説明

記録装置及び記録方法

【課題】記録領域へ搬送される記録媒体の幅が変化しても、該記録媒体の搬送特性が変化することを抑制することが可能な記録装置及び記録方法を提供する。
【解決手段】インクジェット式プリンターは、互いに幅が異なる複数種類の用紙Pに対して印刷領域での印刷が可能な記録ヘッドと、用紙Pを挟持しながら印刷領域へ搬送可能な搬送ローラー対16とを備える。搬送ローラー対16は、駆動ロール部33を有するとともに回転駆動される駆動ローラー30と、駆動ロール部33とで各種の用紙Pを挟持可能な従動ロール部36を有するとともに駆動ローラー30の回転駆動に伴って従動回転する従動ローラー31とを備える。そして、用紙Pの搬送方向と直交する方向において、従動ロール部36の最端部間の距離は、記録ヘッドによって印刷が可能な各種類の用紙Pにおける各幅のうちの最小幅Nよりも短くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェット式プリンターなどの記録装置及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、記録装置の一種として、記録ヘッドのノズルから用紙などの記録媒体に対してインクを噴射して印刷を行うインクジェット式記録装置が知られている(例えば、特許文献1)。この特許文献1の記録装置では、被記録媒体(記録媒体)を搬送駆動ローラー(駆動ローラー)のローラー要素(駆動ロール部)と搬送従動ローラー(従動ローラー)のローラー要素(従動ロール部)とで挟持しながらプラテン上に搬送し、該プラテン上にて被記録媒体に記録ヘッドのノズルからインクを噴射することで印刷が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−248688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のような記録装置では、通常、被記録媒体を円滑に搬送するべく、搬送従動ローラーの支持軸の両端部を搬送駆動ローラー側にばねなどで付勢することで、両ローラー要素による被記録媒体の挟持力を高めるようにしている。そして、この記録装置では、特許文献1の図3に示すように、被記録媒体の搬送方向と直交する方向において、被記録媒体の幅よりも搬送従動ローラーのローラー要素の長さの方が長くなっている。
【0005】
このため、ばねなどの付勢力に基づいて搬送従動ローラーのローラー要素により被記録媒体に加えられる荷重は、該搬送従動ローラーのローラー要素における中央部に比べて両端部の方が大きくなる。したがって、被記録媒体における搬送従動ローラーのローラー要素によって加えられる荷重の分布は、該被記録媒体の幅によって変わる。そして、記録装置で使用される被記録媒体の幅が変わると、搬送駆動ローラー及び搬送従動ローラーによる該被記録媒体の搬送特性も変わるため、被記録媒体に対する記録処理の精度が不安定になってしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、記録領域へ搬送される記録媒体の幅が変化しても、該記録媒体の搬送特性が変化することを抑制することが可能な記録装置及び記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の記録装置は、互いに幅が異なる複数種類の記録媒体に対して記録領域での記録処理が可能な記録手段と、前記記録媒体を挟持しながら前記記録領域へ搬送可能な搬送ローラー対とを備えた記録装置であって、前記搬送ローラー対は、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において、前記記録手段によって前記記録処理が可能な前記各種類の記録媒体における各幅のうちの最大幅よりも長く且つ前記記録媒体と接触可能な駆動ロール部を有するとともに、回転駆動される駆動ローラーと、前記駆動ロール部とで前記各種類の記録媒体を挟持可能な従動ロール部を有するとともに、前記駆動ローラーの回転駆動に伴って従動回転する従動ローラーとを備え、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において、前記従動ロール部の最端部間の距離は、前記記録手段によって前記記録処理が可能な前記各種類の記録媒体における各幅のうちの最小幅よりも短い。
【0008】
この発明によれば、記録媒体の搬送方向と直交する方向において従動ロール部の最端部間の距離が記録手段によって記録処理が可能な各種類の記録媒体における各幅のうちの最小幅よりも短いため、記録領域へ搬送される記録媒体の幅に拘わらず、記録媒体に対する搬送ローラー対の挟持位置及び挟持荷重は、常に一定となる。したがって、記録領域へ搬送される記録媒体の幅が変化しても、該記録媒体の搬送特性が変化することを抑制することが可能となる。
【0009】
本発明の記録装置において、前記駆動ロール部は、前記各種類の記録媒体を搬送する際に、該記録媒体との間に発生する摩擦力を高めるための高摩擦部を有し、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において、前記高摩擦部の最端部間の距離は、前記記録手段によって前記記録処理が可能な前記各種類の記録媒体における各幅のうちの最大幅よりも長い。
【0010】
この発明によれば、高摩擦部により、駆動ロール部と記録媒体との間に発生する摩擦力が高められるので、記録媒体が駆動ロール部に対して滑ることを抑制することが可能となる。
【0011】
本発明の記録装置において、前記高摩擦部及び前記従動ロール部のうちの少なくとも一方は、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において連続している。
この発明によれば、高摩擦部及び従動ロール部と、記録媒体とのそれぞれの接触面積を稼ぐことが可能となる。
【0012】
本発明の記録装置において、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において、前記各種類の記録媒体は、その中央部が前記駆動ロール部の中央部及び前記従動ロール部の中央部の双方と対応するように搬送される。
【0013】
この発明によれば、記録媒体における従動ロール部と駆動ロール部とによって挟持される位置は、該記録媒体の幅に拘わらず、常に一定となる。したがって、記録媒体の幅に拘わらず、該記録媒体をバランスよく安定して記録領域へ搬送することが可能となる。
【0014】
本発明の記録方法は、互いに幅が異なる複数種類の記録媒体を駆動ローラーと従動ローラーとによって挟持しながら記録領域へ搬送した後、該記録領域にて記録手段により前記記録媒体に記録処理を施す記録方法であって、前記駆動ローラーとして、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において、前記記録手段によって前記記録処理が可能な前記各種類の記録媒体における各幅のうちの最大幅よりも長く且つ前記記録媒体と接触可能な駆動ロール部を有するとともに、回転駆動されるローラーを用い、前記従動ローラーとして、前記駆動ロール部とで前記各種類の記録媒体を挟持可能な従動ロール部を有するとともに、前記駆動ローラーの回転駆動に伴って従動回転し、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において、前記従動ロール部の最端部間の距離が、前記記録手段によって前記記録処理が可能な前記各種類の記録媒体における各幅のうちの最小幅よりも短いローラーを用いる。
【0015】
この発明によれば、上記構成の記録装置と同様の作用効果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態のインクジェット式プリンターを示す側面模式図。
【図2】同プリンターの搬送ローラー対によって用紙を搬送するときの状態を示す模式図。
【図3】同プリンターの搬送ローラー対によって用紙を搬送するときの用紙の搬送誤差と用紙の搬送量との関係を示すグラフ。
【図4】搬送ローラー対の従動ロール部を用紙の最大幅よりも長くした場合において、搬送ローラー対によって用紙を搬送するときの用紙の搬送誤差と用紙の搬送量との関係を示すグラフ。
【図5】搬送ローラー対の駆動ロール部の断面模式図。
【図6】変更例の搬送ローラー対によって用紙を搬送するときの状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、ロール状に巻かれたロール紙RPから繰り出される長尺帯状の記録媒体としての用紙Pに対して、記録処理としての印刷を施す記録装置に具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明を容易にするため、図1に示したように、重力方向を下方向、反重力方向を上方向とする。また、これと直交する方向であって、給送された用紙Pが印刷時において搬送される搬送方向を前方向、搬送方向と反対の方向を後方向とし、さらに重力方向及び搬送方向の双方と直交する方向を、前側から見て、それぞれ右方向(紙面手前方向)、左方向(紙面奥方向)と呼ぶことにする。
【0018】
図1に示すように、記録装置としてのインクジェット式プリンター11は、略直方体状をなす本体ケース12を備えている。本体ケース12の後面上部にはロール紙(連続紙)RPが収容される略中空円柱状をなす紙ケース13が設けられる一方、本体ケース12の前面上部には略矩形板状をなす排紙トレイ14が設けられている。
【0019】
本体ケース12内の上部には、紙ケース13内に収容されたロール紙RPから繰り出される用紙Pを、該用紙Pの搬送方向である前方向に向かって搬送する上下一対のローラーを有する複数(本実施形態では6つ)のローラー対15〜20が前後方向において適宜間隔を置いてそれぞれ配置されている。
【0020】
各ローラー対15〜20は、用紙Pの搬送経路の上流側となる後側から下流側となる前側に向かって順に、給送ローラー対15、搬送ローラー対16、第1中間ローラー対17、第2中間ローラー対18、第3中間ローラー対19、排紙ローラー対20とされている。各ローラー対15〜20は、用紙Pの搬送方向と直交する方向である左右方向に沿って延びる軸線を中心に回転可能になっている。
【0021】
各ローラー対15〜20は、下側に位置するローラーが駆動モーター(図示略)によりそれぞれ回転駆動されるとともに、上側に位置するローラーがそれぞれ従動回転するようになっている。そして、ロール紙RPから繰り出される用紙Pは、ローラー対15〜20の回転駆動により、該ローラー対15〜20に挟持されながら搬送経路に沿って排紙トレイ14へ搬送される。
【0022】
搬送ローラー対16と第1中間ローラー対17との間における用紙Pの下側の位置には、該用紙Pを下側から支持する支持台21が配置されている。一方、搬送ローラー対16と第1中間ローラー対17との間における用紙Pを挟んで支持台21と対向する位置には、支持台21に支持された用紙Pにノズル(図示略)からインクを噴射して記録処理としての印刷を行う記録手段としての記録ヘッド22が配置されている。したがって、支持台21の上面上の領域は、記録領域としての印刷領域になっている。
【0023】
なお、記録ヘッド22は、搬送される用紙Pの幅方向(左右方向)に移動するキャリッジに搭載される所謂シリアル方式のヘッドや、用紙Pの幅方向に沿って固定配置されたヘッド本体にノズルが略用紙幅に渡って形成された所謂ラインヘッド方式のヘッドにより構成可能である。
【0024】
第1中間ローラー対17と第2中間ローラー対18との間の位置には、用紙Pの搬送方向と平行な方向である前後方向に延びる軸線を中心に回転駆動されるとともに左右方向に移動可能に構成された回転刃23が配置されている。回転刃23は、回転駆動されながら左右方向に移動することで、用紙Pに印刷された画像領域毎に該用紙Pを切断する。このとき、回転刃23は、用紙Pの画像領域について搬送方向の端部に存在する不要な領域も切除する。
【0025】
本体ケース12の右側面において、表面から少し凹むように面が形成された凹部24内には、回転刃23による用紙Pの切断によって生じて重力方向である下側に落下する切断片Pkを受けて溜める切屑容器25が収容されている。この場合、切屑容器25は、用紙Pにおける回転刃23によって切断される位置と対応する位置であって、回転刃23よりも下側に位置している。
【0026】
切屑容器25は、上端が開口した矩形箱状をなしているとともに、本体ケース12から用紙Pの搬送方向と直交する右方向に引き抜くことができるようになっている。切屑容器25は、その右側面が凹部24において露出している。そして、切屑容器25の右側面のおける上端部には、該切屑容器25を本体ケース12から引く抜く際に掴むための取手26が設けられている。
【0027】
第2中間ローラー対18と第3中間ローラー対19との間の位置には、記録ヘッド22に印刷されて回転刃23によって切断された用紙Psを乾燥させるための乾燥機27が配置されている。なお、本実施形態において、インクジェット式プリンター11の記録ヘッド22は、幅が4インチ、8インチ、及び12インチの3種類の用紙Pの印刷が可能となっている。そして、これら各種幅の用紙Pは、いずれも左右方向における中央部が各ローラー対15〜20における左右方向の中央部と対応するように搬送される。
【0028】
次に、搬送ローラー対16の構成について詳述する。
図2に示すように、印刷領域へ用紙Pを搬送する搬送ローラー対16は、駆動モーター(図示略)によって回転駆動される駆動ローラー30と、該駆動ローラー30の回転駆動に伴って従動回転する従動ローラー31とを備えている。駆動ローラー30は、駆動回転軸32と、該駆動回転軸32に設けられるとともに用紙Pと接触可能な円筒状の駆動ロール部33とを備えている。駆動ロール部33は、金属などの剛性を有する材料によって構成されている。用紙Pの搬送方向と直交する方向である左右方向において、駆動ロール部33の長さは、インクジェット式プリンター11で印刷可能な各種類の用紙Pの各幅のうちの最大幅M(本実施形態では12インチ)よりも若干長くなっている。
【0029】
駆動ロール部33の表面(周面)には、用紙Pを搬送する際に、該用紙Pとの間に発生する摩擦力を高めるための高摩擦部34が左右方向において連続するように形成されている。高摩擦部34は、耐摩耗性粒子と、該耐摩耗性粒子を均一に分散し且つ該粒子の駆動ロール部33の径方向における先端側の一部が表面に露出する状態で強固に保持する被着層とにより構成されている。耐摩耗性粒子としては、アルミナや、炭化珪素等のセラミックが用いられる。本実施形態では、耐摩耗性粒子として、アルミナが採用されている。
【0030】
一方、被覆層としては、塗料を含む意味での接着剤が用いられる。具体的には、被覆層として、熱硬化型エポキシ系接着剤、室温硬化型アクリル系接着剤、紫外線硬化型ポリウレタン系接着剤、二液反応型エポキシ系接着剤などが用いられる。本実施形態では、被覆層として、室温硬化型アクリル系接着剤が採用されている。そして、駆動ロール部33の表面に形成された高摩擦部34の左右方向における最端部間の距離D1は、用紙Pの最大幅Mよりも若干長くなっている。
【0031】
従動ローラー31は、従動回転軸35と、該従動回転軸35における左右方向の中央部に設けられるとともに駆動ロール部33とで用紙Pを挟持可能な円筒状の従動ロール部36とを備えている。従動ロール部36は、ウレタンゴムなどの可撓性材料によって形成されるとともに、左右方向に連続して延びている。従動回転軸35の両端部は、一対のコイルばね37によって、駆動ローラー30側である下側に向かって常に付勢されている。したがって、各コイルばね37の付勢力が、従動ロール部36と駆動ロール部33とによる挟持力として用紙Pに対して作用する。この場合、各コイルばね37は、従動回転軸35の回転を妨げないようになっている。
【0032】
従動ロール部36の左右方向における最端部間の距離D2は、インクジェット式プリンター11の記録ヘッド22で印刷可能な各種類の用紙Pの各幅のうちの最小幅N(本実施形態では4インチ)よりも若干短くなっている。なお、図2では、最小幅Nの用紙Pを実線で描くとともに、最大幅Mの用紙Pを2点鎖線で描いている。
【0033】
次に、インクジェット式プリンター11の作用について説明する。
さて、各ローラー対15〜20が回転駆動されると、まず、ロール紙RPから巻き解かれた用紙Pは、給送ローラー対15によって、搬送ローラー対16に給送される。搬送ローラー対16に給送された用紙Pは、該搬送ローラー対16に挟持されながら支持台21の上面上の領域である印刷領域へ搬送されつつ、記録ヘッド22から噴射されるインクを受けることで印刷される。
【0034】
このとき、左右方向において、用紙Pの中央部は、駆動ロール部33の中央部及び従動ロール部36の中央部の双方と対応するように搬送される。さらにこのとき、従動ロール部36の左右方向における最端部間の距離D2は、用紙Pの最小幅Nよりも若干短いため、使用する用紙Pの幅に拘わらず、用紙Pに対する搬送ローラー対16の挟持位置及び挟持荷重は一定になる。
【0035】
したがって、搬送ローラー対16による印刷領域への用紙Pの搬送量に対する用紙Pの搬送誤差は、図3に示す波形で表されるように、全ての幅の用紙Pにおいてほぼ一定になる。したがって、印刷領域へ搬送される用紙Pの幅が変化しても、該用紙Pの搬送特性(搬送誤差)がほとんど変わらないため、各種類の幅の用紙P間で印刷精度が安定する。
【0036】
因みに、従来のように、搬送ローラー対16における従動ロール部36の左右方向における最端部間の距離D2を用紙Pの最大幅Mよりも若干長くすると、従動回転軸35の両端部が各コイルばね37によって駆動ローラー30側に付勢されているため、用紙Pに対する搬送ローラー対16の挟持位置及び挟持荷重が、該用紙Pの幅によって変化する。すなわち、各コイルばね37の付勢力に基づいて従動ロール部36により用紙Pに加えられる荷重の分布が、該用紙Pの幅によって変化する。
【0037】
この結果、搬送ローラー対16による印刷領域への用紙Pの搬送量に対する用紙Pの搬送誤差は、図4に示す波形で表されるように、最小幅Nの用紙P(図4に実線で示す波形)と最大幅Mの用紙P(図4に2点鎖線で示す波形)との間で、変化する。すなわち、搬送ローラー対16による印刷領域への用紙Pの搬送量に対する用紙Pの搬送誤差を表す波形は、最小幅Nの用紙Pと最大幅Mの用紙Pとの間で、振幅にも位相にも差が生じてしまう。したがって、印刷領域へ搬送される用紙Pの幅が変化すると、該用紙Pの搬送特性(搬送誤差)も変わるため、印刷精度が不安定になってしまうという問題がある。
【0038】
また、一般に、駆動ロール部33(駆動ローラー30)は、図5に示すように、加工上、その断面形状が回転中心Sに対して真円にならない。すなわち、駆動ロール部33の回転中心Sが偏心しているため、例えば駆動ロール部33を角度θだけ回転させたときの用紙Pの搬送量は、回転中心Sからの距離によって変わってしまう。
【0039】
すなわち、駆動ロール部33を角度θだけ回転させた場合、駆動ロール部33の周面における回転中心Sからの距離が相対的に近い位置での搬送量L1は、駆動ロール部33の周面における回転中心Sからの距離が相対的に遠い位置での搬送量L2よりも少なくなる。このため、こうした搬送量のばらつきをなくすため、通常は、駆動ロール部33による用紙Pの搬送量が全周において一定となるように、駆動ロール部33の回転中心Sの偏心を考慮して駆動ローラー30の回転駆動を精密に制御している。
【0040】
しかしながら、こうした用紙Pの搬送量は、用紙Pの幅の違いに起因する用紙Pの搬送特性によってもばらつくため、駆動ローラー30の回転駆動の制御を用紙Pの幅毎に補正しなければならない。そして、従来のように、印刷領域へ搬送される用紙Pの幅毎にそれらの搬送特性が変わると、こうした補正値を用紙Pの幅毎にそれぞれ設定しなければならなくなるので、搬送ローラー対16による用紙Pの搬送状態の調整工程の負荷が大きくなってしまう。
【0041】
この点、本実施形態では、印刷領域へ搬送される用紙Pの幅が変化しても、該用紙Pの搬送特性がほとんど変わらないため、用紙Pの幅の種類に拘わらず、上述した補正値を1種類だけ設定すればよいので、搬送ローラー対16による用紙Pの搬送状態の調整工程の負荷を低減することができる。
【0042】
引き続き、印刷領域で印刷がなされた用紙Pは、第1中間ローラー対17により第2中間ローラー対18へ向かって搬送される。このとき、用紙Pは、回転刃23により、印刷された画像領域毎に左右方向に沿って切断される。さらにこのとき、用紙Pは、その画像領域における搬送方向の端部に存在する不要な領域も回転刃23によって切断される。この切断された用紙Pの切断片Pkは、落下して切屑容器25内に収容される。
【0043】
引き続き、回転刃23によって印刷された画像領域毎に切断された用紙Psは、第2中間ローラー対18により第3中間ローラー対19へ向かって搬送される。このとき、用紙Psは、その印刷面側が乾燥機27によって乾燥される。引き続き、乾燥機27によって乾燥された用紙Psは、第3中間ローラー対19により排紙ローラー対20へ向かって搬送された後、排紙ローラー対20により排紙トレイ14上に排紙される。
【0044】
以上、詳述した実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
(1)用紙Pの搬送方向と直交する方向である左右方向において、従動ロール部36の最端部間の距離D2は、記録ヘッド22によって印刷が可能な各種類の用紙Pにおける各幅のうちの最小幅Nよりも短いため、印刷領域へ搬送される用紙Pの幅に拘わらず、用紙Pに対する搬送ローラー対16の挟持位置及び挟持荷重は、常に一定となる。このため、印刷領域へ搬送される用紙Pの幅が変化しても、該用紙Pの搬送特性が変化することを抑制することができる。この結果、各種類の幅の用紙P間で、印刷精度を安定させることができる。
【0045】
また、印刷領域へ搬送される用紙Pの幅が変化しても、該用紙Pの搬送特性がほとんど変わらないため、用紙Pの幅の種類に拘わらず、用紙Pの搬送誤差を解消するための駆動ローラー30の回転駆動制御の補正値を1種類だけ設定すればよいので、搬送ローラー対16による用紙Pの搬送状態の調整工程の負荷を低減することができる。
【0046】
(2)用紙Pの搬送方向と直交する方向である左右方向において、駆動ロール部33の高摩擦部34の最端部間の距離は、記録ヘッド22によって印刷が可能な各種類の用紙Pにおける各幅のうちの最大幅Mよりも長いため、用紙Pの幅に拘わらず、高摩擦部34により、用紙Pと駆動ロール部33との間に発生する摩擦力を十分に高めることができる。このため、用紙Pが駆動ロール部33に対して滑ることを抑制することができる。この結果、特に、用紙Pが回転刃23によって切断される際には、該用紙Pに対して左右方向の力が作用するが、この場合でも、高摩擦部34により、該用紙Pが左右方向に滑ってずれることを効果的に抑制することができる。したがって、用紙Pを精度よく安定して搬送することができる。
【0047】
(3)高摩擦部34及び従動ロール部36は、用紙Pの搬送方向と直交する方向である左右方向において連続しているため、高摩擦部34及び従動ロール部36と、用紙Pとのそれぞれの接触面積を稼ぐことができる。
【0048】
(4)用紙Pの搬送方向と直交する方向である左右方向において、各幅の用紙Pは、それらの中央部が駆動ロール部33の中央部及び従動ロール部36の中央部の双方と対応するようにそれぞれ搬送されるため、用紙Pにおける従動ロール部36と駆動ロール部33とによって挟持される位置は、該用紙Pの幅に拘わらず、常に一定にすることができる。したがって、用紙Pの幅に拘わらず、該用紙Pをバランスよく安定して印刷領域へ搬送することができる。
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
【0049】
・図6に示すように、従動ロール部36は、用紙Pの搬送方向と直交する方向である左右方向において非連続となるように、従動回転軸35に設けるようにしてもよい。
・高摩擦部34は、用紙Pの搬送方向と直交する方向である左右方向において非連続となるように、駆動ロール部33の表面(周面)に形成するようにしてもよい。
【0050】
・駆動ロール部33の表面に形成された高摩擦部34の左右方向における最端部間の距離D1は、必ずしも用紙Pの最大幅Mよりも長くする必要はない。高摩擦部34の左右方向における最端部間の距離D1は、用紙Pの最大幅M以下であってもよい。
【0051】
・駆動ロール部33の表面には、必ずしも高摩擦部34を形成する必要はない。
・高摩擦部34は、駆動ロール部33の表面を粗面化したり、駆動ロール部33の表面にゴムなどを巻き付けたりして形成してもよい。
【0052】
・用紙Pの搬送方向と直交する方向である左右方向において、各幅の用紙Pは、それらの中央部が必ずしも駆動ロール部33の中央部及び従動ロール部36の中央部の双方と対応するようにそれぞれ搬送される必要はない。
【0053】
・ロール紙(連続紙)RPだけでなく、枚葉紙を記録媒体として用いてもよい。
・インクジェット式プリンター11において、記録媒体は、プラスチックフィルム、布、金属箔などであってもよい。
【0054】
・上記実施形態では、記録装置をインクジェット式プリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルターの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
11…記録装置としてのインクジェット式プリンター、16…搬送ローラー対、22…記録手段としての記録ヘッド、30…駆動ローラー、31…従動ローラー、33…駆動ロール部、34…高摩擦部、36…従動ロール部、P…記録媒体としての用紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに幅が異なる複数種類の記録媒体に対して記録領域での記録処理が可能な記録手段と、前記記録媒体を挟持しながら前記記録領域へ搬送可能な搬送ローラー対とを備えた記録装置であって、
前記搬送ローラー対は、
前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において、前記記録手段によって前記記録処理が可能な前記各種類の記録媒体における各幅のうちの最大幅よりも長く且つ前記記録媒体と接触可能な駆動ロール部を有するとともに、回転駆動される駆動ローラーと、
前記駆動ロール部とで前記各種類の記録媒体を挟持可能な従動ロール部を有するとともに、前記駆動ローラーの回転駆動に伴って従動回転する従動ローラーと
を備え、
前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において、前記従動ロール部の最端部間の距離は、前記記録手段によって前記記録処理が可能な前記各種類の記録媒体における各幅のうちの最小幅よりも短いことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記駆動ロール部は、前記各種類の記録媒体を搬送する際に、該記録媒体との間に発生する摩擦力を高めるための高摩擦部を有し、
前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において、前記高摩擦部の最端部間の距離は、前記記録手段によって前記記録処理が可能な前記各種類の記録媒体における各幅のうちの最大幅よりも長いことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記高摩擦部及び前記従動ロール部のうちの少なくとも一方は、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において連続していることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において、前記各種類の記録媒体は、その中央部が前記駆動ロール部の中央部及び前記従動ロール部の中央部の双方と対応するように搬送されることを特徴とする請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項5】
互いに幅が異なる複数種類の記録媒体を駆動ローラーと従動ローラーとによって挟持しながら記録領域へ搬送した後、該記録領域にて記録手段により前記記録媒体に記録処理を施す記録方法であって、
前記駆動ローラーとして、
前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において、前記記録手段によって前記記録処理が可能な前記各種類の記録媒体における各幅のうちの最大幅よりも長く且つ前記記録媒体と接触可能な駆動ロール部を有するとともに、回転駆動されるローラーを用い、
前記従動ローラーとして、
前記駆動ロール部とで前記各種類の記録媒体を挟持可能な従動ロール部を有するとともに、前記駆動ローラーの回転駆動に伴って従動回転し、前記記録媒体の搬送方向と直交する方向において、前記従動ロール部の最端部間の距離が、前記記録手段によって前記記録処理が可能な前記各種類の記録媒体における各幅のうちの最小幅よりも短いローラーを用いることを特徴とする記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−250827(P2012−250827A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126160(P2011−126160)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】