説明

触媒層

(i)電極触媒と、(ii)水電気分解触媒とを含む触媒層であって、前記水電気分解触媒は、イリジウムまたは酸化イリジウムを含み、ルテニウムを除く遷移金属およびSnからなる群より選択される1種以上の金属Mまたはその酸化物をさらに含むものである触媒層を開示する。このような触媒層は、高い電気化学的電位を受ける燃料電池で有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層に関し、より詳細には、高い電気化学的電位を受ける燃料電池で使用するための触媒層に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質により分離される2つの電極を含む電気化学電池である。水素やメタノールまたはエタノールのようなアルコールなどの燃料はアノード(anode)に供給され、酸素または空気のような酸化剤はカソード(cathode)に供給される。電気化学的反応がその電極で生じ、燃料および酸化剤の化学的エネルギーが電気的エネルギーおよび熱に転換される。アノードにおける燃料の電気化学的酸化、およびカソードにおける酸素の電気化学的還元を促進するために電極触媒(electrocatalyst)が使用される。
【0003】
プロトン交換膜(proton exchange membrane、PEM)燃料電池の場合、電解質は固体重合体膜である。その膜は電気絶縁性であるが、プロトン伝導性であり、アノードで生成されるプロトンがその膜を横切ってカソードに運搬されることにより、酸素と結合して水を形成する。
【0004】
PEM燃料電池の主要構成要素は、膜電極アセンブリ(MEA)であることが知られており、これは本質的に5つの層から構成される。その中心層は重合体イオン伝導性膜である。そのイオン伝導性膜の各々の面には、特定の電気化学的反応のための電極触媒を含む電極触媒層が存在する。最後に、各々の電極触媒層には気体拡散層が隣接している。その気体拡散層は、反応物が電極触媒層に到逹できるようにしなければならず、電気化学的反応により発生する電流を伝導させなければならない。したがって、気体拡散層は、多孔質で電気的伝導性を有していなければならない。
【0005】
代表的に、燃料酸化および酸素還元のための電極触媒は、白金または白金と1種以上の他の金属との合金を主成分とする。白金または白金合金触媒は、担持されないナノメートル大の粒子(金属ブラックまたはその他の担持されない微粒子状の金属粉末など)の形態であってもよく、伝導性炭素基材やその他の伝導性物質(担持触媒)上により高い表面積の粒子形態で積層されてもよい。
【0006】
MEAは、いくつかの方法により製作できる。電極触媒層を気体拡散層に塗布して気体拡散電極を形成することができる。2つの気体拡散電極をイオン伝導性膜の各々の面に位置させ、一斉にラミネートして、5層のMEAを形成することができる。あるいは、電極触媒層をイオン伝導性膜の両面に塗布して触媒コーティングされたイオン伝導性膜を形成することができる。次に、その触媒コーティングされたイオン伝導性膜の両面に気体拡散層を塗布する。最後に、一面に触媒電極層がコーティングされ、その触媒電極層に気体拡散層が隣接しており、他面に気体拡散層がコーティングされているイオン伝導性膜からMEAを形成することができる。
【0007】
ほとんどの用途に十分な電力を供給するためには、代表的に数十〜数百個のMEAが要求されるため、複数のMEAを接合して燃料電池スタックを製作する。このMEAを互いに分離するために流路板が用いられる。該流路板は、次のようないくつかの機能、つまり、MEAに反応物を供給し、生成物を除去し、電気的接続を提供し、物理的担持を提供する機能を果たす。
【0008】
複数の実際の作動状況で高い電気化学的電位が発生し得、特定の状況では、触媒層/電極構造体に損傷をもたらすことがある。高い電気化学的電位が現れる複数の状況に対する追加の説明を以下に記載する。
【0009】
(a)電池反転
時々、電気化学電池は、反対極性に曝される状態の電圧反転状態を受ける。直列の燃料電池は、このような電池の1つが、直列の他の電池により反対極性に曝されるといった、好ましくない電圧反転を受ける可能性がある。燃料電池スタックにおいて、このような電圧反転は、電池が残りの電池によりその電池を通過する電流を燃料電池反応から生成できない際に発生し得る。また、スタック内の電池グループも電圧反転を受けることがあり、全体のスタックもアレイ内の他のスタックにより電圧反転状態で駆動されることがある。電圧反転状態となる1つ以上の電池に関連する電力の損失は別としても、このような状態は信頼性の問題を有する。燃料電池の構成要素に有害な影響を及ぼし得る、好ましくない電気化学的反応が発生することがある。構成要素の分解は、燃料電池およびこれに関連するスタックおよびアレイの信頼性および性能を減少させる。
【0010】
電池反転の問題を処理するために、複数の接近方法が用いられてきたが、例えば、個々の燃料電池を横切って電流を運搬可能なダイオードを用いるか、個々の燃料電池の電圧をモニタリングして低電圧が検出される場合、問題とされる電池を停止させることがある。しかし、スタックが一般的に複数の燃料電池を用いると仮定すると、このような接近方法は実行することが非常に複雑で費用がかさむ。
【0011】
あるいは、電圧反転に関連する他の状態をモニタリングして反転状態が検出される場合、適切な補正措置を取ることができる。例えば、スタック内の他の燃料電池と比較して、電圧反転につながる特定の状態(例えば、スタックの燃料不足)により敏感になる特殊製作されたセンサ電池を用いることができる。したがって、スタック内のすべての電池をモニタリングする代わりに、そのセンサ電池のみをモニタリングし、これを用いてこの状態にある広範囲な電池電圧反転を防止する必要がある。しかし、センサ電池(例えば、スタック内の欠陥がある個々の電池)が検出できない電池反転につながる他の状態が存在し得る。他の接近方法は、反転中に発生し得る反応に起因する燃料電池スタックの排ガス内の種(species)の存在または異常な量を検出することにより、電圧反転を検出するガスモニタを用いることである。排ガスモニタは、スタック内の任意の電池で発生する反転状態を検出することで反転の原因を提示することができるが、このモニタは、特定の問題とされる電池を確認することができず、電池反転が差し迫っているという何らかの警告も提供することができないのが一般的である。
【0012】
前述したものの代わりに、またはそれと組合せて受動的な接近方法を用いて、反転が発生した場合、燃料電池がその反転により耐性あるようにするか、任意の重要な電池構成要素の分解が減少するように燃料電池を調整することが好適であり得る。受動的な接近方法は、反転につながる状態が一時的な場合に特に好適であり得る。電池が電圧反転により耐性あるようになった場合、一時的な反転期間の間に反転を検出し/するか、燃料電池システムを停止させる必要がないことがある。したがって、電池反転に対する耐性を増加させることが確認された一方法は、通常の触媒と比較して、酸化腐食に対してより耐性のある触媒を用いることである(WO01/059859号参照)。
【0013】
電池反転に対する耐性を増加させることが確認された他の方法は、水を電気分解する目的でアノードに追加的にまたは他の触媒組成物を混合することである(WO01/15247号参照)。電池反転中に、電気化学的反応が生じ、問題とされる燃料電池で特定の構成要素の分解をもたらすことがある。電圧反転の理由により、燃料電池カソードの絶対電位と比較して、アノードの絶対電位の有意な上昇があり得る。これは、例えば、アノードに対する燃料の不十分な供給(すなわち、燃料不足)があった場合に発生する。この場合、カソード反応およびこれによるカソード電位は、下記の酸素還元反応(ORR)として変化しないまま残っている。
1/2O+2H+2e→H
これに対し、アノードでの正常な燃料電池反応である下記の水素酸化反応(HOR)がそれ以上持続することができず、他の電気化学的反応がアノードで生じ、電流を維持する。
→2H+2e
一般的に、このような反応は、水電気分解である下記の酸素発生反応(OER):
O→1/2O+2H+2e
または炭素電気化学的酸化:
1/2C+HO→1/2CO+2H+2e
であり得る。
【0014】
このような2つの反応は、カソードでの酸素還元反応と比較してより高い絶対電位(よって、電池電圧反転)で生じる。
【0015】
PEM燃料電池でのこのような反転中に、アノードに存在する水は電気分解反応が発生できるようにし、アノード触媒およびその他の電池構成要素を担持するために用いられる炭素担持材料は炭素酸化反応が発生できるようにする。炭素酸化反応よりは、水電気分解が起こるようにすることが非常に好ましい。アノードでの水電気分解反応がその電池を通過する電流を消費できない場合、炭素質のアノード構成要素の酸化速度が増加することにより、特定のアノード構成要素をより高い速度で非可逆的に分解しようとする傾向がある。したがって、水の電気分解を促進する触媒組成物を混合することにより、電池を通過する電流がアノード構成要素の酸化よりは、水の電気分解中により多く消費し得る。
【0016】
また、反転状態は、カソード上の酸化剤の不足によっても発生し得る。しかし、これは電池により有害でないが、その理由は、酸化剤の還元の代わりに発生可能な反応は、アノードで発生するプロトンが電解質を通過してカソードで直接電子と結合し、下記の水素発生反応(HER)により水素を生成するからである。
2H→2e+H
このような反転状態において、アノード反応およびこれによるアノード電位は変化しないまま残っているが、カソードの絶対電位はアノードの絶対電位より低くなる(よって、電池反転状態)。このような反応は、有意な分解が起こる電位および反応を伴わない。
【0017】
(b)始動停止(Start−up Shut−down)
多くの燃料電池の場合、始動中に、窒素のような不活性ガスを用いてアノードガス空間から水素をパージングすることは、実用的または経済的でない。これは、アノード上で水素と空気との混合組成が発生してカソードに空気が存在し得ることを意味する。同様に、電池が特定時間停止した後再始動されると、空気はアノードからの置換水素を有することができ、水素がアノードに再導入されることにより、空気と水素との混合組成がカソードに存在し、空気が存在する。この状態で、Tangら(Journal of Power Sources 158(2006)1306−1312)が説明しているように、カソードで高電位をもたらす内部電池が存在し得る。該高電位は、前述した下記の電気化学的炭素酸化反応により炭素を酸化させることができる。
1/2C+HO→1/2CO+2H+2e
このような高電位は、触媒層が炭素を含む場合、その触媒層の構造を大きく損傷させる。しかし、炭素層が水電気分解反応(OER)による酸素の発生を担持できない場合、前記高電位は、炭素の腐食よりは、水電気分解を誘導するために使用できる。
【0018】
(c)再生燃料電池
再生燃料電池において、電極は二重機能性(bi−functional)であり、アノードおよびカソードはいずれも互いに異なる時期に2種の電気化学的反応を担持しなければならない。燃料電池として作動する場合、カソードは酸素を還元(OER)させなければならず、アノードは水素を酸化(HOR)させなければならず、電解槽として作動する場合、カソードは水素を発生(HER)しなければならず、アノードは酸素を発生(OER)しなければならない。本発明の触媒層は、水素および酸素反応すべてを効果的に行うことができるため、再生燃料電池のアノードとして用いるのに非常に適している。
【0019】
一般的に、水電気分解反応のための電極触媒は、酸化ルテニウムまたは酸化ルテニウムと少なくとも1種の他の金属酸化物との混合物を主成分とする。しかし、酸素発生反応(OER)のためのその良好な活性にもかかわらず、該触媒の安定性は、燃料電池の特定の作動モード、特に、高い酸化電位が印加されるモードの場合に不十分である。MEAにおいて、Ruを含むアノード触媒層の特別な問題は、燃料電池の作動停止モードで高電位がアノードで発生し、RuがORRに対する毒(poison)であり、この反応に対するPtの効果を減少させる場合、Ruの分解およびカソードへのRuの移動をもたらすことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
したがって、本発明の目的は、酸素発生反応のための水電気分解触媒と類似の活性を有するが、MEAに含まれ、実際の燃料電池の作動条件下で作動するとき、良好な性能および耐久性を示す別の水電気分解触媒を含む触媒層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そのために、本発明は、
(i)電極触媒と、
(ii)水電気分解触媒とを含む触媒層であって、
前記水電気分解触媒は、イリジウムまたは酸化イリジウムを含み、ルテニウムを除く遷移金属およびSnからなる群より選択される1種以上の金属Mまたはその酸化物をさらに含むものである触媒層を提供する。
【0022】
Mは、IVB、VBおよびVIB族金属からなる群より選択されることが好適であり、Ti、Zr、Hf、Nb、TaおよびSnからなる群より選択されることがより好適であり、Ti、TaおよびSnからなる群より選択されることが好ましい。
【0023】
イリジウムまたはその酸化物および前記1種以上の金属(M)またはその酸化物は、混合金属またはその酸化物として存在してもよく、部分的にまたは完全に合金化された物質として存在してもよく、これらの中の2種以上の組合せとして存在してもよい。任意の合金化の程度は、X線回折(XRD)により確認することができる。
【0024】
前記水電気分解触媒において、イリジウムに対する(全体)金属Mの原子比は、20:80〜99:1、好適には30:70〜99:1、好ましくは60:40〜99:1である。
【0025】
前記電極触媒は、
(i)白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、イリジウムおよびオスミウム)、または
(ii)金もしくは銀、または
(iii)卑金属、
またはその酸化物から適宜選択される金属(第一次金属)を含む。
【0026】
前記第一次金属は、1種以上の他の貴金属、または卑金属、または貴金属もしくは卑金属の酸化物と合金化または混合されていてもよい。前記金属、または金属の合金または混合物は担持されないか、適切な不活性担持体上に担持されてもよい。一具体例において、前記電極触媒が担持される場合、その担持体は非炭素質(材)である。前記担持体の例としては、チタニア、ニオビア、タンタラ(tantala)、炭化タングステン、酸化ハフニウムまたは酸化タングステンがある。また、このような酸化物または炭化物は、その電気的伝導性を増加させるための他の金属、例えば、ニオブドープされたチタニアでドープされてもよい。好ましい一具体例において、前記電極触媒は、担持されない白金である。
【0027】
前記電極触媒および水電気分解触媒は、分離層もしくは混合層またはこれらの組合せの形態で触媒層に存在することができる。分離層として存在する場合、それら層は水電気分解層が膜に隣接して配置され、カソードからアノードに再拡散する水が水電気分解層に供給されるように配置されることが好適である。好ましい具体例において、前記電極触媒および水電気分解触媒は、混合層の形態で触媒層に存在する。
【0028】
前記触媒層において、水電気分解触媒に対する電極触媒の比は、10:1〜1:10であることが好適である。その実際の比は、触媒層がアノードに存在するかカソードに存在するかによる。アノード触媒層の場合、その比は、0.05:1〜10:1であることが好適であり、0.75:1〜5:1であることが好ましい。カソード触媒層の場合、その比は、1:1〜1:10であることが好適であり、0.5:1〜1:5であることが好ましい。
【0029】
前記触媒層において、電極触媒の第一次金属の担持量は、0.4mg/cm未満であることが好適であり、0.01mg/cm〜0.35mg/cmであることが好ましく、0.02mg/cm〜0.25mg/cmであることが最も好ましい。
【0030】
前記触媒層は、イオノマー(ionomer)、好適には、プロトン伝導性イオノマーのような追加の成分を含むことができる。適切なプロトン伝導性イオノマーの例が当業者に知られており、Nafion(商品名)および炭化水素重合体からなるイオノマーのようなパーフルオロスルホン酸イオノマーが含まれる。
【0031】
本発明の触媒層は、PEM燃料電池で有用である。したがって、本発明の他の目的は、気体拡散層(GDL)と、本発明にかかる触媒層とを含む電極を提供することである。
【0032】
一具体例において、前記電極はアノードであるが、このとき、水電気分解触媒は、イリジウムまたは酸化イリジウムを含み、ルテニウムを除く遷移金属およびSnからなる群より選択される1種以上の金属Mまたはその酸化物をさらに含む。Mは、IVB、VBおよびVIB族金属からなる群より選択されることが好適であり、Ti、Zr、Hf、Nb、TaおよびSnからなる群より選択されることがより好適であり、Ti、TaおよびSnからなる群より選択されることが好ましい。
【0033】
追加の具体例において、前記電極は、水電気分解触媒がイリジウムまたは酸化イリジウムを含み、ルテニウムを除く遷移金属およびSnからなる群より選択される1種以上の金属またはその酸化物をさらに含むカソードである。Mは、IVB、VBおよびVIB族金属からなる群より選択されることが好適であり、Ti、Zr、Hf、Nb、TaおよびSnからなる群より選択されることがより好適であり、Ti、TaおよびSnからなる群より選択されることが好ましい。
【0034】
前記触媒層は、EP0731520号に開示されたような周知の手法を用いてGDL上に積層可能である。前記触媒層の成分は、水性および/または有機溶媒、任意の重合体バインダーおよび任意のプロトン伝導性重合体を含むインクで製造できる。前記インクは、噴霧、印刷およびドクターブレード法のような手法を用いて電気伝導性GDL上に積層可能である。代表的なGDLは、炭素繊維(例えば、日本Toray Industries社から入手可能なToray(商品名)、または日本Mitsubishi Rayon社から入手可能なU105またはU107)、織炭素布(例えば、日本Mitsubishi Chemicals社から入手可能な炭素布のMKシリーズ)、または不織炭素繊維ウェブ(例えば、カナダBallard Power Systems Inc社から入手可能なAvCarbシリーズ、ドイツFreudenberg FCCT KG社から入手可能なH2315シリーズ、またはドイツSGL Technologies GmbH社から入手可能なSigracet(商品名)シリーズ)系基材から製作される。一般的に、前記炭素紙、布またはウェブは、前記層内に挿入されるか、平面上にコーティングされた微粒子状物質を用いて改質されるか、最終GDLを製造するための2つの方法の組合せを用いて改質される。一般的に、前記微粒子状物質は、カーボンブラックとポリテトラフロオロエチレン(PTFE)のような重合体との混合物である。前記GDLは、厚さが100〜400μmであることが好適である。前記触媒層と接触するGDLの面上には、カーボンブラックのような微粒子状物質とPTFEとの層が存在することが好ましい。
【0035】
PEM燃料電池において、電解質はプロトン伝導性膜である。本発明の触媒層は、プロトン伝導性膜の片面または両面に積層されて触媒作用膜(catslysed membrane)を形成することができる。本発明のさらなる態様は、プロトン伝導性膜と、本発明の触媒層とを含む触媒作用膜を提供する。前記触媒層は、周知の手法を用いて前記膜上に積層できる。前記触媒層の成分はインクで製造され、前記膜上に直接または転写基材を介して間接的に積層されてもよい。
【0036】
前記膜は、PEM燃料電池に用いるのに適した任意の膜であり得る。例えば、前記膜は、Nafion(商品名)(DuPont社製)、Flemion(商品名)(Asahi Glass社製)およびAciplex(商品名)(Asahi Kasei社製)のようなパーフルオル化スルホン酸物質を主成分とすることができるが、これらの膜は、改質されずに使用されてもよく、または、例えば、添加剤を混合することにより高温性能を改善するために改質されてもよい。あるいは、前記膜は、polyfuel社、JSR Corporation社、FuMA−Tech GmbH社などから入手可能なもののようなスルホン化炭化水素膜を主成分とすることができる。前記膜は、プロトン伝導性膜を含むほか、機械的特性のような特性を付与する発泡PTFEまたは不織PTFE繊維の網状構造のような他の物質を含む複合膜であってもよい。あるいは、前記膜は、リン酸ドープされたポリベンゾイミダゾールを主成分とすることができ、この膜には、BASF Fuel Cell GmbH社のような開発会社からの膜、例えば、120℃〜180℃の範囲で作動するCeltec(商品名)−P膜、およびCeltec(商品名)−Vのような他のより新たな開発膜が含まれる。
【0037】
本発明のさらなる具体例において、本発明の触媒が塗布される基材は、転写基材である。したがって、本発明のさらに他の態様は、本発明の触媒層を含む触媒作用転写基材を提供する。前記転写基材は、当業者に知られた任意の適切な転写基材であり得るが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)、またはポリプロピレン(特に、二軸延伸ポリプロピレン、BOPP)のような重合体材料、またはポリウレタンコーティング紙のような重合体コーティング紙であることが好ましい。さらに、前記転写基材は、シリコーン剥離紙またはアルミニウム箔のような金属箔であってもよい。次に、本発明の触媒層は、当業者に知られた手法を用いてGDLまたは膜に転写されてもよい。
【0038】
本発明のさらなる態様は、本発明にかかる触媒層、電極または触媒作用膜を含む膜電極アセンブリを提供する。前記MEAは、下記のものを含むが、それに制限されない複数の方式で製作可能である。
【0039】
(i)少なくとも1つの電極が本発明にかかる電極である2つの電極(1つはアノードおよび1つはカソード)の間にプロトン伝導性膜が介在することができる。
【0040】
(ii)片面に触媒層のみがコーティングされた触媒作用膜が、(i)触媒層のコーティングされた膜の面と接触する気体拡散層と電極との間に介在するか、(ii)2つの電極の間に介在することができ、このとき、前記触媒層および電極の少なくとも1つが本発明にかかるものである。
【0041】
(iii)両面に触媒層がコーティングされた触媒作用膜が、(i)2つの気体拡散層、(ii)気体拡散層と電極、または(iii)2つの電極の間に介在することができ、このとき、前記触媒層および電極の少なくとも1つが本発明にかかるものである。
【0042】
前記MEAは、例えば、WO2005/020356号に記載されているように、MEAの端領域を密封し/するか、補強する成分をさらに含むことができる。前記MEAは、当業者に知られた通常の方法により接合される。
【0043】
本発明の触媒層、電極、触媒作用膜およびMEAが使用可能な電気化学的装置としては、燃料電池、特に、プロトン交換膜(PEM)燃料電池がある。前記PEM燃料電池は、アノードで水素または高濃度の水素燃料を用いて作動できるか、メタノールのような炭化水素燃料が供給できる。また、本発明の触媒層、電極、触媒作用膜およびMEAは、膜がプロトン以外の電荷キャリアを用いる膜、例えば、Solvay Solexis S.p.A.社、FuMA−Tech GmbH社から入手可能なもののようなOH伝導性膜を含む燃料電池で使用されてもよい。さらに、本発明の触媒層および電極は、水性酸およびアルカリ性溶液または濃リン酸のような液体イオン伝導性電解質を用いる他の低温燃料電池で使用されてもよい。本発明の触媒層、電極、触媒作用膜およびMEAが使用される他の電気化学的装置は、水素酸化または酸素発生反応がすべて行われる場合、再生燃料電池のアノードで用いられ、酸素の放出が水電気分解触媒により行われ、水電気分解触媒および汚染水素が電極触媒により酸素と再結合される場合、電解槽のアノードで用いられる。
【0044】
したがって、本発明は、本発明の触媒層、電極、触媒作用膜またはMEAを含む燃料電池、好ましくは、プロトン交換膜燃料電池を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明する。
【0046】
水電気分解触媒の製造
IrTa混合酸化物触媒
IrCl(76.28g、0.21molのIr)を水(500ml)に懸濁し、一晩中撹拌した。TaCl(32.24g、0.090molのTa)を濃塩酸(200ml)に撹拌しながら添加し、弱酸乳白色の溶液を得た。前記Ta溶液を前記IrCl溶液に撹拌しながら添加し、使用するまで維持した。その溶液を噴霧乾燥して空気中で焼成し、70原子%Ir/30原子%Ta混合酸化物触媒を得た。
【0047】
IrSn混合酸化物触媒
前記IrTa混合酸化物水電気分解触媒と類似の方法でIrSn混合酸化物水電気分解触媒を製造した。70原子%Ir/30原子%Sn混合酸化物触媒を得た。
【0048】
IrTi混合酸化物触媒
高表面積のTiO(3.0g)を水(500ml)で撹拌し、IrCl(92.2g)を添加した。その懸濁液を75℃まで加熱し、そのpHが7に安定して維持されるまで1MのNaOHを滴加した。その懸濁液を冷却し、得られる触媒生成物を濾過により収得して水で洗浄した。その物質を空気中にて焼成し、87原子%Ir/13原子%Ti混合酸化物触媒を得た。
【0049】
適切なインクをデカール(decal)転写基材上にスクリーン印刷して必要な担持量を得ることにより、下記表1に記載されているようなアノード触媒層を製造した。前記触媒インクは、EP0731520号に記載された手法により製造した。前記インクが電極触媒および水電気分解触媒をすべて含む場合、まず、電極触媒を含むインクを製造した後、水電気分解触媒を添加した。
【表1】

【0050】
アノードを、周知のデカール転写方法により、約0.4mg Pt cm−2の通常の炭素担持カソード層およびパーフルオル化スルホン酸膜と結合させて触媒コーティング膜(CCM)を製造することにより、MEAを製造した。前記CCMは、疎水性微細多孔性層がコーティングされた2枚の防水処理された炭素紙の間に接合させて完全な膜電極アセンブリを形成した。次に、これを、80℃で擬似不足条件(simulated starvation condition)下に1cmの活性面積の燃料電池でテストした。まず、前記電池は、アノードおよびカソード上でそれぞれ流動する、湿った水素および空気を用いて作動させた。500mA cm−2の電流を5分間印加し、MEAを一定の状態に到達させた。次に、その電流を200mA cm−2に低下させ、水素の供給を窒素に転換させた。次に、その電池から引き出された電流を、90分経過するか、電池電圧が−2.5V未満に低下するまで一定に維持した。その結果が図1に示されている。その結果は、本発明の触媒層(実施例1、2および3)が比較例1より優れており、比較例2および3と同等に作動することを示す。
【0051】
類似のMEAを実施例1から製造した後、80℃で擬似不足条件下に242cmの活性面積の燃料電池でテストした。まず、その電池をアノードおよびカソード上でそれぞれ流動する、湿った水素および空気を用いて作動させた。500mA cm−2の電流を5分間印加し、MEAを一定の状態に到達させた。次に、電流を200mA cm−2に低下させ、水素の供給を窒素に転換させた。次に、その電池から引き出された電流を、90分経過するか、電池電圧が−2.5V未満に低下するまで一定に維持した。何らかの損傷が発生したかを確認するための反転試験前およびその後に、空気、21%の酸素ヘリウム(Helox)および純酸素を用いて分極曲線を測定した。その結果が図2に示されている。90分の反転後、MEAの性能は、電極の安定性を示すすべての条件において初期性能に非常に密接にマッチした。
【0052】
また、カソード上の比較例4および実施例4による触媒層およびアノード上の標準触媒層を用いてMEAを製造した。擬似作動停止条件に対するMEAの抵抗を、242cmの活性面積を有する単電池にMEAを搭載して調整した後、MEAが下記の手順を受けるようにしてテストした。(i)アノード上の水素およびカソード上の空気を用いて電流を15分間比較的高い電流密度で維持し;(ii)その負荷を減少させて30秒間維持し;(iii)アノードへの水素の供給を中止し、負荷を除去し、アノードおよびカソードを空気を用いてパージングし;(iv)カソードに水素を再導入して10秒間非常に低い電流密度で維持し;(v)ステップ(ii)と類似の負荷を印加して30秒間維持し;(vi)その負荷を中間電流密度に増加させて5分間維持する。
【0053】
1つのサイクルは、ステップ(ii)〜(vi)からなり;ステップ(i)は、最初に行われた後10サイクルごとに行われた。ステップ(vi)中の性能損失をサイクル数に応じてモニタリングした。
【0054】
比較例4および実施例4に対する電池電圧の損失が図3に示されている。実施例4の場合、比較例4と同じ損失に逹するのにより多くのサイクルがかかるが、その理由は、IrTa水電気分解触媒の保護作用のためである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、80℃で擬似不足条件下に1cmの活性面積の燃料電池でテストした結果を示すものである。
【図2】図2は、実施例2における、燃料電池の性能に対する延長細胞反転状態の影響を示すものである。
【図3】図3は、実施例4および比較例4における、擬似始動および停止サイクルの数に応じた電池電圧の損失を示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層であって、
(i)電極触媒と、
(ii)水電気分解触媒とを備えてなり、
前記水電気分解触媒が、イリジウムまたは酸化イリジウム、及び、1種以上の金属Mまたはその酸化物を含んでなるものであり、
Mが、ルテニウムを除いた、遷移金属およびSnからなる群より選択されるものである、触媒層。
【請求項2】
Mが、IVB、VBおよびVIB族金属およびSnからなる群より選択されるものである、請求項1に記載の触媒層。
【請求項3】
Mが、Ti、Zr、Hf、Nb、TaおよびSnからなる群より選択されるものである、請求項2に記載の触媒層。
【請求項4】
前記水電気分解触媒が、担持されないものである、請求項1〜3の何れか一項に記載の触媒層。
【請求項5】
前記電極触媒が、
(i)白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウムおよびオスミウム)、または
(ii)金もしくは銀、または
(iii)卑金属、
またはこれらの酸化物から、適宜選択される金属(第一次金属)を含んでなるのである、請求項1〜4の何れか一項に記載の触媒層。
【請求項6】
前記電極触媒が、不活性担持体上に担持されるものである、請求項1〜5の何れか一項に記載の触媒層。
【請求項7】
前記不活性担持体が、非炭素材である、請求項6に記載の触媒層。
【請求項8】
前記電極触媒が、担持されないものである、請求項1〜6の何れか一項に記載の触媒層。
【請求項9】
前記電極触媒が、担持されない白金である、請求項8に記載の触媒層。
【請求項10】
気体拡散層と、請求項1〜9の何れか一項に記載の触媒層とを備えてなる、電極。
【請求項11】
固体重合体膜と、請求項1〜9の何れか一項に記載の触媒層とを備えてなる、触媒作用膜。
【請求項12】
転写基材と、請求項1〜9の何れか一項に記載の触媒層とを備えてなる、触媒作用転写基材。
【請求項13】
請求項1〜9の何れか一項に記載の触媒層と、請求項10に記載の電極または請求項11に記載の触媒作用膜とを備えてなる、膜電極アセンブリ。
【請求項14】
請求項1〜9の何れか一項に記載の触媒層と、請求項10に記載の電極または請求項11に記載の触媒作用膜とを備えてなる、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−502682(P2013−502682A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525211(P2012−525211)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051361
【国際公開番号】WO2011/021034
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】