説明

記録装置及びロール紙搬送の制御方法

【課題】搬送ロール紙の変動に十分に追従しロール紙に常に適切なバックテンションを与えることである。
【解決手段】用紙がロール状に巻かれたロール紙を給紙モータにより給紙し、その給紙されたロール紙の端部を挟みロール紙を搬送する搬送ローラによりロール紙を間欠搬送して記録を行なう記録装置は次の構成を備える。即ち、ロール紙を給紙後も給紙モータをPWM駆動し、ロール紙にバックテンションをかけるよう制御する。つまり、給紙モータに供給される電流を検出し、その検出電流とロール紙の間欠搬送に従って給紙モータに与えられる目標電流値とを比較し、該比較結果をフィードバック信号として出力する。そこで、前記制御では、ロール紙が定常状態にあるならPWM制御信号のデューティ比を第1の補正値を用いて変更し、ロール紙が過渡状態にあるならPWM制御信号のデューティ比を第1の補正時間より大きい第2の補正時間を用いて変更するよう制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置及びロール紙搬送の制御方法に関する。本発明は、特に、例えば、DCモータのような給紙モータを駆動してロール紙の搬送制御を行なう記録装置及びその装置におけるロール紙の搬送制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、記録装置における記録媒体の搬送駆動源としてDCモータを用いる場合に、例えば、特許文献1に開示されているようなDCモータ制御方法が用いられている。その制御方法によれば、位置・速度変化リミッタによって位置推定値及び速度推定値の変化量に制限を加えるようにすることで制御の安定性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−130893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来例のようなDCモータ制御では次のような問題があった。
【0005】
即ち、急激な負荷変動が発生した場合にDCモータに供給される電流値が大きく変化するが、その急峻な変化を避けて、安定動作を行うよう制御しているために応答速度に遅れが生じる。
【0006】
例えば、給紙モータによりロール紙を給紙して、記録装置内の搬送ローラによりその先端部を挟み、そのロール紙を間欠搬送しながら記録を行なう場合に、ロール紙は停止→加速→定速搬送→減速→停止の動作を繰り返す。ロール紙を負荷と考えると、その負荷は搬送動作の進行に伴って変動を繰り返す。このような記録装置では、高品位な記録を実現するために、ロール紙と搬送ローラとの間には常に一定の張力を与え、ロール紙が弛まないようにすることが重要である。このため、ロール紙の搬送方向とは逆方向にロール紙にバックテンションをかける制御を行なっている。
【0007】
このバックテンションをかけるための動力源としては給紙モータが用いられる。さて、給紙モータにDCモータが用いられる場合、このDCモータはロール紙の搬送状況に合わせて駆動し、常に一定のバックテンションがロール紙に与えられるように制御する必要がある。しかしながら、従来のDCモータによる駆動制御では、停止→加速→定速搬送→減速→停止の動作を繰り返すロール紙の変化に十分に追従できず、その応答が遅くなってしまう。このため、適切なバックテンションを常にロール紙に与えることが難しいという問題があった。
【0008】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、搬送されるロール紙の変動に十分に追従してそのロール紙に常に適切なバックテンションを与えることが可能な記録装置とその装置のロール紙搬送の制御方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明の記録装置は、次のような構成からなる。
【0010】
即ち、用紙がロール状に巻かれたロール紙を給紙モータにより回転させて給紙し、前記給紙された前記ロール紙の端部を挟み前記ロール紙を搬送する搬送ローラを回転させることにより、前記給紙したロール紙を間欠搬送して記録を行なう記録装置であって、前記給紙モータをPWM制御信号を用いてPWM駆動する駆動手段と、前記ロール紙を給紙の後も前記駆動手段を制御して前記給紙モータを駆動し、前記ロール紙にバックテンションをかけるよう制御する制御手段と、前記給紙モータに供給される電流を検出する検出手段と、前記検出手段により検出される電流と前記ロール紙の間欠搬送に従って前記給紙モータに与えられる目標電流値とを比較し、該比較結果をフィードバック信号として前記制御手段に出力する比較手段とを有し、前記制御手段は、前記フィードバック信号により前記ロール紙が定常状態にあると判定される場合には、前記PWM制御信号のデューティ比を第1の補正時間を用いて変更し、前記フィードバック信号により前記ロール紙が過渡状態にあると判定される場合には、前記PWM制御信号のデューティ比を前記第1の補正時間より大きい第2の補正時間を用いて変更するよう制御することを特徴とする。
【0011】
また他の発明によれば、用紙がロール状に巻かれたロール紙を給紙モータにより回転させて給紙し、前記給紙された前記ロール紙の端部を挟み前記ロール紙を搬送する搬送ローラを回転させることにより、前記給紙したロール紙を間欠搬送して記録を行なう記録装置のロール紙搬送の制御方法であって、前記給紙モータをPWM制御信号を用いてPWM駆動する駆動工程と、前記ロール紙を給紙の後も前記駆動工程を制御して前記給紙モータを駆動し、前記ロール紙にバックテンションをかけるよう制御する制御工程と、前記給紙モータに供給される電流を検出する検出工程と、前記検出される電流と前記ロール紙の間欠搬送に従って前記給紙モータに与えられる目標電流値とを比較し、該比較結果をフィードバック信号として前記制御工程に与える比較工程とを有し、前記制御工程では、前記フィードバック信号により前記ロール紙が定常状態にあると判定される場合には、前記PWM制御信号のデューティ比を第1の補正時間を用いて変更し、前記フィードバック信号により前記ロール紙が過渡状態にあると判定される場合には、前記PWM制御信号のデューティ比を前記第1の補正時間より大きい第2の補正時間を用いて変更するよう制御することを特徴とするロール紙の搬送制御方法を備える。
【発明の効果】
【0012】
従って本発明によれば、ロール紙の間欠搬送において、ロール紙が定常状態にあっても過渡状態にあってもPWM制御信号のデューティ比を適切に変更して、ロール紙にバックテンションをかけることができるという効果がある。特に、過度状態では、より大きな補正時間を与えることで、ロール紙の状態変化に対して速やかに追従でき、常に適切なバックテンションをかけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1におけるロール紙のスプール部の構成を示した斜視図である。
【図3】図1に示したロール紙の給紙機構を備えた記録装置の概略構成を示す側断面図である。
【図4】ロール紙搬送機構の構成を模式的に示す上面図である。
【図5】ロール紙搬送機構のLFローラとロール紙で発生するトルク、及び、搬送速度等の関係を示す図である。
【図6】図1に示す記録装置の特に給紙モータのバックテンション印加制御に関連した制御部の構成を示すブロック図である。
【図7】図6に示すコントローラの詳細な構成を示すブロック図である。
【図8】給紙モータの駆動制御に関わる信号のタイミングチャートである。
【図9】コントローラに含まれるメモリに格納されたデータの遷移を示す図である。
【図10】PWM制御信号の決定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、既に説明した部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0015】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0016】
図1は本発明の代表的な実施例であるロール紙の給紙機構を備えたインクジェット記録装置(以下、記録装置)の概略構成を示す斜視図である。図2は、図1におけるロール紙のスプール部の構成を示した斜視図である。図3は、図1に示したロール紙の給紙機構を備えた記録装置の概略構成を示す側断面図である。
【0017】
まず、記録媒体であるロール紙のセット操作について説明する。
【0018】
この実施例では記録媒体として、ロール状に巻かれた連続紙であるロール紙Rが用いられる。図2に示す斜視図のように、ロール紙Rは、巻き中心にある紙管Sにスプールシャフト32を貫通させる。スプールシャフト32上に配置された基準側ロール紙ホルダ30の装填部28が紙管Sの内壁に対して半径方向への弾性力によって食い込むことで固定保持される。尚、基準側ロール紙ホルダ30はスプールシャフト32に関して回転しないように固定されている。
【0019】
さらに、ロール紙Rを挟み込むように、基準側ロール紙ホルダ30の反対側から非基準側ロール紙ホルダ31をスプールシャフト32に通して、紙管Sにセットする。尚、非基準側ロール紙ホルダ31にも装填部29があり、半径方向への弾性力を伴って紙管Sに対して固定保持される。そして、図1に示すようにスプールシャフト32の両端を記録装置の本体部1で回動自在に支持することによって、ロール紙Rも回動自在に保持される。以下の説明では、ロール紙Rの先端部をRpとして説明する。
【0020】
次に、給紙動作について説明する。
【0021】
図3に示す位置にセットされたロール紙Rの先端部Rpは、ユーザによって搬送口2へと導かれる。そして、ユーザがロール紙Rを半時計回転(CCW)方向へと回転させることで、ロール紙Rの先端部Rpは搬送路を通って下流へと送られていく。搬送路の途中には、反射型の用紙検知センサが設けられており、ロール紙Rの先端部Rpの通過を検知すると、搬送ローラ(LFローラ)9は、搬送モータ(LFモータ)8により用紙搬送方向であるCCW方向に回転を開始する。
【0022】
引き続きユーザによって下流へと送られたロール紙Rの先端部Rpは、LFローラ対9、10のニップ部まで到達し、用紙はLFローラ対9、10に挟まれた状態でプラテン19上へと搬送される。この際、キャリッジ12に搭載された端部検知センサ42によって用紙の通紙検知が行われ、確実に用紙がプラテン上まで届いていることを確認する。尚、以降の動作では、LFローラ対9、10によって自動で用紙搬送が行われるので、この時点でユーザは手をロール紙から離すことになる。
【0023】
続いて、プラテン19まで搬送されたロール紙Rに対する画像形成について説明する。
【0024】
記録装置の本体部1には、図1において破線3によって囲まれた画像記録部が備えられている。画像記録部3はインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)11と、記録ヘッド11を載置するキャリッジ12と、記録ヘッド11に対向して設けられたプラテン19とによって構成されている。
【0025】
記録ヘッド11は記録面に対向した面において、ロール紙の搬送方向に複数のノズル列(不図示)を備え、ノズル列ごとに異なる色のインクを吐出する。尚、記録ヘッド11には各色のノズルに対して各々のインク供給チューブ13を介してインクタンク14より各色のインクが供給される。また、キャリッジ12は、本体部1のフレーム15に両端部が固定され互いに平行に配置されたガイドシャフト16とガイドレール(不図示)に沿って摺動可能に支持されている。
【0026】
そして、画像記録部3まで搬送されたロール紙に向け、キャリッジ12を往復移動させながら記録ヘッド11よりインクを吐出することにより、ロール紙に画像が記録される。キャリッジ12の往路走査または復路走査による1ライン分の走査により画像を記録すると、ロール紙をLFローラ対9、10により搬送方向に所定ピッチだけ搬送し、キャリッジ12を再び移動させて次のラインの画像記録を行う。このようにロール紙の間欠搬送を繰り返してロール紙に対して1頁分の画像を記録し、記録の終了した部分は排紙トレイ22へとに搬送される。そして、画像記録が終了すると、ロール紙はLFローラ対9、10により所定の切断位置まで搬送され、カッタ21によって切断される。
【0027】
以上がロール紙のセットから排紙までの一連の流れである。
【0028】
図4は、ロール紙搬送機構の構成を模式的に示す上面図である。ロール紙搬送機構にはロール紙Rに駆動力を付与する給紙モータ34、給紙モータ34の駆動力をスプールシャフト32に伝達するギア列35〜37、給紙エンコーダ38を備える。この構成により、スプールシャフト32が回転することでロール紙Rも回転し、用紙がLFローラ対9、10へ送られる。
【0029】
図5はロール紙搬送機構のLFローラ9、ロール紙Rでの発生するトルク、及び、搬送速度等の関係を示す図である。図5では、LFローラ9の駆動トルクをTlf、ロール紙Rの駆動トルクをTroll、LFローラ9とロール紙Rとの間の用紙にかかるトルクをTpap、LFローラの搬送速度をVlf、ロール紙搬送速度をVroll、用紙搬送速度をVpapとして表わす。なお、LFローラの搬送速度Vlfとロール紙Rの搬送速度Vrollとは、円周上の速度である。ロール紙Rの駆動トルクTrollは、ロール紙Rの量が多いほど大きく、ロール紙の巻き量が少なくなるほど小さくなる。
【0030】
さらに、回転系の力となるトルク、Tlf、Trollの回転方向は図中、矢印CCW、CWであらわした方向となる。Tpap、Vlf、Vroll、Vpapについては図中矢印の方向が正値となる。以下説明する波形図の力関係においては、図5に示した方向を基準として説明する。
【0031】
なお、この記録装置では、ロール紙Rの先端がLFローラ対9、10により挟まれて搬送モータ8の駆動力により搬送される場合、給紙モータ34はCW(時計回り)方向に回転して、ロール紙にバックテンションをかける。これによりLFローラ9とスプールシャフト32との間のロール紙Rにはロール紙の搬送方向とは反対方向にトルクTpapがかかることになる。これにより、記録時にロール紙Rには一定の張力が与えられる。
【0032】
図6は図1に示す記録装置の特に給紙モータのバックテンション印加制御に関連した制御部の構成を示すブロック図である。
【0033】
この実施例では前述のように、DCモータである給紙モータ34がロール紙Rにバックテンションをかけるための駆動源として動作する。
【0034】
給紙モータ34はPWM発生回路201によって生成されたPWM制御信号によって駆動制御される。このとき、Hブリッジドライバ202を介し給紙モータ34に供給する電流の方向を変え、正転/逆転の比率によって給紙モータ34(DCモータ)の回転方向を制御する。DCモータはトルクと電流が比例関係になる為、電流を検出しフィードバックすることで目標トルクへと制御できる。
【0035】
図6に示すように、電流検出用抵抗203と差動アンプ205によって検出した電圧と目標電流に換算した電圧値とをコンパレータ206によって比較し、その比較結果をコントローラ200にフィードバック信号(FB)として供給する。ここで、目標電流値に換算した電圧値はD/Aコンバータ204により与えられる。
【0036】
図7はコントローラ200の詳細な構成を示すブロック図である。
【0037】
コントローラ200において、カウンタ401は原振クロック(不図示)の周期を時間分解能にして、PWM制御信号1周期中にフィードバック信号(FB)がLowの場合はカウントダウンし、Highの場合はカウントアップする。このようにしてカウンタ401によりカウントされた結果は電流検出期間(後述)の終了後メモリ400に書き込まれる。負荷変動判定回路402はカウンタ401にてカウントされた直近のカウントアップ/ダウン結果と、メモリ400に格納された値によって、後述する方法によりPWM制御回路403を制御する。従って、フィードバック信号(FB)そのものはHigh或いはLowの値を表現するのみであるが、PWM制御信号1周期中に何度もHigh/Lowの判断がなされ、その度にカウントのアップダウンが生じる。このため結果として得られるカウント値(CNT)は、ゼロ、正或いは負の何らかの整数値をもつ。
【0038】
PWM制御回路403はPWM発生回路制御信号(PWMCNTL)を出力し、PWM発生回路201を制御する。なお、フィードバック制御動作開始前にPWM制御回路403へPWMの初期デューティ値(Duty)を設定する。
【0039】
図8は、PWM発生回路201から出力されるPWM制御信号と前述のフィードバック信号との関係を示すタイミングチャートである。
【0040】
コントローラ200は図8に示すように、PWM制御信号1周期以下の任意の長さに設定された電流検出期間(PIDETECT)に計測したフィードバック信号(FB)に基づいて、次の周期のPWM制御信号を決定する。フィードバック信号は定常状態においては正負を繰り返し、過渡状態においては制御方向に偏るという結果が実験により得られている。
【0041】
図8に示す例では、フィードバック信号(FB)により次のPWM制御信号の周期でPWM制御信号のHighの時間が長くなっていることが示されている。PWM制御信号のHighの時間とLowの時間との比、或いは、PWM制御信号1周期の内、Highの占める時間の割合をデューティ比として定義するので、この実施例では、次のPWM制御信号の周期でそのデューティ比を変更しているのである。
【0042】
図9はメモリに格納されたデータの遷移を示す図である。
【0043】
図9(a)にはメモリ400の初期状態が、図9(b)にはPWM制御信号1周期の電流を計測し、1回目の測定結果が書き込まれたメモリ400の状態を示されている。同様に図9(c)〜図9(f)には2〜5回目の測定結果が書き込まれたメモリ400の状態が示されている。なお、図9において、addressは16進表現のメモリアドレスをdataはそのアドレスに対応した格納データを示している。この格納データはカウント値という。
【0044】
次に、以上の構成の記録装置において、給紙モータ34をPWM駆動してロール紙Rにバックテンションを与えるためのPWM制御信号を決定する処理について説明する。
【0045】
図10はPWM制御信号の決定処理を示すフローチャートである。なお、図10において、T1は負荷が定常状態にある場合に使用する補正時間で、T2は負荷が過渡状態にある場合に使用する補正時間となっている。そして、T1とT2はT1<T2の関係がある。T1を第1の補正時間、T2を第2の補正時間という。また、所定回数は4回として説明するが、他の値が用いられても良いことは言うまでもない。
【0046】
まず、ステップS1では、メモリに格納されたカウント値(CNT)の履歴からフィードバック信号(FB)の値が所定回数(PWM制御信号の所定周期)続けて正の値、或いは、負の値となっているかどうかを調べる。正負いずれかの値が続くことはフィードバック制御が、例えば、給紙モータの正転、或いは、逆転のいずれかに偏っていることを示している。給紙モータの正転と逆転とが適度に反転するなら、負荷の状態は正常状態にあるといえ、給紙モータの正転或いは逆転のいずれかだけが続くなら、負荷の状態は過渡状態にあるといえる。
【0047】
ロール紙を間欠搬送しながら記録を行なう場合、ロール紙は停止→加速→定速搬送→減速→停止の動作を繰り返す。ロール紙を負荷と考えると、その負荷は搬送動作の進行に伴って変動を繰り返す。この場合、ロール紙が定速搬送されているとき或いは停止状態にあるときは、負荷は定常状態にあるといえ、ロール紙が加速搬送或いは減速搬送されているときは、負荷は過渡状態にあるといえる。
【0048】
ここで、カウント値(CNT)が所定回数続けて正の値、或いは、負の値となっていないなら(負荷は正常状態)、処理はステップS2に進む。1回目の測定後であれば、測定回数そのものが4回未満なので、処理はステップS2に進む。これに対して、カウント(CNT)が所定回数続けて正の値、或いは、負の値となっているなら(負荷は過渡状態)、処理はステップS3に進む。
【0049】
さて、処理はステップS2において、補正時間TをT1に設定し、一方、ステップS3では、補正時間TをT2に設定し、その後、処理はステップS4へ進む。ステップS4では、メモリのカウント値(CNT)が“0”であるかどうかを調べる。例えば、図9(a)に示すように、1回目の測定後、メモリに格納されたカウント値は“−7”となっている。ここで、CNT=“0”であれば処理はステップS8に進み、CNT≠“0”であれば処理はステップS5に進む。ステップS8ではフィードバック制御に関する何の処理も実行しない。
【0050】
ステップS5ではさらに、CNT<0であるかどうかを調べる。ここで、CNT<0であれば処理はステップS7へ進み、CNT>0であれば処理はステップS6に進む。例えば、1回目の測定後は、CNT=−7なので、処理はステップS7に進む。そして、ステップS6ではPWM制御信号のHighの時間を補正時間Tだけ短くし、ステップS7ではPWM制御信号のHighの時間を補正時間Tだけ長くする。例えば、図8に示す例では、フィードバック信号(FB)により次のPWM制御信号の周期でPWM制御信号のHighの時間が長くなっていることが示されている。
【0051】
例えば、1回目の測定後は、T=T1なので、PWM制御信号のHighの時間を1周期前の値からT1だけ長くする。2回目の測定後も同様に、T=T1であり、図9(c)に示されているようにPWM周期1つ前のカウント値はCNT=19なので、PWM制御信号のHighの時間を1周期前の値からT1だけ長くする。3、4回目の測定後も同様に定常状態でのPWM制御を行っている。定常状態では補正値の小さい値T1を次のPWM制御値への補正値として用いることで安定性を保っている(図9(d)〜(e)参照)。
【0052】
さて、図9(f)に示されるように、カウント値が所定回数(ここでは4回)正の値が続いた場合、即ち、負荷が過渡状態時にある場合には、5回目の測定後、補正時間TをT2に設定する。図9(f)の場合、CNT>0なので、PWM制御信号のHighの時間を1周期前の値からT2だけ短くする。
【0053】
従って以上説明した実施例に従えば、フィードバック値が片方の符号に寄って変化しない場合、フィードバック制御が負荷の変化に十分に追従していないと判断し、定常状態よりも大きな補正値を用いることができる。例えば、T2=4×T1とすると、4倍速く追従することができる。
【0054】
なお、上記実施例では、フィードバック値が所定回数続けて正或いは負であるかどうかを判断したが、所定回数の代わりに、フィードバック値の合計の絶対値が所定の値を超えるかどうかの判断をしてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙がロール状に巻かれたロール紙を給紙モータにより回転させて給紙し、前記給紙された前記ロール紙の端部を挟み前記ロール紙を搬送する搬送ローラを回転させることにより、前記給紙したロール紙を間欠搬送して記録を行なう記録装置であって、
前記給紙モータをPWM制御信号を用いてPWM駆動する駆動手段と、
前記ロール紙を給紙の後も前記駆動手段を制御して前記給紙モータを駆動し、前記ロール紙にバックテンションをかけるよう制御する制御手段と、
前記給紙モータに供給される電流を検出する検出手段と、
前記検出手段により検出される電流と前記ロール紙の間欠搬送に従って前記給紙モータに与えられる目標電流値とを比較し、該比較結果をフィードバック信号として前記制御手段に出力する比較手段とを有し、
前記制御手段は、前記フィードバック信号により前記ロール紙が定常状態にあると判定される場合には、前記PWM制御信号のデューティ比を第1の補正時間を用いて変更し、前記フィードバック信号により前記ロール紙が過渡状態にあると判定される場合には、前記PWM制御信号のデューティ比を前記第1の補正時間より大きい第2の補正時間を用いて変更するよう制御することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
PWM制御信号1周期にあたる時間にわたって得られた前記フィードバック信号の正負を、予め定められた時間分解能に従って、カウントするカウンタと、
前記カウンタによってカウントされたカウント値を、PWM制御信号の所定周期にわたって格納するメモリと、
前記メモリに格納されたカウント値が前記所定周期にわたって続いて、正の値、或いは、負の値となっているかどうかを調べ、前記カウント値が前記所定周期にわたって続いて、正の値、或いは、負の値となっているなら前記ロール紙が過渡状態にあると判定し、前記カウント値が前記所定周期にわたって続いて、正の値、或いは、負の値となっていないなら、前記ロール紙は定常状態にあると判定することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記給紙モータは、DCモータであることを特徴とする請求項1又は2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記過渡状態とは、前記ロール紙の間欠搬送において、前記ロール紙が加速搬送或いは減速搬送されている状態であり、
前記定常状態とは、前記ロール紙の間欠搬送において、前記ロール紙が定速搬送されている状態、或いは、停止している状態であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記比較手段は、前記PWM制御信号の周期ごとに、前記周期より短い時間に前記比較と前記フィードバック信号の出力を行なうことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
用紙がロール状に巻かれたロール紙を給紙モータにより回転させて給紙し、前記給紙された前記ロール紙の端部を挟み前記ロール紙を搬送する搬送ローラを回転させることにより、前記給紙したロール紙を間欠搬送して記録を行なう記録装置のロール紙搬送の制御方法であって、
前記給紙モータをPWM制御信号を用いてPWM駆動する駆動工程と、
前記ロール紙を給紙の後も前記駆動工程を制御して前記給紙モータを駆動し、前記ロール紙にバックテンションをかけるよう制御する制御工程と、
前記給紙モータに供給される電流を検出する検出工程と、
前記検出される電流と前記ロール紙の間欠搬送に従って前記給紙モータに与えられる目標電流値とを比較し、該比較結果をフィードバック信号として前記制御工程に与える比較工程とを有し、
前記制御工程では、前記フィードバック信号により前記ロール紙が定常状態にあると判定される場合には、前記PWM制御信号のデューティ比を第1の補正時間を用いて変更し、前記フィードバック信号により前記ロール紙が過渡状態にあると判定される場合には、前記PWM制御信号のデューティ比を前記第1の補正時間より大きい第2の補正時間を用いて変更するよう制御することを特徴とするロール紙搬送の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−254537(P2012−254537A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127654(P2011−127654)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】