図4の(C)に示すように、粒子2と水3との混合物は塑性限界を超える。この状態はキャピラリ状態と呼ばれる。キャピラリ状態では、各粒子2同士の間隙が水3に満たされた状態となる。すなわち、各粒子2の固相は不連続の状態となり、水3の液相は連続した状態であり、かつ空気4の気相が存在しない状態となる。
このキャピラリ状態から、さらに水3の量を多くすれば、図4の(D)に示すように、各粒子2が水3の中に分散され、流動性を持つようになる。この状態はスラリー状態と呼ばれる。
流動限界とは、混合物がキャピラリ状態からスラリー状態へと変化し、流動し始める水分含量の限界をいう。
触媒の表面を単純に親水化するという目的であれば、触媒に対して過剰に水を混合することでもその効果を得ることが可能であると考えられる。しかしながら、触媒に対して過剰に水を混合した場合には、プレペースト中に余分な水が多くなる。その場合には、余分な水にも高分子電解質の親水基が配向するため、触媒と高分子との間に連続する親水層を形成することを阻害し、発電時の生成水を触媒近傍に保持する能力が損なわれ、低加湿環境で燃料電池システムの出力が低下し易くなるという逆効果が生じる。
【0021】
これに対し、触媒に混合する水の混合量を流動限界に基づいて規定し、プレペーストが流動限界近傍であるキャピラリ状態からスラリー状態に変化する水分状態とすることにより、水の混合量は、水により触媒表面を親水化しつつ、触媒と高分子電解質との間に連続する親水層を形成できる最少水分量となる。このため、得られるプレペーストは、高出力を安定して得られるMEA(膜電極接合体)を製造するための理想的な状態となる。
【0022】
プレペーストのせん断速度と粘度との関係において、粘度をせん断速度に対して両対数でプロットしたときの近似直線を求め、流動限界は近似直線の傾きが−1となるペースト状態であり、スラリー状態は近似直線の傾きが−0.8となるペースト状態である。
【0023】
せん断速度に対する粘度の関係における近似直線の傾きが−1以上、すなわち、傾きが緩やかになるとともに流動性の高いスラリー状態になる。過剰な水分を含んだ状態はMEAの性能の低下を招くため、ペーストが流動限界からスラリー状態になる、すなわち、傾き−1〜−0.8の範囲となる水添加量が最適量となる。これにより理想的なプレペーストを得ることができる。プレペーストではこの近似直線の傾きにより必要最小限の水分添加量を規定することが重要である。一方、傾きが−1未満(傾きがきつくなる)のキャピラリ状態では混合物の流動性がなくなるため、混合時におけるエネルギーがより必要となり、水と触媒との攪拌が不十分となり易く、好適なプレペーストが得られる条件として適さない。
【0024】
{検証1}
プレペーストに含まれる水量の最適値について、以下の実験例1〜3による検証を行った。実験例1〜3では、触媒に混合する水の量の最適値を決定するパラメータとして、触媒と水とを含むプレペーストの粘度に着目し、プレペーストの粘度測定を行った。なお、粘度の測定においては、東機産業製RB80型粘度測定機を用いた。
【0025】
(実験例1)
実験例1では、触媒に混合する水の量を変化させてプレペーストの粘度を測定した。実験例1では、触媒として、ほぼ球形のカーボン担体(KB600JD、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製)に担持密度60wt%でPt微粒子を担持したものを用意した。この触媒に混合される水の量は、触媒中からPt微粒子を取り除き、カーボン担体の重量に対する水の重量の比(H2O/C)で規定される。実験結果を図5及び図6に示す。
【0026】
図5は、横軸xにせん断速度(log(D[1/秒]))を示し、縦軸yに粘度(log(η[Pa・秒]))を示している。それぞれの水量における直線の関数式は以下のとおりである。
H2O/C=19:y=−1.0934x+0.7264
H2O/C=20:y=−0.9226x+0.7341
H2O/C=22:y=−0.8156x+0.5516
H2O/C=26:y=−0.7314x+0.369
H2O/C=38:y=−0.7418x−0.0975
【0027】
このように、水量が少なくなると、プレペーストの粘度が増加するとともに、直線の傾きが−1に近づくことが分かる。これは、水量が少なくなると、カーボン担体同士の凝集が進むとともに、プレペーストの粘度が増大し、これにより直線の傾きがきつくなるためである。図5は、直線の傾きが−1より大きくなったプレペーストが流動限界を超え、キャピラリ状態になったことを示唆している。
【0028】
図6は、H2O/C=19の水分量のプレペーストにおける水倍率(H2O/C)[g/g−C]とせん断速度−粘度勾配d(logη)/d(logD)との関係を示している。図5では、せん断速度−粘度勾配が−1を超えれば、流動限界であり、プレペーストが流動限界を超えたことを示している。図6に示すように、水倍率が20の近傍で勾配が-1となる。すなわち、この実験例1に用いた触媒では、水倍率20が最適値であると言える。
【0029】
(実験例2)
実験例2では、実験例1で用いた触媒と同じく、KB600JDに担持密度60wt%でPt微粒子81bを担持している触媒であるが、触媒とは製造元が異なる触媒を用いた。実験の方法等は実験例1と同様である。結果を図7及び図8に示す。
【0030】
図7に示す直線の関数式は以下のとおりである。
H2O/C=27:y=−1.0436x+0.8981
H2O/C=28:y=−0.9077x+0.7343
H2O/C=31:y=−0.7585x+0.5736
【0031】
図8に示すように、これらのプレペーストでは、水倍率が27の近傍で勾配が−1を超えている。
図7及び図8より、この実験例2に用いた触媒では、水倍率を28とすることで、プレペーストが流動限界に近くなる。すなわち、同じ担持密度60wt%のKB600JDを用いた触媒であっても、製造元が異なれば、最適水分量となる水量に差が生じることが分かる。
【0032】
(実験例3)
実験例3では、BP800(CABOT社製)にPt微粒子を担持密度20wt%で担持した触媒を用い、水倍率を変化させた場合のプレペーストの粘度を測定した。実験の方法等は実験例1と同様である。結果を図9及び図10に示す。
図9に示す直線の関数式は以下のとおりである。
H2O/C=3.2:y=−1.1138x+0.8268
H2O/C=3.5:y=−0.9418x+0.5033
H2O/C=4:y=−0.8924x+0.1093
H2O/C=5:y=−0.6826x−0.2232
【0033】
図10に示すように、これらのプレペーストでは、水倍率が3.2の近傍で勾配が−1を超えている。すなわち、この実験例3の触媒では水倍率3.5が最適水添加量となる。
このように、実験例1に比べ、勾配が−1になる水量が実験例3の方が少ないのは、BP800の比表面積が実験例1におけるKB600JDのおよそ6分の1であることによる。すなわち、BP880の最適水量は、実験例1のおよそ6分の1となっている。
【0034】
各実験例1〜3により、各触媒に混合する水の量の最適値は、各触媒の種類、より詳細には、各触媒中のカーボン担体の種類や粉砕状況によって変化することが判明した。そして、プレペーストの流動限界を基に各触媒に混合する水の量を決定することが好ましいことがわかる。また、図5、図7及び図9に示す各直線の関数式によれば、各プレペーストの流動限界となる水量は直線の傾きが−0.8〜−1である。
【0035】
(電解質溶液の調製)
この発明に用いられる電解質は高分子化合物からなり、図1に示すように、疎水性の主鎖100と親水性のイオン交換基を持つ側鎖101を有する。親水性のイオン交換基は、例えばスルホン基(SO3-)からなる。
一般的に電解質は溶媒(水/有機溶剤)に溶解された状態で流通される。かかる汎用的な電解質溶液に含まれる水分量の調整を行なう。汎用的な電解質溶液には10重量%を超える水が含まれているので、加熱してこれを蒸発させ、更に必要に応じて水及び有機溶剤を添加して電解質溶液を調製する。
電解質溶液中の水分量を10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下とすべきことは既述の通りであり、これにより電解質溶液中の電解質は図1(B)の状態をとる。
【0036】
電解質溶液に含まれる有機溶媒は電解質の特性に応じて適宜選択するものであるが、本発明者の検討によれば、有機溶媒は、第2級アルコール及び第3級アルコールの少なくとも1種であることが好ましい。メタノールやエタノールのような第1級アルコールでは、水分濃度を減らしても電解質溶液の粘度が高くならない。イソプロピルアルコール(IPA)のような第2級アルコールやターシャリーブチルアルコール(TBA)のような第3級アルコールが混合されれば、電解質溶液中における電解質の固形分はより解れた状態になる。また、発明者の試験によれば、第2級アルコール及び第3級アルコールが混合されれば、電解質溶液中における電解質の固形分はさらに解れた状態になる。
【0037】
(プレペーストと電解質溶液との混合撹拌)
湿式粉砕を行ない更に水分が調製されたプレペーストと電解質溶液とが混合撹拌される。
プレペーストと電解質溶液との混合撹拌には自転/公転式遠心撹拌機(ハイブリッドミキサー)を用いることが好ましいが、混合撹拌機能を有する一般的なボールミル、ビーズミル、スターラー、ホモジナイザ−等を採用することもできる。
プレペーストと電解質溶液とを混合撹拌すると、それらの混合物の粘度は図11(A)に示すように、混合物の粘度が時間とともに低下し、その後一定の値で安定する。
図11(B)は撹拌時間(=粘度)と反応層抵抗との関係を示す。
撹拌時間(=粘度)を変化させて得た触媒ペーストを用いて燃料電池を構成し、その反応層のインピーダンスを測定した。
図11(A)及び(B)より、撹拌にともない粘度が低下すると、それに反比例するように、反応層のインピーダンスが高くなることがわかる。インピーダンスが高くなることは反応層中におけるプロトンの移動低下を意味する。
以上より、プレペーストと電解質溶液とを混合して触媒ペーストを作成する際には、撹拌を手早く行なって、混合物の粘度が低下安定する前までに両者の均一混合を完了することが好ましいことがわかる。換言すれば、プレペーストと電解質溶液とを撹拌する際に両者の混合物の粘度をモニタし、その粘度が低位安定する前までに撹拌を止める。
プレペーストと電解質溶液の混合物を撹拌すると、プレペーストの触媒の周囲が電解質で覆われる。このとき、図1(B)のように開いた状態の電解質はその親水基を触媒に対向させて配向しPFF構造を構築する。しかしながら、PFF構造が構築された後にも撹拌を行なうと(以下、「過撹拌」ということがある)、触媒に対向した電解質が触媒から分離され、その時触媒表面の水を奪い、触媒表面から離脱する。触媒表面から離脱した電解質には触媒表面の水が付随するので、電解質は図1(A)の形を取りやすくなる。そのため、触媒ペーストにおける電解質溶液成分の粘度が低下し、これが触媒ペースト自体の粘度の低下を引き起こすと考えられる。また、触媒表面から電解質が離脱することによりPFF構造が脆弱となり、触媒と電解質との間に形成される親水領域の機能が低下する。これが、反応層抵抗を上昇させる原因と予想される。
【0038】
プレペーストと電解質溶液との混合物の粘度は、それぞれの材料や配合比、更には環境温度等によって変化する。従って、混合物の粘度をモニタしてその挙動(粘度の絶対値にあらず)を検出して評価することとなる。
混合物の粘度の挙動とは、混合物の粘度が低位安定する前までの粘度の時間変化を指す。例えば、単位時間あたりの粘度の低下率や初期粘度に対する粘度の低下率などを採用することができる。
図11(A)の図から明らかなように、混合物の撹拌が一定時間(図11(A)の例では4分)を超えると時間当たりの粘度の低下割合が大きくなる。そこで、撹拌にともなう混合物の粘度の低下割合が所定値を超えた時点で撹拌を停止することができる。
触媒ペーストを製造する工程において粘度管理をしていくうえでは、ハイブリッドミキサーの回転速度を一定に保つことが好ましい。更には、撹拌を一定温度下で行うことが好ましい。
【0039】
このようにして得られた触媒ペーストを例えばカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等からなる拡散層へ塗布し、これを高分子電解質膜へ貼り付けて膜電極積層体(MEA)を構成する。乾燥した触媒ペースト層が反応層となる。この膜電極積層体をセパレータで挟んで最小発電単位である燃料電池が構成される。
上記において、粘度の低い触媒ペーストを用いた反応層を、電極のフラッディングし易い部分、例えば、空気出口近傍、水素出口近傍、電極外周部、冷却板近傍等に設けることができる。これにより、高湿度雰囲気でも安定して高性能を示す。
また、粘度の高い触媒ペーストを用いた反応層を、電極の乾燥し易い部分、例えば、空気入口近傍、水素入口近傍、電極中央部分、冷却板から離れた部位等に設けてもよい。これにより、低加湿雰囲気でも安定して高性能を示す。
【0040】
有効なPFF構造を得るには、触媒に対し下記の処理を施すことが好ましい。
図1を参照して、触媒Cは導電性を備えた担体C1に触媒金属粒子C2を担持させたものをいう。担体C1には導電性と通気性が求められ、多孔質のカーボンブラック粒子を採用することができるが、酸化スズ、チタン酸化合物等を使用することもできる。触媒金属粒子C2は燃料電池反応の活性点を提供できる金属微粒子からなり、白金、コバルト、ルテニウム等の貴金属及び当該貴金属の合金を用いることができる。
担体C1へ触媒金属粒子C2を担持させる方法は両者の材質や触媒の用途に応じて含浸法、コロイド法及び析出沈殿法等の周知の方法のなかから適宜選択できる。
【0041】
(触媒の処理)
通常触媒は触媒メーカから提供される。燃料電池に求められる特性等に応じてこの触媒を物理的に及び/又は化学的に処理することが好ましい。
(触媒の物理的処理)
触媒の物理的処理として粉砕処理と脱泡処理とがある。
−粉砕処理−
一般的に触媒はその担体どうしが凝集して、2次粒子、3次粒子を形成している。そこで、触媒の表面積を向上させるために、凝集体を粉砕して微粉末化することが好ましい。そのためには、触媒の凝集体を媒体へ分散させて湿式粉砕することが好ましい。
湿式粉砕を採用することにより、乾式粉砕に比べて、触媒の凝集体へより高いエネルギーを加えてこれをより細かく粉砕可能となる。また、乾式粉砕に比べて、触媒の再結合を効果的に防止できる。湿式粉砕の方法として、ホモジナイザ−、湿式ジェットミル、ボールミル又はビーズミルを採用することができる。
湿式粉砕を採用することにより触媒の担体に付着した不純物を取り除く効果も得られる。媒体には通常水が採用されるが、不純物の特性に応じて、他の媒体(有機溶剤等)を採用してもよい。最初に水を媒体として湿式粉砕を実行し、その後有機溶剤等で触媒から不純物を除去することもできる。
湿式粉砕した触媒を乾燥させるには、昇華により媒体を除去することが好ましい。これにより、触媒の再凝集を防止できる。媒体を昇華させる方法として真空乾燥法が挙げられる。これに対し、加熱乾燥法を採用すると加熱による媒体の移動の際、あるいは、媒体が蒸発する際に、毛管収縮現象が生じて触媒どうしが再結合し、湿式乾燥で得られた高分散状態を維持できなくなる。
湿式粉砕及び必要に応じて不純物除去を、触媒の担体に対して実行し、担体が媒体(例えば水等)に分散した状態でその担体へ触媒金属粒子を担持させることもできる。この場合においても、乾燥工程としては触媒を分散させている媒体を昇華により除去することが好ましい。
【0042】
−脱泡処理−
触媒を水に混合分散させた状態で触媒周囲から気泡を除去(脱泡処理)することが好ましい。触媒と電解質層との間に親水領域を形成する際に当該気泡が妨げとなるからである。
この脱泡処理はハイブリッドミキサー(自転/公転式遠心撹拌機)により遠心撹拌法を用いることにより行なうことができる。
勿論、当該遠心撹拌法に限定されるものではなく、その他の撹拌法(ボールミル法、スターラー法、ビーズミル法、ロールミル法等)を用いることもできる。
また、湿式粉砕時に、触媒周囲から気泡を除去できる場合もあり、その場合は独立した脱泡処理は不要である。
【0043】
(触媒の化学的処理)
触媒を化学的処理して、その触媒金属粒子の表面を特定の親水基で修飾する。
金属触媒粒子の表面を親水基で修飾することにより、触媒金属粒子の周囲の親水性が向上し、触媒Cと電解質層Eとの間の親水領域Wの親水性が高まる。
ここに修飾とは触媒金属粒子表面に当該修飾基が存在し、通常の製造工程を経ても当該修飾基が触媒金属粒子から分離しないことを意味する。
親水基として硝酸基、アミノ基、スルホン酸基、水酸基及びハロゲン基から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。更に好ましくは親水基として硝酸基、アミノ基及びスルホン酸基から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
これらの親水基が触媒金属粒子の周囲に存在することにより、触媒金属粒子の周囲に親水領域が形成されやすくなる。触媒金属粒子は担体に均等に分散されているので、結果として触媒の表面の親水領域が形成されやすくなり、また形成後はそれが安定する。
触媒金属粒子へ上記の親水基を修飾する方法としてこの発明では触媒金属粒子と同一若しくは同種の金属(貴金属)の錯体であって前記修飾基を含むものを前記触媒金属粒子へ結合する。錯体の利用により触媒の構造へ何らストレスを与えることなく触媒金属粒子へ親水基を修飾できる。
【0044】
触媒金属粒子として白金若しくは白金合金を採用したときは、下記の白金錯体溶液で修飾を行なうことが好ましい。かかる白金錯体溶液として、塩化白金(IV)酸水和物水溶液(H2PtCl6・nH2O/H2O sol.)、塩化白金(IV)酸塩酸溶液(H2PtCl6/HCl sol.)、塩化白金(IV)酸アンモニウム水溶液((NH4)2PtCl6/H2O sol.)、ジニトロジアンミン白金(II)水溶液(cis−[Pt(NH3)2(NO2)2]/H2O sol.)、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液(cis−[Pt(NH3)2(NO2)2]/HNO3 sol.)、ジニトロジアンミン白金(II)硫酸溶液(cis−[Pt(NH3)2(NO2)2]/H2SO4 sol.)、テトラクルル白金(II)酸カリウム水溶液(K2PtCl4)/H2O sol.)、塩化第1白金(II)水溶液(PtCl2/H2O sol.)、塩化第2白金(IV)水溶液(PtCl4/H2O sol.)、テトラアンミン白金(II)ジクロライド水和物水溶液([Pt(NH3)4]Cl2・H2O/H2O sol.)、テトラアンミン白金(II)水酸化物水溶液([Pt(NH3)4](OH)2/H2O sol.)、ヘキサアンミン白金(IV)ジクロライド水溶液([Pt(NH3)6]Cl2/H2O sol.)、ヘキサアンミン白金(IV)水酸化物水溶液([Pt(NH3)6](OH)2/H2O sol.)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸水溶液(H2[Pt(OH)6]/H2O sol.)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硝酸溶液(H2[Pt(OH)6]/HNO3 sol.)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硫酸溶液(H2[Pt(OH)6]/H2SO4 sol.)、エタノールアミン白金溶液(H2[Pt(OH)6]/H2NCH2CH2OH sol.)等を採用することができると考える。
【0045】
発明者らの知見によれば、白金若しくは白金合金からなる触媒金属粒子を修飾する親水基として硝酸基を選択することが好ましい。そのためのニトロ白金錯体溶液としては、NO3-を親水性イオンとするジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液(cis−[Pt(NH3)2(NO2)2]/HNO3 sol.)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硝酸溶液((H2Pt(OH)6)/HNO3 sol.)、SO42-を親水性イオンとするヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硫酸溶液((H2Pt(OH)6)/H2SO4 sol.)、NH4+を親水性イオンとするテトラアンミン白金(II)水酸化物水溶液([Pt(NH3)4(OH)2]/H2O sln.)等を採用することができる。
【0046】
触媒金属粒子へ親水基を修飾する方法は、触媒金属粒子や親水基の特性に応じて適宜選択可能であるが、例えば触媒金属粒子が白金製若しくは白金合金製の場合は、触媒を白金錯体溶液に混合し、必要に応じ撹拌すればよい。硝酸基を選択したときは、ジニトロジアミン白金(錯体)の硝酸水溶液へ原料触媒を投入し、撹拌することで原料触媒の触媒白金粒子へ白金錯体(ジニトロジアミン白金)が吸着する。また、原料触媒を水に分散させた状態でジニトロジアミン白金(錯体)の硝酸水溶液を添加撹拌してもよい。ここで撹拌は羽根やスターラを用いた機械的な撹拌に限定されず、1つの管路へ2つの溶液を流通させることで実行することも可能である。
【0047】
(触媒に対する物理的処理及び化学的処理の順序)
触媒における触媒金属粒子を効率良く親水基で修飾するには、化学的処理に先立ち物理的処理を実行しておくことが好ましい。触媒を物理的処理しておくことにより、より多くの触媒金属粒子が親水基を含む処理液へ接触できるようになるからである。
なお、化学的処理により、触媒が再凝集するおそれがあるときは、化学的処理を行なった後に再度物理的処理を行なうことが好ましい。
勿論、触媒に対する化学的処理を最初に実行し、その後に物理的処理を実行してもよい。
PFF構造を得るには、触媒に対して脱泡処理を行なうことが好ましい。
【0048】
以上を総合して、図12に示す触媒ペースト製造装置を提案する。
触媒ペーストの原料となる触媒、水、貴金属錯体及び電解質はそれぞれ、触媒収容部1001、水収容部1021、貴金属錯体溶液収容部1025及び電解質溶液収容部1041に準備される。なお、触媒から有機物を洗浄するための有機溶剤が有機溶剤収容部1023に準備される。各収容部として収容対象に応じた容量及び材質で形成されたタンクを利用できる。
触媒処理部1003は物理的処理部1005及び化学的処理部1007を備える。物理的処理部1005は湿式粉砕部1009及び脱泡部1011を備える。湿式粉砕部1009としてホモジナイザ−や湿式ジェットミル等を用いることができる。脱泡部1011にはハイブリットミキサ等を用いることができる。化学的処理部1007は撹拌羽根を備えた汎用的な撹拌装置を適用できる。金属触媒粒子に対する反応性が高い貴金属錯体を採用したときは、触媒スラリーを流通させる管路へ当該貴金属錯体溶液を注入すること化学的反応を完成させることも可能である。
【0049】
触媒処理部において触媒は多量の水に分散されスラリー状のプレペーストとなっているので、水分量調整部1031においてプレペーストの水分量を調整する。
この場合、スラリー状のプレペーストから水分を除去することとなるので、周知の濃縮方法(例えば、加熱蒸発装置、濾過装置、遠心分離装置)等を用いることができる。また、水分量はプレペーストの比重から特定可能であるので、水分量調整部は比重測定装置を備えることが好ましい。また、プレペーストの水分量が過少となった場合を想定して、水分補給装置を備えることが好ましい。
【0050】
電解質溶液の水分調整部1043は加熱蒸発装置及び水分補給装置を備えることが好ましい。水分量は比重から特定可能であるので更に比重測定装置を備えることが好ましい。
混合撹拌部1051はそれぞれ水分量の調節されたプレペーストと電解質溶液を混合撹拌し、例えばハイブリッドミキサーを用いることができるが、これに限定されるものではない。なお、過撹拌を避けるために、混合撹拌部1051には粘度計1061を付設することが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、この発明の実施例の説明をする。
(プレペーストの調製)
カーボンブラックを担体としてPt微粒子を担持密度50wt%で担持した触媒を用意した。そして、1gの触媒に対して流動性限界となる水量の水10gの割合となる水量で触媒と水とを混合し、ハイブリットミキサーにより4分間遠心攪拌した。
次に、90gの水を追加し、超音波ホモジナイザ−としてブランソン社製(型番:ソニファイアModel450)を用い、湿式粉砕を10分間行なった。湿式粉砕として湿式ジェットミルを採用してもよい。
このようにして湿式粉砕した液を1時間以上放置して触媒を沈殿させ上澄み液を除去した。
残さを90℃で湯煎し、流動性限界量の水に対して、0.6倍、1.0倍、2.0倍及び3.0倍になるように調整した。
【0052】
(電解質溶液の調製)
10gのDE2020(デュポン社商品名、以下同じ)を85°Cで湯煎し、DE2020中における水及びNPAの含有量をいずれも2gまで低減させた。次に、このDE2020に34gのIPA(イソプロピルアルコール)を混合し、ハイブリッドミキサーによって3分間攪拌を行った。これにより、DE2020中の水及びNPAの含有量は、サンプルEのナフィオン溶液中の濃度に換算して5%に相当する量となる。こうして電解質溶液を得た。
【0053】
(プレペーストと電解質溶液との混合撹拌)
上記のようにして得られたプレペースト11g(流動限界量に対する水量1.0倍の場合)に対して電解質溶液10gをハイブリッドミキサーに投入し、4分間混合撹拌し、触媒ペーストとする。
上記の各触媒ペーストをガス拡散層基材に塗布し、反応層を形成した。ガス拡散層基材は、PTFEで撥水処理を行ったカーボンブラックと、電子伝導性を有する基材としてのカーボンクロスとを積層することで得られている。なお、カーボンペーパー等による基材の上に、カーボンブラックとPTFEとの混合物からなる撥水層を設けたガス拡散層基材を採用することもできる。また、触媒ペースト41をガス拡散層基材へ塗布する方法としては、スクリーン印刷、スプレー法、インクジェット法等の手段を採用することができる。
【0054】
触媒ペーストが塗布された基材を乾燥させる。このようにして形成された空気極及び水素極を固体高分子電解質膜(ナフィオン膜:NR211)へ積層し、140°C、加圧力40kgf/cm2でホットプレスして接合した。
こうして膜電極接合体の発電特性を下記の高加湿運転条件下で行なった。
運転条件:セル温度50℃、空気(常圧)及び水素(常圧)を加湿(バブラ温度50℃)。
結果を図13に示す。
図13の結果から、プレペーストに含まれるべき水分量は流動性限界に対応する水分量の1〜2倍とすることが好ましいことがわかる。
なお好ましい水分量は、湿式粉砕をしていないプレペーストにおいても適用される。
【0055】
(反応層抵抗の測定)
セル温度50℃、空気極へ窒素(常圧)を水素極へ水素(常圧)を加湿(バブラ温度50℃)して流通させ、空気極側の反応層抵抗を測定した。
結果を図14に示す。図14において横軸は流動性限界に対応する水分量を1としたときの水分量を示し、縦軸の抵抗値の測定の方法は非特許文献1〜3に基づいている。
図14の結果も、プレペーストに含まれるべき水分量を流動性限界に対応する水分量の1〜2倍とすることが好ましいことを示している。なお、1より小さい範囲においては、触媒の親水化処理が不完全になるおそれがあるので好ましくない(図4参照)。
【0056】
本発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0057】
81 触媒
81a 担体
81b 白金触媒微粒子
82 電解質
83 親水性領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒ペーストの製造方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に用いられる膜電極接合体は固体高分子電解質膜を水素極と空気極とで挟んだ構成であり、水素極及び空気極はそれぞれ固体高分子電解質膜側から反応層と拡散層とを順次積層してなる。
反応層は触媒と電解質との混合物からなり、電子及びプロトンの導電性と通気性が求められる。ここにプロトンは水を伴ってH3O+のかたちで移動するので、反応層を湿潤状態に維持する必要がある。勿論、反応層に水分が過剰に存在すると通気性を阻害するので(いわゆるフラッディング現象)、反応層の水分は常に適当量に維持されなければならない。
かかる要求を満足すべく、本出願人は、特許文献1及び特許文献2においてPFF構造(登録商標:以下同じ)の反応膜を提案してきている。ここにPFF構造とは高分子電解質の側鎖の親水性官能基が、触媒上に親水領域を形成すべく、触媒側に配向している構造を指す。かかるPFF構造は、触媒と水とを予め混合したプレペーストを準備し、このプレペーストと電解質溶液とを混合し、適切な撹拌方法を採用することにより得られる。PFF構造を採用することにより、
反応層における水の偏在が防止される。また、燃料電池を低加湿環境下で運転するときにおいても、この親水性の領域に水がまとまって存在するので、過乾燥を防止できる。また、高加湿環境下での運転では、過剰な水がこの親水性の領域を介して外部(拡散層側)へ排出されるので、フラッティングを防止できる。
なお、本件発明に関連する技術を開示する文献として特許文献3及び非特許文献1〜3を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−140061号公報
【特許文献1】特開2006−140062号公報
【特許文献3】特開2009−104905号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Electrochemical Society 2005, vol.152,No.5,PP.A970-A977 MAKHARIA Rohit ; MATHIAS Mark F. ; BAKER Daniel R. “Measurement of catalyst layer electrolyte resistance in PEFCs using electrochemicalimpedance spectroscopy”
【非特許文献2】Journal of Electroanalytical Chemistry 475, 107-123(1999) M.Eikerling and A.A.kornyshev “electrochemical impedance of Cathode Catalyst Layer of Polymer Electrolyte Fuel Cells”
【非特許文献3】「電気化学インピーダンス法」(丸善 板垣 昌幸) 8 分布定数型等価回路を用いた電気化学インピーダンス解析(pp133〜146)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PFF構造を確保するため、本発明者は種々の検討を行なっている。
A (触媒と水とを混合してなるプレペーストの調製の改良)
触媒の表面へ電解質の親水基を対向させて電解質と触媒との間に親水性領域を得るため、触媒と水とを混合し触媒の表面へ水の層を予め形成しておく(触媒の親水化工程)。
本発明者の検討によれば、触媒と水との混合比は触媒の種類(特に触媒の担体の種類、粒度)に応じて適宜選択されるべきものであるが、触媒と水との混合物(プレペースト)がキャピラリ状態(触媒粒子の全周囲に水が存在するも流動性なし)からスラリー状態(触媒粒子の全周囲に水が存在して流動性あり)に変化する水分状態(流動性限界)及びその近傍の水分状態とすることが好ましい。かかる水分量は、触媒の表面を親水化しつつ、触媒と電解質との間に連続する親水性領域を形成できる最適な量となる。
上記最適量より多い水分量においても触媒の周囲には水が存在するので、触媒表面を親水化できる。しかしながら、かかる過剰な水分は、プレペーストを電解質溶液(プレ溶液)と混合する際に、PFF構造構築の妨げとなるおそれがある。過剰な水は触媒を離れ、触媒から離れた領域において電解質の親水基を引き寄せる。従って、触媒に対向する電解質の親水基が減少し、その結果、触媒と電解質との間に形成すべき親水性の領域が狭くなったり、分断されたり、また、当該領域における親水機能の低下(水分の保持力の低下)が生じたりする。
詳細は特願2009−256459号を参照されたい。
【0006】
B(電解質溶液の調製)
電解質には高分子材料、例えばナフィオン(デュポン社商標名、以下同じ)等のフッ素系ポリマーが一般的に用いられる。この電解質は水と有機溶媒との混合溶媒に溶解され、既述のプレペーストと混合される。
既述のフッ素系ポリマーも、溶媒に溶解された電解質溶液の状態で流通されている。この溶媒は水と有機溶剤の混合体である。
本発明者は、既述のPFF構造に用いる電解質溶液の最適化を検討した結果、電解質溶液に含まれるべき最適な水分量が、電解質溶液の10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下であることに気がついた。
電解質と水分量との間には次の関係がある。
電解質溶液中の水分の濃度を低減させると、電解質溶液における電解質の濃度が同じ場合においても電解質溶液の粘度が高くなり、逆に水分の濃度を高くすると電解質溶液の粘度が低くなることを見出した。その理由は次のように推定される。
即ち、電解質溶液の水分の濃度が高い場合、図1(A)に示す通り、電解質の側鎖E2に水が吸着し電解質溶液中で電解質の主鎖E1が凝集した状態となり、電解質溶液の粘度が低下すると推察した。また、電解質溶液の水分濃度がやや低くなれば、電解質溶液に含有されている有機溶媒の作用によって、図1の(B)に示すように、電解質溶液中で電解質の主鎖E1が開き、相互に絡むため電解質溶液の粘度が上昇する。
【0007】
凝集が進行した電解質(図1A)の主鎖E1を含む電解質溶液を混合して反応層を形成した場合、この反応層では、図2に示すような状態となっていると考えられる。すなわち、電解質の主鎖E1が凝集していることから、側鎖E2が多方向に向かって延びることとなる。そして、この側鎖E2と反応層中の水とが吸着することにより、反応層中で親水性の領域Wが分散して形成されることとなる。このため、この反応層において電解質の主鎖E1が凝集している箇所では、反応層中のイオン抵抗により、プロトン及び水が反応層内を移動し難い。このため、低加湿状態では、電解質膜及び各触媒層中の電解質の乾燥による性能低下を引き起こし、過加湿状態では、フラッディングによる性能低下が生じる要因となる。
換言すれば、電解質の親水基(側鎖E2)を触媒Cへ対向させて両者の間に親水性の領域Wを確実に形成するためには、電解質溶液中において電解質は図1(B)の状態にすることが好ましい。そのためには、既述のとおり、電解質溶液に含まれる水分量を電解質溶液の10重量%以下とする。
【0008】
図1(B)の状態の電解質を用いたときのカソード触媒層は図3の状態になると考えられる。
電解質の側鎖E2は、一方向に延びた状態にあり、このため、触媒ペースト、すなわち燃料電池用反応層では、親水性のイオン交換基(スルホン基)がプレペースト中の水を吸着することとなる。このため、図3に示すように、この反応層では、触媒Cの表面に電解質の親水基E2が対向した状態となり、電解質層Eと触媒Cとの間に親水性の領域Wが形成される。そして、上記のようにスルホン基がプレペースト中の水と吸着することで、触媒C周りに親水領域Wが連続して形成され、かつ互いに連通した状態で形成されると考えられる。このため、この触媒ペーストを用いた反応層では、図3に示すように、プロトン及び水が移動し易く、電気化学的反応が円滑に進行される。かかる反応層を有する燃料電池は低加湿状態及び過加湿状態のいずれであっても、発電能力を高くすること可能となる。
詳細は特願2010−002362号を参照されたい。
【0009】
本発明者による上記のプレペースト(触媒と水との混合物)の調製に関する知見Aと電解質溶液の調製に関する知見Bの少なくとも一方を実行することにより得られた触媒ペーストは燃料電池の出力特性を向上させる。
燃料電池には更なる出力特性の向上が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記要求にこたえるべく鋭意検討を重ねてきた結果、PFF構造を有する反応層では、触媒の粒子が電解質中においてより均等に分散されていることが好ましいことに気がついた。換言すれば、触媒の粒子が塊(二次粒子、三次粒子等)を形成していると、触媒と触媒との接触面には親水性領域が形成されないからである。他方、一般的に、PFF構造をとらない反応層では触媒の粒子は異なる径の凝集体と考えられる。異なる径の触媒粒子凝集体間に大きな細孔が形成され、水の排出パスとして機能すると考えられるからである。
本発明者は触媒粒子の凝集を解いて均一に触媒を分散する方策として、触媒と水との混合物であるプレペーストを湿式粉砕することに気がついた。 しかしながら、湿式粉砕を実行するためには、プレペーストに充分な流動性が必要となり、そのためには触媒を多量の水へ分散させなければならない。
ところが、既述のとおり、プレペーストに含まれるべき水量は制限されている。即ち、その水量はプレペーストが流動性限界となる量若しくはその近傍の量とすべきである。従って、触媒の凝集体を解体するには、触媒を多量の水に分散してこれを湿式粉砕し、その後、水分を除去して、得られたプレペーストが流動性限界若しくはその近傍となるようにその水分量を調節する。
【0011】
本発明者は、以上の知見に基づき、この発明に想到した。即ち、この発明の第1の局面は次のように規定される。
触媒と水とを混合してプレペーストを得る第1のステップと、
親水性の側鎖に有する電解質を、水分量が10重量%以下の状態で溶媒へ溶解して電解質溶液を得る第2のステップと、
前記プレペーストと前記電解質溶液を混合して撹拌する第3のステップと、を有し、
前記第1のステップは、前記触媒を多量の水に分散してこれを湿式粉砕する湿式粉砕ステップと、
湿式粉砕された分散液から水分を除去して得られるプレペーストの水分量を流動限界からスラリー状態までの範囲内とする、水分除去ステップと、
を備える、ことを特徴とする触媒ペーストの製造方法。
【0012】
このように規定される第1の局面の触媒ペーストの製造方法によれば、触媒を湿式粉砕するので、触媒粒子の凝集が解かれる。その結果、電解質と触媒との接触面積が広がる。電解質と触媒との接触面に親水性の領域が形成されるので、このように電解質と触媒との接触面積を広くすることにより、反応層中におけるPFF構造が拡大し、もって反応層の特性が向上する。
プレペーストと電解質とを混合して触媒ペーストを形成する際に、過剰な水が存在すると、PFF構造に悪影響が生じることは既述の通りである。従って、水分除去ステップにおいて過剰な水分を除去することにより、安定したPFF構造を構築することができる。
なお、本発明者らの検討によれば、プレペーストに含まれるべき水分量は流動性限界の2倍以内にすることが好ましい。他方、湿式粉砕には、通常最低流動性限界の5倍以上の水が必要である。
また、触媒の触媒金属粒子を硝酸基、アミノ基、スルホン基等の親水基(水酸基は除く)で修飾することが好ましい。この修飾はプレペースト形成前に触媒に対して行なうことが好ましい。
【0013】
上記の触媒ペーストの製造方法を実行するため、下記の装置を提案する。即ち、 触媒と水とを混合してプレペーストを得る第1の混合部と、
前記プレペーストと電解質溶液を混合かつ撹拌する第2の混合撹拌部と、を有し、
前記第1の混合部は、前記触媒を水に分散してこれを湿式粉砕する湿式粉砕部と、
湿式粉砕された分散液から水分を除去して得られるプレペーストの水分量を流動限界からスラリー状態までの範囲内とする水分量調整部と、
を備える、ことを特徴とする触媒ペーストの製造装置。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は電解質溶液中の電解質の形態を示す模式図である。
【図2】図2は図1(A)に対応したPFF構造を説明する模式図である。
【図3】図3は図1(B)に対応したPFF構造を説明する模式図である。
【図4】図4は粒子と水との分散状態を示す摸式図である。
【図5】図5は実験例1に係り、プレペーストのせん断速度と粘度との関係を示すグラフである。
【図6】図6は実験例1に係り、水倍率とせん断速度−粘度勾配との関係を示すグラフである。
【図7】図7は実験例2に係り、プレペーストのせん断速度と粘度との関係を示すグラフである。
【図8】図8は実験例2に係り、水倍率とせん断速度−粘度勾配との関係を示すグラフである。
【図9】図9実験例3に係り、プレペーストのせん断速度と粘度との関係を示すグラフである。
【図10】図10は実験例3に係り、水倍率とせん断速度−粘度勾配との関係を示すグラフである。
【図11】図11(A)はプレペーストと電解質溶液との撹拌時間と粘度との関係を示し、図11(B)は同じく撹拌時間と反応層抵抗の関係を示す。
【図12】図12はこの発明の実施形態の触媒ペースト製造装置の構成を示すブロック図である。
【図13】図13は水量との燃料電池の出力特性を示す。
【図14】図14は同じく水量と反応層抵抗との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記において、触媒とは導電性を備えた担体に触媒金属粒子を担持させたものをいう。担体には一般的なカーボンブラック粒子を採用することができるが、酸化スズ、チタン酸化物等を使用することも可能である。触媒金属粒子には白金、白金−コバルト合金等の汎用的なものを採用することができる。
【0016】
(プレペーストの作製)
プレペーストは下記(1)〜(3)のステップにより作成される。
(1)触媒と水とをハイブリッドミキサーで混合撹拌するステップ
従来はこのステップにより得られたものをプレペーストとして利用していた。
(2)湿式粉砕するステップ
ステップ(1)で得られたプレペーストを湿式粉砕する。このときプレペーストへ多量の水分を加え、プレペーストの流動性を高くして湿式ジェットミルやホモジナイザ−による湿式粉砕機能を充分に発揮させる。
(3)水分除去ステップ
湿式粉砕された触媒−水の混合物から必要な水分を除去する。
(1)のステップの水分量は任意に設定可能なものとし、このステップ(1)で得られるプレペーストは、多めに水分を含んでいてもよい。(3)のステップで水分量が最終的に調製されるからである。
湿式粉砕により触媒表面を親水化処理できれば、ハイブリッドミキサーによる混合撹拌ステップ(1)を省略できる。
【0017】
(湿式粉砕)
湿式粉砕を行なうときには、触媒を多量の水に対して分散させる。このときの水の量(重量)は触媒に対して5倍以上とすることが好ましい。水分量が5倍未満であると、湿式粉砕が不完全となるおそれがある。水分量の上限は特に制限されるものではないが、触媒に対して100倍以下とすることが好ましい。水除去ステップの負荷を低減するためである。
湿式粉砕は対象となる触媒の凝集体を粉砕可能であればいかなるタイプの湿式粉砕方式を用いてもよく、例えば、超音波ホモジナイザ−、湿式ジェットミル、湿式ボールミル、湿式ディスクミル又は湿式ビーズミル等を採用することができる。特に、メディアレス方式である、超音波ホモジナイザ−、湿式ジェットミル、湿式ディスクミルを用いることが作業効率向上の観点から好ましい。なお、本発明の実施例では超音波ホモジナイザ−又は湿式ジェットミルを用いている。
【0018】
湿式処理の実行時において触媒は多量(流動性限界に対応する水分量の5倍以上)の水に分散されている。この過剰な水が存在すると、プレペーストを電解質溶液(プレ溶液)と混合する際に、PFF構造構築の妨げとなるおそれがある。過剰な水は触媒を離れ、触媒から離れた領域において電解質の親水基を引き寄せる。従って、触媒に対向する電解質の親水基が減少し、その結果、触媒と電解質との間に形成すべき親水性の領域が狭くなったり、分断されたり、当該領域における親水機能の低下(水分の保持力の低下)が生じたりする。
また、プレペースト中の過剰な水は電解質溶液にも影響を与え、疎水基を伸ばした状態の電解質(図1(B)参照)が、プレペーストの過剰水により、図1(A)の状態になりかねない。
本発明者の検討によれば、プレペーストに含まれる水分量は、流動性限界に対応する水分量乃至その2倍の量以内とすることが好ましい。
【0019】
以下、プレペースト中の水分量と流動性限界について説明する。
粒子と水との混合物において、粒子と水との分散状態は、「スラリーの安定化技術と調製事例」(情報機構刊)に示されるように、4種類に分けられる。以下、上記の出典を基に説明する。図4に示すように、符号2が粒子を示し、符号3が水を示し、符号4が空気を示している。
粒子2を上記の触媒に相当させる。粒子2に対して水3の量が少ない場合、図4の(A)に示すように、各粒子2の固相は連続した状態となり、水3の液相は不連続の状態となる。このため、粒子2同士の間に大きな空気4からなる気相が生じている。この状態はペンデュラ状態と呼ばれる。
このペンデュラ状態に水3をさらに加え、粒子2に対する水3の量を多くすれば、図4の(B)に示すように、気相の割合が減少する。この状態はファニキュラ状態と呼ばれる。ファニキュラ状態では、水3の液相が連続した状態となるが、未だ空気4の気相が残存している
【0020】
ファニキュラ状態から、さらに水3の量を多くすれば、図4の(C)に示すように、粒子2と水3との混合物は塑性限界を超える。この状態はキャピラリ状態と呼ばれる。キャピラリ状態では、各粒子2同士の間隙が水3に満たされた状態となる。すなわち、各粒子2の固相は不連続の状態となり、水3の液相は連続した状態であり、かつ空気4の気相が存在しない状態となる。
このキャピラリ状態から、さらに水3の量を多くすれば、図4の(D)に示すように、各粒子2が水3の中に分散され、流動性を持つようになる。この状態はスラリー状態と呼ばれる。
流動限界とは、混合物がキャピラリ状態からスラリー状態へと変化し、流動し始める水分含量の限界をいう。
触媒の表面を単純に親水化するという目的であれば、触媒に対して過剰に水を混合することでもその効果を得ることが可能であると考えられる。しかしながら、触媒に対して過剰に水を混合した場合には、プレペースト中に余分な水が多くなる。その場合には、余分な水にも高分子電解質の親水基が配向するため、触媒と高分子との間に連続する親水層を形成することを阻害し、発電時の生成水を触媒近傍に保持する能力が損なわれ、低加湿環境で燃料電池システムの出力が低下し易くなるという逆効果が生じる。
【0021】
これに対し、触媒に混合する水の混合量を流動限界に基づいて規定し、プレペーストが流動限界近傍であるキャピラリ状態からスラリー状態に変化する水分状態とすることにより、水の混合量は、水により触媒表面を親水化しつつ、触媒と高分子電解質との間に連続する親水層を形成できる最少水分量となる。このため、得られるプレペーストは、高出力を安定して得られるMEA(膜電極接合体)を製造するための理想的な状態となる。
【0022】
プレペーストのせん断速度と粘度との関係において、粘度をせん断速度に対して両対数でプロットしたときの近似直線を求め、流動限界は近似直線の傾きが−1となるペースト状態であり、スラリー状態は近似直線の傾きが−0.8となるペースト状態である。
【0023】
せん断速度に対する粘度の関係における近似直線の傾きが−1以上、すなわち、傾きが緩やかになるとともに流動性の高いスラリー状態になる。過剰な水分を含んだ状態はMEAの性能の低下を招くため、ペーストが流動限界からスラリー状態になる、すなわち、傾き−1〜−0.8の範囲となる水添加量が最適量となる。これにより理想的なプレペーストを得ることができる。プレペーストではこの近似直線の傾きにより必要最小限の水分添加量を規定することが重要である。一方、傾きが−1未満(傾きがきつくなる)のキャピラリ状態では混合物の流動性がなくなるため、混合時におけるエネルギーがより必要となり、水と触媒との攪拌が不十分となり易く、好適なプレペーストが得られる条件として適さない。
【0024】
{検証1}
プレペーストに含まれる水量の最適値について、以下の実験例1〜3による検証を行った。実験例1〜3では、触媒に混合する水の量の最適値を決定するパラメータとして、触媒と水とを含むプレペーストの粘度に着目し、プレペーストの粘度測定を行った。なお、粘度の測定においては、東機産業製RB80型粘度測定機を用いた。
【0025】
(実験例1)
実験例1では、触媒に混合する水の量を変化させてプレペーストの粘度を測定した。実験例1では、触媒として、ほぼ球形のカーボン担体(KB600JD、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製)に担持密度60wt%でPt微粒子を担持したものを用意した。この触媒に混合される水の量は、触媒中からPt微粒子を取り除き、カーボン担体の重量に対する水の重量の比(H2O/C)で規定される。実験結果を図5及び図6に示す。
【0026】
図5は、横軸xにせん断速度(log(D[1/秒]))を示し、縦軸yに粘度(log(η[Pa・秒]))を示している。それぞれの水量における直線の関数式は以下のとおりである。
H2O/C=19:y=−1.0934x+0.7264
H2O/C=20:y=−0.9226x+0.7341
H2O/C=22:y=−0.8156x+0.5516
H2O/C=26:y=−0.7314x+0.369
H2O/C=38:y=−0.7418x−0.0975
【0027】
このように、水量が少なくなると、プレペーストの粘度が増加するとともに、直線の傾きが−1に近づくことが分かる。これは、水量が少なくなると、カーボン担体同士の凝集が進むとともに、プレペーストの粘度が増大し、これにより直線の傾きがきつくなるためである。図5は、直線の傾きが−1より大きくなったプレペーストが流動限界を超え、キャピラリ状態になったことを示唆している。
【0028】
図6は、H2O/C=19の水分量のプレペーストにおける水倍率(H2O/C)[g/g−C]とせん断速度−粘度勾配d(logη)/d(logD)との関係を示している。図5では、せん断速度−粘度勾配が−1を超えれば、流動限界であり、プレペーストが流動限界を超えたことを示している。図6に示すように、水倍率が20の近傍で勾配が-1となる。すなわち、この実験例1に用いた触媒では、水倍率20が最適値であると言える。
【0029】
(実験例2)
実験例2では、実験例1で用いた触媒と同じく、KB600JDに担持密度60wt%でPt微粒子81bを担持している触媒であるが、触媒とは製造元が異なる触媒を用いた。実験の方法等は実験例1と同様である。結果を図7及び図8に示す。
【0030】
図7に示す直線の関数式は以下のとおりである。
H2O/C=27:y=−1.0436x+0.8981
H2O/C=28:y=−0.9077x+0.7343
H2O/C=31:y=−0.7585x+0.5736
【0031】
図8に示すように、これらのプレペーストでは、水倍率が27の近傍で勾配が−1を超えている。
図7及び図8より、この実験例2に用いた触媒では、水倍率を28とすることで、プレペーストが流動限界に近くなる。すなわち、同じ担持密度60wt%のKB600JDを用いた触媒であっても、製造元が異なれば、最適水分量となる水量に差が生じることが分かる。
【0032】
(実験例3)
実験例3では、BP800(CABOT社製)にPt微粒子を担持密度20wt%で担持した触媒を用い、水倍率を変化させた場合のプレペーストの粘度を測定した。実験の方法等は実験例1と同様である。結果を図9及び図10に示す。
図9に示す直線の関数式は以下のとおりである。
H2O/C=3.2:y=−1.1138x+0.8268
H2O/C=3.5:y=−0.9418x+0.5033
H2O/C=4:y=−0.8924x+0.1093
H2O/C=5:y=−0.6826x−0.2232
【0033】
図10に示すように、これらのプレペーストでは、水倍率が3.2の近傍で勾配が−1を超えている。すなわち、この実験例3の触媒では水倍率3.5が最適水添加量となる。
このように、実験例1に比べ、勾配が−1になる水量が実験例3の方が少ないのは、BP800の比表面積が実験例1におけるKB600JDのおよそ6分の1であることによる。すなわち、BP880の最適水量は、実験例1のおよそ6分の1となっている。
【0034】
各実験例1〜3により、各触媒に混合する水の量の最適値は、各触媒の種類、より詳細には、各触媒中のカーボン担体の種類や粉砕状況によって変化することが判明した。そして、プレペーストの流動限界を基に各触媒に混合する水の量を決定することが好ましいことがわかる。また、図5、図7及び図9に示す各直線の関数式によれば、各プレペーストの流動限界となる水量は直線の傾きが−0.8〜−1である。
【0035】
(電解質溶液の調製)
この発明に用いられる電解質は高分子化合物からなり、図1に示すように、疎水性の主鎖100と親水性のイオン交換基を持つ側鎖101を有する。親水性のイオン交換基は、例えばスルホン基(SO3-)からなる。
一般的に電解質は溶媒(水/有機溶剤)に溶解された状態で流通される。かかる汎用的な電解質溶液に含まれる水分量の調整を行なう。汎用的な電解質溶液には10重量%を超える水が含まれているので、加熱してこれを蒸発させ、更に必要に応じて水及び有機溶剤を添加して電解質溶液を調製する。
電解質溶液中の水分量を10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下とすべきことは既述の通りであり、これにより電解質溶液中の電解質は図1(B)の状態をとる。
【0036】
電解質溶液に含まれる有機溶媒は電解質の特性に応じて適宜選択するものであるが、本発明者の検討によれば、有機溶媒は、第2級アルコール及び第3級アルコールの少なくとも1種であることが好ましい。メタノールやエタノールのような第1級アルコールでは、水分濃度を減らしても電解質溶液の粘度が高くならない。イソプロピルアルコール(IPA)のような第2級アルコールやターシャリーブチルアルコール(TBA)のような第3級アルコールが混合されれば、電解質溶液中における電解質の固形分はより解れた状態になる。また、発明者の試験によれば、第2級アルコール及び第3級アルコールが混合されれば、電解質溶液中における電解質の固形分はさらに解れた状態になる。
【0037】
(プレペーストと電解質溶液との混合撹拌)
湿式粉砕を行ない更に水分が調製されたプレペーストと電解質溶液とが混合撹拌される。
プレペーストと電解質溶液との混合撹拌には自転/公転式遠心撹拌機(ハイブリッドミキサー)を用いることが好ましいが、混合撹拌機能を有する一般的なボールミル、ビーズミル、スターラー、ホモジナイザ−等を採用することもできる。
プレペーストと電解質溶液とを混合撹拌すると、それらの混合物の粘度は図11(A)に示すように、混合物の粘度が時間とともに低下し、その後一定の値で安定する。
図11(B)は撹拌時間(=粘度)と反応層抵抗との関係を示す。
撹拌時間(=粘度)を変化させて得た触媒ペーストを用いて燃料電池を構成し、その反応層のインピーダンスを測定した。
図11(A)及び(B)より、撹拌にともない粘度が低下すると、それに反比例するように、反応層のインピーダンスが高くなることがわかる。インピーダンスが高くなることは反応層中におけるプロトンの移動低下を意味する。
以上より、プレペーストと電解質溶液とを混合して触媒ペーストを作成する際には、撹拌を手早く行なって、混合物の粘度が低下安定する前までに両者の均一混合を完了することが好ましいことがわかる。換言すれば、プレペーストと電解質溶液とを撹拌する際に両者の混合物の粘度をモニタし、その粘度が低位安定する前までに撹拌を止める。
プレペーストと電解質溶液の混合物を撹拌すると、プレペーストの触媒の周囲が電解質で覆われる。このとき、図1(B)のように開いた状態の電解質はその親水基を触媒に対向させて配向しPFF構造を構築する。しかしながら、PFF構造が構築された後にも撹拌を行なうと(以下、「過撹拌」ということがある)、触媒に対向した電解質が触媒から分離され、その時触媒表面の水を奪い、触媒表面から離脱する。触媒表面から離脱した電解質には触媒表面の水が付随するので、電解質は図1(A)の形を取りやすくなる。そのため、触媒ペーストにおける電解質溶液成分の粘度が低下し、これが触媒ペースト自体の粘度の低下を引き起こすと考えられる。また、触媒表面から電解質が離脱することによりPFF構造が脆弱となり、触媒と電解質との間に形成される親水領域の機能が低下する。これが、反応層抵抗を上昇させる原因と予想される。
【0038】
プレペーストと電解質溶液との混合物の粘度は、それぞれの材料や配合比、更には環境温度等によって変化する。従って、混合物の粘度をモニタしてその挙動(粘度の絶対値にあらず)を検出して評価することとなる。
混合物の粘度の挙動とは、混合物の粘度が低位安定する前までの粘度の時間変化を指す。例えば、単位時間あたりの粘度の低下率や初期粘度に対する粘度の低下率などを採用することができる。
図11(A)の図から明らかなように、混合物の撹拌が一定時間(図11(A)の例では4分)を超えると時間当たりの粘度の低下割合が大きくなる。そこで、撹拌にともなう混合物の粘度の低下割合が所定値を超えた時点で撹拌を停止することができる。
触媒ペーストを製造する工程において粘度管理をしていくうえでは、ハイブリッドミキサーの回転速度を一定に保つことが好ましい。更には、撹拌を一定温度下で行うことが好ましい。
【0039】
このようにして得られた触媒ペーストを例えばカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等からなる拡散層へ塗布し、これを高分子電解質膜へ貼り付けて膜電極積層体(MEA)を構成する。乾燥した触媒ペースト層が反応層となる。この膜電極積層体をセパレータで挟んで最小発電単位である燃料電池が構成される。
上記において、粘度の低い触媒ペーストを用いた反応層を、電極のフラッディングし易い部分、例えば、空気出口近傍、水素出口近傍、電極外周部、冷却板近傍等に設けることができる。これにより、高湿度雰囲気でも安定して高性能を示す。
また、粘度の高い触媒ペーストを用いた反応層を、電極の乾燥し易い部分、例えば、空気入口近傍、水素入口近傍、電極中央部分、冷却板から離れた部位等に設けてもよい。これにより、低加湿雰囲気でも安定して高性能を示す。
【0040】
有効なPFF構造を得るには、触媒に対し下記の処理を施すことが好ましい。
図1を参照して、触媒Cは導電性を備えた担体C1に触媒金属粒子C2を担持させたものをいう。担体C1には導電性と通気性が求められ、多孔質のカーボンブラック粒子を採用することができるが、酸化スズ、チタン酸化合物等を使用することもできる。触媒金属粒子C2は燃料電池反応の活性点を提供できる金属微粒子からなり、白金、コバルト、ルテニウム等の貴金属及び当該貴金属の合金を用いることができる。
担体C1へ触媒金属粒子C2を担持させる方法は両者の材質や触媒の用途に応じて含浸法、コロイド法及び析出沈殿法等の周知の方法のなかから適宜選択できる。
【0041】
(触媒の処理)
通常触媒は触媒メーカから提供される。燃料電池に求められる特性等に応じてこの触媒を物理的に及び/又は化学的に処理することが好ましい。
(触媒の物理的処理)
触媒の物理的処理として粉砕処理と脱泡処理とがある。
−粉砕処理−
一般的に触媒はその担体どうしが凝集して、2次粒子、3次粒子を形成している。そこで、触媒の表面積を向上させるために、凝集体を粉砕して微粉末化することが好ましい。そのためには、触媒の凝集体を媒体へ分散させて湿式粉砕することが好ましい。
湿式粉砕を採用することにより、乾式粉砕に比べて、触媒の凝集体へより高いエネルギーを加えてこれをより細かく粉砕可能となる。また、乾式粉砕に比べて、触媒の再結合を効果的に防止できる。湿式粉砕の方法として、ホモジナイザ−、湿式ジェットミル、ボールミル又はビーズミルを採用することができる。
湿式粉砕を採用することにより触媒の担体に付着した不純物を取り除く効果も得られる。媒体には通常水が採用されるが、不純物の特性に応じて、他の媒体(有機溶剤等)を採用してもよい。最初に水を媒体として湿式粉砕を実行し、その後有機溶剤等で触媒から不純物を除去することもできる。
湿式粉砕した触媒を乾燥させるには、昇華により媒体を除去することが好ましい。これにより、触媒の再凝集を防止できる。媒体を昇華させる方法として真空乾燥法が挙げられる。これに対し、加熱乾燥法を採用すると加熱による媒体の移動の際、あるいは、媒体が蒸発する際に、毛管収縮現象が生じて触媒どうしが再結合し、湿式乾燥で得られた高分散状態を維持できなくなる。
湿式粉砕及び必要に応じて不純物除去を、触媒の担体に対して実行し、担体が媒体(例えば水等)に分散した状態でその担体へ触媒金属粒子を担持させることもできる。この場合においても、乾燥工程としては触媒を分散させている媒体を昇華により除去することが好ましい。
【0042】
−脱泡処理−
触媒を水に混合分散させた状態で触媒周囲から気泡を除去(脱泡処理)することが好ましい。触媒と電解質層との間に親水領域を形成する際に当該気泡が妨げとなるからである。
この脱泡処理はハイブリッドミキサー(自転/公転式遠心撹拌機)により遠心撹拌法を用いることにより行なうことができる。
勿論、当該遠心撹拌法に限定されるものではなく、その他の撹拌法(ボールミル法、スターラー法、ビーズミル法、ロールミル法等)を用いることもできる。
また、湿式粉砕時に、触媒周囲から気泡を除去できる場合もあり、その場合は独立した脱泡処理は不要である。
【0043】
(触媒の化学的処理)
触媒を化学的処理して、その触媒金属粒子の表面を特定の親水基で修飾する。
金属触媒粒子の表面を親水基で修飾することにより、触媒金属粒子の周囲の親水性が向上し、触媒Cと電解質層Eとの間の親水領域Wの親水性が高まる。
ここに修飾とは触媒金属粒子表面に当該修飾基が存在し、通常の製造工程を経ても当該修飾基が触媒金属粒子から分離しないことを意味する。
親水基として硝酸基、アミノ基、スルホン酸基、水酸基及びハロゲン基から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。更に好ましくは親水基として硝酸基、アミノ基及びスルホン酸基から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
これらの親水基が触媒金属粒子の周囲に存在することにより、触媒金属粒子の周囲に親水領域が形成されやすくなる。触媒金属粒子は担体に均等に分散されているので、結果として触媒の表面の親水領域が形成されやすくなり、また形成後はそれが安定する。
触媒金属粒子へ上記の親水基を修飾する方法としてこの発明では触媒金属粒子と同一若しくは同種の金属(貴金属)の錯体であって前記修飾基を含むものを前記触媒金属粒子へ結合する。錯体の利用により触媒の構造へ何らストレスを与えることなく触媒金属粒子へ親水基を修飾できる。
【0044】
触媒金属粒子として白金若しくは白金合金を採用したときは、下記の白金錯体溶液で修飾を行なうことが好ましい。かかる白金錯体溶液として、塩化白金(IV)酸水和物水溶液(H2PtCl6・nH2O/H2O sol.)、塩化白金(IV)酸塩酸溶液(H2PtCl6/HCl sol.)、塩化白金(IV)酸アンモニウム水溶液((NH4)2PtCl6/H2O sol.)、ジニトロジアンミン白金(II)水溶液(cis−[Pt(NH3)2(NO2)2]/H2O sol.)、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液(cis−[Pt(NH3)2(NO2)2]/HNO3 sol.)、ジニトロジアンミン白金(II)硫酸溶液(cis−[Pt(NH3)2(NO2)2]/H2SO4 sol.)、テトラクルル白金(II)酸カリウム水溶液(K2PtCl4)/H2O sol.)、塩化第1白金(II)水溶液(PtCl2/H2O sol.)、塩化第2白金(IV)水溶液(PtCl4/H2O sol.)、テトラアンミン白金(II)ジクロライド水和物水溶液([Pt(NH3)4]Cl2・H2O/H2O sol.)、テトラアンミン白金(II)水酸化物水溶液([Pt(NH3)4](OH)2/H2O sol.)、ヘキサアンミン白金(IV)ジクロライド水溶液([Pt(NH3)6]Cl2/H2O sol.)、ヘキサアンミン白金(IV)水酸化物水溶液([Pt(NH3)6](OH)2/H2O sol.)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸水溶液(H2[Pt(OH)6]/H2O sol.)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硝酸溶液(H2[Pt(OH)6]/HNO3 sol.)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硫酸溶液(H2[Pt(OH)6]/H2SO4 sol.)、エタノールアミン白金溶液(H2[Pt(OH)6]/H2NCH2CH2OH sol.)等を採用することができると考える。
【0045】
発明者らの知見によれば、白金若しくは白金合金からなる触媒金属粒子を修飾する親水基として硝酸基を選択することが好ましい。そのためのニトロ白金錯体溶液としては、NO3-を親水性イオンとするジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液(cis−[Pt(NH3)2(NO2)2]/HNO3 sol.)、ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硝酸溶液((H2Pt(OH)6)/HNO3 sol.)、SO42-を親水性イオンとするヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硫酸溶液((H2Pt(OH)6)/H2SO4 sol.)、NH4+を親水性イオンとするテトラアンミン白金(II)水酸化物水溶液([Pt(NH3)4(OH)2]/H2O sln.)等を採用することができる。
【0046】
触媒金属粒子へ親水基を修飾する方法は、触媒金属粒子や親水基の特性に応じて適宜選択可能であるが、例えば触媒金属粒子が白金製若しくは白金合金製の場合は、触媒を白金錯体溶液に混合し、必要に応じ撹拌すればよい。硝酸基を選択したときは、ジニトロジアミン白金(錯体)の硝酸水溶液へ原料触媒を投入し、撹拌することで原料触媒の触媒白金粒子へ白金錯体(ジニトロジアミン白金)が吸着する。また、原料触媒を水に分散させた状態でジニトロジアミン白金(錯体)の硝酸水溶液を添加撹拌してもよい。ここで撹拌は羽根やスターラを用いた機械的な撹拌に限定されず、1つの管路へ2つの溶液を流通させることで実行することも可能である。
【0047】
(触媒に対する物理的処理及び化学的処理の順序)
触媒における触媒金属粒子を効率良く親水基で修飾するには、化学的処理に先立ち物理的処理を実行しておくことが好ましい。触媒を物理的処理しておくことにより、より多くの触媒金属粒子が親水基を含む処理液へ接触できるようになるからである。
なお、化学的処理により、触媒が再凝集するおそれがあるときは、化学的処理を行なった後に再度物理的処理を行なうことが好ましい。
勿論、触媒に対する化学的処理を最初に実行し、その後に物理的処理を実行してもよい。
PFF構造を得るには、触媒に対して脱泡処理を行なうことが好ましい。
【0048】
以上を総合して、図12に示す触媒ペースト製造装置を提案する。
触媒ペーストの原料となる触媒、水、貴金属錯体及び電解質はそれぞれ、触媒収容部1001、水収容部1021、貴金属錯体溶液収容部1025及び電解質溶液収容部1041に準備される。なお、触媒から有機物を洗浄するための有機溶剤が有機溶剤収容部1023に準備される。各収容部として収容対象に応じた容量及び材質で形成されたタンクを利用できる。
触媒処理部1003は物理的処理部1005及び化学的処理部1007を備える。物理的処理部1005は湿式粉砕部1009及び脱泡部1011を備える。湿式粉砕部1009としてホモジナイザ−や湿式ジェットミル等を用いることができる。脱泡部1011にはハイブリットミキサ等を用いることができる。化学的処理部1007は撹拌羽根を備えた汎用的な撹拌装置を適用できる。金属触媒粒子に対する反応性が高い貴金属錯体を採用したときは、触媒スラリーを流通させる管路へ当該貴金属錯体溶液を注入すること化学的反応を完成させることも可能である。
【0049】
触媒処理部において触媒は多量の水に分散されスラリー状のプレペーストとなっているので、水分量調整部1031においてプレペーストの水分量を調整する。
この場合、スラリー状のプレペーストから水分を除去することとなるので、周知の濃縮方法(例えば、加熱蒸発装置、濾過装置、遠心分離装置)等を用いることができる。また、水分量はプレペーストの比重から特定可能であるので、水分量調整部は比重測定装置を備えることが好ましい。また、プレペーストの水分量が過少となった場合を想定して、水分補給装置を備えることが好ましい。
【0050】
電解質溶液の水分調整部1043は加熱蒸発装置及び水分補給装置を備えることが好ましい。水分量は比重から特定可能であるので更に比重測定装置を備えることが好ましい。
混合撹拌部1051はそれぞれ水分量の調節されたプレペーストと電解質溶液を混合撹拌し、例えばハイブリッドミキサーを用いることができるが、これに限定されるものではない。なお、過撹拌を避けるために、混合撹拌部1051には粘度計1061を付設することが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、この発明の実施例の説明をする。
(プレペーストの調製)
カーボンブラックを担体としてPt微粒子を担持密度50wt%で担持した触媒を用意した。そして、1gの触媒に対して流動性限界となる水量の水10gの割合となる水量で触媒と水とを混合し、ハイブリットミキサーにより4分間遠心攪拌した。
次に、90gの水を追加し、超音波ホモジナイザ−としてブランソン社製(型番:ソニファイアModel450)を用い、湿式粉砕を10分間行なった。湿式粉砕として湿式ジェットミルを採用してもよい。
このようにして湿式粉砕した液を1時間以上放置して触媒を沈殿させ上澄み液を除去した。
残さを90℃で湯煎し、流動性限界量の水に対して、0.6倍、1.0倍、2.0倍及び3.0倍になるように調整した。
【0052】
(電解質溶液の調製)
10gのDE2020(デュポン社商品名、以下同じ)を85°Cで湯煎し、DE2020中における水及びNPAの含有量をいずれも2gまで低減させた。次に、このDE2020に34gのIPA(イソプロピルアルコール)を混合し、ハイブリッドミキサーによって3分間攪拌を行った。これにより、DE2020中の水及びNPAの含有量は、サンプルEのナフィオン溶液中の濃度に換算して5%に相当する量となる。こうして電解質溶液を得た。
【0053】
(プレペーストと電解質溶液との混合撹拌)
上記のようにして得られたプレペースト11g(流動限界量に対する水量1.0倍の場合)に対して電解質溶液10gをハイブリッドミキサーに投入し、4分間混合撹拌し、触媒ペーストとする。
上記の各触媒ペーストをガス拡散層基材に塗布し、反応層を形成した。ガス拡散層基材は、PTFEで撥水処理を行ったカーボンブラックと、電子伝導性を有する基材としてのカーボンクロスとを積層することで得られている。なお、カーボンペーパー等による基材の上に、カーボンブラックとPTFEとの混合物からなる撥水層を設けたガス拡散層基材を採用することもできる。また、触媒ペースト41をガス拡散層基材へ塗布する方法としては、スクリーン印刷、スプレー法、インクジェット法等の手段を採用することができる。
【0054】
触媒ペーストが塗布された基材を乾燥させる。このようにして形成された空気極及び水素極を固体高分子電解質膜(ナフィオン膜:NR211)へ積層し、140°C、加圧力40kgf/cm2でホットプレスして接合した。
こうして膜電極接合体の発電特性を下記の高加湿運転条件下で行なった。
運転条件:セル温度50℃、空気(常圧)及び水素(常圧)を加湿(バブラ温度50℃)。
結果を図13に示す。
図13の結果から、プレペーストに含まれるべき水分量は流動性限界に対応する水分量の1〜2倍とすることが好ましいことがわかる。
なお好ましい水分量は、湿式粉砕をしていないプレペーストにおいても適用される。
【0055】
(反応層抵抗の測定)
セル温度50℃、空気極へ窒素(常圧)を水素極へ水素(常圧)を加湿(バブラ温度50℃)して流通させ、空気極側の反応層抵抗を測定した。
結果を図14に示す。図14において横軸は流動性限界に対応する水分量を1としたときの水分量を示し、縦軸の抵抗値の測定の方法は非特許文献1〜3に基づいている。
図14の結果も、プレペーストに含まれるべき水分量を流動性限界に対応する水分量の1〜2倍とすることが好ましいことを示している。なお、1より小さい範囲においては、触媒の親水化処理が不完全になるおそれがあるので好ましくない(図4参照)。
【0056】
本発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0057】
81 触媒
81a 担体
81b 白金触媒微粒子
82 電解質
83 親水性領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒と水とを混合してプレペーストを得る第1のステップと、
親水性の側鎖に有する電解質を、水分量が10重量%以下の状態で溶媒へ溶解して電解質溶液を得る第2のステップと、
前記プレペーストと前記電解質溶液を混合して撹拌する第3のステップと、を有し、
前記第1のステップは、前記触媒を水に分散してこれを湿式粉砕する湿式粉砕ステップと、
湿式粉砕された分散液から水分を除去して得られるプレペーストの水分量を流動限界からスラリー状態までの範囲内とする水分除去ステップと、
を備える、ことを特徴とする触媒ペーストの製造方法。
【請求項2】
前記水分除去ステップにおいて得られるプレペーストの水分量は、その流動性限界に対応する水分量の1〜2倍とする、ことを特徴とする請求項1に記載の触媒ペーストの製造方法。
【請求項3】
前記第1のステップにおいて前記触媒の触媒金属粒子を親水基(水酸基は除く)で修飾する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の触媒ペーストの製造方法。
【請求項4】
触媒と水とを混合してプレペーストを得る第1の混合部と、
前記プレペーストと電解質溶液を混合かつ撹拌する第2の混合撹拌部と、を有し、
前記第1の混合部は、前記触媒を水に分散してこれを湿式粉砕する湿式粉砕部と、
湿式粉砕された分散液から水分を除去して得られるプレペーストの水分量を流動限界からスラリー状態までの範囲内とする水分量調整部と、
を備える、ことを特徴とする触媒ペーストの製造装置。
【請求項5】
前記湿式粉砕部は湿式ジェットミルである、ことを特徴とする請求項4に記載の触媒ペーストの製造装置。
【請求項6】
前記第2の混合撹拌部は、自転/公転式遠心撹拌装置であることを特徴とする請求項5に記載の触媒ペースト製造装置。
【請求項7】
前記触媒の触媒金属粒子を修飾可能な親水基を含む溶液を収容する溶液収容部、前記触媒を収容する触媒収容部、及び前記溶液と前記触媒とを混合して前記親水基を前記触媒金属粒子に修飾させる第3の混合部を更に備える、ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の触媒ペースト製造装置。
【請求項1】
触媒と水とを混合してプレペーストを得る第1のステップと、
親水性の側鎖に有する電解質を、水分量が10重量%以下の状態で溶媒へ溶解して電解質溶液を得る第2のステップと、
前記プレペーストと前記電解質溶液を混合して撹拌する第3のステップと、を有し、
前記第1のステップは、前記触媒を水に分散してこれを湿式粉砕する湿式粉砕ステップと、
湿式粉砕された分散液から水分を除去して得られるプレペーストの水分量を流動限界からスラリー状態までの範囲内とする水分除去ステップと、
を備える、ことを特徴とする触媒ペーストの製造方法。
【請求項2】
前記水分除去ステップにおいて得られるプレペーストの水分量は、その流動性限界に対応する水分量の1〜2倍とする、ことを特徴とする請求項1に記載の触媒ペーストの製造方法。
【請求項3】
前記第1のステップにおいて前記触媒の触媒金属粒子を親水基(水酸基は除く)で修飾する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の触媒ペーストの製造方法。
【請求項4】
触媒と水とを混合してプレペーストを得る第1の混合部と、
前記プレペーストと電解質溶液を混合かつ撹拌する第2の混合撹拌部と、を有し、
前記第1の混合部は、前記触媒を水に分散してこれを湿式粉砕する湿式粉砕部と、
湿式粉砕された分散液から水分を除去して得られるプレペーストの水分量を流動限界からスラリー状態までの範囲内とする水分量調整部と、
を備える、ことを特徴とする触媒ペーストの製造装置。
【請求項5】
前記湿式粉砕部は湿式ジェットミルである、ことを特徴とする請求項4に記載の触媒ペーストの製造装置。
【請求項6】
前記第2の混合撹拌部は、自転/公転式遠心撹拌装置であることを特徴とする請求項5に記載の触媒ペースト製造装置。
【請求項7】
前記触媒の触媒金属粒子を修飾可能な親水基を含む溶液を収容する溶液収容部、前記触媒を収容する触媒収容部、及び前記溶液と前記触媒とを混合して前記親水基を前記触媒金属粒子に修飾させる第3の混合部を更に備える、ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の触媒ペースト製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−74347(P2012−74347A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34054(P2011−34054)
【出願日】平成23年2月19日(2011.2.19)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月19日(2011.2.19)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
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