説明

触針式形状測定装置及び方法とこれに適した回転規制エアシリンダ

【課題】 測定面の傾斜角が大きい場合でも、安定した測定が可能であり、測定誤差の増加を抑制して、安定かつ高精度に形状測定することができる触針式形状測定装置とその方法を提供する。
【解決手段】 軸方向が被測定物の設置面の垂直方向に対して一定角度傾斜して設置された斜軸測定プローブ1と、軸方向が被測定物の設置面の垂直方向に平行に設置された直軸測定プローブ2とを備え、これらの複数の測定データをつなぎ合わせることで全体形状を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の形状を測定するための触針式形状測定装置及び方法とこれに適した回転規制エアシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
触針式形状測定装置は、測定プローブの先端を被測定物の表面に接触させてその形状を測定する装置である。この装置の測定プローブは、例えばリニアボールベアリング又はエアースライドで軸方向に移動可能に支持され、かつバネや空気圧でプローブを被測定物に向けて与圧を与え、この状態で測定プローブの変位量を、光学式スケール、磁気スケール、干渉測長光学系等によって測定するものである。
【0003】
近年、携帯電話のCCDカメラ用レンズやDVD用のピックアップレンズなどの小型非球面光学素子は、設計上の要請から急勾配をもつ形状が増加している。なかには、70°以上という急勾配をもった光学素子もあり、表面は極めて滑らかな鏡面であり、かつ0.1μm以下の高い計測精度が要求される。
【0004】
しかし、このような光学素子の形状測定において、触針式形状測定装置は、測定面の傾斜角が大きくなる(例えば60°を超える)と測定が不安定になったり、測定誤差が増加したりするため、安定して高精度に形状測定することが困難になることが知られている。
【0005】
そこでこの問題点を解決するために、特許文献1〜5が既に提案されている。
【0006】
特許文献1の「プローブ走査型形状測定装置及び方法」は、図26に示すように、回転台57、角度測定手段58、移動台59、変位測定手段54、55、56を設け、被測定面51aの一測定断面を回転台57を回転して測定し、次に、移動台59でx,z方向に若干変位させ、同じ測定断面を2回以上N回測定するものである。
【0007】
特許文献2の「触針式形状測定センサとこれを用いたNC加工装置および形状測定方法」は、図27に示すように、被測定物に向けて付勢するプローブヘッド60と、接触子の変位を計測するレーザ干渉変位計(図示せず)とを備え、プローブヘッド60の中間部に段差61a,61bとを有するプローブシャフト62と、段差の前後を支持する気体軸受64a,64bとを備え、段差部に供給する別の圧縮空気により段差部の面積差で被測定物へ向かう付勢力を所定範囲の微小荷重に一定に保持するものである。
【0008】
特許文献3の「接触式表面形状測定装置及び測定方法」は、図28に示すように、プローブの接触によって被測定物体表面に生じる水平方向接触力を推定する手段と、その鉛直方向接触力を検出する手段と、各測定位置における傾斜角度情報を検出する手段と、倣い動作時に発生する垂直抗力が一定となるように鉛直方向接触力を制御する手段とを備えるものである。
【0009】
特許文献4の「形状測定方法及び装置」は、プローブが下がり方向に移動していることを認識した場合の測定値を選択し、この測定値から被測定物の表面形状を測定するものである。
【0010】
特許文献5の「エアベアリングシリンダ」は、プローブヘッドに適用可能な高精度と高い応答性を得ることを目的とし、図29に示すように、第1及び第2の圧力作用部71、72をロッド73の長手方向に沿って段違いに配置するとともに、両圧力作用室間にロッドに対して加圧エアを噴出する流体圧シール機構を配設したものである。
【0011】
【特許文献1】特開平7−181037号公報、「プローブ走査型形状測定装置及び方法」
【特許文献2】WO00/52419号公報、「触針式形状測定センサとこれを用いたNC加工装置および形状測定方法」
【特許文献3】特開2005−37197号公報、「接触式表面形状測定装置及び測定方法」
【特許文献4】特開2005−156235号公報、「形状測定方法及び装置」
【特許文献5】特開2001−271808号公報、「エアベアリングシリンダ」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般的に触針式プローブを用いて傾斜面を測定する場合、特許文献2に記載されているように、プローブを被測定物へ押し付ける測定力、斜面からの垂直抗力、および測定時の摩擦力によって、プローブ軸はすべり誤差と傾き誤差をもち、これが高さ方向の誤差となって表れる。
【0013】
傾斜角が増加すればするほど、この誤差も急激に大きくなるため、この誤差を小さく抑えるためには測定力を小さくする以外に手段は無かった。しかしながら、測定力を小さく制御するためには、微小な測定力を発生させる機構が必要となるばかりでなく、測定の安定性を増すために応答速度を上げる必要があり、そのためにはプローブ軸の質量を小さくする必要があった。
【0014】
プローブ軸の質量を小さくするためにはプローブ軸を細く短くする必要があるが、アキシャル方向の軸受剛性は高く保たなければいけないので、構造的に限界がある。
このように、従来の手段で急勾配の斜面を高精度に測定するには限界があるため、(1)特許文献4のようにスキャン方向を下り方向に限定する手段、(2)特許文献3のように垂直抗力が一定となるように測定力を制御させる手段、(3)特許文献1のように回転軸を用いてプローブの角度を変化させる手段、等が提案されているが、測定精度の面で根本的な解決には至っていない。
【0015】
また、汎用の三次元測定器などで多く用いられているタッチプローブは、測定力を極めて小さく制御することが困難であるため、測定精度の面から超精密形状測定装置に利用することはできない。
【0016】
一方、触針式形状測定装置の測定プローブや半導体チップマウント装置のように、超精密加工・超精密測定のアプリケーションでは、エアシリンダの摺動抵抗を小さくし高い位置決め精度を実現することが要求され、かつ、エアシリンダ軸に不安定動作を引き起こす要因があってはならない。
【0017】
一般的なエアシリンダは加工の容易さから断面が円形である円筒形状をしているが、円筒形状ではエアシリンダ軸が回転してしまい、精密位置決めを行う上で問題となる。
そのため、従来は滑りキーのような回転止め機構を付加したり、特許文献5のように、エアシリンダ軸の断面を多角形(三角形や四角形など)の回転しない形状にする手段がとられていた。しかしながら、回転止め機構を付加するとエアシリンダ軸の重量が重くなるため、高速動作が要求されるアプリケーションでは応答速度が落ちてしまい不都合が生じる。また、断面を回転しない多角形にすると加工や組立作業が複雑になるため、職人による手作業が必要で、大量生産は困難であり、コスト高になってしまう。
【0018】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の第1の目的は、測定面の傾斜角が大きい場合でも、安定した測定が可能であり、測定誤差の増加を抑制して、安定かつ高精度に形状測定することができる触針式形状測定装置とその方法を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、触針式形状測定装置に適しており、軸回りに回転せず、摺動抵抗を小さくし高い位置決め精度を実現することができ、加工及び組立が容易であり、職人による手作業が不要であり、大量生産が可能であり、コストを低減できる回転規制エアシリンダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記第1の目的を達成するために、本発明によれば、測定プローブのプローブ軸の先端を被測定物の表面に接触させ、被測定物の形状を測定する触針式形状測定装置において、
軸方向が被測定物の設置面の垂直方向に対して一定角度傾斜して設置された斜軸測定プローブを備える、ことを特徴とする触針式形状測定装置が提供される。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、さらに、軸方向が被測定物の設置面の垂直方向に平行に設置された直軸測定プローブを備える。
【0021】
また、被測定物を加工する加工機上に設ける、ことが好ましい。
【0022】
前記斜軸測定プローブの傾斜角度は、被測定物の設置面の垂直方向に対して30°以上、90°以下である、ことが好ましい。
【0023】
空気圧によって測定プローブの測定力を制御する測定力制御装置を備える、ことが好ましい。
【0024】
被測定物の設置面の垂直方向に対して、測定プローブの軸が傾斜する角度を調節する角度調整機構を備える、ことが好ましい。
【0025】
また、本発明によれば、測定プローブのプローブ軸の先端を被測定物の表面に接触させ、被測定物の形状を測定する触針式形状測定装置において、
測定プローブのプローブ軸を被測定物の設置面の垂直方向に対して一定角度傾斜して設置し、測定プローブで測定する範囲がプローブ軸に対して±60°以内である、ことを特徴とする触針式形状測定方法が提供される。
【0026】
また、本発明によれば、測定プローブのプローブ軸の先端を被測定物の表面に接触させ、被測定物の形状を測定する触針式形状測定装置において、
2以上の測定プローブのプローブ軸を被測定物の設置面の垂直方向に対して異なる角度で設置し、それぞれの測定プローブで測定する範囲がプローブ軸に対して±60°以内であり、これらの複数の測定データをつなぎ合わせることで全体形状を求める、ことを特徴とする触針式形状測定方法が提供される。
【0027】
本発明の好ましい実施形態によれば、測定プローブのプローブ軸を被測定物の設置面に沿って移動する位置移動手段と、被測定物をその設置面の垂直方向軸を中心に回転する回転手段とを備え、
位置移動手段と回転手段を交互にあるいは同時に制御して、被測定物の形状を同心円状あるいは放射線状あるいは螺旋状に測定する。
【0028】
また、本発明によれば、供給される圧縮空気により測定プローブを被測定物に接触させる測定プローブ付勢機構を備え、
この測定プローブ付勢機構に供給される圧縮空気の圧力を制御しながら形状を測定する。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記圧縮空気の圧力を、鉛直方向に対する測定プローブの設置角度、又は、被測定物と測定プローブとの接触及び非接触に応じて変化させる。
【0030】
被測定物と測定プローブとを離れた位置から測定点へ接触させ、プローブ軸の変位が一定値となる位置の三次元座標値を検出し、再び測定プローブを被測定物から離し次の測定点へ移動させる、というプロセスを繰り返し行うことで三次元的な形状を測定する、ことが好ましい。
【0031】
また上記第2の目的を達成するために、本発明によれば、軸方向に移動可能な円筒形ピストンと、該円筒形ピストンを軸方向に移動可能に支持しかつ円筒形ピストンの両端部に圧縮空気を供給可能な中空円筒形のシリンダと、円筒形ピストンの端面に偏心して連結され円筒形ピストンと同一方向に移動可能な円筒形ロッドと、該円筒形ロッドを軸方向に移動可能に支持し前記シリンダに連結されたロッド案内部とを備える、ことを特徴とする回転規制エアシリンダが提供される。
【0032】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記円筒形ピストンは、円筒形ロッドより直径が大きく、その偏心量は、直径の和の1/2以下に規定されている。
【0033】
また、本発明によれば、軸方向に移動可能な円筒形ピストンと、該円筒形ピストンを軸方向に移動可能に支持しかつ円筒形ピストンの端部に圧縮空気を供給可能な中空円筒形のシリンダと、円筒形ピストンの端面に連結され円筒形ピストンと同一方向に移動可能な円筒形ロッドと、該円筒形ロッドを軸方向に移動可能に支持し前記シリンダに連結されたロッド案内部とからなるエアシリンダを、これらの円筒形ロッドの軸方向が平行となるように複数備え、
少なくとも一つのエアシリンダの、圧縮空気の供給による動作方向と、その他のエアシリンダの、圧縮空気の供給による動作方向とが、逆向きになるように、前記複数のエアシリンダは配置されており、
それぞれの円筒形ピストンおよび円筒形ロッドは連動するように連結されている、ことを特徴とする回転規制エアシリンダが提供される。
【0034】
前記シリンダとロッド案内部は、ピストンおよび円筒形ロッドをそれぞれ支持する非接触式の円筒空気軸受又は接触式の円筒すべり構造を備える。ことが好ましい。
【0035】
前記円筒形ピストンの軸方向変位を測定する変位測定手段と、円筒形ロッドに連結され被測定物の表面に接触するスタイラスとを備える、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
上記本発明の装置及び方法によれば、軸方向が被測定物の設置面の垂直方向に対して一定角度傾斜して設置された斜軸測定プローブと、軸方向が被測定物の設置面の垂直方向に平行に設置された直軸測定プローブとを備え、これらの複数の測定データをつなぎ合わせることで全体形状を求めるので、傾斜角が60°を超える急勾配を持った光学素子の形状測定においても、安定して高精度に形状測定することが可能となる。
【0037】
また、上記本発明のエアシリンダは、円筒形ピストンと円筒形ロッドが偏心して連結されているので、軸の回転止め機構を付加させること無く、軸の断面形状を三角形や四角形などの回転しない形状にすることなく、回転を規制することができる。
また、軸の回転止め機構がなく、エアシリンダ全体を小型・軽量化することができ、円筒形ロッドの重量も軽量化できるため、高速動作させることができる。さらに、軸の回転止め機構が無く、軸の断面形状も円形であるため、構造を簡単にでき、組立作業も容易で、職人を必要とせず、コストを下げることができる。
さらに、複数のエアシリンダを、これらの円筒形ロッドの軸方向が平行となるように配置し、それぞれの円筒形ピストンおよび円筒形ロッドを連動するように連結することでも、軸の回転止め機構を付加させること無く、軸の断面形状を三角形や四角形などの回転しない形状にすることなく、軸の回転を規制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0039】
図1は、本発明の触針式形状測定装置の第1実施形態図である。本発明の触針式形状測定装置は、測定プローブのプローブ軸の先端を被測定物3の表面に接触させ、被測定物3の形状を測定する装置である。
なお、測定プローブを用いた測定方式には、(1)測定プローブがその軸方向に移動し、その移動量(変位)と位置の座標値から形状を求める方式と、(2)プローブ軸がその軸方向に移動しない(変位が0となる)ように位置移動手段を制御し、その座標値から形状を求める方式とがある。さらにそれぞれにおいて、(A)測定プローブと被測定物とが接触した状態で、測定プローブが被測定物表面に倣って移動し、連続して複数の座標値を取得する方式と、(B)測定点一点ごとに測定プローブと被測定物の接触/非接触動作を繰り返し、離散的に複数の座標値を取得する方式とがある。本発明の触針式形状測定装置は、このすべての方式に適用可能である。
【0040】
この図に示すように、本発明の触針式形状測定装置は、軸方向が被測定物3の設置面の垂直方向(図1上下方向)に対して一定角度傾斜して設置された斜軸測定プローブ1を備える。なお、本発明において「設置面の垂直方向」とは、被測定物を設置する際の基準面に対して垂直(法線)方向を意味し、被測定物が回転軸対称形状の場合は回転軸方向を意味する。
【0041】
斜軸測定プローブ1は、位置移動手段4および回転手段6を用いて被測定物3との相対距離と姿勢を変えることができる。位置移動手段4および回転手段6はコンピュータ8によって制御され、位置決めが行われる。また、現在の位置情報は位置検出手段5および回転角検出手段7によって検出され、コンピュータ8に送信される。コンピュータ8では、位置移動手段4および回転手段6を位置指令値に移動させる制御と、位置検出手段5および回転角検出手段7から得られる現在位置データの取り込み、および斜軸測定プローブ1の変位データの取り込みを同時に行うことにより、形状の測定を行う。
【0042】
なお、回転手段6および回転角検出手段7は、斜軸測定プローブの数や設置角度、そして要求精度によって必要な場合と不要な場合が考えられる。また形状を測定する際には、位置移動手段4は2軸を制御することにより、被測定物3の形状に倣って移動させる手段と、触針式プローブの変位軸を利用することにより、位置移動手段4は1軸のみ利用する手段がある。
【0043】
図2は、本発明の触針式形状測定装置の第2実施形態図である。この例では、斜軸測定プローブ1の他に被測定物3の設置面の垂直方向に平行に設置した直軸測定プローブ2を備える。斜軸測定プロ−ブ1および直軸測定プローブ2は、位置移動手段4および回転手段6を用いて被測定物3との相対距離や姿勢を変えることができる。直軸測定プローブ2を利用すると斜軸測定プローブ1のみの場合と比べて、被測定物3の中心部分での測定データの精度を向上させることができる。
【0044】
図3は、本発明の触針式形状測定装置の第3実施形態図である。この例では、被測定物を加工する加工機上に本発明の触針式形状測定装置を設ける。加工機上で形状測定を行う場合、加工機の位置決め制御は専用のNCコントローラ9で行う場合が多い。そのためコンピュータ8では、NCコントローラ9への位置指令値の出力、位置検出手段5および回転角検出手段7から得られる現在位置データの取り込み、および斜軸測定プローブ1あるいは直軸測定プローブ2の変位データの取り込みを同時に行う。位置検出手段5および回転角検出手段7から得られる現在位置データは、コンピュータ8とNCコントローラ9へ並列に出力することで、位置決め制御と現在位置データの取得が同時にできるため、高速測定を実現することができる。
【0045】
図4は、本発明の触針式形状測定装置の第4実施形態図である。この例では、空気圧によって測定プローブの測定力を制御できる測定力制御装置31を備える。測定力制御機構31は、圧縮空気供給源33と、圧縮空気の圧力の指令値を出力するコンピュータ8と、コンピュータ8からの前記指令値に基づいて、圧縮空気供給源33からの圧縮空気の圧力を調節する電空レギュレータ32と、圧縮空気供給源33から電空レギュレータ32を介して供給される圧縮空気により測定プローブ1を被測定物へ付勢して被測定物に接触させる測定プローブ付勢機構37と、から構成される。なお、測定プローブ付勢機構37は、例えば、後述する回転規制シリンダ、図27や図29に記載した機構、又は、他の適切な機構であってもよい。なお、図4において、斜軸測定プローブ1、位置移動手段4、位置検出手段5とコンピュータ8との間のデータ配線は図1と同様であるため省略している。
この構成により、圧縮空気供給源33から供給される圧縮空気の圧力を、コンピュータ8からの指令値に基づき電空レギュレータ32で制御して測定プローブ付勢機構37へと供給する。また、測定プローブ付勢機構37への供給空気圧力の実測値を電空レギュレータ32からコンピュータ8へ取り込むこともできる。つまり、コンピュータ8では位置移動手段4を位置指令値に移動させる制御と、位置検出手段5から得られる現在位置データの取り込み、および斜軸測定プローブ1の変位データの取り込み、そして電空レギュレータ32を介して測定力の制御と監視を同時に行うことにより、形状の測定を行う。これにより、極めて小さな一定の測定力を与えることができる。
また、測定プローブの設置角度によって重力の影響により測定力が変化してしまう問題があるが、測定プローブの設置角度に応じて、測定プローブ付勢機構37へ供給する圧縮空気の圧力を変化させることで、この問題を回避できる。
さらに、測定プローブ1が上述の位置移動手段4又は回転手段6により移動させられている非測定時においては、測定プローブ付勢機構37へ供給する圧縮空気の圧力を、測定時よりも高くする。これにより、高速移動によるプローブスケールの飛びや破損といった問題からプローブを保護することができる。
このような測定力制御装置31は図1〜3の触針式形状測定装置に適用することができる。
【0046】
図5は、本発明の触針式形状測定装置の第4実施形態におけるプローブ部の第1実施形態図である。この例では、触針式形状測定装置は、測定プローブ1の角度を調節して所望の角度に保持する2軸の角度調整機構35を備える。
この角度調整機構35は、例えば、測定プローブ1の支持体を回転軸Aの周りに回転可能に支持する支持部材35aと、測定プローブ1を回転軸Aの周りに回転させる第1駆動モータ35bと、測定プローブ1の支持体、支持部材35a及び第1駆動モータ35bを一体的に回転軸Bの周りに回転させる第2駆動モータ35cと、から構成される。
角度調整機構35を用いることで少ない数のプローブで様々な形状の測定に対応できる。
【0047】
図6は、本発明の触針式形状測定装置の第4実施形態におけるプローブ部の第2実施形態図である。この例では、1つの直軸測定プローブと1つの斜軸プローブの角度を調節して所望の角度に保持する1軸の角度調整機構35’を備える。
この角度調整機構35’は、例えば、直軸測定プローブ2の支持体と斜軸プローブ1の支持体が固定されている支持部材35a’と、支持部材35a’を回転軸Bの周りに回転させる駆動モータ35b’を備える。
【0048】
図7は、本発明の触針式形状測定装置の第4実施形態におけるプローブ部の第3実施形態図である。この例では、触針式形状測定装置は、1つの直軸プローブと4つの斜軸プローブを備える。例えば、図7に示すように、1つの直軸プローブの支持体と4つの斜軸プローブの支持体が支持部材36に固定されている。
【0049】
図8(A)(B)は、本発明の触針式形状測定方法の概念図である。従来例(図8A)のように1つの直軸測定プローブのみによる測定では、±90°の斜面の測定を想定した場合、測定が良好にできる範囲(およそ±60°の範囲)、測定はできるが測定精度が悪い範囲(およそ±60°〜±75°の範囲)、測定が不能な範囲(およそ±75°〜±90°の範囲)のように分類される。
本発明の方法(図8B)では、1つのプローブで測定する範囲を例えば±60°以内、つまり測定が良好にできる範囲内に限定し、角度を変えて設置した複数のプローブ1、2を用いて測定データを取得し、測定データをつなぎ合わせることで全体形状を求めるため、広い角度範囲において高精度な測定精度を維持することが可能である。
【0050】
図9は、本発明の触針式形状測定方法の第1実施形態を示すフローチャートである。この図に示すように、本発明の方法では、2以上の測定プローブ1、2のプローブ軸を被測定物3の設置面の垂直方向に対して異なる角度で設置し、それぞれの測定プローブ1、2で測定する範囲がプローブ軸に対して±60°以内であり、これらの複数の測定データをつなぎ合わせることで全体形状を求める。
【0051】
すなわち、例えば軸対称非球面光学素子(被測定物3)の形状測定を想定した場合、中心を通る断面形状を測定したいので、ステップS1において、まず直軸測定プローブ2を用いてセンタリングを行い、プローブ中心が被測定物3の中心位置にくるように位置移動手段4を制御する。制御方法は、プローブを用いて被測定物3の表面の何点かを測定し、それらの点を被測定物3の設計形状にフィッティングさせ、中心位置のずれを計算し、その分位置移動手段4を移動させる。この作業を何度か繰り返し、中心位置のずれがある値以下になったら、センタリングを終了させる。
【0052】
次に、ステップS2において、直軸測定プローブ2を用いて形状の測定を行う。例えば、±45°の範囲の測定を行う。
同様にステップS3、S4において、斜軸測定プローブ1を用いて、センタリング、形状測定を行う。例えば、斜軸測定プローブ1は45°傾斜させて設置し、そこから±45°の範囲、つまり0°〜90°の範囲の測定を行う。
【0053】
次に、ステップS5、S6、S7において、回転手段6を用いて被測定物を180°回転させた後、同様に斜軸測定プローブ1を用いて、センタリング、形状測定を行う。この作業により、−90°〜0°の範囲の測定ができ、3つの測定データを用いると±90°の範囲の形状の評価ができる。±45°の範囲はデータが重複するため、ステップS8において、この部分においてフィッティングを行うことで、被測定物3を移動させた際の姿勢変化による誤差成分を取り除くことができる。
【0054】
図10は、図9に示されるフローチャートの一部を利用して測定した測定結果である。本測定では、図9中のS3、S4のプロセスを用いて球形状をしたサンプルの形状測定データを示している。測定プローブは45°に傾斜させて設置し、その角度から±50°、つまり−5°〜+95°の範囲の測定を行った。従来手法では測定が困難、あるいは不可能であった傾斜角をもつ領域の測定が、本手法では良好に行うことができた。
【0055】
図11は、図10で得られた測定データを球面フィッティングして形状誤差を求めた評価データである。従来手法のように直交座標軸方向に偏差量を計算する方法では、+90°近傍で偏差量の計算ができなくなるため、測定プローブ軸方向に偏差量の計算を行った。
【0056】
図12は、本発明の触針式形状測定方法の第2実施形態を示すフローチャートである。この例では、測定プローブのプローブ軸を被測定物の設置面に沿って移動する位置移動手段と、被測定物をその設置面の垂直方向軸を中心に回転する回転手段とを備え、位置移動手段と回転手段を交互にあるいは同時に制御して、被測定物の形状を同心円状あるいは放射線状あるいは螺旋状に測定する。
【0057】
すなわち、本発明の触針式形状測定装置を被測定物を加工する加工機上に設け、軸対称非球面形状を機上計測する場合は、被測定物3が加工機上で回転手段6を回転させながら加工されたものであることから、被測定物3の回転中心軸と、回転手段6の回転中心軸が一致するため、位置移動手段4と回転手段6を用いて位置決めを行い、位置検出手段5と回転角検出手段7からのデータ、そしてプローブ変位データを用いて、被測定物の三次元的な面形状を測定できる。
【0058】
この図において、ステップS11、S12において、回転手段6を動作させながら測定データを収集し、位置移動手段4と回転手段6を交互に動作させると、図13のように、同心円状の形状測定ができる(S13)。また、ステップS21、S22において、位置移動手段4を動作させながら測定データを収集し、位置移動手段4と回転手段6を交互に動作させると、図14のように、放射線状の形状測定ができる(S23)。さらに、ステップS31において、位置移動手段4と回転手段6を同期させて動作させながら測定データを収集すると、図15のように、螺旋状の形状測定ができる(S32)。全ての手段において、初めにセンタリング(S10)を行っておけば、被測定物3の回転に応じてセンタリングをやり直す必要がないので、短時間に三次元形状を測定できる。
【0059】
図16は、本発明の触針式形状測定方法の第3実施形態を示すフローチャートである。測定開始とともに、測定プローブを測定開始点まで移動させる接近動作に入るが、測定時間短縮のためにはこの接近動作はなるべく速い速度で行うのが望ましい。しかしながら、大きな速度変化によってプローブ軸の動きが許容速度範囲を超えてエラーが出てしまったり、プローブ軸がストッパーに激しく衝突して破損したりするのを防ぐために、測定開始点の近傍まではエアシリンダの空気圧を高く設定してプローブ軸が外力によって不安定動作しないよう強く保持する。その後、被測定物形状に倣って連続多点測定を行っている間は、エアシリンダへの空気圧は小さく設定して測定力を極めて小さくすることで高精度測定を実現する。測定データの収集が終了したら、エアシリンダへの空気圧を再び大きく設定し、測定終了点からの退避動作を迅速に行う。これらの動作は斜軸プローブ1および直軸プローブ2のそれぞれの測定において行う。
【0060】
図17は、本発明の触針式形状測定方法の第4実施形態を示すフローチャートである。測定開始とともに、測定プローブを第1測定点まで移動させる接近動作に入るが、第1測定点の近傍まではエアシリンダの空気圧を高く設定してプローブ軸が外力によって不安定動作しないよう強く保持する。その後、第1測定点の測定においては、測定プローブ先端と被測定物表面を接触させ、エアシリンダへの空気圧は小さく設定して測定力を極めて小さくした状態で、測定プローブと被測定物との相対距離を近付け、エアシリンダ軸の変位がある一定値となる位置座標値を取り込む。この際、エアシリンダ軸の動きが行きと帰りの逆方向の動きにおいて得られた点の座標値を平均化したり、エアシリンダ軸の変位が一定となる位置でしばらく静止して数点の座標を取り込み平均化してもよい。あるいは、測定プローブ先端と被測定物表面を接触させた状態で、測定プローブと被測定物との相対距離を近付けている間の三次元座標値とプローブ変位を連続で取り込み、これらのデータから接触点の座標値を求めてもよい。第1測定点の測定が終了したら、エアシリンダへの空気圧を再び大きく設定し、測定終了点からの退避動作を迅速に行う。このプロセスをn個の測定点において繰り返し行うことで形状測定を行う。本方法は、被測定物のサイズが大きい場合や、形状が複雑な場合など、被測定物形状に倣って測定することが困難な場合に適している。n個の測定点においていずれの斜軸プローブ1および直軸プローブ2を用いるかは、被測定物の形状によって適したものを利用するのがよい。
【0061】
また、測定中の測定力はプローブ軸に掛かる重力の影響を受けるため、測定プローブの設置角度によって次の式(1)に従って変化させるのが望ましい。ここで、プローブ軸質量m、プローブ軸の鉛直方向とのなす角θ、エアシリンダ軸の前進方向への推力f、エアシリンダの後退方向への推力f、測定力F、重力加速度gとしている。
【0062】
F=mgcosθ+f−f (1)
【0063】
電空レギュレータ32へ印加する電圧v、vとそれに伴って発生する推力f、fとはほぼ比例関係にあるので、それぞれの比例係数をk、kとすると、以下の関係式(2)が成り立つ。
【0064】
F=mgcosθ+k−k (2)
【0065】
、kはエアシリンダの構造によって決定されるため、予め電圧v、vと推力f、fとの関係からk、kを求めておくことで、任意のプローブ角度θにおいて、測定力Fを満たす電圧v、vの組を見出すことができる。
【0066】
特許文献2の[数1]に本出願人等が開示しているように、傾斜面測定時における測定プローブの変位方向の測定誤差δは、プローブのすべりによる誤差が支配的となり、下記の式(3)で示される。
【0067】
【数1】

【0068】
φ=45°における測定誤差をδ45°とおくと、δ45°=ktan45°=kとなるから、上式は下記の式(4)のように表すことができる。
【0069】
【数2】

【0070】
つまり、傾斜角φの位置における測定誤差δは、φ=45°における測定誤差δ45°のtanφ・(sinφ+μcosφ)/(cosφ−μsinφ)倍になっていることが分かる。例えば、摩擦係数μ≒0の極めて滑らかな面を測定した場合を想定すると、δ=δ45°・(tanφ)となるから、表1に示されるように、 φ=45°における測定誤差δ45°を基準にしたときの傾斜角φの位置における測定誤差δは、例えばφ=60°では3.0倍、φ=70°では7.5倍、φ=80°では32倍と傾斜角の増加とともに増大し、そしてφ=90°では∞となり測定不能になる。これをグラフに図示すると図18のようになる。
【0071】
【表1】

【0072】
また、本出願人等による特許文献2の[数2]から、測定力Fyと傾斜角φは下記の関係式(5)が成り立つ。
【0073】
【数3】

【0074】
φ=45°における測定力をFy45°とおくと、Fy45°=kδであるから、上式は下記の式(6)のように表すことができる。
【0075】
【数4】

【0076】
測定誤差δを一定にした場合、つまり測定精度を測定誤差δ以下にするために必要とされる要求測定力Fyは、φ=45°における要求測定力Fy45°の(cosφ−μsinφ)/(tanφ(sinφ−μcosφ))倍になっていることが分かる。例えば、摩擦係数μ≒0の極めて滑らかな面を測定した場合を想定すると、Fy=Fy45°・(tanφ)−2となるから、表2に示されるように、φ=45°における要求測定力Fy45°を基準にしたときの傾斜角φの位置における要求測定力Fyは、例えばφ=60°では0.33倍、φ=70°では0.13倍、φ=80°では0.03倍と傾斜角の増加とともに小さくしていく必要があり、そしてφ=90°では0となり測定不能になる。これをグラフに図示すると図19のようになる。
【0077】
【表2】

【0078】
つまり、本発明の形状測定装置やその方法を用いることで、従来方法では高い測定精度を満たすことが困難であった傾斜角が大きな斜面(例えば、60°〜90°)や、測定が不可能であった90°を超える斜面において、高い測定精度を満たしながら測定することが可能である。また、従来方法では高い測定精度を満たすために、傾斜角の増加とともに測定力を小さく制御する必要があったが、本発明の形状測定装置やその方法を用いることで、傾斜角が大きな斜面においても高い測定精度を満たすために測定力を小さくする必要がなくなる。
【0079】
また、本出願人等による特許文献2の[数3]に開示しているように、最大スキャンスピードvmaxは下記の式(7)で与えられる。
【0080】
【数5】

【0081】
最大スキャンスピードvmaxを向上させるためには、測定力Fyを大きくするか、プローブシャフトの質量mを小さくする必要がある。従来例では、傾斜角が大きな斜面において高い測定精度を維持するために測定力Fyを大きくすることはできなかったため、プローブシャフトの質量mを小さくする、つまりプローブを小型軽量に設計することが要求された。そのため、特殊な微細加工手段を用いたり、特殊な軽い材料を用いてプローブを設計したり、小さな測定力を制御できる高精度制御系を構成しなくてはいけないため、性能的に限界があり、またコスト高の原因となっていた。
【0082】
これに対して本発明の装置および方法を用いると、最大スキャンスピードvmaxを向上させるために、測定力Fyを大きくすることも可能となるため、敢えて小型軽量の測定プローブを用いたり、小さな測定力を制御できる高精度制御系を用いる必要が無くなり、コスト削減へも寄与できる。
また、測定プローブとして同一性能のものを利用し、測定精度が一定となるように測定力Fyを選んだ場合、本発明の装置および方法において45°傾斜させた形状測定プローブを利用することで従来手段に対して傾斜角φ=80°では(2.0/0.031)1/2=8.0倍の最大スキャンスピードが見込めることになる。
【0083】
ここまで理論式をもとに議論を進めてきたが、実際の測定においては、傾斜角が大きな斜面の測定や測定力Fyを小さくした場合は、静電気の影響などによってプローブ先端が跳ねる現象が起きたり、測定プローブの変位が一定値になるようにステージの位置決め制御を行うような測定システムの場合は位置決め動作が不安定になったりする場合があり、本発明の装置および方法を用いることで、測定の安定性が向上し、従来手段では測定精度が悪かったり測定不能であった急斜面の高精度測定を実現することが可能となった。
【0084】
次に、上述した本発明の触針式形状測定装置に適した回転規制エアシリンダを説明する。
【0085】
図20は、本発明の回転規制エアシリンダの第1実施形態図である。この図に示すように、本発明の回転規制エアシリンダは、円筒形ピストン22、中空円筒形のシリンダ24、円筒形ロッド26およびロッド案内部28を備える。
円筒形ピストン22は、軸方向に移動可能に構成されている。また、シリンダ24は、円筒形ピストン22を軸方向に移動可能に支持しかつ円筒形ピストン22の両端部に圧縮空気を供給可能に構成されている。さらに、円筒形ロッド26は、円筒形ピストン22の一端面に偏心して連結され円筒形ピストン22と同一方向に移動可能に構成されている。また、ロッド案内部28は、円筒形ロッド26を軸方向に移動可能に支持しシリンダ24に連結されている。
円筒形ピストン22は、円筒形ロッド26より直径が大きく、その偏心量は、直径の和の1/2以下に規定されている。
またシリンダ24とロッド案内部28は、ピストン22および円筒形ロッド26をそれぞれ支持する非接触式の円筒空気軸受を備える。
【0086】
すなわち、図20において、軸12は、一体に形成された上部の軸、中央部の円筒形ピストン22及び下方の円筒形ロッド26からなる。また、シリンダ24とロッド案内部28は、ハウジング21、軸支持部11及び空気軸受15からなる。
【0087】
この図において、内径の異なる2つ以上の摺動部の中心軸を上部中心軸13と下部中心軸14のようにずらした構造からなる軸支持部11と、これに相応する外径の異なる中心軸をずらした構造からなる軸12を備え、軸の回転が規制される。
軸支持部11は空気軸受15で構成され、低摩擦の軸12の移動ができる。空気軸受15へは空気軸受用空気供給ポート18を介して空気を供給し、軸受の剛性を高く保つ。また、2つの摺動部の間にできる上部空気室16と下部空気室17へは、それぞれ上部空気室用空気供給ポート19と下部空気室用空気供給ポート20を介して空気を供給させることにより軸12を上下に移動させることができる。
上部空気室16および下部空気室17へ供給した空気は空気軸受の隙間から排出されるが、それぞれに空気排出ポートを取り付けて空気の排出量の調整をすることもできる。上部空気室用空気供給ポート19および下部空気室用空気供給ポート20へ供給する空気圧を電空レギュレータで電気的に精密に調整させることにより、軸12へ加わる力を精密に制御することができる。図20において軸12は上下へ移動する構造となっているが、左右あるいは斜めでも動作可能である。
また、3つある軸支持部11および空気軸受15のうち中央部は、円筒形ピストン22とハウジング21を極めて小さな隙間にすることにより省略することもできる。
【0088】
図21は、本発明の回転規制エアシリンダの第2実施形態図である。この例では、一般的なエアシリンダの構造となっており、軸支持部11が接触式のすべり構造となっている。この軸支持部11の構造および材質は低摩擦でありながら、空気のシール効果が高いものがよい。
【0089】
図22は、本発明の回転規制エアシリンダの第3実施形態図である。この図に示すように、本発明の回転規制エアシリンダは、円筒形ピストン22、中空円筒形のシリンダ24、円筒形ロッド26およびロッド案内部28をそれぞれ2以上備える。
円筒形ピストン22は、軸方向に移動可能に構成されている。また、シリンダ24は、円筒形ピストン22を軸方向に移動可能に支持しかつ円筒形ピストン22の一端面に圧縮空気を供給可能に構成されている。好ましくは、円筒形ロッド26は、円筒形ピストン22の一端面に同心で連結されている。さらに、円筒形ロッド26は、円筒形ピストン22の一端面に連結され円筒形ピストン22と同一方向に移動可能に構成されている。また、ロッド案内部28は、円筒形ロッド26を軸方向に移動可能に支持しシリンダ24に連結されている。円筒形ピストン22は、円筒形ロッド26より直径が大きい。またシリンダ24とロッド案内部28は、ピストン22および円筒形ロッド26をそれぞれ支持する非接触式の円筒空気軸受を備える。
これらの円筒形ピストン22、中空円筒形のシリンダ24、円筒形ロッド26およびロッド案内部28からなる構造体を2以上、それぞれの軸方向が平行となるように設置し、少なくとも1つが逆向きに動作するように、すなわち円筒形ピストン22と円筒形ロッド26が逆に取り付けられている。そして、これらの2以上の円筒形ピストン22と円筒形ロッド26は連結され連動して動作する。
【0090】
この図の例では、内径の異なる2つ以上の摺動部の中心軸が一致する軸支持部11とこれに相応する軸12を、2以上軸が平行になるように設置し、それぞれの軸を連結した構造からなる軸連結体41を備え、軸の回転が規制される。
軸支持部11は空気軸受15で構成され、低摩擦の軸12の移動ができる。空気軸受15へは空気軸受用空気供給ポート18を介して空気を供給し、軸受の剛性を高く保つ。また、2つの摺動部の間にできる左部空気室42と右部空気室43へは、それぞれ左部空気室用空気供給ポート44と右部空気室用空気供給ポート45を介して空気を供給させることにより軸連結体41を上下に移動させることができる。
左部空気室42および右部空気室43へ供給した空気は空気軸受の隙間から排出されるが、それぞれに空気排出ポートを取り付けて空気の排出量の調整をすることもできる。左部空気室用空気供給ポート44および右部空気室用空気供給ポート45へ供給する空気圧を電空レギュレータで電気的に精密に調整させることにより、軸連結体41へ加わる力を精密に制御することができる。図22において軸連結体41は上下へ移動する構造となっているが、左右あるいは斜めでも動作可能である。
【0091】
図23は、本発明の回転規制エアシリンダの原理説明図であり、本発明の回転規制エアシリンダにおいて、軸ずらし量xと摺動部の径方向のクリアランスδrと回転角φの関係を示している軸ずらしモデル図である。
エアシリンダ軸において円筒形ピストン22の中心軸30に対して円筒形ロッド26が回転するモデルを考える。軸方向に断面は等しいので二次元断面モデルで考える。円筒形ピストン22と円筒形ロッド26の中心軸同士の距離、つまり軸ずらし量をx、円筒形ロッド26の半径をr、径方向の移動可能量をδrとして、円筒形ピストン22が中心軸30に対して回転誤差を生じた場合の回転角をφとする。円筒形ロッド26の軸表面上の任意の点P(x,y)、径方向の移動可能領域の境界線上の任意の点Q(x',y')では下記の式(8)(9)が成り立つ。
【0092】
【数6】

【0093】
また、点Pを中心軸30(図では原点O)に対して角度φ回転させた点R(X,Y)では下記の式(10)が成り立つ。
【0094】
【数7】

【0095】
点Qと点Rを同時に満たし、一点で交わるとき、下記の関係式(11)が成り立つ。
【0096】
【数8】

【0097】
つまり、回転角φは下記の式(12)ように示される。
【0098】
【数9】

【0099】
|φ|<<1、|δr/x0|<<1の条件下では下記の式(13)ように近似できる。
【0100】
【数10】

【0101】
例えば、δr=10μmと固定してx0を変化させたとき、x=10μmではφ=60°、x=0.1mmではφ=5.7°、x=1mmではφ=0.57°となり、xの増加とともに回転規制効果が顕著に現れ、軸ずらし量x=1mm程度でもかなりの回転規制効果があることが分かる。
【0102】
図24は、本発明の回転規制エアシリンダの第4実施形態図である。この例では、円筒形ピストン22の軸方向変位を測定する変位測定手段23と、円筒形ロッド26に連結され被測定物の表面に接触するスタイラス27とを備え、全体として触針式形状測定装置の測定プローブを構成している。
すなわち、本発明の回転規制エアシリンダの軸12の両端にスタイラス27と変位測定手段23を接続した構造となっている。スタイラス27の先端を被測定物表面に接触させたとき、軸12の変位を変位測定手段23によって検出することで、被測定物表面の凹凸を測定する。
【0103】
図25は、本発明の回転規制エアシリンダの第5実施形態図である。本発明の回転規制エアシリンダの軸連結体41にスタイラス27と変位測定手段23を接続した構造となっている。軸連結体41は2以上の軸12を連結した構造からなるため、重量が重くなり、測定プローブとして使用した場合に、応答性が落ちることが懸念される。しかしながら、軸12と変位測定手段23を平行に並べて配置することが可能なため、測定プローブの長さを小さく設計でき、微小な光学素子用の加工機上に設置する場合など、加工機の移動可能範囲が狭く限定される場合には有効である。
【0104】
変位測定手段としては図24や図25で示されているようにリニアスケールを用いる他、軸12の端面や軸連結体41に鏡を貼り付け、レーザ変位計やレーザ測長器を用いて非接触で軸12や軸連結体41の変位を測定する方法がある。こうすることにより、軸12や軸連結体41の重量を軽量化でき、応答性を高めることができる。スタイラス27の中心軸と変位測定手段23の測定軸を一致させることにより、Abbeの原理に基づく高精度な測定が実現できる。
【0105】
図24や図25において軸12や軸連結体41は上下へ移動する構造となっているため、軸12および軸連結体41に加わる重力よりも小さな測定力が要求される場合は、下部空気室用空気供給ポート20あるいは左部空気室用空気供給ポート44を介して空気を下部空気室17あるいは左部空気室42へ供給させ軸12あるいは軸連結体41を上方向へ持ち上げることにより、重力をキャンセルさせることができる。これだけでも重力の影響を取り除いた低測定力による測定が実現できるため、上部空気室16および上部空気室用空気供給ポート19、右部空気室43、右部空気室用空気供給ポート45は省略することも可能である。
【0106】
しかしながら、一般的に電空レギュレータの分解能はフルスケールの1/1000程度であるため、例えば質量が50gの軸12に加わる重力をキャンセルさせて0gとする場合は、フルスケールが50gとなり、分解能はおよそ50mgとなるため、測定力として50mgf以下を制御することは困難となる。このような場合に、上部空気室16あるいは左部空気室42へ供給する空気圧を、例えばフルスケール5gとなるように調整することで、分解能を5mgまで向上させることができる。つまり、下部空気室17あるいは右部空気室43へ供給する空気圧によって測定力の粗調整を行い、上部空気室16あるいは左部空気室42へ供給する空気圧によって測定力の微調整を行うといった方法である。こういった方法を利用することで、プローブの取付方向は上下のみならず左右あるいは斜めでも動作可能となる。
【0107】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の触針式形状測定装置の第1実施形態図である。
【図2】本発明の触針式形状測定装置の第2実施形態図である。
【図3】本発明の触針式形状測定装置の第3実施形態図である。
【図4】本発明の触針式形状測定装置の第4実施形態図である。
【図5】本発明の触針式形状測定装置の第4実施形態におけるプローブ部の第1実施形態図である。
【図6】本発明の触針式形状測定装置の第4実施形態におけるプローブ部の第2実施形態図である。
【図7】本発明の触針式形状測定装置の第4実施形態におけるプローブ部の第3実施形態図である。
【図8】本発明の触針式形状測定方法の概念図である。
【図9】本発明の触針式形状測定方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
【図10】本発明の触針式形状測定方法による測定結果である。
【図11】従来の手法による測定結果である。
【図12】本発明の触針式形状測定方法の第2実施形態を示すフローチャートである。
【図13】同心円状の形状測定の軌跡を示す図である。
【図14】放射線状の形状測定の軌跡を示す図である。
【図15】螺旋状の形状測定の軌跡を示す図である。
【図16】本発明の触針式形状測定方法の第3実施形態を示すフローチャートである。
【図17】本発明の触針式形状測定方法の第4実施形態を示すフローチャートである。
【図18】傾斜角φと測定誤差δとの関係図である。
【図19】傾斜角φと測定力Fyとの関係図である。
【図20】本発明の回転規制エアシリンダの第1実施形態図である。
【図21】本発明の回転規制エアシリンダの第2実施形態図である。
【図22】本発明の回転規制エアシリンダの第3実施形態図である。
【図23】本発明の回転規制エアシリンダの原理説明図である。
【図24】本発明の回転規制エアシリンダの第4実施形態図である。
【図25】本発明の回転規制エアシリンダの第5実施形態図である。
【図26】特許文献1の装置の構成図である。
【図27】特許文献2の装置の構成図である。
【図28】特許文献3の装置の構成図である。
【図29】特許文献5の装置の構成図である。
【符号の説明】
【0109】
1 斜軸測定プローブ、2 直軸測定プローブ、3 被測定物
4 位置移動手段、5 位置検出手段、6 回転手段、7 回転角検出手段
8 コンピュータ、9 NC制御装置、10 固定具
11 軸支持部、12 軸、13 上部中心軸、14 下部中心軸
15 空気軸受、16 上部空気室、17 下部空気室
18 空気軸受用空気供給ポート
19 上部空気室用空気供給ポート、20 下部空気室用空気供給ポート
21 ハウジング、22 円筒形ピストン
23 変位測定手段、24 シリンダ
26 円筒形ロッド、27 スタイラス
28 ロッド案内部
31 測定力制御装置、32 電空レギュレータ
33 圧縮空気供給源、34 空気流路
35 角度調整機構
41 軸連結体、42 左部空気室、43 右部空気室
44 左部空気室用空気供給ポート、45 右部空気室用空気供給ポート
46 左部中心軸、47 右部中心軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定プローブのプローブ軸の先端を被測定物の表面に接触させ、被測定物の形状を測定する触針式形状測定装置において、
軸方向が被測定物の設置面の垂直方向に対して一定角度傾斜して設置された斜軸測定プローブを備える、ことを特徴とする触針式形状測定装置。
【請求項2】
さらに、軸方向が被測定物の設置面の垂直方向に平行に設置された直軸測定プローブを備える、ことを特徴とする請求項1記載の触針式形状測定装置。
【請求項3】
被測定物を加工する加工機上に設ける、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の触針式形状測定装置。
【請求項4】
前記斜軸測定プローブの傾斜角度は、被測定物の設置面の垂直方向に対して30°以上、90°以下である、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の触針式形状測定装置。
【請求項5】
空気圧によって測定プローブの測定力を制御する測定力制御装置を備える、ことを特徴とする請求項1乃至3に記載の触針式形状測定装置。
【請求項6】
被測定物の設置面の垂直方向に対して、測定プローブの軸が傾斜する角度を調節する角度調整機構を備える、ことを特徴とする請求項5に記載の触針式形状測定装置。
【請求項7】
測定プローブのプローブ軸の先端を被測定物の表面に接触させ、被測定物の形状を測定する触針式形状測定装置において、
測定プローブのプローブ軸を被測定物の設置面の垂直方向に対して一定角度傾斜して設置し、測定プローブで測定する範囲がプローブ軸に対して±60°以内である、ことを特徴とする触針式形状測定方法。
【請求項8】
測定プローブのプローブ軸の先端を被測定物の表面に接触させ、被測定物の形状を測定する触針式形状測定装置において、
2以上の測定プローブのプローブ軸を被測定物の設置面の垂直方向に対して異なる角度で設置し、それぞれの測定プローブで測定する範囲がプローブ軸に対して±60°以内であり、これらの複数の測定データをつなぎ合わせることで全体形状を求める、ことを特徴とする触針式形状測定方法。
【請求項9】
測定プローブのプローブ軸を被測定物の設置面に沿って移動する位置移動手段と、被測定物をその設置面の垂直方向軸を中心に回転する回転手段とを備え、
位置移動手段と回転手段を交互にあるいは同時に制御して、被測定物の形状を同心円状あるいは放射線状あるいは螺旋状に測定する、ことを特徴とする請求項7又は8に記載の触針式形状測定方法。
【請求項10】
供給される圧縮空気により測定プローブを被測定物に接触させる測定プローブ付勢機構を備え、
この測定プローブ付勢機構に供給される圧縮空気の圧力を制御しながら形状を測定する、ことを特徴とする触針式形状測定方法。
【請求項11】
前記圧縮空気の圧力を、鉛直方向に対する測定プローブの設置角度、又は、被測定物と測定プローブとの接触及び非接触に応じて変化させる、ことを特徴とする請求項10に記載の触針式形状測定方法。
【請求項12】
被測定物と測定プローブとを離れた位置から測定点へ接触させ、プローブ軸の変位が一定値となる位置の三次元座標値を検出し、再び測定プローブを被測定物から離し次の測定点へ移動させる、というプロセスを繰り返し行うことで三次元的な形状を測定する、ことを特徴とする請求項7乃至10のいずれかに記載の触針式形状測定方法。
【請求項13】
軸方向に移動可能な円筒形ピストンと、該円筒形ピストンを軸方向に移動可能に支持しかつ円筒形ピストンの両端部に圧縮空気を供給可能な中空円筒形のシリンダと、円筒形ピストンの端面に偏心して連結され円筒形ピストンと同一方向に移動可能な円筒形ロッドと、該円筒形ロッドを軸方向に移動可能に支持し前記シリンダに連結されたロッド案内部とを備える、ことを特徴とする回転規制エアシリンダ。
【請求項14】
前記円筒形ピストンは、円筒形ロッドより直径が大きく、その偏心量は、直径の和の1/2以下に規定されている、ことを特徴とする請求項13記載の回転規制エアシリンダ。
【請求項15】
軸方向に移動可能な円筒形ピストンと、該円筒形ピストンを軸方向に移動可能に支持しかつ円筒形ピストンの端部に圧縮空気を供給可能な中空円筒形のシリンダと、円筒形ピストンの端面に連結され円筒形ピストンと同一方向に移動可能な円筒形ロッドと、該円筒形ロッドを軸方向に移動可能に支持し前記シリンダに連結されたロッド案内部とからなるエアシリンダを、これらの円筒形ロッドの軸方向が平行となるように複数備え、
少なくとも一つのエアシリンダの、圧縮空気の供給による動作方向と、その他のエアシリンダの、圧縮空気の供給による動作方向とが、逆向きになるように、前記複数のエアシリンダは配置されており、
それぞれの円筒形ピストンおよび円筒形ロッドは連動するように連結されている、ことを特徴とする回転規制エアシリンダ。
【請求項16】
前記シリンダとロッド案内部は、ピストンおよび円筒形ロッドをそれぞれ支持する非接触式の円筒空気軸受又は接触式の円筒すべり構造を備える、ことを特徴とする請求項13乃至15記載の回転規制エアシリンダ。
【請求項17】
前記円筒形ピストンの軸方向変位を測定する変位測定手段と、円筒形ロッドに連結され被測定物の表面に接触するスタイラスとを備える、ことを特徴とする請求項13乃至15記載の回転規制エアシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2007−121260(P2007−121260A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51791(P2006−51791)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】