説明

触媒担持フィルタの製造方法

【課題】触媒担持フィルタを簡単に製造することができる触媒担持フィルタの製造方法を提供する。
【解決手段】担体として多孔質セラミックス基板を準備する。さらに、高分子混合体として、単独で物理ゲルを形成するポリビニルアルコールおよび繰り返し単位中に解離性官能基を有するポリアリルアミンの混合物を準備する。そして、担体の表面に、触媒となるPtやNiを含む金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体の層を形成する。それから、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体の層において高分子混合体を焼成する。それによって、担体に触媒となる金属が担持された触媒担持フィルタを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、触媒担持フィルタの製造方法に関し、特に、たとえば多孔質または非多孔質のセラミックスなどからなる耐熱性を有する担体およびその担体に担持される金属からなる触媒を有し、たとえばディーゼルエンジン自動車の排気ガスを浄化するためなどに用いられる触媒担持フィルタを製造するための触媒担持フィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の触媒の製造方法の一例として、特開2007−90136公報には、1種または2種以上の貴金属のイオンと1種または2種以上の典型元素または希土類金属原子のイオンとに、1種類の水溶性ポリマーか共重合ポリマーかの水溶性の高分子化合物を作用させることにより、これらが結合してなる複合錯体を形成し、その複合錯体を1種または2種以上の金属酸化物またはカーボンからなる多孔質担体に担持させ、その複合錯体が担持された多孔質担体を焼成および/または還元するという、触媒の製造方法が開示されている(特許文献1参照)。この触媒の製造方法は、担体上に複数種の元素が好適な原子数・粒径で複合化された触媒粒子を担持させることができる触媒製造方法に関する。また、この触媒の製造方法は、貴金属に助触媒成分として典型元素または希土類元素を合金化または近接担持させてなる触媒粒子が担持された多元系触媒を製造する方法であって、貴金属と助触媒成分との組成を均一にするとともに、好適な粒径を有する触媒粒子を形成することができる方法を提供することを目的として考え出されたものである。
【0003】
【特許文献1】特開2007−90136公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている触媒の製造方法では、水溶性の高分子化合物として1種類の水溶性ポリマーか共重合ポリマーかが用いられているので、2種類以上のポリマーのそれぞれの特性を有効に活用することができない。したがって、特許文献1に開示されている触媒の製造方法では、担体に金属からなる触媒が担持された触媒担持フィルタを簡単に製造することができない。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、触媒担持フィルタを簡単に製造することができる触媒担持フィルタの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法は、耐熱性を有する担体およびその担体に担持される金属からなる触媒を含む触媒担持フィルタを製造するための触媒担持フィルタの製造方法であって、耐熱性を有する担体を準備する工程と、単独で物理ゲルを形成する親水性ポリマーおよび繰り返し単位中に解離性官能基を有するポリマーの混合物を含む高分子混合体を準備する工程と、担体の表面に、触媒となる金属を含む金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体の層を形成する工程と、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体の層において高分子混合体を焼成することによって、担体に触媒となる金属を担持させる工程とを含む、触媒担持フィルタの製造方法である。この発明において、解離性官能基を有するポリマーとは、たとえば1級アミノ基を有するポリアリルアミンや2〜4級アミノ基を有するジアリルアミン重合体だけでなく共重合体も含むものとし、また、繰り返し単位中に解離性官能基を有するポリマーとは、少なくともいずれかのモノマー中に解離性官能基を有する共重合体を含むものとする。
この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、たとえば、担体として多孔質の担体が準備され、高分子混合体の層を形成する工程は、担体の孔内の内壁を含む担体の表面に高分子混合体の層を形成する工程を含む。
また、この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、担体としてたとえばセラミックスからなる担体が準備される。
この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、親水性ポリマーとして、たとえば水酸基を含むノニオン性ポリマーが用いられる。この場合、親水性ポリマーとして、たとえば、ポリビニルアルコール、ゼラチンおよびアガロースからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーが用いられる。なお、ゼラチンはその両端に両性の基を有するが、この発明では、それらの基の影響が全体に対して非常に小さいので、ゼラチンをノニオン性ポリマーとした。
この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、解離性官能基を有するポリマーとして、たとえば、1〜4級アミノ基のいずれかの基、カルボキシル基、スルホン酸基およびフェノール性水酸基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有するポリマーが用いられる。
この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、高分子混合体として、たとえば、単独で物理ゲルを形成する親水性ポリマーおよび解離性官能基を有するポリマーからなるゲル状構造体を含む高分子混合体が用いられる。
この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、金属イオンまたは金属錯イオンとして、たとえば、白金、金、ニッケル、銀、銅およびパラジウムの少なくとも1種を含む金属イオンまたは金属錯イオンが用いられる。
この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、高分子混合体の層を形成する工程は、たとえば、担体の表面に高分子混合体をコーティングする工程と、担体の表面にコーティングされた高分子混合体に、金属イオンまたは金属錯イオンを吸着させる工程とを含む。この場合、高分子混合体をコーティングする工程は、たとえば、担体を高分子混合体に接触させる工程を含む。このように担体を高分子混合体に接触させる工程としては、たとえば、担体を溶液状の高分子混合体中に浸漬する工程、担体に高分子混合体を加圧状態で塗布する工程、または、担体に高分子混合体を減圧状態で塗布する工程が挙げられる。さらに、この場合、金属イオンまたは金属錯イオンを吸着させる工程は、たとえば、高分子混合体がコーティングされた担体を、金属イオンまたは金属錯イオンを含む溶液中に浸漬する工程を含む。
また、この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、高分子混合体の層を形成する工程は、たとえば、高分子混合体に金属イオンまたは金属錯イオンを吸着させる工程と、担体の表面に、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体をコーティングする工程とを含む。この場合、金属イオンまたは金属錯イオンを吸着させる工程は、たとえば、金属イオンまたは金属錯イオンを含む溶液を高分子混合体に混合する工程を含む。さらに、この場合、高分子混合体をコーティングする工程は、たとえば、担体を、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体に接触させる工程を含む。このように担体を高分子混合体に接触させる工程としては、たとえば、担体を溶液状の高分子混合体中に浸漬する工程、担体に高分子混合体を加圧状態で塗布する工程、または、担体に高分子混合体を減圧状態で塗布する工程が挙げられる。
この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、金属イオンまたは金属錯イオンを吸着させる工程は、たとえば、金属イオンまたは金属錯イオンが高分子混合体中の解離性官能基を有するポリマーに吸着され、または、金属イオンが高分子混合体中の解離性官能基を有するポリマーの解離性官能基により水酸化物に形成されその水酸化物が高分子混合体中の親水性ポリマーに保持される。
この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、担体に触媒となる金属を担持させる工程は、たとえば、担体とともに、担体の表面に形成され、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体の層を焼成する工程を含む。
【0007】
この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、高分子混合体中のたとえばポリビニルアルコールなどの単独で物理ゲルを形成する親水性ポリマーは、高分子混合体をゲル状にして担体に保持しやすくする役割を果たし、さらに、高分子混合体中のたとえば繰り返し単位中に1級アミノ基を有するポリアリルアミンなどの解離性官能基を有するポリマーは、金属イオンや金属錯イオンを吸着して捕集する役割を果たすか、または、高分子混合体中の解離性官能基を有するポリマーは、金属イオンを水酸化物に形成する役割を果たし、さらに、高分子混合体中の親水性ポリマーは、その水酸化物を保持する役割を果たす。
それに対して、高分子混合体中にたとえばポリビニルアルコールなどの単独で物理ゲルを形成する親水性ポリマーを含まずたとえばポリアリルアミンなどの解離性官能基を有するポリマーを含むだけでは、高分子混合体をゲル状にして保持しやすくする役割や金属イオンの水酸化物を保持する役割を果たせない。また、高分子混合体中にたとえばポリアリルアミンなどの解離性官能基を有するポリマーを含まずたとえばポリビニルアルコールなどの単独で物理ゲルを形成する親水性ポリマーを含むだけでは、高分子混合体で金属イオンや金属錯イオンを吸着して捕集する役割や金属イオンを水酸化物に形成する役割を果たせない。
このように、この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、高分子混合体中の単独で物理ゲルを形成する親水性ポリマーが果たす役割および高分子混合体中の解離性官能基を有するポリマーが果たす役割によって、高分子混合体をゲル状にして担体に保持しやすくすることができるとともに、担体に保持された高分子混合体で金属イオンや金属錯イオンを吸着して捕集しやすくすることができる。
したがって、この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、担体に金属からなる触媒が担持された触媒担持フィルタを簡単に製造することができる。
ここで、この発明とは異なって、高分子混合体の代わりに共重合体を用いた場合に、共重合体では、ゲル化せずに、好ましくない理由について述べる。親水性ポリマーであるたとえばポリビニルアルコールは、分子間に形成された結晶部が架橋点となりゲル化する。また、結晶化には、一定長さ以上の繰り返し単位が必要となる。共重合体の場合、特殊なブロック共重合体を除けば、ポリビニルアルコール部が一定長さ以上の繰り返し単位を持つことが難しくなると考えられる。さらに、ポリビニルアルコール部に隣接した解離性官能基を有するたとえばポリアリルアミン部間の静電反発も考えられる。以上より、このような共重合体は、ゲル化しにくいと考えられる。このような共重合体をゲル化しないで、乾燥することなどによって固体化することは可能であるが、そのように固体化した場合には、水中へポリマーが流出する可能性が高まってしまう。
この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法において、担体として多孔質の担体が準備され、高分子混合体の層を形成する工程が、担体の孔内の内壁を含む担体の表面に高分子混合体の層を形成する工程を含む場合、金属からなる触媒が担体の孔内の内壁にも担持されるので、より多くの触媒を担持することができる。そのため、触媒による効率のよい触媒担持フィルタを簡単に製造することができる。
また、この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法において、担体としてセラミックスからなる担体が準備される場合、セラミックスは耐熱性が大きいので、たとえばディーゼルエンジン自動車の排気ガスを浄化するために高温下で使用されても担体が劣化されにくい触媒担持フィルタを簡単に製造することができる。
さらに、この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法では、金属イオンまたは金属錯イオンとして、たとえば、白金、金、ニッケル、銀、銅およびパラジウムの少なくとも1種を含む金属イオンまたは金属錯イオンが用いられるように、特性の異なった金属からなる触媒を有する触媒担持フィルタを簡単に製造することができる。
また、この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法において、高分子混合体の層を形成する工程が、担体の表面に高分子混合体をコーティングする工程と、担体の表面にコーティングされた高分子混合体に、金属イオンまたは金属錯イオンを吸着させる工程とを含む場合、高分子混合体の層の表面側から金属イオンまたは金属錯イオンが吸着されるので、高分子混合体の層において表面側により多くの金属イオンまたは金属錯イオンを吸着することができる。そのため、高分子混合体の層を焼成しても完全に焼失しない場合に、金属からなる触媒を触媒担持フィルタの表面側に効率的に担持することができる。この場合、高分子混合体をコーティングする工程、すなわち担体を高分子混合体に接触させる工程が、担体を高分子混合体中に浸漬する工程を含むと、担体全体が高分子混合体で取り囲まれるので、高分子混合体を担体の表面に簡単にコーティングすることができ、担体に高分子混合体を加圧状態で塗布する工程を含むと、多孔質の担体の孔内に高分子混合体を圧入することができ、担体に高分子混合体を減圧状態で塗布する工程を含むと、多孔質の担体の孔内に高分子混合体を吸引することができる。さらに、この場合、金属イオンまたは金属錯イオンを吸着させる工程が、高分子混合体がコーティングされた担体を、金属イオンまたは金属錯イオンを含む溶液中に浸漬する工程を含むと、担体にコーティングされた高分子混合体全体が、金属イオンまたは金属錯イオンを含む溶液で取り囲まれるので、金属イオンまたは金属錯イオンを高分子混合体に簡単に吸着させることができる。
さらに、この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法において、高分子混合体の層を形成する工程が、高分子混合体に金属イオンまたは金属錯イオンを吸着させる工程と、担体の表面に、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体をコーティングする工程とを含む場合、高分子混合体に吸着させる金属イオンまたは金属錯イオンの量(濃度)や高分子混合体をコーティングする量(高分子混合体の層の厚さ)を調整することによって、金属からなる触媒の量を簡単に調整することができる。この場合、金属イオンまたは金属錯イオンを吸着させる工程が、金属イオンまたは金属錯イオンを含む溶液を高分子混合体に混合する工程を含むと、高分子混合体が金属イオンまたは金属錯イオンと混ざるので、金属イオンまたは金属錯イオンを高分子混合体に簡単に吸着させることができる。さらに、この場合、高分子混合体をコーティングする工程、すなわち担体を高分子混合体に接触させる工程が、担体を、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体中に浸漬する工程を含むと、担体全体が、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体で取り囲まれるので、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体を担体の表面に簡単にコーティングすることができ、担体に高分子混合体を加圧状態で塗布する工程を含むと、多孔質の担体の孔内に高分子混合体を圧入することができ、担体に高分子混合体を減圧状態で塗布する工程を含むと、多孔質の担体の孔内に高分子混合体を吸引することができる。
さらに、この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法において、担体に触媒となる金属を担持させる工程が、担体とともに、担体の表面に形成され、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体の層を焼成する工程を含む場合、高分子混合体を簡単に焼成することができ、そのため、触媒となる金属を担体に簡単に担持させることができる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、触媒担持フィルタを簡単に製造することができる触媒担持フィルタの製造方法が得られる。
【0009】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための最良の形態の説明から一層明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(実施例1)
実施例1では、担体の一例としてたとえばアルミナなどのセラミックスからなる多孔質セラミックス基板の孔内の内壁を含む表面に、金属からなる触媒の一例としての白金(Pt)が担持された触媒担持フィルタの製造方法の一例について説明する。
【0011】
まず、水/ジメチルスルホキシド(DMSO)混合溶媒に図1に示す化学式のポリビニルアルコール(PVA)を加え、90℃で加熱・攪拌することにより、PVA溶液を得た。このPVA溶液に図2に示す化学式のポリアリルアミン(PAAm)の水溶液を添加し、高分子混合体の一例としてのPVA/PAAmブレンド溶液を作製した。このPVA/PAAmブレンド溶液に多孔質セラミックス基板を浸漬した。そして、PVA/PAAmブレンド溶液から多孔質セラミックス基板を引き上げ、引き上げた多孔質セラミックス基板を、−20℃のエタノール中で約15時間保持し、脱溶媒(脱水、脱DMSO)およびPVAの結晶化を促進することによって、PVA/PAAmブレンド溶液をゲル化した。そして、それを乾燥した後、窒素雰囲気下150℃で加熱したものを試料とした。この試料は、PVA/PAAmブレンド溶液からなるものであって、多孔質セラミックス基板の孔内の内壁を含む表面に形成された層状のものである。ここで、多孔質セラミックス基板の孔内の内壁への高分子混合体のコーティングの調整は、PVA/PAAmブレンド溶液の粘度の調整で可能であり、また、PVA/PAAmブレンド溶液に多孔質セラミックス基板を浸漬する際に加圧したり減圧したりすることでも可能である。PVA/PAAmブレンド溶液の粘度を調整したり、PVA/PAAmブレンド溶液に多孔質セラミックス基板を浸漬する際に加圧したり減圧したりすることによって、多孔質セラミックス基板の孔内の内壁にも高分子混合体を確実にコーティングすることができる。このように多孔質セラミックス基板にPVA/PAAmブレンド溶液をコーティングするためには、多孔質セラミックス基板にPVA/PAAmブレンド溶液を加圧状態で塗布して孔内に圧入したり減圧状態で塗布して孔内に吸引したりしてもよい。
【0012】
このようにしてPVA/PAAmブレンド溶液200mgに相当する試料が表面に形成された多孔質セラミックス基板を、Pt濃度が約100ppmとなるように希釈した塩化白金酸浴液25mLに24時間浸漬し、試料によって塩化白金酸浴液中のPtを捕集した。ここで、多孔質セラミックス基板の表面に形成された試料によるPtの捕集量を調べた。この場合、試料が形成された多孔質セラッミクス基板を塩化白金酸浴液から取り出して、試料が形成された多孔質セラッミクス基板の浸漬前後において塩化白金酸浴液のPtの濃度を高周波プラズマ発光分析(ICP)で測定して、試料によるPtの捕集能を評価した。このICP結果より、この試料によって、塩化白金酸浴液中の95%以上のPtを捕集することができていたことがわかった。このようにPVA/PAAmブレンド溶液からなる試料によりPtを捕集する際には、塩化白金酸浴液中のPt錯イオン(PtCl62-)を主に吸着する。なお、吸着されたPt錯イオンは、Pt金属粒子に金属化しやすくするために、たとえばヒドラジン水和物や水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤を含む還元剤溶液中で還元されることが好ましい。
【0013】
そして、Pt錯イオンを吸着した試料とともに多孔質セラミックス基板を、400〜600℃で数時間、熱処理した結果、100nm以下のPt金属粒子が多孔質セラミックス基板の孔内の内壁を含む表面に坦持できていることがわかった。このようにして、多孔質セラミックス基板の孔内の内壁を含む表面にPtが担持された触媒担持フィルタを製造した。図3は、そのようにして製造された触媒担持フィルタの表面部分におけるたとえば15.00kVの加速電圧で測定した電子顕微鏡写真の反射電子組成像を示す図であり、図4は、その表面部分におけるエネルギー分散型X線分析法による分析チャートである組成スペクトルを示す図である。図4に示す組成スペクトルにより、この触媒担持フィルタの表面には触媒としてPtが担持されていることがわかる。なお、図4に示す組成スペクトル中のAlは、多孔質セラミックス基板からなる担体の成分である。
【0014】
(実施例2)
実施例2は、実施例1と比べて、塩化白金酸浴液を用いる代わりに硝酸ニッケル溶液を用いて行った。その結果、10nm以下のNi微粒子(5nm程度)が多孔質セラミックス基板の孔内の内壁を含む表面に坦持できていることがわかった。このように、実施例2では、多孔質セラミックス基板の孔内の内壁を含む表面にニッケル(Ni)が担持された触媒担持フィルタを製造した。このPVA/PAAmブレンド溶液からなる試料によるNiの捕集では、PAAmのアミン基の存在により、これらの水酸化物の形成・溶解が試料内部で起こっている。図5は、そのようにして製造された触媒担持フィルタの表面部分におけるたとえば15.00kVの加速電圧で測定した電子顕微鏡写真の反射電子組成像を示す図であり、図6は、その表面部分におけるエネルギー分散型X線分析法による分析チャートである組成スペクトルを示す図である。図6に示す組成スペクトルにより、この触媒担持フィルタの表面には触媒としてNiが担持されていることがわかる。また、図6に示す組成スペクトル中のAlも、多孔質セラミックス基板からなる担体の成分である。なお、この実施例2では、PVA/PAAmブレンド溶液からなる試料により硝酸ニッケル溶液中のNiイオンを主に吸着している。しかしながら、Niイオンを主に吸着する代わりに、実施例1においてPt錯イオンを吸着するのと同じように、Ni錯イオンを主に吸着するようにしてもよい。また、高分子混合体中の解離性官能基を有するポリマーとしてカルボキシル基等の酸性官能基を有するポリマーを用い、その酸性官能基でNiイオンを吸着するようにしてもよい。
【0015】
上述の実施例1では、高分子混合体であるPVA/PAAmブレンド溶液中の単独で物理ゲルを形成する親水性ポリマーであるPVAが、PVA/PAAmブレンド溶液をゲル状にして担体に保持しやすくする役割を果たし、さらに、PVA/PAAmブレンド溶液中の解離性官能基を有するポリマーであるPAAmが、Ptなどの金属を含む金属錯イオンを吸着して捕集する役割を果たす。
また、上述の実施例2では、高分子混合体中であるPVA/PAAmブレンド溶液中の解離性官能基を有するポリマーであるPAAmが、Niなどの金属を含む金属イオンを水酸化物に形成する役割を果たし、さらに、PVA/PAAmブレンド溶液中の親水性ポリマーであるPVAが、その水酸化物を保持する役割を果たす。
このように、上述の各実施例では、PVA/PAAmブレンド溶液中のPVAが果たす役割およびPVA/PAAmブレンド溶液中のPAAmが果たす役割によって、PVA/PAAmブレンド溶液をゲル状にして担体に保持しやすくすることができるとともに、担体に保持された高分子混合体でPtやNiなどの金属を含む金属イオンや金属錯イオンを吸着して捕集しやすくすることができる。
したがって、上述の各実施例では、多孔質セラミックスからなる担体にPtやNiなどの金属からなる触媒が担持された触媒担持フィルタを簡単に製造することができる。
【0016】
また、上述の各実施例では、担体として多孔質セラミックス基板が準備され、高分子混合体であるPVA/PAAmブレンド溶液からなる層が多孔質セラミックス基板の孔内の内壁を含む表面に形成されるので、PtやNiなどの金属からなる触媒がセラミックス基板の孔内の内壁にも担持され、より多くの触媒を担持することができる。そのため、触媒による効率のよい触媒担持フィルタを簡単に製造することができる。
【0017】
また、上述の各実施例では、担体として多孔質セラミックス基板が準備されるので、たとえばディーゼルエンジン自動車の排気ガスを浄化するために高温下で使用されても担体が劣化されにくい触媒担持フィルタを簡単に製造することができる。
【0018】
さらに、上述の各実施例では、金属イオンや金属錯イオンとして、たとえばPtやNiを含む金属イオンや金属錯イオンが用いられるように、特性の異なった金属からなる触媒を有する触媒担持フィルタを簡単に製造することができる。
【0019】
また、上述の各実施例では、担体である多孔質セラミックス基板の表面に高分子混合体であるPVA/PAAmブレンド溶液をコーティングし、コーティングされたPVA/PAAmブレンド溶液からなる層に、PtやNiなどの金属を含む金属イオンや金属錯イオンを吸着させるので、PVA/PAAmブレンド溶液からなる層の表面側からPtやNiなどの金属を含む金属イオンや金属錯イオンが吸着され、PVA/PAAmブレンド溶液からなる層において表面側により多くのPtやNiなどの金属を含む金属イオンや金属錯イオンを吸着することができる。そのため、PVA/PAAmブレンド溶液からなる層を焼成しても完全に焼失しない場合に、PtやNiなどの金属からなる触媒を触媒担持フィルタの表面側に効率的に担持することができる。この場合、多孔質セラミックス基板の表面にPVA/PAAmブレンド溶液をコーティングするために、多孔質セラミックス基板をPVA/PAAmブレンド溶液中に浸漬するので、多孔質セラミックス基板全体がPVA/PAAmブレンド溶液で取り囲まれ、PVA/PAAmブレンド溶液を多孔質セラミックス基板の表面に簡単にコーティングすることができる。さらに、この場合、PVA/PAAmブレンド溶液からなる層にPtやNiなどの金属を含む金属イオンや金属錯イオンを吸着させるために、PVA/PAAmブレンド溶液がコーティングされた多孔質セラミックス基板を、PtやNiなどの金属を含む金属イオンや金属錯イオンを含む溶液中に浸漬するので、多孔質セラミックス基板にコーティングされたPVA/PAAmブレンド溶液全体が、PtやNiなどの金属を含む金属イオンや金属錯イオンを含む溶液で取り囲まれ、PtやNiなどの金属を含む金属イオンや金属錯イオンをPVA/PAAmブレンド溶液からなる層に簡単に吸着させることができる。
【0020】
さらに、上述の各実施例では、担体としての多孔質セラミックス基板とともに、PtやNiなどの金属を含む金属イオンや金属錯イオンが吸着された高分子混合体であるPVA/PAAmブレンド溶液からなる層を焼成するので、高分子混合体を簡単に焼成することができ、そのため、触媒となるPtやNiを多孔質セラミックス基板に簡単に担持させることができる。
【0021】
また、上述の各実施例では、比較的に安価な汎用素材であるPVAおよびPAAmを用いたPVA/PAAmブレンド溶液で触媒となるPtやNiなどの金属を含む金属イオンや金属錯イオンを吸着し、高分子混合体部分を焼成することによって、簡単にPtやNiなどの金属からなる触媒を坦持することができる。
【0022】
さらに、上述の各実施例において、PVA/PAAmブレンド溶液を担体としての多孔質セラミックスの孔内の内壁を含む表面にコーティングし、それをたとえばメッキ排水などの廃液に浸漬して廃液中の金属イオンや金属錯イオンを吸着した後、高分子混合体部分を焼成することによって、金属からなる触媒が担体に担持された触媒坦持フィルタが得られる。このようにすれば、得られた触媒坦持フィルタは、排気処理などに利用できることから、水質汚染の防止と大気汚染の防止とを兼ね備えることも可能になる。
【0023】
また、上述の各実施例では、PtやNiなどの金属を含む金属イオンや金属錯イオンがPVA/PAAmブレンド溶液中の解離性官能基を有するPAAmに吸着されるため、PtやNiなどの金属からなる触媒を多孔質セラッミクスの孔内の内壁にも均一に高分散状態で担持できる。
【0024】
さらに、上述の各実施例では、高分子混合体成分を焼成することによって金属からなる触媒を担持するので、触媒としてたとえばnmサイズの白金微粒子やニッケル微粒子などの金属微粒子を担持できる。
【0025】
さらに、上述の各実施例では、高分子混合体であるPVA/PAAmブレンド溶液の粘度を調整したり、PVA/PAAmブレンド溶液に多孔質セラミックス基板を浸漬する際に加圧したり減圧したりすることによって、または、多孔質セラミックス基板にPVA/PAAmブレンド溶液を加圧状態で塗布して孔内に圧入したり減圧状態で塗布して孔内に吸引したりすることによって、高分子混合体を多孔質セラミックス基板の孔内の内壁に均一にコーティングできるため、担体の内壁にPtやNiなどの金属からなる触媒を効率的に担持できる。
【0026】
また、上述の各実施例に用いられている高分子混合体では、たとえばPt錯イオンなどの陰イオンやNiイオンなどの陽イオンの両方のイオンを吸着させることが可能である。そのため、吸着条件を最適化すれば、同時に両方のイオンを吸着することが可能である。
【0027】
さらに、焼成前に還元剤で還元処理する場合には、金属微粒子は還元剤および条件により凝集が促進されてしまうことが多いが、上述の各実施例に用いられる高分子混合体では、ポリビニルアルコールを含み、ポリビニルアルコールのゲル骨格を有することになるため、金属微粒子の凝集の抑制効果たとえば金属微粒子がほぼ均一に分散されて形成される効果が期待できる。
【0028】
(実験例)
実験例では、各種のポリマー(親水性ポリマー、解離性官能基を有するポリマー)の組合せによる高分子混合体により、金属(Pt、Ni)吸着試験を行った。親水性ポリマーと解離性官能基を有するポリマーとの組合せは、次の表1にサンプル1〜サンプル8で示すように8通りある。
【0029】
【表1】

【0030】
また、表1に示す各種のポリマーなどの各試薬(親水性ポリマー、解離性官能基を有するポリマー、溶媒、白金溶液、凝固浴)の詳細を、次の表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
また、表1および表2に示す解離性官能基(1級アミノ基)を有するポリマーB−1、解離性官能基(2級アミノ基)を有するポリマーB−2、解離性官能基(3級アミノ基)を有するポリマーB−3および解離性官能基(4級アミノ基)を有するポリマーB−4のそれぞれ化学式を、図7、図8、図9および図10にそれぞれ示す。
【0033】
A.Pt吸着
サンプル1〜8について、試料の作製、吸着の操作、定量の方法を以下に説明する。
【0034】
1.サンプル1〜5(PVA系)について
(1)解離性官能基を有するポリマーB−1〜B−5をそれぞれポリマー濃度が10wt%になるように蒸留水で希釈して、各ポリマー溶液とした。
(2)親水性ポリマーA−1(1.8g)、DMSO(14.4g)、蒸留水(2.0g)をビーカーに秤量し、加熱溶解させて、溶解液とした。
(3)(2)の溶解液に(1)の各ポリマー溶液(1.8g)をそれぞれ加え、攪拌して、各溶液とした。
(4)(3)の各溶液を、冷却したエタノール(約−10℃)に押し出し、凝固させて、脱溶媒した。
(5)脱溶媒したそれぞれをエタノールに浸漬し、−15℃で約12時間保持した。
(6)そして、それぞれを50℃で予備乾燥後、真空中150℃で2時間熱処理して、各試料とした。
(7)各試料50mgを秤量し、それぞれを0.01NのHCl水溶液30mLに12時間浸漬後、水洗いした。
(8)そして、それぞれを100ppmに希釈した白金標準液50mLに12時間浸漬して、各溶液とした。
(9)それから、各溶液を適宜蒸留水で希釈し、ICP発光分析装置(株式会社堀場製作所 ULTIMA2)で定量した。
【0035】
2.サンプル6(ゲランガムを含む)について
(1)解離性官能基を有するポリマーB−1をポリマー濃度が10wt%になるように蒸留水で希釈して、ポリマー溶液とした。
(2)親水性ポリマーA−2(0.3g)、蒸留水(29.7g)をビーカーに秤量し、加熱溶解させて、溶解液とした。
(3)(2)の溶解液に(1)のポリマー溶液(0.3g)を加え、攪拌した。
(4)その結果、(1)のポリマー溶液を滴下した部分がすぐにゲル化し、均一なブレンド溶液が得られなかった。
【0036】
3.サンプル7(ゼラチンを含む)について
(1)解離性官能基を有するポリマーB−1をポリマー濃度が10wt%になるように蒸留水で希釈して、ポリマー溶液とした。
(2)親水性ポリマーA−3(1.4g)、蒸留水(27.2g)をビーカーに秤量し、加熱溶解させて、溶解液とした。
(3)(2)の溶解液に(1)のポリマー溶液(1.4g)を加え、攪拌した。
(4)それをシャーレに移し、冷蔵庫で1時間保持し、ゲル化した。
(5)そのゲルを真空乾燥機中60℃、12時間で乾燥した。
(6)それから、上述の1.サンプル1〜5(PVA系)の(6)〜(9)の操作と同様の操作をした。
【0037】
4.サンプル8(アガロースを含む)について
(1)解離性官能基を有するポリマーB−1をポリマー濃度が10wt%になるように蒸留水で希釈して、ポリマー溶液とした。
(2)親水性ポリマーA−4(0.3g)、蒸留水(29.7g)をビーカーに秤量し、加熱溶解させて、溶解液とした。
(3)(2)の溶解液に(1)のポリマー溶液(0.3g)を加え、攪拌した。
(4)それをシャーレに移し、冷蔵庫で1時間保持し、ゲル化した。
(5)そのゲルを真空乾燥機中60℃、12時間で乾燥した。
(6)それから、上述の1.サンプル1〜5(PVA系)の(6)〜(9)の操作と同様の操作をした。
【0038】
サンプル1〜8のPt吸着試験の結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

【0040】
表3に示す結果より、サンプル6ではPtを吸着できず、また、サンプル5ではPtをあまり吸着できていないのに対して、サンプル1〜サンプル4、サンプル7およびサンプル8では、それぞれ、Ptを十分に吸着できていることがわかる。
これは、サンプル6では、ポリマー溶液を滴下した部分がすぐにゲル化してしまい、均一なブレンド溶液が得られないからである。また、サンプル5では、解離性官能基を有するポリマーにおける解離性官能基が負の解離性官能基であるため、白金標準液中のPt錯イオンを吸着しにくいからである。それに対して、サンプル1〜サンプル4、サンプル7およびサンプル8では、それぞれ、良好なブレンド溶液を形成することができるとともに、解離性官能基を有するポリマーにおける解離性官能基が正の解離性官能基であるために、白金標準液中のPt錯イオンを十分に吸着することができるからである。
【0041】
B.Ni吸着
サンプル1〜8について、試料の作製、吸着の操作、定量の方法を以下に説明する。
【0042】
1.サンプル1〜5(PVA系)について
(1)上述のPt吸着における1.サンプル1〜5(PVA系)の(1)〜(6)の操作と同様の操作をした。
(2)各試料50mgを秤量し、それぞれを0.01NのNaOH水溶液30mLに12時間浸漬後、水洗いした。
(3)そして、それぞれを作製した100ppmのNi水溶液(Ni(NO32・6H2O)50mLに12時間浸漬して、各溶液とした。
(4)それから、各溶液を適宜蒸留水で希釈し、ICP発光分析装置(株式会社堀場製作所 ULTIMA2)で定量した。
【0043】
2.サンプル6(ゲランガムを含む)について
上述のPt吸着における2.サンプル6(ゲランガムを含む)と同様に、均一なブレンド溶液が得られなかった。
【0044】
3.サンプル7(ゼラチンを含む)について
(1)上述のPt吸着における3.サンプル7(ゼラチンを含む)の(1)〜(5)の操作と同様の操作をして、試料とした。
(2)次に、上述のNi吸着における1.サンプル1〜5(PVA系)の(2)〜(4)の作用と同様の操作をした。
【0045】
4.サンプル8(アガロースを含む)について
(1)上述のPt吸着における4.サンプル8(アガロースを含む)の(1)〜(5)の操作と同様に操作して、試料とした。
(2)次に、上述のNi吸着における1.サンプル1〜5(PVA系)の(2)〜(4)の操作と同様の操作をした。
【0046】
サンプル1〜8のNi吸着試験の結果を表4に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
表4に示す結果より、サンプル6ではNiを吸着できていないのに対して、サンプル1〜サンプル5、サンプル7およびサンプル8では、それぞれ、Niを吸着できていることがわかる。
これは、サンプル6では、ポリマー溶液を滴下した部分がすぐにゲル化してしまい、均一のブレンド溶液が得られないからである。それに対して、サンプル1〜サンプル5、サンプル7およびサンプル8では、それぞれ、良好なブレンド溶液を形成することができるとともに、解離性官能基を有するポリマーにおける解離性官能基がNiを含む金属イオンを水酸化物に形成し、親水性ポリマーがその水酸化物を保持することができるからである。
【0049】
(実施例3)
実施例3では、上述の実験例のようにして、触媒となるPtまたはNiを含む金属イオンまたは金属錯イオンを高分子混合体に吸着させた。そして、そのように金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体を、担体としての多孔質セラミックス基板の表面にコーティングすることによって、触媒となるPtまたはNiを含む金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体の層を形成した。
それから、多孔質セラミックス基板とともに、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体の層を焼成することによって、多孔質セラミックス基板の孔内の内壁を含む表面にPtまたはNiが担持された触媒担持フィルタを製造した。
【0050】
実施例3でも、上述の各実施例1、2と同様の効果を奏する。ただし、実施例3では、実施例1、2と比べて、高分子混合体で金属イオンや金属錯イオンを吸着した後に、金属イオンや金属錯イオンが吸着された高分子混合体の層を担体の表面に形成するので、実施例1、2にように担体の表面に高分子混合体をコーティングした後にその高分子混合体で金属イオンや金属錯イオンを吸着する場合にのみ得られる効果は得られないが、以下の効果がさらに得られる。
【0051】
すなわち、実施例3では、高分子混合体の層を形成する工程が、高分子混合体に金属イオンまたは金属錯イオンを吸着させる工程と、担体の表面に、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体をコーティングする工程とを含むので、高分子混合体に吸着させる金属イオンまたは金属錯イオンの量(濃度)や高分子混合体をコーティングする量(高分子混合体の層の厚さ)を調整することによって、金属からなる触媒の量を簡単に調整することができる。この場合、金属イオンまたは金属錯イオンを吸着させる工程が、金属イオンまたは金属錯イオンを含む溶液を高分子混合体に混合する工程を含むと、高分子混合体が金属イオンまたは金属錯イオンと混ざるので、金属イオンまたは金属錯イオンを高分子混合体に簡単に吸着させることができる。さらに、この場合、高分子混合体をコーティングする工程が、担体を、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体中に浸漬する工程を含むと、担体全体が、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体で取り囲まれるので、金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された高分子混合体を担体の表面に簡単にコーティングすることができる。このように担体に高分子混合体をコーティングする場合、金属イオンまたは金属錯イオンが高分子混合体に担体を浸漬する際に加圧したり減圧したりしてもよく、また、金属イオンまたは金属錯イオンが高分子混合体を担体に加圧状態で塗布したり減圧状態で塗布したりしてもよい。
【0052】
なお、上述の各実施例では、担体としてアルミナからなる多孔質セラッミクス基板が用いられているが、この発明では、耐熱性を有するものなら、非多孔質のもの、セラミックス以外の材料たとえば金属からなるもの、基板形状以外の形状たとえばハニカム構造を有する形状、筒形状、線形状、棒形状、ブロック形状、球形状のものが、担体として用いられてもよい。
【0053】
また、上述の各実施例では、単独で物理ゲルを形成する親水ポリマーとして各種の親水ポリマーが用いられているが、この発明では、それらの各種の親水性ポリマー以外のポリマーであって、水酸基を含むノニオン性ポリマーが用いられてもよい。
【0054】
さらに、この発明では、上述の各実施例で用いられている各種の解離性官能基を有するポリマー以外のポリマーであって、1〜4級アミノ基のいずれかの基、カルボキシル基、スルホン酸基およびフェノール性水酸基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有するポリマーが用いられてもよい。この場合、解離性官能基を有するポリマーとして、繰り返し単位中に1〜4級アミノ基のいずれかの基を有するポリマーが用いられてもよい。
【0055】
また、上述の各実施例では、白金やニッケルを含む金属イオンや金属錯イオンが用いられているが、それ以外に金、銀、銅またはパラジウムが用いられてもよく、この発明では、白金、金、ニッケル、銀、銅およびパラジウムの少なくとも1種を含む金属イオンまたは金属錯イオンを用いることができる。
【0056】
さらに、上述の各実施例では、高分子混合体を焼成して完全に焼失しているが、この発明では、高分子混合体を焼成しても完全に焼失することなく部分的に炭化した状態で残してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法は、たとえばディーゼルエンジン自動車の排気ガスを浄化するためなどに用いられる触媒担持フィルタを製造するために利用される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法の一例に用いられるポリビニルアルコールの化学式を示す図である。
【図2】この発明にかかる触媒担持フィルタの製造方法の一例に用いられるポリアリルアミンの化学式を示す図である。
【図3】実施例1で製造された触媒担持フィルタの表面部分における電子顕微鏡写真の反射電子組成像を示す図である。
【図4】実施例1で製造された触媒担持フィルタの表面部分におけるエネルギー分散型X線分析法による分析チャートである組成スペクトルを示す図である。
【図5】実施例2で製造された触媒担持フィルタの表面部分における電子顕微鏡写真の反射電子組成像を示す図である。
【図6】実施例2で製造された触媒担持フィルタの表面部分におけるエネルギー分散型X線分析法による分析チャートである組成スペクトルを示す図である。
【図7】実験例に用いられる解離性官能基(1級アミノ基)を有するポリマーB−1の化学式を示す図である。
【図8】実験例に用いられる解離性官能基(2級アミノ基)を有するポリマーB−2の化学式を示す図である。
【図9】実験例に用いられる解離性官能基(3級アミノ基)を有するポリマーB−3の化学式を示す図である。
【図10】実験例に用いられる解離性官能基(4級アミノ基)を有するポリマーB−4の化学式を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性を有する担体および前記担体に担持される金属からなる触媒を含む触媒担持フィルタを製造するための触媒担持フィルタの製造方法であって、
耐熱性を有する担体を準備する工程、
単独で物理ゲルを形成する親水性ポリマーおよび繰り返し単位中に解離性官能基を有するポリマーの混合物を含む高分子混合体を準備する工程、
前記担体の表面に、触媒となる金属を含む金属イオンまたは金属錯イオンが吸着された前記高分子混合体の層を形成する工程、および
前記金属イオンまたは前記金属錯イオンが吸着された前記高分子混合体の層において前記高分子混合体を焼成することによって、前記担体に前記触媒となる金属を担持させる工程を含む、触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項2】
前記担体として多孔質の担体が準備され、
前記高分子混合体の層を形成する工程は、前記担体の孔内の内壁を含む前記担体の表面に前記高分子混合体の層を形成する工程を含む、請求項1に記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項3】
前記担体としてセラミックスからなる担体が準備される、請求項1または請求項2に記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項4】
前記親水性ポリマーとして、水酸基を含むノニオン性ポリマーが用いられる、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項5】
前記親水性ポリマーとして、ポリビニルアルコール、ゼラチンおよびアガロースからなる群から選択される少なくとも1種のポリマーが用いられる、請求項4に記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項6】
前記解離性官能基を有するポリマーとして、1〜4級アミノ基のいずれかの基、カルボキシル基、スルホン酸基およびフェノール性水酸基からなる群から選択される少なくとも1種の基を有するポリマーが用いられる、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項7】
前記高分子混合体として、前記親水性ポリマーおよび前記解離性官能基を有するポリマーからなるゲル状構造体を含む高分子混合体が用いられる、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項8】
前記金属イオンまたは前記金属錯イオンとして、白金、金、ニッケル、銀、銅およびパラジウムの少なくとも1種を含む金属イオンまたは金属錯イオンが用いられる、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項9】
前記高分子混合体の層を形成する工程は、
前記担体の表面に前記高分子混合体をコーティングする工程、および
前記担体の表面にコーティングされた前記高分子混合体に、前記金属イオンまたは前記金属錯イオンを吸着させる工程を含む、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項10】
前記高分子混合体をコーティングする工程は、前記担体を前記高分子混合体に接触させる工程を含む、請求項9に記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項11】
前記金属イオンまたは前記金属錯イオンを吸着させる工程は、前記高分子混合体がコーティングされた前記担体を、前記金属イオンまたは前記金属錯イオンを含む溶液中に浸漬する工程を含む、請求項9または請求項10に記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項12】
前記高分子混合体の層を形成する工程は、
前記高分子混合体に前記金属イオンまたは前記金属錯イオンを吸着させる工程、および
前記担体の表面に、前記金属イオンまたは前記金属錯イオンが吸着された前記高分子混合体をコーティングする工程を含む、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項13】
前記金属イオンまたは前記金属錯イオンを吸着させる工程は、前記金属イオンまたは前記金属錯イオンを含む溶液を前記高分子混合体に混合する工程を含む、請求項12に記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項14】
前記高分子混合体をコーティングする工程は、前記担体を、前記金属イオンまたは前記金属錯イオンが吸着された前記高分子混合体に接触させる工程を含む、請求項12または請求項13に記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項15】
前記金属イオンまたは前記金属錯イオンを吸着させる工程は、前記金属イオンまたは前記金属錯イオンが前記高分子混合体中の前記解離性官能基を有するポリマーに吸着され、または、前記金属イオンが前記高分子混合体中の前記解離性官能基を有するポリマーの解離性官能基により水酸化物に形成されその水酸化物が前記高分子混合体中の前記親水性ポリマーに保持される、請求項9ないし請求項14のいずれかに記載の触媒担持フィルタの製造方法。
【請求項16】
前記担体に前記触媒となる金属を担持させる工程は、前記担体とともに、前記担体の表面に形成され、前記金属イオンまたは前記金属錯イオンが吸着された前記高分子混合体の層を焼成する工程を含む、請求項1ないし請求項15のいずれかに記載の触媒担持フィルタの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−155199(P2010−155199A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334619(P2008−334619)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(391048049)滋賀県 (81)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】