説明

訪問診療支援システムおよび方法

【課題】 患者や被介護者の異常の兆候を的確に検出して医師に通知できること。
【解決手段】 利用者端末と通信ネットワークを介して繋がり、利用者端末から送られてくる情報をもとに利用者の健康状態の異常の兆候を検出して医師端末へ通知する訪問診療支援システムであって、質問情報と、当該質問に対して予想される一または二以上の回答情報と、各回答情報に関連付けて健康状態に関する要注意度を利用者ごとに保存した利用者ファイルと、利用者端末へ質問情報を送信する質問送信手段と、利用者端末から送られてくる利用者の回答を受信する回答受信手段と、前記利用者ファイルを参照して前記受信した回答に対する要注意度を抽出し、当該要注意度をもとに異常の兆候の有無を判定する異常兆候判定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔医療・介護に関する技術に係り、特にコールセンター等を介して在宅患者の状況を定期的に確認して、異常検出時は医師に通知する訪問診療支援システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、在宅患者や被介護者の安否を確認するシステムとして、患者宅のドアやトイレなどに種々のセンサを取り付けて、このセンサの入力信号の変化によって安否を判断するという手法が提案されている。(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、コールセンターから定期的に問診コールを行い、その結果異常が発見されたり、緊急時に患者宅から緊急信号が発信された場合には、予め登録した診療所や病院に通報するというシステムが提案されている。(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2001−6073号公報
【特許文献2】特開2002−99626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、患者の健康状態の異常を検出して医師に通知する場合、適切に異常を検出する必要がある。特に、遠隔で問診を行うような状況では、直接対面で問診を行うのに比べて本来必要な情報が正しく収集できない場合がある。このような場合、問診を行うオペレータのみにその判断を委ねると、異常の兆候を見逃してしまい治療が手遅れになる可能性がある。逆に、本来異常でないにもかかわらず、危険な状態と判断して緊急処置を行うようなケースが多発することにもなる。
【0005】
本発明は、上述のかかる事情に鑑みてなされたものであり、患者や被介護者の異常の兆候を的確に検出することができる訪問診療支援システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係わる訪問診療支援システムは、利用者端末と通信ネットワークを介して繋がり、利用者端末から送られてくる情報をもとに利用者の健康状態の異常の兆候を検出して医師端末へ通知する訪問診療支援システムであって、質問情報と、当該質問に対して予想される一または二以上の回答情報と、各回答情報に関連付けて健康状態に関する要注意度を利用者ごとに保存した利用者ファイルと、入力された質問を利用者端末へ送信する問診支援手段と、利用者端末から送られてくる利用者の回答を受信する回答受信手段と、利用者ファイルを参照して受信した回答に対する要注意度を抽出し、当該要注意度をもとに異常の兆候の有無を判定する異常兆候判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明では、遠隔診断支援システムに予め利用者ごとに、質問とその質問に対して予想される一または二以上の回答とを関連付け、さらに各回答には健康状態に関する要注意度情報を関連付けて保存しておく。そして、利用者端末へ質問情報を送信して、利用者からのレスポンスをもとに予め保存しておいた関連情報(利用者ファイル)を参照して要注意度を抽出し、当該要注意度をもとに異常の兆候の有無を判定する。この判定によって、異常の兆候ありと判定された場合は、医師端末へ回答情報と共に通知する。
【0008】
ここで、「端末」は通信ネットワークに繋がるパーソナルコンピュータや専用の端末装置のほか、電話(携帯電話を含む)も含む。なお、利用者端末は、TV電話など利用者の画像・映像を伝送できる機能を有するものが好ましい。
【0009】
また、「要注意度」とは、注意を要する度合いを意味する。「異常の兆候」とは、医師あるいは人間系によって異常ありの判定を行う前の状態で異常の可能性を含む趣旨である。
【0010】
本発明に係わる訪問診療支援システムでは、さらに、利用者ファイルは、回答情報として、質問に対して予想される回答に含まれる一または二以上のキーワードと当該キーワードの要注意度を互いに関連付けて保存し、異常兆候判定手段は、利用者ファイルを参照して、回答受信手段によって受信された回答に含まれているキーワードを抽出すると共に当該キーワードに関連付けられた要注意度を抽出し、当該要注意度をもとに異常の兆候の有無を判定することを特徴とする。
【0011】
本発明では、質問に対して予想される回答のうちキーワードを登録しておいて、利用者の回答の中に存在するキーワードに対応する要注意度を抽出して異常の兆候を判定する。これによって、記憶容量の節約を図ることができる。
【0012】
なお、複数のキーワードが存在する場合は、その要注意度がもっとも高いものについて判定するとか、一定の重みを付けて加重平均を行う等の手法によって異常の判定を行う。
【0013】
また、本発明に係わる訪問診療支援システムでは、利用者ファイルは、さらに利用者ファイルは、さらに質問情報に含まれるキーワードを保存し、異常兆候判定手段は、利用者ファイルを参照して、問診支援手段によって送信された質問、および、回答受信手段によって受信された当該質問に対する回答に含まれているキーワードを抽出し、両キーワード間の時間差を演算すると共に過去の時間差との変化率を演算し、当該変化率をもとに異常の兆候の有無を判定することを特徴とする。
【0014】
本発明では、質問と回答中に含まれてい各キーワード間の時間差を計測して、過去のデータと比較して、その変化率によって異常の兆候の有無を判定する。なお、質問の終了から、回答中のキーワードの開始までの時間であってもよい。
【0015】
また、本発明に係わる訪問診療支援システムでは、利用者端末から送られてくる回答は音声波形によって入力され、当該音声波形の強度または周波数を分析する波形分析手段を備え、異常兆候判定手段は、強度または周波数の履歴データによって異常の兆候の有無を判定することを特徴とする。
【0016】
本発明では、音声波形を分析して、履歴データと比較することによって異常の兆候の有無を判定する。
【0017】
なお、音声波形の分析の簡便な方法として、キーワード中の強弱の差、または、入力された回答情報のうちキーワードの音声波形における最高周波数と最低周波数との差を演算して、その差が所定値よりも小さくなった場合は、異常の兆候ありと判定するようにしても良い。
【0018】
本発明に係わる訪問診療支援システムでは、さらに、利用者端末から送られてくる認証情報によって、利用者ファイルに保存されている質問情報を送信して利用者の回答を促す質問送信手段を備え、異常兆候判定手段は、認証情報の受信が所定期間ないことによって安否判定を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明では、利用者が認証手段によって自発的に訪問診療支援システムに接続して、同システムから送られてくる質問に対して回答を行うようにする。この接続が所定期間内にあったかどうかによって安否判定を行う。
【0020】
また、本発明に係わる訪問診療支援システムでは、質問送信手段は、利用者端末へ質問情報を表示すると共に表示位置を含む表示条件を変更して質問に対する回答の選択肢を表示し、異常兆候判定手段は、質問と回答との整合性および要注意度をもとに利用者の異常の兆候の有無を判定することを特徴とする。
【0021】
本発明では、利用者が端末画面上で回答を指示入力する際、回答の表示位置を日によってあるいは接続ごとに変更して表示し、システム側でその整合性と回答の要注意度をもとに利用者の異常の兆候の有無を判定する。
【0022】
また、本発明に係わる訪問診療支援システムは、医師の診断結果を入力する診断結果入力手段と、診断結果をもとに利用者ファイルの要注意度を更新する利用者ファイル更新手段と、を備えたことを特徴とする。
【0023】
本発明では、医師の診断結果によって要注意度を更新することによって適切に異常の兆候を検出できるようにする。
【0024】
本発明に係わる訪問診療支援システムは、さらに、利用者の映像情報を受信し、受信した映像情報の所定領域の色彩情報を取得して保存する画像処理手段を備え、異常兆候判定手段は、過去の色彩情報と比較して所定の変化があったか否かによって異常の兆候の有無を判定することを特徴とする。
【0025】
本発明では、たとえば目の周りや頬の色を過去のデータと比較して所定の変化があった場合は異常の兆候ありと判定する。
【0026】
本発明に係わる訪問診療支援システムは、さらに、受話器または椅子座部上面に脈情報収集手段を設け、脈情報収集手段から通信ネットワークを介して送られてくる脈情報によって、健康状態の異常の兆候の有無を判定することを特徴とする。
【0027】
本発明では、受話器の指に触れる部分、またはは椅子の座部上で大腿部に触れる部分に脈センサを設けて利用者の脈情報を収集してシステムに送信する。
【0028】
本発明に係わる訪問診療支援システムでは、利用者端末は、リモコン等によって利用者の要求に応じて移動したときの位置座標を収集し、その位置座標データを用いて時間帯別に目標位置座標を演算して当該演算結果を位置座標のデータ数に基づいて優先順位をつけて格納する目標位置演算手段と、この優先順位に従って目標位置座標へ向けて移動する自動移動制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0029】
本発明では、逐次利用者の位置情報を収集するようにしておいて、予め設定された時刻の到来、一定期間の端末使用なし、あるいは、システムからの要求等の所定の条件をトリガとして、利用者のもとへ自ら移動する手段を設ける。
【0030】
また、本発明に係わる訪問診療支援方法は、利用者端末と通信ネットワークを介して繋がるサーバによって利用者端末から送られてくる情報をもとに利用者の健康状態の異常の兆候を検出して医師へ通知する訪問診療支援方法であって、サーバにおいて、質問情報と、当該質問に対して予想される一または二以上の回答情報と、各回答情報に関連付けて健康状態に関する要注意度とを予め保存するステップと、利用者端末へ質問を送信するステップと、利用者端末から送られてくる利用者の回答を受信するステップと、受信した回答に対する要注意度を抽出し、当該要注意度をもとに異常の兆候の有無を判定するステップと、異常の兆候ありと判定された場合は、医師へ通知するステップと、を含むことを特徴とする。
【0031】
本発明では、利用者の回答をもとに、その回答に対応付けられた要注意度によって異常の兆候を検出して医師に通知し、医師の診断結果をフィードバックして適切に異常の兆候の検出を行うようにする。
【0032】
なお、医師の診断結果のフィードバック方法としては、異常の兆候ありとして医師が診察した結果、新たな病気の発見あるいは投薬の変更などに変化があった場合は、兆候を検出した項目(回答情報もしくはそのキーワード)を有効として要注意度を増加させ、逆に診察の結果、このような変化が無かった場合は、その項目の要注意度を減少させるような方法がある。なお、診断結果のフィードバックを医師の電子カルテと連動させて行うようにすると効率的である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、患者や被介護者の異常の兆候を的確に検出することができ、医師の診療につなげることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態による訪問診療支援システムの機能ブロック図である。
【0035】
図1において、訪問診療支援システム1は、利用者端末2および医師端末3と通信ネットワーク4を介して繋がるサーバ装置として構成され、各端末2,3と通信を行うための送受信部13、訪問診療サービスのためのデータ処理を行う中央演算処理部14、データを保存する記憶部16、キーボードおよび電話等によって構成されデータや音声の入力および出力を行う入出力部12、テレビモニターなどによって構成される表示部12、および、オペレータの映像を入力するためのカメラ17を有している。
【0036】
また、中央演算処理部14は、通信ネットワーク4を介して端末2,3と送受信処理を行う送受信処理手段(機能)40、データの入出力処理を実行する入出力処理手段41、記憶部16に基本情報を登録する基本情報登録手段42、利用者ファイルを作成する利用者ファイル作成手段43、オペレータの問診を支援する問診支援手段44、利用者端末2に対して質問情報を送信する質問送信手段45、利用者端末2から送られてくる回答情報を受信する回答受信手段46、質問情報または回答情報から所定のキーワードを抽出するキーワード抽出手段47、利用者の健康状態の異常の兆候の有無を判定する異常兆候判定手段48、異常の兆候が発見された場合は医師端末3に通知する通知手段49、医師の診断結果を入力する診断結果入力手段50、診断結果をもとに利用者ファイルを更新する利用者ファイル更新手段51、入力された診断結果と利用者の健康状態のデータをもとに診療の品質のチェックを行う診療品質チェック手段52を有している。各手段40〜52は、中央演算処理部14の機能として実行されるものである。
【0037】
また、記憶部16は、質問すなわちコールセンターからの問い掛けの内容および想定される回答のひな型であるマスタファイル61、マスタファイル61をもとに利用者ごとに作成される利用者ファイル62、および、オペレータによる問診の結果と利用者の自発的な接続による入力データを保存する問診結果ファイル63を備えている。
【0038】
また、利用者端末2は、データの送受信を行う送受信部24、データの処理を行う中央演算処理部23、音声の入力および出力を行う入出力部21、テレビモニターなどの表示部22、および、利用者の映像を入力するためのカメラ25を有している。
【0039】
医師端末3も同様に送受信部34、中央演算処理部33、入出力部31を有している。なお、必要によりこの医師端末3にもカメラやモニターを設けるようにしても良が、一方、簡便な構成として携帯電話を医師端末3として使用するようにしても良い。
【0040】
次に、訪問診療支援サービスの概略の流れを説明する。
まず、利用者宅に利用者端末2を設置する。利用者には、同サービスに加入している担当医師が地域や専門性に基づいて割り当てられる。
【0041】
そして、コールセンターに設けられた訪問診療支援システム1からオペレータが利用者端末2へ入出力部11を介して安否確認の電話を行い、呼び出された利用者に対して問い掛けを行い、その回答情報を記憶部16に保存すると共に、カメラ17を通して利用者の健康状態を確認しその記録を問診結果ファイル63に保存する。
【0042】
問合せの結果は、随時、担当医師に提供されると共に特に異常の兆候が発見されたときには、緊急で医師に連絡され、医師が利用者宅を訪問して診療を行う。一方、システム1で異常が発見されない場合は、医師による定期的な訪問診療が行われる。
また、利用者端末2には、介護情報など利用者を対象とした種々の情報を提供する。
【0043】
次に、訪問診療支援システム1の動作を説明する。
<基本情報登録処理>
まず、基本情報登録手段42によって予め疾病別に質問内容とそれに対する標準回答のキーワードをマスタファイル61に登録する。
【0044】
図2は、マスタファイル61のデータ構成例である。質問内容ごとに質問ID(識別情報)が付され、その質問中のキーワードと利用者の想定される回答のキーワードおよびそのキーワードと関連付けて要注意度の数値が保存されている。たとえば、オペレータの「○○の調子はいかがですか」という問い掛けに対して、「あまり良くありません。」という利用者の回答を想定してオペレータ側のキーワードは「調子」、利用者側のキーワードは「あまり」、そして、この回答の要注意度は「3」と設定されている。ここで、「○○」は、利用者ごとに後述する処理によって、その疾病部位、たとえば、膝とか胃腸という部位名称が利用者ごとに設定されるようになっている。
【0045】
また、要注意度は、「通常」(問題なし)の場合は1、「注意」(注意が必要)の場合は3、「緊急」(緊急対応が必要)の場合は5というように離散的な数値が標準値として登録されている。
【0046】
<利用者ファイル登録処理>
利用者の加入があると、利用者ファイル作成手段43を起動して利用者ごとに利用者ファイル62を作成する。利用者ファイル62の作成は、マスタファイル61を参照して、加入時の質問用紙に記入された利用者の疾病部位を挿入して作成する。
【0047】
また、作成当初の利用者ファイル62の質問内容や回答キーワードは、マスタファイル61の標準的なキーワードが登録されるが、サービスの経過に伴って、オペレータが質問内容やキーワードを随時登録することができるようになっている。
【0048】
図3は、利用者ファイルのデータ構成例である。ここで、利用者ファイル62は、マスタファイル61の中でオペレータが指定した質問のIDおよび、疾病部位を挿入した質問内容、利用者回答のキーワードが保存されている。この質問内容については、利用者の疾病を入力することによって、自動的にマスタファイル61の質問情報の中の対応箇所がその疾病部位に置き換わるようになっている。また、各回答に関連付けて利用者ごとに要注意度が保存されている。
【0049】
<通信確認処理>
加入した利用者に対するサービス開始のための通信確認段階において、コールセンターのオペレータは、表示部12に表示されているその利用者ファイルの質問内容を見ながら、利用者に問い掛けを行う。質問内容は、質問文中にキーワードの部分が色替え等の識別表示されており、オペレータは、少なくともそのキーワードは的確に述べるようにする。
【0050】
また、適宜質問内容以外の会話を織り交ぜながら利用者をリラックスさせるように会話を行う。利用者端末2から送られてくる回答情報は、回答受信手段46によって、問診結果ファイル63に波形データとして逐次保存される。
【0051】
その後、利用者の会話を分析して、利用者ファイル62へ新たな質問項目を追加する。また、利用者の回答中のキーワードを抽出して利用者ファイル62に保存し、あるいは、標準設定されているキーワードを変更する。
【0052】
以上の処理によって利用者ファイル中の各データを準備してその利用者の訪問診療サービスを開始する。
【0053】
<健康情報収集処理>
(会話による収集)
オペレータは、訪問診療支援システム1の入出力部11を介して、利用者端末2へ電話をして、利用者が電話に応答した場合、カメラ27を通して送られてきた映像によって本人確認をする。
【0054】
本人確認を終えると利用者の健康状態に関する問い掛けを行う。この問い掛けは、オペレータが問診支援手段45を起動して、通信確認処理と同様な手順で実行する。
【0055】
以下、図4を用いて問診支援手段45の処理を説明する。
まず、オペレータは利用者の指定を行い、その利用者ファイルから質問情報を抽出する(S101)。そして、表示部12に表示されたキーワードの識別表示された質問文を参照しながら問い掛けを行う(S102)。この問い掛け情報は、送受信処理手段40、送受信部13等を介して利用者端末2に送られ、入出力21を通して利用者に伝えられる。
【0056】
一方、利用者がこの問い掛けに対して応答すると、その応答情報は利用者端末2から創出され、訪問診療支援システム1の回答受信手段46によって受信され、記憶部16の問診結果ファイル63に保存される。全ての質問が終了すると(S103)、問診結果ファイル63にオペレータによる判定を書き込んで終了する(S104)。
【0057】
図5は、問診結果ファイル63のデータ構成例である。利用者ごと、問診ごとに、各質問IDに対する回答(応答)中のキーワード、それらの個々の判定結果や総合判定結果、オペレータの判定、映像データ格納位置のポインタアドレス、および、医師の診断結果が保存可能になっている。
なお、利用者が電話に応答しない場合は、次の処理によって安否の確認等を行う。
【0058】
(端末からの入力による収集)
訪問診療支援システム1は、オペレータからの問い掛けのみでなく、利用者が自発的にシステム1に接続して安否情報、健康情報を入力することも可能にする。以下、その手法について説明する。
【0059】
まず、利用者を識別するために、予め利用者には認証カードを配布しておき、利用者は端末2に設けられた認証カードリーダ(図示せず)にその認証カードを挿入する。認証カードリーダによって読取られた認証コードは、利用者端末2を介して訪問診療支援システム1に送られ、認証コードの照合処理によって利用者の特定を行う。
【0060】
以下、図6を用いて利用者端末からアクセス要求があったときの処理を詳述する。
訪問診療支援システム1では、利用者端末2からアクセス要求があると、受信した認証コード(利用者識別コード)を入力して(S201)、認証OKならば(S202で「YES」)ならば、質問送信手段45を起動する。質問送信手段45は起動されると、まず、利用者ファイル62から質問情報を抽出し(S204)、さらにその質問に対する回答の選択肢を抽出する(S205)。
【0061】
そして、回答の選択肢表示位置の変更が必要な場合は(S206)、その表示位置情報を設定して(S207)、利用者端末2に質問おおよび回答の表示を行い利用者に回答の選択を促す(S208)。
【0062】
図7は、その表示画面の例である。日によって、図7(a)、(b)のように回答の表示位置を移動ないし変更する。これによって、利用者が正しく選択肢を選択できているか否かの判定を行う。なお、時期によって替える代わりに、一連の質問群の中に同じ内容の質問を重複して設けておき、その質問に対する回答の表示位置を変えるようにしても良い。このようにすれば、利用者の判断能力の判定のほか、質問に対する回答の不整合や利用者の真意の把握に利用することが可能となる。
【0063】
ステップS208の後、回答の入力があった場合には(S209)、その回答を問診結果ファイル63に保存する(S210)。一方、回答の入力が無く所定時間経過したときには(S211)、出力部12にアラームを出力する(S212)。なお、アラーム出力に替えて異常フラグをセットしておき、そのフラグ数あるいは質問との関連においてアラーム出力をするようにしても良い。
【0064】
以上のステップS204からS212までの処理を全ての質問について繰り返す(S203a、S203b)。
【0065】
<健康状態判定処理>
上述のオペレータまたはシステムによる問診処理の後、利用者の安否確認および健康状態に関する判定処理を実行する。以下、これらの処理の概要について説明する。
【0066】
(安否確認処理)
オペレータの電話による問い掛けに対する応答、あるいは、利用者によるシステム接続が所定期間内に無ければ、異常ありとして利用者宅へ急行する。
【0067】
問い掛けに対する応答あるいはシステム接続のいずれかが有れば、次に健康状態の異常兆候の有無の判定を行う。
【0068】
(健康状態の異常兆候判定処理)
システム1の異常兆候判定手段48は、問診結果ファイル63に保存されている質問IDごとの回答キーワードを抽出し、利用者ファイル62を参照して、そのキーワードに対応する要注意度を抽出する。そして、その注意度の値に基づいて、「緊急」、「注意」、「通常」のステータスをその質問IDに対応する判定結果欄に保存する。
【0069】
ステータスの分類の仕方として、たとえば、回答の要注意度が所定値以上(たとえば4以上)の場合は「緊急」状態とし、要注意度が所定範囲(2以上4未満の範囲)にある場合は「注意」状態とし、要注意度が所定値未満(2未満)の場合は「通常」状態として各判定結果欄に保存する。
【0070】
同じ質問に対して、キーワードが複数存在する場合は、各キーワードに対応する要注意度のうち最高値を用いて判定を行う。なお、最高値を用いる替わりに複数のキーワードの平均値を用いたり、キーワードによって加重平均を行うようにしても良い。
【0071】
以上、異常兆候判定処理の概要を説明した。以下、図8を用いて同処理の詳細を説明する。
【0072】
異常兆候判定手段48は、回答受信手段46からの指令または定期的に起動されると、まず電話応答か否かを判定する(S301)。電話応答の場合は、その利用者の問診結果ファイル63に保存されている回答中のキーワードを抽出し(S302)、さらに利用者ファイル62を参照してそのキーワードに対応する要注意度を抽出する(S303)。そして、その要注意度を問診結果ファイル63のその回答に対応する判定結果として保存する(S304)。以上のステップS302〜S304までの処理を質問の全項目について繰り返す(S305)。
【0073】
その後、各項目の判定結果に基づいて総合判定を保存する(S306)。この判定のしかたは上述の通りである。
【0074】
ステップS301で「NO」、すなわち、電話応答で無い場合は、利用者端末2から入力があったか否かを判定して(S307)、入力があった場合は問診結果ファイル63から質問項目ごとにそれに対応する回答データを抽出して(S308)、回答データの整合性の判定を行う。そして、異常ありの場合は(S309で「YES」)、異常計数カウンタをカウントアップする(S310)。以上のステップS308からステップS310までの処理を全項目について繰り返す(S311)。そして、異常計数カウンタの値によって緊急、注意、通常の判定を行って問診結果ファイル63に保存する(S312)。
【0075】
ステップS307で「NO」、すなわち端末からの入力も無い場合は、所定期間その状態が続いた場合は(S313)、アラーム出力を行ってオペレータあるいは担当の医師端末3に通知する(S314)。
【0076】
以上の処理によって訪問診療支援システム1において異常の兆候を判定する。そして、この判定に基づいて図9に示したような対応をとる。すなわち、オペレータとシステム1の判定のいずれかで「緊急」状態が存在すると(S401で「YES」)、医師端末3へ通知され、医師は直ちに利用者宅を訪問して診察を行う(S402)。なお、医師は、必要に応じて、医師端末3を介して問診結果ファイル63または映像データを参照する。このとき、医師端末3へは、会話映像と共に、緊急判定となったときの質問内容と回答のキーワードが表示される。
【0077】
また、最高ランクが「注意」状態の場合は(S403で「YES」)、そのステータスが医師端末3へ通知され、医師は端末3を介してシステム1に保存されている問診結果ファイル等を確認して診療の時期の判断を行う(S404)。
【0078】
最高ランクが「通常」の場合は医師端末3への通知は無く、医師は定期訪問に際して、同端末を通して問診結果ファイル63を参照する。
【0079】
なお、上記の処理において、ステップS403で、前回通常状態であったものが注意状態に変化した場合には、ステップS402に遷移して、直ちに利用者宅を訪問して診療を行うようにしても良い。
【0080】
<診断結果入力処理・利用者ファイル更新処理>
医師は、緊急に、または、定期的に利用者の診察を行った後、利用者の健康状態の変化方向を入力する。このデータは医師端末3を経由してシステム1に送られ、診断結果入力手段50を介して問診結果ファイル63の診断結果欄に書き込まれる。診断結果の入力が終わると利用者ファイル更新手段51が起動され、その診断結果に基づいて当該利用者の要注意度の補正が行われる。
【0081】
以下、図10を用いて利用者ファイル更新手段の処理について詳述する。
まず、医師端末3から診断結果の入力があると(S501で「YES」、その利用者の問診結果ファイル63の総合判定が緊急状態または注意状態の場合は(S502)、次に悪化方向か否かを判定して、悪化方向の場合は(S503で「YES」)、利用者ファイル62のその緊急状態または注意状態と判定することになった項目の要注意度を所定の率(たとえば、1.1倍)で増加させる。
【0082】
一方、ステップS503で「NO」の場合は、次に回復方向か否かを判定して、回復方向の場合は、要注意度を所定の率(例えば0.9倍)で減少させる(S506)。一方、診察の結果、健康状態に変化が無い場合は、要注意度は更新しない(S505で「NO」)。
【0083】
なお、上記の要注意度の補正のしかたは、悪化方向のときに1よりも大きな所定の率を掛け、回復方向の時には、1よりも小さな所定の率を掛けるというやり方であるが、これに限らず、たとえば所定の値で加減算したり、あるいは予め定めた変換表によって補正するようにしても良い。
【0084】
ステップS502で「NO」、すなわち、通常状態の場合には、悪化方向か否かを判定して(S507)、悪化方向の場合には、オペレータに問診内容または要注意度を見直すべきアラーム(注意メッセージ)を出力する(S508)。一方、診察の結果、健康状態に変化が無い場合は、要注意度は更新しない。
【0085】
<診療品質チェック処理>
緊急状態または注意状態の場合、診療後に利用者に対して体調がよくなったかどうかの質問を定期的に実施する。そして、医師ごとにその医師が担当する利用者について体調がさらに悪化しているという回答の割合を計算する。また、システムで利用者ごとの緊急状態継続期間を監視して、体調悪化率および緊急状態継続期間について診療単位あるいは医師ごとの統計を取る。これを同種の統計データと比較して有意差がある場合は、システム1の表示部12に表示出力する。
【0086】
これにより診療の主観的効果、客観的効果を把握して、改善につなげることができる。
なお、この統計データを医療機関審査機関によって分析して、医師と利用者のマッチングが適正であるか否かの審査を行うようにしても良い。
【0087】
本実施の形態によれば、質問に対する回答のキーワードに健康状態に関する要注意度(危険度レベル)を割り付けて、システムによって異常の兆候を検出するようにしたので、オペレータの判断による通知漏れを防止することができる。また、コールセンターからの問い掛けのみならず、利用者の自発的なシステムへの接続によっても安否確認ないし健康情報の収集を可能にしたので、利用者の生活のリズムに合わせたサービスの提供が可能となる。
【0088】
また、診療後に医師により利用者の健康状態の進行方向を入力するようにして、この入力情報をもとに要注意度を更新するようにしたので、利用者に適した質問項目の重み付けを構築していくことができる。特に健康状態が悪化する方向の場合は、異常の兆候をより敏感に発見する方向に動作するので利用者の健康状態を適切に管理することができる。
【0089】
さらに、診療後のコールセンターからの問い掛けの際の体調良否に関する質問の回答データによって、診療効果を把握するようにしたので医師と利用者の適正なマッチングが可能となる。
【0090】
次に、第2の実施の形態を説明する。図11に本実施の形態による訪問診療支援システムのブロック図を示す。
【0091】
第1の実施の形態との構成の主な違いは、利用者端末の受話器21に脈センサ26を設け、さらに訪問診療支援システム1の中央演算処理部14に波形分析手段53を追加したことである。
【0092】
図12は、本実施の形態による利用者端末2の外観斜視図である。ここで、利用者端末2は、コールセンターと通話をするための受話器21、通話相手を表示するための表示部22、カメラ25を有し、受話器21には、脈センサ26が取り付けられている。この脈センサ26は、受話器を取ったときに指の第2関節の近傍に接触するような位置に取り付けるのが望ましい。
【0093】
本実施の形態は、回答のキーワードのみでなく、質問の終了から回答のキーワードが出現するまでの時間、利用者の音声波形データ、および、脈センサ26から送られてくる利用者の脈情報を収集して、過去の履歴データと比較してその変化率をもとに異常の兆候の有無を判定するものである。
【0094】
以下、第1の実施との違いを中心に説明する。
<基本情報登録処理>
図13は、本実施の形態によるマスタファイル61のデータ構成例である。キーワードとその要注意度の他、応答時間の変化率、音声波形の変化率、脈情報の変化率、および、色情報の変化率に対してそれぞれ補正係数(または係数データという。)が保存されている。また、各変化率は、キーワードによる要注意度の範囲別に設定されている。
【0095】
なお、波形データとして一般的な音声解析技術を用いることもできるが、本実施の形態ではキーワード部分の音声データの強弱の差を用いる。
【0096】
<利用者ファイル登録処理>
上記のマスタファイル61をもとに利用者ファイル作成手段43によって利用者ごとに利用者ファイル62を作成する。図14は利用者ファイルの例である。各データ変化率に対応して補正係数が設定されている。
【0097】
なお、補正係数は、利用者の特徴を考慮してマスタファイル61のデータを修正して設定可能になっている。たとえば、応答時間が健康状態とは無関係にバラツキのある利用者に対しては応答時間の補正係数を小さくするなどである。
【0098】
<通信確認処理>
第1の実施の形態と同様に、コールセンターのオペレータは、利用者への問い掛けに対する応答に対して、キーワードの設定変更等を行う。
【0099】
また、これと同時に、音声データ、脈情報、映像情報の収集を行う。
【0100】
そして、音声データについては、質問の終了から応答開始までの時間差(mS)、キーワードにおける強弱のレベル差(dB)、脈情報(パルス/分)、および、映像情報をもとにした色情報(RGB値などの色単位)の収集を行う。なお、色情報としては、人間の顔における目の周辺などの色の変化しやすい領域の色を収集する。音声データについては、音声波形中の最高周波数と最低周波数の差、あるいは平均周波数などの値を用いるようにしても良い。
【0101】
<健康情報収集処理>
(会話による収集)
会話データのみならず、会話中の脈情報や色情報などの収集を行い、問診結果ファイル63に保存する。特に各収集データは時刻同期を行い、会話中の特定のキーワードに関連してそのタイミングの脈や色の情報を収集できるようにする。
【0102】
(端末からの入力による収集)
質問と回答の整合性チェックの他、脈情報や色情報を収集する。特に脈情報は、受話器に脈センサ26を取り付けている場合は、利用者の自発的な接続の場合は使用しないので、椅子の座部上側で大腿部に触れる部分に脈センサ26を取り付け、必要により受話器のセンサと併用するようにしてもよい。
【0103】
図15は、本実施の形態による問診結果ファイル63のデータ構成例である。各質問IDに対応して、応答時間や音声の波形分析データなどが保存されている。この他、図示しないが、回答のキーワードの入力と同期して入力された脈や色データなども保存されている。
【0104】
<健康状態判定処理>
安否確認処理については、第1の実施の形態と同様である。
異常兆候判定手段48の処理については、質問項目に対する回答の要注意度に対して、次の補正を行って、評価値を計算する。
【0105】
評価値=各項目の要注意度*(a*応答時間の変化率+b*音声波形の変化率
+c*脈情報の変化率+d*色情報の変化率)
【0106】
ここで、各変化率は過去のデータと比較したときの変化の割合を意味する。
また、a、b、c、dはその利用者の利用者ファイル62に保存されている補正値であって、各項目の要注意度に対応する補正値である。
【0107】
このように算出された評価値を所定の基準値と比較して、「緊急」、「注意」、「通常」の判定を行い、問診結果ファイル63の判定結果欄に保存する。
【0108】
特に、人間の会話は正常時は強弱の差があるが、健康状態が悪くなると、強弱の差が小さくなる傾向になる。また、老化が進むと反応時間が悪くなる傾向になる。このため、過去に収集したデータと比較し、変化の方向も考慮して補正係数を決めるようにするのが好ましい。
【0109】
診断結果入力処理、利用者ファイル更新処理、診療品質チェック処理については第1の実施の形態と同様である。
【0110】
本実施の形態によれば、キーワードの要注意度に関連付けて補正係数を持たせ、キーワードが存在しないか、影響度の少ないキーワードの場合は、補正係数の重みを大きくしているので、有効なキーワードが存在しない場合でも、脈情報等の他の入力情報によって異常の兆候を判定することができる。
【0111】
なお、本実施の形態では、補正係数をキーワード共通に設けたが、キーワード別に管理するようにしても良い。たとえば、「おはよう」の挨拶については、他の項目に対して応答時間の係数値を高くするなどである。また、応答遅延情報、脈情報、色情報などは、要注意度の補正として用いるのではなく、単独で異常の兆候の判定の条件に使用してもよい。
【0112】
なお、上記の各実施の形態では、訪問診療支援システムを運用するコールセンター、そのサービスの利用者、訪問診療を行う医師、および、医師のマッチングや審査を行う医療機関審査機関の処理手順を示したが、これを事業形態として成立させるために、コールセンターまたは独立した事業者に利用者端末の販売・設置・保守を担当させ、さらに、その利用者端末をリースするリース会社を仲介させるのが効果的である。そして、医師からシステムの運用手数料として定期的に所定の料金を徴収し、その料金で利用者端末のリース費や保守費、システムの運用費、医療機関審査機関への審査委託費を支払うようにする。
【0113】
このようにすれば、利用者の経済的な負担を軽減して、利用者宅への端末の設置を促進させることができる。また、医師にとっても訪問の負担を軽減しつつ、緊急事態を適切に把握して利用者の診療等に結びつけることができる。
【0114】
次に第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、図1または図11に示した利用者端末2を自律走行型ロボットにしたものである。
【0115】
以下、本実施の形態における利用者端末2について図16〜図23を参照して説明する。図16は、利用者端末2の正面外観図である。この図で、利用者端末2は、WEBカメラ25、マイク21a、スピーカ21b、表示部22、電話番号入力や利用者端末2を動作させるためのキー操作を行うプッシュボタン76、衝突を検知するための障害物センサ78、駆動輪79を有している。また、図示しないが、利用者端末2の本体72の内部には、駆動輪79を動かすための駆動モータ99、利用者の有するリモコンからの無線信号を受信するための無線受信機98、および、障害物センサ78や無線受信機98からのの信号を受けて、駆動モータ99を動かすための制御信号を出力する制御装置71を備えている。
【0116】
また、マイク21a、スピーカ21bは、電話の受話器として機能し、無線通信によって、訪問診療システム1のオペレータと通話を行うものである。また、WEBカメラ25を通して、利用者の映像が訪問診療システム1へ送られ、また、訪問診療システム1側のオペレータの映像が表示部22に表示される。
【0117】
次に、図17を用いて、制御装置71の機能を説明する。図17において、制御装置71の演算部81は、このロボット型端末2の自律走行の制御を行う自律走行制御手段86、端末2の位置情報を収集する位置座標収集手段87、利用者のリモコンからの指令を受け付けて利用者のもとへ移動する要求時移動制御手段83、移動先の位置情報を収集することによって自動的に移動する際の目標位置座標を演算する目標位置演算手段84、所定の条件によって目標位置へ自動的に移動する際の制御を行う自動移動制御手段85を有している。
【0118】
また、記憶部82は、端末2の位置座標データを格納する位置座標ファイル88と自動的に移動する際の目標位置の座標データを格納する目標位置座標テーブル89を備えている。
【0119】
自律走行制御手段86は、障害物センサ78からのデータを入力し、駆動輪79を動かすための駆動モータ99へ走行制御のための指令を送っている。
【0120】
上記の各手段83〜87は、通常コンピュータソフトウェアによって実現するものであるが、この手段の一部または全部をハードウェアで実現することも可能である。また、本実施の形態では、訪問診療支援システム1と通信ないし通話を行うための機能は、別の処理部(中央演算処理部23)によって実行することとするが、演算部81がこの機能も併せて実行することも可能である。
【0121】
次に、上記の構成を有する利用者端末2の動作を説明する。
利用者は、端末2を利用する際、リモコンによって無線で端末2を呼び寄せる。なお、無線でなく、音波や赤外線を単独または併用で使用するようにしても良い。または、端末2に画像認識手段を持たせて、端末2が視野範囲内にきたときは利用者の身振りによってさらに近くへ呼び寄せるようにしても良い。
【0122】
以下、図18を用いて利用者がリモコンによって端末2を呼び寄せる際の端末2の処理手順について説明する。
利用者がリモコンで呼び寄せ要求を出すと、その要求信号は、無線受信機98によって受信され、要求時移動制御手段83が起動される。
【0123】
要求時移動制御手段83は起動すると、リモコンから送られてくる目標位置座標を取得する。目標位置(ランドマーク)への移動は、たとえば、特開2004−216552号公報に記載の技術を用いて実行するようにする。
【0124】
一方、利用者端末2は、現在位置座標を保存しておく(S601)。この位置座標は、一般的に(x,y,z)座標で表されるもので、初期値を(0,0,0)にして設定し、移動方向、移動距離の相対座標を保存して、管理するものとする。なお、必要により、他の座標系を用いることもでき、また絶対座標を用いるようにしても良い。
【0125】
そして、目標位置または目標方向へ移動を開始する(S602)。このとき、端末2は、駆動輪79によって、自律走行を行う。障害物と接触した場合は、障害物センサ78によってこれを感知して迂回制御を行う。この制御方法は、たとえば、特開2004−326692号公報に記載の技術によって実行する。
【0126】
そして、利用者は、端末2が利用者のもとへ到着すると(S603)、プッシュボタン76を押すことによって、端末2は目標位置へ到着したことを認識し、そのときの時刻と位置座標データを位置座標ファイル88に書き込む(S604)。図19は、位置座標ファイルのデータ構成例である。
【0127】
一方、一定時間プッシュボタン76が押されず、タイムアウトになった場合は(S605)、アラームを出力して(S606)、記憶しておいた移動ルートを逆に辿って移動開始前の位置へ戻る(S607)。
【0128】
また、端末2は、定期的に目標位置演算手段84を起動して、時間帯別の目標位置を計算する。以下、図20を用いてこの処理について説明する。
【0129】
目標位置演算手段84は起動されると、位置座標ファイル88に書き込まれている位置座標データのうち計算対象の時間帯の任意のデータを抽出して(S702)、そのデータと所定の位置範囲(たとえば50cm)にあるデータの存在有無を判定して(S703)、所定範囲内のデータが存在する場合は、そのデータを一時バッファへ格納する(S704)。そして、またその抽出したデータも含めて、所定範囲内にあるデータの有無を判定して全てのデータの抽出を終えると(S703で「NO」)、抽出した位置座標データの平均値を計算して、その結果とデータ数を一時バッファに保存する(S706)。
【0130】
そして、他に位置座標データが存在するか否かを判定して(S706)、存在する場合は、ステップS702へ戻って処理を繰り返す。他に位置座標データが存在しない場合は(S706で「NO」)、一時バッファのデータを目標位置座標テーブル89に格納する。この際、データ数の多いものを高優先順位として順位付けして格納するようにする(S707)。以上のステップS702〜S707の処理を計算対象となっている全ての時間帯について、繰り返す(S701a、S701b)。
【0131】
上記の目標位置演算の考え方を図22を用いて説明する。図中、リモコンで呼ばれたときの到着位置を黒点「・」で表している。そして、これらの所定範囲ごとの平均位置を「×」で表している。この×位置の座標データが図21の目標位置座標テーブル89に格納される。図22の例では、時間帯別のエリアAのデータ数が一番多いため、エリアAの×印の位置座標データ(x1,y1,z1)が優先度1として格納されている。
【0132】
一方、端末2は、予め設定された所定時刻に到達したとき、または、所定時間プッシュボタン76の押下が無く、訪問診療支援システム1と通信が行われなかったときは、自動移動制御手段85によって自動的に端末2が利用者のもとへ移動する。
【0133】
以下、図23を用いて自動移動制御手段の処理手順を説明する。
自動移動制御手段85は、周期的に起動されると、まず、予め設定された時刻に達したか否かを判定し(S801)、設定時刻に到達していない場合は、最終アクセス日時、すなわち、プッシュボタン76を操作した最終日時情報を取得して(S802)、その日時から所定期間が経過したか否かを判定する(S803)。
【0134】
所定期間が経過した場合は、次に目標位置座標テーブル89を参照して現在時刻の属する時間帯の最高優先順位の座標位置データを抽出する(S804)。
【0135】
そして、現在の位置座標データを保存した後(S805)、抽出した座標位置へ自律走行処理を実行する(S806)。この自律走行処理のしかたは、要求時移動制御手段83と同様である。
【0136】
そして、プッシュボタン76が押されたか否かで目標位置へ到着したか否かを判定し(S807)、到着した場合は、到着地点の位置座標データを位置座標ファイル88に保存する(S808)。
【0137】
なお、一定時間プッシュボタン76の操作がないときは(S809で「YES」)、到着していないとみなして、目標位置座標テーブル89を参照して、次の優先順位の位置座標データが存在するか否かを判定し(S810)、存在する場合は、その優先順位の位置座標データを抽出して(S811)、ステップS806へ戻って同様の処理を繰り返す。
【0138】
一方、ステップS810で、次の優先順位のデータが存在しない場合は、ステップS805で保存しておいた位置座標へ自律走行によって戻る(S812)。
【0139】
また、利用者端末2は、自動移動によって収集した位置座標も含めて、周期的に起動される目標位置演算手段84によって、随時目標位置座標テーブル89の目標位置の平均値と優先順位をアップデートする。なお、目標位置演算手段84で、目標位置を演算した後は、位置座標ファイル88のデータをクリアして、その後新たに収集したデータのみを保存していくようにしても良い。目標位置座標テーブル89に保存されている平均位置座標とデータ数を用い、さらに新たに収集した位置座標データを用いても目標位置を計算することができ、これによってファイルの容量の増加を抑制することができる。
【0140】
以上、本実施の形態によれば、利用者は必要なときにリモコン操作によって端末2を呼び寄せることができ、この操作を何回か繰り返すことによって、一定期間端末の利用が無い場合、あるいは、予め設定された所定の時刻に端末2が自ら利用者のもとへ移動するので、利用者にとって利便性が向上し、利用者がコールセンターとの定期的な通信を忘れている場合でも端末が自分のもとへ来ることによって確実にコールセンターとの通信ができる。また、利用者の容態に異変があったときでも、早く発見することができる。
【0141】
なお、利用者端末2に第2の実施の形態で説明したような脈センサ等を取り付けておいて、測定できるようにしてもよい。
【0142】
また、一定期間、利用者からの応答が無い場合は、訪問診療支援システム1からの要求によって、WEBカメラ25を通して映像をシステム1の表示部12に表示させるようにしても良い。このとき、単にシステム1から利用者端末2を遠隔操作できるようにするのみでは、オペレータは利用者がどこにいるのか分からない場合があるが、システム1から端末2に自律走行指令を送信し、端末2はこの指令に基づいて、目標位置座標テーブル89に従って優先順位の高い場所から順に移動するようにする。そして、コールセンター側のオペレータはWEBカメラ25を通して部屋内の様子を監視するようにすれば、迅速かつ効率的に状況を把握することが可能となる。
【0143】
また、本実施の形態において、オペレータまたは家族が要求した時刻に端末2の移動を行わせて、利用者のボタン操作の履歴情報と位置座標データのみをシステム1または家族の端末に送るようにしても良い。これによって、オペレータは利用者のプライバシーを害することなく、利用者の安否と行動パターンの変化を知ることができる。
【0144】
本発明は、実施の形態の記載に限定されること無く、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して用いることができる。たとえば、訪問診療支援システムは、図24のように各サーバ装置を地域別あるいは症例別に分散して配置し、マスタファイルを中央の管理サーバに持たせる構成で運用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】本発明の第1の実施の形態による訪問診療支援システムの機能ブロック図である。
【図2】図1のマスタファイルのデータ構成例である。
【図3】図1の利用者ファイルのデータ構成例である。
【図4】図1の問合せ支援手段の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】図1の問診結果ファイルのデータ構成図である。
【図6】図1の質問送信手段および回答受信手段の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の第1の実施の形態による利用者端末上の画面表示の説明図である。
【図8】図1の異常兆候判定手段の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】図1の通知手段の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】図1の利用者ファイル更新手段の処理手順を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2の実施の形態による訪問診療支援システムの機能ブロック図である。
【図12】図11の利用者端末の斜視図である。
【図13】図11のマスタファイルのデータ構成例である。
【図14】図11の利用者ファイルのデータ構成例である。
【図15】図11の問診結果ファイルのデータ構成図である。
【図16】本発明の第3の実施の形態による利用者端末2の正面外観図である。
【図17】図16に内蔵されている制御装置の機能ブロック図である。
【図18】図17の要求時移動制御手段の処理手順を示すフローチャートである。
【図19】図17の位置座標ファイルのデータ構成図である。
【図20】図17の目標位置演算手段の処理手順を示すフローチャートである。
【図21】図17の目標位置座標テーブルのデータ構成図である。
【図22】本発明の第3の実施の形態による目標位置の考え方の説明図である。
【図23】図17の自動移動制御手段の処理手順を示すフローチャートである。
【図24】分散型の訪問診療支援システムの構成図である。
【符号の説明】
【0146】
1 訪問診療支援システム
2 利用者端末
3 医師端末
4 通信ネットワーク
11、21、31 入出力部
12、22 表示部
13、24、34 送受信部
14、23、33 中央演算処理部
16 記憶部
17、25 カメラ
26 脈センサ
40 送受信処理手段
41 入出力手段
42 基本情報登録手段
43 利用者ファイル作成手段
44 問診支援手段
45 質問送信手段
46 回答受信手段
47 キーワード抽出手段
48 異常兆候判定手段
49 通知手段
50 診断結果入力手段
51 利用者ファイル更新手段
52 診療品質チェック手段
53 波形分析手段
61 マスタファイル
62 利用者ファイル
63 問診ファイル
71 制御装置
72 利用者端末本体
76 プッシュボタン
78 障害物センサ
79 駆動輪
81 演算部
82 記憶部
83 要求時移動制御手段
84 目標位置演算手段
85 自動移動制御手段
86 自律走行制御手段
87 位置座標収集手段
88 位置座標ファイル
89 目標位置座標テーブル
98 無線受信機
99 駆動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利用者端末と通信ネットワークを介して繋がり、利用者端末から送られてくる情報をもとに利用者の健康状態の異常の兆候を検出して医師端末へ通知する訪問診療支援システムであって、
質問情報と、当該質問に対して予想される一または二以上の回答情報と、各回答情報に関連付けて健康状態に関する要注意度を利用者ごとに保存した利用者ファイルと、
入力された質問を利用者端末へ送信する問診支援手段と、
利用者端末から送られてくる利用者の回答を受信する回答受信手段と、
前記利用者ファイルを参照して前記受信した回答に対する要注意度を抽出し、当該要注意度をもとに異常の兆候の有無を判定する異常兆候判定手段と、
を備えたことを特徴とする訪問診療支援システム。
【請求項2】
前記異常兆候判定手段によって異常の兆候ありと判定された場合は、医師端末へ通知する通知手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の訪問診療支援システム。
【請求項3】
前記利用者ファイルは、前記回答情報として、質問に対して予想される回答に含まれる一または二以上のキーワードと当該キーワードの要注意度を互いに関連付けて保存し、
前記異常兆候判定手段は、前記利用者ファイルを参照して、前記回答受信手段によって受信された回答に含まれているキーワードを抽出すると共に当該キーワードに関連付けられた要注意度を抽出し、当該要注意度をもとに異常の兆候の有無を判定することを特徴とする請求項1または2に記載の訪問診療支援システム。
【請求項4】
前記利用者ファイルは、さらに質問情報に含まれるキーワードを保存し、
前記異常兆候判定手段は、前記利用者ファイルを参照して、前記問診支援手段によって送信された質問、および、前記回答受信手段によって受信された当該質問に対する回答に含まれているキーワードを抽出し、両キーワード間の時間差を演算すると共に過去の時間差との変化率を演算し、当該変化率をもとに異常の兆候の有無を判定することを特徴とする請求項3記載の訪問診療支援システム。
【請求項5】
前記利用者端末から送られてくる回答は音声波形によって入力され、
当該音声波形の強度または周波数を分析する波形分析手段を備え、
前記異常兆候判定手段は、前記強度または周波数の履歴データによって異常の兆候の有無を判定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一に記載の訪問診療支援システム。
【請求項6】
前記利用者端末から送られてくる認証情報によって、前記利用者ファイルに保存されている質問情報を送信して利用者の回答を促す質問送信手段を備え、
前記異常兆候判定手段は、前記認証情報の受信が所定期間ないことによって安否判定を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の訪問診療支援システム。
【請求項7】
前記質問送信手段は、利用者端末へ質問情報を表示すると共に表示位置を含む表示条件を変更して前記質問に対する回答の選択肢を表示し、
前記異常兆候判定手段は、質問と回答との整合性および前記要注意度をもとに利用者の異常の兆候の有無を判定することを特徴とする請求項6記載の訪問診療支援システム。
【請求項8】
医師の診断結果を入力する診断結果入力手段と、
前記診断結果をもとに前記利用者ファイルの前記要注意度を更新する利用者ファイル更新手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一に記載の訪問診療支援システム。
【請求項9】
利用者の映像情報を受信し、受信した前記映像情報の所定領域の色彩情報を取得して保存する画像処理手段を備え、
前記異常兆候判定手段は、過去の色彩情報と比較して所定の変化があったか否かによって異常の兆候の有無を判定することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一に記載の訪問診療支援システム。
【請求項10】
受話器または椅子座部上面に脈情報収集手段を設け、
前記脈情報収集手段から通信ネットワークを介して送られてくる前記脈情報によって、健康状態の異常の兆候の有無を判定することを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一に記載の訪問診療支援システム。
【請求項11】
前記利用者端末は、利用者のもとへ自律走行する移動手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか一に記載の訪問診療支援システム。
【請求項12】
前記利用者端末は、さらに利用者の要求に応じて移動したときの位置座標を収集し、その位置座標データを用いて時間帯別に目標位置座標を演算して当該演算結果を位置座標のデータ数に基づいて優先順位をつけて格納する目標位置演算手段と、
前記優先順位に従って前記目標位置座標へ向けて移動する自動移動制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項11記載の訪問診療支援システム。
【請求項13】
利用者端末と通信ネットワークを介して繋がるサーバによって利用者端末から送られてくる情報をもとに利用者の健康状態の異常の兆候を検出して医師へ通知する訪問診療支援方法であって、
前記サーバにおいて、質問情報と、当該質問に対して予想される一または二以上の回答情報と、各回答情報に関連付けて健康状態に関する要注意度とを予め保存するステップと、利用者端末へ質問を送信するステップと、
利用者端末から送られてくる利用者の回答を受信するステップと、
前記受信した回答に対する要注意度を抽出し、当該要注意度をもとに異常の兆候の有無を判定するステップと、
異常の兆候ありと判定された場合は、医師へ通知するステップと、
を含むことを特徴とする訪問診療支援方法。
【請求項14】
請求項13記載の訪問診療支援方法において、
医師の診断結果を入力するステップと、
前記診断結果をもとに前記要注意度を更新するステップと、
を含むことを備えたことを特徴とする訪問診療支援方法。
【請求項15】
利用者端末と通信ネットワークを介して繋がるサーバによって利用者端末から送られてくる情報をもとに利用者の健康状態の異常の兆候を検出して医師へ通知する訪問診療支援方法であって、
前記サーバにおいて、利用者の健康状態に関する要注意度とを予め保存するステップと、利用者端末へ質問を送信するステップと、
利用者端末から送られてくる利用者の健康情報を受信するステップと、
前記受信した健康情報をもとに要注意度を抽出し、当該要注意度に基づいて異常の兆候の有無を判定するステップと、
異常の兆候ありと判定された場合は、医師へ通知するステップと、
医師の診断結果を入力するステップと、
前記診断結果をもとに前記要注意度を更新するステップと、
を含むことを備えたことを特徴とする訪問診療支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−4662(P2007−4662A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186221(P2005−186221)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(505241902)
【Fターム(参考)】