説明

設計支援装置および設計支援方法

【課題】配置を段階的に確定していくレイアウト設計において、設計制約を満たすような配置の意志決定を効率的に支援すること。
【解決手段】設計支援装置1は、設計データ11を構成する各機器に対して、レイアウトデータと確定度とを対応づけて記憶手段に格納する設計データ入力部21と、設計データ11の各機器について、機器間でのレイアウトデータの衝突を検出する設計衝突検出部24と、設計衝突検出部24により衝突が検出された機器群について、対応づけられている確定度が低い順に機器を選択し、その選択した機器を他の機器を回避するように移動させることにより、設計データ11のレイアウトデータを変更する設計調整部25と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計支援装置および設計支援方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラントなどのレイアウトを設計する上で、そのレイアウトの構成要素(例えば化学プラントでは、化学装置やその装置間の配管)を段階的に意志決定していく手法がとられることが多い。段階的な意志決定とは、例えば、「装置Aの配置は確定しているが、装置Bの配置は不確定である」などの確定部分と不確定部分とが混在した設計データについて、不確定部分を徐々に確定部分へと置き換えていくことを指す。
【0003】
このような段階的な意志決定をコンピュータ上での設計作業で実現するため、レイアウトを示す設計データに対して、付加情報としての確定度合いの入力を受け付けるシステムが、開示されている。
例えば、特許文献1には、「〜自己が決定した又は変更した設計項目を前記データベースに格納する際に当該設計項目が少なくとも確定情報か否かを示す指標を付して格納することを特徴とするプラント統合設計システム」と記載されている。
一方、非特許文献1には、「〜あらかじめ定められた時間の枠内で設計を行うことを考えた場合、広範囲な内容についての大域的な設計を進める上では忠実度の低い知識が有用である一方で、設計解の精度を保証するためには部分に関する忠実度の高い知識が不可欠となるということになる」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−297116号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】藤田 喜久夫、菊池 慎市 “大規模なシステム設計プロセスにおける分散協調処理の形式についての考察”,第18回設計シンポジウム, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
装置や配管などの構成要素を配置するレイアウト設計においては、一度確定した後でも、その配置をやり直すことも多い。やり直す要因として、レイアウト設計の物理的制約が挙げられる。例えば、装置Aと装置Bの位置を確定し、その両装置を接続する配管を最短距離で接続した場合、その接続経路上に別の装置Cが存在しているときには、配管と装置Cとが衝突してしまうため、配管を装置Cから迂回させなくてはいけない。つまり、一度確定した配管の経路を未確定に戻し、再度確定する必要がある。
【0007】
よって、レイアウト設計では、その構成要素が全て確定した状態、かつ、その構成要素間が互いに併存している(衝突していない)状態にするまで、構成要素の確定や衝突の検証などを試行錯誤で進めていく必要がある。しかし、このような試行錯誤の設計作業を支援するという観点からは、従来技術(特許文献1、非特許文献1など)では不充分である。なぜなら、単に構成要素ごとの確定情報を自己申告で付加するだけでは、設計者にとって、どの構成要素から順に確定させていけばいいかといった効率的な設計指針が示されないためである。
【0008】
そこで、本発明は、前記した問題を解決し、配置を段階的に確定していくレイアウト設計において、設計制約を満たすような配置の意志決定を効率的に支援することを、主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、機器のレイアウトデータを含む設計データの作成を支援する設計支援装置であって、
前記設計データを構成する各機器に対して、そのレイアウトデータへの確定度の入力を受け付け、機器の前記レイアウトデータと機器の確定度とを記憶手段に格納する設計データ入力部と、
前記設計データの各機器について、機器間での前記レイアウトデータの衝突を検出する設計衝突検出部と、
前記設計衝突検出部により衝突が検出された機器群について、機器の前記確定度が低い順に機器群から機器を選択し、その選択した機器を他の機器を回避するように移動させることにより、前記設計データの前記レイアウトデータを変更する設計調整部と、を有することを特徴とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、配置を段階的に確定していくレイアウト設計において、設計制約を満たすような配置の意志決定を効率的に支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に関する設計支援システムを示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に関する設計支援システムによる設計支援処理を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施形態に関する設計データおよび設計データ入力部を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に関する関連データおよび関連データ入力部を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に関する確定度整合部を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に関する設計衝突検出部および設計調整部を示す説明図である。
【図7】本発明の一実施形態に関する設計データの作成完了処理を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施形態に関する設計データ評価部を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に関するQE(Quantifier Elimination)処理部を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、各図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、設計支援システムを示す構成図である。設計支援システムは、設計支援装置1が、インタフェースである入力装置8(キーボードやマウスなど)および表示装置9(ディスプレイ)と接続されて構成される。
設計支援装置1は、CPU(Central Processing Unit)とメモリとハードディスク(記憶手段)とネットワークインタフェースを有するコンピュータとして構成され、このコンピュータは、CPUが、メモリ上に読み込んだプログラムを実行することにより、各処理部を動作させる。
【0014】
設計支援装置1は、設計データ11と、関連データ12と、設計データ入力部21と、関連データ入力部22と、確定度整合部23と、設計衝突検出部24と、設計調整部25と、設計データ評価部31と、QE処理部32とを含めて構成される。
【0015】
設計データ11は、レイアウト設計における機器とその間を結ぶ配管(配線)の位置データ(図3参照)であり、かつ、配置を段階的に確定していくために、各機器ごとにその確定度を対応づけるデータである(詳細は、後記する表1参照)。なお、以下では、設計データ11の一例として、火力、化学、原子力などのプラント設計用データを例示する。
設計データ入力部21は、入力装置8を介して、設計データ11(レイアウトデータおよび確定度)の入力を受け付ける。
【0016】
関連データ12は、設計データ11の構成要素ごとに、その構成要素と別の構成要素との関連を示すデータである(図4参照)。この関連データ12は、構成要素Aが不確定のときに、関連データ12において構成要素Aと関連する構成要素Bも不確定に変更する、などの設計データ11における確定度の波及処理に使用されるデータである。
関連データ入力部22は、入力装置8を介して、関連データ12の入力を受け付ける。
確定度整合部23は、関連データ12を参照して、設計データ11の確定度の波及処理を実施する。
【0017】
設計衝突検出部24は、設計データ11に対して、設計制約(物理的な衝突など)に違反した構成要素を検出する。衝突とは、設計データ11の複数の構成要素の配置に重複が存在することである。
設計調整部25は、設計衝突検出部24が検出した衝突を調整する。そのため、設計調整部25は、設計データ11内の衝突した複数の構成要素について、その構成要素に対応する確定度が低いものから順に(優先的に)、衝突した構成要素を回避する(衝突を解消する)ように迂回移動する。また、設計調整部25は、物理的な衝突以外の設計制約に対しては、その設計制約を満たすように、確定度が低いものから順に設計データ11を変更する。
【0018】
設計データ評価部31は、設計データ11の完成度を評価して出力する(図8参照)。
QE処理部32は、設計衝突検出部24から呼び出される処理部であり、設計データ11内の設計制約を多変数多項式不等式系(multivariate polynomial inequalities:MPI)として表現したとき、その式を解くことで設計衝突(設計矛盾ともいえる)を検出する。QEの詳細は、例えば、文献「穴井 宏和 “Quantifier Elimination -アルゴリズム・実装・応用-”,数式処理 vol.10,No.3,pp. 3-10.」に記載されている。
【0019】
図2(a)は、設計支援処理のメインルーチンを示す。このメインルーチンは、図示ではS11〜S16の順に実行することとなっているが、この実行順序はあくまで一例であり、例えば、S11〜S16の各処理ごとの起動ボタンが列挙された統合GUI(Graphical User Interface)に対して、マウスのクリックを受け付けると、そのクリックされたボタンの処理を実行することとしてもよい。
【0020】
S11として、設計データ入力部21は、設計データ11の入力を受け付ける(詳細は、図3(b)を参照)。なお、設計データ11のうちのレイアウトデータについては、CAD(Computer Aided Design)ツールなどで、白紙の設計データ11から徐々に構成要素を増やしていってもよいし、過去の類似設計された設計データ11をコピーして、そのコピーに対する修正作業として、設計データ11を作成してもよい。一方、設計データ11のうちの確定度データについては、過去の確定度データを流用せずに、今回の設計データ11の確定度を全て不確定の状態から開始することが望ましい。
【0021】
S12として、関連データ入力部22は、関連データ12の入力を受け付ける(詳細は、図4を参照)。
S13として、確定度整合部23は、S12の関連データ12をもとに、S11の設計データ11の確定度を整合する波及処理を実行する(詳細は、図5を参照)。
S14として、設計衝突検出部24は、S11の設計データ11について、その構成要素間での衝突を検出し、その検出した構成要素をリストアップする(詳細は、図6(a)を参照)。
S15として、設計衝突検出部24は、S11の設計データ11について、その構成要素が全て確定し、かつ、S14で衝突が検出されなかった(換言すると、設計データ11が完成した)か否かを判定する。S15でYesなら処理を終了し、NoならS16へ進む。
S16として、設計調整部25は、S14で衝突が検出された構成要素に対して、構成要素ごとに調整することで、衝突の解消を試みる。
【0022】
図2(b)は、設計支援処理のサブルーチン(S16の詳細)を示す。S16で説明したように、この図2(b)の動作主体は設計調整部25であるので、図2(b)の個々のステップでの動作主体の記載は、省略する。
【0023】
S101として、S14でリストアップされた構成要素から、確定度が低い順に(後記する「−」に該当する)、未選択の回避候補機器を1つ選択する。
S102として、S101で選択する回避候補機器が存在するか否かを判定する。S102でYesならS103へ進む。一方、S102でNoである場合、つまり、回避候補機器が存在しない場合(換言すると、迂回できる機器が存在しない場合)、これ以上設計データ11のレイアウト移動ができないことになり、「衝突解消失敗」を示すメッセージを表示装置9に表示することで、ユーザに通知する(S111)。
このユーザの通知においては、S14でリストアップされた構成要素群を併せてユーザに通知することで、S11の設計データ11の再入力(衝突した構成要素を「確定」から「不確定」に戻す)を促す。
【0024】
S103として、回避候補機器の衝突を回避するために、回避候補機器を衝突対象から迂回させるように移動するなどの衝突解消処理を実行する(詳細は、図6(b)参照)。
S104として、S103の結果として、S14でリストアップされた構成要素すべての衝突が解消されたか否かを判定する。S104でYesなら、「衝突解消成功」の旨を表示装置9に表示する(S112)とともに、S103で衝突解消処理を実行した構成要素群も表示することで、ユーザに通知する。S104でNoなら、S101に戻る。
なお、S112の衝突解消した構成要素の表示だけでなく、その表示された構成要素に対して、S11の設計データ11の再入力(確定度を「不確定」を示す「−」から「確定」を示す「○」に変更するための入力)を促してもよい。
【0025】
図3は、S11で説明した設計データ11および設計データ入力部21を示す説明図である。図3(a)は、設計データ11(初期に入力されたデータ)の一例として、機器や配管を配置する部屋内のレイアウトを2次元で(天井から見たように)示す。
図3(a)では、6つの機器(装置M1〜装置M6)が、6つの配管(配管P1〜配管P6)でそれぞれ接続されている。例えば、装置M1は、配管P5を介して、装置M4と接続されている。
【0026】
そして、これらの設計データ11を構成する機器と配管の図示について、説明をわかりやすくするため、図3(a)の右側で示すように、以下のルールを適用する。
・位置(重心座標)が確定している機器については、その機器IDだけを機器を示す四角形のアイコン内部に表記する(例えば、装置M1、装置M6)。一方、位置が確定していない機器については、その機器IDの前に、不確定を示す「??」を四角形のアイコン内部に表記する(例えば、装置M2、装置M3)。
・形状(縦横の長さなどの外形寸法)が確定している機器については、その機器を示す四角形のアイコンの外枠を実線太線で表記する(例えば、装置M1、装置M2)。一方、形状が確定していない機器については、その機器を示す四角形のアイコンの外枠を破線細線で表記する(例えば、装置M3、装置M6)。
・配管の位置が確定しているときには、その配管の経路を実線で表記し、配管の位置が確定していないときには、その配管の経路を破線で表記する。なお、本実施形態では、配管の形状(太さなど)は全て確定している例を示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1は、図3(a)の設計データ11を設計支援装置1内の記憶手段に格納するときの表形式で示したものである。設計データ11は、機器IDと、機器種別と、機器形状と、形状確定度と、機器位置と、位置確定度とを対応づけて構成される。
機器IDは、6つの機器(装置M1〜装置M6)や6つの配管(配管P1〜配管P6)を特定するための識別子である。本実施形態では、機器IDの先頭のアルファベットとして、機器を示すM(Machine)と、配管を示すP(Pipe)とを用いている。
機器種別は、機器IDで示す機器の種別として、装置か配管かを示すデータである。
【0029】
機器形状は、機器のレイアウトデータとしての形状データであり、装置ならその四角形の縦と横の寸法、配管ならその太さを示す。
形状確定度は、対応する機器形状の確定度を示す。
機器位置は、機器のレイアウトデータとしての位置データであり、装置ならその重心座標、配管ならその経路を示す折れ線の頂点集合を、それぞれ(x,y)座標表記で示す。
位置確定度は、対応する機器位置の確定度を示す。つまり、図3(a)で説明したように、1つの機器に対する確定度は、形状確定度と位置確定度とが別々に存在する。
【0030】
図3(b)は、設計データ入力部21の構成例として、図3(a)や表1の設計データ11を入力する画面を示す。この入力画面は、設計を行うCADのアドオン機能として埋め込まれる。設計データ入力部21は、左側のレイアウト入力画面でクリックされた機器(例えば、装置M3)の詳細情報を、右側のメニュー画面から入力させる。
メニュー画面において、機器の形状確定度および位置確定度はそれぞれ2値(確定または不確定)であるため、択一的なラジオボタンでいずれかを選択させる。一方、機器のレイアウト(機器形状、機器位置)は、それぞれ(x,y)座標として数値入力させる。
一方、設計データ入力部21の別の構成例として、表1の設計データ11をGUIで表示して、プルダウンメニューなどで表の各データを個々に入力させてもよい。
【0031】
図4は、S12で説明した関連データ12および関連データ入力部22を示す説明図である。
関連データ12は、無向グラフで示される。この無向グラフでは、機器と直接接続している配管が相互に関連していると規定している。これは、機器の大きさや位置が移動すれば、配管の始点、終点が変更になり、配管の配置位置が変更となる可能性があるためである。
関連データ入力部22は、関連データ12を入力させる方法として、手動入力(機器IDが記載されたアイコンをGUI上で配置し、相互に関連するものをユーザに線で接続させる)としてもよいし、図3(a)の設計データ11から、配管を示すリンクを辿ることによって、自動抽出してもよい。また、自動抽出した無向グラフを、GUIによってユーザに適宜編集させてもよい。
【0032】
図5は、S13で説明した確定度整合部23を示す説明図である。
まず、確定度整合部23は、図3(a)の設計データ11の状態から、関連データ12を辿ることによって、確定度が整合した図5(a)の設計データ11を作成する。つまり、確定度整合部23は、形状確定度および位置確定度のうちの少なくとも1つの確定度が「−」である設計データ11の装置(例えば、装置M3)を検出すると、関連データ12からその検出した装置M3に直接接続されている配管P1,P6を特定し、その特定した配管P1,P6の位置確定度を「−」へと変更(換言すると、装置M3の確定度を波及)させる。同様に、確定度整合部23は、不確定な装置M2に直接接続されている配管P2,P3にも、確定度を波及させる。
【0033】
【表2】

【0034】
表2は、図5(a)の設計データ11を表形式で示したものである。この設計データ11のうちの今回確定度整合部23によって変更されたデータについて、そのデータの末尾に更新を示す「!」を付記している(例えば、P1の位置確定度)。以下、本実施形態の表において、直前の状態から変更されたデータの末尾には、「!」を付記する。
【0035】
【表3】

【0036】
次に、設計データ入力部21は、ユーザから装置M3の位置および形状を確定する旨の入力を受け付けると(「−」から「○」への変更)、確定度整合部23は、図5(b)や表3の設計データ11に示すように、装置M3の確定度を、周囲の配管P1,P6に波及させる。
【0037】
【表4】

【0038】
図6は、S14で説明した設計衝突検出部24、および、S16で説明した設計調整部25を示す説明図である。まず、図6(a)や表4の設計データ11に示すように、設計データ入力部21が、装置M6の機器形状と機器位置とを変更すると、設計衝突検出部24は、その変更に伴い、配管P2の経路との衝突を検出する(S14)。
【0039】
【表5】

【0040】
次に、図6(b)や表5の設計データ11に示すように、設計調整部25は、確定された装置M6はそのままに、位置確定度が「−」である配管P2の経路(機器位置)を、装置M6から迂回するように移動させる(S103)。なお、経路を迂回させる具体的な計算手法については、例えば、文献「Hart, P. E.; Nilsson, N. J. Raphael, B. : 「A Formal Basis for the Heuristic Determination of Minimum Cost Paths」. IEEE Transactions on Systems Science and Cybernetics SSC4 (2), pp. 100-107(1968).」に記載された手法により実現可能である。これにより、装置M6と配管P2とが併存した(衝突のない)配置が生成される。
【0041】
【表6】

【0042】
図7は、設計データの作成完了処理を示す説明図である。
ユーザは、設計データ入力部21を介して、図6(b)の状態から、さらに、装置M2の位置確定度を「○」にする(図7(a)の状態)。
すると、関連データ入力部22は、関連データ12を参照して、装置M2の位置確定度を、周囲の配管P2,P3へと波及させる(図7(b)の状態)。表6は、図7(b)の状態に対応する表形式の設計データ11である。これにより、すべての設計項目が「○」で、かつ併存した設計が完了する(S15,Yesに分岐する状態)。
【0043】
図8は、設計データ評価部31を示す説明図である。この設計データ評価部31の処理は、統合GUIなどから起動される。図8では、時系列の設計データ11の完成度合いを、3つのグラフ(データ入力率、データ確定率、データ整合率)でそれぞれ並べて表示したものであり、この3つのグラフは設計データ評価部31によって作成される。なお、設計データ評価部31は、3つのグラフの全てを作成しなくてもよく、1つ以上のグラフを作成すればよい。
【0044】
データ入力率とは、設計データ11におけるレイアウトデータ(機器形状、機器位置)の入力度合いを示す指標である。データ入力率は、(入力されたレイアウトデータのセル数)/(存在するレイアウトデータのセル数)×100%として計算され、表1では、24/24=100%である。なお、100段階評価(0〜100%)でなく、5段階評価(0〜5)としてもよい。
【0045】
データ確定率とは、設計データ11における機器ごとの確定度合いを示す指標である。データ確定率は、(「○」が入力された確定度のセル数)/(存在する確定度のセル数)×100%として計算され、表1では、20/24=83%である。
【0046】
データ整合率とは、設計データ11における設計衝突検出部24がS14で検出した衝突が発生した機器の度合いを示す指標である。データ整合率は、(衝突が発生していない機器の数)/(存在する機器の数)×100%として計算され、図6(a)では、22/24=92%である。
【0047】
ユーザは、図8の設計データ評価部31の出力画面を参照することで、以下のように設計データ11の作成の進捗状況を詳しく知ることができる。
時刻t1において、レイアウトデータの入力が100%で完了している。このように、レイアウトデータの入力度合いを参照しただけでは、確定作業や整合作業の進捗度合いはわからない。
時刻t2において、時刻t1よりも、データ確定率が低下している。これは、図3(b)→図5(a)のように、確定度整合部23が確定度「−」を波及させたためである。
時刻t3,t4において、段階的にデータ確定率が向上している。これは、図5(a)→図5(b)のように、設計データ入力部21での確定度「○」が入力されたり、その確定度「○」が確定度整合部23により波及されたりしたためである。
時刻t5において、データ整合率が低下している。これは、図6(a)のように、設計衝突検出部24が衝突を検出したためである。
時刻t6において、データ整合率が向上している。これは、図6(b)のように、設計調整部25が衝突を回避したためである。
【0048】
【数1】

【0049】
図9は、QE処理部32を示す説明図である。設計データ11が制御系のデータや水車の翼の曲面形状データであるときには、その関連データ12が(式1)や(式2)のような、設計データ11の設計項目を変数とした制約式として数式表現される。ここで、Xnはn番目の設計項目値を示し、zは限定記号用の変数である。
【0050】
QE処理部32は、QE手法によって実行可能解の有無、および、解の可能領域を求め、その結果を図9(a)のように表示する。QE処理部32は、図9(b)に示したような入力画面によって、既に確定した値を式に代入して(例えば、値設定欄の「22.4」)、その他の不確定な変数の、設計可能解を表示する。
その際、視認性の観点から、グラフ表示する変数をユーザが選択する(グラフ表示「○」が指定された不確定変数を、図9(a)で表示する)。一方、グラフ表示「○」が指定されなかった変数については、残りの変数の実行可能解の範囲がもっとも広い範囲にデフォルト設定する。
設計者は、図9(a)のグラフを見ながら、実行可能解の範囲((式1)および(式2)をともに満たす衝突回避解の集合)で、設計データ11を順次設定する。一方、衝突回避解の集合が表示されなかったときには、設計データ11に衝突(矛盾)が発生しているので、一度確定した値を不確定へと戻す必要がある。
【0051】
以上説明した本実施形態により、設計データ入力部21により設計データ11が変更されたときには、確定度整合部23は、関連データ12を参照して、変更された確定度を波及させる。さらに、設計衝突検出部24は、設計データ11内の衝突を検出し、設計調整部25はその検出した衝突を解消するように設計データ11を修正する。
【0052】
これにより、設計データ11内の構成要素間の確定度の不整合や、構成要素間の設計制約上の不都合を早期にユーザが知ることができるので、修正作業が少なくて済む。よって、設計での後戻りを減らすことで、配置を段階的に確定していくレイアウト設計において、設計制約を満たすような配置の意志決定を効率的に支援することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 設計支援装置
8 入力装置
9 表示装置
11 設計データ
12 関連データ
21 設計データ入力部
22 関連データ入力部
23 確定度整合部
24 設計衝突検出部
25 設計調整部
31 設計データ評価部
32 QE処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器のレイアウトデータを含む設計データの作成を支援する設計支援装置であって、
前記設計データを構成する各機器に対して、そのレイアウトデータへの確定度の入力を受け付け、機器の前記レイアウトデータと機器の前記確定度とを記憶手段に格納する設計データ入力部と、
前記設計データの各機器について、機器間での前記レイアウトデータの衝突を検出する設計衝突検出部と、
前記設計衝突検出部により衝突が検出された機器群について、機器の前記確定度が低い順に機器群から機器を選択し、その選択した機器を他の機器を回避するように移動させることにより、前記設計データの前記レイアウトデータを変更する設計調整部と、を有することを特徴とする
設計支援装置。
【請求項2】
前記設計データを構成する各機器に対して、その機器間の関連データが記憶手段に格納されており、
前記設計データの各機器から選択した所定機器の確定度と、前記関連データにおいて前記所定機器に関連する他の機器の確定度とを整合させる確定度整合部をさらに有することを特徴とする
請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項3】
記憶手段に格納される前記設計データの各機器とは、設計対象であるプラントを構成する装置とその装置間を接続する配管であり、前記装置の前記レイアウトデータとは、前記装置が配置される位置と前記装置の形状との組として表現されるデータであり、前記配管の前記レイアウトデータとは、前記装置間を接続するときの前記配管が辿る経路データとして表現されるデータであり、
前記設計衝突検出部は、前記設計データの前記装置の位置および形状から特定される前記装置の領域に、前記配管の経路データが接触したときに、衝突を検出することを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の設計支援装置。
【請求項4】
前記設計データを読み込んで、その評価データとして、データ入力率、データ確定率、および、データ整合率のうちの少なくとも1つを出力する設計データ評価部をさらに有し、
前記データ入力率とは、前記設計データにおける機器の総数と、前記レイアウトデータが入力された機器数との比率であり、
前記データ確定率とは、前記設計データにおける機器の総数と、前記確定度が高い機器数との比率であり、
前記データ整合率とは、前記設計データにおける機器の総数と、前記設計衝突検出部により衝突が検出された機器数との比率であることを特徴とする
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の設計支援装置。
【請求項5】
前記設計データの前記レイアウトデータを満たす実行可能解の有無をQE(Quantifier Elimination)手法によって求め、実行可能解が存在しないときに設計衝突を検出するQE処理部を前記設計衝突検出部としてさらに有することを特徴とする
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の設計支援装置。
【請求項6】
機器のレイアウトデータを含む設計データの作成を支援する設計支援装置が実行する設計支援方法であって、
前記設計支援装置は、前記設計データ入力部、設計衝突検出部、および、設計調整部を有しており、
前記設計データ入力部は、前記設計データを構成する各機器に対して、そのレイアウトデータへの確定度の入力を受け付け、機器の前記レイアウトデータと機器の前記確定度とを記憶手段に格納し、
前記設計衝突検出部は、前記設計データの各機器について、機器間での前記レイアウトデータの衝突を検出し、
前記設計調整部は、前記設計衝突検出部により衝突が検出された機器群について、機器の前記確定度が低い順に機器群から機器を選択し、その選択した機器を他の機器を回避するように移動させることにより、前記設計データの前記レイアウトデータを変更することを特徴とする
設計支援方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−114571(P2013−114571A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262067(P2011−262067)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】