説明

記録装置及びそのインク残量有無検出方法

【課題】インク色数の多い場合のインク残量検知回路において、回路規模を削減しつつ各インクの残量検出のばらつきを抑えた回路を構成し、さらにはインク色数が多い場合でも処理時間を抑えるインク残量有無検出方法を実現することである。
【解決手段】複数のセンサから構成されるセンサマトリクスを列方向と行方向のセンサにグループ分けする。次に、行方向グループ内のセンサの受光部からの出力を全てOR接続して入力ポートに接続する。一方、各グループに属する複数のセンサからそれぞれ1個を選択し、それらの発光部を並列接続して、各グループに異なるセンサ駆動信号が出力されるように出力ポートに接続する。そして、ある行方向グループからのセンサ出力がインクなしと判定レベルの場合、列方向グループのセンサを順次に駆動し、各グループの出力を再検出してインクなし出力のセンサを特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置及びそのインク残量有無検出方法に関し、特に、例えば、インクジェット記録ヘッドを記録媒体上を往復走査することで画像を記録する記録装置及びそのインク残量有無検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の、特に、複数色のインクを用いて記録を行うインクジェット記録装置では、ある1色のインクが無くなり吐出されなくなった時点で、画像を記録する装置としては正常に動作しなくなる。そのため、記録紙などの記録媒体へのインク吐出開始前に各色のインク残量を確認して画像形成が可能であることを確認した後に記録動作を開始する。
【0003】
その際、各色のインク残量を把握するためにインクの色数に応じた数のセンサが設けられることになるが、使用するインク色数が多い場合にはインク残量検知を行う回路の規模も大きなものになる。
【0004】
これまでにもセンサ数が多い回路構成の場合に、その回路システムのセンサ駆動を行う制御ポートやセンサ出力値を検出する入力ポートを削減する構成が提案されている。例えば、特許文献1は、複数のフォトセンサ群において、センサ発光部を直列接続することによって回路規模を削減し、さらにセンサ出力を並列接続することにより、検出用入力ポートを削減する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−349938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような上記従来例では、センサ発光部が直列接続されているので効率的に回路規模を削減することは可能である。しかしながら、各センサ発光部(LED)の順方向電圧のばらつきを考えた場合、接続された各センサの順方向電圧の差分が累積するために、各グループの発光光量を均一化することが困難という問題がある。また、各センサの順方向電圧が累積することから駆動電圧はその分高いものが要求される。
【0007】
そのために、各インク残量の変化を機構的な変位に置換え、その変位量を光学センサで検出する構成を考えた場合には、各センサの光量の差分が大きいと各インクの残量の正確な検出が難しいという問題がある。
【0008】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、インク数が多い場合でもインク残量検出回路の規模を削減しつつ、短時間で高精度に残量検出を行うことが可能な記録装置及びその装置のインク残量有無検出方法を提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の記録装置は次のような構成からなる。
【0010】
即ち、複数のインクそれぞれを収容する複数のインクタンクから前記複数のインクの数に対応した複数のインク流路を経て供給されたインクを用いて、記録ヘッドからインクを記録媒体に吐出することで記録を行う記録装置であって、前記複数のインク流路それぞれに備えられ、前記複数のインク流路内のインクのありなしを検出する複数のセンサそれぞれがマトリクスの各要素となるように構成し、列方向にグループ化して構成される複数のセンサには共通のセンサ駆動信号が入力されるように前記列方向の複数のセンサを接続し、行方向にグループ化して構成される複数のセンサの各出力が共通の信号線を介して出力するように前記行方向の複数のセンサを接続したセンサマトリクスと、前記列方向の複数のセンサに共通のセンサ駆動信号を出力する複数の出力ポートと、前記行方向の複数のセンサの出力を入力する複数の入力ポートと、前記複数の出力ポートからセンサ駆動信号を出力して前記センサマトリクスを構成する全てのセンサを駆動し、前記複数の入力ポートから得られるセンサ出力のいずれが予め定められた閾値以下であるかを判定する判定手段と、前記判定手段により前記予め定められた閾値以下であると判定されたセンサ出力があった入力ポートに接続された行方向の複数のセンサそれぞれに前記複数の出力ポートから順次、センサ駆動信号を出力して前記行方向の複数のセンサそれぞれを再度駆動し、該入力ポートから得られるセンサ出力のいずれが前記予め定められた閾値以下であるかを判定することにより、前記複数のインク流路のいずれでインクなしが検出されたのかを特定する特定手段とを有することを特徴とする。
【0011】
また本発明を別の側面から見れば、複数のインクそれぞれを収容する複数のインクタンクから前記複数のインクの数に対応した複数のインク流路を経て供給されたインクを用いて、記録ヘッドからインクを記録媒体に吐出することで記録を行う記録装置におけるインク残量有無検出方法であって、前記複数のインク流路には、前記複数のインク流路内のインクのありなしを検出する複数のセンサをそれぞれ備え、前記複数のセンサそれぞれがマトリクスの各要素となるように構成し、列方向にグループ化して構成される複数のセンサには共通のセンサ駆動信号が入力されるように前記列方向の複数のセンサを接続し、行方向にグループ化して構成される複数のセンサの各出力が共通の信号線を介して出力するように前記行方向の複数のセンサを接続したセンサマトリクスを備え、前記列方向の複数のセンサに共通のセンサ駆動信号を出力する複数の出力ポートからセンサ駆動信号を出力して前記センサマトリクスを構成する全てのセンサを駆動し、行方向の複数のセンサの出力を入力する複数の入力ポートから得られるセンサ出力のいずれが予め定められた閾値以下であるかを判定する判定工程と、前記判定工程において前記予め定められた閾値以下であると判定されたセンサ出力があった入力ポートに接続された行方向の複数のセンサそれぞれに前記複数の出力ポートから順次、センサ駆動信号を出力して前記行方向の複数のセンサそれぞれを再度駆動し、該入力ポートから得られるセンサ出力のいずれが前記予め定められた閾値以下であるかを判定することにより、前記複数のインク流路のいずれでインクなしが検出されたのかを特定する特定工程とを有することを特徴とするインク残量有無検出方法を備える。
【発明の効果】
【0012】
従って本発明によれば、インク数が多い場合でもインク残量検出回路の規模を削減しつつ、短時間で高精度に残量検出を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【図2】図1に示したインクジェット記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】インク残量検知回路のセンサ配置構成図である。
【図4】インク残量検知システムブロック図である。
【図5】インク残量検知システムにおけるセンサとインクの構成図である。
【図6】インク残量検知の検出フローチャートである。
【図7】他の実施例に従うインク残量検知回路のセンサ配置構成図である。
【図8】他の実施例に従うインク残量検知の検出フローチャートである。
【図9】他の実施例に従うインク残量検知の検出フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら本発明の実施例について詳細に説明する
なお、この明細書において、「記録」(以下、「プリント」とも称する)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0015】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0016】
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固又は不溶化させることが挙げられる。
【0017】
またさらに、「記録要素」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0018】
<記録装置の概要説明(図1〜図2)>
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)を用いて記録を行なう記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【0019】
図1に示すようにインクジェット記録装置(以下、記録装置)1はインクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)3をキャリッジ2に搭載し、キャリッジ2を矢印A方向に往復移動させて記録を行う。記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0020】
記録装置1のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを貯留するインクタンク6を装着する。インクタンク6はキャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0021】
図1に示した記録装置1はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ2にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクを夫々、収容した4つのインクカートリッジを搭載している。これら4つのインクカートリッジは夫々独立に着脱可能である。
【0022】
この実施例の記録ヘッド3は、熱エネルギを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。このため、電気熱変換体を備えている。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。
【0023】
図2は図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0024】
図2に示すように、コントローラ600は、MPU601、ROM602、特殊用途集積回路(ASIC)603、RAM604、システムバス605、A/D変換器606などで構成される。ここで、ROM602は後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納する。ASIC603は、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド3の制御のための制御信号を生成する。RAM604は、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等として用いられる。システムバス605は、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行う。A/D変換器606は以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給する。
【0025】
また、図2において、610は画像データの供給源となる図1に示したホストやMFPに対応するホスト装置である。ホスト装置610と記録装置1との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス等をパケット通信により送受信する。このパケット通信については後で説明する。なお、インタフェース611としてUSBインタフェースをネットワークインタフェースとは別にさらに備え、ホストからシリアル転送されるビットデータやラスタデータを受信できるようにしても良い。
【0026】
さらに、620はスイッチ群であり、電源スイッチ621、プリントスイッチ622、回復スイッチ623などから構成される。
【0027】
630は装置状態を検出するためのセンサ群であり、位置センサ631、温度センサ632等から構成される。この実施例では、この他にもインク残量を検出するフォトセンサが設けられる。このフォトセンサの詳細について後述する。
【0028】
さらに、640はキャリッジ2を矢印A方向に往復走査させるためのキャリッジモータM1を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は記録媒体Pを搬送するための搬送モータM2を駆動させる搬送モータドライバである。
【0029】
ASIC603は、記録ヘッド3による記録走査の際に、RAM604の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して記録素子(吐出用のヒータ)を駆動するためのデータを転送する。加えて、この記録装置には、ユーザインタフェースとしてLCDやLEDで構成される表示部が備えられている。
【0030】
なお、上記構成の記録装置に用いられるインクタンクの残量は光学センサ(フォトセンサ)を用いて検出される。
【0031】
次に、この実施例の特徴であるインク残量を検出する構成について説明する。
【0032】
図3はインクの残量をフォトセンサで検出する構成について説明する図である。
【0033】
このフォトセンサはインクタンク6と記録ヘッド3との間のインク流路に設けられる。フォトセンサは異なるインクを収容する複数のインクタンクと記録ヘッドとを接続する複数の流路それぞれに設けられる。例えば、インクタンクから記録ヘッドへインクを供給する供給ユニットに設けられている。この供給ユニットは、フォトセンサの他に、加圧機構、圧力センサ等を備えている。しかしながら、以下に説明するようにインク流路はインクのありなしにより、その形状が物理的に変化する弾性体であることが望ましい。
【0034】
図3において、アクチュエータM101は後述のインク流路の側面に設けられ、インク流路内の圧力により、図3においては上下方向に稼働し、フォトセンサ301の発光部301Eから受光部301Rへの光軸を遮光する部材である。インク流路にはゴム製のダイヤフラムが設けられており、アクチュエータM101はダイヤフラムと接続している。また、インク流路M102では加圧機構(不図示)により、インク流路上流でインクを加圧し、インクを押し出す構造になっている。ここで、発光部301EはLEDであり、受光部301Rはフォトトランジスタである。
【0035】
インク流路M102で加圧されたインクにより内圧が発生すると図3(a)に示すようにインク流路に設けられたダイヤフラムが矢印の向きに動き(変形し)、アクチュエータM101がその圧力により流れに垂直な方向に押し出されるような構造になっている。もし、インクがインク流路内に存在しない場合には、インク流路上流でインクが加圧されてもインク流路M102内で空気が圧縮されるのみで、アクチュエータM101を矢印の向きに移動させる力が発生しない。その結果、図3(b)に示すように、フォトセンサ301の光軸が遮光されないため、インクなしが認識される。
【0036】
なお、アクチュエータM101、フォトセンサ301も同様にインク色数分、即ち、インク流路の数分設けられており、インク色ごとに残量を検出できる構造となっている。
【0037】
また、この実施例では、フォトセンサとして透過型フォトインタラプタを用いて説明したが、フォトセンサとして反射型のフォトセンサを用いても良い。
【0038】
この場合、受光部への入光は発光部からの赤外光がアクチュエータで反射されて到達する。一方、アクチュエータは図3に示したような光軸を遮光するような形状ではなく、赤外光を反射する反射板のような形状で構成される。その材質はより発光部からの赤外光を吸収してしまうような材質は好ましくない。インク流路内の圧力によって、反射板の役割をするアクチュエータとフォトセンサとの距離が変化する。即ち,インク流路内にインクがある場合には、流路上流で圧力がかけられたときには、反射板がフォトセンサへ近づき受光部を塞ぐ位置へ移動するため、受光部への入光が遮断される。このように受光部への反射光量をインク流路内の圧力に応じて変化させることにより、インク流路内の圧力を検出することができる。
【0039】
図4は各インク色毎に設けられたフォトセンサの回路構成を示す図である。図4に示す例は、インクタンクが12個、即ち、インクの数は12であり、これに応じてフォトセンサも12個設けられている構成である。このフォトセンサは図3を参照して説明した透過型フォトインタラプタである。これらのフォトセンサ101〜104、201〜204、301〜304は図4に示すように3×4のマトリクス(センサマトリクス)として電気的には接続されている。
【0040】
図4に示されているように、3つのPWM制御信号PWM_L1〜PWM_L3はコントローラ600から出力されて、夫々が3つのフォトセンサからなる列方向のフォトセンサ群に共通のセンサ駆動信号として供給される。各PWM制御信号は4個のフォトセンサに電流制限抵抗を介して接続されている。制限抵抗は各フォトセンサ毎に設けられることになるが、それぞれに設けることにより各センサの制限抵抗と発光部301Eに等しくPWM制御信号で設定された駆動電圧が供給されるようになっている。ここでは、1つのPWM制御信号が接続される列方向の4個のフォトセンサ毎にグループ化し、これらをグループL1〜L3とする。
さて、信号AD1〜AD4はコントローラ600に出力されるセンサ出力信号である。ここで、3×4マトリクスの行方向をグループ化して4つのグループT1〜T4に分割する。各グループ内の3個のフォトセンサの受光部301Eであるフォトトランジスタのコレクタ側をまとめて接続して共通の信号線からコントローラ600の各ADポートに接続する。各受光部のエミッタ側はそれぞれGNDレベルに接続されている。そして、各グループ毎に接続されたコレクタの信号を抵抗を介してVccにプルアップすることで、この3個のフォトセンサの出力がOR接続されることになる。即ち、この3個のフォトセンサのどれか1つでも受光部に入光し、コレクタ電流が流れると、電圧Vccでプルアップされた抵抗部で電圧降下が発生し、その分Vccより低い電位がADポートに印加される構成になっている。3個のフォトセンサがいずれもON状態でない場合のみ、ADポートにはプルアップ電圧Vccが入力される。
【0041】
ここで説明したフォトセンサの接続については、フォトセンサが透過型、反射型のいずれの場合でも同様である。いずれの場合にもインク流路にインクがなければ、フォトセンサへは受光部への光の遮断がなされないため、そのフォトセンサの受光部のコレクタ電流が増加するような回路構成となる。
【0042】
図5はフォトセンサとコントローラとの間の制御構成を示すブロック図である。
【0043】
図5に示すように、コントローラ600はセンサ群を制御するためのLEDを発光駆動するためのPWM制御信号の出力ポート(PWM_L*)をセンサマトリクス300のセンサ列分備えている。図4に示した構成から分かるように、センサマトリクス300は3×4マトリクス構成なので、3つの出力ポート(PWM_L*、*=1〜3)を備えている。コントローラ600内のTCU650(タイマコントロールユニット)はパルス幅とパルス間隔を制御することでPWM制御を実現する。そして、TCU650に上述のPWM制御信号の出力ポートが設けられ、各PWM制御の出力ポートは、フォトセンサの発光部にそれぞれ電流制限抵抗を介して接続されている。各フォトセンサの発光制御時には、予め定められたパルス幅でPWM制御信号で出力ポートへの印加電圧をON/OFFすることにより、各フォトセンサの発光部に任意の電流を供給し、その結果、フォトセンサの発光光量を調整することができる。
【0044】
また、コントローラ600には、センサマトリクス300からの出力信号が入力されるアナログポート(ADポート)が備えられている。このADポートはセンサマトリクス300の行数分備えられる。このADポートはコントローラ600内のADC660(ADコンバータ)に接続される。ADC660はポートに入力されるアナログ電圧レベルを10ビットのデジタル値に変換し、ポート毎に備えられるコントローラ内のレジスタにセットする。また、ADC660には基準電圧が接続されている。図4に示した構成から分かるように、センサマトリクス300は3×4マトリクス構成なので、4つのADポートを備えている。これらのADポートにはアナログ信号が入力されるので、ある特定の閾値でフォトセンサ出力のON/OFFを判定するのではなく、インク残量に応じたフォトセンサのレベル変化を把握することが可能になる。
【0045】
次にフローチャートを参照して、この記録装置が実行するインク残量有無検出の動作について説明する。図6はインク残量有無検出動作の処理を示すフローチャートである。
【0046】
なお、この説明では、最初の状態では、12色のインクの残量については不明な状態(インクが十分にあると認識されている状態)であるものとする。インク残量の検出のタイミングとしては、インク流路への加圧動作が伴うために、圧力をかけられない状態では行うことができない。逆にインク流路に圧力がかけられている状態では、残量の検出はいつでも可能である。
【0047】
まず、ステップS101では、出力ポート(PWM_L1〜3)をアクティブにすることにより、センサマトリクス300のグループL1〜L3全てのセンサを発光駆動する。センサマトリクス300はインクがない場合にフォトセンサの受光部への入射光が増加する構成であるため、PWM制御信号のデューティ設定を最大値として、より受光部への入光が起こりやすい方向で制御する。それにより、残量が不足しているインクをより確実に判断できる。
【0048】
この最大設定値で発光部を駆動している状態で、処理はステップS102にすすみ、センサマトリクスの安定度を考慮したウエイトを挿入したのちに、センサマトリクスからのポートAD1〜4のレベルを読み取ることにより、各フォトセンサの状態を確認する。
【0049】
ステップS103で、ADポートの入力の中に予め定められた閾値以下のものがあるかどうかを調べる。ここで、全てのADポートの入力値が閾値よりも大きくプルアップ電圧Vccに近い値であれば、フォトセンサの受光部はOR接続されているので、全センサがアクチュエータで遮光されており、全色のインクがインク流路内にあると判断する。この場合、インク残量検出動作は終了する。これに対して、AD入力ポートの少なくとも1つが閾値を下回る電圧レベルである場合には、いずれかのインクの残量が不足していると判断し、処理はステップS104に進み、残量が不足しているインクの特定処理に移る。
【0050】
この特定処理については、図6(b)に示すフローチャートを参照して説明する。
【0051】
ステップS103ではフォトセンサ全てのLEDを駆動しているので、出力が閾値以下のフォトセンサの特定処理では、出力が閾値以下と判定したADポートについて処理を行う。各ADポートからの出力にはOR接続となっている列方向グループに属する3つのフォトセンサからの出力が寄与しているので、列方向グループL1〜L3のどのセンサの出力が閾値以下となっているか判断がつかない。そこで、ここではグループL1から順次LEDを再度点灯させ、発光側のどのグループに接続されているフォトセンサが閾値以下のレベルを示しているかを特定する。
【0052】
まず、ステップS201では最初に発光駆動する列方向グループとしてグループL1を指定し、ステップS202でそのLEDを点灯させる。ステップS203では、ステップS103で出力が閾値以下となっていた全てのADポートからの出力を再取得する。次にステップS204に進み、今回の出力が閾値以下であるかどうかを調べる。
【0053】
ここで、その出力が閾値以下であったならば、処理はステップS205に進み、この時点で、閾値以下のフォトセンサ出力がある列方向グループが特定されるので、出力を取得したADポートの該当するセンサが閾値以下となっていることが特定される。
【0054】
例えば、全点灯した場合にADポートAD1が閾値以下を示していたとすると、フォトセンサ101、201、301の少なくとも一つのセンサが閾値以下のレベルを示している。次に列方向グループ毎にLEDを再度駆動し、各駆動時のAD1の出力を取得する。例えば、列方向グループL1を駆動しているときのみAD1が閾値以下を示したならば、センサ101は閾値以下を示していることが特定される。
【0055】
次にステップS206に進み、次に駆動すべき列方向グループを指定して、処理はステップS202に戻る。この動作を繰り返し、全ての列方向グループの駆動が終了したならば、マトリクスの全てのセンサについて、閾値以下のものの特定が終了したことになる。以上の処理によりインク残量検出動作を終了する。
【0056】
従って以上説明した実施例に従えば、インク残量を検出するために用いるフォトセンサをマトリクス構成とし、列方向グループでの分割駆動を行うことと行方向グループでの出力信号とを監視することにより出力の低下したフォトセンサを特定できる。これにより、簡単な構成と制御により、残量がなくなったインクを特定することが可能となる。
【0057】
なお、前述の実施例ではセンサマトリクスの列方向グループのフォトセンサの駆動を個別的に制御しなかったが、各フォトセンサのランク(発光側―受光側の伝達特性)が予め分かっている場合には各グループのPWM駆動時間(点灯時間)を可変としても良い。即ち、フォトセンサのランクばらつきを補正し、インク各色の残量の程度によってセンサが同等のレベルを出力するように、伝達特性の良くないセンサが含まれるグループを発光駆動する場合には、そのセンサに合わせて発光側の駆動時間を長くするのである。このようにすることで、伝達効率の低いフォトセンサを駆動する場合にも、十分な発光時間が確保されセンサが遮光されていない場合に十分なコレクタ電流が得られ、誤検出を防止することができる。
【0058】
また、コントローラが不揮発性メモリなどを用いて各インク毎の吐出履歴管理が可能である場合には、その履歴情報を用いて前述のセンサ特定処理でインク残量が多いと推定される色に対応するセンサから駆動する。これにより、LEDの点灯回数を削減することが可能である。仮に、インク残量の多い色に対応するセンサから駆動し、最初と2番目の列方向グループのLED点灯時にADポートが閾値以下でなかったら、最後のグループに対応するセンサがインクなしであることが分かる。また逆に明らかにインクの残量に差があり、インクなしとなっている色が推定できている場合には、その色に対応するセンサのみレベルを確認するために駆動することも可能である。このようにしてセンサ特定処理を短縮し、より速くインク残量の少ないインクを検出することができる。
【0059】
<他の実施例>
図7はインクの残量をフォトセンサで検出する別の実施例の構成について説明する図である。なお、図7において、図3を参照して説明したのと同じ構成要素については同じ参照番号を付し、その説明は省略する。
【0060】
図7と図3とを比較すると分かるように、この実施例によれば、フォトセンサ301が設けられた位置でインク流路M102は折れ曲がり、インクがアクチュエータM101に接する位置でインク流路M102に弾性体M103が設けられている。この弾性体は、例えば、ゴムのようなものでできている。そして、弾性体M103にアクチュエータM101が取り付けられる。
【0061】
従って、図7に示す構成では、インク流路内の圧力により、図7においては弾性体M103の膨張収縮に伴って、アクチュエータM101も上下方向に移動し、フォトセンサ301の発光部301Eから受光部301Rへの光を遮断する。これにより、インク有りを認識する。
【0062】
インク流路M102で加圧されたインクにより内圧が発生すると図7(a)に示すようにインク流路に設けられた弾性体M103が下向きの向きに動き(変形し)、アクチュエータM101がその動きに伴って下向きに移動する。もし、インクがインク流路内に存在しない場合には、インク流路上流でインクが加圧されてもインク流路M102内で空気が圧縮されるのみで、弾性体M103が押されることはない。従って、アクチュエータM101を下向きに移動させる力が発生しない。その結果、図7(b)に示すように、フォトセンサ301の光軸が遮光されないため、インクなしが認識される。
【0063】
なお、アクチュエータM101、フォトセンサ301も同様にインク色数分、即ち、インク流路の数分設けられており、インク色ごとに残量を検出できる構造となっている。
【0064】
また、この実施例では、フォトセンサとして透過型フォトインタラプタを用いて説明したが、フォトセンサとして反射型のフォトセンサを用いても良く、その構成については先に説明した実施例の通りである。
【0065】
次に、図8〜図9に示すフローチャートを参照して、インク残量有無検出動作の別の実施例について説明する。なお、図8において、既に図6を参照して説明したのと同じ処理ステップについては同じステップ参照番号を付し、その説明は省略する。
【0066】
ステップS101での処理の後、最大設定値で発光部301Eを駆動している状態で、ステップS101aでは、センサの安定度を考慮して100μ秒ウエイトする。その後、処理はステップS102’にすすみ、センサマトリクスからのポートAD1〜4のレベルを読み取ることにより、各フォトセンサの状態を確認する。
【0067】
ここで、ポートAD1〜4に入力されたアナログ信号からセンサレベルを決定する処理については、図9に示すフローチャートを参照して説明する。
【0068】
ステップS301では、取得するADポートに対応しているADC660内の10ビットレジスタの数値を取得する。ここではセンサの出力範囲0〜3.3Vに対して、ADCの基準電圧も3.3Vとしているので10ビットレジスタ値は0〜0x3ffの数値を示す。
【0069】
ステップS301で最初のレジスタ値を取得後、5ミリ秒タイマによる割り込み処理に同期して、5ミリ秒毎に同じレジスタの値の読み取りを行う。従って、ステップS302において、5回目のレジスタ値の取得を確認すると、処理はステップS303において、5個のレジスタ値の内の最大値と最小値を除く3個のレジスタ値の平均値を算出する。そして、ステップS304では算出された平均値をこのポートの入力値として確定する。以上のように、5回のレジスタ値の読み取り処理を行うので、1つのポートのAD値の確定には20ミリ秒程度の時間を要する。
【0070】
このように全てのADポートの入力値が確定したならば、処理はステップS103’に進む。ステップS103’では、ADポートの入力の中に予め定められた閾値以下のものがあるかどうかを調べる。ここで、全てのADポートの入力値が閾値よりも大きくプルアップ電圧Vccに近い値であれば、フォトセンサの受光部はOR接続されているので、全センサがアクチュエータで遮光されており、全色のインクがインク流路内にあると判断する。ここで、インク残量有無を判定する閾値は10ビットデジタル値で0x07fである。この場合、インク残量検出動作は終了する。
【0071】
これに対して、AD入力ポートの少なくとも1つが閾値(0x07f)を下回る場合には、いずれかのインクの残量が不足していると判断し、処理はステップS104に進み、残量が不足しているインクの特定処理に移る。
【0072】
この特定処理については、図8(b)に示すフローチャートを参照して説明する。
【0073】
前述したステップS201〜S202の処理後、ステップS202aでセンサ出力が安定するのを待ち合わせるために100μ秒ウェイトする。そのとき、ステップS102’の処理で閾値以下となっていた全てのADポートのレベルを再取得する。
【0074】
次にステップS204’では、今回のそのレベルが閾値以下であるかを調べる。ここで、インク残量有無を判定する閾値は10ビットデジタル値で0x07fである。以下、前述のようにステップS205〜S207の処理を実行する。
【0075】
従って以上説明した実施例に従えば、インク残量を検出するために用いるマトリクス構成フォトセンサにおいてその出力が安定するのを待ち合わせ、デジタル値に変換されたセンサ出力値を用いて出力の低下したフォトセンサを特定できる。これにより、より安定的に残量がなくなったインクを特定することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のインクそれぞれを収容する複数のインクタンクから前記複数のインクの数に対応した複数のインク流路を経て供給されたインクを用いて、記録ヘッドからインクを記録媒体に吐出することで記録を行う記録装置であって、
前記複数のインク流路それぞれに備えられ、前記複数のインク流路内のインクのありなしを検出する複数のセンサそれぞれがマトリクスの各要素となるように構成し、列方向にグループ化して構成される複数のセンサには共通のセンサ駆動信号が入力されるように前記列方向の複数のセンサを接続し、行方向にグループ化して構成される複数のセンサの各出力が共通の信号線を介して出力するように前記行方向の複数のセンサを接続したセンサマトリクスと、
前記列方向の複数のセンサに共通のセンサ駆動信号を出力する複数の出力ポートと、
前記行方向の複数のセンサの出力を入力する複数の入力ポートと、
前記複数の出力ポートからセンサ駆動信号を出力して前記センサマトリクスを構成する全てのセンサを駆動し、前記複数の入力ポートから得られるセンサ出力のいずれが予め定められた閾値以下であるかを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記予め定められた閾値以下であると判定されたセンサ出力があった入力ポートに接続された行方向の複数のセンサそれぞれに前記複数の出力ポートから順次、センサ駆動信号を出力して前記行方向の複数のセンサそれぞれを再度駆動し、該入力ポートから得られるセンサ出力のいずれが前記予め定められた閾値以下であるかを判定することにより、前記複数のインク流路のいずれでインクなしが検出されたのかを特定する特定手段とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記センサが備えられるインク流路は弾性体を備え、
前記センサは、
前記インク流路の側面に設けられ、前記インク流路内にインクがあるかないかに従って位置が変化するアクチュエータと、
光を発光する発光部と、
前記発光部からの光を受光する受光部とを含み、
前記アクチュエータは、前記インク流路内にインクがあるときには前記発光部から前記受光部への光を遮らず、前記インク流路内にインクがないときには前記発光部から前記受光部への光を遮るように、前記アクチュエータの位置は変化することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記センサは反射型或いは透過型のフォトセンサであることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記発光部はLEDであり、前記受光部はフォトトランジスタであり、
前記センサ駆動信号は前記LEDを駆動するためのPWM制御信号であることを特徴とする請求項2又は3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記複数のインクそれぞれによる前記記録ヘッドからのインクの吐出履歴を格納する不揮発性メモリをさらに有し、
前記特定手段は、前記不揮発性メモリに格納されたインクの吐出履歴の情報を用いてインク残量が多い或いはインク残量なしと推定されるインクを供給するインク流路に備えられたセンサから駆動するよう制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
複数のインクそれぞれを収容する複数のインクタンクから前記複数のインクの数に対応した複数のインク流路を経て供給されたインクを用いて、記録ヘッドからインクを記録媒体に吐出することで記録を行う記録装置におけるインク残量有無検出方法であって、
前記複数のインク流路には、前記複数のインク流路内のインクのありなしを検出する複数のセンサをそれぞれ備え、
前記複数のセンサそれぞれがマトリクスの各要素となるように構成し、列方向にグループ化して構成される複数のセンサには共通のセンサ駆動信号が入力されるように前記列方向の複数のセンサを接続し、行方向にグループ化して構成される複数のセンサの各出力が共通の信号線を介して出力するように前記行方向の複数のセンサを接続したセンサマトリクスを備え、
前記列方向の複数のセンサに共通のセンサ駆動信号を出力する複数の出力ポートからセンサ駆動信号を出力して前記センサマトリクスを構成する全てのセンサを駆動し、行方向の複数のセンサの出力を入力する複数の入力ポートから得られるセンサ出力のいずれが予め定められた閾値以下であるかを判定する判定工程と、
前記判定工程において前記予め定められた閾値以下であると判定されたセンサ出力があった入力ポートに接続された行方向の複数のセンサそれぞれに前記複数の出力ポートから順次、センサ駆動信号を出力して前記行方向の複数のセンサそれぞれを再度駆動し、該入力ポートから得られるセンサ出力のいずれが前記予め定められた閾値以下であるかを判定することにより、前記複数のインク流路のいずれでインクなしが検出されたのかを特定する特定工程とを有することを特徴とするインク残量有無検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−31987(P2013−31987A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222344(P2011−222344)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】