説明

記録装置

【課題】記録ヘッドに対する搬送ユニットの水平方向の位置決めを行うことを可能にする。
【解決手段】インクジェットプリンタは、用紙Pを搬送する搬送ユニット50と、搬送ユニット50によって搬送されてきた用紙Pに印刷するインクジェットヘッド2を有する記録ユニット5と、搬送ユニット50を印刷位置と退避位置との間を移動させる昇降機構70とを含んでいる。記録ユニット5には下方に突出した位置決めピン6cが形成されており、搬送ユニット50には位置決め穴49が形成されており、これら位置決めピン6cと位置決め穴49とによって位置決め機構が構成されている。位置決め機構は、昇降機構70によって搬送ユニット50が退避位置から印刷位置に移動したときに、インクジェットヘッド2に対する搬送ユニット50の水平方向の位置決めを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に画像を形成する記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2つのベルトローラが複数のワイヤによって吊り下げられ、当該ワイヤの巻き取り巻き出しによって上下動可能な搬送ユニットを含むインクジェットプリンタについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−132499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1には、退避させていた搬送ユニットを印刷可能な位置まで戻す際の、インクジェットヘッドに対する搬送ユニットの位置決めに関する記載がない。つまり、単なるワイヤの巻き取りだけで搬送ユニットを印刷可能な位置に戻していると、搬送ユニットが水平方向に振れインクジェットヘッドに対する所定位置からずれる。このように、印刷可能な位置に配置された搬送ユニットがインクジェットヘッドに対して水平方向にずれると、インクジェットヘッドにより、搬送ユニットによって搬送されてきた用紙の所望位置に画像を形成することができなくなる。
【0005】
そこで、本発明の目的は、記録ヘッドに対する搬送ユニットの水平方向の位置決めを行うことが可能な記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の記録装置は、記録媒体を搬送する搬送ユニットと、前記搬送ユニットよりも上方に配置され、前記搬送ユニットによって搬送されている記録媒体に対して記録を行う記録ヘッドを有する記録ユニットと、前記搬送ユニットを吊り下げる複数のワイヤを有し、前記記録ヘッドによって記録媒体に記録可能な記録位置と前記記録位置よりも下方の退避位置との間において前記搬送ユニットを移動させる移動機構と、前記移動機構によって前記搬送ユニットが前記退避位置から前記記録位置に移動したときに、前記記録ヘッドに対する前記搬送ユニットの水平方向の位置決めを行う位置決め機構とを備えている。
【0007】
これによると、複数のワイヤで吊り下げられた搬送ユニットを退避位置から記録位置に移動させても、記録ヘッドに対する搬送ユニットの水平方向の位置決めを行うことが可能となる。このため、記録ヘッドによって記録媒体の所望位置に画像を形成することが可能となる。
【0008】
本発明において、前記位置決め機構は、前記記録ユニット及び前記搬送ユニットの一方に形成された位置決めピンと、前記記録ユニット及び前記搬送ユニットの他方の前記位置決めピンと対向する位置に形成された位置決め穴とで構成されていることが好ましい。これにより、位置決め機構の構成が簡単になる。
【0009】
また、本発明において、前記搬送ユニットには、下方に延在する棒状部材が固定されており、前記搬送ユニットの下方には、前記移動機構によって前記搬送ユニットが前記記録位置から前記退避位置に移動する際に前記位置決めピンが前記位置決め穴から抜けるまでに前記棒状部材が挿入される穴を有し、前記棒状部材の水平方向への振れを規制する規制部材が設けられていることが好ましい。これにより、搬送ユニットを記録位置から退避位置に移動させる際に、搬送ユニットの振れを規制することが可能となり、搬送ユニットが他の部材と接触しにくくなる。加えて、搬送ユニットを退避位置から記録位置に移動させる場合においては、位置決めピンが位置決め穴に挿入されるまで搬送ユニットの振れが規制されるので、位置決めピンを位置決め穴に確実に挿入しやすくなる。そのため、搬送ユニットの水平方向の位置決めをより一層確実に行うことが可能となる。
【0010】
また、本発明において、前記記録ユニットと前記搬送ユニットには、前記搬送ユニットが前記記録位置にあるときに前記記録ヘッドと前記搬送ユニットとの鉛直方向の離隔距離が所定の距離となるように、互いに当接する水平な位置決め面が形成されていることが好ましい。これにより、搬送ユニットを退避位置から記録位置に移動させても、搬送ユニットが記録位置に配置されたときには、当該搬送ユニットと記録ヘッドとの離隔距離が所定の距離となる。
【0011】
また、本発明において、前記移動機構が、前記ワイヤの一端が固定され当該ワイヤを巻き取り巻き出し可能な複数のプーリと、前記複数のプーリに回転力を付与する駆動手段と、前記搬送ユニットに固定され前記ワイヤの他端を保持する複数の保持部材とを有しており、前記保持部材内には、前記ワイヤが上端から下端へと通される中空部を有し当該ワイヤの他端と下端とが係合する弾性部材が設けられていることが好ましい。これにより、駆動手段で複数のプーリに回転力を付与して搬送ユニットを退避位置から記録位置に移動させた際に、搬送ユニットを水平な状態に保持することが可能となる。
【0012】
また、本発明において、前記プーリの外周側面には、巻き取られた前記ワイヤが配置されるスパイラル状の溝が形成されていることが好ましい。これにより、プーリ径を小さくすることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の記録装置によると、複数のワイヤで吊り下げられた搬送ユニットを退避位置から記録位置に移動させても、記録ヘッドに対する搬送ユニットの水平方向の位置決めを行うことが可能となる。このため、記録ヘッドによって記録媒体の所望位置に画像を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態によるインクジェットプリンタの内部構造を示す概略側面図である。
【図2】図1に示す搬送ユニット及び昇降機構の斜視図である。
【図3】(a)は図2に示す昇降機構の部分拡大図であり、(b)は図3(a)のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】本発明の一実施形態によるインクジェットプリンタのメンテナンス動作を示す部分側面図であり、(a)は搬送ユニットが印刷位置に配置されている状況を示し、(b)は搬送ユニットが印刷位置から退避位置に移動する際の状況を示し、(c)は搬送ユニットが退避位置に到達したときの状況を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
本実施形態におけるインクジェットプリンタ1は、図1に示すように、直方体形状の筐体1aを有しており、上部に排紙部15が設けられている。筐体1a内は、上から順に2つの空間S1,S2に区分されている。空間S1には、記録ユニット5及び搬送方向Aに用紙Pを搬送する搬送ユニット50が上方から順に配置されている。空間S2には、給紙ユニット10が配置されている。さらに、インクジェットプリンタ1には、これらの動作を制御する制御部100が含まれている。なお、本実施形態においては、搬送ユニット50で用紙Pを搬送するときの搬送方向Aと平行な方向を副走査方向とし、副走査方向と直交する方向であって水平面に沿った方向を主走査方向とする。
【0017】
記録ユニット5は、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインクをそれぞれ吐出する4つのインクジェットヘッド(記録ヘッド)2と、主走査方向に関して、これらインクジェットヘッド2を挟む位置に配置された板状の一対のフレーム3(図1には、一方のフレーム3のみを示している)と、これらフレーム3を連結する4つの連結部材4とを有している。フレーム3は、筐体1aに支持されている。4つのインクジェットヘッド2は、主走査方向の両端がフレーム3に支持されており、底面がインクを吐出する複数の吐出口が形成された吐出面2aとなっている。なお、吐出面2aは、フレーム3の下面と同じ平面レベルに位置している。
【0018】
また、一対のフレーム3のうち、他方のフレーム3(後述するフランジ58aと対向するフレーム)の下面には、図4に示すように、副走査方向に沿って互いに離隔した2つの位置決め部材6が設けられている。位置決め部材6は、水平な下面6aを有する基部6bと、下面6aから下方に突出した位置決めピン6cとを有している。
【0019】
インクジェットプリンタ1の内部には、図1に示すように、給紙ユニット10から排紙部15に向けて太矢印に沿って用紙Pが搬送される用紙搬送経路が形成されている。給紙ユニット10は、積層された複数の用紙Pを収容可能な給紙カセット11と、給紙カセット11から用紙Pを送り出す給紙ローラ12と、制御部100により制御され給紙ローラ12を回転させる給紙モータ(不図示)とを有している。
【0020】
給紙ローラ12は、給紙カセット11に積層して収容された複数の用紙Pのうち、最も上方にある用紙Pを送り出す。搬送ユニット50の図1中左方には、給紙カセット11から上方に向かって湾曲しながら延在する搬送ガイド17が設けられている。
【0021】
この構成において、制御部100の制御により、給紙ローラ12が図1中時計回りに回転することによって、給紙ローラ12と接触した用紙Pが搬送ガイド17を通って搬送ユニット50に送り出される。
【0022】
搬送ユニット50は、図1及び図2に示すように、給紙ユニット10から送り出された用紙Pを搬送方向Aに搬送する搬送部51と、搬送部51を下方から支持するトレイ65とを有している。搬送部51は、2つのベルトローラ52,53と、両ローラ52,53間に架け渡されるように巻回されたエンドレスの搬送ベルト54と、搬送ベルト54の上側ループを内周側から支持する吸着プラテン55と、これら部材52〜55を主走査方向に挟む位置に配置された板状の一対の支持部材56a,56bとを有している。さらに、搬送部51は、ベルトローラ53を回転させる搬送モータ(不図示)と、吸着プラテン55に電圧を印加する電源(不図示)とを有しており、これら搬送モータ及び電源はともに制御部100に制御されている。
【0023】
吸着プラテン55は、搬送方向Aに沿って長尺な複数の長尺部が主走査方向に沿って交互に配置された一対の櫛歯電極(不図示)を有しており、これら電極に電圧が印加されることで搬送ベルト54の搬送面54aに用紙Pを吸着する装置である。
【0024】
一対の支持部材56a,56bは、2つのベルトローラ52,53を回転可能に支持している。また、一対の支持部材56a,56bの内面には、吸着プラテン55の主走査方向の両端が固定されている。また、一対の支持部材56a,56bの副走査方向の両端には、両者を連結する連結板57a,57bが設けられている。これら連結板57a,57bの上部は搬送ベルト54に沿って湾曲している。特に連結板57bの上部は、搬送面54aに吸着された用紙Pと搬送面54aとの間に入り込んで、搬送面54aから当該用紙Pを剥離する。
【0025】
支持部材56aの外面には、図2に示すように、取手41が固定されており、搬送部51のトレイ65に対する着脱が容易になっている。また、一対の支持部材56a,56bの外面の上部には、副走査方向に延在したフランジ58a,58bが固定されている。フランジ58a,58bは、鉛直方向に関して、一対のフレーム3と対向する位置に配置されている。
【0026】
フランジ58aには、鉛直方向に貫通した孔59aを有する2つの位置決め部材59が固定されている。孔59aは、上端から下端にかけて内径が徐々に小さくなる円形のすり鉢形状を有している。これら位置決め部材59は、孔59a内に位置決めピン6cが挿入可能なように、孔59aが鉛直方向に沿って位置決めピン6cと対向する位置に配置されている。また、フランジ58aの孔59aと対向する位置には、孔59aの最小径と同径であって孔59aに連続して貫通する孔48(図4参照)が形成されている。これらフランジ58aの孔48と位置決め部材59の孔59aとによって位置決め穴49が構成され、これら位置決めピン6cと位置決め穴49という簡単な構成で位置決め機構が構成されている。
【0027】
本実施形態においては、位置決め穴49が鉛直方向に貫通する孔によって構成されているが、フランジ58aの下面に当該位置決め穴49と連通する位置に下端が閉塞した筒体を固定して、位置決め穴としてもよい。つまり、本実施形態の位置決め穴は、貫通するもの及び貫通しないもののいずれでもよい。
【0028】
また、位置決め部材59の上面59bは水平な面となっている。このように、上面59bと下面6aは、搬送ユニット50が後述の印刷位置に配置されたときに互いに当接し、インクジェットヘッド2と搬送ユニット50との鉛直方向の離隔距離が所定距離となるように位置決めする位置決め面を構成している。これにより、搬送ユニット50が後述の退避位置から印刷位置に移動してきたときには、当該搬送ユニット50とインクジェットヘッド2との離隔距離を所定距離に保つことが可能となる。
【0029】
また、支持部材56aの下端部には、下方に向かって開いた2つの凹部60が形成されている。なお、支持部材56bの下端部にも、これら凹部60と対向する位置に同様の凹部(不図示)が2つ形成されている。
【0030】
トレイ65は、図2に示すように、上方に向かって開口した凹部66を有し、搬送部51が主走査方向に沿って着脱可能なように、装着方向B(主走査方向に平行な方向)の上流壁が欠設されている。凹部66の底面には、主走査方向に延在した2本のガイドレール67が設けられている。これらガイドレール67は、搬送部51がトレイ65に装着される際に、凹部60に通され当該搬送部51を主走査方向に沿って案内する。
【0031】
トレイ65の下面には、図1に示すように、鉛直方向に延在した2本のガイドピン68が固定されている。トレイ65の凹部66の底面であって装着方向Bの下流端部には、底面より凹んだ2つの段差部64が形成されている。これら段差部64とガイドピン68は、鉛直方向に対向しており、段差部64内に設けられた固定ネジ69によってガイドピン68がトレイ65に固定されている。
【0032】
図1に示すように、搬送ベルト54を挟んでベルトローラ52と対向する位置には、押さえローラ7が配置されている。押さえローラ7は、給紙ユニット10から送り出された用紙Pを搬送面54aに押さえ付ける。
【0033】
また、押さえローラ7とインクジェットヘッド2aとの間には、用紙センサ8aが設けられている。この用紙センサ8aは、押さえローラ7によって押さえられた用紙Pの前端を検知する。また、用紙センサ8aとの間において記録ユニット5を挟む位置には、用紙センサ8bが配置されている。この用紙センサ8bも搬送ベルト54によって搬送されてきた用紙Pの前端を検知する。これら用紙センサ8a,8bは、制御部100に接続されており、用紙Pの検知信号を制御部100に送信する。
【0034】
この構成において、制御部100の制御により、ベルトローラ53を図1中時計回りに回転させることによって、搬送ベルト54が回転する。このとき、搬送ベルト54の回転に伴ってベルトローラ53及び押さえローラ7も回転する。また、このとき、制御部100の制御により、吸着プラテン55の一対の櫛歯電極に互いに異なる電位が印加されると、搬送ベルト54の用紙Pと対向する部分に正又は負の電荷が生じ、用紙Pの搬送ベルト54と対向する面に先の電荷とは極性の異なる電荷が誘起され、これら電荷同士が引き合うことで用紙Pが搬送ベルト54に吸着される。こうして、給紙ユニット10から送り出された用紙Pが、搬送ベルト54に吸着されながら搬送方向Aに搬送される。さらに、このとき、搬送ベルト54に吸着されつつ搬送されてきた用紙Pが各インクジェットヘッド2のすぐ下方を通過する際に、制御部100がインクジェットヘッド2を制御し、用紙Pに向けて各色のインクを吐出する。こうして、用紙Pに所望のカラー画像が形成される。
【0035】
図4に示すように、搬送ユニット50は、昇降機構(移動機構)70により、インクジェットヘッド2から吐出されたインクによって用紙Pに画像を印刷する際の印刷位置(記録位置)と、吐出面2aと搬送ユニット50との離隔距離が印刷位置におけるよりも大きくなる退避位置との間において、インクジェットヘッド2に対して上下に相対移動する。すなわち、搬送ユニット50は、図1に示されている、インクジェットヘッド2に近接した印刷位置と、印刷位置よりも下方に移動された退避位置との間において、上下動される。
【0036】
昇降機構70は、図1及び図2に示すように、主走査方向に延在した4本の軸71〜74と、各軸71,72に回転可能に取り付けられた4つのプーリ75〜78と、各軸73,74に固定された4つのプーリ81〜84と、4本のワイヤ90と、トレイ65に固定された4つの保持部材91と、軸73,74を回転させる駆動機構(駆動手段)95とを有している。
【0037】
これらプーリ75〜78,81〜84、ワイヤ90及び保持部材91は、4つ一組で1つの吊下機構を構成しており、これら4つの吊下機構によってトレイ65が吊り下げられている。2本の軸71,72は筐体1aに固定されており、2本の軸73,74は、軸71,72より下方位置において筐体1aに回転可能に支持されている。
【0038】
図3(a)に示すように、プーリ84には、ワイヤ90の一端を固定する固定部材85が設けられている。つまり、プーリ84は、ワイヤ90を巻き取り巻き出し可能なプーリである。また、プーリ84の外周面には、巻き取られたワイヤ90が配置されるスパイラル状の溝86が形成されている。このように、溝86が形成されていることで、プーリ径を小さくすることが可能となる。なお、他のプーリ81〜83もプーリ84と同様な構成であるため、その説明は省略する。
【0039】
プーリ78は、図3(b)に示すように、プーリ84よりもそのプーリ径が小さく、鉛直方向に関して部分的にプーリ84と重なっている。また、プーリ78には、プーリ84から巻き出されたワイヤ90が掛けられている。なお、他のプーリ75〜77もプーリ78と同様な構成であるため、その説明は省略する。
【0040】
保持部材91は、図3に示すように、鉛直方向に延在した中空部92aを有する筒状部材92と、筒状部材92の下部開口に挿入された円柱部材93と、中空部92aに配置された弾性部材94とを有している。筒状部材92の外周面には、2つのフランジ92bが形成されており、このフランジ92bを介してトレイ65に筒状部材92が固定されている。
【0041】
本実施形態においては、弾性部材94としてワイヤ90の他端が上端から下端へと通される中空部94aを有するコイルバネが採用されているが、ワイヤ90の他端を上から下に通すことが可能な中空部を有しておればどのような弾性部材であってもよい。また、弾性部材94は、搬送ユニット50の4分の1程度の重量と同等の圧縮力よりも若干大きな弾性復帰力を有している。
【0042】
円柱部材93には、鉛直方向に貫通する貫通部93aが形成されている。貫通部93aは、径が部分的に拡径した拡径部93bを有している。そして、円柱部材93の外周側面には、貫通部93aの断面形状とほぼ同形であって当該貫通部93aと繋がった開口(不図示)が形成されている。
【0043】
なお、ワイヤ90の他端には拡大部90aが形成されており、筒状部材92の上部の開口及び中空部92a、弾性部材94の中空部94a、及び、拡径部93bの径が、ワイヤ90の拡大部90aの径よりも大きくなっている。一方、貫通部93aの拡径部93b以外の部分の径は、ワイヤ径よりも大きく拡大部90aよりも小さくなっている。
【0044】
この構成により、ワイヤ90の拡大部90aを筒状部材92及び弾性部材94を通してから円柱部材93の開口を通じて拡径部93b内に配置し、円柱部材93を筒状部材92の下部開口から中空部92aに挿入すれば、ワイヤ90の他端が円柱部材93を介して弾性部材94の下端に係合する。こうして、ワイヤ90の他端が保持部材91で保持され、ワイヤ90によってトレイ65が吊り下げられた状態となる。
【0045】
駆動機構95は、図2に示すように、軸73,74の一端部に固定された3つのプーリ96a,96b,96cと、2つのプーリ96a,96bに架け渡されたベルト97と、制御部100に制御された駆動モータ(不図示)と、プーリ96cと駆動モータのプーリ(不図示)とに架け渡されたベルト98とを含む。
【0046】
この構成において、制御部100の制御により、駆動モータのプーリが正回転すると、ベルト98とプーリ96cも正回転(図2中装着方向Bから搬送ユニット50を見たときにプーリ96cが反時計回りに回転)する。すると、プーリ96a,96b、ベルト97、及び、軸73,74も正回転する。この軸73,74の回転によってプーリ81〜84が正回転するとともに、プーリ81〜84に巻き取られていたワイヤ90が巻き出され、搬送ユニット50が自重で印刷位置から下方の退避位置に向かって移動する。このとき、各弾性部材94には搬送ユニット50の自重の4分の1に相当する圧縮力しか加わっていないので、弾性部材94はほとんど縮んでいない。
【0047】
一方、制御部100の制御により、駆動モータのプーリが逆回転すると、上述とは逆に、プーリ81〜84が逆回転するとともに、巻き出されたワイヤ90がプーリ81〜84に巻き取られ、搬送ユニット50が退避位置から上方の印刷位置に向かって移動する。このとき、位置決め穴49に位置決めピン6cが挿入され、搬送ユニット50の水平方向の位置決めが行われる。また、搬送ユニット50が印刷位置に到達するときには、上面59bと下面6aとが当接するので、インクジェットヘッド2と搬送ユニット50との鉛直方向の離隔距離が所定距離となるように位置決めされる。
【0048】
なお、繰り返しの昇降や経年劣化によって、4本のワイヤ90のうちいずれかが僅かに伸び、例えば、ワイヤ90の巻き取りの際に2組の位置決め部材6,59のうち、一方の組の位置決め部材6,59の上面59bと下面6aとが他方の組よりも先に当接した場合、単にワイヤ90の他端をトレイ65に固定していると、すべてのワイヤ90が巻き取り不可能な状態となる。つまり、搬送ユニット50の搬送面54aが吐出面2aに対して傾いた状態となり、搬送面54aと吐出面2aとの離隔距離が場所によって異なる。
【0049】
しかしながら、本発明においては、ワイヤ90の他端が円柱部材93を介して弾性部材94に係合されているので、ワイヤ90の巻き取り力を弾性部材94の弾性復帰力を超えるように設定しておくだけで、弾性部材94が縮む。つまり、一方の組の位置決め部材6,59の上面59bと下面6aとが当接した後、弾性部材94の縮みしろ分だけワイヤ90を巻き取ることが可能となるため、ワイヤ90の伸びを吸収することができる。このため、他方の組の位置決め部材6,59の上面59bと下面6aとを当接させることが可能となる。したがって、搬送ユニット50を退避位置から印刷位置に戻す際に、搬送ユニット50(搬送面54a)を吐出面2aと平行な状態(水平な状態)に保持することが可能となる。
【0050】
図1に示すように、搬送ユニット50の下方であって給紙ユニット10の上方には、副走査方向に平行に延在する板状の規制部材45が筐体1aに固定されている。規制部材45は、鉛直方向に関して給紙ユニット10とは対向せず、トレイ65の装着方向Bの下流端部と対向する位置に配置されている。つまり、給紙ユニット10と、筐体1aの装着方向Bの下流側部分との間には、空間が形成されている。
【0051】
また、規制部材45のガイドピン68と対向する位置には、鉛直方向に貫通した2つの穴46が形成されている。穴46も、孔59aと同様に、上端から下端にかけて内径が徐々に小さくなる円形のすり鉢形状を有している。これら穴46の最小径は、ガイドピン68の径よりも若干大きく形成されており、搬送ユニット50が印刷位置から退避位置に移動してきたときに、ガイドピン68を通すことが可能となっている。
【0052】
なお、ガイドピン68の穴46を通過した部分は、上述の空間に配置されるので、給紙ユニット10とガイドピン68とは緩衝しない。また、穴46も、上述の位置決め穴49と同様に、規制部材45のガイドピン68と対向する位置であって下面から突出した突出部を有し、当該突出部に貫通しない穴を設けてもよい。つまり、本実施形態のガイドピン68が挿入される穴は、貫通していなくてもよい。
【0053】
また、規制部材45は、搬送ユニット50が印刷位置から退避位置に移動する際に、位置決めピン6cの先端が孔59aから抜けるまでに、ガイドピン68の先端が穴46に挿入されるような高さ位置に配置されている。換言すると、規制部材45は、搬送ユニット50が退避位置から印刷位置に移動する際に、ガイドピン68の先端が穴46から抜けるまでに、位置決めピン6cが孔59aに挿入される位置に配置されている。
【0054】
これにより、搬送ユニット50を印刷位置から退避位置に移動させる際に、搬送ユニット50の振れを規制することが可能となり、搬送ユニット50が他の部材と接触しにくくなる。加えて、搬送ユニット50を退避位置から印刷位置に移動させる場合においては、位置決めピン6cが孔59aに挿入されるまで搬送ユニット50の振れが規制されるので、位置決めピン6cを孔59aに挿入しやすくなる。このため、搬送ユニット50の水平方向の位置決めをより一層確実に行うことが可能となる。
【0055】
搬送ユニット50の搬送方向Aのすぐ下流側には、搬送ガイド9が設けられている。搬送ガイド9は、連結板57bによって搬送面54から剥離された用紙Pを搬送方向Aに沿って搬送されるように案内する。
【0056】
搬送ユニット50と排紙部15との間の搬送経路には、4つの送りローラ21a,21b,22a,22bと、送りローラ21a,21bと送りローラ22a,22bとの間に配置された搬送ガイド18とが配置されている。送りローラ21b,22bは、制御部100に制御される送りモータ(不図示)によって回転駆動される。この構成において、制御部100の制御により、送りローラ21b,22bが回転され、搬送ユニット50から排出された用紙Pが送りローラ21a,21bに挟持されながら搬送ガイド18を通されて図1中上方に送られる。そして、送りローラ22a,22bに挟持されながら排紙部15に送られる。なお、送りローラ21a,22aは、従動ローラであり用紙搬送に伴って回転する。
【0057】
続いて、メンテナンス動作について、図4を参照しつつ説明する。図4(a)に示すように、用紙Pを搬送ベルト54に吸着させながら搬送している際に、例えば、用紙Pの前端と最も下流に位置するインクジェットヘッド2の吐出面2aとが接触し、当該用紙Pにジャムが生じた場合は、用紙センサ8a,8bによって検出される。つまり、用紙センサ8aによって用紙Pの前端が検知された時刻から所定時間経過しても、用紙センサ8bが用紙Pの前端が検知されない場合、制御部100がこの用紙センサ8a,8b間においてジャムが生じたと判定する。このように制御部100が、ジャムが生じたと判定すると、メンテナンス動作が行われる。この場合、制御部100は、まず、搬送ユニット50を制御し、用紙Pの搬送を停止させる。
【0058】
次に、制御部100は、図4(b)に示すように、駆動機構95を制御して、搬送ユニット50を印刷位置から退避位置に向かって移動させる。このとき、位置決めピン6cが孔59aから抜けるまでに、ガイドピン68の先端が穴46に挿入される。そして、図4(c)に示すように、ガイドピン68が穴46に挿入された状態で搬送ユニット50が退避位置に到達すると、制御部100は、吸着プラテン55の一対の櫛歯電極間への電圧の印加を停止する。その後、ユーザが筐体1aに設けられた扉(不図示)を開け、ジャムした用紙Pを搬送ベルト54から取り除く。
【0059】
次に、制御部100は、ユーザが扉を閉めることで扉が開から閉になる検出信号に基づいて、駆動機構95を制御し、搬送ユニット50を退避位置から印刷位置に向かって移動させる。このとき、ガイドピン68の先端が穴46から抜けるまでに、位置決めピン6cが孔59aに挿入される。こうして、インクジェットヘッド2に対する搬送ユニット50の水平方向の位置決めが行われる。そして、搬送ユニット50が印刷位置に到達するときには、2組の位置決め部材6,59の上面59bと下面6aとが当接し、鉛直方向に関して、インクジェットヘッド2に対する搬送ユニット50の位置決めが行われる。こうして、用紙Pのジャム発生時におけるメンテナンス動作が終了し、制御部100の制御により、搬送ユニット50及びインクジェットヘッド2などが制御され、給紙ユニット10からの新たな用紙Pの搬送が開始され、当該用紙Pに対する印刷が行われる。
【0060】
以上のように、本実施形態のインクジェットプリンタ1によると、4本のワイヤ90で吊り下げられた搬送ユニット50を退避位置から印刷位置に移動させても、インクジェットヘッド2に対する搬送ユニット50の水平方向の位置決めを行うことが可能となる。このため、インクジェットヘッド2によって用紙Pの所望位置に画像を形成することが可能となる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述の実施形態においては、退避位置から印刷位置に搬送ユニット50を移動させる際に、インクジェットヘッド2に対する搬送ユニット50の水平方向の位置決めを位置決めピン6cと位置決め穴49によって行っているが、他の位置決め機構で水平方向の位置決めを行ってもよい。例えば、記録ユニット5又は搬送ユニット50の一方から突出した突出部と、記録ユニット5又は搬送ユニット50の他方に形成された突出部と当接可能な当接部とで位置決め機構を構成してもよい。また、位置決めピン6cは搬送ユニット50側に形成され、位置決め穴49が記録ユニット5側に形成されていてもよい。
【0062】
また、搬送ユニット50は、2又は3本のワイヤ90で吊り下げられていてもよいし、5本以上のワイヤ90で吊り下げられていてもよい。また、規制部材45及びガイドピン68が設けられていなくてもよい。また、軸73,74を個別に回転させる駆動機構を有していてもよい。この場合、軸73,74を同調させて回転させることが望ましい。また、ワイヤ90の他端をトレイ65に直接固定していてもよい。また、ワイヤ90を巻き取り巻き出すプーリに、スパイラル状の溝が形成されていなくてもよい。また、本発明は、インクジェットヘッド以外の記録ヘッドが採用された記録装置においても適用することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 インクジェットプリンタ(記録装置)
2 インクジェットヘッド(記録ヘッド)
5 記録ユニット
6a 下面(位置決め面)
6c 位置決めピン
45 規制部材
46 穴
49 位置決め穴
50 搬送ユニット
59b 上面(位置決め面)
68 ガイドピン(棒状部材)
70 昇降機構(移動機構)
81〜84 プーリ
86 溝
90 ワイヤ
91 保持部材
94 弾性部材
94a 中空部
95 駆動機構(駆動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を搬送する搬送ユニットと、
前記搬送ユニットよりも上方に配置され、前記搬送ユニットによって搬送されている記録媒体に対して記録を行う記録ヘッドを有する記録ユニットと、
前記搬送ユニットを吊り下げる複数のワイヤを有し、前記記録ヘッドによって記録媒体に記録可能な記録位置と前記記録位置よりも下方の退避位置との間において前記搬送ユニットを移動させる移動機構と、
前記移動機構によって前記搬送ユニットが前記退避位置から前記記録位置に移動したときに、前記記録ヘッドに対する前記搬送ユニットの水平方向の位置決めを行う位置決め機構とを備えていることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記位置決め機構は、前記記録ユニット及び前記搬送ユニットの一方に形成された位置決めピンと、前記記録ユニット及び前記搬送ユニットの他方の前記位置決めピンと対向する位置に形成された位置決め穴とで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記搬送ユニットには、下方に延在する棒状部材が固定されており、
前記搬送ユニットの下方には、前記移動機構によって前記搬送ユニットが前記記録位置から前記退避位置に移動する際に前記位置決めピンが前記位置決め穴から抜けるまでに前記棒状部材が挿入される穴を有し、前記棒状部材の水平方向への振れを規制する規制部材が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記記録ユニットと前記搬送ユニットには、前記搬送ユニットが前記記録位置にあるときに前記記録ヘッドと前記搬送ユニットとの鉛直方向の離隔距離が所定の距離となるように、互いに当接する水平な位置決め面が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記移動機構が、前記ワイヤの一端が固定され当該ワイヤを巻き取り巻き出し可能な複数のプーリと、前記複数のプーリに回転力を付与する駆動手段と、前記搬送ユニットに固定され前記ワイヤの他端を保持する複数の保持部材とを有しており、
前記保持部材内には、前記ワイヤが上端から下端へと通される中空部を有し当該ワイヤの他端と下端とが係合する弾性部材が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記プーリの外周側面には、巻き取られた前記ワイヤが配置されるスパイラル状の溝が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−88407(P2011−88407A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−245661(P2009−245661)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】