説明

証券に金属エレメントを取り付ける方法

押し型を用いて証券に金属エレメントを取り付ける方法であって、金属エレメントを、シートの金属層から形成して、有利には熱間型プレス加工法で証券に取り付ける方法において、偽造防止効果を高めるために、押し型(3)の、彫刻凹版(32)として形成された押圧面(31)を用いて金属エレメント(2)を取り付ける間に、刻印(21)を金属エレメント(2)に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押し型を用いて証券に金属エレメントを取り付ける方法であって、金属エレメントを、箔の金属層から形成して、有利には熱間型プレス加工法で証券に取り付ける方法に関する。
【0002】
国際公開第02/20274号パンフレットから、金属箔を証券に塗布して、後続のステップにおいて彫刻凹版印刷法で刻印を取り付けることが公知である。この場合の欠点によれば、特に彫刻凹版印刷法の間に証券が変形することによって見当合わせのずれの生じる恐れがある。国際公開第02/20274号パンフレットには、見当合わせのずれをカラーの領域によって隠蔽することが提案されている。
【0003】
本発明の課題は、冒頭で述べたような形式の、証券に金属エレメントを取り付ける方法を改良して、公知の欠点を解消して、高い偽造防止効果の達成できる方法を提供することである。
【0004】
この課題を解決するための本発明の方法によれば、押し型の、彫刻凹版として形成された押圧面を用いて金属エレメントを取り付ける間に、刻印を金属エレメントに取り付ける。
【0005】
この方法の利点によれば、場合によって行われる後続の彫刻凹版印刷法を金属エレメントの刻印とは無関係に実施することができ、金属エレメントの位置の見当合わせのずれに関する予防措置が不要である。後続の彫刻凹版印刷法が行われない場合、本発明による方法によって、特に簡単に金属エレメントの刻印を実現することができる。金属エレメント上の刻印の精確な見当合わせは、簡単に検査することのできる、高い偽造防止効果を有する追加的な偽造防止要素を成す。
【0006】
さらに本発明は、前述の方法に従って製造可能な、金属エレメントを備えた証券に関する。
【0007】
国際公開第02/20274号パンフレットから、金属フィルムの塗布された証券において、金属箔に彫刻凹版印刷法で刻印を取り付けることが公知であり、ここでは見当合わせのずれは、カラーの領域によって隠蔽される。
【0008】
本発明の課題は、冒頭で述べたような形式の証券を改良して、公知の欠点を解消して、高い偽造防止効果の達成されるものを提供することである。
【0009】
この課題を解決するための本発明の装置によれば、金属エレメントが、正しい見当合わせの刻印を有している。
【0010】
金属エレメント上の刻印の正しい見当合わせは、簡単に検査することのできる、高い偽造防止効果を有する追加的な偽造防止要素を成す。
【0011】
本発明の有利な実施形態によれば、刻印が、25μmを下回る、特に10μmを下回る精度を有している。
【0012】
大きな手間をかけずには再現できないようなこのような高い精度を維持することによって、偽造防止効果はさらに改善される。
【0013】
さらに本発明は、冒頭で述べた方法のための押し型に関する。
【0014】
本発明の別の課題は、冒頭で述べた方法を簡単かつ迅速に行うことのできる押し型を提供することである。
【0015】
この課題を解決するための本発明の装置によれば、押圧面が、彫刻凹版として形成されている。
【0016】
有利には、金属エレメントの刻印は、証券に取り付ける間に得られ、この場合、場合によっては存在する後続の彫刻凹版印刷法は、金属エレメントの刻印とは無関係に行うことができ、かつ金属エレメントの位置の見当合わせのずれに関する予防措置は不要である。
【0017】
本発明の別の実施形態によれば、彫刻凹版が、硬質真鍮および/または硬質真鍮合金から成っている。このような材料選択によって、押し型の高い耐用期間が保証される。さらに本発明による方法では、押し型は、必要な精度で製造することができる。
【0018】
さらに本発明は、前述の押し型を製造する方法に関する。
【0019】
本発明の別の課題は、冒頭で述べた形式の、押し型を製造する方法を改良して、押し型を簡単かつ/または迅速に製造できるようにすることである。
【0020】
この課題を解決するための本発明の方法によれば、レーザを用いて、硬質真鍮および/または硬質真鍮合金から成る、彫刻凹版として形成された押圧面に、溝および/または線を形成する。
【0021】
その利点によれば、押圧面が、必要な強度を有しており、この場合押圧面の安定性は、特にクロムめっきによって追加的に高めることができる。
【0022】
さらにレーザによって、押圧面に微細な構造を形成することができる。このような構造の精度は、溶融バリを除去するための後処理によってさらに改善することができる。別の利点によれば、線の深さは、それぞれ独立して選択することができ、これによって押し型を用いて製造可能な証券の偽造防止効果の向上が実現される。
【0023】
本発明の別の方法によれば、溝および/または線を形成したあとで、溶融バリを除去する。これによって線および/または溝の精度は著しく高めることができ、したがって押し型の再現性および押し型の分解能が改善される。
【0024】
これに関して本発明の別の方法によれば、溶融バリを、化学的な後処理によって、特に酸化浴、電解浴などによって除去する。化学的な後処理によって、溶融バリは、簡単かつ迅速に除去することができ、この場合所望の形式で溶融バリの酸化銅または酸化亜鉛だけが除去され、押圧面の材料は除去されない。
【0025】
本発明の別の方法によれば、酸化浴が、酢酸、リン酸および硝酸を含有していて、特に40質量%の酢酸、50質量%のリン酸および10質量%の硝酸を含有している。このような組成の酸化浴では、既に数分間の含浸処理で、押圧面の鏡面化および平滑化が達成され、この場合さらなる後処理ステップは不要である。
【0026】
本発明の別の方法によれば、各溝および/または線の深さを設定し、かつ/または1群の溝および/または線の溝を互いに無関係に設定する。溝および/または線の深さの異なる選択によって、追加的な偽造防止要素を成すことができ、これによって押し型を用いて製造される証券の偽造防止効果を高めることができる。さらに本発明による押し型の別の実施形態では、全ての溝および/または線がほぼ同じ深さを有するよう保証され、これによって特に統一した刻印を保証することができる。
【0027】
以下に図面につき、本発明の実施例を詳しく説明する。
【0028】
図1には、本発明による、金属エレメント2を備えた証券1を示しており、金属エレメント2は、正しく見当合わせされた位置正確な刻印(型プレス加工部)21を有している。一般的に証券1は、多数の偽造防止要素を有して形成されており、偽造防止要素によって、証券1の偽造認識が簡素化されるよう所望される。偽造防止要素の1つは、塗布された金属エレメント2である。正しく見当合わせされた刻印21によって、簡単に検査できる追加的な偽造防止要素が形成される。この場合特に有利には、位置のずれは、多くの場合目視で極めて精確に確認することができる。したがってこのような追加的な偽造防止要素によって、偽造は、追加的な補助手段なしに世間一般で広く確認することもできる。
【0029】
偽造では、刻印21は、多くの場合印刷によって表示される。もちろんこのような印刷は、金属箔の塗布とは別に行われるので、精密な見当合わせの達成は極めて面倒であり、ほぼ不可能である。新しい証券1では、触知可能な刻印21は、触れることによって簡単に印刷と区別することができる。頻繁に使用される証券1、たとえば紙幣(銀行券)では、刻印21は、多くの場合触覚的に検出することは困難であり、この場合見当合わせ精度の認識はこのような証券1でも簡単に行うことができる。
【0030】
有利には、刻印21は、25μm、特に10μmを下回る精度を有している。紙幣で一般的に要求されるこのような精度は、偽造者にとって到達することは極めて困難であり、これによって刻印21は、偽造に対する高い安全性を有している。さらに金属エレメント2は、ホログラフィ構造または別の回折構造を有することができ、これによって証券1の偽造防止効果はさらに高められる。
【0031】
このような高い精度は、彫刻凹版印刷によって達成することができ、ここでは極めて高い圧力で作業が行われ、これによって刻印21が形成される。
【0032】
本発明による証券1は、簡単な形式で製造することができ、金属エレメント2は、押し型(スタンプエレメント)3によって証券1に塗布され、ここでは金属エレメント2は、箔の金属層から形成されている。このことは特に熱間型プレス加工法で、図2および図3に示した押し型3を用いて行うことができ、この場合押し型3の、彫刻凹版32として形成された押圧面(スタンプ面)31によって金属エレメント2が取り付けられる間に、刻印21が、金属エレメント2に取り付けられる。ここでは従来技術で行われたような、刻印21を取り付けるための追加的な方法ステップは不要である。刻印21は、空押し印として形成することもできる。
【0033】
熱間型プレス加工法では、一般的に支持フィルムが用いられ、支持フィルム上に剥離ワニスが取り付けられていて、剥離ワニス上に金属層が取り付けられていて、金属層上に接着剤層が取り付けられている。この場合支持フィルムは、連続的な帯体として証券1に取り付けられる。高温の押し型3との接触によって、剥離ワニスおよび接着剤層は局所的に溶融され、印刷によって、金属エレメント2は証券1に転写される。この方法では、支持フィルムは損傷せずに維持され、この場合金属層から、金属エレメント2が、押圧面31の形状で証券に取り付けられる。
【0034】
証券1を製造するための押し型3は、彫刻凹版32として形成された押圧面31を有している。ここでは、彫刻凹版32が有利な実施例に従って硬質真鍮および/または硬質真鍮合金から成っている場合、前述の精度で刻印21を実現することができる。
【0035】
押し型3を製作する際に、硬質真鍮および/または硬質真鍮合金から成る、彫刻凹版32として形成された押圧面31に、レーザによって溝および/または線を形成することができる。版の適当な強度を保証するために、硬質真鍮および/または硬質真鍮合金が140を超えるビッカーズ硬さを有していると有利である。
【0036】
レーザとして、固定ベースモデルレーザ、有利にはダイオードポンピングのNd:YAGレーザを用いることができる。
【0037】
ビームプロフィール(ビーム形状)に基づいて、レーザビームは、円錐状に材料表面に侵入する。収束されたビームの縁域で溶融プロセスが生じ、溶融プロセスにより、材料の一部が固化して、不都合な放出および飛散が生じる恐れがある。縁域の放出の方式および大きさは、材料、パルス出力および彫刻深さに依存する。レーザによって、金属、セラミックおよび幾つかのプラスチックは彫刻することができ、この場合レーザビームの出力密度は高くなっていて、それも材料が加工中に数ナノ秒のうちに部分的に気化するほど高くなっている。材料内で、無色の溝、つまり彫刻部が生じる。多くの場合、空気酸素と溶融されたベース材料との相互作用によって、酸化物が生じ、酸化物は、その色に基づいて彫刻部を際立たせる。
【0038】
溝および/または線の精度は、彫刻凹版32に溝および/または線を形成する際に生じる溶融バリが除去されると、改善することができる。溶融バリは、主に彫刻凹版32の酸化物、特に酸化銅または酸化亜鉛から成っている。
【0039】
溶融バリを除去するために、特に酸化浴、電解浴などを含む化学的な後処理が特に適している。この場合酸化銅または酸化亜鉛は、化学的な後処理によって除去されるが、彫刻凹版32の硬質真鍮および/または硬質真鍮合金は除去されないよう保証することができる。
【0040】
化学的な後処理は、特に酸化浴などに彫刻凹版を浸すことによって行うことができ、酸化浴は、リン酸、酢酸、硝酸、ヒ酸などまたはこれらの酸の組み合わせを含有している。酢酸、リン酸および硝酸を含有する酸化浴が特に有利であり、この場合酸化浴は、特に40質量%の酢酸、50質量%のリン酸および10質量%の硝酸を含有することができる。このような酸によって、彫刻凹版32のベース材料の不都合な剥離は、効果的に回避することができる。溝および/または線を形成したあとで、かつ場合によっては溶融バリを除去したあとで、彫刻凹版32の修正および/または制御を行うことができ、これによって場合によっては存在するエラー箇所を認識して、訂正することができる。
【0041】
本発明による方法の有利な実施例では、溝および/または線の輪郭の他に、溝および/または線の深さも設定される。このことは各溝および/または線に関して個別的に行うか、または1群の溝および/または線に関してまとめて行うことができる。この場合個々の深さの設定は互いに依存していない。異なる深さは、本発明による方法では、レーザビームの出力調整によって、または複数回レーザを当てることによって簡単な形式で達成することができる。
【0042】
最後に本発明を具体的にまとめると、本発明は、押し型(3)を用いて証券(1)に金属エレメント(2)を取り付ける方法であって、金属エレメント(2)を、箔の金属層から形成して、有利には熱間型プレス加工法で証券(1)に取り付ける方法において、押し型(3)の、彫刻凹版(32)として形成された押圧面(31)を用いて金属エレメント(2)を塗布する間に、刻印(21)を金属エレメント(2)に取り付ける。
【0043】
また本発明は、このような方法に従って製造可能な、金属エレメント(2)を備えた証券(1)において、金属エレメント(2)が、精確に見当合わせされた刻印(21)を有している。
【0044】
有利には、刻印(21)が、25μmを下回る、特に10μmを下回る精度を有している。
【0045】
また本発明は、前述の方法のための押し型(3)において、押圧面(31)が、彫刻凹版(32)として形成されている。
【0046】
有利には、彫刻凹版(32)が、硬質真鍮および/または硬質真鍮合金から成っている。
【0047】
また本発明は、押し型(1)を製造する方法において、レーザを用いて、硬質真鍮および/または硬質真鍮合金から成る、彫刻凹版(32)として形成された押圧面(31)に、溝および/または線を形成する。
【0048】
有利には、溝および/または線を形成したあとで、溶融バリを除去する。
【0049】
有利には、溶融バリを、化学的な後処理によって、特に酸化浴、電解浴などによって除去する。
【0050】
有利には、酸化浴が、酢酸、リン酸および硝酸を含有していて、特に40質量%の酢酸、50質量%のリン酸および10質量%の硝酸を含有している。
【0051】
有利には、各溝および/または線の深さを設定し、かつ/または1群の溝および/または線を互いに無関係に設定する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明による証券の平面図である。
【図2】本発明による押し型の側面図である。
【図3】図2に示した押し型の平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押し型(3)を用いて証券(1)に金属エレメント(2)を取り付ける方法であって、
金属エレメント(2)を、箔の金属層から形成して、有利には熱間型プレス加工法で証券(1)に取り付ける方法において、
押し型(3)の、彫刻凹版(32)として形成された押圧面(31)を用いて金属エレメント(2)を取り付ける間に、刻印(21)を金属エレメント(2)に取り付けることを特徴とする、証券に金属エレメントを取り付ける方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法に従って製造可能な、金属エレメント(2)を備えた証券(1)において、
金属エレメント(2)が、精確に見当合わせされた刻印(21)を有していることを特徴とする、金属エレメントを備えた証券。
【請求項3】
刻印(21)が、25μmを下回る、特に10μmを下回る精度を有している、請求項2記載の証券。
【請求項4】
請求項1記載の方法のための押し型(3)において、
押圧面(31)が、彫刻凹版(32)として形成されていることを特徴とする、押し型。
【請求項5】
彫刻凹版(32)が、硬質真鍮および/または硬質真鍮合金から成っている、請求項4記載の押し型。
【請求項6】
請求項4記載の押し型(1)を製造する方法において、
レーザを用いて、硬質真鍮および/または硬質真鍮合金から成る、彫刻凹版(32)として形成された押圧面(31)に、溝および/または線を形成することを特徴とする、押し型を製造する方法。
【請求項7】
溝および/または線を形成したあとで、溶融バリを除去する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
溶融バリを、化学的な後処理によって、特に酸化浴、電解浴などによって除去する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
酸化浴が、酢酸、リン酸および硝酸を含有していて、特に40質量%の酢酸、50質量%のリン酸および10質量%の硝酸を含有している、請求項8記載の方法。
【請求項10】
各溝および/または線の深さを設定し、かつ/または1群の溝および/または線を互いに無関係に設定する、請求項6から9までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−526566(P2008−526566A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550630(P2007−550630)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【国際出願番号】PCT/AT2006/000017
【国際公開番号】WO2006/074496
【国際公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(506006164)エーステライヒシェ バンクノーテン− ウント ズィヒャーハイツドルック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (5)
【氏名又は名称原語表記】Oesterreichische Banknoten− und Sicherheitsdruck GmbH
【住所又は居所原語表記】Garnisongasse 15, A−1096 Wien, Austria
【Fターム(参考)】