説明

診断支援装置、診断支援装置の制御方法、およびそのプログラム

【課題】 被検者から得たデータをコンピュータ処理し、得られた診断情報を提示する診断支援システムの仕組みを提供する。
【解決手段】 診断支援装置は、被検者から得たデータ、コンピュータ処理によって医学的な診断情報を得る診断処理を実行する。又、診断支援装置は、例えば被検者の検査履歴に応じて診断支援処理の処理方法を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者から得たデータをコンピュータ処理し、得られた診断情報を提示する医用診断支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、医師は、患者を撮影した医用画像をモニタに表示し、表示された医用画像を読影して、病変部の状態や経時変化を観察する。この種の医用画像を生成する装置としては、
・CR(Computed Radiography)装置、
・CT(Computed Tomography)装置、
・MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、
・超音波装置(US;Ultrasound System)等が挙げられる。
【0003】
このような医師の読影に対する負担軽減を目的として、医用画像をデジタル化して画像解析することにより病変部等を自動的に検出して、コンピュータ支援診断を行う診断支援装置が開発されている。以下、コンピュータ支援診断を、CAD(Computer−Aided Diagnosis)と称する。このようなCADでは、自動的に異常陰影候補を病変部として検出する。この異常陰影の検出処理では、放射線画像を表す画像データをコンピュータ処理することにより、癌等を表す異常な腫留陰影や高濃度の微小石灰化陰影等を検出する。そして、この検出結果を提示することにより、医師の読影に対する負荷を軽減し、また読影結果の精度を向上させることができる。
【0004】
医師が読影際に誤診を避けるために、非特許文献2のようなガイドラインが設けられている。
【0005】
コンピュータ支援診断を行う診断支援装置は、異常陰影候補を算出する際に、常に相反する「感度」と「誤診検出」のバランスを考慮する[特許文献1]。
【0006】
例えば、腫瘍影候補を抽出する数を調整するパラメータである「感度」をあげると、実際には腫瘍でない陰影の抽出である「誤診検出」数も増加する。
【0007】
このように、「感度」を上げると見落しが減らせるが、「誤診検出」(偽陽性の病変候補はFP( false positive:以下単にFPと呼ぶ場合もある。)が増える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3417595号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】河田・仁木・大松、「胸部3次元CT像による肺野小型腫瘤の3次元曲率を用いた内部構造の解析」、電子情報通信学会論文誌、D−II、Vol。J83−D−II、No.1、pp.209−218、2000年1月
【非特許文献2】Single slice helical CT による肺癌CT検診の判定基準と経過観察ガイドライン、「NPO法人 日本CT検診学会」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のコンピュータ支援診断を行う診断支援装置のようなシステムは、被検者から得たデータのみを用いてコンピュータ支援診断を行っていた。即ち、被検者の検査履歴を考慮していないものである。
【0011】
本発明は以上の問題に鑑みてなされたものであり、被検者の検査履歴をも考慮したコンピュータ処理による診断情報を得る仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための、本発明の一態様によるによる診断支援装置は以下の構成を備える。すなわち、被検者のデータから病変に関する情報を取得して、前記病変の医学的重要度を求める診断支援処理手段と、
病変部の特徴量と所見を関連付け保存する症例データベースと、を備え、
前記診断支援処理手段は、抽出した病変部から特徴量を算出し、前記症例データベースに保存される症例付きの特徴量の類似度から、病変部の医学的重要度を求めることを特徴とする
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成により、被検者の検査履歴を考慮したコンピュータ処理による診断情報を提供する仕組みを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】診断支援装置システムの機器構成を示す図である。
【図2】診断支援装置の機能構成を示す図である。
【図3】診断支援装置の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】診断支援装置の出力例を示す図である。
【図5】診断支援装置での病変候補の大きさを算出する処理手順を示すフローチャートである。
【図6】診断支援装置の医学知識データベースに蓄えられるデータの例を示す図である。
【図7】診断支援装置での症例の類似画像を検索する処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に従って本発明に係る医用の診断支援装置及び方法の好ましい実施形態について詳説する。ただし、発明の範囲は図示例に限定されるものではない。
【0016】
(第1実施例)
CPU100は、主として診断支援装置1の各構成要素の動作を制御する。主メモリ101は、CPU100が実行する制御プログラムを格納したり、CPU100によるプログラム実行時の作業領域を提供したりする。磁気ディスク102は、オペレーティングシステム(OS)、周辺機器のデバイスドライブ、後述する診断支援処理等を行うためのプログラムを含む各種アプリケーションソフト等を格納する。表示メモリ103は、モニタ104のための表示用データを一時記憶する。モニタ104は、例えばCRTモニタや液晶モニタ等であり、表示メモリ103からのデータに基づいて画像を表示する。マウス105及びキーボード106はユーザによるポインティング入力及び文字等の入力をそれぞれ行う。上記各構成要素は共通バス107により互いに通信可能に接続されている。
【0017】
本実施形態において、診断支援装置1は、LAN4を介してデータベース3から画像データ等を読み出すことができる。或いは、診断支援装置1に記憶装置、例えばFDD、CD−RWドライブ、MOドライブ、ZIPドライブ等を接続し、それらのドライブから画像データ等を読み込むようにしても良い。また、LAN4を経由して医用画像撮影装置2から直接に医用画像等を取得してもよい。
【0018】
図2に診断支援装置1の構成例を記載する。
【0019】
図2において、診断支援装置1は、医用検査データ入力部201、症例データベース202、医学知識データベース203、診断支援処理手段としての診断支援処理部204、処理方法変更部207、記憶手段としての履歴記録部208とデータ出力部209を備えて構成される。
【0020】
医用検査データ入力部201は、例えばX線撮影装置、CT装置、MR装置、超または音波診断装置から取得した画像データ、心電図や脳波データ・白血球数などの計測データなどの、被検者に関するデータを取得する。
【0021】
また、カルテ情報などの病変候補取得に関連する情報を含む医用検査データの入力が可能な構成であってもよい。その場合、これらのデータをユーザによる直接入力が可能な構成であっても良いし、情報が記録されたFDD、CD−RWドライブ、MOドライブ、ZIPドライブ等の各種記憶媒体から読み取り可能な構成であってもよい。またこれらのデータを記憶するデータベースとLANを介して接続し、受信可能な構成であってもよい。
【0022】
症例データベース202は、医用検査データ取得装置2によって撮影された画像データや、心電図や白血球数をはじめとする数値データ、被検者に関するカルテなどのテキストデータを格納する。各症例データには診断支援装置によるデータ処理結果の値や確定診断結果を含めることもでき、それらの情報を類似症例検索に利用することができる。
【0023】
また、認識、識別処理に用いるカテゴリーに分類されたテンプレートも保存される。このテンプレートはパタン認識処理として病変が何か(悪性、良性など)を判断するために用いる。また、病変を抽出する場合に、被写体から抽出したデータとの相似度(例えば相関値等)から、病変である領域を抽出するために用いられる。
【0024】
医学知識データベース203は、病変領域に対する診断基準や、転移病変や合併症をはじめとする検査対象となる疾病の情報を格納する。さらに、原発病変を検出した際に関連する疾病の有無を調べる手順といった診断手順などのデータも格納させても良い。
【0025】
診断支援処理部204は、診断を支援するための情報を被写体から得られたデータから取得する。
【0026】
画像データを処理する場合には処理部205は、被検者から取得されたデータから病変に関する情報を取得する。例えば、腫瘍影の候補領域、結石の候補領域などの病変部を抽出する。
【0027】
また、病変部の候補である病変部候補の取得にあたって症例データベース202を参照して過去の症例データとの類似度を比較してもよい。この場合、処理部205は画像から特徴量を算出し、症例データベース202に保存される症例ごとの特徴量の一致度から、病変候補を取得する。
【0028】
医学知識データベース203に格納されている診断基準や診断手順に関するデータを参照しでもよい。例えば、診断基準としてはCT画像であれば、病変部に相当するCT値の範囲があり、その範囲に病変部が存在する可能性が高くなる。従ってその範囲から病変部を抽出する。また、診断手順としては、医師の診断試行をフローとして、文法化しているものである。例えば、二次元の画像データであれば、被写体の関心領域の抽出、関心領域内でのテキスチャ−の特徴の数値化等のコンピュータ処理で必要とする処理手順を医師の思考に合わせて文法化している。
【0029】
なお処理部205の処理対象は画像データに限定されず、例えば被検者に関する画像以外の計測データあるいはカルテデータなども処理対象であり、それらのデータに基づいて病変候補を取得する構成としてもよい。
【0030】
出力処理部206は、画像データを対象とする場合には、処理部205で抽出された病変候補の病変らしさ等の診断を支援するための情報を取得する。また、計測データであれば、被写体から得られたデータを直接に解析して、診断を支援するための情報を取得して出力する。
【0031】
履歴記録部208は、被検者に関する診断履歴の情報を記録する。診断履歴情報としては、過去に行った検査方法、そのときの診断結果、等を記録する。また、過去に推定された発症確率、発症確率に応じた次期診時期等も格納する。
【0032】
検査方法にはスクリーニングや、精密検査または、病変部の経過監察等の検査の目的情報も記録する。
【0033】
処理方法変更部207は、履歴記録部208から得られた被検者の履歴情報に応じて処理部204、出力処理部205の処理方法を決定する。
【0034】
データ出力部209は、処理部205より得られた病変候補のデータと出力処理部206によって得られた病変候補の判定情報を指定の形式として出力する。
【0035】
次に、図3のフローチャートを用いて、CPU100がどのように診断支援装置1を制御しているかについて説明する。
【0036】
ステップS31において、CPU100は、医用検査データ入力部201から、医用検査データを診断支援装置1に入力する。
【0037】
また、検査目的に応じて病変候補取得の際の病変検出基準や病変検出手順が異なるため、履歴記録部から208被検者の検査履歴(例えば前回撮像された日か検査日までの検査の経歴)、検査目的の情報を取得する。
【0038】
ステップS32において、処理方法変更部207は、CPU100の制御により、履歴記録部208に記録されている被検者の履歴情報に応じて、現在の発症確率を推定する。ここで発症確率とは病変部の発症する確率をいう。また、病変部が良性から悪性に変位する確率をもいう。
【0039】
被検者の検査経過の時間に応じて起こりうる症状変化は、過去の医学的な知見から確率的に有為な情報として保存されている。従って、時間経過の情報に応じて、症状変化は確率的に有為な範囲で予測できるためである。つまり、被検者の検査履歴に応じて、確率的に有為な範囲で被検者の症状変化を予測できるものである。
【0040】
発症確率を推定するに当たって、履歴記録部208に記録された被検者の過去と現在の検査データ、検診回数等の診断を行った時間間隔、過去の検診で推定された発症確率などの履歴情報、画像処理結果の病変候補データ等を用いて、病変候補の進行具合を算出する。
【0041】
例えば、履歴記録部208に記録された被検者の病変部(腫瘤、結石など)の情報から、現状の病変部の大きさを予測する。この予測は、過去の病変部の大きさと成長速度を用いて行われる。ここで、成長速度は、過去の病変部のサイズ,種類を用いて医学知識データベース203に記録される統計量が利用される。また、病変部のサイズ変化が履歴記録部208に記録されている場合であれば、過去の時点での病変部のサイズから求めることができる。また、たとえば、予測された大きさが5mm以上であれば、発症確率が高いと判断する。ここでの、発症確率とは、抽出した病変候補が悪性である確率である。この発症確率に応じても、処理方法変更部207は、処理部205で抽出する病変部のサイズを変更する。この発症確率が高い場合には、新たな病変部が発生する可能性もあがるため、全範囲のサイズの病変部を抽出する。また、病変部のサイズに応じて処理関数を変更する場合もある。
【0042】
また、履歴記録部208に記録された被検者の履歴から、初診であると判断された場合には、発症確率が高いとして全範囲のサイズの病変部を抽出する。
【0043】
それに対して、履歴記録部208に記録された被検者の履歴から、病変部の抽出の履歴がない場合には、前回の診断から時間経過時間に応じて発症確率が変わってくる。前回の検査から時間が経過していない場合には、大きな病変部が発生する確率は有為に下がるため,発症確率が低いとして、大きな病変部の抽出を処理部205で抽出しないように、処理方法変更部207のパラメータを変更する。これにより、特定のサイズに合わせた抽出が行えるので、処理部205で抽出する病変部の擬陽性率は下がる効果を有する。
【0044】
このように、処理方法変更部207は、履歴記録部208に記録された被検者の履歴に基づき、診断支援処理部204の処理方法を変更する。
【0045】
診断支援処理部204の処理方法の変え方をとしては、信頼度を与える確率分布を調整したり、または、異常と認める場合の確率の閾値の調整をしたり、ベイズ識別器などの認識関数のパラメータを変えたり、識別器での特徴空間での境界面の移動をしたりなどの方法がある。また、判定のアルゴリズム自体を変えたりすることも可能である。線形判別関数のほか、サポートベクターマシン、ベイズ識別器、ニューラルネットワーク、AdaBoost、などの判別方法を選択することも、処理方法を変更することに相当する。
【0046】
なお、発症確率の例として次のような設定をする。
【0047】
発症確率=1.0:発症確率が推定できない場合、またはデフォルトと認められる発症確率値;この状態では、デフォルトに使われる識別器のパラメータを利用する
発症確率=0.9:発症確率が低い場合は、識別器の感度を下げて、デフォルト状態の90%の偽陽性が出るように識別気を設定する
発症確率=1.1:発症確率が高い場合は、識別器の感度を上げて、デフォルト状態の110%の偽陽性が出るように識別気を設定する
上記の設定は、単なる一例であり、本実施例を制限するものではない。
【0048】
ステップS33において、CPU100の制御に従い処理部205は、ステップS32で定められた処理方法で病変候補を抽出する。この際に医学知識データベース203に格納されている診断基準の情報を利用して、病変候補から計算される特徴量から病変らしさをしめす信頼度や、進行度などの病変候補データが得られる。ここで、信頼度とは、例えば、過去の病変から得られた特徴量との相関値等から、病変としての確からしさを示す。
【0049】
胸部CT画像の場合、処理部205は、画像から肺野、横隔膜、気管支、肺動脈、肺静脈などの領域を分割し、肺野は、上葉、中葉、下葉、区域に分類する。ここで、医用画像中から臓器領域を検出するための方法として、動的輪郭法の一種であるレベルセット法を例にして説明を行う。レベルセット法の場合、検出対象の領域の次元よりも一次元高いレベルセット関数を定義し、抽出したい領域をそのゼロ等高線であるとみなす。そして、レベルセット方程式と呼ばれる以下の発展方程式に基づいてこの関数を更新することで、輪郭を制御し領域を検出する。
【0050】
φ+F|▽φ|=0
ここで、φはレベルセット関数を時間軸方向に1次微分した値、Fは輪郭の成長速度、|▽φ|はレベルセット関数の勾配の絶対値を表している。
【0051】
このようにして、医用画像から臓器領域を検出することが出来る。上述の説明では、レベルセット法を例に臓器領域検出の説明をしたが、領域検出の方法は、閾値処理による方法、領域拡張法、動的輪郭法、クラスタ化、グラフ最小切断法などがある。これらの手法のいずれか、あるいはその他の技術を用いて臓器領域を検出する。
【0052】
そして、それらの方法は部位に応じて切替えて使用しても良い。さらに、画像特徴量のみを使用するだけではなく、事前知識として確率アトラスや人体形状モデルなどを利用して領域検出を行っても良い。
【0053】
また、臓器領域から肺野腫瘤などの異常を検出する方法として、異常を検出するためのフィルタ処理、パターンマッチング、識別器による異常検出、過去画像や平均形状画像などと診断画像とのレジストレーションを行い差分検出する処理などがある。その他、肺野腫瘤を特定するための画像特徴量としては、腫瘤内部の各画素のCT値と3次元曲率(ガウス曲率、平均曲率、主曲率)から得られるshape indexとcurvednessなどもある。
【0054】
以上のいずれかを併用して、あるいはその他の技術を用いて、病変候補を検出する。
【0055】
ステップS35において、CPU100は、出力処理部206は、処理方法変更部207で定められた処理方法に応じて処理部205にて検出された病変候補の評価をする。
【0056】
異常の疾病分類、良悪性鑑別を行うために、悪性の可能性(確率値)を、判別方法(線形判別関数や、サポートベクターマシン、AdaBoost、ベイズ識別器、ニューラルネットなど)の識別器を用いて疾病分類、良悪性鑑別を行う。これら異常検出、疾病分類、良悪性鑑別に関しては上記の手法に限定されるものではない。
【0057】
さらに、判別器に用いる特徴量の重みの変更だけではなく、特徴量自体をより多く考慮したり、入れ替えたりも可能である。
【0058】
ここで、X線CT画像から抽出された特徴量を次の線形判別関数に適用して、肺野腫瘤候補の良悪性鑑別を行う例を示す。すなわち、病変候補が真の病変と偽陽性とに分類される:
【0059】
【数1】

【0060】
ただし、xは1個のパターンの特徴ベクトル、mとmはクラス1と2の平均ベクトル、Σはクラス内共分散行列を示す。線形判別関数fの値を判別得点とし、この値が負のときクラス1(良性)、正のときクラス2(悪性)に判別する。そして、発症確率に応じて上記線形判別関数のパラメータΣを変更する。すなわち、発症確率が高いと判定された場合、fがより正の値が出せるようにΣを設定し、発症確率が低いと判定された場合、fがより負の値が出せるようにΣを設定する。
【0061】
すなわち、発症確率が高いと推定されていれば、より多くの病変候補が注目されるようにする。つまり、出力処理部206の感度を上げる。逆に発症確率が低いと推定されていれば、偽陽性の病変候補を減らすために比較的重要でない病変候補を少なく提示するよう感度を下げる。
【0062】
出力処理部206の処理は処理部205の感度と連動して行っても、単独でおこなってもよい。すなわち、処理部205の感度を最大に上げて腫瘤影を多く抽出し、出力処理部206で、閾値を変化させて擬陽性を低下させることも可能である。また、処理部205の感度と連動することも可能である。
【0063】
ステップS36において、
ステップS32によって検出された病変候補データをステップS35によって病変と認められる基準を満たしていると判断された病変候補データにしぼって出力する。
【0064】
ここでデータ出力部209は、CPU100の制御により、出力先に応じた出力データに変換する。出力先としては、紙・メモリやハードディスクなどの記憶装置・モニタなどがある。
【0065】
図4に病変候補データの出力例を示す。医用検査データの上に病変候補を指摘するマークが表示され、その隣に画像特徴量や患者属性・経時変化データが表示されている。また病変候補データをモニタなどの表示デバイスに出力する場合にはポップアップ形式で表示してもよいし、別ウィンドウで表示しても良い。
【0066】
次に、図5を参照して、以上述べた処理方法変更部207で実行されるステップS33の病変候補の大きさの予測方法を説明する。予測される大きさは、履歴記録部208に被検者の履歴として記録され、次回の診断処理に用いられたり、次回の診断時期の決定に用いられる。
【0067】
ここでは、腫瘤を例として、その大きさと成長速度によって予測する方法を説明する。ここで、腫瘤の大きさは最長径を用いる。
【0068】
ステップS51において、
現在の胸部画像データからステップS32で検出された腫瘤を取得し、腫瘤の最長径を算出する。
【0069】
ステップS52において、
被検者の過去の胸部画像データまたは過去の診断レポートに、ステップS51で取得された腫瘤に対応する病変の記述があるかどうかを調べる。すでに過去にもその病変があったなら、処理はステップS53へ進む。
【0070】
ステップS51で検出された病変候補は今回の検診ではじめた検出されたのであれば、処理はステップS55へ進む。
【0071】
ステップS53において、
腫瘤の過去の情報を履歴記録部208から取得する。取得する情報は、大きさ(この場合は最長径)、症例の診断、その信頼度等が挙げられる。その情報は過去の診断レポートに記述がなければ、診断処理部204にて算出してもよい。
【0072】
ステップS54において、
対応する現在の腫瘤の最長径値と、過去の最長径値と過去の検診からの期間によって成長速度を以下の式によって算出する。ここでは、例として下記式を挙げたが、その式に限定せず、たとえば部位に応じてウエイトや、調整項を追加した式のように、医学の分野で認められる成長速度を算出するその他の方法でもよい。
【0073】
=(MRpresent−MRpast)/tただし、Vは成長速度、MRpresentは腫瘤の現在の最長径値、MRpastは過去に検査を行ったときの対応する腫瘤の最長径値、tは過去の検査から経過した時間である。
【0074】
ステップS55において、
検出された腫瘤の過去の情報がなければ、医学分野で経験的に知られている腫瘤の成長速度の値を利用する。もちろん、被検者のその他の検査データや、過去の症例などの情報に応じて腫瘤の成長速度を導く式や、方法なども利用してもよい。
【0075】
ステップS56において、
履歴記録部208に記録されている被検者の次の検診予定日(検診次期)を取得し、現在の腫瘤の大きさと、成長速度と、次回の検診までの日数を元に次の検診時での腫瘤の大きさを推定する。大きさの推定方法として、たとえば以下の式がある。ただし、その式に限定することなく、医学知識として表にまとめている経験値に応じて大きさを推定してもよい。
【0076】
MRfuture=MRpresent+VCただし、MRfutureは次の予定されている検診の時の腫瘤の大きさの予測、tは、次の予定検診までの時間。
【0077】
ステップS57において、
ステップS56で算出した、次回の検診時での腫瘤の大きさの予測を、医学ガイドラインと比較して、発症確率を推定する。たとえば、腫瘤の大きさが5mm未満であると予測されれば、発症確率は低いと判断できる。そして、腫瘤の大きさが10mm以上になるとの予測があれば、発症確率は高いと判断できる。
【0078】
以上、図5に示すような処理で次期検診時の病変の大きさを予測し、その情報を用いて処理方法変更部207によって発症確率を推定することができる。
【0079】
今回は大きさを表すために、腫瘤の最長径を用いて説明したが、腫瘤の容積を用いるなど,腫瘤の大きさと成長速度を表すことが可能であれば上記に限らない。
【0080】
次に、ステップS32の発症確率を推定する方法として医学的重要度を用いた例を説明する。
【0081】
処理方法変更部207は、処理部205によって取得された病変候補の医学的重要度に応じて発症確率を推定する。または、病変候補の医学的重要度の経過変化に応じて発症確率も推定できる。
【0082】
ここで、処理方法変更部207において算出する医学的重要度Iについて説明する。
【0083】
医学的重要度Iは、以下のように定義することができる。
I=A
ただし、
A:重要疾病度 (異種疾病間の相対的な重篤度)
B:進行度(病期) (同種疾病内の重篤度)
C:関連疾病度
とする。
【0084】
例えば処理部205において複数種の疾病を検出する場合には、検査目的に応じて下記のように病変ごとの関連疾病度Cが設定される。すなわち、
【0085】
【数2】


となる。
【0086】
ここで重要疾病度A、進行度Bの例を図6に示す。例えば肺癌の経過観察の場合に、処理部205により病変候補として肺野の悪性腫瘍(0期)が1個検出されたとすると、悪性腫瘍に関する医学的重要度I
=101=20
次に、発症確率を推定するために、患者が、過去にあった対応する病変の医学的重要度と比較する。履歴記録部208から、過去の検査において同じ腫瘍が良性腫瘍と判断されていたならば、その過去の医学的重要度I
IP=5*2*1=10
となる。すなわち、ある期間以内に医学的重要度が上昇しているので、発症確率は高いと推定する。または、医学的重要度が変化していなくても、一定期間にある値以上の値を維持していれば、発症確率は高いと推定する。
【0087】
さらに、以上に述べた医学的重要度の変化による発症確率の推定には、医学的研究によって集められた症例から作られた表(医学的重要度、医学的重要度の変化、期間)を利用することも可能である。
【0088】
なお、ここで述べた医学的重要度の内容はあくまで一例であり、本実施例における定義に限定されるものではない。たとえば、医学重要度による発症確率を推定する時に、スクリーニング、精密検査、経過観察の検査目的情報を考慮してもよい。
【0089】
次に、病変候補の病変としての確率(確信度と呼ぶ場合もある)を用いて発症確率を推定する方法を説明する。
【0090】
ここでは、病変候補の病変としての確率を算出する方法として、類似画像検索による病変候補の検出が挙げられる。図7を参照しながら、類似画像検索の処理の手順を説明する。
【0091】
ステップS71において、
処理部205では医用検査データの処理を行い、画像特徴量を算出する。画像特徴量としては、たとえば一般的な画像処理から得られる輝度分布、画像中の注目領域の2Dや3D特徴量等がある.また、「shape index」値と「curvedness」値を用いても良い。
【0092】
ステップS72において、
処理部205で算出された画像の特徴量を用いて症例データベース202を検索して、近い特徴量を持つ画像の症例を取得する。またあら予め特徴量に症例を関連付け保存しておき、症例付きの特徴量から症例の情報を取得する。
【0093】
ステップS73において、
検索された画像を、特徴量が近い順に並べて、一番似ている画像の順にその画像の類似度を算出する。ここでは、類似度の例として、検索に用いた特徴空間での参照画像と類似画像との正規化された特徴ベクトルの内積値を用いる。つまり、特徴空間上では、参照画像と類似画像の特徴量が近ければ近いほど両画像が似ているということになる。なお、ここで述べた類似度の算出方法はあくまで一例であり、本実施例における方法に限定されるものではない。
【0094】
ステップS74において、
検索された画像の症例、又は画像から得られた特徴量に関連つけられている所見を取得する。所見には上述の医学的重要度を求めるための各要素A,B,Cがつけられている。例えば、癌であっても進行速度の速い癌、転移性の高い癌などは悪性であり、医学的な重要度が高くなる。また、選択された症例には、パターンマッチで選択された場合の、その症例の確信度を取得する。ここで確信度は、たとえば複数の医者がこの症例を診断した時の症例が悪性である確率を示す。また、識別関数で症例判断したときの正解率(医師の所見と識別関数の出力所見の一致する確立)を統計値としての確信度としてもよい。次に、得られた類似度と症例の確信度を元に病変類似度の変化Tを、以下のように定義する。
【0095】
T=Spresentpresent−Spastpast
ただし、
present:現在の検査で得られた類似度
present:現在の検査で得られた確信度
past:履歴記録部に記録された患者の過去にあった対応する症例の類似度Cpast:履歴記録部に記録された患者の過去にあった対応する症例の確信度そして、上記のTがある期間以内に上昇していたら、発症確率は高いと推定する。
【0096】
上記以外にも、病変候補の確率を算出するために、たとえばサポートベクトルマシーンや、その他のパターン認識で用いられる識別器を利用することも可能であり、上記の類似度を利用した方法に限らない。
【0097】
以上のように、第1の実施形態によれば、患者の履歴を考慮することにより、診断支援の感度調整が可能になり、読影医の負荷を軽減することができる。その結果、見落としや不要な生検が低減するため、患者の負荷も軽減することができる。
【0098】
(第二実施例)
第1の実施形態においては、患者の発症確率により診断支援の感度を調整することを説明したが、医用検査データ取得装置から得られる検査データは標準的なパラメータで取得されたと仮定していた。
【0099】
第2の実施形態では、患者の発症確率に応じた医用検査データ取得装置の取得パラメータの変更について述べる。
【0100】
医用検査データ取得装置の種類にも依存するが、取得された検査データの鮮明さをあげようとすると、患者の負荷(検査の侵襲性)もあがる場合がある。たとえば、X線CT装置の場合は、X線管の電圧や電量を減らして患者の被爆量を抑えようとすると、得られる断面画像のノイズが増える。または、X線管(X線源)の線量を減らさずに患者への全体の被爆量を減らす方法としてベッドの移動速度あげることも考えられるが、断面画像間の間隔が大きくなり、病変は断面画像から外れて写さない可能性がある。
【0101】
本実施例では、第1実施例で算出された患者の発症確率に応じて医用検査データ取得装置の取得パラメータの変更を行う。
【0102】
X線CT装置において、発症確率が低いと判断された場合、X線源からの線量を落としたり、または断面間隔を大きくしたりする。一方、発症確率が高いと判断された場合、より鮮明な医用画像を得るためにX線量を増やしたり、断面間隔を小さくしたりする。
【0103】
または、特定の部位での発症確率が高ければ、その部位だけ撮影を鮮明に行なったり、その他の部位をより負荷の少ない方法で検査することも可能である。
【0104】
または、検査データの算出アルゴリズムの変更も考えられる。X線CT装置の場合では、再構成アルゴリズムを変えられるので、発症確率が高い場合は遅くてもより鮮明な画像が得られるアルゴリズムを選んだり、発症確率が低い場合は早いアルゴリズムを選択したりしても良い。
【0105】
また、MRI用の造影剤の量などの取得パラメータを調整してもよい。
【0106】
さらに、発症確率は、医用検査データ取得装置の選定にも使える。たとえば、発症確率が高いと推定された場合、その症例の検査によりふさわしい検査(例:PET)を行うことも可能である。
【0107】
以上のように、第2の実施形態によれば、患者の履歴から推定された発症確率に応じて、検査装置の取得パラメータを調整することで、その症例の特徴をより詳細に取得することができる。
【0108】
(第3実施例)
第2の実施形態においては、患者の発症確率により医用検査データ取得装置の取得パラメータを変更することで、発症確率の高い病変をより正確に検出できることを説明した。
【0109】
ただし、最終診断は読影医または主治医など、診断をする資格をもつ医者が行うので、診断を確定するために、画像診断支援装置は病変候補の情報以外に、病変を候補にした基準の情報も提示する必要がある。
【0110】
ここで、画像診断支援装置1は検出された病変候補の関連情報と読影レポートと一緒に、患者の発症確率や感度パラメータの変更(変更されたパラメータ、その値、または変更されたアルゴリズム)とその理由と根拠を医者に提示する。
【0111】
または、結果出力方法として、紙媒体の読影レポートのほかに読影に利用する端末の画面に表示しても、またはその他の提示方法でも良い。
【0112】
以上のように、第3の実施形態によれば、診断レポートと一緒に感度パラメータの発症確率や変更情報を提示することで、より正確な診断を行うことができる。また、医者は患者の健康をよりよく把握することもでき、その情報の管理も可能になる。
【0113】
(その他の実施例)
本発明の目的は、前述した実施形態の機能を実現するプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を、システムあるいは装置に供給する。そして、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読出し実行することによっても、達成されることは言うまでもない。
【0114】
この場合、記憶媒体から読出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0115】
プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどを用いることができる。
【0116】
また、コンピュータが読出したプログラムコードを実行することにより、前述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部または全部を行う。そしてい、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0117】
さらに、記憶媒体から読出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU100などが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれることは言うまでもない。
【0118】
なお、上述した本実施の形態における記述は、本発明に係る好適な診断支援装置の一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0119】
202 症例データベース
203 医学知識データベース
204 診断支援処理部
205 処理部
206 出力処理部
207 処理方法変更部
208 履歴記録部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者のデータから病変に関する情報を取得して、前記病変の医学的重要度を求める診断支援処理手段と、
病変部の特徴量と所見を関連付け保存する症例データベースと、を備え、
前記診断支援処理手段は、抽出した病変部から特徴量を算出し、前記症例データベースに保存される症例付きの特徴量の類似度から、病変部の医学的重要度を求めることを特徴とする診断支援装置。
【請求項2】
前記症例データベースには、異種疾病間の相対的な重篤度である重要疾病度をA、進行度をB、関連疾病度をCとして保存しており、
前記診断支援処理手段は、医学的重要度IをI=ACなる式から算出することを特徴とする請求項1に記載の診断支援装置。
【請求項3】
前記被検者の検査履歴に応じて、前記診断支援処理手段において処理対象となる病変部の大きさを変更する変更手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の診断支援装置。
【請求項4】
前記変更手段は、記憶手段に記憶される前記被検者の病変部の大きさと、該病変部が撮像された日から検査日までの経過時間に応じて処理対象となる病変部の大きさを算出して、前記診断支援処理手段の処理方法として、処理対象となる病変部の大きさを変更することを特徴とする請求項3に記載の診断支援装置。
【請求項5】
前記変更手段は、
前記被検者の検査履歴に応じて病変の発症確率を計算し、該発症確率に応じて前記診断支援処理手段の処理方法を変更することを特徴とする請求項3又は4に記載の診断支援装置。
【請求項6】
前記変更手段は、
診断支援処理手段で用いられる処理関数のパラメータ、処理関数のアルゴリズム、または処理関数の出力値の閾値を変更することを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の診断支援装置。
【請求項7】
さらに、被検者からデータを取得する医用検査データ取得装置を有し、
前記変更手段は、前記医用検査データ取得装置の取得パラメータを変更する
ことを特徴とする請求項3から6のいずれか一項に記載の診断支援装置。
【請求項8】
さらに、データ出力手段を有し、
前記診断支援処理手段の処理方法の変更情報、又は前記診断支援処理手段の処理結果を出力することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の診断支援装置。
【請求項9】
被検者のデータから病変に関する情報を取得して、前記病変の医学的重要度を求める診断支援処理手段と、
病変部の特徴量と所見を関連付け保存する症例データベースと、を備えた診断支援装置の制御方法であって、
前記診断支援処理手段が、抽出した病変部から特徴量を算出する工程と、
前記症例データベースに保存される症例付きの特徴量の類似度から、病変部の医学的重要度を求める工程と、
を備えることを特徴とする診断支援装置の制御方法。
【請求項10】
請求項9に記載の診断支援装置の制御方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項11】
請求項10に記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−10009(P2013−10009A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221475(P2012−221475)
【出願日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【分割の表示】特願2007−271300(P2007−271300)の分割
【原出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】