説明

記録装置

【課題】 どのような種類や性質のシートであっても確実に保持することができるとともに、加湿気体を効率よく利用することができる記録装置の提供。
【解決手段】 複数の記録ヘッドユニットがホルダで一体に保持されるとともに、シート搬送方向に沿って記録ヘッドユニットとシートを挟持するローラ対とが交互に並べられている。保持された記録ヘッドユニットとホルダとの隙間には弾性変形した弾性体が介在して気密に封止し、記録ヘッドユニットのインクノズルが露出する狭空間に導入された加湿気体が、隙間から上方に漏れることを抑止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット方式の記録ヘッドを備えた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のインクジェット記録ヘッドがシート搬送方向に沿って並べて配置されたプリンタにおいて、インクノズルの近傍に加湿気体を供給してノズル乾燥を抑制する手法が開示されている。隣り合う記録ヘッドの間を支持部材で埋め、記録ヘッドと支持部材とを同じ平坦面とすることで、一定間隔の連続した狭いギャップ領域を形成する。このギャップ領域に多湿の加湿気体を流すことで、各記録ヘッドを保湿して乾燥を抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−44021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置では、シートを保持して搬送する手段が吸着ベルトまたは吸着ローラであり、静電吸着方式やバキューム吸着方式などでシート裏面側を吸着して保持する。しかし、シートの裏面側のみの保持なので、使用するシートの種類や性質によっては吸着不良になる場合がある。とくに特許文献1の装置では、吸着ベルトまたは吸着ローラに多湿の加湿気体が導入されるので、湿度によって吸着面から電荷が逃げてシートの保持力が著しく低下する。そのため、剛性が高く且つ強いカールを持ったシートでは、シート裏面の吸着だけではシートを保持しきれずにシートに浮きが生じる。浮いた部分では記録する画像品位が劣化するとともに、浮きが大きい場合には記録ヘッドにシートが接触してしまう畏れがある。また、特許文献1の装置でシートを保持するためにバキューム吸着方式を採用すると、シートを吸着する前に、導入された加湿気体をバキュームで吸引してしまうので加湿効率が大きく低下する。
【0005】
本発明は上述の課題の認識に基づいてなされたものである。本発明の主目的は、記録ヘッドとシートとの間に加湿気体を導入してインクノズルの乾燥を抑制する際に、どのような種類や性質のシートであっても確実に保持することができるとともに、加湿気体を効率よく利用することができる記録装置の提供である。
【0006】
記録位置においてシートを確実に保持して搬送する手段として、シートを両面から挟持するローラ対を用いることが考えられる。しかし、ローラ対の一方のローラが記録ヘッドの側に位置すると、導入された加湿気体の気流がローラで阻害されて乱れた気流となる。乱れた気流の一部は上方に向かうので、記録ヘッドとそれを保持する支持部材の間に僅かな隙間があっても、隙間から加湿気体や記録中にインクノズルから発生するインクミストが漏れやすい。特許文献1は支持部材1aと記録ヘッドのノズル面を連続した平坦面とすることを開示しているが、そこには僅かな隙間が存在する可能性がある。なぜなら、特許文献1の構成では、シートよりも記録ヘッドの側にローラは無く、大きな気流の乱れは発生しないので、僅かな隙間があってもさほどの問題にはならないからである。
【0007】
本発明のさらなる目的は、記録位置の近傍にてローラ対でシートを挟持して搬送する際に、供給される加湿気体の気流がローラによって大きく乱されても、加湿気体の漏れを確実に防ぐことができる記録装置の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の記録装置は、シートが搬送される方向に沿って並べられ、各々がライン状に形成されたインクノズルを有する第1記録ヘッドユニットおよび第2記録ヘッドユニットと、少なくとも前記第1記録ヘッドユニットの記録位置と前記第2記録ヘッドユニットの記録位置の間においてシートを挟持する第1ローラと第2ローラからなるローラ対を含み、且つ、前記第1ローラが前記第1記録ヘッドユニットと前記第2記録ヘッドユニットの間に位置するシート搬送部と、前記第1記録ヘッドユニットおよび前記第2記録ヘッドユニットを一体的に保持するホルダと、前記第1記録ヘッドユニットおよび前記第2記録ヘッドユニットと前記ホルダとの隙間に弾性変形を伴なって介在し前記隙間を封止する、前記ホルダとは別部材からなる弾性体と、加湿気体を供給するための加湿部とを有し、前記ホルダと、前記ホルダに保持された前記第1記録ヘッドユニットおよび前記第2記録ヘッドユニットの一部と、前記弾性体とによってシートとの間に狭空間が形成され、前記第1記録ヘッドユニットおよび前記第2記録ヘッドユニットが有する前記インクノズルは前記狭空間に露出し、前記加湿部により供給された加湿気体の一部は、前記狭空間において前記第1記録ヘッドユニットとシートとの間の空間、前記第1ローラと前記ホルダとの間の空間、前記第2記録ヘッドユニットとシートとの間の空間の順に流れることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の記録装置によれば、記録ヘッドとシートとの間に加湿気体を導入してインクノズルの乾燥を抑制する際に、どのような種類や性質のシートであっても確実に保持することができるとともに、加湿気体を効率よく利用することができる。また、記録位置の近傍にてローラ対でシートを挟持して搬送する際に、供給される加湿気体の気流がローラによって大きく乱されても、加湿気体の漏れを確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1実施形態に係る記録装置の全体斜視図
【図2】記録装置の内部構造を示す断面図
【図3】加湿部の概略図
【図4】記録部に記録ヘッドユニットが取り付けられた状態の斜視図
【図5】記録ヘッドユニットが取り外されたホルダの状態を示す図
【図6】記録部の内部を第2方向から見た断面図
【図7】記録部の内部を第1方向から見た断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の第1実施形態に係る記録装置の全体構成を示す斜視図である。記録装置1は、シートの記録時における搬送方向の上流側から下流側に沿って、給紙部18、供給部5、記録部4、回収部6、カッタ部15、乾燥部16、インクタンク20、制御部19、排紙部17を備える。なお、シート搬送経路の任意の位置において、給紙部18に近い側を「上流」、その逆側を「下流」という。
【0012】
図2は、図1の記録装置1の内部構造を示す断面図である。給紙部18は、ロール状に巻かれたシート3を回転可能に保持する。なお、本例では記録媒体であるシート3は連続紙であるが、カット紙としてもよい。給紙部18は、シート3を引き出して、シート搬送方向(Y方向、第1方向という)の下流側に供給するための送り機構を有している。
【0013】
記録部4は、異なるインク色にそれぞれ対応した複数の記録ヘッドユニット2を備える。記録ヘッドユニット2は、ライン状に並んだインクノズル列が形成されたノズル面を持つ記録ヘッド部を備えている。記録ヘッドユニット2は、さらにインクノズルを駆動制御させる回路基板と、この回路基板に接続されたワイヤハーネスの一部などがユニット内に内蔵している。複数の記録ヘッドユニット2はホルダ106で一体的に保持される。各色のインクはインクタンク20に蓄積され、インクタンク20よりインクチューブ112を介してそれぞれの記録ヘッドユニット2に供給される。なお、記録ヘッドユニット2はインクタンクが別体である形態に限らず、各々の記録ヘッドユニットが記録ヘッド部とインクタンクが一体になった形態であってもよい。
【0014】
本例ではCMYKの4色に対応した4つの記録ヘッドユニットとしているが、色数はこれに限定されない。複数の記録ヘッドユニット2のそれぞれは、使用が想定されるシートの最大幅をカバーする範囲で、インクジェット方式のインクノズル列が形成されたライン型の記録ヘッドである。インクノズル列の並び方向は、第1方向と交差する(本例では直角)方向(X方向、第2方向という)である。インクノズル列は単位のノズルチップが千鳥配列等の規則的な配列によって幅方向全域に渡って形成されたもの、一列が幅方向全域に渡って形成されたもの、いずれであってもよい。インクジェット方式は、発熱素子を用いた方式、ピエゾ素子を用いた方式、静電素子を用いた方式、MEMS素子を用いた方式等を採用することができる。
【0015】
記録部4は、記録ヘッドユニット2に対向してシート搬送路が横切っており、シート搬送路に沿ってシートを搬送するためのシート搬送部10を有している。記録ヘッドユニット2およびシート搬送部10は記録部4の筐体22の中に収容されている。
【0016】
シート搬送部10は、シート搬送路に沿って並べられ、それぞれがシートを上下から挟持する複数(本例では5つ)のローラ対103と、搬送されるシート3を下面から支持する支持面を持ったプラテン109を有する。各々のローラ対103は、駆動力を持たずに従動回転する上側の一方の第1ローラ104(ピンチローラ)と、駆動力が与えられた下側の他方の第2ローラ105とからなる。プラテン109および複数の第2ローラ105はベース111で支持されている。プラテン109は、シート方向に沿って複数に分割されている。分割された各々は、複数の第2ローラ105の間に位置し、且つ、5つの記録ヘッドユニット2にそれぞれ対向するようになっている。見方を変えると、複数の第2ローラ105はそれぞれプラテン109の開口に回転可能な状態で埋め込まれている。第2ローラ105とプラテン109の隙間は小さくなっているので、隙間からの空気の漏れは少ない。記録ヘッドユニット2の対向位置(記録位置)それぞれにおいて、シート3は上流下流の両側がローラ対103で挟持され且つプラテン109で支持されるのでシート搬送の挙動が安定する。特に最初にシートが導入される際には、シート先端が短い周期で複数の挟持位置を通過していくので、シート先端の浮きが抑制され安定したシート導入がなされる。
【0017】
プラテン109の下方にベース111および様々な構造物が設けられている。記録中はシート自体が下方向の狭空間の気密手段の一部となる。シート3が支持面上にない非記録時にも、プラテン109が下方向の気密手段となる。プラテン109とそこに埋め込まれた第2ローラ105の間には僅かな隙間があるが、ベース111およびその他の構造物も気密手段の一部として作用することで下方向の気密を保持する。こうして、上方向および下方向とにも気密性をもった狭空間が形成される。
【0018】
記録部4の内部には、供給部5で生成された加湿気体が供給される。ここでは気体は空気であるが、空気以外のガスであってもよい。記録部4に供給された加湿気体は回収部6から回収される。回収部6で回収された加湿気体の少なくとも一部は、再利用のために還流ダクト11を介して供給部5に還流される。記録部4の狭空間において、最下流の記録ヘッドユニット2のインクノズル列の近傍には気体湿度を計測するための湿度センサ23が設けられている。加湿気体は上流から下流に流れるので、狭空間においても上流から下流の順に湿度が徐々に上昇していく。最下流の位置で所望の湿度になったことが湿度センサ23で検出されたら、狭空間全体が適切な湿度になったことを意味する。
【0019】
供給部5は、加湿気体を生成し且つ生成した加湿気体を記録ヘッドのインクノズル列の近傍に供給するものである。供給部5の主な構成部材は、供給ダクト9、加湿部7、供給ファン8、供給側フィルタ24である。供給ダクト9の下方にはシート搬送部10の複数の搬送ローラのうちの一部を有し、シートの搬送経路が横切っている。供給ダクト9の端部は供給口9aとなっており、ここから加湿気体を噴き出す。供給口9aは、上述した狭空間の最上流の記録ヘッドユニット2に加湿気体を供給するように設けられている。供給ファン8は、加湿気体が狭空間内を搬送方向の上流側から下流側に流れるようにその向きを定めている。
【0020】
加湿部7は気化式で加湿気体を生成する。図3は加湿部7の構成を示す概略図である。吸水性の高い吸水部材で出来たもしくは吸水部材が貼り付けられた円盤25を有し、円盤25は軸30を中心に駆動機構31により回転するようになっている。円盤25の下部は水槽28に貯められた水27に接している。円盤25が回転することで吸水部材の全体が徐々に吸水されていく。供給部5において、供給側フィルタ24により粉塵や異物が除去されたクリーンな気体は、供給ファン8で加湿部7に導入される。導入された気体は回転する円盤25の一部に摩擦部32にて当たりながら通過するので、吸水部材の水分の一部が気体に移動して、加湿された加湿気体が生成される。加湿部7の加湿能力は、円盤25の回転速度と供給ファン8の回転数によって調整が可能である。制御部19は、湿度センサ23の検出に基づき加湿部7をフィードバック制御することで、適切な湿度の加湿気体が生成されるよう加湿部7を稼動させる。なお、加湿部7は本実施形態のものに限らず、気化式、水噴霧式、蒸気式の周知の方式のものを用いてもよい。気化式には、本実施形態の回転式の他に、透湿膜式、滴下浸透式、毛細管式などがある。水噴霧式には、超音波式、遠心式、高圧スプレー式、2流体噴霧式などがある。蒸気式には、蒸気配管式、電熱式、電極式などがある。
【0021】
加湿部7で生成された加湿気体は気流となって供給ダクト9を通って供給口9aから噴き出す。噴き出した加湿気体は、複数並んだ記録ヘッドユニット2のうちの最上流の記録ヘッドのインクノズル列の近傍に供給される。供給された加湿気体は上述したように狭空間内をシートの搬送方向上流側から下流側へとインクノズルを加湿しながら流れてノズル内のインクの蒸発および乾燥が抑制される。
【0022】
回収部6は、記録部4に供給された加湿気体を回収するものである。回収部6の主な構成部材は、回収ダクト12、回収ファン13、回収側フィルタ14である。回収ダクト12の下方にはシート搬送部10の複数の搬送ローラのうちの一部を有し、シート搬送経路が横切っている。回収ダクト12の端部は回収口12aとなっており、ここから加湿気体を吸い込む。回収口12aは、上述した狭空間内を流れて最下流の記録ヘッドユニット2を通過した加湿気体を吸い込む位置に設けられている。
【0023】
回収ダクト12に気流を発生させる吸込力は回収ファン13の回転により生成される。回収側フィルタ14は主にインクミストを除去する。回収ダクト12は回収ファン13を経て還流ダクト11に接続され、還流ダクト11は供給側フィルタ24を経て加湿部7および供給ダクト9に接続されている。つまり、記録部4から回収された加湿気体は、還流ダクト11からなる還流路によって供給部に還流させて再利用される。再利用のために加湿部7に導入される気体は予めある程度の高い湿度を有しているため、装置トータルでみたときの加湿効率が向上する。なお、回収ダクト12から回収した加湿空気の一部を還流させ再利用し、残りは記録装置1の機内に排出するようにしてもよい。また、回収ダクト12に回収した時点で加湿空気の湿度が記録装置1の機内と同程度に小さくなっているのであれば、加湿効率の向上は大きくは見込めないので、還流ダクト11を設けずに加湿空気の再利用はしないようにしてもよい。
【0024】
カッタ部15は、記録部4で記録された連続したシートを所定のサイズごとにカットするためのユニットであり、カッタ機構が設けられている。乾燥部16は、カットされたシートのインクを短時間で乾燥させるためのユニットであり、ヒータ21と経路に沿って並べられた複数の搬送ローラが設けられている。排紙部17は、乾燥部16から排出されたカット済みのシートを収容するもので、複数のシートが積み重ねられていく。制御部19は、記録装置1全体の各種制御や駆動を司るコントローラであり、CPU、メモリ、各種I/Oインターフェースを備える。
【0025】
次に、記録部4の更なる詳細を説明する。図4は記録部4に記録ヘッドユニット2が取り付けられた状態を示す斜視図、図5は記録ヘッドユニット2が取り外されたホルダの状態を示す斜視図である。図6は記録部4の内部を第2方向から見た断面図、図7は記録部4の内部を第1方向から見た断面図である。
【0026】
複数の記録ヘッドユニット2は各々着脱可能にホルダ106で一体的に保持される。ホルダ106には、記録ヘッドユニット2とシート3が対向する上下方向(Z方向、第3方向という)に4つの記録ヘッドユニット2を挿入保持するための開口である4つの挿入口107が設けられている。挿入口107のX方向およびY方向における開口幅は、記録ヘッドユニット2の幅寸法よりも大きい。そのため、記録ヘッドユニット2を挿入した際には、挿入口107と記録ヘッドユニットの側面の間には隙間ができる。隙間を設けるのは、遊びを設けることで記録ヘッドユニット2の着脱を容易にするためである。したがって、挿入口107では記録ヘッドユニット2はホルダ106に対して正確な位置決めはなされない。後述するように、記録ヘッドユニット2はホルダ106に対してX方向に沿った両脇の2箇所で正確に位置決めして固定される。
【0027】
それぞれの挿入口107の開口周囲に沿って開口よりも内側には、記録ヘッドユニット2とホルダ106との隙間に弾性変形して介在して隙間を気密に封止するための封止部材である弾性体100が設けられている。ホルダ106と弾性体100とは別部材となっており、ホルダ106は記録ヘッドユニット2の位置決めと固定のために高い剛性を有するのに対して、弾性体100は復元力を持って折り曲げたり圧縮することが可能な所望の弾性力を有している。
【0028】
弾性体100は、折り曲げや圧縮でひび割れを生じることがなく、さらに加湿気体を通さずに遮断する性質を持つものであればよい。弾性体100として用いられることが可能な材料として、EPDMゴム、天然ゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、エチレン・プロピレンゴムなどのゴムまたはそれらのゴムの発砲体が挙げられる。この他、十分に柔軟性を有するプラスティックなども使用可能である。
【0029】
弾性体100は、上記したような弾性体をビニール等で被覆することで弾性体100の表面の潤滑性を向上させて容易に記録ヘッドユニット2の着脱ができるようにするとともに水分遮断性を向上させるようにしてもよい。
【0030】
弾性体100は、第1弾性体100a、第2弾性体100bおよび第3弾性体100cの3種類を有する。それぞれの弾性体は同一形状のものが複数位置に配置されている。
【0031】
第1弾性体100aは、隣り合う挿入口107の間で合計3箇所に設けられている。それぞれの第1弾性体100aは、Z方向から見下ろしたとき、圧縮されない状態(図5参照)において、Y方向の幅寸法は隣り合う挿入口107同士の間隔よりも大きい。第1弾性体100aの一部は挿入口107の開口の内側に張り出している。第1弾性体100aは、隣り合う挿入口107の間に介在するホルダ106の矩形柱状(X方向からみたときの断面形状が矩形形状)の構成部材に対して、矩形の3面(上面および両側面)に巻きつくように設けられている。矩形柱状の構成部材と第1弾性体100aとは、矩形の3面において強力な接着剤や両面テープによって固着されている。なお、固着は3面全てにおいて行う形態が好ましいが、これに限らず、3面のうちの任意の2面、あるいは上面の1面のみを固着する形態としてもよい。記録ヘッドユニット2が挿入口107に差し込まれると、第1弾性体100aは挿入口107の内周面と記録ヘッドユニット2の側面との間で圧縮されて弾性変形し、両者の間が気密に封止される。第1弾性体100aは、矩形柱状の構成部材の下面(シートと対向する面)には固着されていない。この理由は、もし下面にも弾性体を固着すると、予期せずに下面の弾性体の固着が剥がれたり弾性体が設計上の想定よりも膨張した際に、弾性体と第1ローラ104との干渉が起き得るからである。更なる理由は、下面に設けた弾性体が第1ローラ104の頭部とホルダ106との間の空間を狭めて、気流の流れが悪くなるからである。なお、構成部材の両側面に介在する第1弾性体100aの一部が、ホルダ106の下面よりも若干下側にはみ出すことは許容する。側面であれば第1ローラ104の頭部との干渉が生じ難いからである。
【0032】
なお、弾性体100aは、ホルダ106の挿入口107と記録ヘッドユニット2との間に生じる隙間ではなく、ホルダ106よりも更に上方で隣り合う記録ヘッドユニット2の間を気密に封止するような形態としてもよい。
【0033】
第2弾性体100bは、X方向において各々の挿入口107の両脇で計8箇所に設けられている。第2弾性体100bの一部は挿入口107の開口の内側に張り出している。それぞれの第2弾性体100bは挿入口107に対して、上面と側面の2面が強力な接着剤や両面テープで固着されている。記録ヘッドユニット2が挿入口107に差し込まれると、第2弾性体100bは挿入口107の内周面と記録ヘッドユニット2の側面との間で圧縮されて弾性変形し、両者の間が気密に封止される。
【0034】
第3弾性体100cは、4つの挿入口107の最も上流側と最も下流側の2箇所に設けられている。第3弾性体100cの一部は挿入口107の開口の内側に張り出している。それぞれの第3弾性体100cは挿入口107に対して、上面と側面の2面が強力な接着剤や両面テープで固着されている。記録ヘッドユニット2が挿入口107に差し込まれると、第3弾性体100cは挿入口107の内周面と記録ヘッドユニット2の側面との間には弾性体100が弾性変形を伴って介在しており、両者の間が気密に封止される。
【0035】
図5、図7に示されるように、ホルダ106の各々の挿入口107は、記録ヘッドユニット2を正確に位置決めして固定するための位置決め部51をX方向の両脇に有している。記録ヘッドユニット2を挿入口107に装着する際、作業者は位置決め部51の突起部と、記録ヘッドユニット2の両脇に設けられた固定部の凹部とを係合させて位置決めする。次いで、固定部のビス穴と位置決め部51のビス穴にビス53を貫通させてネジを締めて強固に固定する。こうして、記録ヘッドユニット2はホルダ106に対してXYZ3方向で正確な位置関係で強固に固定される。このとき、両者の間に生じる隙間には弾性体100が弾性変形を伴って介在するので高い気密が維持される。
【0036】
作業者が交換やメンテナンスのために記録ヘッドユニット2を抜く際には、両脇のビス53を外して記録ヘッドユニット2を上方向に引き抜く。引き抜いた後は弾性体100は元の形状に復元する。記録ヘッドユニット2の着脱の際には、挿入口107を取り囲むように設けられている弾性体100は弾性変形して無理な力を逃がすので、記録ヘッドユニット2に上下に引きずられて剥がれることは無い。とくに、着脱の際にもっとも力を受ける第1弾性体100aは、単一の弾性体がホルダ106の隣り合う挿入口107の間の柱状の構成部材に3面(上面および両側面)に巻き付いて強力に固着されているので、上下方向に強い力を受けても剥がれ難くなっている。
【0037】
図6に示されるように、ローラ対103と記録ヘッドユニット2とはシートの搬送方向に沿って交互に設けられている。つまり、隣り合う任意の2つの記録ヘッドユニット2の間にローラ対103の上側の第1ローラ104が位置している。ホルダ106は複数の記録ヘッドユニット2を、第1ローラ104の頭部よりもシートから離れた位置にて保持する。このように、記録ヘッドユニット2は、ホルダ106に対してX方向、Y方向、Z方向の3方向で位置決めされて保持される。その結果、それぞれの記録ヘッドユニット2のノズル列とシート面とはインク吐出に適切なギャップ(本例では1mm)が設定され、且つ、XY方向においても記録ヘッドユニット2同士が正確な相対位置関係で固定される。
【0038】
記録部4には、複数の記録ヘッドユニット2それぞれのインクノズルが露出する狭空間50が形成される。この狭空間50には供給ダクト9の供給口9aから加湿気体が導入されて、狭空間50において加湿気体の気流が生成されインクノズルの乾燥を抑制する。狭空間は上部、下部および側部の三方が概ね気密となった気体の流通路である。
【0039】
狭空間50の上部は、ホルダ106の下面、記録ヘッドユニット2の下部、および弾性体からなる弾性体100によって形成される。上述したように、弾性体100は記録ヘッドユニット2とホルダ106との隙間に介在して隙間を封止して狭空間50を気密にするものである。
【0040】
狭空間50の下部は、上述したように、プラテン109およびその下方に設けられたベース111および様々な構造物で形成される。また、閉空間の側部は、図7に示すように、ホルダ106の両側に第1方向に沿って取り付けられた遮蔽板101によって形成される。遮蔽板101の下部はプラテン109に対して狭い隙間をもって非接触に対向している。
【0041】
供給口9aから噴き出した加湿気体は、図6の矢印に示すように、狭空間50において上流の記録ヘッドユニット2とシート3との間の空間を流れる。続いて加湿気体は、第1ローラ104とホルダ106との間の空間、隣り合う下流の記録ヘッドユニット2とシートとの間の空間、・・・(以下同様)の順に上下に蛇行しながら流れる。導入された加湿気体の気流は第1ローラ104で阻害されて乱れた気流となって上方に向かうので、記録ヘッドとそれを保持する支持部材の間に僅かな隙間があっても、隙間から加湿気体や記録中にインクノズルから発生するインクミストが漏れて上方に拡散しやすい。これを弾性体100が隙間なく気密に封止することで拡散を防止する。もし、弾性体100がないと、狭空間の気体は隙間から上方に漏れて以下のことが起きる。
【0042】
(1)隙間から上方に漏れた加湿気体は加湿不要な部位にも接触して結露を生じやすい。もし、記録ヘッドユニットの回路基板やワイヤ配線に結露が生じると、回路やワイヤ配線の一部が短絡を起こして誤動作を引き起こしたり、長期的には金属部分に腐食を生じさせる可能性がある。
【0043】
(2)記録時に記録ヘッドのノズルから生じたインクミストはホルダと記録ヘッドとの隙間を通って上部に拡散し、記録ヘッドの上面や側面、および記録ヘッドに関連する回路基板やワイヤ配線の各部にインク汚れが生じる。インクミストは加湿気体とともに拡散して各部に付着するために水分を多く含み乾燥しにくい。そのため、インクミストが記録ヘッドの上面や側面に付着すると濡れたままとなり、記録ヘッドの交換や点検の際に作業者の手や衣服が汚れやすい。加えて、回路基板やワイヤワイヤ配線にインクミストが多量に付着して濡れたままとなると、上述した結露と同様のことが生じる。本実施形態の記録装置によれば、それらを未然に防ぐものである。
【0044】
図6、図7に示されるように、4つの記録ヘッドユニット2のそれぞれには、狭空間50に露出しない部位に、記録ヘッドユニットの電気系のワイヤハーネス110を引き出すための引出口120が設けられている。ワイヤハーネス110は記録ヘッドユニット2に内蔵される回路基板に接続されている。回路基板も狭空間50には露出しない。この構成により、狭空間50を流れる加湿気体がワイヤハーネス110や回路基板に触れることがないので、配線への結露による短絡や腐食が防止される。また、図5、図7に示されるように、インクタンクからインクチューブで供給されたインクは、ジョイント52を通して記録ヘッドユニット2に導入される。
【0045】
筐体22には、複数の記録ヘッドユニット2から引き出されたワイヤハーネス110をまとめて通すための孔121、ならびにインクチューブ112を通すためのシーリングされた孔が設けられている。なお、筐体22は必ずしも必要ではなく省略してもよい。
【0046】
以上説明してきた記録位置によれば、複数のローラ対でシートを強固に保持するので、剛性が高く且つ強いカールを持ったシートであってもシートの浮きを抑えることできる。言い換えると、記録ヘッドとシートとの間に加湿気体を導入してインクノズルの乾燥を抑制する際に、どのような種類や性質のシートであっても確実に保持することができる。加えて、弾性体によって記録ヘッドユニットとホルダとの隙間に介在して隙間を気密に封止するので、加湿気体を効率よく利用することができる。また、記録位置の近傍にてローラ対でシートを挟持して搬送する際に、供給される加湿気体の気流がローラによって大きく乱されても、加湿気体の漏れを確実に防ぐことができる。
【符号の説明】
【0047】
2 記録ヘッドユニット
3 シート
7 加湿部
11 還流ダクト
23 湿度センサ
50 狭空間
100 弾性体
103 ローラ対
104 第1ローラ
105 第2ローラ
106 ホルダ
109 プラテン
110 ワイヤハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートが搬送される方向に沿って並べられ、各々がライン状に形成されたインクノズルを有する第1記録ヘッドユニットおよび第2記録ヘッドユニットと、
少なくとも前記第1記録ヘッドユニットの記録位置と前記第2記録ヘッドユニットの記録位置の間においてシートを挟持する第1ローラと第2ローラからなるローラ対を含み、
前記第1ローラが前記第1記録ヘッドユニットと前記第2記録ヘッドユニットの間に位置するシート搬送部と、
前記第1記録ヘッドユニットおよび前記第2記録ヘッドユニットを一体的に保持するホルダと、
前記第1記録ヘッドユニットおよび前記第2記録ヘッドユニットと前記ホルダとの隙間に弾性変形することにより介在する前記隙間を封止する前記ホルダとは別部材からなる弾性体と、
前記第1記録ヘッドユニットおよび前記第2記録ヘッドユニットのインクノズルが露出する面と前記ホルダの下面とそれらに対向する前記シート搬送部との間に狭空間を形成し、
前記狭空間に加湿気体を供給するための加湿部と、を有し、
前記第1記録ヘッドユニットおよび前記第2記録ヘッドユニットそれぞれの前記インクノズルが露出する狭空間を、
前記加湿部により供給された加湿気体の一部は、前記狭空間において前記第1記録ヘッドユニットとシート搬送部との間の空間、前記第1ローラと前記ホルダとの間の空間、前記第2記録ヘッドユニットとシート搬送部との間の空間の順に流れることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記ホルダには前記第1記録ヘッドユニットが挿入される第1開口、および前記第2記録ヘッドユニットが挿入される第2開口が設けられ、前記弾性体は前記第1開口と前記第1記録ヘッドユニットの間の隙間、および前記第2開口と前記第2記録ヘッドユニットの隙間に弾性変形して介在することを特徴とする、請求項1記載の記録装置。
【請求項3】
前記弾性体の一部は前記第1開口と前記第2開口の間の前記ホルダの構成部材に巻き付くように設けられ、同一の前記弾性体が前記第1記録ヘッドユニットの側面のうち前記第2記録ヘッドの側面に対向する面、および前記第2記録ヘッドユニットの側面のうち前記第1記録ヘッドの側面に対向する面に接触することを特徴とする、請求項2記載の記録装置。
【請求項4】
前記弾性体が前記第1開口と前記第2開口の間の前記ホルダの構成部材に巻き付く際には、前記ホルダの構成部材の上面と、第1の記録ヘッドユニットの側面および第2の記録ヘッドユニットの側面とに各々対向する前記ホルダの構成部材の側面とに固着されており、
前記第1開口と前記第2開口の間のホルダの構成部材の下面には設けらないことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の記録装置。
【請求項5】
前記第1記録ヘッドユニットおよび前記第2記録ヘッドユニットには各々前記ホルダに固定するための固定部が両脇に設けられ、且つ、前記ホルダは前記第1開口および前記第2開口の各々の両脇に設けられた位置決め部を有し、前記第1記録ヘッドユニットおよび前記第2記録ヘッドユニットはそれぞれの固定部が対応する前記位置決め部に位置決めされ且つ取り外し可能に固定され、固定された前記第1記録ヘッドユニットと前記第1開口との隙間および前記第2記録ヘッドユニットと前記第2開口との隙間に前記弾性体が弾性変形して介在して隙間が気密に封止されることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の記録位置。
【請求項6】
前記シート搬送部は搬送されるシートを支持する支持面を持ったプラテンを有し、前記第2ローラは前記支持面に回転可能な状態で埋め込まれていることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の記録装置。
【請求項7】
前記狭空間において前記第2記録ヘッドの近傍で気体の湿度を検出する湿度センサをさらに有し、前記湿度センサの検出にもとづいて前記加湿部が制御されることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の記録装置。
【請求項8】
前記狭空間に上流から下流に流れた加湿気体を再び上流から流すための還流ダクトをさらに有することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の記録装置。
【請求項9】
前記第1記録ヘッドユニットおよび前記第2記録ヘッドユニットにはそれぞれ、前記狭空間に露出しない部位にワイヤハーネスの引出口が設けられていることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の記録装置。
【請求項10】
前記記録ヘッドユニットは、前記インクノズルの駆動制御のための回路基板が内蔵され、前記ワイヤハーネスは前記回路基板に接続されていることを特徴とする、請求項9記載の記録装置。
【請求項11】
前記記録ヘッドユニットは、前記インクノズルを備えたヘッド部とインクを蓄積するインクタンクとが一体になったユニットであることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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