説明

記録装置、レンチキュラーシート、及び、被記録媒体の姿勢検出方法

【課題】被記録媒体の所定の姿勢に対する傾きを確実に検出すること。
【解決手段】プリンタ1は、レンチキュラーシート100に対して走査方向に移動するシート検出センサを備えている。レンチキュラーシート100には、レンズの軸方向に延び、且つ、レンズの幅方向に等間隔で配列された複数の第1の被検出部36と、レンズの幅方向に延び、且つ、レンズの軸方向に等間隔で配列された複数の第2の被検出部37とが設けられている。そして、シート検出センサが走査方向に移動しつつ被検出部36,37を検出したときの、その検出結果に基づいて、レンチキュラーシート100の姿勢を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置によって記録される被記録媒体の姿勢を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な記録装置は、記録素子を有する記録ヘッドを備えており、この記録ヘッドを被記録媒体に対して相対移動させつつ、記録ヘッドの記録素子によって被記録媒体に多数の画素を形成することで、被記録媒体に画像を記録する。ここで、記録ヘッドによって画像が記録されるときに、被記録媒体が、本来とるべき姿勢に対してその面内で傾いた状態になっていると、被記録媒体に形成された画像が傾いてしまうことになる。ここで、この被記録媒体の面内傾きは非常に小さなものであり、記録装置側のセンサ等で被記録媒体の縁の位置を検出するなどの方法では容易には検出できない。そこで、本願発明者らは、被記録媒体側に、正規の姿勢に対する傾きを検出するための被検出部を設けることを検討中である。
【0003】
記録装置側の検出手段によって検出される被検出部が被記録媒体に設けられている例としては、特許文献1に記載がある。特許文献1には、略円柱形状の複数の凸レンズからなるレンチキュラーレンズと、このレンチキュラーレンズの凸レンズとは反対側の平坦面に積層された画像記録層とを有する、立体視画像用のレンチキュラーシートが開示されている。この特許文献1では、レンチキュラーレンズの凸レンズ部と反対側の平坦面に、画像記録層における複数の画素の配置領域にそれぞれ対応した複数のリブが、凸レンズ部の軸方向(母線方向)と直交する凸レンズ部の幅方向に等間隔で設けられ、これら複数のリブは画像記録層から突出している。一方、記録装置は、凸レンズ部の幅方向に移動するキャリッジと、このキャリッジに搭載されたインクジェットヘッドを有し、キャリッジには、上述のレンチキュラーシートの複数のリブを検出するシートピッチセンサが設けられている。そして、シートピッチセンサがキャリッジとともに移動しながら、レンチキュラーシートの複数のリブを検出することにより、画像記録層の複数の画素配置領域の位置を把握して、インクジェットヘッドによる画素形成を精度よく行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−15766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載のレンチキュラーシートにおいては、凸レンズ部の幅方向に等間隔で並ぶ複数のリブが設けられているものの、このような一方向に並んだ複数のリブを記録装置側のセンサで検出するだけでは、シートの傾きを検出することはできない。即ち、リブの配列方向が凸レンズ部の幅方向と平行な姿勢にある場合には、複数のリブが等間隔で配列されていることが検出されるが、上記の姿勢に対してレンチキュラーシートがその面内である角度傾いている場合であっても、同じように、複数のリブが等間隔で検出されることになるから、上記構成ではシートの傾きを検出することはできない。
【0006】
本発明の目的は、被記録媒体の所定の姿勢に対する傾きを確実に検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明の記録装置は、所定姿勢で配置された被記録媒体に記録を行う記録ヘッドと、前記所定姿勢の前記被記録媒体に対して、所定の走査方向に相対移動可能に構成された検出手段を有し、前記被記録媒体には、前記検出手段により検出される被検出部として、前記被記録媒体が前記所定姿勢であるときに、前記走査方向と所定角度をなして交差する第1の方向にそれぞれ延び、且つ、前記走査方向と平行となる第2の方向に等間隔に配列された複数の第1の被検出部と、前記第2の方向にそれぞれ延び、且つ、前記第1の方向に等間隔に配列された複数の第2の被検出部とが設けられており、前記検出手段が前記被記録媒体に対して相対的に前記走査方向に移動したときの、前記被検出部の検出結果に基づいて、前記被記録媒体の前記所定姿勢に対する傾きを判定する姿勢判定手段を有することを特徴とするものである。
【0008】
被記録媒体が所定姿勢であるときには、記録装置の検出手段の移動方向(走査方向)は、第2の被検出部の延在方向(第2の方向)と平行となっている。従って、被記録媒体が前記所定姿勢である場合には、検出手段によって、第2の方向に配列された複数の第1の被検出部が等間隔で検出されるだけであるが、被記録媒体が所定姿勢に対して、被記録媒体を含む面内において傾いている(回転している)場合には、検出手段の走査方向と、第2の被検出部の延在方向である第2の方向とが交差することになるから、等間隔で検出される複数の第1の被検出部に加えて、第2の被検出部も検出される。このような検出結果の違いから、被記録媒体の姿勢の傾きを検出できる。
【0009】
第2の発明の記録装置は、前記第1の発明において、前記検出手段によって、前記被記録媒体が前記所定姿勢に対して傾いていることが検出されたときに、その傾きに応じて前記被記録媒体に記録するための記録データを変更するデータ変更手段を有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、被記録媒体の姿勢が傾いている場合であっても、その傾きに応じて記録データを変更することで、被記録媒体に正常な記録を行うことが可能となる。
【0011】
第3の発明の記録装置は、前記第1又は第2の発明において、前記被記録媒体は、前記記録ヘッドによる記録時に、所定の第1姿勢とこの第1姿勢に対して前記所定角度だけ回転した第2姿勢の、何れか一方の姿勢を取り得るように構成され、前記被記録媒体が前記第1姿勢であるときには、前記複数の第1の被検出部の配列方向であって、前記複数の第2の被検出部の延在方向でもある、前記第2の方向が、前記走査方向と平行となり、前記被記録媒体が前記第2姿勢であるときには、前記複数の第1の被検出部の延在方向であって、前記複数の第2の被検出部の配列方向でもある、前記第1の方向が、前記走査方向と平行となり、前記第1の被検出部と前記第2の被検出部は、前記検出手段によって区別して検出されるように構成され、前記姿勢判定手段は、前記検出手段による前記被検出部の検出結果に基づいて、前記被記録媒体が前記第1姿勢であるか前記第2姿勢であるかを判定することを特徴とするものである。
【0012】
第1の被検出部と第2の被検出部とが、検出手段により区別して検出されることから、何れの被検出部が検出されたかによって、被記録媒体の姿勢が第1姿勢か第2姿勢かを判定できる。
【0013】
第4の発明の記録装置は、前記第3の発明において、前記記録ヘッドは、前記被記録媒体に対して前記走査方向に移動しつつノズルからインクの液滴を噴射する、インクジェットヘッドであり、前記被記録媒体は、互いに平行な状態で並んで配置された半円柱状の複数の凸レンズ部を有するレンチキュラーレンズと、前記レンチキュラーレンズの前記凸レンズ部と反対側の面に設けられたインク吸収層とを有する、レンチキュラーシートであり、
前記インク吸収層に前記複数の第1の被検出部と前記複数の第2の被検出部が設けられ、前記複数の第1の被検出部は、それぞれ前記凸レンズ部の軸方向に延在し、前記複数の第2の被検出部は、それぞれ前記凸レンズ部の軸方向と直交する、前記凸レンズ部の幅方向に延在していることを特徴とするものである。
【0014】
本発明では、被記録媒体が、複数の凸レンズ部を有するレンチキュラーレンズを備え、凸レンズによって左眼に左眼用画素を視認させるとともに右眼に右眼用画素を視認させることで、左眼と右眼でそれぞれ見える画像のずれ(両眼視差)により画像の立体視を可能とする、レンチキュラーシートである。ここで、レンチキュラーレンズの凸レンズ部が半円柱状のものである場合、この半円柱状の凸レンズ部の、側面の光屈折効果によって左右両眼による左眼用画素と右眼用画素の個別視認を実現するため、凸レンズ部の幅方向には左眼用画素と右眼用画素とが隣接して配置される。また、左眼用画素と右眼用画素の位置が凸レンズ部に対してずれていると、立体視画像を実現するための両眼視差を生じさせることができなくなる虞がある。従って、インクジェットヘッドの走査方向が、凸レンズの軸方向と幅方向の何れと一致する(平行である)のかを判別することは、非常に重要である。
【0015】
この点、本発明では、複数の第1の被検出部が凸レンズ部の軸方向に延在し、複数の第2の被検出部が凸レンズ部の幅方向に延在している。従って、検出手段が走査方向に移動しながらこれらの被検出部を検出したときの、その検出結果から、インクジェットヘッドの走査方向が、凸レンズ部の軸方向と幅方向の何れと平行であるのかを判別するができる。
【0016】
第5の発明の記録装置は、前記第4の発明において、前記インク吸収層は、前記凸レンズ部の幅方向に並べられ、インクが浸透することによって画素が形成される複数の画素配置領域を有し、前記複数の第1の被検出部は、前記インク吸収層の前記複数の画素配置領域の間にそれぞれ設けられ、前記インクの浸透を抑制する抑制層であることを特徴とするものである。
【0017】
複数の第1の被検出部がそれぞれインクの浸透を抑制する抑制層であって、凸レンズ部の幅方向において、複数の画素配置領域の間にそれぞれ配置されることにより、隣接する画素間でのインクの滲みが防止される。
【0018】
第6の発明の記録装置は、前記第4又は第5の発明において、前記姿勢判定手段により、前記被記録媒体の姿勢が、前記走査方向と前記凸レンズ部の幅方向が平行となる前記第1姿勢であることが検出されたときには、前記第2姿勢である場合と比べて、記録時における前記インクジェットヘッドの前記走査方向の移動速度を低くすることを特徴とするものである。
【0019】
上述したように、凸レンズ部の幅方向には左眼用画素と右眼用画素が隣接して配置されるため、インクジェットヘッドの走査方向が、凸レンズ部の幅方向と平行となる、第1姿勢の場合、走査方向のインクの着弾位置ずれが画質低下に大きく影響する。そこで、この第1姿勢の場合には、第2姿勢と比べて、走査速度を低くして走査方向の着弾位置ずれを抑制する。
【0020】
第7の発明のレンチキュラーシートは、互いに平行な状態で並んで配置された半円柱状の複数の凸レンズ部を有するレンチキュラーレンズと、前記複数のレンチキュラーレンズの前記凸レンズ部と反対側の面に設けられたインク吸収層とを有する、レンチキュラーシートであって、前記インク吸収層には、記録装置側の検出手段によって検出される被検出部が設けられ、前記被検出部には、それぞれ前記凸レンズ部の軸方向に延び、且つ、前記凸レンズ部の軸方向と直交する前記凸レンズ部の幅方向に沿って配列された、複数の第1の被検出部と、それぞれ前記凸レンズ部の幅方向に延び、且つ、前記凸レンズ部の軸方向に沿って配列された、複数の第2の被検出部とが含まれ、前記複数の第1の被検出部と前記複数の第2の被検出部との間で、被検出部の配列間隔、被検出部の形状、及び、被検出部の材質の、少なくとも1つが互いに異なっていることを特徴とするものである。
【0021】
本発明のレンチキュラーシートでは、凸レンズ部の軸方向に延在するとともに凸レンズ部の幅方向に等間隔で配列された複数の第1の被検出部と、凸レンズ部の幅方向に延在するとともに凸レンズ部の軸方向に等間隔で配列された複数の第2の被検出部との間で、被検出部の配列間隔、形状、材質が異なっている。従って、記録装置側の検出手段が、被記録媒体に対して走査方向に相対移動しつつ被検出部を検出するときの、その検出結果から、何れの被検出部を検出したのか、即ち、インクジェットヘッドの走査方向が凸レンズ部の軸方向と幅方向の何れと平行であるのかを判別するができる。
【0022】
第8の発明の被記録媒体の姿勢検出方法は、記録装置で記録される被記録媒体の姿勢を検出する方法であって、前記被記録媒体には、所定の第1の方向にそれぞれ延び、且つ、前記第1の方向と所定角度をなして交差する第2の方向に等間隔で配列された、複数の第1の被検出部と、前記第2の方向にそれぞれ延び、且つ、前記第1の方向に等間隔に配列された複数の第2の被検出部とが設けられており、前記被記録媒体が所定姿勢で配置されたときの前記第2の方向と平行となる、走査方向に、前記被検出部を検出する検出手段を前記被記録媒体に対して相対移動させ、前記検出手段が前記被記録媒体に対して相対的に前記走査方向に移動したときの、前記被検出部の検出結果に基づいて、前記被記録媒体の前記所定姿勢に対する傾きを検出することを特徴とするものである。
【0023】
被記録媒体が所定姿勢である場合には、検出手段によって、第2の方向に配列された複数の第1の被検出部が等間隔で検出されるだけであるが、被記録媒体が所定姿勢に対して、被記録媒体を含む面内において傾いている場合には、等間隔で検出される複数の第1の被検出部に加えて、第2の被検出部も検出される。このような検出結果の違いから、被記録媒体の姿勢の傾きを検出できる。
【0024】
第9の発明の被記録媒体の姿勢検出方法は、前記第8の発明において、前記被記録媒体は、所定の第1姿勢とこの第1姿勢に対して前記所定角度だけ回転した第2姿勢を取り得るものであり、前記被記録媒体が前記第1姿勢のときには、前記検出手段の前記走査方向は、前記複数の第1の被検出部の配列方向であって、前記複数の第2の被検出部の延在方向でもある、前記第2の方向と平行となり、前記被記録媒体が前記第2姿勢のときには、前記検出手段の前記走査方向は、前記複数の第1の被検出部の延在方向であって、前記複数の第2の被検出部の配列方向でもある、前記第1の方向と平行となり、前記第1の被検出部と前記第2の被検出部との間で、被検出部の配列間隔、被検出部の形状、及び、被検出部の材質の、少なくとも1つが互いに異なっており、前記検出手段による前記被検出部の検出結果に基づいて、前記被記録媒体が前記第1姿勢であるか前記第2姿勢であるかを判断することを特徴とするものである。
【0025】
複数の第1の被検出部と複数の第2の被検出部の間で、複数の第1の被検出部と複数の第2の被検出部の間で、被検出部の配列間隔、形状、材質が異なっているため、被記録媒体の姿勢が第1姿勢であるときに検出手段が第1の被検出部の配列方向(第2の方向)に沿って移動するときと、第2姿勢であるときに検出手段が第2の被検出部の配列方向(第1の方向)に沿って移動するときとで、検出手段の検出結果(出力波形)が異なってくる。従って、この検出結果に基づいて、何れの被検出部を検出したのか、即ち、被記録媒体の姿勢が第1姿勢か第2姿勢かを検出することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、被記録媒体が所定姿勢である場合には、走査方向に移動する検出手段によって、この走査方向と平行な第2の方向に配列された複数の第1の被検出部が等間隔で検出されるだけであるが、被記録媒体が所定姿勢に対して、被記録媒体を含む面内において傾いている場合には、等間隔で検出される複数の第1の被検出部に加えて、第2の被検出部も検出される。このような検出結果の違いから、被記録媒体の姿勢の傾きを検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略平面図である。
【図2】レンチキュラーシートの斜視図である。
【図3】レンチキュラーシートによる立体的な視覚効果を説明する図である。
【図4】(a)はレンチキュラーシートをインク吸収層側から見た一部拡大平面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【図5】プリンタの電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【図6】(a)は第1姿勢のレンチキュラーシートの平面図、(b)は(a)の状態のときのセンサ出力波形を示す。
【図7】(a)は第2姿勢のレンチキュラーシートの平面図、(b)は(a)の状態のときのセンサ出力波形を示す。
【図8】(a)は、第1姿勢に対して時計回りの方向にわずかに傾いた状態の、レンチキュラーシートの平面図、(b)は(a)の状態のときのセンサ出力波形を示す。
【図9】変更形態のレンチキュラーシートの平面図である。
【図10】別の変更形態のレンチキュラーシートの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態のインクジェットプリンタ1の概略平面図である。このインクジェットプリンタ1は、一般的な記録用紙の他に、平面的に配置された複数の凸レンズ部を有するレンチキュラーシート(図2参照)に立体視画像を記録することが可能となっている。
【0029】
まず、図1を参照して、インクジェットプリンタ1、及び、インクジェットプリンタ1で記録されるレンチキュラーシート100とからなる、記録システムの構成について説明する。図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、レンチキュラーシート100が載置されるプラテン2と、このプラテン2と平行な走査方向に往復移動可能なキャリッジ3と、キャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4と、レンチキュラーシート100を走査方向と直交する搬送方向に搬送する搬送機構5と、インクジェットプリンタ1の全体制御を司る制御装置8等を備えている。
【0030】
プラテン2の上面には、被記録媒体であるレンチキュラーシート100(図2参照)が、複数の凸レンズ部31と反対側の面が上になるように載置される。プラテン2の上方には、図1の左右方向(ヘッド走査方向)に平行に延びる2本のガイドレール10,11が設けられ、キャリッジ3は、プラテン2と対向する領域において2本のガイドレール10,11に沿って走査方向に往復移動可能に構成されている。また、キャリッジ3には、2つのプーリ12,13間に巻き掛けられた無端ベルト14が連結されており、キャリッジ駆動モータ15によって無端ベルト14が走行駆動されたときに、キャリッジ3は、無端ベルト14の走行に伴って走査方向に移動する。
【0031】
尚、プリンタ1のプリンタ本体1aには、走査方向に間隔を空けて配列された多数の透光部(スリット)を有するリニアエンコーダ24が設けられている。一方、キャリッジ3には、発光素子と受光素子とを有する透過型光センサからなるヘッド位置検出センサ25が設けられている。そして、プリンタ1は、キャリッジ3の移動中にヘッド位置検出センサ25が検出したリニアエンコーダ24の透光部の計数値(検出回数)から、キャリッジ3(インクジェットヘッド4)の走査方向に関する現在位置を認識できるようになっている。
【0032】
さらに、キャリッジ3の側壁には、後述するレンチキュラーシート100の、スリットからなる複数の被検出部36,37(図4参照)を検出するシート検出センサ26(検出手段)が設けられ、キャリッジ3とヘッド走査方向(本願発明における走査方向)に一体的に移動可能である。このシート検出センサ26は、レンチキュラーシート100に向けて光を照射する発光素子と反射光を受光する受光素子とを有する反射型のフォトセンサである。また、シート検出センサ26は、次述のインクジェットヘッド4のノズル16よりも、搬送方向上流側(図1の上方)の位置に設けられている。そして、シート検出センサ26は、キャリッジ3とともに走査方向に移動しつつレンチキュラーシート100に対して光を照射し、その被検出部36,37において光が透過するときの受光素子の受光量変化から、複数の被検出部36,37を検出するものである。レンチキュラーシート100に複数の被検出部36,37が設けられている理由等については後で詳しく説明する。
【0033】
インクジェットヘッド4は、キャリッジ3の下部に取り付けられており、プラテン2の上面と平行な、インクジェットヘッド4の下面(図1の紙面向こう側の面)が、複数のノズル16が開口する液滴噴射面となっている。また、図1に示すように、プリンタ1のプリンタ本体1aにはホルダ9が固定的に設けられ、このホルダ9には4色のインク(ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ)がそれぞれ貯留された4つのインクカートリッジ17が装着される。また、図示は省略するが、キャリッジ3に搭載されたインクジェットヘッド4とホルダ9とが4本のチューブ(図示省略)で接続され、4つのインクカートリッジ17内のインクが、4本のチューブを介してインクジェットヘッド4にそれぞれ供給されるようになっている。
【0034】
インクジェットヘッド4は、複数のノズル16内のインクにそれぞれ圧力を付与して、複数のノズル16のそれぞれから個別にインクの液滴を噴射させるアクチュエータ27(図5参照)を備えている。このアクチュエータ27の構成は特定の駆動方式のものに限定されず、圧電素子の圧電歪を利用した圧電アクチュエータなど、公知のものを使用できる。そして、インクジェットヘッド4は、アクチュエータ27を用いて、複数のノズル16のそれぞれから、対応する色のインクをプラテン2に載置されたレンチキュラーシート100に対して噴射する。
【0035】
搬送機構5は、搬送方向にプラテン2を挟むように配置された2つの搬送ローラ18,19を有する。2つの搬送ローラ18,19はそれぞれ搬送モータ28(図5参照)によって駆動され、これら2つの搬送ローラ18,19によって、プラテン2に載置されたレンチキュラーシート100を搬送方向(図1の前方)に搬送する。
【0036】
そして、インクジェットプリンタ1は、プラテン2上に載置されたレンチキュラーシート100に対して、キャリッジ3とともにヘッド走査方向(図1の左右方向)に往復移動するインクジェットヘッド4からインクを噴射させるとともに、2つの搬送ローラ18,19によってレンチキュラーシート100を搬送方向(図1の前方)に搬送することにより、レンチキュラーシート100に画像を印刷する。
【0037】
次に、上記インクジェットプリンタ1によって立体視画像が記録される、レンチキュラーシートについて説明する。図2はレンチキュラーシート100の斜視図である。図2に示すように、レンチキュラーシート100は、略半円柱状の形状を有し、互いに平行な状態でその幅方向に並んで配置された複数の凸レンズ部31を有するレンチキュラーレンズ30と、このレンチキュラーレンズ30の複数の凸レンズ部31と反対側の平坦面30aに配置されたインク吸収層32を有する。
【0038】
インク吸収層32は、インク吸収性に優れた透明又は白色の層である。このインク吸収層32は、吸水性ポリマー等の膨潤性材料や、あるいは、多孔質シリカ等の多孔質材料を含むインク吸収性に優れた樹脂層であってもよいが、一般的な画像の記録に用いられる紙のシート(記録用紙)であってもよい。
【0039】
このインク吸収層32は、上述したインクジェットヘッド4から噴射されたインクが浸透することによって、複数の画素がそれぞれ形成される複数の画素配置領域35を有する。図3は、レンチキュラーシート100による立体的な視覚効果を説明する図である。図3に示すように、インク吸収層32の、1つの凸レンズ部31と対向する領域には、両眼視差の作用を生じさせるようにわずかに異なった、左眼用画素と右眼用画素が、略半円柱状の凸レンズ部31の幅方向(以下、レンズの幅方向という)に並べて配置される。尚、後で説明する図4にも示されているが、図3の紙面に直交する、凸レンズ部31の軸方向(以下、レンズの軸方向という)には、左眼用画素と右眼用画素がそれぞれ1列に並べて配置される。
【0040】
図3(a)は左眼の視野の範囲を示し、(b)は右眼の視野の範囲を示す。インク吸収層32の複数の画素配置領域35にそれぞれ画素(ハッチング部分)が形成されたレンチキュラーシート100を、レンチキュラーレンズ30の凸レンズ部31側から人間が見たときに、凸レンズ部31の光屈折効果によって左眼の視野は図3(a)のようになり、左眼によって左眼用画素が視認され、右眼用画素は視認されない。一方、右眼の視野は図3(b)のようになり、右眼によって右眼用画素が視認されるが、左眼用画素は視認されない。そして、左眼と右眼によって、若干異なった画素である左眼用画素と右眼用画素をそれぞれ視認することによって、立体的な視覚効果が発生する。
【0041】
図4(a)はレンチキュラーシート100をインク吸収層32側から見た一部拡大平面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。尚、図4において、縦横に直交する破線が複数の画素配置領域35の仮想的な境界線を示し、これらの破線で囲まれた領域が1つの画素配置領域35となっている。図4(a)に示すように、1つの凸レンズ部31に対して1つの左眼用画素の画素配置領域35と1つの右眼用画素の画素配置領域35がレンズの幅方向に並べて配置されている。また、レンズの幅方向には、左眼用画素の画素配置領域35と、右眼用画素の画素配置領域35がそれぞれ1列に配列される。
【0042】
図4に示すように、インク吸収層32には、このインク吸収層32を貫通するスリットからなり、平面視で互いに直交する複数の第1の被検出部36と複数の第2の被検出部37が形成されている。より詳細には、複数の第1の被検出部36は、レンズの軸方向(第1の方向)にそれぞれ延び、且つ、レンズの幅方向(第2の方向)に所定ピッチP1で等間隔に配列されている。また、第2の被検出部37は、レンズの幅方向にそれぞれ延び、且つ、レンズの軸方向に所定ピッチP2で等間隔に配列されている。
【0043】
また、複数の第1の被検出部36の配列ピッチP1と複数の第2の被検出部37の配列ピッチP2は異なっている。本実施形態では、図4(b)に示すように、第1の被検出部36は隣接する2つの凸レンズ部31の間の位置に設けられており、この第1の被検出部36はレンズの幅方向において2つの画素(画素配置領域35)毎に配置されている。一方、第2の被検出部37はレンズの軸方向において3つの画素(画素配置領域35)毎に配置されている。即ち、第2の被検出部37の配列ピッチP2は、第1の被検出部36の配列ピッチP1の1.5倍となっている。
【0044】
また、第1の被検出部36と第2の被検出部37はそれぞれインク吸収層32を厚み方向に貫通するスリットであり、これら第1の被検出部36と第2の被検出部37が形成された位置では、インク吸収層32の表面から照射された光がレンチキュラーレンズ30側に透過する。従って、インクジェットプリンタ1の、キャリッジ3とともに移動する光学式のシート検出センサ26(図1参照)によって、これら第1の被検出部36及び第2の被検出部37を検出可能となる。後述するが、プリンタ1は、シート検出センサ26による複数の第1の被検出部36及び複数の第2の被検出部37の検出結果から、プラテン2上を搬送されるレンチキュラーシート100の姿勢(向き)や、レンチキュラーシート100を含む面内での傾きを検出する。
【0045】
次に、制御装置8を中心とするインクジェットプリンタ1の電気的構成について、図5のブロック図を参照して説明する。制御装置8は、例えば、中央処理装置であるCPU(Central Processing Unit)と、プリンタ1の全体動作を制御する為の各種プログラムやデータ等が格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUで処理されるデータ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むマイクロコンピュータを備え、ROMに格納されたプログラムがCPUで実行されることにより、以下に説明するような画像記録等に関する様々な制御を行う。あるいは、制御装置8は、演算回路を含む各種回路が組み合わされたハードウェア的なものであってもよい。
【0046】
この制御装置8は、インクジェットヘッド4のアクチュエータ27を制御するヘッド制御部42と、キャリッジ3をヘッド走査方向に駆動するキャリッジ駆動モータ15を制御するキャリッジ制御部43と、搬送ローラ18,19を駆動する搬送モータ28を制御する搬送制御部44とを含む、記録制御部40を有する。また、制御装置8は、外部装置であるPC50から入力された画像データから、レンチキュラーシート100に形成する複数の画素のそれぞれについての位置、色、あるいは、濃度等に関する情報を含んだ記録データを作成する、記録データ生成部45を有する。そして、記録制御部40は、記録データ生成部45で生成された記録データに基づき、インクジェットヘッド4のアクチュエータ27、キャリッジ駆動モータ15、及び、搬送機構5の搬送モータ28をそれぞれ制御して、レンチキュラーシート100への記録を行わせる。
【0047】
また、制御装置8は、シート検出センサ26によるレンチキュラーシート100の2種類の被検出部36,37の検出結果に基づいて、搬送機構5で搬送されるレンチキュラーシート100の姿勢を判定する姿勢判定部46(姿勢判定手段)を備えている。以下、姿勢判定部46によるレンチキュラーシート100の姿勢判定について詳細に説明する。
【0048】
(シートの向きの判定)
姿勢判定部46は、まず、レンチキュラーシート100が搬送されるときの姿勢(向き)が、レンズの幅方向がヘッド走査方向と平行な姿勢(第1姿勢)であるのか、あるいは、レンズの軸方向がヘッド走査方向と平行な姿勢、即ち、前記第1姿勢に対して、レンチキュラーシート100を含む面内で90度回転した姿勢(第2姿勢)であるのかを区別して判定する。
【0049】
尚、図1に示すように、レンチキュラーシート100の姿勢を検出するためのシート検出センサ26は、インクジェットヘッド4の複数のノズル16よりも搬送方向上流側にある。従って、レンチキュラーシート100が搬送されてきたときに、最初に、その2種類の被検出部36,37をシート検出センサ26で検出し、その検出結果に基づいて姿勢判定部46がレンチキュラーシート100の姿勢を判定することになる。そして、姿勢判定後に、レンチキュラーシート100を、後に戻すことなく、そのままインクジェットヘッド4のノズル16と対向する領域(印字領域)まで搬送して画像の記録を続けて行うことができる。
【0050】
図3に示すように、レンズの幅方向には左眼用画素と右眼用画素とが隣接して配置される。そして、インクジェットヘッド4によってインク吸収層32に画素が形成されたときに、左眼用画素と右眼用画素のレンズの幅方向の位置がずれていると、立体視画像を実現するための両眼視差を生じさせることができなくなる虞がある。それ故、レンズの幅方向についての着弾精度を上げることが好ましく、ヘッド走査方向がレンズの軸方向と幅方向の何れの方向と平行であるのかを判別することは、非常に重要である。
【0051】
図6(a)は第1姿勢のレンチキュラーシート100の平面図、(b)は(a)の状態のときのセンサ出力波形を示す。図6(a)のように、レンチキュラーシート100が、そのレンズの幅方向がヘッド走査方向と平行な第1姿勢である場合には、矢印Aで示すヘッド走査方向に、図中の二点鎖線に沿って移動するシート検出センサ26の発光素子の光は、複数の第1の被検出部36の位置においてそれぞれインク吸収層32を透過する。従って、図6(b)のように、複数の第1の被検出部36の位置でセンサ出力(受光素子の受光量)が変化することから、ピッチP1で配列された複数の第1の被検出部36が検出される。尚、実際には、シート検出センサ26からは受光素子での受光量の時間的な変化が出力されるのであって、厳密には、図6(b)の横軸は「時間」とすべきであるが、ここでは、説明の便宜上、ヘッド位置検出センサ25により取得されるインクジェットヘッド4の位置情報を加味して、スリットである第1の被検出部36を光が透過したときのヘッド4の位置として示している。
【0052】
図7(a)は第2姿勢のレンチキュラーシート100の平面図、(b)は(a)の状態のときのセンサ出力波形を示す。図7(a)のように、レンチキュラーシート100が、そのレンズの軸方向がヘッド走査方向と平行な第2姿勢である場合には、ヘッド走査方向に移動するシート検出センサ26の発光素子の光は、複数の第2の被検出部37の位置においてそれぞれ透過する。従って、図7(b)のように、複数の第2の被検出部37の位置でセンサ出力が変化することから、ピッチP2で配列された複数の第2の被検出部37が検出される。
【0053】
そして、姿勢判定部46は、シート検出センサ26によって第1の被検出部36と第2の被検出部37の何れが検出されたかによって、レンチキュラーシート100の向きが第1姿勢と第2姿勢の何れであるかを判定する。また、姿勢判定部46で判定されたレンチキュラーシート100の姿勢に応じて、記録データ生成部45は、PC50からの画像データから記録データを生成する。そして、記録制御部はレンチキュラーシート100の姿勢に対応した記録データに基づいて、キャリッジ3及びインクジェットヘッド4による、レンチキュラーシート100への画像記録動作の制御を行う。
【0054】
ここで、レンチキュラーシート100が、レンズの幅方向とインクジェットヘッド4のヘッド走査方向とが平行となる第1姿勢であるときには、図4のように、左眼用画素の画素配置領域35と右眼用画素の画素配置領域35とがヘッド走査方向に隣接することから、ヘッド走査方向のインクの着弾位置ずれが生じると立体視画像の画質が大きく低下する。一方、レンチキュラーシート100が第2姿勢であるときには、ヘッド走査方向には、左眼用画素の画素配置領域35と右眼用画素の画素配置領域35がそれぞれ一列に並ぶが、同じ画素間(左眼用画素同士、あるいは、右眼用画素同士)でのインクの着弾位置ずれは、立体視画像の画質にはそれほど大きく影響しない。そこで、姿勢判定部46によってレンチキュラーシート100の姿勢が第1姿勢である判定された場合には、第2姿勢と判定された場合に比べて、画像記録時におけるキャリッジ(インクジェットヘッド4)の走査速度を低くして、ヘッド走査方向のインクの着弾位置ずれを抑制する。
【0055】
(傾き判定)
また、姿勢判定部46は、レンチキュラーシート100の、上述の第1姿勢又は第2姿勢に対する、レンチキュラーシート100と平行な平面内における傾き(回転)を検出する。
【0056】
図8(a)は、第1姿勢にある状態から時計回りの方向にわずかに傾いた状態の、レンチキュラーシートの平面図、(b)は(a)の状態のときのセンサ出力波形を示す。この図8の状態において、矢印Aで示すようにキャリッジ3をヘッド走査方向に移動させると、このヘッド走査方向と、第2の被検出部37の延在方向であるレンズの幅方向は平行でなく、互いに交差することになるから、シート検出センサ26は、複数の第1の被検出部36を等間隔で検出するだけでなく、いくつかの第2の被検出部37をも検出することになる。従って、第2の被検出部37のヘッド走査方向における検出間隔Lとこの第2の被検出部37の配列ピッチP2から、レンチキュラーシート100の第1姿勢に対する傾き(tanθ)はP2/Lで求められる。
【0057】
ここで、上記式から明らかなように、傾き(tanθ)の算出には、プリンタ1の制御装置8が、第2の被検出部37の配列ピッチP2が既知であることが必要になるが、制御装置8は、例えば、下記のような方法によって配列ピッチP2を把握することができる。
【0058】
例えば、図1に示されるシート検出センサ26がレンチキュラーシート100と対向する位置でキャリッジ3が停止した状態で、搬送ローラ18,19によってレンチキュラーシート100を搬送方向に搬送すると、その先端部が印字領域に至るまでに、ノズル16よりも搬送方向上流側にあるシート検出センサ26によって、ヘッド走査方向に延びる第2の被検出部37が検出されることになる。そこで、シート検出センサ26が第2の被検出部37を所定回数検出したときの、レンチキュラーシート100の搬送量から、第2の被検出部37の配列ピッチP1を算出することができる。または、PC50側から、画像データとともにレンチキュラーシート100の第2の被検出部37の配列ピッチP2が送信されてもよい。あるいは、傾きが検出されたときには、ユーザによって配列ピッチP2が入力される構成であってもよい。
【0059】
また、レンチキュラーシート100が第2姿勢に対してわずかに傾いたときには、上記と逆で、第1の被検出部36のヘッド走査方向における検出間隔とこの第1の被検出部36の配列ピッチP1から、レンチキュラーシート100の第2姿勢に対する傾きが求められる。
【0060】
尚、厳密には、レンチキュラーシート100が傾いたときに、等間隔で検出される方の被検出部36(37)の検出間隔は、その配列ピッチP1(P2)に対して若干異なるが、ここではレンチキュラーシート100の第1姿勢(第2姿勢)に対する傾きがわずかであることを想定しており、傾きの有無による上記検出間隔のずれもわずかである。従って、傾き検出の際に等間隔で検出された被検出部が、第1の被検出部36か第2の被検出部37か(即ち、傾きを検出する基となる、基本姿勢が第1姿勢か第2姿勢か)は容易に判別できる。
【0061】
以上のように、レンチキュラーシート100が第1姿勢又は第2姿勢に対して傾いている場合には、複数の第1の被検出部36が等間隔で検出される間に一部の第2の被検出部37が検出される、あるいは、逆に、複数の第2の被検出部37が等間隔で検出される間に一部の第2の被検出部37が検出されることになるから、シート検出センサ26の検出結果から、レンチキュラーシート100の傾きを判定できる。
【0062】
姿勢判定部46によって、レンチキュラーシート100の第1姿勢又は第2姿勢に対する傾きが検出されると、記録データ生成部45は、その傾きがない場合の記録データ(複数の画素の位置データ)を、上記傾きだけ回転変換して記録データを変更する。即ち、記録データ生成部45が本発明のデータ変更手段に相当する。そして、記録制御部はレンチキュラーシート100の傾きに対応した記録データに基づいて、レンチキュラーシート100への画像記録制御を行う。これにより、レンチキュラーシート100が傾いている場合であっても、その傾きに応じて記録データを変更することで、レンチキュラーシート100に正常な記録を行うことが可能となる。
【0063】
尚、レンチキュラーシート100の傾き角度θが、画質に及ぼす影響が小さい、ある許容値以下であれば、上記の記録データの回転変換は行わなくてもよい。以下に、上記許容値について一例を挙げる。
レンチキュラーシート100のシート幅:210mm
レンチキュラーレンズ30の1つの画素幅:0.127mm
着弾位置ずれの許容距離:0.381mm(レンズ軸方向に画素3つ分ずれたケース)
とすると、傾き角度の許容値は約0.1度となる。
従って、第2の被検出部37のピッチ間隔P2は、少なくとも0.1度の傾きが生じたときに、シート検出センサ26によって検出可能な、一定以下の小さい間隔であることが望ましい。このピッチ間隔が大きすぎると、傾き検出時に第1の被検出部36しか検出されなくなってしまう。
【0064】
一方、姿勢判定部46で検出された傾きがあまりにも大きい場合には、レンチキュラーシート100に画像を形成できない場合がある。例えば、傾きに応じて記録データを回転させたときに、そのような画像を記録するために必要なキャリッジ3の走査方向移動範囲が大きくなって、移動可能範囲を超えてしまうことが考えられる。そこで、姿勢判定部46で検出された傾きが所定値以上である場合には、レンチキュラーシート100に画像を正しく形成することができないとして、PC50等の外部装置や、図示しないプリンタ1の液晶パネルにエラーメッセージを表示させる。
【0065】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0066】
1]レンチキュラーシート100に設けられる被検出部36,37、及び、これら被検出部36,37を検出するシート検出センサ26の構成は、前記実施形態のものには限られない。
【0067】
例えば、インク吸収層32に、インク吸収層32とは異なる材料によって、所定ピッチで配列された第1の被検出部36(第2の被検出部37)が形成されてもよい。第1の被検出部36及び第2の被検出部37が、インク吸収層32とは光学的性質(光透過性や光反射性等)が異なる材料で形成される場合には、プリンタ1側の光学式のシート検出センサ26で検出が可能である。あるいは、被検出部が磁性材料で形成される場合には、シート検出センサ26を磁気センサとすることで検出が可能である。また、被検出部が金属材料で形成された場合には、シート検出センサ26を、被検出部36,37に近接したときに生じる渦電流を検出する近接センサとすることで検出が可能である。また、第1の被検出部36(第2の被検出部37)が、インク吸収層32のレンチキュラーレンズ30と反対側の平坦面に形成されてもよい。あるいは、第1の被検出部36(第2の被検出部37)が、レンチキュラーレンズ30の平坦面30aに一体形成され、インク吸収層32を貫通して突出する突出部であってもよい。
【0068】
2]第1の被検出部36の延在方向と第2の被検出部37の延在方向が互いに直交している必要はなく、図9に示すように、90度とは異なる角度ξで交差していてもよい。この場合、ヘッド走査方向が図9の左右方向であるとすると、姿勢判定部46で検出される第1姿勢は、第1の被検出部36の配列方向であって第2の被検出部37の延在方向である方向(第2の方向)が、ヘッド走査方向と平行となる図9の姿勢である。また、第2姿勢は、第1の被検出部36の延在方向であって第2の被検出部37の配列方向である方向(第1の方向)が、ヘッド走査方向と平行となる姿勢、即ち、図9の姿勢に対して紙面に平行な面内において角度ξ回転した姿勢である。
【0069】
3]図10に示すように、第1の被検出部36のピッチP1と第2の被検出部37のピッチP2が等しくてもよい。この場合でも、第1の被検出部36と第2の被検出部37の形状や材質等を互いに異ならせることにより、第1の被検出部36と第2の被検出部37とを区別できるようになり、レンチキュラーシート100の向きを検出できる。例えば、前記実施形態のように、被検出部36,37を検出するシート検出センサ26が光学式のセンサである場合には、第1の被検出部36と第2の被検出部37の間で、被検出部の幅や本数を変えたり、あるいは、被検出部の表面材質(例えば、色)や表面形状(例えば、表面粗さ)を変えて光学的性質(光透過率や反射率)を異ならせたりすればよい。このような構成によって、第1の被検出部36と第2の被検出部37のそれぞれの検出時におけるセンサの出力波形が異なることになり、検出した被検出部が、第1の被検出部36か第2の被検出部37かを区別できる。尚、第1の被検出部36と第2の被検出部37との間で、上に挙げた、配列間隔や本数、形状、及び、材質等の何れか1つの項目のみについて異ならせるのではなく、2つ以上の項目について異ならせてもよい。
【0070】
また、第1の被検出部36と第2の被検出部37を区別して検出する必要がない場合もある。例えば、プリンタ1が、レンチキュラーシート100が常に第1姿勢か第2姿勢の一方で搬送されるように構成されている場合や、予めPC50等の外部装置からレンチキュラーシート100の搬送姿勢(第1姿勢か第2姿勢か)が入力される場合には、プリンタ1がレンチキュラーシート100の向きまで検出する必要はなく、そのような所定の姿勢に対する傾きだけを検出すればよい。そして、上記のように、第1の被検出部36と第2の被検出部37を区別して検出する必要がない場合には、第1の被検出部36と第2の被検出部37の間で、配列間隔や形状等を互いに異ならせる必要は特にない。
【0071】
4]少なくとも複数の第1の被検出部36が、インク吸収層32よりもインク透過性の低い材料で形成された上で、レンズの幅方向において、インク吸収層32の複数の画素配置領域35の間にそれぞれ設けられていてもよい。この場合には、複数の第1の被検出部36がインクの浸透を抑制する抑制層として機能し、レンズの幅方向に隣接する画素(左眼用画素と右眼用画素)間でのインクの滲みが防止される。また、レンズの幅方向とヘッド走査方向とが平行な第1姿勢にあるときに、シート検出センサ26によって画素配置領域35毎に設けられた第1の被検出部36を検出することによって、画素配置領域35のヘッド走査方向の位置を把握できるため、画素配置領域35に精度よくインクを着弾させることができる。尚、複数の第2の被検出部37についても、レンズ軸方向において、インク吸収層32の複数の画素配置領域35の間にそれぞれ設けられていてもよい。
【0072】
4]前記実施形態では、レンチキュラーシート100の被検出部36,37を検出するシート検出センサ26は、キャリッジ3とともにレンチキュラーシート100に対してヘッド走査方向に移動するようになっているが、センサ26が単独でヘッド走査方向に移動するように構成されてもよい。あるいは、センサ26は移動せず、レンチキュラーシート100をセンサ26に対して移動させる構成であってもよい。
【0073】
5]前記実施形態では、レンチキュラーシート100に対してシート検出センサ26を、ヘッド走査方向に移動させているが、シート検出センサ26をレンチキュラーシート100に対して搬送方向に相対移動させることによっても、レンチキュラーシート100の姿勢を検出できる。この場合は、搬送方向が、シート検出センサ26のシート100に対する相対移動方向である、本願発明の「走査方向」に相当する。例えば、図8において、シート検出センサ26を停止(位置固定)させた状態で、レンチキュラーシート100を搬送方向下流側(図中下方)に搬送させると、センサ26によって、レンズ幅方向に延びる被検出部37が等間隔で検出されるとともに、レンズ軸方向に延びるいくつかの被検出部36も検出される。
【0074】
6]本発明は、レンチキュラーシート以外の被記録媒体に対しても適用できる。例えば、一般的な矩形状の紙のシート(記録用紙)に画像を記録する場合であっても、記録用紙が縦向きか横向きかを把握すること、及び、所定の姿勢(縦向き又は横向き)の姿勢に対する傾きを検出することは重要である。そして、このような記録用紙に、2種類の被検出部が設けられて、これらを記録装置側の検出手段で検出することによって、レンチキュラーシートの場合と同じように向きや傾きを検出することは十分可能である。
【0075】
また、被記録媒体に画像を記録する記録装置は、前記実施形態のインクジェット方式のプリンタには限られず、レーザープリンタなどの他の記録方式のプリンタに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 インクジェットプリンタ
4 インクジェットヘッド
26 シート検出センサ
30 レンチキュラーレンズ
31 凸レンズ部
32 インク吸収層
35 画素配置領域
36 第1の被検出部
37 第2の被検出部
45 記録データ生成部
46 姿勢判定部
100 レンチキュラーシート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定姿勢で配置された被記録媒体に記録を行う記録ヘッドと、
前記所定姿勢の前記被記録媒体に対して、所定の走査方向に相対移動可能に構成された検出手段を有し、
前記被記録媒体には、前記検出手段により検出される被検出部として、
前記被記録媒体が前記所定姿勢であるときに、前記走査方向と所定角度をなして交差する第1の方向にそれぞれ延び、且つ、前記走査方向と平行となる第2の方向に等間隔に配列された複数の第1の被検出部と、前記第2の方向にそれぞれ延び、且つ、前記第1の方向に等間隔に配列された複数の第2の被検出部とが設けられており、
前記検出手段が前記被記録媒体に対して相対的に前記走査方向に移動したときの、前記被検出部の検出結果に基づいて、前記被記録媒体の前記所定姿勢に対する傾きを判定する姿勢判定手段を有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記検出手段によって、前記被記録媒体が前記所定姿勢に対して傾いていることが検出されたときに、その傾きに応じて前記被記録媒体に記録するための記録データを変更するデータ変更手段を有することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記被記録媒体は、前記記録ヘッドによる記録時に、所定の第1姿勢とこの第1姿勢に対して前記所定角度だけ回転した第2姿勢の、何れか一方の姿勢を取り得るように構成され、
前記被記録媒体が前記第1姿勢であるときには、前記複数の第1の被検出部の配列方向であって、前記複数の第2の被検出部の延在方向でもある、前記第2の方向が、前記走査方向と平行となり、
前記被記録媒体が前記第2姿勢であるときには、前記複数の第1の被検出部の延在方向であって、前記複数の第2の被検出部の配列方向でもある、前記第1の方向が、前記走査方向と平行となり、
前記第1の被検出部と前記第2の被検出部は、前記検出手段によって区別して検出されるように構成され、
前記姿勢判定手段は、前記検出手段による前記被検出部の検出結果に基づいて、前記被記録媒体が前記第1姿勢であるか前記第2姿勢であるかを判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドは、前記被記録媒体に対して前記走査方向に移動しつつノズルからインクの液滴を噴射する、インクジェットヘッドであり、
前記被記録媒体は、互いに平行な状態で並んで配置された半円柱状の複数の凸レンズ部を有するレンチキュラーレンズと、前記レンチキュラーレンズの前記凸レンズ部と反対側の面に設けられたインク吸収層とを有する、レンチキュラーシートであり、
前記インク吸収層に前記複数の第1の被検出部と前記複数の第2の被検出部が設けられ、
前記複数の第1の被検出部は、それぞれ前記凸レンズ部の軸方向に延在し、
前記複数の第2の被検出部は、それぞれ前記凸レンズ部の軸方向と直交する、前記凸レンズ部の幅方向に延在していることを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記インク吸収層は、前記凸レンズ部の幅方向に並べられ、インクが浸透することによって画素が形成される複数の画素配置領域を有し、
前記複数の第1の被検出部は、前記インク吸収層の前記複数の画素配置領域の間にそれぞれ設けられ、前記インクの浸透を抑制する抑制層であることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記姿勢判定手段により、前記被記録媒体の姿勢が、前記走査方向と前記凸レンズ部の幅方向が平行となる前記第1姿勢であることが検出されたときには、前記第2姿勢である場合と比べて、記録時における前記インクジェットヘッドの前記走査方向の移動速度を低くすることを特徴とする請求項4又は5に記載の記録装置。
【請求項7】
互いに平行な状態で並んで配置された半円柱状の複数の凸レンズ部を有するレンチキュラーレンズと、前記複数のレンチキュラーレンズの前記凸レンズ部と反対側の面に設けられたインク吸収層とを有する、レンチキュラーシートであって、
前記インク吸収層には、記録装置側の検出手段によって検出される被検出部が設けられ、
前記被検出部には、
それぞれ前記凸レンズ部の軸方向に延び、且つ、前記凸レンズ部の軸方向と直交する前記凸レンズ部の幅方向に沿って配列された、複数の第1の被検出部と、
それぞれ前記凸レンズ部の幅方向に延び、且つ、前記凸レンズ部の軸方向に沿って配列された、複数の第2の被検出部とが含まれ、
前記複数の第1の被検出部と前記複数の第2の被検出部との間で、被検出部の配列間隔、被検出部の形状、及び、被検出部の材質の、少なくとも1つが互いに異なっていることを特徴とするレンチキュラーシート。
【請求項8】
記録装置で記録される被記録媒体の姿勢を検出する方法であって、
前記被記録媒体には、所定の第1の方向にそれぞれ延び、且つ、前記第1の方向と所定角度をなして交差する第2の方向に等間隔で配列された、複数の第1の被検出部と、前記第2の方向にそれぞれ延び、且つ、前記第1の方向に等間隔に配列された複数の第2の被検出部とが設けられており、
前記被記録媒体が所定姿勢で配置されたときの前記第2の方向と平行となる、走査方向に、前記被検出部を検出する検出手段を前記被記録媒体に対して相対移動させ、
前記検出手段が前記被記録媒体に対して相対的に前記走査方向に移動したときの、前記被検出部の検出結果に基づいて、前記被記録媒体の前記所定姿勢に対する傾きを検出することを特徴とする被記録媒体の姿勢検出方法。
【請求項9】
前記被記録媒体は、所定の第1姿勢とこの第1姿勢に対して前記所定角度だけ回転した第2姿勢を取り得るものであり、
前記被記録媒体が前記第1姿勢のときには、前記検出手段の前記走査方向は、前記複数の第1の被検出部の配列方向であって、前記複数の第2の被検出部の延在方向でもある、前記第2の方向と平行となり、
前記被記録媒体が前記第2姿勢のときには、前記検出手段の前記走査方向は、前記複数の第1の被検出部の延在方向であって、前記複数の第2の被検出部の配列方向でもある、前記第1の方向と平行となり、
前記第1の被検出部と前記第2の被検出部との間で、被検出部の配列間隔、被検出部の形状、及び、被検出部の材質の、少なくとも1つが互いに異なっており、
前記検出手段による前記被検出部の検出結果に基づいて、前記被記録媒体が前記第1姿勢であるか前記第2姿勢であるかを判断することを特徴とする請求項8に記載の被記録媒体の姿勢検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−194413(P2012−194413A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58887(P2011−58887)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】