説明

触媒担持フィルム及びその製造方法

【課題】担持させることのできる触媒成分の活性を維持し、また使用時の触媒成分の脱離が抑制され、使用後の反応生成物等からの分離、回収も容易な触媒担持フィルムを提供する。
【解決手段】極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂をフィルム状にしてなる担体と、該担体の表面に担持された触媒活性をもつ微粒子と、からなることを特徴とする触媒担持フィルム及び極性有機溶媒中に溶解させたフッ素樹脂に、触媒活性を有する微粒子を混合、分散させて触媒含有樹脂溶液を得た後、これをフィルム状に形成することを特徴とする触媒担持フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応に用いられる触媒活性を有する微粒子を担持した樹脂フィルム及びその製造方法に関するものであり、特に、極性有機溶媒に可溶性のフッ素樹脂を用いて形成した樹脂フィルムからなる触媒担持フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、化学工業において、化学商品の合成・分解、廃棄物や廃ガスの分解・除去等、化学反応を利用したほとんどの場合に触媒が用いられており、めざましい成果をあげている。また最近では、自動車や工場の排気ガスの浄化、燃料電池の電極、セパレータ等にも貴金属触媒が使用されている。
【0003】
これらの触媒は、長時間の使用においても活性を失うことがなく、損失が少ないこと、使用後に原料や反応生成物と分離しやすいこと、回収後に再生が容易であることが求められており、そのような触媒を使用することによる経済効果は莫大なものがある。
【0004】
一般に、上記用途に使用される触媒は触媒活性を有する金属成分を主成分とし、この金属成分としては貴金属が用いられている。通常、このような金属触媒成分は担体の表面に担持されて用いられている。触媒成分を担体の表面に担持させることで、触媒効率を向上させることができ、また触媒成分の有効利用により担持量を低減させることができるため、特に触媒成分が高価な貴金属である場合に適用される。また、触媒は適当な希釈剤中の溶液又は微細分散液の形態で反応液に導入され、反応終了後には反応生成物等から分離、回収されるが、担体の表面に触媒成分を担持させることで、触媒成分が微粒子状である場合にも、その分離、回収が容易となる。
【0005】
担体材料としては、例えば、微粉状の活性炭が用いられている。活性炭に触媒成分を担持させた代表例である活性炭にパラジウムを担持させたパラジウム−活性炭触媒は、活性炭を予め酸又は塩基類で処理し、その後に塩化パラジウム、硝酸パラジウム等の水溶性パラジウム塩の水溶液に浸漬し、蒸発乾固、還元処理することにより調製されている。還元処理としては、通常のH還元の他、ヒドラジンや水素化ホウ素ナトリウム等の液相還元剤による還元が行われている。活性金属として白金やルテニウムを用いたものも同様な方法で調製されている。
【0006】
また、担体材料として、例えばアルミナやシリカ等も用いられている。アルミナ担体については、金属イオンとの吸着を利用するものが知られており、酸又は塩基等の共存イオンにより担持量がコントロールされている。一方、シリカ担体については、金属イオン、特に錯イオンを吸着する能力がないことから金属イオンの所在制御が困難であり、また通常の含浸法では担体内部まで金属が侵入してしまい、しかも均一性に欠けるものしか得ることができない。
【0007】
このため、金属塩溶液を添加した溶剤を瞬時に蒸発させて金属塩をシリカ担体の表面に強制的に付着させる方法や、金属塩が含浸されたシリカ担体をアルカリ溶液で処理することにより非水溶性貴金属化合物を沈殿させ、シリカ担体の表面に担持させる方法が検討されている。さらに、これらの方法では必ずしも分散性や均一性を満足しないため、シリカ担体をアミノ基含有シラン化合物と反応させて改質した後、貴金属塩の水溶液と接触させることにより貴金属イオンをシリカ表面に固定し、還元処理を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
一方、担体としてセルロースを含有するものも提案されている。セルロースとしては、例えばリンター、パルプ、再生繊維等のセルロース質原料に化学的処理(酸加水分解、アルカリ酸化分解等)及び/又は機械的処理(粉砕、磨砕等)を施すことにより製造されたものが用いられている。セルロース担体への触媒成分の担持は、例えば、セルロース担体を核として、そのまわりに結合液を利用して触媒成分を被覆する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
また、担体として合成樹脂性の多孔質フィルムを使用するものも提案されている。フィルムとしては、ポリエチレンフィルムやテトラフルオロエチレンフィルム、塩化ビニルフィルム等を多孔質化したものが用いられている。触媒の固定化は、合成樹脂中に触媒を混合、含有させ、これをフィルム化するか、又はシリカゲル、ゼオライト、活性炭等の担体表面に触媒を導入し、これを樹脂に混合、含有させフィルム化するか、合成樹脂フィルムの表面に触媒を加圧、加熱圧着して担持する方法等も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開昭64−85141号公報
【特許文献2】特開平5−329380号公報
【特許文献3】特開平1−110541号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、触媒成分塩の水溶液に活性炭を浸漬し、還元処理するものについては、使用時に担体から触媒成分が脱離することがあり、その分離、回収が困難となることがある。
【0011】
また、アルミナやシリカに吸着、改質等により触媒成分を担持させた触媒については、担持させることのできる触媒成分の種類が制限される。さらに、セルロースを含有する担体に触媒成分を担持させたものについては、担体と触媒成分との接着力が弱く、使用時に担体から触媒成分が脱離することがあり、その分離、回収が困難となることがある。さらにまた、多孔質合成フィルム上に担持をさせた触媒では取扱は便利になるものの、フィルムを多孔質化する際に工数がかかり、触媒の活性も充分なものではなかった。
【0012】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、担持させることのできる触媒成分の活性を維持し、また使用時の触媒成分の脱離が抑制され、使用後の反応生成物等からの分離、回収も容易な触媒担持フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、担体として極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂フィルムと共に、触媒成分を用いることで、担持させた触媒成分の活性が制限されず、また使用時の触媒成分の脱離が抑制され、使用後の反応生成物等からの分離、回収も容易な触媒担持フィルムが得られることができることを見出したものである。
【0014】
すなわち、本発明の触媒担持フィルムは、極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂をフィルム状にしてなる担体と、該担体の表面に担持された触媒活性を有する微粒子と、からなることを特徴とするものであり、このとき、触媒を担持するフィルムとしては、ポリフッ化ビニリデンフィルムであることが好ましい。そして、この触媒微粒子は、その平均一次粒径は10〜100nm、平均二次粒子径は0.1〜10μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、触媒担持フィルムにおいて触媒活性を有する微粒子が担持されるフィルム担体としてフッ素樹脂フィルムを用いることで、担持されるべき触媒活性を有する微粒子の活性が制限されず、また使用時における触媒活性を有する微粒子の脱離が抑制され、使用後における反応生成物等からの分離、回収も容易なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の触媒担持フィルムは、極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂をフィルム状にしてなる担体と、この担体の表面に担持された触媒活性を有する微粒子(以下、単に触媒微粒子)とを具備することを特徴とするものである。
【0017】
本発明における樹脂フィルムは、極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂フィルムであれば特に限定されるものではなく、例えば、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキレンビニルエーテル、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル等の化合物が重合したフッ素化モノポリマー、フッ素化コポリマー、又はそれらの混合物によるポリマー等が好適である。この中でも、特にポリフッ化ビニリデンからなるフィルムが担持体としては好ましく、その主鎖中の構成単位の結合形態としてはHead to Tail結合を主鎖中に数多く含むものが好ましい。
【0018】
ポリフッ化ビニリデンからなるフィルムが担持フィルムとして好ましいのは、ポリフッ化ビニリデンは、耐熱性、耐薬品性が良好であるため、使用環境を選ばず、製品寿命を長くすることもでき、さらに、フィルムを形成した時に多孔質性のフィルムを形成し易いため、担持された触媒による触媒反応を効率的に行うことができるためである。
【0019】
ポリフッ化ビニリデン樹脂は、市販のものを使用することができる。例えば、クレハKFポリマー(株式会社クレハ製、商品名)、カイナー720(ペンウォルト社製、商品名)等がある。
【0020】
フィルム状担体の膜厚は、担持させる触媒微粒子の大きさやその担持量等によって適宜決定することができるが、例えば5μm以上100μm以下であることが好ましく、15μm以上60μm以下であることがより好ましい。フィルム厚が5μm未満の場合、フィルム強度が低くなりその表面に触媒微粒子を担持させることが困難となるおそれがある。一方、担体のフィルム厚が100μmを超えるものは取り扱いづらく、担体内部に存在し反応に関与しない触媒が多くなるため高価格となり好ましくない。
【0021】
また、担体の表面に担持される触媒としては、公知の触媒活性を有する微粒子であれば特に限定されずに用いることができる。ここで用いることができる触媒は、フィルム状にした樹脂に固定できる金属触媒、金属化合物触媒等の固体触媒が挙げられるが、金属化合物触媒であることが好ましく、その反応変換率が高いことからペロブスカイト型金属酸化物であることが特に好ましい。
【0022】
このとき、触媒中に用いられる金属は、例えば、チタン、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、レニウム、オスミニウム、イリジウム、銀、金、白金、スズ等の金属から選ばれる複数種の金属を含む複合金属酸化物が挙げられ、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、LaFe0.95Pd0.05等のようにパラジウムを含むものが好ましい。
【0023】
また、触媒微粒子は平均粒径が1μm以下であることが好ましく、例えば、その平均一次粒径は1nm以上100nm以下といったナノサイズの複合酸化物微粒子等を用いることが好ましく、その平均二次粒子径は0.1〜10μmであることが好ましい。
【0024】
担体と触媒微粒子の質量比は、それぞれ使用するものの組み合わせにより適宜決定することができるが、例えば、フィルム担体:触媒微粒子=1000:1〜1:10程度の範囲で用いることができ、10:1〜1:2の範囲であることが好ましい。
【0025】
上記で好ましいとしたペロブスカイト型金属酸化物である触媒微粒子としては、例えば、パラジウムを含むペロブスカイト型化合物としてLaFe(1−r)Pd(0<r<0.2)が挙げられ、このようなペロブスカイト構造を有する触媒微粒子をフッ素樹脂フィルムと組み合わせて用いることによって触媒活性を有する担持フィルムを得ることができる。
【0026】
このようなフィルム状触媒は、例えば、極性有機溶媒中に溶解(膨潤)させたフッ素系樹脂に触媒微粒子を混合して触媒含有樹脂溶液を得た後、これをフィルム状に形成することで容易に製造することができる。
【0027】
本発明で用いるフッ素樹脂は極性有機溶媒中で溶解(膨潤)してフィルム状に成形されて膜を形成することができる。極性有機溶媒としては、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、メチレンジクロライド、テトラヒドロフラン(THF)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、トリフルオロ酢酸等の極性溶媒が使用できるが、NMP溶媒で溶解(膨潤)させた後にフィルム化すると、均一な細孔を有するフィルム状担体を得ることができ好ましい。
【0028】
フッ素樹脂以外の樹脂フィルム、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスルフォン系樹脂等から得られるフィルムは多孔化処理を行わなければならず、また、これらのフィルムに担持された触媒は充分な触媒活性を得ることはできない(以上は特許文献3に記載の公知のフィルム)。
【0029】
担体は樹脂フィルムのみからなるものであってもよいが、必要に応じて、かつ本発明の趣旨に反しない限りにおいて、無機微粒子等を含有していてもよい。無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ベンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。これらの無機微粒子は所望とする担体の平均粒径よりも十分に小さいものであれば特にその平均粒径は限定されるものではない。
【0030】
フィルム状担体は、上記したように触媒含有樹脂溶液をフィルム状に形成して製造する。その方法は極性有機溶媒に溶解(膨潤)させた樹脂を、基材となるフィルムや離型フィルムに塗布、乾燥して溶媒を除去しフィルム化することによって行われる。塗布方法は既存の方法がいずれも適用可能であるが、具体的にはグラビアコーター、リバースロールコーター、キスコーター、ロールナイフコーター、ロッドコーター等のコーターによって塗膜形成する方法、アプリケーターにより手塗りで塗膜形成する方法、スピンコーター法、バーコート法、スクリーン印刷法等があげられ、商品形態によって選択する。
【0031】
このとき、触媒含有樹脂溶液は、極性有機溶媒に溶融(膨潤)させたフッ素樹脂に触媒微粒子を混合・分散させて調整しても良いし、触媒を分散させた極性有機溶媒にフッ素樹脂を後から混合・分散させて溶融(膨潤)させて調整しても良い。このとき、フッ素樹脂と触媒微粒子との混合・分散は、公知の撹拌装置等による一般的な混合・分散方法で容易に行うことができる。この撹拌は、通常は常温で行うことができ、また撹拌速度も担体の混合液と触媒微粒子の分散液とを均一に混合できる程度のものであれば特に制限されるものではない。なお、このとき、充分に分散させたり、微粒子が凝集し易い場合にはこれを解砕して分散させたりするために、ボールミル等によるメディア分散装置、高圧ホモジナイザー等による高速高剪断ミキサー等を用いて、フッ素樹脂中に触媒微粒子が均一に分散する操作を行ってもよい。
【0032】
以上のように製造された触媒担持フィルムは、反応後に反応液から容易に分離、回収することができる。このようにして分離、回収された担持触媒は、通常の触媒と同様にして繰り返し触媒反応に用いることができる。
【0033】
上記したように、本発明の触媒担持フィルムの製造方法について説明したが、担体への触媒微粒子の担持方法は必ずしも上記した方法に限らず、例えば、予め、極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂のみから形成したフッ素樹脂フィルムの担体表面に触媒微粒子を加熱、加圧等しながら固定して担持させても良く、その他有効な担持方法であれば特に担持方法は制限されるものではない。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
N−メチル−2−ピロリドンを溶媒としたポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量 28万)の12質量%溶液を25質量部、ペロブスカイト型金属酸化物であるLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製)を6.0質量部計量し、それらをボールミル(直径2mmジルコニアボール、充填率60%)で20時間混合し、触媒微粒子分散液を得た。得られた触媒微粒子分散液をポリエステルフィルム(東レ株式会社製、商品名:ルミラー)に、アプリケーターで塗布し、70℃で30分乾燥して、膜厚35μmの触媒担持フィルムを製造した。
【0036】
(実施例2〜7)
表1に示した配合(質量部)とし、例によってフィルム厚みを変えた以外は、実施例1と同様の操作により触媒担持フィルムを製造した。なお、実施例4及び5で用いたポリフッ化ビニリデンは、それぞれ質量平均分子量が100万、63万のものである(共に、株式会社クレハ製)。
【0037】
(実施例8)
N−メチル−2−ピロリドンを溶媒としたポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量 28万)の12質量%溶液を25質量部、ペロブスカイト型金属酸化物であるLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製)を6.0質量部計量し、撹拌機で、200回転の速度で1時間混合したこと以外は、実施例1と同様の操作により触媒担持フィルムを製造した。
【0038】
(実施例9)
N−メチル−2−ピロリドンを溶媒としたポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量 28万)の12質量%溶液を25質量部、ペロブスカイト型金属酸化物であるLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製)を6.0質量部計量し、ボールミル(直径2mmジルコニアボール、充填率60%)で20時間混合し、触媒微粒子分散液を得た。ポリエステルフィルム(東レ株式会社製、商品名:ルミラー)上にN−メチル−2−ピロリドンを溶媒としたポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製;質量平均分子量 28万)の12質量%溶液をアプリケーターで塗布した上に、更に、得られた触媒微粒子分散液を塗布し、70℃で30分乾燥して、膜厚40μmの触媒担持フィルムを得た。
【0039】
(実施例10)
触媒活性を有する微粒子として、ペロブスカイト型金属酸化物であるLaFe0.95Pd0.05の代わりに、酢酸パラジウム(関東化学株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作により触媒担持フィルムを製造した。
【0040】
(比較例1)
熱硬化性樹脂からなる担体としての平均粒径20μm、平均球形度0.99、THF不溶分が97質量%のメラミン樹脂粉末(株式会社日本触媒製)15質量部と純水10質量部とを混合し、担体混合液を得た。そして、担体混合液を15000rpmの撹拌速度で撹拌しつつ、ペロブスカイト型金属酸化物であるLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製)を3.6質量部計量し混合し、さらに10分間の撹拌を行った。得られた触媒微粒子−担体混合液を濾過した後、濾過物を洗浄し、メラミン樹脂担体の表面に触媒微粒子が担持された担持触媒を得た。
【0041】
(比較例2)
ポリエチレン樹脂(平均分子量 15万) 15.0質量部とLaFe0.95Pd0.05(北興化学株工業式会社製)を3.6質量部計量し混合し、溶媒を用いずに混練して圧延した後、フィルム化して膜厚35μmの触媒担持フィルムを製造した。
【0042】
(比較例3)
N−メチル−2−ピロリドンを溶媒としたポリイミド樹脂の15質量%溶液(京セラケミカル株式会社製、商品名:CT4150) 30.0質量部とペロブスカイト型金属酸化物であるLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製)を4.5質量部計量し混合して樹脂溶液を得た。この樹脂溶液を、ポリエステルフィルム(東レ株式会社製、商品名:ルミラー)にアプリケーターで塗布し、70℃で30分乾燥後、さらに240℃で1時間硬化させて、膜厚42μmの触媒担持フィルムを製造した。
【0043】
(比較例4)
テトラヒドロフランを溶媒としたフェノキシ樹脂(東都化成株式会社製、商品名:YP−50)の12質量%溶液を25.0質量部とLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製)を3.0質量部計量し混合し、ポリエステルフィルム(東レ株式会社製、商品名:ルミラー)にアプリケーターで塗布し、70℃で30分乾燥して、フィルム化して膜厚35μmの触媒担持フィルムを製造した。
【0044】
(比較例5)
ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製、商品名:ポリフロンM−392;〔PTFE〕) 15.0質量部とLaFe0.95Pd0.05(北興化学工業株式会社製)を3.0質量部計量し混合し、溶媒を用いずに260℃で混練して圧延した後、フィルム化して膜厚35μmの触媒担持フィルムを製造した。
【0045】
(試験例)
次に、実施例及び比較例で製造した触媒担持フィルム及び球状触媒について、反応変換率、触媒微粒子の脱離、触媒微粒子の回収性及び回収後のフィルム形状について評価し、その結果を表1及び表2にまとめて示した。なお、触媒担持フィルムは、離型フィルムであるポリエステルフィルムから剥がして使用した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
[反応変換率]
4−ブロモアニソール 2.24g(0.012モル)、フェニルボロン酸 2.19g(0.018モル)、炭酸カリウム 4.98g(0.036モル)を、100mL容量の丸底フラスコに加え、溶剤として純水及び1−メトキシ−2−プロパノールを各18mL加え、撹拌溶解した。この溶液に、実施例及び比較例で得られた触媒担持フィルムを接触させ(このとき、4−ブロモアニソールに対し、触媒微粒子が0.005モル%に相当する量を含む触媒担持フィルムを使用)、室温で24時間反応させた。
反応終了後、反応液にトルエン及び純水を20mLずつ加えて、生成物を溶解した後、吸引ろ過により不溶解物を除去して、分液ロートに移し、下層の水層を分液し、上層のトルエン層を、ガスクロマトグラフィーにより変換率を求めた。
変換率(%)=4−メトキシビフェニル/4−ブロモアニソール+4−メトキシビフェニル(予め4−メトキシビフェニルと4−ブロモアニソールのトルエン溶液を個別に測定して相対感度を求め補正した。)
【0049】
[触媒微粒子の脱離]
反応変換率評価後の触媒担持フィルム表面を電子顕微鏡により観察し、触媒微粒子の脱落の有無により評価した。
○:変化なし、△:若干の変化が見られる、×:明らかな触媒活性を有する成分の脱落がみられる。
[触媒の回収性]
反応変換率評価後のサンプル(触媒担体)をろ過にて回収しその質量を計測して評価した。
○:95%超、△:95%〜85%、×:85%未満
[フィルム形状]
触媒回収性評価において、回収したサンプルのフィルム形状を目視にて評価した。試験前後において変化のないものはフラットとし、その他異常のあったものは、その内容を記載(割れ発生又は溶解変形)した。
【0050】
以上の結果から、本願発明のフッ素樹脂フィルムに触媒を担持した触媒担持フィルムが触媒活性の維持に優れ、触媒が担体から脱離しにくく回収性も良好なもので、触媒の有効利用を図れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂をフィルム状にしてなる担体と、該担体の表面に担持された触媒活性を有する微粒子と、からなる触媒担持フィルム。
【請求項2】
前記極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂が、ポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項1記載の触媒担持フィルム。
【請求項3】
前記触媒活性を有する微粒子が、ペロブスカイト型金属酸化物であることを特徴とする請求項1又は2記載の触媒担持フィルム。
【請求項4】
前記触媒担持フィルムが、前記触媒活性をもつ微粒子と前記極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂とを極性有機溶媒中で混合した後、得られた触媒含有樹脂溶液をフィルム化して製造することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の触媒担持フィルム。
【請求項5】
極性有機溶媒に可溶なフッ素樹脂と触媒活性を有する微粒子とを前記極性有機溶媒中で混合して触媒含有樹脂溶液を得た後、これをフィルム状に形成することを特徴とする触媒担持フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記フィルム状に形成する際に、前記触媒含有樹脂溶液を高分子フィルムの片面又は両面に塗布し、溶媒を乾燥、除去することを特徴とする請求項5記載の触媒担持フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−142718(P2010−142718A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321892(P2008−321892)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【出願人】(000242002)北興化学工業株式会社 (182)
【Fターム(参考)】