説明

記録装置及びそのヒータ制御方法

【課題】キャリッジに記録媒体加熱用のヒータを搭載した場合、簡単で安価な構成でクロストークノイズに対して耐性のある記録装置とそのヒータ制御方法とを提供する。
【解決手段】ヒータの電流をオンオフする切り替え制御と記録ヘッドへの記録ロジック信号の送信タイミングとを排他的にするよう制御する。加えて、記録ヘッドの温度センサからの温度信号の入力とヒータの電流をオンオフする切り替え制御とのタイミングとが排他的となるようにも制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置及びそのヒータ制御方法に関し、特に、キャリッジにヒータを搭載し、これヒータによってインクを定着させて、記録媒体に画像記録を行う記録装置及びそのヒータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、記録用紙等の記録媒体にインクジェット記録ヘッドに備えられた複数の記録素子(ヒータ)を加熱してインク液滴を吐出し、これを記録媒体にさせてドットを形成することで画像記録を行うインクジェット記録装置が広く普及している。
【0003】
更に最近ではサイン&ディスプレイ業界やCAD業界などをターゲットとした大判のインクジェット記録装置(以下、記録装置)の需要が増え、印刷サイズの拡大、インク色数の多様化などバリエーションに富んだ記録装置が求められている。特に、サイン&ディスプレイ業界向けの記録装置では印刷物が屋外で使用することも考慮し、インクの定着性がよく、様々な記録媒体に記録できるインクが使用される。
【0004】
例えば、溶剤系インクは、記録前の記録媒体を第1のヒータで加熱し、インクの浸透をよくしたり、また、その記録媒体上に付着したインクを第2のヒータで加熱してインクの定着性を向上するなどの工夫がなされている。
【0005】
UV系インクではそのインクが紫外線を照射したり、熱を加えると硬化する特性を生かし、第1のヒータで記録前の記録媒体を加熱し、その記録媒体にインクが付着した後は、紫外線と第2のヒータによる加熱でインクを定着させている。
【0006】
また、最近では記録媒体に付着したインクの水分を速やかに蒸発させるために、第1のヒータで記録媒体を加熱し、インク付着後に水分が蒸発後、第2のヒータでインクの内部成分を固め、定着させる水性ベースのインクを使用した記録装置も普及している。
【0007】
上記のようなインクは定着性に優れ、屋外でも問題なく印刷物を使用できるという特徴があるが、前述のように記録の前後に記録媒体をヒータで加熱する場合が多い。ヒータによる加熱は、例えば、プラテンに埋設したヒータで加熱する方法や、複数のヒータを本体の上面カバー内に搭載する方法などにより実現されている。
【0008】
しかしながら、上記の方法では記録領域全体にわたりヒータが必要であり、消費電力が大きいという問題がある。特に、本体上面カバー内にヒータを搭載する方法ではヒータから記録媒体までの距離が長いため、加熱効率が悪いという問題がある。
【0009】
これらの問題を解決するため、従来より、記録ヘッドを搭載するキャリッジユニットに小型のヒータを搭載し、省電力かつ高効率に記録媒体、或いは、吐出したインクを加熱する方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−272731号公報
【特許文献2】特開2005−096373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のようにキャリッジユニットにヒータを搭載した場合、記録データを生成し、記録装置全体を制御する第1の基板と記録ヘッドに接続される第2の基板との配線(例えば、FFC)とヒータ駆動のための配線は同一経路となる構成が望ましい。
【0012】
しかしながら、そのような構成を採用すると、ヒータ駆動には大電流が流れる一方、記録データは数ボルトのロジック信号が必要であるだけなので、ヒータ駆動に伴うクロストークノイズにより記録データの正当性が損なわれ、誤動作を起こす可能性がある。一方、クロストークノイズを避けるためにヒータ駆動配線とFFCを別経路にすると、構成が複雑になり、かつ装置コストの増大を招くという問題もある。
【0013】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、簡単で安価な構成でクロストークノイズに対して耐性のある記録装置とそのヒータ制御方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明の記録装置は、次のような構成からなる。
【0015】
即ち、インクジェット記録ヘッドを搭載したキャリッジを往復移動させながら、前記インクジェット記録ヘッドより記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録装置であって、前記キャリッジの往復移動の往路方向に関して前記キャリッジの前方に備えられた第1のヒータと、前記キャリッジの往復移動の往路方向に関して前記キャリッジの後方に備えられた第2のヒータと、前記往路方向に前記キャリッジを移動させて記録を行う際には、前記第1のヒータにより前記インクジェット記録ヘッドによるインクの吐出前に前記記録媒体を加熱し、インクの吐出後に前記第2のヒータにより前記インクの吐出により記録がなされた前記記録媒体を加熱する一方、前記往路方向と逆の復路方向に前記キャリッジを移動させて記録を行う際には、前記第2のヒータにより前記インクジェット記録ヘッドによるインクの吐出前に前記記録媒体を加熱し、インクの吐出後に前記第1のヒータにより前記インクの吐出により記録がなされた前記記録媒体を加熱するよう前記第1のヒータと前記第2のヒータの加熱を制御するとともに、前記インクジェット記録ヘッドへの記録ロジック信号の供給のタイミングと、前記第1のヒータと前記第2のヒータへの加熱のタイミングとが排他的であるように制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0016】
また他の発明によれば、インクジェット記録ヘッドを搭載したキャリッジを往復移動させながら、前記インクジェット記録ヘッドより記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録装置のヒータ制御方法であって、前記キャリッジの往復移動の往路方向に関して前記キャリッジの前方には、第1のヒータが備えられ、前記キャリッジの往復移動の往路方向に関して前記キャリッジの後方には第2のヒータが備えられ、前記往路方向に前記キャリッジを移動させて記録を行う際には、前記第1のヒータにより前記インクジェット記録ヘッドによるインクの吐出前に前記記録媒体を加熱し、インクの吐出後に前記第2のヒータにより前記インクの吐出により記録がなされた前記記録媒体を加熱するよう前記第1のヒータと前記第2のヒータの加熱を制御する工程と、前記往路方向と逆の復路方向に前記キャリッジを移動させて記録を行う際には、前記第2のヒータにより前記インクジェット記録ヘッドによるインクの吐出前に前記記録媒体を加熱し、インクの吐出後に前記第1のヒータにより前記インクの吐出により記録がなされた前記記録媒体を加熱するよう前記第1のヒータと前記第2のヒータの加熱を制御する工程とを有し、前記制御する工程において、前記インクジェット記録ヘッドへの記録ロジック信号の供給のタイミングと、前記第1のヒータと前記第2のヒータへの加熱のタイミングとが排他的であるように制御することを特徴とする記録装置のヒータ制御方法を備える。
【発明の効果】
【0017】
従って本発明によれば、ヒータ電流をオンオフして切り替えるタイミングと記録ロジック信号の送信タイミングとを排他的にしたため、ヒータ電流の切り替え制御時に発生するクロストークノイズが記録ロジック信号に影響を与えることはないという効果がある。これにより、記録装置が誤動作することを防止することができる。また、例えば、FFCとヒータ配線を別経路にしたり絶縁物を設けるなどの特別なノイズ対策も必要ないので、装置のコストダウンも図ることも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】キャリッジユニットの構成を示したブロック図である。
【図3】キャリッジのヒータ制御構成を示したブロック図である。
【図4】記録動作時にメイン基板からキャリッジを経て記録ヘッドに供給されるの信号の流れを示した図である。
【図5】記録動作時におけるヒータ切り替えに伴う記録ロジック信号へのクロストークノイズの重畳を示したタイミングチャートである。
【図6】本発明の実施例1に従うクロストークノイズの重畳を防止する構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例1に従う第1のヒータと第2のヒータの電流オンオフ制御構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施例1に従う記録ロジック信号とヒータ電流のオンオフ制御とを同期をとって発生させる様子を示すタイミングチャートである。
【図9】本発明の実施例2に従うヒータ電流のオンオフ制御とヘッド温度信号入力の排他制御を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、既に説明した部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0020】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、ビニール、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。
【0021】
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。このインクジェット記録装置(以下、記録装置)は、例えば、A0、B0などの大きなサイズの記録用紙に記録可能な所謂大判プリンタと呼ばれているものです。
【0022】
図1に示すキャリッジユニット(以下、キャリッジ)101はインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)107を搭載し、また、キャリッジ基板(不図示)を内蔵している。キャリッジ101は図1に示す矢印X方向(以下、主走査方向)に往復移動する。キャリッジ101には、記録装置の本体背面に配置されたメイン基板102からのFFC(フレキシブルフラットケーブル)103、及びFFC103の可動部を支持するキャタピラ106が固定されている。また、キャリッジ101のX方向左側(キャリッジ往路方向の前方)には第1のヒータ110が搭載され、第1のヒータ駆動用配線111はFFC103と同一経路に配線される。キャリッジ101のX方向右側(キャリッジ往路方向の後方)には、第2のヒータ112が搭載され、第2のヒータ駆動用配線113がFFC103に配線される。キャリッジ101より配線されたFFC103と第1のヒータ駆動用配線111及び第2のヒータ駆動用配線113はキャタピラ106によって支持されながら配線される。そして、メインステイ109上に設けられた折り曲げ部105により本体背面のメイン基板102及びヒータ切り替え基板114に接続される。
【0023】
ここではメイン基板102とヒータ切り替え基板114をと別の基板とした構成としたが、ヒータ切り替え基板114をメイン基板102に内蔵した構成であってもよい。また、キャリッジ101からの配線はキャタピラ106によって支持する構成としたが、配線がばたつかなければ、キャタピラ106のない構成であってもよい。また、第1のヒータ110と第2のヒータ112とは各々、複数のヒータで構成しても構わない。
【0024】
キャリッジ101の位置はリニアスケール108とキャリッジ101の背面上に搭載されたエンコーダ(不図示)により制御される。そして、キャリッジモータ(不図示)によってメインシャフト104上を図1のX方向に往復移動しながら記録ヘッド107よりインクを吐出し、記録媒体に記録を行う。
【0025】
ここでリニアスケール108とエンコーダによる位置制御について説明する。
【0026】
リニアスケール108は一定の間隔でスリットが設けられており、エンコーダはキャリッジ101の移動に伴って、このスリットを読み取ってエンコーダパルス信号を発生し、これをメイン基板102へと送信する。メイン基板102は送信されたエンコーダパルス信号をカウントし、主走査方向を右から左へ移動する場合(以下、往路方向)にはカウントアップ、左から右へ移動する場合(以下、復路方向)にはカウントダウンする。これによりキャリッジ101の物理的位置を特定し、その位置を電気的に制御する。
【0027】
図2はキャリッジ101の内部構成を示す拡大図である。次に、図2を参照してヒータ駆動と記録動作について説明する。
【0028】
前述のように、キャリッジ101には左右の両端に第1のヒータ110と第2のヒータ112が搭載されている。キャリッジ101が往路方向へ移動しながら記録を行う場合は第1のヒータ110が記録前(インク吐出前)の記録媒体を加熱する。加熱された記録媒体に対して記録ヘッド107よりインクを吐出して記録を行う。この記録により加熱された記録媒体に付着したインクの水分は速やかに自然に蒸発する。その後(インク吐出後)、第2のヒータ112により、水分が蒸発したインクを加熱して、これを記録媒体に固着させ、記録画像を定着させる。
【0029】
一方、キャリッジ101が復方向へ移動しながら記録を行う場合、往路方向の記録の場合と比べ各々のヒータの役割が逆となる。即ち、第2のヒータ112は記録前(インク吐出前)記録媒体を加熱し、加熱された記録媒体に対して記録ヘッド107よりインクを吐出して記録を行う。この記録により加熱された記録媒体に付着したインクの水分は速やかに自然に蒸発する。その後(インク吐出後)、第1のヒータ110により、水分が蒸発したインクを加熱して、これを記録媒体に固着させ、記録画像を定着させる。
【0030】
また、キャリッジ101には記録媒体の被記録面温度を測定するための2つの温度センサ201、202を内蔵している。これら2つのセンサにより得られた温度情報により被記録面が所望の温度になっているかを判断するため、得られた温度情報を後述するヒータ制御にフィードバックする。
【0031】
温度センサ201、202はキャリッジ101内のキャリッジ基板(不図示)により制御され、その測定値はFFC103を介してメイン基板102へと転送される。温度センサ201、202は非接触で記録媒体上の温度を測定できればその種類は問わないが、ここでは高速性、測定範囲の広さ、電流モードでの計測などを考慮し、赤外線の温度センサを用いている。
【0032】
図3は第1のヒータ110と第2のヒータ112の電流オンオフ制御方法について説明する図である。ここでは、ソリッドステートリレー(SW)301、302により、ヒータの電流のオンオフを行う。
【0033】
ソリッドステートリレー301、302は半導体により構成されたスイッチであり、機械的な接点がないため、構造的に接点寿命がないという特徴がある。ここでは頻繁に第1のヒータ110と第2のヒータ112の電流のオンオフを行うため、ソリッドステートリレー301及び302を使用する。
【0034】
なお、第1のヒータ110、第2のヒータ112の電流のオンオフを制御する素子に特に制限はなく、ソリッドステートリレー301、302ではなく機械的なリレーを用いても構わない。
【0035】
第1のヒータ110、第2のヒータ112の制御は、各々のヒータ温度、或いは、記録媒体の表面温度が一定になるようにヒータ切り替え基板114に設けられたヒータ制御回路305でヒータに供給される電流をオンオフすることで行う。具体的には、まず、メイン基板102内の温度比較回路303、304(第1の比較手段、第2の比較手段)で夫々、温度センサ201、202(第1の温度センサ、第2の温度センサ)により読み取られた温度と目標温度とを比較する。その後、ヒータ切り替え基板114のヒータ制御回路305に比較結果が送られ、温度が未達ならヒータ電流をオンする。また、温度が所定温度に達していればヒータ電流をオフとするようにソリッドステートリレー301、302に対する制御信号を送信する。このようにしてヒータに供給される電流を制御し、目標温度を保つようにソリッドステートリレー301、302をオンオフ制御し、第1のヒータ110と第2のヒータ112の制御を行う。
【0036】
次に、上記構成の記録装置とキャリッジの構成を用いたヒータ制御のいくつかの実施例について説明する。
【実施例1】
【0037】
この実施例で用いる第1のヒータ110と第2のヒータ112はいずれも光量立ち上がり時間が急峻なハロゲンヒータで構成する。その光量立ち上がり時間は200ミリ秒であるとすると、ヒータの電流オンオフ制御に必要な時間間隔は約500ミリ秒程度でよい。従って、この実施例では、500ミリ秒毎に温度センサ201、202によって検出された温度と目標温度とを比較し、第1のヒータ110、第2のヒータ112の電流をオンオフする制御を行えばよい。
【0038】
以下、記録動作に伴う各種信号を図4を用いて説明する。
【0039】
図4はメイン基板からキャリッジを経て記録ヘッドに供給される信号について示す図である。まず、電源系信号として、記録ヘッド107に対して記録ヘッド107内の記録素子に対応するヒータ抵抗(不図示)を加熱するためのVH電源401とヒータ抵抗を駆動するためのVHT電源402、ヘッドロジック電源VDD403を印加する。これらの電源電圧はメイン基板102或いはキャリッジ101内に搭載されたキャリッジ基板405で生成される。更に記録データ、クロック、ラッチ、ヒートパルスの4種の記録ロジック信号(LOGIC)404を記録ヘッドへ送信する。記録ロジック信号404はメイン基板102で生成され、FFC103を介して記録ヘッド107へ送信される。記録ヘッド107では記録ロジック信号404に基づいた特定ノズルからインクを吐出する。
【0040】
従来の記録制御ではヒータ抵抗の電流をオンオフする制御と記録ロジック信号404が非同期で制御されている。ヒータ抵抗にはその駆動時に数Aから数10Aの大電流が流れるため、周囲にとっては大きなノイズ源となる。一方、記録ロジック信号404は、例えば、3.3Vの低電圧である。そのため、ヒータ駆動と記録ロジック信号の供給とが非同期で制御されるとヒータ電流をオンオフするタイミングで、記録ロジック信号404にクロストークノイズが乗り、記録動作が誤動作となる可能性がある。
【0041】
図5は記録ロジック信号とヒータ電流のオンオフとが非同期に発生する様子を示すタイミングチャートである。例えば、図5の領域Aのように、記録ロジック信号の供給中に、ヒータ電流がオフからオンに切り替わるように制御されると、その切り替わりタイミングでクロストークノイズが記録ロジック信号に重畳する。
【0042】
そこで、この実施例では記録ロジック信号404とヒータ電流のオンオフ制御を排他的に制御する。具体的には、メイン基板102からキャリッジ基板405へと送信されるトリガ信号に同期してヒータ電流のオンオフ制御を行う構成とする。
【0043】
図6はクロストークノイズの重畳を防止する構成を示すブロック図である。
【0044】
図6に示すように、この実施例では、メイン基板102から、キャリッジ基板405内にあるヘッド温度取得IC(IC)602にA/Dトリガ信号601と呼ばれる信号が入力される。一方、記録ヘッド107に設けられたダイオードセンサ603からのアナログ温度信号604がヘッド温度取得IC602に入力される。このアナログ信号は、A/Dトリガ信号601によりラッチされ、メイン基板102へと送信される。
【0045】
このように、A/Dトリガ信号601は記録ヘッド107の温度取得のためのラッチ信号として作用するので、A/Dトリガ信号601が入力された瞬間には記録ヘッド107内温度は一定である必要がある。そのため、従来より、A/Dトリガ信号601と記録ロジック信号404は排他的に制御され、温度取得時に記録動作が発生しないよう制御されている。そこで、この実施例では、ヒータ電流のオンオフ制御をA/Dトリガ信号601に同期させ、記録ロジック信号404とヒータ制御の排他的制御を実現する。
【0046】
図7は実施例1に従う第1のヒータ110と第2のヒータ112の電流オンオフ制御構成を示すブロック図である。また、図8は記録ロジック信号とヒータ電流のオンオフとを同期をとって発生させる様子を示すタイミングチャートである。
【0047】
これらの図によれば、A/Dトリガ信号601がハイレベル(H)であるときにメイン基板102のASIC702より、ヒータ切り替え基板114のヒータ制御回路305にヒータ電流切り替えイネーブル信号701を送信する。ヒータ制御回路305では、このヒータ電流切り替えイネーブル信号701がハイレベル(H)であるときのみ、ヒータ電流のオンオフ制御が行えるようにマスクする。そのため、500ミリ秒毎のヒータ制御時にはこのヒータ電流切り替えイネーブル信号701がハイレベル(H)である時のみ、ヒータ電流のオンオフ切り替えを行う。
【0048】
記録ロジック信号404とヒータ電流のオンオフ切り替えは排他的に制御されるので、図8に示すようにヒータ電流のオンオフ切り替え時に対応する領域Bにおいて記録ロジック信号404にクロストークノイズが重畳しても記録動作に影響を与えることはない。従って、クロストークノイズによる誤記録が発生することがない。
【0049】
以上説明した実施例に従えば、記録ロジック信号とヒータ電流のオンオフ切り替えが排他的に制御される。このため、FFC103と第1のヒータ駆動用配線111や第2のヒータ駆動用配線113の配線についても絶縁物で区切るなどの処置は必要なく、低コストでヒータをキャリッジ101に搭載した構成を得ることができる。
【実施例2】
【0050】
実施例1ではヒータ電流のオンオフ制御と記録ヘッド107への記録ロジック信号の供給との排他制御をA/Dトリガ601信号を利用することで実現した。前述のようにA/Dトリガ601信号がハイレベル(H)の時には記録ヘッド107内のダイオードセンサ603からのアナログ温度信号604がラッチされる。ラッチされた信号はキャリッジ101からFFC103を介してメイン基板102へと転送される。そのため、アナログ温度信号604にヒータ電流のオンオフを切り替えた際のクロストークノイズが重畳すると、ヘッド温度を誤認識する可能性がある。
【0051】
実施例2では、この課題を解決するものである。なお、以下に示すこの実施例に特有の構成以外は実施例1と同様であり、その説明は省略する。
【0052】
A/Dトリガ信号601はキャリッジ101の移動速度や記録解像度にも依存するが、約500μ秒毎にハイレベル(H)となる。これに対し、ヒータ電流の切り替え制御は約500ミリ秒周期で実行される。つまり、A/Dトリガ信号601の周期は、ヒータ電流の切り替え制御の周期より短く、A/Dトリガ信号601が1000回発生すると、ヒータ電流の切り替え制御が一度発生することになる。
【0053】
この実施例では、ヒータ電流のオンオフ切り替え制御を行う場合に、アナログ温度信号604のラッチを行わないようにマスクをかける。前述のようにアナログ温度信号604のラッチ回数はヒータ制御回数に対して1000倍であるので、ヒータ制御時にラッチをやめてもヘッド温度の制御には問題ない。
【0054】
図9は実施例2に従う記録ロジック信号とヒータ電流のオンオフとを同期をとって発生させる様子を示すタイミングチャートである。このタイミングチャートによれば、A/Dトリガ信号601とヒータ電流切り替え信号がともに変化した時にマスク信号901をイネーブルにする。この信号は次に記録ヘッドへの供給クロックがハイレベル(H)となったタイミングでディスエーブルになるよう構成する。
【0055】
図9の斜線部は先述したマスク領域902であり、マスク領域902ではアナログ温度信号604のラッチは行わない。
【0056】
従って以上説明した実施例に従えば、アナログ温度信号の入力とヒータ電流のオンオフ切り替え制御も排他制御されるので、たとえアナログ温度信号にヒータ制御に伴うクロストークノイズが重畳したとしても、記録ヘッド107の温度を誤検知することはない。
【実施例3】
【0057】
実施例1、2では、メイン基板102からキャリッジ基板405へFFC103を介して送受信する信号のうち、送受信頻度が高くヒータ電流のオンオフ切り替え制御との排他制御が容易ではない信号についての排他制御方法について説明した。
【0058】
ここで、FFC103を通過する信号には上記の他にも存在する。例えば、ヘッド温度を取得するヘッド温度取得IC602を制御するデジタル信号や、記録ヘッド107のEEPROMと通信するI2C信号、或いはキャリッジ101に搭載された光学センサの駆動信号及び出力信号などである。このような信号にもクロストークノイズが重畳する可能性もある。
【0059】
この実施例ではこの課題を解決するものである。
【0060】
実施例3の構成は実施例1、2と同じである。前述のデジタル信号やアナログ信号は通信頻度が少なくので、送受信のタイミングを多少ずらしても問題はない。そのため、実施例2で使用したマスク信号901を利用し、マスク信号901がイネーブルである間は送受信を抑止するようシーケンス制御する。
【0061】
これにより、特に制御構成を追加することなく、ヘッド温度取得IC602を制御するデジタル信号や記録ヘッド107のEEPROMと通信するI2C信号、光学センサの駆動信号や出力信号についてもヒータ電流のオンオフ切り替え制御と排他的にできる。
【0062】
以上説明した実施例1〜3によれば、FFC103を介して送受信するデジタル信号やアナログ信号は全てヒータ電流のオンオフ切り替え制御と排他的に制御することができるので、ヒータ制御に伴うクロストークノイズによる記録動作の誤動作を防止できる。
【0063】
また、FFC103と第1のヒータ駆動用配線111及び第2のヒータ駆動用配線113の配線に特別にコストが発生する絶縁物の配設や配線方法を導入することもないので、コスト削減にも資する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録ヘッドを搭載したキャリッジを往復移動させながら、前記インクジェット記録ヘッドより記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録装置であって、
前記キャリッジの往復移動の往路方向に関して前記キャリッジの前方に備えられた第1のヒータと、
前記キャリッジの往復移動の往路方向に関して前記キャリッジの後方に備えられた第2のヒータと、
前記往路方向に前記キャリッジを移動させて記録を行う際には、前記第1のヒータにより前記インクジェット記録ヘッドによるインクの吐出前に前記記録媒体を加熱し、インクの吐出後に前記第2のヒータにより前記インクの吐出により記録がなされた前記記録媒体を加熱する一方、前記往路方向と逆の復路方向に前記キャリッジを移動させて記録を行う際には、前記第2のヒータにより前記インクジェット記録ヘッドによるインクの吐出前に前記記録媒体を加熱し、インクの吐出後に前記第1のヒータにより前記インクの吐出により記録がなされた前記記録媒体を加熱するよう前記第1のヒータと前記第2のヒータの加熱を制御するとともに、前記インクジェット記録ヘッドへの記録ロジック信号の供給のタイミングと、前記第1のヒータと前記第2のヒータへの加熱のタイミングとが排他的であるように制御する制御手段とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記インクジェット記録ヘッドは温度センサを備え、
前記制御手段は、前記温度センサからの温度信号をラッチするためのラッチ信号と前記第1のヒータと前記第2のヒータへの加熱のタイミングとを同期させるよう制御することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記制御手段はさらに、前記温度センサからの温度信号の入力と前記第1のヒータと前記第2のヒータへの加熱のタイミングとが排他的であるように制御することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記温度センサからの温度信号をラッチする周期は、前記第1のヒータと前記第2のヒータへの加熱を行う周期より短く、
前記制御手段はさらに、前記第1のヒータと前記第2のヒータへの加熱を行う際には、前記温度センサからの温度信号のラッチをマスクすることを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記温度信号のラッチをマスクするためのマスク信号がイネーブルにあるときは、前記温度信号の取得を制御するデジタル信号や、前記インクジェット記録ヘッドに備えられたEEPROMと通信するI2C信号や、前記キャリッジに搭載された光学センサの駆動信号及び出力信号の送受信を抑止するよう制御することを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記キャリッジは、
前記第1のヒータの温度を測定する第1の温度センサと、
前記第2のヒータの温度を測定する第2の温度センサとを備え、
予め定められた周期で前記第1の温度センサにより検出された温度と目標温度とを比較する第1の比較手段と、
前記予め定められた周期で前記第2の温度センサにより検出された温度と目標温度とを比較する第2の比較手段とをさらに有し、
前記制御手段は、前記第1の比較手段及び前記第2の比較手段により、前記検出された温度が前記目標温度に達していない場合、該当するヒータによる加熱を行うよう制御することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
インクジェット記録ヘッドを搭載したキャリッジを往復移動させながら、前記インクジェット記録ヘッドより記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録装置のヒータ制御方法であって、
前記キャリッジの往復移動の往路方向に関して前記キャリッジの前方には、第1のヒータが備えられ、前記キャリッジの往復移動の往路方向に関して前記キャリッジの後方には第2のヒータが備えられ、
前記往路方向に前記キャリッジを移動させて記録を行う際には、前記第1のヒータにより前記インクジェット記録ヘッドによるインクの吐出前に前記記録媒体を加熱し、インクの吐出後に前記第2のヒータにより前記インクの吐出により記録がなされた前記記録媒体を加熱するよう前記第1のヒータと前記第2のヒータの加熱を制御する工程と、
前記往路方向と逆の復路方向に前記キャリッジを移動させて記録を行う際には、前記第2のヒータにより前記インクジェット記録ヘッドによるインクの吐出前に前記記録媒体を加熱し、インクの吐出後に前記第1のヒータにより前記インクの吐出により記録がなされた前記記録媒体を加熱するよう前記第1のヒータと前記第2のヒータの加熱を制御する工程とを有し、
前記制御する工程において、前記インクジェット記録ヘッドへの記録ロジック信号の供給のタイミングと、前記第1のヒータと前記第2のヒータへの加熱のタイミングとが排他的であるように制御することを特徴とする記録装置のヒータ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−82098(P2013−82098A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222345(P2011−222345)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】