説明

記録装置

【課題】 記録dutyに応じて適度な加熱量が異なることで生じるインク粘度のばらつきを減らすことで、転写率を均一に近づけて記録品質の低下を抑制する。
【解決手段】 転写式インクジェット記録において、中間画像の分割された領域ごとに、前記領域に付与されたインクが加熱手段で加熱された後に所定のインク粘度の範囲に収まるように、加熱手段を構成する複数の加熱素子をそれぞれ個別に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写式インクジェット記録方式の記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、中間転写体にインクジェット方式で中間画像(インク画像)をいったん形成して、形成した中間画像を記録媒体に転写する転写式インクジェット記録方式の記録装置が開示されている。良好な転写のためには中間画像のインク粘度が重要であるため、中間転写体に形成された中間画像をヒータなどで加熱することでインク溶媒を蒸発させて高粘度化する。特許文献1の装置では、中間転写体上に一枚の中間画像が形成し終わってから加熱することで、該中間画像の平均記録dutyに基づいて加熱制御が可能な転写式インクジェット記録方式の記録装置が提示されている。中間画像形成、加熱、転写の一連のプロセスを1つの記録サイクルとして記録媒体への画像形成を繰り返すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−182982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
出願人は、1つの中間画像の全体を一律に加熱すると、加熱後の中間画像のインク粘度にばらつきが生じ、転写された画像の品質に影響を与える可能性があることを見出した。そのメカニズムについて説明する。
【0005】
図1に示すグラフは、中間転写体の上におけるインクへの加熱量に対するインク溶媒の残存割合(%)を、インク調整時に含有される溶媒量を基準(100%)としてプロットしたものである。90%記録duty領域(A)と20%記録duty領域(C)についてそれぞれグラフにしている。加熱プロセスの最中にインク溶媒は徐々に蒸発していく。最終的に残存割合(%)が所定の範囲内となったら「適度なインク粘度」となる。本例では、「適度なインク粘度」は16%〜8%の範囲である。グラフから判るように、「適度なインク粘度」を得るのに要する加熱量は、(A)と(C)で異なる。つまり、中間画像を均一に加熱した場合、(C)では加熱量E〜Eの範囲内で「適度なインク粘度」となるのに対して、(A)ではE〜Eの範囲内で「適度なインク粘度」となる。このように、記録dutyに応じて「適度なインク粘度」となるための加熱量が異なる。
【0006】
特許文献1のように、加熱部が画像内を一様に加熱する場合には、最小記録duty領域と最大記録duty領域がともに「適度なインク粘度」となる加熱量を設定する。図1(a)の例では、加熱量E〜Eの間の加熱量Eを与えることで、画像内がすべて「適度なインク粘度」となる。
【0007】
しかしながら、最大記録duty領域と最小記録duty領域とは「適度なインク粘度」の許容範囲内ではあるものの、両者の「インク粘度」が異なる。つまり、最大記録duty領域は上側の転写不良領域(十分な粘度を有さず粘度不足)に近いインク粘度(点i)となり、逆に最小記録duty領域は図1の各々のグラフの下側の転写不良領域(粘度過剰)に近いインク粘度(点ii)となる。
【0008】
インク粘度が異なると、中間転写体から記録媒体への転写の特性が変化する。インク粘度が大きくなるほど、中間転写体へのインクの付着が強固になるので、記録媒体への転写がしにくくなる。そのため、転写プロセスにおいて同じ圧力を付与して転写すると、加熱後のインク粘度が大きい領域(C)はインク粘度が小さい領域(A)よりも記録媒体にインクが転写する度合い(転写率)が小さくなる。転写率が一定でないと転写後の画像に濃淡を生じることになる。とくに写真画像などの高い諧調性を有する画像を記録する場合には、記録品質の向上の妨げになる可能性がある。
【0009】
本発明は上述の課題の認識にもとづいてなされたものである。本発明の目的は、転写式インクジェット記録において、加熱プロセス後の中間画像のインクが場所によらずインク粘度が一律に近づくようにすることで、高品質な画像記録を実現する手法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、中間転写体と、前記中間転写体にインクを付与して中間画像を形成する記録ヘッドと、前記中間画像が形成された前記中間転写体を加熱する加熱手段と、前記加熱手段で加熱された前記中間転写体に形成された前記中間画像を記録媒体に転写する転写手段と、を有する記録装置であって、前記加熱手段は分割された複数の加熱素子を含み、前記中間画像の仮想的に分割された領域ごとに、前記領域に付与されたインクが前記加熱手段で加熱された後に所定のインク粘度の範囲に収まるように、前記複数の加熱素子をそれぞれ個別に制御する制御手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、転写式インクジェット記録において、加熱プロセス後の中間画像のインクが場所によらずインク粘度が一律に近づくように加熱を制御するので、高品質な画像記録を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】加熱量に対するインク溶媒残存割合をプロットしたグラフ図
【図2】記録装置の全体構成を示す断面図
【図3】制御系のブロック図
【図4】中間転写体上で中間画像が分割された様子を示す図
【図5】加熱部の加熱素子の配列を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
図2は、第1の実施形態の転写式インクジェット記録方式の記録装置の全体構成図である。中間転写体1は、軸13を中心として矢印方向に回転する2つのドラム状の回転体12と、2つの回転体12の周囲を取り巻いて回転する無端状の転写ベルト10とからなる。転写ベルト10は金属材料からなり、転写ベルト10の外側の表面にはインクを受容する表面層11が形成されている。
【0014】
中間転写体1の周囲には、中間画像形成、加熱、転写、冷却の一連のプロセスを1つの記録サイクルとして繰り返し実行するためのユニット群が配置されている。これらユニットは、記録ヘッド14(中間画像形成プロセス)、加熱部15(加熱プロセス)、転写ローラ17(転写プロセス)、冷却部19(冷却プロセス)である。記録ヘッド14は、複数の色に対応した複数のライン型インクジェットヘッドを有する。インクジェットヘッドの多数のノズルからインクを吐出させ、中間転写体1(転写ベルト10の表面層11)の上にインクを付与して中間画像(インク画像)を形成する。加熱部15は赤外線や遠赤外線などの熱線を含む電磁波を発生するヒータを有し、表面層11に対して熱線を直接照射するもしくは温風として吹き付けて加熱するものである。加熱部15は中間転写体1に形成された中間画像のインク溶媒を加熱によって短時間に蒸発させて高粘度化させる。転写ローラ17は、中間転写体1の上の高粘度化したインクを記録媒体16に押し付けて圧力をかけることで記録媒体16に画像を転写する。冷却部19は、1記録サイクルの時間を短縮化するために転写プロセス後の中間転写体を短時間に冷却して初期温度に戻すために設けられている。
【0015】
加熱部15は、図5に示すように、転写ベルト10の移動方向(X方向)に垂直な方向(Y方向)に沿って、複数に分割された加熱素子が少なくとも一列に配列された構造を有する。中間画像はX方向およびY方向において仮想的に複数の領域に分割される。加熱部15は、仮想的に分割された各画像領域に対して、Y方向において1つまたは複数の加熱素子が対応して設けられている。加熱素子の配列は一次元に限らず、二次元状のマトリクス配列としてもよい。
【0016】
加熱部15の各々の加熱素子は、各々の加熱素子は、たとえば赤外線や遠赤外線などの熱線を含む電磁波を発生するヒータを用いて、表面層11に対して熱線を直接照射するものである。あるいは、高温のガス(空気または空気以外のガス)を噴き出して表面層11に吹き付けるノズルを有するものであってもよい。各々の加熱素子は、制御部100の制御により、中間転写体に付与する加熱量を変化させることができるようになっている。加熱素子がノズルを用いたものである場合は、ノズルから噴き出すガスの流量および/またはガス温度を変化させることで加熱量を調整する。
【0017】
図3は本実施形態の記録装置の制御システムのブロック図である。コントローラである制御部100は、CPU、ROM、RAM、カウンタより構成される。ROMは、CPUが実行する制御プログラムを格納する。RAMは、画像データ等を一時的に置くためのワーキングエリアと外部機器120から入力された各種データを格納するバッファエリアからなる。カウンタは、回転体12を動かすモータの駆動パルス数をカウントする。制御部100にはインターフェース101を介して、モータドライバ102、加熱部ドライバ104、ヘッドドライバ105が接続されている。モータドライバ102によって回転体12を回転させるためのモータ103が駆動される。加熱部ドライバ104を介して加熱部15の加熱状態が制御される。ヘッドドライバ105によって記録ヘッド14のインク吐出ノズルが駆動される。冷却部ドライバ106によって冷却部19が制御される。
【0018】
以上の装置構成における画像転写動作をプロセスの順に説明する。中間転写体1を図2の矢印の方向に回転させながら、画像データに応じて記録ヘッド14からインクを吐出させて転写ベルト10の表面層11の上に中間画像を形成していく(中間画像形成プロセス)。画像データは外部機器120から供給され、記録すべき画像に対応したデジタルデータである。
【0019】
図4(a)において、ドット領域110aは中間転写体1上に形成された中間画像の一例を示す。点の密度は画像の記録dutyの大小を表現している。ここで、「記録duty」とは、1回の走査で可能な最大の吐出回数に対する実際の吐出回数の割合をいう。たとえば、1ドットが1回の吐出によって形成される場合には、1回の走査領域で記録可能な画素数に対する実際に形成されるドット数の割合が記録dutyに相当する。制御部100では画像データから演算によって画像内の領域に対応した記録dutyに関する情報を取得することができる。この例では、ドット領域110aには密度の異なる3種類の領域が含まれている。記録dutyが90%の画像領域(A)、記録dutyが70%の画像領域(B)、記録dutyが20%の画像領域(C)の3種類である。ここでは理解を容易にするために3種類としているが、実際の画像はさらに多くの記録dutyから成り立っている場合が多い。
【0020】
中間画像形成プロセスによって中間転写体1上に形成された中間画像は、加熱部15によって加熱し、インク溶媒を蒸発させて高粘度化する(加熱プロセス)。次いで、転写部において、転写ローラ17と回転体12との間に転写ベルト10と記録媒体16とが挟持され、転写ローラ17が適度な挟持圧力をかけながら回転する。これにより、加熱プロセスによって適度に高粘度化した中間画像が記録媒体16に転写される(転写プロセス)。そして、冷却部19にて中間画像転写後の領域を所望の温度となるように冷却する(冷却プロセス)。
上述の加熱プロセスが本実施形態におけるポイントの一つであるため、以下詳細に説明する。
【0021】
図1(b)は本実施形態におけるインク粘度の設定を説明するための図である。「適度なインク粘度」の範囲(インク溶媒の残存割合16%〜8%)の中でも、画像転写にとって最も好ましいインク粘度はインク溶媒の残存割合がZ%(たとえば12%)である。このZ%に所定の誤差(たとえば2%)を見込んだ範囲(10%〜14%)を、加熱後の目標インク粘度として設定する。なお、「適度なインク粘度」が16%〜8%、Z%=12%というのは一例であって、表面層11の表面租度や材質によって、これらの数値は変わり得る。
【0022】
中間画像の分割された複数の領域それぞれが、目標インク粘度の範囲のインク粘度に収まるように、領域ごとに個別に加熱量を調整する。制御部100は、中間画像の仮想的に分割された領域ごとに、領域に付与されたインクが加熱された後に目標インク粘度の範囲に収まるように、領域に対応して設けられた加熱素子を制御する。
【0023】
制御部100は、図4(b)に示すように、一画像の領域をX方向m個、Y方向n個のm×nのブロックに仮想的に分割する。そして、ブロックの単位ごとに対応する画像データを参照して、その領域内の平均の記録dutyに関する情報を取得する。
【0024】
記録dutyごとに、加熱素子による加熱量と加熱後のインク溶媒の残存割合(%)の対応関係が、データテーブルもしくは計算式の形態で予め制御部100のメモリに格納してある。制御部100は、中間画像の仮想的に分割された領域ごとに取得した記録dutyに関する情報を元に、メモリに格納されているデータテーブルを参照もしくは計算式を用いて計算して、目標インク粘度の範囲のインク粘度に収まるための加熱量を設定する。図1(b)の例では、加熱後のインク溶媒の残存割合がZ%となる(A)と(C)はそれぞれ加熱量EとEiiである。加熱部15は、こうして設定された加熱量を各領域に与えるべく各加熱素子を駆動する。
【0025】
制御部100は、X方向に仮想的に分割された中間画像の各々の領域が加熱部15の加熱素子の直下を通過するタイミングに同期して、各々の加熱素子の加熱能力を制御する。図4(b)のように1列目であるX1の列が加熱部15を通過する瞬間は、3つの領域の記録dutyの大小関係は、領域(C)<領域(B)<領域(A)であるので、対応する加熱素子による加熱量の大小関係も、領域(C)<領域(B)<領域(A)となる。中間転写体の移動に伴って加熱素子に対向する分割領域は列X1から順にX2・・・Xmへと移行していく。制御部100は、中間転写体の移動に同期して各々の加熱素子の加熱量を変化させるよう制御することで、X方向においても各分割領域は個別に加熱される。
【0026】
以上説明したように本実施形態は、中間画像の分割された領域ごとに、領域に付与されたインクが加熱手段で加熱された後に所定のインク粘度の範囲に収まるように、複数の加熱素子をそれぞれ個別に制御するものである。そして、分割された領域に対応する中間画像の記録dutyに関する情報に応じて、当該領域に対応して設けられた加熱素子による加熱を制御する。
【0027】
これにより、図1(b)のように、記録dutyによらず加熱後のインク溶媒残存量がZ%近傍で一律となる。そのために、とくに写真画像などの高い諧調性を有する画像の記録品質が向上する。また、転写体、インクおよび記録媒体の特性によっては「転写不良」とならない領域が非常に狭くなることもあるが、そのようなシビアな特性であったとしても良好な画像転写を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1 中間転写体
12 回転体
14 記録ヘッド
15 加熱部(加熱手段に対応)
16 記録媒体
17 転写ローラ(転写手段に対応)
19 冷却部
100 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間転写体と、
前記中間転写体にインクを付与して中間画像を形成する記録ヘッドと、
前記中間画像が形成された前記中間転写体を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段で加熱された前記中間転写体に形成された前記中間画像を記録媒体に転写する転写手段と、
を有する記録装置であって、
前記加熱手段は分割された複数の加熱素子を含み、
前記中間画像の分割された領域ごとに、前記領域に付与されたインクが前記加熱手段で加熱された後に所定のインク粘度の範囲に収まるように、前記複数の加熱素子をそれぞれ個別に制御する制御手段を有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記領域に対応する前記中間画像の記録dutyに関する情報に応じて、当該領域に対応して設けられた前記加熱素子による加熱を制御することを特徴とする、請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記記録dutyごとに前記加熱素子による加熱量と加熱後のインク溶媒の残存割合との対応関係を示すデータテーブルもしくは計算式を用いて、前記所定のインク粘度の範囲に収まるような前記加熱素子による加熱量を設定することを特徴とする、請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記加熱手段で加熱された前記中間転写体を冷却する冷却手段をさらに有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−91338(P2012−91338A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238580(P2010−238580)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】