説明

証票印刷物の真偽判断の前処理方法

【課題】乗車券等の証票印刷物の真偽をルミノール反応によって判断するにあたり、外的に付着した鉄(II)イオン、銅(II)イオン、クロム(III)イオンが真偽判断の邪魔をしないようにする。
【解決手段】証票印刷物に仕込むコバルト(II)イオンはマスキングされづらいが、前記イオンはマスキングしやすいエチレンジアミン四酢酸ナトリウム水溶液を含浸したろ紙で前もって払拭しおいて、外的に付着した鉄(II)イオン当のイオンをキレート金属にしてマスキング処理することでコバルト(II)イオンによるルミノール反応を行うことで真偽判断の正確性を向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、券類等の証票印刷物の真偽判断をするにあたり、証票印刷物に外的に付着した金属イオンによって真偽判断が邪魔されないようにするための証票印刷物の真偽判断の前処理方法の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、乗車券、急行券、特急券、指定席券、入場券、金券、食券等、多種多様の券類等の証票印刷物が発行されているが、これらの偽造が後を絶たないのが現実である。そこで、例えばのように、券類の表面に発色剤を塗布しておく一方、スタンプに使用するインクに、前記発色剤と反応して発色する色素を加え、スタンプが押された部分のカード基体の色の変化によりカード類の真偽(真がん)を判別するようにしたものが知られている(特許文献1)。
ところが今日、券類等証票印刷物の表面全体を着色するものが多く、前記従来のもののように発色による真偽判別とした場合に、証票印刷物の表面全体に予め施された色と、真偽判別のための色とが紛らわしいことがあり、このようなときには真偽判別が難しいという問題がある。そのうえ、スタンプを押した部分が発色するため、この発色状態を確認するだけで偽造防止の仕掛けがあることを見破られてしまい、偽造者がこれに気づいて該当する色彩のインクで意図的にスタンプすること等で偽造されてしまうという問題がある。
そこで、証票印刷物の表面に、コバルト(II)イオンに代表される正触媒を仕込んでおき、回収した証票印刷物にルミノールを塗布することでルミノール反応させて発光状況を見極めて真偽判断ができるようにし、これによって証票印刷物自体だけでは発色がないものとして偽造防止の仕掛けがあることが露見しないようにしたものを提唱した(特許文献2)。
【特許文献1】特開平6−55882号公報
【特許文献2】特開2003−85613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが入手した証票印刷物は手で持つことになり、このような場合、汗が証票印刷物の表面に付着することになるが、汗の中には微量な鉄(II)イオンが含まれていて証票印刷物の表面に付着し、該付着した鉄(II)イオンが正触媒となってルミノール反応をしてしまうことになって真偽判断の邪魔をすることになる。このような真偽判断の邪魔をする金属としての正触媒は、鉄(II)イオンだけでなく、10円硬化の原料である銅(II)イオン、さらには鉄道機械において多く採用される金属であるクロム(III)イオン等の身近な金属であり、これら正触媒として働く金属が証票印刷物に付着した場合、正確な真偽判断をすることが難しいという問題があり、ここに本発明が解決せんとする課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、証票印刷物の表面に、化学発光であるルミノール反応を促進するための正触媒としてコバルト(II)イオンを仕込んだものを用いて真偽判断をするにあたり、該ルミノール反応をさせて真偽判断をするときの前処理として、証票印刷物の表面に外的に付着した真偽判断の邪魔をする金属イオンをマスキングするためのマスキング剤を塗布するようにしたことを特徴とする証票印刷物の真偽判断の前処理方法である。
請求項2の発明は、真偽判断の邪魔をする金属イオンは、鉄(II)イオン、銅(II)イオン、クロム(III)イオンの少なくとも一つであり、マスキング剤は、エチレンジアミン四酢酸塩であることを特徴とする請求項1記載の証票印刷物の真偽判断の前処理方法である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1の発明とすることで、外的に付着した真偽判断の邪魔をする金属イオンがマスキングされた状態でルミノール反応できることになって、真偽判断の正確性が向上する。
請求項2の発明とすることで、外的に付着しやすい鉄(II)イオン、銅(II)イオン、クロム(III)イオンのマスキングができることになって、真偽判断の正確性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次ぎに、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。本発明に用いる化学発光体はルミノール(C:5−アミノ−2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジオン(3−アミノフタル酸ヒドラジド))であり、該ルミノールは、アルカリ溶液で可溶化した状態で、正触媒であるコバルト(II)イオン(Co++)存在下で、過酸化水素、次亜塩素酸塩などの酸化剤(酸素)で酸化すると黄緑色の化学ルミネセンスを示す。
【0007】
そこで証票印刷物が図1に示すような乗車券1である場合、例えば、(1)製作(製造)時に券面に予め任意の記号やマークを塩化コバルト(CoCl)を含有したインクで印刷しておくか、インクに加えて文字等と共に印刷しておく、(2)発券時に乗車券1に必要な文字等を印刷するインクに塩化コバルトを加えておく、(3)発券時に券面の表裏任意の位置に塩化コバルトを含有するインクを印刷しておくか、ゴム印等により押なつしておく、(4)改札時にスタンプするインクに塩化コバルトを加えておく等して必要において適宜箇所にコバルト(II)イオンを随時仕込んだ仕込み部1a、1b、1cを形成しておく。つまり本発明では、コバルトイオンの仕込みは、券類の印刷時等に限定されず、製作時や発券後等、必要において随時実行することができる。
コバルトイオンは水溶液として仕込むことができが、その濃度はpmol L−1(ピコモル リットルのマイナス1乗)オーダーで良く、券類に仕込んでおいても肉眼で仕込み処理がなされているか否かの判別をすることは全くできず、このため、証票印刷物は通常のものと見分けがつかず、いつ、どこでどの様な偽造対策処理が実施されているかを見破られる惧れがない。
【0008】
そして真偽の確認を求められた場合、例えば証票印刷物が券類で、旅客からの券類の払戻し請求等があったようなとき、前記ルミノール溶液を調合し、該調合したルミノール溶液を券類に接触することになるが、その前に、真偽判断の邪魔をする金属の処理をする必要がある。この処理は、キレートによるマスキング処理である。
真偽判断の邪魔をする金属イオンとしては、汗や化粧料原料として付着しやすい鉄(II)イオン、硬貨原料である銅(II)イオンの場合が殆どであり、また鉄道機械に多用されているクロム(III)イオンがある。そこでこれら金属イオンに対しては特異的に金属キレートを生成してマスキングされるが、証票印刷物に仕込まれているコバルト(II)イオンとは金属キレートを生成しづらいマスキング剤を選択し、該マスキング剤を、前記ルミノール反応による真偽判断の前に証票印刷物に塗布してマスキング処理した後、仕込まれているコバルト(II)イオンを正触媒としてルミノール反応させることで正確な真偽判断ができることになる。
【0009】
このようなマスキング剤としては、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸塩(塩を構成する金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオンがある)、酒石酸を例示することができ、またシュウ酸は鉄(II)イオンのマスキングに効果があり、さらにはシアン化物やムレキシドは銅(II)イオンに効果があり、これらを採用することもできる。
【0010】
いま、マスキング剤としてエチレンジアミン四酢酸ナトリウムを採用したものについて説明すると、該エチレンジアミン四酢酸ナトリウムの1.0mmol L−1の水溶液をろ紙2に含浸させておくが、該ろ紙2には、例えばポリエチレンシートで形成されていて、マスキング剤に手が触れないよう把持部3を設けておくことが好ましく、このものを密封容器に入れておき、真偽作業の前処理時に取出して証票印刷物1の仕込み面を払拭し、これによって金属キレートを生成して前記邪魔をする金属イオンをマスキングする。しかる後、該証票印刷物1に対してルミノール反応させ、真偽判断をすることになる。
【0011】
いま、濃度が10μgm L−1のコバルト(II)イオン、鉄(II)イオン、銅(II)イオン、クロム(III)イオンの各水溶液を準備すると共に、さらに濃度が5μgm L−1のコバルト(II)イオンの水溶液に濃度が何れも5μgm L−1の鉄(II)イオン、銅(II)イオンの水溶液を等量混合して調製した試薬をそれぞれ準備し、これら試薬の等量を前記乗車券1に塗布して仕込んでおく。そしてこれら乗車券1について、前記マスキング処理をしないでルミノール反応させた場合、マスキング処理をした後にルミノール反応をさせた場合の発光強度を表図3に示す。
【0012】
発光強度は相対強度であって、金属イオン単独のものは、何れのものもマスキング前の発光強度が100と高いものであったものが、マスキング処理をしたものの発光強度が、コバルトイオンは59、鉄イオンは6.9、銅イオンは0.65、クロムイオンは56と何れも低くなっている、つまりコバルトイオンに比して鉄イオン、銅イオンの方がマスキングされやすいことが確認されるが、クロムイオンについてはコバルトイオンとほぼ同等程度のマスキングになる。
【0013】
そして次に、コバルトイオンと鉄イオンとを混合したものについて発光強度を観ると、マスキング前が101であったものが、マスキング後は60になっている。これは前述したようにマスキング前後の発光強度が、コバルトイオン単独のものは100から59に低減しているのに対し、鉄イオン単独のものでは100から6.9と大幅に低減していることに符合している。つまりコバルトイオンと鉄イオンを混合したものをマスキング処理した場合の発光強度は、鉄イオンの多くはマスキングされて発光には殆ど寄与せず、マスキングされづらいコバルトイオンがルミノール反応により発光している結果であると判断してよいといえる。
同様にしてコバルトイオンと銅イオンとを混合したものについても、マスキング前後において発光強度が110から69に低減していることが観測されるが、これは前述したように銅イオンの多くがマスキングされ、マスキングされづらいコバルトイオンが発光の殆どに寄与している結果であると判断してよいことになる。
【0014】
そして現実には真偽判断の邪魔をする金属イオンは、仕込んだコバルト(II)イオンの濃度よりも遥かに少ない場合が多く、このことからクロムイオンについても同様の結果になることが推定され、斯かるマスキング処理をルミノール反応させる前にすることでルミノール反応による真偽判断を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】乗車券の正面図である。
【図2】マスキング剤を含浸させたろ紙の斜視図である。
【図3】ルミノール反応させたときの発光強度を示す表図である。
【符号の説明】
【0016】
1 乗車券
1aから1c 仕込み部
2 ろ紙
3 把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
証票印刷物の表面に、化学発光であるルミノール反応を促進するための正触媒としてコバルト(II)イオンを仕込んだものを用いて真偽判断をするにあたり、該ルミノール反応をさせて真偽判断をするときの前処理として、証票印刷物の表面に外的に付着した真偽判断の邪魔をする金属イオンをマスキングするためのマスキング剤を塗布するようにしたことを特徴とする証票印刷物の真偽判断の前処理方法。
【請求項2】
真偽判断の邪魔をする金属イオンは、鉄(II)イオン、銅(II)イオン、クロム(III)イオンの少なくとも一つであり、マスキング剤は、エチレンジアミン四酢酸塩であることを特徴とする請求項1記載の証票印刷物の真偽判断の前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−223598(P2009−223598A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66999(P2008−66999)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】