説明

設計支援プログラムおよび設計支援装置

【課題】構造物の剛性評価の工数を低減させる設計支援装置を提供する。
【解決手段】構造物の剛性評価を行う設計支援装置Wに、構造物に等分布荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し該構造物の変位を求め、その変位が一番大きい領域を対策部位候補として特定し、その対策部位候補に集中荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し対策部位候補の変位を求め、対策部位候補の変位が所定要件を満たすか否かにより対策部位候補が剛性強化の必要な対策部位に該当するか否かを判定する判定処理を行う構造解析部30を設ける。また、構造解析部30は、対策部位候補が対策部位に該当すると判定した場合、対策部位候補の変位と、所定の関数式とにより線形バネのバネ定数を算出し、対策部位に算出したバネ定数の線形バネを設定した上で、再度、判定処理を行い、次の対策部位の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計支援プログラムおよび設計支援装置に関し、例えば、情報処理装置に、構造物の剛性評価を実行させる設計支援プログラムおよび構造物の剛性評価を行う設計支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インストルメントパネル(以下、「インパネ」という)やバンパ等の部品の手押し剛性評価等に有限要素法による剛性評価(剛性CAE)が行われており、コンピュータに有限要素法による剛性CAEを実行させるプログラムや、そのプログラムを実装した装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、インパネ等の構造物に対する構造解析を行い、構造物の弱体部位を抽出する設計支援装置が開示されている。
具体的には、前記設計支援装置は、構造物の設計情報、物性値情報、拘束条件、および荷重条件を含む入力データを用いた有限要素法による構造解析を行い、構造物の弱体部位(対策部位)を抽出するものであり、以下に示す処理を実行するようになっている。
【0004】
先ず、前記設計支援装置は、前記入力データを用いて、前記構造物全体に等分布荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し、当該構造物の変位を求め、当該変位のうち、その変位量が一番大きい領域を特定し、その特定した領域を弱体部位候補として抽出する処理(抽出処理)を行う。
次に、前記設計支援装置は、前記推定した弱体部位候補に集中荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施して前記弱体部位候補の変位を求め、当該変位を用いて弱体部位候補の検証処理を行う。この検証処理では、前記変位が所定基準より大きければ、該弱体部位候補を弱体部位として認定し、前記変位が所定基準より小さければ、該弱体部位候補に剛性対策の必要がないものと判定して処理を終了する。
【0005】
さらに、前記設計支援装置は、前記検証処理において弱体部位を認定した場合、当該認定した弱体部位の剛性を疑似的に上げた上で、再度、前記抽出処理を行って次の弱体部位候補を抽出し、その後、上記同様の検証処理を実施する。
【0006】
また、前記認定された弱体部位の剛性を疑似的に上げる方法は、種々のものがあるが、一般的に、当該弱体部位に線形バネを付与する方法が採用されている。
ここで、従来技術による構造物の弱体部位の剛性を疑似的に上げる方法について図7を用いて説明する。
図7は、従来技術による構造物の弱体部位の剛性を疑似的に上げる処理の手順を示したフローチャートである。
【0007】
具体的には、先ず、設計者が、自身の経験則に基づいて、弱体部位に設定する線形バネのバネ定数を選定(経験則から推定)する(S100)。
次に、設計者は、前記設計支援装置に、前記選定したバネ定数の線形バネに関するデータを入力し、前記弱体部位に前記バネ定数の線形バネを設定して(前記弱体部位を線形バネで支持して)、弱体部位の剛性を擬似的に上げる(S110)。
次に、前記設計支援装置に、前記線形バネを設定した弱体部位に対して集中荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施させ(剛性CAEを実施させ)、前記線形バネを設定した弱体部位の変位を求める(S120)。
【0008】
次に、設計者は、前記線形バネの設定処理が適切であるか否かを判定する(S130)。
具体的には、設計者は、前記求めた変位が所定要件(変位≦目標値、且つ変位≒目標値)を満たす場合、前記線形バネが適切であると判定し処理(弱体部位の剛性を疑似的に上げる処理)を終了し、前記所定要件を満たさなければS140に進む。
そして、S140では、設計者は、前記設計支援装置に設定されている線形バネのバネ定数を変更し、S120の処理に戻る。
なお、S130において、弱体部位の剛性を疑似的に上げる処理が終了した場合には、上述した通り、再度、前記抽出処理を行って次の弱体部位候補を抽出し、その後、上記同様の検証処理を実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−217548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来技術の剛性評価によれば、認定した弱体部位の剛性を疑似的に上げた上で、再度、弱体部位候補の抽出処理を行っているため、構造物に弱体部位が複数ある場合であっても、構造物の弱体部位を漏れなく抽出できるようになっている。
しかしながら、上述した従来技術の剛性評価は、弱体部位の剛性を疑似的に上げるために行う線形バネの設定処理(図7参照)の工数が大きく、設計者に大きな処理負担をかけるという技術的課題を有している。
【0011】
具体的には、構造物の弱体部位の剛性を上げるために設定する線形バネのバネ定数は、構造物の形状や弱体部位の位置により異なっている。
そのため、上述したように、作業者が、自身の経験則に基づいてバネ定数を選定しても、最適なものを選定することが困難であった。その結果、作業者は、選定した線形バネの検証や設定した線形バネの変更処理(図7のS110〜S140の処理)を何度(6回程度)も繰り返し行っていた(所謂、トライ&エラーの繰り返し処理を行っていた)。
また、設計段階においては、構造物に複数の弱体部位があることが多いため、その弱体部位毎に、工数が大きい線形バネの選定処理を行わなければならず、設計者にとり大きな負担となっていた。
【0012】
本発明は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、構造物の剛性評価の工数を低減させる設計支援プログラム及び設計支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた本発明は、情報処理装置に、構造物の剛性評価を実行させる設計支援プログラムに適用される。
そして、前記設計支援プログラムは、構造物の設計情報、物性値情報、拘束条件、および荷重条件を含む入力データを用いて、該構造物に等分布荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し該構造物の変位を求め、該変位が一番大きい領域を対策部位候補として特定し、該対策部位候補に集中荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し該対策部位候補の変位を求め、該対策部位候補の変位が所定要件を満たすか否かにより対策部位候補が剛性強化の必要な対策部位に該当するか否かを判定する判定処理を行うステップと、前記対策部位に該当すると判定された場合に、前記求めた対策部位候補の変位と、所定の関数式とにより線形バネのバネ定数を算出し、前記対策部位に該算出したバネ定数の線形バネを設定し、該対策部位の剛性を疑似的に上げた上で、再度、前記判定処理を行い、次の対策部位の有無を判定するステップとを有することを特徴としている。
【0014】
このように、本発明の設計支援プログラムは、構造物の対策部位の剛性を擬似的に上げるために用いる線形バネの選定(バネ定数の選定)に、所定の関数式と、線形バネの付与前の対策部位の変位とを用いているため、従来技術にように設計者自身の経験則に基づいて、バネ定数を選定(推測)する必要がない。その結果、本発明によれば、従来技術のようなトライ&エラーの繰り返し処理を行う必要がなくなるため、線形バネの選定処理の工数を削減することができ、構造物の剛性評価のための作業時間を短縮させることができる。
【0015】
また、前記関数式は、実験或いは実際の構造物の剛性評価により得られた、前記線形バネのバネ定数と、前記線形バネを設定する前の前記対策部位の変位とを対応付けたデータを集めたデータ群を統計処理して得られた近似式であることが望ましい。
【0016】
上記のように関数式を定めているのは、本願発明者らが、インパネ等の構造物の構造解析に関する研究を重ねた結果、インパネ等の構造物の対策部位の剛性を擬似的に上げるために用いられる線形バネのバネ定数と、線形バネを設定する前の対策部位の変位との間に、構造物の形状や対策部位の位置に関係なく、強い相関関係があることを見出したことによる。
そこで、本願発明者らは、実験或いは実際のインパネの剛性評価により得られた、構造物の「対策部位に設定した最適な線形バネのバネ定数」と「線形バネの付与前の対策部位の変位」とを示すデータを複数集め、その集めたデータ群を用いて統計処理(例えば、最小二乗法)による近似式を求め、その近似式を「バネ定数を算出するための関数式」として用いるようにした。
【0017】
また、前記算出したバネ定数の線形バネを前記対策部位に設定した場合、さらに、前記線形バネが設定された対策部位に集中荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し該対策部位の変位を求め、該求めた変位が所定基準を満たさなければ、前記算出したバネ定数を補正することが望ましい。
このように、設定した線形バネを検証し、所定基準を満たさなければ補正するようにしているため、線形バネの設定処理の信頼性が確保される。
【0018】
また、上記課題を解決するためになされた本発明は、構造物の設計情報、物性値情報、拘束条件、および荷重条件を含む入力データを用いた有限要素法による構造解析を行い、該構造物の剛性評価を行う設計支援装置に適用される。
そして、前記設計支援装置は、前記入力データを用いて、前記構造物に等分布荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し該構造物の変位を求め、該変位が一番大きい領域を対策部位候補として特定し、該対策部位候補に集中荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し該対策部位候補の変位を求め、該対策部位候補の変位が所定要件を満たすか否かにより対策部位候補が剛性強化の必要な対策部位に該当するか否かを判定する判定処理を行う構造解析手段を有し、前記構造解析手段は、前記対策部位に該当すると判定された場合に、前記求めた対策部位候補の変位と、所定の関数式とにより線形バネのバネ定数を算出し、前記対策部位に該算出したバネ定数の線形バネを設定し、該対策部位の剛性を疑似的に上げた上で、再度、前記判定処理を行い、次の対策部位の有無を判定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、構造物の剛性評価の工数を低減させる設計支援プログラム及び設計支援装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態の設計支援装置の機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態の情報処理装置のハードウェア構成図である。
【図3】本発明の実施形態の設計支援装置が行う構造物の設計支援処理の手順を示したフローチャートである。
【図4】図3に示すS7の処理の手順を具体的に示したフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態におけるバネ定数の算出に用いられる関数式を説明するための模式図である。
【図6】本発明の実施形態の設計支援装置が出力するインパネの対策部位情報の一例を示した模式図である。
【図7】従来技術による構造物の弱体部位の剛性を疑似的に上げる処理の手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
先ず、本実施形態の設計支援装置の機能構成を図1に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態の設計支援装置の機能ブロック図である。
【0022】
図示するように、設計支援装置Wは、製品や製品を構成する部品等の構造物の設計情報等を使ってその製品の剛性評価を行う情報処理装置1と、設計者からの各種要求を受け付ける入力装置2と、情報処理装置1が行った解析結果を出力する出力装置3とを備えている。また、情報処理装置1は、LAN(Local Area Network)等のネットワークNWを介して、CAD装置4に接続されている。
【0023】
情報処理装置1は、構造物に対し、有限要素法による構造解析を行い、構造物の変位を求めて、その変位から当該構造物の対策部位(剛性対策が必要な弱体部位)の有無を判定する。また、情報処理装置1は、前記構造解析により、構造物に対策部位があれば、さらに、有限要素法によるトポロジ最適化処理等を実行し、前記対策部位への剛性強化対策を選定する。
【0024】
また、入力装置2は、キーボードやマウス等により構成され、設計者からの各種要求や解析条件(物性値情報、拘束条件、荷重条件)等を受け付けて情報処理装置1に出力する。
出力装置3は、液晶ディスプレイ等により構成され、情報処理装置1が出力する画像情報を表示する。
また、CAD装置4には、構造解析を行う対象の構造物のCAD情報(例えば、自動車の構成部品の設計情報)が格納されている。そして、CAD装置4は、情報処理装置1からの要求にしたがい、情報処理装置1にCAD情報を出力する。
以下、設計支援装置Wの具体的な構成を説明する。なお、本実施形態のCAD装置4は、公知の技術により実現されるため、詳細な説明は省略する。
【0025】
情報処理装置1は、制御部10、データ取得部20、構造解析部30、および出力部40を備えている。
制御部10は、情報処理装置1の全体の動作を制御する。また、制御部10は、入力装置2を介して、設計者が入力する各種要求を受け付ける。そして、制御部10は、上記の受け付けた要求にしたがい、データ取得部20、構造解析部30、および出力部40を制御して、設計者からの要求に応じた処理を行う。
【0026】
データ取得部20は、ネットワークNWに接続されている外部装置(例えば、CAD装置4)と通信を行い、外部装置との間でデータの授受を行う。例えば、データ取得部20は、ネットワークNWを介して、CAD装置4にアクセスし、CAD装置4に格納されている設計情報(CAD情報)を取得する。
また、データ取得部20は、入力装置2を介して、設計者が入力する、解析対象の構造物の「解析条件(物性値情報、拘束条件、荷重条件)」の入力を受け付ける。
【0027】
構造解析部30は、CAD装置4から取得した構造物の設計情報、および「解析条件」を用いて、後述する図3及び図4に示す各処理ステップを実行し、構造物の中から剛性強化が必要な弱体部位(対策部位)を求めたり、前記対策部位への剛性強化対策を選定したりする。
また、出力部40は、構造解析部30から解析結果を取得し、その解析結果か示す画像情報(図6参照)を生成し、出力装置3に、その生成した画像情報を出力する。
【0028】
つぎに、本実施形態の情報処理装置1のハードウェア構成を説明する。
図2は、本実施形態の情報処理装置のハードウェア構成図である。
図示するように、情報処理装置1は、CPU(Central Processing Unit)50と、RAM(RandomAccess Memory)等により構成された主記憶装置51と、I/Oインタフェース52と、ハードディスク等により構成された補助記憶装置53と、ネットワークNWに接続されている装置との間で行うデータ授受の制御を行うネットワークインタフェース54とを有する。
また、補助記憶装置53には、上述した各部(制御部10、データ取得部20、構造解析部30、および出力部40)の機能を実現するためのプログラム(設計支援プログラム55)が格納されている。
【0029】
そして、情報処理装置1の各部(制御部10、データ取得部20、構造解析部30、および出力部40)の機能は、CPU50が補助記憶装置53に格納されている前記プログラムを主記憶装置51にロードして実行することにより実現される。
【0030】
続いて、本実施形態の設計支援装置Wが行う構造物の設計支援処理について図3〜図6に基づいて説明する。
図3は、本発明の実施形態の設計支援装置が行う構造物の設計支援処理の手順を示したフローチャートである。また、図4は、図3に示すS7の処理の手順を具体的に示したフローチャートである。また、図5は、本発明の実施形態におけるバネ定数の算出に用いられる関数式を説明するための模式図である。
また、図6は、本発明の実施形態の設計支援装置が出力するインパネの対策部位情報の一例を示した模式図である。
なお、以下の説明では、評価対象の構造物が、自動車のインパネである場合を例にする。また、以下の処理ステップの中で用いられる有限要素法は、周知のものと同様である。
【0031】
先ず、情報処理装置1のデータ取得部20が、評価対象のデータを読み込む(S1)。
具体的には、データ取得部20は、ネットワークNWを介して、CAD装置4にアクセスし、CAD装置4に格納されているインパネの設計情報(CAD情報)を取得し、情報処理装置1のメモリ(主記憶装置51又は補助記憶装置53)に、前記取得したインパネの設計情報を格納する。
【0032】
次に、情報処理装置1のデータ取得部20は、解析条件の設定を受け付ける(S2)。
具体的には、データ取得部20は、入力装置2を介して、設計者が入力する、解析対象のインパネの「解析条件(物性値情報、拘束条件、荷重条件(等分布荷重、集中荷重の負荷量)」の入力を受け付け、情報処理装置1のメモリ(主記憶装置51又は補助記憶装置53)に、その受け付けた解析条件を格納する。
【0033】
次に、情報処理装置1の構造解析部30は、前記メモリに格納されている「構造物(インパネ)の設計情報」および「構造物(インパネ)の解析条件」を用いて、インパネ全体に所定の等分布荷重を加えた有限要素法による構造解析(等分布荷重による剛性CAE)を実施してインパネの変位を求め、その変位からインパネの最大変位部位(対策部位候補)を特定し(S3)、S4の処理に進む。
【0034】
具体的には、S3では、構造解析部30は、略板状の形成されたインパネ一方面(例えば、車室側に配置される意匠面)に対し、インパネの意匠面に略直交する方向の等分布荷重(Z1(N))を加えた有限要素法による構造解析を実施し、インパネ100の意匠面の変位(X(mm))を求める。
そして、構造解析部30は、前記求めたインパネの変位のうち、その変位量が一番大きい領域を最大変位部位(対策部位候補)として特定する。すなわち、本ステップ(S10)では、1カ所の最大変位部位(対策部位候補)が特定される。
【0035】
次に、構造解析部30は、前記メモリに格納されている「構造物(インパネ)の設計情報」および「構造物(インパネ)の解析条件」を用いて、S3で特定した最大変位部位(対策部位候補)に対して、所定の集中荷重(Z2(N))を加えた有限要素法による構造解析(集中荷重による剛性CAE)を実施し、前記最大変位部位(対策部位候補)の変位(X(mm))を求める(S4)。
次に、構造解析部30は、前記求めた変位(X(mm))が所定の要件(目標値)を満足しているか否かを判定し(S5)、満足していればS13に進み、満足していなければS6に進む。
【0036】
具体的には、例えば、前記要件(目標値)が「a1(mm)以内」と定められている場合、構造解析部30は、S4で求めた変位(X(mm))のうちの最大となる変位(Xmax(mm))が目標値(a1(mm))以内であるか否かを判定する。
そして、構造解析部30は、前記変位(Xmax)が目標値(a1(mm))より大きければ(Xmax>a1)、S6に進む。すなわち、構造解析部30は、前記求めた変位(Xmax(mm))が所定の要件(目標値)を満足していなければ、S3で特定した最大変位部位を対策部位(剛性強化が必要な部位)に該当すると判定して、S6に進む。
一方、構造解析部30は、前記変位(Xmax)が目標値(a1(mm))以下であれば(Xmax≦a1)、S13に進み、インパネに対策部位(剛性強化が必要な部位)が無いものと判定して処理を終了する。
【0037】
なお、S3〜S5の各処理ステップにおいて、構造解析部30は、出力部40に、上記の解析結果(インパネの変位を示す情報)を送り、出力部40に解析結果を表示させるようにしてもよい。この場合、出力部40は、構造解析部30からの解析結果を受け付け、その解析結果を用いて、インパネの変位を示した画像情報(最大変位部を示す情報)を生成し、例えば、図6に示す画像情報を出力装置3に表示する。
また、図6における符号100は、自動車のインパネを示している。また、図示する画像情報は、インパネ100の意匠面が、変位量に応じて色分けされた状態で示されており、符号110の領域が最大変位部位となっている。
【0038】
図3に戻り、S5において変位(Xmax(mm))が所定の要件(目標値)を満足していないと判定した場合に進むS6以降の処理を説明する。
S6では、構造解析部30は、S3で特定した最大変位部位(対策部位候補)を対策部位(剛性強化が必要な部位)として登録する。
具体的には、構造解析部30は、情報処理装置1のメモリ(主記憶装置51又は補助記憶装置53)の所定領域に、S3で特定した最大変位部位を対策部位(剛性強化が必要な部位)として格納する。
【0039】
次に、構造解析部30は、S6において登録した対策部位に線形バネを設定し、当該対策部位の剛性を擬似的にアップさせる(S7)。
ここで、S7で行われる処理の手順について、図4を参照しながら詳細に説明する。
【0040】
図4に示すように、S7では、先ず、構造解析部30は、S6で登録された対策部位の剛性を疑似的に上げるために用いる線形バネのバネ定数Aを算出し(S71)、対策部位に、前記算出したバネ定数Aの線形バネを設定して(S71)、当該対策部位の剛性を疑似的に上げる。
【0041】
具体的には、構造解析部30は、以下に示す[数1]の関数式(バネ定数Aを算出するための関数式)を保持しており、前記関数式のXに、上述したS4で求めた線形バネが付与される前の対策部位(S4の段階においては最大変位部位)の変位(Xmax(mm))を代入して、線形バネのバネ定数Aを求める。
[数1]
Y=aX−b
Y:バネ定数A、 X:線形バネを付与する前の対策部位の変位
a、b:定数
【0042】
なお、上記[数1]の関数式は、「対策部位に設定する線形バネのバネ定数」と「線形バネの付与前の対策部位の変位」との関係を示した関数式であり、実験或いは実際のインパネの剛性評価により得られた、複数種類のインパネの「対策部位に設定した最適な線形バネのバネ定数」と「線形バネの付与前の対策部位の変位」とを対応付けたデータを複数集めて、その集めたデータ群を統計処理して得られた近似式である。
また、本実施形態では、構造解析部30に、予め求めておいた関数式([数1]の関数)を保持させておき(設計支援プログラム55(図2参照)のなかに前記関数式を含めておき)、当該関数式を用いてバネ定数Aを算出しているが、あくまでもこれは一例である。
例えば、情報処理装置1のメモリ(主記憶装置50又は補助記憶装置53)の所定領域に、前記関数式を格納しておき、構造解析部30が、必要なときに当該メモリに格納された関数式を利用するようにしてもよい。
【0043】
ここで、上述した[数1]の関数式について、図5を用いて説明する。
本願発明者らは、インパネ等の構造物の構造解析に関する研究を重ねた結果、インパネ等の構造物の対策部位の剛性を擬似的に上げるために用いられる線形バネのバネ定数と、線形バネを設定する前の対策部位の変位(Xmax)との間に、強い相関関係があることを見出した。
また、前記研究により、インパネ等の構造物の形状や、対策部位の位置に関係なく、前記相関関係があることがわかった。例えば、一方面(例えば、車室側に配置される意匠面)に対して凸上になされたインパネにおいても、一方面に対して凹上になされたインパネにおいても、その形状に関係なく、前記相関関係があることがわかった。
【0044】
そこで、本願発明者らは、図5に示すように、X軸に「線形バネの付与前の対策部位の変位」をとり、Y軸に「対策部位に設定する線形バネのバネ定数」をとったX−Y座標面を作成し、そのX―Y座標面上に、実験或いは実際のインパネの剛性評価により得られた、複数種類のインパネの「対策部位に設定した最適な線形バネのバネ定数」と「線形バネの付与前の対策部位の変位」とを対応付けたデータをプロットしていき、最小二乗法による近似式を求め、その近似式を「バネ定数Aを算出するための関数式」として用いるようにした。その結果、インパネの形状や対策部位の位置に関係なく、上記関数式により、バネ定数Aを算出することができ、線形バネの選定処理の工数を削減させることが可能になった。
【0045】
図4に戻り、上述したS72の後に行われるS73〜S74の処理を説明する。
S73では、構造解析部30が、線形バネを設定した対策部位に対して、所定の集中荷重(Z3(N))を加えた有限要素法による構造解析(集中荷重による剛性CAE)を実施し、線形バネを設定した対策部位の変位(B(mm))を求める。
【0046】
次に、構造解析部30は、S73で求めた対策部位の変位(B(mm))が、所定要件を満たすか否かを判定し、所定要件を満たせばS7の処理を終えて図3のS8の処理に進み、所定要件を満たさなければS75の処理に進む(S74)。
具体的には、構造解析部30は、S73で求めた、線形バネを設定した対策部位の変位(B(mm))が、所定範囲内(b1(mm)≦B(mm)≦b2(mm))であれば、S72で設定した線形バネが最適なものであると判定してS7の処理を終了して、図3のS8の処理に進む。
一方、構造解析部30は、S73で求めた、線形バネを設定した対策部位の変位(B(mm))が、所定範囲内(b1(mm)≦B(mm)≦b2(mm))でなければ、S75に進み、S72で設定した線形バネのバネ定数を補正する。
【0047】
S75では、構造解析部30は、S73で求めた対策部位の変位Bの値に対応付けた補正値(α、−α)を利用して、S72において設定した線形バネのバネ定数Aを補正し、上述したS73の処理に戻る。
なお、図示する例では、前記変位Bがb1より小さい場合(B<b1)に、バネ定数Aに補正値(α)を減算し(A−α)、前記変位Bがb2より大きい場合(B>b2)に、バネ定数Aに補正値(α)を加算する(A+α)ことにより、バネ定数Aを補正しているが、あくまでもこれは一例である。
例えば、前記変位Bの値に対応付けて補正値を定めておき、前記変位Bに応じて、バネ定数Aに補正値を乗算(或いは除算)するように構成されていてもよい。
【0048】
このように、S72で設定した線形バネを検証し、所定要件を満たさなければ補正するようにしているのは、以下の理由による。
具体的には、本実施形態では、インパネの形状や、対策部位の位置に関係なく、上述した[数1]の関数式により、線形バネのバネ定数Aを設定しているが、上述した研究により、インパネの種類や対策部位の位置によって、設定した線形バネの値が最適なものから微少にズレルことがあることがわかった(微少な誤差があることがわかった)。
そのため、本実施形態では、S72で設定した線形バネを検証し、所定要件を満たさなければ補正するようにし、線形バネの設定処理の信頼性を確保するようにした。なお、本実施形態では、設計支援装置Wが自動的に、バネ定数の検証及び補正を行うため、設計者に負担をかけることはない。
【0049】
図3に戻り、S7の処理に続いて行われるS8以降の処理を説明する。
S8では、構造解析部30は、S7で対策部位の剛性をアップさせたインパネに対して、上述したS3と同様の方法により、インパネの一方面(例えば、車室側に配置される意匠面)に対し、等分布荷重(Z1(N))を加えた有限要素法による構造解析を実施し、インパネ100の意匠面の変位(X(mm))を求める。
そして、構造解析部30は、前記求めたインパネの変位のうち、その変位量が一番大きい領域を最大変位部位(次の対策部位候補)として特定する。
【0050】
次に、構造解析部30は、上述したS4と同様の方法により、S8で特定した最大変位部位(対策部位候補)に対して、所定の集中荷重(Z2(N))を加えた有限要素法による構造解析(集中荷重による剛性CAE)を実施し、インパネの変位(X(mm))を求める(S9)。
次に、構造解析部30は、上述したS5と同様の方法により、前記求めた変位(X(mm))のうちの最大となる変位(Xmax(mm))が所定の要件(目標値)を満足しているか否かを判定し(S10)、満足していればS11に進み、満足していなければS6に戻り、上述したS6〜S10の処理を繰り返す。
【0051】
次に、S11では、構造解析部30は、上述した各処理ステップにより登録された対策部位を提示し(S11)、その後、当該対策部位に対する必要部位CAEを実施して対策部位に対する具体的な対策(リブの追加、板厚増加等)を求めて(S12)、処理を終了する。
具体的には、S11では、構造解析部30は、前記メモリに格納されている対策部位を読み出し、出力部40に、その対策部位(インパネの対策必要を示す情報)を送り、出力部40にインパネの対策部位を表示させる。この場合、出力部40は、構造解析部30からの対策部位を示す情報を用いて、インパネの対策部位を示した画像情報を生成し、出力装置3に前記画像情報を表示する。
なお、S12の処理は、周知の技術を用いるため、その詳細な説明を省略する。
【0052】
以上、説明したように、本実施形態の設計支援装置Wは、構造物(インパネ)の対策部位の剛性を擬似的に上げるために用いる線形バネの選定(バネ定数Aの選定)に、予め求めておいた関数式と、線形バネの付与前の対策部位の変位とを用いている。
すなわち、本実施形態の設計支援装置Wによれば、予め求めておいた関数式と、線形バネの付与前の対策部位の変位とを用いて前記バネ定数Aを選定しているため、従来技術のようなトライ&エラーの繰り返し処理を行う必要がない。その結果、本実施形態によれば、線形バネの選定処理の工数を削減することができるため、構造物の剛性評価のための作業時間を短縮させることができる。
さらに、上記関数式は、インパネの形状や、対策部位の位置に関係なく適用することができるため、作業者の経験則により行っていた線形バネの選定作業の負担を軽減することができる。
【0053】
また、本実施形態では、予め求めておいた関数式と、線形バネの付与前の対策部位の変位とにより選定した線形バネに対して検証を行い(図4のS73〜S75)、必要に応じて線形バネのバネ定数Aを補正している。この処理により、前記線形バネの設定処理の信頼性が確保される。
【0054】
また、前記線形バネの選定処理、前記選定した線形バネの検証処理、及び前記選定した線形バネの必要に応じた補正処理は、いずれも、設計支援装置Wにより自動的に行われるため、設計者に作業負担がかかることはない。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変形が可能である。
【0055】
例えば、上述した実施形態では、構造解析部30がバネ定数を算出するために、予め求めておいた関数式([数1]の関数式)を利用しいているが、特にこれに限定されるものではない。
情報処理装置1のメモリ(主記憶装置51、補助記憶装置53)の所定領域に、前記関数式を算出するためのデータベース(実験により得られた、インパネの「対策部位に設定した最適な線形バネのバネ定数」と「線形バネの付与前の対策部位の変位」とを対応付けたデータを集めたデータベース)を格納しておく。
そして、図4に示したS71の処理を行う際、その都度、構造解析部30が、前記データベースに登録されたデータを用いて前記関数式を求めるようにしてもよい。
また、図4のS73〜S75においてバネ定数を補正した場合、前記データベースに、「補正したバネ定数(補正した後に実施されるS74において所定要件を満たした線形バネのバネ定数)」と「線形バネの付与前の対策部位の変位」とを対応付けたデータを追加して登録する。
このように構成することにより、バネ定数を補正した際の値が、前記関数式の算出基礎となるデータに反映されるため、算出する関数式の信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0056】
W…設計支援装置
1…情報処理装置
2…入力装置
3…出力装置
4…CAD装置
10…制御部
20…データ取得部
30…構造解析部
40…出力部
50…CPU
51…主記憶装置
52…I/Oインタフェース
53…補助記憶装置
54…NWインタフェース
55…設計支援プログラム
100…インストルメントパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置に、構造物の剛性評価を実行させる設計支援プログラムであって、
構造物の設計情報、物性値情報、拘束条件、および荷重条件を含む入力データを用いて、該構造物に等分布荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し該構造物の変位を求め、該変位が一番大きい領域を対策部位候補として特定し、該対策部位候補に集中荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し該対策部位候補の変位を求め、該対策部位候補の変位が所定要件を満たすか否かにより対策部位候補が剛性強化の必要な対策部位に該当するか否かを判定する判定処理を行うステップと、
前記対策部位に該当すると判定された場合に、前記求めた対策部位候補の変位と、所定の関数式とにより線形バネのバネ定数を算出し、前記対策部位に該算出したバネ定数の線形バネを設定し、該対策部位の剛性を疑似的に上げた上で、再度、前記判定処理を行い、次の対策部位の有無を判定するステップとを有することを特徴とする設計支援プログラム。
【請求項2】
前記関数式は、実験或いは実際の構造物の剛性評価により得られた、前記線形バネのバネ定数と、前記線形バネを設定する前の前記対策部位の変位とを対応付けたデータを集めたデータ群を統計処理して得られた近似式であることを特徴とする請求項1に記載の設計支援プログラム。
【請求項3】
前記算出したバネ定数の線形バネを前記対策部位に設定した場合、さらに、前記線形バネが設定された対策部位に集中荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し該対策部位の変位を求め、該求めた変位が所定基準を満たさなければ、前記算出したバネ定数を補正することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の設計支援プログラム。
【請求項4】
構造物の設計情報、物性値情報、拘束条件、および荷重条件を含む入力データを用いた有限要素法による構造解析を行い、該構造物の剛性評価を行う設計支援装置であって、
前記入力データを用いて、前記構造物に等分布荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し該構造物の変位を求め、該変位が一番大きい領域を対策部位候補として特定し、該対策部位候補に集中荷重を加えた有限要素法による構造解析を実施し該対策部位候補の変位を求め、該対策部位候補の変位が所定要件を満たすか否かにより対策部位候補が剛性強化の必要な対策部位に該当するか否かを判定する判定処理を行う構造解析手段を有し、
前記構造解析手段は、前記対策部位に該当すると判定された場合に、前記求めた対策部位候補の変位と、所定の関数式とにより線形バネのバネ定数を算出し、前記対策部位に該算出したバネ定数の線形バネを設定し、該対策部位の剛性を疑似的に上げた上で、再度、前記判定処理を行い、次の対策部位の有無を判定することを特徴とする設計支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−107927(P2011−107927A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261518(P2009−261518)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】