説明

記録媒体

【課題】透明性に優れ、かつ発色性にも優れるインク受容層を備えた記録媒体を提供する。
【解決手段】透明基材上に、平均粒子径10〜2000nmの顔料とバインダーを含むインク受容層、その上にアルコキシシランを含む厚さ1nm〜1.0μmの反射防止膜、更にその上に前記反射防止膜の屈折率より高い屈折率を有するアルコキシシランを含む厚さ1nm〜1.0μmの反射防止膜を積層し、かつ、前記インク受容層、前記2層の反射防止膜において隣り合う2層の屈折率差を0.15以下とすることで達成できる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、インクジェット用の記録媒体に関し、より詳細には、表面にインク受容層を備えた記録媒体に関する。
【0002】
発明の背景
インク組成物を用いた記録方式に用いられる記録媒体には、高画像、高品質の記録画像を実現できるよう種々の性能が要求される。例えば、記録媒体上でインク組成物が滲んだり流れたりしないこと、付着したインク組成物を速やかに吸収または乾燥させること、記録媒体の端部が持ち上がるいわゆるカール状になりにくいこと、印字物を長期にわたり劣化させずに維持すること、さらに表面に光沢があり質感があること等が要求される。
【0003】
インクジェット記録方法に用いられる記録媒体にあっては、さらにインクドットの形状が真円であり、そのドットの周囲が滲まず鮮明であること等も求められる。
【0004】
また、印字記録物をその表面からの反射光により観察する通常の記録に加え、スライドやオーバーヘッドプロジェクター(OHP)のような透過光によって印字記録を観察するような記録も多用されるにいたっている。このような記録媒体においては、透過光により画像を観察する性質上、画像は明るいものであることすなわち光透過性(透明性)に優れるものであることが要求される。
【0005】
このような記録媒体に期待される種々の性能を満足するため、基材上にインク受容層を設けることが提案されている。例えば、特開平10−203006号公報や特開平11−34481号公報には、シリカやアルミナ等の微粒子を水性バインダーとともに基材上に塗布して、インク受容層を設けることが提案されている。
【0006】
しかしながら、インク受容層は、シリカ等の各微粒子間の空隙を利用してインク吸収できる反面、これらの各粒子によって入射光が散乱を起こす。したがって、OHPのような透過光を利用して画像を観察するタイプの記録媒体にあっては、この散乱光によって、記録媒体の透明性が損なわれる場合があった。
【特許文献1】特開平10−203006号公報
【特許文献2】特開平11−34481号公報
【発明の概要】
【0007】
本発明者らは、今般、インク受容層に用いられるシリカ微粒子の粒子径について検討したところ、散乱光を低減するために粒子径を小さくしても散乱光の抑制には限界があることに気付いた。そして、インク受容層自体で散乱光を抑制するとともに、インク受容層上に反射防止膜を設けて、その界面で反射する光を抑制することにより、透明性に優れ、かつ発色性にも優れる記録媒体を実現できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0008】
したがって、本発明は、透明性に優れ、かつ発色性にも優れるインク受容層を備えた記録媒体を提供することを目的とする。
【0009】
そして、本発明による記録媒体は、透明基材と、その透明基材上の少なくとも片面に設けられたインク受容層と、そのインク受容層上に設けられた反射防止膜と、を含んでなるものである。
【0010】
本発明による記録媒体は、インク受容層上に、反射防止膜が設けられているため、インク受容層表面で反射する光が低減し、透明性に優れ、かつ発色性にも優れる記録媒体を実現することができる。
【発明の具体的説明】
【0011】
本発明による記録媒体は、透明基材と、その透明基材上の少なくとも片面に設けられたインク受容層と、そのインク受容層上に設けられた反射防止膜と、を必須の構成層とするものである。以下、各層について説明する。
【0012】
反射防止膜
本発明による記録媒体を構成する反射防止膜は、透明基材上に設けたインク受容層の上に設けられている。
【0013】
インク受容層は、後記するように、通常、シリカやアルミナ等の顔料微粒子をバインダーとから構成される。使用する微粒子の粒子径を小さくすることにより、散乱光の影響が低減されることは従来から知られている。例えば、平均粒子径が30nm以下のシリカ微粒子を使用することにより、インク受容層での光の散乱は抑制できる。しかしながら、例えこのような微粒子を用いたとしても、記録媒体に光が入射した場合は、その界面にて光が反射する。これは、空気との界面であるインク受容層(シリカを用いた場合、おおよそ屈折率は、1.4〜1.5である。)と、空気(屈折率は1)とで屈折率差があるため、反射光が必然的に生じる。
【0014】
本発明においては、反射防止膜を記録媒体の最表面に設けることにより、記録媒体と空気との界面で生じる反射光を低減するものである。すなわち、屈折率が異なる層が積層された構造に光が入射する場合、各層の界面での反射率Rは、以下の一般式で表される。
R=[(n−n)/(n+n)]
(式中、nは、高屈折率側の媒体の屈折率を表し、nは、低屈折率側の媒体の屈折率を表す。)
【0015】
反射防止膜の厚みは、従来知られているように、反射率の波長λの1/4とすることが好ましい。このような厚みとすることにより、位相減衰を生じさせて、反射光を制御することができ、記録媒体の透明性が向上する。
【0016】
本発明においては、前記反射防止膜が、少なくとも2以上の複数の膜からなり、インク受容層側ほど屈折率が小さくなるように、構成されていることが好ましい。インク受容層側に、インク受容層の屈折率に近い高屈折率の膜を設け、さらに高屈折率膜上に、空気の屈折率に近い低屈折率の膜を設けることにより、各界面での反射率Rを低減することができ、記録媒体表面の反射率を低減し、透明性を高めることができる。また、反射率を低減させることにより、記録媒体のインク受容層に付着したインクからの発色性もより向上する。
【0017】
このような、反射防止膜(高屈折率膜/低屈折率膜)は、アルコキシシランおよび/またはその加水分解生成物を含んでなることが好ましい。屈折率は、シランやアルコキシ基の鎖長によって、適宜選択できる。例えば、アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン(屈折率n=1.370)、メチルリケトキシシラン(屈折率n=1.639)、ジメチルジメトキシシラン(屈折率n=1.371)、フェニルロリメトキシシラン(屈折率n=1.473)、ジフェニルジメトキシシラン(屈折率n=1.545)、テトラエトキシシラン(屈折率n=1.381)、メチルトリエトキシシラン(屈折率n=1.383)、ジメチルジエトキシシラン(屈折率n=1.384)、フェニルトリエトキシシラン(屈折率n=1.459)、ジフェニルジエトキシシラン(屈折率n=1.527)、ヘキシルトリメトキシシラン(屈折率n=1.406)、ヘキシルロリエトキシシラン(屈折率n=1.408)、デシルトリメトキシシラン(屈折率n=1.421)、デシルトリエトキシシラン(屈折率n=1.421)等が好適に使用できる。また、これらアルコキシシラン中の水素をフッ素や塩素に置換したものも使用でき、さらに、これら置換基とラジカル状態において結合可能な、低屈折率の化合物も使用できる。
【0018】
本発明においては、上記したアルコキシシランを用いて低屈折率膜と高屈折率膜とを形成する場合、低屈折率膜と高屈折率膜との屈折率差が、0.15以下であることが好ましく、また、低屈折率膜とインク受容層との屈折率差が0.15以下であることが好ましい。
【0019】
具体的には、インク受容層側に設ける高屈折率膜として、ジメチルジエトキシシラン(屈折率n=1.381)を用い、空気側(記録媒体の最表面側)に設ける低屈折率膜として、ジフェニルジエトキシシラン(屈折率n=1.527)を用いることができる。反射防止膜をこのような構成とすることにより、後記するようにインク受容層の屈折率が概ね1〜3であるため、記録媒体の透過率は約30%程度向上する。
【0020】
本発明においては、低屈折率膜と高屈折率膜との間に、さらに中屈折率膜を設けて、3層としてもよい。このような中屈折率膜を設けることにより、各膜の屈折率の差が低減されるため、光の反射を抑制でき、より一層透過性に優れた記録媒体とすることができる。なお、本明細書中、「中屈折率膜」とは、上記した低屈折率膜と高屈折率膜とのそれぞれの屈折率の中間の屈折率を有する膜を意味する。
【0021】
このような反射防止膜は、例えば、特開2001−335922号公報に記載されているような方法によって形成することができる。反射防止膜を構成する材料であるシリカ微粒子を、アルコキシシラン系化合物や溶剤に分散させた溶液を調製し、その分散液を超音波を用いて、シリカ微粒子とアルコキシシランとを含む霧を発生させて、基材(インク受容層)上に噴霧させることにより、薄膜の反射防止膜を形成することができる。
【0022】
基材上に薄膜を形成する際、コロナ放電を行いながら噴霧を行うことにより、表面がアルコキシシランにより被覆されたシリカ微粒子は、活性な官能基に置換されるため、反応性(結合力)が向上する。このようなコロナ放電は、公知の方法を用いて行うことができ、例えば、大気圧程度の圧力下において、0〜10Hzの周波数領域の直流または交流により表面処理を行うことができる。コロナ放電は、好ましくは10〜10Hzの周波数領域の交流で行うことが好ましい。通常、工業的には、直流や、数Hz〜数百Hzの交流放電が行われる。また、コロナ放電を行うための電極としては、公知のものを使用することができ、例えば、平行平板電極、近似ロゴウスキ電極、球電極、針−平板電極、ワイヤー−平板電極等を用いることができる。
【0023】
インク受容層
インク受容層を構成する成分としては、インクを吸収するための顔料およびバインダーが挙げられる。インクを吸収するための顔料としては、公知の白色顔料を1種以上用いることができ、合成非晶質シリカ,コロイダルシリカ等のシリカ、コロイダルアルミナ等のアルミナを例示できる。また、白色顔料としては、シリカ、アルミナの他にも、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、チタンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、メラミン樹脂、尿素樹脂等の有機顔料などが挙げられる。
【0024】
これらのインクを吸収するための顔料は、平均粒子径が10〜2000nm、好ましくは、平均粒子径が1500nm以下である。1500nmを超えると、レイリー散乱やミー散乱の影響により、記録媒体の光の透過率が低減する。
【0025】
これらのインクを吸収するための顔料の含有量は、インク受容層の全乾燥重量に対して30重量%〜90重量%が好ましく、より好ましくは40重量%〜80重量%の範囲であることが好ましい。
【0026】
バインダーとしては、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;カゼイン、ゼラチン、大豆蛋白、ポリビニルアルコール又はその誘導体;ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス;アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体等のアクリル系重合体などのアクリル系重合体ラテックス;エチレン酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス;あるいはこれら各種重合体のカルボキシ基等の官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックス;メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化性樹脂などの水性接着剤;ポリメチルメタクリレート等のアクリル酸エステル;メタクリル酸エステルの重合体又は共重合体;ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニルコポリマー、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂等の合成樹脂系接着剤などを挙げることができる。
【0027】
これらのバインダーの含有量は、インク受容層の全乾燥重量に対して10重量%〜60重量%が好ましく、より好ましくは30重量%〜50重量%の範囲である。
【0028】
また、インク受容層には、必要に応じて、公知の染料固着剤(耐水化剤)、蛍光増白剤、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、防黴剤、紫外線吸収剤および酸化防止剤等の各種添加剤が含有されてもよい。
【0029】
インク受容層は、上記の構成成分が水等の適当な溶媒に溶解または分散された塗工液を、ロールコーティング法,スプレーコーティング法,ロッドバーコーティング法,エアナイフコーティング法等の公知のコーティング方法により、透明基材上に塗工し、次いで、乾燥させることによって好適に得られる。
【0030】
本発明において、インク受容層塗工液の粘度は特に限定さず、塗工方法により適宜調整して使用できる。また、塗工後の乾燥は、一般的な乾燥機を用いて行なうことができるが、透明基材が熱変形しない温度範囲とする必要がある。
【0031】
インク受容層の乾燥後の塗布量は、膜厚との関係で適宜決定されてよいが、例えば7〜35g/m2程度が好ましく、より好ましくは9〜20g/m2程度である。
【0032】
インク受容層の膜厚は、0.5〜100μmであることが好ましい。この範囲とすることより、インクの吸収により優れた記録媒体とすることができる。
【0033】
透明基材層
以上の成分から構成されるインク受容層は、透明基材上に設けられるのが好ましく、このような基材としては、インク受容層および反射防止膜を支持でき、記録媒体としての強度を有するものであれば特に限定されず、透明なものであればよい。本明細書において、「透明」とは、無色および有色を含むものであり。全光線分光透過率測定法による可視光(350〜700nm)の透過率が70%以上のものを意味する。
【0034】
このような透明基材としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ジアセテート系樹脂、トリアセテート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、セロハン、セルロイド等のフィルムもしくは板、およびガラス板等が挙げられる。本発明の好ましい態様によれば、これらの中でも、ポリエステルフィルムが好ましく、特に好ましくは片面または両面にコロナ処理が施されてなる二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。このような透明基材を用いることにより、塗布ムラのない均一な塗膜が得られ、またインク受容層と基材との良好な密着性が得られる。
【0035】
透明基材の厚さは適宜決定されてよいが、一般的には50〜250μm程度が好ましく、より好ましくは75〜200μm程度である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、その透明基材上の少なくとも片面に設けられたインク受容層と、そのインク受容層上に設けられた反射防止膜と、を含んでなる記録媒体。
【請求項2】
前記反射防止膜が、少なくとも2以上の複数の膜からなり、インク受容層側ほど屈折率が小さくなるように、構成されている、請求項1に記載の記録媒体。
【請求項3】
前記反射防止膜が、アルコキシシランおよび/またはその加水分解生成物を含んでなる、請求項1または2に記載の記録媒体。
【請求項4】
前記アルコキシシランの一部または全部が、ラジカル状態で結合し得る官能基を有する、請求項3に記載の記録媒体。
【請求項5】
前記反射防止膜の厚みが、1nm〜1.0μmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項6】
前記反射防止膜において、インク受容層側の低屈折率の膜と、反対側の高屈折率の膜との屈折率差が、0.15以下である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項7】
前記低屈折率膜と前記インク受容層との屈折率差が0.15以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の記録媒体。
【請求項8】
前記インク受容層が、平均粒子径が10〜2000nmの顔料とバインダーとを含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の記録媒体。

【公開番号】特開2008−207427(P2008−207427A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45442(P2007−45442)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】