説明

記憶装置、ヘッド支持機構、ヘッド支持機構の製造方法

【課題】記憶装置のヘッド支持機構においてエルボー部の振動を抑制し、リードライト特性を向上すること。
【解決手段】磁気ディスク装置のヘッド支持機構は、サスペンション22のベースプレート22aとキャリッジアーム12とをかしめて接合した後、磁気ヘッド13の信号を伝送する配線であるロングテイル31をキャリッジアーム12のスリットに挿入し、ロングテイル31のうちカシメ部12a近傍に位置するエルボー部31aを接着剤P1によって接着固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶装置、特にヘッド支持機構であるヘッドアームの配線の配置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気ディスク装置では、磁気ヘッドを搭載したアームを磁気ディスク上で回動させることで磁気ヘッドと前記磁気ディスクとの位置関係を制御している。アームは、回動可能に保持されたキャリッジアームの先端に、サスペンションを取り付け、その先端に磁気ヘッドを取り付けて構成される(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
また、サスペンションに取り付けられた磁気ヘッドからはロングテイルと呼ばれる配線部材が伸びており、この配線部材はキャリッジアーム側に渡されて、キャリッジアームに設けられたリードライトFPC(Flexible Printed Circuits)に接続されている(例えば特許文献2参照。)。
【0004】
このアームを製造する場合、まずキャリッジアームとサスペンションをかしめて接合し、ロングテイルをキャリッジアームに設けたスリットに挿入し、ロングテイルをリードライトFPCに接続する。ここで、ロングテイルの長さには、ロングテイルをスリットに挿入するために余裕を持たせている。そのため、キャリッジアームとサスペンションとの接合部近傍においてロングテイルの一部がどこにも固定されず、自由度の高いエルボー部となっていた。
【0005】
【特許文献1】特開2008−47165号公報
【特許文献2】特開2004−335042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エルボー部は、磁気ディスクの高速回転によって発生する風の影響を受けて振動する。エルボー部の振動は、ロングテイル内部の信号の伝送に影響するので、磁気ヘッドのリードライト特性を劣化させるという問題点があった。
【0007】
特に近年、磁気ディスク装置の大容量化と高速化を受けて、ディスクの回転速度が増大し、読み書きの精度に対する要求も厳しくなっているので、エルボー部の振動自体とエルボー部の振動に起因する特性劣化の解消が重要な課題となっていた。
【0008】
本発明は、上述した従来技術にかかる問題点を解消し、課題を解決するためになされたものであり、エルボー部の振動を抑制し、リードライト特性を向上した記憶装置、ヘッド支持機構、ヘッド支持機構の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、開示の装置、機構および方法は、記憶媒体に対してデータの読出しまたは書込みを行うヘッドを保持するヘッド支持機構において、ヘッドを保持する第一アーム部材と第一アーム部材を支持する第二アーム部材とを接合し、ヘッドが一端に接続される配線部材の他端を第二アーム部材に設けたスリットに挿入し、配線部材を第一アーム部材と前記第二アーム部材との前記接合部近傍で固定する。
【発明の効果】
【0010】
開示の装置、機構および方法によれば、エルボー部の振動を抑制し、リードライト特性を向上した記憶装置、ヘッド支持機構、ヘッド支持機構の製造方法を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明にかかる記憶装置、ヘッド支持機構、およびヘッド支持機構の製造方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、本実施例にかかる磁気ヘッド支持機構、すなわちアームの概要構成を示す概要構成図であり、図2は,本実施例にかかる磁気ディスク装置の概要構成を示す概要構成図である。
【0013】
図2に示した磁気ディスク10は、スピンドルモータ11により回転駆動される。磁気ディスク10の読み書きは、ヘッド支持機構であるアーム12の一方の先端に設けられた磁気ヘッド13によって行なわれる。磁気ヘッド13は、磁気ディスク10の回転によって生じる揚力によって、磁気ディスク10の表面からわずかに浮いた状態を維持して読み書きを実行する。また、アーム12のもう一方の端に設けられたヘッド駆動機構であるボイスコイルモータ(VCM)14の駆動により、アーム12が軸15を中心とする円弧上を回動し、磁気ヘッド13が磁気ディスク10のトラック横断方向にシーク移動し、読み書きする対象のトラックを変更する。
【0014】
図1に示したようにボイスコイルモータに接続されたキャリッジ21のアーム12の先端に、サスペンション22がかしめにより取り付けられている。また、サスペンション22の先端に磁気ヘッド13を取り付けている。
【0015】
磁気ヘッド13に一端が接続された配線から延出するロングテイル31(延出部)は、他端がキャリッジ21のアーム12の側面に配置される。図3は、アームの組み立てについて説明する説明図である。図3に示したように、アーム12の側面にはスリット21aが設けられている。ロングテイル31は、このスリット21aに挿入され、リードライトFPC(リードライトフレキシブルプリント回路基板)32と接続する。そのため、ロングテイル31にはある程度の自由度を持たせる。アーム12とサスペンション22とのかしめ部12aはお碗型になっており、アーム12の腕部の端部12tとサスペンションの端部13tが離れているので、アーム12の腕部(本体部)の端部12tとサスペンションの端部13tとかしめ部12aの側部との間で囲われた部分は空間領域12bを形成している。
【0016】
その結果、図1に示したように、アーム12とサスペンション22との接合部近傍においてロングテイル31の一部は空間領域12bに配置される為、ロングテイル31の一部がどこにも固定されず、自由度の高いエルボー部31aとなる。具体的には、エルボー部31aは、カシメ部12aと若干の隙間、例えば0.33mm程度の隙間を有する。
【0017】
本実施例では、ロングテイル31のエルボー部31aを接着によって(アーム12に)固定する。そのため、磁気ディスク10が高速回転している場合であっても風によるエルボー部31aの振動を抑制することができ、振動による磁気ヘッドの特性劣化を防止することができる。
【0018】
図4は、エルボーの固定によるゲイン変化を説明する説明図である。図4に示したように、従来、すなわちエルボーを固定していない状態では9500Hzで−65dBのゲインが存在していたが、エルボーの固定によって−70dBまで低下した。
【0019】
接着によってエルボー31aを固定する場合、図1に示したように、アーム12とサスペンション22のベースプレート22aとをかしめて接合し、ロングテイル31をスリットに挿入した後、カシメ部12a近傍の接着固定箇所P1に接着剤を塗布する。塗布された接着剤は、固まって固定部材として機能することとなる。
【0020】
なお、図5に示したように、ボイスコイルモータ14に複数のアームを組み付け、複数のアームを一括して動作させる構成であっても同様に、各アームのカシメ部近傍でエルボー部を固定することで各エルボーの振動を抑制することができる。
【0021】
つぎに図6を参照し、本実施例にかかるヘッド支持機構の製造方法について説明する。アーム12を製造する場合、複数の工程を順次実行していく。各工程は、同一の装置が実行してもよいし、各々異なる装置で実行してもよい。ヘッド支持機構の製造工程において、本実施例に特に重要な工程を図6に示した。
【0022】
図6に示したように、前段の処理が終了した後、まず、製造装置はアーム12とサスペンション22とをかしめて接合する(S101)。その後、ロングテイル31をスリット31aに挿入し(S102)、接着剤を塗布する(S103)。この接着剤の種類としては、粘性の高いUV(紫外線)照射型接着剤を用いる。塗布後、30sec程度UV照射し(S104)、接着剤を硬化させて後段の処理に流す。
【0023】
図7は、接着剤の塗布方向を説明する説明図である。図7に示したように、接着剤は、アーム12の側方から塗布することが好ましい。図8は、接着剤の面内方向塗布量を説明する説明図である。面内方向の接着剤塗布量は、図8に示したようにエルボー31aの隙間、すなわちカシメ部12aとロングテイル31との間を接着剤P1が接着する程度とすることが好適である。
【0024】
ここで、図8に示した接着剤P2は、スリット21aの挿入部でロングテイル31aを接着固定している。このようなスリット挿入部における接着固定は、接着剤P2のみではロングテイルのスリットからの脱落は回避できてもエルボー部の振動は抑制できない。図8に示したように、従来の接着箇所への接着剤P2の塗布に加えて、エルボー部に接着剤P1を塗布することで、もしくは図9に示したようにスリット挿入部への塗布に変えてエルボー部に接着剤P1を塗布することで、ロングテイルの振動を抑制することができるのである。
【0025】
換言するならば、本実施例に示したヘッド支持機構の製造では、従来に比して接着剤を塗布する箇所を追加もしくは変更することで、ロングテイルの振動を抑制して磁気ヘッドの特性(高速アクセス性能(シーク性能/トラック追従性能)記録/再生性能)を向上している。
【0026】
図10は、アーム12の厚み方向における接着剤の塗布量について説明する説明図である。図10に示したように、アーム12の厚み方向では、接着剤P1,P2の塗布量は、アーム12の厚さを超えない程度とすることが好適である。
【0027】
このように、アーム12とサスペンション22とをかしめて接合し、ロングテイル31をスリット22aに挿入した後、エルボー部を接着することで、ロングテイルの振動を抑制して磁気ヘッドの特性を向上することができる。なお、キャリッジ21とサスペンション22とのカシメ前に、ロングテイル31を予め接着しておくことも考えられるが、この場合には、カシメ後のロングテイルの自由度が減少し、スリットへの挿入とリードライトFPCへの接続の難度が増すので、カシメ後に接着することが望ましい。
【0028】
図11は、接着によるエルボー部の固定を補助する固定補助部材を設けた場合の構成例について説明する説明図である。図11に示した構成では、ベースプレート22aからロングテイル31側に突出する突起部22bを設けている。そのため、この突起部22bの近傍に接着剤を塗布することで、接着による固定を補助することができる。なお、図11では、ベースプレート22aに突出部を設けた例を説明したが、アーム12やカシメに用いる金具などに突出部を設ける構成としてもよい。
【0029】
図12は、アーム12にツメ21bを設け、ツメ21bによってエルボー部を固定する場合の構成例について説明する説明図である。このようにツメ21bによって物理的にエルボー部を固定することで、接着固定が不要となる。なお、図12では、アーム12にツメを設けた例を説明したが、サスペンション22やカシメに用いる金具などにツメを設ける構成としてもよい。
【0030】
以上説明してきたように、本実施例にかかる磁気ディスク装置1は、アーム12とサスペンション22とをかしめた後、ロングテイル31のエルボー部31aを接着剤P1によって接着固定しているので、エルボー部起因の振動を抑制し、磁気ヘッドのリードライト性能、高速アクセス性能を向上することができる。
【0031】
以上の実施例を含む実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0032】
(付記1)記憶媒体に対してデータの読出しまたは書込みを行うヘッドを保持するヘッド支持機構を有する記憶装置において、
前記ヘッド支持機構は、
前記ヘッドを保持する第一アーム部材と、
前記第一アーム部材を接合部で接合して支持する第二アーム部材と、
前記ヘッドに一端は接続され、他端に前記第二アーム部材側へ向けて延びる延出部を有する配線部材と、
前記配線部材の前記延出部を前記第一アーム部材と前記第二アーム部材との前記接合部近傍で固定する固定部材と、
を備えたことを特徴とする記憶装置。
【0033】
(付記2)前記固定部材は、接着剤であることを特徴とする付記1に記載の記憶装置。
【0034】
(付記3)前記接着剤を前記接合部近傍と、前記配線部材が前記第二アームに接触する位置とに塗布したことを特徴とする付記2に記載の記憶装置。
【0035】
(付記4)前記第一アーム部材と前記第二アーム部材とをかしめにより接合したことを特徴とする付記1〜3のいずれか一つに記載の記憶装置。
【0036】
(付記5)前記第二アーム部材は前記配線部材を間に挿入するスリットを備えたことを特徴とする付記1〜4のいずれか一つに記載の記憶装置。
【0037】
(付記6)記憶媒体に対してデータの読出しまたは書込みを行うヘッドを保持するヘッド支持機構において、
前記ヘッドを保持する第一アーム部材と、
前記第一アーム部材を接合部で接合して支持する第二アーム部材と、
前記ヘッドに一端は接続され、他端に前記第二アーム部材側へ向けて延びる延出部を有する配線部材と、
前記配線部材の前記延出部を前記第一アーム部材と前記第二アーム部材との前記接合部近傍で固定する固定部材と、
を備えたことを特徴とするヘッド支持機構。
【0038】
(付記7)記憶媒体に対してデータの読出しまたは書込みを行うヘッドを保持するヘッド支持機構の製造方法において、
前記ヘッドを保持する第一アーム部材と前記第一アーム部材を支持する第二アーム部材とを接合する接合ステップと、
前記ヘッドが一端に接続される配線部材の他端を前記第二アーム部材に設けたスリットに挿入する配線挿入ステップと、
前記配線部材を前記第一アーム部材と前記第二アーム部材との前記接合部近傍で固定する固定ステップと、
を含んだことを特徴とするヘッド支持機構の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】図1は、本実施例にかかる磁気ヘッドアームの概要構成を示す概要構成図である。
【図2】図2は、本実施例にかかる磁気ディスク装置の構成を示す図である。
【図3】図3は、ヘッド支持機構の組み立てについて説明する説明図である。
【図4】図4は、エルボーの固定によるゲイン変化を説明する説明図である。
【図5】図5は、複数アームを一括して動作させる場合の構成について説明する説明図である。
【図6】図6は、アームの製造について説明する説明図である。
【図7】図7は、接着剤の塗布方向を説明する説明図である。
【図8】図8は、接着剤の面内方向塗布量を説明する説明図である。
【図9】図9は、エルボー部のみを接着する場合について説明する説明図である。
【図10】図10は、アーム12の厚み方向における接着剤の塗布量について説明する説明図である。
【図11】図11は、接着によるエルボー部の固定を補助する固定補助部材を設けた場合の構成例について説明する説明図である。
【図12】図12は、ツメによるエルボー部の固定について説明する説明図である。
【符号の説明】
【0040】
1 磁気ディスク装置
10 磁気ディスク
11 スピンドルモータ
12 キャリッジアーム
12a カシメ部
12b 空間領域
12t 腕部
13 磁気ヘッド
14 ボイスコイルモータ
15 軸
21 キャリッジ
21a スリット
21b ツメ
22 サスペンション
22a ベースプレート
22b 突起部
31 ロングテイル
31a エルボー部
32 リードライトFPC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶媒体に対してデータの読出しまたは書込みを行うヘッドを保持するヘッド支持機構を有する記憶装置において、
前記ヘッド支持機構は、
前記ヘッドを保持する第一アーム部材と、
前記第一アーム部材を接合部で接合して支持する第二アーム部材と、
前記ヘッドに一端は接続され、他端に前記第二アーム部材側へ向けて延びる延出部を有する配線部材と、
前記配線部材の前記延出部を前記第一アーム部材と前記第二アーム部材との前記接合部近傍で固定する固定部材と、
を備えたことを特徴とする記憶装置。
【請求項2】
前記固定部材は、接着剤であることを特徴とする請求項1に記載の記憶装置。
【請求項3】
前記接着剤を前記接合部近傍と、前記配線部材が前記第二アームに接触する位置とに塗布したことを特徴とする請求項2に記載の記憶装置。
【請求項4】
前記第一アーム部材と前記第二アーム部材とをかしめにより接合したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の記憶装置。
【請求項5】
前記第二アーム部材は前記配線部材を間に挿入するスリットを備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の記憶装置。
【請求項6】
記憶媒体に対してデータの読出しまたは書込みを行うヘッドを保持するヘッド支持機構において、
前記ヘッドを保持する第一アーム部材と、
前記第一アーム部材を接合部で接合して支持する第二アーム部材と、
前記ヘッドに一端は接続され、他端に前記第二アーム部材側へ向けて延びる延出部を有する配線部材と、
前記配線部材の前記延出部を前記第一アーム部材と前記第二アーム部材との前記接合部近傍で固定する固定部材と、
を備えたことを特徴とするヘッド支持機構。
【請求項7】
記憶媒体に対してデータの読出しまたは書込みを行うヘッドを保持するヘッド支持機構の製造方法において、
前記ヘッドを保持する第一アーム部材と前記第一アーム部材を支持する第二アーム部材とを接合する接合ステップと、
前記ヘッドが一端に接続される配線部材の他端を前記第二アーム部材に設けたスリットに挿入する配線挿入ステップと、
前記配線部材を前記第一アーム部材と前記第二アーム部材との前記接合部近傍で固定する固定ステップと、
を含んだことを特徴とするヘッド支持機構の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2010−67319(P2010−67319A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233874(P2008−233874)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(309033264)東芝ストレージデバイス株式会社 (255)
【Fターム(参考)】