説明

記録装置

【課題】一つの記録品質での記録実行を、記録速度を変えても行うことができるようにすること。
【解決手段】本発明に係る記録装置の第1の態様は、搬送される被記録材Pに対して記録ヘッド2から液体Cを吐出して記録を実行すると共に記録実行速度が可変に構成されている記録実行部22と、前記記録実行部の記録実行動作を制御する制御部10とを備え、前記制御部は、少なくとも一つの記録品質での記録実行を、異なる記録速度によって実行可能に構成されている。例えば「普通品質」等の一つの記録品質での記録実行を、記録速度を変えても行うことができるように構成されている。従って、記録速度を変えることによって生じる記録品質が維持されない問題を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送される被記録材に対して記録ヘッドから液体を吐出して記録を実行すると共に記録実行速度が可変に構成されている記録実行部と、前記記録実行部の記録実行動作を制御する制御部とを備える記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から被記録材(以下、「用紙」ともいう)の被記録面に対して光硬化性インク(例えば紫外線(UV)硬化インク)を吐出する多数のノズル口を配列させたノズル列を有する記録ヘッドと、前記吐出された光硬化性インクに光を照射して該光硬化性インクを硬化させる複数の発光素子(例えばLED:Light Emitting Diode)を配列させた発光素子列を有する光照射部と、を備える記録装置が下記の特許文献1及び特許文献2に示すように開発されている。
【0003】
前記記録ヘッドが用紙の搬送方向と交差する方向に往復移動するキャリッジに対して搭載されるタイプの記録装置の場合には、記録ヘッドの往路移動時と復路移動時の両方で光硬化性インクに光を照射するため、下記の特許文献1及び特許文献2に示すように、各色のノズル列の左右両側に前記発光素子列が一列ずつ配置されていた。
【0004】
また、前記光硬化性インクとは別の種類の加熱固化性インクを使う記録装置であって、記録実行部が被記録材に吐出された前記加熱固化性インクを加熱固化するヒーター部を備える記録装置も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−104108号公報
【特許文献2】特開2004−314304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記光硬化性インクを使う記録装置や前記加熱固化性インクを使う記録装置等の従来の記録装置は、被記録材の一つの種類に対して一つの記録品質、例えば「普通品質」で記録を行う場合、その記録速度は一つが対応する構成である。すなわち記録速度を変えると記録品質も変る構成になっている。
従って、記録途中で記録速度を変えると記録速度の変更の前後において、異なる記録品質で記録が行われることになり、記録品質の一定性が維持されない問題が生じる。
【0007】
具体的に説明すると、例えば光硬化性インクを使う記録装置においては、前記発光素子列を構成するLED等の発光素子に故障が発生し、その故障が発生した発光素子が属する発光素子列を使わず残りの発光素子列だけで光照射を行って記録を継続する場合、故障発生前の記録速度のままでは前記故障によってトータルの光照射量は減少するため、光硬化性インクの硬化不足の虞があり、その結果、記録品質を低下する虞がある。
この場合、光照射部の被記録材に対する相対移動速度を遅くして記録速度を低下する、即ち光照射時間が長くなるようにすれば、光硬化性インクの硬化不足の問題は抑制することができる。しかし、上記の通り記録速度が変ることで記録品質が変わるので、前記故障発生前の記録品質と異なる記録品質で記録が継続される問題、即ち記録品質が維持されない問題が生じる。
【0008】
また、加熱固化性インクを使う記録装置においては、ヒーター部の一部が故障してパワーが低下した場合、インクの固化不良の虞があり、その結果、記録品質を低下する虞がある。
この場合、前記パワーが低下した分を補うために記録速度を下げる、すなわち加熱固化時間が長くなるようにすれば、インク固化不良の問題は抑制することができる。しかし、上記の通り記録速度が変ることで記録品質が変るので、前記故障発生前の記録品質と異なる記録品質で記録が継続される問題、即ち記録品質が維持されない問題が生じる。
また、ヒーター部による消費電力を節電するために、ヒーター部のパワーを下げて運転をする場合、前記パワーが低下した分を補うために加熱固化時間を長くする、即ち記録速度を下げると上記の通り記録品質が変るので、前記パワー低下の前と後で記録品質が異なる問題が生じる。
【0009】
例えば「普通品質」等の一つの記録品質での記録実行を、記録速度を変えても、すなわち異なる記録速度によって実行可能であれば、上記問題は低減できるが、従来そのようなことは考慮されていなかった。
【0010】
本発明の目的は、一つの記録品質での記録実行を、記録速度を変えても行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る記録装置の第1の態様は、搬送される被記録材に対して記録ヘッドから液体を吐出して記録を実行すると共に記録実行速度が可変に構成されている記録実行部と、前記記録実行部の記録実行動作を制御する制御部とを備え、前記制御部は、少なくとも一つの記録品質での記録実行を、異なる記録速度によって実行可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
記録装置における記録品質とは、被記録材の一つの種類に対して当該記録装置において予め用意されている例えば超高品質(以下「超高画質」とも言う)、高品質(以下「高画質」とも言う)、普通品質(以下「普通画質」とも言う)といった品質をいう。実際の操作においては「画質優先」や「記録速度優先」等で区別され、それらをユーザーに選択させることで実行されるのが一般的である。例えば、ユーザーが「画質優先」を選択すると「超高品質(超高画質)」や「高品質(高画質)」の記録が実行され、「記録速度優先」を選択すると「普通品質(普通画質)」の記録が実行されるようになっている。
即ち、「画質優先」は、記録品質は高品質であるが記録速度が遅い、即ち記録時間が長くかかる記録を実行することであり、一方「記録速度優先」は、記録品質は普通であるが記録速度が速い、即ち記録時間が短い記録を実行することである。
【0013】
本態様において、「一つの記録品質」とは、前記予め用意されている例えば超高品質、高品質、普通品質といった品質をいう。そして、「一つの記録品質での記録実行を、異なる記録速度によって実行可能に構成されている」とは、例えば「普通品質」の記録動作を一つの記録速度V1だけでなく、前記速度V1と異なる記録速度V2によっても実行可能に構成されていることを意味する。これは記録ヘッドの駆動波形(液体の「吐出波形」とも言う)及び液体の吐出タイミングを記録速度V2に合わせて変えることにより実現可能である。
尚、異なる記録速度、例えば速度V1とV2で記録された「一つの記録品質(例えば「普通品質」での記録結果のそれぞれの品質の同一性は、厳密な同一性は必要としない。即ち、ユーザーが視覚的に同一品質であると認識するであろう範囲を予め設定し、該設定範囲に合わせて前記「異なる記録速度」が設定されるようになっている。
【0014】
本態様によれば、例えば「普通品質」等の一つの記録品質での記録実行を、記録速度を変えても行うことができるように構成されている。従って、記録速度を変えることによって生じる記録品質が維持されない問題を低減することができる。
【0015】
本発明に係る記録装置の第2の態様は、前記第1の態様において、前記制御部は、少なくとも一つの記録品質での記録実行に対して異なる記録速度による複数の記録モードを備えていることを特徴とするものである。
【0016】
本態様によれば、少なくとも一つの記録品質での記録実行に対して異なる記録速度による複数の記録モードを備えているので、即ち複数の記録モードが予め用意されているので、異なる記録速度に切り換えて前記一つの記録品質」での記録を継続する際の制御構造が単純化し、応答性も向上する。
【0017】
本発明に係る記録装置の第3の態様は、前記第1の態様において、前記制御部は、少なくとも一つの記録品質で記録を実行する際に、前記一つの記録品質での記録を異なる記録速度度で実行可能な代替の記録モードを演算部で演算して用意し、該代替の記録モードに切り換えて記録を実行可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
本態様によれば、少なくとも一つの記録品質で記録を実行する際に、前記一つの記録品質での記録を異なる記録速度度で実行可能な代替の記録モードを演算部で演算して用意する構成になっている。
記録開始の初期設定の段階で、ユーザーによって記録品質が決定されると、デフォルトで設定されている通常の記録速度で記録が開始される。その際、演算部が前記決定された記録品質と前記デフォルトの記録速度に基づいて、演算部が前記一つの記録品質での記録を異なる記録速度度で実行可能な代替の記録モードを演算し、用意する。これにより、記録速度の異なる前記代替の記録モードに切り換えての記録を継続が可能になっている。
【0019】
本発明に係る記録装置の第4の態様は、前記第1の態様から第3の態様のいずれか一つの態様において、前記記録実行部は、被記録材に対して光反応液を吐出するノズル列を有する記録ヘッドと、前記吐出された光反応液に光を照射して該光反応液を化学変化させる発光素子が前記ノズル列と同方向に並んで成る発光素子列を有する光照射部とを備え、前記光照射部は、前記発光素子列が複数列配設され、前記各発光素子列は複数の発光素子が直列接続されて成り、前記制御部は、前記光照射部の使用する発光素子列の列数N1及び該列数N1に対応する記録実行速度V1による記録実行と、前記光照射部の使用する発光素子列の列数N1よりも少ない列数N2及び該列数N2に対応すると共に前記記録実行速度V1よりも低速の記録実行速度V2による記録実行とを切り換えて、前記一つの記録品質での記録を実行可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0020】
ここで、本明細書中で使用する「光」とは、一般に短波長側が360nm〜400nm、長波長側が760nm〜830nmとされている可視光、該可視光よりも波長の短い1nm〜380nm程度の紫外線、該可視光よりも波長の長い780nm〜1mm程度の赤外線を含む範囲に加えて、更に、前記紫外線よりも波長の短い電磁波や前記赤外線よりも波長の長い電磁波を含んだ広汎な意味で使用する。説明を単純化するためである。
従って、「光反応液」といった場合には、同じく説明を単純化するために、一般に光の範囲とされている可視光、紫外線、赤外線の範囲に加えて、これらの範囲外に属する短波長ないし長波長の電磁波に反応して、化学変化する種々の液体を意味するものとする。
【0021】
本態様によれば、光照射部は、発光素子列が複数列配設されている。
従って、複数列の発光素子列の全てを点灯させて使用する場合は、全点灯によるトータルの光照射量が前記光反応液を化学変化させるための必要量を満たせばよいため、一つの列の発光素子が発光する照射量は、従来の一列構造の場合に比して低レベルに設定することが可能となる。これにより、各発行素子の発光に伴う負荷が軽減され、該発光素子の故障の虞を低減することができる。
【0022】
また、複数列の発光素子列の全てを点灯するのではなく、一部を点灯させて使用することも可能である。
この場合は、発光素子一つ当たりの照射量は、前記全点灯の場合よりは多くなるが、従来の一列構造の場合よりは低レベルに設定することが可能であると共に、各照射毎に点灯する発光素子列の組合せを全列の中で組み換えて変更する使い方が可能となる。この使い方により、各発光素子の使用頻度(点灯頻度)が低下するので、この点からも発光に伴う負荷が軽減され、発光素子の故障の虞を低減することができる。
【0023】
更に本態様によれば、前記制御部は、前記光照射部の使用する発光素子列の列数N1及び該列数N1に対応する記録実行速度V1による記録実行と、前記光照射部の使用する発光素子列の列数N1よりも少ない列数N2及び該列数N2に対応すると共に前記記録実行速度V1よりも低速の記録実行速度V2による記録実行とを切り換えて、前記一つの記録品質での記録を実行可能に構成されている。
従って、光硬化性インク等の光反応液を使い複数の発行素子列を備える記録装置において、前記発光素子列を構成するLED等の発光素子に故障が発生し、その故障が発生した発光素子が属する発光素子列を使わず残りの発光素子列だけ(使用する発光素子列の列数がN1からN2に減少)で光照射を行い、記録速度も低下(速度V1からV2に低下)させて記録を継続する場合であっても、記録品質は変らないで行える。これにより、LED等の発光素子の故障に基づいて記録速度を変えることになっても、記録品質が維持されない問題を低減することができる。
特に、記録途中でLED等の発光素子に故障が発生した場合の記録継続において、故障発生の前後において記録品質が維持されることの効果は大きいと言える。
【0024】
本発明に係る記録装置の第5の態様は、前記第1の態様から第3の態様のいずれか一つの態様において、前記記録実行部は、前記吐出された液体を加熱固化するヒーター部を備え、前記制御部は、前記ヒーター部の第1パワーW1及び該第1パワーW1に対応する記録実行速度V1による記録実行と、前記第1のパワーW1よりも低い第2パワーW2及び該第2パワーW2に対応すると共に前記記録実行速度V1よりも低速の記録実行速度V2による記録実行とを切り換えて、前記一つの記録品質での記録を実行可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0025】
本態様によれば、前記制御部は、前記ヒーター部の第1パワーW1及び該第1パワーW1に対応する記録実行速度V1による記録実行と、前記第1のパワーW1よりも低い第2パワーW2及び該第2パワーW2に対応すると共に前記記録実行速度V1よりも低速の記録実行速度V2による記録実行とを切り換えて、前記一つの記録品質での記録を実行可能に構成されている。
従って、加熱固化性インクを使いヒーター部を備える記録装置において、ヒーター部の一部が故障してパワーが低下した場合、前記パワーが低下した分を補うために記録速度を下げて記録を継続する場合であっても、記録品質は変らないで行える。これにより、ヒーター部の一部の故障に基づいて記録速度を変えることになっても、記録品質が維持されない問題を低減することができる。
【0026】
また、ヒーター部による消費電力を節電するために、ヒーター部のパワーを下げて運転をする場合に、記録速度を下げて運転しても、記録品質が維持されない問題を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1に係る記録装置の内部構造の概略構成を示す要部正面図。
【図2】本発明の実施例1に係る記録装置の内部構造の概略構成を示す要部平面図。
【図3】本発明の実施例2に係る記録装置の内部構造の概略構成を示す要部正面図。
【図4】本発明の実施例1に係る記録装置の通常時モード実行時の動作の流れを示すフローチャート。
【図5】本発明の実施例1に係る記録装置の故障時モード実行時の動作全体の大まかな流れを示すフローチャート。
【図6】本発明の実施例1に係る記録装置の故障時モード実行時の動作の詳細を示すフローチャート。
【図7】本発明の実施例1に係る記録装置の制御部の異なる内部構造(A)(B)を示すブロック図。
【図8】本発明の実施例3に係る記録装置の概略構成を示す要部側面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図1、図2、図4から図7に示す実施例1と、図8に示す実施例2と、図3に示す実施例3によって、本発明の記録装置1の構成と、該記録装置1の作動態様について具体的に説明する。
尚、以下の説明では、最初に図1、図2に基づいて本発明の記録装置1の基本的構成について説明し、次いで本発明の特徴的構成について前述した実施例1〜3の各実施例に基づいて順番に説明する。
【0029】
[実施例1](図1、図2、図4から図7参照)
図示の記録装置1は、バンド送り印刷が可能なインクジェットプリンター1(「記録装置」と同じ符号を使用する)である。このインクジェットプリンター1は、被記録材Pに対して光反応液Cを吐出するノズル列13を有する記録ヘッド2を備える記録実行部22と、前記吐出された光反応液Cに光Eを照射して該光反応液Cを化学変化させる発光素子としてのLED(発光ダイオード)15が前記ノズル列13と同方向に並んで成る発光素子列3を有する光照射部11と、前記各発光素子列3を形成している各LED15の故障を検知する故障検知部12と、前記記録実行部22の記録実行動作及び前記光照射部11の動作を制御する制御部10とを備えている。
【0030】
更に本実施例では、前記光照射部11は、前記発光素子列3が複数列配設され、前記各発光素子列3は複数の発光素子であるLED15が直列接続されている。
また、前記制御部10は、少なくとも一つの記録品質での記録実行を、異なる記録速度によって実行可能に構成されている。該制御部10は、前記光照射部11の使用する発光素子列3の列数N1及び該列数N1に対応する記録実行速度V1による記録実行と、前記光照射部11の使用する発光素子列3の列数N1よりも少ない列数N2及び該列数N2に対応すると共に前記記録実行速度V1よりも低速の記録実行速度V2(V2<V1)による記録実行とを切り換えて、前記一つの記録品質での記録を実行可能に構成されている。
【0031】
具体的には、制御部10は、前記故障検知部12がLED15の故障を検知したときは、故障したLED15の属する発光素子列3を除いた残りの発光素子列3にて(列数N2(N2<N1))記録を実行する故障時モードに移行するように構成されている。そして、該故障時モードとして前記記録ヘッド2及び光照射部11の前記被記録材Pに対する記録実行時の相対移動速度V2を前記故障発生のない通常時モードでの相対移動速度V1より遅く設定することが可能に構成されている。
更に、記録速度が低下(V1→V2)しても記録品質が変らない記録モードで記録ヘッド2から光反応液Cが用紙Pに吐出されるように構成されている。この記録速度が低下(V1→V2)しても記録品質が変らない記録モードは、ピエゾ方式のヘッド駆動回路における記録ヘッド2の駆動波形(光反応液Cの「吐出波形」とも言う)及び光反応液Cの吐出タイミングを、前記遅くなった記録速度V2に合わせて変えることにより実現される。記録ヘッド2の駆動波形は、記録ヘッド2の後述するノズル口14から吐出されるインクの量に対応しており、該駆動波形を変えることによってインク量が変り、これにより記録品質を調整することができる。
【0032】
以下、各構成要素について具体的に説明する。
当該インクジェットプリンター1は、用紙Pを搬送方向Aに所定のバンド送り量ずつ間欠的に搬送し得る搬送装置4と、複数のノズル口14が前記搬送方向Aと同方向に並んで成るノズル列13を備えている。該ノズル列13は、前記搬送方向Aと交差する方向Bに複数配列されている(図の符号13W、13C、13M、13Y、13K)。そして、該ノズル列13を形成している複数の前記ノズル口14から吐出される光反応液Cの一例である紫外線(UV)硬化インク(同じ符号Cを用いる)によって用紙Pの被記録面に所望の下地ないし画像を形成する記録ヘッド2を備えている。
【0033】
尚、本明細書中において「バンド」とは、用紙Pの搬送方向Aに沿って並ぶノズル列13のノズル列長に対応した幅を前記搬送方向に持った記録実行領域或いは記録実行されたものを意味する。
また、「バンド送り量」とは、前記バンドごとの記録を実行するにあたって用紙Pを実際に搬送する送り量を意味する。
【0034】
更に、このインクジェットプリンター1は、前記記録ヘッド2を搭載して前記交差方向Bに往復移動するキャリッジ5と、前記記録ヘッド2の前記交差方向B側の側傍に並設されるように前記キャリッジ5に対して搭載され、前記各ノズル口14から吐出されたUV硬化インクCに光Eの一例である紫外線(UV光)(同じ符号Eを用いる)を照射させて該紫外線(UV)硬化インクCを化学変化(例えば硬化)させる複数のLED15によって形成される発光素子列3によって構成されている光照射部11とを備えている。
【0035】
そして、前記発光素子列3が用紙Pの搬送方向Aと交差する方向Bに複数列配設されている。この点の詳細は後述する。
また、前記発光素子列3を形成している1つのLED15から照射される紫外線Eが、前記ノズル列13を形成している複数のノズル口14から各別に吐出されている紫外線硬化インクCの硬化に使用されている。
本実施例では、1つのLED15から照射される紫外線Eによって約36個のノズル口14から吐出された紫外線硬化インクCの硬化が一挙に賄えるように構成されている。
【0036】
図1、図2に示すように、搬送装置4は、記録実行領域6の上流位置に設けられる一対のニップローラーによって構成されている搬送用ローラー7と、前記記録実行領域6の下流位置に設けられる同じく一対のニップローラーによって構成されている排出用ローラー8と、を備えることによって一例として構成されている。
そして、前記搬送用ローラー7と排出用ローラー8を駆動するモーター9には、後述する制御部10から前記バンド送り量の搬送を指令する信号31が送信されて、用紙Pが前記バンド送り量ずつ間欠的に送られるように構成されている。
【0037】
記録ヘッド2は、本実施例では、下地用のインクC1を吐出する第1の記録ヘッド2Aと、画像形成用インクC2を吐出する第2の記録ヘッド2Bの二種類が設けられており、一例として図1、図2中の左方に第1の記録ヘッド2Aが配設され、図1、図2中の右方に第2の記録ヘッド2Bが配設されている。
尚、このうち第1の記録ヘッド2Aには、例えばホワイト(W)、ゴールド(G)、シルバー(S)等の下地用インクC1を吐出するノズル列13Wが設けられている。また、第2の記録ヘッド2Bには、一例としてシアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色の画像形成用インクC2を個別に吐出する4つのノズル列13C、13M、13Y、13Kが前記交差方向Bに所定の間隔を隔てて並設されている。
【0038】
そして、これらの各ノズル列13W、13C、13M、13Y、13Kには、後述する制御部10から各ノズル口14の位置に対応したインク吐出量及びインク吐出タイミングを指令する信号32、33が送信されて記録品質の調整が図られている。
また、図示のインクジェットプリンター1では、前記ノズル列13W、13C、13M、13Y、13Kの各ノズル口14から吐出されるインクCは、前述したように紫外線Eの照射を受けて、硬化する紫外線硬化インクである。
【0039】
「紫外線硬化インク」は、紫外線(UV光)Eを照射することによって硬化、定着する速硬性に優れたインクで、ヒーター加熱によって溶媒を蒸発させることによって硬化、定着する従来の顔料インクに比べて硬化後の体積収縮率が格段に小さいという特長を有している。
また、「紫外線硬化インク」は、溶剤成分を含んでいないため環境に優しく、紫外線Eを照射することによって瞬時に硬化するためインク吸収性の低いフィルム系の被記録材Pに好適なインクである。
【0040】
キャリッジ5は、前記交差方向Bに延びるキャリッジガイド軸18に沿って該方向Bに往復移動する前記記録ヘッド2の往復搬送装置である。
キャリッジ5を往復移動するための動力は、正逆転可能で単位ステップ毎の精密な送り制御が可能なモーター16から受けており、該モーター16の回転が図示しない歯付きベルトを介してキャリッジ5に伝達されるようになっている。
【0041】
光照射部11は、前記第1の記録ヘッド2Aの図1、図2中、一例として左側傍に配置されている前記下地用インクC1を硬化させる第1光照射部11Aと、前記第2の記録ヘッド2Bの図1、図2中、一例として右側傍に配置されている前記画像形成用インクC2を硬化させる第2光照射部11Bの二種類が設けられている。
そして、図示のインクジェットプリンター1では、前記二種類の光照射部11A、11Bが用紙Pの被記録面に吐出された前記紫外線硬化インクCに所定の照射量の紫外線Eを照射することで紫外線硬化インクCの硬化・定着を実行している。
【0042】
また、前記二種類の光照射部11Aと光照射部11Bは、本実施例ではそれぞれ5列の発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3Jによって構成されている。そして、これらの発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3Jには、前記二種類の記録ヘッド2A、2Bにおける各ノズル列13Wと13C、13M、13Y、13Kのノズル口14の配列に対応した配列の複数のLED15が設けられている。本実施例では発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3Jは、それぞれの列において各LED15が直列に接続されている。
そして、これらの各LED15には、後述する制御部10から各LED15の位置に対応した紫外線Eの照射量や照射の有無を指令する信号34、35が送信されて紫外線Eの照射量の調整と照射の有無の切り換えとが行われるようになっている。
【0043】
実施例1に係るインクジェットプリンター1では、前記基本的構成に加えて、前記各発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3Jを形成している各LED15の故障を検知する故障検知部12A、12Bと、該故障検知部12A、12Bからの故障検知情報36、37に基づいて前記二種類の記録ヘッド2A、2Bの動作と前記二種類の光照射部11A、11Bの動作を「通常モード」と、「故障時モード」とに切り換えて実行可能な制御部10と、を備えている。
更に、制御部10には故障報せ部17が接続されており、該故障報せ部17によってユーザーに故障情報を知らせるようになっている。
【0044】
前記故障検知部12は、本実施例では、記録ヘッド2の往復移動方向における両側にそれぞれ設けられた第1故障検知部12Aと第2故障検知部12Bによって構成されている。これらの第1故障検知部12A及び第2故障検知部12Bは、光照射部11の各LED15に対向する位置に設けられる各受光部20を備えている。各受光部20は前記LED15から個別に照射される紫外線の照射量を検出し、所定の照射量以下である場合に、そのLEDは「故障」であると診断するようになっている。そして、その診断結果である故障診断信号36、37が制御部10に送信されるようになっている。
尚、故障検知部12の具体的構造として、前記受光部20による構造に限定されず、例えば光照射部11の各構成部の電圧及び/又は電流値の変動を検出することで前記「故障」の有無を診断することもできる。
【0045】
一方、制御部10は、キャリッジ5の移動方向によって動作させる記録ヘッド2A、2Bと光照射部11A、11Bを適宜切り換えるようにし、動作が選択された記録ヘッド2と光照射部11に対して前述した「通常時モード」と「故障時モード」の二種類の動作モードが選択的に実行されるようになっている。
【0046】
尚、前記「通常時モード」では、ユーザーの選択によって前記5列ずつ設けられている発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3Jを全部使用する「全部使用モード」と、前記5列の発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3Jの一部を使用する「一部使用モード」とに切り換えて使用できるように構成されている。
【0047】
そして、前記「全部使用モード」では、二種類設けられる光照射部11A、11Bをキャリッジ5の往路移動時と復路移動時とで切り換えて使用し、各光照射部11A、11Bの使用時に前記5列の発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3Jを形成しているすべてのLED15をON状態にして紫外線Eの照射を実行する。
【0048】
一方、前記「一部使用モード」では、二種類設けられる光照射部11A、11Bをキャリッジ5の往路移動時と復路移動時とで切り換えて使用し、各光照射部111、19Bの使用時に前記5列の発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3Jの一つ又は二つ以上の発光素子列3を選択し、更にその選択する対象(二つ以上の場合は組合せ)を各照射毎に又は一定周期毎に5列の発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3Jの中で入れ換えて当該選択した発光素子列3のみのLED15をON状態にして紫外線Eの照射を実行し、他の発光素子列3のLED15をOFF状態にするようになっている。
【0049】
尚、使用する一つ又は二つ以上の発光素子列3を選択するに際して、現時点までの点灯回数や点灯時間に基づいて、規則的に使用する発光素子列3を順番に切り換えるようにしても良いし、或いは使用する発光素子列3をランダムに切り換えるようにすることも可能である。
【0050】
また、前記「故障時モード」では、前記制御部10は、故障したLED15の属する発光素子列3(例えば3G)を除いた残りの発光素子列3(例えば3A、3C、3E、3I及び3B、3D、3F、3H、3J)にて記録を実行する「故障時モード」に移行する。
そして、該「故障時モード」として、前記記録ヘッド2A、2B及び光照射部11A、11Bの前記被記録材Pに対する記録実行時の相対移動速度V2を前記故障発生のない「通常時モード」での相対移動速度V1より遅く設定するようになっている。
更に、記録速度が低下(V1→V2)しても記録品質が変らない記録モード(ヘッド駆動波形及びインク吐出タイミング)で記録ヘッド2から光反応液Cが用紙Pに吐出されるようになっている。
【0051】
本実施例では、前記相対移動速度V1、V2は停止状態の被記録材Pに対するキャリッジ5の移動速度になる。ラインプリンタの場合は、位置固定状態の記録ヘッドに対して搬送される被記録材Pの移動速度になる。
【0052】
本実施例では、前記記録ヘッド2A、2B及び光照射部11A、11Bの前記往復移動における往方向及び復方向の両方の相対移動速度V2を故障の無い状態における前記速度V1より遅く設定するように構成されている。従って、往路(往方向)と復路(復方向)の移動速度が同じであるので、往復動作における速度的な観点からの記録条件は同じになっている。
【0053】
尚、この場合、故障したLED15の属する光照射部11が前記往復移動における一方向(例えば往路)の移動で使用するものだけ(たとえば光照射部11A)である場合は、他方向(例えば復路)の移動に際して使用する光照射部(例えば11B)は故障したLED15が無いので、前記移動速度の低下によって故障したLED15が無い光照射部側は光照射量が少し過剰になる傾向がでる。そこで、光照射部(例えば11B)は、LED15に故障は無くても光照射量を光照射部11A、11Bの前記往復移動における両方向で同等になるように該光照射部(例えば11B)の発光素子列3のいずれかをOFF状態にする設定にしてもよい。
【0054】
また、故障したLED15の属する側の光照射部(たとえば光照射部11A)が光照射する移動方向のときだけ前記相対移動速度V2を前記速度V1より遅く設定するように構成することもできる。この場合は記録品質が変らない記録モード(ヘッド駆動波形及びインク吐出タイミング)も、各速度V1,V2に合わせて切り換わるように制御される。この構成にすると、記録実行のスループットの低下を半分に抑えることができる。
【0055】
以上説明したように、記録途中でLED15の一つが故障しても、故障したLED15の属する発光素子列3(例えば3G)を除いた残りの発光素子列3(例えば3A、3C、3E、3I)にて記録を実行する「故障時モード」に移行することができるので、前記残りの発光素子列3(例えば3A、3C、3E、3I)を用いて記録を継続することができる。その際、紫外線硬化インクCに照射されるトータルの光照射量は減少するが、前記記録ヘッド2A、2Bの記録実行時の前記相対移動速度V2を前記故障発生のない「通常時モード」での相対移動速度V1より遅く設定することによって、即ち単位面積当りに対する光の照射時間を長くすることによって前記トータルの光照射量の減少を補うことが可能になっている。
【0056】
更に、記録速度が低下(V1→V2)しても記録品質が変らない記録モード(ヘッド駆動波形及びインク吐出タイミング)で記録ヘッド2から光反応液Cが用紙Pに吐出されるようになっている。
【0057】
また、本実施例では、図2に示すように5列配設されている発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3Jは、用紙Pの搬送方向Aに所定ピッチで配設されている各LED15の用紙Pの搬送方向Aでの位置が各発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3J間で一致するように整列配置されている。
【0058】
従って、1つの発光素子列3でLED15に故障があった場合には、他の発光素子列3の搬送方向Aの同位置のLED15が当該故障したLED15の光照射量の不足を補うように作用する。
これに伴って、故障したLED15の光照射量の不足は、他の発光素子列3の搬送方向Aの同位置の1つまたは2つのLED15がそのすべてを受け持って、前記光照射量の不足を補って所望の紫外線硬化インクCの硬化を実行できるように構成されている。
【0059】
次に、図4から図7に示すフローチャート及びブロック図に基づいて、(1)通常時モード実行時と、(2)故障時モード実行時とに分けて本実施例に係るインクジェットプリンター1Aの動作の流れを具体的に説明する。
【0060】
(1)通常時モード実行時(図4参照)
本実施例では、前記LED15の故障が発生していない場合には、図4に示す「通常時モード」が制御部10において実行される。最初にステップS1で「全部使用モード」が選択されたのか「一部使用モード」が選択されたのかの判断が行われ、「全部使用モード」が選択された場合には、ステップS2に移行して前述した「全部使用モード」で記録が実行される。
【0061】
「全部使用モード」においては、全発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3Jの全ての点灯によるトータルの光照射量が前記光反応液Cを化学変化させるための必要量を満たせばよいため、一つの列の発光素子が発光する照射量は、従来の一列構造の場合に比して低レベルに設定することが可能である。これにより、各LED15の発光に伴う負荷が軽減され、該LED15の故障の虞を低減することができる。
【0062】
次に、ステップS3に移行して、キャリッジ5の移動方向(走査方向)が往路側であるのか復路側であるのかの判断が行われ、キャリッジ5の移動方向が往路側と判断された場合には、ステップS4に移行して第2の記録ヘッド2Bと第2光照射部11BをON状態にし、第1の記録ヘッド2Aと第1光照射部11AをOFF状態にして記録を実行する。
次に、ステップS5に移行して、印刷する残りの下地または画像があるか否かの判断が行われ、印刷する残りの下地または画像がないと判断された場合には、記録の実行が終了する。
【0063】
一方、前記ステップS5で印刷する残りの下地または画像があると判断された場合には、ステップS3に戻って、ステップS3〜S5の判断と動作が繰り返し実行される。
また、前記ステップS3でキャリッジ5の移動方向が復路側と判断された場合には、ステップS6に移行して第1の記録ヘッド2Aと第1照射部11AをON状態にし、第2の記録ヘッド2Bと第2光照射部11BをOFF状態にして記録を実行する。
【0064】
次に、ステップS7に移行して印刷する残りの下地または画像があるか否かの判断が行われ、印刷する残りの下地または画像がないと判断された場合には、記録の実行が終了する。
一方、前記ステップS7で印刷する残りの下地または画像があると判断された場合には、ステップS3に戻って、ステップS3、S6、S7の判断と動作と、前記ステップS3〜S5の判断と動作とが繰り返し実行される。
【0065】
また、前記ステップS1で「一部使用モード」が選択された場合には、ステップS8に移行して予め設定されている設定情報41に従って、使用する発光素子列3A、3C、3E、3G、3Iと発光素子列3B、3D、3F、3H、3Jを適宜、切り換えながら記録を実行する。
この場合は、LED15一つ当たりの照射量は、前記全点灯の場合よりは多くなるが、従来の一列構造の場合よりは低レベルに設定することが可能であると共に、各照射毎に点灯する発光素子列3の組合せを全5列の中で組み換えて変更される。これにより、各LED15の使用頻度(点灯頻度)が低下するので、この点からも発光に伴う負荷が軽減され、LED15の故障の虞を低減することができる。
【0066】
その際、本実施例においては、各LED15の前記ノズル列13の方向における位置が各列間で一致するように配置されているので、各照射毎に点灯する発光素子列3の組合せを全5列の中で組み換えて変更しても、照射される反応液が受けるトータルの光照射量は変らない。よって、記録品質のバラツキの発生を防止することができる。
【0067】
以後は、前述したステップS3〜S7と同様のステップS9〜S13を実行し、ステップS11ないしステップS13で印刷する残りの下地または画像がないと判断された場合に記録の実行を終了する。
【0068】
(2)故障時モード実行時(図5から図7参照)
図7は、本発明の実施例1に係る記録装置の制御部10の異なる内部構造(A)(B)を示すブロック図である。
(A)の制御部10は、少なくとも一つの記録品質での記録実行に対して異なる記録速度による複数の記録モード23を備えている。このように異なる記録速度による複数の記録モード23が予め用意されているので、異なる記録速度に切り換えて前記一つの記録品質」での記録を継続する際の制御構造が単純化し、応答性も向上する。
【0069】
(B)の制御部10は、少なくとも一つの記録品質で記録を実行する際に、前記一つの記録品質での記録を異なる記録速度度で実行可能な代替の記録モードを演算部24で演算して用意し、該代替の記録モードに切り換えて記録を実行可能に構成されている。図において符号25は記憶部を示し、該記憶部25に演算部24で求めた代替の記録モード(ヘッド駆動波形とインク吐出タイミング)が記憶される。
【0070】
記録開始の初期設定の段階で、ユーザーによって記録品質が決定されると、デフォルトで設定されている通常の記録速度で記録が開始される。その際、演算部24が前記決定された記録品質と前記デフォルトの記録速度に基づいて、演算部24が前記一つの記録品質での記録を異なる記録速度度で実行可能な代替の記録モードを演算し、用意する。これにより、記録速度の異なる前記代替の記録モードに切り換えての記録を継続が可能になっている。
【0071】
図5に戻って、先ず、ステップS14において、故障検知部12から送信される故障検知情報37の送信の有無が判断され、LED15の故障を検知したと判断された場合には、ステップS15の「故障時モードで記録する」に移行して、当該故障が検知されたLED15の存する発光素子列3(例えば3G)を除いた残りの発光素子列3(例えば3A、3C、3E、3I及び3B、3D、3F、3H、3J)及び記録速度が低下(V1→V2)しても記録品質が変らない対応する記録モードにて記録を実行する。このステップ15の詳細な内容については図6に基づいて後述する。
次に、ステップS16に移行して、故障検知部12から送信される故障検知情報37の送信の有無が再度判断される。
【0072】
ステップS16で、LED15の故障を検知したと判断された場合には、ステップS17に移行し、使用する発光素子列3を更に減らして残りの発光素子列3(例えば3A、3C、3E及び3B、3D、3F、3H、3J)にて記録を実行する。このステップ17の内容は前記ステップ15と基本的に同じであるが前記相対移動速度V2は前記ステップ15の状態よりも更に遅くなる。従って、記録速度が低下しても記録品質が変らない対応する記録モード対応する記録モードもステップ15とは異なるモードに切り換わって記録が実行される。
次に、ステップS18に移行して、故障検知部12から送信される故障検知情報37の送信の有無が三度判断され、LED15の故障を検知したと判断された場合に、そのままの記録を実行しても不良品となるときは記録の実行を終了する。
【0073】
また、前記ステップS16とステップS18でLED15の故障を検知しなかった場合には、ステップS19に移行し、前述した図4中のステップS3〜S7と同様のステップS19〜S23を実行し、ステップS21ないしステップS23で印刷する残りの下地または画像がないと判断された場合に記録の実行を終了する。
また、前記ステップS14において、LED15の故障を検知しなかった場合には、前述した図4中のステップS1に移行して通常時モードでの記録が実行される。
【0074】
[故障時モード実行時の動作の詳細](図6参照)
次に、前記ステップ15及びステップ17の故障時モードの内容を詳しく説明する。
制御部10は、前記故障検知部12がLED15の故障を検知したとき(ステップS30)は、予備のLED15が使える予備の発光素子列3が無い状態である否かを判断する(ステップS31)。予備の発光素子列3がある状態では、ステップ36に進み、その予備の発光素子列3に切り換えることで記録が継続されるようになっている。
【0075】
ステップ31で予備のLED15が無い状態と判断されたときはステップ32に進む。ステップ32では、キャリッジ5の往復移動におけるいずれの方向についても相対移動速度をV2(<V1)に下げることがユーザーによって予め選択されているか否かを判断する。
ユーザーによってキャリッジ5の往復移動におけるいずれの方向についても相対移動速度をV2(<V1)に下げることが予め選択されている場合は、ステップ33に進み、キャリッジ5の往復移動におけるいずれの方向についても相対移動速度をV2にて記録を継続する。
更に、記録速度が低下(V1→V2)しても記録品質が変らない記録モード(ヘッド駆動波形及びインク吐出タイミング)で記録ヘッド2から光反応液Cが用紙Pに吐出されて前記記録の継続が行われる。
【0076】
ステップ32で、キャリッジ5の往復移動におけるいずれの方向についてもユーザーによって相対移動速度をVtに下げることが予め選択されていない場合、即ち故障したLED15の属する側の光照射部(たとえば光照射部11A)が光照射する移動方向のときだけ前記相対移動速度をV2(<V1)に下げることが選択されている場合は、ステップ34に進む。
【0077】
ステップ34では、LED15の故障が両側で発生、即ち第1照射部11A及び第2照射部11Bの両方において発生している場合は、結果的にキャリッジ5の往復移動におけるいずれの方向についても相対移動速度をV2(<V1)に下げることになる。そこで、ステップ33に進み、キャリッジ5の往復移動におけるいずれの方向についても相対移動速度をV2にて、前記記録品質が変らない記録モードでの記録を継続する。
【0078】
ステップ34で、LED15の故障が両側ではなく片側、即ち第1照射部11Aと第2照射部11Bのいずれか一方で発生している場合は、ステップ35に進む。ステップ35では、故障したLED15の属する側の光照射部(たとえば光照射部11A)が光照射する移動方向のときだけ前記相対移動速度をV2(<V1)に下げ、他方向に移動するときは速度V1のまま記録を継続する。
この場合は記録品質が変らない記録モード(ヘッド駆動波形及びインク吐出タイミング)も、各速度V1,V2に合わせて切り換わるように制御される。
【0079】
尚、発光素子列3における前記故障は、オープンモードで起きる場合とショートモードで起きる場合の二通りがある。前記各発光素子列3は複数のLED15が直列接続されているので、オープンモードで故障した場合はその列の全てのLED15は消灯状態となるが、ショートモードで故障したときは故障していないLED15は発光状態を続ける。そのため、故障したLED15に対応する箇所の光照射量が他の箇所よりも少なくなり、それによってむらが生じ易い。
【0080】
本実施例では、オープンモードとショートモードのいずれのモードでLED15が故障してもその発光素子列3をOFFにし、故障時モードに移行して記録が行われるようになっている。これにより、前記むらの発生の問題なく、残りの発光素子列3によって記録を継続することができる。
【0081】
[実施例2] (図8参照)
実施例2は、加熱固化性インクを使いヒーター部を備える記録装置に本発明を適用した場合である。
本実施例2では、前記記録実行部22は、用紙Pに前記吐出された加熱固化性インクCを加熱固化するヒーター部26を記録ヘッド2の下流側に備えている。そして、前記制御部10は、前記ヒーター部26の第1パワーW1(例えば1000ワット)及び該第1パワーW1に対応する記録実行速度V1による記録実行と、前記第1のパワーW1よりも低い第2パワーW2(例えば800ワット)及び該第2パワーW2に対応すると共に前記記録実行速度V1よりも低速の記録実行速度V2による記録実行とを切り換えて、前記一つの記録品質での記録を実行可能に構成されている。
【0082】
本実施例2によれば、加熱固化性インクCを使いヒーター部26を備える記録装置において、ヒーター部26の一部が故障してパワーが低下した場合(800ワットに低下)、前記パワーが低下した分を補うために記録速度を下げて(V1→V2)記録を継続する場合であっても、実施例1と同様に記録品質は変らないで行える。これにより、ヒーター部26の一部の故障に基づいて記録速度を変えることになっても、記録品質が維持されない問題を低減することができる。
【0083】
また、故障とは無関係に、ヒーター部26による消費電力を節電するために、ヒーター部26のパワーを下げて運転をする場合に、記録速度を下げて運転しても、記録品質が維持されない問題を低減することができる。
【0084】
[他の実施例] (図3参照)
本発明にかかる記録装置1は、以上述べたような構成を有することを基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内の部分的構成の変更や省略等を行うことも勿論可能である。
例えば、図3に示した実施例2のように、記録ヘッド2が画像形成用UVインクC2を吐出する第2の記録ヘッド2Bだけで構成されているものであってもよい。この構造の場合は、前記実施例のように、下地記録(下地形成)を行えないが、被記録材が下地記録を必要としないものである場合に対応できる。
【0085】
また、発光素子列3の数は、前記実施例1〜2において採用した5列に限らず、2列〜4列であっても構わないし、6列以上設けることも可能である。
【0086】
また、上記実施例では、記録ヘッドが往復移動する構成のシリアルプリンタについて説明したが、記録ヘッドが移動しないラインヘッドを用いたラインプリンタにも本発明を適用できることは勿論である。
【0087】
また、記録ヘッド15から吐出される光反応液Cは、紫外線(UV)硬化インクに限られない。従って、紫外線(UV光)以外の他の波長の光Eによって化学変化する種々の光反応液Cが採用可能であり、発光素子15もLEDに限られない。具体的には、ある波長の光Eの照射を受けることによって色を変化させる光反応液Cを利用して被記録材Pの被記録面に画像を形成するようなインクジェットプリンター等に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 インクジェットプリンター(記録装置)、2 記録ヘッド、3 発光素子列、
4 搬送装置、5 キャリッジ、6 記録実行領域、7 搬送用ローラー、
8 排出用ローラー、9 モーター、10 制御部、11 光照射部、
12 故障検知部、13 ノズル列、14 ノズル、15 LED、
16 モーター、17 故障報せ部、18 キャリッジガイド軸、19 支持部材、
20 受光部、22 記録実行部、26 ヒーター部、31〜39 信号、
41 設定情報、P 用紙(被記録材)、A 搬送方向、B 交差する方向 、
C 紫外線(UV)硬化インク(インク)(光反応液)、
E 紫外線(UV光)(光)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される被記録材に対して記録ヘッドから液体を吐出して記録を実行すると共に記録実行速度が可変に構成されている記録実行部と、
前記記録実行部の記録実行動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、少なくとも一つの記録品質での記録実行を、異なる記録速度によって実行可能に構成されていることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載された記録装置において、
前記制御部は、少なくとも一つの記録品質での記録実行に対して異なる記録速度による複数の記録モードを備えていることを特徴とする記録装置。
【請求項3】
請求項1に記載された記録装置において、
前記制御部は、少なくとも一つの記録品質で記録を実行する際に、前記一つの記録品質での記録を異なる記録速度で実行可能な代替の記録モードを演算部で演算して用意し、該代替の記録モードに切り換えて記録を実行可能に構成されていることを特徴とする記録装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載された記録装置において、
前記記録実行部は、
被記録材に対して光反応液を吐出するノズル列を有する記録ヘッドと、
前記吐出された光反応液に光を照射して該光反応液を化学変化させる発光素子が前記ノズル列と同方向に並んで成る発光素子列を有する光照射部と、を備え、
前記光照射部は、前記発光素子列が複数列配設され、
前記各発光素子列は複数の発光素子が直列接続されて成り、
前記制御部は、前記光照射部の使用する発光素子列の列数N1及び該列数N1に対応する記録実行速度V1による記録実行と、前記光照射部の使用する発光素子列の列数N1よりも少ない列数N2及び該列数N2に対応すると共に前記記録実行速度V1よりも低速の記録実行速度V2による記録実行とを切り換えて、前記一つの記録品質での記録を実行可能に構成されていることを特徴とする記録装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載された記録装置において、
前記記録実行部は、前記吐出された液体を加熱固化するヒーター部を備え、
前記制御部は、前記ヒーター部の第1パワーW1及び該第1パワーW1に対応する記録実行速度V1による記録実行と、前記第1のパワーW1よりも低い第2パワーW2及び該第2パワーW2に対応すると共に前記記録実行速度V1よりも低速の記録実行速度V2による記録実行とを切り換えて、前記一つの記録品質での記録を実行可能に構成されていることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−223959(P2012−223959A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92767(P2011−92767)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】