説明

試料からの分子汚染物質のガス放出を分析するための装置及び方法

本発明は試料2からの分子汚染物質22のガス放出を分析するための装置100,200及び方法に関する。装置100,200は試料2を収容するための低圧チャンバ1を有し、低圧チャンバ1内の圧力は10−3mbar乃至10mbarである。さらに装置100,200は、低圧チャンバ1に層流ガス流12,33,34を供給するための手段4,5,7,9であって、ガス流の第1の部分13,35は試料2からガス放出された分子汚染物質22を捕捉し輸送する、手段と、試料2から下流の第1の位置にある、ガス流の第1の部分13,35を受け取るための手段3,40とを有する。分析器3はガス流の第1の部分13,35の内容を分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料からの分子汚染物質のガス放出を分析するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空宇宙及び先進半導体加工など、高度の清浄度を要する環境で使用される装置及び部品の分子汚染のレベルの制御は、製造の成功に絶対不可欠である。例えば、極紫外線(EUV)リソグラフィにおける非常に短波長の使用は、EUVリソグラフィ装置における光学部品及び装置上での汚染物質の光化学的分解及びその後の堆積を増加する。これはEUVリソグラフィ装置の収率損失及び寿命短縮及び長期装置信頼性の低下をもたらす。従って、分子汚染物質のガス放出速度に対する非常に厳密な規格がこれらの部品に課される。例えば、EUVリソグラフィにおけるシリコン化合物の最大許容ガス放出速度は(サブ)アセンブリに対してほぼ10−15mbar・l/秒程度である。
【0003】
部品のガス放出速度の制限は残留ガス分析(RGA)でなされることができ、これは四極子質量分析法に基づき、真空環境に存在するガスを同定するために使用される技術である。RGAを用いるガス放出速度の検出限界は、EUVリソグラフィなどの高度の清浄度を要する環境で使用される部品の必要最大ガス放出速度の正確な測定を可能にするためには十分ではない。この測定の精度に影響を与える別の要因は、計測器自体のガス放出である。特にロードロックが実行不可能である大きな部品の場合、分析されるべき部品又は試料は大気条件においてRGA計測器に積み込まれ、それによって計測器の内面を大気条件にさらす。これは例えば有機種による計測器の内面の汚染を引き起こし、ほぼ10−9mbar・l/秒程度になる可能性がある計測器の内面のガス放出速度をもたらし、その結果分析されるべき試料のガス放出を妨げる。従って、試料のガス放出特性を決定する精度は計測器自体のガス放出によって悪影響を受ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は向上した精度で試料からの分子汚染物質のガス放出を分析するための装置を提供することである。本発明は独立請求項によって規定される。有利な実施形態は従属請求項によって規定される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は試料からの分子汚染物質のガス放出を分析するための装置を提供することによって実現され、該装置は、
試料を収容するための低圧チャンバであって、低圧チャンバ内の圧力は10−3mbar乃至10mbarである、低圧チャンバと、
低圧チャンバに層流ガス流を供給するための手段であって、ガス流の第1の部分は試料からガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送する、手段と、
試料から下流の第1の位置にある、ガス流の第1の部分を受け取るための手段と、
ガス流の第1の部分の内容を分析するための分析器とを有する。
【0006】
低圧チャンバの内部に層流であるガス流を供給することによって、低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質と試料からガス放出された分子汚染物質の混合が最小化される。ガス流は、例えばヘリウム又はアルゴンなど、ガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送する目的に適したキャリアガス種を有する。この混合のさらなる減少は、10−3mbarよりも高い低圧チャンバ内の圧力を供給することによって実現され、平均自由行程は圧力に反比例するため、この圧力においてガス放出された分子汚染物質の平均自由行程はこの混合をほとんどの実用的場合に十分なレベルに最小化するために十分に小さい。ガス放出された分子汚染物質の平均自由行程は、とりわけ分子汚染物質の種類に応じて、典型的には10−3mbarにおいてほぼ50mm程度である。従ってガス放出された分子汚染物質の平均自由行程はおよそ50mmよりも大きくなく、その結果、例えば低圧チャンバの内面からガス放出されたものなど、他のガス放出された分子汚染物質と試料からガス放出された分子汚染物質の混合の量を最小化する。
【0007】
低圧チャンバ内の層流ガス流の第1の部分は試料を越えて流れ、試料からガス放出する分子汚染物質は、このガス流の第1の部分を受け取る手段へ、このガス流の第1の部分によって捕捉され輸送される。試料からガス放出された分子汚染物質の平均自由行程は、試料を越えて流れる、従って試料からガス放出された分子汚染物質を有する、層流ガス流の第1の部分によるこれらのガス放出された分子汚染物質の捕捉をもたらすために十分に大きくなければならない。これは10mbarよりも低い低圧チャンバ内の圧力を供給することによって実現され、この圧力においてガス放出された分子汚染物質の平均自由行程は、ガス放出された分子汚染物質の層流ガス流による捕捉率を最大化するために十分に大きい。ガス放出された分子汚染物質の平均自由行程は、とりわけ分子汚染物質の種類に応じて典型的には10mbarにおいてほぼ5μm程度である。従って平均自由行程は層流ガス流によるガス放出された分子汚染物質の捕捉効率を最大化するためにおよそ5μmよりも小さくない。従って、10−3mbar乃至10mbarである、本発明にかかる圧力範囲の場合、ガス放出された分子汚染物質の平均自由行程はとりわけ分子汚染物質の種類に応じて典型的にはおよそ5μm乃至50mmである。
【0008】
本発明によれば、試料からガス放出された分子汚染物質はガス流の第1の部分によって捕捉され収集される。従ってガス流の第1の部分は低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質を含まないか、又は最小量しか含まない。このようにして、試料のガス放出特性の分析は、低圧チャンバの内面のガス放出によって、又は試料に起因しない他の不要なガス放出された分子汚染物質によって、影響されないか、又は最小量しか影響されず、従って試料のガス放出の分析の精度を向上させる。本発明は、低圧チャンバ内の適切な圧力を設定することによって、試料からガス放出された分子汚染物質のかなりの部分の捕捉をもたらす。この圧力範囲は、試料からガス放出された分子汚染物質の平均自由行程が、一方ではこれらの分子汚染物質の捕捉効率の増加を実現するために十分に高く、他方では、例えば低圧チャンバの壁の内面など、試料以外の他の装置又は部品からガス放出された分子汚染物質と試料からガス放出された分子汚染物質の混合の最小化を実現するために十分に小さいことを保証する。試料からガス放出された分子汚染物質を有するガス流の第1の部分を受け取った後、ガス流の第1の部分に存在するガス放出された分子汚染物質の内容と特性を分析するために分析器が使用される。
【0009】
本発明にかかる装置の一実施形態において、低圧チャンバ内の圧力は10−2mbar乃至1mbarである。この圧力範囲の場合、ガス放出された分子汚染物質の平均自由行程はとりわけ分子汚染物質の種類に応じて典型的にはおよそ50μm乃至5mmであるため、これは試料からの分子汚染物質のガス放出の分析の精度をさらに向上させる。この圧力及び平均自由行程の範囲は、試料からガス放出された分子汚染物質の捕捉効率をさらに高め、試料からガス放出された分子汚染物質と試料以外の装置又は部品からガス放出された分子汚染物質の混合をさらに減少させる。
【0010】
本発明にかかる装置の一実施形態において、該装置は低圧チャンバの内面に沿って下流の第2の位置にある、ガス流の第2の部分を受け取るための手段をさらに有し、該第2の部分は低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送する。このようにして層流ガス流は、主に試料からガス放出された分子汚染物質を有する第1の部分と、主に低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質を輸送する第2の部分に分離される。従って、ガス流の第1の部分は低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質を含まないか、又は最小量しか含まず輸送しない。このように層流ガス流を分離することによって、試料からガス放出された分子汚染物質は分析器に輸送されて受け取られ、低圧チャンバの内面から又は計測器の他の部分からガス放出された分子汚染物質は、全く又は最小限までしか分析器に輸送されず受け取られないことが実現される。これは低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質は下流の第2の位置において受け取られ、この第2の位置は試料の分子汚染物質が受け取られる第1の位置と異なるためである。従ってガス流の第2の部分は低圧チャンバの内面からガス放出する分子汚染物質を捕捉し、その結果、ガス流の第1の部分に達するこれらの分子汚染物質の数を減らし、試料からガス放出された分子汚染物質と低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質の混合を減少させる。
【0011】
本発明にかかる装置の一実施形態において、該装置は、試料から下流の第3の位置において、ガス放出された分子汚染物質をガス流の第1の部分から分離するため、及びガス放出された分子汚染物質を一定期間収集するための予備濃縮装置をさらに有する。例えば半導体製造など、高度な清浄度を要する環境において使用される部品又は試料のものなど、極めて低いガス放出速度は、分析のために十分な物質を供給するために予備濃縮装置の使用から利益を得る。予備濃縮装置は分子汚染物質を捕捉し、ガス流に含まれるキャリアガスからこれらの分子汚染物質を分離する。予備濃縮装置は分子汚染物質を一定期間収集し、この期間はとりわけ分子汚染物質のガス放出速度に応じる。ガス放出された分子汚染物質の量の検出限界は、予備濃縮装置が分子汚染物質を収集した期間の増加の関数として減少し、従って向上するため、このようにしてガス放出の分析の精度がさらに向上する。さらなる実施形態において該装置は予備濃縮装置を加熱するための手段をさらに有する。予備濃縮装置の温度を増加させることで、予備濃縮装置からの分子汚染物質の放出をもたらし、その後放出された分子汚染物質は分析器において特性化される。このようにして、予備濃縮装置を低圧チャンバから別の位置へ動かす必要がなく、ガス放出された分子汚染物質の分析がin‐situになされることができる。また、この実施形態はガス放出測定が開始する前に予備濃縮装置のin‐situ洗浄を可能にする。
【0012】
本発明にかかる装置の一実施形態において、該装置は、低圧チャンバ内に層流ガス流を供給するための手段を有する、試料を収容するための第1の部分と、ガス流の第1の部分を受け取るための手段を有する第2の部分とに、低圧チャンバを分離するための遮断弁をさらに有する。低圧チャンバの第1の部分への試料の積み込み中に遮断弁を閉じることによって、低圧チャンバの第2の部分は大気条件にさらされず、それによって低圧チャンバの第2の部分の汚染の増加を回避し、低圧チャンバの内部の全体の汚染を減少させる。
【0013】
本発明にかかる装置の一実施形態において、低圧チャンバに層流ガス流を供給するための手段は、低圧チャンバへガス流を供給するための第1の入口と、ガス流を層流にするための1組の羽根を有する。これは乱流ガス流を滑らかにし、低圧チャンバ内に層流ガス流を供給する便利な方法である。さらなる実施形態において、第1の入口はガス流の第1の部分を供給するためのものであり、該装置は低圧チャンバにガス流の第2の部分を供給するための第2の入口を低圧チャンバ内にさらに有する。このようにしてガス流は既に第1及び第2の入口において2つの別のガス流に分離され、一方は低圧チャンバの壁の内面に沿って又は平行に流れ、対応する分子汚染物質を捕捉し輸送し、もう一方は試料の表面を流れ、試料からガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送する。ここで、乱流ガス流を滑らかにするために羽根もまた使用され得る。
【0014】
本発明にかかる装置の一実施形態において、試料から下流の位置にあるガス流の第1の部分を受け取るための手段は漏斗を有する。漏斗は試料からガス放出された分子汚染物質を有するガス流の部分を受け取る効率的な方法を提供する。さらに、漏斗は低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質に対するシールドを提供し、それによって、試料からガス放出された分子汚染物質と低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質の混合を減少させる。
【0015】
本発明にかかる装置の一実施形態において、分析器はガス流内の特定元素を検出するのに適した検出器を有する。特定の元素又は化合物群に感受性のある検出器は、特定の汚染物質源を見つけるのに非常に役立つ可能性がある。さらに、これらの検出器は試料のガス放出特性の決定の精度をさらに高める。これは特定の標的元素を含む化合物の同定を可能にする。さらなる実施形態において検出器は原子発光検出器(AED)である。
【0016】
この目的は試料からの分子汚染物質のガス放出を分析するための方法によっても実現され、該方法は、
a)低圧チャンバに試料を収容するステップ、
b)10−3mbar乃至10mbarの低圧チャンバ内の圧力を供給するステップ、
c)試料からガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送する第1の部分を持つ層流ガス流を低圧チャンバに供給するステップ、
d)試料から下流の第1の位置においてガス流の第1の部分を受け取るステップ、
e)ガス流の第1の部分の内容を分析するステップ、を有する。
【0017】
本発明にかかる方法の一実施形態において、ステップc)は、ガス流の第1の部分と、低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送するガス流の第2の部分を供給するステップを有する。低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送する別のガス流があるため、試料からガス放出された分子汚染物質と低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質の混合の量はこのようにして減少する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明にかかる装置の一実施形態の断面を概略的に示す。
【図2】本発明にかかる装置の別の実施形態の断面を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図中の同様の参照数字は同一又は同様の部品をあらわす。
【0020】
図1は本発明の一実施形態にかかる装置100の略断面図を示す。装置100は、図1に示されていない従来のポンプ法及び装置を用いることによって、内部が10−3mbar乃至10mbar、好適には10−2mbar乃至1mbarの低圧に設定されるチャンバ1を有する。チャンバ1に試料2が積み込まれ、収容される。例えば試料2は、装置100内の固定位置上に試料2を保持し収容するのに適したチャック又は任意の他の装置(不図示)上に積み込まれる。チャンバ1は、例えばヘリウム又はアルゴンなど、ガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送するのに適したキャリアガスを有するガス流11をチャンバ1に供給するための入口4を有する。ガス流11は、この実施例ではガス流11における乱流を滑らかにする1組の羽根5を介して、層流ガス流12に変換される。この場合層流ガス流12はチャンバ1の全内部体積を通って流れ、その方向は主にチャンバ1の壁に平行である。図1に巻き矢印21,22で図示される通り、チャンバ1の壁の内面は壁分子汚染物質21をガス放出し、試料2はガス放出を介して試料分子汚染物質22を生じる。層流ガス流12の一部はチャンバ1の壁の内面に沿って流れ、このようにしてガス放出された壁汚染物質21を捕捉する。これらの汚染物質21は層流壁ガス流14を介してさらに下流へ輸送され、一方層流壁ガス流14はさらに下流へガス放出された壁汚染物質21も捕捉する。ガス流12の別の部分は試料2を越えて流れ、このようにしてガス放出された試料汚染物質22を捕捉する。そして層流試料ガス流13はこれらのガス放出された試料汚染物質22を試料2からさらに下流へ輸送する。試料2の下流の特定位置において、層流試料ガス流13は分析器3に達し、これは層流試料ガス流13によって輸送される試料分子汚染物質22を受け取り収集する。壁分子汚染物質21を有する層流壁ガス流14は分析器3に達しない。従って、分析器3は主に試料2からガス放出された試料分子汚染物質22を捕捉する。分析器3は分析器3によって捕捉される分子汚染物質22の内容を分析することができ、従って試料2のガス放出特性の分析をもたらす。例えば、分析器3は試料分子汚染物質22に存在する特定元素の量を分析するために、原子発光検出器(AED)などの元素特異検出器を有してもよい。試料分子汚染物質22を含まないガス流13の残りの部分であるガス流14及びガス流15は、例えばポンプ(不図示)によって出口6を介して出ていく。
【0021】
チャンバ1内の圧力はガス放出された分子汚染物質21,22の平均自由行程を決定する。ガス放出された分子汚染物質21,22の平均自由行程は層流ガス流12によって捕捉される試料分子汚染物質22の量を最大化するために十分に大きくなければならず、また壁分子汚染物質21と試料分子汚染物質22の混合の量を最小化するために十分に小さくなければならない。層流ガス流12によって捕捉される試料分子汚染物質22の量は、試料2のガス放出速度の正確な分析を得るために最大でなければならない。理想的には全てのガス放出された試料分子汚染物質22が層流ガス流12によって捕捉され、層流試料ガス流13によって分析器3へ輸送される。壁分子汚染物質21と試料分子汚染物質22の混合の量は、いかなる混合も試料2のガス放出特性の分析を妨げるため、最小でなければならない。平均自由行程が大き過ぎる場合、壁分子汚染物質21の一部もまた試料2を越えて流れる層流ガス流12の部分によって捕捉される。その場合層流試料ガス流13は試料分子汚染物質22だけでなく壁分子汚染物質21も輸送する。さらに、平均自由行程が大き過ぎるため、試料分子汚染物質22の一部が、チャンバ1の内面の近くを流れる層流ガス流12の部分によって捕捉され、従って試料2を越えて流れる層流ガス流12の部分によって捕捉されないことになる。従って、この場合層流試料ガス流13は全ての試料分子汚染物質22を捕捉せず、壁分子汚染物質21も含むことになる。これは試料2のガス放出特性の精度の低い分析をもたらす。本発明によれば、これは低圧チャンバ1内の圧力を10−3mbarより高い値に設定することによって防止され、改良される。平均自由行程は圧力に反比例するため、この圧力範囲の場合、ガス放出された分子汚染物質の平均自由行程はほとんどの実用的場合において十分なレベルまで混合を最小化するために十分に小さい。ガス放出された分子汚染物質の平均自由行程は、とりわけ分子汚染物質の種類に応じて、典型的には10−3mbarにおいてほぼ50mm程度である。従って、この圧力範囲の場合ガス放出された分子汚染物質の平均自由行程はおよそ50mmよりも大きくならず、それによって、ガス放出された壁分子汚染物質21と分子試料汚染物質22の混合の量を最小化する。精度をさらに向上させ混合の可能性を減らすために、圧力は10−2mbarよりも高く、これはおよそ5mmよりも低い平均自由行程に対応する。
【0022】
ガス放出された分子汚染物質を捕捉する可能性を最大限に高めるために、ガス放出された分子汚染物質の平均自由行程はおよそ5μmよりも大きくなければならず、これは本発明に従って低圧チャンバ1内の圧力を10mbarよりも低い値に設定することによって実現される。ガス放出された分子汚染物質の捕捉可能性のさらなる増加は、低圧チャンバ1内の圧力を1mbarよりも低い値に設定することによって実現され、これはおよそ50μmよりも大きいガス放出された分子汚染物質の平均自由行程に対応する。
【0023】
図2は本発明の別の実施形態にかかる装置200の略断面図を示す。図2に巻き矢印21,22で示される通り、チャンバ1の壁の内面は壁分子汚染物質21をガス放出し、試料分子汚染物質22は試料2からガス放出する。
【0024】
この実施形態においてチャンバ1は遮断弁8によって2つの部分に分離される。遮断弁8は試料2がチャンバ1の積み込み部分に積み込まれる場合に閉じられ、それによってチャンバ1の第2の部分が大気条件にさらされるのを防ぎ、この第2の部分は図2に示されていない従来のポンプ法及び装置を用いることによって、10−3mbar乃至10mbar、好適には10−2mbar乃至1mbarの低圧に設定される。試料2をチャンバ1へ積み込み収容した後、チャンバ1の積み込み部分はチャンバ1の第2の部分と同様の低圧条件にポンプされ、その後遮断弁8が開かれる。これは、試料2がチャンバ1に積み込まれるときにチャンバ1の一部が大気条件にさらされず、それによって、チャンバ1の内面に付着し得る分子汚染物質のチャンバ1への流入を減らすので、低圧チャンバ1内の汚染レベルを減少させ、従って壁分子汚染物質21の量を減少させる。加えて、チャンバ1の壁の内面のガス放出速度のさらなる減少をもたらすために、チャンバ1の第2の部分は各分析前に調整されることができ、例えば真空焼成されることができる。
【0025】
チャンバ1は、例えばヘリウム又はアルゴンなど、ガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送するのに適したキャリアガスを有する第1のガス流31をチャンバ1へ供給するための第1の入口9を有する。第1のガス流31は試料2に達する前に例えば1組の羽根5を介して層流の第1のガス流33に変換される。羽根5は第1の入口9と組み合わせて、試料2に向かって越える、及びチャンバ1の壁の内面に実質的に平行な、層流の第1のガス流33の方向をさらにもたらす。さらに、層流の第1のガス流33は、壁分子汚染物質21が層流の第1のガス流33によって捕捉されないか又は最小量しか捕捉されないような、チャンバ1の内壁からの距離を流れる。第2の入口7は、第1のガス流31と同様のキャリアガスを有する第2のガス流32をチャンバ1へ供給する。第2のガス流32は層流壁ガス流34に変換され、これは低圧チャンバ1の内面に実質的に平行な方向に流れ、層流壁ガス流34による壁分子汚染物質21の捕捉率が最大化されるような内面からの距離を流れる。作動中、すなわち試料2を積み込み、チャンバ1の積み込み部分内を適切な圧力に設定した後、遮断弁8が開かれ、それによってチャンバ1の積み込み部分をチャンバ1の第2の部分との直接接続に設定する。試料2を越えて流れる層流の第1のガス流33はガス放出された試料分子汚染物質22を捕捉し、捕捉した試料分子汚染物質22を、試料ガス流35を介して試料2のさらに下流へ輸送する。層流壁ガス流34はチャンバ1の壁の内面に沿ってその近くを流れ、このようにしてガス放出された壁汚染物質21を捕捉しさらに下流の位置へ輸送する。漏斗45が試料2の下流の位置に設けられ、チャンバ1の第2の部分に位置し、この第2の部分は試料2がチャンバ1に積み込まれるときに大気条件にさらされない。漏斗は、層流試料ガス流35が受け取られ、試料ガス流35が分析される位置へ誘導されるような、例えば円錐などの形状を持つ。漏斗45は、ガス放出された試料汚染物質22を有する試料ガス流35のみを受け取り、ガス放出された壁汚染物質21を有する層流壁ガス流34は受け取らないか、又は最小量しか受け取らず捕捉しない。従って漏斗45は壁ガス流34と試料ガス流33の改良された分離をもたらし、それによって、ガス放出された壁分子汚染物質21とガス放出された試料分子汚染物質22の混合を減らし、従ってガス放出された試料汚染物質22の分析の精度を高める。層流壁ガス流34は、例えばポンプ(不図示)を介してチャンバから外へ層流壁ガス流34を誘導する第1の出口41によって受け取られる。
【0026】
この実施形態において、試料ガス流35は漏斗45によって予備濃縮装置40へ誘導される。予備濃縮装置40は層流輸送のために使用されるガスと試料分子汚染物質22の分離をもたらす。さらに、予備濃縮装置40は試料分子汚染物質22を一定期間捕捉し収集する。この期間後、収集された試料分子汚染物質22は比較的短い時間間隔で例えば加熱によって予備濃縮装置40から放出され、第2の出口43を介して分子汚染物質22が分析される部分(不図示)へ輸送される(矢印39によって示される)。分析は例えばAEDなどの元素特異検出器によって実行される。予備濃縮装置40からさらに下流の位置にある第2の弁46は、試料分子汚染物質22が予備濃縮装置40から放出された後に第2の出口43を介して分析器(不図示)へ輸送される第1の状態へ切り替えることができ、及び試料分子汚染物質22を含まない予備濃縮後ガス流38が例えばポンプ(不図示)によって第3の出口42へ輸送される第2の状態へ切り替えることができる。予備濃縮法を用いることによって、試料分子汚染物質22は予備濃縮装置40で一定期間収集され、より多くの量の分子汚染物質22が分析に利用可能である。従って、十分な試料分子汚染物質22が向上した許容可能な精度で分析のために利用可能であるように、試料分子汚染物質22の低いガス放出速度は、試料分子汚染物質22を一定期間捕捉することによって補われる。収集された試料分子汚染物質22の予備濃縮装置40からの放出は、例えば予備濃縮装置40の加熱など、標準的な利用可能な方法で実行されることができ、その後放出された試料分子汚染物質22が分析されることができる。このようにして、別の位置で分析を行うために低圧チャンバ1から予備濃縮装置40を取り外す必要がなく、試料分子汚染物質22の分析がin‐situになされることができる。しかしながら、別の実施形態において、予備濃縮装置40は収集された分子汚染物質22のex‐situ分析をもたらすためにチャンバ1から除去される。その場合第2の出口43及び切換え弁46は必要ない。
【0027】
さらに、低圧チャンバ1の壁の内面のガス放出がよく特性化される場合、層流壁ガス流及び層流試料ガス流への分離は厳密に必要でないことが留意されるべきである。その場合層流ガス流がただ1つである装置はこの発明の別の実施形態である。
【0028】
要約すると、本発明は試料からの分子汚染物質のガス放出を分析するための装置に関する。該装置は試料を収容するための低圧チャンバを有し、低圧チャンバ内の圧力は10−3mbar乃至10mbarである。さらに該装置は、層流ガス流を低圧チャンバに供給するための手段であって、ガス流の第1の部分は試料からガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送する、手段と、試料から下流の第1の位置にあるガス流の第1の部分を収集するための手段とを有する。分析器はガス流の第1の部分の内容を分析する。このようにして試料のガス放出特性のより正確な分析が実現される。
【0029】
低圧法はガス放出プロセスに対する影響を最小化するために選ばれる。特に、ロードロックが実行不可能である大きな部品又はサブアセンブリの場合、ガス放出された種又は分子汚染物質を取り込み収集するように試料を越えて流れるガス流、及び壁の表面のガス放出を取り込み迂回させるように真空チャンバの壁の表面に沿って流れるガス流が導入される。ガス流のレイアウト及び条件は、試料からのガス放出種の最大限の取り込みと、壁からガス放出された種又は分子汚染物質と試料からガス放出された種又は分子汚染物質の最小限の混合を可能にするべきである。
【0030】
最後に本願において"有する"という語は他の要素又はステップを除外せず、"a"又は"an"は複数を除外せず、単一のプロセッサ又は他のユニットが複数の手段の機能を満たしてもよいことが指摘される。本発明はありとあらゆる新規の特性及び特性のありとあらゆる組み合わせに存在する。さらに、請求項における参照符号はその範囲を限定するものと解釈されてはならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料からの分子汚染物質のガス放出を分析するための装置であって、前記装置は、
前記試料を収容するための低圧チャンバであって、前記低圧チャンバ内の圧力は10−3mbar乃至10mbarである、低圧チャンバと、
前記低圧チャンバに層流ガス流を供給するための手段であって、前記ガス流の第1の部分は前記試料からガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送する、手段と、
前記試料から下流の第1の位置にある、前記ガス流の前記第1の部分を受け取るための手段と、
前記ガス流の前記第1の部分の内容を分析するための分析器とを有する、装置。
【請求項2】
前記低圧チャンバ内の圧力が10−2mbar乃至1mbarである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記装置が、前記低圧チャンバの内面に沿って下流の第2の位置にある、前記ガス流の第2の部分を受け取るための手段をさらに有し、該第2の部分は前記低圧チャンバの前記内面からガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送する、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記試料から下流の第3の位置にある、前記ガス放出された分子汚染物質を前記ガス流の前記第1の部分から分離するため、及び前記ガス放出された分子汚染物質を一定期間収集するための予備濃縮装置をさらに有する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記予備濃縮装置を加熱するための手段をさらに有する、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記低圧チャンバを、前記層流ガス流を前記低圧チャンバに供給するための手段を有する、前記試料を収容するための第1の部分と、前記ガス流の前記第1の部分を受け取るための手段を有する第2の部分とに分離するための遮断弁をさらに有する、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記層流ガス流を前記低圧チャンバに供給するための手段が、前記ガス流を前記低圧チャンバに供給するための第1の入口と、前記ガス流を層流にするための1組の羽根とを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記第1の入口が、前記ガス流の前記第1の部分を供給するためのものであり、前記装置が前記低圧チャンバに前記ガス流の前記第2の部分を供給するための第2の入口を前記低圧チャンバ内にさらに有する、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記試料から下流の位置にある、前記ガス流の前記第1の部分を受け取るための手段が漏斗を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記分析器が前記ガス流における特定元素を検出するのに適した検出器を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記検出器が原子発光検出器である、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
試料からの分子汚染物質のガス放出を分析するための方法であって、前記方法は、
a)前記試料を低圧チャンバに収容するステップと、
b)10−3mbar乃至10mbarの前記低圧室内の圧力を供給するステップと、
c)前記試料からガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送する第1の部分を持つ層流ガス流を前記低圧チャンバに供給するステップと、
d)前記試料から下流の第1の位置において前記ガス流の前記第1の部分を受け取るステップと、
e)前記ガス流の前記第1の部分の内容を分析するステップとを有する、方法。
【請求項13】
前記ステップc)が、前記ガス流の前記第1の部分と、前記低圧チャンバの内面からガス放出された分子汚染物質を捕捉し輸送する前記ガス流の第2の部分とを供給するステップを有する、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−511150(P2012−511150A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539151(P2011−539151)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055435
【国際公開番号】WO2010/067259
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】